説明

新規化合物および該化合物の合成方法、ならびに該化合物を含有する酸化防止剤、樹脂組成物および樹脂成型体

【課題】高い耐熱性を有する新規化合物および該化合物の合成方法、ならびに該化合物を含有する酸化防止剤、樹脂組成物および樹脂成型体を提供する。
【解決手段】式(1)で示される化合物。


は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の(ハロゲン化)炭化水素であり、Rは、それぞれ独立に、単結合又は−CO−であり、R,Rは2価であり、Rは一価であり、それぞれ独立に、炭素数1〜20の(ハロゲン化)炭化水素であり、Aは、単結合、炭素数1〜20の2価の(ハロゲン化)炭化水素、−S−、−SO2−、−CO−、又は−O−であり、mは0〜10の整数であり、nは0〜4の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂などの高分子材料の酸化防止剤に有用な新規化合物および該化合物の合成方法、ならびに該化合物を含んでなる酸化防止剤、樹脂組成物および樹脂成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂などの高分子材料はその優れた機械的、化学的特性から包装用資材、建材、自動車用部品、日常雑貨品、農業用資材、医療用器具、デジタルカメラ用レンズ、携帯電話用レンズ、CD、ブルーレイ用ピックアップレンズ、マイクロレンズに代表される光学レンズ、ディスク等の基板、導光板、プリズムシート等の幅広い用途に利用されている。しかし、高分子材料は通常、加熱加工時に高温に曝されることによって着色などの劣化現象が見られ、本来の機能を失い易く、実用に適さなくなる場合がある。また、高分子材料は各種用途に使用される場合も、経時的に着色などの劣化現象が見られる場合がある。
【0003】
この着色などの劣化現象を抑制する方法として、種々の酸化防止剤を合成樹脂に添加する方法が知られている。ここに使用される酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の一次酸化防止剤やリン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の二次酸化防止剤がある。
【0004】
これらの化合物の中で、フェノール系酸化防止剤としては、例えば、特許文献1に示すような化合物が知られている。しかしながら、該化合物は、耐熱性が不十分であり、加熱加工時に高温に曝されることによって分解してしまうなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−040984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、高い耐熱性を有する新規化合物および該化合物の合成方法、ならびに該化合物を含有する酸化防止剤、樹脂組成物および樹脂成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、下記構造を有する化合物を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
【0008】
[1] 下記式(1)で示される化合物。
【0009】
【化1】

(式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立に、単結合または−CO−であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R5は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Aは、単結合、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、−S−、−SO2−、−CO−、または−O−であり、mは0〜10の整数であり、nは0〜4の整数である。)
【0010】
[2] 上記式(1)において、R2が単結合である、[1]に記載の化合物。
[3] [1]または[2]に記載の化合物を含有する酸化防止剤。
[4] [1]または[2]に記載の化合物を含有する樹脂組成物。
[5] [1]または[2]に記載の化合物を含有する樹脂成型体。
[6] 下記式(2)で表わされる化合物と下記式(3)で表わされる化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする、下記式(1)で表わされる化合物の合成方法。
【0011】
【化2】

(式(2)において、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R5は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Aは、単結合、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、−S−、−SO2−、−CO−、または−O−であり、mは0〜10の整数であり、nは0〜4の整数である。)
【0012】
【化3】

(式(3)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Yは、R6SO3−で表される基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基である。ただし、R6は、炭素数1〜20の炭化水素基である。)
【0013】
【化4】

(式(1)において、R1およびR3は、式(3)中のR1およびR3と同義であり、R2は、それぞれ独立に、単結合または−CO−であり、R4、R5、A、mおよびnは式(2)中のR4、R5、A、mおよびnと同義である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規化合物は、高い耐熱性を有し、酸化防止作用を有する。このため、該化合物は、合成樹脂などの高分子材料の酸化防止剤として好適に用いることができる。
また、着色などの劣化現象化起こりにくい樹脂組成物および樹脂成型体を提供することができる。
【0015】
さらに、本発明に係る合成方法は、高純度の新規化合物を収率良く、容易に合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の新規化合物および該化合物の製造方法、ならびに該化合物を含有する酸化防止剤、樹脂組成物および樹脂成型体について詳細に説明する。
【0017】
[化合物]
本発明の新規な化合物は、下記式(1)で表わされる化合物である。なお、以下において、下記式(1)で表される化合物を「化合物(1)」ともいう。
【0018】
【化5】

