新規化合物ウォークマイシン、その製造方法、及びその用途
【課題】細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤の提供。
【解決手段】受託番号NITEP−777のストレプトマイセス(Streptomycessp.)MK632−100F11株が生産する新規な酵素活性阻害剤。
【解決手段】受託番号NITEP−777のストレプトマイセス(Streptomycessp.)MK632−100F11株が生産する新規な酵素活性阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する新規化合物、その製造方法、及びその用途、並びに、前記新規化合物の生産菌である新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの抗菌剤が、細菌感染症の治療薬として用いられてきている。これまでに知られる抗菌剤の多くは、細菌の核酸合成、蛋白質合成、ペプチドグリカン合成等を阻害することにより作用する。これらの標的部位は単一で、主として代謝合成経路を阻害することを目的にしているため、これらの抗菌剤に対する耐性菌が出現しやすく、特に近年では複数の抗生物質に対して耐性を示す多剤耐性菌の出現が問題となっている。
例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、化膿性疾患、肺炎、食中毒等の起因菌として知られるが、抗生物質メチシリン等の多くの薬剤に対する耐性を獲得したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現が、臨床上大きな問題となっている。現在、MRSAに対する代表的な治療薬としては、バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリドなどが使用されているが、完全にMRSAを排除することは一般に困難であるとされており、また、これらのうち、バンコマイシンについては、既にバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現が報告されており、その使用には十分な注意が必要であるとされている。
このような薬剤耐性菌の問題を克服するために、従来の抗菌剤とは異なった新しい作用機構による微生物に対する新規抗微生物剤の開発が望まれている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、細菌には、環境に応答してその変化を受容するレセプターとそれぞれの遺伝子発現を制御する情報伝達機構が知られており、その代表例が二成分制御系(two−component systems)である。二成分制御系とは、ヒスチジンキナーゼ活性を示すセンサータンパク質とDNA結合タンパク質であるレギュレーターより構成されている環境応答性の遺伝子発現制御系であり、細菌は様々な環境変化に対応すべく、種々のセンサーとレギュレーターを有している(例えば、非特許文献2参照)。
細菌の二成分制御系としては、グラム陽性菌のYycF(WalRともいう)およびYycG(WalKともいう)が関与する情報伝達系が存在し、これを阻害すると細菌が死滅することが知られており(例えば、非特許文献3〜6参照)、前記情報伝達系を阻害することによるグラム陽性細菌に抗菌力を示す抗菌剤が期待される。
また、ハクサイ、ジャガイモといった農作物に感染し、農業生産に甚大な被害をもたらす軟腐病菌の病原性は3種の二成分制御系PehS/PehR(例えば、非特許文献7参照)、PmrB/PmrA(例えば、非特許文献8参照)、ExpS/ExpA(例えば、非特許文献9参照)によって病原性が調節されていることが知られており、これら病原性を抑制することによる軟腐病菌の防除が期待される。
【0004】
上記知見があるものの、満足のいく抗菌剤、酵素活性阻害剤は未だ得られておらず、優れた抗菌剤などの開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sievert DM,et al:Staphylococcus aureus Resistant to Vancomycin−United States,2002.MMWR July 5,2002;51:565−567.
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリー、第58巻、第4号
【非特許文献3】Fablet, C. and Hoch, A. A., J. Bacteriol., 180, 6375−6383, 1998
【非特許文献4】Marti, P. K.,Li, T., Sun, D., Biek, D. P. and Schmid, M. B., J. Bacteriol., 181, 3666−3673, 1999
【非特許文献5】Lange, R., Wagner, C., DeSaizieu, A., Flint, N., Monos, J., Stiger, M., Caspers, P., Kamber, M., Keck wolfgang, Amrein, K. E., Gene, 237, 223−234, 1999
【非特許文献6】Beier, D. and Frank, R., J. Bacteriol., 182, 2068−2076, 2000
【非特許文献7】Eriksson, A. R. B., Andersson, R. A., Pirhonen, M., and Palva, E. T., Mol. Plant−Microbe Interact., 11, 743−752, 1998
【非特許文献8】Hyytiainen, H., Sjoblom, S., Palomaki, T., Tuikkala, A., and Palva, E. T., Mol. Microbiol., 50, 795−807, 2003
【非特許文献9】Flego, D., Marits, R., Eriksson, A. R. B., Koiv, V., Karlsson, M.−B., Heikinheimo, R., and Palva, E. T., Mol. Plant−Microbe Interact., 13, 447−455, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みて行われたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは、細菌細胞の主要な情報伝達機構である二成分制御系に着目し、鋭意検討した結果、新規な微生物として、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株を分離することに成功し、この菌株が、新規な構造骨格を有し、抗菌活性、若しくは、酵素阻害活性を有する化合物を産生していることを見出した。本発明者らは、前記化合物の化学構造を分析することで、これらが新規化合物であることを確認し、本発明の完成に至った。なお、本発明者らは、これらの新規化合物をウォークマイシン(Walkmycin)A、及びウォークマイシン(Walkmycin)Cと命名した。
更に、本発明者らは、前記菌株が産生する既知の化合物の中に、酵素阻害活性を有する化合物があることを見出し、本発明の完成に至った。なお、本発明者らは、この化合物をウォークマイシン(Walkmycin)Bと命名した。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(A)で表される化合物、下記構造式(C)で表される化合物、及び下記構造式(B)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする酵素活性阻害剤である。
【化1】
【化2】
【化3】
<2> ヒスチジンキナーゼ活性を阻害する前記<1>に記載の酵素活性阻害剤である。
<3> 下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物である。
【化4】
<4> 下記構造式(C)で表されることを特徴とする化合物である。
【化5】
<5> 下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかの製造方法であって、
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを採取する採取工程とを含み、
前記培養工程における培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加することを特徴とする化合物の製造方法である。
【化6】
【化7】
<6> ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物が、受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である前記<5>に記載の化合物の製造方法である。
【化8】
【化9】
<7> 分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかが、バリン、ロイシン、及びイソロイシンの少なくともいずれかである前記<5>から<6>のいずれかに記載の化合物の製造方法である。
<8> 分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかが、イソロイシンである前記<5>から<7>のいずれかに記載の化合物の製造方法である。
<9> ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有することを特徴とする微生物である。
【化10】
【化11】
<10> 受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である前記<9>に記載の微生物である。
<11> 下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする化合物含有組成物である。
【化12】
【化13】
<12> 下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする抗菌剤である。
【化14】
【化15】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図2】図2は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)のメタノール(0.05M HCl含有メタノール)中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図3】図3は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)の重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図4】図4は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)の重メタノール中で30℃にて測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図5】図5は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図6】図6は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)のメタノール(0.05M HCl含有メタノール)中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図7】図7は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)の重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図8】図8は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)の重メタノール中で30℃にて測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図9】図9は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図10】図10は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)のメタノール(0.05M HCl含有メタノール)中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図11】図11は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)の重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図12】図12は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)の重メタノール中で30℃にて測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(酵素活性阻害剤)
本発明の酵素活性阻害剤は、少なくとも下記構造式(A)で表される化合物、下記構造式(C)で表される化合物、及び下記構造式(B)で表される化合物の少なくともいずれかを含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
前記酵素活性阻害剤は、ヒスチジンキナーゼ活性を好適に阻害することができる。
【化16】
【化17】
【化18】
【0012】
<構造式(A)で表される化合物>
下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物は、本発明の化合物の1つである。下記構造式(A)で表される化合物は、本発明者らが分離した新規化合物である(以下、「ウォークマイシン(Walkmycin)A」と称することがある)。
【化19】
【0013】
−物理化学的性状−
前記構造式(A)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C43H42Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 853.2041(M+H)+であり、計算値は、m/z 853.2041(C43H43Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−120.5°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図1に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2972、2947、1684、1616、1590(sh)、1408、1379、1315、1217、1153
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図2に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 236(33,700)、277(35,400)、330(6,600)、412(13,600)
0.005M NaOH : 246(33,700)、267(sh)、340(7,100)、429(20,400)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図3、及び表1に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図4、及び表1に示す通りである。
【表1】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、7.7分である。
【0014】
化合物が、前記構造式(A)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル、等の分析を行うことにより、確認することができる。
【0015】
前記ウォークマイシンAは、ウォークマイシンAを生産する微生物から得られたものであってもよいし、化学合成により得られたものであってもよいが、後述する本発明の、化合物の製造方法により、得られることが好ましい。
【0016】
前記ウォークマイシンAは、後述する試験例1〜3に示されるように、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有する。そのため、前記ウォークマイシンAは、例えば、前記酵素活性阻害剤、後述する本発明の、化合物含有組成物、抗菌剤、などの有効成分として、好適に利用可能である。
【0017】
<構造式(C)で表される化合物>
下記構造式(C)で表されることを特徴とする化合物は、本発明の化合物の1つである。下記構造式(C)で表される化合物は、本発明者らが分離した新規化合物である(以下、「ウォークマイシン(Walkmycin)C」と称することがある)。
【化20】
【0018】
−物理化学的性状−
前記構造式(C)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C45H46Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 881.2340(M+H)+であり、計算値は、m/z 881.2337(C45H47Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−39.8°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図5に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2970、2939、1685、1616、1590(sh)、1408、1377、1315、1219、1161
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図6に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 237(27,700)、276(11,500)、328(5,500)、405(10,700)
0.005M NaOH : 245(27,500)、271(sh)、341(5,500)、424(15,000)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図7、及び表2に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図8、及び表2に示す通りである。
【表2】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、10.0分である。
