説明

新規化合物及びそれを含有する感放射線性組成物

【課題】昇華性が低く、光重合開始剤として使用する場合に高い放射線感度を有すると共に、溶解性に優れた新規な化合物、及び高い表面硬度と透明性とを有する硬化膜を形成可能な感放射線性組成物の提供。
【解決手段】光重合開始剤としてのオキシムエステル残基およびアシル残基をカルバゾールのフェニル基および窒素原子に有する、新規なカルバゾール化合物及びエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物を含有する感放射線性組成物。該感放射線性組成物はアルカリ可溶性樹脂をさらに含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合開始剤として有用な新規化合物、及びこの新規化合物を含む感放射線性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
感放射線性組成物は、塗布プロセスによって硬化物を大量かつ容易に形成することができ、その硬化物の微細加工も容易である等の利点から、液晶デバイス、半導体デバイス作成用材料等の他、光硬化性インキ、感光性印刷版等にも広く使用されている。このような感放射線性組成物は、代表的には、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物及び光重合開始剤を含有する。上記硬化物形成プロセスでは、この感放射線性組成物をガラス基板等の上に塗布して被膜を形成し、次いで、この被膜に対し水銀ランプを具備した露光装置で露光することにより、硬化物としての硬化膜を形成することができる。
【0003】
水銀ランプは、紫外〜可視波長領域に水銀特有の輝線スペクトルを持つランプで、254nm、365nm、405nm等に強度の大きい水銀ランプ特有の輝線を有する。この中でも、365nm、405nmの輝線を有効に利用した高放射線感度の光重合開始剤が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述のような高放射線感度の光重合開始剤は、可視領域に極大吸収を有する化合物が多く、やや赤色を帯びている場合が多い。そして、やや赤色を帯びた光重合開始剤を用いると、硬化膜も同様にやや赤色を呈してしまって透明性が低下することから、液晶デバイス等に適用される可視領域に高い透過性を必要とする硬化膜には適用できない場合がある。
【0005】
他方で、従来から使用されているアセトフェノン系開始剤(例えば、特許文献2参照)は、300nm付近に極大吸収を有することから、光重合開始剤自体もほぼ白色であり、アセトフェノン系開始剤を使用した硬化膜は、可視領域に高い透明性を示す。しかし、このようなアセトフェノン系開始剤は放射線感度が低く、充分な表面硬度を有した膜を得るためには、高い露光量を必要とする。さらに、アセトフェノン系開始剤には昇華性があることから、近年、昇華によるベーク炉や露光時のフォトマスクの汚染等が問題視されてきている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
これに対し、低揮発性でかつ高放射線感度であり、多量の着色顔料を含有していても硬化膜を形成可能な光開始剤として、少なくとも2つのオキシムエステル基を有する特定のオキシムエステル化合物が開発されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、このオキシムエステル化合物は、着色したレジスト膜を形成するのに用いられる光開始剤であることから、これを用いた硬化膜の透明性については考慮されていない。また、上記オキシムエステル化合物の感放射線性組成物への溶解性が充分とはいえず、改善の余地がある。
【0007】
以上のような状況の中、昇華性が低く、光重合開始剤として使用する場合に高い放射線感度を示し、感放射線性組成物の光重合開始剤として使用する場合に高い透明性及び表面硬度を有する硬化膜を得ることができ、かつ感放射線性組成物への溶解性の高い化合物の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−233842号公報
【特許文献2】特開昭58−157805号公報
【特許文献3】特開2007−86565号公報
【特許文献4】特表2009−519904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような事情に基づいてなされたものであり、その主な目的は、昇華性が低く、光重合開始剤として使用する場合に高い放射線感度を有すると共に、感放射線性組成物への溶解性の高い化合物を提供することである。さらに、本発明の他の目的は、高い透明性及び表面硬度を有する硬化膜を得ることができる感放射線性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記式(1)で示される化合物である。
【化1】

(式(1)において、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数4〜20のシクロアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、2−フリル基、2−フルフリル基、2−チエニル基、2−テニル基、フェニル基又はナフチル基であり、このフェニル基又はナフチル基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数3〜10のシクロアルキル基である。
は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、ハロゲン原子、2−フリル基、2−フルフリル基、2−チエニル基、又は2−テニル基である。
は、スルホ基、又はSO、P(R、PO(R若しくはSi(Rで表される基である。
は、水素原子、メチル基、炭素数2〜12のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基であり、上記炭素数2〜12のアルキル基の水素原子の一部又は全部は、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、炭素数1〜6のアシロキシ基、ベンゾイルオキシ基及び炭素数1〜20のアシル基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよく、上記フェニル基又はナフチル基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基又はナフチル基であり、このフェニル基又はナフチル基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0011】
当該化合物は、光重合開始剤として使用する場合に高い放射線感度を発現し、結果として、小さい露光量によって、正確なパターン及び充分な表面硬度を有する硬化膜を得ることができる。また、当該化合物は、上記(1)で示される構造を有することから、低い昇華性を有するため、昇華による設備やフォトマスクの汚染を効果的に抑制することが可能となると共に、感放射線性組成物に対して高い溶解性を示す。さらに、当該化合物を光重合開始剤として使用する場合には、高い透明性を有する硬化膜を得ることができる。
【0012】
当該化合物において、上記R、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基であり、上記Rは、SO、PO(R又はSi(Rで表される基であり、上記Rは、水素原子の一部又は全部がアセトキシ基で置換された炭素数2〜6のアルキル基であり、上記Rはフェニル基であり、上記Rは炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。このような構造を当該化合物に導入することにより、当該化合物の調製が容易となると共に、感放射線性組成物への溶解性をより向上させることができ、また、感放射線性組成物の放射線感度を高めることができる。
【0013】
[A]成分の光重合開始剤として上記化合物を用い、さらに[B]成分としてエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物を含める形で感放射線性組成物を構成することができる。このような感放射線性組成物は、上記化合物を含むことから、高い放射線感度を有し、かつ低い昇華性を示す。また、このような感放射線性組成物からは、高い表面硬度及び透明性を有する硬化膜を得ることができる。
【0014】
当該感放射線性組成物は、[C]成分としてアルカリ可溶性樹脂をさらに含有することが好ましい。当該感放射線性組成物がアルカリ可溶性樹脂を含有することによって、このアルカリ可溶性樹脂が現像工程において用いられるアルカリに対して可溶性を示し、その結果、高い現像性が発現され、正確なパターンを有する硬化膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規な化合物は、光重合開始剤として使用する場合に高い放射線感度を示すと共に、小さい露光量によって正確なパターンと充分な表面硬度とを有する硬化膜を形成可能な感放射線性組成物を提供することができる。また、当該化合物は、低い昇華性を有するため、昇華による設備等の汚染を効果的に抑制することが可能となる。さらに、当該化合物の感放射線性組成物への溶解性が良好であることから、感放射線性組成物の調製が容易となり、また、当該化合物を用いた感放射線性組成物からは高い透明性を有する硬化膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<新規化合物>