式(1)中、R1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立に、単結合または−CO−であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R5は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Aは、単結合、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、−S−、−SO2−、−CO−、または−O−であり、mは0〜10の整数であり、nは0〜4の整数である。
【0019】
上記R1における炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基などの炭素数1〜20のアルキル基;シクロペンチル基およびシクロヘキシル基などの炭素数3〜20のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基などの炭素数6〜20の芳香族炭化水素基;ビニル基およびアリル基などの炭素数2〜20のアルケニル基などが挙げられる。
【0020】
上記R1における炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基、炭素数3〜20のハロゲン化シクロアルキル基および炭素数6〜20のハロゲン化芳香族炭化水素基などが挙げられる。前記ハロゲン化アルキル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、トリブロモメチル基、ペンタクロロエチル基、ペンタフルオロエチル基およびペンタブロモエチル基などが挙げられ;前記ハロゲン化芳香族炭化水素基としては、クロロフェニル基およびクロロナフチル基などが挙げられる。
【0021】
上記R3およびR5における炭素数1〜20の2価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の2価の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基および炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0022】
上記R3およびR5における炭素数1〜20の2価の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基およびヘプタメチレン基などのアルキレン基;プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基およびヘキシリデン基等の分岐鎖のアルキリデン基;アルケニレン基;アルキニレン基などが挙げられる。これらの中では、メチレン基および/またはアルキレン基が好ましい。
【0023】
上記R3およびR5における炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基およびシクロへキシレン基などのシクロアルキレン基;シクロブテニレン基、シクロペンテニレン基およびシクロヘキセニレン基などのシクロアルケニレン基などが挙げられる。上記脂環式炭化水素基の結合部位は、脂環上の何れの炭素上でもよい。
【0024】
上記R3およびR5における炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ビフェニレン基およびナフチレン基などのアリーレン基などが挙げられる。
上記R3およびR5における炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基としては、上記例示の炭素数1〜20の2価の炭化水素基が有する水素原子の少なくとも1つを、ハロゲン原子(例:フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)で置換した基が挙げられる。
【0025】
上記R4における炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、上記R1と同様の官能基を挙げることができる。
上記R4における炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、上記R1と同様の官能基を挙げることができる。
【0026】
上記Aにおける炭素数1〜20の2価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の2価の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基あるいは炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基などを挙げることができ、具体的には、上記R3と同様の官能基を挙げることができる。
上記Aにおける炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基も上記R3と同様の官能基を挙げることができる。
【0027】
上記式(1)において、
1としては、それぞれ独立に、水素原子または炭素数3〜20の1価の炭化水素基であることが好ましい。また、任意の一つの芳香環に結合する少なくとも一つのR1が炭素数3〜20の1価の炭化水素基であることが好ましく、芳香環に結合する−OH基に隣接する1つまたは2つのR1が炭素数3〜20の1価の炭化水素基であることがより好ましい。また、炭素数3〜20の1価の炭化水素基としては、t−ブチル基であることが特に好ましい。
【0028】
2としては、それぞれ独立に、単結合であることがより好ましい。
3としては、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であることが好ましく、メチレン基;エチレン基またはトリメチレン基であることがより好ましい。
【0029】
Aとしては、それぞれ独立に、イソプロピリデン基、−S−、−SO2−、−CO−、または−O−であることが好ましい。
nとしては、0であることが好ましい。
【0030】
mとしては、0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
上記式(1)において、R2が単結合であると、酸化防止効果を有し、耐熱性がより高く、また樹脂との相溶性に優れた化合物を得ることができる。
【0031】
また、上記式(1)で表される化合物が、下記式(1’)で表される化合物(以下、化合物(1')ともいう。)であると、酸化防止剤として好適に用いることができる。
【0032】
【化6】

(式(1’)中、R1〜R5、A、mおよびnは式(1)中のR1〜R5、A、mおよびnと同義である。)
【0033】
[化合物(1)の合成方法]
続いて本発明の化合物(1)の合成方法について詳細に説明する。本発明の化合物(1)は、以下の式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)ともいう。)と、以下の式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)ともいう。)とを反応させる工程を含む方法で合成することができる。化合物(2)と化合物(3)とを反応させることで、高純度の新規化合物(1)を収率良く、容易に合成することができる。
【0034】
【化7】

