説明

新規化合物と微生物を用いたその生産方法、及びそれを有効成分とする抗酸化剤

【課題】抗酸化活性を有する新規化合物を提供すること。
【解決手段】式(I)で表される化合物、若しくはその塩を提供する。該化合物、若しくはその塩は、化学ラジカルDPPHに対してラジカル消去作用を有する。そのため、酸化ストレスが関与する多くの生活習慣病あるいは中枢疾患の治療薬となることが期待される。したがって、前記化合物、若しくはその塩を有効成分として少なくとも含有する薬剤は、抗酸化剤としての利用が可能である。
式(I)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化活性を有する新規化合物に関する。より詳細には、1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)ラジカル消去活性を有する新規化合物、若しくはその塩、及び抗酸化剤、並びに微生物を用いた前記新規化合物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を保存する場合に、微生物による腐敗などのほかに、空気中の酸素による変質が大きな問題となる。この変化は油脂の酸敗による異味、異臭、変色と色素の酸化退色などとして現れる。この酸化変質現象を防止するには、びん・缶詰などの包装容器に入れて空気との接触を断つ方法と、抗酸化剤を添加する方法とがある。抗酸化剤にはアスコルビン酸、エリソルビン酸などの水溶性のものと、没食子酸エステル類などのフェノール性化合物で油溶性のものとがある。前者には主に色素の酸化防止に、後者は油脂の酸化防止に用いられる。油脂は酵素、水、金属塩、熱、光などの存在下に酸化されやすく、最初は徐々にすすみ、この期間を過ぎると急激に進行する。酸化は油脂中の不飽和脂肪酸の二重結合炭素に酸素が作用し、遊離基ないしは過酸化物が生じ、これによって連鎖的に反応が進行し、アルデヒド、ケトン、酸などに分解すると考えられている。このとき酵素、金属塩などが触媒としてはたらき、熱や光がエネルギーを供給する。不飽和度の高い油脂ほどこの反応速度が速い。抗酸化剤はこの遊離基または過酸化物にはたらき、連鎖反応を中断させ、自身は酸化される。
【0003】
生体内においても、各種の物理的、化学的、生物学的ストレスにより、フリーラジカル型の活性酸素が発生し、脂質などと反応すると、連鎖的な酸化反応を誘発するため、フリーラジカルは組織に対して増幅されたダメージを与える。
生体は活性酸素種を除去する自己防御機構として抗酸化機構を有しているものの、組織の防御能力を超えた活性酸素の発生は蛋白質、DNA、酵素及びT細胞のような免疫系統の因子を損傷させ各種疾患の原因となる。
酸素や紫外線に常にさらされる皮膚は、このような酸化ストレスのダメージが最も大きな器官の一つであり、紫外線により発生した種々の活性酸素が、皮脂や脂質の過酸化、蛋白変性、酵素阻害等を引き起こし、皮膚の炎症などの各種皮膚疾患と共に、老化やガンなどの原因となるとも考えられている。
【0004】
フリーラジカルを捕捉する能力を備える抗酸化剤は、ラジカル連鎖反応を抑制・停止させることができるので、このような抗酸化剤を配合した皮膚外用剤は、光酸化ストレスによる皮膚老化(例えば、シミ、しわ、たるみなど)に予防・改善効果が期待できる。また、フリーラジカルが関連する各種皮膚疾患用皮膚外用剤としても、予防・改善効果が期待できる。
食品産業などでは、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などの合成抗酸化剤が従来から広く使用されており、インダン誘導体からなる抗酸化剤に係る特許文献1では、生体内の活性酸素を除去し、過酸化脂質の生成・蓄積を防止できる抗酸化剤を、血小板凝集による種々の疾病、炎症、肝障害、動脈硬化、溶血、老化乃至老人性痴呆性、網膜症、肺障害、ある種の薬物による心及び肺障害、虚血性血管疾患に用いる旨の提案がなされている。
【0005】
しかしながら、このような合成抗酸化剤には発ガン性の疑いがあるため、近年、合成抗酸化剤に比して安全な抗酸化物質を得るべく、天然物からの抗酸化物質の探索が脚光を浴びている。
代表的な天然抗酸化剤としては、ビタミンC、ベータ−カロチン、トコフェロールなどが広く知られているが、茶の葉からの抽出物にも多様な抗酸化物質が含まれていることが分かってきている。和漢薬の生薬中のペオニフロリンにもラジカル除去能が見出され、動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、脳出血、脳梗塞、脳血栓、白内障等の予防及び治療薬として提案されている(特許文献2)。
海藻類からも、抗酸化物質のトコフェロール類が抽出され(非特許文献1)、海藻の1種のカジメから高い抗酸化活性及び熱安定を有する新規抗酸化物質の抽出が報告されている(特許文献3)。
また、シイタケ、エノキタケ、シメジ、カワラタケ、マツタケ、マンネンタケ、ホウウロクタケ、ナメコ、その他の担子菌類の抽出物が報告されており(特許文献4〜6)、最近ではクロアワビタケ、スギタケなど担子菌から抽出されたフリーラジカル捕捉型抗酸化剤(特許文献7,8)も知られている。
【0006】
微生物からも、各種抗酸化物質が抽出されており、ストレプトミセス属(Streptomyces)微生物CL 190から得られたナフテルピン(naphterpin)(非特許文献2,特許文献9)、ペニシリウム属ヘルクエイベイナー&サルトリーから単離されたアトロベネチンなどのフェナレノン誘導体にフリーラジカル除去及び抗酸化作用があり、リウマチ性疾患治療に用いられることが報告されている(非特許文献3,特許文献10)。微生物由来の抗酸化剤の作用は必ずしも強くないが、効果的な抗酸化剤が得られれば,培養により大量に採取することが可能となる。
したがって、微生物由来の抗酸化剤であって、フリーラジカル捕捉能に優れた新規な化学物質の提供が望まれていた。
【特許文献1】特開昭60-142919号公報
【特許文献2】特開昭63-30415号公報
【特許文献3】特開2001-302659号公報
【特許文献4】特開平5−317016号公報
【特許文献5】特開平6−65575号公報
【特許文献6】特開昭59−124984号公報
【特許文献7】特開2006-52189号公報
【特許文献8】特開2006−83064号公報
【特許文献9】特開平5−255304号公報
【特許文献10】特表2005-517710号公報
【非特許文献1】K. Miyashita and T. Tagaki, Agric. Biol. Chem. 51, 315(1987)
【非特許文献2】K. Shin-Ya, S, Imai, K. Furihata, Y, Hayakawa, K, Kato, G. D. Vanduyne, J. Clardy and H. Seto,J. Antibiotics 43, 444(1990)
【非特許文献3】Y. Ishikawa他,J. Am. Oil Chem. Soc. 68, 666-668,(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、微生物が生産する抗酸化剤であって、フリーラジカル捕捉能に優れた新規な抗酸化活性化合物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
抗酸化活性(フリーラジカル捕捉活性)の測定は、通常ブロイス法(DPPH法)により測定されるので、本発明者らは、DPPHラジカル消去活性を指標として種々の探索を行った結果、ペニシリウム属微生物の培養液中からDPPHラジカル消去活性を有し、抗酸化活性を示す新規化合物を見出した。
【0009】
本発明は、下記式(I)で表される新規化合物(以下「JBIR−12」と称する。)、若しくはその塩を提供する。
式(I)
【化1】

