説明

新規免疫抑制剤の選択方法

本発明は、被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8阻害活性を測定することを含む、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の選択方法、および被験HDAC阻害剤のHDAC4及び/又はHDAC8阻害活性を測定することを含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、HDAC4及び/又はHDAC8のみを選択的に抑制することを特徴とする血小板減少作用の少ない免疫抑制剤、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤を選択する方法、当該方法によって得られる血小板減少作用の少ない免疫抑制剤又はGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤、当該方法に使用されるキット等に関する。
【背景技術】
今日、臓器移植後の急性拒絶反応を抑制する為に臨床現場で広く用いられている主要な免疫抑制剤であるシクロスポリンA(Cyclosporin A,CsA)及びタクロリムス(FK506)は、それぞれに特異的なイミュノフィリン(immunophilins:例えばCsAの場合にはcyclophilin,FK506の場合は、FKBP12)との結合を通じて、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインホスファターゼであるカルシニューリンの活性を阻害する。その結果、NF−AT(Nuclear Factor of Activated T−cell)の脱リン酸化反応が阻害されることによって、NF−ATの核内移行が阻害され、IL−2遺伝子の転写活性が抑制されることが知られている。このような作用メカニズムの研究から、活性化されたT細胞においてIL−2遺伝子の転写レベルでの発現が特異的に抑制されることが、臓器移植片の拒絶を抑制し、様々な自己免疫疾患等への治療効果を示す上で、極めて重要であることが明らかになっている。
ところで、真核生物の細胞核DNAはヌクレオソームを単位構造体としたクロマチン構造を形成し、階層的に折りたたまれている。一個のヌクレオソームには、H2A,H2B,H3,H4の各ヒストンがそれぞれ2分子とH1ヒストン1分子が含まれている。これらのヒストン蛋白質のN−末端側に存在する特定のリジン残基は、しばしばアセチル化の修飾を受け、様々な遺伝子の発現調節に関連していることが知られている。
ヒストンN末端側のアセチル化のレベルは、相反する2系統の酵素、すなわちヒストンアセチルトランスフェラーゼ(ヒストンアセチル化酵素,histone acetyltransferase,HAT)とヒストンデアセチラーゼ(ヒストン脱アセチル化酵素,histone deacetylase,以下、必要に応じてHDACと省略する)の活性のバランスによって精妙に制御されている。このうち、ヒストンデアセチラーゼは、活性中心に亜鉛を配位する金属酵素で、アセチル化されたヒストンからアセチル基を除去する機能を担っており、このようなアセチル基の除去により、クロマチン構造の凝集が生じ、転写抑制につながると考えられている。
ヒトのヒストンデアセチラーゼは、一連の研究から、これまでにHDAC1からHDAC11まで、少なくとも11種類のアイソフォーム(isoform)の存在が知られている(例えば、Pandey R et al.,Nucleic Acids Research,30(23):5036−55(2002);L.Gao et al.,Journal of Biological Chemistry,277(28):25748−25755(2002);Joseph J.BUGGY et al.,Biochemical Journal,350:199−205(2000);国際公開第WO 00/10583号を参照)。そして、それらの各々のアイソフォームは、単体の酵素として機能している訳ではなく、実際には他の多くの蛋白質と相互作用し、より大きな複合体を構成していることが判明している。それらのHDACアイソフォームのうち、HDAC1,HDAC2,HDAC3,及びHDAC8は、構造的に酵母のRpd3蛋白質と高い相同性を有しており、クラスIに分類されている。HDAC1やHDAC2は、多数のサブユニット構造を含む複合体の構成要素の一種であり、例えばSIN3複合体やNURD/Mi2複合体の中に見いだされる。HDAC3は、N−CoR(nuclear receptor corepressor)やSMRT(silencing mediator of retinoid and thyroid)と複合体を形成し、例えばthyroid hormone receptor(TR)やv−ErbAによる転写抑制を仲介することが知られている。一方、酵母のHda1蛋白質に相同性を示す酵素群は、クラスIIに分類され、HDAC4,HDAC5,HDAC6,及びHDAC7がこのグループに属することが知られている。クラスIIのヒストンデアセチラーゼであるHDAC4,HDAC5やHDAC7は、N−CoR,SMRTやBCL−6による抑制を仲介する付加的なコレプレッサーであるBCoRと相互作用し得ることが知られている。
組換え体のHDAC3は、単体としてはそれ自体不活性であるが、SMRTやN−CoRを添加することによって活性ある酵素として機能し得ることを示唆するデータが報告されている(例えば、Matthew G.Guenther et al.,Molecular and Celluler Biology,21(18):6091−6101(2001)参照)また、クラスII酵素であるHDAC4は、生体内では、SMRTやN−CoRを介してクラスI酵素であるHDAC3と相互作用することが報告されている(例えば、Wolfgang Fischie et al.,Molecular Cell,9:45−57(2002)参照)。しかしながら、これらのHDACアイソフォームが活性化される正確なメカニズムについては、未だ不明の点も多い。
これまで、精力的なスクリーニングによってHDAC阻害活性を示す化合物が数多く得られているが、それらの中には顕著なIL−2の産生阻害活性を示す化合物が含まれており(例えば、I.Takahashi et al.,The Journal of Antibiotics,49:453−457(1995)参照)、シクロスポリンやタクロリムスを補完する免疫抑制剤の候補として注目されている。実際、このようにして選択された化合物の中にはインビボ(in vivo)において優れた免疫抑制作用を示すものが見出されている。FR225497は、その強力な免疫抑制作用によって、臓器移植片拒絶(organ transplant rejection)、自己免疫疾患(autoimmune diseases)の治療剤や予防剤として優れた効果を示すことが見出されているが(例えば、国際公開第WO 00/08048号参照)、それに加えて、遺伝子発現の異常によって発症すると考えられている他の数多くの疾患の治療剤や予防剤としての有用性も示唆されている。それらの疾患の中には、例えば、炎症性疾患(inflammatory disorders),糖尿病(diabetes),糖尿病性合併症(diabetic complications),ホモ接合型サラセミア(homozygous thalassemia),繊維症(fibrosis),肝硬変(cirrhosis),急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukaemia,APL),原虫感染症(protozoal infection),癌(tumor)などが含まれる。しかしながら、このような有用性にもかかわらず、これらのHDAC阻害活性を示す化合物の多くは、生体に投与した場合に、重篤な血小板減少の副作用を生じやすいという問題点があり、実際の治療薬としての利用を困難にしていた。
免疫抑制活性を示すHDAC阻害剤の多くが血小板減少の副作用を生じやすい原因については、現在のところ、まだ十分に解明されているわけではない。しかしながら、本発明者らは以前に、HDAC阻害剤の重篤な副作用である血小板減少作用については、GATA−1(GATA−1 binding protein,GF−1,NF−E1,あるいはEryf1とも呼ばれている)遺伝子の発現抑制が深く関わっていること、及び血小板抑制作用の強い化合物ほどGATA−1遺伝子の転写を強く抑制する傾向にあることを明らかにしている(特願2002−203901参照)。
GATA−1は、造血系遺伝子の転写制御領域に特徴的に存在する(A/T)GATA(A/G)コンセンサス配列を認識するDNA結合蛋白質である。このGATAモチーフ配列は、各種グロビン遺伝子のエンハンサー領域,β−グロビン遺伝子のローカス制御領域(locus control regions,LCRs)、T細胞受容体α−鎖、δ−鎖遺伝子のエンハンサー領域などの様々な制御領域やプロモーターで見出されている。また、GATA−1 mRNAは、成熟赤血球細胞・マスト細胞・巨核球などで高発現しており、多機能性前駆細胞や若齢マウスの精巣にもわずかに発現が見られる。さらに、GATA−1遺伝子を通常の方法でノックアウトしたマウスは、1次造血細胞の形成障害から胚発生の段階で致死的となる(例えば、Y.Fujiwara et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA,93:12355−12358(1996)参照)。一方、巨核球系列のGATA−1遺伝子発現だけを選択的にノックアウトさせたマウスを作製することは可能であり、このようなマウスにおいては、血小板数が激減し、巨核球系細胞の正常な成熟も見られないことが判明している(例えば、R.A.Shivdasani et al.The EMBO Journal,16:3965−3973(1997)参照)。
HDACには、数多くのアイソザイムが存在するが、それらの中には、阻害されると生体にとって重篤な副作用を生じるものがある。例えば、従来のアイソザイム選択性のないHDAC阻害剤の投与によって、血小板減少の副作用が生じるが、本発明者らは、この作用が、赤血球系や巨核球系の細胞分化や成熟に決定的な役割を果たしているGATA−1遺伝子の転写抑制作用によってもたらされている可能性を明らかにしており、これを利用して、血小板減少作用が少ない免疫抑制剤をスクリーニングする方法を以前に提供している(特願2002−203901参照)。しかし、このスクリーニング方法では、血小板減少作用が少ない免疫抑制剤をスクリーニングするために、HDAC阻害作用を有する化合物をスクリーニングした後に、血小板抑制作用を別途評価する必要があり、労力及び時間を要することとなっていたため必ずしも満足できるものではなかった。従って、HDAC阻害剤の中から免疫抑制剤を選択するには、免疫抑制効果にかかわる特定のアイソザイムは阻害するが、血小板減少作用等の副作用にかかわる他のアイソザイムを阻害しないものを簡便かつ短時間でスクリーニングする為の優れた方法を提供することが強く求められており、本発明はこのような課題の解決をその目的とするものである。
【発明の開示】
本発明者らは、IL−2遺伝子及びGATA−1遺伝子の転写抑制活性と各種HDACとの関連について鋭意研究する中で、各種HDACのうちHDAC4及びHDAC8のいずれか1つ、もしくはその両方を選択的に抑制すれば、GATA−1産生阻害活性をあまり抑制せずにIL−2産生を阻害できること、免疫担当細胞の増殖を阻害できること、及び血小板数をあまり減少させずに免疫を抑制できることを発見した。また、本発明者らは、HDAC4がN−CoRと複合体を形成すること、HDAC4とN−CoRとの複合体がさらにHDAC3と複合体を形成することを確認した。従って、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤、免疫担当細胞増殖阻害剤、又は血小板減少作用の少ない免疫抑制剤を得るためには、各種HDACのうちHDAC4及び/又はHDAC8のみを選択的に抑制する化合物を選択すればよいこと、並びにHDAC4とN−CoRとの複合体の形成、必要に応じて、HDAC4とN−CoR・HDAC3複合体との高次複合体の形成を阻害すればよいことを着想し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
《1》HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含むGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤。
《2》HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤。
《3》GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の選択方法であって、被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定することを含む選択方法。
《4》血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定することを含む選択方法。
《5》以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法:
(i)被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定する、
(ii)被検物質のHDAC酵素阻害活性を測定する、ここで、該HDAC酵素阻害活性が、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6又はHDAC7酵素阻害活性からなる群より選択される1以上のHDAC酵素阻害活性である。
《6》以下(i)〜(iii)の工程を含む、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の選択方法であって、該IL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする、《3》記載の方法:
(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8の各遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該各酵素液のそれぞれを被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(iii)HDAC4遺伝子又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択する。
《7》以下(i)〜(iii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、該免疫抑制剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする、《4》記載の方法:
(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8の各遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該各酵素液のそれぞれを被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(iii)HDAC4遺伝子又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択する。
《8》以下(i)〜(iii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、該免疫抑制剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする、《4》記載の方法:
(i)ヒト細胞から部分精製された酵素液を被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(ii)HDAC4遺伝子及び/又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(iii)(i)と(ii)との酵素活性を比較し、HDAC4遺伝子及び/又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択する。
《9》以下(i)〜(iii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4とN−CoRとの複合体形成を特異的に阻害するものを選択することを特徴とする、方法:
(i)HDAC4遺伝子及びN−CoR遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該酵素液を被験HDAC阻害剤と共存させる;
(iii)(ii)で得られた酵素液と被験HDAC阻害剤の混合液においてHDAC4とN−CoRとの複合体が形成されているか否かを解析する。
《10》以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4蛋白質の少なくとも一部を含むHDAC4融合蛋白質と、N−CoR蛋白質の少なくとも一部を含むN−CoR融合蛋白質との複合体形成を特異的に阻害するものを選択することを特徴とする方法:
(i)該HDAC4融合蛋白質をコードする遺伝子、及びN−CoR融合蛋白質をコードする遺伝子を細胞内で発現させる;
(ii)被験HDAC阻害剤が、該HDAC4融合蛋白質と該N−CoR融合蛋白質との複合体形成を阻害するか否かを解析する。
《11》以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制活性を有する化合物の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4及び/又はHDAC8の発現量を抑制するものを選択することによる方法:
(i)HDAC4及び/又はHDAC8を発現する細胞と被験HDAC阻害剤を共存させる;
(ii)当該細胞におけるHDAC4及び/又はHDAC8発現量を測定する。
《12》以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制活性を有する化合物の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4及び/又はHDAC8とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合を選択的に阻害するものを選択することによる、方法:
(i)HDAC4及び/又はHDAC8遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該酵素液をHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドと被験HDAC阻害剤と共存させ、HDAC4及び/又はHDAC8酵素とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合活性を測定する。
《13》以下(i)(ii)を少なくとも含む、HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤選択の為の測定用キット:
(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6、HDAC7の各遺伝子を発現させて得られた酵素液;
(ii)HDAC4及び/又はHDAC8の各遺伝子を発現させて得られた酵素液;
《14》配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA。
《15》配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列であることを特徴とするHDAC4変異体。
《16》有効量のHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を被験体(例えば任意の動物、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ等)、最も好ましくはヒト)に投与する工程を含む、GATA−1産生阻害活性が少ないIL−2産生及び/又は免疫担当細胞増殖の阻害方法。
《17》有効量のHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を被験体(上記と同様)に投与する工程を含む、血小板減少作用が少ない免疫の抑制方法。
《18》GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の製造のためのHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤の使用。
《19》血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の製造のためのHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤の使用。
【図面の簡単な説明】
図1は、PCRによって増幅したヒトIL−2プロモーター領域における731塩基対断片の塩基配列の確認結果を示す。上段の塩基配列は、GenBankのaccession番号X00695(全長6684bp)より入手し、その一部(配列番号29)を比較対照とした。下段の塩基配列は、実施例1で作製されたpGL3 IL2 proに含まれるIL−2プロモーター領域の塩基配列(配列番号23)である。
図2は、PCRによって増幅したヒトIL−2プロモーター領域における368塩基対断片の塩基配列の確認結果を示す。上段の塩基配列は、GenBankのaccession番号X00695(全長6684bp)より入手し、その一部(配列番号31)を比較対照とした。下段の塩基配列は、実施例1で作製されたpGL3 IL2 pro43に含まれるIL−2プロモーター領域の塩基配列(配列番号24)である。
図3は、PCRによって増幅したヒトGATA−1プロモーター領域における821塩基対断片の塩基配列の確認結果を示す。上段の塩基配列は、GenBankのaccession番号AF196971(全長113853bp)より入手し、その一部(配列番号84)を比較対照とした。下段の塩基配列は、実施例2で作製されたpGL3−IEに含まれるGATA−1プロモーター領域の塩基配列、及びpGL3−HSI−IE Proに含まれるGATA−1プロモーター領域の一部の塩基配列(配列番号25)である。
図4は、PCRによって増幅したヒトGATA−1プロモーター領域における637塩基対断片の塩基配列の確認結果を示す。上段の塩基配列は、GenBankのaccession番号AF196971(全長113853bp)より入手し、その一部(配列番号85)を比較対照とした。下段の塩基配列は、実施例2で作製されたpGL3−HSI−IE Proに含まれるGATA−1プロモーター領域の一部の塩基配列(配列番号26)である。
図5は、IL−2転写活性(上段、n=3)及び細胞増殖度(下段)に関する各種HDACアイソザイム過剰発現の影響を示す。
図6は、GATA−1転写活性に対する各種HDACアイソザイム過剰発現の影響(n=2)を示す。
図7は、実施例6において作製されたHDAC4ドミナントネガティブ変異体の概要を示す。
図8は、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)の発現量依存的なIL−2転写抑制を示す。各グラフの上の記載は、トランスフェクションに使用したプラスミド量(n=3)を示す。
図9は、HDAC4ドミナントネガティブ変異体発現(H863L)によるJurkat細胞特異的な細胞増殖阻害を示す。
図10は、Jurkat細胞及びHEL細胞におけるHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)発現によるIL−2及びGATA−1転写に対する影響を示す。上の図は、正常なHDAC1、HDAC3、HDAC4及びそれらの変異体に関しての、Jurkat細胞でのIL−2レポーター遺伝子アッセイの結果を示す。下の図は、正常なHDAC1、HDAC3、HDAC4及びそれらの変異体に関しての、HEL細胞でのGATA−1レポーター遺伝子アッセイの結果を示す。
図11は、PEAK Rapid細胞(Edge BioSystems)におけるHDAC4,HDAC5,HDAC7の発現、並びにHDAC4,HDAC5,HDAC7がN−CoR及びHDAC3と複合体を形成していることを示す。
図12は、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)の複合体形成能について示す。
図13は、野生型HDAC4及びHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)におけるHDAC活性を示す。
図14は、ツーハイブリッドシステムによるHDAC−4とN−CoRとの相互作用の概要を示す。上の図は、HDAC−4とN−CoRとが相互作用する場合の転写調節の様式を示し、下の図は、HDAC−4とN−CoRとが相互作用しない場合の転写調節の様式を示す。
図15は、ツーハイブリッドシステムによるHDAC−4とN−CoRとの相互作用を示す。
図16は、Jurkat細胞及びHEL細胞におけるHDAC4特異的siRNAによるIL−2及びGATA−1転写に対する影響を示す。左の図は、HDAC4特異的siRNAに関しての、Jurkat細胞でのIL−2レポーター遺伝子アッセイの結果を示す。右の図は、HDAC4特異的siRNAに関しての、HEL細胞でのGATA−1レポーター遺伝子アッセイの結果を示す。
発明の詳細な説明
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含むGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤に関する。HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含むGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤は、例えば、後述する選択方法により入手することができる。また、後述する選択方法を当該分野で公知の方法と組み合わせて、HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含むGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤を入手することもできる。
「HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤」とは、HDAC1〜3及びHDAC5〜7のHDAC酵素活性を抑制するよりも、HDAC4及び/又はHDAC8のHDAC酵素活性をより抑制するものをいうが、HDAC1〜3及びHDAC5〜7のHDAC酵素活性を抑制しないか又は実質的に抑制せず、かつHDAC4及び/又はHDAC8のHDAC酵素活性を抑制するものが好ましい。HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤としては、例えば、HDAC4及び/又はHDAC8に特異的なアンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸、siRNA及び抗体(例えば、単鎖抗体)、HDAC4及び/又はHDAC8のドミナントネガティブ変異体、これらをコードする核酸を含む発現ベクター、並びに後述の選択方法により得られる物質が挙げられる。
