新規マンナナーゼ及びそれを利用して製造される食物繊維食品
【課題】コンニャク等に含有されるマンナン類多糖体を分解する新しいマンナナーゼとその製造方法を提案すること、及びそれを利用して新しい食物繊維食品を提供すること。
【解決手段】マンナナーゼは、バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物、例えばネコロン(necolon-1)株を、マンナン類を含有する食品又はネギ類を添加した培養液を用いて生産する。このマンナナーゼは、マンナン類に特異的に作用し、他の多くの多糖体には作用しない。このマンナナーゼの酵素作用の至適pHは5.5、最大活性を示す温度範囲はおおむね50-60℃である。また、このマンナナーゼは約42,000の分子量を有する。このマンナナーゼを酵素剤として用いれば、粘性を減少させたコンニャク溶液や粉体グルコマンナンを製造することができ、いろいろな食感や触感を有する各種食物繊維食品の製造に応用することができる。
【解決手段】マンナナーゼは、バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物、例えばネコロン(necolon-1)株を、マンナン類を含有する食品又はネギ類を添加した培養液を用いて生産する。このマンナナーゼは、マンナン類に特異的に作用し、他の多くの多糖体には作用しない。このマンナナーゼの酵素作用の至適pHは5.5、最大活性を示す温度範囲はおおむね50-60℃である。また、このマンナナーゼは約42,000の分子量を有する。このマンナナーゼを酵素剤として用いれば、粘性を減少させたコンニャク溶液や粉体グルコマンナンを製造することができ、いろいろな食感や触感を有する各種食物繊維食品の製造に応用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン等のマンナン類多糖を選択的に分解する新規なマンナナーゼと、そのマンナナーゼを利用して製造される食物繊維食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンニャクは独特の弾性のある食感と触感で知られ、板、玉、糸状などの形状で食材として提供されてきた。その主成分のグルコマンナンは「砂おろし」の名とともに食物繊維として知られている。近年、コンニャクは整腸作用とともに高血圧予防、糖尿病予防などの効果を有することが報告され、古来の健康食品として見直されてきている。
【0003】
コンニャクを健康食品として広く普及させるためには、組成がグルコマンナンほぼ100%のままで、かつ食物繊維として有効な分子サイズを維持しつつ多様な食感と触感を有する種々のコンニャク製品を開発し、これらを現代人の好みに合った食材とする必要がある。しかし、コンニャクの食感及び触感を変えるには、従来、各種多糖やオカラなどを大量に混入する方法しか知られていなかった。
【0004】
コンニャクに他の食材を混入せずに、その食感及び触感を変えるには、主要成分であるグルコマンナンを酵素により分解し低分子量化することが考えられる。マンナナーゼは、グルコマンナンのマンノピラノシル結合を加水分解する酵素として広く知られており、各種の真菌や細菌から採取されている。
【0005】
例えば、アシネトバクターに属する新規微生物(特許文献1)、ペニシリウム属又はユーペニシリウム属に属する菌株(特許文献2)やバチルス属のコアグランス株(特許文献3)等から得られるマンナナーゼを用いるグルコマンナン分解法がすでに報告されている。
しかし、従来知られている酵素は、その至適温度がおおむね70-80℃と高く、比活性も低く、実用上問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−41663号公報
【特許文献2】特開2001−145485号公報
【特許文献3】特開平8−322477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、コンニャクマンナン等のマンナン類多糖体を分解する新しいマンナナーゼ源を発見すること、その効率的な生産方法を確立すること、及びそのマンナナーゼを利用した新しい食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るマンナナーゼは、バチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物から得られ、以下の理化学的性質を有することを特徴としている。
1) 作用:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのマンノピラノシド結合を加水分解して、該多糖類基質の構成単糖又は低分子化されたオリゴ糖を生成する。
2) 基質特異性:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのいずれにも特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アミロース、アミロペクチンのいずれにも作用しない。
3) 安定pH:pH3.0-9.0の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す。
4) 作用適温:最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲は50-60℃である。
5) 温度安定性:pH5.5において15分間保持をした場合、30℃以下では活性に変化なく、60℃で80%以上の活性が残存し、70℃以上では失活する。
6) 分子量:SDS-PAGE法で測定して42,000±2,000である。
【0009】
上記マンナナーゼは、上記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物を、マンナン類、マンナン類を含有する食品、又はネギ類を添加した培養液を用いて培養することにより得られる。
【0010】
上記マンナナーゼは、概ねpH 5.5で最大活性を示す。
【0011】
上記マンナン類を含有する食品としては、グルコマンナンを含有するコンニャク、又はガラクトマンナンを含有するグアガム若しくはタラガムを好適に用いることができる。また、培養液に添加するマンナン類として、これらの食品から得られたマンナン類を用いることもできる。
一方、培養液に添加するネギ類としては、タマネギ、ラッキョウ、ニンニク等の鱗茎、断片、搾汁などを好適に用いることができる。
【0012】
このような培養液を用いれば、従来法より容易にマンナナーゼを大量かつ簡便に得ることができる。これは、バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物の培養液に、マンナン類を含有する食品又はネギ類のみを添加して他の栄養素を与えないことにより、該微生物は生き延びるためにはこれら培養液に添加された栄養源を効率的に消化せざるを得なくなり、該微生物の体内でその消化酵素としてマンナナーゼの生産が高められ、体外に分泌されるからであると推測される。
【0013】
本発明に係るマンナナーゼは、バチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁のネコロン(necolon)-1株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 微生物寄託受託番号FERM P-21234、受領日:平成19年3月1日)の培養液から好適に採取することができる。
【0014】
前記バチルス属ネコロン-1株は、湿潤乾燥中のタマネギから、コンニャクの粘度を低下させる物質を培地中に分泌する細菌として単離することができる。この細菌は、好気性培養条件下で芽胞を形成するグラム不定の桿菌で、運動性を示し、カタラーゼ反応は陽性を示しているので、バチルス属を含む有胞子桿菌に一致する性状を持っている。16SrDNA塩基配列の解析結果によれば、分子系統樹上でバチルス属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁(相同率99.7%)であり、基準種バチルス・スプチリス(Bacillus subtilis)の近縁種に含まれる。