本発明の化合物は、上記式(1)で示される化合物である。上記式(1)において、Rの炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基等の分岐アルキル基等が挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0017】
上記式(1)において、Rの炭素数4〜20のシクロアルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0018】
上記式(1)において、Rの炭素数1〜6のハロアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基であり、例えば、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、クロロブチル基、クロロヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
上記式(1)において、Rの炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、i−プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0020】
上記式(1)において、R及びRの炭素数1〜12のアルキル基としては、Rと同様の基が挙げられ、R及びRの炭素数3〜10のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0021】
上記式(1)において、Rの炭素数1〜12のアルキル基としては、Rと同様の基が挙げられ、Rの炭素数1〜12のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
上記式(1)において、Rの炭素数1〜12のアルキル基としては、Rと同様の基が挙げられ、炭素数1〜6のアシロキシ基としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニロキシ基等が挙げられる。炭素数1〜20のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。Rの炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシ基としては、Rと同様の基が挙げられる。
【0023】
、R及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシ基としては、Rと同様の基が挙げられる。
【0024】
当該化合物において、上記R、R、R及びRは、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基であり、上記Rは、SO、PO(R又はSi(Rで表される基であり、上記Rは、水素原子の一部又は全部がアセトキシ基で置換された炭素数2〜6のアルキル基であり、上記Rはフェニル基であり、上記Rは炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。このような構造を当該化合物に導入することにより、当該化合物の調製が容易となると共に、感放射線性組成物への溶解性をより向上させることができる。
【0025】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(2)〜(7)で示される化合物を挙げることができる。
【0026】
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0027】
当該化合物は、光重合開始剤として高い放射線感度を示し、大きな露光量を要することなく、高い表面硬度を有する硬化膜を得ることができる。また、当該化合物は、低い昇華性を有するため、ベーク炉やフォトマスク等の汚染を効果的に防止することができる。このような低い昇華性は、化合物の分子構造に起因すると考えられる。さらに、当該化合物は、それ自身透明性が優れているため、高い透明性を有する硬化膜を得ることができる。加えて、当該化合物の感放射線性組成物への溶解性が高いことから、感放射線性組成物を容易に調製することができる。
【0028】
<新規化合物の合成方法>
本発明の新規化合物の合成方法としては特に限定されず、公知の技術を組み合わせて合成することができ、例えば下記合成スキームに従って合成することができる。
【0029】
【化8】

【0030】
上記式中、R〜Rは、上記式(1)の定義と同様である。Xは、ハロゲン原子である。
【0031】
上記合成スキームを説明すると以下の通りである。まず、塩基存在下、ハロフェニルアルキルケトン(化合物(A))とカルバゾールとを反応させて3級アミン体(化合物(B))とし、これとハロ・アルキル置換塩化ベンゾイルとを反応させてジケトン体(化合物(C))とする。このジケトン体(化合物(C))とアシルクロリドとを反応させてトリケトン体(化合物(D))とし、さらにフェニル基上のハロゲン原子の置換等により、化合物(E)を得る。次いで、アルキルケトン部分のみを選択的にオキシム化して化合物(F)とし、必要に応じて塩基を使用して無水カルボン酸でヒドロキシル基をアシル化することで目的の化合物(G)を得ることができる。
【0032】
なお、Rがアシル基を有する場合は、化合物(D)から化合物(E)への反応において、フェニル基上のハロゲン原子をRの前駆体としての基に置換等し、化合物(G)を得るための最終的なアシル化の際に、上記前駆体をアシル化しRを導入させてもよい。また、上記スキームにおいて、化合物(C)を得るための上記ハロ・アルキル置換塩化ベンゾイルの代わりに、ベンゼン環上に置換基R及びRを有する塩化ベンゾイルを用いることもできる。この際、化合物(D)から化合物(E)へのステップは省略される。
【0033】
具体的には、上記式(2)で表される化合物の合成方法として、代表的に、以下の手順が挙げられる。塩基存在下、カルバゾールとハロフェニルアルキルケトンとを反応させて3級アミン体とし、これとハロ・アルキル置換塩化ベンゾイルとを反応させてジケトン体とする。ジケトン体とアセチルクロリドとを反応させてトリケトン体とし、さらにメルカプトエタノールを反応させてフェニル基上のハロゲンを置換する。次いで、次亜塩素酸ナトリウムで硫黄原子を酸化し、ヒドロキシルアミンにてアルキルケトン部分のみを選択的にオキシム化して、必要に応じて塩基を使用して無水酢酸でヒドロキシル基をアセチル化することで目的の化合物を得ることができる。式(3)〜(7)の化合物も上記手順に準じて、又は上記手順の一部を変更して合成することができる。
【0034】
<感放射線性組成物>
本発明の感放射線性組成物は、[A]光重合開始剤としての上記化合物及び[B]エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物を含有すると共に、その他の任意成分([C]アルカリ可溶性樹脂、[D]上記の[A]成分以外の感放射線性重合開始剤(以下、単に「その他の感放射線性重合開始剤」ともいう)、[E]多官能エポキシ化合物、[F]密着助剤、[G]界面活性剤等)を含有していてもよい。[A]成分の光重合開始剤として用いられる化合物は上記のとおりであるから、ここでは説明を省略する。
【0035】
<[B]エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物>
当該感放射線性組成物に用いられるエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物の好ましい例としては、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、又は3官能以上の(メタ)アクリレートを挙げることができる。当該感放射線性組成物中に、これらの化合物を用いることによって、透明性と表面硬度が高度にバランスされた硬化膜を形成することができる。
【0036】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられる。これらの単官能(メタ)アクリレートの市販品の例としては、アロニックスM−101、同M−111、同M−114(東亞合成(株)製)、KAYARAD TC−110S、同TC−120S(日本化薬(株)製)、ビスコート158、同2311(大阪有機化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0037】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの2官能(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、アロニックスM−210、同M−240、同M−6200(東亞合成(株)製)、KAYARAD HDDA、同HX−220、同R−604(日本化薬(株)製)、ビスコート260、同312、同335HP(大阪有機化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0038】