「GATA−1産生阻害活性」とは、GATA−1産生を抑制する活性である限り如何なる活性であってもよい。GATA−1産生抑制の機序としては、例えば、転写レベルでの抑制、GATA−1 mRNA分解の促進、翻訳レベルでの抑制等が挙げられる。GATA−1産生阻害活性は、当該分野で公知の方法により評価することができる。具体的には、GATA−1産生阻害活性は、後述するようにGATA−1レポーター遺伝子を用いるレポーターアッセイにより、又はGATA−1を天然で発現している細胞株や初代培養細胞等においてGATA−1 mRNA若しくはGATA−1蛋白質の発現量を測定して、評価することができる。また、ある化合物を添加して評価した際のGATA−1産生阻害活性が「少ない」とは、GATA−1産生を阻害する活性が比較対照とする化合物を添加した場合に比べて低いことをいい、例えば、当該GATA−1産生阻害活性が少ないか否かは、GATA−1レポーター遺伝子を用いるアッセイにより評価することができる。比較対照する化合物としては、例えば、非特異的なHDAC阻害剤であるトリコスタチン(tricostatin,TSA)が挙げられる。
「免疫担当細胞増殖阻害剤」とは、免疫担当細胞の増殖を阻害する活性を有するものである限り如何なる種類の活性を有するものであってもよい。細胞の増殖阻害の機序としては、例えば、細胞周期の停止、アポトーシスの誘導等が挙げられる。免疫担当細胞の増殖阻害活性は、当該分野で公知の方法により評価することができる。具体的には、チミジンの取り込み活性、MTT法等により評価することができる。ここで、「免疫担当細胞」とは、生体において免疫機能を担う細胞をいう。好ましくは、「免疫担当細胞」とは、抗体の産生能あるいは細胞性免疫反応を発現する能力を有するリンパ球や樹状細胞等をいい、より好ましくはT細胞をいう。
「IL−2産生阻害剤」とは、IL−2産生阻害活性、即ち、IL−2産生を抑制する活性を有するものである限り如何なる種類の活性を有するものであってもよい。IL−2産生阻害の機序としては、例えば、転写レベルでの抑制、IL−2 mRNA分解の促進、翻訳レベルでの抑制等が挙げられる。IL−2産生阻害活性は、当該分野で公知の方法により評価することができる。具体的には、IL−2産生阻害活性は、後述する実施例に記載されたようにIL−2レポーター遺伝子を用いるレポーターアッセイにより、又はIL−2を天然で発現している細胞株や初代培養細胞等においてIL−2 mRNA若しくはIL−2蛋白質の発現量を測定して、評価することができる。
また、本発明は、HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤に関する。HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤は、例えば、後述する選択方法により入手することができる。また、後述する選択方法を当該分野で公知の方法と組み合わせて、HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤を入手することもできる。
「血小板減少作用」とは、血小板数を低下させる作用をいい、当該血小板減少作用は、例えば、実験動物への化合物の投与等による当該分野で公知の方法によって直接的に確認することができる。また、血小板減少作用とGATA−1産生阻害活性との間には相関性があることが知られているため、血小板減少作用は、GATA−1産生阻害活性を指標にして間接的に確認することもできる。また、ある化合物や薬剤について血小板減少作用の「少ない」とは、当該化合物や当該薬剤をヒトまたは実験動物等に投与した際に、血小板数を減少させる作用が、比較対照とする化合物を投与した場合に比べて低いことをいい、例えば、上述したような方法によってGATA−1産生阻害活性が少ないか否かを評価することにより、血小板減少作用が少ないか否かを確認することもできる。比較対照する化合物としては、例えば、オキサムフラチン(Oxamflatin)が挙げられる。
「免疫抑制剤」とは、免疫抑制を誘発する薬剤をいい、例えば、当該免疫抑制剤としては、IL−2産生を抑制する活性を有するものが挙げられる。従って、例えば、上述したような方法を用いてIL−2転写抑制活性を有するか否かを評価することにより、当該免疫抑制剤を入手することができる。
また、本発明は、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤、あるいは血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定することを含む選択方法に関する。
具体的には、本発明は、(i)被検物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定し、(ii)被検物質のHDAC酵素阻害活性(ここで、HDAC酵素阻害活性は、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6又はHDAC7酵素阻害活性からなる群より選択される1以上のHDAC酵素阻害活性である)を測定することを含む、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤、あるいは血小板減少作用の少ない免疫抑制剤を選択する方法に関する。本方法の工程(ii)では、被検物質の存在下、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6又はHDAC7酵素阻害活性からなる群より選択される1以上のHDAC酵素阻害活性が測定されるが、好ましくはHDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6又はHDAC7酵素阻害活性の全てが測定される。なお、本方法は、(iii)(i)と(ii)との結果に基づき、被検物質がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害するか否かを評価する工程をさらに含んでいてもよい。
より具体的には、本発明は、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤、あるいは血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、該IL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする方法に関する。1実施態様において、上記方法は、(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8の各遺伝子を発現させて、酵素液を得た後に、(ii)当該各酵素液のそれぞれを被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定し、(iii)HDAC4遺伝子又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択することを特徴とする。
別の実施態様において、上記方法は、(i)ヒト細胞から部分精製された酵素液を被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定し、(ii)HDAC4遺伝子及び/又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定し、(iii)(i)と(ii)との酵素活性を比較し、HDAC4遺伝子及び/又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択することを特徴とする。この方法のうち(i)で用いられるヒト細胞としては、ヒト由来の細胞株であれば特に制限されないが、好ましくは、上述の免疫担当細胞に由来する細胞株、最も好ましくは、Jurkat細胞(ATCC受託番号TIB−152)が用いられる。
上述の「被検物質」としては、本発明の方法による測定系にかけることができる候補物質であれば特に限定されず、低分子有機化合物、低分子無機化合物、蛋白質や核酸を含む高分子化合物、糖類等のあらゆる化合物を含み、またそれらの混合液、天然物や合成品、動植物や菌類、藻類、微生物からの抽出液の全てを含む。また、「被検物質」としては、例えば、HDAC阻害剤(例えば、国際公開第WO 02/085883号、同第WO 02/085400号、同第WO 02/076941号、同第WO 02/062773号、同第WO 02/46129号、同第WO 02/07722号、同第WO 02/06307号、同第WO 01/70675号、同第WO 01/38322号、同第WO 01/16106号、同第WO 00/71703号、同第WO 00/21979号、同第WO 00/08048号;公開特許公報特開2001−348340、特開平11−302173;米国特許公開公報US 2002/0120099、US 2002/0115826; 米国特許第6,638,530号、同第6,541,661号、同第6,399,568号を参照)を使用することができる。なお、「被検物質」は、既知の化合物であっても、新たに発見若しくは合成された化合物であってもよい。
「HDAC阻害剤」とは、HDAC酵素活性を阻害する化合物、即ち、HDAC酵素阻害活性を有する化合物をいう。
「HDAC酵素活性」は、アセチル化された蛋白質、例えば、ヒストンのリジン残基からアセチル基を除去する活性(即ち、脱アセチル化活性)をいい、特定のHDACアイソザイムによる脱アセチル化活性であっても、不特定の1又は2以上のHDACアイソザイムによる脱アセチル化活性であってもよい。一方、「HDAC4酵素活性」とは、HDAC4による脱アセチル化活性をいい、「HDAC8酵素活性」とは、HDAC8による脱アセチル化活性をいう。HDAC1酵素活性、HDAC2酵素活性、HDAC3酵素活性、HDAC4酵素活性、HDAC5酵素活性、HDAC6酵素活性、HDAC7酵素活性についても同義である。HDAC酵素活性は、当該分野で公知の方法によって、被検物質の存在下/非存在下、各HDAC酵素を含有する酵素液(以下、必要に応じて「酵素液」と省略する)をHDAC酵素の基質と反応させることにより測定することができる。
「HDAC酵素阻害活性」は、蛋白質のリジン残基の脱アセチル化を抑制する活性をいい、特定のHDACアイソザイムによる脱アセチル化を特異的に抑制する活性であっても非特異的に抑制する活性であってもよい。一方、「HDAC4酵素阻害活性」とは、HDAC4による脱アセチル化を抑制する活性をいい、「HDAC8酵素阻害活性」とは、HDAC8による脱アセチル化を抑制する活性をいう。HDAC1酵素阻害活性、HDAC2酵素阻害活性、HDAC3酵素阻害活性、HDAC4酵素阻害活性、HDAC5酵素阻害活性、HDAC6酵素阻害活性、HDAC7酵素阻害活性についても同義である。
HDAC酵素活性の測定において使用される基質としては、当該分野で公知の基質を使用することができるが、代表的には、[H]アセチル標識ヒストン、蛍光標識アセチル化ペプチド等を使用することができる。例えば、基質として[H]アセチル標識ヒストンを使用する場合、[H]アセチル標識ヒストンは、Jurkat細胞から得ることができる。具体的には、以下の通りである。10% FBS、ペニシリン(50ユニット/ml)及びストレプトマイシン(50μg/ml)を補充したRPMI−1640培地において、1×10のJurkat細胞を、5mM酪酸ナトリウムの存在下、300MBq[H]酢酸ナトリウムと30分間インキュベートし(5% CO、37℃)、遠心チューブ(50ml)に回収し、遠心分離(1000rpm、10分間)により収集し、リン酸緩衝化生理食塩水で1回洗浄する。洗浄した細胞を氷冷した溶解緩衝液(10mM Tris−HCl、50mM亜硫酸水素ナトリウム、1% Triton X−100、10mM MgCl、8.6% スクロース、pH6.5)15mlに懸濁する。ダウンスホモジナイゼーション(30ストローク)後に、核を遠心分離(1000rpm、10分間)により収集し、溶解緩衝液15mlで3回洗浄し、次に氷冷した洗浄緩衝液(10mM Tris−HCl、13mM EDTA、pH7.4)15mlで1回洗浄する。ミキサーを使用して、氷冷水6mlにペレットを懸濁させ、この懸濁液にHSO68mlを0.4Nの濃度になるように加える。4℃で1時間インキュベートした後、懸濁液を遠心分離(15,000rpm、5分間)し、その上清をアセトン60mlと混合する。最終的に、−20℃で終夜インキュベートした後に、凝集物を回収することにより[H]アセチル標識ヒストンを得ることができる。[H]アセチル標識ヒストンを得る方法については、例えば、国際公開第WO00/08048号、Yoshida,M.et al.,J.Biol.Chem.,265:17174−17179(1990)等を参照のこと。このようにして得られた[H]アセチル標識ヒストンは、適当な緩衝液に溶解させそのまま直ぐに用いてもよいし、あるいは直ぐに使用しない場合には、溶液状態で凍結保存しても冷蔵で保存してもよく、又は乾燥させて固体状態で凍結保存しても冷蔵で保存してもよい。
「各遺伝子を発現させる」ことは、プロモーター配列を有する発現ベクターに当該遺伝子を組み込み、当該遺伝子が組み込まれた発現ベクターを細胞に導入して培養すること等によって実施されうる。使用するプロモーター、発現ベクター等は、発現に用いる宿主細胞によって様々に異なるが、通常の専門知識を有する当業者であれば、容易に最適の組合せを市販品の中から見出し得る。あるいは、「各遺伝子を発現させる」ことは、当該遺伝子をSP6ファージ、T7ファージ等のプロモーター配列を有する発現ベクターに導入し、in vitro transcription/translation法により試験管内で反応させることによっても実施されうる。通常の実験知識を有する当業者であれば、この方法により容易に当該各遺伝子の転写産物及び蛋白質を合成することができる。
本発明で使用される遺伝子を細胞に導入する方法としては、リン酸カルシウム法、リポソーム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法(electroporation法、電気穿孔法)等の当該分野で公知の形質転換方法を用いることができ、特に限定されない。
本発明で使用される遺伝子が導入される細胞としては、特に明記されない限り、発現ベクターに挿入されている遺伝子が発現される細胞であれば限定されず、上述したヒト細胞を含む哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母、大腸菌等を用いることができる。
「酵素液」とは、HDAC酵素活性を有する細胞破砕液又は反応液から抽出されるHDAC酵素活性含有画分をいい、HDAC酵素活性を測定できる程度にHDAC酵素が精製されているものであれば、HDAC酵素が部分精製されたものであっても高純度に精製されたものであってもよい。HDAC酵素活性を有する細胞破砕液は、天然でHDAC酵素を発現している細胞、または各HDAC遺伝子を過剰発現させた細胞から入手することができる。天然でHDAC酵素を発現している細胞から酵素液を得るためには、例えば、当該細胞を培養し、その培養細胞の破砕液からHDAC酵素活性を有する画分を抽出すればよい。また、各HDAC遺伝子を過剰発現させた細胞から酵素液を得るためには、例えば、各HDAC遺伝子を発現ベクターに組み込み、該発現ベクターを細胞に導入し、得られた細胞を培養し、その培養細胞の破砕液からHDAC酵素活性を有する画分を抽出すればよい。一方、HDAC酵素活性を有する反応液は、例えば、適当なベクターに連結した各HDAC遺伝子から、in vitro transcription/in vitro translation法を用いて各HDACの転写産物及び蛋白質を合成することにより得ることができる。
HDAC酵素の「部分精製」とは、HDAC酵素活性を測定できる程度にHDAC酵素を精製することをいい、当該分野で公知の方法、例えば、国際公開第WO00/08048号、Yoshida,M.et al.,J.Biol.Chem.265:p.17174−17179(1990)記載の方法等により行なうことができる。また、部分精製されたHDAC酵素を、当該分野で公知の他の精製法によりさらに高純度に精製することもできる。部分精製としては、例えば、以下の精製法を用いることができる。最初に、5×10のJurkat細胞を、40mlのHDA緩衝液(組成:15mMリン酸カリウム、5%グリセロール及び0.2mM EDTA、pH7.5)40mlに懸濁する。次いで、懸濁液をホモジナイズした後、遠心分離(35,000 x g,10分間)によって核を回収し、得られた核を、1M(NHSOを加えたHDA緩衝液20ml中でホモジナイズする。次いで、ホモジネートを超音波処理し、遠心分離(35,000 x g,10分間)によって清澄化する。次に、(NHSOの濃度を3.5Mまで上昇させることにより、デアセチラーゼを沈殿させる。続いて、沈殿した蛋白質をHDA緩衝液10mlに溶解し、それをHDA緩衝液4L中で透析する。透析後のサンプル溶液を、HDA緩衝液で平衡化したDEAE−セルロース(Whatman DE52)カラム(25×85mm)にロードし、線形勾配(0〜0.6M)のNaCl溶液300mlにより溶出させる。その結果、HDAC酵素活性は、0.3〜0.4M NaCl溶出画分において単一ピークとして見出される。
HDAC酵素活性は、当該分野で公知の方法によって測定される。例えば、基質として[H]アセチル標識ヒストンを使用する場合には、[H]アセチル標識ヒストン10μlを酵素液90μlに加え、混合液を25℃で30分間インキュベートする。反応を、塩酸10μlを加えることにより停止し、放出された[H]酢酸を酢酸エチル1mlで抽出する。最終的に、溶媒層0.9mlをトルエンシンチレーション溶液に移し、この溶液の放射活性を測定することによって、HDAC酵素活性を測定することができる。被検物質の共存下で各酵素液のHDAC酵素活性を測定する場合には、被検物質は、[H]アセチル標識ヒストン10μlと酵素液90μlとの混合液の調製前後に加えて、反応を開始させればよい。なお、HDAC酵素活性の測定の詳細については、[H]アセチル標識ヒストンを基質とする場合には、例えば、国際公開第WO00/08048号;Yoshida,M.et al.,J.Biol.Chem.,265:17174−17179(1990)等、蛍光標識アセチル化ペプチドを基質とする場合には、例えば、国際公開第WO01/040506号等を参照のこと。
上述した方法では、HDAC4遺伝子又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質が好ましくは選択されるが、HDAC1〜3及びHDAC5〜7のHDAC酵素活性を抑制するよりもHDAC4及び/又はHDAC8のHDAC酵素活性をより抑制する被験物質を選択してもよい。より好ましくは、HDAC1〜3及びHDAC5〜7のHDAC酵素活性を抑制しないか又は実質的に抑制せず、かつHDAC4及び/又はHDAC8のHDAC酵素活性を抑制する被験物質が選択される。
また、本発明は、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤、あるいは血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4とN−CoRとの複合体形成を特異的に阻害するものを選択することを特徴とする方法に関する。例えば、この方法は、(i)HDAC4遺伝子及びN−CoR遺伝子を発現させて、酵素液を得た後に、(ii)当該酵素液を被験HDAC阻害剤と共存させ、(iii)(ii)で得られた酵素液と被験HDAC阻害剤の混合液においてHDAC4とN−CoRとの複合体が形成されているか否かを解析することを特徴する。尚、この方法において、HDAC4遺伝子及びN−CoR遺伝子に加え、さらにHDAC3遺伝子を発現させて得られる酵素液を用いてもよい。この場合、被検HDAC阻害剤の存在下において、HDAC4とN−CoR及びHDAC3との間で高次複合体を形成しているか否かが解析される。上記方法の(iii)において、複合体が形成されているか否かを解析する方法としては、例えば、表面プラズモン共鳴を利用した解析法、抗体を利用した解析法(例えば、ウエスタンブロッティング)等の当該分野で公知の方法が挙げられる。
抗体を利用した解析法、例えば、ウエスタンブロッティングにおいて、2次抗体を標識するにあたり使用される標識物質としては、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等の酵素、フルオレセインイソシアネート、ローダミン等の蛍光物質、32P、125I等の放射性物質、化学発光物質等が挙げられる。
また、HDAC4とN−CoRとの複合体形成を特異的に阻害するGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤、あるいは血小板減少作用の少ない免疫抑制剤を選択するために、当該分野で公知のツーハイブリッドシステムに基づく方法を用いることもできる。例えば、この目的でツーハイブリッドシステムを用いる場合、(i)HDAC4蛋白質の少なくとも一部を含むHDAC4融合蛋白質をコードする遺伝子、N−CoR蛋白質の少なくとも一部を含むN−CoR融合蛋白質をコードする遺伝子を細胞内で発現させ、(ii)被験物質(好ましくは、被験HDAC阻害剤)が、HDAC4融合蛋白質とN−CoR融合蛋白質との複合体形成を阻害するか否かを解析することによって、HDAC4融合蛋白質とN−CoR融合蛋白質との複合体形成を特異的に阻害する被検物質が選択される。
HDAC4融合蛋白質は、HDAC4蛋白質のうち、N−CoRと相互作用する領域を含んでいればよいが、HDAC4蛋白質全体を含んでいてもよい。同様に、N−CoR融合蛋白質は、N−CoR蛋白質のうち、HDAC4と相互作用する領域(例えば、後述のRD3)を含んでいればよいが、N−CoR蛋白質全体を含んでいてもよい。また、HDAC4融合蛋白質及びN−CoR融合蛋白質は、それぞれ、HDAC4蛋白質及びN−CoR蛋白質の一部又は全てに加え、転写調節因子由来のDNA結合ドメイン(例えば、GAL4 DNA結合ドメインなど)又は転写活性化ドメイン(例えば、VP16活性化ドメインなど)を更に含む。但し、HDAC4融合蛋白質がDNA結合ドメインを含む場合には、N−CoR融合蛋白質は転写活性化ドメインを含むことが必要とされ、一方、HDAC4融合蛋白質が転写活性化ドメインを含む場合には、N−CoR融合蛋白質はDNA結合ドメインを含むことが必要とされる。
融合蛋白質間で複合体が形成されているか否かは、該融合蛋白質が含むDNA結合領域が結合するプロモーターの下流にある遺伝子の発現量により確認することができる。即ち、融合蛋白質間で複合体が形成されている場合には、当該遺伝子によりコードされるmRNAや蛋白質の発現量や、当該遺伝子の上流にあるプロモーターを含むレポーター遺伝子の発現量が増大し、一方、融合蛋白質間で複合体が形成されていない場合には、当該遺伝子がコードするmRNAや蛋白質の発現量や、上記プロモーターを含むレポーター遺伝子の発現量は変動しない。
また、被験物質(好ましくは、被験HDAC阻害剤)が、HDAC4融合蛋白質とN−CoR融合蛋白質との複合体形成を阻害するか否かは、被検物質を共存させることによって、該融合蛋白質が含むDNA結合領域が結合するプロモーターの下流にある遺伝子の発現量が減少するか否かにより評価することができる。即ち、(a)当該遺伝子によりコードされるmRNAや蛋白質の発現量や当該遺伝子の上流にあるプロモーターを含むレポーター遺伝子の発現量を、被検物質の非共存下で測定し、(b)当該mRNA、蛋白質又はレポーター遺伝子の発現量を、被検物質の共存下で測定し、(c)(a)の発現量と(b)の発現量とを比較すればよく、(b)の発現量が(a)の発現量よりも低い場合に、当該被検物質は、HDAC4融合蛋白質とN−CoR融合蛋白質との複合体形成を阻害する物質として選択される。なお、被験物質がHDAC4融合蛋白質とN−CoR融合蛋白質との複合体形成を阻害するか否かは、アッセイの簡便性、感度等の観点から、好ましくは、レポーター遺伝子の発現量を測定して評価される。
また、本発明は、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害活性及び/又は免疫担当細胞増殖阻害活性を有する化合物、又は血小板減少作用の少ない免疫抑制活性を有する化合物であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4及び/又はHDAC8の発現量を抑制するものを選択することによる方法に関する。この方法は、(i)HDAC4及び/又はHDAC8を発現する細胞と被験HDAC阻害剤を共存させ、(ii)当該細胞におけるHDAC4及び/又はHDAC8発現量を測定することを特徴とする。具体的には、この方法は、後述するGATA−1 mRNA、GATA−1蛋白質又はGATA−1レポーター遺伝子の発現量の測定方法と同様の方法によって行なうことができる。
また、本発明は、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害活性を有する化合物、又は血小板減少作用の少ない免疫抑制活性を有する化合物の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4及び/又はHDAC8とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合を選択的に阻害するものを選択する方法に関する。この方法は、(i)HDAC4及び/又はHDAC8遺伝子を発現させて、酵素液を得た後に、(ii)当該酵素液をHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドと被験HDAC阻害剤と共存させ、HDAC4及び/又はHDAC8酵素とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合活性を測定することを特徴とする。
「HDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンド」とは、HDAC4及び/又はHDAC8に特異的に結合する物質の中で、HDAC1〜3及びHDAC5〜7よりもHDAC4及び/又はHDAC8に対する結合活性がより強い物質をいう。これらの物質の中には、各酵素活性を促進するものや逆に阻害するもの等が含まれるが、それらに限定されない。「HDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンド」としては、HDAC1〜3及びHDAC5〜7に対する結合活性が弱いか、又は結合活性が実質的に存在せず、かつHDAC4及び/又はHDAC8に対する結合活性が強い低分子物質が好ましい。
また、上記方法における工程(ii)では、「HDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンド」が好ましく用いられるが、「HDAC4及び/又はHDAC8非特異的リガンド」も用いることができる。「HDAC4及び/又はHDAC8非特異的リガンド」とは、HDAC4及び/又はHDAC8に対する結合活性よりもHDAC1〜3及びHDAC5〜7のHDACに対する結合活性がより強い物質、あるいはHDAC4及び/又はHDAC8とHDAC1〜3及びHDAC5〜7への結合活性がほぼ同等である物質をいう。本発明において、「HDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンド」及び「HDAC4及び/又はHDAC8非特異的リガンド」をまとめて「HDAC4及び/又はHDAC8リガンド」と呼ぶ場合もある。
