説明

新規化合物および該化合物を含む有機半導体材料

【課題】キャリア移動度と安定性が高く、有機半導体材料として好適な新規化合物を提供する。
【解決手段】
下記一般式(E)で表される化合物。
【化1】


(但し、R1'は、炭素数1〜3のフッ素置換アルキル基である。)

当該化合物はキャリア移動度と安定性が高く、容易な製造プロセスで成膜が可能であるため、有機半導体材料として好適である。特に有機薄膜トランジスタ用の有機半導体層として好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料に好適な新規化合物および該化合物を含む有機半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キャリア輸送性を有する有機化合物を利用した有機電子デバイスの開発が活発に行われている。このような有機化合物は、有機EL素子用の発光材料、電荷注入材料、電荷輸送性材料あるいは有機レーザー発振素子へ応用されている(例えば、特許文献1、2)。また、このような有機化合物の有機薄膜トランジスタへの応用が期待されている。
薄膜トランジスタは、液晶表示装置などの表示用スイッチング素子として広く用いられており、従来、この薄膜トランジスタにはアモルファスや多結晶のシリコンが用いられてきたが、安価かつ生産性の面から有機半導体材料を用いたトランジスタが提案されている。かかる有機半導体材料として使用される有機化合物として、種々の報告がなされている。
【0003】
例えば、特許文献3には、移動度の高い新規な有機半導体材料用の有機化合物として、スチルベン構造を有する共役系あるいは非共役系のオリゴマーやポリマーが開示されている。また、特許文献4には、有機薄膜トランジスタの有機半導体層に、スチリル基を有する特定構造の有機化合物を用いることにより応答速度(移動度)を高速化できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−12330号公報
【特許文献2】特開平6-59486号公報
【特許文献3】特開2004−214482号公報
【特許文献4】国際公開WO2007/094361号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トランジスタ、有機EL素子用の発光材料、電荷注入材料、電荷輸送性材料あるいは有機レーザー発振素子などに使用される有機半導体層としての実用に供するためには、有機半導体材料としてのキャリア移動度が高いことに加え、酸素や水分に対する耐久性及び加工性に優れ、かつ、各種電極材料との化学的、物理的及び電気的な接合特性が優れることなど総合的な性能が不可欠である。
しかしながら、特許文献3で開示された化合物は、有機半導体材料としてのキャリア移動度が十分ではない。
一方、特許文献4で開示された化合物は、n型半導体の性質を示し、高いキャリア(電子)移動度を有する。しかしながら、酸素や水分に対する耐久性が十分でなく、さらに電子注入順位であるLUMOが浅いため、電極としてカルシウムなどの不安定な金属を使用せざるを得ない。また、従来の有機半導体材料は、有機溶媒への易溶性、各種の基板材料との親和性などが十分でなく、塗布プロセスなどの容易な製造プロセスで成膜することが困難である。
【0006】
このように、キャリア(電子)移動度と安定性とを両立する有機半導体材料は存在しないのが実状である。
かかる状況下、本発明は、キャリア(電子)移動度と安定性が高く、容易な製造プロセスで成膜が可能で有機半導体材料に好適な新規化合物、及び該化合物を含む有機半導体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ある特定の構造を有する化合物、及び該化合物を含有する有機半導体材料が、上記目的を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は次の態様に係る化合物及び有機半導体材料に係るものである。
[1] 下記一般式(E)で表される化合物。
【化1】

(但し、R1'は、炭素数1〜3のフッ素置換アルキル基である。)

[2] 下記化学式(E6)で表される化合物。
【化2】


[3] 前記[1]又は[2]で表される化合物を含む有機半導体材料。
【0008】
<1> 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む有機半導体材料。
【化3】

