説明

新規不斉触媒、並びに光学活性カルボン酸エステル、光学活性アルコール、及び光学活性カルボン酸の製造方法

【課題】高収率、高エナンチオ選択性で光学活性カルボン酸エステルを製造することができる新規不斉触媒、並びにその不斉触媒を用いた光学活性カルボン酸エステル、光学活性アルコール、及び光学活性カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーである新規不斉触媒を提供する。ラセミの2級アルコールとカルボン酸との反応、あるいはラセミのカルボン酸と特定のアルコール又はフェノール誘導体との反応において、本発明に係る不斉触媒を用いることにより、ラセミの2級アルコール又はラセミのカルボン酸の一方のエナンチオマーを選択的にエステル化して、光学活性カルボン酸エステル等を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性化合物の製造に好適な新規不斉触媒、並びにその不斉触媒を用いた光学活性カルボン酸エステル、光学活性アルコール、及び光学活性カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性カルボン酸エステルは、医薬品、生理活性物質の中間体、天然物合成の中間体等として、さまざまな分野に使用されている。
【0003】
従来、光学活性カルボン酸エステルの製造方法としては、不斉触媒を用いたアルコールとカルボン酸の反応による方法が知られている。テトラミソール又はベンゾテトラミソールを不斉触媒として用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下でアルコールとカルボン酸とを反応させて光学活性カルボン酸エステルを製造する方法が知られている(特許文献1、2を参照)。この反応では、ラセミのカルボン酸又はアルコールの一方のエナンチオマーが選択的に反応して光学活性カルボン酸エステルが得られるのと同時に、反応しなかったもう一方のエナンチオマーが、光学活性カルボン酸又は光学活性アルコールとして得られる。同様の反応用途に、エナンチオ選択性の向上をねらって置換基を変えた触媒も知られている(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/140074号
【特許文献2】国際公開第2009/113428号
【特許文献3】特開2010−99610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に示された不斉触媒はすべてイソチオウレア骨格を含む化合物であった。不斉反応の反応性やエナンチオ選択性は、不斉触媒と基質の組合わせに影響を受けることが多いため、別の骨格構造を持つなど、不斉触媒の多様化が望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、グアニジン骨格を持つ新規不斉触媒、並びにその不斉触媒を用いてラセミのカルボン酸又はラセミのアルコールから光学活性カルボン酸エステル、光学活性アルコール、及び光学活性カルボン酸を製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下のような本発明を完成するに至った。
【0008】
(1) 下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーである新規不斉触媒。
【化1】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化2】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【0009】
(2) 不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミの2級アルコールのいずれか一方のエナンチオマーとカルボン酸とを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化3】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化4】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【0010】
(3) 前記ラセミの2級アルコールが下記式(c)で表されることを特徴とする(2)記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化5】

(式(c)中、Rc1,Rc2は互いに異なる有機基を示す。)
【0011】
(4) 前記式(c)中、Rc1,Rc2のいずれか一方は、多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であり、他方は、多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であることを特徴とする(3)記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【0012】
(5) 不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミの2級アルコールのいずれか一方のエナンチオマーとカルボン酸とを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性アルコールの製造方法。
【化6】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化7】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【0013】
(6) 不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミのカルボン酸のいずれか一方のエナンチオマーと下記式(d)で表されるアルコール又は下記式(e)で表されるフェノールとを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化8】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化9】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【化10】

(式(d)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示す。)
【化11】

(式(e)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示し、nは1〜5の整数を示す。複数のRが存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0014】
(7) 前記ラセミのカルボン酸が下記式(f)で表されることを特徴とする(6)記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化12】

(式(f)中、Rf1、Rf2は互いに異なる有機基を示す。)
【0015】
(8) 前記式(f)中、Rf1、Rf2のいずれか一方は、多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であり、他方は、多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であることを特徴とする(7)記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【0016】
(9) ラセミのカルボン酸の動的速度論的光学分割である(6)から(8)のいずれかに記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【0017】
(10) 双極子モーメント3.0以上の極性溶媒中で反応させることを特徴とする(9)記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【0018】
(11) 不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミのカルボン酸のいずれか一方のエナンチオマーと下記式(d)で表されるアルコール又は下記式(e)で表されるフェノールとを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性カルボン酸の製造方法。
【化13】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化14】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【化15】

(式(d)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示す。)
【化16】

(式(e)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示し、nは1〜5の整数を示す。複数のRが存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光学活性化合物の製造に好適なグアニジン骨格を持つ新規不斉触媒を提供することができる。該新規不斉触媒を用いると、ラセミの2級アルコールあるいはラセミのカルボン酸の一方のエナンチオマーを選択的にエステル化して高収率、高エナンチオ選択性で光学活性カルボン酸エステルを製造することができ、他方のエナンチオマーである光学活性アルコールあるいは光学活性カルボン酸を製造することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪新規不斉触媒≫
本発明に係る新規不斉触媒(以下、単に「不斉触媒」という。)は、下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーである。
【化17】

【0021】
上記式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化18】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。
【0022】
保護基Rは、通常の化学合成に用いられる保護基であり、例えば、アルキル基等が挙げられる。
【0023】
有機基Yは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルケニル基、アルコキシアルキニル基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、ヘテロアリールアルキル基、ヘテロアリールアルケニル基、ヘテロアリールアルキニル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリール基、アルコキシアリール基、アルコキシヘテロアリール基等が挙げられる。この有機基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アシル基、ハロゲン原子等によって任意に置換されていてもよい。有機基Yは主に1位の窒素の電子状態に影響を与え、触媒能を調整する。有機基Yが電子供与性の高い基であると、1位の窒素は求核性を増すようになるが、有機基Yの電子供与性が高すぎると、1位の窒素は求核攻撃後、離脱しにくくなる。触媒として働く反応系で用いる化合物に応じて、適宜有機基Yを選択すればよい。
【0024】
この不斉触媒は、ラセミの2級アルコールとカルボン酸とから、又はラセミのカルボン酸と特定のアルコール又はフェノール誘導体とから、光学活性カルボン酸エステルを製造する際等に特に好適に用いることができる。
【0025】
≪ラセミの2級アルコールを用いる光学活性カルボン酸エステルの製造方法≫
本発明に係る光学活性カルボン酸エステルの製造方法は、ラセミの2級アルコールとカルボン酸との反応から、光学活性カルボン酸エステルを製造するに際して、本発明に係る不斉触媒の存在下で反応させ、脱水縮合剤としてカルボン酸無水物又はその誘導体を使用する点に特徴がある。
本発明の製造方法で得られる光学活性カルボン酸エステル及び未反応物として得られる光学活性アルコールは、それぞれラセミの2級アルコールの異なるエナンチオマーに対応する。従って、本発明に係る光学活性カルボン酸エステルの製造方法及び光学活性アルコールの製造方法は、ラセミの2級アルコールの光学分割方法と理解することもできる。
【0026】
[ラセミの2級アルコール]
本発明の製造方法で用いられるラセミの2級アルコールは、特に限定されるものではないが、下記式(c)で表されるものが好ましい。
【化19】