【0019】
化合物が、前記構造式(C)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル、等の分析を行うことにより、確認することができる。
【0020】
前記ウォークマイシンCは、ウォークマイシンCを生産する微生物から得られたものであってもよいし、化学合成により得られたものであってもよいが、後述する本発明の、化合物の製造方法により、得られることが好ましい。
【0021】
前記ウォークマイシンCは、後述する試験例1〜3に示されるように、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有する。そのため、前記ウォークマイシンCは、例えば、前記酵素活性阻害剤、後述する本発明の、化合物含有組成物、抗菌剤、などの有効成分として、好適に利用可能である。
【0022】
<構造式(B)で表される化合物>
前記構造式(B)で表される化合物(以下、「ウォークマイシン(Walkmycin)B」と称することがある)の物理化学的性状としては、以下の通りである。
【化21】
【0023】
−物理化学的性状−
前記構造式(B)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C44H44Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 867.2180(M+H)+であり、計算値は、m/z 867.2181(C44H45Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−121.7°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図9に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2974、2943、1691、1614、1587(sh)、1400、1375、1313、1220、1196、1167
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図10に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 235(56,200)、279(57,600)、331(9,700)、425(22,000)
0.005M NaOH : 245(46,300)、268(44,600)、341(9,200)、434(29,300)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図11、及び表3に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図12、及び表3に示す通りである。
【表3】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、8.6分である。
【0024】
化合物が、前記構造式(B)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル、等の分析を行うことにより、確認することができる。
【0025】
−ウォークマイシンBの製造−
前記ウォークマイシンBの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウォークマイシンBを生産する微生物から製造する方法、化学合成により製造する方法、などが挙げられる。
【0026】
前記ウォークマイシンBを微生物から製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培養工程と、採取工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む方法が挙げられる。
【0027】
−−培養工程−−
前記培養工程は、ウォークマイシンBを生産する能力を有する微生物を培養する工程である。
【0028】
前記微生物としては、ウォークマイシンBを生産する能力を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述するストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株(NITE P−777)が挙げられる。また、ウォークマイシンBを生産できるその他の菌株についても、常法によって、自然界より分離することが可能である。なお、前記ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株を含め、ウォークマイシンBを生産する生産菌を、放射線照射やその他の変異処理に供することにより、ウォークマイシンBの生産能を高めることも可能である。さらに、遺伝子工学的手法によるウォークマイシンBの生産も可能である。
【0029】
前記培養は、ウォークマイシンBを生産する生産菌を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、ウォークマイシンBの生産に良好な温度で培養することによって行われる。
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができる。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源として、市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウムなどが使用でき、炭素源として、トマトペースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリンなどの炭水化物、脂肪などが使用できる。さらに、食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩を培地に添加して使用することもでき、その他、必要に応じて微量の金属塩を培地に添加して使用することもできる。
これらの材料は、ウォークマイシンBを生産する生産菌が利用し、ウォークマイシンBの生産に役立つものであればよく、公知の培養材料はすべて用いることができる。
【0030】
前記培地には、アミノ酸を添加してもよいし、添加しなくてもよいが、アミノ酸を添加しないほうが、ウォークマイシンBの生産量が多い点で、有利である。
【0031】
ウォークマイシンBの生産のための種母培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地上、ウォークマイシンBを生産する生産菌の斜面培養から得た生育物を使用することができる。
【0032】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気的条件の培養方法が好ましい。
前記培養の温度としては、ウォークマイシンBを生産する生産菌の発育が実質的に阻害されずに、ウォークマイシンBを生産しうる範囲であれば、特に制限はなく、使用する生産菌に応じて適宜選択することができるが、25℃〜35℃が好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、ウォークマイシンBの蓄積に合わせて適宜選択することができる。通常、培養3日間〜10日間でウォークマイシンBの蓄積が最高となる。
【0033】
前記ウォークマイシンBは、後述する試験例3に示されるように、優れた酵素阻害活性を有する。
【0034】
前記酵素活性阻害剤中のウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記酵素活性阻害剤は、ウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの少なくともいずれかそのものであってもよい。
【0035】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記酵素活性阻害剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記酵素活性阻害剤は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記酵素活性阻害剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用してもよい。
【0036】
前記酵素活性阻害剤は、ウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの少なくともいずれかを含むことから、後述する試験例3に示されるように薬剤耐性菌、植物病原性細菌、などを含む幅広いグラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌が有する酵素に対して優れた酵素阻害活性を有するものである。
したがって、前記酵素活性阻害剤は、薬剤耐性菌などを含む幅広いグラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌の病原性を抑制することができ、前記細菌に起因する感染症の予防、又は治療に好適に利用可能である。また、農園芸用殺菌剤の有効成分としても好適に利用可能である。
【0037】
<剤型、投与>
−剤型−
前記酵素活性阻害剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状、カプセル状、錠剤状、液状等の剤型とすることができる。これらの剤型の前記酵素活性阻害剤は、常法に従い製造することができる。
【0038】
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤の補助剤との混合として慣用の処方により乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの適宜の形態として調整できる。
また、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの目的で各種の界面活性剤(または、乳化剤)が使用される。このような界面活性剤としては、非イオン型(ポリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなど)、陰イオン型(アルキルオコシエチレンアルキルサルフェート、アリールスルホネートなど)、陽イオン型(アルキルアミン類、ポリオキシアルキルアミン類など)、両性型(硫酸エステル塩など)が挙げられるが、もちろんこれらの例示のみに限定されるものではない。また、これらの他にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアセテート、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、トラガカントガムなどの各種補助剤を使用することができる。
【0039】
−投与−
前記酵素活性阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記酵素活性阻害剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記酵素活性阻害剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記酵素活性阻害剤の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記酵素活性阻害剤の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
(化合物の製造方法)
本発明の化合物、即ちウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの製造方法は、培養工程と、採取工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0041】
<培養工程>
前記培養工程は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物を培養する工程である。
前記培養工程では、培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加する。なお、前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかは、それらの前駆体であってもよい。
【0042】
前記微生物としては、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明者らの分離したストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株(NITE P−777、詳細は後述する本発明の微生物の項目に記す)が挙げられる。また、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産できるその他の菌株についても、常法によって、自然界より分離することが可能である。なお、前記ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株を含め、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する生産菌を、放射線照射やその他の変異処理に供することにより、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産能を高めることも可能である。さらに、遺伝子工学的手法によるウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産も可能である。
【0043】
前記培養は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する生産菌(以下、単に「ウォークマイシン類生産菌」と称することがある)を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産に良好な温度で培養することによって行われる。
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができる。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源として、市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウムなどが使用でき、炭素源として、トマトペースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリンなどの炭水化物、脂肪などが使用できる。さらに、食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩を培地に添加して使用することもでき、その他、必要に応じて微量の金属塩を培地に添加して使用することもできる。
これらの材料は、ウォークマイシン類生産菌が利用し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産に役立つものであればよく、公知の培養材料はすべて用いることができる。
【0044】
前記培地には、分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加する。前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加することにより、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産量を増やすことができる。
前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分岐アミノ酸の具体例としては、バリン、ロイシン、イソロイシンが挙げられる。
前記分岐脂肪酸の具体例としては、3−methyl butanoic acid、4−methyl pentanoic acid、3−methyl pentanoic acidが挙げられる。
前記分岐ケト酸の具体例としては、3−methyl−2−oxobutanoic acid、4−methyl−2−oxopentanoic acid、3−methyl−2−oxopentanoic acidが挙げられる。
これらの中でも、バリン、ロイシン、イソロイシンが好ましく、イソロイシンがより好ましい。前記イソロイシンであると、前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産量が多い点で、有利である。
【0045】
前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかの添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、培地全体に対して、0.1質量%〜20質量%が好ましく、0.25質量%〜5質量%がより好ましく、0.5質量%〜1質量%が特に好ましい。
なお、前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかは、少なくとも前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産させるための培地(以下、「生産培地」と称することがある。)に添加されていればよい。
【0046】
ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産のための種母培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地上、ウォークマイシン類生産菌の斜面培養から得た生育物を使用することができる。
【0047】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気的条件の培養方法が好ましい。
前記培養の温度としては、ウォークマイシン類生産菌の発育が実質的に阻害されずに、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産しうる範囲であれば、特に制限はなく、使用する生産菌に応じて適宜選択することができるが、25℃〜35℃が好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの蓄積に合わせて適宜選択することができる。通常、培養3日間〜10日間でウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの蓄積が最高となる。
【0048】
<採取工程>
前記採取工程は、前記培養工程で得られた培養物からウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを採取する工程である。