【0015】
本発明に係るマンナナーゼを含有する粉末や水溶液は、酵素剤として利用することができる。
【0016】
コンニャク又はコンニャクゾルに本発明に係るマンナナーゼ又は上記マンナナーゼ酵素剤を添加すれば、低分子化されかつ粘性を減少させられたコンニャクを含有するコンニャク溶液が得られる。また、このコンニャク溶液を噴霧乾燥するなどして溶媒を除去して粉体とすることにより粉体グルコマンナンを得ることができる。
【0017】
上記コンニャク溶液を用いれば、各種段階に断片化した断片化グルコマンナンを含有する食物繊維食品を製造することができ、これにより例えば白玉団子、ワラビ餅、ムース又はスープ等の各種段階の食感を有する食物繊維食品を得ることができる。
【0018】
また、コンニャクの断片化の各段階に於いて、野菜、穀類、穀粉類、増粘多糖類、香辛料、調味料、栄養剤、医薬等のいずれか又はそれらの組み合わせを混入することで、様々な機能を有する既存食品に対して任意の食感や触感を付与することができる。すなわち、このように各種段階に断片化した断片化グルコマンナンは、既存の各種食品の食感・触感を調整する食感調整剤として用いることができる。
【0019】
断片化したコンニャクにより製造されるムース状の製品は数回の咀嚼で砕かれ溶けるので、老齢等により嚥下困難や軟口蓋の誤動作を生じる場合でも咀嚼反射によって容易に嚥下できるので、このような人に食物繊維を摂取させることができる。またこれに栄養剤、医薬等を添加して投与することも可能となる。
【0020】
本発明に係るマンナナーゼの製造方法は、マンナン類を含有する食品又はネギ類を添加した培養液を用いてバチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物を培養し、その培養液から前記の理化学的性質を有するマンナナーゼを採取することを特徴としている。
ここで、前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物として、前記のバチルス(Bacillus)属ネコロン(necolon-1)株を好適に用いることができる。
【0021】
また、上記マンナナーゼ又はマンナナーゼ酵素剤を用いて、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを成分として含有する植物資材を分解し、基質である多糖を低分子量化せしめる方法を提供する。
さらに、コンニャク溶液に硬化剤を添加して硬化させることにより断片化グルコマンナンを含有する食物繊維食品を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るマンナナーゼは、従来知られていたマンナナーゼよりも低い温度で長時間安定に、コンニャクのグルコマンナンを加水分解して断片化する。その結果、断片化の程度に応じて軟化して弾性を消失し、コンニャクとは異質の食感及び触感を持つ新規の食物繊維素材を、より容易に得ることができる。この新規の食物繊維素材は断片化の程度に応じて白玉だんご、わらび餅、ムース又はスープの食感を有し、食品、嗜好品などとしての広く応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施する具体的態様を以下に実施例を用いて説明するが、もとより本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(培地の選択)
最初に本発明に係る微生物を培養するための最適の培地を検討した。標準的なデービス培地にバチルス属ネコロン-1を植菌し培養しても、マンナナーゼの生成量は検出限界以下であった。デービスの最少培地の通常の組成を表1(図1)に示す。
一方、デービスの培地からグルコースを除き、ネギ類(タマネギ、ラッキョウ、ニンニクなど)の搾汁、コンニャク(グルコマンナン)、グアガム(ガラクトマンナン)などの添加物存在下においてバチルス属ネコロン-1を植菌し培養するとマンナナーゼが誘導され、培地に分泌された。添加物による酵素誘導の差異を表2(図2)に示す。この表において、「−」は酵素が検出できなかったことを示し、また、「+」は、数が多い方がより多量の酵素を検出したことを示す。タマネギの搾汁を用いると、本発明のマンナナーゼを効率よく得ることができる。
【0025】
(酵素剤調製)
タマネギをジューサーにかけて圧搾ジュースを作り限外濾過(日本ミリポア株式会社;フィルター孔径0.22mm)して滅菌後、その100mLをグルコースを除いたデービス(Davis)の最小培地1Lに混入し、バチルス属ネコロン-1株を植菌し、40℃で72時間震盪培養した。
【0026】
培養液を遠心機(8,000xg, 10分)にかけて菌体を分離し、上清をまず分子量50,000カットの中空糸フィルター(ダイセンメンブレンシステムズ株式会社 FUS0382)を用いて濾過して濾液を取り、ついでその濾液を分子量3,000カットの中空糸フィルター(旭化成株式会社 SEP1013)を用いて濾過して残存液を回収した。該残存液に硫酸アンモニウムを溶入し、硫安分画法によって50-75%飽和の分画を分取した。該分画を透析チューブ(ヴィスキングチューブ)に入れ水に対して透析して脱塩し、ついで35℃の温浴でロータリーエバポレーターを用いて濃縮して、マンナナーゼ酵素剤とした。
【0027】
マンナナーゼ酵素剤の活性はコンニャクゾル流下法により測定した。すなわち、0.75%コンニャクゾル(10mL)を入れた試験管に、活性を測定すべき酵素溶液を一定量(50μL)ずつ入れて各々よく撹拌混合し、規定の時間(30分)放置後に全試験管を同時に倒立させた。このとき、対照試料として、試験管に酵素溶液の代わりに純水を同量(50μL)入れた試料を用いた。倒立後、規定の時間(30秒)後に全試験管を正立に戻し、その時の試料溶液の相対的残存量によって酵素剤の活性を評価した。これは酵素活性の高い酵素溶液を入れた試験管では、コンニャクが多く分解されて溶液の粘性が低下し、倒立中の流出量が多くなる、すなわち残存量が少なくなることを利用した測定法である。この方法は相対法ではあるが、簡便な方法であるため酵素の精製の程度の判定等には特に有用で、マンナナーゼ定量キット(メガザイム株式会社AZOCARaB)よりはるかに高感度である。
コンニャクゾル流下法により、粘度を当初値から半減させる希釈度を求め、酵素剤はこの希釈度(濃度)に調整し冷蔵庫に保管した。
【0028】
(酵素反応のpH依存性)
1.5%コンニャクゾル20mLと、各被験pHに調整した20mMブリットン・ロビンソン(Britton & Robinson)緩衝液20mLとを混合して30分撹拌し、各被験pHの0.75%コンニャクゾル液40mLずつを作成した。これに前記マンナナーゼ酵素剤を100μL加えて更に30分撹拌後、超音波粘度計(山一電機株式会社 ビスコメイトVM-1G)を用いて20℃で粘度を測定した。対照溶液としては、酵素溶液の代わりに水100μLを加えて撹拌したものを用いた。対照溶液の粘度はpHに依存せず200mPa・sであったが、酵素剤を用いた場合の粘度はpH5.5において最小値25mPa・sを示した。この差175mPa・sを100とおいて、各pHでの粘度低下の相対値すなわち相対活性(%)を図3に示した。前記酵素剤中のマンナナーゼの至適pHは5.5であり、活性はpH 3では68%、pH 9では50%に低下した。
【0029】
(酵素反応の温度依存性)
上記と同様に調製した0.75%コンニャクゾル−ブリットン・ロビンソン緩衝液(pH=5.5)溶液20mLをトールビーカーにとった。これらをそれぞれ各被験温度の湯浴で10分間撹拌した。その後前記マンナナーゼ酵素剤30μLを加えて10分撹拌し、さらに20℃の水浴で10分間撹拌後、超音波粘度計(VM-1G)で粘度を測定した。対照溶液としては、酵素剤の代わりに水30μLを加えて同様に撹拌したものを用いた。対照溶液の粘度は20℃で200mPa・sであった。酵素剤を加えた試料の粘度の最小値は50, 55, 60℃における40mPa・sであったので、この差160mPa・sを100として各温度試料での粘度低下を相対活性(%)を用いて図4に示した。定温測定前の10分撹拌中の粘度低下は全被験試料に共通に生じているので解析上は無視できる。反応時間10分間の場合、前記酵素剤中のマンナナーゼの至適温度範囲(最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲)は50-60℃であり、70℃では失活した。