上記方法における工程(ii)では、HDAC4及び/又はHDAC8酵素とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合活性が、被験HDAC阻害剤の共存下で測定される。結合活性は、例えば、バインディングアッセイ(binding assay)、質量分析法等の当該分野で公知の方法を用いることにより測定することができる。上記方法により、HDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドを競合的に阻害する物質を入手することができる。
本発明では、HDAC4として、好ましくは、ヒト由来のHDAC4が用いられる。具体的には、HDAC4とは、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質自体およびその類縁体であって、HDAC酵素活性を有するものをいう(例えば、GenBank登録番号AF132607の塩基配列がコードする蛋白質)。HDAC4類縁体としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列において1又は2個以上のアミノ酸が置換、欠失、付加された変異体、糖鎖付加体等が包含される。また、HDAC4類縁体として、配列番号2で示されるアミノ酸配列と、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質を用いることもできる。アミノ酸配列の相同性の程度は、例えば、NCBI(The National Center for Biotechnology Information)において、対象となるアミノ酸配列と対比すべきアミノ酸配列との間でBLASTをデフォルト設定にて用いることにより決定することができる。HDAC4に関する詳細については、例えば、国際公開第WO00/10583号を参照のこと。
同様に、本発明では、HDAC8として、好ましくは、ヒト由来のHDAC8が用いられる。具体的には、HDAC8とは、例えば、配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質自体およびその類縁体であって、HDAC酵素活性を有するものをいう(例えば、GenBank登録番号HSA277724の塩基配列がコードする蛋白質)。HDAC8類縁体として、配列番号8で示されるアミノ酸配列において1又は2個以上のアミノ酸が置換、欠失、付加された変異体、糖鎖付加体等が包含される。また、HDAC8類縁体としては、配列番号8で示されるアミノ酸配列と、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質を用いることもできる。HDAC8に関する詳細については、例えば、Joseph J.BUGGY et al.,Biochemical Journal 350:199−205(2000)を参照のこと。
また、本発明では、N−CoRとして、好ましくは、ヒト由来のN−CoRが用いられる。具体的には、N−CoRとは、例えば、配列番号22で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質自体およびその類縁体であって、HDAC4やHDAC3と複合体を形成できるものをいう(例えば、GenBank登録番号AF044209の塩基配列がコードする蛋白質)。N−CoR類縁体としては、配列番号22で示されるアミノ酸配列において1又は2個以上のアミノ酸が置換、欠失、付加された変異体、糖鎖付加体等が包含される。また、N−CoR類縁体として、配列番号22で示されるアミノ酸配列と、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質を用いることもできる。また、本発明では、N−CoRは、HDAC4(必要に応じてHDAC4及びHDAC3の両方)と複合体を形成できればよい。このようなN−CoRとして、上記に挙げたものの他に、例えば、Matthew G.Guenther et al.,Molecular and Celluler Biology,21(18):6091−6101(2001)等に開示されるN−CoR変異体等も用いることができる。
また、本発明では、HDAC3として、好ましくは、ヒト由来のHDAC3が用いられる。具体的には、HDAC3とは、例えば、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質自体およびその類縁体であって、HDAC酵素活性を有するもの、又はHDAC4(必要に応じてHDAC4−N−CoR複合体)と結合しうるものをいう(例えば、GenBank登録番号U66914の塩基配列がコードする蛋白質)。HDAC3類縁体としては、配列番号16で示されるアミノ酸配列において1又は2個以上のアミノ酸が置換、欠失、付加された変異体、糖鎖付加体等が包含される。また、HDAC3類縁体として、配列番号16で示されるアミノ酸配列と、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質を用いることもできる。また、HDAC3とN−CoRとの複合体(必要に応じて、HDAC3とHDAC4−N−CoR複合体との高次複合体)の解析においては、HDAC3は、HDAC4(必要に応じて、HDAC4−N−CoR複合体)との結合能さえ維持していれば必ずしもHDAC酵素活性を有しなくともよい。HDAC3に関する詳細については、例えば、Molecular Cell,9:45−57(January,2002)、及びMatthew G.Guenther et al.,Molecular and Celluler Biology,21(18):6091−6101(2001)等を参照のこと。
さらに、本発明では、HDAC1〜2、HDAC5〜7として、好ましくは、ヒト由来のものが用いられる。具体的には、HDAC1〜2、HDAC5〜7は、それぞれ、GenBank登録番号D50405の塩基配列(HDAC1)、GenBank登録番号HSU31814の塩基配列(HDAC2)、GenBank登録番号AF132608の塩基配列(HDAC5)、GenBank登録番号AF132609の塩基配列(HDAC6)、GenBank登録番号AF239243の塩基配列(HDAC7)がコードする蛋白質自体およびその類縁体であって、HDAC酵素活性を有するものである。また、HDAC1〜2、HDAC5〜7類縁体としては、それぞれ、上記HDAC1〜2、HDAC5〜7に対応するアミノ酸配列において1又は2個以上のアミノ酸が置換、欠失、付加された変異体、糖鎖付加体等が包含される。また、HDAC1〜2、HDAC5〜7類縁体として、それぞれ、上記HDAC1〜2、HDAC5〜7に対応するアミノ酸配列と、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質を用いることもできる。
さらに、本発明は、上述のようにして選択された血小板減少作用の少ない免疫抑制剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤について、GATA−1産生阻害活性の程度をさらに確認することにより、血小板減少作用の少ないHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を選択する方法に関する。GATA−1産生阻害活性の程度は、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の共存下及び/又は非共存下、例えば、GATA−1を天然で発現している細胞株や初代培養細胞等の細胞においてGATA−1 mRNA、GATA−1蛋白質又はGATA−1レポーター遺伝子の発現量を測定することによって評価することができるが、アッセイの簡便性、感度等の観点から、GATA−1レポーター遺伝子の発現量を測定することが好ましい。
上記方法において、GATA−1産生阻害活性を測定するために用いられる試験細胞としては、GATA−1を天然で発現している細胞株や初代培養細胞等を用いることができる。特定の細胞株や初代培養細胞がGATA−1を天然で発現しているか否かは、それら細胞におけるGATA−1 mRNA又は蛋白質の発現を当該分野で公知の方法により確認することにより評価できる。また、上記方法で用いられる試験細胞としては、巨核球系列の細胞の状態を実質的に反映した細胞も好ましい。巨核球系列の細胞の状態を実質的に反映した細胞株としては、巨核球系列に由来する細胞であれば、特に限定されないが、例えば、ヒト由来のHEL細胞(受託番号JCRB0062,Japanese Colloction of Research Bioresources)を用いることができる。
GATA−1 mRNA若しくはGATA−1蛋白質の発現量によりHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤のGATA−1産生阻害活性を評価する場合において、試験細胞をHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤と共存させる方法としては、細胞の培養液にHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤を添加して、培養すればよい。
GATA−1レポーター遺伝子を用いるレポーターアッセイによりHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤のGATA−1産生阻害活性を評価する場合において、試験細胞をHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤と共存させる方法としては、エレクトロポレーション等の遺伝子導入法により細胞にGATA−1レポーター遺伝子を導入する前後に、細胞の培養液にHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤を添加すればよい。好ましくは、GATA−1レポーター遺伝子を導入後、培養液にHDAC4及び/又はHDAC8阻害剤を添加して、さらに培養すればよい。
GATA−1 mRNAの発現量は、例えば、試験細胞からtotal RNAをそれぞれ調製し、競合的RT−PCRやリアルタイムRT−PCR等の当該分野で公知の定量的RT−PCR等によってGATA−1 mRNAの発現量を比較することにより確認することができる。
GATA−1蛋白質の発現量は、例えば、HDAC4及び/又はHDAC8阻害剤の共存下及び非共存下におかれた細胞から抽出液を調製し、抗GATA−1抗体及び、標識された2次抗体を用いて測定することができる。その手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(E.Engvall et al.,Methods in Enzymol.,70:419−439(1980))、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の、一般の免疫化学的測定法において使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプランニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)を利用することができ、当業者であれば、容易に実施可能である。上記手法は種々の観点から適宜選択することができるが、感度、簡便性等の点からはELISA法が好ましい。上記2次抗体を標識するにあたり使用される標識物質としては、上述したものと同様のものを用いることができる。
また、GATA−1レポーター遺伝子の発現量は、GATA−1レポーター遺伝子を用いるレポーターアッセイにより評価することができる。「GATA−1レポーター遺伝子」とは、GATA−1遺伝子の転写制御領域とレポーター遺伝子とを人工的に連結させたDNA構築物をいう。GATA−1遺伝子の転写制御領域としては、ヒトGATA−1遺伝子(GenBank Accession Number:AF196971)のIEプロモーター領域及びその上流約3.5kb付近に離れて存在するHSI領域(DNase I高感受性領域)の両方を含むDNA断片が用いられる。本発明の目的に必須な転写制御領域の範囲としては、単に転写活性を保持しているのみならず、巨核球系細胞における天然のGATA−1遺伝子の転写制御様式を実質的に反映したものであることが望ましい。
GATA−1遺伝子のプロモーターについては、IEプロモーター及びITプロモーターの少なくとも2種類が存在することが知られている。このうち、HDAC阻害剤による血小板減少作用との関連においては、巨核球系細胞における転写制御と密接に関連していることが判明しているIEプロモーターの機能が重要と推定されているため、その制御領域を用いることが好ましい。
IEプロモーターによる転写制御には、転写開始点のすぐ上流約0.7kb内に存在する配列とさらに上流に存在するHSI領域(DNase I高感受性領域)の両方が重要である。HSI領域の5’側には、2個のCACC siteが存在し、それから約50塩基対離れて、GATA結合部位(GATA binding site)とE−boxモチーフが約10塩基対離れて隣り合っている。このうちのGATA結合部位を壊すような変異を導入すると、赤血球や巨核球特異的な発現が見られなくなることが知られている(P.Vyas et al.,Development 126;2799−2811(1999))。また、このGATA−E−boxモチーフのさらに3’側には、特徴的なパリンドローム配列であるCTGTGGCCACAG配列(配列番号86)及び、GCに富む領域が存在する。GCに富む領域の中には、転写因子のETSの結合部位に見られるGGAA配列が存在する。これらの配列を含むGATA−1 HSI領域のうち、5’側のCACC siteを欠損させても、赤血球や巨核球特異的な発現が見られるが、GATA−E−box motifまで欠損させると、発現は消失する。3’側については、最大でもE−boxの下流約250塩基対までを含めば、エンハンサーとして機能することが報告されている。従って、以上のような必須の配列部位をすべて含んでいるならば、実際にはどのような長さの配列でもかまわないが、たとえば、ヒトGATA−1遺伝子のIEプロモーターによる転写開始点近傍(−789から+30:転写開始点を+1とする)819塩基対を含む領域と転写開始点上流のHIS領域として637塩基対(−3769から−3133)を含む領域を人工的に連結させたものを用いることができる。
GATA−E−box motif等の必須な配列部位については、通常の組換えDNA実験の手法により、それらの必須配列を複数個タンデムに重複させた人工的なDNA構築物を作製することが可能である。このような人工的構築物を天然の配列と入れ換えて用いることにより、当該転写制御領域の転写誘導活性を増強させることができる場合がある。
なお、「レポーター遺伝子」とは、遺伝子発現の目印となる特異的蛋白質をコードする構造遺伝子領域と下流の非翻訳領域(3’−non coding region)から構成され、構造遺伝子上流側に本来存在する転写制御領域をすべて欠失したものをいう。遺伝子発現の目印となる特異的蛋白質をコードする構造遺伝子領域については、外来遺伝子断片と人工的に連結させて細胞に導入することにより、当該外来遺伝子断片に含まれる転写制御領域からの遺伝子発現をそのレポーター遺伝子がコードする目印となる蛋白質の機能から容易に測定可能なものであれば、どのようなものでもかまわない。より好ましくは、当該目印となる蛋白質は、通常の哺乳類細胞中で安定的に存在し、同様の活性を示す内在的な蛋白質が当該細胞中に存在しないか、仮に存在しても容易に区別して測定可能なものであることが望ましい。また、より好ましくは、当該目印となる蛋白質をコードするmRNAは、細胞内で安定的に存在するものであることが望ましい。また、当該目印となる蛋白質の基質は、活性を測定するに際して、新たに添加する必要がないものであるか、あるいは添加を必要とするも、細胞内に容易に十分量取り込まれ得るものであることが望ましい。また、これらによって構成される測定系は、広範囲の直線性と高感度性を兼ね備えたものであることが望ましい。ホタル(firefly)由来のルシフェラーゼ遺伝子、ウミシイタケ(Renilla)由来のルシフェラーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、緑色蛍光蛋白質(GFP,Green Fluorescent Protein)遺伝子、増強型緑色蛍光蛋白質(EGFP,Enhanced Green Fluorescent Protein)遺伝子、β−グルクロニダーゼ(β−Glucuronidase)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(horse radish peroxidase,HRP)遺伝子などを用いることが可能である。より好ましくは、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子を用いればよい。ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子については、改良型のルシフェラーゼ遺伝子(luc+)を用いることにより、測定系の検出感度を上げることができる。構造遺伝子下流の非翻訳領域については、例えばSV40ウイルスゲノム後期遺伝子由来の配列を用いることができる。
上述のGATA−1レポーター遺伝子は、それぞれクローニングベクターに連結し、大腸菌を宿主として増幅させる。その際のクローニングベクターとしては、大腸菌で増幅可能な複製開始点と選択マーカーをもったものであれば、特に限定されないが、例えばアンピシリン耐性マーカーと改良型のルシフェラーゼ構造遺伝子(luc+)をコードしたpGL3−Basic(Promega Corporation)などを用いれば、上述のDNA構築物を容易に作製できる。その後、増幅したベクターを細胞に一過的に導入して、レポーター活性を測定すればよい。
また、本発明は、上述した方法を実施するために上記した必要なものの全て又は一部を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤、あるいはGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤等を選択するためのキットに関する。HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤選択の為の測定用キットとしては、例えば、(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6、HDAC7の各遺伝子を発現させて得られた酵素液、(ii)HDAC4及び/又はHDAC8の各遺伝子を発現させて得られた酵素液を含むものが挙げられる。さらに、上記キットは、他の構成物や使用説明書等を含んで構成することができる。
本発明は、上述した方法によって、又は上述したキットを用いることによって得られた血小板減少作用の少ない免疫抑制剤、あるいはGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤等の化合物を包含する。
さらに、上述した方法によって、又は上述したキットを用いることによって得られた化合物は、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤、および血小板減少作用の少ないHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤として、炎症性疾患,糖尿病,糖尿病性合併症,ホモ接合型サラセミア,繊維症,肝硬変,急性前骨髄球性白血病,原虫感染症,心臓、腎臓、肝臓、骨髄、皮膚、角膜、肺、膵臓、小腸、手足、筋肉、神経、椎間板、気管、筋芽細胞、軟骨等の臓器または組織の移植の際の拒絶反応,骨髄移植による移植片対宿主反応,自己免疫疾患,癌等の疾患の治療や予防に有用である。本発明は、このような化合物を有効成分として含む上記疾患の治療用及び/又は予防用医薬、並びにこのような化合物の有効量を投与することを特徴とする上記疾患の治療及び/又は予防方法に関する。
上述した方法によって、又は上述したキットを用いることによって得られた化合物を医薬として用いる場合には、それ自体として医薬として用いることも可能であるが、公知の製剤学的方法により製剤化して用いることも可能である。例えば、薬理学上許容される担体若しくは媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤等、製剤に用いられる公知のものと適宜組み合わせた医薬製剤の形態、例えば固体、半固体または液体(例えば錠剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤、坐薬、クリーム剤、軟膏剤、エアロゾル剤、散剤、液剤、乳剤、懸濁剤など)で用いることができる。
患者への投与は、鼻、眼、外部(局所)、直腸、肺(鼻または口内注入)、経口または非経口(皮下、静脈および筋肉内を含む)投与または吸入に適している。注射剤の投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等の公知の方法により行なうことができる。投与量は、患者の体重、年齢及び病状、並びに、用いる投与方法等により変わるものであるが、当業者であれば、適切な投与量を適宜選択することが可能である。
また、本発明は、正常なHDAC4酵素の機能を欠損する変異体(即ち、HDAC4ドミナントネガティブ(dominant netgative)変異体)に関する。HDAC4ドミナントネガティブ変異体としては、例えば、配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する(からなる)HDAC4変異体が挙げられる。さらに、本発明は、配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有し、かつ正常なHDAC4酵素の機能を欠損する変異体をも包含する。
さらに、本発明は、上述したHDAC4ドミナントネガティブ変異体をコードする塩基配列を有する(からなる)DNAに関する。より具体的には、本発明は、配列番号3又は配列番号5に記載の塩基配列を有する(からなる)DNAに関する。また、本発明は、配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有し、かつ正常なHDAC4酵素の機能を欠損する変異体をコードする塩基配列を有するDNAをも包含する。
また、本発明は、正常なHDAC1酵素の機能を欠損する変異体(即ち、HDAC1ドミナントネガティブ変異体)に関する。HDAC1ドミナントネガティブ変異体としては、例えば、配列番号12又は配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する(からなる)HDAC1変異体が挙げられる。さらに、本発明は、配列番号12又は配列番号14に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有し、かつ正常なHDAC1酵素の機能を欠損する変異体をも包含する。
さらに、本発明は、上述したHDAC1ドミナントネガティブ変異体をコードする塩基配列を有する(からなる)DNAに関する。より具体的には、本発明は、配列番号11又は配列番号13に記載の塩基配列を有する(からなる)DNAに関する。また、本発明は、配列番号12又は配列番号14に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有し、かつ正常なHDAC1酵素の機能を欠損する変異体をコードする塩基配列を有するDNAをも包含する。
また、本発明は、正常なHDAC3酵素の機能を欠損する変異体(即ち、HDAC3ドミナントネガティブ変異体)に関する。HDAC3ドミナントネガティブ変異体としては、例えば、配列番号18又は配列番号20に記載のアミノ酸配列を有する(からなる)HDAC3変異体が挙げられる。さらに、本発明は、配列番号18又は配列番号20に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有し、かつ正常なHDAC3酵素の機能を欠損する変異体をも包含する。
さらに、本発明は、上述したHDAC3ドミナントネガティブ変異体をコードする塩基配列を有する(からなる)DNAに関する。より具体的には、本発明は、配列番号17又は配列番号19に記載の塩基配列を有する(からなる)DNAに関する。また、本発明は、配列番号18又は配列番号20に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加を有し、かつ正常なHDAC3酵素の機能を欠損する変異体をコードする塩基配列を有するDNAをも包含する。
HDAC1、HDAC3、HDAC4ドミナントネガティブ変異体やこれらの変異体を含む酵素液、及びこれらの変異体をコードするDNAは、例えば、上述したスクリーニングにおいてネガティブコントロールとして使用することができる。また、本発明のスクリーニング方法を行なうためのキットにおいて、これらのHDAC1、HDAC3、HDAC4ドミナントネガティブ変異体、これらの変異体を含む酵素液、又はこれらの変異体をコードするDNAを含めることもできる。
【実施例】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
実施例1:IL−2レポーター遺伝子アッセイ用のレポーター遺伝子プラスミドの構築
ヒトIL−2遺伝子の転写開始点近傍の−674〜+54の領域に相当する728塩基対断片を、ヒトT細胞由来のJurkat細胞(ATCC,TIB−152)より単離したGenomic DNAを鋳型(template)にして、PCR法により取得した。PCRには、下記の配列番号27及び配列番号28で示したプライマーを用いた。これらプライマーは遺伝子データベースGenBankのLocus code:HSIL05に記載されたヒトIL−2遺伝子配列を基に設計した。また、レポーター遺伝子アッセイ用ベクターに挿入するため、プライマーの末端に制限酵素認識部位を付加した。得られた728塩基対断片は、プロモーター上流側にNhe I認識部位、プロモーター下流側にHind III認識部位を有している。増幅した728塩基対断片をクローニングベクターpCR4(Invitorgen社製)に挿入した。次いで、得られたプラスミドにおける挿入領域の塩基配列(配列番号23)を確認した。その結果、挿入領域の塩基配列(配列番号23)では、GenBankのLocus code:HSIL05に記載されたIL−2のプロモーター配列(配列番号29)と比較して、図1に示したように3ヶ所の塩基置換、1ヶ所の2塩基挿入及び1ヶ所の1塩基挿入が確認された。次に、得られたプラスミドをNhe I認識部位及びHind III認識部位で切断した。得られた断片を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポーター遺伝子アッセイ用ベクターpGL3 basic(Promega社製)のNhe I/Hind III部位に挿入した。これにより、ヒトIL−2遺伝子の転写開始点近傍の−675〜+56の領域に相当する731塩基対の配列(配列番号23)をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3 IL2 Proを得た。

