説明

新規乳酸菌を用いた発酵乳の製造方法

【課題】新規乳酸菌を用いた発酵乳の製造方法の提供。
【解決手段】ビフィドバクテリウム属菌と下記の菌学的性質を有するラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種を用いて発酵させる発酵乳の製造方法;1)10%還元脱脂粉乳培地で25〜30℃の温度範囲で16時間培養した場合に培地が凝固する発酵性、2)10%還元脱脂粉乳培地でビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時にビフィドバクテリウム・ロンガムの菌数を5×10CFU/g以上とするビフィドバクテリウム・ロンガムの生育促進性、3)10%還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に急冷して10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生菌数を1×10CFU/g以上とするビフィドバクテリウム・ロンガムの保存生残性促進性。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)菌種に属する新規乳酸菌を用いた発酵乳の製造方法、及び、該製造方法により製造された発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトコッカス属菌やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌等の乳酸菌は、腸内細菌のバランスを回復する整腸作用や、免疫増強作用、発ガン抑制作用等を有することが知られている。このため、近年、生活者の健康志向の高まりと共に、乳酸菌の食品への利用が盛んになってきている。特に、ビフィドバクテリウム・ロンガム等のビフィドバクテリウム属菌は、ヒトの腸管内で形成される腸内菌叢の優勢菌種の一つであり、生きているビフィドバクテリウム属菌を含む発酵乳等の食品への需要が高まっている。
【0003】
ビフィドバクテリウム属菌は、乳性培地における増殖性が悪い。このため、発酵乳中に一定量の、例えば1×10CFU/mLのビフィドバクテリウム属菌を含有させるために、通常、様々な生育促進物質を添加することが行われている。しかし、該生育促進物質は一般的に高価であり、かつ、風味が損なわれるおそれもある。また、ビフィドバクテリウム属菌は、酸性条件下での保存が難しく、死滅し易い。このため、発酵乳製品等が流通する過程で、発酵乳製品中の生きているビフィドバクテリウム属菌量は加速度的に減少してしまう。
そこで、ビフィドバクテリウム属菌の生育性や保存生残性を改善することにより、生きているビフィドバクテリウム属菌を多く含有する発酵乳を製造し得るばかりではなく、生きているビフィドバクテリウム属菌が、製造直後と同様に、消費者が摂食する時点においても豊富に含有されている発酵乳を製造し得ることが期待できる。
【0004】
ビフィドバクテリウム属菌以外の乳酸菌と混合発酵をさせることにより、該生育促進物質等を添加することなく、ビフィドバクテリウム属菌の生育性や保存生残性を改善する種々の方法が開示されている。発酵乳製造におけるビフィドバクテリウム属菌の生育性を改善させる方法については、例えば、(1)ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)およびビフィドバクテリウム属菌を含有することを特徴とするヨーグルト及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
その他、発酵乳のビフィドバクテリウム属菌の保存生残性を改善させる方法については、例えば、(2)乳を主成分とする培地で、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、並びにダイアセチル及びアセトインを生成しないラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチスを混合培養することを特徴とするビフィドバクテリウム属菌発酵乳の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特許第3364491号公報
【特許文献2】特許第3068484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法では、特定のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス菌種と特定のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種が存在する条件下で、ビフィドバクテリウム属菌の生育が促進され、発酵時間を短縮することができるものの、これらのラクトコッカス属菌によるビフィドバクテリウム属菌の生育促進効果や発酵時間短縮効果は、十分なものではなかった。また、特許文献1には、ビフィドバクテリウム属菌の保存生残性については一切記載がない。
一方、上記(2)の方法では、特定のビフィドバクテリウム属菌と特定の乳酸菌とからなる混合菌を用いることにより、増殖促進効果と生残性改善効果の両方が認められるものの、ビフィドバクテリウム・ブレーベ以外のビフィドバクテリウム属菌、例えば食品に汎用されているビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)については、一切記載がない。
【0007】
本発明は、ビフィドバクテリウム属菌の生育性や保存生残性を改善させ得る乳酸菌を用いた発酵乳の製造方法、及び、該製造方法により製造された発酵乳を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地における発酵性に優れた乳酸菌の菌株について、ビフィドバクテリウム属菌との混合培養による発酵試験を行い、pHが4.4〜4.6に達した時に、ビフィドバクテリウム属菌の菌数を5×10CFU/g以上とする、ビフィドバクテリウム属菌の生育促進性や、発酵終了後に急冷して10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム属菌の生菌数を1×10CFU/g以上とする、ビフィドバクテリウム属菌の保存生残性促進性を有する乳酸菌を見出した。そして、該乳酸菌を用いることにより、ビフィドバクテリウム属菌を大量に含有し、かつ保存生残性にも優れた発酵乳が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、乳酸菌として、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌と、下記の菌学的性質を有するラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)菌種を用いて発酵させることを特徴とする、発酵乳の製造方法を提供するものである。
(1)10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、25〜30℃の温度範囲で16時間培養した場合に、培地が凝固する発酵性、
(2)10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)と混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌数を5×10CFU/g以上とする、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生育促進性、
(3)10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に急冷して、10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生菌数を1×10CFU/g以上とする、ビフィドバクテリウム・ロンガムの保存生残性促進性。
