新規リパーゼ
【課題】新規なリパーゼ、それをコードする遺伝子の提供。
【解決手段】Tetrasphaera属の菌が生産する、分子量約32 kDaの新規なリパーゼ、それをコードする特定配列を有する遺伝子。このリパーゼは、中鎖脂肪酸を基質として認識することができる。また、Tetrasphaera属に属する菌が生産し、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができる、分子量約40 kDaの新規なリパーゼおよびそれをコードする特定配列を有するポリヌクレオチド。さらにTetrasphaera属 NITE P-154菌株。消化薬、フレーバー剤の製造、臨床検査試薬、洗剤用酵素、油脂の製造、農薬・医薬品の光学活性中間体の製造等の分野で有用である当該リパーゼの固定化酵素。
【解決手段】Tetrasphaera属の菌が生産する、分子量約32 kDaの新規なリパーゼ、それをコードする特定配列を有する遺伝子。このリパーゼは、中鎖脂肪酸を基質として認識することができる。また、Tetrasphaera属に属する菌が生産し、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができる、分子量約40 kDaの新規なリパーゼおよびそれをコードする特定配列を有するポリヌクレオチド。さらにTetrasphaera属 NITE P-154菌株。消化薬、フレーバー剤の製造、臨床検査試薬、洗剤用酵素、油脂の製造、農薬・医薬品の光学活性中間体の製造等の分野で有用である当該リパーゼの固定化酵素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リパーゼに関する。本リパーゼはTetrasphaera属の新株の菌体によって生産される。本リパーゼは中鎖脂肪酸及び/又は長鎖脂肪酸を基質として認識することができる。本リパーゼはアニオン交換樹脂や疎水性樹脂に吸着により固定化することができ、固定化酵素として利用できる。本リパーゼは、消化薬、フレーバー剤の製造、臨床検査試薬、洗剤用酵素、油脂の製造、農薬・医薬品の光学活性中間体の製造等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは種々のエステルの合成や分解、エステル交換、ラセミ体の光学分割のための優れた生体触媒であることが実証されてきた。実際に消化薬、フレーバー剤の製造、臨床検査試薬、洗剤用酵素、油脂の製造、農薬・医薬品の光学活性中間体の製造に利用されてきている。
【0003】
リパーゼは動物の膵臓リパーゼがよく知られているが、工業的によく利用されてるものは主に微生物由来のリパーゼである。これらのリパーゼの多くは遺伝子もクローニングされ、アミノ酸配列も知られている(Candida rugosa: 非特許文献1。Rhizopus delemar: 非特許文献2。Bacillus subtilis: 非特許文献3。Staphylococcus aureus: 非特許文献4。Pseudomonas aeruginosa: 非特許文献5)。
【0004】
糸状菌やBacillus属、Stapylococcus属、Pseudomonas属などが生産するリパーゼが工業的に使われている。これらのリパーゼは基本的に高級脂肪酸(炭素数が16以上の脂肪酸)を基質としており、また短鎖脂肪酸(炭素数6以下)を基質とするものはエステラーゼである。中鎖脂肪酸をよく認識し、加水分解だけでなくエステル化活性を示すリパーゼは知られていない。
【0005】
中鎖脂肪酸が結合したトリグリセリドは膵臓リパーゼで加水分解されるだけでなく、胃のリパーゼでも加水分解され、トリグリセリドの消化・吸収にも優位であることが示されている(非特許文献6)。また、中鎖脂肪酸は吸収された後、小腸の腸管細胞でトリグリセリドに再合成されることは少なく、門脈から肝臓に運ばれ、エネルギーとして燃焼される。一方、高級脂肪酸は腸管細胞で再合成され、リンパから吸収され、肝臓に運ばれ、場合によっては脂肪として蓄積される。すなわち、高級脂肪酸は体内蓄積性があり、中鎖脂肪酸は蓄積性がない。かくして、中鎖脂肪酸トリグリセリドと通常の食用油脂とのエステル交換によって健康によい油脂が製造されている。
【非特許文献1】Kawaguchi et al., Nature, 341, 164-166 (1989)
【非特許文献2】Haas et al., Gene, 109, 107-113 (1991)
【非特許文献3】Dartois et al., B. B. A., 1131, 253-260 (1992)
【非特許文献4】Lee et al., J. Bacteriol., 164, 288-293 (1985)
【非特許文献5】Wohlfarth et al., J. General Microbiology, 138, 1325-1335, (1992)
【非特許文献6】I. Ikeda, Y. Tomari, M. Sugano, S. Watanabe, and J. Nagata:Lipids, 26, 369-373 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トリグリセリドではない中鎖脂肪酸エステルは今までにリパーゼで工業的に製造されたことはない。中鎖脂肪酸は脂肪蓄積性がないことから、中鎖脂肪酸でエステル化された食品素材は肥満等の問題が少ない素材となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リパーゼについて鋭意研究してきた。そして、Tetrasphaera属の新株の菌体の培養上清から分子量約32 kDa及び約40 kDaの新規なリパーゼを単離・精製し、さらにこれらのリパーゼが中鎖脂肪酸を基質としてよく認識する新規なものであることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
I. 新規リパーゼ
本発明は、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約32 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそのホモログ、すなわち下記の(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、(E1)、(F1)又は(G1)を含有するポリヌクレオチドを提供する:
(A1)配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は少なくとも25〜801番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0009】
配列番号:10には、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株が生産する分子量約32 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列が、配列番号:11には、同リパーゼのアミノ酸配列が示されている。 また、配列番号:15には、同リパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムDNAの塩基配列が、配列番号:16には、配列番号:11より上流の配列を含むアミノ酸配列が示されている。
【0010】
本明細書で配列番号:10について「25〜801番の塩基配列」というときは、特別な場合を除き、配列番号:15について「388〜1164番の塩基配列」と言い換えることができ、本明細書で「配列番号:11のアミノ酸配列」というときは、特別な場合を除き、「配列番号:16の48〜306番のアミノ酸配列」と言い換えることができる。本発明においては、配列番号:10に記載の少なくとも25〜801番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチドは、配列番号:15の塩基配列の少なくとも388〜1164番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド(例えば、配列番号:15の塩基配列の247〜1167番の塩基配列からなる一部からなるポリヌクレオチド)で代替可能であり;また、配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(又はそれをコードするポリヌクレオチド)は、配列番号:16のアミノ配列の全部又は一部からなるタンパク質(好ましくは、32〜306番のアミノ酸配列、より好ましくは48〜306番のアミノ酸配列からなるタンパク質)からなるタンパク質(又はそれをコードするポリヌクレオチド)で代替可能である。このようなものもまた本発明の範囲に含まれる。配列番号:16の1〜47番目のアミノ酸配列はプレプロ配列であると考えられる。1〜31番目は分泌シグナルであるプレ配列として働き、32〜47番目が分泌後、おそらく別のタンパク質の作用により切断されるプロ配列であると推定される。したがって、リパーゼとして作用するのに必須の成熟タンパク質は48番目以降の配列であり、大腸菌など、異種発現系で同リパーゼを発現させる場合には、プレプロ配列を除去して発現させるのが適切であると考えられる。
【0011】
本発明の分子量約32 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそのホモログの好ましい例は、以下のものである:
・下記の(A1')、(B1')、(C1')、(D1')、(E1')、(F1')又は(G1')である、ポリヌクレオチド:
(A1')配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は25〜801番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(B1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
・下記の(A2)、(B2)、(C2)、(D2)、(E2)、(F2)又は(G2)を含有する、ポリヌクレオチド:
(A2)配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくとも247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
・下記の(A2')、(B2')、(C2')、(D2')、(E2')、(F2')又は(G2')である、ポリヌクレオチド:
(A2')配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド。
(B2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0012】
本発明は、また、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約40 kDaのリパーゼをコードする遺伝子又はそのホモログ、すなわち下記の(H2)、(I2)、(J2)、(K2)、(L2)、(M2)又は(N2)を含有するポリヌクレオチドを提供する:
(H2)配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は少なくとも414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(I2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0013】
配列番号:28には、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株が生産する分子量約40 kDaのリパーゼをコードする遺伝子の塩基配列が、配列番号:29には、同リパーゼのアミノ酸配列が示されている。
【0014】
本発明の分子量約40 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそのホモログの好ましい例は、以下のものである:
・下記の(H2')、(I2')、(J2')、(K2')、(L2')、(M2')又は(N2')である、ポリヌクレオチド:
(H2')配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(I2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0015】
本明細書でいう「リパーゼ」とは、特別な場合を除き、グリセロールエステルを加水分解し、脂肪酸を遊離する酵素をいう。本明細書で、あるタンパク質が「リパーゼ活性を有する」というとき(又は「リパーゼ」というとき)は、特別な場合を除き、そのタンパク質(又はリパーゼ)は、少なくともグリセロールと脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有し、好ましくは中鎖脂肪酸とのエステル及び/又は長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有し、より好ましくは中鎖脂肪酸とのエステル及び長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有する。リパーゼ活性を有するタンパク質(又はリパーゼ)は、脂肪酸の転移反応(エステル化反応又はエステル交換反応)を触媒する活性を有することが好ましく、中鎖脂肪酸の転移反応を触媒する活性を有することがより好ましい。
【0016】
あるタンパク質が、グリセロールと中鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有するか否かは、例えば、本明細書の実施例に記載したような4-メチルウンベリフェリルカプリレート(MU-C8)又は4-メチルウンベリフェリルオレート(MU-C18)の分解活性を測定する試験に供することにより、評価することができる。また、あるタンパク質が、中鎖脂肪酸の転移反応を触媒する活性を有するか否かは、例えば、本明細書の実施例に記載したような3-フェニル-1-プロパノール又は1−フェニル−2−プロパノールとトリカプリリン(MCT)とのエステル化反応実験に供することにより、評価することができる。
【0017】
本明細書では、特別な場合を除き、あるタンパク質(又はリパーゼ)が、ある脂肪酸のエステルを加水分解する活性を有する場合、又はある脂肪酸の転移反応を触媒する活性を有する場合、その脂肪酸を「基質として認識することができる」ともいう。
【0018】
本発明のTetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約32 kDaのタンパク質及び分子量約40 kDaのタンパク質は、少なくとも、4-メチルウンベリフェリルカプリレート(MU-C8)の分解活性を有し、さらに後者は4-メチルウンベリフェリルオレート(MU-C18)の分解活性を有し、かつトリカプリリン及び3−フェニル−1−プロパノール又は1−フェニル−2−プロパノールからそれぞれのカプリル酸エステルを生成できることが確認されている(実施例1参照)。したがって、両者とも、リパーゼ活性を有するということができ、前者は、より詳細には、中鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有する(中鎖脂肪酸を基質として認識することができる)ということができ、後者は、より詳細には、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有する(中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができる)ということができ、かつ中鎖脂肪酸の転移反応(特に、エステル化反応)を触媒する活性を有するということができる。
【0019】
本明細書で「中鎖脂肪酸」というときは、特別な場合を除き、炭素数が7〜15である飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸をいう。中鎖脂肪酸には、カプリル酸、カプリン酸及びラウリン酸が含まれる。
【0020】
本明細書で「長鎖脂肪酸」というときは、特別な場合を除き、炭素数が16以上である飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸をいう。長鎖脂肪酸には、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びγ-リノレン酸が含まれる。
【0021】
本明細書でグリセロールと脂肪酸とに関し、「エステル」というときは、特別な場合を除き、トリアシルグリセロールのみならず、ジアシルグリセロール又はモノアシルグリセロール(後二者を合わせて、部分アシルグリセロールということもある。)でありうる。
【0022】
本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、特別な場合を除き、6M尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件を指し、さらに必要に応じ、本発明には、よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4% SDS、0.1×SSC又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件を適用してもよい。それぞれの条件において、温度は約40℃以上とすることができ、よりストリンジェンシーの高い条件が必要であれば、例えば約50℃、さらに約65℃としてもよい。
【0023】
また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列」というときの置換等されるヌクレオチドの個数は、その塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。また、本発明で「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列を有するタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、性質の似たアミノ酸への置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。このような塩基配列又はアミノ酸配列に係るポリヌクレオチドを調製するための手段は、当業者にはよく知られている。
【0024】
塩基配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0025】
アミノ酸配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。配列番号:11に記載のアミノ酸配列の公知のリパーゼのアミノ酸配列との同一性は、実施例の表4に示されている。また、配列番号:28に記載のアミノ酸配列の公知配列との同一性に関しては、実施例8に述べられている。
【0026】
ポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0027】
本明細書でタンパク質又はリパーゼについて分子量を示すときは、特別な場合を除き、SDS-PAGEを用いて決定した値をいう(実施例1、図2参照)。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドは、天然物からハイブリダイゼーション技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術等を利用して得ることができる。
【0029】
具体的には、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌から、ゲノムDNA(gDNA)を、常法(例えば、DNeasy Tissue Kit(QIAGEN))により調製し、あるいは同菌体から全RNAを常法(例えば、RNeasy Plant isolation Kit(QIAGEN))により調製し、そして全RNAを鋳型とした逆転写反応(1st strand cDNA 合成)を、常法(例えば、SuperScript II Reverse Transcriptase (Invitrogen))により調製する。
【0030】
目的のポリヌクレオチドを得るためには、32 kDaのリパーゼタンパク質のN-末端の配列に基づき、5’側のプライマーを設計する。さらに、上記のN末端アミノ酸残基と同一性を示す比較的近縁なStreptomyces属菌等由来の推定タンパク質で保存された配列を基に、3’側のプライマーを設計する。lip32遺伝子断片を、#375株cDNAを鋳型に、上記プライマーセットを用いたディジェネレートPCRによって増幅し、部分塩基配列を決定する。さらに、適当な制限酵素で消化後、環状化した#375株gDNAを鋳型に、同配列上に外向きに設計したプライマーを用いたインバースPCRによって、近傍領域の塩基配列情報を取得する。このようにして、合計約900bpのlip32領域gDNAの塩基配列を決定する。
【0031】
本発明のポリヌクレオチドには、DNAが含まれ、DNAには、ゲノムDNA、cDNA及び化学合成DNAが含まれる。DNAは、一本鎖DNA及び二本鎖DNAでありうる。
【0032】
本発明のポリヌクレオチドの好ましい例は、Tetrasphaera属由来のものである。