次に、pGL3 IL2 Proを鋳型にして、ヒトIL−2遺伝子の転写開始点近傍の−379〜+56の領域に相当する435塩基対断片を、PCR法により取得した。PCRには、下記の配列番号30及び上記の配列番号28で示したプライマーを用いた。配列番号30のプライマーはpGL3 IL2 Proに挿入されているヒトIL−2遺伝子配列を基に設計した。また、レポーター遺伝子アッセイ用ベクターに挿入するため、プライマーの末端に制限酵素認識部位を付加した。得られた435塩基対断片は、プロモーター上流側にNhe I認識部位、プロモーター下流側にHind III認識部位を有している。増幅した435塩基対断片をクローニングベクターpCR4に挿入した。次いで、得られたプラスミドにおける挿入領域の塩基配列(配列番号24)を確認した。その結果、挿入領域の塩基配列(配列番号24)では、GenBankのLocus code:HSIL05に記載されたIL−2のプロモーター配列(配列番号31)と比較して、図2示したように2ヶ所の塩基置換と1ヶ所の2塩基の挿入が確認された。次に、得られたプラスミドをNhe I認識部位及びHind III認識部位で切断した。得られた断片を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポーター遺伝子アッセイ用ベクターpGL3 basicのNhe I/Hind III部位に挿入した。これにより、ヒトIL−2遺伝子の転写開始点近傍の−379〜+56の領域に相当する435塩基対のプロモーター配列をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3 IL2 Pro43を得た。

