説明

新規低分子化合物およびその製造方法

【課題】細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等に優れた新規低分子化合物およびその製造方法、前記化合物を用いた薬学的組成物および医薬を提供する。
【解決手段】オキサジン構造、ベンズイソキサゾール構造、トリアゾール構造等を分子中に含む化合物を複数合成し、それらが細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等に優れていることを見出した。薬学的組成物および医薬は、細胞の増殖に関わる疾患の治療、症状の軽減、予防等に好適であり、例えば抗癌剤または制癌剤として使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規低分子化合物およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、前記化合物を用いた薬学的組成物および医薬に関し、例えば、細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等を有する薬学的組成物、および、細胞の増殖に関わる疾患の治療、症状の軽減、予防等に使用される医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、基本的には、細胞集団の分裂が止まらなくなる病気である。白血病等のある種の癌は腫瘍を形成しないが、多くの癌においては、分裂細胞が塊又は腫瘍を形成する。したがって、抗癌剤や制癌剤として用いる物質には、細胞増殖阻害活性等が重要である。また、臨床上、抗癌剤のin vivoにおける薬学的特性が治療上重要な価値を有することも明らかである。これらの分野においては、低分子化合物、特にヘテロ環化合物(複素環化合物)が重要である。例えば、1,3-オキサジン、1,2,4-トリアゾール、イミダゾールおよび1,2-ベンズイソキサゾール核等の構造を分子内に含む物質は、それらの生理活性や生理学的経路に対する多様な効果のため、薬学的に重要視されている物質である。これらの観点から、今日までに、以下に述べるような種々の研究が報告されている。
【0003】
すなわち、まず、Smyth MS, et al (Bioorg. Med. Chem. Lett, 2001, 11, 1289-92、非特許文献1)は、3,9-ジアザスピロ[5.5]ウンデカン構造を含む新規グリコプロテインIIb-IIlaアンタゴニストの合成及び生物学的活性について報告する。それらの化合物の、血小板凝集インヒビターとしての強力な活性は、非ペプチドRGD類似体(mimics)の主要テンプレートとしてのスピロ環構造の有用性を示す。
【0004】
次に、Badger A M and et al (J. Med. Chem. 1990, 33 (11), 2963-70、非特許文献2)は、スピロゲルマニウム(1;8,8-ジエチル-N,N-ジメチル-2-アザ-8-ゲルマスピロ[4.5]デカン-2-プロパンアミン ジヒドロクロリド)が、強力なin vitro細胞障害性剤であり、実験動物腫瘍モデルで有限の活性を示すことを報告する。
【0005】
Badger AM and et al (Int. J. Immunopharmacol. 1989, 11(7), 839-46、非特許文献3)は、一つのN,N-ジメチル-8,8-ジプロピル-2-アザスピロ[4.5]デカン-2-プロパンアミン ジヒドロクロリドであるSK&F 105685をアジュバント関節炎(AA)ラットに経口投与した場合、免疫仲介ヒンドパウ(hindpaw)炎症を20 mg/kg/dayのED50で阻害することを見出した。このモデルでは、予防上及び治療上の両方の投与が有効である。
【0006】
Hill BT et al, (Cancer. Res. 1982, 42(7), 2852-6、非特許文献4)は、抗腫瘍活性を示す新規化学種である2-アザ-8-ゲルマンスピロ[4,5]デカン-2-プロパンアミン-8,8-ジエチル-N,N-ジメチル ジクロリド(NSC 192965; スピロゲルマニウム(spirogermanium))の、致死的な及び他のin vitro生物学的効果について報告している。
【0007】
Tsukamoto S and et al (Chem. Pharm. Bull (Tokyo), 1995, 43(5), 842-52、非特許文献5)は、2,8-ジメチル-1-オキサ-8-アザスピロ[4,5]デカン-3-オンを合成し、アルツハイマー型痴呆の兆候治療におけるM1ムスカリンアゴニストとしての評価をした。
【0008】
M. Vittoria Diurno and et al (Bioorg. Med. Chem. Lett., 11, 2791, 2001、非特許文献6)は、2-(4-および3-置換フェニル)-3-[3-(N,N-ジメチルアミノ)-プロピル]-1,3-チアゾリジン-4-オンの新シリーズについて、抗ヒスタミン活性を示したことを報告する。
【0009】
Maria Letizia Barreca and et al (Bioorg. Med. Chem. Lett., 11, 1793, 2001、非特許文献7)は、2,3-ジアリール-1,3-チアゾリジン-4-オンが強力な抗HIV-1剤であることを見出し、3-(2,6-ジクロロフェニル)-2-(6-メチルピリジン-2-イル)-1,3-チアゾリジン-4-オンが、ナノモル濃度でHIV-1複製の阻害に対し効果が高く、それにより、非ヌクレオシドHIV-1 RTインヒビター(NNRTIs)として働くことを証明した。
【0010】
Yoo Tanabe and et al (J. Chem. Soc. Perkin trans. I. 935, 1995、非特許文献8)は、2-アリールチアゾリジン-4-オンの抗血小板活性について研究した。彼らは、3,5-ジメチル-2-(3-ピリジル)チアゾリジン-4-オンおよび5-(4-クロロフェニル)-3-メチル-2-(3-ピリジル)チアゾリジン-4-オンの4つの光学活性異性体を合成し、立体構造と活性との関係を確立した。彼らの研究によれば、抗PAF生物学的活性の見地から、前記トランス-2-(3-ピリジル)チアゾリジン-4-オンの方が、前記5-メチル類似体を除く前記シス異性体よりも重要である。
【0011】
Yoshimi K and et al (Jpn. J. Pharmacol. 2002, 88(2), 174-82、非特許文献9)は、MAOインヒビターを見出した。それらの阻害は可逆的であり、そして、MAO-A および -Bサブタイプの両方に対する二重作用はいまだ利用可能でないが、新規MAOインヒビターである3-(2-アミノエトキシ)-1,2-ベンズイソキサゾール誘導体シリーズのサブタイプ選択性及び可逆性が研究されている。
【0012】
Mimaki T and et al., (Ther. Drug. Monit. 1998, 20(6), 593-7、非特許文献10)は、日本で発達した新規抗癲癇薬であるゾニサミド(1,2−ベンズイソキサゾール-3-メタンスルホンアミド)を発明した。実験動物では、この化合物は、フォーカルスパイキング(focal spiking)および二次的な全身急性発作の広がりを抑制するために、皮質に起因する発作に対し強力な阻害効果を有することが見出された。
【0013】
米国特許第20030225148号公報(2003年、特許文献1)は、官能基化された4-アミノ-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールにおける2つの構造変形の、酸化窒素シンターゼ(NOS)インヒビターとしておよび悪性腫瘍成長インヒビターとしての有用性について記載している。
【0014】
Lin R and et al., (J. Med. Chem. 2005, 48(13), 4208−11、非特許文献11)は、1−アシル−1H−[1,2,4]トリアゾール-3,5-ジアミン類似体シリーズを、サイクリン依存キナーゼ(CDK)インヒビターとして見出した。それらの化合物は、強力かつ選択的なCDK1およびCDK2阻害活性を示し、さらに、種々のヒト腫瘍細胞において、in vitro細胞増殖を阻害した。
【0015】
Itoh T and et al., (Mol. Cancer. Res. 2005, 3(4), 203-18、非特許文献12)は、胸部癌細胞の遺伝子発現に対するそれら薬物の効果を調べるために、アロマターゼ遺伝子により安定にトランスフェクションされたエストロゲンレセプター陽性MCF-7細胞(MCF-7アロ細胞として知られる)を、テストステロン、17ベータ−エストラジオール、2つのアロマターゼインヒビター(レトロゾール及びアナストロゾール)、およびアンチエストロゲン(タモキシフェン)により治療し、そして、テストステロンまたは17ベータ−エストラジオールが、MCF-7アロ細胞に対し、非処理細胞よりも6倍速い増殖を引き起こすことを見出した。
【0016】
Dixon JM and et al., (Eur. J. Cancer. 2004, 40(18), 2742-7、非特許文献13)は、胸部腫瘍におけるerbB2の発現過多(over expression)により、タモキシフェン治療への抵抗を予見できることを見出した。アナストロゾールは、一定の患者人口に対しては、erbB2状態に関係なく、効果的な内分泌オプションであるように見受けられる。
【0017】
Priya B. S and et al., (Bioorg. Med. Chem. 2005, 13, 2623-2628、非特許文献14)では、種々のベンズイソキサゾール誘導体の合成および抗微生物活性等について報告している。ただし、腫瘍細胞増殖阻害活性等についての報告はない。
【0018】
さらに、これまでにsuramin等のヘテロ環化合物(複素環化合物)がいくつか合成され、癌の転移や浸潤の関与する人の血管新生に対する阻害活性が確認されている。
【0019】
このように、従来、種々の低分子化合物について腫瘍細胞増殖阻害活性等が研究されてきたが、腫瘍細胞浸潤阻害、血管新生阻害等について十分な活性を有する低分子化合物の合成例はいまだ報告されていない。そのため、さらに優れた活性を有する化合物の研究開発が要求されている。
【0020】
【特許文献1】米国特許第20030225148号公報
【非特許文献1】Smyth MS, et al, Bioorg. Med. Chem. Lett, 2001, 11, 1289-92
【非特許文献2】Badger A M and et al, J. Med. Chem. 1990, 33 (11), 2963-70
【非特許文献3】Badger AM and et al, Int. J. Immunopharmacol. 1989, 11(7), 839-46
【非特許文献4】Hill BT et al, Cancer. Res. 1982, 42(7), 2852-6
【非特許文献5】Tsukamoto S and et al, Chem. Pharm. Bull (Tokyo), 1995, 43(5), 842-52
【非特許文献6】M. Vittoria Diurno and et al, Bioorg. Med. Chem. Lett., 11, 2791, 2001
【非特許文献7】Maria Letizia Barreca and et al, Bioorg. Med. Chem. Lett., 11, 1793, 2001
【非特許文献8】Yoo Tanabe and et al, J. Chem. Soc. Perkin trans. I. 935, 1995
【非特許文献9】Yoshimi K and et al, Jpn. J. Pharmacol. 2002, 88(2), 174-82
【非特許文献10】Mimaki T and et al., Ther. Drug. Monit. 1998, 20(6), 593-7
【非特許文献11】Lin R and et al., J. Med. Chem. 2005, 48(13), 4208−11
【非特許文献12】Itoh T and et al., Mol. Cancer. Res. 2005, 3(4), 203-18
【非特許文献13】Dixon JM and et al., Eur. J. Cancer. 2004, 40(18), 2742-7
【非特許文献14】Priya B. S and et al., Bioorg. Med. Chem. 2005, 13, 2623-2628
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明は、細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等に優れた新規低分子化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記課題を解決するために、本発明の化合物は、下記式[I]で表される化合物のうち下記式5以外の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩である。その製造方法は特に限定されないが、例えば、後述する本発明の化合物の製造方法により製造することができる。また、本発明の薬学的組成物は、下記式[I]で表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を活性成分として含む。そして、本発明の医薬は、下記式[I]で表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を含むか、または前記本発明の薬学的組成物を含む。
【化17】

【化18】

前記式[I]中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良く、
Lは、N原子、S原子およびO原子からなる群から選択される少なくとも一つの原子を含む原子団であり、直鎖状でも良く、分枝構造を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明の化合物は、前記構造を有することにより、細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等に優れる。したがって、これを用いた本発明の薬学的組成物および医薬は、細胞の増殖に関わる疾患の治療、症状の軽減、予防等に好適であり、例えば抗癌剤または制癌剤として使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
前記式[I]中、Lは、例えば下記式(1001)〜(1004)のいずれかで表されることが好ましく、下記式(1005)〜(1008)のいずれかで表されることがより好ましい。
【化19】