【0033】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクター、その組換えベクターにより形質転換された、形質転換体(例えば形質転換大腸菌、形質転換酵母、形質転換昆虫細胞)も提供する。本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主(例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞)を形質転換する工程(例えば、本発明の組換えベクターにより形質転換する工程)を含む、形質転換方法も提供する。
【0034】
本発明のポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、宿主内で挿入物を発現させることが可能なものであれば特に制限はなく、ベクターは、通常、プロモーター配列、ターミネーター配列、外的な刺激により誘導的に挿入物を発現させるための配列、目的遺伝子を挿入するための制限酵素により認識される配列、及び形質転換体を選択するためのマーカーをコードする配列を有する。組換えベクターの作成、組換えベクターによる形質転換方法は、当業者に周知の方法を適用することができる。
【0035】
本発明はまた、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約32 kDaのリパーゼ又はそのホモログ、下記の(e1)、(f1)又は(g1)を含有するタンパク質を提供する:
(e1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0036】
本発明の分子量約32 kDaのリパーゼ又はそのホモログの好ましい例は、下記のタンパク質である:
・下記の(e1')、(f1')又は(g1')である、タンパク質:
(e1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
・下記の(e2)、(f2)又は(g2)を含有する、タンパク質:
(e2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(f2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
・下記の(e2')、(f2')又は(g2')である、タンパク質:
(e2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は48〜306番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(f2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0037】
この分子量約32 kDaのリパーゼは、中鎖脂肪酸を基質として認識することができ、実施例11に示した条件では、至適温度が約40℃であり、至適pHが7.0付近である。
【0038】
本発明はまた、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約40 kDaのリパーゼ又はそのホモログ、すなわち下記の(l1)、(m1)又は(n1)を含有するタンパク質を提供する。
(l1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(m1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0039】
配列番号:35及び図16には、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株が生産する分子量約40 kDaのリパーゼの、成熟タンパク質のアミノ酸配列が示されている。
【0040】
本発明の分子量約40 kDaのリパーゼ又はそのホモログの好ましい例は、下記のタンパク質である:
・上述の(l1)、(m1)又は(n1)である、タンパク質。
・下記の(l2)、(m2)又は(n2)を含有する、タンパク質:
(l2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(m2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
・下記の(l2')、(m2')又は(n2')である、タンパク質:
(l2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(m2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0041】
この分子量約40 kDaのリパーゼは、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができ、実施例11に示した条件では、至適温度が約45〜50℃であり、至適pHが7.0付近である。
【0042】
上記のタンパク質又はリパーゼは、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌を、市販の培地(例えば、Marine broth 2216(Difco社製)を用いる。Marine brothは食塩が約2%含有することを特徴とする液体培地である。)で培養して得られる培養上清から単離・精製することができる。
【0043】
具体的には、以下のようにする。まず、培地に対して0.1〜5%となるように菌液を植菌し、10〜40℃で2日〜10日培養する。塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含むトリス塩酸バッファーで平衡化した疎水性のゲル(例えばφ-Sepharose)0.01〜1部を用いて、培養上清をカラムクロマトグラフィーに供する。上記バッファー液で洗浄後、1%の非イオン界面活性剤(例えば、TritonX-100)を含む上記バッファー液で溶出させることによって、リパーゼ活性を有する画分を得ることができる。本リパーゼ画分を10部の上記バッファー液で希釈した後、0.001〜1部の陰イオン交換ゲル(例えば、Q-Sepharose)に吸着させ、0.1%の両性界面活性剤(例えば、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate(CHAPS))を含有した上記バッファーで洗浄後、塩化ナトリウム水溶液の濃度勾配で溶出し、リパーゼ活性画分を得る。本リパーゼ画分を陰イオン交換カラム(例えばHiTrapQ)で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、塩化ナトリウム水溶液による濃度勾配グラジエント溶出を行い、リパーゼ活性を有し、かつ分子量約32kDa又は約40kDaのタンパク質の存在が確認される画分を得る。より具体的な手法として、本明細書の実施例1を参照することができる。
【0044】
上記のタンパク質又はリパーゼは、本発明のポリヌクレオチドを挿入した組換えベクターにより形質転換された形質転換体(例えば、形質転換大腸菌)により、組換えタンパク質として得ることができる。
【0045】
具体的には、以下のようにする。まず、大腸菌発現系に用いる遺伝子の塩基配列は、適切なプライマーセットを用いたPCRによって増幅、クローニング後、シーケンシングによって塩基配列の確認を行う。クローニングしたDNA 断片は、適切な制限酵素により消化し抽出後、タンパク質の大腸菌発現用ベクターに組込み、これを用いて、大腸菌に形質転換し、タンパク質を発現させる。目的遺伝子を発現させた大腸菌を破砕し、上清をカラムで精製し、約32 kDa又は約40kDaの目的タンパク質を得る。より具体的な手法として、本明細書の実施例3又は8を参照することができる。
【0046】
本発明はまた、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができる、分子量約40 kDaのリパーゼ、又は下記の工程を含む製造方法により単離することができる分子量約40 kDaのリパーゼを提供する。
【0047】
Tetrasphaera属に属する菌の培養上清液を疎水性樹脂カラムに供し、疎水性樹脂吸着物を1%非イオン界面活性剤を含有する緩衝液で溶出し;
溶出物を陰イオン交換樹脂に供し、陰イオン交換樹脂吸着物を0.5M NaCl溶液で溶出し;
溶出物を、透析後、陰イオン交換カラムに供し、NaClグラジエント溶媒で溶出する。
【0048】
該製造方法は、より詳細には、下記1)〜3)の工程を含む:
1) Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌の培養上清液を疎水性樹脂カラムに供し、疎水性樹脂吸着物を、必要に応じ0.5%非イオン界面活性剤(例えば、TritonX-100)を含有する緩衝液等で洗浄した後、1%TritonX-100を含有する緩衝液で溶出し、
2) 溶出物を陰イオン交換樹脂に供し、陰イオン交換樹脂吸着物を、必要に応じ0.1% 両性界面活性剤(例えば、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate(CHAPS))を含有した緩衝液等で洗浄した後、0.5M NaCl溶液で溶出し、
3) 溶出物を、透析後、陰イオン交換カラムに供し、NaClグラジエント溶媒で溶出する。例えば、溶出物を、透析後、1ml容積の陰イオン交換カラムに供し、0〜0.75M NaClグラジエント溶媒で溶出し、溶出物を0.5ml毎に分画する。
【0049】
上記の40 kDaのリパーゼは、32 kDaのリパーゼについて既に述べたのと同様の手法に準じて、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌を、市販の培地で培養して得られる培養上清から単離・精製することができる(実施例1参照)。
【0050】
上記の40 kDaのリパーゼの好ましい例は、そのアミノ酸配列として、配列番号:3及び/又は配列番号:14に記載のアミノ酸配列、より特定すれば配列番号:3及び配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するものである。
【0051】
本発明及び本明細書により提供される情報を利用することにより、例えば、上記の40kDaのリパーゼの全部若しくは一部、配列番号:3若しくは配列番号:14に記載のアミノ酸配列に記載のアミノ酸配列、又はTetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌、該菌から得られるゲノムDNAを利用することにより、また適切であればそれらに加えて本明細書に開示した32 kDaのリパーゼについての種々の方法を適用することにより、40 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチドの配列情報及び40 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。より具体的には、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌から得たゲノムDNAを適当な制限酵素で完全消化し、制限酵素に対応するカセットを連結して、鋳型DNAを調製する。一方、40 kDaのリパーゼの一部から得られたアミノ酸配列情報(例えば、N末アミノ酸配列である配列番号:3、内部アミノ酸配列である配列番号:14)を利用して、適切なプライマーを設計する。このプライマーとカセットプライマーを用いてPCRを行い、40 kDリパーゼ遺伝子の周辺ゲノムDNA配列を得る。得られた塩基配列等から、40 kDaのリパーゼをコードする遺伝子のORFを推定できる。推定ORFの増幅、クローニング、塩基配列の確認、コードされるタンパク質の機能の確認には、本明細書に記載した32 kDaのリパーゼに関する同じ目的で用いた手法を適用することができる。
【0052】
すなわち、本発明はまた、配列番号:3若しくは配列番号:14に記載のアミノ酸配列、上記の40 kDaのリパーゼの全部若しくは一部(すなわち、リパーゼ自体若しくはそのフラグメント)、又はTetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌を用いることを特徴とする、該リパーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列情報の生産方法も提供する。
【0053】
II. Tetrasphaera属 NITE P-154菌株
本発明はまた、本発明のリパーゼを生産することができる、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株を提供する。
【0054】
Tetrasphaera属 NITE P-154菌株は、(株)海洋バイオテクノロジー研究所の所有する新規な海洋性微生物のライブラリーから中鎖脂肪酸油脂(MCT)を含んだ寒天プレートを用いて、ハローが形成するか否かにより選抜された。
【0055】
[Tetrasphaera属 NITE P-154菌株の菌学的性質]
Tetrasphaera sp. NITE P-154株 (本明細書では、「#375」と表すことがある。)は、形態的には球菌(0.86×0.86μm)で運動性はない。生理学的にはグラム陽性で生育温度範囲は15〜45℃、炭素源としてD-フルクトース、D-グルコース、D-マンニトール、ラフィノース及びシュークロースを利用することができ、L-アラビノース、イノシトール、L-ラムノース及びD-キシロースは利用できない。化学分類学的にはイソプレノイド・キノンはMK-8(H4)であり、DNAの塩基組成は70.5%である。
【0056】
【表1】
【0057】
Tetrasphaera属 NITE P-154菌株をmarine broth 2216(Difco社製)で培養すると本発明のリパーゼを菌体外に分泌する。
【0058】
本発明はまた、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同一の菌学的性質を有する、菌株又はその変異体、及びTetrasphaera属 NITE P-154菌株の16S rRNA遺伝子の(配列番号:1)と高い同一性を有する(例えば、98%より高い同一性を有する、好ましくは98.5%同一である、さらに好ましくは99%同一である、さらに好ましくは99.5%同一である)塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する、菌株又はその変異体も提供する。なお、本発明者らの検討に拠れば、公知の菌でもっとも近いもので98%であった。
【0059】
本発明の菌株及びその変異体の菌株は、本発明のタンパク質及びリパーゼの製造のために用いることができる。
【0060】
本発明はまた、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを提供する。
【発明を実施するための好ましい態様】
【0061】
本発明の32 kDa又は40 kDaのリパーゼは、適当な担体に固定化し、固定化酵素として用いることができる。
【0062】
担体には、同様の目的で使用される従来の樹脂、例えば、塩基性樹脂(例えば、MARATHON WBA(Dow Chemcal社製)、三菱化学のSAシリーズ、WAシリーズあるいはFPシリーズの樹脂及びオルガノ社のアンバーライトのIRAシリーズ)、疎水性樹脂(例えば、FPHA(ダイアイオン、三菱化学社製)、三菱化学のHPシリーズ、オルガノ社のアンバーライトXAD7)等を担体として用いることができる。
【0063】
担体への固定化方法も、同様の目的で用いられる従来技術を適用することができる。例えば、上記の樹脂担体1部に対して、10部の#375の培養上清を加え、そのまま減圧乾燥してもよく、また吸着させた後、上清を除去後乾燥してもよい。
【0064】
固定化されたリパーゼは、工業的に有用である。すなわち、固定化酵素をカラムに充填し、そのカラムに原料を通導するような連続的な反応ができる。また、反応液から容易に固定化酵素を除去することもでき、またリユースすることも可能になる。
【0065】
本発明のリパーゼ又は固定化リパーゼは、中鎖脂肪酸及び/又は長鎖脂肪酸の転移反応において、及び中鎖脂肪酸エステル及び/又は長鎖脂肪酸エステルの製造において、用いることができる。エステルには、アスタキサンチン等のカロチノイド(カロチン類とキサントフィル類とからなる。)と脂肪酸とのエステル、及びカテキン等のポリフェノールと脂肪酸とのエステルが含まれる。
【0066】
本明細書で「転移反応」というときは、特別な場合を除き、エステル化反応又はエステル交換反応をいう。
【0067】
転移反応は、種々の脂肪酸エステルを製造するのに有用である。例えばトリグリセリド間のエステル交換、ステロールエステルの製造、脂肪酸メチルエステルの製造等の工業的な実施において従来のリパーゼが使用されているように、本発明のリパーゼもまた、このような場面で用いうる。本発明のリパーゼにより製造されうるエステルのうち、特に有用な例として、ステロールエステル(例えば、β-シトステロールカプリル酸エステル)、アスタキサンチンカプリル酸エステル、カテキンカプリル酸エステル等を挙げることができる。
【0068】
本発明はまた、本発明によってはじめて提供される配列番号:1、配列番号:3、配列番号:14、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:15、配列番号:16、配列番号:28及び、配列番号:29に係る配列情報及びその一部、ならびにそれらの利用方法も提供する。
【実施例】
【0069】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1〕#375株培養上清からのリパーゼタンパク質の単離・精製とN末15残基の配列の決定:
Marine broth 2216(Difco社製)液体培地に#375株を1%植菌して、25℃で4日間振とう培養を行った。培養上清液200mlについて、バッファーA;50mMトリス塩酸バッファー(pH8.0)/2mM CaCl2/2mM MgCl2で平衡化した疎水樹脂;Phenyl Sepharose CL4B(Amersham Biosciences社製)2mlに吸着させ、カラムクロマトグラフィーに供した。バッファーAにて洗浄した後、10mlの0.5%TritonX-100を含有したバッファーAにてリパーゼタンパク質以外の物質を洗浄除去した。次に、10mlの1%TritonX-100を含有したバッファーAにて溶出することでリパーゼ活性画分を得た。
【0071】
本リパーゼ画分(10ml)に10倍量のバッファーAを添加希釈した後、陰イオン交換樹脂;Q-Sepharose(Amersham Biosciences社製)0.4mlに吸着させ、0.1%CHAPSを含有したバッファーAで充分洗浄して界面活性剤TritonX-100からCHAPSへ置換した後、0.5Mさらに1M NaClによりステップワイズ溶出を行った。リパーゼ活性が認められた0.5M NaCl溶出画分(2ml)を0.1%CHAPSを含有したバッファーAにて充分に透析を行った後、陰イオン交換カラム;HiTrapQ(Amersham Biosciences社製)1mlを用いて、HPLCによる0→0.75M NaClグラジエント溶出を行った。フラクション0.5ml毎に分画して、各々のリパーゼ活性、及びSDS-PAGEによるバンドの検出を行った。表2にリパーゼ活性及び転移活性を、図2にSDS-PAGE結果を示す。
【0072】
リパーゼ活性は、実施例3に詳述したMU-C8を用いる方法に準じて、基質としてMU-C8又はMU-C18を用いて測定し、単位はUnit(1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1 μmolのMUを加水分解により遊離する活性)で表した。
【0073】
また、転移活性は、以下のとおり測定した。3−フェニル−1−プロパノール(10μl)又は1−フェニル−2−プロパノール(10μl)とトリカプリリン(150μl)の混合液に酵素溶液(100μl)を添加し、45℃で3日間激しく攪拌し反応させた。反応液を遠心分離し、上層50μlを回収してアセトニトリル50μlを加え、10μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラムとしてDevelosil C30-UG-5(4.6 x 150 mm)(Nomura chemical, Aichi, Japan)を、移動層として90%アセトニトリル 0.08%TFA、流速 1ml/分、温度 室温とした。それぞれのカプリル酸エステルの生成率であらわした。
【0074】
【表2】
【0075】
2種のリパーゼ(32 kDa、40 kDa)についてプロテインシーケンサーによりN末端から15残基のアミノ酸配列を決定した。その結果を表3及び配列表(配列番号:2、配列番号:3)に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
さらに、分子量40 kDaのリパーゼについて、SDS-PAGEよりバンドを切り出し、トリプシンによる消化、逆相HPLCによる断片ペプチドの分離を行った。任意のピークのペプチドのN末端から12残基のアミノ酸配列LSTNVGPTHLGG(配列番号:14)を決定した。
【0078】
〔実施例2〕32 kDaのリパーゼ遺伝子のクローニング:
[#375からのDNA及びRNAの調製]