【0030】
(酵素の温度安定性)
上記と同様に調製した0.75%コンニャクゾル−ブリットン・ロビンソン緩衝液(pH=5.5)溶液20mLをトールビーカーにとった。それぞれに各被験温度の湯浴に15分間保った前記マンナナーゼ酵素剤を50μL加え、30分間室温で撹拌して後、超音波粘度計(VM-1G)で粘度を測定した。対照溶液としては、酵素剤の代わりに水50μLを加えて同様に撹拌したものを用いた。対照溶液の粘度は20℃で200mPa・sであった。酵素剤を加えた試料の粘度の最小値は20、30℃における30mPa・sであったので、この差170mPa・sを100として各処理温度での粘度低下を相対活性(%)を用いて図5に示した。
前記酵素剤は20-30℃では極めて安定していた。40℃では1時間経過後も活性に変化は無く、4℃(冷蔵庫)では1ヶ月保存しても活性は変化しなかった。
【0031】
(基質特異性)
コンニャク(0.5%)、タラガム(0.5%)、グアガム(0.5%)、キサンタンガム(0.5%)、カラヤガム(1.5%)、デンプン(かたくり、1%、加熱)、カルボキシメチルセルロース(1%)を、それぞれ水20mLと混合してゾルとした。これらのゾルにそれぞれ前記酵素液100μLを加えて室温で撹拌し、添加1時間後の粘度の変化を超音波粘度計(VM-1G)で測定した。
コンニャク(グルコマンナン)、タラガム(ガラクトマンナン)、グアガム(ガラクトマンナン)では、表3(図6)に示すような顕著な粘度低下が観察された。しかし、キサンタンガム、カラヤガム、デンプン、カルボキシメチルセルロースでは、3時間経過後も粘度の低下が見られなかった。これより、本酵素剤は、マンナナーゼ活性を有すると考えられる。
【0032】
(酵素精製)
調製した前記マンナナーゼ酵素剤(全蛋白濃度で360μg/ml)をゲル濾過クロマトグラフ法により精製した。溶出液としてNaCl水溶液(0.15M)を用い、Sephacryl S200カラムを通し、紫外吸光度でモニターしながらカラム溶出液をフラクションコレクターで分画し、各分画の酵素活性を測定した。さらに、最高の活性を示した分画とその前後の分画をまとめ、溶出液として10mMトリス緩衝液(pH 7)を用い、食塩の濃度勾配を使ったイオン交換カラムクロマトグラフィ(monoQカラム)を通し、殆ど単一ピークとなった活性画分を取った。この分画の分子量分布(SDS-PAGE)は単一バンドを示し、酵素剤の推定分子量は42,000±2,000であった。PAGE上では該酵素が糖タンパク質である徴候は見られず、Pro-Q Emerald 300分子プローブによる染色では検出不能であった。また、LC-MS/MSによる上記酵素剤の推定分子量は41,893であり、アミノ酸配列はPectobacterium carotovorumのendo-β1,4-mannanaseと部分的に一致した。グルコマンナンの分解においてミカエリス定数(Km)は5.2mg/ml、最大反応速度(Vmax)は7.8μg/ml/min(10mM 酢酸緩衝液 pH5.5, 40℃)であった。
【0033】
(酵素反応:コンニャクグルコマンナンの断片化)
コンニャク精粉60gに水2Lを加え(3%コンニャク)、スタンドミキサー(イギリス・ケンウッド株式会社ケンミックス・シェフ)を用いて2時間常温で撹拌した。生成したコンニャクゲルから500gグラム(試料1)を取り、残りのゲルに前記酵素剤600μLを加えて撹拌を続けた。撹拌20分後(試料2)、及び1時間後(試料3)にもそれぞれ500gを分取した。残りは4時間撹拌を続けた(試料4)。
試料1−3の各500gの試料には、分取の時点で、それぞれ0.3gの水酸化カルシウムを水に懸濁して混入撹拌し、3個の同型のステンレスボックスに詰め、沸騰水中に沈めて硬化させた。この操作で試料4は硬化しなかった。
【0034】
固化した3個のコンニャク試料の噛み込み試験の結果を図7に示す。試料1の酵素剤不添加のコンニャクが圧入に対しもっとも大きな応力を示した。酵素剤との反応時間が大きくなると共に圧入に対する応力は減少し、試料4では応力は殆ど認められなかった。この結果は、酵素剤がコンニャクに含まれるグルコマンナンを断片化し、その結果水酸化カルシウムを添加しても硬化の程度が減少したことを示唆している。
【0035】
4種の反応生成物の食感について、15人の被検者に対する官能検査を行った。その結果、試料1はコンニャクであり、試料2は白玉団子に近い食感を有するものであり、試料3はムースかプリンに近い食感を有するものであり、試料4は少しとろみのある液体の食感を有していると結論した。この官能検査で、試料3や試料4の原料が100%コンニャクであると判断した被験者はいなかった。
【0036】
(断片化の経過測定)
コンニャクマンナンの断片化の過程を、ゲル濾過カラムの溶出パターンより生成物のサイズ分布を求めて検討した。1%コンニャク溶液200mLに前記酵素剤5mLを添加して室温で撹拌し、反応時間の経過に応じて反応液をサンプリングし、ゲル濾過カラム(担体;Sephacryl s200)にかけ、溶出する糖のサイズ分布を示差屈折計(島津製作所株式会社RID-10型)を用いて測定した。結果を図8に示す。
【0037】
酵素剤添加後のコンニャクの断片化による分子サイズの変化は極めて遅く、粘度の急激な低下(図9参照)とは対応しないように見える。酵素剤の添加12時間後でも分子サイズはほぼ 8,000Da(約 50分子の少糖)を中心に分布している。分子サイズの小さくなった断片化コンニャク溶液(粘度で数十〜数mPa・sec)はアルカリ添加の有無に拘らず噴霧乾燥して粉体にできる。出来た粉体は容易に水に溶けてやや粘性のある溶液になる。なお、上述の3%コンニャクを出発物質とした酵素による断片化過程にあるコンニャクゲルは、粘度が高すぎて、水に均質に分散してゲル濾過カラムにかけることは非常に困難であった。
【0038】
(粘度の変化)
0.5%コンニャクゲル100mLに2.5倍に希釈した前記マンナナーゼ酵素剤を5mL加えて、マグネティックスターラーで撹拌し、一定時間毎に撹拌を止めて超音波粘度計(VM-1G)を用いて粘度を測定した。対照試料としては、酵素剤の代わりに水5mL加えたものを用い、同様に撹拌した。対照試料の粘度は時間変化を示さなかった。
反応開始前の見かけの粘度は対照試料の見かけの粘度と同じであり、約300mPa・sであった。これを100とした。反応40分後の見かけの粘度は2.5mPa・sであった。これを0として、酵素剤による見かけの粘度の低下の時間経過を図9に示した。
【0039】
(断片化コンニャク食品の例1:チョコムース)
水1Lにココアミックス(ネスレ社製)200gとコンニャク精粉30gを加え、スタンドミキサー(ケンミックス・シェフ)を用いて室温で2時間撹拌した。これに前記酵素剤4mLを加えてさらに30分撹拌すると軟化した。次いで水酸化カルシウム1.2gを加えて5分間激しく撹拌した。直ちに容器に詰めて30分間沸騰浴中に入れて固化させ、次いで氷水に30分間晒した。得られた食品はチョコムースのような色と堅さを有していた。
【0040】
このチョコムースの食感についての官能検査を、65名(22-65歳)の被験者に対して行った。その結果を表4(図10)に示すが、好意的なコメントが大部分であって否定的な見解は少なかった。
【0041】
(断片化コンニャク食品の例2:コンニャクスープ)
コンニャク精粉40gを水2Lと混ぜ、スタンドミキサー(ケンミックス・シェフ)を用いて2時間撹拌し均質にした。これに前記酵素剤10mLを加え室温で2時間撹拌してコンニャクを断片化させ液状とした。このときのコンニャク液の粘度は10mPa・sであった。この液を鍋に移して電熱コンロで煮沸に至るまで加熱し、少量のブイヨン、塩、砂糖で調味し、胡椒で風味付けをした。別途調理した(a)ソバ米、あるいは(b)サイコロに切ったハムと野菜(冷凍ミックスベジタブル)とパセリを適量加えた。得られた食品はスープ状であった。
