説明

新規化合物およびその製造方法、ならびに新規ポリエステルおよびその製造方法

【課題】双環状ビス(γ−ブチロラクトン)類に反応性の高い官能基を導入した新規化合物およびその製造方法を提供すると共に、該化合物とエポキシ化合物とを共重合させてなる新規ポリエステルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るポリエステルは、下記式(4)で示される構造を有することを特徴とする。
【化23】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物およびその製造方法、ならびに該化合物とエポキシ化合物とを共重合させてなる新規ポリエステルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気部品用材料、電子部品用材料等の用途として好適に用いられるポリエステルの製造方法としては、金属アルコキシドをはじめとする有機金属化合物等の求核試薬を用い、双環状ビス(γ−ブチロラクトン)類とエポキシドの交互共重合を行う方法が知られている(特許文献1および非特許文献1〜5参照)。
【0003】
上述した電気部品用材料、電子部品用材料の用途として使用されるポリエステルは、密着性や硬化性等を向上させる観点から、高い反応性基を導入することを目的として開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−62065号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Tanaka,A.Tadokoro,T.Endo、「Macromolecules」、1992、25、2782
【非特許文献2】A.Tadokoro,T.Tanaka,T.Endo、「Macromolecules」、1993、26、4400
【非特許文献3】T.Tanaka,A.Tadokoro,K.Chung、T.Endo、「Macromolecules」、1995、28、1340
【非特許文献4】K.Chung、T.Tanaka,T.Endo、「Macromolecules」、1995、28、3048
【非特許文献5】K.Chung、T.Tanaka,T.Endo、「Macromolecules」、1997、30、2532
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の双環状ビス(γ−ブチロラクトン)類に、たとえばビニル基等の反応性の高い官能基を付加させる合成を検討しても、反応時にビニル基が反応してしまい、付加させることは技術的に困難であった。そのため、従来の双環状ビス(γ−ブチロラクトン)類とエポキシ化合物との共重合により得られるポリエステルの側鎖に、反応性の高い官能基を修飾させることが不可能であった。
【0007】
そこで、本発明に係る態様は、上記課題を解決することで、双環状ビス(γ−ブチロラクトン)類に反応性の高い官能基を導入した新規化合物およびその製造方法を提供すると共に、該化合物とエポキシ化合物とを共重合させてなる新規ポリエステルおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明に係る化合物は、下記式(1)で示される化合物である。
【化1】

(上記式(1)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。)
【0010】
[適用例2]
本発明に係る化合物の製造方法は、
下記式(2)で示される化合物と、下記式(3)で示される化合物と、を反応させることによりなる。
【化2】

(上記式(2)中、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。)
【化3】

(上記式(3)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表す。)
【0011】
[適用例3]
本発明に係るポリエステルは、下記式(4)または下記式(5)で示される構造を有する。
【化4】

(上記式(4)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。Rは、水酸基、アリールオキシ基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基またはアルコキシル基を表す。)
【化5】

(上記式(5)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。R18は、置換もしくは非置換の、炭素数2〜24の2価の炭化水素基、または2価の複素環式基を表す。)
【0012】
[適用例4]
適用例3のポリエステルにおいて、
ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)が、1,000〜100,000であることができる。
【0013】
[適用例5]
本発明に係るポリエステルの製造方法は、
適用例1に記載の化合物と、エポキシ化合物と、を反応させることによりなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上記式(1)で示される化合物は、分子内に反応性の高い官能基を導入させることができる。また、エポキシ化合物と共重合させる際に、該官能基が形成されるので、該官能基を残したままポリエステルを合成することができる。
【0015】
本発明に係るポリエステルは、上記式(1)で示される化合物とエポキシ化合物とを共重合させることにより、反応性の高い官能基を側鎖に有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】合成例1で製造した化合物のH−NMRスペクトルである。
【図2】合成例1で製造した化合物の13C−NMRスペクトルである。
【図3】合成例1で製造した化合物のFT−IRスペクトルである。
【図4】合成例2で製造したポリエステルのH−NMRスペクトルである。
【図5】合成例2で製造したポリエステルのFT−IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る化合物およびその製造方法、ならびにポリエステルおよびその製造方法について具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に特に限定されるものではない。下記の実施形態は、本発明に係る化合物およびポリエステルを合成するための一例にすぎない。
【0018】
1.化合物
本発明に係る化合物は、下記式(1)で示される。
【0019】
【化6】