【0027】
上記式(c)中、Rc1,Rc2は互いに異なる有機基を示す。有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルケニル基、アルコキシアルキニル基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、ヘテロアリールアルキル基、ヘテロアリールアルケニル基、ヘテロアリールアルキニル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリール基、アルコキシアリール基、アルコキシヘテロアリール基等が挙げられる。この有機基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アシル基、ハロゲン原子等によって任意に置換されていてもよい。
【0028】
また、Rc1、Rc2は、いずれか一方が多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であり、他方が多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であることが好ましい。これによりエナンチオ選択率を向上させることができる。多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合可能な有機基としては、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基が好ましく、多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合可能な有機基としては、アルキル基が好ましい。これらのアリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルキル基は、置換基を有していてもよい。
【0029】
[カルボン酸]
ラセミの2級アルコールと反応させるカルボン酸も、任意のものを用いることができる。例えば、RCOOHで示されるカルボン酸において、Rとして、アルキル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基等を有するカルボン酸が挙げられる。これらの基は、置換基を有してもよく、分子中に二重結合又は三重結合が含まれていてもよい。Rとしては、C、CHCH(CH、Ph(CH、Ph(CH、CHCH(CH、CHOCH、c−C11等を有するカルボン酸が挙げられる。
【0030】
[カルボン酸無水物]
カルボン酸無水物は、脱水縮合剤として作用する。酸無水物としては、安息香酸、フェニル基にアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アルコキシアルキル基等の電子供与性基が結合した安息香酸、又はα位が4級炭素である多置換カルボン酸から得られるものが好ましく、安息香酸、炭素数1〜3のアルキル基又はアルコキシ基が結合した1〜3置換の安息香酸、ピバル酸、2−メチル−2−フェニルプロピオン酸、又は2,2−ジフェニルプロピオン酸から得られるものがより好ましい。
【0031】
[反応条件]
本発明の反応は、溶媒中に不斉触媒、脱水縮合剤、ラセミの2級アルコール及びカルボン酸を投入することによって行われる。溶媒中への投入方法は任意であり、これらを順次投入してもよいし、同時に投入してもよい。反応温度は−23℃〜30℃、反応時間は10分間〜72時間が好ましい。
【0032】
溶媒は制限されないが、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロベンゼン等を用いるのが好ましい。
【0033】
それぞれの添加量は限定されるものではないが、速度論的光学分割の場合は、通常、ラセミの2級アルコール1当量に対して、それぞれカルボン酸0.5当量〜1.0当量、触媒0.1モル%〜10モル%が用いられる。脱水縮合剤は、カルボン酸に対して0.5当量〜1.5当量用いられる。また、反応促進剤として、塩基を用いてもよい。塩基としては、求核性を有さない有機塩基が好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられ、カルボン酸に対して0〜3当量用いられる。
【0034】
速度論的光学分割により、光学活性カルボン酸エステルが生成し、未反応物として光学活性2級アルコールが回収される。
【0035】
反応の停止には、飽和炭酸水素ナトリウム水を加えた後、有機層を分取し、水層を有機層で抽出し、これらの有機層を混合し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。その後、ろ過、減圧濃縮し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーを用いて分取することにより、対応する光学活性カルボン酸エステル及び未反応の2級アルコールが得られる。
【0036】
≪ラセミのカルボン酸を用いる光学活性カルボン酸エステルの製造方法≫
本発明に係る光学活性カルボン酸エステルの製造方法は、ラセミのカルボン酸と特定のアルコール又はフェノール誘導体との反応から、光学活性カルボン酸エステルを製造するに際して、本発明に係る不斉触媒の存在下で反応させ、脱水縮合剤としてカルボン酸無水物又はその誘導体を使用する点に特徴がある。
本発明の製造方法で得られる光学活性カルボン酸エステル及び未反応物として得られる光学活性カルボン酸は、それぞれラセミのカルボン酸の異なるエナンチオマーに対応する。従って、本発明に係る光学活性カルボン酸エステルの製造方法及び光学活性カルボン酸の製造方法は、ラセミのカルボン酸の光学分割方法と理解することもできる。
【0037】
[ラセミのカルボン酸]
本発明の製造方法で用いられるラセミのカルボン酸は、特に限定されるものではないが、下記式(f)のようにカルボキシル基のα位に不斉炭素を有するものが好ましい。
【化20】

【0038】
上記式(f)中、Rf1、Rf2は互いに異なる有機基を示す。有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルケニル基、アルコキシアルキニル基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、ヘテロアリールアルキル基、ヘテロアリールアルケニル基、ヘテロアリールアルキニル基、アルキルアリール基、アルキルヘテロアリール基、アルコキシアリール基、アルコキシヘテロアリール基等が挙げられる。この有機基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アシル基、ハロゲン原子等によって任意に置換されていてもよい。
【0039】
また、Rf1、Rf2は、いずれか一方が多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であり、他方が多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であることが好ましい。これによりエナンチオ選択率を向上させることができる。多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合可能な有機基としては、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基が好ましく、多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合可能な有機基としては、アルキル基が好ましい。これらのアリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルキル基は、置換基を有していてもよい。
【0040】
[アルコール]
本発明の製造方法で用いられるアルコールは、下記式(d)で表される。
【化21】

【0041】
上記式(d)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示す。Rの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。Rとしては特に、2−トリル基、1−ナフチル基、9−フェナントリル基が好ましい。このようなアルコールを用いることで、高いエナンチオ選択率で光学活性カルボン酸エステルを製造することができる。
【0042】
[フェノール誘導体]
本発明の製造方法で用いられるフェノール誘導体は、下記式(e)で表される。
【化22】

【0043】
上記式(e)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示し、ナフチル基が好ましい。Rの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。nは1〜5の整数であり、n=2が好ましい。複数のRが存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。このようなフェノール誘導体の中でも、フェノールの2,6位がナフチル基によって置換されたものが好ましい。
【0044】
[カルボン酸無水物]
本発明の製造方法で用いられるカルボン酸無水物は、脱水縮合剤として作用する。カルボン酸無水物としては、安息香酸、フェニル基にアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アルコキシアルキル基等の電子供与性基が結合した安息香酸、又はα位が4級炭素である多置換カルボン酸から得られるものが好ましく、安息香酸、炭素数1〜3のアルキル基又はアルコキシ基が結合した1〜3置換の安息香酸、ピバル酸、2−メチル−2−フェニルプロピオン酸、又は2,2−ジフェニルプロピオン酸から得られるものがより好ましい。
【0045】
[反応条件]
本発明の反応は、溶媒中に不斉触媒、脱水縮合剤、ラセミのカルボン酸及びアルコールを投入することによって行われる。溶媒中への投入方法は任意であり、これらを順次投入してもよいし、同時に投入してもよい。反応温度は−23℃〜30℃、反応時間は10分間〜72時間が好ましい。
【0046】
速度論的光学分割により、光学活性カルボン酸エステルと未反応物として回収される光学活性カルボン酸を得るには、溶媒として、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル等の極性の低い溶媒を用いるのが好ましい。動的速度論的光学分割により、未反応の光学活性カルボン酸をラセミ化して必要とするエナンチオマーを増加させ、光学活性カルボン酸エステルを高い収率で得るには、溶媒として、双極子モーメントが3.0以上である極性溶媒を用いるのが好ましい。このような極性溶媒としては、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。双極子モーメントが3.0以上である極性溶媒を用いることにより、光学活性カルボン酸のラセミ化が起こりやすくなる。
【0047】
それぞれの添加量は限定されるものではないが、速度論的光学分割の場合は、通常、カルボン酸1当量に対して、それぞれアルコール又はフェノール誘導体0.5当量〜1.0当量、触媒0.1モル%〜10モル%が用いられる。脱水縮合剤は、カルボン酸に対して0.5当量〜1.5当量用いられる。また、反応促進剤として、塩基を用いてもよい。塩基としては、求核性を有さない有機塩基が好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられる。カルボン酸に対して1.0〜3.0当量添加してもよい。
【0048】
動的速度論的光学分割の場合は、アルコール又はフェノール誘導体は、ラセミのカルボン酸がすべて消費されて光学活性カルボン酸エステルに変換するために、ラセミのカルボン酸に対して当量以上用いることが好ましく、1.0〜1.5当量用いることがより好ましい。酸無水物は、カルボン酸と混合酸無水物をつくり、エナンチオ選択的にエステル化を進行させる中間体となるために必要であり、カルボン酸に対して当量以上用いることが好ましく、1.0〜5当量用いることがより好ましい。不斉触媒は、エナンチオ選択的にエステル化を進行させるために必要であり、ラセミのカルボン酸に対し、0.1〜10モル%用いることが好ましい。反応促進剤として有機塩基を1.2〜4.8当量添加してもよい。
【0049】
反応の停止には、飽和塩化アンモニウム水又は1規定塩酸を加えた後、有機層を分取し、水層を有機層で抽出し、これらの有機層を混合し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。その後、ろ過、減圧濃縮し、シリカゲル薄層クロマトグラフィーを用いて分取することにより、対応する光学活性カルボン酸エステル及び未反応のカルボン酸が得られる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
以下の実施例では、次の不斉触媒を用いた。
【化23】