【化20】

前記式(1001)〜(1004)中、
L1〜L8は、同一であるかまたは異なり、それぞれNまたはCHであり、
L9〜L18は、同一であるかまたは異なり、それぞれO、S、SO、SO2、NH、CH2またはC=Oであり、
星印(*)は、その位置でAr1またはAr2に結合していることを示し、
前記式(1001)〜(1004)中の水素原子は、任意の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い。
【0026】
また、前記式(1005)〜(1008)中、
星印(*)は、その位置でAr1またはAr2に結合していることを示し、
前記式(1005)〜(1008)中の水素原子は、任意の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い。
【0027】
前記式[I]中、Ar1は、例えば、下記式(1009)〜(1011)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団であることが好ましく、Ar2は、例えば、下記式(1012)〜(1014)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団であることが好ましい。
【化21】

前記式(1009)〜(1014)中、
Q11〜Q17は、同一であるかまたは異なり、それぞれNまたはCHであり、
Q18およびQ19は、同一であるかまたは異なり、それぞれO、S、SO、SO2、NHまたはCH2であり、
Q21〜Q27は、同一であるかまたは異なり、それぞれNまたはCHであり、
Q28およびQ29は、同一であるかまたは異なり、それぞれO、S、SO、SO2、NHまたはCH2であり、
R1およびR2は、前記式[I]と同じである。
【0028】
さらに、前記式[I]中、Ar1は、例えば、下記式(1015)〜(1018)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団であることがより好ましく、Ar2は、例えば、下記式(1019)〜(1022)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団であることがより好ましい。
【化22】

前記式(1015)〜(1022)中、R1およびR2は、前記式[I]と同じである。
【0029】
前記式[I]中、R1およびR2は、特に限定されないが、例えば、それぞれ、水素原子、ハロゲン、直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたフェニル基、ベンジル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたベンジル基、ヒドロキシ基、直鎖もしくは分枝アルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、メチレンジオキシ基、メルカプト基、直鎖もしくは分枝アルキルチオ基、フェニルチオ基、ベンジルチオ基、ホルミル基、直鎖もしくは分枝アルカノイル基、ベンゾイル基、ベンジルカルボニル基、カルボキシ基、直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基、直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニルオキシ基、カルバモイル基、直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、 -NRaRb(RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素、直鎖もしくは分枝アルキル基、ホルミル基、直鎖もしくは分枝アルカノイル基、カルボキシル基、または直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。)、スルホ基、直鎖もしくは分枝アルキルスルホ基、スルフィノ基、直鎖もしくは分枝アルキルスルフィノ基、ヒドロキシ置換された直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された直鎖もしくは分枝アルコキシ基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロソ基、オキソ基、イミノ基またはチオキソ基であることが好ましい。
【0030】
また、前記式[I]中、R1およびR2は、例えば、それぞれ、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたフェニル基、ベンジル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたベンジル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、メチレンジオキシ基、メルカプト基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルチオ基、フェニルチオ基、ベンジルチオ基、ホルミル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、ベンゾイル基、ベンジルカルボニル基、カルボキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニルオキシ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、 -NRaRb(RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、ホルミル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、カルボキシル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。)、スルホ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホ基、スルフィノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルフィノ基、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロソ基、オキソ基、イミノ基またはチオキソ基であることがより好ましい。
【0031】
なお、本発明で「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。また、アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基等があげられ、アルキル基をその構造中に含む基(例えば、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基等)についても同様である。アルカノイル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基およびイソバレリル基等があげられ、炭素数1のアルカノイル基とはホルミル基を指すものとする。
【0032】
前記式[I]中、R1およびR2は、例えば、それぞれ、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヒドロキシ基またはメルカプト基であることがさらに好ましく、R1およびR2が、それぞれ、水素原子、フルオロ基、クロロ基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、またはメルカプト基であることが特に好ましい。
【0033】
前記式[I]中、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)は、例えば、それぞれ下記式(1023)〜(1031)および(1031−2)〜(1031−6)のいずれかで表されることが特に好ましい。
【化23】

前記式(1023)〜(1031)および(1031−2)〜(1031−6)中、星印(*)は、その位置でLに結合していることを示す。
【0034】
なお、前記式[I]において、Lが前記式(1001)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)の少なくとも一方、特にL2に結合した側が、前記式(1009)または(1012)で表されることがより好ましく、前記式(1015)で表されることがさらに好ましく、前記式(1023)〜(1030)のいずれかで表されることが一層好ましく、前記式(1027)で表されることが特に好ましい。また、Lが前記式(1005)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)の少なくとも一方、特にNHおよびOと反対側に結合した側が、前記式(1009)または(1012)で表されることがより好ましく、前記式(1015)で表されることがさらに好ましく、前記式(1023)〜(1030)のいずれかで表されることが一層好ましく、前記式(1027)で表されることが特に好ましい。Lが前記式(1002)または(1006)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)の少なくとも一方が、前記式(1009)または(1012)で表されることがより好ましく、前記式(1015)で表されることがさらに好ましく、前記式(1023)〜(1030)のいずれかで表されることが一層好ましく、前記式(1025)または(1026)で表されることが特に好ましい。Lが前記式(1003)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)の少なくとも一方が、前記式(1010)または(1013)で表されることがより好ましく、前記式(1017)または(1021)で表されることがさらに好ましく、前記式(1031−3)〜(1031−6)のいずれかで表されることが一層好ましい。Lが前記式(1007)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)の少なくとも一方が、特にN原子に結合した側が、前記式(1010)または(1013)で表されることがより好ましく、前記式(1017)または(1021)で表されることがさらに好ましく、前記式(1031−3)〜(1031−6)のいずれかで表されることが一層好ましい。Lが前記式(1004)または(1008)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)の少なくとも一方が、特にカルボニル基と反対側に結合した側が、前記式(1011)または(1014)で表されることがより好ましく、前記式(1022)で表されることがさらに好ましく、前記式(1031−2)で表されることが特に好ましい。Lが前記式(1004)または(1008)で表される場合、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)のうちカルボニル基に結合した側は、前記式(1009)または(1012)で表されることがより好ましく、前記式(1015)で表されることがさらに好ましく、前記式(1023)〜(1030)のいずれかで表されることが一層好ましく、前記式(1029)または(1030)で表されることが特に好ましい。
【0035】
前記式[I]で表される化合物のうち、細胞増殖阻害活性等が特に優れているのは、例えば下記式1〜4および6〜11であるが、本発明の化合物はこれらには限定されない。
【化24】

【化25】

【0036】
なお、前記式[I]で表される化合物またはその塩が、互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体および配座異性体)を有するときは、それらの分離された各異性体および混合物も本発明の化合物に含まれる。また、前記式[I]で表される化合物またはその塩が、その構造に不斉炭素を有するときは、それらの光学活性体およびラセミ混合物もまた本発明の化合物に含まれる。さらに、前記式[I]で表される化合物またはその塩は、例えば、適宜な溶媒から再結晶する等の方法により、結晶化させて用いることもできる。
【0037】
前記式[I]で表される化合物の塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でも良い。前記酸付加塩を形成する酸は、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が可能である。有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等が可能である。前記塩基付加塩を形成する塩基は、無機塩基でも有機塩基でも良い。無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が可能であり、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が可能である。有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が可能である。前記式[I]で表される化合物の塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記式[I]で表される化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0038】
本発明の化合物の使用方法としては、例えば、薬学的組成物または医薬の製造のために、本発明の化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を使用しても良い。また、本発明の化合物の使用方法としては、例えば、人間または動物の患者の細胞の増殖に関わる疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途のために、本発明の化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質の有効量を前記患者に投与しても良い。投与形態は特に限定されず、例えば、本発明の化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を含む薬学的組成物または医薬として投与しても良い。本発明の化合物の1回当たりの投与量および投与間隔等は特に限定されず、その目的に応じて適宜選択することができる。それらは、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、病状、投与経路、患者の代謝・排泄機能のレベル、使用される剤形、投与される特定の化合物およびその塩を含む種々の要素を考慮して、当業者によって選定される。
【0039】
また、本発明の化合物の用途としては、例えば、糖鎖との相互作用を利用した用途も挙げられる。より具体的には、以下の通りである。
【0040】
近年の研究によれば、グリコサミノグリカン(GAG)糖鎖は、種々の細胞増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、形態形成因子、神経栄養因子等の機能性タンパク質との相互作用を通じ、細胞の増殖、分化、移動、組織の形態形成等の現象に関わり、多様な細胞生物学的活性を示す。例えば、本発明の化合物がカチオンを形成し、正電荷を帯びれば、アニオン性の(負電荷を帯びた)GAG糖鎖と相互作用すると考えられる。このようなGAG糖鎖との相互作用を利用すれば、本発明の化合物は、例えば、GAG糖鎖の糖鎖生物学、糖鎖生理学、糖鎖病理学の基盤研究のためのツールとして使用可能である。また、本発明の化合物とGAG糖鎖との相互作用により、例えば、VEGF等の増殖因子との相互作用を利用した従来の血管新生インヒビターとは異なる効果が期待できる。さらに、GAGのみならず、他の糖鎖、例えば、硫酸化糖鎖(好ましくは硫酸化オリゴ糖鎖)、非硫酸化糖鎖(好ましくは非硫酸化酸性オリゴ糖鎖)、糖脂質、糖タンパク質等との相互作用を利用すれば、糖鎖生物学の広い分野への応用が可能である。
【0041】
また、例えば、本発明の化合物が、細胞増殖阻害活性、細胞死誘導活性、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍転移阻害活性、腫瘍細胞遊走阻害活性、腫瘍細胞死誘導活性、血管新生阻害活性、機能性タンパク質活性調節活性等を有する場合、その活性を利用した産業上の応用が可能である。細胞死としては、例えば、いわゆるアポトーシス(計画細胞死)が挙げられ、本発明の化合物は、例えば癌細胞死誘導活性を有することが特に好ましい。例えば、本発明の化合物が、in vitroにおいて癌細胞死を誘導する場合、抗癌剤、制癌剤等の開発のための創薬研究のツールとなり得る。
【0042】
次に、本発明の化合物の製造方法について説明する。なお、以下に記載する反応温度、反応時間、試薬、溶媒等の反応条件は単なる例示であり、必要に応じ適宜変更しても良い。
【0043】
前記式[I]で表される化合物の製造方法は特に限定されず、どのような方法でも良いが、下記式(1034)で表される化合物の場合は、例えば、下記式(1032)または(1032−2)で表される化合物および下記式(1033)で表される化合物を反応させる工程を含む製造方法により製造することができる。
【化26】

前記式(1032)〜(1034)中、
Ar2は、芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R100は、水素原子または任意の原子団である。
【0044】
前記式(1034)で表される化合物の製造方法において、例えば、前記化合物(1033)が下記式(1033’)で表され、前記化合物(1034)が下記式(1034’)で表されることが好ましい。
【化27】

前記式(1033’)および(1034’)中、
Ar2およびR2は前記式(1032)および(1034)と同じであり、
Ar1は、芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、Ar2とは同一でも異なっていても良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、R2とは同一でも異なっていても良い。
【0045】
前記式(1034)で表される化合物(1,3-オキサジン誘導体)の製造方法において、前記アミノアルコール(1032)と前記アルデヒド(1033)の反応は、反応効率向上等の存在から、例えば、無機塩基の存在下で行っても良い。前記無機塩基は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。反応温度、反応時間、使用溶媒等も特に限定されず、例えば、原料の種類等に応じて適宜設定しても良い。前記使用溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、および水が挙げられ、さらに、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、アニソール、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトニトリル等のニトリル、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いても二種類以上併用しても良い。
【0046】
この製造方法によれば、前記式(1034)で表される化合物(1,3-オキサジン誘導体)を、きわめて簡便、安価かつ環境に対する影響の小さい方法で製造(合成)することもできる。例えば、前記化合物1〜3は、アミノアルコールすなわち1-{1-(4-メトキシフェニル)-2-アミノエチル}-シクロヘキサノールと置換芳香族イミダゾリルカルボアルデヒドの、メタノール中3当量無水K2CO3存在下における縮合等で簡便に合成可能である。前記縮合反応は、高価な試薬、溶媒等を用いず、比較的温和な条件で行うことができるため、大スケール合成にも効果的である。
【0047】
次に、前記[I]で表される化合物のうち、下記化合物(1038)は、例えば、下記式(1035)で表される化合物、下記式(1036)で表される化合物、および下記式(1037)で表される化合物を反応させる工程を含む製造方法により製造することができる。
【化28】