(但し、式中、Lは、2価の連結基を表し、非置換または置換のビニレン基、アセチレン基、非置換または置換の芳香族環式炭化水素残基、非置換または置換の芳香族縮合環式炭化水素残基、非置換または置換の芳香族複素環式炭化水素残基、非置換または置換の縮合した芳香族複素環式炭化水素残基から選ばれる基のいずれか1つまたは2つ以上組み合わせて構成された構造であって、
1は、カルボニル基、シアノ基、または、炭素数1から12のフッ素置換アルキル基を表し、
2は、ハロゲン原子、シアノ基、カルボニル基、または、アセチル基を表す。)
<2> 前記化合物が、結晶性を有する前記<1>記載の有機半導体材料。
<3> 前記化合物が、対称性を有する分子構造を有する前記<1>または<2>に記載の有機半導体材料。
<4> 前記化合物が、点対称中心を有する前記<3>記載の有機半導体材料。
<5> 前記一般式(1)において、R1が、炭素数1から6のフッ素置換アルキル基である前記<1>から<4>のいずれかに記載の有機半導体材料。
<6> 前記一般式(1)において、R1が、炭素数1から3のフッ素置換アルキル基である前記<1>から<4>のいずれかに記載の有機半導体材料。
<7> 前記一般式(1)において、R2が、シアノ基である前記<1>から<6>のいずれかに記載の有機半導体材料。
<8> 前記一般式(1)において、Lが、4つ以下の基からなる前記<1>から<7>のいずれかに記載の有機半導体材料。
<9> 前記一般式(1)において、Lが、非置換または置換のビニレン基、非置換または置換のベンゼン残基、非置換または置換のナフタレン残基、非置換または置換のアントラセン残基、非置換または置換のチオフェン残基、非置換または置換のチエノチオフェン残基、非置換または置換のフラン残基、非置換または置換のピロール残基、非置換または置換のチアゾール残基から選ばれる少なくとも1つまたは2つ以上組み合わせて構成された構造である前記<1>から<8>のいずれかに記載の有機半導体材料。
<10> 前記一般式(1)において、Lが、非置換のベンゼン残基、非置換のチオフェン残基あるいは非置換のチエノチオフェン残基である前記<9>記載の有機半導体材料。
<11> 少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体層、ソース電極、ドレイン電極を有する有機薄膜トランジスタであって、
前記有機半導体層が、前記<1>から<10>のいずれかに記載の有機半導体材料からなる有機薄膜トランジスタ。
<12> 前記有機半導体層が、結晶性を有することを特徴とする前記<11>記載の有機薄膜トランジスタ。
<13> 少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体層、ソース電極、ドレイン電極を有する有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記<1>から<10>のいずれかに記載の有機半導体材料を含む有機溶媒を塗布することによって、前記有機半導体層を形成する有機薄膜トランジスタの製造方法。
<14> 少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体層、ソース電極、ドレイン電極を有する有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記<1>から<10>のいずれかに記載の有機半導体材料を蒸着することによって、前記有機半導体層を形成する有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規化合物は、有機半導体材料として用いると、有機薄膜トランジスタ用の有機半導体層として実用上総合的な高性能を有し、該有機薄膜トランジスタ用の有機半導体層として好適に使用することができる。
さらに本発明の新規化合物は、一般的な有機溶媒への溶解性が高いため、簡便な塗布法によって薄膜を形成できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機半導体材料からなる有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタの概略構成例を示す図である。
【図2】本発明の有機半導体材料からなる有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタの他の概略構成例を示す図である。
【図3】有機薄膜トランジスタ2の出力特性を示す図である。
【図4】有機薄膜トランジスタ2の伝達特性を示す図である。
【図5】有機薄膜トランジスタ10の出力特性を示す図である。
【図6】有機薄膜トランジスタ10の伝達特性を示す図である。
【図7】有機薄膜トランジスタ1の大気中動作試験から算出される移動度の結果である。
【図8】有機薄膜トランジスタ1の大気中暴露安定性試験の結果である。
【図9】有機薄膜トランジスタ1の薄膜X線回折の結果である。
【図10】有機薄膜トランジスタ7の大気中動作試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、下記一般式(E)で表される化合物に関する。
【化4】


(但し、R1'は、炭素数1〜3のフッ素置換アルキル基である。)
【0012】
また、本発明は、下記化学式(E6)で表される化合物に関する。
【化5】

【0013】
上記一般式(E)で表される化合物(以下、「化合物(E)」と称す場合がある。)、特に化合物(E)においてR1'が、炭素数1のフッ素置換アルキル基である、上記化学式(E6)で表される化合物(以下、「化合物(E6)」と称す場合がある。)は、高いキャリア移動度を有し、各種電極材料との化学的、物理的及び電気的接合特性に優れており、かつ、空気や水分への安定性が高い。さらに化合物(E)や化合物(E6)は、一般的な有機溶媒への溶解性が高いため、簡便な塗布法によって薄膜を形成できるという利点がある。
【0014】
(有機半導体材料)
本発明の有機半導体材料は、化合物(E)、特に化合物(E6)を含むものである。化合物(E)、特に化合物(E6)は、上述のような性質を有するため、有機半導体材料として好適である。
【0015】
また、本発明の有機半導体材料には、化合物(E)や化合物(E6)以外にも以下の一般式(1)で表される構造を有する化合物が含まれていてもよい。なお、化合物(E)や化合物(E6)も一般式(1)で表される化合物に含まれる。
以下、一般式(1)で表される化合物を「本発明の化合物」と総称する場合がある。
【化6】