該化合物、若しくはその塩は、DPPHラジカル消去活性作用を有する。
新規化合物JBIR−12、若しくはそれらの塩は、DPPHラジカル消去活性作用を有するので、これらを有効成分として含有させることで、抗酸化剤を提供することができる。
なお、本発明に係る新規化合物JBIR−12は、例えば、ペニシリウム属に属する前記新規化合物の生産菌を培養する工程と、培養物から前記新規化合物を採取する工程とを含む生産方法により生産することができる。
生産菌は、新規化合物JBIR−12の生産能を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ペニシリウム属NBRC 103941株を好適に用いることができる。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 下記式(I)で表される化合物、若しくはその塩。
式(I)
【化1】

〔2〕 前記式(I)に記載の化合物、若しくはその塩を有効成分として含む抗酸化剤。
〔3〕 ペニシリウム属に属し、前記式(I)で表される化合物の生産能を有する微生物を培養する工程と、当該培養物から前記化合物若しくはその塩を採取する工程とを少なくとも含む、前記〔1〕に記載の化合物若しくはその塩の生産方法。
〔4〕 前記微生物が、ペニシリウム属NBRC 103941株であることを特徴とする前記〔3〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DPPHラジカル消去活性作用を有する新規な化合物、及び新規な抗酸化剤を提供することができる。また、当該化合物の生産能を有するペニシリウム属微生物を培養することで、大量に生産することができる。
本発明の抗酸化剤は、各種皮膚疾患用皮膚外用剤、リウマチ性疾患治療剤の他、種々の医薬用組成物の有効成分として、また食品用抗酸化剤としても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
<本発明に係る化合物について>
本発明に係る新規化合物JBIR−12の物理学的性状を表1に示す。
【表1】