本菌からのゲノムDNA(gDNA)の調製には、DNeasy Tissue Kit(QIAGEN)を、全RNAの調製には、RNeasy Plant isolation Kit(QIAGEN)をそれぞれ使用し、各キットのプロトコールに従って行った。全RNAを鋳型とした逆転写反応(1st strand cDNA 合成)は、SuperScript II Reverse Transcriptase (Invitrogen)を用い、プロトコールに従って行った。
【0079】
PCR産物のベクターへのライゲーションには、TOPO TA-cloning Kit(Invitrogen)を使用し、定法に従って大腸菌へ形質転換した。クローニングしたDNA 断片の塩基配列は、クローニングベクターのMCS の外側に設計されたプライマー(M13 primer M4, RV等)や既知配列上に設計したプライマーを用いたプライマーウォーキングによって決定した。シーケンシング試料は、ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 (Applied Biosystems)を使用し、プロトコールに従って調製した。シーケンサーは、ABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyser (Applied Biosystems)を用い、データ解析ソフトにはVector-NTI 9.0 (InforMax)を使用した。
【0080】
[lip32遺伝子の取得]
#375株の32 kDaタンパク質をコードすると予想される遺伝子(以下lip32遺伝子とする)を取得するため、当該タンパク質のN-末端15アミノ酸残基の配列(GDAPAYERYVALGDS)を、genebankのアミノ酸配列データベースに対してblastp検索を行った結果、#375株と比較的近縁なStreptomyces属菌の推定分泌タンパク質(アクセッションNo.CAC42140)と高い同一性を示していた。このStreptomyces属菌推定分泌タンパク質は、幾つかのリパーゼ等のアミノ酸配列と同一性があった。そのうちStreptomyces rimosus由来GDLS-リパーゼ(アクセッションNo. AAK84028)とのClustalWによるアラインメント結果を図3に示す。これらタンパク質で保存された配列のうち、下線部で示した2つの配列VALGDSYS(配列番号:4)とIGGNDS(配列番号:5)を基に、センス鎖の縮重プライマー375-dg-F3(5’- TGGCCCTCGGCGACTCSTAC -’3)(配列番号:6)とアンチセンス鎖縮重プライマー375-dg-R3(5’- CGTCGTTGCCNCCGATG -3’)(配列番号:7)を設計した。#375株cDNAを鋳型に、プライマー375-dg-F3とプライマー375-dg-R3により、ExTaq(タカラバイオ)を用い、98℃ 2分、(98℃ 20秒、55℃ 30秒、72℃ 1分)x35サイクル、72℃ 5分のPCRによってDNAを増幅した。得られたDNA断片の塩基配列を決定し、配列番号:10の73番目〜290番目の部分塩基配列を得た。次に、得られた配列上に外向きにプライマー375-IPC32-F1(5’- CGGCGCGGACACGACGGACATGACG -3’)(配列番号:8)と375-IPC32-R1(5’- GGTAGCAGCCGCCCGCGATGTCGAG -3’)(配列番号:9)を設計した。#375株gDNAを制限酵素PstIあるいはNotIで消化したのち、セルフライゲーションすることで環状化したものを鋳型に、プライマー375-IPC32-F1とプライマー375-IPC32-R1により、LATaq(タカラバイオ)を用いて、98℃ 20秒、68℃15分(+10秒/サイクル)x35サイクルのPCR(インバースPCR)によって、近傍配列を増幅した。得られたDNA断片をクローニングし、その一部の塩基配列を決定した。先に得られた部分塩基配列とあわせて、合計約900bpのlip32領域gDNAの塩基配列を決定した。実施例1で決定したN-末端アミノ酸配列(配列番号2)から、LIP32タンパク質のアミノ酸配列を推定した。本菌のlip32遺伝子領域のDNA配列及び推定アミノ酸配列を、図4及び配列表(配列番号:10、配列番号:11)に示す。実施例1で決定したN-末端アミノ酸配列(配列番号:2)は、図4のN-末端アミノ酸配列と一致した。以上の結果から、LIP32成熟タンパク質は259アミノ酸残基から成るタンパク質であると考えられた。
【0081】
また、推定されたLIP32タンパク質について、ClustalWにより既知のリパーゼタンパク質アミノ酸配列との同一性解析を行った。各タンパク質のアミノ酸配列の同一性を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
〔実施例3〕32 kDaリパーゼ遺伝子の大腸菌への導入とリパーゼ活性:
[大腸菌発現系によるLIP32タンパク質(LIP32PH)の調製]
大腸菌発現系に用いる#375株のlip32遺伝子ORFのcDNA配列は、プライマーlip32‐Nc‐F(5’- CCATGGGCGACGCACCGGCATACGAACGC -3’)(配列番号:12)、lip32-Xh-R1(5’- CTCGAGGGTGAGCTCGTCGATGAGCAGGTG -3’) (配列番号:13)を用いたRT-PCRによって増幅、クローニング後、シーケンシングによって塩基配列の確認を行った。クローニングしたcDNA断片は、制限酵素のNco IとXho Iにより消化し抽出後、タンパク質の大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)の同制限酵素認識部位に組込み、これをpET22b::lip32Ncベクターとした(図5)。pET22b::lip32NcベクターでE. coli strain BL21 (DE3)を形質転換し、タンパク質発現に用いた。
【0084】
LIP32タンパク質発現ベクター(pET22b::lip32Nc)を形質転換したE. coli の単コロニーを2 ml の LB 培地(100μg/ml ampicillinを含む)に植菌し、前培養(>150 rpm, 12 hr, 37℃)した。前培養菌液を50 mlのEnriched medium(2% trypton, 1% yeast extract, 0.5% NaCl, 0.2% (v/v) glycerol, 50 mM KH2PO4, pH 7.2; 100 μg/ml ampicillinを含む)に植菌し、振とう培養(150 rpm, 25℃)した。菌液がOD600=0.6に達した時点でisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を最終濃度が1.0 mM となるように添加し、LIP32タンパク質の発現を誘導した。さらに振とう培養(150 rpm, 〜4 hr, 25℃)によって多量のLIP32タンパク質を産生させた。遠心分離(6000 rpm, 10 min, 4℃)によって大腸菌を回収し、Storage buffer(20 mM β-mercaptoethanol (β-ME), 50 mM Tris-HCl, pH 8.0)で2回洗浄した。さらに40 mlの氷冷Lysis buffer(500mM NaCl, 5mM imidazole, 20mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25mM Tris-HCl, pH8.0)に再懸濁後、細胞を超音波破砕した。破砕液は、遠心分離(10000 rpm, 60 min, 4℃)後、孔径φ0.22 μm のフィルターを通して細胞片や不溶物を除去し、これをタンパク質粗抽出液とした。タンパク質粗抽出液(10 ml)を、予め1.0 ml の0.1 M NiSO4 を負荷して10 mlのEquilibration buffer(500 mM NaCl, 20 mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25mM Tris-HCl, pH 8.0)で平衡化したHiTrap Chelating HP column(1.0 ml bed volume)に通した。カラムに非特異的に結合したタンパク質を除去するため、10 mlのWash-1 buffer(500 mM NaCl, 0.8 mM imidazole, 20 mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0)、1.0 ml のWash-2 buffer(500 mM NaCl, 40 mM imidazole, 20 mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0)を順次流すことでカラムを洗浄した。LIP32タンパク質は、5 ml のElution buffer(500mM NaCl, 250 mM imidazole, 6% (v/v) β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0)によってカラムから溶出させ、溶出液を500 μl 毎に分画した。各分画中に含まれるタンパク質の純度と濃度は、SDS-PAGE(図6)とBradford法(図7)によって確認した。SDS-PAGEの結果、フラクション#2〜3中に、LIP32タンパク質と想定される約30kDaのバンドが明確に確認された。さらに、各フラクションについてMU-C8を基質としてリパーゼ活性を測定した(下記のリパーゼ活性測定と同じ)。その結果、フラクション#3に強い同活性が認められた。よって、以降の研究にはフラクション#3をLIP32タンパク質の酵素溶液(約530 ng/μl)として用いることとした。
【0085】
[LIP32タンパク質(LIP32PH)のリパーゼ活性]
LIP32タンパク質のリパーゼ活性は、20 μlの希釈した大腸菌培養液(縣濁液)と180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 50 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.0), 1% DMF)を混和した反応溶液(200 μl)を調製し、37℃で20 min間の蛍光強度の変化をSPECTRAmax GEMINI XS(Molecular Devices)で測定することで求めた。1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1 μmolのMUを加水分解により遊離する活性とした。
【0086】
LIP32タンパク質を発現誘導した大腸菌懸濁液を用いて、リパーゼ活性を測定した結果、LIP32は高いリパーゼ活性(MU-C8分解活性)を示していた(表5)。
【0087】
【表5】
【0088】
〔実施例4〕#375株の培養上清のアニオン交換樹脂への固定化と転移活性:
強アニオン交換樹脂(MARATHON WBA、ダウ・ケミカル社製)500mgに#375培養液5mlを加え、室温で減圧乾燥し、固定化酵素を得た。3-フェニル-1-プロパノール(25μl)とトリカプリリン(375μl)の混合液に固定化酵素50mgを加え、さらに水(20μl)を添加し、40℃で3日間攪拌した。反応液をHPLCで分析し、3-フェニル-1-プロパノールのカプリル酸エステルの生成率が75%であった。
【0089】
〔実施例5〕#375株の培養上清の疎水性樹脂への固定化と転移活性:
FPHA(ダイアイオン、三菱化学社製)500mgを用いて、実施例4と同様に固定化酵素を得た。この固定化酵素50mgを用いて、実施例4と同様の反応を行った。この場合はエステルの生成率が47%であった。
【0090】
〔実施例6〕LIP32遺伝子の全長配列の決定:
#375株gDNAを制限酵素PstIあるいはNotIで消化したのち、セルフライゲーションすることで環状化したものを鋳型に、プライマー375-IPC32-F1とプライマー375-IPC32-R1により、LATaq(タカラバイオ)を用いて、98℃ 20秒、68℃15分(+10秒/サイクル)x35サイクルのPCR(インバースPCR)によって、近傍配列を増幅した。得られたDNA断片をクローニングし、その一部の塩基配列を決定し、先に得た塩基配列(配列番号:10)と連結し、LIP32をコードするORFを含むゲノムDNA配列(配列番号:15、図8)、及び推定アミノ酸配列(配列番号:16、図8)を得た。
【0091】
〔実施例7〕LIP32タンパク質の推定プレ配列及びプロ配列に関する検討:
LIP32タンパク質の、全長アミノ酸配列をコードするLIP32-Fの増幅用にプライマーLIP32-Full-Nde-F(5’- CATATGAGCTCGTCACGTCGTACCGTCCGCACC -3’)(配列番号:17)とLIP32stop-Xho-Rv(5’- CTCGAGTCAGGTGAGCTCGTCGATGAGCAGGTC -3’)(配列番号:18)を、プレ配列を除くアミノ酸配列をコードするLIP32-Mの増幅用にプライマー LIP32-Mid-Nco-F(5’- CCATGGCGACCGAGCGGGCGTCGGCGCCCACG -3’)(配列番号:19)とLIP32stop-Xho-Rvを、プレ-プロ配列を除くアミノ酸配列をコードするLIP32-Sの増幅用にプライマーLIP32-sht-Nco-F(5’- CCATGGGCGACGCACCGGCATACGAACGCTAT -3’)(配列番号:20)とLIP32stop-Xho-Rvをそれぞれ合成した。#375株gDNAを鋳型に、各々のプライマーセットを用いたPCRによって増幅したDNA断片を、pCR4Blunt-TOPOベクター(インビトロジェン社製)に、クローニングし、塩基配列を確認した。制限酵素のNdeIとXhoI(LIP32-F)又はNcoIとXhoI(LIP32-M, -S)で切り出した各LIP32遺伝子断片を、大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)の同制限酵素認識部位に組込み、それぞれをpETLIP32-F、pETLIP32-M、pETLIP32-Sベクターとした(図9)。
【0092】
各大腸菌をLB培地でOD600が約0.6に達するまで振とう培養後、IPTGを最終濃度が1mMとなるよう添加した。さらに3時間の振とう培養によってLIP32タンパク質を発現誘導した。これらの大腸菌懸濁液の各リパーゼ活性は、以下のようにして測定した
すなわち、20μlの希釈した大腸菌懸濁液と180μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 50 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.0), 1% DMF)とを混和した反応溶液(200μl)を調製し、37℃で20 min間の蛍光強度の変化をSPECTRAmax GEMINI XS(Molecular Devices)で測定することで求めた。1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1μmolのMUを加水分解により遊離する活性とした。分析結果を下表に示した。
【0093】
【表6】
【0094】
この結果から、LIP32タンパク質の活性発現のためには、推定プレ配列及びプロ配列が切断されることが必要であることが示唆された。
【0095】
〔実施例8〕LIP40遺伝子のクローニング:
分子量40 kDaのリパーゼについて、SDS-PAGEよりバンドを切り出し、トリプシンによる消化後、逆相HPLCによる断片ペプチドの分離を行った。任意のピークのペプチドから、先に得たアミノ酸配列(配列番号:3、配列番号:14)に加え、以下のアミノ酸部分配列を得た。
【0096】
GPDSVPGTAGATTVT(N末) (配列番号:3) ・・・実施例1参照
LSTNVGPTHLGG (配列番号:14)・・・実施例1参照
APWFGLGAR (配列番号:21)
QLAESVTEYE (配列番号:22)
GYAVAFTDYQ (配列番号:23)
アミノ酸部分配列のうち、配列番号:23に対するセンス鎖と配列番号:14の3〜12に対するアンチセンス鎖の縮重プライマーとしてプライマーLIP40-9(GGNTAYGCNGTNGCNTTYACNGAYTAYCA)(配列番号:24)とプライマーLIP40-5(CCNCCNARRTGNGTNGGNCCNACRTTNGT)(配列番号:25)のオリゴDNAをそれぞれ合成した。
【0097】
#375のゲノムDNA100ngを鋳型として、LA Taq with GC buffer(タカラバイオ)でGC buffer IIを用いて、プライマーLIP40-9とプライマーLIP40-5をそれぞれ終濃度10mM、LA Taq 0.2unit添加し全量20μlとし、94℃ 1分、(94℃ 30秒、50℃ 30秒、72℃ 2分)を40サイクル、72℃ 5分のPCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、約0.7kbのDNA断片が確認されたので、ゲルより切り出し、GFXキット(アマシャム)により精製し、TOPO-TAクローニングキット(インビトロジェン)によりクローニングした。クローン化されたDNAの塩基配列を決定し、部分塩基配列(配列番号:28の932〜1571)が得られた。次に、LIP40遺伝子の全長をクローン化するために、逆PCR(inverse PCR)を行った。#375ゲノムDNAを制限酵素NotIで完全に消化したのち、セルフライゲーションさせた。それを鋳型として、プライマーLIP40-13(gacgcggttcatgtaggtgtgcgtcc)(配列番号:26)とLIP40-14(gtgcgccaagggcgccaacgtccgcc)(配列番号:27)を用いてLA Taq with GC buffer(タカラバイオ)でPCRを行った。
【0098】
得られた7kbのDNA断片をTOPO-TAcloning Kit(インビトロジェン)でクローン化し、両端から塩基配列を決定した。得られた塩基配列と先に得られた塩基配列を連結し、配列番号:28の塩基配列を得た。ORF解析、LIP40の部分アミノ酸配列などから、LIP40は、414bp〜1688bpのORFにコードされると考えられた。当該ORFは424アミノ酸残基からなるタンパク質(配列番号:29、LIP40アミノ酸配列)をコードしていた。精製タンパク質のN末端アミノ酸配列(配列番号:3)と配列番号:29(LIP40アミノ酸配列)の29番目からの配列が一致することから、配列番号:29の1〜28番目までのペプチドは、分泌シグナルであると考えられた(図10)。
【0099】
LIP40アミノ酸配列は、Janibacter sp. HTCC2649由来のhypothetical protein(gi_84498087)と72.9%のidentityを示した。
【0100】
〔実施例9〕40 kDaリパーゼ遺伝子の大腸菌への導入とリパーゼ活性:
[大腸菌発現系によるLIP40タンパク質の調製]
#375のゲノムDNAを鋳型にして、プライマーL40EcoRI-F1(GAATTCGGGACCGGACTCCGTGCCCGGCAC)(配列番号:30)又はプライマーL40NdeI-F3(CATATGACGTCAGCACTGCTCCGACGAGCCCTCGC)(配列番号:31)と、プライマーL40HindIII-R1(AAGCTTCTAGACGGCCCAGCAGTTGCTGAG)(配列番号:32)を用いて、LA Taq with GC bufferにてPCR反応を行った。増幅された約1.2kbpのDNA断片をTOPO-TA cloning Kitを用いてクローン化して、塩基配列を確認し、プラスミドpCR-375LIP40PとプラスミドpCR-375LIP40Sを得た。プラスミドpCR-375LIP40PをEcoRI とHindIII、プラスミドpCR-375LIP40Sを NdeIとHindIIIで消化し、大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)をEcoRI とHindIIIあるいはNdeIとHindIIIで消化したものに、ligation high(東洋紡)を用いて連結し、プラスミドpET375L40PとpET375LP40Sを得た。
【0101】
LIP40タンパク質発現ベクター(プラスミドpET375L40PとpET375L40S)にて形質転換したE. coli の単コロニーを100μg/ml ampicillinを含むLB 培地2 mlに植菌し、前培養(>150 rpm, 12 hr, 37℃)した。前培養菌液を100 μg/ml ampicillinを含むEnriched medium(2% trypton, 1% yeast extract, 0.5% NaCl, 0.2% (v/v) glycerol, 50 mM KH2PO4, pH 7.2)50 mlに植菌し、振とう培養(150 rpm, 25℃)した。菌液がOD600=0.6に達した時点でisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を最終濃度が1.0 mM となるように添加し、LIP40タンパク質の発現を誘導し、さらに振とう培養(150 rpm, 〜4 hr, 25℃)した。
【0102】
[LIP40のリパーゼ活性]