実施例2:GATA−1レポーター遺伝子アッセイ用のレポーター遺伝子プラスミドの構築
ヒトGATA−1遺伝子転写開始点近傍の−789〜+32の領域に相当する821塩基対断片を、ヒトGenomic DNAを鋳型にして、PCR法により取得した。PCRには、下記の配列番号32及び配列番号33で示されるプライマーを用いた。これらプライマーは遺伝子データベースGenBankのAccession番号AF196971に記載されたヒトGATA−1遺伝子配列を基に設計した。また、レポーター遺伝子アッセイ用ベクターに挿入するため、プライマーの末端に制限酵素認識部位を付加した。得られた821塩基対断片は、プロモーター上流側にBgl II認識部位、プロモーター下流側にHind III認識部位を有している。増幅した821塩基対断片をクローニングベクターpCR4に挿入した。次いで、得られたプラスミドにおける挿入領域の塩基配列(配列番号25)を確認した。その結果、挿入領域の塩基配列(配列番号25)は、GenBankのAccession番号AF196971に記載されたGATA−1のプロモーター配列と一致していた(図3)。次に、得られたプラスミドをNhe I認識部位及びHind III認識部位で切断した。得られた断片を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポーター遺伝子アッセイ用ベクターpGL3 basicのNhe I/Hind III部位に挿入した。これにより、GATA−1遺伝子のプロモーター領域−789〜+32の領域に相当する821塩基対の配列をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3−IEを得た。