前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCは、上述した物理化学的性状を有するので、その性状に従って培養物から採取することができる。
【0049】
前記採取の方法としては、特に制限はなく、微生物の生産する代謝物を採取するのに用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、水と混ざらない溶媒により抽出する方法、各種吸着剤に対する吸着親和性の差を利用する方法、ゲルろ過、向流分配を利用したクロマトグラフィーなどを単独、又は組み合わせる方法、などが挙げられる。
また、分離した菌体からは、適当な有機溶媒を用いた抽出方法や、菌体破砕による溶出方法などにより、前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCを菌体から抽出し、上記と同様に単離精製して採取することができる。
【0050】
以上のようにして前記製造方法を行うことができ、これにより、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCを得ることができる。
【0051】
(微生物)
本発明の微生物は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、上述した本発明の化合物、即ちウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有することを特徴とする。前記微生物は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有し、そのために、上述した本発明の化合物の製造方法において、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産菌として使用され得る微生物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
このような微生物の中でも、特に、財団法人 微生物化学研究会 微生物化学研究センターにおいて、山梨県北杜市の土壌より分離された放線菌で、MK632−100F11株の菌株番号が付された微生物を使用することが好ましい。前記MK632−100F11株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0053】
1.形態
MK632−100F11株は、分枝した基生菌糸より、比較的長い直状の気菌糸を伸長する。成熟した胞子鎖は、10個〜50個の長円形の胞子を連鎖する。胞子の大きさは、約0.5μm〜0.6μm×1.2μm〜1.7μmで、胞子の表面は平滑である。輪生枝、菌糸束、胞子のう、及び運動性胞子は認められない。
【0054】
2.各種培地における生育状態
色の記載について[ ]内に示す標準は、コンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of Americaのcolor harmony manual)を用いた。
(1)イースト・麦芽寒天培地(ISP−培地2、30℃培養)
黄[2 lc, Gold]の発育上に、茶白[3 cb, Sand]の気菌糸を着生し、黄の可溶性色素を産生する。
(2)オートミール寒天培地(ISP−培地3、30℃培養)
うす黄[1 1/2 gc, Dusty Yellow]の発育上に、明るい茶灰[3 dc, Natural]の気菌糸を着生する。可溶性色素は、黄を帯びる。
(3)スターチ・無機塩寒天培地(ISP−培地4、30℃培養)
黄[1 1/2 lc, Gold]の発育上に、茶白[5 cb]の気菌糸を着生する。可溶性色素は、黄を帯びる。
(4)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP−培地5、30℃培養)
にぶ黄[2 le, Mustard]の発育上に、茶白[5 cb]の気菌糸を着生する。黄の可溶性色素を産生する。発育の色及び可溶性色素は、0.05モル塩酸の添加及び0.05モル水酸化ナトリウムの添加による変化は認められない。
(5)シュクロース・硝酸塩寒天培地(30℃培養)
うす黄[2 ca, Lt Ivory]の発育上に、茶白[3 cb, Sand]の気菌糸を着生する。可溶性色素は、かすかに黄を帯びる。
【0055】
3.生理的性質
(1)生育温度範囲
グルコース・アスパラギン寒天培地(グルコース 1.0%、L−アスパラギン 0.05%、リン酸水素二カリウム 0.05%、ひも寒天 3.0%、pH7.0)を用い、7℃、16℃、24℃、27℃、30℃、37℃、及び45℃の各温度で試験した結果、7℃、及び45℃での生育は認められず、16℃〜37℃の範囲で生育した。生育至適温度は、27℃〜30℃である。
(2)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地、ISP−培地4、30℃培養)
培養後3日目にはスターチの加水分解が認められ、その作用は中等度である。
【0056】
4.菌体成分
細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸は、LL−型である。
【0057】
5.16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子の部分塩基配列(1459bp)を決定し、DNAデータベースに登録された公知菌株のデータと比較した。その結果、MK632−100F11株の塩基配列は以下に示すように、ストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌の16S rRNA遺伝子と高い相同性を示した。即ち、Streptomyces pseudovenezuelae(99%)、S. novaecaesareae(99%)、S. canus(99%)、S. galilaeus(99%)、S. lavovariabilis(99%)、S. regalis(99%)等である。なお、括弧内は塩基配列の相同値を表記した。
【0058】
以上の性状を要約すると、MK632−100F11株は、その形態上、よく分枝した基生菌糸より、比較的長い直状の気菌糸を伸長し、長円形の胞子を連鎖する。種々の培地で、うす黄〜黄の発育上に茶白〜明るい茶灰の気菌糸を着生する。黄の可溶性色素を産生する。生育至適温度は、27℃〜30℃付近である。スターチの水解性は中等度である。
MK632−100F11株の細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸は、LL−型である。
MK632−100F11株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を解析し、公知菌株のデータと比較したところ、ストレプトマイセス属放線菌と高い相同性を示した。
【0059】
以上の結果より、前記MK632−100F11株は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属するものと考えられる。そこで、前記MK632−100F11株をストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株とした。
なお、前記MK632−100F11株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、平成21年7月1日、NITE P−777として受託された。
【0060】
なお、他の菌にも見られるように、前記MK632−100F11株は、性状が変化し易いが、例えば、前記MK632−100F11株に由来する突然変異株(自然発生、又は誘発性)、形質接合体、遺伝子組換体などであっても、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有するものは、本発明の微生物に含まれる。
【0061】
(化合物含有組成物)
本発明の化合物含有組成物は、少なくとも前記ウォークマイシンA、及び前記ウォークマイシンCの少なくともいずれかを含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
【0062】
前記化合物含有組成物中のウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記化合物含有組成物は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかそのものであってもよい。
【0063】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記化合物含有組成物中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記化合物含有組成物は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記化合物含有組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用してもよい。
【0064】
前記化合物含有組成物は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを含むことから、抗菌作用、及び、酵素活性阻害作用の少なくともいずれかを有するものである。
【0065】
(抗菌剤)
本発明の抗菌剤は、少なくとも前記ウォークマイシンA、及び前記ウォークマイシンCの少なくともいずれかを含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
【0066】
前記抗菌剤中のウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗菌剤は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかそのものであってもよい。
【0067】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記抗菌剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記抗菌剤は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記抗菌剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用してもよい。
【0068】
前記抗菌剤は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを含むことから、後述する試験例1及び2に示されるように薬剤耐性菌などに対して優れた抗菌活性を有するものである。
したがって、前記抗菌剤は、薬剤耐性菌などに起因する感染症の予防、又は治療に好適に利用可能である。また、前記抗菌剤は、農園芸用殺菌剤としても好適に利用可能である。
【0069】
<剤型、投与>
−剤型−
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状、カプセル状、錠剤状、液状等の剤型とすることができる。これらの剤型の前記化合物含有組成物、及び抗菌剤は、常法に従い製造することができる。
【0070】
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤の補助剤との混合として慣用の処方により乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの適宜の形態として調整できる。
また、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの目的で各種の界面活性剤(または、乳化剤)が使用される。このような界面活性剤としては、非イオン型(ポリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなど)、陰イオン型(アルキルオコシエチレンアルキルサルフェート、アリールスルホネートなど)、陽イオン型(アルキルアミン類、ポリオキシアルキルアミン類など)、両性型(硫酸エステル塩など)が挙げられるが、もちろんこれらの例示のみに限定されるものではない。また、これらの他にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアセテート、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、トラガカントガムなどの各種補助剤を使用することができる。
【0071】
−投与−
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。また、以下の実施例、比較例、及び試験例中、「%」は、特に明記のない限り「質量%」を表す。
【0073】
(実施例1:化合物の製造)
−培養工程−
寒天斜面培地に培養したストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株(NITE P−777として寄託)を、ガラクトース 2%、デキストリン 2%、グリセリン 1%、バクトソイトン(ディフコ社製) 1%、コーン・スティープ・リカー 0.5%、硫酸アンモニウム 0.2%、炭酸カルシウム 0.2%を含む液体培地(pH7.0に調整)を三角フラスコ(500mL容)に110mLずつ分注して、常法により120℃で20分滅菌した培地に接種した。その後に30℃で2日間回転振とう培養し、種母培養液を得た。
【0074】
グリセリン 2.0%、デキストリン 2.0%、L−イソロイシン 1.0%、酵母エキス(日本製薬製) 0.3%、バクトソイトン(ディフコ社製) 1.0%、硫酸アンモニウム 0.2%、炭酸カルシウム 0.2%を含む液体培地(pH7.0に調整)を三角フラスコ(500mL容)に110mLずつ分注して、常法により120℃で20分滅菌し、生産培地とした。この生産培地に、上記の種母培養液の2体積%量を接種し、27℃、5日間回転振とう培養した(180rpm)。
【0075】
−採取工程−
このようにして得られた培養液5リットルを遠心分離して、培養ろ液と菌体に分離した。続いて、菌体は、2.7リットルのメタノールを加えてよく撹拌し、菌体からウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCをメタノールで抽出し、ウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCを含む菌体抽出液3リットルを得た。菌体抽出液3リットルを減圧下でメタノールを溜去し、この抽出液に2リットルの精製水を加えた。この抽出物に精製水を合わせ1Mの塩酸でpHを3.0に調整した後、等量の酢酸エチルを加え、酢酸エチル抽出を行った。酢酸エチル層を分離し、水を加え水洗し、続いて、無水硫酸ナトリウムで脱水を行った後、減圧下で濃縮乾固を行いウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCを含む粗抽出物1.5gを得た。
【0076】
前記粗抽出物をメタノールで溶解し、セファデックスLH−20(内径36mm×480mm、ファルマシア バイオテク社製)カラムにのせ、クロマトグラフィーを行った。550mL溶媒を展開した後、1フラクションを3gずつ分画すると、活性画分はフラクション3から21に溶出され、これを集めて減圧下で濃縮乾固し、55.7mgのウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCの混合物を得た。
前記ウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCの混合物を少量のメタノールに溶解し、C18逆層カラムクロマトグラフィー(Capcell pak UG120、内径30mm×長さ250mm、資生堂製)でウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCをそれぞれ分離した。即ち、展開溶媒として、アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=70:30:0.001を用い、流速15mL/分でクロマトグラフィーを行うと、ウォークマイシンAは36分〜38分に、ウォークマイシンBは41分〜43分にウォークマイシンCは48分〜51分に溶出し、これらを集めて減圧下で濃縮乾固し、純粋なウォークマイシンAを3.3mgと、ウォークマイシンBを6.4mgと、ウォークマイシンCを3.0mgとを得た。
【0077】
得られたウォークマイシンAの物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、ウォークマイシンAが、下記構造式(A)で表される構造を有する新規化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C43H42Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 853.2041(M+H)+であり、計算値は、m/z 853.2041(C43H43Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−120.5°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図1に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2972、2947、1684、1616、1590(sh)、1408、1379、1315、1217、1153
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図2に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 236(33,700)、277(35,400)、330(6,600)、412(13,600)
0.005M NaOH : 246(33,700)、267(sh)、340(7,100)、429(20,400)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図3、及び表4に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図4、及び表4に示す通りである。
【表4】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、7.7分である。
【化22】
【0078】