(式(2)において、R4、R5、A、mおよびnは式(1)中のR4、R5、A、mおよびnと同義である。)
【0035】
【化8】

(式(3)において、R1およびR3は、式(1)中のR1およびR3と同義であり、Yは、R6SO3−で表される基、またはカルボキシル基である。ただし、R6は、炭素数1〜20の炭化水素基である。)
【0036】
上記R6における炭素数1〜20の炭化水素基としては、上記R1における炭素数1〜20の1価の炭化水素基と同様の官能基を挙げることができる。
【0037】
化合物(2)と化合物(3)との反応において、化合物(2)と化合物(3)とのモル比(化合物(3)/化合物(2))は、通常は4〜20、好ましくは4.05〜5である。
このような量で化合物(2)と化合物(3)とを反応させると、高純度の新規化合物(1)をより収率良く、容易に合成することができる。
【0038】
上記反応の条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃、特に好ましくは−10〜80℃であり;反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間、特に好ましくは1〜10時間である。
【0039】
<化合物(1)においてR2が−CO−である化合物の合成方法>
化合物(1)において、R2が−CO−である化合物は、化合物(2)と、化合物(3)においてYがカルボキシル基である化合物とを反応させることで得ることができる(以下、反応Aともいう。)。
【0040】
該反応Aは、カルボジイミドおよび/または塩基触媒などの存在下で行うことができる。カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミドおよびジイソプロピルカルボジイミドなどを挙げることができる。
化合物(3)とカルボジイミドとのモル比(カルボジイミド/化合物(3))は、通常は1〜20、好ましくは1.05〜5である。
【0041】
また、塩基触媒としては、N,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ピリジンおよび炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
化合物(3)と塩基触媒とのモル比(塩基触媒/化合物(3))は、通常は0.01〜1、好ましくは0.05〜0.5である。
【0042】
また、上記反応Aでは、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素および/または1,2−ジクロロエタンなどの有機溶媒や水などを溶媒として用いてもよい。溶媒の使用量は、化合物(3)1gあたり、通常は0.1〜50ml、好ましくは1〜20ml、特に好ましくは2〜10mlである。
反応Aにおいて、化合物(2)と化合物(3)とのモル比、および、反応の条件は上記と同様である。
【0043】
<化合物(1)においてR2が単結合である化合物の合成方法>
また、化合物(1)において、R2が単結合である化合物は、化合物(2)と、化合物(3)においてYがヒドロキシル基またはR6SO3−で表される基(ただし、R6は、炭素数1〜20の炭化水素基である。)である化合物とを反応させることで得ることができる(以下、反応Bともいう。)。
【0044】
該反応Bは、触媒などの存在下で行うことができる。該触媒としては、水素化ナトリウムなどが挙げられる。化合物(2)と触媒とのモル比(触媒/化合物(2))は、通常は0.01〜20、好ましくは0.1〜10である。
【0045】
また、反応Bでは、N,N−ジメチルアセトアミド、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素および/または1,2−ジクロロエタンなどの有機溶媒や水などを溶媒として用いてもよい。溶媒の使用量は、化合物(3)1gあたり、通常は0.1〜50ml、好ましくは1〜20ml、特に好ましくは2〜10ml以下である。
反応Bにおいて、化合物(2)と化合物(3)とのモル比、および、反応の条件は上記と同様である。
【0046】
<化合物(1’)の合成方法>
なお、化合物(1’)を合成する場合には、上記合成方法において、化合物(3)の代わりに下記式(3’)で表わされる化合物を用いればよい。
【0047】
【化9】

(式(3')において、R1、R3およびYは、式(3)中のR1、R3およびYと同義である。)
【0048】
〈化合物(2)の合成方法〉
上記化合物(2)は、公知の方法で得ることができ、例えば、下記式(5)で表わされる化合物を水素化して下記式(6)で表わされる化合物(以下、化合物(6)ともいう。)を得る工程(i)、化合物(6)を酸化して下記式(7)で表わされる化合物(以下、化合物(7)ともいう。)を得る工程(ii)、化合物(7)と下記式(8)で表わされる化合物(以下、化合物(8)ともいう。)とを反応させる工程(iii)、および、工程(iii)で得られた化合物(以下、化合物(8')ともいう。)と、アルキレンカーボネートまたは下記式(9)で表わされる化合物(以下、化合物(9)ともいう。)とを反応させる工程(iv)をこの順序で含んでなる製造方法を挙げることができる。なお、化合物(2)において、mが0である化合物を合成する場合には、上記工程(iv)は不要である。
【0049】
【化10】