次に、ヒトGATA−1遺伝子転写開始点上流−3769〜−3133の領域に相当する637塩基対断片を、ヒトGenomic DNAを鋳型にして、PCR法により取得した。PCRには、下記の配列番号34及び配列番号35で示したプライマーを用いた。これらプライマーは遺伝子データベースGenBankのAccession番号AF196971に記載されたヒトGATA−1遺伝子配列を基に設計した。また、レポーター遺伝子アッセイ用ベクターに挿入するため、プライマーの末端に制限酵素認識部位を付加した。得られた637塩基対断片は、プロモーター上流側にKpn I認識部位、プロモーター下流側にNhe I認識部位を有している。増幅した637塩基対断片をクローニングベクターpCR4に挿入した。次いで、得られたプラスミドにおける挿入領域の塩基配列(配列番号26)を確認した。その結果、挿入領域の塩基配列(配列番号26)は、GenBankのAccession番号AF196971に記載されたGATA−1のプロモーター配列と一致していた(図4)。さらに、得られたプラスミドをKpn I認識部位及びNhe I認識部位で切断した。得られた断片を、pGL3−IEプロモーターのKpn I/Nhe I部位に挿入した。これにより、GATA−1遺伝子の転写開始点上流−3769〜−3133の領域に相当する637塩基対、及び−789〜+32の領域に相当する821塩基対の配列をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3−HSI−IE Proを得た。

実施例3:
3.1.HDAC1〜8サブクローニング用プラスミドの構築
表1に示される鋳型とプライマーを用いてPCRにより各種HDACアイソザイム全長を増幅し、一旦pGEM−T(Promega)にサブクローニングした。その後、HDAC1〜6全長を制限酵素(HDAC1:EcoRI/NotI,HDAC2:BamHI/NotI,HDAC3:EcoRI/NotI,HDAC4:EcoRI/NotI,HDAC5:HindIII/NotI,HDAC6:HindIII/NotI)処理によってpBluescriptII KS(+)(TOYOBO)へ挿入した。HDAC7,8全長はpUC18(TaKaRa)(SmaI処理)にサブクローニングした。詳細については、表1を参照のこと。

3.2.HDAC1〜8発現用プラスミドの構築
次に、HDAC1〜8のC末端にFlag配列を付加した発現用プラスミドを作製した。詳細は、以下の通りである。
HDAC3
pMH108を鋳型として、下記のプライマー108E(配列番号52)及び108KFN(配列番号53)を用いてPCRによりHDAC3全長を増幅した。尚、プライマーは、C末端にFlag配列(DYKDDDDK)(配列番号54)を付加するように設計した。得られたPCR断片をpGEM−T(Promega)にサブクローニングし、pGEM−HDAC3−Flag(E108KFN)を得た。E108KFNをEcoRI/NotI(約1.2kbp断片)処理によってpEAK10(Edge BioSystems)に挿入し、pEAK−HDAC3(pMH118)を得た。

HDAC1
pMH107を鋳型として、プライマーHDAC1−E(配列番号36)及び107K(配列番号55)を用いてPCRによりHDAC1全長を増幅した。尚、プライマーは、C末端の停止コドンを改変し、KpnI部位を挿入するように設計した。得られたPCR断片をpGEM−T(Promega)にサブクローニングし、pGEM−HDAC1(E107K)を得た。E107KをEcoRI/KpnI(約1.5kbp断片)処理によってpMH118(EcoRI/KpnI)約6kbpに挿入し、pEAK−HDAC1(pMH119)を得た。

HDAC2
pMH111を鋳型として、プライマーHDAC2−B(配列番号38)及び111K(配列番号56)を用いてPCRによりHDAC2全長を増幅した。尚、プライマーは、C末端の停止コドンを改変し、KpnI部位を挿入するように設計した。得られたPCR断片をpGEM−T(Promega)にサブクローニングし、pGEM−HDAC2を得た。pGEM−HDAC2をBamHI/KpnI処理によってpFLAG−CMV−5a(SIGMA)(BamHI/KpnI)に挿入し、pFLAG−CMV−5a−HDAC2(pMH113)を得た。pMH113をEcoRI/KpnI(約1.5kbp断片)処理によってpMH118(EcoRI/KpnI)約6kbpに挿入し、pEAK−HDAC2(pMH121)を得た。

HDAC4
pMH106を鋳型として、プライマーHDAC4−E(配列番号42)及び106B(配列番号57)を用いてPCRによりHDAC4全長を増幅した。尚、プライマーは、C末端の停止コドンを改変し、Bgl II部位を挿入するように設計した。得られたPCR断片をpGEM−T(Promega)にサブクローニングし、pGEM−HDAC4(E106B)を得た。また、pBluescriptII KS(+)のEcoRI/NotI処理断片約3kbpにBglII siteおよびFLAG配列(DYKDDDDK)を有するリンカーオリゴ(FLAG−E(配列番号58)、FLAG−N(配列番号59)をアニーリングさせたもの)を挿入し、pBlue−Flagを得た。E106BをEcoRI/BglII処理によりpBlue−Flagに挿入し、pBKS−HDAC4(E106BN)を得た。E106BNをEcoRI/NotI(約3.2kbp断片)処理によってpEAK10(Edge Byo Systems)(EcoRI/NotI)約6kbpに挿入し、pEAK−HDAC4(pMH122)を得た。

HDAC5
p3XFLAG−CMV−10(SIGMA)(HindIII/NotI)約6.3kbpにpMH109 HindIII/NotI断片約3.3kbpを挿入し、p3XFLAG−CMV−10−HDAC5(pMH144)を得た。
HDAC6
p3XFLAG−CMV−10(SIGMA)(HindIII/NotI)約6.3kbpにpMH110 HindIII/NotI断片約3.6kbpを挿入し、p3XFLAG−CMV−10−HDAC6(pMH145)を得た。
HDAC7
PMH118(EcoRI/KpnI)約6kbpにpUC18−HDAC7 EcoRI/KpnI断片約2.6kbpを挿入し、pEAK−HDAC7(pMH141)を得た。
HDAC8
PMH118(EcoRI/KpnI)約6kbpにpUC18−HDAC8 EcoRI/KpnI断片約1.1kbpを挿入し、pEAK−HDAC8(pMH140)を得た。
作製した各HDAC発現用ベクターの詳細については、表2を参照のこと。

実施例4:IL−2転写活性に対するHDAC各種アイソザイム過剰発現の効果
ヒトIL−2プロモーター配列(転写開始点近傍の−674〜+54の領域)をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3 IL2 Pro43 1μgとpRL−TK(Promega)6μgおよび各種HDACアイソザイム発現用またはmockプラスミド(mockプラスミドはpEAK10であり、各種HDAC発現用プラスミドは、それぞれ、HDAC1:pMH119,HDAC2:pMH121,HDAC3:pMH118,HDAC4:pMH122,HDAC5:pMH144,HDAC6:pMH145,HDAC7:pMH141,HDAC8:pMH140である)10μgを混和し、エレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧300V、電荷975μF、400μL)により、1x10cellsのJurkat細胞(ATCC,TIB−152)を形質転換した。
形質転換後、2.5mLの10% FBS(MOREGATE)を含むRPMI 1640(SIGMA)(10% FBS RPMI 1640)を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で10時間培養後、10% FBS RPMI 1640液を50μL/wellずつ添加し、さらにPhorbol 12−Myristate 13−Acetate(PMA,SIGMA)、Ionomycin(SIGMA)、Anti CD28 antibody(Pharmingen)を10% FBS RPMI 1640で混合した液を50μL/wellずつ加え(終濃度それぞれ50ng/mL、1μg/mL、75ng/mL)、Jurkat細胞を刺激した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で12時間培養後、Dual Luciferase Assay System(Promega)のマニュアルに従い、細胞内のルシフェラーゼ活性を、マルチラベルカウンター(1420 MULTILABEL COUNTER ARVO SX,WALLAC)により測定した。
その結果、PMA、Ionomycin、Anti CD28 antibodyによるJarkat細胞への刺激に応答して、pGL3 IL2 Pro43からルシフェラーゼが誘導され、その発現量がHDAC4,8の過剰発現により増加することがわかった(図5)。また、各種HDACアイソザイムの過剰発現が、細胞増殖度に大きな影響を及ぼさないことをCell Counting Kit−8(DOJIN)を用いて確認した(図5)。
以上の結果から、HDAC4,8がIL−2転写系に関与するHDACアイソザイムであることがわかった。
実施例5:GATA−1転写活性に対するHDAC各種アイソザイム過剰発現の効果
ヒトGATA−1プロモーター配列(転写開始点近傍の−3769〜−3133および−789〜+32の領域)をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3−HSI−IE Pro 5μgおよび各種HDACアイソザイム発現用またはmockプラスミド(mockはpEAK10、HDAC1〜4,7,8はEF−1αプロモーター支配下、HDAC5,6はCMVプロモーター支配下、各種HDACアイソザイムはC末端またはN末端にFlagタグを有する)10μgを混和し、エレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧1750V、電荷10μF、365μL)により、8.75x10cellsのHEL細胞(受託番号JCRB0062、JCRB)を形質転換した。形質転換後、2mLの10% FBS RPMI 1640を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で3時間培養後、10% FBS RPMI 1640培地を100μL/wellずつ加えた。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で8時間培養後、Dual Luciferase Assay Systemのマニュアルに従い、細胞内のルシフェラーゼ活性を、マルチラベルカウンターにより測定した。
その結果、pGL3−HSI−IE ProからGATA−1のプロモーターに依存したルシフェラーゼが誘導され、更に、誘導されるルシフェラーゼの発現量は、HDAC1,3,7の過剰発現により若干上昇することがわかった(図6)。
以上より、GATA−1転写系にはHDAC1,3,7が関与しており、IL−2転写系に関与するHDAC4,8はGATA−1転写系には大きく関与しないことがわかった。
実施例6:HDAC4ドミナントネガティブ変異体の作製
IL−2転写への関与が大きいと思われるHDAC4について、内在性HDAC4の機能を失わせる目的でHDAC4ドミナントネガティブ(dominant negative)変異体を作製することとした。そこで、PNAS,1998,Vol.95,p.3519−3524 & Mol.Cell.Biol.,1999,Vol.19(11),p.7816−7827の文献情報よりHDAC活性を低下させるための変異導入部位を決定した(H802K H803L、H863L)(図7)。ヒトHDAC4 CDS塩基配列をGenBankのaccession番号AF132607より入手し、変異導入のためのプライマーを設計した(各プライマーの塩基配列については表3を参照、HDAC4 CDS塩基配列については配列番号1、HDAC4 CDS塩基配列がコードするアミノ酸配列については配列番号2を参照)。