前記式(1035)〜(1038)中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良い。
【0048】
前記化合物(1038)の製造方法において、前記化合物(1035)〜(1037)の反応は、反応効率向上等の存在から、例えば、遷移金属化合物等の存在下で行っても良い。前記遷移金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、フェライト等を用いても良いし、金属触媒を用いても良い。また、これら遷移金属化合物は、単独で用いても二種類以上併用しても良い。反応温度、反応時間、使用溶媒等も特に限定されず、例えば、原料の種類等に応じて適宜設定しても良い。前記使用溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、および水が挙げられ、さらに、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、アニソール、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトニトリル等のニトリル、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いても二種類以上併用しても良い。
【0049】
この製造方法によれば、前記化合物(1038)を、選択的であり、安価であり、かつ環境に対する影響が少ない方法で製造(合成)することもできる。例えば、前記化合物4すなわち2-(クロロ-フェニル)-3-p-トリル-チアゾリジン-4-オンは、無水ベンゼン中、γフェライトを吸着剤として用い、トルイジン、4-クロロベンズアルデヒドおよびチオグリコール酸の3つの1ポット縮合等により合成可能である。前記縮合反応は、比較的温和な条件で行うことができるため、大スケール合成にも効果的である。
【0050】
次に、前記[I]で表される化合物のうち、下記化合物(1039)は、例えば、下記式(1035)で表される化合物および下記式(1036)で表される化合物を反応させる工程を含む製造方法により製造することができる。
【化29】

前記式(1035)、(1036)および(1039)中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良い。
【0051】
前記式(1039)で表される化合物の製造方法において、前記アミノアルコール(1032)と前記アルデヒド(1033)の反応は、反応効率向上等の存在から、例えば、無機酸または無機塩基の存在下で行っても良い。前記無機酸は特に限定されないが、例えば、ハロゲン元素を含む酸、オキソ酸等が挙げられ、より具体的には、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、亜硝酸、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、過臭素酸、臭素酸、亜臭素酸、次亜臭素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、リン酸、亜リン酸等が挙げられ、単独で用いても二種類以上併用しても良い。前記無機塩基は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。反応温度、反応時間、使用溶媒等も特に限定されず、例えば、原料の種類等に応じて適宜設定しても良い。前記使用溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、および水が挙げられ、さらに、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、アニソール、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトニトリル等のニトリル、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いても二種類以上併用しても良い。
【0052】
この製造方法によれば、前記式(1039)で表される化合物を、きわめて簡便、安価かつ環境に対する影響の小さい方法で製造(合成)することもできる。例えば、前記化合物6すなわち4-(2,6-ジフルオロベンジリデンアミノ)-5-エチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオールは、エタノール中、触媒量の濃H2SO4存在下、4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールおよび2,6-ジフルオロベンズアルデヒドから簡便に合成することも可能である。この反応は、高価な試薬、溶媒等を用いず、比較的温和な条件で行うことができるため、大スケール合成にも効果的である。また、4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールに代えて他の4-アミノ-5-置換-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールを用いることや、2,6-ジフルオロベンズアルデヒドに代えて他のアルデヒド特に芳香族アルデヒドを用いることで、化合物6と類似の構造を有する種々の化合物を製造することもできる。
【0053】
次に、本発明の薬学的組成物および医薬について説明する。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、前記式[I]で表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を活性成分として含む。これにより、本発明の薬学的組成物は、例えば、細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等に優れる。前記活性成分は、例えば、細胞増殖阻害活性および細胞死誘導活性の少なくとも一方を有することが好ましい。また、前記活性成分は、例えば、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍転移阻害活性、腫瘍細胞死誘導活性、血管新生阻害活性および機能性タンパク質活性調節活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することが好ましい。細胞死としては、例えば、いわゆるアポトーシス(計画細胞死)が挙げられ、前記活性物質は、例えば癌細胞死誘導活性を有することが特に好ましい。
【0055】
前記活性物質として特に活性が高いのは、前記式[I]の化合物のうち、例えば下記式1〜11の化合物であるが、前記活性物質はこれらには限定されない。
【化30】

【化31】

【0056】
本発明の医薬は、前記式[I]で表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を含むか、または前記本発明の薬学的組成物を含む医薬である。本発明の医薬の用途は特に限定されないが、例えば、細胞の増殖に関わる疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用されることが好ましく、細胞の増殖に関わる疾患が、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患であることがより好ましい。また、本発明の医薬は、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用されることが特に好ましい。
【0057】
本発明の薬学的組成物または医薬の投与形態は特に限定されず、その目的に応じて、経口的に、または非経口的に投与することができる。経口剤として投与する時の形態は、特に限定されず、通常のおよび腸溶性錠剤、カプセル、ピル、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、溶剤、懸濁剤、シロップ、固体もしくは液体エアロゾル、および乳濁液等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。また、非経口投与時の形態も特に限定されず、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。
【0058】
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物をさらに含むことが好ましい。すなわち、例えば、本発明の化合物を、投与に先立ち、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物と共に製剤することが好ましい。前記添加物は、特に限定されないが、例えば、担体、希釈剤、香料、甘味料、滑沢剤、溶解剤、懸濁剤、結合剤、錠剤崩壊剤、およびカプセル化材等の不活性物質である。また、これら以外にも、例えば、医薬の分野で一般に使用されている任意の添加物を適宜用いても良い。
【0059】
前記添加物は、経口投与する場合は、例えば、以下に列挙する物質を使用することができる。担体としては、例えば、ラクトース、デンプン、スクロース、グルコース、炭酸ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、メチルセルロース等が可能である。崩壊剤としては、例えば、トウモロコシ粉、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、アルギン酸等が可能である。結合剤としては、例えば、ゼラチン、天然糖、ベータラクトース、トウモロコシ甘味料、天然および合成ゴム、アラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等が可能である。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、食塩、タルク等が可能である。
【0060】
本発明の薬学的組成物または医薬の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記活性成分を、希釈剤と混合しても良いし、担体に封入しても良い。前記担体は、例えば、カプセル、小袋、紙その他の容器の形態が可能である。前記担体は希釈剤を兼ねてもよく、固体でも、半固体でも、ビヒクルとして作用する液体でも良い。また、本発明の医薬の形態は、特に限定されないが、例えば、錠剤、ピル、散剤、ローゼンジ、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアロゾル、軟膏、軟・硬ゼラチンカプセル、坐薬、滅菌注射用液および包装滅菌散剤等の種々の形態が可能である。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の実施例について説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0062】
以下の実施例では、前記化合物1〜11を合成し、マウス骨肉腫細胞の浸潤阻害活性および血管新生阻害活性を試験した。
【0063】
[測定条件等]
以下のデータにおいて、融点(mp)は未補正値であり、SELACO-650(米国Selaco Aluminium Berhad社の商品名)を用いて測定した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、株式会社島津製作所および米国Bruker社の 商品名Shimadzu AMX 400-Bruker(H測定時400MHz)を用いて測定した。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準0ppmには、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、q、mおよびbrは、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、多重線(multiplet)および広幅線(broad)を表す。赤外(IR)スペクトルは、株式会社島津製作所製 商品名Shimadzu 8300 IR spectrophotometer、または米国Jasco Inc社製 商品名Jasco FT/IR-4100を用い、ヌジョール法またはKBr法により測定した。元素分析値は、米国Elementar Americas, Inc社製 商品名Vario-ELを用いて測定した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、プレコートされたシリカゲルプレート(Merck社 商品名Merck Silica gel 60 F254 PLC Plate)を用いて行った。全てのカラムクロマトグラフィー分離には、シリカゲルBDH60〜120メッシュを用いた。生成物質の抽出溶媒は、特に記さない限り、Na2SO4で乾燥後、減圧下エバポレーションで除去して処理した。メタノール、n-ヘキサン、ベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル様の溶媒は、Sigma-Aldrich Co.社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。炭酸カリウム、無水Na2SO4、NaHCO3、濃H2SO4、ワットマン濾紙、トリエチルアミン、4-フルオロベンズアルデヒド、p-トルイジン、4-クロロベンズアルデヒド、γ-フェライト、チオグリコール酸、2,6-次フルオロ安息香酸、アンモニア水、パラトルエンスルホニルクロリド、3,5-ジメトキシ安息香酸クロリドおよび2-トリフルオロメチル-4-フルオロ安息香酸クロリド等も、Sigma-Aldrich Co.社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0064】
[合成]
下記の通り、前記化合物1〜11を合成した。なお、合成した化合物の物性値およびX線結晶構造解析結果も併せて示す。
【0065】
(I. 化合物1〜3の合成)
下記スキーム1に従い、化合物1〜3を合成した。
【化32】

【0066】
(I-a. 化合物1aの合成)
まず、化合物1〜3(置換オキサジン)の原料である2-(アミノメチル)-2-(4-メトキシフェニル)シクロヘキサノール酢酸塩、すなわち化合物1aを合成した。この合成方法は、Kavitha CV et al., Journal of Chemical Crystallography, Vol. 35, No. 12, December 2005, 957-963に記載の方法に基づいて行った。
【0067】
次に、以下のように、前記化合物1a(アミノアルコール)から化合物1〜3をそれぞれ合成した。
【0068】
(I-b. 2−(2,6−ジフルオロフェニル)−4a,5,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-4a-(4-メトキシフェニル)-4H-ベンゾ[e][1,3]オキサジン(化合物1)の合成)
アミノアルコール1a(1g, 3.34mmol)のメタノール(5mL)溶液を、3等量(1.386g、10.02mmol)のK2CO3の存在下で攪拌しながら、等モル数の2,6-ジフルオロベンズアルデヒドを加えた。前記反応混合物を室温(27℃)で10〜12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下で除去した。その残渣に30mLの鉱物除去水を加え、室温(27℃)で30分間静置した。その粗生成物を、酢酸エチルで3回(20mL×3)抽出した。有機層を無水Na2SO4(1.5g)で乾燥し、溶媒を留去し、メタノールで再結晶して目的化合物1を得た。乾燥質量0.85g、収率85%、融点102℃であった。なお、この合成方法は、メタノールに代えてエタノールまたはアセトニトリルを溶媒として用い、同じく室温(27℃)で反応させても、同様に目的化合物1が得られた。収率は、それぞれ80%(エタノール)および76.5%(アセトニトリル)であった。なお、t−ブチルアンモニウムブロミドを触媒として用いたところ、反応速度に影響はみられなかった。以下に、この化合物1の機器分析データを記す。
【0069】
化合物1:
IRスペクトル: ν 3320, 1468, 2985cm-1;
1H NMRデータ: δ 0.75-0.93 (t, 2H, cyclohexyl); 1.1-1.6 (m, 4H, cyclohexyl); 2.48-2.65 (t, 2H, cyclohexyl); 3.32 (s, 1H, ); 3.47-58 (t, 2H, N-CH2-); 3.7-3.8 (s, 3H, O-CH3); 5.6-5.8 (t, 1H, -O-CH-) 6.75-6.9 (d, J=16Hz, 2H, Ar-H); 7.05-7.18 (d, J=8Hz, 4H, Ar-H); 7.3-7.5 (m, 1H, Ar-H).
元素分析値. 計算値C22H25F2NO2: C 70.78, H 6.70, N 3.75; 実測値: C 70.77, H 6.68, N 3.76.
【0070】
(I-c. 2−(4−フルオロフェニル)−4a,5,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-4a-(4-メトキシフェニル)-4H-ベンゾ[e][1,3]オキサジン(化合物2)の合成)
アミノアルコール1a(1g、3.34mmol)のメタノール(5ml)溶液を、3等量のK2CO3(1.386g、10.02mmol)の存在下で攪拌しながら、等モル数の4-フルオロベンズアルデヒド(0.415g)を加えた。前記反応混合物を室温で10〜12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下で除去した。その残渣に鉱物除去水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水Na2SO4で乾燥し、溶媒を留去し、メタノールで再結晶して目的化合物2を得た。乾燥質量0.84g、収率84%、融点80〜84℃であった。以下に、この化合物2の機器分析データを記す。
【0071】
化合物2:
IRスペクトル:ν 3320, 1468, 2985 cm-1;
1H NMRデータ: (400MHz, CDCl3): δ 1.22-1.83 (m, 6H, cyclohexyl); 2.43-2.46 (d, 2H, cyclohexyl); 2.67-2.70 (dd, 2H, cyclohexyl); 3.53-3.58 (t, 1H, -CH-Bz-O-CH3); 3.47-58 (t, 2H, N-CH2-); 3.72-3.83 (s, 3H, O-CH3); 4.00-4.13 (bs, 1H, -NH-); 5.40 (s, 1H, -CH-Bz-4F); 6.77-6.83 (dd, J= 17 Hz, 2H, Ar-H); 7.02-7.14 (m, 2H, Ar-H); 7.56-7.59 (dd, 2H, J=5Hz, Ar-H); 7.62-7.65 (dd, 2H, Ar-H)
元素分析値. 計算値 C22H25F2NO2: C 74.34, H 7.37, N 3.94; 実測値: C 74.14, H 7.28, N 3.89.
【0072】
(I-d. 2−(2−ブチル−4−クロロ−イミダゾール-5-イル)-4a,5,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-4a-(4-メトキシフェニル)-4H-ベンゾ[e][1,3]オキサジン(化合物3)の合成)
【0073】
(I-d-1. 2-ブチル-4-クロロ-イミダゾール-5-カルボアルデヒドの合成)
2-(2-ブチル-4-クロロ-イミダゾール-5-イル)-4a,5,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-4a-(4-メトキシフェニル)-4H-ベンゾ[e][1,3]オキサジン(化合物3)の合成原料である2-ブチル-4-クロロ-イミダゾール-5-カルボアルデヒドは、下記スキーム2に従って合成した。
【化33】