(式(5)において、Aは、式(1)中のAと同義である。)
【0050】
【化11】

(式(6)において、Aは、式(1)中のAと同義である。)
【0051】
【化12】

(式(7)において、Aは、式(1)中のAと同義である。)
【0052】
【化13】

(式(8)において、R4およびnは、式(1)中のR4およびnと同義である。)
【0053】
【化14】

(式(9)において、R5およびmは、式(1)中のR5およびmと同義であり、Zは、ハロゲン原子である。)
【0054】
上記工程(i)は、従来公知の方法を適用できる。
上記工程(ii)は、従来公知の方法を適用することができるが、例えば、上記化合物(6)を、酸化剤および溶媒の存在下で反応させればよい。
【0055】
酸化剤としては、次亜塩素酸および次亜臭素酸などの次亜ハロゲン酸、これらの塩、ならびに塩素などのハロゲンを挙げることができる。
化合物(6)と酸化剤とのモル比(酸化剤/化合物(6))は、好ましくは2〜3、さらに好ましくは2.1〜2.3である。
【0056】
また、溶媒としては、特に制限されないが、上記酸化剤と反応し難いものであって、化合物(6)の溶解性が高いものが望ましく、例えば、メタノール、酢酸、トルエン、クロロベンゼン、ジオキサンおよびこれらを含む混合溶媒を挙げることができる。
溶媒の使用量は、化合物(6)1gあたり、通常は0.1〜50mlである。
また、この工程(ii)の条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は0℃〜溶媒の沸点以下の温度、好ましくは10〜40℃であり;反応時間は、通常は0.1〜10時間である。
【0057】
上記工程(iii)は、従来公知の方法で製造することができるが、例えば、上記化合物(7)と上記化合物(8)とを、酸触媒の存在下で反応させればよい。
化合物(7)と化合物(8)とのモル比(化合物(8)/化合物(7))は、通常は4〜50、好ましくは4〜10である。
【0058】
酸触媒としては、例えば、塩化水素ガス、塩酸、硫酸およびリン酸等の無機酸ならびにP−トルエンスルホン酸、シュウ酸およびメタンスルホン酸等の有機酸を挙げることができる。
化合物(7)と酸触媒との重量比(酸触媒/化合物(7))は、好ましくは0.05〜1、さらに好ましくは0.3〜0.7である。
【0059】
また、工程(iii)では、上記酸触媒と共に適当な助触媒、例えばメチルメルカプタン、エチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンおよび/またはオクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類などを添加して反応を促進させることができる。
化合物(7)と助触媒との重量比(助触媒/化合物(7))は、好ましくは0.01〜0.1、さらに好ましくは0.02〜0.06である。
【0060】
工程(iii)では、必要に応じて溶媒を用いてもよく、例えば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物、n−ヘキサン、シクロヘキサンおよびn−ペンタン等の飽和炭化水素、メタノールおよびt−ブタノール等のアルコール類などを適宣単独で、あるいは混合して使用することができる。
【0061】
化合物(8)と溶媒との重量比(溶媒/化合物(8))は、好ましくは0.01〜10、さらに好ましくは0.1〜2である。
また、この工程(iii)の条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は0℃〜60℃、好ましくは10〜40℃であり;反応時間は、通常は1〜10時間、好ましくは、1〜5時間である。
【0062】
上記工程(iv)は、従来公知の方法で製造することができるが、例えば、化合物(8')(上記化合物(2)においてm=0である化合物)と、アルキレンカーボネートまたは上記化合物(9)とを、塩基触媒の存在下で反応させればよい。
【0063】
化合物(8')とアルキレンカーボネートとのモル比(アルキレンカーボネート/化合物(8'))は、通常は4〜20、好ましくは4〜10であり、化合物(8')と化合物(9)とのモル比(化合物(9)/化合物(8'))は、通常は4〜20、好ましくは4〜10である。
ここで、アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0064】
塩基触媒としては、例えば、炭酸カリウムおよび炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミドおよびテトラメチルアンモニウムクロリド等の四級アンモニウム塩などを挙げることができる。
化合物(8')と、塩基触媒との重量比(塩基触媒/化合物(8'))は、好ましくは0.01〜1、さらに好ましくは0.05〜0.5である。
【0065】
工程(iv)では、さらに、必要に応じて溶媒を用いてもよく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよび/またはジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性溶媒などを適宣単独であるいは混合して使用することができる。
化合物(8')と溶媒との重量比(溶媒/化合物(8'))は、好ましくは0.01〜10、さらに好ましくは0.1〜2である。
【0066】
また、この工程(iv)の条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は0℃〜200℃、好ましくは30〜160℃であり;反応時間は、通常は1〜10時間、好ましくは、1〜5時間である。
【0067】
〈化合物(3)においてYがR6SO3−で表される基である化合物の合成方法〉
なお、化合物(3)において、YがR6SO3−で表される基(ただし、R6は、炭素数1〜20の炭化水素基である。)である化合物は、化合物(3)においてYがヒドロキシル基である化合物と、下記式(4)で表される化合物(以下、化合物(4)ともいう。)とを反応させることで得ることができる(以下、反応Cともいう。)。
【0068】
【化15】