【0014】
表1中、
(1)「Appearance」は物質の性状を示し、「red powder」は赤色の紛体であることを示す。
(2)「MP」は融点(Melting Point)を示す。
(3)[α]は、比旋光度を示す。「24.5」は測定温度を示し、「D」はナトリウムD線を用いて測定したことを示す。「c0.3」は溶液濃度 (g/100 mL) を、「MeOH」はメタノール中で測定したことを示す。
(4)「HR-ES MS (High-Resolution Electronspray Ionaization Mass Spectra)」は高分解能ESI質量分析装置によって測定した、JBIR−12の精密質量(m/z)を示す。「found」は実測値([M+H]+)を、「calcd」は計算値を示す。
(6)「UV」は紫外線吸収スペクトルを、「λmax nm(ε)」は極大吸収波長およびモル吸光係数を、「MeOH」はメタノール中で測定したことを示す。
(7)「IR」は赤外線吸収スペクトルを、「υmax cm−1」は極大吸収波数を、「KBr」は臭化カリウム錠剤法で測定したことを示す。
【0015】
また、JBIR−12の13C−核磁気共鳴スペクトル及び1H−核磁気共鳴スペクトルを表2に示す。
【表2】

【0016】
本発明に係る化合物としては、JBIR−12のみならず、その塩、溶媒和物なども広く包含する。塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、金属塩(アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩など)、無機塩(酢酸塩、アンモニウム塩など)、有機アミン塩(ジベンジルアミン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニア塩など)、アミノ酸塩(グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩など)などが適用できる。
【0017】
溶媒和物としては、例えば、大気中に放置したり、再結晶をしたりすることにより、水分を吸収、吸着水の付着などで水和物となった溶媒和物も本発明に包含される。
更に、本発明に係る化合物には、生体内において代謝されて本発明に係る化合物に変換される化合物(プロドラッグ)も全て含まれる。
【0018】
本発明に係る化合物は、DPPHラジカル消去活性作用を有しており、その結果抗酸化活性を示す物質である。
本発明においては、ブロイス法(DPPH法)と呼ばれる測定法で、DPPHラジカル消去活性作用を測定した。
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)はそれ自体が安定なラジカルであり、ラジカル消去物質(抗酸化物質)が存在すると非ラジカル対に変化する。DPPHラジカルが消去されると溶液の紫色が次第に退色することから、この吸光の変化を吸光光度計で測定することによって化合物のもつ抗酸化力を測定する。
具体的には、あらかじめメタノール(エタノール)に溶解しておいたDPPHを、被験液に加えて撹拌し、室温で一定時間放置した後、吸光度(540nm)を測定し、対照群に対して減少した吸光度をDPPHラジカル消去活性とする。
【0019】
<本発明に係る抗酸化剤について>
本発明に係る抗酸化剤は、本発明に係る新規化合物JBIR−12、若しくはその塩、又はJBIR−12類縁体、若しくはその塩を有効成分として少なくとも含有するもの全てを含む。
本発明に係る抗酸化剤は、単独で用いることもでき、また既存のあらゆる薬剤等と併用することができる。更には、本発明の抗酸化効果を損なわない範囲において、既存のあらゆる薬剤等と合剤とすることもできる。
【0020】
本発明に係る抗酸化剤の剤型は特に限定されない。一例としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤等の経口剤、注射剤、又は、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤等の外用剤などに製剤化することも可能である。
前記経口剤には、有効成分である本発明に係る新規化合物等に加え、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
前記注射剤には、有効成分である本発明に係る新規化合物等に加え、例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
前記外用剤には、有効成分である本発明に係る新規化合物等に加え、例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0021】
<本発明に係る新規化合物の生産方法について>
本発明に係る化合物JBIR−12は、それ自体が新規化合物であって、その生産方法は限定されないが、例えば、ペニシリウム属菌などの糸状菌の代謝産物として生産することができる。
【0022】
ペニシリウム属菌は、新規化合物JBIR−12の生産能を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ペニシリウム属NBRC 103941株を好適に用いることができる。ペニシリウム属NBRC 103941株は、市販菌株であって、独立行政法人製品評価技術基盤機構から購入することができる。
【0023】
具体的な生産方法としては、本発明に係る新規化合物JBIR−12の生産菌を培養し、その培養物より新規化合物JBIR−12を分離・精製することにより行う。
【0024】