【0052】
[合成例1:不斉触媒(R)−1aの合成]
【化24】

【0053】
N−メチルベンゾイミダゾール(2)(655.3mg,4.96mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(20mL)に対し、−78℃でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.66M,3.20mL,5.31mmol)を滴下した。反応混合液を−78℃で1時間撹拌した後、四塩化炭素(507μL,5.25mmol)を滴下し、反応混合液を−78℃で1.5時間撹拌した。水を加え反応を停止し、塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフで精製し2−クロロ−N−メチルベンゾイミダゾールと2−ブチル−N−メチルベンゾイミダゾールを混合物として得た(581.2mg)。これらをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、2−クロロ−N−メチルベンゾイミダゾール(3)(435.4mg,52%)と2−ブチル−N−メチルベンゾイミダゾール(4)(123.6mg,13%)とを得た。
【0054】
20mLのオートクレーブ中に2−クロロ−N−メチルベンゾイミダゾール(3)(1.45g,8.70mmol)、(R)−フェニルグリシノール(1.25g,9.11mmol)、及びジイソプロピルエチルアミン(6.80mL,39.0mmol)を順次加え、封管し、130℃で48時間撹拌した。室温まで放冷した後、反応混合物をメタノールと塩化メチレンで希釈し、300mL二口ナスフラスコに移した。反応物を真空下で濃縮し中間体を粗生成物として得た。精製すること無く、そのまま次の反応に用いた。
【0055】
上記の粗精製物及びトリエチルアミン(7.28mL,52.2mmol)を含む塩化メチレン溶液(87.0mL)に対して、メタンスルホニルクロリド(2.02mL,26.1mmol)を0℃で滴下した。反応混合物を0℃で1時間撹拌後、メタノール(1.76mL,43.4mmol)及びトリエチルアミン(18.2mL,130.6mmol)を順次加えた。反応混合物を55℃で19.5時間撹拌後、0℃に冷却し、1M水酸化ナトリウム水溶液を加え反応を停止した。有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステル及び未反応の光学活性アルコールをカラムクロマトグラフィにより精製し、(R)−(+)−N−メチルベンゾグアニジン((R)−1a)(1.72g,79%)を得た。さらにシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより精製し、得られた固体をジエチルエーテルで洗浄し、白色の不斉触媒(R)−1a(843.7mg,39%)を得た。不斉触媒(R)−1aの物性値は以下の通りである。
【0056】
【化25】

[α]22=+116.1(c=1.00,benzene);
Mp. 101−102℃;
IR(KBr):1653,1604,1496,763,737,704cm−1
H NMR(CDCl):δ7.42−7.39(m,2H,Ph),7.37−7.32(m,2H,Ph),7.26(dt,J=7.3,1.5Hz,1H,Ph),6.96(ddd,J=8.3,7.5,2.0Hz,2H,Ar),6.85−6.79(m,1H,Ar),6.74−6.68(m,1H,Ar),5.57(dd,J=9.0,8.0Hz,1H,2−H),4.26(dd,J=9.0,9.0Hz,1H,3−H),3.70(dd,J=9.0,8.0Hz,1H,3−H),3.43(s,3H,Me);
13C NMR(CDCl):δ162.3,144.2,138.0,130.7,128.5,127.2,126.6,120.9,120.3,107.0,106.7,73.4,53.3,28.6;
HR MS:calcd for C1616(M+H)250.1339,found 250.1328.
【0057】
[合成例2:不斉触媒(R)−1bの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−(R)−(1−ナフチル)エチルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1bを合成した。物性値は以下の通りである。
【0058】
【化26】

H NMR(CDCl):δ8.43(d,J=7.8Hz,1H,Ph),7.82−7.63(m,3H,Ph),7.50−7.30(m,7H,Ph),7.28−7.20(m,1H,Ph),6.67(dt,J=1.2,7.0Hz,1H,Ar),6.23(q,J=6.9Hz,1H,1’−H),5.62(dd,J=9.0,6.3Hz,1H,2−H),4.20(dd,J=9.0,8.7Hz,1H,3−H),3.67(dd,J=8.7,6.3Hz,1H,3−H),1.97(d,J=6.9Hz,3H,2’−H);
13C NMR(CDCl):δ161.2,145.0,135.5,134.9,133.9,131.7,130.7,129.1,128.7,128.6,127.3,126.62,126.58,125.8,124.7,124.5,124.2,120.5,119.8,109.5,106.5,73.4,53.1,49.8,17.0.
【0059】
[合成例3:不斉触媒(R)−1cの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−(R)−1−(2−ナフチル)エチルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1cを合成した。物性値は以下の通りである。
【0060】
【化27】

H NMR(CDCl):δ7.93(s,1H,Ph),7.87−7.83(m,1H,Ph),7.81(d,J=8.5Hz,2H,Ph),7.58(dd,J=8.5,2.0Hz,1H,Ph),7.51−7.42(m,4H,Ph),7.37(t,J=8.0Hz,2H,Ph),7.30−7.25(m,1H,Ph),6.85(t,J=7.5Hz,1H,Ar),6.72−6.65(m,2H,Ar),6.56(d,J=7.5Hz,1H,Ar),5.80(q,J=7.0Hz,1H,1’−H),5.66(dd,J=9.5,7.0Hz,1H,2−H),4.30(t,J=9.0Hz,1H,3−H),3.76(dd,J=8.5,7.0Hz,1H,3−H),
2.07(d,J=7.0Hz,3H,2’−H);
13C NMR(CDCl):δ161.9,144.7,137.7,135.8,133.2,132.8,131.0,128.6,128.6,128.5,128.1,127.6,127.3,126.6,126.2,126.1,125.4,125.2,120.8,120.0,109.5,106.7,73.4,53.2,17.5.
【0061】
[合成例4:不斉触媒(R)−1dの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−(S)−1−フェニル−2−メトキシエチルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1dを合成した。物性値は以下の通りである。
【0062】
【化28】

H NMR(CDCl):δ7.46(d,J=7.5Hz,2H,Ph),7.29−7.12(m,8H,Ph),6.78(dt,J=1.0,7.5Hz,1H,Ar),6.72(dt,J=1.0,7.5Hz,1H,Ar),6.66(d,J=8.0Hz,1H,Ar),6.55(dd,J=8.0,1.0Hz,1H,Ar),5.52(dd,J=9.5,7.5Hz,1H,1’−H),5.39(dd,J=8.5,5.5Hz,1H,2−H),4.55(dd,J=10.0,8.5Hz,1H,2−H),4.15(dd,J=9.5,8.5Hz,1H,2’−H),3.99(dd,J=10.0,5.5Hz,1H,2−H),3.51(dd,J=8.5,7.5Hz,1H,2’−H),3.34(s,3H,OMe);
13C NMR(CDCl):δ161.4,144.7,137.1,136.8,130.7,128.5,128.4,127.8,127.1,126.5,120.8,119.9,108.5,106.5,73.5,71.6,58.9,57.6,52.9.
【0063】
[合成例5:不斉触媒(R)−1eの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−(S)−1−フェニルエチルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1eを合成した。物性値は以下の通りである。
【0064】
【化29】

二種の回転異性体を含む
H NMR(CDCl):δ7.45−7.14(m,10H,Ph),6.84−6.75(m,1H,Ar),6.72−6.55(m,2H,Ar),6.47(d,J=8.1Hz,1H,Ar),5.62−5.44(m,2H,1−H,1’−H),4.26−4.15(m,1H,2−H),3.68−3.53(m,1H,2−H),1.92−1.85(m,3H,2’−H);
13C NMR(CDCl):δ161.8,144.7,144.5,140.2,140.1,136.0,135.9,131.1,131.0,128.60,128.57,128.54,127.5,127.24,127.21,126.9,126.8,126.7,126.5,120.78,120.76,120.01,119.95,109.40,109.35,106.7,106.6,73.4,73.3,53.3,53.11,53.05,17.6.
【0065】
[合成例6:不斉触媒(R)−1fの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−(R)−1−フェニルエチルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1fを合成した。物性値は以下の通りである。
【0066】
【化30】

H NMR(CDCl):δ7.39−7.06(m,10H,Ph),6.71(t,J=7.5Hz,1H,Ar),6.59(dt,J=0.9,7.5Hz,1H,Ar),6.49(d,J=7.5Hz,1H,Ar),6.42(d,J=7.5Hz,1H,Ar),5.59−5.43(m,2H,1−H,1’−H),4.08(t,J=9.0Hz,1H,−H),3.55(dd,J=8.4,6.9Hz,1H,2−H),
1.83(d,J=7.2Hz,3H,2’−H);
13C NMR(CDCl):δ161.5,144.5,140.0,135.5,130.7,128.34,128.30,127.3,126.9,126.5,126.3,120.5,120.0,109.0,106.4,73.1,52.8,52.7,17.4.
【0067】
[合成例7:不斉触媒(R)−1gの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−ベンジルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1gを合成した。物性値は以下の通りである。
【0068】
【化31】