【0042】
製造したそば米入りコンニャクスープの食感についての官能検査を、22-55歳の男8人、女9人の被検者に対して行った。その結果、美味しくて飲みやすいスープであるとの好意的な反応を得た。
【0043】
野菜入りコンニャクスープの食感についての官能検査を、同じ被験者に対して行った。その結果、同様に、美味しくて飲みやいとの好意的な反応を得た。
【0044】
(断片化コンニャク食品の例3:粉体コンニャク)
コンニャク精粉90gを水5Lと混ぜ、スタンドミキサー(ケンミックス・メジャー)を用いて2時間撹拌し均質にした。これに前記酵素剤10mLを加え2時間撹拌してコンニャクを断片化させ液状とした。断片化コンニャク液の粘度は35mPa・sであった。
該断片化コンニャク溶液を噴霧乾燥機(大川原加工機株式会社OC-16)を用いて粉体にした。粉体はやや茶色がかった白色であり、容易に水に溶け、顕微鏡目視による形状は球形で、平均粒径は30μmであった。粉体としての回収率は90.3%であった。
【0045】
上記粉体コンニャクを清涼飲料水(コカコーラ社Qooホワイトヨーグルト風味)に少量溶かしたものの食感についての官能検査を、11人の被検者に対して行った。その結果、表5(図11)に示すように、美味しいとの好意的な評価を受けた。
【0046】
家庭用自動パン焼き器(ナショナル・ホームベーカリー株式会社 SD-BT103)を用いて、市販のパンミックス(ナショナル・ホームベーカリー株式会社 SD・MIX30)をもとに、その小麦粉の10%を上記粉体コンニャクに置換してパンを焼いた。できたパンは市販のパンミックスをそのまま使う場合に比してやや小振りでやや焼け(こげ)が強かった。
このパンの食感についての官能検査を、10人の試験者に対し行った。その結果、表6(図12)に示すように、においが気になるとの評価があったが、味については好評を得た。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】デービス(Davis)の最少培地の通常の組成を示す表。
【図2】添加物による酵素誘導の差異を示す表。
【図3】本酵素の相対活性のpH依存性を示すグラフ。
【図4】本酵素の相対活性の温度依存性を示すグラフ。
【図5】本酵素の相対活性の保存温度依存性を示すグラフ。
【図6】本酵素液の減粘作用の基質特異性を示す表。
【図7】4種のコンニャク試料(3%)の噛み込み試験の結果を示すグラフ。
【図8】コンニャク試料(1%)の酵素反応によるコンニャクマンナンの断片化の時間依存性を示すグラフ。
【図9】コンニャクゲル(0.5%)の酵素反応によるコンニャクマンナンの断片化の粘度変化を示すグラフ。
【図10】官能検査の結果の表(1):チョコムースの場合。
【図11】官能検査の結果の表(2):清涼飲料水の場合。
【図12】官能検査の結果の表(3):パンの場合。
【技術分野】
【0001】
マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン等のマンナン類多糖を選択的に分解する新規なマンナナーゼと、そのマンナナーゼを利用して製造される食物繊維食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンニャクは独特の弾性のある食感と触感で知られ、板、玉、糸状などの形状で食材として提供されてきた。その主成分のグルコマンナンは「砂おろし」の名とともに食物繊維として知られている。近年、コンニャクは整腸作用とともに高血圧予防、糖尿病予防などの効果を有することが報告され、古来の健康食品として見直されてきている。
【0003】
コンニャクを健康食品として広く普及させるためには、組成がグルコマンナンほぼ100%のままで、かつ食物繊維として有効な分子サイズを維持しつつ多様な食感と触感を有する種々のコンニャク製品を開発し、これらを現代人の好みに合った食材とする必要がある。しかし、コンニャクの食感及び触感を変えるには、従来、各種多糖やオカラなどを大量に混入する方法しか知られていなかった。
【0004】
コンニャクに他の食材を混入せずに、その食感及び触感を変えるには、主要成分であるグルコマンナンを酵素により分解し低分子量化することが考えられる。マンナナーゼは、グルコマンナンのマンノピラノシル結合を加水分解する酵素として広く知られており、各種の真菌や細菌から採取されている。
【0005】
例えば、アシネトバクターに属する新規微生物(特許文献1)、ペニシリウム属又はユーペニシリウム属に属する菌株(特許文献2)やバチルス属のコアグランス株(特許文献3)等から得られるマンナナーゼを用いるグルコマンナン分解法がすでに報告されている。
しかし、従来知られている酵素は、その至適温度がおおむね70-80℃と高く、比活性も低く、実用上問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−41663号公報
【特許文献2】特開2001−145485号公報
【特許文献3】特開平8−322477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、コンニャクマンナン等のマンナン類多糖体を分解する新しいマンナナーゼ源を発見すること、その効率的な生産方法を確立すること、及びそのマンナナーゼを利用した新しい食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るマンナナーゼは、バチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物から得られ、以下の理化学的性質を有することを特徴としている。
1) 作用:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのマンノピラノシド結合を加水分解して、該多糖類基質の構成単糖又は低分子化されたオリゴ糖を生成する。
2) 基質特異性:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのいずれにも特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アミロース、アミロペクチンのいずれにも作用しない。
3) 安定pH:pH3.0-9.0の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す。
4) 作用適温:最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲は50-60℃である。
5) 温度安定性:pH5.5において15分間保持をした場合、30℃以下では活性に変化なく、60℃で80%以上の活性が残存し、70℃以上では失活する。
6) 分子量:SDS-PAGE法で測定して42,000±2,000である。
【0009】
上記マンナナーゼは、上記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物を、マンナン類、マンナン類を含有する食品、又はネギ類を添加した培養液を用いて培養することにより得られる。
【0010】
上記マンナナーゼは、概ねpH 5.5で最大活性を示す。
【0011】
上記マンナン類を含有する食品としては、グルコマンナンを含有するコンニャク、又はガラクトマンナンを含有するグアガム若しくはタラガムを好適に用いることができる。また、培養液に添加するマンナン類として、これらの食品から得られたマンナン類を用いることもできる。
一方、培養液に添加するネギ類としては、タマネギ、ラッキョウ、ニンニク等の鱗茎、断片、搾汁などを好適に用いることができる。
【0012】
このような培養液を用いれば、従来法より容易にマンナナーゼを大量かつ簡便に得ることができる。これは、バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物の培養液に、マンナン類を含有する食品又はネギ類のみを添加して他の栄養素を与えないことにより、該微生物は生き延びるためにはこれら培養液に添加された栄養源を効率的に消化せざるを得なくなり、該微生物の体内でその消化酵素としてマンナナーゼの生産が高められ、体外に分泌されるからであると推測される。