前記培養のための培地には、通常の微生物が利用し得る栄養物を含有するものを使用できる。また、栄養源としては、従来から培養に利用されている公知のものが使用できる。具体的には、炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、澱粉、糖蜜、玄米、油脂類などが使用できる。また、窒素源としては大豆粉、小麦胚芽、綿実粕、コーンステイープリカー、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、などの有機物ならびに硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウムなどの無機物が利用できる。その他必要に応じて、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸及びその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することができる。また、菌の発育を助け、本発明におけるステロイド化合物の生産を促進するような有機および無機物を適当に添加することができる。
培養方法は特に限定されないが、糸状菌を用いる場合であれば、固形培地を用いた静置培養法が最も適している。培養に適当な温度は20〜30℃であるが、27℃付近がより好適である。
【0025】
大量液体培養を行う場合、例えば、まず、2〜3日前培養を行った後、本培養を行ってもよい。少量の培地で前培養を行うことにより、菌株の増殖を活性化できるため、前培養後、その培養液を大量の培地に摂取することにより、培養の効率化を図ることができる。
なお、培養温度、通気量、培養時間などの培養条件は、適宜、変更可能である。
【0026】
培養物より新規化合物JBIR−12を分離・精製する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、まず、前記培養液を遠心分離又はろ過などした後、菌体成分を回収し、菌体をアセトンにて抽出する。次に、例えば、シリカゲルなどの担体を用いた吸着カラムクロマト法、ゲル濾過用樹脂を用いたゲルろ過カラムクロマト法、溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、分配カラムクロマト法、透析法、沈澱法を利用した方法などを単独で又は適宜組み合わせて抽出精製する。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、ペニシリウム属NBRC 103941株を用いて、本発明に係る新規化合物を生産した。
<ペニシリウム属NBRC 103941株の培養>
まず、ポテトデキストロースブロス(三光純薬)24gを水1Lに溶解し前培養培地とした。前培養培地15mlを、50mlの大型試験管に分注、殺菌後、本菌株を培養スラント上より白金耳接種し、27℃、3日間、培養したものを種母とした。
次に、100ml三角フラスコに、3 g brown rice、6 mg yeast extract、3 mg sodium tartrate、3 mg KH2PO4、9 mL H2Oを加えて、殺菌した。そして、各フラスコに、上記種母を1 mlずつ添加し、27℃、5日間、静置培養した。
【0028】
<新規化合物JBIR−12の分離・精製>
培養菌体を80%アセトンで抽出、ろ過後、濃縮した。酢酸エチルに溶解する画分を中圧クロマトグラフィーとシリカゲルカラムにより分離した。さらに、中圧クロマトグラフィーとODSカラムを用いて精製した。最後に、高速液体クロマトグラフィーとODSカラムを用いて60%メタノール水溶液で分離、精製した。
【0029】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で取得した新規化合物JBIR−12のDPPHラジカル消去活性作用の有無を調べた。
実施例1で分離精製されたJBIR−12をメタノールに溶解し、希釈系列を作製した。200μMのDPPH溶液90μlに対して10μlのJBIR−12溶液を加え、1時間、室温で放置した。その後、540nmで吸光度を測定した。ポジティブコントロールとして、α―トコフェロールを使用した。
結果を図1に示す。図中、縦軸「阻害率(%)」は、無添加の場合の吸光度に対するはサンプル添加群の吸光度の逆数を示す。
図1に示す通り、濃度が高くなるに従い、阻害率が上昇していることが判明した。なお、サンプル添加群のIC50値(50%阻害される濃度)は75μMだった。
このように、本発明のJBIR−12は、既存の抗酸化剤であるα―トコフェロールと同等のDPPHラジカル消去活性作用を示したことから、本発明に係る新規化合物JBIR−12に、高い抗酸化作用があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
高いDPPHラジカル消去活性作用を有する本発明に係る化合物は、優れた抗酸化剤として用いることができ、各種皮膚疾患用皮膚外用剤、リウマチ性疾患治療薬、酸化ストレスが関与する多くの生活習慣病あるいは中枢疾患の治療薬など種々の医薬用組成物の有効成分として、また食品用抗酸化剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る新規化合物JBIR−12のDPPHラジカル消去活性作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物、若しくはその塩。
式(I)
【化1】

【請求項2】
前記式(I)に記載の化合物、若しくはその塩を有効成分として含む抗酸化剤。
【請求項3】
ペニシリウム属に属し、前記式(I)で表される化合物の生産能を有する微生物を培養する工程と、当該培養物から前記化合物若しくはその塩を採取する工程とを少なくとも含む、請求項1に記載の化合物若しくはその塩の生産方法。
【請求項4】
前記微生物が、ペニシリウム属NBRC 103941株であることを特徴とする請求項3に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−292768(P2009−292768A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147791(P2008−147791)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「化合物等を活用した生物システム制御基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】