また、得られたウォークマイシンCの物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、ウォークマイシンCが、下記構造式(C)で表される構造を有する新規化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C45H46Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 881.2340(M+H)+であり、計算値は、m/z 881.2337(C45H47Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−39.8°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図5に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2970、2939、1685、1616、1590(sh)、1408、1377、1315、1219、1161
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図6に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 237(27,700)、276(11,500)、328(5,500)、405(10,700)
0.005M NaOH : 245(27,500)、271(sh)、341(5,500)、424(15,000)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図7、及び表5に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図8、及び表5に示す通りである。
【表5】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、10.0分である。
【化23】
【0079】
また、得られたウォークマイシンBの物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、ウォークマイシンBが、下記構造式(B)で表される構造を有する化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C44H44Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 867.2180(M+H)+であり、計算値は、m/z 867.2181(C44H45Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−121.7°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図9に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2974、2943、1691、1614、1587(sh)、1400、1375、1313、1220、1196、1167
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図10に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 235(56,200)、279(57,600)、331(9,700)、425(22,000)
0.005M NaOH : 245(46,300)、268(44,600)、341(9,200)、434(29,300)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図11、及び表6に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図12、及び表6に示す通りである。
【表6】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、8.6分である。
【化24】
【0080】
(比較例1:化合物の製造)
−培養工程−
実施例1の培養工程において、生産培地のL−イソロイシンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして培養工程を行った。
【0081】
−採取工程−
このようにして得られた培養液5リットルを遠心分離して、培養ろ液と菌体に分離した。続いて、菌体は、2.7リットルのメタノールを加えてよく撹拌し、菌体からウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCをメタノールで抽出し、ウォークマイシンBと、微量のウォークマイシンA、及びウォークマイシンCを含む菌体抽出液3リットルを得た。菌体抽出液3リットルを減圧下でメタノールを溜去し、この抽出液に2リットルの精製水を加えた。この抽出物に精製水を合わせた溶液に等量の酢酸エチルを加え、酢酸エチル抽出を行った。酢酸エチル層を分離し、無水硫酸ナトリウムで脱水を行った後、減圧下で濃縮乾固を行いウォークマイシンBを含む粗抽出物2.0gを得た。
【0082】
前記粗抽出物をメタノールで溶解し、セファデックスLH−20(内径36mm×480mm、ファルマシア バイオテク社製)カラムにのせ、クロマトグラフィーを行った。550mL溶媒を展開した後、1フラクションを3gずつ分画すると、活性画分はフラクション3から23に溶出され、これを集めて減圧下で濃縮乾固し、99.7mgのウォークマイシンBを含む粗生成物を得た。
前記ウォークマイシンBを含む粗生成物を少量のメタノール:クロロホルム=10:3の混合溶液に加温し溶解した。これを、5℃の条件下で一昼夜静置すると純粋なウォークマイシンBが析出した。これを集め44.8mgのウォークマイシンBを得た。
また、得られたウォークマイシンBの物理化学的性状を測定したところ、前記実施例1で得られたウォークマイシンBと同様の結果であり、これらのことから、ウォークマイシンBが、前記構造式(B)で表される構造を有する化合物であることが確認された。
なお、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCは、生産量が微量であり、精製することができなかった。
【0083】
前記実施例1、及び比較例1の結果から、培養工程における培養培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加しなかった比較例1では、ウォークマイシンBは、精製することが可能な量が生産されたが、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCは、生産量が微量であり、精製物を得ることができないことがわかった。
【0084】
また、得られたウォークマイシンA〜Cの抗菌活性、及び酵素阻害活性を、以下の試験例1〜3で確認した。
【0085】
(試験例1:抗菌活性−1)
バンコマイシン耐性腸球菌、及びバンコマイシン感受性腸球菌に対するウォークマイシンA〜Cの抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。最小発育阻止濃度(MIC)の測定結果を表7に示す。
また、参考として、バンコマイシンでも同様に測定した。結果を表7に示す。
【0086】
【表7】
【0087】
(試験例2:抗菌活性−2)
メチシリン耐性ブドウ球菌、バンコマイシン低感受性メチシリン耐性ブドウ球菌、及びメチシリン感受性ブドウ球菌に対するウォークマイシンA〜Cの抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。最小発育阻止濃度(MIC)の測定結果を表8に示す。
また、参考として、オキサシリンでも同様に測定した。結果を表8に示す。
【0088】
【表8】
【0089】
表7〜8の結果から、ウォークマイシンA〜Cは、バンコマイシン耐性腸球菌、バンコマイシン感受性腸球菌、メチシリン耐性ブドウ球菌、バンコマイシン低感受性メチシリン耐性ブドウ球菌、及びメチシリン感受性ブドウ球菌に対して、抗菌活性を有していることがわかった。
ウォークマイシンA〜Cの中でも、ウォークマイシンA、及びCは、ウォークマイシンBよりも優れた抗菌活性を有していることがわかった。
【0090】
(試験例3:酵素阻害活性)
−(1)YycGヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
枯草菌168株(B. subtilis 168)のYycGに対する、ウォークマイシンA〜Cの酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法にしたがって行った。
YycGのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から207番目のアミノ酸から611番目のアミノ酸を含む)をPCR法により枯草菌168株の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET−21a(+)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−yycGtruを大腸菌に形質転換した株の培養液から、YycGのヒスチジンキナーゼ活性ドメインを発現させたタンパク質(YycG−207−611)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液の組成は、0.5μM YycG−207−611、50mM Tris−HCl(pH8.5)、100mM KCl、100mM NH4Cl、5mM MgCl2であり、この反応溶液に2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、反応を開始し、30℃で10分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。阻害活性を調べる際は、ATP混合溶液を加える前に所定の濃度のウォークマイシンA〜Cを反応溶液中に加え、30℃で5分間インキュベートし、枯草菌のYycGに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表9に示す。
【0091】
−(2)VicKヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
う蝕菌(Streptococcus mutans)のVicKに対する、ウォークマイシンA〜Cの酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法を改変して行った。
VicKのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から31番目のアミノ酸から450番目のアミノ酸を含む)をPCR法により、う蝕菌の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET22b(+)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−SMvicK31−450を大腸菌に形質転換した株の培養液から、VicKのヒスチジンキナーゼ活性ドメインのみを発現させたタンパク質(VicK−31−450)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液の組成は、0.5μM VicK−31−450、50mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM KCl、10mM MgCl2であり、この反応液 7μLにウォークマイシンA〜Cを 1μL加え、25℃で5分間インキュベートした。その後、[32P]ATPを含む12.5μM ATPを2μL加え(終濃度2.5μM)反応を開始し、25℃で20分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことによって、う蝕菌のVicKに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表9に示す。
【0092】
−(3)PehSヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
軟腐病菌MAFF301393株(Erwinia carotovora subsp. carotovora MAFF301393)のPehSに対する、ウォークマイシンA〜Cの酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法にしたがって行った。
PehSのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から209番目のアミノ酸から484番目のアミノ酸を含む)をPCR法により軟腐病菌MAFF301393株の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET−21a(+)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−pehScM2−2を大腸菌に形質転換した株の培養液から、PehSヒスチジンキナーゼ活性ドメインのみを発現させたタンパク質(PehS−209−484)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液の組成は、4μM PehS−209−484、50mM Tris−HCl(pH8.5)、100mM KCl、100mM NH4Cl、5mM MgCl2であり、この反応溶液に2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、反応を開始し、30℃で20分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。阻害活性を調べる際は、ATP混合溶液を加える前に所定の濃度のウォークマイシンA〜Cを反応溶液中に加え、30℃で5分間インキュベートし、軟腐病菌のPehSに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表9に示す。
【0093】
【表9】
【0094】
表9の結果から、ウォークマイシンA〜Cは、グラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌が有するヒスチジンキナーゼに対して、阻害活性を有していることがわかった。ウォークマイシンA〜Cは、特にYycGに対して強い阻害活性を有していることがわかった。
また、ウォークマイシンA〜Cの中でも、ウォークマイシンA、及びCは、ウォークマイシンBよりも優れた酵素阻害活性を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の新規化合物(ウォークマイシンA、及びウォークマイシンC)は、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有することから、新たな抗菌剤、酵素活性阻害剤として好適に利用できる。また、本発明の化合物(ウォークマイシンB)は、優れた酵素阻害活性を有することから、新たな酵素活性阻害剤として好適に利用できる。
【受託番号】
【0096】
NITE P−777
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する新規化合物、その製造方法、及びその用途、並びに、前記新規化合物の生産菌である新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの抗菌剤が、細菌感染症の治療薬として用いられてきている。これまでに知られる抗菌剤の多くは、細菌の核酸合成、蛋白質合成、ペプチドグリカン合成等を阻害することにより作用する。これらの標的部位は単一で、主として代謝合成経路を阻害することを目的にしているため、これらの抗菌剤に対する耐性菌が出現しやすく、特に近年では複数の抗生物質に対して耐性を示す多剤耐性菌の出現が問題となっている。
例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、化膿性疾患、肺炎、食中毒等の起因菌として知られるが、抗生物質メチシリン等の多くの薬剤に対する耐性を獲得したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現が、臨床上大きな問題となっている。現在、MRSAに対する代表的な治療薬としては、バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリドなどが使用されているが、完全にMRSAを排除することは一般に困難であるとされており、また、これらのうち、バンコマイシンについては、既にバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現が報告されており、その使用には十分な注意が必要であるとされている。
このような薬剤耐性菌の問題を克服するために、従来の抗菌剤とは異なった新しい作用機構による微生物に対する新規抗微生物剤の開発が望まれている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、細菌には、環境に応答してその変化を受容するレセプターとそれぞれの遺伝子発現を制御する情報伝達機構が知られており、その代表例が二成分制御系(two−component systems)である。二成分制御系とは、ヒスチジンキナーゼ活性を示すセンサータンパク質とDNA結合タンパク質であるレギュレーターより構成されている環境応答性の遺伝子発現制御系であり、細菌は様々な環境変化に対応すべく、種々のセンサーとレギュレーターを有している(例えば、非特許文献2参照)。
細菌の二成分制御系としては、グラム陽性菌のYycF(WalRともいう)およびYycG(WalKともいう)が関与する情報伝達系が存在し、これを阻害すると細菌が死滅することが知られており(例えば、非特許文献3〜6参照)、前記情報伝達系を阻害することによるグラム陽性細菌に抗菌力を示す抗菌剤が期待される。
また、ハクサイ、ジャガイモといった農作物に感染し、農業生産に甚大な被害をもたらす軟腐病菌の病原性は3種の二成分制御系PehS/PehR(例えば、非特許文献7参照)、PmrB/PmrA(例えば、非特許文献8参照)、ExpS/ExpA(例えば、非特許文献9参照)によって病原性が調節されていることが知られており、これら病原性を抑制することによる軟腐病菌の防除が期待される。
【0004】
上記知見があるものの、満足のいく抗菌剤、酵素活性阻害剤は未だ得られておらず、優れた抗菌剤などの開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sievert DM,et al:Staphylococcus aureus Resistant to Vancomycin−United States,2002.MMWR July 5,2002;51:565−567.