【0013】
本発明に係るマンナナーゼは、バチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁のネコロン(necolon)-1株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 微生物寄託受託番号FERM P-21234、受領日:平成19年3月1日)の培養液から好適に採取することができる。
【0014】
前記バチルス属ネコロン-1株は、湿潤乾燥中のタマネギから、コンニャクの粘度を低下させる物質を培地中に分泌する細菌として単離することができる。この細菌は、好気性培養条件下で芽胞を形成するグラム不定の桿菌で、運動性を示し、カタラーゼ反応は陽性を示しているので、バチルス属を含む有胞子桿菌に一致する性状を持っている。16SrDNA塩基配列の解析結果によれば、分子系統樹上でバチルス属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁(相同率99.7%)であり、基準種バチルス・スプチリス(Bacillus subtilis)の近縁種に含まれる。
【0015】
本発明に係るマンナナーゼを含有する粉末や水溶液は、酵素剤として利用することができる。
【0016】
コンニャク又はコンニャクゾルに本発明に係るマンナナーゼ又は上記マンナナーゼ酵素剤を添加すれば、低分子化されかつ粘性を減少させられたコンニャクを含有するコンニャク溶液が得られる。また、このコンニャク溶液を噴霧乾燥するなどして溶媒を除去して粉体とすることにより粉体グルコマンナンを得ることができる。
【0017】
上記コンニャク溶液を用いれば、各種段階に断片化した断片化グルコマンナンを含有する食物繊維食品を製造することができ、これにより例えば白玉団子、ワラビ餅、ムース又はスープ等の各種段階の食感を有する食物繊維食品を得ることができる。
【0018】
また、コンニャクの断片化の各段階に於いて、野菜、穀類、穀粉類、増粘多糖類、香辛料、調味料、栄養剤、医薬等のいずれか又はそれらの組み合わせを混入することで、様々な機能を有する既存食品に対して任意の食感や触感を付与することができる。すなわち、このように各種段階に断片化した断片化グルコマンナンは、既存の各種食品の食感・触感を調整する食感調整剤として用いることができる。
【0019】
断片化したコンニャクにより製造されるムース状の製品は数回の咀嚼で砕かれ溶けるので、老齢等により嚥下困難や軟口蓋の誤動作を生じる場合でも咀嚼反射によって容易に嚥下できるので、このような人に食物繊維を摂取させることができる。またこれに栄養剤、医薬等を添加して投与することも可能となる。
【0020】
本発明に係るマンナナーゼの製造方法は、マンナン類を含有する食品又はネギ類を添加した培養液を用いてバチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物を培養し、その培養液から前記の理化学的性質を有するマンナナーゼを採取することを特徴としている。
ここで、前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物として、前記のバチルス(Bacillus)属ネコロン(necolon-1)株を好適に用いることができる。
【0021】
また、上記マンナナーゼ又はマンナナーゼ酵素剤を用いて、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを成分として含有する植物資材を分解し、基質である多糖を低分子量化せしめる方法を提供する。
さらに、コンニャク溶液に硬化剤を添加して硬化させることにより断片化グルコマンナンを含有する食物繊維食品を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るマンナナーゼは、従来知られていたマンナナーゼよりも低い温度で長時間安定に、コンニャクのグルコマンナンを加水分解して断片化する。その結果、断片化の程度に応じて軟化して弾性を消失し、コンニャクとは異質の食感及び触感を持つ新規の食物繊維素材を、より容易に得ることができる。この新規の食物繊維素材は断片化の程度に応じて白玉だんご、わらび餅、ムース又はスープの食感を有し、食品、嗜好品などとしての広く応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施する具体的態様を以下に実施例を用いて説明するが、もとより本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
(培地の選択)
最初に本発明に係る微生物を培養するための最適の培地を検討した。標準的なデービス培地にバチルス属ネコロン-1を植菌し培養しても、マンナナーゼの生成量は検出限界以下であった。デービスの最少培地の通常の組成を表1(図1)に示す。
一方、デービスの培地からグルコースを除き、ネギ類(タマネギ、ラッキョウ、ニンニクなど)の搾汁、コンニャク(グルコマンナン)、グアガム(ガラクトマンナン)などの添加物存在下においてバチルス属ネコロン-1を植菌し培養するとマンナナーゼが誘導され、培地に分泌された。添加物による酵素誘導の差異を表2(図2)に示す。この表において、「−」は酵素が検出できなかったことを示し、また、「+」は、数が多い方がより多量の酵素を検出したことを示す。タマネギの搾汁を用いると、本発明のマンナナーゼを効率よく得ることができる。
【0025】
(酵素剤調製)
タマネギをジューサーにかけて圧搾ジュースを作り限外濾過(日本ミリポア株式会社;フィルター孔径0.22mm)して滅菌後、その100mLをグルコースを除いたデービス(Davis)の最小培地1Lに混入し、バチルス属ネコロン-1株を植菌し、40℃で72時間震盪培養した。
【0026】
培養液を遠心機(8,000xg, 10分)にかけて菌体を分離し、上清をまず分子量50,000カットの中空糸フィルター(ダイセンメンブレンシステムズ株式会社 FUS0382)を用いて濾過して濾液を取り、ついでその濾液を分子量3,000カットの中空糸フィルター(旭化成株式会社 SEP1013)を用いて濾過して残存液を回収した。該残存液に硫酸アンモニウムを溶入し、硫安分画法によって50-75%飽和の分画を分取した。該分画を透析チューブ(ヴィスキングチューブ)に入れ水に対して透析して脱塩し、ついで35℃の温浴でロータリーエバポレーターを用いて濃縮して、マンナナーゼ酵素剤とした。
【0027】
マンナナーゼ酵素剤の活性はコンニャクゾル流下法により測定した。すなわち、0.75%コンニャクゾル(10mL)を入れた試験管に、活性を測定すべき酵素溶液を一定量(50μL)ずつ入れて各々よく撹拌混合し、規定の時間(30分)放置後に全試験管を同時に倒立させた。このとき、対照試料として、試験管に酵素溶液の代わりに純水を同量(50μL)入れた試料を用いた。倒立後、規定の時間(30秒)後に全試験管を正立に戻し、その時の試料溶液の相対的残存量によって酵素剤の活性を評価した。これは酵素活性の高い酵素溶液を入れた試験管では、コンニャクが多く分解されて溶液の粘性が低下し、倒立中の流出量が多くなる、すなわち残存量が少なくなることを利用した測定法である。この方法は相対法ではあるが、簡便な方法であるため酵素の精製の程度の判定等には特に有用で、マンナナーゼ定量キット(メガザイム株式会社AZOCARaB)よりはるかに高感度である。
コンニャクゾル流下法により、粘度を当初値から半減させる希釈度を求め、酵素剤はこの希釈度(濃度)に調整し冷蔵庫に保管した。
【0028】
(酵素反応のpH依存性)