(式(4)において、R6は、炭素数1〜20の炭化水素基であり、Xは、ハロゲン原子である。)
【0069】
上記反応Cにおいて、化合物(3)と化合物(4)とのモル比(化合物(4)/化合物(3))は、通常は1〜20、好ましくは2〜5である。
反応Cは、塩基触媒の存在下で行うことができる。塩基触媒としては、N,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ピリジンおよび炭酸ナトリウムなどが挙げられる。化合物(4)と塩基触媒とのモル比(塩基触媒/化合物(4))は、通常は0.01〜10、好ましくは0.1〜5である。
【0070】
また、反応Cにおいて、N,N−ジメチルアセトアミド、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素および/または1,2−ジクロロエタンなどの有機溶媒や水などを溶媒として用いてもよい。溶媒の使用量は、化合物(3)1gあたり、通常は0.1〜50mlであり、1〜20mlが好ましく、2〜10mlが特に好ましい。
【0071】
上記反応Cの条件は特に限定されないが、反応温度は、通常は−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃、特に好ましくは−10〜80℃であり;反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間、特に好ましくは1〜10時間である。
【0072】
[酸化防止剤]
本発明に係る酸化防止剤は、上記化合物(1)を含有すればよく、上記化合物(1)のみからなることが好ましい。
【0073】
上記化合物(1)は、耐熱性および樹脂との相溶性などに優れるため、特に、加工や成形の際などにおいて、高温に曝されることのある樹脂および樹脂成型体の酸化防止剤として好適に使用することができる。
【0074】
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、樹脂と上記化合物(1)とを含有する。
該樹脂としては、環状オレフィン系重合体、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリサルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリパラフェニレン樹脂(PPP)、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂(PEPO)、ポリイミド樹脂(PPI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)およびポリアミドイミド樹脂(PAI)などを挙げることができる。これらの樹脂の中でも、上記化合物(1)との相溶性などの観点から環状オレフィン系重合体が好適に用いられる。
【0075】
なお、樹脂組成物において、化合物(1)配合量は、樹脂100質量部に対して、0.05〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。
【0076】
[樹脂成型体]
本発明に係る樹脂成型体は、上記化合物(1)を含有することを特徴とする。本発明の樹脂成型体は、上記樹脂組成物を成形したものが好ましい。
【0077】
このような樹脂成型体としては、特に制限されないが、具体的には、包装用資材、建材、自動車用部品、日常雑貨品、農業用資材、医療用器具、デジタルカメラ用レンズ、携帯電話用レンズ、CD、ブルーレイ用ピックアップレンズ、マイクロレンズに代表される光学レンズ、ディスク等の基板、導光板およびプリズムシート等の幅広い用途に用いられている樹脂成型体を挙げることができる。
【0078】
上記化合物(1)は、特に耐熱性、樹脂との相溶性に優れるため、該化合物(1)を含有する樹脂組成物および樹脂成型体は、保存安定性に優れ、特に、高温に曝されても、着色などの劣化現象が起こりにくい。
【実施例】
【0079】
実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されない。
【0080】
(合成例1)
滴下ロートと温度計を装着した1L三口フラスコに、下記式(3−A)で表わされる3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−フェニル)−プロピルアルコール105.8g(0.4mol)を量り取り、窒素雰囲気下、塩化メチレン500mlを加え溶解し、該フラスコを氷浴で冷却した。この溶液に、トリエチルアミン121g(1.2mol)を加え、次いで溶液温度を5℃以下に保持し、メタンスルホニルクロリド105.4g(0.92mol)を90分間かけて滴下ロートを通じて滴下した。次いで、氷浴をはずし、20℃まで昇温し、20℃で1時間攪拌後、反応液に氷水を加え、塩化メチレン層を分液作業で分取した。この塩化メチレン層を更に蒸留水200mlで分液洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後、溶媒を留去し、粗生成物(メタンスルホネート)を137g得た。
【0081】
【化16】