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリー、第58巻、第4号
【非特許文献3】Fablet, C. and Hoch, A. A., J. Bacteriol., 180, 6375−6383, 1998
【非特許文献4】Marti, P. K.,Li, T., Sun, D., Biek, D. P. and Schmid, M. B., J. Bacteriol., 181, 3666−3673, 1999
【非特許文献5】Lange, R., Wagner, C., DeSaizieu, A., Flint, N., Monos, J., Stiger, M., Caspers, P., Kamber, M., Keck wolfgang, Amrein, K. E., Gene, 237, 223−234, 1999
【非特許文献6】Beier, D. and Frank, R., J. Bacteriol., 182, 2068−2076, 2000
【非特許文献7】Eriksson, A. R. B., Andersson, R. A., Pirhonen, M., and Palva, E. T., Mol. Plant−Microbe Interact., 11, 743−752, 1998
【非特許文献8】Hyytiainen, H., Sjoblom, S., Palomaki, T., Tuikkala, A., and Palva, E. T., Mol. Microbiol., 50, 795−807, 2003
【非特許文献9】Flego, D., Marits, R., Eriksson, A. R. B., Koiv, V., Karlsson, M.−B., Heikinheimo, R., and Palva, E. T., Mol. Plant−Microbe Interact., 13, 447−455, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みて行われたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは、細菌細胞の主要な情報伝達機構である二成分制御系に着目し、鋭意検討した結果、新規な微生物として、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株を分離することに成功し、この菌株が、新規な構造骨格を有し、抗菌活性、若しくは、酵素阻害活性を有する化合物を産生していることを見出した。本発明者らは、前記化合物の化学構造を分析することで、これらが新規化合物であることを確認し、本発明の完成に至った。なお、本発明者らは、これらの新規化合物をウォークマイシン(Walkmycin)A、及びウォークマイシン(Walkmycin)Cと命名した。
更に、本発明者らは、前記菌株が産生する既知の化合物の中に、酵素阻害活性を有する化合物があることを見出し、本発明の完成に至った。なお、本発明者らは、この化合物をウォークマイシン(Walkmycin)Bと命名した。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(A)で表される化合物、下記構造式(C)で表される化合物、及び下記構造式(B)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする酵素活性阻害剤である。
【化1】
【化2】
【化3】
<2> ヒスチジンキナーゼ活性を阻害する前記<1>に記載の酵素活性阻害剤である。
<3> 下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物である。
【化4】
<4> 下記構造式(C)で表されることを特徴とする化合物である。
【化5】
<5> 下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかの製造方法であって、
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを採取する採取工程とを含み、
前記培養工程における培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加することを特徴とする化合物の製造方法である。
【化6】
【化7】
<6> ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物が、受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である前記<5>に記載の化合物の製造方法である。
【化8】
【化9】
<7> 分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかが、バリン、ロイシン、及びイソロイシンの少なくともいずれかである前記<5>から<6>のいずれかに記載の化合物の製造方法である。
<8> 分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかが、イソロイシンである前記<5>から<7>のいずれかに記載の化合物の製造方法である。
<9> ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有することを特徴とする微生物である。
【化10】
【化11】
<10> 受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である前記<9>に記載の微生物である。
<11> 下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする化合物含有組成物である。
【化12】
【化13】
<12> 下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする抗菌剤である。
【化14】
【化15】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図2】図2は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)のメタノール(0.05M HCl含有メタノール)中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図3】図3は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)の重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図4】図4は、前記構造式(A)で表される化合物(ウォークマイシンA)の重メタノール中で30℃にて測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図5】図5は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図6】図6は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)のメタノール(0.05M HCl含有メタノール)中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図7】図7は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)の重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図8】図8は、前記構造式(C)で表される化合物(ウォークマイシンC)の重メタノール中で30℃にて測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図9】図9は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図10】図10は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)のメタノール(0.05M HCl含有メタノール)中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図11】図11は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)の重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図12】図12は、前記構造式(B)で表される化合物(ウォークマイシンB)の重メタノール中で30℃にて測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(酵素活性阻害剤)
本発明の酵素活性阻害剤は、少なくとも下記構造式(A)で表される化合物、下記構造式(C)で表される化合物、及び下記構造式(B)で表される化合物の少なくともいずれかを含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
前記酵素活性阻害剤は、ヒスチジンキナーゼ活性を好適に阻害することができる。
【化16】
【化17】
【化18】
【0012】
<構造式(A)で表される化合物>
下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物は、本発明の化合物の1つである。下記構造式(A)で表される化合物は、本発明者らが分離した新規化合物である(以下、「ウォークマイシン(Walkmycin)A」と称することがある)。
【化19】
【0013】
−物理化学的性状−
前記構造式(A)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C43H42Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 853.2041(M+H)+であり、計算値は、m/z 853.2041(C43H43Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−120.5°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図1に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2972、2947、1684、1616、1590(sh)、1408、1379、1315、1217、1153
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図2に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 236(33,700)、277(35,400)、330(6,600)、412(13,600)
0.005M NaOH : 246(33,700)、267(sh)、340(7,100)、429(20,400)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図3、及び表1に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図4、及び表1に示す通りである。
【表1】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、7.7分である。
【0014】
化合物が、前記構造式(A)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル、等の分析を行うことにより、確認することができる。
【0015】
前記ウォークマイシンAは、ウォークマイシンAを生産する微生物から得られたものであってもよいし、化学合成により得られたものであってもよいが、後述する本発明の、化合物の製造方法により、得られることが好ましい。
【0016】
前記ウォークマイシンAは、後述する試験例1〜3に示されるように、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有する。そのため、前記ウォークマイシンAは、例えば、前記酵素活性阻害剤、後述する本発明の、化合物含有組成物、抗菌剤、などの有効成分として、好適に利用可能である。
【0017】
<構造式(C)で表される化合物>
下記構造式(C)で表されることを特徴とする化合物は、本発明の化合物の1つである。下記構造式(C)で表される化合物は、本発明者らが分離した新規化合物である(以下、「ウォークマイシン(Walkmycin)C」と称することがある)。
【化20】
【0018】
−物理化学的性状−
前記構造式(C)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C45H46Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 881.2340(M+H)+であり、計算値は、m/z 881.2337(C45H47Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−39.8°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図5に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2970、2939、1685、1616、1590(sh)、1408、1377、1315、1219、1161
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図6に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 237(27,700)、276(11,500)、328(5,500)、405(10,700)
0.005M NaOH : 245(27,500)、271(sh)、341(5,500)、424(15,000)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図7、及び表2に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図8、及び表2に示す通りである。
【表2】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、10.0分である。
【0019】
化合物が、前記構造式(C)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル、等の分析を行うことにより、確認することができる。
【0020】
前記ウォークマイシンCは、ウォークマイシンCを生産する微生物から得られたものであってもよいし、化学合成により得られたものであってもよいが、後述する本発明の、化合物の製造方法により、得られることが好ましい。
【0021】
前記ウォークマイシンCは、後述する試験例1〜3に示されるように、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有する。そのため、前記ウォークマイシンCは、例えば、前記酵素活性阻害剤、後述する本発明の、化合物含有組成物、抗菌剤、などの有効成分として、好適に利用可能である。
【0022】
<構造式(B)で表される化合物>
前記構造式(B)で表される化合物(以下、「ウォークマイシン(Walkmycin)B」と称することがある)の物理化学的性状としては、以下の通りである。
【化21】
【0023】
−物理化学的性状−
前記構造式(B)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C44H44Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 867.2180(M+H)+であり、計算値は、m/z 867.2181(C44H45Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−121.7°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図9に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2974、2943、1691、1614、1587(sh)、1400、1375、1313、1220、1196、1167
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図10に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 235(56,200)、279(57,600)、331(9,700)、425(22,000)
0.005M NaOH : 245(46,300)、268(44,600)、341(9,200)、434(29,300)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図11、及び表3に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図12、及び表3に示す通りである。
【表3】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、8.6分である。
【0024】
化合物が、前記構造式(B)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル、等の分析を行うことにより、確認することができる。
【0025】
−ウォークマイシンBの製造−
前記ウォークマイシンBの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウォークマイシンBを生産する微生物から製造する方法、化学合成により製造する方法、などが挙げられる。
【0026】
前記ウォークマイシンBを微生物から製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培養工程と、採取工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む方法が挙げられる。
