新規乳酸菌による発酵風味液

【課題】新規かつ有用な乳酸菌株、当該乳酸菌株を用いた従来にない新しい風味・保存性・製造適正等を有する食品及びその製造方法、及び、その防カビ性能を比較確認する方法を提供する。
【解決手段】サイレージより得た新規な乳酸生成菌ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)を糖分を含む培地で培養して発酵風味液を作製し、この発酵風味液を食品に添加することで、従来にない独特の風味や香りの食品への付与、製造時間短縮、保存性向上などができる。また、当該発酵風味液とカビの胞子懸濁液を塗抹し静置培養した後の寒天培地上のコロニー数を計数し、当該コロニー数を対照と比較することで防カビ性能を確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な乳酸生成菌、当該乳酸生成菌により作製した発酵風味液及びその製造方法、当該発酵風味液を混合してなる食品、並びに、食品保存性の確認方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食嗜好の多様化は日々進んでおり、消費者の多くはより美味しく且つ新しい風味・食味の食品を望んでいる。しかし、その一方で、消費者は安全・安心な食品をより強く求めるようにもなっている。
【0003】
食品メーカーは消費者の期待に応えるべく、安全・安心な美味しい食品を日々追求している。店頭に並ぶ食品のパッケージなどには、「新食感」などの新しさや美味しさをアピールする表現が多く用いられている。また、「保存料無添加」や「国産原料使用」などの記載により、安全・安心をアピールした商品も多い。このような傾向は、パン業界においても著しい。
【0004】
一方、乳酸発酵を利用した食品は、美味しくて且つ保存性の高い食品である。乳酸発酵食品は、チーズ、ヨーグルト、漬物といった伝統的なものから、プロバイオティクス効果を得るための乳酸菌飲料に至るまでその種類は多岐に渡っており、独特の味や香りを呈するため多くの消費者から好まれている。また、乳酸菌の生産するバクテリオシンや乳酸などにより、食品に抗菌作用をもたらし保存性を高めているものも存在する。
【0005】
パンの場合、その風味等を改良する手段として、乳酸菌を用いて発酵させた発酵液(「発酵風味液」などとも呼ばれる)をパン生地に添加する方法がある。一例としては、死滅した酵母と生きた乳酸菌を含有することを特徴とする発酵風味液(特許文献1)、乳脂肪や乳蛋白質含有基質中で乳酸菌、リパーゼ、プロテアーゼをインキュベートし得られる風味改善剤(特許文献2)、防カビ性等の抗菌性を示すラクトバチルス属乳酸菌の発酵風味液(特許文献3)、ホップ汁などの乳酸菌発酵培養物(特許文献4)、白神山地由来の乳酸菌ラクトバシラス・サケイによる製パン改質原料(特許文献5)などが知られている。また、特許文献6には、製糖工場の工程汁由来の乳酸菌を用いた食品の風味改善方法や保存性向上方法が記載されている。
【0006】
しかし、上述のとおり、消費者の要望はより多種多様となっている。それに応えると共に、安全・安心な食品を提供することが食品メーカーに常に求められている。そして、そのことをより低コストに実現できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−244274号公報
【特許文献2】特開平5−49385号公報
【特許文献3】特開2002−291466号公報
【特許文献4】特開昭56−151443号公報
【特許文献5】特開2007−236344号公報
【特許文献6】特開2010−104305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする主課題は、新規な乳酸菌又は乳酸菌株を用いて、従来にない新しい風味を食品に付与できる発酵風味液を提供することである。そして、風味の付与と同時に、保存性の向上、製造時間の短縮など多岐にわたる効果を有する発酵風味液を提供し、さらには、当該発酵風味液を用いた食品の製造方法等を提供することを目的とする。
また、従課題としては、当該発酵風味液等における食品保存性効果に係る、防カビ性能を比較確認するための新規方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らはサイレージ由来の乳酸菌に着目した。牧草、トウモロコシ、作物茎葉類などの原料を、空気を遮断するよう容器(サイロ)に堆積又はフィルムなどでラッピングすると、原料に付着している微生物が原料中に含有する糖分を分解して有機酸を生成する。この有機酸によって貯蔵性を保持させた発酵飼料がサイレージである。サイレージの微生物には、乳酸菌、酢酸菌、酪酸菌があり、これらが糖分を分解して乳酸、酢酸、酪酸を生成させる。一般的には乳酸含量が高いものが良質のサイレージとされている。
【0010】
