説明

新規光学活性大環状化合物、その製造方法、並びにそれを用いた光学純度決定試薬及び光学純度決定方法

【課題】不斉化合物の不斉識別が可能な、特に、水素結合することができない不斉化合物の不斉識別も可能な新規光学活性大環状化合物を提供する。また、そのような光学活性大環状化合物の製造方法、並びにそれを用いた光学純度決定試薬及び光学純度決定方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される光学活性大環状化合物。


[式中、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基を表し、Yは、芳香環を含まない炭素数1〜10の2価の有機基、酸素原子又は硫黄原子を表し、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルフィリン環を含む新規光学活性大環状化合物、その製造方法、並びにそれを用いた光学純度決定試薬及び光学純度決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異性体は、医薬、香料、液晶といった分野で幅広く活用されている。体内にはアミノ酸やタンパク質、糖やDNAといった不斉化合物が多く存在するため、光学異性体間で薬理活性や毒性が異なることも多い。そのため、不斉化合物の光学純度を決定する必要が生じる。光学純度を決定するためには、キラルなホスト化合物と対象化合物(ゲスト化合物)の間の錯形成を利用したいくつかの方法が知られている。核磁気共鳴(NMR)法は、ゲスト化合物がホスト化合物と錯形成するのに伴って、各光学異性体のNMRシグナルが異なる化学シフト値を示すことを利用する。キラルなホスト化合物を含有する、キラルシフト試薬又はキラル溶媒和試薬(ここでは、これらを総称して光学純度決定試薬と呼ぶ)を用いるNMR法は、測定前に当該試薬と対象化合物を溶液中で混ぜておくだけで光学純度を決定できる。したがって、NMR法は、最も迅速な光学純度の決定法である。
【0003】
キラルシフト試薬としては、ランタニド系の金属錯体が古くから知られている。しかしながら、当該キラルシフト試薬には、金属錯体を形成する常磁性金属によりNMRシグナルがブロードニングするという問題があった。この問題を解決するための提案もなされているものの(例えば、非特許文献1)、完全な解決には至っていない。
【0004】
一方、最近はキラル溶媒和試薬が活発に開発されている。なかでも、軸不斉構造を有するビナフチル化合物は安価に入手できるため、頻繁にキラル溶媒和試薬として利用されている。特許文献1及び非特許文献2には、ビナフチル基を有する大環状化合物からなるNMR用光学純度決定試薬が提案されている。当該大環状化合物は、空洞内に多重水素結合部位を有しており、これにより、種々のゲスト化合物を包接することができ、包接されたゲスト化合物がビナフチル基により不斉識別されるとされている。しかしながら、当該大環状化合物は、水素結合することができない化合物の測定には用いることができなかった。一方、水素結合以外の分子間相互作用を利用するタイプの光学純度決定試薬はあまり知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−24650号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.Inamoto et al.,Org.Lett.,2(23),p.3543−3545 (2000)
【非特許文献2】T.Ema et al.,J.Am.Chem.Soc.,129(34),p.10591−10596 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、不斉化合物の不斉識別が可能な、特に、水素結合することができない不斉化合物の不斉識別も可能な新規光学活性大環状化合物を提供することを目的とするものである。また、そのような光学活性大環状化合物の製造方法、並びにそれを用いた光学純度決定試薬及び光学純度決定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記一般式(1)で表される光学活性大環状化合物を提供することによって解決される。
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基を表し、Yは、芳香環を含まない炭素数1〜10の2価の有機基、酸素原子又は硫黄原子を表し、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0011】
上記光学活性大環状化合物が下記一般式(2)で表されるものであることが好適であり、
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、Arは、直接結合又は炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基を表す。Wは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜14の1価の有機基を表す。Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0014】
下記一般式(3)で表されるものであることがより好適であり、
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0017】
下記一般式(4)で表されるものであることがさらに好適である。
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0020】
上記一般式(2)〜(4)中のWにおける有機基が、シアノ基又は炭素数6〜14の芳香族基であることが好適である。
【0021】
上記一般式(1)〜(4)中のYにおける有機基が、−R−O−、−CO−O−又は−R−CO−O−(但し、Rは、2価の炭化水素基を表す)であることが好適であり、上記光学活性大環状化合物が下記一般式(5)で表されるものであることがより好適である。
【0022】
【化5】