【0074】
すなわち、まず、酢酸アンモニウムの存在下、酸性アルミナを固体支持体としたマイクロ波照射法により、化合物3a’’’と1,3−ジヒドロキシアセトン二量体を縮合させ、化合物3a’’を合成した。このマイクロ波照射法は、Journal, Analytical Sciences, 2003, 19, x31-32.に記載されている。具体的な合成工程としては、まず、固体支持体としての酸性アルミナ(4.65g)および酢酸アンモニウム(2.2g)の混合物を、均一な粉末が形成されるまでモーターですりつぶした。次に、化合物3a’’’(1g、8.69mmol)および1,3−ジヒドロキシアセトン二量体(1.56g、8.69mmol)を5mlのジクロロメタンに溶かした溶液を、20mlガラスバイアル中に入れた前記アルミナ/酢酸アンモニウム混合物1.2gに加え、しみこませた。溶媒をエバポレーションにより除き、開放したバイアル中の乾燥残渣に、インド国Kenstar社製の家庭用マイクロウェーブオーブン10%出力で12分間の照射を行った。生成物を、酢酸エチル/トリエチルアミン(体積比で8:2)で抽出し、そして、カラムクロマトグラフィーにより、精製された化合物3a’’(78%)を得た。
【0075】
そして、化合物3a’’をMnO2により定法で酸化(溶媒はCH2Cl2)して化合物3a’を得、さらに、化合物3a’を、N-クロロコハク酸イミドにより定法でクロロ化し、目的化合物である2-ブチル-4-クロロ-イミダゾール-5-カルボアルデヒド(化合物3a)を得た。なお、これらMnO2による酸化およびN-クロロコハク酸イミドによるクロロ化については、D. J. Carini, J.V. Duncia, P.E. Aldridh, A. T. Chiu, A. L. Johnson, M. E. Pierce, W. A. Price, J. B. Santella, III G. J. Wells, R. R. Wexler, P. C. Wong, S.-E. Yoo, and P. B. Timmermans, J. Med. Chem., 1991, 34, 2525.にも記載されている。
【0076】
なお、この2-ブチル-4-クロロ-イミダゾール-5-カルボアルデヒド(化合物3a)は、市販品として入手することも可能である。
【0077】
(I-d-2. 化合物3の合成)
アミノアルコール1a(1g、3.34mmol)のメタノール溶液を3等量(1.386g、10.02mmol)のK2CO3存在下で攪拌しながら、等モル数(0.623g)の2-ブチル-4-クロロ-イミダゾール-5-カルボアルデヒド(化合物3a)を加えた。前記反応混合物を室温で10〜12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下で除去した。その残渣に鉱物除去水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水Na2SO4で乾燥し、溶媒を留去し、メタノールで再結晶して目的化合物の2−(2−ブチル−4−クロロ−イミダゾール-5-イル)-4a,5,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-4a-(4-メトキシフェニル)-4H-ベンゾ[e][1,3]オキサジン(化合物3)を得た。乾燥質量0.80g、収率80%、融点120〜124℃であった。以下に、この化合物3の機器分析データを記す。
【0078】
化合物3:
IRスペクトル:ν3320, 1468, 2985 cm-1;
1H NMRデータ:(400MHz, CDCl3): δ0.80-0.90 (m, 5H, imid-CH3, -CH2-cyclohexyl); 1.13-1.28 (m, 4H, cyclohexyl); 1.38-1.59 (m, 4H, cyclohexyl); 2.45-2.55 (m, 4H, Imid-CH2-); 2.99-3.03 (t, 2H, Imid-CH2); 3.21-3.27 (t, 1H, -CH-Bz-O-CH3); 3.67-72 (t, 2H, N-CH2-); 3.72 (bs, 3H, O-CH3); 3.314 (bs, 1H, -NH-); 3.68-3.70 (dd, 1H, -CH-Imid); 6.85-6.86 (d, J= 17 Hz, -NH-Imid); 6.77-6.79 (m, 2H, Ar-H); 7.11-7.16 (dd, 2H, J=17 Hz, J=16 Hz, Ar-H).
元素分析値. 計算値 C22H25F2NO2: C 66.09, H 7.72, N 10.05; 実測値: C 66.09, H 7.72, N 10.05.
【0079】
(II. 化合物1のX線データ収集、構造解析、精密化、および単結晶X線結晶学研究の結果及び考察)
化合物1の結晶はスローエバポレーション法により得た。すなわち、まず、精製した化合物1(100mg)を、100mlビーカー中で3mlのメタノールに溶解させ、透明な溶液を得た。次に、その透明溶液を50〜55℃で30分間攪拌し、続いて、室温(27℃)で静置して溶媒をエバポレートさせた。得られた化合物1の無色結晶を、X線結晶構造解析に用いた。化合物1のX線回折データは、DIPLaboイメージプレートシステムにより、室温において5°幅の振動モードで収集した。前記データは、DENZO(HKL Research, Inc.社の登録商標)を用いて換算し、およびScalepack(HKL Research, Inc.社の商品名)を用いて加工した。総数5607の反射が測定され、そのうち4463が一意的であった。h、kおよびlの幅は、それぞれ、-15〜15、-12〜13および-15〜10であった。吸収補正は適用しなかった。構造は、SHELXS-97(Sheldrick教授より提供を受けた。http://shelx.uni-ac.gwdg.de/SHELX/を参照のこと)を用いてダイレクトメソッドにより解き、その後、差分フーリエ解析した。全ての非水素原子は、異方的に精密化された。水素原子は、化学的に許容可能な位置に固定され、そして、親原子上に乗ることが許容された。最終の最小自乗精密化は、246のパラメータとともに4463の反射を用いて行った。最終結果は、I>2σ(I)における2102のデータについてR1=0.0833であった。適合度は1.088であった。最大(maximun)シフト/エラーは0.000であった。最大差分ピーク及びホールは、それぞれ0.296e.Å-3および-0.215e.Å-3であった。なお、1Åは0.1nmに等しい。
【0080】
表1に、結晶データ及び構造精密化パラメータをリストする。また、図1に、50%確率における化合物1の分子のORTEP図を示す。さらに、図2に、前記分子の、c軸方向下向き視点のパッキング図を示す。図および表に示すとおり、鍵となる生物活性な1,3-オキサジン環は、椅子型であることが見出された。そして、オキサジンのC7およびC10における2のバルキーな置換基が、オキサジン環を安定化させているエカトリアル平面内に存在していた。C15におけるO-メトキシ基は、フェニル環と共平面上に存在した。前記分子は、C7およびC10に2つのキラル中心を有していた。リング1及びリング2(図2)の最小自乗平面間における角度は、75.9(2)°であった。リング1及びリング2の収束幅(puckering amplitudes)は、それぞれ0.558(4)Åおよび0.556(4)Åであった。結合C4-C3はオキサジン環のエカトリアル平面内に存在し、C4-C5はアキシャル平面内に存在していた。同様に、C4-O11はリング1の(w.r.t.)アキシャル平面内に存在し、C4-C7はエカトリアル平面内に存在した。
【0081】
表2に、非水素原子の原子座標および等価な熱的パラメータ(equivalent thermal parameters)をリストする。表3及び4に、結合長及び角度をそれぞれ示す。分子幾何学計算は、PLATON( (C) 1980-2005 A.L.Spek, Utrecht University, Padualaan 8, 3584 CH Utrecht, The Netherlands.なお、http://www.cryst.chem.uu.nl/platon/を参照のこと。)により行った。前記分子は、C-H...O型分子間水素結合を、すなわちC22-H22...O18iに示し、水素原子についての角度は153.0°であった。上付き文字iは、O18位置のシンメトリー等価ポジション生成に用いるシンメトリーコードx-1, y, z+1を表す。結晶学情報は、Cambridge Crystallographic Data Centreに供託した(CCDC No. 272761)。データのコピーは、www.ccdc.cam.ac.uk/conts/retrieving.html を通じて(またはCambridge Crystallographic Data Centre, 12, Union Road, Cambridge CB2 1EZ, UK; fax: +44 1233 336033; もしくは deposit@ccdc.cam.ca.ukを通じて)無料で取得可能である。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
(III. 2-(4-クロロフェニル)-3-(4-メチルフェニル)-1,3-チアゾリジン-4-オン(化合物4)の合成)
下記スキーム3に従い、前記化合物4を合成した。
【化34】