【0027】
−−培養工程−−
前記培養工程は、ウォークマイシンBを生産する能力を有する微生物を培養する工程である。
【0028】
前記微生物としては、ウォークマイシンBを生産する能力を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述するストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株(NITE P−777)が挙げられる。また、ウォークマイシンBを生産できるその他の菌株についても、常法によって、自然界より分離することが可能である。なお、前記ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株を含め、ウォークマイシンBを生産する生産菌を、放射線照射やその他の変異処理に供することにより、ウォークマイシンBの生産能を高めることも可能である。さらに、遺伝子工学的手法によるウォークマイシンBの生産も可能である。
【0029】
前記培養は、ウォークマイシンBを生産する生産菌を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、ウォークマイシンBの生産に良好な温度で培養することによって行われる。
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができる。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源として、市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウムなどが使用でき、炭素源として、トマトペースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリンなどの炭水化物、脂肪などが使用できる。さらに、食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩を培地に添加して使用することもでき、その他、必要に応じて微量の金属塩を培地に添加して使用することもできる。
これらの材料は、ウォークマイシンBを生産する生産菌が利用し、ウォークマイシンBの生産に役立つものであればよく、公知の培養材料はすべて用いることができる。
【0030】
前記培地には、アミノ酸を添加してもよいし、添加しなくてもよいが、アミノ酸を添加しないほうが、ウォークマイシンBの生産量が多い点で、有利である。
【0031】
ウォークマイシンBの生産のための種母培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地上、ウォークマイシンBを生産する生産菌の斜面培養から得た生育物を使用することができる。
【0032】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気的条件の培養方法が好ましい。
前記培養の温度としては、ウォークマイシンBを生産する生産菌の発育が実質的に阻害されずに、ウォークマイシンBを生産しうる範囲であれば、特に制限はなく、使用する生産菌に応じて適宜選択することができるが、25℃〜35℃が好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、ウォークマイシンBの蓄積に合わせて適宜選択することができる。通常、培養3日間〜10日間でウォークマイシンBの蓄積が最高となる。
【0033】
前記ウォークマイシンBは、後述する試験例3に示されるように、優れた酵素阻害活性を有する。
【0034】
前記酵素活性阻害剤中のウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記酵素活性阻害剤は、ウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの少なくともいずれかそのものであってもよい。
【0035】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記酵素活性阻害剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記酵素活性阻害剤は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記酵素活性阻害剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用してもよい。
【0036】
前記酵素活性阻害剤は、ウォークマイシンA、ウォークマイシンC、及びウォークマイシンBの少なくともいずれかを含むことから、後述する試験例3に示されるように薬剤耐性菌、植物病原性細菌、などを含む幅広いグラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌が有する酵素に対して優れた酵素阻害活性を有するものである。
したがって、前記酵素活性阻害剤は、薬剤耐性菌などを含む幅広いグラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌の病原性を抑制することができ、前記細菌に起因する感染症の予防、又は治療に好適に利用可能である。また、農園芸用殺菌剤の有効成分としても好適に利用可能である。
【0037】
<剤型、投与>
−剤型−
前記酵素活性阻害剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状、カプセル状、錠剤状、液状等の剤型とすることができる。これらの剤型の前記酵素活性阻害剤は、常法に従い製造することができる。
【0038】
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤の補助剤との混合として慣用の処方により乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの適宜の形態として調整できる。
また、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの目的で各種の界面活性剤(または、乳化剤)が使用される。このような界面活性剤としては、非イオン型(ポリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなど)、陰イオン型(アルキルオコシエチレンアルキルサルフェート、アリールスルホネートなど)、陽イオン型(アルキルアミン類、ポリオキシアルキルアミン類など)、両性型(硫酸エステル塩など)が挙げられるが、もちろんこれらの例示のみに限定されるものではない。また、これらの他にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアセテート、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、トラガカントガムなどの各種補助剤を使用することができる。
【0039】
−投与−
前記酵素活性阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記酵素活性阻害剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記酵素活性阻害剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記酵素活性阻害剤の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記酵素活性阻害剤の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
(化合物の製造方法)
本発明の化合物、即ちウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの製造方法は、培養工程と、採取工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0041】
<培養工程>
前記培養工程は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物を培養する工程である。
前記培養工程では、培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加する。なお、前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかは、それらの前駆体であってもよい。
【0042】
前記微生物としては、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明者らの分離したストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株(NITE P−777、詳細は後述する本発明の微生物の項目に記す)が挙げられる。また、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産できるその他の菌株についても、常法によって、自然界より分離することが可能である。なお、前記ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株を含め、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する生産菌を、放射線照射やその他の変異処理に供することにより、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産能を高めることも可能である。さらに、遺伝子工学的手法によるウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産も可能である。
【0043】
前記培養は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する生産菌(以下、単に「ウォークマイシン類生産菌」と称することがある)を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産に良好な温度で培養することによって行われる。
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができる。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源として、市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウムなどが使用でき、炭素源として、トマトペースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリンなどの炭水化物、脂肪などが使用できる。さらに、食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩を培地に添加して使用することもでき、その他、必要に応じて微量の金属塩を培地に添加して使用することもできる。
これらの材料は、ウォークマイシン類生産菌が利用し、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産に役立つものであればよく、公知の培養材料はすべて用いることができる。
【0044】
前記培地には、分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加する。前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加することにより、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産量を増やすことができる。
前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分岐アミノ酸の具体例としては、バリン、ロイシン、イソロイシンが挙げられる。
前記分岐脂肪酸の具体例としては、3−methyl butanoic acid、4−methyl pentanoic acid、3−methyl pentanoic acidが挙げられる。
前記分岐ケト酸の具体例としては、3−methyl−2−oxobutanoic acid、4−methyl−2−oxopentanoic acid、3−methyl−2−oxopentanoic acidが挙げられる。
これらの中でも、バリン、ロイシン、イソロイシンが好ましく、イソロイシンがより好ましい。前記イソロイシンであると、前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産量が多い点で、有利である。
【0045】
前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかの添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、培地全体に対して、0.1質量%〜20質量%が好ましく、0.25質量%〜5質量%がより好ましく、0.5質量%〜1質量%が特に好ましい。
なお、前記分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかは、少なくとも前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産させるための培地(以下、「生産培地」と称することがある。)に添加されていればよい。
【0046】
ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産のための種母培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地上、ウォークマイシン類生産菌の斜面培養から得た生育物を使用することができる。
【0047】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気的条件の培養方法が好ましい。
前記培養の温度としては、ウォークマイシン類生産菌の発育が実質的に阻害されずに、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産しうる範囲であれば、特に制限はなく、使用する生産菌に応じて適宜選択することができるが、25℃〜35℃が好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの蓄積に合わせて適宜選択することができる。通常、培養3日間〜10日間でウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの蓄積が最高となる。
【0048】
<採取工程>
前記採取工程は、前記培養工程で得られた培養物からウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを採取する工程である。
前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCは、上述した物理化学的性状を有するので、その性状に従って培養物から採取することができる。
【0049】
前記採取の方法としては、特に制限はなく、微生物の生産する代謝物を採取するのに用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、水と混ざらない溶媒により抽出する方法、各種吸着剤に対する吸着親和性の差を利用する方法、ゲルろ過、向流分配を利用したクロマトグラフィーなどを単独、又は組み合わせる方法、などが挙げられる。
また、分離した菌体からは、適当な有機溶媒を用いた抽出方法や、菌体破砕による溶出方法などにより、前記ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCを菌体から抽出し、上記と同様に単離精製して採取することができる。
【0050】
以上のようにして前記製造方法を行うことができ、これにより、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCを得ることができる。
【0051】
(微生物)
本発明の微生物は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、上述した本発明の化合物、即ちウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有することを特徴とする。前記微生物は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有し、そのために、上述した本発明の化合物の製造方法において、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの生産菌として使用され得る微生物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
このような微生物の中でも、特に、財団法人 微生物化学研究会 微生物化学研究センターにおいて、山梨県北杜市の土壌より分離された放線菌で、MK632−100F11株の菌株番号が付された微生物を使用することが好ましい。前記MK632−100F11株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0053】
1.形態
MK632−100F11株は、分枝した基生菌糸より、比較的長い直状の気菌糸を伸長する。成熟した胞子鎖は、10個〜50個の長円形の胞子を連鎖する。胞子の大きさは、約0.5μm〜0.6μm×1.2μm〜1.7μmで、胞子の表面は平滑である。輪生枝、菌糸束、胞子のう、及び運動性胞子は認められない。
【0054】
2.各種培地における生育状態
色の記載について[ ]内に示す標準は、コンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of Americaのcolor harmony manual)を用いた。
(1)イースト・麦芽寒天培地(ISP−培地2、30℃培養)
黄[2 lc, Gold]の発育上に、茶白[3 cb, Sand]の気菌糸を着生し、黄の可溶性色素を産生する。
(2)オートミール寒天培地(ISP−培地3、30℃培養)