3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、コハク酸モノ−[3−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2−ビス−(メタ)アクリロイルオキシメチル−プロポキシ)−2,2−ビス−(メタ)アクリロイルオキシメチル−プロピル]エステル、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの3官能以上の(メタ)アクリレートの市販品としては、例えばアロニックスM−309、同M−400、同M−405、同M−450、同M−7100、同M−8030、同M−8060、同TO−756(東亞合成(株)製)、KAYARAD TMPTA、同DPHA、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同DPCA−120(日本化薬(株)製)、ビスコート295、同300、同360、同GPT、同3PA、同400(大阪有機化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0039】
これらのエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物のうち、感放射線性組成物の硬化性の観点から、3官能以上の(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。その中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、コハク酸モノ−[3−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2−ビス−(メタ)アクリロイルオキシメチル−プロポキシ)−2,2−ビス−(メタ)アクリロイルオキシメチル−プロピル]エステル、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。これらのエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
当該感放射線性組成物における[B]成分のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、[A]成分の光重合開始剤1質量部に対して、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部である。このような重合性化合物の使用量を上記範囲とすることによって、放射線感度、及び得られる硬化膜の透明性が高度にバランスされた感放射線性組成物を得ることができる。
【0041】
<[C]アルカリ可溶性樹脂>
当該感放射線性組成物に含有されてもよい[C]アルカリ可溶性樹脂としては、当該成分を含む感放射線性組成物の現像処理工程において用いられるアルカリ現像液に対して可溶性を示すものであれば、特に限定されるものではない。このようなアルカリ可溶性樹脂としては、カルボキシル基を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましく、(a1)不飽和カルボン酸及び不飽和カルボン酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、「化合物(a1)」という。)と、(a2)(a1)以外の不飽和化合物(以下、「化合物(a2)」という。)との共重合体(以下、共重合体[α]という。)が特に好ましい。
【0042】
化合物(a1)の具体例としては、
アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のモノカルボン酸;
マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等のジカルボン酸;
上記ジカルボン酸の酸無水物等を挙げることができる。
【0043】
これらの化合物(a1)のうち、共重合反応性や得られる共重合体のアルカリ現像液に対する溶解性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、無水マレイン酸等が好ましい。
【0044】
共重合体[α]において、化合物(a1)は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。共重合体[α]において、化合物(a1)に由来する繰り返し単位の含有率は、好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは7〜50質量%、特に好ましくは8〜40質量%である。化合物(a1)に由来する繰り返し単位の含有率を5〜60質量%とすることによって、放射線感度及び現像性等の諸特性がより高いレベルでバランスされた感放射線性組成物が得られる。
【0045】
化合物(a2)の具体例としては、
アクリル酸メチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル;
アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル、アクリル酸2−(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イルオキシ)エチル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸脂環式エステル;
メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル、メタクリル酸2−(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イルオキシ)エチル、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸脂環式エステル;
アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸のアリールエステルあるいはアラルキルエステル;
【0046】
メタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピルエステル等のメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類;
メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸のアリールエステルあるいはアラルキルエステル;
マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;
アクリル酸テトラヒドロフラン−2−イル、アクリル酸テトラヒドロピラン−2−イル、アクリル酸2−メチルテトラヒドロピラン−2−イル等の含酸素複素5員環あるいは含酸素複素6員環を有するアクリル酸エステル;
メタクリル酸テトラヒドロフラン−2−イル、メタクリル酸テトラヒドロピラン−2−イル、メタクリル酸2−メチルテトラヒドロピラン−2−イル等の含酸素複素5員環あるいは含酸素複素6員環を有するメタクリル酸エステル;
スチレン、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン等のビニル芳香族化合物;
1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系化合物;
その他、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等を挙げることができる。
【0047】
これらの化合物(a2)のうち、共重合反応性の観点から、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル、スチレン、p−メトキシスチレン、メタクリル酸テトラヒドロフラン−2−イル、1,3−ブタジエン、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル等が好ましい。
【0048】
共重合体[α]において、化合物(a2)は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。共重合体[α]において、化合物(a2)に由来する繰り返し単位の含有率は、好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは30〜50質量%である。化合物(a2)の繰り返し単位の含有率を10〜70質量%とすることによって、共重合体の分子量の制御が容易となり、現像性、放射線感度等がより高いレベルでバランスされた感放射線性組成物が得られる。
【0049】
共重合体[α]は、適当な溶媒中、ラジカル重合開始剤の存在下で構成成分の単量体を重合することにより製造することができる。このような重合に用いられる溶媒としては、ジエチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、アルコキシプロピオン酸アルキル、酢酸エステル等が好ましい。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0050】
また、上記ラジカル重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4―シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物を挙げることができる。これらのラジカル重合開始剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0051】