【0016】
上記一般式(1)において、Lは2価の連結基を表し、非置換または置換のビニレン基、アセチレン基、非置換または置換の芳香族環式炭化水素残基、非置換または置換の芳香族縮合環式炭化水素残基、非置換または置換の芳香族複素環式炭化水素残基、非置換または置換の縮合した芳香族複素環式炭化水素残基から選ばれる基の1つまたは2つ以上組み合わせて構成された構造を表す。
【0017】
上記の芳香族環式炭化水素残基としては、ベンゼン残基;
芳香族縮合環式炭化水素残基としては、ナフタレン残基、フェナントレン残基、アントラセン残基、ペリレン残基、ピレン残基、クリセン残基、ペンタセン残基、フェナジン残基、テトラセン残基、トリフェニレン残基、ピセン残基等;
芳香族複素環式炭化水素残基としては、チオフェン残基、フラン残基、ピロール残基、ピラゾール残基、イミダゾール残基、トリアゾール残基、オキサゾール残基、チアゾール残基、チアジアゾール残基、ピリジン残基、ピミリジン残基、トリアジン残基、ピラジン残基等;
縮合した芳香族複素環式炭化水素残基としては、フルオレン残基、インドール残基、カルバゾール残基、ベンゾチオフェン残基、ベンゾフラン残基、チエノチオフェン残基、チアゾロチアゾール残基、ジベンゾチオフェン残基、ジベンゾフラン残基、ジチエノチオフェン残基、ベンゾイミダゾール残基、ベンゾオキサゾール残基、プリン残基、ベンゾチオフェンベンゾチオフェン残基、ジベンゾベンゾジフラン残基、アクリジン残基、キノリン残基等;
が挙げられる。
【0018】
ここで、Lの好適な具体的としては、非置換または置換のビニレン基、非置換または置換のベンゼン残基、非置換または置換のナフタレン残基、非置換または置換のアントラセン残基、非置換または置換のペリレン残基、非置換または置換のピレン残基、非置換または置換のチオフェン残基、非置換または置換のフラン残基、非置換または置換のピロール残基、非置換または置換のチアゾール残基、非置換または置換のベンゾチオフェン残基、非置換または置換のベンゾフラン残基、非置換または置換のチエノチオフェン残基から選ばれる基の少なくとも1つまたは2つ以上組み合わせて構成された構造が挙げられる。
【0019】
ここで、R1、R2の電子吸引性部位が主骨格であるLに対して、その電子吸引性を十分に発揮する観点からは、Lが、4つ以下の基であることが好ましく、さらに2つ以下の基であることが好ましい。
【0020】
さらに、Lのより好適な具体例としては、下記式(2)で表される非置換のベンゼン残基、下記式(3)で表される非置換のチオフェン残基、下記式(4)で表される非置換のチエノチオフェン残基、下記式(5)で表される非置換のフラン残基、下記式(6)で表される非置換のピロール残基が挙げられ、この中でも特に、非置換のベンゼン残基、非置換のチオフェン残基、非置換のチエノチオフェン残基が好ましい。
【0021】
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0022】
上記一般式(1)において、R1は、カルボニル基、シアノ基、または、炭素数1から12のフッ素置換アルキル基を表す。
ここで、特にフッ素置換アルキル基であることが好ましい。R1が、フッ素置換アルキル基の場合には、フッ素原子が有する電子吸引性だけでなく、アルキル基同士の相互作用により秩序性が現れる。その結果、本発明の化合物の結晶性が向上する傾向がある。
また、本発明の化合物におけるフッ素置換アルキル基の炭素数は、炭素数1〜12であるが、炭素数1〜6が好ましく、炭素数1〜3が特に好ましい。炭素数が1〜6であれば、炭素数が多いことにより薄膜形成時に膜性が著しく劣ることがない。また炭素数が1〜3であれば、炭素数が多いことにより薄膜形成時に薄膜中での分子配向が著しく変化することがない。これらのことより有機薄膜トランジスタの電子移動度およびON/OFF比が著しく低下することがない。
なお、本発明の化合物において、R1がベンゼン環のパラ位に置換していることに特徴があり、パラ位に置換していることによって、本発明の化合物のキャリア移動度が向上する傾向がある。
【0023】
2は、電子吸引性のハロゲン原子、シアノ基、カルボニル基、または、アセチル基を表す。この中でも、上記一般式(1)で表される本発明の化合物において、シアノ基は、立体障害を起こすことなく、分子間相互作用を強めるはたらきがあり、本発明の化合物の結晶性の向上に寄与するため特に好ましい。
【0024】
次に、本発明の化合物の具体例を示すが、あくまでも例示であり、本発明の化合物がこれらに限定されるものではない。
【0025】
Lが芳香族環式炭化水素残基から構成された例としては、下記化合物(A1)〜(A4)が例示できる。
【0026】
【化12】

【0027】
【化13】

【0028】
【化14】

【0029】
【化15】

【0030】
Lが芳香族縮合環式炭化水素残基から構成された例としては、(B1)〜(B6)が例示できる。
【0031】
【化16】

【0032】
【化17】

【0033】
【化18】

【0034】
【化19】

【0035】
【化20】

【0036】
【化21】

【0037】
Lが芳香族複素環式炭化水素残基から構成された例としては、下記化合物(C1)〜(C7)が例示できる。
【0038】
【化22】

【0039】
【化23】

【0040】
【化24】

【0041】
【化25】

【0042】
【化26】

【0043】
【化27】

【0044】
【化28】

【0045】
Lが芳香族縮合複素環式炭化水素残基から構成された例としては、下記化合物(D1)〜(D6)が例示できる。
【0046】
【化29】

【0047】
【化30】

【0048】
【化31】

【0049】
【化32】

【0050】
【化33】

【0051】
【化34】

【0052】
Lが置換された芳香族環式炭化水素残基から構成された例としては、化合物(E6)のほかにも、下記化合物(E1)〜(E5)及び化合物(E7)が例示できる。
【0053】
【化35】

【0054】
【化36】

【0055】
【化37】

【0056】
【化38】

【0057】
【化39】

【0058】
【化40】

【0059】
【化41】

【0060】
1がハロゲン置換アルキル基の例としては、下記化合物(F1)〜(F4)が例示できる。
【0061】
【化42】

【0062】
【化43】

【0063】
【化44】

【0064】
【化45】

【0065】
Lが、芳香族環、複素環、ビニレン基の少なくとも2つ以上の基の組み合わせから構成された例としては、下記化合物(G1)〜(G5)が例示できる。
【0066】
【化46】

【0067】
【化47】

【0068】
【化48】

【0069】
【化49】

【0070】
【化50】

【0071】
Lが縮合した芳香族複素環式炭化水素残基から構成された例のうち、特に縮合した芳香族環および縮合した複素環の組み合わせから構成された例としては、下記化合物(H1)〜(H7)が例示できる。
【0072】
【化51】