【0087】
すなわち、まず、p-トルイジン1b(5g)、4-クロロベンズアルデヒド1c(6.55g)およびγ−フェライト(14.90g)を、無水ベンゼン(30ml)中、一定速度で攪拌しながら1/2時間還流させ、続いて、前記反応物を放冷して室温(27℃)まで冷却した後、チオグリコール酸1d(3.3ml, 1mol)を前記反応混合物に加え、さらに75〜80℃で還流及び攪拌を3時間続けた。前記反応は、薄層クロマトグラフィーでモニターした(ヘキサン:酢酸エチル 0.75:0.25、Rf=0.5)。前記反応終了後、赤褐色無定形固体のFe2O3.2H2O/FeO(OH)を濾過により除去し、前記固体を無水ベンゼン10mlで洗浄し、合わせた濾液を減圧下で濃縮して乾燥させた。その残渣を酢酸エチル30mlに溶かし、15mlの鉱物除去水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウム(2g)洗浄し、水和した硫酸ナトリウムをワットマンろ紙を用いた濾過により除去した。酢酸エチルを蒸発させ、溶液の量が10mlになるまで濃縮した。続いて、この溶液を5〜8℃まで緩やかに冷却し、その温度で1.5時間攪拌した。これを濾過し、得られた残渣を冷酢酸エチル(5ml)で洗浄し、さらに冷n−ヘキサン(5ml)で洗浄した。このようにして得られた固体を、オーブン中、60〜70℃で乾燥し、純粋な白色あるいは淡黄色結晶状固体の目的化合物4を分離した。乾燥質量は3.90g、収率は78%、融点は158℃であった。なお、この反応は、不活性ガス(窒素ガス)存在下および無水条件下で行うことが望ましい。以下に、この化合物4の機器分析データを記す。
【0088】
化合物4:
FTIR(KBr): γmax C=O 1672cm-1.
1H-NMR(400MHz, CDCl3): δ 2.2 (s, 3H, -CH3), 3.89 (d, 1H, -CH2, J=15.87Hz), 3.99 (d, 1H, -CH2, J=15.87Hz), 5.95 (s, 1H, -CH), 6.9-7.29 (m, 8H, Ar).
13C-NMR (400MHz, CDCl3): 169.0, 137.8, 136.4, 133.3, 132.2, 130.3(2C), 129.4, 129.3, 128.8(2C), 120.3(2C), 59.9, 34, 20.9.
元素分析値 C16H14NSOCl: C H N S
計算値: 63.25 4.64 4.61 10.55
実測値: 63.22 4.62 4.69 10.59
【0089】
(IV. 化合物4のX線データ収集、構造解析、精密化、ならびに単結晶X線結晶学研究の結果及び考察)
化合物4のX線解析に好適な結晶は、クロロホルムを溶媒として用い、スローエバポレーション法(slow evaporation method)により成長させた。すなわち、メタノールに代えてクロロホルムを用いる以外は前記化合物1と同様にして結晶成長を行った。前記化合物4は斜方晶系として結晶化し、Pbcaおよびセルパラメータは、a=12.1710(6)Å、b=13.0820(13)Å、c=18.548(2)Å、α=β=γ=90°、およびZ=8であった。最終剰余因子(final residual factor)は、I>2σ(I)における3960の反射について0.0737であった。図3に、化合物4の分子の、結晶学的ナンバリング法を表す50%確率におけるOak Ridge Thermal Ellipsoids Plot(ORTEP)ダイアグラムを、チアゾリン-4-オン部分から選択した結合長(Å)および角度(°)とともに示す。この構造は、C-H--O型分子間水素結合の結合長が3.4985Åであり、結合角が162.0°であることを表している。図4に、前記分子の、a-軸方向下向きのパッキングダイアグラムを示す。さらに、表5に、その結晶学情報を示す。
【0090】
【表5】

【0091】
(V. 2-エトキシフェニル(4-(6-フルオロベンゾ[d]イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-イル)メタノン(化合物5)の合成)
下記スキーム4に従い、化合物5を合成した。
【化35】

【0092】
6-フルオロ-3-ピペリジン-4-イル-ベンゾ[d]イソキサゾール塩酸塩5dは、Basappa and et al., Indian. Journal of Chemistry. 2004, 43(B), 1954-1957に記載の方法に従って得た。さらに、Priya B. S and et al., Bioorg. Med. Chem. 2005, 13, 2623-2628の方法に従い、2-エトキシ安息香酸クロリド(0.201g, 1.09mmol)と6-フルオロ-3-ピペリジン-4-イル-ベンゾ[d]イソキサゾール塩酸塩5d(0.2g, 0.909mmol)との縮合を、酸スカベンジャーであるトリエチルアミン(0.551g, 5.454mmol)の存在下、ジクロロメタンを溶媒として行い、目的化合物5を得た。より詳しくは以下の通りである。
【0093】
(V-1. n−ホルミルイソニペコチン酸(化合物5b)の合成)
ギ酸(175.5mL、4.62moL)および無水酢酸(438.5mL、4.62moL)を55〜60℃で1時間加熱し、0〜5℃まで緩やかに冷却した。その温度で、イソニペコチン酸5a(200g、0.77moL)を前記酸無水物混合物中に加え、14時間反応を維持した。粗生成物を減圧下で濃縮した。残渣に300mLの2-プロパノールを加え、そして、冷却下(6〜8℃)で濾過し、純粋な化合物5b(114g、95%)を得た。融点は136〜138℃であり、IRスペクトルは1716および1631cm-1に吸収を示した。
【0094】
(V-2. 2,4-ジフルオロベンゾイル-4-(1-ホルミル)-ピペリジン(化合物5c)の合成)
N-ホルミルイソニペコチン酸5b(50g、0.318moL)に、塩化チオニル(45.24mL、0.636moL)のジクロロメタン(50mL)溶液を加え、そしてその混合物を35〜40度で3時間還流させた。反応は、TLC(クロロホルム:メタノール=8.5:1.5)で追跡した。反応完了後、過剰の塩化チオニル及び溶媒を蒸留で完全に除去した。その混合物を室温まで冷却し、ジクロロメタン(50mL)を加えた。この酸クロリド溶液は、次の工程に供するまで窒素雰囲気下に静置して保存した。一方、1,3-ジフルオロベンゼン(37.49mL、0.382moL)、塩化アルミニウム(74.31g、0.55moL)およびジクロロメタン(50mL)の混合物を-2〜5℃に冷却した。それに前記酸クロリド溶液を約1時間かけて滴下し、その反応物をその状態でさらに4時間置いた。反応完了後(TLCで追跡)、反応混合物を、希塩酸(10mL)を含む氷水(600mL)でクエンチ(反応停止)し、そして、ジクロロメタンで3回(各100mL)抽出した。有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、水でさらに洗浄した。それを濃縮し、残渣に、室温でn−ヘキサン(75mL)を加えた。その反応混合物を、10〜15度で濾過し、化合物5c(44g、88%)を得た。融点は64〜66℃であり、IRスペクトルは1712および1656cm-1に吸収を示した。
【0095】
(V-3. 6−フルオロ-3-(4-ピペリジニル)-1,2-ベンゾイソキサゾール塩酸塩(化合物5d)の合成)
ヒドロキシルアミン硫酸塩(12.16g、0.074moL)およびKOHフレーク(22.17g、0.39moL)のメタノール(100mL)溶液を攪拌しながら化合物5c(25g、0.098moL)を加えた。この混合物を6〜8時間還流させ、室温に冷却し、そして、25mLの鉱物除去水を加え、さらに2時間還流させた。反応完了後、内容物を減圧下で濃縮し、室温に達するまで静置し、そして鉱物除去水(400mL)を加えた。これを、ジクロロメタン(100mL、2回)で抽出し、有機層を濃縮し、これにメタノール(50mL)および濃塩酸(20mL)を加えた。反応物を5〜8℃で濾過し、純粋な化合物5d(21.8g)を得た。収率86%、融点302〜306℃であった。以下に、この化合物5dの機器分析データを示す。
【0096】
化合物5d:
IR(KBr):2144, 1612, 1460, 869cm-1;
1HNMR(400MHz, D2O): δ2.23(q,2H), 3.15-3.23(m, 1H), 3.28(s, N-H), 3,53(t, 2H), 7.39(t, 1H, Ar-H), 7.74(d, 1H, Ar-H), 8.19(dd, 1H, J=8Hz, Ar-H);
13CNMR(D2O, 100MHz): δ29.8, 33.5, 33.8, 48.2, 48.4, 118.4, 121.7, 131.4, 132.3, 165.6, 166.7, 168.4;
元素分析.計算値C12H14N2OFCl: C,56.15; H,5.45; N,10.91.実測値:C,56.12; H,5.38; N,11.01%.
【0097】
(V-4. 化合物5の合成)
まず、2-エトキシ安息香酸クロリドを調製した。すなわち、まず、2-エトキシ安息香酸のジクロロメタン(10mL)溶液を調製し、次に、この溶液中に塩化チオニル(2mL)のジクロロメタン(3mL)溶液を滴下し、さらに、1滴のジメチルホルムアミド(DMF)を加えた。そして、この反応混合物を60〜70℃で6〜7時間還流させた。反応終了後、溶媒をエバポレーションで除いた。さらに、再度ジクロロメタンを添加してエバポレーションにより乾燥させることを2回繰り返し、過剰の塩化チオニルを除去した。このようにして得られた酸クロリドは、粗生成物のまま次の工程に利用した。
【0098】
次に、前記酸クロリドと化合物5dとの縮合反応を行った。すなわち、まず、6-フルオロ-3-ピペリジン-4-イル-ベンゾ[d]イソキサゾール塩酸塩5d(0.2g, 0.909mmol)のジクロロメタン溶液を調製し、0℃に冷却した。ここに2-エトキシベンゾイルクロリド(0.201g, 1.09mmol)を滴下し、さらに、同じ温度でトリエチルアミン(0.551g, 5.454mmol)を加えた。得られた反応混合物をさらに0℃で1時間攪拌した。その反応物を静置し、温度を室温まで緩やかに上昇させた。反応完了後、溶媒を減圧下でエバポレーションにより除き、ジクロロエタンで3回抽出した。有機層を5%HCl溶液及び10%NaHCO3溶液で洗浄し、未反応のアミン及び酸を除いた。そして、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒をエバポレーションした。この残渣をシリカゲルカラムに充填し、ベンゼン、n−ヘキサン、酢酸エチル等の適切な混合溶媒により展開し、精製して純粋な目的化合物5を単離した。得られた化合物5は純粋な白色固体であり、収率90%、融点150〜152℃であった。以下に、この化合物5の機器分析データを示す。
【0099】
化合物5:
IR(cm-1,ヌジョール法): 1620.1, 1454.2, 1492.8, 1348.1, 1244, 1043.4. 1H NMR(CDCl3, 400MHz)δ: 1.42(t, 3H), 1.65(q, 2H), 3.0-3.18(m, 1H), 3.53(q, 4H), 4.02-4.15(t, 2H), 6.9(d, 1H, J=18Hz, Ar-H), 6.96-7.02(t, 2H, Ar-H), 7.4(t, 1H, Ar-H), 7.8(d, 1H, Ar-H), 6.85(s, 1H, Ar-H), 7.6-7.67(dd, 1H, J=2Hz, J=13Hz, Ar-H).
元素分析.計算値CHN:68.478, 5.706, 7.608. 実測値68.602, 5.689, 7.312.
【0100】
(VI. 化合物5の分子のX線データ収集、構造解析、精密化、ならびに単結晶X線結晶学研究の結果及び考察)
X線結晶学研究に用いた化合物5の無色単結晶は、酢酸エチルを溶媒に用い、スローエバポレーション法(slow evaporation technique)により得た。すなわち、メタノールに代えて酢酸エチルを用いる以外は前記化合物1と同様にして結晶成長を行った。0.25×0.3×0.3mm容積の良い化合物5の単結晶を、X線回折研究用に選択した。測定は、DIPLABO社のKappa Imaging plate diffractometer(商品名)を用い、正規照準(normal focus)の、3kWシールX線源[MoKα放射; λ=0.71063Å]を装備して行った。前記結晶と検出器との間の距離は120mmであり、検出器領域は441×240mm2であった。データは、室温で、振動法(oscillation method)により、最大2θ値65°までで収集した。前記振動法により、フレームごとに400秒間の被爆で36フレームのデータを収集した。逐次(successive)フレームは、5°の振動幅により、5°/分の工程でスキャンし、Denzo(HKL Research, Inc.社の登録商標)により加工した。前記フレームの全ては、基本的三斜晶系格子を示した。反射は、Scalepack(HKL Research, Inc.社の商品名)を用いてマージした。構造は、SHELXS97(Sheldrick教授より提供を受けた。http://shelx.uni-ac.gwdg.de/SHELX/を参照のこと)を用いてダイレクトメソッドにより解いた。全ての非水素原子は、ファーストマップ自体の中に示された。それらを、SHELXL97を用い、R1値が0:1828に収束するまで等方的に精密化した。SHELXL97を用いた異方性精密化は、この段階で開始し、そして、剰余のR1値を0.0544まで収束させた。
【0101】
表6に、結晶データ及び構造精密化を示す。また、表7に、非水素原子の最終位置座標を、等価な等方的温度因子(equivalent isotropic temperature factors)とともに示す。さらに、表8及び9に、非水素原子から選択した結合長及び結合角をそれぞれ示す。前記結合長及び結合角は、標準値と良い一致を示した。図5に、前記化合物5の分子の50%確率におけるOak Ridge Thermal Ellipsoid Plot(ORTEP)ダイアグラムを示す。また、図6に、前記化合物5の分子の、b-軸方向下向きのパッキング図を示す。前記分子のパッキングは、b軸に沿って下向きに見た場合、対でのスタッキングを示した。ピペリジン環(N8 C9 C10 C11 C12 C13)は、重み付けした平均環結合長1.3834Åの椅子型であった。フェニル環は平面であった。C5 O25 C26 C27のねじれ角は-179.43°であった。この構造は、アミド部分とピペリジン環との間に、CH…O型の分子間水素結合を有していた。前記分子間水素結合は、シンメトリーコード1-x; 1-y; -zのC13-H13….O24結合であった。
【0102】
【表6】