出願人は、先に、乳牛の粗飼料であるサイレージ由来の乳酸生成菌CS株による発酵風味液を発明している(特願2009−256132)が、乳酸などの有機酸を多量に生産する乳酸菌の取得をさらに進め、新たな菌株を発見した。
そして、この菌株により作製した新規発酵風味液をパン生地に混合して製造したパンは、無添加パンや他社風味液添加パンと比べ、「美味しい」パンとなり、高い防カビ性を有しており、さらに、ワンローフ型食パン及びプルマン型食パンの製パン工程においてホイロ時間を測定したところ、この新規発酵風味液を使用したパンでは、ホイロ時間の大幅な短縮が認められることを見出し、上記主課題を解決する本発明を完成した。
また、この新規発酵風味液の保存性効果を確認する過程で、発酵風味液及びカビの胞子懸濁液を塗抹し静置培養した後の寒天平板培地上のコロニー数を計数し、対照と比較することによって、防カビ性能を確認し得ることを見出し、上記従課題を解決する本発明を完成した。
【0011】
すなわち、主課題を解決するための本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)糖分を含む培地を、乳酸生成菌ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)にて発酵させてなることを特徴とする発酵風味液。
(2)通気培養により発酵させてなることを特徴とする(1)に記載の発酵風味液。
(3)糖分を含む培地が、ショ糖、ブドウ糖、果糖から選ばれる少なくともひとつを含む培地(例えば糖蜜など)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の発酵風味液。
(4)製造工程において、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を添加することを特徴とする食品の製造方法。
(5)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を添加し、混捏、成形、発酵、焼成することを特徴とするパンの製造方法。
(6)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を添加し、混捏、成形、発酵、焼成することを特徴とするパンの製造時間短縮方法(製パン性向上方法)。
(7)ホイロ時間を短縮することを特徴とする(6)に記載の方法。
(8)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を含有してなる食品。
(9)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を含有してなるパン。
(10)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を添加することを特徴とする食品の保存性向上(カビ発生抑制)方法。
(11)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の発酵風味液を添加し、混捏、成形、発酵、焼成すること、を特徴とするパンの保存性向上(カビ発生抑制)方法。
(12)乳酸生成菌であるラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)。
【0012】
また、従課題を解決するための本発明の実施形態は次のとおりである。
(13)寒天培地に対象となる組成物及びカビの胞子懸濁液を塗抹し、静置培養した後にカビのコロニー数を計数し、当該コロニー数を対照と比較すること、を特徴とする組成物の防カビ効果確認方法。
(14)組成物が食品製造における添加用組成物であること、を特徴とする(13)に記載の方法。
(15)組成物がパン製造における添加用組成物であること、を特徴とする(14)に記載の方法。
(16)組成物が乳酸生成菌により発酵してなる発酵風味液であること、を特徴とする(13)〜(15)のいずれか1つに記載の方法。
(17)カビが青カビ(Penicillium purpurescens)であること、を特徴とする(13)〜(16)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明による発酵風味液は、従来にない独特の風味や香りを食品に付与することができるため、消費者の多種多様な要求に応じるための新たな材料を提供することを可能とする。また、パン製造時のホイロ時間の顕著な短縮効果があるため、製パン時間を大幅に短縮することができる。さらに、焼成されたパン等には顕著な防カビ効果も付与されるため、食品添加物に該当する保存料に代替することができる。そして、パン生地等を作る際にこの発酵風味液を添加するのみなので、非常に簡便且つ効率的である。