【0023】
[式中、X及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0024】
上記光学活性大環状化合物が下記一般式(6)で表されるものであることが好適である。
【0025】
【化6】

【0026】
[式中、Zは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0027】
上記一般式(1)〜(6)中のZにおける有機基が、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、アルキルシリル基又はアルキルアミノ基であることが好適である。
【0028】
上記一般式(6)において、Z及びWが水素原子であることが好適である。
【0029】
前記ポルフィリン環が中心金属を有していることも好適である。このとき、前記中心金属が亜鉛であることが好適である。
【0030】
上記課題は、下記一般式(7)
【0031】
【化7】

【0032】
[式中、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基を表す。]
【0033】
で表されるジカルボン酸化合物と下記一般式(8)
【0034】
【化8】

【0035】
[式中、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0036】
で表されるジオール化合物を反応させて、下記一般式(9)
【0037】
【化9】

【0038】
[式中、Xは、上記一般式(7)に同じであり、Zは、上記一般式(8)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0039】
で表されるジエステル化合物を得た後に、該ジエステル化合物と上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物を反応させる下記一般式(5)
【0040】
【化10】

【0041】
[式中、Xは、上記一般式(7)に同じであり、Zは、上記一般式(8)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0042】
で表される光学活性大環状化合物の製造方法を提供することによっても解決される。
【0043】
このとき、Xが、下記一般式(10)
【0044】
【化11】

【0045】
[式中、Arは、直接結合又は炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基を表す。Wは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜14の有機基を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0046】
で表される2価の芳香族基であることが好適であり、下記一般式(11)
【0047】
【化12】

【0048】
[式中、Wは、上記一般式(10)に同じである。]
【0049】
で表される2価の芳香族基であることがより好適である。
【0050】
上記一般式(10)又は(11)中のWにおける有機基が、シアノ基又は炭素数6〜14の芳香族基であることが好適である。
【0051】
上記製造方法における一般式(8)、(9)及び(5)中のZにおける有機基が、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、アルキルシリル基又はアルキルアミノ基であることが好適である。
【0052】
上記光学活性大環状化合物を含有する核磁気共鳴分析用の光学純度決定試薬が本発明の好適な実施態様である。
【0053】
上記光学活性大環状化合物を、予め測定対象の化合物と混合した後に、核磁気共鳴測定を行う光学純度決定方法も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0054】
本発明の光学活性大環状化合物は、不斉化合物の不斉識別、特に、水素結合することができない不斉化合物であっても不斉識別が可能である。したがって、それを含有する光学純度決定試薬は、多くの不斉化合物の光学純度決定に用いることができる。また、本発明の光学純度決定方法によれば、不斉化合物の光学純度決定を簡便に行うことができる。さらに、本発明の製造方法によれば、本発明の光学活性大環状化合物を簡便に製造方法することができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の光学活性大環状化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。当該化合物は新規化合物である。
【0056】
【化13】