リパーゼ活性は、20 μlの希釈した大腸菌培養液(懸濁液)と180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8又はMU-C18, 50 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.0), 1% DMF)を混和した反応溶液(200 μl)を調製し、37℃で20 min間の蛍光強度の変化をSPECTRAmax GEMINI XS(Molecular Devices)で測定することで求めた。1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1 μmolのMUを加水分解により遊離する活性とした。
【0103】
結果を下表に示した。
【0104】
【表7】
【0105】
転移活性は、以下のとおり測定した。3−フェニル−1−プロパノール(10μl)又は1−フェニル−2−プロパノール(10μl)とトリカプリリン(150μl)の混合液に大腸菌培養液(100μl)を添加し、45℃で3日間激しく攪拌し反応させた。反応液を遠心分離し、上層50μlを回収してアセトニトリル50μlを加え、10μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラムとしてDevelosil C30-UG-5(4.6 x 150 mm)(Nomura chemical, Aichi, Japan)を、移動層として90%アセトニトリル 0.8%TFA、流速 1ml/分、温度 室温とし、それぞれのカプリル酸エステルの生成率であらわした。
【0106】
結果を下表に示した。
【0107】
【表8】
【0108】
〔実施例10〕大腸菌発現系によるLIP40タンパク質(LIP40HP)の調製:
#375株のlip40タンパク質に6His-tagを付加して大腸菌で発現させるために以下のとおりベクターを構築した。MBI375株のゲノムDNAを鋳型に、プライマー 375L40EcoRI-His-F(5’- GAATTCGCACCACCACCACCACCACGGACCGGACTCCGTGCCCGGCAC -3’)(配列番号:33)と375L40HindIII-R1(5’- AAGCTTCTAGACGGCCCAGCAGTTGCTGAG -3’)(配列番号:34)を用いたPCRによって増幅後、pCR2.1TOPOベクターへクローニングした。塩基配列を確認後、制限酵素のEcoRIとHindIIIにより消化、抽出したLip40遺伝子断片は、大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)の同制限酵素認識部位に組込み、これをpETLIP40HPベクターとした(図11)。pETLIP40HPベクターで形質転換したE. coli strain BL21 (DE3)をタンパク質発現に用いた。
【0109】
大腸菌でのLIP40HPタンパク質の発現は、IPTG誘導後の培養時間を12時間に変更した以外は、LIP32タンパク質と同様の方法で行った。LIP40HPタンパク質の精製は、N-末端に融合した6-His-tagを利用したアフィニティー精製で行った。その手順は、実施例3に若干の変更を加えた以外は、LIP32タンパク質と同様の手順に従った。変更は、(1) Lysis buffer、Equilibration buffer、Wash-1 buferを共通の緩衝液(500mM NaCl, 5mM imidazole, 2mM CaCl2, 2mM MgCl2, 25mM Tris-HCl, pH8.0)へ変更した点と、(2) Elution bufferを500mM NaCl, 250 mM imidazole, 2mM CaCl2, 2mM MgCl2, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0へ変更した点の2箇所である。
【0110】
〔実施例11〕LIP32PH及びLIP40HPのキャラクタリゼーション:
[LIP32PH, LIP40HPの至適温度]
大腸菌より精製、希釈した酵素溶液20μlと、予め測定温度(10, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50, 60℃)で保温した180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 1% DMF, 50 mM Tris-HCl, pH 7.0)を混和することで反応を開始した。活性は、各々の測定温度での反応におけるMU蛍光の強度変化を経時的に測定することで求めた。
【0111】
活性測定の結果、LIP32PH(実施例3で得たもの)の至適温度は40℃、LIP40HPの至適温度は45℃−50℃であった(図12)。
【0112】
[LIP32PH, LIP40HPの至適pH]
大腸菌より精製、希釈した酵素溶液20μlと予め37℃で保温した180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 1% DMF, 50 mM 各種pHの緩衝液)を混和することで反応を開始した。活性は、37℃で20分間の反応におけるMU蛍光の強度を経時的に測定することで求めた。各pHの緩衝液として、50 mM Sodium acetate - acetic acid (pH 4.0-6.0)、50 mM MES-NaOH(pH 5.5-7.0)及び50 mM Tris-HCl(pH 6.5-9.0)を用いた。
【0113】
活性測定の結果、LIP32PH, LIP40HPの至適pHは、いずれもpH7.0付近であった(図13)。
【0114】
〔実施例12〕LIP40HP固定化酵素によるアスタキサンチンへの脂肪酸転移反応:
LIP40HPによる、トリカプリリン(MCT)からアスタキサンチンへの脂肪酸転移反応には、LIP40HPの固定化酵素を用いた。LIP40HP固定化酵素(WBA-LIP40HP)は、強アニオン交換樹脂(MARATHON WBA、ダウ・ケミカル社製)50mgにLIP40HP(約3.65ng /μl)500μlを加え、2時間攪拌(1000rpm, 10°C)後、室温で減圧乾燥して調製した。
【0115】
転移反応は、1.25mgのアスタキサンチン(和光純薬)とMCT(125μl)の混合液に、WBA-LIP40HP(50mg)とH2O(6.25μl)を順次添加し、45°Cで3日間の静置により行った。反応液に100μlのアセトンを加えて攪拌、遠心分離後、上層100μlを回収して20μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラム:Develosil C30-UG-5(野村化学株式会社製、4.6 x 150 mm)、移動層:75-100%アセトン、1-15分グラジエント溶出、流速 1.0ml/min、分析温度:室温、検出波長:480nmとした。転移活性は、保持時間16.4分を指標としたアスタキサンチンのエステルの生成率として求めた。分析の結果、アスタキサンチンのカプリル酸エステルの生成率は2.25%であった(図14)。また、対照として同様に調製したWBA-pET22bを用いた反応では、アスタキサンチンのカプリル酸エステルの生成は見られなかった(図14)。
【0116】
〔実施例13〕LIP40HPによるカテキンへの脂肪酸転移反応
LIP40による、トリカプリリン(MCT)からカテキンへの脂肪酸転移反応は、100μlのカテキン溶液(0.01mg/μl)と150μlのMCTの混合液に、50μlのLIP40HP酵素溶液(1.0μg/μl)を加えて45°Cで2日間、攪拌することで行った。反応液を遠心分離して油層を回収し、等量のアセトニトリルを加え、10μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラム:Develosil C30-UG-5(野村化学株式会社製、4.6 x 150 mm)、移動層:(A)0.1%TFA,(B)90%アセトニトリル、0.08%TFA、グラジエント条件5%B液→100%B液/5分、流速 1.0ml/min、分析温度:室温、検出波長:280 nmとした。転移活性は、保持時間8.4分を指標としたカテキンエステルの生成率として求めた。分析の結果、カテキンのカプリル酸エステルの生成率は38.70%であった(図15)。また、対照として同様に調製したpET22bを用いた反応では、カテキンのカプリル酸エステルの生成は見られなかった(図15)。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は、Tetrasphaera sp. NITE P-154(#375)の16S rRNA遺伝子の塩基配列を示した図である。
【図2】図2は、HPLC分画後の各フラクションのSDS-PAGEの写真である。MWは、分子量マーカー、21〜35はフラクション#21〜35を泳動したレーンを示す。
【図3】図3は、Streptomyces属菌推定分泌タンパク質と、Streptomyces rimosus由来GDLS-リパーゼとのアラインメント結果を示した図である。#375株の生産する32 kDaタンパク質のN-末端15アミノ酸残基は、比較的近縁なStreptomyces属菌の推定分泌タンパク質と高い同一性を示し、このStreptomyces属菌推定分泌タンパク質は、Streptomyces rimosus由来GDLS-リパーゼを含む幾つかのリパーゼ等のアミノ酸配列と同一性があった。
【図4】図4は、32 kDaタンパク質をコードすると予想される遺伝子(lip32遺伝子)の塩基配列と対応するアミノ酸配列を示した図である。lip32遺伝子は少なくとも777bpで構成され、259アミノ酸残基から成るタンパク質をコードすると考えられる。
【図5】図5は、LIP32タンパク質発現ベクター(pET22b::lip32Nc)の構成を示した図である。
【図6】図6は、カラム精製後のLIP32タンパク質のSDS-PAGEの写真である。Mはマーカー、2はフラクション#2、3はフラクション#3を泳動したレーンを示す。
【図7】図7は、カラム精製後のLIP32タンパク質のBradford法による結果を示したグラフである。
【図8】図8は、LIP32をコードする遺伝子を含むゲノムDNAの塩基配列とLIP32のアミノ酸配列を示した図である。網掛け部は精製LIP32のN末端アミノ酸配列と一致した配列を示す。
【図9】図9は、LIP32の推定プレ配列及びプロ配列と、pETLIP32-F、pETLIP32-M、pETLIP32-Sベクターを示した図である。
【図10】図10は、LIP40をコードする遺伝子を含むゲノムDNAの塩基配列とLIP40のアミノ酸配列を示した図である。下線部は分泌シグナル配列、網掛け部は精製LIP40の部分アミノ酸配列と一致した配列を示す。2重下線部はリパーゼの保存領域である。
【図11】図11は、LIP40タンパク質発現ベクター(pETLIP40HP)の構成を示した図である。
【図12】図12は、LIP32PH及びLIP40HPの至適温度を示したグラフである。
【図13】図13は、LIP32PH及びLIP40HPの至適pHを示したグラフである。
【図14】図14は、固定化したLIP40HP又は対照(pET22b)を用いてアスタキサンチンへの脂肪酸転移反応を行った際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図15】図15は、LIP40HP又は対照(pET22b)を用いてカテキンへの脂肪酸転移反応を行った際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図16】図16は、LIP40成熟タンパク質のアミノ酸配列を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リパーゼに関する。本リパーゼはTetrasphaera属の新株の菌体によって生産される。本リパーゼは中鎖脂肪酸及び/又は長鎖脂肪酸を基質として認識することができる。本リパーゼはアニオン交換樹脂や疎水性樹脂に吸着により固定化することができ、固定化酵素として利用できる。本リパーゼは、消化薬、フレーバー剤の製造、臨床検査試薬、洗剤用酵素、油脂の製造、農薬・医薬品の光学活性中間体の製造等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは種々のエステルの合成や分解、エステル交換、ラセミ体の光学分割のための優れた生体触媒であることが実証されてきた。実際に消化薬、フレーバー剤の製造、臨床検査試薬、洗剤用酵素、油脂の製造、農薬・医薬品の光学活性中間体の製造に利用されてきている。
【0003】
リパーゼは動物の膵臓リパーゼがよく知られているが、工業的によく利用されてるものは主に微生物由来のリパーゼである。これらのリパーゼの多くは遺伝子もクローニングされ、アミノ酸配列も知られている(Candida rugosa: 非特許文献1。Rhizopus delemar: 非特許文献2。Bacillus subtilis: 非特許文献3。Staphylococcus aureus: 非特許文献4。Pseudomonas aeruginosa: 非特許文献5)。
【0004】
糸状菌やBacillus属、Stapylococcus属、Pseudomonas属などが生産するリパーゼが工業的に使われている。これらのリパーゼは基本的に高級脂肪酸(炭素数が16以上の脂肪酸)を基質としており、また短鎖脂肪酸(炭素数6以下)を基質とするものはエステラーゼである。中鎖脂肪酸をよく認識し、加水分解だけでなくエステル化活性を示すリパーゼは知られていない。
【0005】
中鎖脂肪酸が結合したトリグリセリドは膵臓リパーゼで加水分解されるだけでなく、胃のリパーゼでも加水分解され、トリグリセリドの消化・吸収にも優位であることが示されている(非特許文献6)。また、中鎖脂肪酸は吸収された後、小腸の腸管細胞でトリグリセリドに再合成されることは少なく、門脈から肝臓に運ばれ、エネルギーとして燃焼される。一方、高級脂肪酸は腸管細胞で再合成され、リンパから吸収され、肝臓に運ばれ、場合によっては脂肪として蓄積される。すなわち、高級脂肪酸は体内蓄積性があり、中鎖脂肪酸は蓄積性がない。かくして、中鎖脂肪酸トリグリセリドと通常の食用油脂とのエステル交換によって健康によい油脂が製造されている。
【非特許文献1】Kawaguchi et al., Nature, 341, 164-166 (1989)
【非特許文献2】Haas et al., Gene, 109, 107-113 (1991)
【非特許文献3】Dartois et al., B. B. A., 1131, 253-260 (1992)
【非特許文献4】Lee et al., J. Bacteriol., 164, 288-293 (1985)
【非特許文献5】Wohlfarth et al., J. General Microbiology, 138, 1325-1335, (1992)
【非特許文献6】I. Ikeda, Y. Tomari, M. Sugano, S. Watanabe, and J. Nagata:Lipids, 26, 369-373 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トリグリセリドではない中鎖脂肪酸エステルは今までにリパーゼで工業的に製造されたことはない。中鎖脂肪酸は脂肪蓄積性がないことから、中鎖脂肪酸でエステル化された食品素材は肥満等の問題が少ない素材となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リパーゼについて鋭意研究してきた。そして、Tetrasphaera属の新株の菌体の培養上清から分子量約32 kDa及び約40 kDaの新規なリパーゼを単離・精製し、さらにこれらのリパーゼが中鎖脂肪酸を基質としてよく認識する新規なものであることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
I. 新規リパーゼ
本発明は、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約32 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそのホモログ、すなわち下記の(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、(E1)、(F1)又は(G1)を含有するポリヌクレオチドを提供する:
(A1)配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は少なくとも25〜801番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0009】
配列番号:10には、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株が生産する分子量約32 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列が、配列番号:11には、同リパーゼのアミノ酸配列が示されている。 また、配列番号:15には、同リパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムDNAの塩基配列が、配列番号:16には、配列番号:11より上流の配列を含むアミノ酸配列が示されている。
【0010】
本明細書で配列番号:10について「25〜801番の塩基配列」というときは、特別な場合を除き、配列番号:15について「388〜1164番の塩基配列」と言い換えることができ、本明細書で「配列番号:11のアミノ酸配列」というときは、特別な場合を除き、「配列番号:16の48〜306番のアミノ酸配列」と言い換えることができる。本発明においては、配列番号:10に記載の少なくとも25〜801番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチドは、配列番号:15の塩基配列の少なくとも388〜1164番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド(例えば、配列番号:15の塩基配列の247〜1167番の塩基配列からなる一部からなるポリヌクレオチド)で代替可能であり;また、配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(又はそれをコードするポリヌクレオチド)は、配列番号:16のアミノ配列の全部又は一部からなるタンパク質(好ましくは、32〜306番のアミノ酸配列、より好ましくは48〜306番のアミノ酸配列からなるタンパク質)からなるタンパク質(又はそれをコードするポリヌクレオチド)で代替可能である。このようなものもまた本発明の範囲に含まれる。配列番号:16の1〜47番目のアミノ酸配列はプレプロ配列であると考えられる。1〜31番目は分泌シグナルであるプレ配列として働き、32〜47番目が分泌後、おそらく別のタンパク質の作用により切断されるプロ配列であると推定される。したがって、リパーゼとして作用するのに必須の成熟タンパク質は48番目以降の配列であり、大腸菌など、異種発現系で同リパーゼを発現させる場合には、プレプロ配列を除去して発現させるのが適切であると考えられる。
【0011】
本発明の分子量約32 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそのホモログの好ましい例は、以下のものである:
・下記の(A1')、(B1')、(C1')、(D1')、(E1')、(F1')又は(G1')である、ポリヌクレオチド:
(A1')配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は25〜801番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(B1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
・下記の(A2)、(B2)、(C2)、(D2)、(E2)、(F2)又は(G2)を含有する、ポリヌクレオチド:
(A2)配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくとも247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
・下記の(A2')、(B2')、(C2')、(D2')、(E2')、(F2')又は(G2')である、ポリヌクレオチド:
(A2')配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド。
(B2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0012】
本発明は、また、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約40 kDaのリパーゼをコードする遺伝子又はそのホモログ、すなわち下記の(H2)、(I2)、(J2)、(K2)、(L2)、(M2)又は(N2)を含有するポリヌクレオチドを提供する:
(H2)配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は少なくとも414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(I2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0013】
配列番号:28には、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株が生産する分子量約40 kDaのリパーゼをコードする遺伝子の塩基配列が、配列番号:29には、同リパーゼのアミノ酸配列が示されている。