また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種が、キシロース資化性を有さず、かつ、ダイアセチル及びアセトインを生成しないことを特徴とする前記記載の発酵乳の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の菌株が、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876(FERM P−21490)である、前記いずれか記載の発酵乳の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記ビフィドバクテリウム属菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベである、前記いずれか記載の発酵乳の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記ビフィドバクテリウム属菌の菌株が、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベATCC15700である、前記いずれか記載の発酵乳の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記乳酸菌が、前記ビフィドバクテリウム属菌、前記ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、及び、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)とであることを特徴とする、前記いずれか記載の発酵乳の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載の発酵乳の製造方法により製造された発酵乳を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発酵乳の製造方法により、従来に無くビフィドバクテリウム属菌を多く含有する発酵乳を、効率よく製造することができる。また、本発明の発酵乳は、生きているビフィドバクテリウム属菌の含有量が、流通過程においても充分に維持されるため、より整腸効果が高く、健康管理上も有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ビフィドバクテリウム属菌(以下、ビフィズス菌ということがある。)と、上記(1)、(2)、及び(3)の特性を有するラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種を用いて発酵させることを特徴とする、発酵乳の製造方法である。特にビフィドバクテリウム・ロンガムを用いて発酵させる発酵乳の製造に適している。
【0012】
本発明で用いられるビフィズス菌としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ等であることが好ましい。特にビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999株、ビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株等であることがより好ましい。
【0013】
本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種は、上記(1)、(2)、及び(3)の特性を有するものである。
(1)は、発酵性に関するものである。10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、25〜30℃の温度範囲で16時間培養した時に、培地を凝固させることができるほど増殖が早く、強い発酵性を有する乳酸菌であれば、発酵乳製造時に、ビフィドバクテリウム属菌(以下、ビフィズス菌ということがある。)の生育性等をより効果的に改善することができるためである。
【0014】
通常、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種に適した発酵温度範囲は、20〜30℃であるが、本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種は、25〜30℃の温度範囲で強い発酵性を有する菌である。
【0015】
(2)は、ビフィズス菌の生育促進性に関するものである。10%(W/W)還元脱脂粉乳培地等の乳性培地は、pHが4.6付近になると、通常、含有されるカゼイン等が沈殿し、培地全体が凝固し、風味、食感及び外観が優れたものになる。このため、発酵乳製品を製造する場合には、一般に、pHが4.6付近に達した時に、急冷等をすることにより発酵を停止する。したがって、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌数を5×10CFU/g以上という高濃度にすることができるような生育促進性を有する乳酸菌であれば、発酵乳製造時に、発酵乳中のビフィズス菌含有量をより効果的に改善することができるためである。
【0016】
(3)は、ビフィズス菌の保存生残性促進性に関するものである。発酵乳製品の品質保持期限は、一般に、10℃以下の保存条件で2週間程度である。したがって、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に急冷して10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生菌数を1×10CFU/g以上とすることができるような保存生残性促進性を有する乳酸菌であれば、品質保持期限終了間際においても充分量のビフィズス菌を含有し得る発酵乳を製造することができるためである。
本発明のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種においては、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に急冷して10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生残率を、本発明のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種と混合培養しなかった場合の生残率の3倍以上、好ましくは4.5倍以上とすることができるような保存生残性促進性を有する乳酸菌であることが好ましい。特に、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に急冷して、10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生残率を30%以上、好ましくは45%以上とすることができるような保存生残性促進性を有する乳酸菌であることがより好ましい。
【0017】
本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種は、例えば以下の方法により得ることができる。まず、各種の試料から菌株を分離し、この中から10%(W/W)還元脱脂粉乳培地での発酵性が優れたもの、すなわち、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、25〜30℃の温度範囲で16時間培養した時に、培地を凝固させることができる発酵性を有するものを選択する。次いで、選択された菌とビフィドバクテリウム・ロンガムとの混合培養試験を行い、優れたビフィズス菌の生育促進性及び保存生残性促進性を有する菌株を選択することにより得ることができる。
【0018】
以下、さらに詳細に説明する。
1.菌株の取得