うす黄[1 1/2 gc, Dusty Yellow]の発育上に、明るい茶灰[3 dc, Natural]の気菌糸を着生する。可溶性色素は、黄を帯びる。
(3)スターチ・無機塩寒天培地(ISP−培地4、30℃培養)
黄[1 1/2 lc, Gold]の発育上に、茶白[5 cb]の気菌糸を着生する。可溶性色素は、黄を帯びる。
(4)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP−培地5、30℃培養)
にぶ黄[2 le, Mustard]の発育上に、茶白[5 cb]の気菌糸を着生する。黄の可溶性色素を産生する。発育の色及び可溶性色素は、0.05モル塩酸の添加及び0.05モル水酸化ナトリウムの添加による変化は認められない。
(5)シュクロース・硝酸塩寒天培地(30℃培養)
うす黄[2 ca, Lt Ivory]の発育上に、茶白[3 cb, Sand]の気菌糸を着生する。可溶性色素は、かすかに黄を帯びる。
【0055】
3.生理的性質
(1)生育温度範囲
グルコース・アスパラギン寒天培地(グルコース 1.0%、L−アスパラギン 0.05%、リン酸水素二カリウム 0.05%、ひも寒天 3.0%、pH7.0)を用い、7℃、16℃、24℃、27℃、30℃、37℃、及び45℃の各温度で試験した結果、7℃、及び45℃での生育は認められず、16℃〜37℃の範囲で生育した。生育至適温度は、27℃〜30℃である。
(2)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地、ISP−培地4、30℃培養)
培養後3日目にはスターチの加水分解が認められ、その作用は中等度である。
【0056】
4.菌体成分
細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸は、LL−型である。
【0057】
5.16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子の部分塩基配列(1459bp)を決定し、DNAデータベースに登録された公知菌株のデータと比較した。その結果、MK632−100F11株の塩基配列は以下に示すように、ストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌の16S rRNA遺伝子と高い相同性を示した。即ち、Streptomyces pseudovenezuelae(99%)、S. novaecaesareae(99%)、S. canus(99%)、S. galilaeus(99%)、S. lavovariabilis(99%)、S. regalis(99%)等である。なお、括弧内は塩基配列の相同値を表記した。
【0058】
以上の性状を要約すると、MK632−100F11株は、その形態上、よく分枝した基生菌糸より、比較的長い直状の気菌糸を伸長し、長円形の胞子を連鎖する。種々の培地で、うす黄〜黄の発育上に茶白〜明るい茶灰の気菌糸を着生する。黄の可溶性色素を産生する。生育至適温度は、27℃〜30℃付近である。スターチの水解性は中等度である。
MK632−100F11株の細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸は、LL−型である。
MK632−100F11株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を解析し、公知菌株のデータと比較したところ、ストレプトマイセス属放線菌と高い相同性を示した。
【0059】
以上の結果より、前記MK632−100F11株は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属するものと考えられる。そこで、前記MK632−100F11株をストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株とした。
なお、前記MK632−100F11株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、平成21年7月1日、NITE P−777として受託された。
【0060】
なお、他の菌にも見られるように、前記MK632−100F11株は、性状が変化し易いが、例えば、前記MK632−100F11株に由来する突然変異株(自然発生、又は誘発性)、形質接合体、遺伝子組換体などであっても、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを生産する能力を有するものは、本発明の微生物に含まれる。
【0061】
(化合物含有組成物)
本発明の化合物含有組成物は、少なくとも前記ウォークマイシンA、及び前記ウォークマイシンCの少なくともいずれかを含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
【0062】
前記化合物含有組成物中のウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記化合物含有組成物は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかそのものであってもよい。
【0063】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記化合物含有組成物中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記化合物含有組成物は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記化合物含有組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用してもよい。
【0064】
前記化合物含有組成物は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを含むことから、抗菌作用、及び、酵素活性阻害作用の少なくともいずれかを有するものである。
【0065】
(抗菌剤)
本発明の抗菌剤は、少なくとも前記ウォークマイシンA、及び前記ウォークマイシンCの少なくともいずれかを含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
【0066】
前記抗菌剤中のウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗菌剤は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかそのものであってもよい。
【0067】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記抗菌剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記抗菌剤は、単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記抗菌剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用してもよい。
【0068】
前記抗菌剤は、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCの少なくともいずれかを含むことから、後述する試験例1及び2に示されるように薬剤耐性菌などに対して優れた抗菌活性を有するものである。
したがって、前記抗菌剤は、薬剤耐性菌などに起因する感染症の予防、又は治療に好適に利用可能である。また、前記抗菌剤は、農園芸用殺菌剤としても好適に利用可能である。
【0069】
<剤型、投与>
−剤型−
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状、カプセル状、錠剤状、液状等の剤型とすることができる。これらの剤型の前記化合物含有組成物、及び抗菌剤は、常法に従い製造することができる。
【0070】
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤の補助剤との混合として慣用の処方により乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの適宜の形態として調整できる。
また、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの目的で各種の界面活性剤(または、乳化剤)が使用される。このような界面活性剤としては、非イオン型(ポリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなど)、陰イオン型(アルキルオコシエチレンアルキルサルフェート、アリールスルホネートなど)、陽イオン型(アルキルアミン類、ポリオキシアルキルアミン類など)、両性型(硫酸エステル塩など)が挙げられるが、もちろんこれらの例示のみに限定されるものではない。また、これらの他にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアセテート、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、トラガカントガムなどの各種補助剤を使用することができる。
【0071】
−投与−
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記化合物含有組成物、及び抗菌剤の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。また、以下の実施例、比較例、及び試験例中、「%」は、特に明記のない限り「質量%」を表す。
【0073】
(実施例1:化合物の製造)
−培養工程−
寒天斜面培地に培養したストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株(NITE P−777として寄託)を、ガラクトース 2%、デキストリン 2%、グリセリン 1%、バクトソイトン(ディフコ社製) 1%、コーン・スティープ・リカー 0.5%、硫酸アンモニウム 0.2%、炭酸カルシウム 0.2%を含む液体培地(pH7.0に調整)を三角フラスコ(500mL容)に110mLずつ分注して、常法により120℃で20分滅菌した培地に接種した。その後に30℃で2日間回転振とう培養し、種母培養液を得た。
【0074】
グリセリン 2.0%、デキストリン 2.0%、L−イソロイシン 1.0%、酵母エキス(日本製薬製) 0.3%、バクトソイトン(ディフコ社製) 1.0%、硫酸アンモニウム 0.2%、炭酸カルシウム 0.2%を含む液体培地(pH7.0に調整)を三角フラスコ(500mL容)に110mLずつ分注して、常法により120℃で20分滅菌し、生産培地とした。この生産培地に、上記の種母培養液の2体積%量を接種し、27℃、5日間回転振とう培養した(180rpm)。
【0075】
−採取工程−
このようにして得られた培養液5リットルを遠心分離して、培養ろ液と菌体に分離した。続いて、菌体は、2.7リットルのメタノールを加えてよく撹拌し、菌体からウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCをメタノールで抽出し、ウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCを含む菌体抽出液3リットルを得た。菌体抽出液3リットルを減圧下でメタノールを溜去し、この抽出液に2リットルの精製水を加えた。この抽出物に精製水を合わせ1Mの塩酸でpHを3.0に調整した後、等量の酢酸エチルを加え、酢酸エチル抽出を行った。酢酸エチル層を分離し、水を加え水洗し、続いて、無水硫酸ナトリウムで脱水を行った後、減圧下で濃縮乾固を行いウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCを含む粗抽出物1.5gを得た。
【0076】
前記粗抽出物をメタノールで溶解し、セファデックスLH−20(内径36mm×480mm、ファルマシア バイオテク社製)カラムにのせ、クロマトグラフィーを行った。550mL溶媒を展開した後、1フラクションを3gずつ分画すると、活性画分はフラクション3から21に溶出され、これを集めて減圧下で濃縮乾固し、55.7mgのウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCの混合物を得た。
前記ウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCの混合物を少量のメタノールに溶解し、C18逆層カラムクロマトグラフィー(Capcell pak UG120、内径30mm×長さ250mm、資生堂製)でウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCをそれぞれ分離した。即ち、展開溶媒として、アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸=70:30:0.001を用い、流速15mL/分でクロマトグラフィーを行うと、ウォークマイシンAは36分〜38分に、ウォークマイシンBは41分〜43分にウォークマイシンCは48分〜51分に溶出し、これらを集めて減圧下で濃縮乾固し、純粋なウォークマイシンAを3.3mgと、ウォークマイシンBを6.4mgと、ウォークマイシンCを3.0mgとを得た。
【0077】
得られたウォークマイシンAの物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、ウォークマイシンAが、下記構造式(A)で表される構造を有する新規化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C43H42Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 853.2041(M+H)+であり、計算値は、m/z 853.2041(C43H43Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−120.5°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図1に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2972、2947、1684、1616、1590(sh)、1408、1379、1315、1217、1153
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図2に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 236(33,700)、277(35,400)、330(6,600)、412(13,600)
0.005M NaOH : 246(33,700)、267(sh)、340(7,100)、429(20,400)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図3、及び表4に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図4、及び表4に示す通りである。
【表4】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、7.7分である。
【化22】
【0078】
また、得られたウォークマイシンCの物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、ウォークマイシンCが、下記構造式(C)で表される構造を有する新規化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C45H46Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 881.2340(M+H)+であり、計算値は、m/z 881.2337(C45H47Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−39.8°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図5に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2970、2939、1685、1616、1590(sh)、1408、1377、1315、1219、1161
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図6に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 237(27,700)、276(11,500)、328(5,500)、405(10,700)
0.005M NaOH : 245(27,500)、271(sh)、341(5,500)、424(15,000)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図7、及び表5に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図8、及び表5に示す通りである。
【表5】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、10.0分である。
【化23】
【0079】
また、得られたウォークマイシンBの物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、ウォークマイシンBが、下記構造式(B)で表される構造を有する化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C44H44Cl2O14で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:正イオンモード)による、実験値は、m/z 867.2180(M+H)+であり、計算値は、m/z 867.2181(C44H45Cl2O14として)である。