【0014】
本発明の分子量約40 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチド又はそのホモログの好ましい例は、以下のものである:
・下記の(H2')、(I2')、(J2')、(K2')、(L2')、(M2')又は(N2')である、ポリヌクレオチド:
(H2')配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(I2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0015】
本明細書でいう「リパーゼ」とは、特別な場合を除き、グリセロールエステルを加水分解し、脂肪酸を遊離する酵素をいう。本明細書で、あるタンパク質が「リパーゼ活性を有する」というとき(又は「リパーゼ」というとき)は、特別な場合を除き、そのタンパク質(又はリパーゼ)は、少なくともグリセロールと脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有し、好ましくは中鎖脂肪酸とのエステル及び/又は長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有し、より好ましくは中鎖脂肪酸とのエステル及び長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有する。リパーゼ活性を有するタンパク質(又はリパーゼ)は、脂肪酸の転移反応(エステル化反応又はエステル交換反応)を触媒する活性を有することが好ましく、中鎖脂肪酸の転移反応を触媒する活性を有することがより好ましい。
【0016】
あるタンパク質が、グリセロールと中鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有するか否かは、例えば、本明細書の実施例に記載したような4-メチルウンベリフェリルカプリレート(MU-C8)又は4-メチルウンベリフェリルオレート(MU-C18)の分解活性を測定する試験に供することにより、評価することができる。また、あるタンパク質が、中鎖脂肪酸の転移反応を触媒する活性を有するか否かは、例えば、本明細書の実施例に記載したような3-フェニル-1-プロパノール又は1−フェニル−2−プロパノールとトリカプリリン(MCT)とのエステル化反応実験に供することにより、評価することができる。
【0017】
本明細書では、特別な場合を除き、あるタンパク質(又はリパーゼ)が、ある脂肪酸のエステルを加水分解する活性を有する場合、又はある脂肪酸の転移反応を触媒する活性を有する場合、その脂肪酸を「基質として認識することができる」ともいう。
【0018】
本発明のTetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約32 kDaのタンパク質及び分子量約40 kDaのタンパク質は、少なくとも、4-メチルウンベリフェリルカプリレート(MU-C8)の分解活性を有し、さらに後者は4-メチルウンベリフェリルオレート(MU-C18)の分解活性を有し、かつトリカプリリン及び3−フェニル−1−プロパノール又は1−フェニル−2−プロパノールからそれぞれのカプリル酸エステルを生成できることが確認されている(実施例1参照)。したがって、両者とも、リパーゼ活性を有するということができ、前者は、より詳細には、中鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有する(中鎖脂肪酸を基質として認識することができる)ということができ、後者は、より詳細には、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸とのエステルを加水分解する活性を有する(中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができる)ということができ、かつ中鎖脂肪酸の転移反応(特に、エステル化反応)を触媒する活性を有するということができる。
【0019】
本明細書で「中鎖脂肪酸」というときは、特別な場合を除き、炭素数が7〜15である飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸をいう。中鎖脂肪酸には、カプリル酸、カプリン酸及びラウリン酸が含まれる。
【0020】
本明細書で「長鎖脂肪酸」というときは、特別な場合を除き、炭素数が16以上である飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸をいう。長鎖脂肪酸には、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びγ-リノレン酸が含まれる。
【0021】
本明細書でグリセロールと脂肪酸とに関し、「エステル」というときは、特別な場合を除き、トリアシルグリセロールのみならず、ジアシルグリセロール又はモノアシルグリセロール(後二者を合わせて、部分アシルグリセロールということもある。)でありうる。
【0022】
本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、特別な場合を除き、6M尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件を指し、さらに必要に応じ、本発明には、よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4% SDS、0.1×SSC又はこれと同等のハイブリダイゼーション条件を適用してもよい。それぞれの条件において、温度は約40℃以上とすることができ、よりストリンジェンシーの高い条件が必要であれば、例えば約50℃、さらに約65℃としてもよい。
【0023】
また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列」というときの置換等されるヌクレオチドの個数は、その塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。また、本発明で「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列を有するタンパク質が所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、性質の似たアミノ酸への置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。このような塩基配列又はアミノ酸配列に係るポリヌクレオチドを調製するための手段は、当業者にはよく知られている。
【0024】
塩基配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0025】
アミノ酸配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。配列番号:11に記載のアミノ酸配列の公知のリパーゼのアミノ酸配列との同一性は、実施例の表4に示されている。また、配列番号:28に記載のアミノ酸配列の公知配列との同一性に関しては、実施例8に述べられている。
【0026】
ポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalW)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0027】
本明細書でタンパク質又はリパーゼについて分子量を示すときは、特別な場合を除き、SDS-PAGEを用いて決定した値をいう(実施例1、図2参照)。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドは、天然物からハイブリダイゼーション技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術等を利用して得ることができる。
【0029】
具体的には、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌から、ゲノムDNA(gDNA)を、常法(例えば、DNeasy Tissue Kit(QIAGEN))により調製し、あるいは同菌体から全RNAを常法(例えば、RNeasy Plant isolation Kit(QIAGEN))により調製し、そして全RNAを鋳型とした逆転写反応(1st strand cDNA 合成)を、常法(例えば、SuperScript II Reverse Transcriptase (Invitrogen))により調製する。
【0030】
目的のポリヌクレオチドを得るためには、32 kDaのリパーゼタンパク質のN-末端の配列に基づき、5’側のプライマーを設計する。さらに、上記のN末端アミノ酸残基と同一性を示す比較的近縁なStreptomyces属菌等由来の推定タンパク質で保存された配列を基に、3’側のプライマーを設計する。lip32遺伝子断片を、#375株cDNAを鋳型に、上記プライマーセットを用いたディジェネレートPCRによって増幅し、部分塩基配列を決定する。さらに、適当な制限酵素で消化後、環状化した#375株gDNAを鋳型に、同配列上に外向きに設計したプライマーを用いたインバースPCRによって、近傍領域の塩基配列情報を取得する。このようにして、合計約900bpのlip32領域gDNAの塩基配列を決定する。
【0031】
本発明のポリヌクレオチドには、DNAが含まれ、DNAには、ゲノムDNA、cDNA及び化学合成DNAが含まれる。DNAは、一本鎖DNA及び二本鎖DNAでありうる。
【0032】
本発明のポリヌクレオチドの好ましい例は、Tetrasphaera属由来のものである。
【0033】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクター、その組換えベクターにより形質転換された、形質転換体(例えば形質転換大腸菌、形質転換酵母、形質転換昆虫細胞)も提供する。本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主(例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞)を形質転換する工程(例えば、本発明の組換えベクターにより形質転換する工程)を含む、形質転換方法も提供する。
【0034】
本発明のポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、宿主内で挿入物を発現させることが可能なものであれば特に制限はなく、ベクターは、通常、プロモーター配列、ターミネーター配列、外的な刺激により誘導的に挿入物を発現させるための配列、目的遺伝子を挿入するための制限酵素により認識される配列、及び形質転換体を選択するためのマーカーをコードする配列を有する。組換えベクターの作成、組換えベクターによる形質転換方法は、当業者に周知の方法を適用することができる。
【0035】
本発明はまた、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約32 kDaのリパーゼ又はそのホモログ、下記の(e1)、(f1)又は(g1)を含有するタンパク質を提供する:
(e1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0036】
本発明の分子量約32 kDaのリパーゼ又はそのホモログの好ましい例は、下記のタンパク質である:
・下記の(e1')、(f1')又は(g1')である、タンパク質:
(e1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
・下記の(e2)、(f2)又は(g2)を含有する、タンパク質:
(e2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(f2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
・下記の(e2')、(f2')又は(g2')である、タンパク質:
(e2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は48〜306番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(f2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0037】
この分子量約32 kDaのリパーゼは、中鎖脂肪酸を基質として認識することができ、実施例11に示した条件では、至適温度が約40℃であり、至適pHが7.0付近である。
【0038】
本発明はまた、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する分子量約40 kDaのリパーゼ又はそのホモログ、すなわち下記の(l1)、(m1)又は(n1)を含有するタンパク質を提供する。
(l1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(m1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0039】
配列番号:35及び図16には、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株が生産する分子量約40 kDaのリパーゼの、成熟タンパク質のアミノ酸配列が示されている。
【0040】
本発明の分子量約40 kDaのリパーゼ又はそのホモログの好ましい例は、下記のタンパク質である:
・上述の(l1)、(m1)又は(n1)である、タンパク質。
・下記の(l2)、(m2)又は(n2)を含有する、タンパク質:
(l2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(m2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
・下記の(l2')、(m2')又は(n2')である、タンパク質:
(l2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(m2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【0041】
この分子量約40 kDaのリパーゼは、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができ、実施例11に示した条件では、至適温度が約45〜50℃であり、至適pHが7.0付近である。
【0042】
上記のタンパク質又はリパーゼは、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌を、市販の培地(例えば、Marine broth 2216(Difco社製)を用いる。Marine brothは食塩が約2%含有することを特徴とする液体培地である。)で培養して得られる培養上清から単離・精製することができる。
【0043】
具体的には、以下のようにする。まず、培地に対して0.1〜5%となるように菌液を植菌し、10〜40℃で2日〜10日培養する。塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含むトリス塩酸バッファーで平衡化した疎水性のゲル(例えばφ-Sepharose)0.01〜1部を用いて、培養上清をカラムクロマトグラフィーに供する。上記バッファー液で洗浄後、1%の非イオン界面活性剤(例えば、TritonX-100)を含む上記バッファー液で溶出させることによって、リパーゼ活性を有する画分を得ることができる。本リパーゼ画分を10部の上記バッファー液で希釈した後、0.001〜1部の陰イオン交換ゲル(例えば、Q-Sepharose)に吸着させ、0.1%の両性界面活性剤(例えば、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate(CHAPS))を含有した上記バッファーで洗浄後、塩化ナトリウム水溶液の濃度勾配で溶出し、リパーゼ活性画分を得る。本リパーゼ画分を陰イオン交換カラム(例えばHiTrapQ)で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、塩化ナトリウム水溶液による濃度勾配グラジエント溶出を行い、リパーゼ活性を有し、かつ分子量約32kDa又は約40kDaのタンパク質の存在が確認される画分を得る。より具体的な手法として、本明細書の実施例1を参照することができる。
【0044】
上記のタンパク質又はリパーゼは、本発明のポリヌクレオチドを挿入した組換えベクターにより形質転換された形質転換体(例えば、形質転換大腸菌)により、組換えタンパク質として得ることができる。
【0045】
具体的には、以下のようにする。まず、大腸菌発現系に用いる遺伝子の塩基配列は、適切なプライマーセットを用いたPCRによって増幅、クローニング後、シーケンシングによって塩基配列の確認を行う。クローニングしたDNA 断片は、適切な制限酵素により消化し抽出後、タンパク質の大腸菌発現用ベクターに組込み、これを用いて、大腸菌に形質転換し、タンパク質を発現させる。目的遺伝子を発現させた大腸菌を破砕し、上清をカラムで精製し、約32 kDa又は約40kDaの目的タンパク質を得る。より具体的な手法として、本明細書の実施例3又は8を参照することができる。
【0046】
本発明はまた、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌が生産する、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を基質として認識することができる、分子量約40 kDaのリパーゼ、又は下記の工程を含む製造方法により単離することができる分子量約40 kDaのリパーゼを提供する。
【0047】
Tetrasphaera属に属する菌の培養上清液を疎水性樹脂カラムに供し、疎水性樹脂吸着物を1%非イオン界面活性剤を含有する緩衝液で溶出し;
溶出物を陰イオン交換樹脂に供し、陰イオン交換樹脂吸着物を0.5M NaCl溶液で溶出し;
溶出物を、透析後、陰イオン交換カラムに供し、NaClグラジエント溶媒で溶出する。
【0048】
該製造方法は、より詳細には、下記1)〜3)の工程を含む:
1) Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌の培養上清液を疎水性樹脂カラムに供し、疎水性樹脂吸着物を、必要に応じ0.5%非イオン界面活性剤(例えば、TritonX-100)を含有する緩衝液等で洗浄した後、1%TritonX-100を含有する緩衝液で溶出し、
2) 溶出物を陰イオン交換樹脂に供し、陰イオン交換樹脂吸着物を、必要に応じ0.1% 両性界面活性剤(例えば、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate(CHAPS))を含有した緩衝液等で洗浄した後、0.5M NaCl溶液で溶出し、
3) 溶出物を、透析後、陰イオン交換カラムに供し、NaClグラジエント溶媒で溶出する。例えば、溶出物を、透析後、1ml容積の陰イオン交換カラムに供し、0〜0.75M NaClグラジエント溶媒で溶出し、溶出物を0.5ml毎に分画する。
【0049】
上記の40 kDaのリパーゼは、32 kDaのリパーゼについて既に述べたのと同様の手法に準じて、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌を、市販の培地で培養して得られる培養上清から単離・精製することができる(実施例1参照)。
【0050】
上記の40 kDaのリパーゼの好ましい例は、そのアミノ酸配列として、配列番号:3及び/又は配列番号:14に記載のアミノ酸配列、より特定すれば配列番号:3及び配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するものである。
【0051】
本発明及び本明細書により提供される情報を利用することにより、例えば、上記の40kDaのリパーゼの全部若しくは一部、配列番号:3若しくは配列番号:14に記載のアミノ酸配列に記載のアミノ酸配列、又はTetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌、該菌から得られるゲノムDNAを利用することにより、また適切であればそれらに加えて本明細書に開示した32 kDaのリパーゼについての種々の方法を適用することにより、40 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチドの配列情報及び40 kDaのリパーゼをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。より具体的には、Tetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌から得たゲノムDNAを適当な制限酵素で完全消化し、制限酵素に対応するカセットを連結して、鋳型DNAを調製する。一方、40 kDaのリパーゼの一部から得られたアミノ酸配列情報(例えば、N末アミノ酸配列である配列番号:3、内部アミノ酸配列である配列番号:14)を利用して、適切なプライマーを設計する。このプライマーとカセットプライマーを用いてPCRを行い、40 kDリパーゼ遺伝子の周辺ゲノムDNA配列を得る。得られた塩基配列等から、40 kDaのリパーゼをコードする遺伝子のORFを推定できる。推定ORFの増幅、クローニング、塩基配列の確認、コードされるタンパク質の機能の確認には、本明細書に記載した32 kDaのリパーゼに関する同じ目的で用いた手法を適用することができる。