【0020】
以下に、上記式(1)中の記号の説明を行う。
は、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表す。炭素数1〜12の炭化水素基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基が挙げられる。具体的には、炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、炭素数2〜12のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等が挙げられ、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0021】
式(1)中、Rとしては、後述する式(4)または式(5)で示されるポリエステルに、より反応性の高い官能基を導入できる観点から、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0022】
〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。炭素数1〜12の炭化水素基としては、前述したRと同義であり、上記において説明したとおりである。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0023】
式(1)中、R〜Rは、前記例示した基の中でも水素原子、炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0024】
2.化合物の製造方法
本発明に係る上記式(1)で示される化合物は、(A)下記式(2)で示される化合物(以下、単に「(A)成分」ともいう)と、(B)下記式(3)で示される化合物(以下、単に「(B)成分」ともいう)と、を反応させて得ることができる。
【0025】
かかる反応には、塩基性求核剤等の触媒を用いてもよい。塩基性求核剤を用いることで、反応性の高い官能基を反応させることなく、上記式(1)で示される化合物を得ることができる。塩基性求核剤は、エステルに対して求核攻撃し、その後脱離可能な求核剤であれば特に制限されない。塩基性求核剤としては、たとえば第3級アミン類;ピリジン、トリアルキルアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7)等が好適に用いられる。なお、塩基性求核剤の量は、(A)成分1molに対して、通常0.1〜100molである。
【0026】
また、かかる反応には、(B)成分の重合禁止剤を用いてもよい。重合禁止剤の量は、(B)成分1molに対して、通常0〜1molである。重合禁止剤としては、遷移金属塩が用いられ、具体的には、銅塩化合物、マンガン塩化合物が挙げられる。
【0027】
上記銅塩化合物としては、たとえば酢酸銅、サリチル酸銅、チオシアン酸銅、硝酸銅、塩化銅、炭酸銅、水酸化銅、アクリル酸銅などの銅塩、および下記式(6)で示される化合物(ジアルキルジチオカルバミン酸銅)が挙げられる。
【化7】

上記式(6)で示される化合物中のR16は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。炭素数1〜12のアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のいずれかであることが好ましい。
【0028】
上記マンガン塩化合物としては、たとえばジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、マンガン酸カリウム、過マンガン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のマンガン塩、および下記式(7)で示される化合物(ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン)が挙げられる。
【化8】

上記式(7)で示される化合物のR17は、前述したR16と同義であり、上記において説明したとおりである。
【0029】
反応原料のモル比は、(A)成分1molに対して、(B)成分を1〜10molの範囲で用いることが好ましく、2〜5molの範囲で用いることがより好ましい。
【0030】
反応温度は、特に制限されないが、反応を円滑に進行させるためには、通常80〜200℃の範囲であることが好ましく、120〜150℃の範囲であることがより好ましい。
【0031】
反応時間は、温度や触媒量等の条件によって異なり、特に制限されないが、通常1〜12時間の範囲である。
【0032】
なお、本発明に係る上記式(1)で示される化合物の製造方法では、反応に影響を与えない不活性溶媒、具体的にはヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン等の芳香族炭化水素等を用いてもよいが、反応への影響がより少ない点で溶媒は用いない方が好ましい。
【0033】
次に、本発明に係る上記式(1)で示される化合物の製造方法に用いる各成分について説明する。
【0034】
2.1.(A)成分
(A)成分は、下記式(2)で示される化合物である。
【0035】
【化9】

【0036】
上記式(2)中、R〜Rは、上記式(1)中のR〜Rと同義であり、上記において説明したとおりである。
【0037】
(A)成分の具体例としては、たとえば2−メチル−1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、クエン酸、イソクエン酸、2−メチルイソクエン酸、ヒドロキシクエン酸等が挙げられる。これらの中でも、1,2,3−プロパントリカルボン酸が好ましい。
【0038】
2.2.(B)成分
(B)成分は、下記式(3)で示される化合物である。
【0039】
【化10】

