説明

新規ポリマー

【課題】必要に応じて各種の特性を発揮して、水中接着剤等として使用されるのに好適な新しいタイプのポリマーを提供する。
【解決手段】ポリマーは、ポリアクリレートから成る主鎖に少なくとも3種類の側鎖が結合されているポリマーであって、前記側鎖のうちの第1の側鎖は、前記ポリアクリレートを構成するモノマーに由来する構造を有し、その末端にリンカー部位を介して親水性または疎水性の官能基または原子団が結合されていてもよく、前記側鎖のうちの第2の側鎖は、その末端に修飾されていてもよいカテコール性水酸基を有し、前記側鎖のうちの第3およびそれ以降の側鎖は、前記ポリマーを改変し、または該ポリマーに所定の機能を付与する官能基または原子団を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ポリマーの技術分野に属し、特に、水中接着剤などとして利用できる新規なポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
機能性ポリマーは、その特性に応じて、様々な用途のものがあり、これまでにない機能を備える機能性ポリマーが盛んに研究されている。このような機能性ポリマーの例として、水中接着剤に適用可能なものが求められている。接着剤は、一般に、接着対象の基材表面が濡れて水分を含んでいる場合には、十分な接着強度が得られずに剥離してしまうという欠点がある。これに対して、水中接着剤は、水中や湿気の高い条件下(例えば、湿度80%以上)でも、十分な接着性能が発揮されることが所望される。
【0003】
水中接着性を奏するポリマーを得るために、従来より提案されてきた主要な手法は、ポリマー主鎖の側鎖に、末端にカテコール基を有する原子団(例えば、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン;DOPA)を結合させることである(特許文献1、2、非特許文献1〜3)。例えば、特許文献1および2には、それぞれ、主として、無水マレイン酸とブタジエン等とのコモノマー、およびアルキレンオキシドを重合して成るポリマー主鎖の側鎖に末端カテコール基を有するポリマーが記載されている。このようなカテコール基を結合させることは、天然のイガイの接着作用を模倣したものであり、カテコール基に含まれる2つの水酸基が、接着対象の表面に分子レベルで作用することによって、接着能力を獲得しているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−517776号公報
【特許文献2】特表2010−501027号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. J. Deming et al., Macromolecules, 31, 4739 (1998)
【非特許文献2】B. Messersmith et al., Nature, 448, 338 (2007)
【非特許文献3】J. J. Wilker et al., Macromolecules, 40, 3960 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来のポリマーは、その使用に際して生じる具体的な問題を充分に解決してはいない。例えば、カテコール基は疎水性の官能基であるために、この官能基を有するポリマーは水溶性が低く、水中接着剤として十分な能力が得られていない。また、DOPAのようなカテコール基含有部位を有するポリマーの溶液は、水酸基の反応性により硬化し易く、使用に際して不安定であるという問題もある。
【0007】
本発明の目的は、如上の課題を解決することができ、必要に応じて各種の特性を発揮して、水中接着剤等として使用されるのに好適な新しいタイプのポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリアクリレートを主鎖とする新規なポリマーを合成して、上記の目的を達成したものである。
【0009】
かくして、本発明に従えば、ポリアクリレートから成る主鎖に少なくとも3種類の側鎖が結合されているポリマーであって、前記側鎖のうちの第1の側鎖は、前記ポリアクリレートを構成するモノマーに由来する構造を有し、その末端にリンカー部位を介して親水性または疎水性の官能基または原子団が結合されていてもよく、前記側鎖のうちの第2の側鎖は、その末端に修飾されていてもよいカテコール性水酸基を有し、前記側鎖のうちの第3およびそれ以降の側鎖は、前記ポリマーを改変し、または該ポリマーに所定の機能を付与する官能基または原子団を有することを特徴とするポリマーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るポリマーは、ポリアクリレートから成る主鎖に少なくとも3種類の側鎖(第1、第2、第3およびそれ以降の側鎖)が結合されていることを特徴としている。3種類以上の側鎖が相互に作用することによって、得られるポリマーの水溶性やなどの特性を最適設計することができる。このような側鎖間の相乗効果は、従来のポリマーのように、主鎖に実質的に単一の側鎖が結合している構造からは得られないものである。
【0011】
ポリアクリレートを構成するモノマーとしては、アクアリレート構造を含む各種のモノマーが使用でき、好ましいものとして、アクリルアミド、メタアクリルアミド、アクリル酸、メタアクリル酸が挙げられ、特に好ましいものとしてアクリルアミドが挙げられる。その他に、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等も挙げられる。
【0012】
(第1の側鎖)
側鎖のうちの第1の側鎖は、前記ポリアクリレートを構成するモノマーに由来する構造を有し、その末端にリンカー部位を介して親水性または疎水性の官能基または原子団が結合されていてもよい。この側鎖は、主として、得られるポリマーの親水性または疎水性を調整する機能を有する。リンカー部位としては、例えば、C1〜C6アルキル鎖(例えば、C2アルキル鎖)を挙げることができるが、これ以外の直鎖、分岐鎖、環状鎖の炭素鎖を使用することもできる。親水性の官能基または原子団としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、ホルムアミド基、ヒドラジド基、炭素数が2〜4のアシル基、カルバモイル基、炭素数2〜4のアシルアミド基、および環状アミド基等が挙げられる。また、疎水性を有するものとしては、メタクリル基、ビニル基、アルキル基、カルボン酸エステル基、アシル基、フッ素含有基等が挙げられる。このうち親水性を有するものが好ましく、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基がより好ましく、特に水との親和性に優れる点で水酸基であることが最も好ましく、例えば、ヒドロキシエチル基[モノマーとしては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド]を使用することができる。
【0013】
(第2の側鎖)
前記側鎖のうちの第2の側鎖は、その末端に修飾されていてもよいカテコール性水酸基を有する。この側鎖は、主として、得られるポリマーに接着性を付与するよう機能する。カテコール性水酸基としては、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン (DOPA)、ウルシオール、カテコールアミン、およびカテキン等の単環のものや、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4′―ジヒドロキシジフェニル―2,2−ブタン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル、および2,3−ジ
ヒドロキシナフタレン、ビナフトール等の多環のものが挙げられる。このうち特に、高い接着性を有することから、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン (DOPA)[モノマーとしては、例えば、N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド]を使用することが好ましい。
【0014】
第2の側鎖の末端のカテコール性水酸基は、修飾(化学修飾)することにより、該カテコール性水酸基が、適時にその機能を発揮するようにすることもできる。例えば、光などの外部刺激に応答してカテコール性水酸基の機能が発現されるように修飾する。
(第3およびそれ以降の側鎖)
前記側鎖のうちの第3およびそれ以降の側鎖は、前記ポリマーを改変し、または該ポリマーに所定の機能を付与する官能基または原子団を有する。該官能基または原子団としては、例えば、水溶性および接着力を向上させる点からアミノ基が挙げられ、例えば、リシン(Lys)などのアミノ酸由来の構造で、この側鎖を構成することができる。
【0015】
本発明に係るポリマーは、上記のように、ポリアクリレートから成る主鎖に少なくとも3種類の側鎖が結合されることから、例えば、第2の側鎖(カテコール基を含む)以外の側鎖の作用(例えば、水酸基およびアミノ基)によって、カテコール基の疎水性を緩和させつつその接着能力を向上させることができる。従来のポリマーは、カテコール基の疎水性を制御できなかったために、水中で十分な接着能力を維持できなかったが、本発明に係るポリマーは、この3種類(あるいはそれ以上の種類)の側鎖の比率を制御することにより、水との親水性を向上させるのみならず、接着強度やゲル化の速度等までも自由に制御することが可能である。
【0016】
さらに、本発明に係るポリマーは、この3種類(あるいはそれ以上の種類)の側鎖に含まれる官能基を適宜選定することによって、同じ接着力であっても、光照射や加熱によってはじめて接着能力を発揮するような新規の機能をもつことが可能となり、材料設計の自由度が高いという特徴がある。このような多様な接着力も、従来のポリマーのように、ポリマー主鎖に実質的に単一の側鎖が結合している構造からは得られないものである。
【0017】
本発明のポリマーの好ましい一例としては、次の一般式(I)で表されるものがある。
【0018】
【化1】