滴下ロートと温度計を装着した1L三口フラスコに、水素化ナトリウムミネラルオイル懸濁液より精製した水素化ナトリウム3.84g(160mmol)を量り取った。ここに窒素雰囲気下でN,N−ジメチルアセトアミド100mlを加え、懸濁液を作成し、次いで氷浴で冷却した。ついで、下記式(2−A)で表わされる4,4’,4’’,4’’’−[(1−メチルエチリデン)ジ−4−シクロヘキサニル−1−イリデン]テトラキスフェノール18.5g(32mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド100mlに溶解し、懸濁液中に、30分間かけて滴下した。この溶液を氷冷下30分間攪拌し、ついで、この溶液中に、上記で合成したメタンスルホネート54.8g(160mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド200mlに溶解した溶液を、30分間かけて滴下した。30分後、この溶液を室温まで昇温し、さらに30分後、70℃まで加温した。5時間後、反応液を室温まで冷却し、塩化アンモニウムを反応液に注ぎ、反応を終了した。反応後の溶液を酢酸エチル300mlで3回抽出後、この有機層を集めて、蒸留水で洗浄し、これを減圧留去し、粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、酢酸エチル−ヘキサン留分より白色固体35.1gを得た。更に、この白色固体35.1gをジエチルエーテル−ヘキサンの混合溶媒で再結晶化することにより、下記式(1−A)で表わされる目的物を30.3g(収率61%)得た。
【0082】
【化17】

【0083】
【化18】

【0084】
この化合物の1H−NMR測定(ブルカー株式会社製 AVANCE500型)、MS分析(日本ウォーターズ株式会社製 ACQUITY UPLC®システム並びにSYNAPT HDMS(High Definition Mass Spectrometry)システム)およびTG−DTAによる分析(理学電気株式会社製TG8120)を行い、目的の化合物が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。
【0085】
1H-NMR(溶媒:CDCl3) 化学シフトσ:7.23ppm(芳香環水素、4H)、7.03ppm(芳香環水素、4H)、6.99ppm(芳香環水素、4H)、6.96ppm(芳香環水素、4H)、6.83ppm(芳香環水素、4H)、6.72ppm(芳香環水素、4H)、5.01ppm(フェノール性水酸基、4H)、3.95ppm(芳香環−O−CH2−、4H)、3.89ppm(芳香環−O−CH2−、4H)、2.73ppm〜2.65ppm(12H)、2.03ppm(芳香環−CH2−CH2−CH2−、8H)、1.84ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、1.58ppm〜1.21ppm(14H)、1.41ppm(tert−ブチル基、72H)、0.52ppm(メチル基、6H)。
【0086】
LC−MS:[M++Na]=1585.1150 (calc.1185.1106)、[M++K]=1601.1073 (calc. 1601.0846)
TG−DTA:融点=170℃
【0087】
(合成例2)
上記式(2−A)で表わされる4,4’,4’’,4’’’−[(1−メチルエチリデン)ジ−4−シクロヘキサニル−1−イリデン]テトラキスフェノール25.9g(45mmol)、および、下記式(3−B)で表わされる3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−フェニル)−プロピオン酸56.2g(202.5mmol)を、2L三口フラスコに量り取り、塩化メチレン800mlを加え溶解し、氷浴で冷却した。冷却後、この溶液に、窒素雰囲気下でジシクロヘキシルカルボジイミド44.5g(216mmol)およびN,N−ジメチルアミノピリジン2.7g(25mmol)を加え攪拌した。30分後、室温まで反応液を昇温させ、室温25℃で4時間攪拌した。4時間後、反応液中で析出した溶媒不溶分を、吸引ろ過により除去し、溶媒可溶分を集めて減圧留去した。残渣溶液が総量500ml程度になった所で、該残渣溶液を分液ロートに移し、10%希塩酸100mlで洗浄し、次いで、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlで洗浄し、蒸留水100mlで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後の溶液を、ろ過、減圧留去し、目的物の粗生成物として白色固体を得た。この白色固体をn−ヘキサンで再結晶化することにより、下記式(1−B)で表わされる目的物52.6g(収率72%)を得た。
【0088】
【化19】