【0057】
[式中、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基を表し、Yは、芳香環を含まない炭素数1〜10の2価の有機基、酸素原子又は硫黄原子を表し、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0058】
従来の光学純度決定試薬は、ホスト分子とゲスト分子の間の分子間相互作用に水素結合を利用していたのに対して、本発明の光学活性大環状化合物は、芳香族化合物間の相互作用であるπ−πスタッキングを主に利用している。π−πスタッキングとは、芳香環どうしが積み重なってエネルギー安定化することによって生じる分子間相互作用である。本発明の光学活性大環状化合物は、水素結合できない不斉化合物であっても、π−πスタッキングなどによって相互作用することが可能であるため、このような不斉化合物を不斉識別することができる。さらに、本発明の光学活性大環状化合物は、(1)大きなπ平面を有する、(2)著しい環電流効果を有する、(3)剛直である、という特徴を持つ芳香環であるポルフィリン環を有することにより、分子間相互作用が弱い場合などでも優れた不斉識別機能を発揮する。本発明の光学活性大環状化合物は、芳香族化合物とπ−πスタッキングするため、不斉芳香族化合物の不斉識別を特に好適に行うことができる。
【0059】
上記一般式(1)で表される光学活性大環状化合物は、Xで表されるポルフィリン環を含む2価の芳香族基、ビナフチル基及びYで表される2価の有機基からなる。2つのX中のポルフィリン環は、平行に配置されており、これらの間にゲスト分子の不斉化合物を包接するための空洞が形成されている。当該空洞は、芳香族基であるポルフィリン環に挟まれているため、π−πスタッキングの形成に適している。さらに、当該空洞は、隣接する2つのビナフチル基によりキラルな空洞となっている。ゲスト分子である不斉化合物はπ−πスタッキングなどの分子間相互作用により、ホスト分子である光学活性大環状化合物の前記空洞内に取り込まれる。本発明の光学活性大環状化合物は適度な剛直性を有するため、光学活性大環状化合物の前記空洞に包接された不斉化合物は自由度が制限される。このとき、当該不斉化合物が、軸不斉を有するビナフチル基と近接することにより、当該不斉化合物が不斉識別される。このようにして光学活性大環状化合物に包接された不斉化合物を核磁気共鳴測定した場合には、光学異性体間でシグナル位置に差が生じ、それを指標に光学純度を決定することができる。本発明の光学活性大環状化合物の有する環電流効果は、核磁気共鳴測定における光学異性体間のシグナルの分離を大きくする働きがある。
【0060】
上記一般式(1)における2つのビナフチル基はキラルである必要がある。上述したように、不斉化合物が前記空洞内に取り込まれた際に、当該不斉化合物が、軸不斉を有する当該ビナフチル基と近接することにより、当該不斉化合物が不斉識別される。また、ビナフチル基は、適度な剛直性を有するとともに環電流効果も有する。光学活性大環状化合物中の2つのビナフチル基の絶対配置が両方R又は両方Sであることが好適である。
【0061】
上記一般式(1)において、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基である。本発明において、2つのX中のポルフィリン環が、所定の距離をおいて平行に配置されている必要がある。このときポルフィリン環の間に形成される空洞にゲスト分子である不斉化合物がπ−πスタッキングすることなどにより取り込まれる。Xは、通常、ポルフィリン環を1つ含む。X中のポルフィリン環は、置換基を有していてもよい。また、ポルフィリン環とYが直接連結されていてもよいし、2価の芳香族基を介してポルフィリン環とYが連結されていてもよい。後者の場合には、芳香環が直接Yと連結されている必要がある。
【0062】
本発明の光学活性大環状化合物が下記一般式(2)で表されるものであることが好適である。
【0063】
【化14】

【0064】
[式中、Arは、直接結合又は炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基を表す。Wは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜14の1価の有機基を表す。Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0065】
この場合には、ゲスト分子を包接するのにさらに適した空洞が形成される。
【0066】
上記一般式(2)におけるArは、直接結合又は炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基を表す。このときの有機基としては、フェニレン基、ビフェニルジイル基、ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基又はフェナントレンジイル基などが挙げられる。2つのポルフィリン環をπ−πスタッキングに適した距離に調節する観点からは、Arは、炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基であることが好適である。
【0067】
本発明の光学活性大環状化合物が下記一般式(3)で表されるものであることがより好適である。
【0068】
【化15】

【0069】
[式中、Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0070】
この場合には、ゲスト分子を包接するのにさらに適した空洞が形成される。また、このような化合物は合成しやすい。
【0071】
本発明の光学活性大環状化合物が下記一般式(4)で表されるものであることがさらに好適である。
【0072】
【化16】