【0019】
式(I)から理解されるように、このポリマーは、第1の側鎖、第2の側鎖および第3の側鎖の末端に、それぞれ、水酸基、カテコール基およびアミノ基を有するものである。上記式(I)中、l:m:nのモル比率は、2:1:1〜20:1:1である。l:m:nのモル比率に関しては、5:1:1〜15:1:1が好ましく、特に好ましくは10:
1:1である。カテコール基の比率が高いと水溶性が得られにくく、カテコール基の比率が低いと接着力が低下するためである。また、アミノ基とカテコール基を等比にすることで、カテコール基の疎水性を抑制しつつ、さらに接着力を向上させることができる。
【0020】
本発明のポリマーは、公知の手段を使用して、アクリレート構造にそれぞれの側鎖が結合した構造のモノマーを重合することにより製造することができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を開始剤としたラジカル重合により、モノマーを共重合させる。この際、不要な反応が起こらないように、側鎖を構成するカテコール水酸基やアミノ基などは適当な保護基で保護しておく。
【0021】
以上のようにして得られたポリマーは、水の影響を受けずに硬化できる性質を有することから、湿潤面・水中下でも優れた接着力を持ち、例えば、そのまま水に溶解させて水中接着剤として使用することができる。従来の水中接着剤は、ポリマーに他の溶液を混合させることが必要な2液混合型の水中接着剤であるが、本発明のポリマーは1液型の水中接着剤として十分に接着力が発揮できるものであり、従来よりも接着剤を使用する際の手間や製造コストを大幅に抑えることができる。また、本発明のポリマーは、用途に応じて、チロシナーゼ等の酵素溶液と混合して2液混合型の水中接着剤として使用することも可能である。
【0022】
本発明のポリマーは、水中接着剤として使用する際には、その接着対象としては、湿潤条件下であれば特に制限されず、例えば、鉄、チタン、ステンレススチール、アルミニウム等の金属、酸化チタンや酸化アルミニウム等の金属酸化物、ガラスやプラスチック基板等の樹脂、コンクリート等の建築材料、および生体膜等の生体物質に適用することも可能である。
【0023】
なお、本発明のポリマーは、水中接着剤の用途に制限されることはなく、コーティング剤や、乾燥条件下で使用する接着剤等にも使用することができる。
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0024】
(実施例)
上記式(I)で示されるポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド-co-N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド- co- N-(6-アミノヘキシル)アクリルアミドハイドロクロライド]を、以下の3種類のアクリルアミドモノマーからAIBNを開始剤としたラジカル重合により共重合体を合成した。
【0025】
(1)N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド
(2)N-[2-(3,4-ビス-トリエチルシロキシフェニル)エチル]アクリルアミド
(3)N-[6-(tert-ブトキシカルボニル)アミノヘキシル]アクリルアミド
(1)N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド
市販品(東京化成製)を使用した。
(2)N-[2-(3,4-ビス-トリエチルシロキシフェニル)エチル]アクリルアミド
以下の2段階の手順(2−1)および(2−2)を用いて合成した。
(2−1)N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミドの合成
【0026】
【化2】