【0073】
【化52】

【0074】
【化53】

【0075】
【化54】

【0076】
【化55】

【0077】
【化56】

【0078】
【化57】

【0079】
その他の例として、下記化合物(I1)〜(I3)が例示できる。
【0080】
【化58】

【0081】
【化59】

【0082】
【化60】

【0083】
また、本発明の化合物のうち、結晶性を有するものが特に好ましい。結晶性を有すると、分子間距離が近いため電子移動が容易となり、また、分子間の距離が一定であるため電気的特定が安定となるという利点がある。なお、本発明において、「結晶性を有する」とは、X線回折法(XRD)において、実質的に2次以上の反射が確認できることをいう。
なお、後述するように本発明の化合物は、有機薄膜トランジスタにおける、1μm以下程度の厚みを有する薄膜状の有機半導体層として好適に使用される。そのため、バルク体のみならず、薄膜状の有機半導体層として結晶性を有することが望ましい。
【0084】
また、本発明の化合物は、対称性を有することが好ましく、特に点対称中心を有することが好ましい。
上記で例示した化合物のうち、面対称の化合物には、(C1),(C3),(D2),(H5)が挙げられ、点対称の化合物には、(A1)〜(A4),(B1)〜(B6),(C2),(C4)〜(C7),(D1),(D3)〜(D6),(E1)〜(E4),(E6),(E7),(F1)〜(F4),(G1)〜(G4),(H1)〜(H7),(I1)〜(I3)が挙げられる。
【0085】
以上で示される本発明の化合物はキャリア移動度が高く、酸素や水分を特に取り除かなくてもそのキャリア移動度は0.01[cm2/Vsec]以上である。また、本発明の化合物は、空気(酸素)や水分に対する安定性が高く、酸化され難い。
【0086】
また、本発明の化合物は、後述する一般的な有機溶媒に可溶である。そのため、適切な溶媒に溶解し必要に応じ添加剤を加えて調製した溶液をキャストコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェット法などの塗布法による薄膜の形成が可能である。
溶媒としては、本発明の化合物を適切な濃度まで溶解できるものであればよく、特に制限されないが、具体的にはクロロホルムや1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、m−クレゾールなどの芳香族系溶媒、N−メチルピロリドン、二硫化炭素などを挙げることができる。
【0087】
本発明における有機半導体層には本発明の化合物から選ばれる材料1種類を用いてもよく、また複数を組み合わせてもよく、ペンタセン、チオフェンオリゴマー、フラーレンなどの公知の有機半導体を用いて複数の混合薄膜または積層して用いてもよい。
【0088】
本発明の化合物は、有機化合物合成における従来公知の方法によって合成することができる。具体的には、ブロモ化、シアノ化、アルデヒド化とする方法が挙げられる。なお、化合物合成の最終ステップがクネーフェナーゲル縮合反応により為されていると、収率70%以上を達成できるため好適である。
【0089】
(有機薄膜トランジスタ)
上述のように本発明の化合物は、一般的な有機溶媒に可溶性でありながら、空気および水分に対する安定性を有する。そのため、真空蒸着により基板上に設置することもできるが、塗布法によって簡便な装置で特性が良好で信頼性が高い有機薄膜トランジスタ用の有機半導体層を得ることができる。
【0090】
本発明の有機半導体材料を有機半導体層として用いた有機薄膜トランジスタの概略断面図を図1に示す。
本発明に係る有機薄膜トランジスタ素子10(以下、単に「トランジスタ素子10」ともいう。)は、基板1上に膜状のゲート電極2、ゲート絶縁層3、有機半導体層4を順次積層し、さらに有機半導体層4の上に一対の膜状のソース電極5およびドレイン電極6が形成した構造を有する。なお、ここで示す構成は、本発明の有機半導体材料を有機半導体層として用いた有機薄膜トランジスタの一実施形態である。本発明の有機半導体材料は該形態に限ることなく、例えば、図2に示すような形態でもよく、あらゆる有機薄膜トランジスタに適用できる。
【0091】
基板1は、トランジスタ素子10の自立性を確保するためのものであり、特に材質が限定されないが、例えばガラス基板、各種樹脂基板、Siなどの半導体基板など各種の基板を好適に用いることができる。ここで、基板の加工性や機械的強度の観点からは、Si基板が好適に使用される。また、電子ペーパーなどの用途では、ポリエチレンナフタレート(Polyethylene naphthalate, PEN)などの可とう性の高い樹脂が好適に用いられる。また、本実施形態では基板1とゲート電極2とを別の材質として構成するが、トランジスタ素子10の自立性を確保するという観点からは、ゲート電極2に十分な厚みを持たせて、自立膜(自立層)とすることで、基板として兼用することもできる。
【0092】
ゲート電極2は、ソース−ドレイン電流を制御するために用いられる電極である。ゲート電極2の材料としては、導電性のものであれば特に制限はなく、例えば、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、スズ(Sn)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)などの金属材料、これら金属の酸化物、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチアジルなどの公知の導電性ポリマーなどを好適に用いることができる。
基板1を使用する場合のゲート電極2の厚さとしては特に制限されるものではないが、通常、10nm〜150nmである。
一方、ゲート電極2を基板として兼用する場合には、十分な自立性を持たせるために、ゲート電極2の厚みは、10μm〜0.5mmであることが好ましい。
【0093】
ゲート絶縁層3は、ゲート電極2と有機半導体層4の間に設けられるものである。ゲート絶縁層3を構成する材料は上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではなく、具体的には、酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化タンタル(Ta25)等の金属酸化膜、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化エチレン、ポリスチレン、ポリキシリレン、セルロース、プルラン、サイトップ等の有機化合物の少なくとも一つで構成される絶縁層であればよい。特にゲート電極2を基板として兼用する場合に好適である、Si基板を使用する場合には、その表面を酸化することで形成することができるSiO2をゲート絶縁層3として用いることができる。
ゲート絶縁層3の厚さは、ゲート電極とソース電極の間の絶縁性を確保できればよく、特に制限されるものではないが、通常、100〜1000nmである。
【0094】
有機半導体層4は、本発明の有機半導体材料からなる。有機半導体層4をゲート絶縁層3の上に形成する方法は、特に限定されず、公知の成膜(積層)方法を用いることができる。例えば、本発明の有機半導体材料を適切な溶剤に溶解して調製した溶液を、キャストコート、スピンコート、インクジェット法、アブレーション法などの公知の塗布技術によって形成する方法(以下、塗布法)や、真空蒸着などの気相成膜法などが挙げられる。