【0073】
[式中、Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0074】
この場合には、ゲスト分子がポルフィリン環とπ−πスタッキングするのに特に適した空洞が2つのポルフィリン環の間に形成される。
【0075】
上記一般式(2)〜(4)におけるWは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜14の1価の有機基である。Wが有機基である場合は、シアノ基又は炭素数6〜14の芳香族基であることが好適である。このときの芳香族基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基又はフェナントリル基などが挙げられ、合成のしやすさからは、フェニル基が好適である。ゲスト分子の空洞への入り易さの観点からは、Wがハロゲン原子又は水素原子であることが好適であり、水素原子であることがより好適である。ポルフィリン環どうしの距離が近い場合には、Wが大きすぎると、ゲスト分子が空洞内に入りにくくなるおそれがある。合成のしやすさからは、Wが水素原子であることが好適である。一方、電子豊富なゲスト分子を包接しやすくする観点からは、Wがハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基であることが好適である。これらは電気吸引性の置換基であるため、ポルフィリン環が電子不足になり、電子豊富なゲスト分子との相互作用が強くなる。
【0076】
上記一般式(1)〜(4)におけるYは、芳香環を含まない炭素数1〜10の2価の有機基、酸素原子又は硫黄原子である。Yは、ポルフィリン環とビナフチル基の間にあり、これらを連結する。Yの種類、特に、長さにより、ポルフィリン環同士の距離及び光学活性大環状化合物の剛直性が変化する。Yが2価の有機基である場合において、炭素数が10を超える場合には、光学活性大環状化合物の剛直性が不十分になることで包接された不斉化合物の自由度が大きくなり、不斉識別が困難になる。Yが2価の有機基である場合の炭素数は、3以下であることが好適である。Yにおける有機基が−R−O−、−CO−O−又は−R−CO−O−(但し、Rは、2価の炭化水素基を表す)であることが好適である。ここで、連結の向きは特に限定されない。π−πスタッキングのしやすさや包接された不斉化合物の自由度を制限する観点からは、Yは、酸素原子、硫黄原子又は−CO−O−であることが好適であり、なかでも、光学活性大環状化合物が下記一般式(5)で表されるものであることがより好適である。下記一般式(5)で表される化合物は合成しやすい。
【0077】
【化17】

【0078】
[式中、X及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0079】
本発明の光学活性大環状化合物が下記一般式(6)で表されるものであることが特に好適である。
【0080】
【化18】

【0081】
[式中、Zは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0082】
この場合には、平行に配置された二つのポルフィリンの距離が約7オングストロームであり、ゲスト分子の不斉化合物がポルフィリン環とπ−πスタッキングするのに特に適した空洞が形成される。また、空洞内に包接された不斉化合物が小さい場合でも、自由度が制限される。
【0083】
上記一般式(1)〜(6)における、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子である。ここで、Zにおける有機基は、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、アルキルシリル基又はアルキルアミノ基であることが好適である。Zは、水素原子であることがより好適である。
【0084】
合成のしやすさからは、上記一般式(6)において、Z及びWが水素原子であることが好適である。
【0085】
本発明の光学活性大環状化合物中の前記ポルフィリン環が中心金属を有することも好適である。このように前記ポルフィリン環が中心金属を有して、金属錯体を形成している光学活性大環状化合物も不斉化合物の光学識別に用いることができる。前記中心金属としては、亜鉛、マグネシウム又はニッケルなどが例示され、なかでも亜鉛が好適である。前記ポルフィリン環が中心金属を有する光学活性大環状化合物は、通常、予め錯体として単離したものを準備して不斉識別に用いる。
【0086】
本発明の光学活性大環状化合物を合成する方法は特に限定されるものではないが、好適な合成方法は、下記一般式(7)
【0087】
【化19】

【0088】
[式中、Xは、上記一般式(1)に同じである。]
【0089】
で表されるジカルボン酸化合物と下記一般式(8)
【0090】
【化20】

【0091】
[式中、Zは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0092】
で表されるジオール化合物を反応させて、下記一般式(9)
【0093】
【化21】

【0094】
[式中、X及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0095】
で表されるジエステル化合物を得た後に、該ジエステル化合物と上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物を反応させる下記一般式(5)
【0096】
【化22】