【0027】
上記式(II)に示すように、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン ハイドロクロライド 10.2g (52.8mmol)をメタノール 100ml中に懸濁し、氷浴上で冷却した後、トリエチルアミン7.31ml (52.7mmol)を加えた。ここに、アクリロイルクロライド5.11ml (63.2mmol)のTHF 5ml溶液と、トリエチルアミン(TEA) 11.0ml (79.1mmol)のメタノール(MeOH) 11ml溶液を、pHが9を維持するように交互に加え、室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧下に留去して、1N 塩酸を加え、酢酸エチルで5回抽出を行った。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過して、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、酢酸エチルから再結晶を行い、目的物 7.07g (34.1mmol)を得た。
1H-NMR(400MHz, CD3OD, δppm); 6.67(1H, d, J= 8.0, Ar-H), 6.64(1H, d, J= 2.0, Ar-H), 6.52(1H, dd, J= 2.1, 8.0, Ar-H), 6.19(2H, m, CH2=CH, CH2=CH), 5.62(1H, dd, J= 5.3, 6.8, CH2=CH), 3.40(2H, t, J= 7.4, CONH-CH2-C), 2.66(2H, t, J= 7.4, Ar-CH2-C)
(2−2)N-[2-(3,4-ビス-トリエチルシロキシフェニル)エチル]アクリルアミドの合成
【0028】
【化3】