H NMR(CDCl):δ7.36−7.31(m,4H,Ph),7.30−7.23(m,4H,Ph),7.22−7.16(m,2H,Ph),6.85(t,J=7.5Hz,1H,Ar),6.78(t,J=7.5Hz,1H,Ar),6.64(t,J=7.5Hz,2H,Ar),5.55(dd,J=10.0,7.5Hz,1H,1−H)5.00(d,J=15.5Hz,1H,1’−H),4.97(d,J=15.5Hz,1H,1’−H),4.23(dd,J=10.0,8.5Hz,1H,2−H),3.65(dd,J=8.5,7.5Hz,1H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ162.1,144.4,137.2,136.2,130.9,128.7,128.6,127.7,127.5,127.3,126.6,121.1,120.3,108.0,106.8,73.5,53.5,46.5.
【0069】
[合成例8:不斉触媒(R)−1hの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−イソプロピルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1hを合成した。物性値は以下の通りである。
【0070】
【化32】

H NMR(CDCl):δ7.32−7.09(m,5H,Ph),6.84−6.77(m,3H,Ar),6.60−6.53(m,1H,Ar),5.46(dd,J=9.0,7.5Hz,1H,1−H),4.39(sq,J=0.9Hz,1H,1’−H),4.09(dd,J=9.0,8.7Hz,1H,2−H),3.50(dd,J=8.7,7.5Hz,1H,2−H),1.49(d,J=6.9Hz,6H,2’−H);
13C NMR(CDCl):δ160.9,144.5,136.2,130.8,128.3,127.0,126.4,120.3,119.8,108.2,106.5,73.3,52.6,46.5,19.9,19.8.
【0071】
[合成例9:不斉触媒(R)−1iの合成]
N−メチルベンゾイミダゾールの代わりに、N−エチルベンゾイミダゾールを用いる他は合成例1と同様の手法で不斉触媒(R)−1iを合成した。物性値は以下の通りである。
【0072】
【化33】

H NMR(CDCl):δ7.38(d,J=7.0Hz,2H,Ph),7.33(dd,J=7.5,7.0Hz,2H,Ph),7.24(d,J=7.5Hz,1H,Ph),6.97−6.89(m,2H,Ar),6.86−6.80(m,1H,Ar),6.72−6.66(m,1H,Ar),5.57(t,J=8.5Hz,1H,1−H),4.24(dd,J=8.5,7.5Hz,1H,2−H),3.91(q,J=7.0Hz,2H,1’−H),3.66(dd,J=8.5,7.5Hz,1H,2−H),1.39(t,J=7.0Hz,3H,2’−H);
13C NMR(CDCl):δ161.5,144.4,137.0,130.8,128.5,127.2,126.6,120.7,120.2,107.1,106.7,73.4,53.2,37.4,13.2.
【0073】
[試験例1 反応条件の検討]
【化34】

【0074】
1−フェニル−1−プロパノール(7)を基質とする不斉エステル化による速度論的光学分割において、溶媒効果及び塩基の有無による反応条件を検討した。
【0075】
表1に示す反応条件で3−フェニルプロピオン酸0.75当量を含む、各溶媒0.2モル中に、ピバル酸無水物0.9当量、ジイソプロピルエチルアミンを0あるいは1.8当量、不斉触媒(R)−1aを5モル%、及び1−フェニル−1−プロパノール1当量を室温で順番に加え、化学式に従って室温で12時間反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水を加え反応を停止した。塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性カルボン酸エステル及び未反応の光学活性アルコールをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、それぞれの化合物を得た。
【0076】
エナンチオ選択率(ee)は、キラルカラムによるHPLC分析法により決定した。
s値は、Kaganらの方法(Top.Stereochem.,1988,vol1
8,p249−330)によって、以下のように算出した。
s=[ln(1−C)(1−回収アルコールのee)]/[ln(1−C)(1+回収
アルコールのee)]。
変換率C(%)=[回収アルコールのee]/[(回収アルコールのee)+(生成し
たエステルのee)
【0077】
【表1】

【0078】
表1から分かるように一般的に有機合成で用いられるいずれの溶媒を用いた場合にも、反応速度比sが26以上と非常に高いものであった(No.1〜6)。また、反応性及び選択性はジイソプロピルエチルアミンの有無に依らないことが分かった。得られた光学活性カルボン酸エステル(R)−8aの物性値は以下の通りである。
【0079】
【化35】

IR(neat):3031,1741,1604,1496,752,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.27−7.14(m,7H,Ph),7.13−7.07(m,3H,Ph),5.59(t,J=7.0Hz,1H,1−H),2.87(t,J=8.0Hz,2H,2’−H),2.61(ddd,J=16.0,9.0,9.0Hz,1H,3’−H),2.57(ddd,J=16.0,9.6,9.0Hz,1H,3’−H),1.86−1.66(m,2H,2−H),0.76(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ172.2,140.48,140.46,128.4,128.3,128.2,127.7,126.5,126.2,77.4,36.1,30.9,29.3,9.8;
HR MS:calcd for C1820Na(M+Na)291.1356,found 291.1344.
【0080】
[試験例2 カルボン酸の種類の検討]
【化36】

【0081】
1−フェニル−1−プロパノール(7)を基質とする不斉エステル化による速度論的光学分割において、アシルドナーとして用いるカルボン酸を検討した。
【0082】
表2に示す反応条件で種々のカルボン酸0.75当量を含む、ジエチルエーテル0.2モル中に、ピバル酸無水物0.9当量、不斉触媒(R)−1aを5モル%、1−フェニル−1−プロパノール(7)1当量を室温で順番に加え、化学式に従って室温で24時間反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水を加え反応を停止した。塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステル及び未反応の光学活性アルコールをシリカゲル薄層クロマトグラフィにより分離し、それぞれの化合物を得た。
【0083】
【表2】

【0084】
表2から分かるようにいずれのカルボン酸を用いた場合にも、反応速度比sが22以上と非常に高いものであった(No.7〜13)。直鎖のカルボン酸に比べ、分岐したカルボン酸を適用した際に高い選択性を与え、特にジフェニル酢酸を用いたときに最も高いs値73が得られた。得られた光学活性カルボン酸エステルの物性値は以下の通りである。
【0085】
【化37】

(No.8)
IR(neat):3030,1734,1603,1496,749,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.23−6.99(m,10H,Ph),5.60(t,J=7.0Hz,1H,1−H),2.53(t,J=7.5Hz,2H,2’−H),2.29(dt,J=16.2,7.5Hz,1H,4’−H),2.24(dt,J=16.2,6.6Hz,1H,4’−H),1.93−1.65(m,4H,2−H,3’−H),0.80(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ172.7,141.4,140.6,128.4,128.3,128.3,127.7,126.5,125.9,77.2,35.0,33.8,29.3,26.5,9.9;
HR MS:calcd for C1922Na(M+Na)305.1512,found 305.1507.
【0086】
【化38】

(No.9)
IR(neat):3034,1734,1604,1495,756,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.30−7.16(m,5H,Ph),5.60(dd,J=7.5,6.6Hz,1H,1−H),2.34−2.22(m,2H,2’−H),1.93−1.65(m,2H,2−H),1.06(t,J=7.5Hz,3H,3’−H),0.81(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ173.8,140.7,128.3,127.7,126.5,77.1,29.4,27.8,9.9,9.1;
HR MS:calcd for C1216Na(M+Na)215.1043,found 215.1049.
【0087】
【化39】

(No.10)
IR(neat):3033,1742,1604,1495,757,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.31−7.13(m,5H,Ph),5.59(t,J=7.5Hz,1H,1−H),2.33−2.17(m,2H,2’−H),1.93−1.63(m,2H,2−H),1.52−1.36(m,3H,3’−H,4’−H),0.88−0.73(m,9H,3−H,Me,Me);
13C NMR(CDCl):δ173.3,140.7,128.3,127.7,126.5,77.0,33.7,32.6,29.3,27.6,22.19,22.15,9.9;
HR MS:calcd for C1522Na(M+Na)257.1512,found 257.1509.
【0088】
【化40】