Expand(High fidelity PCR System(Roche))のプロトコールに従ってPCR反応を行った。鋳型に用いたE106BNはpBluescriptII KS(+)(TOYOBO)にHDAC4 CDS全長が挿入(EcoRI/NotI,EcoRI側が開始コドン)されたプラスミドである。
Topo TA cloning kit for sequence(Invitrogen社)を用い、得られたPCR産物(H802K,H803L変異体に関しては(3))をそれぞれTOPO cloning vector for sequenceにサブクローニングした(pCR4−HDAC4(H802K,H803L)およびpCR4−HDAC4(H863L))。次いで、シーケンシングにより変異導入を確認したPCR断片を、以下の手順でHDAC4発現用プラスミド(pMH122)に挿入した。
HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K,H803L)
E106BN(NdeI/BsrGI)約3kbpにpCR4−HDAC4(H802K,H803L)NdeI/BsrGI処理断片約300bpを挿入し、pBKS−HDAC4(H802K,H803L)を得た。続いて、pMH122(EcoRI/NotI)約6kbpにpBKS−HDAC4(H802K,H803L)EcoRI/NotI処理断片約3.3kbpを挿入し、pEAK−HDAC4(H802K,H803L)を得た。HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K,H803L)のコード領域における塩基配列を配列番号3として、そのアミノ酸配列を配列番号4として示す。
HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)
E106BN(BsrGI/BglII)約3kbpにpCR4−HDAC4(H863L)BsrGI/BglII処理断片約750bpを挿入し、pBKS−HDAC4(H863L)を得た。続いて、pMH122(EcoRI/NotI)約6kbpにpBKS−HDAC4(H863L)EcoRI/NotI処理断片約3.3kbpを挿入し、pEAK−HDAC4(H863L)を得た。HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)のコード領域における塩基配列を配列番号5として、そのアミノ酸配列を配列番号6として示す。
実施例7:HDAC1ドミナントネガティブ変異体の作製
HDAC4ドミナントネガティブ変異体の作製と同様に、HDAC1ドミナントネガティブ変異体を作製した。ヒトHDAC1 CDS塩基配列をGenBankのaccession番号D50405より入手し、変異導入のためのプライマーを設計した(各プライマーの塩基配列については表4を参照、HDAC1 CDS塩基配列については配列番号9、HDAC1 CDS塩基配列がコードするアミノ酸配列については配列番号10を参照)。

Expand(High fidelity PCR System(Roche))のプロトコールに従ってPCR反応を行った。鋳型に用いたpEAK−HDAC1(pMH119)はpEAK10にHDAC1 CDS全長が挿入されたプラスミドである。
Topo TA cloning kit for sequence(Invitrogen社)を用い、得られたPCR product(3)をそれぞれTOPO cloning vector for sequenceにサブクローニングした(pCR4−HDAC1(H140K,H141L)およびpCR4−HDAC1(H199L))。シーケンシングにより変異導入を確認したPCR断片を、以下の手順でHDAC1発現用プラスミド(pMH119)に挿入した。E107KはpGEM−T(Promega)にHDAC1 CDS全長が挿入(EcoRI/KpnI,EcoRI側が開始コドン)されたプラスミドである。
HDAC1ドミナントネガティブ変異体(H140K,H141L)
E107K(EcoRI/BsrGI)(約3kbp)にpCR4−HDAC1(H140K,H141L)のEcoRI/BsrGI処理断片(約530bp)を挿入し、pGEM−HDAC1(H140K,H141L)を得た。続いて、pGEM−HDAC1(H140K,H141L)(EcoRI/KpnI)約1.5kbpをpMH119のEcoRI/KpnI処理断片(約5.9kbp)に挿入し、pEAK−HDAC1(H140K,H141L)を得た。HDAC1ドミナントネガティブ変異体(H140K,H141L)のコード領域における塩基配列を配列番号11として、そのアミノ酸配列を配列番号12として示す。
HDAC1ドミナントネガティブ変異体(H199L)
E107K(StuI/HpaI)(約3kbp)にpCR4−HDAC1(H199L)のStuI/HpaI処理断片(約150bp)を挿入し、pGEM−HDAC1(H199L)を得た。続いて、pGEM−HDAC1(H199L)(EcoRI/KpnI)約1.5kbpをpMH119のEcoRI/KpnI処理断片(約5.9kbp)に挿入し、pEAK−HDAC1(H199L)を得た。HDAC1ドミナントネガティブ変異体(H199L)のコード領域における塩基配列を配列番号13として、そのアミノ酸配列を配列番号14として示す。
実施例8:HDAC3ドミナントネガティブ変異体の作製
HDAC4ドミナントネガティブ変異体の作製と同様に、HDAC3ドミナントネガティブ変異体を作製した。ヒトHDAC3 CDS塩基配列をGenBankのaccession番号U66914より入手し、変異導入のためのプライマーを設計した(各プライマーの塩基配列については表5を参照、HDAC3 CDS塩基配列については配列番号15、HDAC3 CDS塩基配列がコードするアミノ酸配列については配列番号16を参照)。

Expand(High fidelity PCR System(Roche))のプロトコールに従ってPCR反応を行った。鋳型に用いたpEAK−HDAC3(pMH118)はpEAK10にHDAC3 CDS全長が挿入されたプラスミドである。
Topo TA cloning kit for sequence(Invitrogen社)を用い、得られたPCR product(3)をそれぞれTOPO cloning vector for sequenceにサブクローニングした(pCR4−HDAC3(H134K,H135L)およびpCR4−HDAC3(H193L))。シーケンシングにより変異導入を確認したPCR断片を、以下の手順でHDAC3発現用プラスミド(pMH118)に挿入した。
HDAC3ドミナントネガティブ変異体(H134K,H135L)
pBluescriptII KS(−)(TOYOBO)(EcoRI/KpnI)(約3kbp)にpMH118のEcoRI/KpnI処理断片(約1.3kbp)を挿入し、pBKS−HDAC3を得た。続いて、pBKS−HDAC3(BglII/NcoI)(約3kbp)にpCR4−HDAC3(H134K,H135L)(BglII/NcoI)約180bpを挿入し、pBKS−HDAC3(H134K,H135L)を得た。最後に、pBKS−HDAC3(H134K,H135L)(EcoRI/KpnI)約1.3kbpをpMH118のEcoRI/KpnI処理断片(約5.7kbp)に挿入し、pEAK−HDAC3(H134K,H135L)を得た。HDAC3ドミナントネガティブ変異体(H134K,H135L)のコード領域における塩基配列を配列番号17として、そのアミノ酸配列を配列番号18として示す。
HDAC3ドミナントネガティブ変異体(H193L)
pMH118(NcoI/PmaCI)約7kbpにpCR4−HDAC3(H134K,H135L)(NcoI/PmaCI)約260bpを挿入し、pEAK−HDAC3(H193L)を得た。HDAC3ドミナントネガティブ変異体(H193L)のコード領域における塩基配列を配列番号19として、そのアミノ酸配列を配列番号20として示す。
実施例9:HDAC4ドミナントネガティブ変異体発現によるIL−2転写活性抑制
ヒトIL−2プロモーター配列(転写開始点近傍の−674〜+54の領域)をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に有するプラスミドpGL3 IL2 Pro43 1μgとpRL−TK(Promega)6μgに、野生型HDAC4または実施例3にて作製したHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)発現用プラスミドを量比を変えて(1,3,10μg)混和し、エレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧300V、電荷975μF、400μL)により、1x10cellsのJurkat細胞(ATCC,TIB−152)を形質転換した。
形質転換後、2.5mLの10% FBS(MOREGATE)を含むRPMI 1640(10% FBS RPMI 1640)を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で10時間培養後、Phorbol 12−Myristate 13−Acetate(PMA,SIGMA)、Ionomycin(SIGMA)、Anti CD28 antibody(Pharmingen)を10% FBS RPMI 1640で混合した液を50μL/wellずつ加え(終濃度それぞれ50ng/mL、1μg/mL、75ng/mL)、Jurkat細胞を刺激した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で12時間培養後、Bright−Glo Luciferase Assay System(Promega)のマニュアルに従い、細胞内のルシフェラーゼ活性を、マルチラベルカウンター(1420 MULTILABEL COUNTER ARVO SX,WALLAC)により測定した。
その結果、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)の発現量依存的なIL−2転写抑制が認められた(図8)。導入したHDACの発現量は抗Flag抗体(SIGMA,anti Flag M2)を用いたウェスタンブロッテイングにより確認した。
以上より、HDAC4の機能を選択的に抑制することによって、IL−2の転写が抑制されることが示唆された。
実施例10:HDAC4ドミナントネガティブ変異体発現による細胞増殖抑
野生型HDAC4および実施例6にて作製したHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)発現用プラスミド10μgをJurkat,HEL,293細胞にトランスフェクションした。
Jurkat細胞(ATCC,TIB−152)はエレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧300V、電荷975μF、400μL)により、1x10cellsの細胞を形質転換した。形質転換後、2.5mLの10% FBS(MOREGATE)を含むRPMI 1640(10% FBS RPMI 1640)を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で5時間培養後、Phorbol 12−Myristate 13−Acetate(PMA,SIGMA)、Ionomycin(SIGMA)、Anti CD28 antibody(Pharmingen)を10% FBS RPMI 1640で混合した液を50μL/wellずつ加え(終濃度それぞれ50ng/mL、1μg/mL、75ng/mL)、Jurkat細胞を刺激した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で4時間培養後にCell Counting Kit−8(DOJIN)を用いて確認した。
HEL細胞(受託番号JCRB0062、JCRB)はエレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧1750V、電荷10μF、365μL)により、8.75x10cellsの細胞を形質転換した。形質転換後、2mLの10% FBS RPMI 1640を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で10時間培養後、10% FBS RPMI 1640培地を50μL/wellずつ加え、さらに12時間培養後にCell Counting Kit−8(DOJIN)を用いて確認した。
293細胞(ATCC,CRL−1573)は、リン酸カルシウム法にてトランスフェクションし(10% FBSを含むDMEM(SIGMA)培地にて培養中の293細胞にDNA−リン酸カルシウム混液を添加し、6時間後に培地交換)、37℃、5% CO、飽和湿度条件下で48時間培養後にCell Counting Kit−8(DOJIN)を用いて確認した。
その結果、HDAC4ドミナントネガティブ変異体発現(H863L)によるJurkat細胞特異的な細胞増殖阻害が認められた(図9)。各細胞に関して、導入したHDAC発現量は抗Flag抗体(SIGMA,anti Flag M2)を用いたウエスタンブロッティングにより確認した。
以上より、HDAC4の機能を選択的に阻害することで、T細胞系の増殖が選択的に抑制されることがわかった。
実施例11:HDAC1,3,4ドミナントネガティブ変異体発現によるIL−2およびGATA−1転写活性に及ぼす影響
実施例6、7、8にて作製したHDAC1,3,4のドミナントネガティブ変異体発現時におけるIL−2およびGATA−1転写活性を測定した。
Jurkat細胞(ATCC,TIB−152)に関しては、各種HDACまたはHDAC変異体発現用プラスミド10μgをエレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧300V、電荷975μF、400μL)により1x10cellsを形質転換した。形質転換後、2.5mLの10% FBS(MOREGATE)を含むRPMI 1640(SIGMA)(10% FBS RPMI 1640)を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で10時間培養後、Phorbol 12−Myristate 13−Acetate(PMA,SIGMA)、Ionomycin(SIGMA)、Anti CD28 antibody(Pharmingen)を10% FBS RPMI 1640で混合した液を50μL/wellずつ加え(終濃度それぞれ50ng/mL、1μg/mL、75ng/mL)、Jurkat細胞を刺激した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で12時間培養後、Bright−Glo Luciferase Assay System(Promega)のマニュアルに従い、細胞内のルシフェラーゼ活性を、マルチラベルカウンター(1420 MULTILABEL COUNTER ARVO SX,WALLAC)によりIL−2転写活性を測定した。
HEL細胞(受託番号JCRB0062、JCRB)に関してはpGL3−HSI−IE Pro 15μgおよび各種HDACまたはHDAC変異体発現用プラスミド10μgをエレクトロポレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧1750V、電荷10μF、365μL)により8.75x10cellsを形質転換した。形質転換後、2mLの10% FBS RPMI 1640を加え、50μL/wellの割合で、96well white plateに分注した。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で3時間培養後、10% FBS RPMI 1640培地を50μL/wellずつ加えた。37℃、5% CO、飽和湿度条件下で8時間培養後、Bright−glo Luciferase Assay Systemのマニュアルに従い、細胞内のルシフェラーゼ活性を、マルチラベルカウンターによりGATA−1転写活性を測定した。
その結果、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)発現時のみにIL−2転写抑制が認められ、その際にGATA−1転写抑制は認められないことがわかった(図10)。各細胞に関して、導入したHDAC発現量は抗Flag抗体(SIGMA,anti Flag M2)を用いたウエスタンブロッティングにより確認した。
以上より、HDAC4の機能を選択的に阻害することで血小板減少を伴わずに免疫機能を抑制することが可能であることが示唆された。
実施例12:HDAC4の複合体形成
Mol.Cell,Vol.9,p.45−57,2002では、Class II HDACsがN−CoRおよびHDAC3と複合体を形成しており、ヒストンを基質としたHDAC活性は、Class II HDACsよりもHDAC3がはるかに強いと報告されている。そこで、粗精製したClass II HDACsの複合体形成について確認した。
HDAC4,5,7発現用プラスミド7μgをそれぞれPEAK Rapid細胞(Edge BioSystems)にリン酸カルシウム法にてトランスフェクションし、48時間後、whole cell lysate(25mM Tris pH7.4,150mM NaCl,1mM CaCl,1% Triton X−100中で細胞を破砕、遠心分離によりcell debrisを除去)を抗Flag抗体カラム(SIGMA,anti Flag M2−agarose)にて粗精製した(TBSでwashした後、0.1M Glysine−HCl pH3.5にて溶出)。次いで、粗精製画分をSDS−PAGE後CBB染色した。
その結果、導入したHDAC4,5,7の発現が確認された(図11)。また、HDAC4,5,7の粗精製画分それぞれにHDAC3およびN−CoRが含まれることが、ウエスタンブロッティングにより確認された(抗HDAC3抗体はSIGMA社、抗N−CoR抗体はSanta Cruz社の製品を使用)。
以上より、粗精製したHDAC4,5,7はN−CoRおよびHDAC3と複合体を形成していることが確認された。
実施例13:HDAC4ドミナントネガティブ変異体の複合体形成能
Mol.Cell,Vol.9,p.45−57,2002より、HDAC4変異体にはN−CoRおよびHDAC3との複合体を形成しないものがあるとの報告がある。そこで、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)の複合体形成能について確認した。
野生型HDAC4およびHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)発現用プラスミド7μgをPEAK Rapid細胞(Edge BioSystems)にリン酸カルシウム法にてトランスフェクションし、48時間後、whole cell lysate(25mM Tris pH7.4,150mM NaCl,1mM CaCl,1% Triton X−100中で細胞を破砕し、遠心分離によりcell debrisを除去)を抗Flag抗体カラム(SIGMA,anti Flag M2−agarose)にて粗精製した(TBSで洗浄した後、0.1M Glysine−HCl pH3.5にて溶出)。次いで、粗精製画分をSDS−PAGE後CBB染色した。
その結果、導入したHDAC4およびHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)の発現が確認された(図12)。また、HDAC4の粗精製画分にHDAC3およびN−CoRが含まれること、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)の粗精製画分にはHDAC3およびN−CoRがほとんど含まれないことが、ウエスタンブロッティングにより確認された(抗HDAC3抗体はSIGMA社、抗N−CoR抗体はSanta Cruz社の製品を使用)。
以上より、野生型HDAC4と比較してHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)は、N−CoRおよびHDAC3との複合体形成能が低下していることがわかった。
実施例14:HDAC活性の測定
Mol.Cell,Vol.9,p.45−57,2002より、N−CoRおよびHDAC3との複合体形成能が低下しているHDAC4変異体は、ヒストンを基質としたHDAC活性の低下が認められるとの報告がある。そこで、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)のヒストンを基質としたHDAC活性を測定した。
野生型HDAC4およびHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)発現用プラスミド7μgを293T細胞にリン酸カルシウム法にてトランスフェクションし、48時間後、whole cell lysate(25mM Tris pH7.4,150mM NaCl,1mM CaCl,1% Triton X−100中で細胞を破砕、遠心分離によりcell debrisを除去)を抗Flag抗体カラム(SIGMA,anti Flag M2−agarose)にて粗精製し(TBSでwashした後、0.1M Glysine−HCl pH3.5にて溶出)、HDAC活性測定に用いた。反応基質は、[H]酢酸ナトリウム300MBq(NENTM Life Science Products,Inc.)を含むRPMI(SIGMA)培地40mL中で2時間培養したJurkat細胞(2×10cells)をLysis buffer pH6.5(10mM Tris−HCl,50mM Sodium Hydrogensulfate,1% TritonX−100,10mM MgCl−6HO,8.6% Sucrose)中で破砕し、Wash buffer(10mM Tris−HCl,13mM EDTA)にて洗浄した後、0.4N HSOを添加、調製した[H]ラベルされたアセチル化ヒストンを用いた。
その結果、野生型HDAC4と比較して、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)ではHDAC活性の低下が認められた(図13)。
以上より、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H802K H803L,H863L)は、N−CoRおよびHDAC3との複合体形成能が低下しており(実施例13)、それに伴ってヒストンを基質としたHDAC活性が低下していることが確認された。
実施例15:HDAC4とN−CoRとの相互作用の検出系の構築
野生型HDAC4と比較して、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)がN−CoRとの複合体形成能が低下していることがわかったため、HDAC4とN−CoRとの相互作用を阻害することで、HDAC4ドミナントネガティブ変異体発現時と同様のIL−2転写抑制作用が発揮されると考えた。
そこで、HDAC4とN−CoRとの相互作用を阻害する薬物のスクリーニング系を構築するため、CheckMate Mammalian Two−Hybrid System(Promega)を利用することとした(図14)。
まず、Mol.Cell,2002,Vol.9,p.45−57の文献情報よりヒトN−CoRのRD3配列相当部位を決定した(1005−1498a.a.)。ヒトN−CoR CDS塩基配列はGenBankのaccession番号AF044209より入手し、ヒト肺由来cDNAからPCR法によりヒトN−CoR(RD3)cDNAを増幅した。プライマーは、下記RD3−Bam−FW(配列番号82)及びRD3−Not−RV(配列番号83)を用いた。ヒトN−CoR(RD3)の塩基配列については配列番号21、ヒトN−CoR(RD3)の塩基配列がコードするアミノ酸配列については配列番号22を参照のこと。得られたPCR断片をシーケンシングにより確認し(N−CoR(RD3)に関してはL1014Vの変異が認められたがSWISS−PROTにてvariantとしての報告があったため採用とした)、制限酵素処理(BamHI/NotI)によってpBIND(Promega)に挿入し、GAL4−N−CoR(RD3)発現用プラスミドを得た。また、HDAC4およびHDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)全長を制限酵素処理(XbaI/NotI)によってpACT(Promega)に挿入し、HDAC4−VP16およびHDAC4(H863L)−VP16発現用プラスミドを得た。