また、本発明による防カビ性能確認方法は、従来のカップ法やペーパーディスク法では難しかったカビに対する効果を非常に簡便に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】CS−5を通気なしで発酵させた場合(一次試供品)と通気培養した場合(二次試供品)の残糖量(培地中の初期量に対する割合(%))、乳酸濃度(g/L)、酢酸濃度(g/L)、pH、濁度(生育)を示すグラフである。
【図2】無添加食パン、本発明品添加食パン、対照品添加食パンの官能評価試験(風味の嗜好性)の結果を示すグラフである。
【図3】無添加食パン、本発明品添加食パン、対照品添加食パンの官能評価試験(嗜好性のコメント)の結果を示すグラフである。
【図4】無添加食パン、本発明品添加食パン、対照品添加食パンの防カビ試験のカビ胞子の接種位置を示す模式図である。
【図5】無添加食パン、本発明品添加食パン、対照品添加食パンの防カビ試験の結果を示す。左側から順に無添加食パン、本発明品添加食パン、対照品添加食パンである(図面代用写真)。
【図6】無添加食パン、本発明品(一次試供品)添加食パン、本発明品(二次試供品)添加食パンの防カビ試験の結果を示す。左側から順に無添加食パン、一次試供品添加食パン、二次試供品添加食パンである(図面代用写真)。
【図7】本発明品発酵風味液及び対照品中の乳酸含量、酢酸含量、エタノール含量の分析結果を示すグラフである。
【図8】水及びカビの胞子懸濁液を塗抹し、静置培養した後の寒天培地を示す(図面代用写真)。
【図9】ビート糖蜜と酵母エキスからなる培地及びカビの胞子懸濁液を塗抹し、静置培養した後の寒天培地を示す(図面代用写真)。
【図10】CS−5による発酵風味液及びカビの胞子懸濁液を塗抹し、静置培養した後の寒天培地を示す(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発酵風味液を作製するために用いられる乳酸生成菌としては、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、ラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・カテナフォルメ(Lactobacillus catenaforme)、ラクトバシラス・セロビオサス(Lactobacillus cellobiosus)、ラクトバシラス・クリスパツス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシラス・クルヴァツス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバシラス・デルブルエッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバシラス・デルブルエッキ亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバシラス・デルブルエッキ亜種ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp.lactis)、ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバシラス・ヘルヴェティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバシラス・ジェネセニ(Lactobacillus jensenii)、ラクトバシラス・ラクティス亜種ラクティス(Lactobacillus lactis subsp.lactis)、ラクトバシラス・レイクマンニ(Lactobacillus leichmannii)、ラクトバシラス・ミヌツス(Lactobacillus minutus)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ロゴサエ(Lactobacillus rogosae)、ラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・ブレヴィス(Lactobacillus brevis)、ラクトバシラス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシラス・フェルメンツム(Lactobacillus fermentum)、ロイコノストック・デキストラニカム(Leuconostoc dextranicum)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・ラフィノラクティス(Streptococcus raffinolactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)などがある。
【0016】
本発明に用いられる乳酸菌の菌株は、次に示すとおりサイレージから分離した。