(No.11)
IR(neat):3033,1735,1642,1495,755,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.27−7.15(m,5H,Ph),5.76−5.67(m,1H,4’−H),5.60(t,J=7.5Hz,1−H),4.98−4.86(m,2H,5’−H),2.39−2.25(m,4H,2’−H,3’−H),1.89−1.68(m,2H,2−H),0.80(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ172.3,140.5,136.6,128.3,127.7,126.5,115.4,77.2,33.7,29.3,28.8,9.9;
HR MS:calcd for C1418Na(M+Na)241.1199,found 241.1207.
【0089】
【化41】

(No.12)
IR(neat):3032,1736,1450,756,702cm−1
H NMR(CDCl):δ7.36−7.22(m,5H,Ar),5.66(dd,J=7.2,6.2Hz,1H,1−H),2.33(tt,J=11.3,3.6Hz,2’−H),1.99−1.15(m,12H,2−H,c−Hex),0.88(t,J=7.6Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ175.3,140.9,128.3,127.6,126.3,76.7,43.3,29.5,29.0,28.9,25.7,25.42,25.39,9.9;
HR MS:calcd for C1622Na(M+Na)269.1512,found 269.1525.
【0090】
【化42】

(No.13)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=10.9min(93.4%),t=18.0min(46.6%);
IR(neat):3031,1736,1601,1495,1453,748,699cm−1
H NMR(CDCl):δ7.32−7.15(m,15H,Ar),5.71(dd,J=6.9,6.6Hz,1H,1−H),5.06(s,1H,2’−H),1.88(ddq,J=14.1,7.2,6.9Hz,1H,2−H),1.77(ddq,J=14.1,7.2,6.6Hz,1H,2−H),0.79(t,J=7.2Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.7,140.1,138.7,138.5,128.7,128.6,128.5,128.4,128.2,127.7,127.13,127.07,126.5,78.2,57.2,29.2,9.8;
HR MS:calcd for C2322Na(M+Na)353.1512,found 353.1512.
【0091】
[試験例3 ラセミの2級アルコールの検討(1)]
【化43】

【0092】
2−フェニルアルキルアルカノール類を基質とする速度論的光学分割を検討した。
【0093】
表3に示す反応条件でジフェニル酢酸あるいは3−フェニルプロピオン酸0.75当量を含む、ジエチルエーテル0.2モル中に、ピバル酸無水物0.9当量、不斉触媒(R)−1aを5モル%、種々の2−フェニルアルキルアルカノール類(9)1当量を室温で順番に加え、化学式に従って室温で12あるいは24時間反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水を加え反応を停止した。塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステル及び未反応の光学活性アルコールをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、それぞれの化合物を得た。
【0094】
【表3】

【0095】
表3から分かるようにRが直鎖のアルキル基(メチル、エチル基)の場合はジフェニル酢酸が効果的であり、高いs値を与えた(No.14,15)。Rが分岐したアルキル基(イソプロピル、tert−ブチル基)の場合はジフェニル酢酸の代わりに、3−フェニルプロピオン酸が有効であり、反応は高い選択性で進行した(No.18,19)。得られた光学活性カルボン酸エステル及び未反応の光学活性アルコールの物性値は以下の通りである。
【0096】
【化44】

(No.14)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=1.0mL/min):t=11.5min(94.7%),t=27.4min(5.3%);
IR(neat):3032,1735,1603,1496,745,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.24−7.11(m,15H,Ar),5.86(q,J=6.5Hz,1H,1−H),4.97(s,1H,1’−H),1.43(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,141.3,138.7,138.5,128.6,128.6,128.48,128.45,128.3,127.8,127.2,127.1,126.0,73.1,57.2,22.0;
HR MS:calcd for C2220Na(M+Na)339.1356,found 339.1367.
【0097】
【化45】

(No.15)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=10.8min(96.0%),t=27.4min(4.0%);
IR(neat):3032,1735,1603,1496,745,700cm−1
H NMR(CDCl):δ7.24−7.11(m,15H,Ar),5.86(q,J=6.5Hz,1H,1−H),4.97(s,1H,1’−H),1.43(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,141.3,138.7,138.5,128.6,128.6,128.48,128.45,128.3,127.8,127.2,127.1,126.0,73.1,57.2,22.0;
HR MS:calcd for C2220Na(M+Na)339.1356,found 339.1367.
【0098】
【化46】

(No.16)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=1.0mL/min):tR=9.7min(93.9%),tR=21.8min(6.1%);
IR(neat):3032,1736,1599,1496,742,696cm−1
H NMR(CDCl):δ7.25−7.03(m,15H,Ar),5.42(d,J=7.5Hz,1H,1−H),4.99(s,3H,1’−H),1.97(dqq,J=7.5,6.6,6.6Hz,1H,2−H),0.77(d,J=6.6Hz,3H,3−H),0.65(d,J=6.6Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,139.2,138.7,138.5,128.73,128.68,128.44,128.40,128.0,127.6,127.2,127.1,127.0,81.8,57.4,33.5,18.6,18.3;
HR MS:calcd for C2424Na(M+Na)367.1669,found 367.1651.
【0099】
【化47】

(No.17)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=11.0min(93.4%),t=18.8min(6.6%);
IR(KBr):3031,1737,1599,1491,741,701cm−1
H NMR(CDCl):δ7.29−7.15(m,13H,Ar),7.08−7.06(m,2H,Ar),5.48(s,1H,1−H),5.07(s,1H,1’−H),0.79(s,9H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.3,138.7,138.5,138.0,128.82,128.79,128.4,128.4,127.7,127.4,127.4,127.2,127.1,83.8,57.6,35.0,25.9;
HR MS:calcd for C2526Na(M+Na)381.1825,found 381.1824.
【0100】
【化48】

(No.18)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=11.4min(95.2%),t=16.5min(4.8%).
IR(neat):3030,1734,1604,1496,751,699cm−1
H NMR(CDCl):δ7.28−7.02(m,10H,Ph),5.41(d,J=7.5Hz,1H,1−H),2.88(t,J=7.5Hz,2H,2’−H),2.65−2.53(m,2H,3’−H),2.07−1.83(m,1H,2−H),0.85(d,J=7.0Hz,3H,Me),0.70(d,J=7.0Hz,3H,Me);
13C NMR(CDCl):δ172.1,140.4,139.6,128.4,128.2,128.1,127.6,127.0,126.2,81.0,36.0,33.4,30.9,18.6,18.4;
HR MS:calcd for C1922Na(M+Na)305.1512, found 305.1520.
【0101】
【化49】

(No.19)
HPLC (CHIRALPAK IC,i−PrOH/hexane=1/100,flow rate=0.5mL/min):t=16.0min(96.9%),t=21.9min(3.1%).
IR(neat):3030,1737,1604,1496,740,702cm−1
H NMR(CDCl):δ7.40−7.17(m,10H,Ph),5.53(s,1H,1−H),3.00(t,J=7.5Hz,2H,2’−H),2.79−2.68(m,2H,3’−H),0.93(s,9H,t−Bu);
13C NMR(CDCl):δ172.0,140.4,138.4,128.5,128.2,127.7,127.6,127.4,126.2,82.9,36.0,35.0,30.9,26.0;
HR MS:calcd for C2024Na(M+Na)319.1669,found 319.1660.
【0102】
【化50】

(No.14)
HPLC(CHIRALCEL OD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=1.0mL/min):t=18.8min(10.2%),t= 23.3min(89.8%);
H NMR(CDCl):δ7.41−7.23(m,5H,Ar),4.88(q,J=6.5Hz,1H,1−H),1.98−1.87(br−s,1H,OH),
1.48(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ145.8,128.5,127.4,125.3,70.4,25.1.
【0103】
【化51】

(No.15)
HPLC(CHIRALCEL OD−H,i−PrOH/hexane=1/100,flow rate=0.75mL/min):t=26.3min(6.5%),t=31.8min(93.5%);
H NMR(CDCl):δ7.12−6.96(m,5H,Ph),4.31(dt,J=3.0,6.6Hz,1H,1−H),1.79(d,J=3.0Hz,1H,OH),1.64−1.38(m, 2H,2−H),0.65(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ144.5,128.3,127.4,125.9,75.9,31.8,10.1.
【0104】
【化52】