続いて、pG5−Luc(Promega)10μg,pBND3μg,pACT3μgまたはpG5−Luc10μg,pBND−N−CoR(RD3)3μg,pACT−HDAC4 3μgまたはpG5−Luc10μg,pBND−N−CoR(RD3)3μg,pACT−HDAC4(H863L)3μgをそれぞれ混和し、エレクトロポーレーション法(BIO−RAD,Gene Pulser II,電圧300V、電荷975μF、400μL)によりJurkat細胞(ATCC,TIB−152)1x10cellsにトランスフェクションした。トランスフェクション22時間後にBright−Glo Luciferase Assay System(Promega)のマニュアルに従い、細胞内のルシフェラーゼ活性を、マルチラベルカウンター(1420 MULTILABEL COUNTER ARVO SX,WALLAC)により測定した。
その結果、N−CoR(RD3)とHDAC4の相互作用によるGAL4転写活性化が検出され、HDAC4ドミナントネガティブ変異体(H863L)がN−CoR(RD3)と相互作用しないことが確認された(図15)。
以上より、HDAC4とN−CoR(RD3)との相互作用の検出系が構築できたと判断した。
実施例16:siRNAを用いたHDAC4選択的な遺伝子発現抑制のIL−2及びGATA−1転写活性に及ぼす影響
Jurkat細胞に、HDAC4を標的とする4種類のsiRNAのmixtureであるsiGENE HDAC4 SMARTpool(Dharmacon Inc.製,B−Bridge internaltional Inc.販売,コード番号M−003497−00−05)またはNon−specific Control Duplex IX(47% GC content)(Dharmacon Inc.製,B−Bride international Inc.販売,コード番号D−001206−09−20)、及びpGL3 IL2 Pro43を、前述と同様のエレクトロポレーション法により導入し、IL−2転写活性を測定した。同様にして、HEL細胞に、siGENE HDAC4 SMARTpoolまたはNon−specific Control Duplex IX、及びpGL3−HSI−IE Proを導入し、GATA−1転写活性を測定した。なお、Jurkat細胞およびHEL細胞におけるsiRNAの導入条件およびその効果は、pGL3−control(Promega)およびLuciferase GL3 Duplex(B−Bride:D−001400−01−20)を用いることで予め確認した。
その結果、HDAC4遺伝子発現の選択的な抑制によりIL−2転写抑制が認められたが、GATA−1転写抑制は認められなかった(図16)。
以上より、HDAC4の機能を選択的に阻害することで血小板減少を伴わずに免疫機能を抑制し得ることが再度示唆された。
【産業上の利用可能性】
本発明により、各種HDACの中でもHDAC4/HDAC8を選択的に抑制すると、血小板減少作用及び/又はGATA−1産生阻害活性をあまり示すことなく、免疫を抑制し得ること、IL−2産生を阻害し得ること、又は免疫担当細胞の増殖を抑制し得ることが明らかとなった。従って、HDAC4/HDAC8を選択的に抑制する化合物を選択することにより、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤、又は免疫担当細胞増殖阻害剤を従来よりも簡便かつ短時間で選択することが可能になる。以上より、本発明の方法は新薬創製のための研究に極めて有用である。
本出願は、2002年12月27日に日本で出願された特願2002−378800を基礎としており、その内容は本明細書中に援用される。
【配列表】



























































































































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含むGATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤。
【請求項2】
HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤。
【請求項3】
GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の選択方法であって、被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定することを含む選択方法。
【請求項4】
血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定することを含む選択方法。
【請求項5】
以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法:
(i)被験物質のHDAC4及び/又はHDAC8酵素阻害活性を測定する;
(ii)被検物質のHDAC酵素阻害活性を測定する、ここで、該HDAC酵素阻害活性が、HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6又はHDAC7酵素阻害活性からなる群より選択される1以上のHDAC酵素阻害活性である。
【請求項6】
以下(i)〜(iii)の工程を含む、GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の選択方法であって、該IL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする、請求項3記載の方法:
(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8の各遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該各酵素液のそれぞれを被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(iii)HDAC4遺伝子又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択する。
【請求項7】
以下(i)〜(iii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、該免疫抑制剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする、請求項4記載の方法:
(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC8の各遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該各酵素液のそれぞれを被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(iii)HDAC4遺伝子又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択する。
【請求項8】
以下(i)〜(iii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、該免疫抑制剤がHDAC4及び/又はHDAC8酵素活性を選択的に阻害することを特徴とする、請求項4記載の方法:
(i)ヒト細胞から部分精製された酵素液を被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(ii)HDAC4遺伝子及び/又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を被験物質と共存させ、HDAC酵素活性を測定する;
(iii)(i)と(ii)との酵素活性を比較し、HDAC4遺伝子及び/又はHDAC8遺伝子を発現させることにより得られた酵素液を用いた場合にのみ選択的にHDAC酵素活性を抑制する被験物質を選択する。
【請求項9】
以下(i)〜(iii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4とN−CoRとの複合体形成を特異的に阻害するものを選択することを特徴とする方法:
(i)HDAC4遺伝子及びN−CoR遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該酵素液を被験HDAC阻害剤と共存させる;
(iii)(ii)で得られた酵素液と被験HDAC阻害剤の混合液においてHDAC4とN−CoRとの複合体が形成されているか否かを解析する。
【請求項10】
以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4蛋白質の少なくとも一部を含むHDAC4融合蛋白質と、N−CoR蛋白質の少なくとも一部を含むN−CoR融合蛋白質との複合体形成を特異的に阻害するものを選択することを特徴とする方法:
(i)該HDAC4融合蛋白質をコードする遺伝子、及び該N−CoR融合蛋白質をコードする遺伝子を細胞内で発現させる;
(ii)被験HDAC阻害剤が、該HDAC4融合蛋白質と該N−CoR融合蛋白質との複合体形成を阻害するか否かを解析する。
【請求項11】
以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制活性を有する化合物の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4及び/又はHDAC8の発現量を抑制するものを選択することによる方法:
(i)HDAC4及び/又はHDAC8を発現する細胞と被験HDAC阻害剤を共存させる;
(ii)当該細胞におけるHDAC4及び/又はHDAC8発現量を測定する。
【請求項12】
以下(i)(ii)の工程を含む、血小板減少作用の少ない免疫抑制活性を有する化合物の選択方法であって、被験HDAC阻害剤のうち、HDAC4及び/又はHDAC8とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合を選択的に阻害するものを選択することによる方法:
(i)HDAC4及び/又はHDAC8遺伝子を発現させて、酵素液を得る;
(ii)当該酵素液をHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドと被験HDAC阻害剤と共存させ、HDAC4及び/又はHDAC8酵素とHDAC4及び/又はHDAC8特異的リガンドとの結合活性を測定する。
【請求項13】
以下(i)(ii)を少なくとも含む、HDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を含む血小板減少作用の少ない免疫抑制剤選択の為の測定用キット:
(i)HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5、HDAC6、HDAC7の各遺伝子を発現させて得られた酵素液;
(ii)HDAC4及び/又はHDAC8の各遺伝子を発現させて得られた酵素液。
【請求項14】
配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA。
【請求項15】
配列番号4又は配列番号6に記載のアミノ酸配列であることを特徴とするHDAC4変異体。
【請求項16】
有効量のHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を被験体に投与する工程を含む、GATA−1産生阻害活性が少ないIL−2産生及び/又は免疫担当細胞増殖の阻害方法。
【請求項17】
有効量のHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤を被験体に投与する工程を含む、血小板減少作用が少ない免疫の抑制方法。
【請求項18】
GATA−1産生阻害活性の少ないIL−2産生阻害剤及び/又は免疫担当細胞増殖阻害剤の製造のためのHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤の使用。
【請求項19】
血小板減少作用の少ない免疫抑制剤の製造のためのHDAC4及び/又はHDAC8選択的阻害剤の使用。

【国際公開番号】WO2004/061101
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564542(P2004−564542)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016895
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】