共重合体[α]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、好ましくは2,000〜100,000、より好ましくは5,000〜50,000である。共重合体[α]のMwを2,000〜100,000とすることによって、現像性、放射線感度等がより高いレベルでバランスされた感放射線性組成物、並びに耐熱性が高い硬化膜を得ることができる。
【0052】
当該感放射線性組成物における[C]成分のアルカリ可溶性樹脂の使用量は、[A]成分の光重合開始剤1質量部に対して、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部である。アルカリ可溶性樹脂の使用量を上記範囲とすることによって、現像性に優れた感放射線性組成物を得ることができる。
【0053】
<[D]その他の感放射線性重合開始剤>
当該感放射線性組成物には、[A]成分以外に、[D]成分として、その他の感放射線性重合開始剤を加えることができる。感放射線性重合開始剤としては、放射線に感応してエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物の重合を開始しうる活性種を生じる成分である限り、特に限定されるものではない。このようなその他の感放射線性重合開始剤の例としては、O−アシルオキシム化合物、アセトフェノン化合物、ビイミダゾール化合物等を挙げることができる。
【0054】
上記O−アシルオキシム化合物の具体例としては、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、1−〔9−エチル−6−ベンゾイル−9H−カルバゾール−3−イル〕−オクタン−1−オンオキシム−O−アセテート、1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−ベンゾエート、1−〔9−n−ブチル−6−(2−エチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−ベンゾエート、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロピラニルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロフラニルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−{2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)等が挙げられる(ただし、[A]成分を除く)。
【0055】
これらのうちで、好ましいO−アシルオキシム化合物としては、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−{2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)を挙げることができる。これらのO−アシルオキシム化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0056】
上記アセトフェノン化合物としては、例えばα−アミノケトン化合物、α−ヒドロキシケトン化合物を挙げることができる。
【0057】
α−アミノケトン化合物の具体例としては、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン等を挙げることができる。
【0058】
α−ヒドロキシケトン化合物の具体例としては、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−i−プロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等を挙げることができる。
【0059】
これらのアセトフェノン化合物のうちα−アミノケトン化合物が好ましく、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンが特に好ましい。これらのアセトフェノン化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0060】
上記ビイミダゾール化合物の具体例としては、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0061】
これらのビイミダゾール化合物のうち、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾールが好ましく、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾールが特に好ましい。これらのビイミダゾール化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0062】
本発明の感放射線性組成物において、[D]成分の感放射線性重合開始剤としてビイミダゾール化合物を使用する場合、これを増感するために、ジアルキルアミノ基を有する脂肪族又は芳香族化合物(以下、「アミノ系増感剤」という。)を添加することができる。
【0063】
かかるアミノ系増感剤としては、例えば4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。これらのアミノ系増感剤のうち、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンが特に好ましい。上記アミノ系増感剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0064】
さらに、当該感放射線性組成物においてビイミダゾール化合物とアミノ系増感剤とを併用する場合、水素ラジカル供与剤としてチオール化合物を添加することができる。ビイミダゾール化合物は、アミノ系増感剤によって増感されて開裂し、イミダゾールラジカルを発生するが、そのままでは高い重合開始能が発現しない場合がある。しかし、ビイミダゾール化合物とアミノ系増感剤とが共存する系に、チオール化合物を添加することにより、イミダゾールラジカルにチオール化合物から水素ラジカルが供与される。その結果、イミダゾールラジカルが中性のイミダゾールに変換されると共に、重合開始能の高い硫黄ラジカルを有する成分が発生し、それにより低放射線照射量であっても表面硬度の高い硬化膜を形成することができる。
【0065】
かかるチオール化合物の具体例としては、
2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾチアゾール等の芳香族チオール化合物;
3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸メチル等の脂肪族モノチオール化合物;
ペンタエリストールテトラ(メルカプトアセテート)、ペンタエリストールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)等の2官能以上の脂肪族チオール化合物を挙げることができる。これらのチオール化合物の中でも、2−メルカプトベンゾチアゾールが特に好ましい。
【0066】
ビイミダゾール化合物とアミノ系増感剤とを併用する場合、アミノ系増感剤の使用量としては、ビイミダゾール化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部であり、より好ましくは1〜20質量部である。アミノ系増感剤の使用量を0.1〜50質量部とすることによって、感放射線性組成物の露光時の硬化反応性が向上し、得られる硬化膜の表面硬度を高めることができる。
【0067】
また、ビイミダゾール化合物、アミノ系増感剤及びチオール化合物を併用する場合、チオール化合物の使用量としては、ビイミダゾール化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部であり、より好ましくは1〜20質量部である。チオール化合物の使用量を0.1〜50質量部とすることによって、得られる硬化膜の表面硬度を改善することができる。
【0068】
当該感放射線性組成物は、[D]成分の感放射線性重合開始剤として、O−アシルオキシム化合物及びアセトフェノン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。また、当該感放射線性組成物は、[D]成分の感放射線性重合開始剤として、O−アシルオキシム化合物及びアセトフェノン化合物からなる群より選択される少なくとも1種、並びにビイミダゾール化合物を含有するものであってもよい。
【0069】
当該感放射線性組成物における[D]成分の感放射線性重合開始剤の使用量は、[A]成分1質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。[D]成分の使用量を上記範囲とすることによって、当該感放射線性組成物は、低露光量の場合でも、高い放射線感度を示し、充分な表面硬度を有する硬化膜を形成することができる。
【0070】
<[E]多官能エポキシ化合物>
[E]多官能エポキシ化合物は、重合反応性を高め、感放射線性組成物から形成される硬化膜の表面硬度をより向上させるために、感放射線性組成物に添加することができる。多官能エポキシ化合物としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するカチオン重合性化合物が用いられる。
【0071】