(No.18)
HPLC(CHIRALCEL OD−Hx2,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=21.9min(98.6%),t=24.5min(1.4%);
IR(neat):3398,3029,1604,1492,760,701cm−1
H NMR(CDCl):δ7.31−7.15(m,5H,Ph),4.27(dd,J=6.6,3.0Hz,1H,1−H),1.95−1.79(m,2H,2−H,OH),0.92(d,J=6.6Hz,3H,Me),0.72(d,J=6.6Hz,3H,Me);
13C NMR(CDCl):δ143.6,128.1,127.4,126.5,80.0,35.2,19.0,18.2;
HR MS:calcd for C1014ONa(M+Na) 173.0937,found 173.0930.
【0105】
【化53】

(No.19)
HPLC (CHIRALCEL OD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=19.4min(86.1%),t=29.6min(13.9%);
H NMR(CDCl):δ7.26−7.13(m,5H,Ph),4.30(d,J=2.7Hz,1H,1−H),1.78(br−s,1H,OH),0.83(s,9H,t−Bu);
13C NMR(CDCl):δ142.1,127.6,127.5,127.2,82.4,35.6,25.9.
【0106】
[試験例4 ラセミの2級アルコールの検討(2)]
【化54】

【0107】
2−アリールアルキルアルカノール類を基質とする速度論的光学分割を検討した。
【0108】
表4に示す反応条件でジフェニル酢酸0.75当量を含む、ジエチルエーテル0.2モル中に、ピバル酸無水物0.9当量、不斉触媒(R)−1aを5モル%、種々の2−アリールアルキルアルカノール類(11)1当量を室温で順番に加え、化学式に従って室温で12時間反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水を加え反応を停止した。塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステル及び未反応の光学活性アルコールをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、それぞれの化合物を得た。
【0109】
【表4】

【0110】
表4から分かるように芳香環上の置換基の電子的効果並びに立体的効果に関わらず、いずれも高いs値を与えた。得られた光学活性カルボン酸エステル及び未反応の光学活性アルコールの物性値は以下の通りである。
【0111】
【化55】

(No.20)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=10.1min(94.7%),t=18.7min(5.3%);
IR(neat):3029,1734,1596,1517,818,749,697cm−1
H NMR(CDCl):δ7.26−7.10(m,10H,Ar),7.06−6.98(m,4H,Ar),5.83(q,J=6.6Hz,1H,1−H),4.95(s,1H,1’−H),2.24(s,3H,p−Me),1.42(d,J=6.6Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,138.7,138.6,138.3,137.5,129.0,128.6,128.6,128.5,128.4,127.13,127.08,126.0,73.1,57.2,22.0,21.1;
HR MS:calcd for C2322Na(M+Na)353.1512,found 353.1497.
【0112】
【化56】

(No.21)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=13.5min(93.2%),t=26.2min(6.8%);
IR(neat):2979,1656,1608,829,742,698cm−1
H NMR(CDCl):δ7.25−7.08(m,12H,Ar),6.74(dt,J=9.5,2.5Hz,2H,Ar),5.83(q,J=6.5Hz,1H,1−H),4.94(s,1H,1’−H),3.70(s,3H,p−MeO),1.42(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,159.2,138.8,138.6,133.4,128.6,128.6,128.5,128.4,127.6,127.13,127.07,113.7,72.9,57.2,55.2,21.8;
HR MS:calcd for C2322Na(M+Na)369.1461,found 369.1460.
【0113】
【化57】

(No.22)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=10.2min(90.6%),t=17.6min(9.4%);
IR(neat):3033,1735,1606,1514,841,743,697 cm−1
H NMR(CDCl):δ7.25−7.08(m,12H,Ar),6.91−6.85(m,2H,Ar),5.84(q,J=6.5Hz,1H,1−H),4.95(s,1H,1’−H),1.42(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.5,162.3(d,J=245.9Hz),138.6,138.4,137.1(d,J=3.14Hz),128.62,128.58,128.51,128.51,127.9(d,J=7.16Hz),127.21,127.18,115.2(d,J=21.7Hz),72.5,57.2,22.0;
HR MS:calcd for C2219FONa(M+Na)357.1261,found 357.1254.
【0114】
【化58】

(No.23)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=14.7min(95.1%),t=23.1min(4.9%);
IR(neat):3030,1733,1596,1496,753,697cm−1
H NMR(CDCl):δ7.26−7.12(m,10H,Ar),7.11−7.00(m,4H,Ar),6.04(q,J=6.5Hz,1H,1−H),4.98(s,1H,1’−H),2.24(s,3H,o−Me),1.41(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,139.7,138.7,138.4,134.7,130.3,128.7,128.6,128.50,128.48,127.6,127.2,127.1,126.1,125.3,70.2,57.2,21.2,18.9;
HR MS:calcd for C2322Na(M+Na)353.1512,found 353.1498.
【0115】
【化59】

(No.24)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.35mL/min):t=16.9min(93.9%),t=26.5min(6.1%);
IR(neat):3058,1734,1600,1496,777,748,698cm−1
H NMR(CDCl):δ7.92−7.82(m,1H,Ar),7.78−7.61(m,2H,Ar),7.37−7.10(m,14H,Ar),6.40(q,J=6.6Hz,1H,1−H),5.01(s,1H,1’−H),1.58(d,J=6.6Hz,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,138.6,138.4,137.0,133.7,130.1,128.8,128.7,128.7,128.52,128.47,128.40,127.19,127.16,126.2,125.6,125.2,123.2,123.1,70.3,57.2,21.5;
HR MS:calcd for C2622Na(M+Na)389.1512,found 389.1511.
【0116】
【化60】

(No.25)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.75mL/min):t=8.5min(92.6%),t=22.6min(7.4%);
IR(neat):3057,1734,1602,1495,821,746,698cm−1
H NMR(CDCl):δ7.72−7.64(m,2H,Ar),7.63−7.58(m,1H,Ar),7.53(s,1H,Ar),7.37−7.32(m,2H,Ar),7.25−7.11(m,11H,Ar),6.02(q,J=6.8Hz,1H,1−H),5.00(s,1H,1’−H),1.50(d,J=6.8Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ171.6,138.7,138.7,138.4,133.0,132.9,128.7,128.6,128.5,128.5,128.1,128.0,127.6,127.2,127.1,126.1,125.9,124.8,124.0,73.2,57.2,22.1;
HR MS:calcd for C2622Na(M+Na)389.1512,found 389.1510.
【0117】
【化61】

(No.26)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):tR=13.1min(93.2%),tR=25.4min(6.8%);
IR(neat):3029,1734,1600,1496,815,741,697cm−1
H NMR(CDCl):δ7.23−7.09(m,10H,Ar),7.03−6.96(m,4H,Ar),5.60(dd,J=6.9,6.6Hz,1H,1−H),4.96(s,1H,1’−H),2.22(s,3H,p−Me),1.87−1.59(m,2H,2−H),0.70(dd,J=7.5,7.2Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.7,138.8,138.5,137.4,137.1,128.9,128.7,128.7,128.44,128.38,127.1,127.0,126.5,78.2,57.3,29.2,21.1,9.8;
HR MS:calcd for C2424Na(M+Na)367.1669,found 367.1684.
【0118】
【化62】

(N0.27)
HPLC(CHIRALPAK IC,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=9.5min(94.7%),t=13.3min(5.3%);
IR(neat):3030,1733,1615,1517,829,744,697cm−1
H NMR(CDCl):δ7.24−7.02(m,12H,Ar),6.75−6.68(m,2H,Ar),5.58(dd,J=7.0,6.9Hz,1H,1−H),4.95(s,1H,1’−H),3.68(s,3H,p−MeO),1.87−1.58(m,2H,2−H),0.70(dd,J=7.5,7.2Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.7,159.1,138.8,138.5,132.2,128.64,128.62,128.44,128.39,128.0,127.1,127.0,113.6,78.0,57.2,55.2,29.0,9.9;
HR MS:calcd for C2424Na(M+Na)383.1618,found 383.1599.
【0119】
【化63】