バンカーサイロに堆積されたデントコーンを原料とするサイレージの深部からサンプル採取を行った。採取したサイレージをBCP加プレートカウントアガール(日水製薬社製)に直接塗抹した。本培地上で35〜37℃で約72時間培養すると、乳酸菌は培地の深部及び周辺が黄変した集落を形成して発育するので、乳酸菌の分離が可能となる。この手法により乳酸菌を分離し、新規乳酸菌株を取得した。
【0017】
この新規乳酸菌株の16SリボソームDNA配列による相同性検索を行った結果、ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)と99.9%一致した。相同性検索及び形態観察の結果から、新規乳酸菌株はLactobacillus buchneriと同定された。そして、この新規乳酸菌株を Lactobacillus buchneri CS−5株(ラクトバシラス・ブフネリ CS−5株)と命名し、当該菌株は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2010年(平成22年)12月1日付けでFERM P−22044として受託された。
【0018】
ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)は、サイレージ以外にもトマトの果肉や鮒寿司などからの分離が報告されており、食経験の豊富な安全性の高い乳酸菌である。本菌種は乳酸以外に酢酸などの有機酸を副生するヘテロ型の発酵形式を有する乳酸菌である。
【0019】
ラクトバシラス・ブフネリCS−5株(以下「CS−5」という)の培養方法(発酵風味液の調製方法)について例示すると、次のとおりである。
培地として使用できるのは、本乳酸菌が資化できる糖分(特に、ショ糖、ブドウ糖、果糖)が含まれていれば良いが、MRS broth(Difco社製)などのような市販培地のほか、糖蜜(例えばビート糖蜜)、さらには製糖工程における温水浸出汁、カーボネーション後汁、イオン交換クロマト廃液などの製糖工程液に数種類のミネラルや酵母エキスなどを添加したものも使用できる。また、モルトエキスなどを使用しても良い。培地中の糖濃度は0.5〜50%が適当である。このような培地にCS−5を一定量植菌し、30〜40℃で5〜15日間程度攪拌培養して発酵を行い、その後必要に応じて滅菌処理等をして発酵風味液を調製する。
【0020】
このようにして、発酵風味液中の酸度(遊離有機酸総量)が20以上(例えば20〜30)という有機酸含量の高い発酵風味液を得ることができる(酸度の測定方法は、「醸造の辞典(第四版)」(野白喜久雄ほか編、株式会社朝倉書店、1998)を参照)。特に、本発明品の発酵風味液は、酢酸含量が高いのが特徴であり、上記培養において通気培養(例えば、0.5〜2.0vvm、好ましくは0.75〜1.0vvm)を行うことにより、極めて酢酸含量が高く(例えば0.5g/dl以上)、それによる防カビ性能が顕著に優れた発酵風味液を製造することができる。なお、本発明品の発酵風味液は、エタノール含量が1.0g/dl未満と少ないのも特徴である。
【0021】
さらに、当該発酵風味液の防カビ性能確認方法としては、次のような方法を用いることができる。
まず、寒天培地に対象となる組成物(例えば上記発酵風味液など)を塗抹し、さらに、カビ(例えば、青カビ(Penicillium purpurescens)など)の胞子懸濁液を塗抹する。そして、室温(15〜25℃程度)にて1〜5日間程度静置培養したのちカビのコロニー数(胞子発芽数)をカウントする。これにより、菌糸を伸張させて生育するカビに対する防カビ性能を簡便且つ容易に確認できる。この方法は、上記発酵風味液だけでなく、様々な種類の組成物の防カビ性能確認に用いることができる。
【0022】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0023】
CS−5を用いた発酵風味液の作製は、以下のように行った。
BCP加プレートカウントアガール上で培養されたCS−5を一白金耳取り、次の組成の培地(培地量10mL)に植菌し、35℃で9日間静置培養(通気なし)を行った。培養後の培養液を60℃で1時間保持し、乳酸菌を滅菌させたものを発酵風味液(小スケール品)とした。
【0024】
(培地組成:小スケール品)
グラニュー糖(日本甜菜製糖株式会社製) 200g/l
酵母エキス(アサヒビール株式会社製) 50g/l
pH 6.5〜6.8に調整
【0025】
なお、培養方法に関し、大スケール(ジャーファーメンターレベル)で通気なし(一次試供品)と0.75vvm通気したもの(二次試供品)の2種類の検討を行った。次の組成の培地に植菌し、35℃で5日間培養を行った。両試験区とも、温調を制御するため低速攪拌(30rpm)を行った。培養後の培養液を約100℃で30分間保持し、乳酸菌を滅菌させたものを発酵風味液とした。その結果、通気培養を行った場合、短い培養時間で酢酸濃度が通気なしの場合より2倍以上も高い発酵風味液が得られることが明らかとなった(図1)。