【0052】
すなわち、本発明はまた、配列番号:3若しくは配列番号:14に記載のアミノ酸配列、上記の40 kDaのリパーゼの全部若しくは一部(すなわち、リパーゼ自体若しくはそのフラグメント)、又はTetrasphaera属に属する(好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同じ種に属し、より好ましくは、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株である)菌を用いることを特徴とする、該リパーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列情報の生産方法も提供する。
【0053】
II. Tetrasphaera属 NITE P-154菌株
本発明はまた、本発明のリパーゼを生産することができる、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株を提供する。
【0054】
Tetrasphaera属 NITE P-154菌株は、(株)海洋バイオテクノロジー研究所の所有する新規な海洋性微生物のライブラリーから中鎖脂肪酸油脂(MCT)を含んだ寒天プレートを用いて、ハローが形成するか否かにより選抜された。
【0055】
[Tetrasphaera属 NITE P-154菌株の菌学的性質]
Tetrasphaera sp. NITE P-154株 (本明細書では、「#375」と表すことがある。)は、形態的には球菌(0.86×0.86μm)で運動性はない。生理学的にはグラム陽性で生育温度範囲は15〜45℃、炭素源としてD-フルクトース、D-グルコース、D-マンニトール、ラフィノース及びシュークロースを利用することができ、L-アラビノース、イノシトール、L-ラムノース及びD-キシロースは利用できない。化学分類学的にはイソプレノイド・キノンはMK-8(H4)であり、DNAの塩基組成は70.5%である。
【0056】
【表1】
【0057】
Tetrasphaera属 NITE P-154菌株をmarine broth 2216(Difco社製)で培養すると本発明のリパーゼを菌体外に分泌する。
【0058】
本発明はまた、Tetrasphaera属 NITE P-154菌株と同一の菌学的性質を有する、菌株又はその変異体、及びTetrasphaera属 NITE P-154菌株の16S rRNA遺伝子の(配列番号:1)と高い同一性を有する(例えば、98%より高い同一性を有する、好ましくは98.5%同一である、さらに好ましくは99%同一である、さらに好ましくは99.5%同一である)塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する、菌株又はその変異体も提供する。なお、本発明者らの検討に拠れば、公知の菌でもっとも近いもので98%であった。
【0059】
本発明の菌株及びその変異体の菌株は、本発明のタンパク質及びリパーゼの製造のために用いることができる。
【0060】
本発明はまた、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを提供する。
【発明を実施するための好ましい態様】
【0061】
本発明の32 kDa又は40 kDaのリパーゼは、適当な担体に固定化し、固定化酵素として用いることができる。
【0062】
担体には、同様の目的で使用される従来の樹脂、例えば、塩基性樹脂(例えば、MARATHON WBA(Dow Chemcal社製)、三菱化学のSAシリーズ、WAシリーズあるいはFPシリーズの樹脂及びオルガノ社のアンバーライトのIRAシリーズ)、疎水性樹脂(例えば、FPHA(ダイアイオン、三菱化学社製)、三菱化学のHPシリーズ、オルガノ社のアンバーライトXAD7)等を担体として用いることができる。
【0063】
担体への固定化方法も、同様の目的で用いられる従来技術を適用することができる。例えば、上記の樹脂担体1部に対して、10部の#375の培養上清を加え、そのまま減圧乾燥してもよく、また吸着させた後、上清を除去後乾燥してもよい。
【0064】
固定化されたリパーゼは、工業的に有用である。すなわち、固定化酵素をカラムに充填し、そのカラムに原料を通導するような連続的な反応ができる。また、反応液から容易に固定化酵素を除去することもでき、またリユースすることも可能になる。
【0065】
本発明のリパーゼ又は固定化リパーゼは、中鎖脂肪酸及び/又は長鎖脂肪酸の転移反応において、及び中鎖脂肪酸エステル及び/又は長鎖脂肪酸エステルの製造において、用いることができる。エステルには、アスタキサンチン等のカロチノイド(カロチン類とキサントフィル類とからなる。)と脂肪酸とのエステル、及びカテキン等のポリフェノールと脂肪酸とのエステルが含まれる。
【0066】
本明細書で「転移反応」というときは、特別な場合を除き、エステル化反応又はエステル交換反応をいう。
【0067】
転移反応は、種々の脂肪酸エステルを製造するのに有用である。例えばトリグリセリド間のエステル交換、ステロールエステルの製造、脂肪酸メチルエステルの製造等の工業的な実施において従来のリパーゼが使用されているように、本発明のリパーゼもまた、このような場面で用いうる。本発明のリパーゼにより製造されうるエステルのうち、特に有用な例として、ステロールエステル(例えば、β-シトステロールカプリル酸エステル)、アスタキサンチンカプリル酸エステル、カテキンカプリル酸エステル等を挙げることができる。
【0068】
本発明はまた、本発明によってはじめて提供される配列番号:1、配列番号:3、配列番号:14、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:15、配列番号:16、配列番号:28及び、配列番号:29に係る配列情報及びその一部、ならびにそれらの利用方法も提供する。
【実施例】
【0069】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0070】
〔実施例1〕#375株培養上清からのリパーゼタンパク質の単離・精製とN末15残基の配列の決定:
Marine broth 2216(Difco社製)液体培地に#375株を1%植菌して、25℃で4日間振とう培養を行った。培養上清液200mlについて、バッファーA;50mMトリス塩酸バッファー(pH8.0)/2mM CaCl2/2mM MgCl2で平衡化した疎水樹脂;Phenyl Sepharose CL4B(Amersham Biosciences社製)2mlに吸着させ、カラムクロマトグラフィーに供した。バッファーAにて洗浄した後、10mlの0.5%TritonX-100を含有したバッファーAにてリパーゼタンパク質以外の物質を洗浄除去した。次に、10mlの1%TritonX-100を含有したバッファーAにて溶出することでリパーゼ活性画分を得た。
【0071】
本リパーゼ画分(10ml)に10倍量のバッファーAを添加希釈した後、陰イオン交換樹脂;Q-Sepharose(Amersham Biosciences社製)0.4mlに吸着させ、0.1%CHAPSを含有したバッファーAで充分洗浄して界面活性剤TritonX-100からCHAPSへ置換した後、0.5Mさらに1M NaClによりステップワイズ溶出を行った。リパーゼ活性が認められた0.5M NaCl溶出画分(2ml)を0.1%CHAPSを含有したバッファーAにて充分に透析を行った後、陰イオン交換カラム;HiTrapQ(Amersham Biosciences社製)1mlを用いて、HPLCによる0→0.75M NaClグラジエント溶出を行った。フラクション0.5ml毎に分画して、各々のリパーゼ活性、及びSDS-PAGEによるバンドの検出を行った。表2にリパーゼ活性及び転移活性を、図2にSDS-PAGE結果を示す。
【0072】
リパーゼ活性は、実施例3に詳述したMU-C8を用いる方法に準じて、基質としてMU-C8又はMU-C18を用いて測定し、単位はUnit(1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1 μmolのMUを加水分解により遊離する活性)で表した。
【0073】
また、転移活性は、以下のとおり測定した。3−フェニル−1−プロパノール(10μl)又は1−フェニル−2−プロパノール(10μl)とトリカプリリン(150μl)の混合液に酵素溶液(100μl)を添加し、45℃で3日間激しく攪拌し反応させた。反応液を遠心分離し、上層50μlを回収してアセトニトリル50μlを加え、10μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラムとしてDevelosil C30-UG-5(4.6 x 150 mm)(Nomura chemical, Aichi, Japan)を、移動層として90%アセトニトリル 0.08%TFA、流速 1ml/分、温度 室温とした。それぞれのカプリル酸エステルの生成率であらわした。
【0074】
【表2】
【0075】
2種のリパーゼ(32 kDa、40 kDa)についてプロテインシーケンサーによりN末端から15残基のアミノ酸配列を決定した。その結果を表3及び配列表(配列番号:2、配列番号:3)に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
さらに、分子量40 kDaのリパーゼについて、SDS-PAGEよりバンドを切り出し、トリプシンによる消化、逆相HPLCによる断片ペプチドの分離を行った。任意のピークのペプチドのN末端から12残基のアミノ酸配列LSTNVGPTHLGG(配列番号:14)を決定した。
【0078】
〔実施例2〕32 kDaのリパーゼ遺伝子のクローニング:
[#375からのDNA及びRNAの調製]
本菌からのゲノムDNA(gDNA)の調製には、DNeasy Tissue Kit(QIAGEN)を、全RNAの調製には、RNeasy Plant isolation Kit(QIAGEN)をそれぞれ使用し、各キットのプロトコールに従って行った。全RNAを鋳型とした逆転写反応(1st strand cDNA 合成)は、SuperScript II Reverse Transcriptase (Invitrogen)を用い、プロトコールに従って行った。
【0079】
PCR産物のベクターへのライゲーションには、TOPO TA-cloning Kit(Invitrogen)を使用し、定法に従って大腸菌へ形質転換した。クローニングしたDNA 断片の塩基配列は、クローニングベクターのMCS の外側に設計されたプライマー(M13 primer M4, RV等)や既知配列上に設計したプライマーを用いたプライマーウォーキングによって決定した。シーケンシング試料は、ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 (Applied Biosystems)を使用し、プロトコールに従って調製した。シーケンサーは、ABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyser (Applied Biosystems)を用い、データ解析ソフトにはVector-NTI 9.0 (InforMax)を使用した。
【0080】
[lip32遺伝子の取得]
#375株の32 kDaタンパク質をコードすると予想される遺伝子(以下lip32遺伝子とする)を取得するため、当該タンパク質のN-末端15アミノ酸残基の配列(GDAPAYERYVALGDS)を、genebankのアミノ酸配列データベースに対してblastp検索を行った結果、#375株と比較的近縁なStreptomyces属菌の推定分泌タンパク質(アクセッションNo.CAC42140)と高い同一性を示していた。このStreptomyces属菌推定分泌タンパク質は、幾つかのリパーゼ等のアミノ酸配列と同一性があった。そのうちStreptomyces rimosus由来GDLS-リパーゼ(アクセッションNo. AAK84028)とのClustalWによるアラインメント結果を図3に示す。これらタンパク質で保存された配列のうち、下線部で示した2つの配列VALGDSYS(配列番号:4)とIGGNDS(配列番号:5)を基に、センス鎖の縮重プライマー375-dg-F3(5’- TGGCCCTCGGCGACTCSTAC -’3)(配列番号:6)とアンチセンス鎖縮重プライマー375-dg-R3(5’- CGTCGTTGCCNCCGATG -3’)(配列番号:7)を設計した。#375株cDNAを鋳型に、プライマー375-dg-F3とプライマー375-dg-R3により、ExTaq(タカラバイオ)を用い、98℃ 2分、(98℃ 20秒、55℃ 30秒、72℃ 1分)x35サイクル、72℃ 5分のPCRによってDNAを増幅した。得られたDNA断片の塩基配列を決定し、配列番号:10の73番目〜290番目の部分塩基配列を得た。次に、得られた配列上に外向きにプライマー375-IPC32-F1(5’- CGGCGCGGACACGACGGACATGACG -3’)(配列番号:8)と375-IPC32-R1(5’- GGTAGCAGCCGCCCGCGATGTCGAG -3’)(配列番号:9)を設計した。#375株gDNAを制限酵素PstIあるいはNotIで消化したのち、セルフライゲーションすることで環状化したものを鋳型に、プライマー375-IPC32-F1とプライマー375-IPC32-R1により、LATaq(タカラバイオ)を用いて、98℃ 20秒、68℃15分(+10秒/サイクル)x35サイクルのPCR(インバースPCR)によって、近傍配列を増幅した。得られたDNA断片をクローニングし、その一部の塩基配列を決定した。先に得られた部分塩基配列とあわせて、合計約900bpのlip32領域gDNAの塩基配列を決定した。実施例1で決定したN-末端アミノ酸配列(配列番号2)から、LIP32タンパク質のアミノ酸配列を推定した。本菌のlip32遺伝子領域のDNA配列及び推定アミノ酸配列を、図4及び配列表(配列番号:10、配列番号:11)に示す。実施例1で決定したN-末端アミノ酸配列(配列番号:2)は、図4のN-末端アミノ酸配列と一致した。以上の結果から、LIP32成熟タンパク質は259アミノ酸残基から成るタンパク質であると考えられた。
【0081】
また、推定されたLIP32タンパク質について、ClustalWにより既知のリパーゼタンパク質アミノ酸配列との同一性解析を行った。各タンパク質のアミノ酸配列の同一性を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
〔実施例3〕32 kDaリパーゼ遺伝子の大腸菌への導入とリパーゼ活性:
[大腸菌発現系によるLIP32タンパク質(LIP32PH)の調製]
大腸菌発現系に用いる#375株のlip32遺伝子ORFのcDNA配列は、プライマーlip32‐Nc‐F(5’- CCATGGGCGACGCACCGGCATACGAACGC -3’)(配列番号:12)、lip32-Xh-R1(5’- CTCGAGGGTGAGCTCGTCGATGAGCAGGTG -3’) (配列番号:13)を用いたRT-PCRによって増幅、クローニング後、シーケンシングによって塩基配列の確認を行った。クローニングしたcDNA断片は、制限酵素のNco IとXho Iにより消化し抽出後、タンパク質の大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)の同制限酵素認識部位に組込み、これをpET22b::lip32Ncベクターとした(図5)。pET22b::lip32NcベクターでE. coli strain BL21 (DE3)を形質転換し、タンパク質発現に用いた。
【0084】
LIP32タンパク質発現ベクター(pET22b::lip32Nc)を形質転換したE. coli の単コロニーを2 ml の LB 培地(100μg/ml ampicillinを含む)に植菌し、前培養(>150 rpm, 12 hr, 37℃)した。前培養菌液を50 mlのEnriched medium(2% trypton, 1% yeast extract, 0.5% NaCl, 0.2% (v/v) glycerol, 50 mM KH2PO4, pH 7.2; 100 μg/ml ampicillinを含む)に植菌し、振とう培養(150 rpm, 25℃)した。菌液がOD600=0.6に達した時点でisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を最終濃度が1.0 mM となるように添加し、LIP32タンパク質の発現を誘導した。さらに振とう培養(150 rpm, 〜4 hr, 25℃)によって多量のLIP32タンパク質を産生させた。遠心分離(6000 rpm, 10 min, 4℃)によって大腸菌を回収し、Storage buffer(20 mM β-mercaptoethanol (β-ME), 50 mM Tris-HCl, pH 8.0)で2回洗浄した。さらに40 mlの氷冷Lysis buffer(500mM NaCl, 5mM imidazole, 20mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25mM Tris-HCl, pH8.0)に再懸濁後、細胞を超音波破砕した。破砕液は、遠心分離(10000 rpm, 60 min, 4℃)後、孔径φ0.22 μm のフィルターを通して細胞片や不溶物を除去し、これをタンパク質粗抽出液とした。タンパク質粗抽出液(10 ml)を、予め1.0 ml の0.1 M NiSO4 を負荷して10 mlのEquilibration buffer(500 mM NaCl, 20 mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25mM Tris-HCl, pH 8.0)で平衡化したHiTrap Chelating HP column(1.0 ml bed volume)に通した。カラムに非特異的に結合したタンパク質を除去するため、10 mlのWash-1 buffer(500 mM NaCl, 0.8 mM imidazole, 20 mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0)、1.0 ml のWash-2 buffer(500 mM NaCl, 40 mM imidazole, 20 mM β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0)を順次流すことでカラムを洗浄した。LIP32タンパク質は、5 ml のElution buffer(500mM NaCl, 250 mM imidazole, 6% (v/v) β-ME, 10% (v/v) glycerol, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0)によってカラムから溶出させ、溶出液を500 μl 毎に分画した。各分画中に含まれるタンパク質の純度と濃度は、SDS-PAGE(図6)とBradford法(図7)によって確認した。SDS-PAGEの結果、フラクション#2〜3中に、LIP32タンパク質と想定される約30kDaのバンドが明確に確認された。さらに、各フラクションについてMU-C8を基質としてリパーゼ活性を測定した(下記のリパーゼ活性測定と同じ)。その結果、フラクション#3に強い同活性が認められた。よって、以降の研究にはフラクション#3をLIP32タンパク質の酵素溶液(約530 ng/μl)として用いることとした。
【0085】
[LIP32タンパク質(LIP32PH)のリパーゼ活性]
LIP32タンパク質のリパーゼ活性は、20 μlの希釈した大腸菌培養液(縣濁液)と180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 50 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.0), 1% DMF)を混和した反応溶液(200 μl)を調製し、37℃で20 min間の蛍光強度の変化をSPECTRAmax GEMINI XS(Molecular Devices)で測定することで求めた。1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1 μmolのMUを加水分解により遊離する活性とした。
【0086】
LIP32タンパク質を発現誘導した大腸菌懸濁液を用いて、リパーゼ活性を測定した結果、LIP32は高いリパーゼ活性(MU-C8分解活性)を示していた(表5)。
【0087】
【表5】
【0088】
〔実施例4〕#375株の培養上清のアニオン交換樹脂への固定化と転移活性:
強アニオン交換樹脂(MARATHON WBA、ダウ・ケミカル社製)500mgに#375培養液5mlを加え、室温で減圧乾燥し、固定化酵素を得た。3-フェニル-1-プロパノール(25μl)とトリカプリリン(375μl)の混合液に固定化酵素50mgを加え、さらに水(20μl)を添加し、40℃で3日間攪拌した。反応液をHPLCで分析し、3-フェニル-1-プロパノールのカプリル酸エステルの生成率が75%であった。