【0095】
上述のように塗布法は、設備が簡易でよいため、低コスト化、量産化することが容易になるという利点がある。塗布法において、溶剤としては、本発明の化合物を溶解して適切な濃度の溶液が調製できるものであれば特に制限はないが、具体的にはクロロホルムや1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、m−クレゾールなどの芳香族系溶媒、N−メチルピロリドン、二硫化炭素などを挙げることができる。
本発明の化合物は、一般的な有機溶媒に可溶なものが多く、例えば、CF3CN−DSBの場合には、クロロホルムあるいはトルエンに溶解させて、好適に塗布することができる。
【0096】
気相成膜法は、塗布法より高コストになる場合があるが、有機半導体層に含まれる本発明の化合物の結晶性が高くなる傾向にあるため、より高性能のトランジスタ素子を形成することができる。気相成膜法の中でも、真空蒸着法が薄膜品質の観点から、特に好ましい。
【0097】
有機半導体層4の膜厚としては、特に制限はないが、得られたトランジスタの特性は、有機半導体からなる活性層の膜厚に大きく左右される場合が多く、その膜厚は有機半導体により異なるが、一般に1μm以下であり、特に10〜300nmが好ましい。
【0098】
ソース電極5、ドレイン電極6は、有機半導体層4の上に設けられた一対の膜状の電極であり、ソース電極5から有機半導体層4を介してドレイン電極6に電流を供給することができる。ソース電極5、ドレイン電極6の材料としては、導電性材料であれば特に制限はなく、上述のゲート電極2と同様の材料を挙げることができる。この中でも、有機半導体層4との接触面において電気抵抗が小さいものが好ましく、具体的にはCu、Ag、Pt、Auを挙げることができ、化学的に安定で触媒活性が小さいAuが特に好適である。
これらの電極の形成方法としては、有機半導体層上にシャドウマスクを配置し、上記を原料として真空蒸着法やスパッタリング法などを用いて電極形成する方法、上記を原料として真空蒸着法やスパッタリング法などを用いて形成した薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、金属箔上に熱転写する方法、インクジェットなどによるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングする方法、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
使用した試薬は次の通りである。
「試薬」
4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル(東京化成社製)
4-メチルフェニルアセトニトリル(東京化成社製)
テレフタルアルデヒド(東京化成社製)
2,5’-ビチオフェンジアルデヒド(2,5-ジブロモチオフェンとブチルリチウムとジメチルホルムアミドから合成)
2,6-チエノチオフェンジアルデヒド(2,6-ジブロモチエノチオフェンとブチルリチウムとジメチルホルムアミドから合成)
ビフェニル-2,2'-ジカルボキサアルデヒド(東京化成社製)
2,5-チオフェンジアルデヒド(2,5-ジブロモチオフェンとブチルリチウムとジメチルホルムアミドから合成)
4-フルオロフェニルアセトニトリル(東京化成社製)
ナトリウムエトキシド(和光純薬社製)
カリウムt-ブトキシド(和光純薬社製)
4-パーフルオロヘキシルフェニルアセトニトリル(ヨードトルエンとパーフルオロヘキシルヨージドから合成)
2,5-ジフルオロテレフタルアルデヒド(ジフルオロジブロモベンゼンから合成)
【0101】
「実施例1」
(1)有機半導体材料1の合成
窒素雰囲気下の50mlフラスコに4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル740mg(2mmol)、テレフタルアルデヒド268mg(1mmol)、エタノール5ml、DMF15mlを入れて溶液とし、これにナトリウムエトキシド14mg(0.2mmol)をエタノール1mlに溶かした溶液を室温下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下後、さらに2時間撹拌を行ったのち、メタノールを加え結晶を吸引ろ過した。得られた結晶をメタノールでよく洗浄してからデシケーター中で真空乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を、クロロホルムから再結晶して有機半導体材料1である(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DSB、化合物(A1)、黄色結晶)を合成した。収量775mg(収率80%)であった。
【0102】
(2)有機薄膜トランジスタ1の作製
300nmの熱酸化膜付きシリコンウエハ(住友三菱シリコン製、1×1cm(面積:1cm2)、厚さ:525μm)をゲート電極およびゲート絶縁膜とし、その酸化膜表面に真空蒸着法(蒸着条件:減圧下(4.0×10-6torr程度)において、蒸着速度0.5nm/min、基板温度:室温(約25℃))により、有機半導体材料1を膜厚が約50nmとなる条件で成膜して、有機半導体層を形成した。
この有機半導体層の表面上に、シャドウマスクを用いて、真空蒸着法によりAuからなる、膜厚が約30nmのソース電極およびドレイン電極を形成することで、上述した図1の形状の実施例1となる有機薄膜トランジスタ1を得た。なお、形成したソース電極およびドレイン電極のチャネル長(L)が20μm、チャネル幅(W)が2mmである。
【0103】
「実施例2」
(1)有機半導体材料2の合成
窒素雰囲気下の100mlフラスコに、2,5’-ビチオフェンジアルデヒド152.2mg(0.5mmol)、4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル185.2mg(1.0mmol)、エタノール7.0ml、DMF48.0mlを入れて溶液とし、これにナトリウムエトキシド3.4mg(0.05mmol)をエタノール1.0mlに溶かした溶液を、室温下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下後、さらに1時間撹拌を行ったのち、0℃に冷やしメタノールを加え結晶を吸引ろ過した。得られた結晶をメタノールでよく洗浄してからデシケーター中で真空乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を、クロロホルムから再結晶して(2Z,2’Z)-3,3’-(5,5’-ビチオフェン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DS2T、化合物(C2)、赤色結晶)を得た。収量261.9mg(収率82%)であった。
【0104】
(2)有機薄膜トランジスタ2の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料2を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の実施例2となる有機薄膜トランジスタ2を得た。