このような1分子中に2個以上のエポキシ基を有するカチオン重合性化合物の具体例としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールADジグリシジルエーテル等のビスフェノールのポリグリシジルエーテル類;1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールの脂肪族ポリグリシジルエーテル類;1分子中に2個以上の3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する化合物;ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;ポリフェノール型エポキシ樹脂;環状脂肪族エポキシ樹脂;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等を挙げることができる。これらの1分子中に2個以上のエポキシ基を有するカチオン重合性化合物のうち、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びポリフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0072】
1分子中に2個以上の3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する化合物の具体例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等を挙げることができる。
【0073】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物の市販品としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂として、エピコート1001、同1002、同1003、同1004、同1007、同1009、同1010、同828(ジャパンエポキシレジン(株)製);ビスフェノールF型エポキシ樹脂として、エピコート807(ジャパンエポキシレジン(株)製);フェノールノボラック型エポキシ樹脂(ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等)として、エピコート152、同154、同157S65(ジャパンエポキシレジン(株)製)、EPPN201、同202(日本化薬(株)製);クレゾールノボラック型エポキシ樹脂として、EOCN102、同103S、同104S、1020、1025、1027(日本化薬(株)製)、エピコート180S75(ジャパンエポキシレジン(株)製);ポリフェノール型エポキシ樹脂として、エピコート1032H60、同XY−4000(ジャパンエポキシレジン(株)製);環状脂肪族エポキシ樹脂として、CY−175、同177、同179、アラルダイトCY−182、同192、184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、ERL−4234、4299、4221、4206(U.C.C社製)、ショーダイン509(昭和電工(株)製)、エピクロン200、同400(大日本インキ(株)製)、エピコート871、同872(ジャパンエポキシレジン(株)製)、ED−5661、同5662(セラニーズコーティング社製);脂肪族ポリグリシジルエーテルとして、エポライト100MF(共栄社化学(株)製)、エピオールTMP(日本油脂(株)製)が挙げられる。
【0074】
これらの[E]成分の多官能エポキシ化合物は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。当該感放射線性組成物における[E]成分の多官能エポキシ化合物の使用量は、[A]成分の光重合開始剤1質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜5質量部である。[E]成分の使用量を0.05〜10質量部とすることによって、重合反応性を向上させると共に、形成される硬化膜の表面硬度を高度なレベルに保つことができる。
【0075】
<[F]密着助剤>
[F]成分の密着助剤は、得られる硬化膜と基板との密着性をさらに向上させるために使用することができる。このような密着助剤としては、カルボキシル基、メタクリロイル基、ビニル基、イソシアネート基、オキシラニル基等の反応性官能基を有する官能性シランカップリング剤が好ましい。密着助剤の具体例としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらの密着助剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0076】
当該感放射線性組成物における[F]成分の密着助剤の使用量は、[A]成分1質量部に対して、0.05〜10質量部であり、より好ましくは0.05〜8質量部である。密着助剤の使用量を上記範囲とすることによって、基板に対する硬化膜の密着性を改善しつつ、パターン形成能を高いレベルに保つことができる。
【0077】
<[G]界面活性剤>
[G]成分の界面活性剤は、感放射線性組成物の被膜形成性をより向上させるために使用することができる。このような界面活性剤としては、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びその他の界面活性剤を挙げることができる。
【0078】
フッ素系界面活性剤としては、末端、主鎖及び側鎖の少なくともいずれかの部位にフルオロアルキル基及び/又はフルオロアルキレン基を有する化合物が好ましい。フッ素系界面活性剤の例としては、1,1,2,2−テトラフルオロ−n−オクチル(1,1,2,2−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、1,1,2,2−テトラフルオロ−n−オクチル(n−ヘキシル)エーテル、ヘキサエチレングリコールジ(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−n−ペンチル)エーテル、オクタエチレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフルオロ−n−ブチル)エーテル、ヘキサプロピレングリコールジ(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−n−ペンチル)エーテル、オクタプロピレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフルオロ−n−ブチル)エーテル、パーフルオロ−n−ドデカンスルホン酸ナトリウム、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−n−デカン、1,1,2,2,3,3,9,9,10,10−デカフルオロ−n−ドデカン、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、フルオロアルキルリン酸ナトリウム、フルオロアルキルカルボン酸ナトリウム、ジグリセリンテトラキス(フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル)、フルオロアルキルアンモニウムヨージド、フルオロアルキルベタイン、他のフルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、パーフルオロアルキルポリオキシエタノール、パーフルオロアルキルアルコキシレート、カルボン酸フルオロアルキルエステル等を挙げることができる。
【0079】
フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、BM−1000、BM−1100(以上、BM CHEMIE社製)、メガファックF142D、同F172、同F173、同F183、同F178、同F191、同F471、同F476(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC−170C、同−171、同−430、同−431(以上、住友スリーエム(株)製)、サーフロンS−112、同−113、同−131、同−141、同−145、同−382、サーフロンSC−101、同−102、同−103、同−104、同−105、同−106(以上、旭硝子(株)製)、エフトップEF301、同303、同352(以上、新秋田化成(株)製)、フタージェントFT−100、同−110、同−140A、同−150、同−250、同−251、同−300、同−310、同−400S、フタージェントFTX−218、同−251(以上、(株)ネオス製)等を挙げることができる。
【0080】
シリコーン系界面活性剤の具体例としては、市販されている商品名で、例えばトーレシリコーンDC3PA、同DC7PA、同SH11PA、同SH21PA、同SH28PA、同SH29PA、同SH30PA、同SH−190、同SH−193、同SZ−6032、同SF−8428、同DC−57、同DC−190、SH 8400 FLUID(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、TSF−4440、TSF−4300、TSF−4445、TSF−4446、TSF−4460、TSF−4452(以上、GE東芝シリコーン(株)製)、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0081】