(No.28)
HPLC(CHIRALPAK IC,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=10.9min(91.8%),t=14.2min(8.2%);
IR(neat):3033,1735,1607,1504,833,742,703cm−1
H NMR(CDCl):δ7.25−7.03(m,12H,Ar),6.90−6.81(m,2H,Ar),5.59(t,J=6.9Hz,1H,1−H),4.96(s,1H,1’−H),1.79(ddq,J=14.1,6.9,7.5Hz,1H,2−H),1.66(ddq,J=14.1,6.9,7.2Hz,1H,2−H),
0.71(dd,J=7.5,7.2Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.7,162.3(d,J=245.6Hz),138.6,138.3,135.9(d,J=3.2Hz),128.63,128.58,128.47,128.45,128.3(d,J=8.1Hz),127.2,127.1,115.1(d,J=21.1Hz),77.5,57.2,29.2,9.8;
HR MS:calcd for C2321FONa (M+Na)371.1418,found 371.1423.
【0120】
【化64】

(No.29)
HPLC(CHIRALPAK AD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=12.4min(96.2%),t=20.9min(3.8%);
IR(neat):3029,1733,1603,1496,751,697cm−1
H NMR(CDCl):δ7.33−7.04(m,14H,Ar),5.91(dd,J=7.8,6.0Hz,1H,1−H),5.06(s,1H,1’−H),
2.35(s,3H,o−Me),1.93−1.66(m,2H,2−H),
0.83(dd,J=7.5,7.2Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.8,138.8,138.7,138.4,135.0,130.2,128.7,128.7,128.5,128.4,127.4,127.13,127.08,125.9,125.7,75.0,57.2,28.8,19.1,10.0;
HR MS:calcd for C2425Na(M+Na)367.1669,found 367.1669.
【0121】
【化65】

(No.30)
HPLC(CHIRALPAK IC,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=13.1min(97.5%),t=24.6min(2.5%);
IR(neat):3029,1737,1599,1495,799,778,744,701cm−1
H NMR(CDCl):δ8.08−8.02(m,1H,Ar),7.87−7.82(m,1H,Ar),7.76(d,J=8.0Hz,1H,Ar),7.49−7.43(m,2H,Ar),7.36−7.20(m,12H,Ar),6.51(t,J=6.5Hz,1H,1−H),5.13(s,1H,1’−H),2.02(qd,J=7.5,6.5Hz,1H,2−H),2.01(ddq,J=7.5,6.5Hz,1H,2−H),0.88(dd,J=7.5,7.0Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.7,138.7,138.4,136.0,133.7,130.3,128.8,128.71,128.69,128.5,128.4,128.2,127.2,127.1,126.1,125.5,125.1,123.8,123.2,75.4,57.3,29.0,10.2;
HR MS:calcd for C2724Na(M+Na)403.1669,found 403.1663.
【0122】
【化66】

(No.31)
HPLC(CHIRAKPAK IC,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):tR=15.4min(92.0%),tR=29.3min(8.0%);
IR(neat):3057,1734,1602,822,743,697,cm−1
H NMR(CDCl):δ7.73−7.57(m,3H,Ar),7.50(s,1H,Ar),7.38−7.31(m,2H,Ar),7.25−7.09(m,11H,Ar),5.79(dd,J=6.9,6.6Hz,1H,1−H),5.01(s,1H,1’−H),1.96−1.68(m,2H,2−H),0.75(dd,J=7.5,7.2Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ171.7,138.7,138.4,137.5,133.0,132.9,128.71,128.66,128.5,128.5,128.03,127.98,127.6,127.2,127.1,126.0,125.9,125.5,124.3,78.3,57.3,29.2,9.8;
HR MS:calcd for C2724Na(M+Na)403.1669,found 403.1659.
【0123】
【化67】

(No.20)
HPLC(CHIRALPAK AS−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=25.4min(11.1%),t=28.0min(88.9%);
H NMR(CDCl):δ7.25(d,J=8.0Hz,2H,Ar),7.15(d,J=8.0Hz,2H,Ar),4.84(q,J=6.5Hz,1H,1−H),2.34(s,3H,p−Me),2.00(brs,1H,OH),1.47(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ142.8,137.1,129.1,125.3,70.2,25.0,21.1.
【0124】
【化68】

(No.21)
HPLC(CHIRALCEL OD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.75mL/min):t=31.8min(7.5%),t=35.9min(92.5%);
H NMR(CDCl):δ7.34−7.26(m,2H,Ar),6.92−6.84(m,2H,Ar),4.86(q,J=6.3Hz,1H,1−H),3.81(s,3H,p−MeO),1.81(br−s,1H,OH),1.48(d,J=6.3Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ158.9,138.0,126.6,113.8,70.0,55.3,25.0.
【0125】
【化69】

(No.22)
HPLC(CHIRALPAK AS−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=35.7min(12.7%),t=40.0min(87.3%);
H NMR(CDCl):δ7.36−7.27(m,2H,Ar),7.05−6.96(m,2H,Ar),4.86(q,J=6.3Hz,1H,1−H),2.13(br−s,1H,OH),1.46(d,J=6.3Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ162.0(d,J=244.4Hz),141.5(d,J=3.1Hz),127.0(d,J=8.1Hz),115.2(d,J=21.1Hz),69.7,25.2.
【0126】
【化70】

(No.23)
HPLC(CHIRALPAK IA,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=25.7min(6.6%),t=29.0 min(93.4%);
H NMR(CDCl):δ7.53−7.46(m,1H,Ar),7.27−7.08(m,3H,Ar),5.10(q,J=6.5Hz,1H,1−H),2.33(s,3H,o−Me),1.88(br−s,1H,OH),
1.45(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ143.8,134.2,130.3,127.1,126.3,124.4,66.7,23.9,18.9.
【0127】
【化71】

(No.24)
HPLC(CHIRALCEL OB−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=18.1min(93.5%),t=21.9min(6.5%);
H NMR(CDCl):δ8.12−8.04(m,1H,Ar),7.89−7.82(m,1H,Ar),7.76(d,J=8.4Hz,1H,Ar),7.65(d,J=6.9Hz,1H,Ar),7.54−7.42(m,3H,Ar),5.64(qd,J=6.5,2.3Hz,1H,1−H),2.06(d,J=2.3Hz,OH),1.64(d,J=6.5Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ141.3,133.7,130.2,128.8, 127.9,126.0,125.5,125.5,123.1,121.9,67.0,24.3.
【0128】
【化72】

(No.25)
HPLC(CHIRALCEL OB−H,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=17.6min(91.5%),t=20.1min(8.5%);
H NMR(CDCl):δ7.84−7.72(m,4H,Ar),7.50−7.40(m,3H,Ar),5.00(q,J=6.3Hz,1H,1−H),2.17(br−s,1H,OH),1.54(d,J=6.3Hz,3H,2−H);
13C NMR(CDCl):δ143.1,133.2,132.8,128.2,127.9,127.6,126.1,125.7,123.8,123.7,70.4,25.1.
【0129】
【化73】

(No.26)
HPLC(CHIRALPAK AS−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.75mL/min):t=7.5min(9.9%),t=18.2min(90.1%);
H NMR(CDCl):δ7.17(d,J=8.3Hz,2H,Ar),7.10(d,J=8.3Hz,2H,Ar),4.52−4.47(m,1H,1−H),2.29(s,3H,p−Me),1.85−1.62(m,3H,2−H,OH),0.85(dd,J=7.5,7.0Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ141.6,137.1,129.0,125.9,75.9,31.8,21.1,10.2.
【0130】
【化74】

(No.27)
HPLC(CHIRALCEL OD−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.75mL/min):t=30.3min(6.9%),t=34.1min(93.1%);
H NMR(CDCl):δ7.10(td,J=2.3,9.5Hz,2H,Ar),6.73(td,J=2.3,9.5Hz,3H,Ar),4.35(t,J=6.5Hz,1H,1−H),3.65(s,3H,p−MeO),2.58(br−s,1H,OH),1.71−1.51(m,2H,2−H),0.75(dd,J=7.5,7.0Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ158.7,136.7,127.1,113.5,75.3,55.0,31.6,10.0.
【0131】
【化75】

(No.28)
HPLC(CHIRALCEL OB−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.35mL/min):t=29.1min(89.2%),t=31.4min(10.8%);
H NMR(CDCl):δ7.30(ddd,J=12.0,5.5,3.0Hz,2H,Ar),7.05−7.00(m,2H,Ar),4.58(t,J=6.5Hz,1H,1−H),1.80(ddq,J=14.3,6.5,7.5Hz,1H,2−H),1.71(ddq,J=14.3,6.5,7.0Hz,1H,2−H),
2.10(br−s,1H,OH),
0.90(dd,J=7.5,7.0Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ162.1(d,J=244.9Hz),140.3(d,J=3.1Hz),127.5(d,J=8.3Hz),115.1(d,J=20.6Hz),75.3,32.0,10.0.
【0132】
【化76】