本発明者らは、前記の性質を有する菌株を自然界から取得すべく、日本国内の自然界から採集したサンプルを嫌気性希釈液(1980年叢文社発行、光岡知足著「腸内菌の世界」322ページ。以下、参考文献1と記載する。)で希釈し、Briggs liver broth(前記参考文献1、319ページ)の平板に塗布し、30℃で嫌気培養した。そして得られたコロニーの中で連鎖球菌の形態を示し、かつ塗布標本の顕微鏡観察によりグラム陽性である菌を釣菌した。該釣菌した菌を、BL寒天培地平板に画線塗布し、前記と同様の方法で嫌気培養を反復し、純粋単離された菌株を得た。これらの菌株を下記の方法を用いて、まず、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地中での発酵試験を行い、優れた発酵性を有する菌株を20株得た。続いて、ビフィドバクテリウム・ロンガムとの混合培養試験を行い、pHが4.4〜4.6に達した時に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌数を5×10CFU/g以上とすることのできる生育促進性と、10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生菌数を1×10CFU/g以上とすることのできる保存生残性促進性を有する菌株を2株取得した。該2菌株はそれぞれ、MCC−876、MCC−880と名付けられた。
【0019】
2.菌学的性質
前記2菌株の菌学的性質を、表1及び表2に示す。比較対象として、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625(=NCIB8139)株、及び特許文献2に記載のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチスのタイプストレインATCC19435株の菌学的性質も示した。なお、菌学的性質を測定するための試験は、バージェイズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology、Peter H. A. Sneath編、第2巻、Williams and Wilkins Company、1986年)にほぼ従って行った。また、糖の発酵性は、光岡の糖発酵性用培地(1974年、光岡知足著「乳酸菌の細菌学」、臨床検査18、1163〜1172ページ)を用いて、28種類の糖について試験を行った。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
上記1〜15に示す菌学的性質は、前記2菌株にほぼ共通しており、かつ、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625とも共通していた。一方で、糖の発酵性については、表2より明らかであるように、各菌株で異なる性質を示した。
【0023】
以上の結果から、前記2菌株は、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の菌学的性質を共通して有していることが明らかである。すなわち、前記2菌株は、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種であることが確認された。一方、糖の発酵性から、前記2菌株は、公知のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスとは異なる性質を有することが明らかである。
【0024】
そこで、出願人は、前記2菌株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)に新規菌株として寄託した。このうち、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株の受託番号は、FERM P−21490である(寄託日:平成20年1月24日)。
【0025】
3.10%(W/W)還元脱脂粉乳培地での発酵性試験
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地を95℃で30分間殺菌し、各菌株のスターターを3%接種し、25及び30℃の各温度で16時間培養した。得られた培養液を急冷し、凝固状況、pH、及び含有される乳酸菌数を測定した。乳酸菌数の測定は、市販されているBCP加プレートカウント寒天培地(栄研機材社製)平板で行った。測定結果を表3に示す。
なお、対照株として、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625株及びラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス タイプストレインATCC19435株を用いた。
【0026】
【表3】

【0027】
ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株又はMCC−880株、すなわち、本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種を用いた場合には、何れの温度条件においても、pHが4.4〜4.6まで低下して培地が凝固した。また、含有される乳酸菌数も5×10CFU/g以上であり、非常に増殖・発酵性の良いことが分かった。
一方、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625株又はラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス タイプストレインATCC19435株を用いた場合には、何れの温度条件においても、pHが5.5以上であり、培地は凝固しなかった。また、本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種と比較して、特に30℃において、乳酸菌数が顕著に少なかった。
【0028】
4.ビフィズス菌との混合培養試験
(1)ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株との混合培養試験
本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の、ビフィズス菌に対する生育促進性及び保存生残性促進性を、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株を用いて確認した。
対照株として、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625株及びラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス タイプストレインATCC19435株を用いた。
まず、後記実施例1に記載の方法で、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株及び880株のカルチャー、及び、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャーを調製した。
また、0.2%(W/W)酵母エキス(Difco社製)入り10%(W/W)還元脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625株のカルチャーを30mL接種し、25℃で16時間培養して、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625株のカルチャーを調製した。ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス タイプストレインATCC19435株のカルチャーも同様に調製した。
【0029】