【0103】
【表7】

【0104】
【表8】

【0105】
【表9】

【0106】
(VII. 4-(2,6-ジフルオロベンジリデンアミノ)-5-エチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール(化合物6)の合成)
【化36】

出発原料4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールは、市販品を入手して用いた。この4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオール(1g, 0.0069moles)および等モル量の2,6-ジフルオロベンズアルデヒド(0.985 g)を、エタノール(10ml)中で、透明な溶液が得られるまで40〜45℃で加熱した。続いて、室温(27℃)まで放冷した後、濃硫酸(conc. H2SO4)を1ml加え、その溶液を水浴で加熱し、65〜70℃で3.5時間還流させた。反応完了をTLCで確認した後、溶媒をエバポレーションで除き、そして、10mlの水を加えて10〜15℃に冷却した。この液のpHが2〜2.5であることを確認した後、5mlのアンモニア水を加えてpHを7〜7.5に調整し、そして10〜15℃に冷却し、その温度で1.5時間攪拌した。その同じ温度で生成物を濾取し、冷却したn-ヘキサン(5ml×2)で洗浄し、乾燥し、そして酢酸エチルで再結晶して純粋な化合物6を得た。質量0.75g、収率75%、融点は185〜187℃であった。なお、反応溶媒をエタノールからメタノールに代え、55〜58℃で反応させる以外は同様にして反応を行ったところ、目的化合物が73%の収率で得られた。さらに、反応溶媒をエタノールからジメチルスルホキシド(DMSO)に代え、65〜70℃で反応させる以外は同様にして反応を行ったところ、目的化合物が69.5%の収率で得られた。また、触媒としてパラトルエンスルホニルクロリドを用いたところ、反応時間は3時間であり、反応時間に大きな影響はなかった。以下に、この化合物6の機器分析データを示す。
【0107】
化合物6:
IRスペクトル:ν1615(s), 1245(m), 875cm-1;
1H NMRデータ: δ 13.8 (s, 1H, S-H), 10.5 (s, 1H, CH=N-), 7.65-7.74 (m, 2H, Ar-H), 7.23-7.34 (t, 1H, Ar-H), 1.23 (t, 3H, -CH3), 2.68-2.76 (q, 2H, -CH2-)
元素分析値. C11H10N4F2Sによる計算値: C 49.24, H 3.76, N 20.88; 実測値: C 49.15, H 3.16, N 20.97.
【0108】
(VIII. {4-(6-フルオロベンゾ[d]イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-イル}(3,5-ジメトキシフェニル)メタノン(化合物7)の合成)

6-フルオロ-3-ピペリジン-4-イル-ベンゾ[d]イソキサゾール一塩酸塩(0.2g, 0.909mmol)を5mLジクロロメタン中に加え、この溶液に、酸スカベンジャーとしてトリエチルアミン(0.551g, 5.454mmol)を加え、続いて0〜4℃に冷却した。この溶液にジメチルホルムアミドを1滴加えた。そこに、3,5-ジメトキシベンゾイルクロリド(0.235g, 1.09mmol)のジクロロエタン(5mL)溶液を、滴下漏斗を用いて滴下した。滴下終了後、反応混合物を同じ温度で2時間攪拌した。その後、反応混合物の温度を徐々に室温(27℃)まで上げ、その温度で2時間攪拌して反応を完全に進行させた。この反応混合物から溶媒を蒸留により完全に除き、残渣に3mLの水を加えた。化合物を、ジクロロメタンで3回(5mL×3)抽出した。有機層を合わせ、50%希釈塩酸(10mL)および20% NaHCO3水溶液で洗浄し、未反応のアミンおよび酸をそれぞれ除いた。そして、有機層を鉱物除去水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム(2g)で乾燥させた。水和した硫酸ナトリウムを濾過し、有機層を完全に蒸発させた。残渣に5mLのn-ヘキサンを加え、10〜12℃で1時間攪拌した。その温度で生成物を濾取し、冷n-ヘキサン(2mL×2)で洗浄し、60〜65℃で乾燥して目的化合物を得た。乾燥質量0.178g、収率89%、融点115〜117℃であった。以下に、この化合物7の機器分析データを示す。
【0109】
化合物7:
FTIR(KBr): γmax C=O 1667 cm-1; -C=N- 1442cm-1
1H-NMR(400MHz, CDCl3): δ 1.79 (bs, 2H, -CH2-); 1.99-2.12 (m, 2H, -CH2-); 3.46-3.50 (m, 2H, -CH2-); 3.27-3.33 (m, 2H, -CH2-); 3.756 (S, 6H, -OCH3); 3.02 (m, 1H, -CH-Bz); 7.26-7.30 (ddd, 2H, J= 4Hz, J= 3Hz, J= 5Hz, Ar-H); 7.67-7.70 (dd, 2H, J=5Hz, J=5Hz, Ar-H); 8.06-8.09 (q, 2H, Ar-H).
元素分析値. C21H21FN2O4による計算値: C 65.62, H 5.51, N 7.29; 実測値: C 65.48, H 5.71, N 7.16
【0110】
(IX. {4-フルオロ-2-(トリフルオロメチル)フェニル}(4-(6-フルオロベンゾ[d]イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-イル)メタノン(化合物8)の合成)
2-トリフルオロメチル-4-フルオロ安息香酸クロリド(0.264g, 1.09mmol)と6-フルオロ-3-ピペリジン-4-イル-ベンゾ[d]イソキサゾール一塩酸塩(0.2g, 0.909mmol)を縮合反応させた。この縮合反応は、酸スカベンジャーとしてトリエチルアミン(0.551g, 5.454mmol)、溶媒としてジクロロメタン、触媒としてDMFを用いて行った。それ以外の反応条件および工程は、化合物7の合成と同様であった。このようにして、目的化合物8を、乾燥質量0.15g、収率75%、融点94〜97℃で得た。以下に、この化合物8の機器分析データを示す。
【0111】
化合物8:
FTIR(KBr): γmax C=O 1683 cm-1; -C=N- 1414 cm-1.
1H-NMR(400MHz, CDCl3): δ 1.75-1.80 (br t, 2H, -CH2-); 1.97-2.03 (t, 1H, -CH2-); 2.17-2.19 (d, 1H, -CH2-); 3.07-3.13 (ddd, 2H, J= 6 Hz, J= 5Hz, J= 5Hz); 3.305 (m, 1H, -CH-); 3.47-3.55 (m, 2H, -CH2-); 7.82-7.83 (d, 1H, Ar-H); 7.19-7.37 (s, 1H, Ar-H); 7.68-7.71 (dd, 1H, J= 4 Hz, J= 9 Hz, Ar-H); 7.27-7.31 (ddd, 2H, J=4 Hz, J=4 Hz, J=4 Hz, Ar-H).
元素分析値. C20H15F5N2O2による計算値: C 58.54, H 3.68, N 6.83; 実測値: C 58.34, H 3.82, N 6.14
【0112】
(X. 4-(2,6-ジフルオロベンジリデンアミノ)-5-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール(化合物9)の合成)
4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールに代えて4-アミノ-5-メチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオール(1g、7.69mmol)を用い、2,6-ジフルオロベンズアルデヒドを1.09g用いた以外は化合物6の合成と同様にして化合物9を合成した。乾燥質量0.94g、収率94%、融点225〜228℃であった。以下に、この化合物9の機器分析データを示す。
【0113】
化合物9:
IRスペクトル: ν 1625 (s), 1285 (m), 892 cm-1
1H NMR(400MHz, CDCl3): δ 2.32 (s, 3H, -CH3); 7.27-7.33 (t, 1H, Ar-H); 7.65-7.74 (m, 2H, Ar-H); 10.6 (s, 1H, -CH=N-); 13.80 (s, 1H, S-H).
元素分析値. C10H8N4F2Sによる計算値: : C 47.24, H 3.17, N 22.04; 実測値: C 47.18, H 3.23, N 22.24.
【0114】
(XI. 4-(2,6-ジフルオロベンジリデンアミノ)-5-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール(化合物10)の合成)
4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールに代えて4-アミノ-5-フェニル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオール(1g、5.2mmol)を用い、2,6-ジフルオロベンズアルデヒドを0.739g用いた以外は化合物6の合成と同様にして化合物10を合成した。乾燥質量0.875g、収率87%、融点195〜200℃であった。以下に、この化合物10の機器分析データを示す。
【0115】
化合物10:
IRスペクトル: ν 1612 (s), 1236 (m), 842 cm-1.
1H NMR(400MHz, CDCl3): δ 7.28-7.34 (t, 2H, Ar-H); 7.46-7.56 (dd, 2H, Ar-H); 7.66-7.76 (m, 2H, Ar-H); 7.89-7.96 (dd, 2H, Ar-H); 10.2 (s, 1H, -CH=N-); 14.35 (s, 1H, S-H).
元素分析値. C15H10N4F2Sによる計算値: : C 56.95, H 3.19, N 17.71; 実測値: C 56.82, H 3.07, N 17.63.
【0116】
(XII. 4-(2,6-ジフルオロベンジリデンアミノ)-5-(4-クロロフェニル)-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール(化合物11)の合成)
4-アミノ-5-エチル-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオールに代えて4-アミノ-5-(4-クロロフェニル)-4H-[1,2,4]トリアゾール-3-チオール(1g、4.4mmol)を用い、2,6-ジフルオロベンズアルデヒドを0.627g用いた以外は化合物6の合成と同様にして化合物11を合成した。乾燥質量0.875g、収率87%、融点217〜219℃であった。以下に、この化合物11の機器分析データを示す。
【0117】
化合物11:
IRスペクトル: ν1640 (s), 1296 (m), 821 cm-1;
1H NMR(400MHz, CDCl3): δ 7.26-7.35 (t, 1H, Ar-H); 7.55-7.63 (d, 2H, Ar-H); 7.67-7.74 (m, 2H, Ar-H); 7.90-7.97 (d, 2H, Ar-H); 10.3 (s, 1H, -CH=N-); 14.30 (s, 1H, S-H).
元素分析値. C15H10N4F2Sによる計算値: : C 51.36, H 2.59, N 15.97; 実測値: C 51.28, H 2.64, N 15.64.
【0118】
(XIII. 6-(2-クロロフェニル)-3-メチル[1,2,4]トリアゾロ[4,5-b][1,3,4]チアジアゾール(化合物12)の合成)
【化37】