(No.29)
HPLC (CHIRALCEL OB−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.5mL/min):t=16.4min(91.7%),t=22.8min(8.3%);
H NMR(CDCl):δ7.29(d,J=7.5H1H,Ar),7.09−6.96(m,3H,Ar),4.65(td,J=6.3,2.5Hz,1H,1−H),2.41(br−s,1H,OH),2.18(s,3H,o−Me),1.62−1.56(m,2H,2−H),0.82(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ142.7,134.4,130.1,126.8, 126.0,125.2,71.7,30.7,18.9,10.2.
【0133】
【化77】

(No.30)
HPLC(CHIRALCEL OB−H,i−PrOH/hexane=1/50,flow rate=0.75mL/min):t=23.1min(90.9%),t=27.2min(9.1%);
H NMR(CDCl):δ8.05(d,J=8.5Hz,1H,Ar),7.82−7.78(m,1H,Ar),7.71(d,J=8.0hz,1H,Ar),7.56(d,J=7.0Hz,1H,Ar),7.47−7.37(m,3H,Ar),5.36−5.31(m,1H,1−H),2.00−1.81(m,3H,2−H,OH),
0.96(dd,J=8.0,7.0Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ140.2,133.8,130.5,128.9,127.9,125.9,125.5,125.4,123.2,122.9,72.6,31.1,10.5.
【0134】
【化78】

(No.31)
HPLC(CHILALPAK IC,i−PrOH/hexane=1/9,flow rate=0.5mL/min):t=10.3min(4.6%),t=15.5min(95.4%);
H NMR(CDCl):δ7.89−7.74(m,4H,Ar),7.53−7.43(m,3H,Ar),4.81−4.70(m,1H,1−H),2.14(br−s,1H,OH),1.92(ddq,J=14.0,7.1,7.5Hz,1H,2−H),1.85(ddq,J=14.0,7.1,7.5Hz,1H,2−H),0.95(t,J=7.5Hz,3H,3−H);
13C NMR(CDCl):δ141.9,133.2,132.9,128.2,127.9,127.6,126.0,125.7,124.7,124.1,76.1,31.7,10.1.
【0135】
[試験例5 触媒の検討(1)]
【化79】

【0136】
合成例1〜9で合成した不斉触媒(R)−1a〜1iを用いて、最適化した条件の下で、1−フェニル−1−プロパノール(7)の速度論的光学分割を検討した。ジフェニル酢酸0.75当量を含む、ジエチルエーテル0.2モル中に、ピバル酸無水物0.9当量、不斉触媒を5モル%、1−フェニル−1−プロパノール(7)1当量を室温で順番に加え、化学式に従って室温で12時間反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水を加え反応を停止した。塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステル及び未反応の光学活性アルコールをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、それぞれの化合物を得た。
【0137】
【表5】

【0138】
表5から分かるように、いずれも高いs値を示し、収率良く高エナンチオ選択性で光学活性カルボン酸エステルが得られた。
【0139】
[試験例6 触媒の検討(2)]
【化80】

【0140】
1−フェニル−1−プロパノール(7)の速度論的光学分割について、本発明の不斉触媒(R)−1aと従来の不斉触媒である(S)−テトラミソール、(R)−ベンゾテトラミソールとを比較した。ジフェニル酢酸0.75当量を含む、ジエチルエーテル0.2モル中に、ピバル酸無水物0.9当量、ジイソプロピルエチルアミンを0あるいは1.8当量、不斉触媒を5モル%、1−フェニル−1−プロパノール(7)1当量を室温で順番に加え、化学式に従って室温で12時間反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水を加え反応を停止した。塩化メチレンを加え有機層を分取後、水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステル及び未反応の光学活性アルコールをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、それぞれの化合物を得た。
【0141】
【表6】

【0142】
表6からわかるように、従来触媒である(S)−テトラミソールや(R)−ベンゾテトラミソールを用いてアミンの添加なしに反応を行うと、s値は高くなるが、収率が低く、アミンを添加すると収率が上がるものの50%には到達せず、s値が下がっていた。本発明の不斉触媒(R)−1aはアミンを添加しなくても収率50%に到達しており、s値が高く、エナンチオ選択性も高かった。
【0143】
[試験例7 ラセミのカルボン酸の速度論的光学分割]
【化81】

【0144】
塩化メチレン0.2モル中に、ケトプロフェン1当量に対して、ピバル酸無水物を1.2当量、ジ(1−ナフチル)メタノールを0.5当量、ジイソプロピルアミンを1.8当量、不斉触媒(R)−1aを5モル%を加え、化学式に従って室温で12時間反応させた。反応系を0℃に冷却後、1規定塩酸を加え反応を停止した。有機層を分取後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステルをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、目的のエステル(14)を収率28%、光学純度76%ee、未反応のカルボン酸を回収率66%、光学純度17%eeで得た。
【0145】
[試験例8 ラセミのカルボン酸の動的速度論的光学分割]
【化82】

【0146】
N,N−ジメチルホルムアミド0.2モル中に、イブプロフェン1当量に対して、ピバル酸無水物2.4当量を、ジ(1−ナフチル)メタノールを1.2当量、ジイソプロピルアミン4.8当量、不斉触媒(R)−1aを5モル%を加え、化学式に従って室温で48時間反応させた。反応系を0℃に冷却後、1規定塩酸を加え反応を停止した。有機層を分取後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮して粗生成物を得た。生成した光学活性エステルをシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより分離し、目的のエステル(16)を収率58%、光学純度97%eeで得た。未反応のイブプロフェンは収率27%、光学純度1%eeでほぼラセミ化されて回収された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーである新規不斉触媒。
【化1】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化2】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【請求項2】
不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミの2級アルコールのいずれか一方のエナンチオマーとカルボン酸とを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化3】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化4】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【請求項3】
前記ラセミの2級アルコールが下記式(c)で表されることを特徴とする請求項2記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化5】

(式(c)中、Rc1,Rc2は互いに異なる有機基を示す。)
【請求項4】
前記式(c)中、Rc1,Rc2のいずれか一方は、多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であり、他方は、多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であることを特徴とする請求項3記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミの2級アルコールのいずれか一方のエナンチオマーとカルボン酸とを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性アルコールの製造方法。
【化6】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化7】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【請求項6】
不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミのカルボン酸のいずれか一方のエナンチオマーと下記式(d)で表されるアルコール又は下記式(e)で表されるフェノールとを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化8】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化9】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【化10】

(式(d)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示す。)
【化11】

(式(e)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示し、nは1〜5の整数を示す。複数のRが存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項7】
前記ラセミのカルボン酸が下記式(f)で表されることを特徴とする請求項6記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【化12】

(式(f)中、Rf1、Rf2は互いに異なる有機基を示す。)
【請求項8】
前記式(f)中、Rf1、Rf2のいずれか一方は、多重結合を有する炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であり、他方は、多重結合を有さない炭素原子を介して不斉炭素と結合する有機基であることを特徴とする請求項7記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項9】
ラセミのカルボン酸の動的速度論的光学分割である請求項6から請求項8のいずれかに記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項10】
双極子モーメント3.0以上の極性溶媒中で反応させることを特徴とする請求項9記載の光学活性カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項11】
不斉触媒として下記式(a)又は(b)で表される化合物又はそのエナンチオマーを用い、カルボン酸無水物又はその誘導体の存在下で、ラセミのカルボン酸のいずれか一方のエナンチオマーと下記式(d)で表されるアルコール又は下記式(e)で表されるフェノールとを脱水縮合反応させることを特徴とする光学活性カルボン酸の製造方法。
【化13】

(式(a)、(b)中、Xは下記の置換基
【化14】

のいずれかを示し、Rは保護基を示し、Yは有機基を示す。)
【化15】

(式(d)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示す。)
【化16】

(式(e)中、Rは置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基を示し、nは1〜5の整数を示す。複数のRが存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。)


【公開番号】特開2013−39518(P2013−39518A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177306(P2011−177306)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】