【0029】
上記式(III)に示すように、N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド 0.501g (2.42mmol)をジメチルホルムアミド 5mlに溶解し、トリエチルアミン 1.21ml (8.70mmol)を加えた。これを氷浴上で冷やし、トリエチルシリルクロライド0.875g (5.80mmol)を滴下した後、室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧下に留去して残渣をクロロホルムに溶解し、1N 塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過の後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、ヘキサン−酢酸エチル(3:1)を溶離液とするシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、目的物 1.03g (2.36mmol)を得た。
【0030】
1H-NMR(400MHz, CDCl3, δppm); 6.75(1H, d, J= 8.0, Ar-H), 6.61-6.65(2H, m, Ar-H),
6.24(1H, dd, J= 1.4, 17.0, CH2=CH), 6.00 (1H, dd, J= 10.3, 16.9, CH2=CH), 5.62(1H, dd, J= 1.4, 10.3, CH2=CH), 5.51(1H, s, CONH-C), 3.54(2H, m, CONH-CH2-C), 2.72(2H, t, J= 6.8, Ar-CH2-C), 0.98(18H, m, Si-C-CH3), 0.74(12H, m, Si-CH2-C)
(3)N-[6-(tert-ブトキシカルボニル)アミノヘキシル]アクリルアミドの合成
以下の手順で合成した。
【0031】
【化4】

【0032】
上記式(IV)に示すように、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,6-ジアミノヘキサンハイドロクロライド 0.503g (1.99mmol)とトリエチルアミン 0.690ml (4.98mmol)をテトラヒドロフラン(THF) 8mlに溶解し、氷浴上で冷却した。これに、塩化アクリル0.193ml (2.39mmol)のTHF 1ml溶液を滴下し、0℃で30分、次いで室温で4時間撹拌した。反応溶液を減圧下に濃縮し、10%クエン酸水溶液を加えた後、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過の後に溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、クロロホルム−メタノール(50:1)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物 0.232g (0.858mmol)を得た。
【0033】
1H-NMR(400MHz, CDCl3, δppm); 6.28(1H, dd, J= 1.6, 17.0, CH2=CH), 6.10(1H, dd, J= 10.3, 17.0, CH2=CH), 5.80(1H, s, OOC-NH-C), 5.63(1H, dd, J= 1.6, 10.3, CH2=CH)
, 4.54(1H, s, C-NH-C=O), 3.27(2H, m, OOCNH-CH2-C), 3.12(2H, m, CONH-CH2-C), 1.55(2H, m, OOCNH-C-CH2-C), 1.48(2H, m, CONH-C-CH2-C), 1.44(9H, s, (CH3)3-C), 1.35(4H, m, C-CH2-CH2-C)
ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド-co-N-[2-(3,4-ビス-トリエチルシロキシフェニル)エチル]アクリルアミド ?co-N-[6-(tert-ブトキシカルボニル)アミノヘキシル]アクリルアミド]の合成
【0034】
【化5】

(式(I)中、l:m:nのモル比率は、10:1:1である。)
上記式(V)に示すように、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド 0.576g (5.00mmol)、N-[2-(3,4-ビス-トリエチルシロキシフェニル)エチル]アクリルアミド0.217g (0.499mmol)、N-[6-(tert-ブトキシカルボニル)アミノヘキシル]アクリルアミド 0.136g (0.502mmol)、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル) 20.4mg (0.124mmol)をメタノール 5mlに溶解し、真空下で凍結と融解を3回繰り返して酸素の除去を行った。この後、真空下で反応容器を溶封し、60℃で16時間撹拌した。次いで、反応溶液をエーテルに注ぎ、生じた沈殿を集め、エーテルで洗浄を繰り返し、減圧下で乾燥して目的のポリマー 0.766gを得た。
【0035】
1H-NMR(400MHz, CD3OD, δppm); 6.51-6.79(3H, Ar-H), 2.97-3.78(45H, CONH-CH2-C, C-CH2-OH, OOCNH-CH2-C), 2.59-2.76(2H, Ar-CH2-C), 1.92-2.32(11H, C-CH(-CONH)-C), 1.26-1.83(31H, C-CH2-C, CH3-C), 0.94-1.04(10H, Si-C-CH3), 0.70-0.81(6H, m, Si-CH2-C)
【0036】
このポリマーについて、0.01MのLiBrを溶解したDMFを溶離液とし、ポリスチレンを標準物質としてゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を見積もった。その結果、Mn=91600
(Mw/Mn=3.7)であった。
ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド-co-N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド ?co- N-(6-アミノヘキシル)アクリルアミドハイドロクロライド]の合成
【0037】
【化6】