【0089】
【化20】

【0090】
この化合物の1H−NMR測定(ブルカー株式会社製 AVANCE500型 )、MS分析(日本ウォーターズ株式会社製 ACQUITY UPLC®システム並びにSYNAPT HDMS(High Definition Mass Spectrometry)システム)、TG−DTAによる分析(理学電気株式会社製TG8120)を行い、目的の化合物が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。
【0091】
1H-NMR(溶媒:CDCl3) 化学シフトσ:7.32ppm(芳香環水素、4H)、7.12ppm(芳香環水素、4H)、7.04ppm(芳香環水素、4H)、7.02ppm(芳香環水素、4H)、6.99ppm(芳香環水素、4H)、6.85ppm(芳香環水素、4H)、5.08ppm(フェノール性水酸基、4H)、2.97ppm(芳香環−OCO−CH2−、4H)、2.82ppm(芳香環−OCO−CH2−、4H)、2.66ppm(シクロヘキサン環状水素、2H)、1.90ppm〜1.21ppm(16H)、1.43ppm(tert−ブチル基、72H)、0.51ppm(メチル基、6H)。
【0092】
LC−MS:[M++Na]=1641.0172 (calc. 1641.0277)、[M++K]=1657.0240 (calc. 1657.0016)
TG−DTA :融点=181℃
【0093】
(合成例3)
上記式(2−A)で表わされる4,4’,4’’,4’’’−[(1−メチルエチリデン)ジ−4−シクロヘキサニル−1−イリデン]テトラキスフェノール100g(173mmol)、エチレンカーボネート 122g(1384mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド 11.1g(35mmol)およびN,N−ジメチルホルムアミド100mlを、ジムロート冷却管並びに温度計を装着した500ml三口フラスコに加え、150℃で4時間加熱攪拌を行なった。反応液を冷却し、N,N−ジメチルホルムアミドを減圧留去した後にクロロホルム500mlを加え分液ロートに移した。ここに5%水酸化カリウム水溶液100mlを加え、有機層を分取した。この有機層にさらに5%水酸化カリウム水溶液100mlを加え、有機層を分取した。その後、この溶液を蒸留水100mlで2度洗浄した。ここで得たクロロホルム溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去し、粗結晶を得た。この粗結晶を酢酸エチルで再結晶することで、下記式(2−B)で表わされる化合物を111g(収率85%)得た。
【0094】
【化21】

【0095】
この化合物の1H−NMR測定(ブルカー株式会社製 AVANCE500型)により、目的の化合物が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。
【0096】
1H-NMR(溶媒:CDCl3) 化学シフトσ:7.25ppm(芳香環水素、4H)、7.05ppm(芳香環水素、4H)、6.86ppm(芳香環水素、4H)、6.75ppm(芳香環水素、4H)、4.07ppm(芳香環−O−CH2−、4H)、4.01ppm(芳香環−O−CH2−、4H)、3.95ppm(芳香環−O−CH2−CH2−OH、4H)、3.90ppm(芳香環−O−CH2−CH2−OH、4H)、2.63ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、1.99ppm(水酸基水素、2H)、1.94ppm(水酸基水素、2H)、1.84ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、1.60ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、1.38ppm(シクロヘキサン環状水素、2H)、1.20ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、0.52ppm(メチル基、6H)。
【0097】
上記工程で合成した上記式(2−B)で表わされる化合物 3.07g(4.09mmol)および下記式(3−B)で表わされる3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−フェニル)−プロピオン酸5.0g(18.0mmol)を100mL三口フラスコに量り取り、塩化メチレン40mlを加え溶解した。この溶液に、窒素雰囲気下でジシクロヘキシルカルボジイミド4.05g(19.6mmol)およびN,N−ジメチルアミノピリジン0.25g(2.0mmol)を加え攪拌した。4時間攪拌後、反応液中で、析出した溶媒不溶分を吸引ろ過により除去し、溶媒可溶分を集めて減圧留去した。該残渣溶液をクロロホルム100mlに溶解し、分液ロートに移し、10%希塩酸20mlで洗浄し、次いで、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mlで洗浄し、さらに蒸留水20mlで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後の溶液を、ろ過、減圧留去し、目的物の粗生成物として白色固体を得た。この白色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、酢酸エチル:n−ヘキサン留分より、下記式(1−C)で表わされる目的物4.23g(収率58%)を得た。
【0098】
【化22】