【0097】
[式中、X及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0098】
で表される光学活性大環状化合物の製造方法である。
【0099】
この方法は、反応工程も短く、かつ各工程の反応もごく一般的な反応を用いているため、本発明の光学活性大環状化合物を容易に製造することができる。そのため、経済的に非常に有利である。
【0100】
上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物は、例えば、次のようにして合成できる。ジピロメタンとカルボン酸エステル基を有する芳香族アルデヒドをトリフルオロ酢酸などの酸触媒を用いて環化させた後に、DDQ(2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン)などの酸化剤により酸化させることなどによってカルボン酸エステル基を有するポルフィリンを合成する。このときの溶媒としては、ジクロロメタンを用いることができる。さらに、得られたポルフィリンのカルボン酸エステル基を加水分解することにより、上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物を得る。
【0101】
こうして得られた上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物と上記一般式(8)で表されるジオール化合物とを縮合させることにより、上記一般式(9)で表されるジエステル化合物を得る。このとき縮合剤としては、例えば、EDC[1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド]をDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)とともに用いることができる。上記一般式(7)で示されるジカルボン酸化合物に対する収率を向上させるためには、上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物に対して過剰量の上記一般式(8)で表されるジオール化合物を混合して反応させることが好ましい。具体的には、一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物1モルに対して、上記一般式(8)で表されるジオール化合物を2.5〜10モル混合して反応させることが好ましい。上記一般式(8)で表されるジオール化合物は、安価に入手できるため、コストが低減される。溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン等が用いられる。また反応温度は通常、−30℃〜100℃の範囲で適宜選択される。反応時間は特に限定はなく、TLC等で反応を追跡して判断する。反応生成物は、通常の分離手段、例えばカラムクロマトグラフィー又は再結晶などで精製することができる。
【0102】
上記一般式(9)で表されるジエステル化合物と上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物との縮合反応は、それぞれほぼ同じモル量を用いて行うことが好適である。また、比較的高希釈条件下で反応させることにより高分子化が抑制され、収率が向上する。使用する縮合剤及び溶媒、反応温度、反応時間、並びに精製方法は上記一般式(7)と上記一般式(8)の縮合反応の説明において上述したものを採用することができる。
【0103】
上記製造方法において、上記一般式(7)、(9)及び(5)で表される化合物におけるXが、下記一般式(10)
【0104】
【化23】

【0105】
[式中、Ar及びWは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【0106】
で表される2価の芳香族基であることが好適である。上記一般式(10)における、Arは上記一般式(2)におけるArとして上述したものを用いることができる。Xが、下記一般式(11)
【0107】
【化24】

【0108】
[式中、Wは、上記一般式(2)に同じである。]
【0109】
で表される2価の芳香族基であることがより好適である。
【0110】
上記製造方法において、上記一般式(10)及び(11)におけるWは、前記一般式(2)〜(4)におけるWとして前述したものを用いることができる。
【0111】
上記製造方法において、上記一般式(8)、(9)及び(5)におけるZは、前記一般式(1)〜(6)におけるZとして前述したものを用いることができる。
【0112】
ポルフィリン環が中心金属を有する光学活性大環状化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、光学活性大環状化合物と金属塩を溶媒中で混合することにより金属錯体を形成させた後に、水を加えて過剰の金属塩を洗浄し、さらに溶媒を減圧留去することにより得ることができる。
【0113】
本発明の光学活性大環状化合物を含有する核磁気共鳴分析用の光学純度決定試薬が本発明の光学活性大環状化合物の好適な実施態様である。当該光学純度決定試薬は、本発明の光学活性大環状化合物を含有していればよい。当該光学純度決定試薬は、例えば、本発明の光学活性大環状化合物のみからなるものであってもよいし、本発明の光学活性大環状化合物が溶媒に溶解した状態のものであってもよい。本発明の光学活性大環状化合物は、水素結合できない不斉化合物であっても、不斉識別することができる。したがって、本発明の光学活性大環状化合物を含有する光学純度決定試薬を用いて、多くの不斉化合物の光学純度を核磁気共鳴分析により決定することができる。
【0114】
また、本発明の光学活性大環状化合物を、予め測定対象の化合物と混合した後に、核磁気共鳴測定を行う光学純度決定方法により、不斉化合物の光学純度を簡便に決定することができる。本発明の光学活性大環状化合物を測定対象の化合物と混合して測定用のサンプルを調製する。このときの光学活性大環状化合物の量は、通常、測定対象の化合物のモル量とほぼ同じ量である。調製したサンプルは常法により核磁気共鳴測定を行えばよい。得られるスペクトルから光学純度が決定される。
【0115】
核磁気共鳴測定により光学純度を決定するに際して、測定対象の化合物を予め電子不足な芳香族基で修飾することにより誘導体化し、得られた誘導体を本発明の光学活性大環状化合物と混合した後に、核磁気共鳴測定を行うことがより好適である。この場合には、当該誘導体中の電子不足な芳香族基と光学活性大環状化合物中の電子豊富なポルフィリン環との間に強い相互作用が生じる。したがって、光学活性大環状化合物との相互作用が非常に弱いため通常の方法では不斉識別が困難な不斉化合物であっても、電子不足な芳香族基で修飾することにより光学純度の決定が可能となる。電子不足な芳香族基としては、例えば、ジニトロフェニル基が挙げられる。ジニトロフェニル基で修飾するに際して、測定対象の化合物がアルコールである場合にはジニトロベンゾイルエステルへ、アミンである場合にはジニトロベンゾイルアミドへ、そして、ケトンである場合にはジニトロフェニルヒドラゾンへそれぞれ誘導体化することができる。電子不足な芳香族基で不斉化合物を誘導体化する方法は、特に限定されず、常法により簡便に行うことができる。
【実施例】
【0116】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0117】
測定に用いた測定機器は以下の通りである。
融点測定器:Mettler Toledo,FP−62
IR測定装置:Shimadzu,FTIR−8900
H NMR (600 MHz)測定装置:Varian,Unity Inova AS600
13C NMR (150 MHz)測定装置:Varian,Unity Inova AS600
19F NMR (565 MHz)測定装置:Varian,Unity Inova AS600
【0118】
光学活性大環状化合物(R)−Iの合成を行った。このときの合成経路を下記スキームに示す。
【0119】
【化25】