1.5%コンニャクゾル20mLと、各被験pHに調整した20mMブリットン・ロビンソン(Britton & Robinson)緩衝液20mLとを混合して30分撹拌し、各被験pHの0.75%コンニャクゾル液40mLずつを作成した。これに前記マンナナーゼ酵素剤を100μL加えて更に30分撹拌後、超音波粘度計(山一電機株式会社 ビスコメイトVM-1G)を用いて20℃で粘度を測定した。対照溶液としては、酵素溶液の代わりに水100μLを加えて撹拌したものを用いた。対照溶液の粘度はpHに依存せず200mPa・sであったが、酵素剤を用いた場合の粘度はpH5.5において最小値25mPa・sを示した。この差175mPa・sを100とおいて、各pHでの粘度低下の相対値すなわち相対活性(%)を図3に示した。前記酵素剤中のマンナナーゼの至適pHは5.5であり、活性はpH 3では68%、pH 9では50%に低下した。
【0029】
(酵素反応の温度依存性)
上記と同様に調製した0.75%コンニャクゾル−ブリットン・ロビンソン緩衝液(pH=5.5)溶液20mLをトールビーカーにとった。これらをそれぞれ各被験温度の湯浴で10分間撹拌した。その後前記マンナナーゼ酵素剤30μLを加えて10分撹拌し、さらに20℃の水浴で10分間撹拌後、超音波粘度計(VM-1G)で粘度を測定した。対照溶液としては、酵素剤の代わりに水30μLを加えて同様に撹拌したものを用いた。対照溶液の粘度は20℃で200mPa・sであった。酵素剤を加えた試料の粘度の最小値は50, 55, 60℃における40mPa・sであったので、この差160mPa・sを100として各温度試料での粘度低下を相対活性(%)を用いて図4に示した。定温測定前の10分撹拌中の粘度低下は全被験試料に共通に生じているので解析上は無視できる。反応時間10分間の場合、前記酵素剤中のマンナナーゼの至適温度範囲(最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲)は50-60℃であり、70℃では失活した。
【0030】
(酵素の温度安定性)
上記と同様に調製した0.75%コンニャクゾル−ブリットン・ロビンソン緩衝液(pH=5.5)溶液20mLをトールビーカーにとった。それぞれに各被験温度の湯浴に15分間保った前記マンナナーゼ酵素剤を50μL加え、30分間室温で撹拌して後、超音波粘度計(VM-1G)で粘度を測定した。対照溶液としては、酵素剤の代わりに水50μLを加えて同様に撹拌したものを用いた。対照溶液の粘度は20℃で200mPa・sであった。酵素剤を加えた試料の粘度の最小値は20、30℃における30mPa・sであったので、この差170mPa・sを100として各処理温度での粘度低下を相対活性(%)を用いて図5に示した。
前記酵素剤は20-30℃では極めて安定していた。40℃では1時間経過後も活性に変化は無く、4℃(冷蔵庫)では1ヶ月保存しても活性は変化しなかった。
【0031】
(基質特異性)
コンニャク(0.5%)、タラガム(0.5%)、グアガム(0.5%)、キサンタンガム(0.5%)、カラヤガム(1.5%)、デンプン(かたくり、1%、加熱)、カルボキシメチルセルロース(1%)を、それぞれ水20mLと混合してゾルとした。これらのゾルにそれぞれ前記酵素液100μLを加えて室温で撹拌し、添加1時間後の粘度の変化を超音波粘度計(VM-1G)で測定した。
コンニャク(グルコマンナン)、タラガム(ガラクトマンナン)、グアガム(ガラクトマンナン)では、表3(図6)に示すような顕著な粘度低下が観察された。しかし、キサンタンガム、カラヤガム、デンプン、カルボキシメチルセルロースでは、3時間経過後も粘度の低下が見られなかった。これより、本酵素剤は、マンナナーゼ活性を有すると考えられる。
【0032】
(酵素精製)
調製した前記マンナナーゼ酵素剤(全蛋白濃度で360μg/ml)をゲル濾過クロマトグラフ法により精製した。溶出液としてNaCl水溶液(0.15M)を用い、Sephacryl S200カラムを通し、紫外吸光度でモニターしながらカラム溶出液をフラクションコレクターで分画し、各分画の酵素活性を測定した。さらに、最高の活性を示した分画とその前後の分画をまとめ、溶出液として10mMトリス緩衝液(pH 7)を用い、食塩の濃度勾配を使ったイオン交換カラムクロマトグラフィ(monoQカラム)を通し、殆ど単一ピークとなった活性画分を取った。この分画の分子量分布(SDS-PAGE)は単一バンドを示し、酵素剤の推定分子量は42,000±2,000であった。PAGE上では該酵素が糖タンパク質である徴候は見られず、Pro-Q Emerald 300分子プローブによる染色では検出不能であった。また、LC-MS/MSによる上記酵素剤の推定分子量は41,893であり、アミノ酸配列はPectobacterium carotovorumのendo-β1,4-mannanaseと部分的に一致した。グルコマンナンの分解においてミカエリス定数(Km)は5.2mg/ml、最大反応速度(Vmax)は7.8μg/ml/min(10mM 酢酸緩衝液 pH5.5, 40℃)であった。
【0033】
(酵素反応:コンニャクグルコマンナンの断片化)
コンニャク精粉60gに水2Lを加え(3%コンニャク)、スタンドミキサー(イギリス・ケンウッド株式会社ケンミックス・シェフ)を用いて2時間常温で撹拌した。生成したコンニャクゲルから500gグラム(試料1)を取り、残りのゲルに前記酵素剤600μLを加えて撹拌を続けた。撹拌20分後(試料2)、及び1時間後(試料3)にもそれぞれ500gを分取した。残りは4時間撹拌を続けた(試料4)。
試料1−3の各500gの試料には、分取の時点で、それぞれ0.3gの水酸化カルシウムを水に懸濁して混入撹拌し、3個の同型のステンレスボックスに詰め、沸騰水中に沈めて硬化させた。この操作で試料4は硬化しなかった。
【0034】
固化した3個のコンニャク試料の噛み込み試験の結果を図7に示す。試料1の酵素剤不添加のコンニャクが圧入に対しもっとも大きな応力を示した。酵素剤との反応時間が大きくなると共に圧入に対する応力は減少し、試料4では応力は殆ど認められなかった。この結果は、酵素剤がコンニャクに含まれるグルコマンナンを断片化し、その結果水酸化カルシウムを添加しても硬化の程度が減少したことを示唆している。
【0035】
4種の反応生成物の食感について、15人の被検者に対する官能検査を行った。その結果、試料1はコンニャクであり、試料2は白玉団子に近い食感を有するものであり、試料3はムースかプリンに近い食感を有するものであり、試料4は少しとろみのある液体の食感を有していると結論した。この官能検査で、試料3や試料4の原料が100%コンニャクであると判断した被験者はいなかった。
【0036】
(断片化の経過測定)
コンニャクマンナンの断片化の過程を、ゲル濾過カラムの溶出パターンより生成物のサイズ分布を求めて検討した。1%コンニャク溶液200mLに前記酵素剤5mLを添加して室温で撹拌し、反応時間の経過に応じて反応液をサンプリングし、ゲル濾過カラム(担体;Sephacryl s200)にかけ、溶出する糖のサイズ分布を示差屈折計(島津製作所株式会社RID-10型)を用いて測定した。結果を図8に示す。
【0037】
酵素剤添加後のコンニャクの断片化による分子サイズの変化は極めて遅く、粘度の急激な低下(図9参照)とは対応しないように見える。酵素剤の添加12時間後でも分子サイズはほぼ 8,000Da(約 50分子の少糖)を中心に分布している。分子サイズの小さくなった断片化コンニャク溶液(粘度で数十〜数mPa・sec)はアルカリ添加の有無に拘らず噴霧乾燥して粉体にできる。出来た粉体は容易に水に溶けてやや粘性のある溶液になる。なお、上述の3%コンニャクを出発物質とした酵素による断片化過程にあるコンニャクゲルは、粘度が高すぎて、水に均質に分散してゲル濾過カラムにかけることは非常に困難であった。
【0038】
(粘度の変化)
0.5%コンニャクゲル100mLに2.5倍に希釈した前記マンナナーゼ酵素剤を5mL加えて、マグネティックスターラーで撹拌し、一定時間毎に撹拌を止めて超音波粘度計(VM-1G)を用いて粘度を測定した。対照試料としては、酵素剤の代わりに水5mL加えたものを用い、同様に撹拌した。対照試料の粘度は時間変化を示さなかった。
反応開始前の見かけの粘度は対照試料の見かけの粘度と同じであり、約300mPa・sであった。これを100とした。反応40分後の見かけの粘度は2.5mPa・sであった。これを0として、酵素剤による見かけの粘度の低下の時間経過を図9に示した。