【0026】
(培地組成:大スケール品)
グラニュー糖(日本甜菜製糖株式会社製) 200g/l
酵母エキス(Levapan株式会社製) 25g/l
pH 6.5に調整
【実施例2】
【0027】
実施例1にて作製された発酵風味液(小スケール品)を用い、以下の配合(小麦粉100に対する割合)により発酵風味液添加パンを試作した。
【0028】
(配合)
強力小麦粉 100 重量部
イースト 2.2重量部
発酵風味液 6 重量部
フード 0.1重量部
砂糖 5 重量部
食塩 2 重量部
ショートニング 5 重量部
水 62 重量部
【0029】
これらを日本イースト工業会の製パン分析手法に従い、食パンストレート法にて混捏後、分割・成形を行い、焼成し、発酵風味液添加パンを作製した。以下、発酵風味液を添加していないパン(一般的な食パンに該当)を無添加、本発明の方法により作製された発酵風味液(小スケール品)を添加したパンを本発明品添加、市販品の発酵風味液を添加したパンを対照品添加と称する。
【0030】
表1に、それぞれの発酵風味液を用いてワンローフ型食パン及びプルマン型食パンを作製した際のホイロ時間を示す。ワンローフ型食パンとは、パン生地を長方形の焼型に入れて山形に焼いた製品(長い一斤山形パン)をいい、単にワンローフともいう。プルマン型食パンとは、焼成時に焼き型にふたをして四角に焼き上げた角形食パンのことをいい、単にプルマンともいう。
また、ホイロとは製パン工程の一つであり、整形後オーブンで焼成する前に高温高湿の室で生地を発酵させ、適当な体積に膨張させることをいう。
【0031】
【表1】

【0032】
ワンローフ及びプルマンとも、本発明品添加は無添加及び対照品添加と比較し、顕著にホイロ時間(所定の体積に達する時間)が短くなった。本発明品の添加により時間では約10分、指数では約20ポイント短縮することができた。
ホイロ時間が短いことはパン生地の発酵力が強いことを意味している。発酵力が強いとパン生地が縦方向に勢いよく伸び、内相の良いものとなる。すなわち、ホイロ時間の短縮は製パン時間の短縮だけではなく、製パン性能の向上も可能とするものである。
【0033】
また、上記の焼成されたパンを用い、男性20名・女性10名の計30名の訓練されたパネリストにより官能評価試験を実施した。結果を図2及び図3に示したが、風味の嗜好性のグラフ(図2)を見ると、本発明品添加は「おいしそうな香り」、「おいしい、好きな味」の項目で無添加や対照品添加よりも高かったことから、本発明による発酵風味液を添加することで美味しいパンが作製可能となることが示された。
また、嗜好性コメントのグラフ(図3)を見ると、本発明品添加の試験区では「香ばしい香り」や「しっとり」の項目が比較的高い傾向にあった。
【実施例3】
【0034】
実施例2で作製した各パンを厚さ1.9cmにスライスし、クラム部25gに対し水75mlを加え、ブレンダーにて破砕後200mlにメスアップし、1時間室温で放置した。その後、遠心分離により上清を回収し、ろ紙で濾過した溶液をパン抽出液とし、pH及び有機酸量を測定した。有機酸量の測定は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)により下記の条件にて実施した。
【0035】
(測定条件)
カラム :Shodex Ionpac KC811×2
溶離液 :2mM 過塩素酸溶液
検出器 :紫外可視検出器(445nm)
カラム温度:45℃
【0036】
パン抽出液のpH及び有機酸量の測定結果を表2に示す。有機酸量の値は、パン1gあたりに含まれる有機酸の含量(mg/dl)として表した。
有機酸測定の結果、本発明品添加の試験区は、無添加や対照品添加と比較し、乳酸及び酢酸の含量が多かった。これは、本発明品の発酵風味液中に含まれる乳酸・酢酸からの持ち込みによるものと考えられた。これらの有機酸を多量に含む発酵風味液を用いて製パンを実施することで、生地物性の改善によるホイロ時間の短縮効果や官能試験の向上等に繋がるものと考えられた。
【0037】
【表2】

【実施例4】
【0038】
実施例2にて作製された各パンを厚さ1.9cmにスライスし、過去に食パンから分離・採取したカビ(Penicillium purpurescens)の胞子懸濁液50μl(50μl中に10個体の胞子が存在)を、図4に示すように1スライスあたり5箇所に接種し、ビニール袋で密封したのち25℃で78時間培養を行った。各試験区について、接種されたカビのコロニーの大きさを肉眼にて観察することで防カビ性能を判定した(表3)。また、カビの発生状況は図5に示すとおりである。×がカビ発生、○と◎がカビ発生を抑制(◎の方が抑制大)したことを示す。本発明品添加は、無添加及び対照品添加と比較し高い防カビ性能を有することが示された。
【0039】
【表3】