これらの[G]成分の界面活性剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。当該感放射線性組成物における[G]成分の界面活性剤の使用量は、[A]成分1質量部に対して、0.001〜1質量部であり、より好ましくは0.005〜0.5質量部である。界面活性剤の使用量を上記範囲とすることによって、基板上に被膜を形成する際の塗布ムラを低減することができる。
【0082】
<感放射線性組成物の調製>
本発明の感放射線性組成物は、上記の[A]光重合開始剤、及び[B]エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物、並びに上記のような任意的に添加されるその他の成分を均一に混合することによって調製される。この感放射線性組成物は、好ましくは適当な溶媒に溶解されて溶液状態で用いられる。例えば、[A]光重合開始剤及び[B]エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物、並びに任意的に添加されるその他の成分を、溶媒中において所定の割合で混合することにより、溶液状態の感放射線性組成物を調製することができる。
【0083】
当該感放射線性組成物の調製に用いられる溶媒としては、[A]光重合開始剤、及び[B]エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物、並びにその他の任意成分の各成分を均一に溶解すると同時に、各成分と反応しないものが用いられる。このような溶媒としては、[C]アルカリ可溶性樹脂を製造するために使用できる溶媒として上で例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0084】
このような溶媒のうち、各成分の溶解性、各成分との非反応性、被膜形成の容易性等の観点から、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、シクロヘキサノールアセテート、ベンジルアルコール、3−メトキシブタノールを特に好ましく使用することができる。これらの溶媒は、一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
当該感放射線性組成物を溶液状態として調製する場合、固形分濃度(組成物溶液中に占める溶媒以外の成分、すなわち上記の[A]成分及び[B]成分並びにその他の任意成分の合計量の割合)は、使用目的や所望の膜厚の値等に応じて任意の濃度(例えば5〜50質量%)に設定することができる。こうして調製された感放射線性組成物の溶液は、孔径0.2〜0.5μm程度のミリポアフィルタ等を用いてろ過した後、使用に供することもできる。
【0086】
<硬化膜>
本発明の感放射線性組成物から形成された硬化膜は、後述の実施例からも明らかなように、高い表面硬度及び優れた透明性を有する。このような硬化膜は、高い表面硬度や透明性を要する技術用途に好適に用いることができ、例えば液晶デバイスや半導体デバイスの保護膜、絶縁膜及びパターン形成用材料として好適に用いることができる。
【0087】
<硬化膜の形成方法>
次に、本発明の感放射線性組成物を用いて硬化膜を形成する方法について説明する。当該感放射線性組成物を用いた硬化膜の形成方法は、少なくとも下記の工程(1)〜(4)を下記に記載の順で含むことを特徴とするものである。工程(3)は、パターン形成が必要な場合において行うことができる。
すなわち、硬化膜の形成方法は、
(1)本発明の感放射線性組成物の被膜を基板上に形成する工程、
(2)該被膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、
(3)放射線照射後の被膜を現像する工程、及び
(4)現像後の被膜を加熱する工程を含む。
【0088】
以下、これらの各工程について順次説明する。
【0089】
(1)本発明の感放射線性組成物の被膜を基板上に形成する工程
ここで用いられる基板としては特に限定されず、透明基板や金属基板等が挙げられる。この透明基板としては、例えばガラス基板、樹脂基板等を挙げることができ、その具体例としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等のガラス基板;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド等のプラスチックからなる樹脂基板を挙げることができる。このような透明基板の片面に透明導電膜を形成し、該透明導電膜の上に感放射線性組成物の被膜を形成することができる。
【0090】
透明基板の片面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社の登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜等を挙げることができる。
【0091】
塗布法により被膜を形成する場合、透明導電膜上に感放射線性組成物の溶液を塗布した後、好ましくは塗布面を加熱(プレベーク)することによって被膜を形成することができる。塗布法に用いる組成物溶液の固形分濃度は、好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜35質量%である。組成物溶液の塗布方法としては、特に限定されず、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法(スピンコート法)、スリットダイ塗布法、バー塗布法、インクジェット塗布法等の適宜の方法を採用することができる。これらの塗布方法の中でも、特にスピンコート法又はスリットダイ塗布法が好ましい。
【0092】
上記プレベークの条件は、各成分の種類や配合割合等によっても異なるが、好ましくは70〜120℃で1〜15分間程度である。プレベーク後の被膜の膜厚としては、好ましくは0.5〜10μmであり、より好ましくは1.0〜7.0μm程度である。
【0093】
(2)該被膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程
次いで、形成された被膜の少なくとも一部に放射線を照射する。このとき、被膜の一部にのみ照射する際には、例えば所定のパターンを有するフォトマスクを介して照射する方法によることができる。
【0094】
照射に使用される放射線としては、可視光線、紫外線、遠紫外線等を挙げることができる。このうち波長が250〜550nmの範囲にある放射線が好ましい。
【0095】
放射線照射量(露光量)は、照射される放射線の波長365nmにおける強度を照度計(OAI model 356、Optical Associates Inc.製)により測定した値として、好ましくは100〜5,000J/m、より好ましくは200〜3,000J/mである。
【0096】
(3)放射線照射後の被膜を現像する工程
次に、放射線照射後の被膜を現像することにより、不要な部分を除去して、所定のパターンを形成する。
【0097】
現像に使用される現像液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム塩等のアルカリ(塩基性化合物)の水溶液を使用することができる。これらのアルカリ水溶液には、メタノール、エタノール等の水溶性有機溶媒及び/又は界面活性剤を適当量添加して使用することもできる。アルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、適当な現像性を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下とすることができる。現像方法としては、液盛り法、ディッピング法、シャワー法等のいずれでもよく、現像時間は、常温で10〜180秒間程度とすることが好ましい。
【0098】
(4)現像後の被膜を加熱する工程
上記現像処理の後、パターニングされた被膜に対して、好ましくは流水洗浄を30〜90秒間行った後、圧縮空気や圧縮窒素で風乾することができる。次いで、得られたパターン状の被膜を、ホットプレート、オーブン等の適当な加熱装置により、所定温度、例えば100〜250℃で、所定時間、例えばホットプレート上では5〜30分間、オーブン中では30〜180分間、加熱(ポストベーク)することにより、高い表面硬度を有する硬化膜を得ることができる。
【実施例】
【0099】
以下、合成例及び実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
<[A]成分の化合物(光重合開始剤)の合成例>
[合成例A−1](化合物(A−1)の合成)
下記合成スキームに従って、最終生成物(viii)としての化合物(A−1)(上記式(2)で表される化合物)を合成した。
【0101】
【化9】

(式中、Meはメチル基であり、Acはアセチル基である。)
【0102】
ステップ(I):1−(4−Fluorophenyl)−octan−1−one(i)とカルバゾールとの縮合による中間体(ii)の合成
1L3口フラスコに冷却管を装着し、窒素雰囲気下、カルバゾール50g(299mmol)をジメチルスルホキサイド500mLに溶解した。そこに、1−(4−Fluorophenyl)−octan−1−one63g(284mmol)と炭酸カリウム103g(748mmol)を加え、反応温度135℃で12時間、加熱攪拌を行なった。反応液を氷中に注ぎ、析出した固体を吸引ろ過し、固体をさらに蒸留水で洗浄した。ここで得られた粗結晶について、tert−ブチルメチルエーテルで再結晶を行い、中間体(ii)を105g得た。