(4) 比旋光度は、[α]D23=−121.7°(c 0.025, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図9に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3700〜3200、2974、2943、1691、1614、1587(sh)、1400、1375、1313、1220、1196、1167
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図10に示す通りである。
λmax nm(ε) :
0.005M HCl : 235(56,200)、279(57,600)、331(9,700)、425(22,000)
0.005M NaOH : 245(46,300)、268(44,600)、341(9,200)、434(29,300)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重クロロホルム:重メタノール=4:1の混合溶媒中で30℃にて測定したプロトンNMRスペクトルは、
図11、及び表6に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で30℃にて測定した炭素13NMRスペクトルは、図12、及び表6に示す通りである。
【表6】
(9) 高速クロマトグラフィーとして、CAPCELL PAK C18 UG120(粒子径5μm, 内径2.0mm×長さ150mm, 資生堂製)カラム、展開溶媒としてアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸(70:30:0.01、容量比)を用いて流速0.2mL/minで展開したときの保持時間は、8.6分である。
【化24】
【0080】
(比較例1:化合物の製造)
−培養工程−
実施例1の培養工程において、生産培地のL−イソロイシンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして培養工程を行った。
【0081】
−採取工程−
このようにして得られた培養液5リットルを遠心分離して、培養ろ液と菌体に分離した。続いて、菌体は、2.7リットルのメタノールを加えてよく撹拌し、菌体からウォークマイシンA、ウォークマイシンB、及びウォークマイシンCをメタノールで抽出し、ウォークマイシンBと、微量のウォークマイシンA、及びウォークマイシンCを含む菌体抽出液3リットルを得た。菌体抽出液3リットルを減圧下でメタノールを溜去し、この抽出液に2リットルの精製水を加えた。この抽出物に精製水を合わせた溶液に等量の酢酸エチルを加え、酢酸エチル抽出を行った。酢酸エチル層を分離し、無水硫酸ナトリウムで脱水を行った後、減圧下で濃縮乾固を行いウォークマイシンBを含む粗抽出物2.0gを得た。
【0082】
前記粗抽出物をメタノールで溶解し、セファデックスLH−20(内径36mm×480mm、ファルマシア バイオテク社製)カラムにのせ、クロマトグラフィーを行った。550mL溶媒を展開した後、1フラクションを3gずつ分画すると、活性画分はフラクション3から23に溶出され、これを集めて減圧下で濃縮乾固し、99.7mgのウォークマイシンBを含む粗生成物を得た。
前記ウォークマイシンBを含む粗生成物を少量のメタノール:クロロホルム=10:3の混合溶液に加温し溶解した。これを、5℃の条件下で一昼夜静置すると純粋なウォークマイシンBが析出した。これを集め44.8mgのウォークマイシンBを得た。
また、得られたウォークマイシンBの物理化学的性状を測定したところ、前記実施例1で得られたウォークマイシンBと同様の結果であり、これらのことから、ウォークマイシンBが、前記構造式(B)で表される構造を有する化合物であることが確認された。
なお、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCは、生産量が微量であり、精製することができなかった。
【0083】
前記実施例1、及び比較例1の結果から、培養工程における培養培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加しなかった比較例1では、ウォークマイシンBは、精製することが可能な量が生産されたが、ウォークマイシンA、及びウォークマイシンCは、生産量が微量であり、精製物を得ることができないことがわかった。
【0084】
また、得られたウォークマイシンA〜Cの抗菌活性、及び酵素阻害活性を、以下の試験例1〜3で確認した。
【0085】
(試験例1:抗菌活性−1)
バンコマイシン耐性腸球菌、及びバンコマイシン感受性腸球菌に対するウォークマイシンA〜Cの抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。最小発育阻止濃度(MIC)の測定結果を表7に示す。
また、参考として、バンコマイシンでも同様に測定した。結果を表7に示す。
【0086】
【表7】
【0087】
(試験例2:抗菌活性−2)
メチシリン耐性ブドウ球菌、バンコマイシン低感受性メチシリン耐性ブドウ球菌、及びメチシリン感受性ブドウ球菌に対するウォークマイシンA〜Cの抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。最小発育阻止濃度(MIC)の測定結果を表8に示す。
また、参考として、オキサシリンでも同様に測定した。結果を表8に示す。
【0088】
【表8】
【0089】
表7〜8の結果から、ウォークマイシンA〜Cは、バンコマイシン耐性腸球菌、バンコマイシン感受性腸球菌、メチシリン耐性ブドウ球菌、バンコマイシン低感受性メチシリン耐性ブドウ球菌、及びメチシリン感受性ブドウ球菌に対して、抗菌活性を有していることがわかった。
ウォークマイシンA〜Cの中でも、ウォークマイシンA、及びCは、ウォークマイシンBよりも優れた抗菌活性を有していることがわかった。
【0090】
(試験例3:酵素阻害活性)
−(1)YycGヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
枯草菌168株(B. subtilis 168)のYycGに対する、ウォークマイシンA〜Cの酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法にしたがって行った。
YycGのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から207番目のアミノ酸から611番目のアミノ酸を含む)をPCR法により枯草菌168株の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET−21a(+)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−yycGtruを大腸菌に形質転換した株の培養液から、YycGのヒスチジンキナーゼ活性ドメインを発現させたタンパク質(YycG−207−611)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液の組成は、0.5μM YycG−207−611、50mM Tris−HCl(pH8.5)、100mM KCl、100mM NH4Cl、5mM MgCl2であり、この反応溶液に2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、反応を開始し、30℃で10分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。阻害活性を調べる際は、ATP混合溶液を加える前に所定の濃度のウォークマイシンA〜Cを反応溶液中に加え、30℃で5分間インキュベートし、枯草菌のYycGに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表9に示す。
【0091】
−(2)VicKヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
う蝕菌(Streptococcus mutans)のVicKに対する、ウォークマイシンA〜Cの酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法を改変して行った。
VicKのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から31番目のアミノ酸から450番目のアミノ酸を含む)をPCR法により、う蝕菌の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET22b(+)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−SMvicK31−450を大腸菌に形質転換した株の培養液から、VicKのヒスチジンキナーゼ活性ドメインのみを発現させたタンパク質(VicK−31−450)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液の組成は、0.5μM VicK−31−450、50mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM KCl、10mM MgCl2であり、この反応液 7μLにウォークマイシンA〜Cを 1μL加え、25℃で5分間インキュベートした。その後、[32P]ATPを含む12.5μM ATPを2μL加え(終濃度2.5μM)反応を開始し、25℃で20分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことによって、う蝕菌のVicKに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表9に示す。
【0092】
−(3)PehSヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
軟腐病菌MAFF301393株(Erwinia carotovora subsp. carotovora MAFF301393)のPehSに対する、ウォークマイシンA〜Cの酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法にしたがって行った。
PehSのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から209番目のアミノ酸から484番目のアミノ酸を含む)をPCR法により軟腐病菌MAFF301393株の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET−21a(+)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−pehScM2−2を大腸菌に形質転換した株の培養液から、PehSヒスチジンキナーゼ活性ドメインのみを発現させたタンパク質(PehS−209−484)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液の組成は、4μM PehS−209−484、50mM Tris−HCl(pH8.5)、100mM KCl、100mM NH4Cl、5mM MgCl2であり、この反応溶液に2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、反応を開始し、30℃で20分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。阻害活性を調べる際は、ATP混合溶液を加える前に所定の濃度のウォークマイシンA〜Cを反応溶液中に加え、30℃で5分間インキュベートし、軟腐病菌のPehSに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表9に示す。
【0093】
【表9】
【0094】
表9の結果から、ウォークマイシンA〜Cは、グラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌が有するヒスチジンキナーゼに対して、阻害活性を有していることがわかった。ウォークマイシンA〜Cは、特にYycGに対して強い阻害活性を有していることがわかった。
また、ウォークマイシンA〜Cの中でも、ウォークマイシンA、及びCは、ウォークマイシンBよりも優れた酵素阻害活性を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の新規化合物(ウォークマイシンA、及びウォークマイシンC)は、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有することから、新たな抗菌剤、酵素活性阻害剤として好適に利用できる。また、本発明の化合物(ウォークマイシンB)は、優れた酵素阻害活性を有することから、新たな酵素活性阻害剤として好適に利用できる。
【受託番号】
【0096】
NITE P−777
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(A)で表される化合物、下記構造式(C)で表される化合物、及び下記構造式(B)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする酵素活性阻害剤。
【化25】
【化26】
【化27】
【請求項2】
下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物。
【化28】
【請求項3】
下記構造式(C)で表されることを特徴とする化合物。
【化29】
【請求項4】
下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかの製造方法であって、
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを採取する採取工程とを含み、
前記培養工程における培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加することを特徴とする化合物の製造方法。
【化30】
【化31】
【請求項5】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物が、受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である請求項4に記載の化合物の製造方法。
【化32】
【化33】
【請求項6】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有することを特徴とする微生物。
【化34】
【化35】
【請求項7】
受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする化合物含有組成物。
【化36】
【化37】
【請求項9】
下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする抗菌剤。
【化38】
【化39】
【請求項1】
下記構造式(A)で表される化合物、下記構造式(C)で表される化合物、及び下記構造式(B)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする酵素活性阻害剤。
【化25】
【化26】
【化27】
【請求項2】
下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物。
【化28】
【請求項3】
下記構造式(C)で表されることを特徴とする化合物。
【化29】
【請求項4】
下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかの製造方法であって、
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを採取する採取工程とを含み、
前記培養工程における培地に分岐アミノ酸、分岐脂肪酸、及び分岐ケト酸の少なくともいずれかを添加することを特徴とする化合物の製造方法。
【化30】
【化31】
【請求項5】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有する微生物が、受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である請求項4に記載の化合物の製造方法。
【化32】
【化33】
【請求項6】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを生産する能力を有することを特徴とする微生物。
【化34】
【化35】
【請求項7】
受託番号NITE P−777のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK632−100F11株である請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする化合物含有組成物。
【化36】
【化37】
【請求項9】
下記構造式(A)で表される化合物、及び下記構造式(C)で表される化合物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする抗菌剤。
【化38】
【化39】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−36182(P2011−36182A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186724(P2009−186724)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000173913)財団法人微生物化学研究会 (29)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000173913)財団法人微生物化学研究会 (29)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
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