【0105】
「実施例3」
(1)有機半導体材料3の合成
窒素雰囲気下の100mlフラスコに、2,6-チエノチオフェンジアルデヒド98.1mg(0.5mmol)、4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル185.2mg(1.0mmol)、エタノール5.0ml、DMF30.0mlを入れて溶液とし、これにナトリウムエトキシド3.4mg(0.05mmol)をエタノール1.0mlに溶かした溶液を、室温下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下後、さらに1時間撹拌を行ったのち、0℃に冷やしメタノールを加え結晶を吸引ろ過した。結晶をメタノールでよく洗浄してからデシケーター中で真空乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を、クロロホルムから再結晶して(2Z,2’Z)-3,3’-(2,5-チエノ[3,2-b]チオフェン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル)(略称:CF3CN−DSTT、化合物(D1)、橙色結晶)を得た。収量225.5mg(収率85%)、Mass (FAB+)m/z=530(M+)であった。
【0106】
(2)有機薄膜トランジスタ3の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料3を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の実施例3となる有機薄膜トランジスタ3を得た。
【0107】
「実施例4」
(1)有機半導体材料4の合成
窒素雰囲気下の30mlフラスコ中、テレフタルアルデヒド67.1mg(0.5 mmol)とアセトニトリル誘導体435.2 mg(1.0 mmol)をエタノール(11 ml)に溶解させた。そこにナトリウムエトキシド3.4 mg(0.05 mmol)をエタノール1mlに溶かした溶液を室温下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下後、さらに1時間撹拌を行ったのち、0℃に冷やしメタノールを加え結晶を吸引ろ過した。得られた結晶をメタノールでよく洗浄してからデシケーター中で真空乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を、クロロホルムから再結晶して(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-パーフルオロヘキシル)フェニルアクリロニトリル(略称:C613CN−DSB、化合物(F2))を得た。収量328.3mg (収率70%)であった。
【0108】
(2)有機薄膜トランジスタ4の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料4を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の実施例4となる有機薄膜トランジスタ4を得た。
【0109】
「実施例5」
(1)有機半導体材料5の合成
窒素雰囲気下の30mlフラスコに、2,5-チオフェンジアルデヒド70.1 mg(0.5 mmol)、4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル 185.2 mg(1.0 mmol)、エタノール 1.0 ml、DMF 4.0 mlを入れて溶液とし、これにナトリウムエトキシド 3.4 mg(0.05 mmol)をエタノール 1.0 mlに溶かした溶液を、室温下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下を終わってからさらに1時間撹拌を行ったのち、水を加えた。飽和塩化ナトリウム水溶液を加えてクロロホルムで抽出した(三回)。乾燥後、溶媒を留去し、得られた粗生成物を、ヘキサン/クロロホルムから再結晶して(2Z,2’Z)-3,3’-(2,5-チオフェン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DS1T、化合物(C1)、橙色結晶)を得た。収量217.0 mg(収率91 %)であった。
【0110】
(2)有機薄膜トランジスタ5の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料5を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の実施例5となる有機薄膜トランジスタ5を得た。
【0111】
「実施例6」
(1)有機半導体材料6の合成
窒素雰囲気下の50mlフラスコに4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル186mg(1mmol)、ビフェニル-2,2'-ジカルボキサアルデヒド100mg(0.5mmol)、エタノール5ml、THF15mlを入れて溶液とし、これにカリウムt-ブトキシド11mg(0.1mmol)をエタノール2mlに溶かした溶液を0℃下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下後、室温下でさらに2時間撹拌を行ったのち、メタノールを加え結晶を吸引ろ過した。得られた結晶をメタノールでよく洗浄してからデシケーター中で真空乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を、クロロホルムから再結晶して有機半導体材料1である(2Z,2’Z)-3,3’-(4,4’-ビフェニル)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DSBP、化合物(A2)、青白色結晶)を合成した。収量230mg(収率90%)であった。
【0112】
(2)有機薄膜トランジスタ6の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料6を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の実施例6となる有機薄膜トランジスタ6を得た。
【0113】
(1)有機半導体材料7の合成
窒素雰囲気下の100mlフラスコ中、ジフルオロアルデヒド170.1 mg(1.0 mmol)と4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル370.3 mg(2.0 mmol)をエタノール(49 ml)に溶解させた。そこにナトリウムエトキシド6.8 mg(0.1 mmol)をエタノール1mlに溶かした溶液を室温下マグネチックスターラーで撹拌しながら滴下した。滴下後、さらに1時間撹拌を行ったのち、0℃に冷やしメタノールを加え結晶を吸引ろ過した。得られた結晶をメタノールでよく洗浄してからデシケーター中で真空乾燥して、469.1mgの二フッ素置換ジスチリルベンゼン誘導体の粗生成物(ca.93%)を得た。得られた粗生成物を、ヘキサン/クロロホルムから再結晶して(2Z,2’Z)-3,3’-(2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DSBF2、化合物(E6)、黄色結晶)を得た。収量395.7mg(収率78%)であった。