【0103】
ステップ(II):中間体(iii)の合成
300mLのナス型フラスコに4−Fluoro−2−methylbenzoic acid25g(162mmol)及び塩化チオニル193g(1620mmol)を加え、室温25℃にて攪拌し、次いで、ジメチルホルムアミド1mLを加え、さらに20時間攪拌した。反応液を減圧留去し、4−Fluoro−2−methylbenzoyl chloride28.0gを得た。
【0104】
2Lのナス型フラスコに、上記実験で得られた中間体(ii)59.8g(162mmol)を加え、これに塩化メチレン1000mLを加えて中間体(ii)を溶解させ、さらに塩化アルミニウム75.6g(567mmol)を添加後、氷冷し、10℃まで反応液温度を降温させた。この反応系に対して、上記で合成した4−Fluoro−2−methylbenzoyl chloride28.0g(162mmol)を塩化メチレン150mLに溶解させた溶液を滴下した。滴下中は、反応液温度を10〜20℃に保持した。滴下終了後、反応液を20℃で20時間攪拌した。反応液を氷水400g中にクエンチして攪拌し、さらに水を200mL加え、クロロホルム500mLで3回抽出した。有機層を集め、飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄し、次いで、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで中間体(iii)59gを得た。
【0105】
ステップ(III):中間体(iv)の合成
2Lのナス型フラスコに、上記実験で得られた中間体(iii)59.0g(117mmol)を加え、これに塩化メチレン1000mLを加えて中間体(iii)を溶解し、さらに塩化アルミニウム54.6g(410mmol)を添加後、氷冷により0℃まで反応液温度を降温させた。この反応系に対して、アセチルクロリド27.5g(351mmol)を滴下した。滴下中は、反応液温度を10〜20℃に保持した。滴下終了後、反応液を20℃で20時間攪拌した。反応液を氷水400g中にクエンチして攪拌し、さらに水を200mL加え、次いでクロロホルム500mLで3回抽出した。有機層を集め、飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄し、次いで、蒸留水300mLで洗浄し、溶媒を減圧留去した後、粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで中間体(iv)53.2gを得た。
【0106】
この中間体(iv)のH−NMRを測定したところ、以下の通りであった。なお、本実施例において、H−NMR測定は、ブルカー株式会社製AVANCE500型により行った。
H−NMR(溶媒:CDCl)化学シフトσ:8.76ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.59ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.26ppm(N−フェニル基上水素、2H)、8.12ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.01ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.69ppm(N−フェニル基上水素、2H)、7.46ppm(カルバゾール環上水素、2H)、7.40ppm(フルオロベンゼン環上水素、1H)、7.05ppm(フルオロベンゼン環上水素、1H)、7.00ppm(フルオロベンゼン環上水素、1H)、3.06ppm(N−フェニル−CO−CH2−、2H)、2.73ppm(ベンゼン環上メチル基、3H)、2.39ppm(アセチル基、3H)、1.81ppm(N−フェニル−CO−CH2−CH2−、2H)、1.47〜1.25ppm(脂肪族長鎖メチレン基、8H)、0.91ppm(メチル基、3H)。
【0107】
ステップ(IV):メルカプトエタノールとの縮合−中間体(v)の合成
1Lナス型フラスコに、上記で合成した中間体(iv)53.2g(97.1mmol)、メルカプトエタノール11.4g(146mmol)を加え、これらをジメチルアセトアミド300mLに溶解した。窒素雰囲気下、炭酸カリウム26.7g(194mmol)を添加し、50℃で12時間反応させた。反応液を室温まで冷却後、蒸留水を300mL注ぎ、これを分液ロートに移し、酢酸エチル300mLで3回抽出した。次いで、有機層を集め、蒸留水300mLで2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで中間体(v)32.9gを得た。
【0108】
ステップ(V):硫黄原子の酸化−中間体(vi)の合成
100mLナス型フラスコに、上記で合成した中間体(v)32.9g(54.3mmol)を量り取った。ここに、30質量%過酸化水素水溶液12.4g(109mmol)と、文献(Tetrahedron 60(2004)4087−4096)に従って調製したPWAA(poly{PW12403−[(N−isopropylacrylamide)−co−(acrylamide with ammonium salt)]})0.027mmol相当量とを添加し、25℃で10時間攪拌した。次に、トルエン200mLを加えてろ過し、ろ液を分液ロートに移して水層を除去した。その後、この有機層に飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液50mLを加えて洗浄し、蒸留水50mLによる洗浄を行なった。その後、有機層に硫酸マグネシウムを加え乾燥し、有機層を減圧留去して粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで中間体(vi)30.8gを得た。
【0109】
なお、本ステップ(V)の硫黄原子の酸化は以下の方法によっても行うことができた。酸化タングステンを蒸留水に溶解し、1質量%酸化タングステン水溶液を調製した。中間体(v)をトルエン6Lに溶解し、これに30質量%過酸化水素加え、さらにテトラブチルアンモニウムブロマイド及び1質量%酸化タングステン水溶液を加えた。反応温度を毎分1℃で昇温し、70℃で2時間攪拌した。反応溶液を60℃まで冷却した後、分液ロートに移し、60℃に加温した蒸留水で有機層を洗浄した。次いで60℃加温した反応溶液をセライトろ過した後、減圧留去した。得られた粗生成物にクロロホルム700g、エタノールを加え結晶化した。結晶を吸引ろ過、真空乾燥し、中間体(vi)を得ることができた。
【0110】
ステップ(VI):中間体(vii)の合成
500mLのナス型フラスコに、上記で合成した中間体(vi)30.8g(48.3mmol)を量り取り、これにジメチルアセトアミド250mLを加えて中間体(vi)を溶解し、さらに水酸化ナトリウム4.8g(120mmol)を加え65℃で1時間攪拌した。ここに塩化ヒドロキシアンモニウム11.8g(170mmol)を加え、90℃まで昇温し1時間攪拌した。次いで、反応液を室温まで冷却し、蒸留水200mLを加え酢酸エチル200mLで3回抽出した。有機層をまとめ、蒸留水200mLで洗浄し、有機層を減圧留去することで中間体(vii)26.1gを得た。
【0111】
この中間体(vii)のH−NMRを測定したところ、以下の通りであった。
H−NMR(溶媒:d6−Acetone)化学シフトσ:8.72ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.54ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.01ppm(N−フェニル基上水素、2H)、7.98ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.95〜7.89ppm(カルバゾール環上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、3H)、7.70ppm(N−フェニル基上水素、2H)、7.65ppm(CO−Phベンゼン環上水素、1H)、7.54ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.44ppm(カルバゾール環上水素、1H)、3.97ppm(HO−CH2−、2H)、3.52ppm(SO2−CH2−、2H)、2.94ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−、2H)、2.41ppm(ベンゼン環上メチル基、3H)、2.33ppm(CH3−C=N−、3H)、1.67ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−、2H)、1.47ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−CH2−、2H)、1.35〜1.25ppm(脂肪族長鎖メチレン基、6H)、0.89ppm(メチル基、3H)。
【0112】
ステップ(VII):最終生成物(viii)の合成
次いで、中間体(vii)のフリーの3つのヒドロキシル基を同時にアセチル化し、最終生成物(viii)を合成した。
【0113】