【0120】
ポルフィリンIIIの合成
ジピロメタンII(914mg、6.25mmol)と3−ホルミル安息香酸メチルエステル(1.03g、6.27mmol)の乾燥塩化メチレン溶液(1.2L)をアルゴンで15分間バブリングした後、トリフルオロ酢酸(320mL、4.31mmol)を加えた。反応混合物を室温、遮光下で14時間激しく撹拌した。DDQ(1.92g、8.44mmol)を加え、30分間さらに撹拌した。溶媒を減圧留去し、塩基性アルミナカラム(展開溶媒:クロロホルム)で2回精製すると67%で生成物IIIが得られた。クロロホルム・ヘキサンから再結晶により赤紫色の結晶(666mg、37%)を得た。
【0121】
mp>300°C
H NMR(CDCl,600 MHz)−3.14(br s,2H),4.02(s,6H),7.91(t,J=7.7Hz,2H),8.46(d,J=7.7Hz,2H),8.53(d,J=7.7Hz、2H)、8.96(s,2H),9.02(d,J=4.2Hz,4H),9.43(d,J=4.2Hz,4H),10.36(s,2H)
13C NMR(CDCl,150 MHz)52.4,105.5,117.7,127.1,129.0,130.7,131.9,135.1,138.7,141.6,145.3,146.9,167.3
IR(KBr)3287,3132,3023,2953,1725,1577,1435,1409,1300,1272,1241,1196,1104,1079,1065,957,854cm−1
Anal.Calcd for C3626:C,74.73;H,4.53;N,9.68.Found:C,74.45;H,4.57;N,9.29
HRMS(FAB,nitrobenzyl alcohol)calcd for C3627 579.2032,found 579.2031(M+H).
【0122】
ポルフィリン(R)−Vの合成
ポルフィリンIII(1.38g、2.38mmol)のTHF溶液(480mL)へ2N KOH水溶液(100mL)を加え、14時間加熱還流した。THFを留去した後、濃塩酸で酸性にした。生じた紫色の沈殿を濾過して、水と塩化メチレンで洗浄し、真空乾燥するとジカルボン酸IV(1.22g)を93%で与えた。ジカルボン酸IV(660mg、1.20mmol)と(R)−1,1’−ビ−2−ナフトール(1.72g、6.00mmol)の塩化メチレン溶液(28mL)へアルゴン下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)(1.38g、7.20mmol)とDMAP(1.76g、14.4mmol)を加えた。反応混合物を40℃で23時間撹拌した。0℃で希塩酸を加えることにより反応を停止し、生成物をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム:酢酸エチル(15:1))にて精製すると、(R)−Vが61%で得られた。クロロホルム・ヘキサンから再結晶すると、(R)−Vが紫色の結晶として47%で得られた(619mg)。
【0123】
mp>300°C
H NMR(CDCl,600 MHz)−3.17(br s,2H),5.26(br s,2H),6.46−6.50(m,2H),6.91−6.94(m,2H),7.04(dd,J=8.1,11.7Hz,2H),7.09(dd,J=2.1,8.1Hz,2H),7.19(dd,J=5.1,9.0Hz,2H),7.35−7.36(m,4H),7.48−7.53(m,4H),7.70−7.74(m,4H),8.00(dd,J=3.0,8.4Hz,2H),8.13−8.16(m,4H),8.30−8.34(m,4H),8.70(t,J=4.2Hz,2H),8.84(t,J=4.2Hz,2H),9.40−9.43(m,4H),10.38(t,J=8.4Hz,2H)
13C NMR(CDCl,150 MHz)105.5,113.8,117.4,117.9,121.8,122.9,123.0,124.3,125.7,126.3,126.5,127.0,127.51,127.54,127.6,127.76,127.77,128.4,128.7,129.2,130.3,130.78,130.81,131.9,132.2,133.3,135.1,135.2,139.1,139.2,141.5,145.3,146.8,148.3,151.6,165.9