【0114】
(2)有機薄膜トランジスタ7の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料7を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の実施例7となる有機薄膜トランジスタ7を得た。
【0115】
「比較例1」
(1)有機半導体材料8の合成
4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリルの代わりに4-メチルフェニルアセトニトリルを使用したした以外は、実施例1と同様にして、有機半導体材料8である、(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-メチル)フェニルアクリロニトリル)(略称:CH3CN−DSB)を合成した。
【0116】
(2)有機薄膜トランジスタ8の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料8を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の比較例1となる有機薄膜トランジスタ8を得た。
【0117】
「比較例2」
(1)有機半導体材料9の合成
4-トリフルオロメチルフェニルアセトニトリルの代わりに4-メチルフェニルアセトニトリルを使用したした以外は、実施例1と同様にして、有機半導体材料9である、(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-フルオロ)フェニルアクリロニトリル)(略称:FCN−DSB)を合成した。
【0118】
(2)有機薄膜トランジスタ9の作製
有機半導体材料1の代わりに有機半導体材料9を使用した以外は、実施例1と同様にして、上述した図1の形状の比較例2となる有機薄膜トランジスタ9を得た。
【0119】
「評価」
Keithley社製2612A型2chシステムソースメータを使用して、真空下(10-5torr以下)にて作製した有機薄膜トランジスタ1〜9のそれぞれのソース・ドレイン電極間に−100Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−100Vから100Vの範囲で変化させ、それぞれの有機薄膜トランジスタの出力特性および伝達特性を評価した。
代表例として、実施例2(有機薄膜トランジスタ2)の出力特性および伝達特性を図3、図4に示す。
また、伝達特性における最大電流値と最小電流値の比をとって、これをそれぞれの有機薄膜トランジスタのON/OFF比とした。また、伝達特性の飽和領域から、それぞれの有機薄膜トランジスタのキャリア移動度を算出した。それぞれの有機薄膜トランジスタのON/OFF比およびキャリア(電子)移動度を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
「実施例8」
(1)有機半導体材料1の合成
実施例1と同様にして、有機半導体材料1である、(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DSB、化合物(A1))を合成した。
(2)有機薄膜トランジスタ10の作製
熱酸化膜付きシリコンウエハの代わりに、基板としてPENフィルム(厚み100μm)を使用し、Au(40nm)/Ti(5nm)を真空蒸着することでゲート電極とした。ゲート絶縁膜としてポリイミド前駆体溶液からスピンコート法により薄膜を形成、熱処理を施すことで厚み600mm程度のポリイミド絶縁膜(静電容量C=4.5nF/cm2)とした。このポリイミド絶縁膜上に有機半導体材料1を膜厚30nm程度に真空蒸着したのち、ソースおよびドレインとしてAu(厚み40nm)L=20μm,W=2mmを蒸着することにより、上述した図2の形状の実施例8となる有機薄膜トランジスタ10を得た。有機薄膜トランジスタ10の出力特性および伝達特性を図5、図6に示す。上記実施例と同様の方法で算出した、有機薄膜トランジスタ10のON/OFF比は、105であり、キャリア(電子)移動度は、0.1[cm2/Vsec]であった。
【0122】
「実施例9」
(1)有機半導体材料1の合成
実施例1と同様にして、有機半導体材料1である、(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DSB、化合物(A1))を合成した。
【0123】
(2)有機薄膜トランジスタ11の作製
300nmの熱酸化膜付きシリコンウエハ(住友三菱シリコン製、1×1cm(面積:1cm2)、厚さ:525μm)をゲート電極およびゲート絶縁膜とした。酸化膜表面に有機半導体材料1を濃度1mg/mlのクロロホルム溶液からドロップキャスト法により、有機半導体材料1を成膜して、有機半導体層を形成した。
この有機半導体層の表面上に、シャドウマスクを用いて、真空蒸着法によりAuからなる、膜厚が約30nmのソース電極およびドレイン電極を形成することで、上述した図1の形状の実施例9となる有機薄膜トランジスタ11を得た。なお、形成したソース電極およびドレイン電極のチャネル長(L)が20μm、チャネル幅(W)が2mmである。
上記実施例と同様の方法で算出した、有機薄膜トランジスタ11のON/OFF比は、103であり、キャリア(電子)移動度は、0.0002[cm2/Vsec]であった。
【0124】
「実施例10」
(1)有機半導体材料1の合成
実施例1と同様にして、有機半導体材料1である、(2Z,2’Z)-3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(2-(4-トリフルオロメチル)フェニルアクリロニトリル(略称:CF3CN−DSB、化合物(A1))を合成した。
(2)有機薄膜トランジスタ12の作製
ソース電極およびドレイン電極を、Auから、Agに代えた以外は、実施例1の有機薄膜トランジスタ1の作製方法と同様にして、有機薄膜トランジスタ12を得た。なお、Agソース電極およびドレイン電極の作製方法は、真空蒸着法であり、その膜厚は、約30nmである。
上記実施例と同様の方法で算出した、有機薄膜トランジスタ12のON/OFF比は、106であり、キャリア(電子)移動度は、0.20[cm2/Vsec]であった。
【0125】
「実施例11〜13」
実施例1と同様の手順にて、有機薄膜トランジスタ1を作製し、大気中動作試験、大気中暴露安定性試験および結晶性評価を行った。
【0126】
「実施例11」
有機薄膜トランジスタ1に対して、以下の大気中動作試験(テスト1〜4)を行った。なお、特性評価は、上述の実施例1等と同様である。すなわち、Keithley社製2612A型2chシステムソースメータを使用して、有機薄膜トランジスタ1のそれぞれのソース・ドレイン電極間に−100Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−100Vから100Vの範囲で変化させ、有機薄膜トランジスタ1の伝達特性を評価し、その伝達特性の飽和領域からキャリア移動度を算出した。
また、移動度の低下率は、テスト1の移動度を初期状態として求め、閾値シフトは、テスト1の閾値からのシフト量から求めた。