(式(VI)中、l:m:nのモル比率は、10:1:1である。)
【0038】
上記式(V)に示すように、上で得られたポリマー 0.302gをメタノール 3mlに溶解し、氷浴上で冷却した。2N 塩酸水溶液 3mlを滴下し、その後室温で14時間撹拌した。溶媒を減圧下に留去し、残渣をメタノールに溶解し、エーテルに注いで生じた沈殿を集め、エーテルで洗浄して、減圧下で乾燥した。得られた沈殿を水に溶かし、溶液が中性になるまで透析を行った。この溶液を凍結乾燥することにより、目的のポリマー 0.243gを得た。
1H-NMR(400MHz, D2O, δppm); 6.41-6.76(3H, Ar-H), 3.36-3.58(20H, CONH-CH2-C), 2.68-3.36 (26H, CONH-CH2-C, C-CH2-OH, H2N-CH2-C), 2.40-2.66(2H, Ar-CH2-C), 1.68-2.15(12H, C-CH(-CONH)-C), 1.02-1.68(31H, C-CH2-C)
【0039】
このポリマーについて、上記と同様にゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を見積もったところ、Mn=77000であった。
【0040】
ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド-co-N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド ?co- N-(6-アミノヘキシル)アクリルアミドハイドロクロライド]水溶液によるアルミ板の接着
ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド-co-N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド ?co- N-(6-アミノヘキシル)アクリルアミドハイドロクロライド]を0.1M リン酸緩衝溶液 (pH=8.0)に溶解し、チロシナーゼの水溶液を加えて、チロシナーゼ100 unit/ml、5wt%の溶液を調製した。この溶液 10mgをアルミ板上、20mm x 5mm の領域に塗布し、2枚のアルミ板で挟んだ。これをクリップで固定し、室温、高湿度下(湿度80%以上)で24時間静置することで接着を行った。
【0041】
引張りせん断破壊強度の測定
ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド-co-N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド ?co- N-(6-アミノヘキシル)アクリルアミドハイドロクロライド]で接着したアルミニウム板の両末端を引張り試験機に固定し、1.0 mm/分でサンプルを引張り、その荷重を測定した。そして、アルミ板が剥離した際の荷重と接着面積から引張りせん断破壊強度を求めた。その結果、0.580MPaであった。また、このポリマーを用いて、チロシナーゼの存在下で接着した場合、引張りせん断破壊強度は0.34MPaであった。
【0042】
なお、上記では、本発明に係るポリマーは、水酸基やアミノ基に修飾した保護基を反応の過程で全て脱離させたが、一部を脱離させることで、重合して得られたポリマー中の水酸基やアミノ基を保護基で修飾させることも可能である。このように、ポリマー中の3種類(あるいはそれ以上の種類)の側鎖の比率を、保護基の存在する割合を変更することで
制御することができ、側鎖の比率から、接着強度やゲル化の速度等を自由に制御することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリレートから成る主鎖に少なくとも3種類の側鎖が結合されているポリマーであって、
前記側鎖のうちの第1の側鎖は、前記ポリアクリレートを構成するモノマーに由来する構造を有し、その末端にリンカー部位を介して親水性または疎水性の官能基または原子団が結合されていてもよく、
前記側鎖のうちの第2の側鎖は、その末端に修飾されていてもよいカテコール性水酸基を有し、
前記側鎖のうちの第3およびそれ以降の側鎖は、前記ポリマーを改変し、または該ポリマーに所定の機能を付与する官能基または原子団を有する、
ことを特徴とするポリマー。
【請求項2】
下記の式(I)で表される請求項1に記載のポリマー。
(式(I)中、l:m:nのモル比率は、2:1:1〜20:1:1である。)
【化1】


【公開番号】特開2012−233059(P2012−233059A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101804(P2011−101804)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】