【0089】
〔実施例5〕#375株の培養上清の疎水性樹脂への固定化と転移活性:
FPHA(ダイアイオン、三菱化学社製)500mgを用いて、実施例4と同様に固定化酵素を得た。この固定化酵素50mgを用いて、実施例4と同様の反応を行った。この場合はエステルの生成率が47%であった。
【0090】
〔実施例6〕LIP32遺伝子の全長配列の決定:
#375株gDNAを制限酵素PstIあるいはNotIで消化したのち、セルフライゲーションすることで環状化したものを鋳型に、プライマー375-IPC32-F1とプライマー375-IPC32-R1により、LATaq(タカラバイオ)を用いて、98℃ 20秒、68℃15分(+10秒/サイクル)x35サイクルのPCR(インバースPCR)によって、近傍配列を増幅した。得られたDNA断片をクローニングし、その一部の塩基配列を決定し、先に得た塩基配列(配列番号:10)と連結し、LIP32をコードするORFを含むゲノムDNA配列(配列番号:15、図8)、及び推定アミノ酸配列(配列番号:16、図8)を得た。
【0091】
〔実施例7〕LIP32タンパク質の推定プレ配列及びプロ配列に関する検討:
LIP32タンパク質の、全長アミノ酸配列をコードするLIP32-Fの増幅用にプライマーLIP32-Full-Nde-F(5’- CATATGAGCTCGTCACGTCGTACCGTCCGCACC -3’)(配列番号:17)とLIP32stop-Xho-Rv(5’- CTCGAGTCAGGTGAGCTCGTCGATGAGCAGGTC -3’)(配列番号:18)を、プレ配列を除くアミノ酸配列をコードするLIP32-Mの増幅用にプライマー LIP32-Mid-Nco-F(5’- CCATGGCGACCGAGCGGGCGTCGGCGCCCACG -3’)(配列番号:19)とLIP32stop-Xho-Rvを、プレ-プロ配列を除くアミノ酸配列をコードするLIP32-Sの増幅用にプライマーLIP32-sht-Nco-F(5’- CCATGGGCGACGCACCGGCATACGAACGCTAT -3’)(配列番号:20)とLIP32stop-Xho-Rvをそれぞれ合成した。#375株gDNAを鋳型に、各々のプライマーセットを用いたPCRによって増幅したDNA断片を、pCR4Blunt-TOPOベクター(インビトロジェン社製)に、クローニングし、塩基配列を確認した。制限酵素のNdeIとXhoI(LIP32-F)又はNcoIとXhoI(LIP32-M, -S)で切り出した各LIP32遺伝子断片を、大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)の同制限酵素認識部位に組込み、それぞれをpETLIP32-F、pETLIP32-M、pETLIP32-Sベクターとした(図9)。
【0092】
各大腸菌をLB培地でOD600が約0.6に達するまで振とう培養後、IPTGを最終濃度が1mMとなるよう添加した。さらに3時間の振とう培養によってLIP32タンパク質を発現誘導した。これらの大腸菌懸濁液の各リパーゼ活性は、以下のようにして測定した
すなわち、20μlの希釈した大腸菌懸濁液と180μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 50 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.0), 1% DMF)とを混和した反応溶液(200μl)を調製し、37℃で20 min間の蛍光強度の変化をSPECTRAmax GEMINI XS(Molecular Devices)で測定することで求めた。1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1μmolのMUを加水分解により遊離する活性とした。分析結果を下表に示した。
【0093】
【表6】
【0094】
この結果から、LIP32タンパク質の活性発現のためには、推定プレ配列及びプロ配列が切断されることが必要であることが示唆された。
【0095】
〔実施例8〕LIP40遺伝子のクローニング:
分子量40 kDaのリパーゼについて、SDS-PAGEよりバンドを切り出し、トリプシンによる消化後、逆相HPLCによる断片ペプチドの分離を行った。任意のピークのペプチドから、先に得たアミノ酸配列(配列番号:3、配列番号:14)に加え、以下のアミノ酸部分配列を得た。
【0096】
GPDSVPGTAGATTVT(N末) (配列番号:3) ・・・実施例1参照
LSTNVGPTHLGG (配列番号:14)・・・実施例1参照
APWFGLGAR (配列番号:21)
QLAESVTEYE (配列番号:22)
GYAVAFTDYQ (配列番号:23)
アミノ酸部分配列のうち、配列番号:23に対するセンス鎖と配列番号:14の3〜12に対するアンチセンス鎖の縮重プライマーとしてプライマーLIP40-9(GGNTAYGCNGTNGCNTTYACNGAYTAYCA)(配列番号:24)とプライマーLIP40-5(CCNCCNARRTGNGTNGGNCCNACRTTNGT)(配列番号:25)のオリゴDNAをそれぞれ合成した。
【0097】
#375のゲノムDNA100ngを鋳型として、LA Taq with GC buffer(タカラバイオ)でGC buffer IIを用いて、プライマーLIP40-9とプライマーLIP40-5をそれぞれ終濃度10mM、LA Taq 0.2unit添加し全量20μlとし、94℃ 1分、(94℃ 30秒、50℃ 30秒、72℃ 2分)を40サイクル、72℃ 5分のPCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析したところ、約0.7kbのDNA断片が確認されたので、ゲルより切り出し、GFXキット(アマシャム)により精製し、TOPO-TAクローニングキット(インビトロジェン)によりクローニングした。クローン化されたDNAの塩基配列を決定し、部分塩基配列(配列番号:28の932〜1571)が得られた。次に、LIP40遺伝子の全長をクローン化するために、逆PCR(inverse PCR)を行った。#375ゲノムDNAを制限酵素NotIで完全に消化したのち、セルフライゲーションさせた。それを鋳型として、プライマーLIP40-13(gacgcggttcatgtaggtgtgcgtcc)(配列番号:26)とLIP40-14(gtgcgccaagggcgccaacgtccgcc)(配列番号:27)を用いてLA Taq with GC buffer(タカラバイオ)でPCRを行った。
【0098】
得られた7kbのDNA断片をTOPO-TAcloning Kit(インビトロジェン)でクローン化し、両端から塩基配列を決定した。得られた塩基配列と先に得られた塩基配列を連結し、配列番号:28の塩基配列を得た。ORF解析、LIP40の部分アミノ酸配列などから、LIP40は、414bp〜1688bpのORFにコードされると考えられた。当該ORFは424アミノ酸残基からなるタンパク質(配列番号:29、LIP40アミノ酸配列)をコードしていた。精製タンパク質のN末端アミノ酸配列(配列番号:3)と配列番号:29(LIP40アミノ酸配列)の29番目からの配列が一致することから、配列番号:29の1〜28番目までのペプチドは、分泌シグナルであると考えられた(図10)。
【0099】
LIP40アミノ酸配列は、Janibacter sp. HTCC2649由来のhypothetical protein(gi_84498087)と72.9%のidentityを示した。
【0100】
〔実施例9〕40 kDaリパーゼ遺伝子の大腸菌への導入とリパーゼ活性:
[大腸菌発現系によるLIP40タンパク質の調製]
#375のゲノムDNAを鋳型にして、プライマーL40EcoRI-F1(GAATTCGGGACCGGACTCCGTGCCCGGCAC)(配列番号:30)又はプライマーL40NdeI-F3(CATATGACGTCAGCACTGCTCCGACGAGCCCTCGC)(配列番号:31)と、プライマーL40HindIII-R1(AAGCTTCTAGACGGCCCAGCAGTTGCTGAG)(配列番号:32)を用いて、LA Taq with GC bufferにてPCR反応を行った。増幅された約1.2kbpのDNA断片をTOPO-TA cloning Kitを用いてクローン化して、塩基配列を確認し、プラスミドpCR-375LIP40PとプラスミドpCR-375LIP40Sを得た。プラスミドpCR-375LIP40PをEcoRI とHindIII、プラスミドpCR-375LIP40Sを NdeIとHindIIIで消化し、大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)をEcoRI とHindIIIあるいはNdeIとHindIIIで消化したものに、ligation high(東洋紡)を用いて連結し、プラスミドpET375L40PとpET375LP40Sを得た。
【0101】
LIP40タンパク質発現ベクター(プラスミドpET375L40PとpET375L40S)にて形質転換したE. coli の単コロニーを100μg/ml ampicillinを含むLB 培地2 mlに植菌し、前培養(>150 rpm, 12 hr, 37℃)した。前培養菌液を100 μg/ml ampicillinを含むEnriched medium(2% trypton, 1% yeast extract, 0.5% NaCl, 0.2% (v/v) glycerol, 50 mM KH2PO4, pH 7.2)50 mlに植菌し、振とう培養(150 rpm, 25℃)した。菌液がOD600=0.6に達した時点でisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を最終濃度が1.0 mM となるように添加し、LIP40タンパク質の発現を誘導し、さらに振とう培養(150 rpm, 〜4 hr, 25℃)した。
【0102】
[LIP40のリパーゼ活性]
リパーゼ活性は、20 μlの希釈した大腸菌培養液(懸濁液)と180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8又はMU-C18, 50 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.0), 1% DMF)を混和した反応溶液(200 μl)を調製し、37℃で20 min間の蛍光強度の変化をSPECTRAmax GEMINI XS(Molecular Devices)で測定することで求めた。1 Unit(1MU)は、1Lのサンプルが1 min間に1 μmolのMUを加水分解により遊離する活性とした。
【0103】
結果を下表に示した。
【0104】
【表7】
【0105】
転移活性は、以下のとおり測定した。3−フェニル−1−プロパノール(10μl)又は1−フェニル−2−プロパノール(10μl)とトリカプリリン(150μl)の混合液に大腸菌培養液(100μl)を添加し、45℃で3日間激しく攪拌し反応させた。反応液を遠心分離し、上層50μlを回収してアセトニトリル50μlを加え、10μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラムとしてDevelosil C30-UG-5(4.6 x 150 mm)(Nomura chemical, Aichi, Japan)を、移動層として90%アセトニトリル 0.8%TFA、流速 1ml/分、温度 室温とし、それぞれのカプリル酸エステルの生成率であらわした。
【0106】
結果を下表に示した。
【0107】
【表8】
【0108】
〔実施例10〕大腸菌発現系によるLIP40タンパク質(LIP40HP)の調製:
#375株のlip40タンパク質に6His-tagを付加して大腸菌で発現させるために以下のとおりベクターを構築した。MBI375株のゲノムDNAを鋳型に、プライマー 375L40EcoRI-His-F(5’- GAATTCGCACCACCACCACCACCACGGACCGGACTCCGTGCCCGGCAC -3’)(配列番号:33)と375L40HindIII-R1(5’- AAGCTTCTAGACGGCCCAGCAGTTGCTGAG -3’)(配列番号:34)を用いたPCRによって増幅後、pCR2.1TOPOベクターへクローニングした。塩基配列を確認後、制限酵素のEcoRIとHindIIIにより消化、抽出したLip40遺伝子断片は、大腸菌発現用ベクターpET22b(+)(Novagen)の同制限酵素認識部位に組込み、これをpETLIP40HPベクターとした(図11)。pETLIP40HPベクターで形質転換したE. coli strain BL21 (DE3)をタンパク質発現に用いた。
【0109】
大腸菌でのLIP40HPタンパク質の発現は、IPTG誘導後の培養時間を12時間に変更した以外は、LIP32タンパク質と同様の方法で行った。LIP40HPタンパク質の精製は、N-末端に融合した6-His-tagを利用したアフィニティー精製で行った。その手順は、実施例3に若干の変更を加えた以外は、LIP32タンパク質と同様の手順に従った。変更は、(1) Lysis buffer、Equilibration buffer、Wash-1 buferを共通の緩衝液(500mM NaCl, 5mM imidazole, 2mM CaCl2, 2mM MgCl2, 25mM Tris-HCl, pH8.0)へ変更した点と、(2) Elution bufferを500mM NaCl, 250 mM imidazole, 2mM CaCl2, 2mM MgCl2, 25 mM Tris-HCl, pH 8.0へ変更した点の2箇所である。
【0110】
〔実施例11〕LIP32PH及びLIP40HPのキャラクタリゼーション:
[LIP32PH, LIP40HPの至適温度]
大腸菌より精製、希釈した酵素溶液20μlと、予め測定温度(10, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50, 60℃)で保温した180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 1% DMF, 50 mM Tris-HCl, pH 7.0)を混和することで反応を開始した。活性は、各々の測定温度での反応におけるMU蛍光の強度変化を経時的に測定することで求めた。
【0111】
活性測定の結果、LIP32PH(実施例3で得たもの)の至適温度は40℃、LIP40HPの至適温度は45℃−50℃であった(図12)。
【0112】
[LIP32PH, LIP40HPの至適pH]
大腸菌より精製、希釈した酵素溶液20μlと予め37℃で保温した180 μlの基質溶液(0.1 mM MU-C8, 1% DMF, 50 mM 各種pHの緩衝液)を混和することで反応を開始した。活性は、37℃で20分間の反応におけるMU蛍光の強度を経時的に測定することで求めた。各pHの緩衝液として、50 mM Sodium acetate - acetic acid (pH 4.0-6.0)、50 mM MES-NaOH(pH 5.5-7.0)及び50 mM Tris-HCl(pH 6.5-9.0)を用いた。
【0113】
活性測定の結果、LIP32PH, LIP40HPの至適pHは、いずれもpH7.0付近であった(図13)。
【0114】
〔実施例12〕LIP40HP固定化酵素によるアスタキサンチンへの脂肪酸転移反応:
LIP40HPによる、トリカプリリン(MCT)からアスタキサンチンへの脂肪酸転移反応には、LIP40HPの固定化酵素を用いた。LIP40HP固定化酵素(WBA-LIP40HP)は、強アニオン交換樹脂(MARATHON WBA、ダウ・ケミカル社製)50mgにLIP40HP(約3.65ng /μl)500μlを加え、2時間攪拌(1000rpm, 10°C)後、室温で減圧乾燥して調製した。
【0115】
転移反応は、1.25mgのアスタキサンチン(和光純薬)とMCT(125μl)の混合液に、WBA-LIP40HP(50mg)とH2O(6.25μl)を順次添加し、45°Cで3日間の静置により行った。反応液に100μlのアセトンを加えて攪拌、遠心分離後、上層100μlを回収して20μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラム:Develosil C30-UG-5(野村化学株式会社製、4.6 x 150 mm)、移動層:75-100%アセトン、1-15分グラジエント溶出、流速 1.0ml/min、分析温度:室温、検出波長:480nmとした。転移活性は、保持時間16.4分を指標としたアスタキサンチンのエステルの生成率として求めた。分析の結果、アスタキサンチンのカプリル酸エステルの生成率は2.25%であった(図14)。また、対照として同様に調製したWBA-pET22bを用いた反応では、アスタキサンチンのカプリル酸エステルの生成は見られなかった(図14)。
【0116】
〔実施例13〕LIP40HPによるカテキンへの脂肪酸転移反応
LIP40による、トリカプリリン(MCT)からカテキンへの脂肪酸転移反応は、100μlのカテキン溶液(0.01mg/μl)と150μlのMCTの混合液に、50μlのLIP40HP酵素溶液(1.0μg/μl)を加えて45°Cで2日間、攪拌することで行った。反応液を遠心分離して油層を回収し、等量のアセトニトリルを加え、10μlをHPLCで分析した。分析条件は、カラム:Develosil C30-UG-5(野村化学株式会社製、4.6 x 150 mm)、移動層:(A)0.1%TFA,(B)90%アセトニトリル、0.08%TFA、グラジエント条件5%B液→100%B液/5分、流速 1.0ml/min、分析温度:室温、検出波長:280 nmとした。転移活性は、保持時間8.4分を指標としたカテキンエステルの生成率として求めた。分析の結果、カテキンのカプリル酸エステルの生成率は38.70%であった(図15)。また、対照として同様に調製したpET22bを用いた反応では、カテキンのカプリル酸エステルの生成は見られなかった(図15)。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は、Tetrasphaera sp. NITE P-154(#375)の16S rRNA遺伝子の塩基配列を示した図である。
【図2】図2は、HPLC分画後の各フラクションのSDS-PAGEの写真である。MWは、分子量マーカー、21〜35はフラクション#21〜35を泳動したレーンを示す。
【図3】図3は、Streptomyces属菌推定分泌タンパク質と、Streptomyces rimosus由来GDLS-リパーゼとのアラインメント結果を示した図である。#375株の生産する32 kDaタンパク質のN-末端15アミノ酸残基は、比較的近縁なStreptomyces属菌の推定分泌タンパク質と高い同一性を示し、このStreptomyces属菌推定分泌タンパク質は、Streptomyces rimosus由来GDLS-リパーゼを含む幾つかのリパーゼ等のアミノ酸配列と同一性があった。
【図4】図4は、32 kDaタンパク質をコードすると予想される遺伝子(lip32遺伝子)の塩基配列と対応するアミノ酸配列を示した図である。lip32遺伝子は少なくとも777bpで構成され、259アミノ酸残基から成るタンパク質をコードすると考えられる。
【図5】図5は、LIP32タンパク質発現ベクター(pET22b::lip32Nc)の構成を示した図である。
【図6】図6は、カラム精製後のLIP32タンパク質のSDS-PAGEの写真である。Mはマーカー、2はフラクション#2、3はフラクション#3を泳動したレーンを示す。
【図7】図7は、カラム精製後のLIP32タンパク質のBradford法による結果を示したグラフである。
【図8】図8は、LIP32をコードする遺伝子を含むゲノムDNAの塩基配列とLIP32のアミノ酸配列を示した図である。網掛け部は精製LIP32のN末端アミノ酸配列と一致した配列を示す。
【図9】図9は、LIP32の推定プレ配列及びプロ配列と、pETLIP32-F、pETLIP32-M、pETLIP32-Sベクターを示した図である。
【図10】図10は、LIP40をコードする遺伝子を含むゲノムDNAの塩基配列とLIP40のアミノ酸配列を示した図である。下線部は分泌シグナル配列、網掛け部は精製LIP40の部分アミノ酸配列と一致した配列を示す。2重下線部はリパーゼの保存領域である。
【図11】図11は、LIP40タンパク質発現ベクター(pETLIP40HP)の構成を示した図である。
【図12】図12は、LIP32PH及びLIP40HPの至適温度を示したグラフである。
【図13】図13は、LIP32PH及びLIP40HPの至適pHを示したグラフである。
【図14】図14は、固定化したLIP40HP又は対照(pET22b)を用いてアスタキサンチンへの脂肪酸転移反応を行った際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図15】図15は、LIP40HP又は対照(pET22b)を用いてカテキンへの脂肪酸転移反応を行った際の、反応液のHPLC分析チャートである。
【図16】図16は、LIP40成熟タンパク質のアミノ酸配列を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、(E1)、(F1)又は(G1)を含有するポリヌクレオチド:
(A1)配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は少なくとも25〜801番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記の(A1')、(B1')、(C1')、(D1')、(E1')、(F1')又は(G1')である、請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(A1')配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は25〜801番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(B1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
下記の(A2)、(B2)、(C2)、(D2)、(E2)、(F2)又は(G2)を含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(A2)配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくとも247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
下記の(A2')、(B2')、(C2')、(D2')、(E2')、(F2')又は(G2')である、請求項3に記載のポリヌクレオチド:
(A2')配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド。
(B2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
Tetrasphaera属由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターにより形質転換された、形質転換体。
【請求項8】
下記の(e1)、(f1)又は(g1)を含有するタンパク質:
(e1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項9】
下記の(e1')、(f1')又は(g1')である、請求項8に記載のタンパク質:
(e1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
下記の(e2)、(f2)又は(g2)を含有する、請求項8に記載のタンパク質:
(e2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(f2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項11】
下記の(e2')、(f2')又は(g2')である、請求項10に記載のタンパク質:
(e2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は48〜306番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(f2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項12】
Tetrasphaera属に属する菌が生産する、中鎖脂肪酸を基質として認識することができ、至適温度が40℃であり、至適pHが7.0である、分子量約32 kDaのリパーゼ。
【請求項13】
Tetrasphaera属に属する菌が、NITE P-154菌株である、請求項12に記載のリパーゼ
【請求項14】
樹脂に固定化されている、請求項8〜11のいずれか1項に記載のタンパク質又は請求項12若しくは13に記載のリパーゼ。
【請求項15】
下記の(H2)、(I2)、(J2)、(K2)、(L2)、(M2)又は(N2)を含有するポリヌクレオチド:
(H2)配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は少なくとも414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(I2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
下記の(H2')、(I2')、(J2')、(K2')、(L2')、(M2')又は(N2')である、請求項15に記載のポリヌクレオチド:
(H2')配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(I2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
Tetrasphaera属由来である、請求項15又は16に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項15、16又は17に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項19】
請求項18に記載のベクターにより形質転換された、形質転換体。
【請求項20】
下記の(l1)、(m1)又は(n1)を含有するタンパク質:
(l1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(m1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項21】
(l1)、(m1)又は(n1)である、請求項20に記載のタンパク質。
【請求項22】
下記の(l2)、(m2)又は(n2)を含有する、請求項20に記載のタンパク質:
(l2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(m2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項23】
下記の(l2')、(m2')又は(n2')である、請求項22に記載のタンパク質:
(l2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(m2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項24】
Tetrasphaera属に属する菌が生産する、中鎖脂肪酸を基質として認識することができ、至適温度が45℃〜50℃であり、至適pHが7.0である、分子量約40 kDaのリパーゼ。
【請求項25】
Tetrasphaera属に属する菌が、NITE P-154菌株である、請求項24に記載のリパーゼ。
【請求項26】
樹脂に固定化されている、請求項20〜23のいずれか1項に記載のタンパク質又は請求項24若しくは25に記載のリパーゼ。
【請求項27】
請求項8〜14のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼ、又は請求項20〜26のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼを用いることを特徴とする、中鎖脂肪酸の転移方法。
【請求項28】
請求項8〜14のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼ、又は請求項20〜26のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼを用いることを特徴とする、中鎖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項29】
ポリフェノールと中鎖脂肪酸とのエステル、又はカロチノイドと中鎖脂肪酸とのエステルの製造方法である、請求項28に記載の製造方法。
【請求項30】
Tetrasphaera属 NITE P-154菌株、又はTetrasphaera属 NITE P-154菌株と同一の菌学的性質、若しくはTetrasphaera属に属する菌であって配列番号:1の塩基配列と99%以上同一である塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する、菌株又はその変異体。
【請求項31】
請求項30に記載の菌株、又はその変異体の菌体を用いることを特徴とする、請求項8〜14のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼ、又は請求項20〜26のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼの製造方法。
【請求項1】
下記の(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、(E1)、(F1)又は(G1)を含有するポリヌクレオチド:
(A1)配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は少なくとも25〜801番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1)(A1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記の(A1')、(B1')、(C1')、(D1')、(E1')、(F1')又は(G1')である、請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(A1')配列番号:10に記載の塩基配列の全部又は25〜801番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(B1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D1')(A1')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
下記の(A2)、(B2)、(C2)、(D2)、(E2)、(F2)又は(G2)を含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(A2)配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は少なくとも247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(B2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2)(A2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2)(E2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
下記の(A2')、(B2')、(C2')、(D2')、(E2')、(F2')又は(G2')である、請求項3に記載のポリヌクレオチド:
(A2')配列番号:15に記載の塩基配列の全部又は247〜1167番の塩基配列若しくは388〜1164番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド。
(B2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(D2')(A2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(E2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(F2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(G2')(E2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
Tetrasphaera属由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターにより形質転換された、形質転換体。
【請求項8】
下記の(e1)、(f1)又は(g1)を含有するタンパク質:
(e1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1)配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項9】
下記の(e1')、(f1')又は(g1')である、請求項8に記載のタンパク質:
(e1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(f1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g1')配列番号:11に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
下記の(e2)、(f2)又は(g2)を含有する、請求項8に記載のタンパク質:
(e2)配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも48〜306番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(f2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2)(e2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項11】
下記の(e2')、(f2')又は(g2')である、請求項10に記載のタンパク質:
(e2')配列番号:16に記載のアミノ酸配列の全部又は48〜306番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(f2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(g2')(e2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項12】
Tetrasphaera属に属する菌が生産する、中鎖脂肪酸を基質として認識することができ、至適温度が40℃であり、至適pHが7.0である、分子量約32 kDaのリパーゼ。
【請求項13】
Tetrasphaera属に属する菌が、NITE P-154菌株である、請求項12に記載のリパーゼ
【請求項14】
樹脂に固定化されている、請求項8〜11のいずれか1項に記載のタンパク質又は請求項12若しくは13に記載のリパーゼ。
【請求項15】
下記の(H2)、(I2)、(J2)、(K2)、(L2)、(M2)又は(N2)を含有するポリヌクレオチド:
(H2)配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は少なくとも414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列を含む一部からなるポリヌクレオチド;
(I2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2)(H2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2)(L2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
下記の(H2')、(I2')、(J2')、(K2')、(L2')、(M2')又は(N2')である、請求項15に記載のポリヌクレオチド:
(H2')配列番号:28に記載の塩基配列の全部又は414〜1688番の塩基配列若しくは498〜1685番の塩基配列からなる一部であるポリヌクレオチド;
(I2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(J2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(K2')(H2')に記載のポリヌクレオチドの塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(L2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(M2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(N2')(L2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
Tetrasphaera属由来である、請求項15又は16に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項15、16又は17に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項19】
請求項18に記載のベクターにより形質転換された、形質転換体。
【請求項20】
下記の(l1)、(m1)又は(n1)を含有するタンパク質:
(l1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(m1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n1)配列番号:35に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項21】
(l1)、(m1)又は(n1)である、請求項20に記載のタンパク質。
【請求項22】
下記の(l2)、(m2)又は(n2)を含有する、請求項20に記載のタンパク質:
(l2)配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は少なくとも29〜424番のアミノ酸配列を含む一部からなるタンパク質;
(m2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2)(l2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項23】
下記の(l2')、(m2')又は(n2')である、請求項22に記載のタンパク質:
(l2')配列番号:29に記載のアミノ酸配列の全部又は29〜424番のアミノ酸配列からなる一部であるタンパク質;
(m2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質;
(n2')(l2')に記載のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつリパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項24】
Tetrasphaera属に属する菌が生産する、中鎖脂肪酸を基質として認識することができ、至適温度が45℃〜50℃であり、至適pHが7.0である、分子量約40 kDaのリパーゼ。
【請求項25】
Tetrasphaera属に属する菌が、NITE P-154菌株である、請求項24に記載のリパーゼ。
【請求項26】
樹脂に固定化されている、請求項20〜23のいずれか1項に記載のタンパク質又は請求項24若しくは25に記載のリパーゼ。
【請求項27】
請求項8〜14のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼ、又は請求項20〜26のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼを用いることを特徴とする、中鎖脂肪酸の転移方法。
【請求項28】
請求項8〜14のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼ、又は請求項20〜26のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼを用いることを特徴とする、中鎖脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項29】
ポリフェノールと中鎖脂肪酸とのエステル、又はカロチノイドと中鎖脂肪酸とのエステルの製造方法である、請求項28に記載の製造方法。
【請求項30】
Tetrasphaera属 NITE P-154菌株、又はTetrasphaera属 NITE P-154菌株と同一の菌学的性質、若しくはTetrasphaera属に属する菌であって配列番号:1の塩基配列と99%以上同一である塩基配列からなる16S rRNA遺伝子を有する、菌株又はその変異体。
【請求項31】
請求項30に記載の菌株、又はその変異体の菌体を用いることを特徴とする、請求項8〜14のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼ、又は請求項20〜26のいずれか1項に記載のタンパク質若しくはリパーゼの製造方法。
【図1】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−181456(P2007−181456A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332622(P2006−332622)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】
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