【0040】
上記式(3)中、Rは、上記式(1)中のRと同義であり、上記において説明したとおりである。
【0041】
(B)成分の具体例としては、たとえばアクリル酸メタクリル酸無水物、ジアクリル酸無水物、ジメタクリル酸無水物が挙げられる。これらの中でも、ジメタクリル酸無水物が好ましい。
【0042】
3.ポリエステル
本発明に係るポリエステルは、下記式(4)または下記式(5)で示される構造を有する。
【0043】
【化11】

【0044】
以下に、上記式(4)中の記号の説明を行う。
は、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表し、前記説明と同じである。
【0045】
は、水酸基、アリールオキシ基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基またはアルコキシル基を表す。炭素数1〜12の炭化水素基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が挙げられる。具体的には、炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、炭素数2〜12のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等が挙げられ、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられ、炭素数1〜12のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。Rは、前記例示した基の中でもフェノキシ基であることが好ましい。
【0046】
【化12】

【0047】
以下に、上記式(5)中の記号の説明を行う。
〜Rは、上記式(4)中のR〜Rと同義であり、上記において説明したとおりである。R18は、置換もしくは非置換の、炭素数2〜24の2価の炭化水素基、または2価の複素環式基を表す。また、2価の炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、およびこれらが結合した基が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜12のアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基がより好ましい。2価の複素環式基としては、酸素原子、硫黄原子、および窒素原子から選択される原子を1〜4個有する2価の複素環式基が挙げられる。
【0048】
具体的には、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基が挙げられ、シクロアルキレン基としては、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられ、フェニレン基としては、o−フェニレン、m−フェニレン、p−フェニレン、フェニレンオキシド等が挙げられ、2価の複素環式基としては、1,4−ピリジレン基、2,5−ピリジレン基、1,4−フラニレン基等が挙げられる。
【0049】
4.ポリエステルの製造方法
本発明に係る上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルは、(C)前記式(1)で示される化合物(以下、単に「(C)成分」ともいう)と、(D)エポキシ化合物(以下、単に(D)成分ともいう)と、を反応させて得ることができる。
【0050】
まず、本発明に係る上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルの製造方法に用いる各成分について説明する。
【0051】
4.1.(C)成分
(C)成分は、双環状ビス(γ−ブチロラクトン)類であり、上記式(1)で示される化合物である。上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルに、より反応性の高い官能基を導入する観点から、前記式(1)中のRは、水素原子またはメチル基であることが好ましい。上記式(1)中のRを水素原子とした場合、前記式(1)で示される化合物はビニル基を有することになるが、上記式(1)で示される化合物とエポキシ化合物とを反応させても、かかるビニル基は反応に寄与しない。したがって、上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルは、反応性の高いビニル基を側鎖の末端に有することができる。なお、(C)成分の詳細な説明は、上述したので省略する。
【0052】
4.2.(D)成分
(D)成分は、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物であれば特に限定されないが、1つまたは2つのエポキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0053】
1つのエポキシ基を有する化合物としては、たとえば下記式(8)で示される化合物が挙げられる。
【0054】
【化13】

【0055】
式(8)中、RおよびRは、同一または異なってもよく、水素原子、または置換(エポキシ基以外)もしくは非置換の炭素数1〜24の炭化水素基を表す。ここで、RおよびRで示される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基が挙げられ、これらの中でも炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基が好ましい。炭化水素基上の置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基等が挙げられる。
【0056】
このような1つのエポキシ基を有する化合物の具体例としては、Rおよび/またはRがアルキル基のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、エポキシペンタン、エポキシブタン;Rおよび/またはRがシクロアルキル基のペンタメチレンオキシド、エポキシシクロペンタン、エポキシシクロヘキサン;Rおよび/またはRが芳香族炭化水素基のスチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0057】
2つのエポキシ基を有する化合物としては、たとえば下記式(9)で示される化合物が挙げられる。
【0058】
【化14】