【0099】
この化合物の1H−NMR測定(ブルカー株式会社製 AVANCE500型 )、TG−DTAによる分析(理学電気株式会社製 TG8120)を行い、目的の化合物が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。
【0100】
1H-NMR(溶媒:CDCl3) 化学シフトσ:7.25ppm(芳香環水素、4H)、7.05ppm(芳香環水素、4H)、6.98ppm(芳香環水素、8H)、6.84ppm(芳香環水素、4H)、6.73ppm(芳香環水素、4H)、5.05ppm(フェノール性水酸基、4H)、4.43ppm(芳香環−O−CH2−CH2−OC=O、4H)、4.38ppm(芳香環−O−CH2−CH2−OC=O)、4.14ppm(芳香環−O−CH2−、4H)、4.08ppm(芳香環−O−CH2−、4H)、2.87ppm(芳香環−CH2−CH2−C=O、4H)、2.63ppm(芳香環−CH2−CH2−C=O、シクロヘキサン環状水素、12H)、1.84ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、1.60ppm(シクロヘキサン環状水素、4H)、1.38〜1.20ppm(t-ブチル基、シクロヘキサン環状水素、78H)、0.52ppm(メチル基、6H)。
【0101】
(評価例1) 酸化防止効果
ARTON樹脂(ARTON R5300、JSR株式会社製)の10%(wt/wt)トルエン溶液1kgを調製し、そこに、上記合成例1、2で合成した化合物または市販の代表的なフェノール系酸化防止剤であるIrganox1010(日本チバガイギー株式会社製)をそれぞれ0.3g(ARTON樹脂に対して0.3%)添加、溶解した。次いで、PTFEフィルターでろ過後、トルエン溶液を減圧留去し、濃縮固化した。この固形物をアルゴン雰囲気下、330℃で3時間加熱した後、トルエンに再溶解し、10%(w/w)トルエン溶液に調整した後、黄色度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

(評価例1) 熱分析(TG−DTA)
上記合成例1〜3で合成した化合物、およびIrganox1010(日本チバガイギー株式会社製)について、300℃で1時間保持した場合の重量減少率を、TG−DTA(理学電気株式会社製 TG8120)により測定した。
測定条件:窒素雰囲気で、40℃/minで300℃まで昇温、次いで、300℃で1時間保持し、その重量減少率を算出した。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

上記合成例1〜3で合成した化合物については、いずれもIrganox1010と比較して重量減少率は小さく、合成例1で合成した化合物は、特に重量減少率が小さいことが分かった。
【0104】
(評価例3) 保存安定性
ARTON樹脂(ARTON R5300、JSR株式会社製)0.9gと、上記合成例1で合成した化合物0.1gとを混合し、該混合物を塩化メチレン9gに溶解して固形分濃度10wt%の溶液を調製した。シャーレに該溶液を塗布し、乾燥した後、一晩静置してフィルムを形成した。その後、得られたフィルムをシャーレから剥離してから、減圧乾燥機にて100℃で24時間乾燥した。得られたフィルムを切り刻んで試験管に入れ、窒素ガスフローしながら、はんだ槽を用いて300℃で18時間加熱した。加熱前後のフィルム30mgを、それぞれ、テトラヒドロフラン(THF)5mLに溶解させ、これらの溶液を用い、GPC測定を行なった。RI検出領域のピーク面積(ポリマー部)を求め、加熱前後の面積からゲル分率を以下式に従って算出した。
【0105】
また、合成例1で合成した化合物に代えてIrganox1010(日本チバガイギー株式会社製)を用いて同様にゲル分率を測定した。それぞれ、結果を表3に示す。
ゲル分率(%)=(1−加熱後の樹脂のRI検出領域のピーク面積/加熱前後の樹脂のRI検出領域のピーク面積)×100
【0106】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物。
【化1】

(式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立に、単結合または−CO−であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R5は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Aは、単結合、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、−S−、−SO2−、−CO−、または−O−であり、mは0〜10の整数であり、nは0〜4の整数である。)
【請求項2】
上記式(1)において、R2が単結合である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含有する酸化防止剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化合物を含有する樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物を含有する樹脂成型体。
【請求項6】
下記式(2)で表わされる化合物と下記式(3)で表わされる化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする、下記式(1)で表わされる化合物の合成方法。
【化2】

(式(2)において、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R5は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Aは、単結合、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、−S−、−SO2−、−CO−、または−O−であり、mは0〜10の整数であり、nは0〜4の整数である。)
【化3】

(式(3)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、R3は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、または炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基であり、Yは、R6SO3−で表される基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基である。ただし、R6は、炭素数1〜20の炭化水素基である。)
【化4】

(式(1)において、R1およびR3は、式(3)中のR1およびR3と同義であり、R2は、それぞれ独立に、単結合または−CO−であり、R4、R5、A、mおよびnは式(2)中のR4、R5、A、mおよびnと同義である。)

【公開番号】特開2011−148713(P2011−148713A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9175(P2010−9175)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】