【0039】
(断片化コンニャク食品の例1:チョコムース)
水1Lにココアミックス(ネスレ社製)200gとコンニャク精粉30gを加え、スタンドミキサー(ケンミックス・シェフ)を用いて室温で2時間撹拌した。これに前記酵素剤4mLを加えてさらに30分撹拌すると軟化した。次いで水酸化カルシウム1.2gを加えて5分間激しく撹拌した。直ちに容器に詰めて30分間沸騰浴中に入れて固化させ、次いで氷水に30分間晒した。得られた食品はチョコムースのような色と堅さを有していた。
【0040】
このチョコムースの食感についての官能検査を、65名(22-65歳)の被験者に対して行った。その結果を表4(図10)に示すが、好意的なコメントが大部分であって否定的な見解は少なかった。
【0041】
(断片化コンニャク食品の例2:コンニャクスープ)
コンニャク精粉40gを水2Lと混ぜ、スタンドミキサー(ケンミックス・シェフ)を用いて2時間撹拌し均質にした。これに前記酵素剤10mLを加え室温で2時間撹拌してコンニャクを断片化させ液状とした。このときのコンニャク液の粘度は10mPa・sであった。この液を鍋に移して電熱コンロで煮沸に至るまで加熱し、少量のブイヨン、塩、砂糖で調味し、胡椒で風味付けをした。別途調理した(a)ソバ米、あるいは(b)サイコロに切ったハムと野菜(冷凍ミックスベジタブル)とパセリを適量加えた。得られた食品はスープ状であった。
【0042】
製造したそば米入りコンニャクスープの食感についての官能検査を、22-55歳の男8人、女9人の被検者に対して行った。その結果、美味しくて飲みやすいスープであるとの好意的な反応を得た。
【0043】
野菜入りコンニャクスープの食感についての官能検査を、同じ被験者に対して行った。その結果、同様に、美味しくて飲みやいとの好意的な反応を得た。
【0044】
(断片化コンニャク食品の例3:粉体コンニャク)
コンニャク精粉90gを水5Lと混ぜ、スタンドミキサー(ケンミックス・メジャー)を用いて2時間撹拌し均質にした。これに前記酵素剤10mLを加え2時間撹拌してコンニャクを断片化させ液状とした。断片化コンニャク液の粘度は35mPa・sであった。
該断片化コンニャク溶液を噴霧乾燥機(大川原加工機株式会社OC-16)を用いて粉体にした。粉体はやや茶色がかった白色であり、容易に水に溶け、顕微鏡目視による形状は球形で、平均粒径は30μmであった。粉体としての回収率は90.3%であった。
【0045】
上記粉体コンニャクを清涼飲料水(コカコーラ社Qooホワイトヨーグルト風味)に少量溶かしたものの食感についての官能検査を、11人の被検者に対して行った。その結果、表5(図11)に示すように、美味しいとの好意的な評価を受けた。
【0046】
家庭用自動パン焼き器(ナショナル・ホームベーカリー株式会社 SD-BT103)を用いて、市販のパンミックス(ナショナル・ホームベーカリー株式会社 SD・MIX30)をもとに、その小麦粉の10%を上記粉体コンニャクに置換してパンを焼いた。できたパンは市販のパンミックスをそのまま使う場合に比してやや小振りでやや焼け(こげ)が強かった。
このパンの食感についての官能検査を、10人の試験者に対し行った。その結果、表6(図12)に示すように、においが気になるとの評価があったが、味については好評を得た。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】デービス(Davis)の最少培地の通常の組成を示す表。
【図2】添加物による酵素誘導の差異を示す表。
【図3】本酵素の相対活性のpH依存性を示すグラフ。
【図4】本酵素の相対活性の温度依存性を示すグラフ。
【図5】本酵素の相対活性の保存温度依存性を示すグラフ。
【図6】本酵素液の減粘作用の基質特異性を示す表。
【図7】4種のコンニャク試料(3%)の噛み込み試験の結果を示すグラフ。
【図8】コンニャク試料(1%)の酵素反応によるコンニャクマンナンの断片化の時間依存性を示すグラフ。
【図9】コンニャクゲル(0.5%)の酵素反応によるコンニャクマンナンの断片化の粘度変化を示すグラフ。
【図10】官能検査の結果の表(1):チョコムースの場合。
【図11】官能検査の結果の表(2):清涼飲料水の場合。
【図12】官能検査の結果の表(3):パンの場合。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物から得られ、かつ次の理化学的性質を有するマンナナーゼ。
1) 作用:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのマンノピラノシド結合を加水分解して、該多糖類基質の構成単糖又は低分子化されたオリゴ糖を生成する。
2) 基質特異性:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのいずれにも特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アミロース、アミロペクチンのいずれにも作用しない。
3) 安定pH:pH3.0-9.0の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す。
4) 作用適温:最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲は50-60℃である。
5) 温度安定性:pH5.5において15分間保持をした場合、30℃以下では活性に変化なく、60℃で80%以上の活性が残存し、70℃以上では失活する。
6) 分子量:SDS-PAGE法で測定して42,000±2,000である。
【請求項2】
前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物が、
マンナン類、
マンナン類を含有する食品、及び
ネギ類
のいずれかを添加した培養液を用いて培養されたものである請求項1に記載のマンナナーゼ。
【請求項3】
前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物が、バチルス(Bacillus)属ネコロン(necolon-1)株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 微生物寄託受託番号FERM P-21234)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマンナナーゼ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼを含有するマンナナーゼ酵素剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いて断片化されかつ粘性を減少させたコンニャクを含有するコンニャク溶液。
【請求項6】
請求項5に記載したコンニャク溶液から溶媒を除去して粉体とした粉体グルコマンナン。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いてグルコマンナンを各種段階に断片化することにより製造される、断片化グルコマンナンを含有する食物繊維食品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いてグルコマンナンを各種段階に断片化することにより製造される断片化グルコマンナンを用いた食品食感調整剤。
【請求項9】
マンナン類、マンナン類を含有する食品、及びネギ類のいずれかを添加した培養液を用いてバチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物を培養し、その培養液から以下の理化学的性質を有するマンナナーゼを得ることを特徴とするマンナナーゼの製造方法。
1) 作用:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのマンノピラノシド結合を加水分解して、該多糖類基質の構成単糖又は低分子化されたオリゴ糖を生成する。