テスト1:作製後の有機薄膜トランジスタ1を、真空下(10-5torr以下)にて特性評価を行った。
テスト2:テスト1を行った有機薄膜トランジスタ1を、大気暴露して、その後大気中にて直ちに特性評価を行った。
テスト3:テスト2を行った有機薄膜トランジスタ1を、大気暴露して、そのまま大気中にて数時間ごとに大気中にて特性評価を行った。なお、大気中での保管は、暗所にて行った。
テスト4:テスト3の後の有機薄膜トランジスタ1を、真空下(10-5torr以下)にて特性評価を行った。
結果を表2および図7に示す。

表2および図7より明らかなように有機薄膜トランジスタ1は大気中でn型特性を示すことから大気中動作可能であることが分かる。また、大気中24時間後動作した後、真空中(10-5torr以下)にて特性評価したところ大気中で低下していた素子特性の回復が確認された。
【0127】
【表2】

【0128】
「実施例12」
有機薄膜トランジスタ1に対して、大気中暴露安定性試験を行った。有機薄膜トランジスタ1を所定の期間、大気中遮光下にて保管後、真空下(10-5torr以下)にて特性評価を行った。なお、特性評価の方法は、実施例11と同様である。結果を図8に示す。
図8からわかるように、大気中暴露30日間において、特性の劣化はほとんどみられなかった。
【0129】
「実施例13」
以下の方法にて、有機薄膜トランジスタ1における有機半導体層の結晶性を評価した。
大型放射光施設SPring-8 BL46XUビームラインの薄膜評価用ATX-GSORにより、有機半導体層の面内(in-plane)・面外(out-of-plane)X線回折を測定することにより結晶性を評価した。結果を図9に示す。
面内回折(in-plane)と面外回折(out-of-plane)の各プロファイルにおいて、それぞれ回折ピークを示すことから、有機薄膜トランジスタ1における有機半導体層は、結晶性薄膜であることを示している。また面外回折プロファイルが5次ピーク以上を示しており、非常に結晶性が高い薄膜であることを示している。
【0130】
「実施例14」
実施例7と同様の手順にて、有機薄膜トランジスタ7を作製し、大気中動作試験を行った。
テスト1:作製後の有機薄膜トランジスタ7を、真空下(10-5torr以下)にて特性評価を行った。
テスト2:テスト1を行った有機薄膜トランジスタ7を、大気暴露して、その後大気中にて直ちに特性評価を行った。
テスト3:テスト2を行った有機薄膜トランジスタ7を、大気暴露して、そのまま大気中にて24時間保管し、その後大気中にて特性評価を行った。なお、大気中での保管は、暗所にて行った。
結果を図10に示す。
図10より明らかなように、有機薄膜トランジスタ7は、大気中でn型特性を示していることから、大気中動作可能であることがわかる。また24時間後の大気中動作(テスト3)においても初期状態(テスト1)からの移動度劣化は10%程度であり、非常に大気中で安定な有機半導体材料であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の有機半導体材料は、高いキャリア移動度と化学的安定性を有するため、有機薄膜トランジスタの有機半導体層として好適に使用することができる。また、比較的低温のプロセスで製造でき、かつ塗布プロセスなどの容易な製造プロセスで成膜が可能であり、生産コストの低減が可能である。
該有機半導体材料を用いてなる有機薄膜トランジスタは、ON/OFF比が大きく、応答速度が高速であるため、各種集積回路(IC)に広く応用できる。また、本発明の有機半導体材料は、優れた電気特性により有機EL素子用の発光材料、電荷注入材料、電荷輸送性材料あるいは有機レーザー発振素子などに広く応用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁層
4 有機半導体層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
10 有機薄膜トランジスタ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(E)で表される化合物。
【化1】


(但し、R1'は、炭素数1〜3のフッ素置換アルキル基である。)
【請求項2】
下記化学式(E6)で表される化合物。
【化2】

【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−107891(P2013−107891A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−3715(P2013−3715)
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2011−502805(P2011−502805)の分割
【原出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】