【0119】
Journal of Chemical Res (S), 2005, 4, 238-239に記載の6-(2-クロロフェニル)-3-メチル[1,2,4]トリアゾロ[4,5-b][1,3,4]チアジアゾール(化合物12)について、同文献に記載の方法で合成した。すなわち以下のとおりである。
【0120】
4−アミノ−3−メチル−5−メルカプト[1,2,4]トリアゾール6b(2.5g、0.0192mol)、2−クロロ安息香酸(3.30g、0.02112mol)およびPOCl3(5ml)を、終夜還流させた。反応終了をTLC(ベンゼン:酢酸エチル 7.5:2.5)で確認した後、反応混合物を冷却し、攪拌しながら氷水中に緩やかに注いだ。その混合物のpHを、アンモニア水で7.5〜8.0に調整し、得られた化合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を10%NaHCO3で洗浄し、未反応の2−クロロ安息香酸を除去し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、濾液を減圧下でエバポレートした。得られた残渣に、3倍体積のヘキサンを加え、よく攪拌し、冷却下で濾過して目的化合物12を得た。さらに、酢酸エチルを溶媒に用いたスローエバポレーション法により、良質の単結晶が得られた。この単結晶を用い、前記と同様の方法により化合物12のX線結晶構造解析を行うことができた。また、融点は180℃であった。以下に、この化合物12の機器分析データを示す。
【0121】
化合物12:
IRスペクトル(ヌジョール法): ν3110; 1235; 734; 1539cm-1;
1H NMR(400MHz, CDCl3, 22℃): δ 2.2-2.5(S, 3H, -CH3); 7.15-7.3(m, 2H, Ar-H); 7.35(d, 1H, Ar-H); 7.7(d, 1H, Ar-H). 13C NMR(100MHz, CDCl3, 22℃): δ 16.8, 158.3, 146.5, 164.6, 161.2, 129.6, 122.4, 130.12, 133.2, 135.3.
元素分析値. C15H10N4F2Sによる計算値: : C 47.91, H 2.81, N 22.35, S 12.79; 実測値: C 47.42, H 2.71, N 22.14, S 12.92%
【0122】
また、この化合物12は、以下の方法によっても得ることができた。すなわち、まず、4−アミノ−3−メチル−5−メルカプト[1,2,4]トリアゾール6b(2.5g、0.0192mol)、2−クロロ安息香酸(3.30g、0.02112mol)およびp−トルエンスルホニルクロリド(3.638g、0.0192mol)を、トルエン(5〜8ml)中に加え、65〜70℃で12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下でエバポレートし、得られた化合物を前記と同様の方法により単離した。
【0123】
さらに、この化合物12は、以下の方法によっても得ることができた。すなわち、まず、4−アミノ−3−メチル−5−メルカプト[1,2,4]トリアゾール6b(2.5g、0.0192mol)および2−クロロ安息香酸(3.30g、0.02112mol)を、6mlのDMF中に溶解させ、マイクロ波オーブンにより、出力60%で30〜40秒間照射した。反応終了後、暗黄色の反応混合物を氷水中に注ぎ、前記と同様の方法によりワークアップした。
【0124】
[癌細胞浸潤アッセイ]
基底膜は、上皮組織を隣接する支質から分離する薄い連続的シート(thin continuous sheets)であり、基底膜の主な構成要素は、ラミニン、大分子の多官能性グリコプロテイン、コラーゲンIV、およびHS PGである。前記基底膜に対する腫瘍浸潤は、腫瘍の成長、転移等における複雑な多段階工程のうち、転移の形成につながる決定的に重要な段階である。
【0125】
本実施例では、前記のようにして合成した化合物1〜11を癌セルラインとともに処理し、Matrigel浸潤アッセイにより基底膜に対する癌細胞浸潤阻害活性を測定した。具体的には以下の通りである。
【0126】
すなわち、本実施例では、matrigel(BD Biosciences社の登録商標)浸潤チャンバーを用いた。このmatrigelは、in vitroにおける浸潤特性評価を許容する状態の細胞を提供する。matrigelのマトリクス層は、in vitroにおいて、再構築された基底膜として働く。前記matrigelマトリクスは、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した、可溶化された基底膜調製品である。前記matrigelマトリクスは、ラミニン、コラーゲンIV、HSPG、エンタクチン(entactin)、ならびに、TGFベータ、bFGF及びその他を含む成長因子を含有し、EHS腫瘍中に自然に見出される。浸潤性細胞は、matrigelバリヤーを通過して前記膜の下表面に移動することが可能である。
【0127】
本実施例におけるMatrigel浸潤アッセイでは、細胞培地を前記基底膜(matrigelマトリクス)下方の下段ウェルに配置し、細胞の急速浸透(penetration)を刺激した。前記Matrigel浸潤アッセイにおける具体的な操作は、前記matrigel浸潤チャンバーの標準的な使用方法に基づいて行った。以下、前記Matrigel浸潤アッセイについてさらに具体的かつ詳細に説明する。
【0128】
500μLの、重炭酸塩を主成分とする温かい(37℃)培地を、挿入部(inserts)内部およびウェル底部に加え、そして、37℃で2時間インキュベートした。補水(rehydration)の後、前記培地を、前記膜(matrigelマトリクス)上表面を乱さないように除去した。細胞LM8G7(500μL培地中に3×104個)を、化合物1〜11のいずれかの溶液(溶媒はDMSO、濃度2μM、体積20μL)とともに、浸潤チャンバーに加え、そして、前記下段ウェルに、DMEMをPBSとともに誘引物質として加え(750μL)、前記チャンバーを、組織培養インキュベーター中、37℃で22時間インキュベートした。前記膜上表面からの非浸潤細胞の除去は、スクラビング(scrubbing)により行った(この操作は、前記細胞が乾燥して前記膜の底表面に粘着することを防ぐために、手早く行う必要がある)。前記膜下表面の細胞は、diff-quick染色により染色した。
【0129】
なお、前記培地(DMEM培地)の具体的な組成としては、10%FBS、1%(v/v)100X非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム、2mMのL-グルタミン、50μMの2-メルカプトエタノール、100ユニット/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンを含む。
【0130】
図7に、化合物1および3について行った前記Matrigel浸潤アッセイの結果を示す。図中「対照」は、化合物1または3の溶液に代えて同体積のブランク培地を用いた場合の結果を表す。また、「DMSO」は、化合物1または3のDMSO溶液に代えて同体積のDMSOを用いた場合の結果を表す。同様の前記Matrigel浸潤アッセイについて、図8に化合物4の結果を、図9に化合物5および6の結果を、図10に化合物7〜11の結果を、それぞれ示す。さらに、図11に、前記Matrigel浸潤アッセイの結果から算出される癌細胞浸潤阻害率(%)を示す。図示の通り、いずれの化合物もきわめて高い癌細胞浸潤阻害率を示した。
【0131】
[腫瘍細胞遊走阻害アッセイ]
以下の通り、前記化合物1〜11について、腫瘍細胞遊走インヒビターとしての活性(阻害活性)を評価した。使用細胞としては、前記Matrigel浸潤アッセイと同様、肝臓に対し高い転移能を有するLM8G7マウス骨肉腫セルラインを用いた。アッセイ方法は、Lee, M. C.; Tanaka, T.; Murai, T.; Kondo, M.; Kimura, J.; Wei Su.; Kitagawa, T.; Ito, T.; Matsuda, H.; and Miyasaka, M (2002) Cancer Res. 62, 4282-4288.等に記載の方法を参考にした。より具体的には、以下の通りである。
【0132】
すなわち、まず、高転移能細胞LM8G7を、10%FBSを含む成長培地(DMEM培地)中に加え、6ウェルプレートのウェル内に接種した。前記細胞が増殖し、集密した後、無菌ピペット先端で傷をつけた。次に、前記細胞をPBSで洗浄し、2μM濃度の試験化合物を加えた前記成長培地またはブランクの前記成長培地でリフレッシュした。そして、37℃で終夜インキュベートした後、細胞を固定化し、写真撮影した。
【0133】
表10および図13〜24に、前記試験結果を示す。同図および表に示す通り、1〜11のいずれの試験化合物も高い腫瘍細胞遊走阻害活性を示した。なお、図13Aは、対照(ブランク)試験のインキュベーション前細胞を示し、図13Bは、対照試験のインキュベーション後細胞を示す。図14Aは、化合物1を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図14Bは、化合物1を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図15Aは、化合物2を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図15Bは、化合物2を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図16Aは、化合物3を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図16Bは、化合物3を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図17Aは、化合物4を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図17Bは、化合物4を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図18Aは、化合物5を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図18Bは、化合物5を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図19Aは、化合物6を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図19Bは、化合物6を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図20Aは、化合物7を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図20Bは、化合物7を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図21Aは、化合物8を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図21Bは、化合物8を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図22Aは、化合物9を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図22Bは、化合物9を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図23Aは、化合物10を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図23Bは、化合物10を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。図24Aは、化合物11を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図24Bは、化合物11を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【0134】
【表10】