【0040】
なお、実施例1にて大スケールで作製された発酵風味液である一次試供品、二次試供品についても、ホームベーカリー(パナソニック株式会社製、品番:SD−BMS101)でパンを作製し、無添加品との防カビ性能を比較確認した。配合は、ホームベーカリーの取扱説明書16頁の「食パンコース」に従い調整し、風味液の添加量は実施例2と同様、対粉6重量部にて行った。その結果、無添加品と比較して一次試供品添加でも十分な防カビ性能を発揮しているが、二次試供品添加は一次試供品添加と比較しても極めて顕著な防カビ性能を発揮することが明らかとなった(図6)。
【実施例5】
【0041】
実施例1にて作成された発酵風味液(小スケール品)と、対照品として使用した市販の発酵風味液のpH及び有機酸量、エタノール含量を比較した。なお、これらは実施例3と同様の方法で測定した。
この結果を表4及び図7に示した。本発明品は乳酸及び酢酸の量が対照品より多くpHも低かった。また、酸度も本発明品の方が対照品より非常に高かった。
【0042】
本発明品の高い防カビ効果の要因としては、発酵風味液中の有機酸の存在が考えられた。すなわち、低pH下では酸解離定数が大きい有機酸ほど非解離型分子の割合が高く、この非解離型分子は親油性のため細胞膜の透過性が高いので、細胞に障害を与えることにより抗菌性を示す(食品危害微生物ハンドブック、株式会社サイエンスフォーラム、368−370、1998年)。
ちなみに、乳酸と酢酸では酢酸の方が酸解離定数が大きく、より高い防カビ効果を示す。CS−5はヘテロ乳酸発酵(乳酸の他に酢酸などを副生)を行う菌種であり、発酵風味液中においても一定量の酢酸が生産されていたため、主にこの酢酸が防カビ効果として作用しているものと推測された。
【0043】
【表4】

【0044】
本発明の発酵風味液は、実施例1のような方法で得られたものを、必要に応じて濃縮又は希釈して使用することができる。
配合可能な食品としてはパンの他、ピザ生地、麺類、ビスケット、菓子、ドレッシング、健康食品などが挙げられるが、パンへの配合がより好適である。なお、家庭用製パン機での使用も可能である。
【実施例6】
【0045】
北海道内の様々な分離源より、BCP加プレートカウントアガールを用いて計60株の乳酸菌菌株を分離した(表5)。これらの菌株について、一白金耳を次の組成の培地(培地量10ml)に植菌し、35℃で6日間静置培養を行った。そして、培養後の培養液を60℃で1時間保持し、乳酸菌を滅菌させ発酵風味液とした。
【0046】
(培地組成)
ビート糖蜜(日本甜菜製糖株式会社製) 100g/l(糖分の総量として)
酵母エキス(アサヒビール株式会社製) 50g/l
pH 6.5〜6.8に調整
【0047】
【表5】

【0048】
表5の菌株をもとに作製した上記の発酵風味液を使用し、防カビ効果の高い(すなわち防カビ物質を生産する)菌株の選抜を行った。寒天平板培地であるPDAプレートに水、培地(ビート糖蜜、酵母エキスからなる)、又は各発酵風味液(表5の菌株による)を各1500μl塗抹した。さらに、食パンから分離された青カビ(Penicillium purpurescens)の胞子懸濁液を100μl(100μl中に約100個体の胞子が存在)塗抹した。
【0049】
なお、水および培地の試験区は対照区として用いられたものであり、水および培地に防カビ効果が無いことを確認するための試験区である。水試験区のコロニー数は84個(図8)で、培地試験区のコロニー数は86個(図9)であった。
【0050】
表5の菌株により作製した発酵風味液を使用したサンプルのそれぞれを、室温にて二日間静置培養したのち青カビのコロニー数(胞子発芽数)をカウントした。そして、最も高い防カビ効果を保持する菌株(コロニー数は3個)を1株取得するに至った(図10)。すなわち、この菌株がCS−5である。
【0051】
抗生物質の活性の強さを測定するためには、試験菌(阻害対象となる菌)を接種した寒天培地上に抗生物質を置き、菌の発育を阻止した部分の大きさを測定する手法が採用されることが多い。例えば、抗生物質を含む溶液を金属性の円筒に注入する方法(カップ法)や円型ろ紙に浸みこませて置く方法(ペーパーディスク法)などが知られている(微生物実験マニュアル、講談社、p.75−82、1986年)。
【0052】
しかし、上記手法は試験菌があくまでも細菌が主な対象であり、カビのように旺盛に菌糸を伸長させて生育する微生物を阻害対象とした場合、例えばペーパーディスク法では菌糸がろ紙を完全に覆ってしまうため、阻止円の測定が出来ない場合が往々にしてある。
【0053】
一方、本発明は、試験菌であるカビと防カビ物質(カップ法やペーパーディスク法における抗生物質に相当する)を含む発酵風味液とをプレートに塗抹してカビのコロニーを計数するものである。本発明の方法を用いることにより、カビの生育阻止活性の強さを肉眼にて明瞭に判別可能となる。また、効果の強弱をコロニー数に置き換えて数値化できるため、防カビ効果の比較を容易に行うことが可能となる。