IR(KBr)3466,3063,1715,1622,1578,1508,1412,1344,1271,1246,1200,1146,1055,974,928,897,849,737cm−1
HRMS(FAB,nitrobenzyl alcohol)calcd for C7447 1087.3496,found 1087.3511 (M+H).
【0124】
光学活性大環状化合物(R)−Iの合成
ジカルボン酸IV(421mg、0.764mmol)と(R)−V(754mg、0.693mmol)の乾燥塩化メチレン溶液(71mL)へアルゴン下、EDC(797mg、4.16mmol)とDMAP(1.02g、8.32mmol)を加え、40℃にて14時間加熱した。0℃で水を加えることにより反応を停止し、生成物をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製すると、(R)−Iが紫色の結晶として28%で得られた(308mg)。
【0125】
mp>300°C
H NMR(CDCl,600 MHz)−6.92(br s,4H),7.44(t,J=7.2Hz,4H),7.48(d,J=7.2Hz,4H),7.56(dt,J=1.2,8.1Hz,4H),7.62−7.66(m,8H),7.96(d,J=8.1Hz,4H),8.02(dt,J=1.2,7.2Hz,4H),8.08(d,J=8.1Hz,4H),8.20(d,J=8.1Hz,4H),8.55(d,J=4.2Hz,4H),8.75(d,J=4.2Hz,4H),8.80(d,J=4.2Hz,4H),8.81(d,J=4.2Hz,4H),8.83(s,4H),9.84(s,4H)
13C NMR(CDCl,150MHz)103.5,115.4,121.7,124.6,125.9,126.9,127.0,127.1,127.8,128.1,128.2,128.7,129.7,130.1,130.7,132.0,132.3,133.9,135.7,140.1,140.9,141.0,142.1,145.7,147.5,147.6,165.4
IR(KBr)3279,3063,1738,1732,1580,1510,1472,1412,1292,1242,1219,1188,1169,1063,1011,961,943,895,849,791,723cm−1
HRMS(FAB,nitrobenzyl alcohol)calcd for C10865 1601.4925,found 1601.4933 (M+H).
【0126】
NMR法による不斉識別能の評価
分析化合物のラセミ体と光学活性大環状化合物(R)−IをCDCl中で混合して溶液(それぞれ10mM)とし、600MHz H NMR装置を用いて22℃で測定を行った。表1にその結果を示す。構造式に矢印で示されたプロトンまたはフッ素の共鳴が右側に示されている。黒丸は(R)−体、白丸は(S)−体のシグナルを示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表1に示されるように、不斉芳香族化合物の(R)−体と(S)−体が不斉識別されている。また、前記光学活性大環状化合物(R)−Iと亜鉛を用いて、光学活性大環状化合物(R)−Iの亜鉛錯体を合成することができる。
【0129】
光学活性大環状化合物(R)−Iの亜鉛錯体の合成
(R)−I(118mg、0.0737mmol)と酢酸亜鉛・2水和物(176mg、0.802mmol)の混合物へクロロホルム(15mL)を加えて、60℃で終夜撹拌した。放冷した後に水を加えて過剰の酢酸亜鉛を洗浄した。溶媒を減圧留去すると、亜鉛錯体が68%で得られた。
【0130】
H NMR(CDCl,500 MHz)7.27−7.34(m,8H),7.47−7.53(m,8H),7.62−7.65(m,4H),7.94−7.98(m,8H),8.12(d,J=8.0Hz,4H),8.25(d,J=8.0Hz,4H),8.44(d,J=4.5Hz,4H),8.55(d,J=4.5Hz,4H),8.63(s,4H),8.73(d,J=4.5Hz,4H),8.88(d,J=4.5Hz,4H),9.73(s,4H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される光学活性大環状化合物。
【化1】