【0059】
式(9)中、R10およびR11は、同一または異なってもよく、水素原子、または置換(エポキシ基以外)もしくは非置換の炭素数1〜24の炭化水素基、アリールオキシ基を表す。炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基、およびこれらが結合した基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基が好ましい。R10〜R11で表される炭化水素基およびアリールオキシ基の置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基等が挙げられる。
【0060】
式(9)中、R12は、置換もしくは非置換の、炭素数2〜24の2価の炭化水素基、または2価の複素環式基を表す。2価の炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、およびこれらが結合した基が挙げられる。これらの中でも、炭素数2〜12のアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基が好ましい。また、2価の複素環式基としては、酸素原子、硫黄原子、および窒素原子から選択される原子を1〜4個有する複素環式基が挙げられる。R12で表される炭化水素基および複素環式基の置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0061】
このような2つのエポキシ基を有する化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、1,3−ビス{4−[1−メチル−1−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−エチル]−フェノキシ}−プロパン−2−オール、1,3−ビス−{2,6−ジブロモ−4−[1−(3,5−ジブロモ−4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−メチル−エチル]−フェノキシ}−プロパン−2−オール、1−(3−(2−(4−((オキシラン−2−イル)メトキシ)フェニル)プロパン−2−イル)フェノキシ)−3−(4−(2−(4−((オキシラン−2−イル)メトキシ)フェニル)プロパン−2−イル)フェノキシ)プロパン−2−オールが挙げられる。
【0062】
なお、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物は、上記以外のエポキシ基を有する重合体であってもよい。この場合、エポキシ基は、分子構造のいずれの部位に存在してもよい。たとえば主鎖の末端に存在してもよいし、側鎖の末端に存在してもよい。反応効率の観点からは、側鎖の末端にエポキシ基を有する化合物が好ましい。エポキシ基を有する重合体としては、たとえばポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリシジルメタクリレート、ポリグリシジルアクリレート等が挙げられる。
【0063】
反応原料のモル比は、(C)成分1molに対して、(D)成分を0.1〜10molの範囲で用いることが好ましく、0.5〜2molの範囲で用いることがより好ましい。
【0064】
4.3.重合開始剤
本発明に係る上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルを製造する際に、重合開始剤としてホスフィン類を使用することができる。ホスフィン類としては、ホスフィン、ホスフィン化合物、ホスファイト化合物等が挙げられ、これらの中でも下記式(10)で表される化合物が好適に用いられる。
【0065】
【化15】

【0066】
式(10)中、R13〜R15は、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜12のハロゲン化炭化水素基、または炭素数1〜12のアルコキシル基を表す。
【0067】
炭素数1〜12の炭化水素基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が挙げられ、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0068】
また、炭素数1〜12のハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、炭素数2〜12のハロゲン化アルケニル基、炭素数3〜12のハロゲン化シクロアルキル基、炭素数6〜12のハロゲン化芳香族炭化水素基等が挙げられる。具体的には、ハロゲン化アルキル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、トリブロモメチル基、ペンタクロロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタブロモエチル基等が挙げられ、ハロゲン化芳香族炭化水素基としては、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、クロロナフチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜12のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0069】
13〜R15としては、これらの中でも、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基であることがより好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。
【0070】
本発明に係る上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルを製造する際、ホスフィン類の使用量は、(C)成分1molに対して、通常0.001〜1molである。
【0071】
また、本発明のポリエステルの製造方法に用いられる溶媒としては、たとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、デカリン、ノルボルナン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロムヘキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化化合物;酢酸エチル等の飽和カルボン酸エステル;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられるが、テトラヒドロフラン、クロロベンゼン、1,4−ジオキサンが好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0072】
本発明に係る上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルを製造する際、溶媒の使用量は、(C)成分および(D)成分の合計量を100質量部としたときに、好ましくは0質量部以上500質量部以下、より好ましくは0質量部以上200質量部以下である。
【0073】
上記反応の反応時間は、1〜360時間が好ましく、1〜120時間がより好ましく、1〜72時間が特に好ましい。上記反応の反応温度は、室温〜300℃が好ましく、60〜180℃がより好ましく、100〜140℃が特に好ましい。また、上記反応の反応圧力は1〜2気圧程度で行うことが好ましく、大気圧下(0.1MPa)で行うのがより好ましい。
【0074】
反応終了後は、溶媒留去、再沈澱、遠心分離、またはろ過等の公知の手段により、目的とするポリエステルを採取することができる。上述したポリエステルの製造方法によれば、環状オリゴマー等の副生成物の混入が少なく、純度が高い上記式(4)または上記式(5)で示される構造を有するポリエステルが得られる。
【0075】
また、得られるポリエステルのポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)は、1,000〜100,000であることが好ましく、3,000〜50,000であることがより好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0077】
1.合成例1[式(1)で示される化合物の製造]
窒素雰囲気下で、30ml容量の二口ナスフラスコに1,2,3−プロパントリカルボン酸1.0g(5.6mmol)、メタクリル酸無水物2.6g(17.0mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン0.14g(1.1mmol)、塩化銅(II)23mg(0.17mmol)を入れ、140℃で6時間反応させた。反応終了後、反応混合物を0.04mmHg、75℃で、未反応のメタクリル酸無水物および反応により副製したメタクリル酸を留去した。残存物を酢酸エチルに溶解し、ジエチルエーテル200mlに再沈殿した後、沈殿物を濾別した。ジエチルエーテルを留去し、酢酸エチルに再度溶解し炭酸水素ナトリウム水溶液で分液洗浄した。回収した有機層は硫酸マグネシウムで乾燥、濾過した後、溶媒を留去した。さらに、残存物をアセトン50mlに溶解し活性炭(アルカリ性)0.25gで処理した後、濾過により活性炭を除去した。アセトンを留去し、トルエンから再結晶することにより単離収率50.4%で下記式(11)で示される化合物を得た。
【0078】
【化16】