【0054】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0055】
本発明は、新規かつ有用な乳酸菌株の提供、当該乳酸菌株を用いた従来にない新しい風味・保存性・製造適正等を有する食品及びその製造方法の提供、及び、その防カビ性能を比較確認する方法の提供を目的とする。
【0056】
そして、サイレージより得た新規な乳酸生成菌ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)を糖分を含む培地で培養して発酵風味液を作製し、この発酵風味液を食品に添加することで、従来にない独特の風味や香りの食品への付与、製造時間短縮、保存性向上などができる。また、当該発酵風味液とカビの胞子懸濁液を塗抹し静置培養した後の寒天培地上のコロニー数を計数し、当該コロニー数を対照と比較することで防カビ性能を確認できる。
【受託番号】
【0057】
本発明において寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖分を含む培地を、乳酸生成菌ラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)にて発酵させてなることを特徴とする発酵風味液。
【請求項2】
通気培養により発酵させてなることを特徴とする請求項1に記載の発酵風味液。
【請求項3】
糖分を含む培地が、ショ糖、ブドウ糖、果糖から選ばれる少なくともひとつを含む培地であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発酵風味液。
【請求項4】
製造工程において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を添加することを特徴とする食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を添加し、混捏、成形、発酵、焼成することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を添加し、混捏、成形、発酵、焼成することを特徴とするパンの製造時間短縮方法。
【請求項7】
ホイロ時間を短縮することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を含有してなる食品。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を含有してなるパン。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を添加することを特徴とする食品の保存性向上方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の発酵風味液を添加し、混捏、成形、発酵、焼成すること、を特徴とするパンの保存性向上方法。
【請求項12】
乳酸生成菌であるラクトバシラス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)CS−5株(FERM P−22044)。
【請求項13】
寒天培地に対象となる組成物及びカビの胞子懸濁液を塗抹し、静置培養した後にカビのコロニー数を計数し、当該コロニー数を対照と比較すること、を特徴とする組成物の防カビ効果確認方法。
【請求項14】
組成物が食品製造における添加用組成物であること、を特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組成物がパン製造における添加用組成物であること、を特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組成物が乳酸生成菌により発酵してなる発酵風味液であること、を特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
カビが青カビ(Penicillium purpurescens)であること、を特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−191930(P2012−191930A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−40601(P2012−40601)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本農芸化学会 発行,「第11回 日本農芸化学会 東北・北海道支部合同若手の会 プログラム及び講演要旨集」,平成22年9月26日発行
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】