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地を90℃で10分間殺菌し、上記のように調整したラクトコッカス属菌の各菌株のカルチャー1%と、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー1%を接種し、37℃で16時間培養して発酵乳を得た。該発酵乳を急冷し、pH及び含有されるビフィズス菌数を測定した。さらに、10℃で2週間保存し、保存後1週間及び2週間におけるビフィズス菌数を測定した。ビフィズス菌数の測定は、TOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業社製)平板で行なった。測定結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株又は880株をそれぞれ用いた発酵乳は、発酵後pHがおよそ4.6であり、ビフィズス菌数が5×10CFU/g以上に達した。また、該発酵乳を10℃で2週間保存した場合のビフィズス菌生残率は、何れも45%以上であった。
一方、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスATCC9625株又はラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス タイプストレインATCC19435株を用いた発酵乳は、発酵が進まず、発酵後pHが5.0以上であり、10℃での保存試験が不可能であった。また、発酵終了直後のビフィズス菌数もおよそ1×10CFU/gであり、本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種と比較して、顕著に少なかった。
【0032】
すなわち、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株及び880株は、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスの公知の他の菌株よりも、ビフィズス菌に対する生育促進性及び保存生残性促進性が優れていることが明らかである。
【0033】
(2)ビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株との混合培養試験
本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の、ビフィズス菌に対する生育促進性及び保存生残性促進性を、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株とビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株を用いて確認した。
まず、後記実施例1に記載の方法で、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株のカルチャー、及び、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャーを調製した。
また、後記実施例9に記載の方法で、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及びラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)の混合カルチャーを調製した。
さらに、0.2%(W/W)酵母エキス入り11%(W/W)脱脂粉乳培地を90℃で30分間殺菌し、ビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株のスターターを10%接種し、37℃でpHが4.6になるまで培養して、ビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株のカルチャーを調製した。
【0034】
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地を90℃で10分間殺菌し、上記のように調整したラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株のカルチャー1%と、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー1%又はビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株のカルチャー1%と、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバチルス・ブルガリクスの混合カルチャー0.01%を接種し、37℃でpHが4.6になるまで培養して発酵乳を得た。該発酵乳を急冷し、含有されるビフィズス菌数を測定した。さらに、10℃で2週間保存し、保存後1週間及び2週間におけるビフィズス菌数を測定した。
一方、対照として、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地を90℃で10分間殺菌し、上記のように調整したビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー1.5%又はビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株のカルチャー1.5%と、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバチルス・ブルガリクスの混合カルチャー0.4%を接種し、37℃でpHが4.6になるまで培養して得た発酵乳のビフィズス菌数を同様に測定した。測定結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株と、ビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株の両株とも、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養することにより、発酵乳中のビフィズス菌数は顕著に増大した。
また、10℃で2週間保存後のビフィズス菌生残率は、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株の場合、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養しなかった場合には約13%であったのに対して、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養した場合には約60%であった。つまり、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養することにより、10℃で2週間保存後のビフィズス菌生残率は4.5倍以上改善された。
一方、ビフィドバクテリウム・ブレーベ タイプストレインATCC15700株の場合には、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養しなかった場合の10℃で2週間保存後のビフィズス菌生残率は約0.02%であったのに対して、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養した場合には約5%であり、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株と混合培養することにより、10℃で2週間保存後のビフィズス菌生残率は著しく改善されていた。
なお、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株に代えて、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−880株を用いた場合にも同様の結果が得られた。
【0037】
すなわち、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株及びMCC−880株は、ビフィドバクテリウム・ブレーベ等の、ビフィドバクテリウム・ロンガム以外のビフィズス菌に対しても、優れた生育促進性及び保存生残性促進性を有することが明らかである。
【0038】