2) 基質特異性:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのいずれにも特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アミロース、アミロペクチンのいずれにも作用しない。
3) 安定pH:pH3.0-9.0の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す。
4) 作用適温:最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲は50-60℃である。
5) 温度安定性:pH5.5において15分間保持をした場合、30℃以下では活性に変化なく、60℃で80%以上の活性が残存し、70℃以上では失活する。
6) 分子量:SDS-PAGE法で測定して42,000±2,000である。
【請求項10】
前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物が、バチルス(Bacillus)属ネコロン(necolon-1)株(FERM P-21234)であることを特徴とする請求項9に記載のマンナナーゼの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いてマンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン又はそれらを成分として含有する植物資材を分解し、それらの基質である多糖を低分子量化せしめる方法。
【請求項12】
請求項5に記載のコンニャク溶液に硬化剤を添加して硬化させることを特徴とする断片化グルコマンナン製品の製造方法。
【請求項1】
バチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物から得られ、かつ次の理化学的性質を有するマンナナーゼ。
1) 作用:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのマンノピラノシド結合を加水分解して、該多糖類基質の構成単糖又は低分子化されたオリゴ糖を生成する。
2) 基質特異性:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのいずれにも特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アミロース、アミロペクチンのいずれにも作用しない。
3) 安定pH:pH3.0-9.0の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す。
4) 作用適温:最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲は50-60℃である。
5) 温度安定性:pH5.5において15分間保持をした場合、30℃以下では活性に変化なく、60℃で80%以上の活性が残存し、70℃以上では失活する。
6) 分子量:SDS-PAGE法で測定して42,000±2,000である。
【請求項2】
前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物が、
マンナン類、
マンナン類を含有する食品、及び
ネギ類
のいずれかを添加した培養液を用いて培養されたものである請求項1に記載のマンナナーゼ。
【請求項3】
前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物が、バチルス(Bacillus)属ネコロン(necolon-1)株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 微生物寄託受託番号FERM P-21234)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマンナナーゼ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼを含有するマンナナーゼ酵素剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いて断片化されかつ粘性を減少させたコンニャクを含有するコンニャク溶液。
【請求項6】
請求項5に記載したコンニャク溶液から溶媒を除去して粉体とした粉体グルコマンナン。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いてグルコマンナンを各種段階に断片化することにより製造される、断片化グルコマンナンを含有する食物繊維食品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いてグルコマンナンを各種段階に断片化することにより製造される断片化グルコマンナンを用いた食品食感調整剤。
【請求項9】
マンナン類、マンナン類を含有する食品、及びネギ類のいずれかを添加した培養液を用いてバチルス(Bacillus)属ベレゼンシス(velezensis)種に近縁の微生物を培養し、その培養液から以下の理化学的性質を有するマンナナーゼを得ることを特徴とするマンナナーゼの製造方法。
1) 作用:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのマンノピラノシド結合を加水分解して、該多糖類基質の構成単糖又は低分子化されたオリゴ糖を生成する。
2) 基質特異性:マンナン、グルコマンナン及びガラクトマンナンのいずれにも特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アミロース、アミロペクチンのいずれにも作用しない。
3) 安定pH:pH3.0-9.0の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す。
4) 作用適温:最大活性の90%以上の活性を示す温度範囲は50-60℃である。
5) 温度安定性:pH5.5において15分間保持をした場合、30℃以下では活性に変化なく、60℃で80%以上の活性が残存し、70℃以上では失活する。
6) 分子量:SDS-PAGE法で測定して42,000±2,000である。
【請求項10】
前記バチルス属ベレゼンシス種に近縁の微生物が、バチルス(Bacillus)属ネコロン(necolon-1)株(FERM P-21234)であることを特徴とする請求項9に記載のマンナナーゼの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載のマンナナーゼ、又は請求項4に記載のマンナナーゼ酵素剤を用いてマンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン又はそれらを成分として含有する植物資材を分解し、それらの基質である多糖を低分子量化せしめる方法。
【請求項12】
請求項5に記載のコンニャク溶液に硬化剤を添加して硬化させることを特徴とする断片化グルコマンナン製品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−60805(P2009−60805A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229172(P2007−229172)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会、社団法人日本農芸化学会、平成19年3月26日
【出願人】(503231480)有限会社日本エコロノミックス (10)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会、社団法人日本農芸化学会、平成19年3月26日
【出願人】(503231480)有限会社日本エコロノミックス (10)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】
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