【0135】
また、化合物1〜11中、類似の構造を有する化合物同士で比較した腫瘍細胞遊走阻害活性は、以下の通りである。すなわち、まず、オキサジンシリーズ(化合物1〜3)では、表10に示したとおり、置換イミダゾール部分を有する化合物3が、特に顕著な活性を有していた。次に、ベンズイソキサゾールシリーズ(化合物5、7および8)では、表10に示したとおり、2-エトキシベンゼン置換ベンズイソキサゾール部分を有する化合物5が、特に良い抗腫瘍活性を有していた。さらに、トリアゾールシリーズ(化合物6および9〜11)では、表10に示したとおり、トリアゾール核の第4位における疎水性芳香環を有しない化合物6および9が、特に高い活性を有していた。このことから、前記トリアゾール核の第4位における置換基が、例えばメトキシ基等であっても、化合物6または9と同様の活性を有するものと推測される。しかし、この推測は、本発明をなんら制限するものではない。
【0136】
さらに、表10に示したとおり、上記3シリーズのいずれにも属しない化合物4も、良い細胞遊走阻害活性および細胞浸潤阻害活性を示した。
【0137】
このように、前記化合物1〜11は、肝臓癌に対し高度に転移性であるLM8G7マウス骨肉腫セルラインに対しアポトーシスを引き起こした。さらに、他のいくつかの癌セルラインに対しても同様のアッセイを行ったところ、アポトーシスを引き起こした。したがって、これらの化合物は、抗悪性腫瘍治療薬等を合成するためのリード化合物として有用である。
【0138】
[抗血管新生活性絨毛尿膜(CAM)アッセイ]
以下の方法により、化合物1〜11の抗血管新生活性絨毛尿膜(CAM)アッセイを行った。すなわち、まず、受精卵は、加湿雰囲気下、37℃で5日間インキュベートした。無菌条件下で、胚の適切な発育をチェックするために、卵殻に窓を開けた。前記窓には再シール形成し、そして、前記胚をさらに発育させた。第11日目に、食塩水又は試験する化合物の水溶液をカバーガラス上で風乾した。前記窓を再度開け、そして、前記カバーガラスをCAMにより反転させた。前記窓を再度閉じ、そして、前記卵を、さらに2日間インキュベートした。第13日目に前記窓を開け、そして、前記カバーガラス下領域における毛細血管密度の変化を点検し、そして、記録及び写真撮影した。図12に、化合物4(チアゾリジン-4-オン誘導体)の試験結果を示す。図12A(Control)は、食塩水を用いた場合すなわち試験化合物4を用いなかった場合の結果を表し、図12B(Test)は、化合物4の試験結果を表す。同図によれば、血管成長阻害により、試験化合物が抗血管新生特性を有することが明らかである。また、他の化合物も同様に血管新生阻害活性を示した。
【0139】
以上の通り、化合物1〜11は、いずれもマウス骨肉腫細胞の浸潤を強く阻害した。血管新生阻害活性については、特に、チアゾリン-4-オン母核を有する化合物4が強い活性を示した。これらの腫瘍細胞浸潤阻害活性および血管新生阻害活性は、化合物1〜11と硫酸化糖鎖との相互作用を介している可能性があると推測される。しかし、この推測は、本発明をなんら制限するものではない。
【0140】
さらに、非硫酸化糖鎖との相互作用および硫酸化糖鎖との相互作用について別途試験し、相互作用を確認した。なお、前記6-(2-クロロフェニル)-3-メチル[1,2,4]トリアゾロ[4,5-b][1,3,4]チアジアゾール(化合物12)等の化合物についても、化合物1〜11と同様の生理活性を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0141】
以上説明したとおり、本発明によれば、細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、血管新生阻害活性等に優れた新規低分子化合物およびその製造方法、前記化合物を用いた薬学的組成物および医薬を提供することができる。本発明の化合物、薬学的組成物および医薬は、その有する活性、例えば細胞増殖阻害活性、細胞死誘導活性、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍転移阻害活性、腫瘍細胞死誘導活性、血管新生阻害活性、機能性タンパク質活性調節活性等を適宜利用し、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤等に用いることができる。さらに、本発明の化合物の製造方法によれば、本発明の化合物を簡便に製造できる。
【0142】
また、前記以外にも、本発明の化合物とグリコサミノグリカン(GAG)糖鎖、硫酸化オリゴ糖鎖、非硫酸化酸性オリゴ糖鎖が相互作用する場合、その相互作用を利用することができる。例えば、本発明の化合物は、前記相互作用を利用し、種々の機能性タンパク質(増殖因子、サイトカイン、神経栄養因子など)の活性調節を介した疾病(疾患)診断法の開発、創薬研究ツール等への応用が期待できる。疾病(疾患)としては、例えば、各種癌等、細胞の増殖に関する疾患が挙げられ、創薬研究としては、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤、抗転移剤等についての研究が挙げられる。さらに、本発明の化合物、薬学的組成物および医薬は、各種糖脂質や糖タンパク質等の糖鎖に関する糖鎖生物学の広い分野への強い影響があると考えられ、糖鎖生物学や糖鎖生理学等の基礎科学分野、糖鎖病理学への応用分野、その他の基礎医学、応用医学、創薬分野、糖鎖工学等に新しい分野を切り開く突破口となることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】図1は、化合物1の分子の、50%確率におけるORTEP図である。
【図2】図2は、化合物1の分子の、c軸方向下向き視点のパッキング図である。
【図3】図3は、化合物4の分子のORTEP図である。
【図4】図4は、化合物4の分子の、a-軸方向下向きのパッキング図である。
【図5】図5は、化合物5の分子の、50%確率におけるORTEP図である。
【図6】図6は、化合物5の分子の、b-軸方向下向きのパッキング図である。
【図7】図7は、化合物1および3の、Matrigel浸潤アッセイの結果を示す図である。
【図8】図8は、化合物4の、Matrigel浸潤アッセイの結果を示す図である。
【図9】図9は、化合物5および6の、Matrigel浸潤アッセイの結果を示す図である。
【図10】図10は、化合物7〜11の、Matrigel浸潤アッセイの結果を示す図である。
【図11】図11は、前記Matrigel浸潤アッセイの結果から算出される癌細胞浸潤阻害率(%)を示す図である。
【図12】図12は、化合物4の抗血管新生活性絨毛尿膜(CAM)アッセイ結果を示す図であり、図12A(Control)は、食塩水を用いた場合すなわち試験化合物4を用いなかった場合の結果を表し、図12B(Test)は、化合物4の試験結果を表す。
【図13】図13Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、対照(ブランク)試験のインキュベーション前細胞を示し、図13Bは、対照試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図14】図14Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物1を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図14Bは、化合物1を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図15】図15Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物2を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図15Bは、化合物2を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図16】図16Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物3を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図16Bは、化合物3を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図17】図17Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物4を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図17Bは、化合物4を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図18】図18Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物5を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図18Bは、化合物5を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図19】図19Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物6を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図19Bは、化合物6を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図20】図20Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物7を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図20Bは、化合物7を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図21】図21Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物8を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図21Bは、化合物8を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図22】図22Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物9を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図22Bは、化合物9を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図23】図23Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物10を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図23Bは、化合物10を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。
【図24】図24Aは、腫瘍細胞遊走阻害活性アッセイにおいて、化合物11を用いた試験のインキュベーション前細胞を示し、図24Bは、化合物11を用いた試験のインキュベーション後細胞を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]で表される化合物のうち下記式5以外の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化1】

【化2】

前記式[I]中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良く、
Lは、N原子、S原子およびO原子からなる群から選択される少なくとも一つの原子を含む原子団であり、直鎖状でも良く、分枝構造を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い。
【請求項2】
前記式[I]中、Lが下記式(1001)〜(1004)のいずれかで表される請求項1に記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化3】

前記式(1001)〜(1004)中、
L1〜L8は、同一であるかまたは異なり、それぞれNまたはCHであり、
L9〜L18は、同一であるかまたは異なり、それぞれO、S、SO、SO2、NH、CH2またはC=Oであり、
星印(*)は、その位置でAr1またはAr2に結合していることを示し、
前記式(1001)〜(1004)中の水素原子は、任意の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い。
【請求項3】
前記式[I]中、Lが下記式(1005)〜(1008)のいずれかで表される請求項1に記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化4】

前記式(1005)〜(1008)中、
星印(*)は、その位置でAr1またはAr2に結合していることを示し、
前記式(1005)〜(1008)中の水素原子は、任意の置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い。
【請求項4】
前記式[I]中、Ar1が、下記式(1009)〜(1011)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団であり、Ar2が、下記式(1012)〜(1014)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化5】

前記式(1009)〜(1014)中、
Q11〜Q17は、同一であるかまたは異なり、それぞれNまたはCHであり、
Q18およびQ19は、同一であるかまたは異なり、それぞれO、S、SO、SO2、NHまたはCH2であり、
Q21〜Q27は、同一であるかまたは異なり、それぞれNまたはCHであり、
Q28およびQ29は、同一であるかまたは異なり、それぞれO、S、SO、SO2、NHまたはCH2であり、
R1およびR2は、前記式[I]と同じである。
【請求項5】
前記式[I]中、Ar1が、下記式(1015)〜(1018)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団であり、Ar2が、下記式(1019)〜(1022)のいずれかで表される分子から任意の1個の水素を除いた構造式で表される原子団である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化6】

前記式(1015)〜(1022)中、R1およびR2は、前記式[I]と同じである。
【請求項6】
前記式[I]中、R1およびR2が、それぞれ、水素原子、ハロゲン、直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたフェニル基、ベンジル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたベンジル基、ヒドロキシ基、直鎖もしくは分枝アルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、メチレンジオキシ基、メルカプト基、直鎖もしくは分枝アルキルチオ基、フェニルチオ基、ベンジルチオ基、ホルミル基、直鎖もしくは分枝アルカノイル基、ベンゾイル基、ベンジルカルボニル基、カルボキシ基、直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基、直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニルオキシ基、カルバモイル基、直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、 -NRaRb(RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素、直鎖もしくは分枝アルキル基、ホルミル基、直鎖もしくは分枝アルカノイル基、カルボキシル基、または直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。)、スルホ基、直鎖もしくは分枝アルキルスルホ基、スルフィノ基、直鎖もしくは分枝アルキルスルフィノ基、ヒドロキシ置換された直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された直鎖もしくは分枝アルコキシ基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロソ基、オキソ基、イミノ基またはチオキソ基である請求項1〜5のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項7】
前記式[I]中、R1およびR2が、それぞれ、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、フェニル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたフェニル基、ベンジル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換されたベンジル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、メチレンジオキシ基、メルカプト基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルチオ基、フェニルチオ基、ベンジルチオ基、ホルミル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、ベンゾイル基、ベンジルカルボニル基、カルボキシ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニルオキシ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルカルバモイル基、 -NRaRb(RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、ホルミル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルカノイル基、カルボキシル基、または炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシカルボニル基である。)、スルホ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルホ基、スルフィノ基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルスルフィノ基、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、モノ・ジもしくはトリハロゲン置換された炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロソ基、オキソ基、イミノ基またはチオキソ基である請求項1〜5のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項8】
前記式[I]中、R1およびR2が、それぞれ、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヒドロキシ基またはメルカプト基である請求項1〜5のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項9】
前記式[I]中、R1およびR2が、それぞれ、水素原子、フルオロ基、クロロ基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、またはメルカプト基である請求項1〜5のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項10】
前記式[I]中、Ar1(R1を含む)およびAr2(R2を含む)が、それぞれ下記式(1023)〜(1031)および(1031−2)〜(1031−6)のいずれかで表される請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化7】

前記式(1023)〜(1031)および(1031−2)〜(1031−6)中、星印(*)は、その位置でLに結合していることを示す。
【請求項11】
下記式1〜4および6〜11のうちいずれかで表される請求項1に記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化8】

【化9】

【請求項12】
糖鎖と相互作用する請求項1〜11のいずれかに記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項13】
前記糖鎖がGAG糖鎖である請求項12に記載の化合物、その互変異体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項14】
下記式(1032)または(1032−2)で表される化合物および下記式(1033)で表される化合物を反応させる工程を含む、下記式(1034)で表される化合物の製造方法。
【化10】

前記式(1032)〜(1034)中、
Ar2は、芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R100は、水素原子または任意の原子団である。
【請求項15】
前記化合物(1033)が下記式(1033’)で表され、前記化合物(1034)が下記式(1034’)で表される請求項14に記載の製造方法。
【化11】

前記式(1033’)および(1034’)中、
Ar2およびR2は前記式(1032)および(1034)と同じであり、
Ar1は、芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、Ar2とは同一でも異なっていても良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、R2とは同一でも異なっていても良い。
【請求項16】
下記式(1035)で表される化合物、下記式(1036)で表される化合物、および下記式(1037)で表される化合物を反応させる工程を含む、下記式(1038)で表される化合物の製造方法。
【化12】

前記式(1035)〜(1038)中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良い。
【請求項17】
下記式(1035)で表される化合物および下記式(1036)で表される化合物を反応させる工程を含む、下記式(1039)で表される化合物の製造方法。
【化13】

前記式(1035)、(1036)および(1039)中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良い。
【請求項18】
下記式[I]で表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を活性成分として含む薬学的組成物。
【化14】

前記式[I]中、
Ar1およびAr2は、同一であるかまたは異なり、それぞれ芳香環またはヘテロ芳香環であり、単環でも縮合環でも良く、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R2は、水素原子または任意の置換基であり、一つでも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
R1およびR2は同一でも異なっていても良く、
Lは、N原子、S原子およびO原子からなる群から選択される少なくとも一つの原子を含む原子団であり、直鎖状でも良く、分枝構造を含んでいてもいなくても良く、環状構造を含んでいてもいなくても良い。
【請求項19】
前記式[I]の化合物が、下記式1〜11のいずれかで表される構造を有する請求項18に記載の薬学的組成物。
【化15】

【化16】

【請求項20】
一種類以上の薬学的に許容可能な添加物をさらに含む請求項18または19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記活性成分が細胞増殖阻害活性および細胞死誘導活性の少なくとも一方を有する請求項18〜20のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記活性成分が、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍転移阻害活性、腫瘍細胞遊走阻害活性、腫瘍細胞死誘導活性、血管新生阻害活性および機能性タンパク質活性調節活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有する請求項18〜21のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項23】
請求項1もしくは18に記載の式[I]で表される化合物、その互変異体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種類の物質を含むか、または請求項18〜22のいずれかに記載の薬学的組成物を含む医薬。
【請求項24】
細胞の増殖に関わる疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される請求項23に記載の医薬。
【請求項25】
細胞の増殖に関わる疾患が、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患である請求項24に記載の医薬。
【請求項26】
抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される請求項23〜25のいずれかに記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−254391(P2007−254391A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81671(P2006−81671)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】