5.特許文献1記載のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチスとラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスの混合物との比較試験
まず、上記4(2)記載の方法で、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株のカルチャー、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー、及び、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバチルス・ブルガリクスの混合カルチャーを調製した。
【0039】
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地を90℃で10分間殺菌し、上記のように調整したラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株のカルチャー1%と、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー1%と、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバチルス・ブルガリクスの混合カルチャー0.01%を接種し、37℃でpHが4.6になるまで培養して発酵乳を得た。該発酵乳を急冷し、含有されるビフィズス菌数を測定した。
一方、対照として、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地を90℃で10分間殺菌し、上記のように調整したビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー1%と、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチスとラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスの混合物「EZAL MA14」(Rhodia社製)2%を接種し、38℃でpHが4.6になるまで培養して得た発酵乳のビフィズス菌数を同様に測定した。なお、「EZAL MA14」は、特許文献1に記載の「EZAL MR014」(Rhodia社製)に相当する混合物である。
【0040】
ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株を用いた発酵乳では、ビフィズス菌数は5.7×10CFU/gであった。これに対し、「EZAL MA14」を用いた発酵乳を10倍に希釈した希釈溶液からは、ビフィズス菌が全く検出されず、該発酵乳に含有されるビフィズス菌数は1×10CFU/g以下であることが判明した。
【0041】
すなわち、特許文献1記載のラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチスとラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスを、ビフィドバクテリウム・ロンガムとを、混合培養した場合には、特許文献1に記載されているようなビフィズス菌の生育促進及び発酵時間の短縮という効果を得ることができないことが明らかである。
【0042】
以上のように、本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種、特に、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株及び880株の2菌株は、ビフィズス菌に適した発酵温度範囲における10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、強い発酵性を示し、さらに、ビフィズス菌と混合培養した場合に、ビフィズス菌の生育及び保存生残に対し、優れた促進効果を示すことから、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスの公知の菌株にみられなかった性質を持っていることは明らかである。また、本発明で用いられるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種は、ダイアセチル及びアセトインを生成しないため、風味の良い発酵物を製造することも期待できる。
【0043】
本発明において、ビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の前培養に用いられる培地は、通常用いられる培地であれば、特に限定されるものではないが、乳性培地であることが好ましい。取り扱いが簡便であるため、還元脱脂粉乳培地が特に好ましい。該還元脱脂粉乳培地の濃度は、3%(W/W)以上が好ましく、8%(W/W)以上が特に好ましい。その他、前培養に用いられる培地には、酵母エキス等の生育促進物質や、L−システイン等の還元剤等を添加することができる。特にビフィズス菌は乳性培地での増殖性が低いため、生育促進物質を添加した培地を用いることが好ましい。例えば、0.1〜1%(W/W)の酵母エキスを含有した培地を用いることができる。また、前培養に用いられる培地は、殺菌処理をしたものを用いる。該殺菌処理は、通常用いられる方法で行うことができ、例えば、80〜122℃で5〜40分間、好ましくは85〜95℃で5〜35分間の加熱処理により行うことができる。
【0044】
本発明において、ビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種を用いた発酵に用いられる発酵用ベースは、発酵乳の製造に通常用いられるベースであれば、特に限定されるものではない。該ベースは、例えば、牛乳、脱脂乳、生クリーム、バター、全粉乳、脱脂粉乳等に、必要に応じて蔗糖等の甘味料、ペクチン、果実、フルーツジュース、寒天、ゼラチン、油脂、香料、着色料、安定剤、還元剤等を配合し、常法に従って殺菌、均質化、冷却等することにより調製することができる。
【0045】
ビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種のスターターの発酵用ベースへの接種比率は、特に限定されるものではないが、100:1〜1:10が好ましく、10:1〜1:1が特に好ましい。また、発酵用ベースへ添加する量も、特に限定されるものではないが、ビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種を合わせた添加量が、発酵用ベースに対して0.01〜10(V/V)%が好ましく、0.1〜5(V/V)%が特に好ましい。
【0046】
本発明に用いられる乳酸菌には、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種のビフィズス菌に対する生育促進効果及び保存生残性促進効果を阻害しない範囲において、ビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の他に、他の乳酸菌を含有してもよい。該他の乳酸菌は、通常発酵乳の製造に用いられるものであれば、特に限定されないが、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリクスが好ましい。ビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種を合わせた摂取量と、その他の乳酸菌を合わせた摂取量の、スターターとしての発酵用ベースへの接種比率は、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種のビフィズス菌に対する効果を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、1000:1〜10:1が好ましい。
【0047】