[式中、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基を表し、Yは、芳香環を含まない炭素数1〜10の2価の有機基、酸素原子又は硫黄原子を表し、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表される請求項1に記載の光学活性大環状化合物。
【化2】

[式中、Arは、直接結合又は炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基を表す。Wは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜14の1価の有機基を表す。Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【請求項3】
下記一般式(3)で表される請求項2に記載の光学活性大環状化合物。
【化3】

[式中、Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【請求項4】
下記一般式(4)で表される請求項3に記載の光学活性大環状化合物。
【化4】

[式中、Y及びZは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【請求項5】
前記Wにおける有機基が、シアノ基又は炭素数6〜14の芳香族基である請求項2〜4のいずれかに記載の光学活性大環状化合物。
【請求項6】
前記Yにおける有機基が、−R−O−、−CO−O−又は−R−CO−O−(但し、Rは、2価の炭化水素基を表す)である請求項1〜5のいずれかに記載の光学活性大環状化合物。
【請求項7】
下記一般式(5)で表される請求項6に記載の光学活性大環状化合物。
【化5】

[式中、X及びZは、上記一般式(1)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【請求項8】
下記一般式(6)で表される請求項1〜7のいずれかに記載の光学活性大環状化合物。
【化6】

[式中、Zは、上記一般式(1)に同じである。Wは、上記一般式(2)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
【請求項9】
前記Zにおける有機基が、シアノ基、トリフルオロメチル基アルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、アルキルシリル基又はアルキルアミノ基である請求項1〜8のいずれかに記載の光学活性大環状化合物。
【請求項10】
前記Z及びWが水素原子である請求項8に記載の光学活性大環状化合物。
【請求項11】
前記ポルフィリン環が中心金属を有する請求項1〜10のいずれかに記載の光学活性大環状化合物。
【請求項12】
前記中心金属が亜鉛である請求項11に記載の光学活性大環状化合物。
【請求項13】
下記一般式(7)
【化7】

[式中、Xは、ポルフィリン環を含む2価の芳香族基を表す。]
で表されるジカルボン酸化合物と下記一般式(8)
【化8】

[式中、Zは、水素原子、炭素数1〜20の1価の有機基、ニトロ基、保護されていてもよいアミノ基、アジド基又はハロゲン原子を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
で表されるジオール化合物を反応させて、下記一般式(9)
【化9】

[式中、Xは、上記一般式(7)に同じであり、Zは、上記一般式(8)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
で表されるジエステル化合物を得た後に、該ジエステル化合物と上記一般式(7)で表されるジカルボン酸化合物を反応させる下記一般式(5)
【化10】

[式中、Xは、上記一般式(7)に同じであり、Zは、上記一般式(8)に同じである。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
で表される光学活性大環状化合物の製造方法。
【請求項14】
前記Xが、下記一般式(10)
【化11】

[式中、Arは、直接結合又は炭素数6〜14の芳香環から2個の水素原子を除いた2価の有機基を表す。Wは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜14の有機基を表す。*はビナフチル基の軸不斉を表す。]
で表される2価の芳香族基である請求項13に記載の光学活性大環状化合物の製造方法。

【請求項15】
前記Xが、下記一般式(11)
【化12】

[式中、Wは、上記一般式(10)に同じである。]
で表される2価の芳香族基である請求項14に記載の光学活性大環状化合物の製造方法。
【請求項16】
前記Wにおける有機基が、シアノ基又は炭素数6〜14の芳香族基である請求項14又は15に記載の光学活性大環状化合物の製造方法。
【請求項17】
前記Zにおける有機基が、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、アルキルシリル基又はアルキルアミノ基である請求項13〜16のいずれかに記載の光学活性大環状化合物の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれかに記載の光学活性大環状化合物を含有する核磁気共鳴分析用の光学純度決定試薬。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれかに記載の光学活性大環状化合物を、予め測定対象の化合物と混合した後に、核磁気共鳴測定を行う光学純度決定方法。

【公開番号】特開2012−136480(P2012−136480A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290638(P2010−290638)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】