【0079】
図1は、合成例1で得られた化合物のH−NMRスペクトルである。図2は、合成例1で得られた化合物の13C−NMRスペクトルである。図3は、合成例1で得られた化合物のFT−IRスペクトルである。
【0080】
2.合成例2[ポリエステルの製造]
窒素雰囲気下、10ml容量のアンプルに、2,8−ジオキサ−1−(イソプロペニル)ビシクロ[3.3.0.]オクタン−3,7−ジオン292mg(1.6mmol)、グリシジルフェニルエーテル240mg(1.6mmol)、トリフェニルホスフィン17mg(0.065mmol)、テトラヒドロフラン0.8mlを入れ、脱気封管をした後、120℃で5時間重合反応を行った。反応終了後、反応混合物を冷却した後、酢酸のクロロホルム溶液(1vol%、1ml)を加えることによって、反応を停止した。この反応溶液をメタノールに注ぎ、メタノールに不溶なオイル状の生成物を集め、真空乾燥を行い、収率79%で、下記式(12)で示される重合体を得た。
【0081】
【化17】

【0082】
得られた重合体について、構造分析、重量平均分子量を評価した。分析方法を以下に示す。
【0083】
(1)構造分析
得られた重合体のH−NMRスペクトル、IRスペクトルから構造分析を行った。図4は、合成例2で得られた重合体のH−NMRスペクトルである。図5は、合成例2で得られた重合体のFT−IRスペクトルである。
【0084】
(2)重量平均分子量
重量平均分子量は、溶媒にはテトラヒドロフランを用いて、測定温度40℃にて、ポリスチレン換算の分子量を求めた。得られた化合物の重量平均分子量(Mw)は8,600であり、Mw/Mnは2.0であった。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るポリエステルは、樹脂素材として使用可能であり、フィルム化して用いることができる。さらに、ビニル系モノマーの架橋剤として用いることができる。また、透明性に優れていることから、例えば高屈折率材料等の光学材料として用いることができる。その他、式(1)で示される化合物を共重合した重合体は、感放射線性樹脂組成物の樹脂として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物。
【化18】

(式(1)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で示される化合物と、下記式(3)で示される化合物と、を反応させることによりなる、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【化19】

(式(2)中、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。)
【化20】

(式(3)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
下記式(4)または下記式(5)で示される構造を有するポリエステル。
【化21】

(式(4)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。Rは、水酸基、アリールオキシ基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基またはアルコキシル基を表す。)
【化22】

(式(5)中、Rは、水素原子、または置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一または異なってもよく、水素原子、水酸基、置換もしくは非置換の炭素数1〜12の炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基を表す。R18は、置換もしくは非置換の、炭素数2〜24の2価の炭化水素基、または2価の複素環式基を表す。)
【請求項4】
ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)が、1,000〜100,000である、請求項3に記載のポリエステル。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物と、エポキシ化合物と、を反応させることによりなる請求項3または請求項4に記載のポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−236196(P2011−236196A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29454(P2011−29454)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】