本発明の発酵乳の製造方法における、混合培養の温度は、30℃〜40℃が好ましく、36℃〜38℃が特に好ましい。本発明に用いられるビフィズス菌とラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の両方が充分に生育可能な温度範囲であるためである。また、培養時間は、製造する発酵乳の種類によって適宜決定されるが、5〜18時間が好ましい。
【0048】
培養後得られた発酵乳は、そのまま食品としてもよく、例えば、均質化して液状に加工してもよい。その他、例えば、果汁、果実等を適宜添加してもよい。また、容器への充填等は、特に限定されるものではなく、通常用いられる方法で行うことができる。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株のシードカルチャーを30mL接種し、25℃16時間培養した。一方、0.2%(W/W)酵母エキス入り11%(W/W)脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のシードカルチャーを100mL接種し、37℃6時間培養した。
これとは別に、脱脂粉乳、全粉乳及び蔗糖等の原料を混合溶解し、乳脂肪0.5%(W/W)、無脂乳固形分8.0%(W/W)、蔗糖5.0%(W/W)、ペクチン0.2%(W/W)からなるベース50Lを、90℃で10分間殺菌し,40℃に冷却した。該殺菌したベースに、前記の通り前培養を行ったラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876株のカルチャー50mLとビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー500mLを接種し、37℃16時間培養して発酵乳を得た。該発酵乳を直ちに攪拌冷却し、冷却発酵乳を15MPaの圧力で均質化し、200mL容のガラス容器に充填し、密封し、ドリンクヨーグルトを得た。得られたドリンクヨーグルトは乳酸酸度0.7%、pH4.6であり、6.0×10CFU/gのビフィズス菌を含有していた。このドリンクヨーグルトを10℃で21日間保存した時のビフィズス菌数は3.2×10CFU/gであり、生残率は53%であった。
【0051】
[実施例2]
10%(W/W)還元脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−880株のシードカルチャーを30mL接種し、25℃16時間培養した。一方、0.2%(W/W)酵母エキス入り11%(W/W)脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のシードカルチャーを100mL接種し、37℃6時間培養した。また、10%(W/W)還元脱脂粉乳培地1500mLを90℃で30分間殺菌し、ストレプトコッカス・サーモフィルス(ハンゼン社製)とラクトバチルス・ブルガリクス(ハンゼン社製)の混合カルチャー50mLを接種し、37℃5時間培養した。
これとは別に、乳脂肪3.0%(W/W)、無脂乳固形分9.0%(W/W)からなる生乳50Lを70℃に加温し、15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却した。該殺菌したベースに、前記の通り前培養を行ったラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−880株のカルチャー500mL、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999株のカルチャー500mL、及びストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリクスの混合カルチャー5mLを接種し、37℃7時間培養した後、直ちに冷却した。得られた発酵乳は乳酸酸度0.7%、pH4.5であり、6.8×10CFU/gのビフィズス菌を含有していた。この発酵乳を10℃で21日間保存した時のビフィズス菌数は3.8×10CFU/gであり、生残率は56%であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の製造方法により、消費期限終了直前であっても、生きているビフィズス菌を従来に無く多く含有する発酵乳を製造することができるため、発酵乳等の製造分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌として、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌と、下記の菌学的性質を有するラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)菌種を用いて発酵させることを特徴とする、発酵乳の製造方法。
(1)10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、25〜30℃の温度範囲で16時間培養した場合に、培地が凝固する発酵性、
(2)10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)と混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌数を5×10CFU/g以上とする、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生育促進性、
(3)10%(W/W)還元脱脂粉乳培地で、ビフィドバクテリウム・ロンガムと混合培養した場合に、pHが4.4〜4.6に達した時に急冷して、10℃で2週間保持した場合の、ビフィドバクテリウム・ロンガムの生菌数を1×10CFU/g以上とする、ビフィドバクテリウム・ロンガムの保存生残性促進性。
【請求項2】
前記ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種が、キシロース資化性を有さず、かつ、ダイアセチル及びアセトインを生成しないことを特徴とする請求項1記載の発酵乳の製造方法。
【請求項3】
前記ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種の菌株が、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリスMCC−876(FERM P−21490)である、請求項1又は2記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
前記ビフィドバクテリウム属菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)である、請求項1〜3のいずれか記載の発酵乳の製造方法。
【請求項5】
前記ビフィドバクテリウム属菌の菌株が、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベATCC15700である、請求項1〜3のいずれか記載の発酵乳の製造方法。
【請求項6】
前記乳酸菌が、前記ビフィドバクテリウム属菌、前記ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス菌種、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、及び、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)とであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか記載の発酵乳の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の発酵乳の製造方法により製造された発酵乳。

【公開番号】特開2009−232717(P2009−232717A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81152(P2008−81152)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】