500mLのナス型フラスコに、上記で合成した中間体(vii)26.1g(39.1mmol)を量り取り、酢酸n−ブチル100mLを加え中間体(vii)を溶解し、さらに無水酢酸15.6g(152mmol)を加え、90℃で1時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、水200mLを加えて有機層を抽出し、さらに酢酸n−ブチル100mLで2回抽出した。この有機層をまとめ、蒸留水200mLで洗浄し、有機層を減圧留去して粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで最終生成物(viii)23.9gを得た。この得られた生成物を化合物(A−1)とする。
【0114】
化合物(A−1)のH−NMR、IR、UV、TG−DTA、LC−MSを以下の通り測定した。H−NMR測定(ブルカー株式会社製 AVANCE500型)、IR測定(株式会社堀場製作所製 FT−720)、UV測定(日本分光株式会社製 V−570)、TG−DTAによる分析(理学電気株式会社製 TG8120)、LC−MS分析(日本ウォーターズ株式会社製 ACQUITY UPLC®システム並びにSYNAPT HDMS(High Definition Mass Spectrometry)システム)を行い、化合物(A−1)の分析を行った。分析結果は以下の通りであった。
【0115】
H−NMR(溶媒:CDCl)化学シフトδ:8.50ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.48ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.01ppm(カルバゾール環上水素及びN−フェニル基上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、4H)、7.95〜7.89ppm(カルバゾール環上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、3H)、7.63ppm(N−フェニル基上水素、2H)、7.55ppm(CO−Phベンゼン環上水素、1H)、7.45ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.41ppm(カルバゾール環上水素、1H)、4.50ppm(AcO−CH2−、2H)、3.55ppm(SO2−CH2−、2H)、2.94ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−、2H)、2.52ppm(CH3−C=N−、3H)、2.43ppm(ベンゼン環上メチル基、3H)、2.30ppm(N−OCOCH3、3H)、2.28ppm(N−OCOCH3、3H)、1.95ppm(SO2−CH2−CH2−OCOCH3、3H)、1.66ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−、2H)、1.44ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−CH2−、2H)、1.35〜1.25ppm(脂肪族長鎖メチレン基、8H)、0.90ppm(メチル基、3H)。
【0116】
IR(KBr錠):3064cm−1、2952cm−1、2929cm−1、2856cm−1、1768cm−1、1747cm−1、1654cm−1、1594cm−1、1517cm−1、1473cm−1、1367cm−1、1321cm−1、1280cm−1、1255cm−1、1230cm−1、1203cm−1、1143cm−1、935cm−1
UV(0.02mM エタノール溶液):λmax:251nm、303nm、339nm
TG−DTA:222℃(分解点)
LC−MS:m/z=816.2988(M+Na:816.2931(計算値))
【0117】
[合成例A−2](化合物(A−2)の合成)
上記(A−1)の合成スキームを変更し、上記式(4)で表される化合物を合成した。上記(A−1)の合成スキームのステップ(II)において、200mLのナス型フラスコに、4−トリメチルシリル−2−メチル安息香酸33.7g(162mmol)及び塩化チオニル193g(1620mmol)を加え、室温25℃にて攪拌し、次いで、ジメチルホルムアミド1mLを加え、さらに20時間攪拌した。反応液を減圧留去し、4−トリメチルシリル−2−メチルベンゾイルクロリド36.7gを得た。
【0118】
2Lのナス型フラスコに、上記で得られた中間体(ii)59.8g(162mmol)を加え、さらに塩化メチレン1000mLを加えて中間体(ii)を溶解し、塩化アルミニウム75.6g(567mmol)を添加した後、氷冷により10℃まで反応液温度を降温させた。この反応系に対して、上記で合成した4−トリメチルシリル2−メチルベンゾイルクロリド36.7g(162mmol)を塩化メチレン150mLに溶解した溶液を滴下した。滴下中は反応液温度を10〜20℃に保持した。滴下終了後、反応液を20℃で20時間攪拌した。反応液を氷水400g中にクエンチして攪拌し、さらに水を200mL加え、クロロホルム500mLで3回抽出した。有機層を集めて飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄し、次いで、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで化合物(iii−1)を得た。
【0119】
以降、中間体(iii)の代わりに中間体(iii−1)を用い、ステップ(IV)及びステップ(V)を省略した以外は合成例A−1の場合と同様に合成し、化合物(A−2)を得た。
【0120】
この化合物(A−2)のH−NMR及びLC−MSを測定したところ、以下の通りであった。
H−nmr(溶媒:CDCl)化学シフトδ:8.77ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.54ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.05ppm(カルバゾール環上水素及びN−フェニル基上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、4H)、7.88ppm(カルバゾール環上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、3H)、7.65ppm(N−フェニル基上水素、2H)、7.48ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.43ppm(カルバゾール環上水素、1H)、2.98ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−、2H)、2.51ppm(ベンゼン環上メチル基、3H)、2.30ppm(3つのアセトキシ基、9H)、1.64ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−、2H)、1.41ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−CH2−、2H)、1.35〜1.25ppm(脂肪族長鎖メチレン基、8H)、0.87ppm(メチル基、3H)、0.19ppm(Siのメチル基、9H)。
LC−MS:m/z=738.3383(M+Na:738.3339(計算値))
【0121】
[合成例A−3](化合物(A−3)の合成)
上記(A−1)の合成スキームを変更し、上記式(6)で表される化合物を合成した。上記(A−1)の合成スキームのステップ(II)において、200mLのナス型フラスコに4−ジフェニルフォスフィニル−2−メチル安息香酸54.4g(162mmol)及び塩化チオニル193g(1620mmol)を加え、室温25℃にて攪拌し、次に、ジメチルホルムアミド1mLを加え、さらに20時間攪拌した。反応液を減圧留去し、4−ジフェニルフォスフィニル−2−メチルベンゾイルクロリド60.9gを得た。
【0122】
2Lのナス型フラスコに、上記で得られた中間体(ii)59.8g(162mmol)を加え、塩化メチレン1000mLを加えて中間体(ii)を溶解し、塩化アルミニウム75.6g(567mmol)を添加した後、氷冷により10℃まで反応液温度を降温させた。この反応系に対して、上記で合成した4−ジフェニルフォスフィニル2−メチルベンゾイルクロリド60.9g(162mmol)を塩化メチレン150mLに溶解した溶液を滴下した。滴下中は反応液温度を10〜20℃に保持した。滴下終了後、反応液を20℃で20時間攪拌した。反応液を氷水400g中にクエンチして攪拌し、さらに水を200mL加え、クロロホルム500mLで3回抽出した。有機層を集めて飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄し、次いで、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。この粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで中間体(iii−2)を得た。
【0123】
以降、中間体(iii)の代わり中間体(iii−2)を用い、ステップ(IV)及びステップ(V)を省略した以外は合成例A−1の場合と同様に合成し、化合物(A−3)を得た。
【0124】
この化合物(A−3)のH−NMR及びLC−MSを測定したところ、以下の通りであった。
H−nmr(溶媒:CDCl)化学シフトδ:8.77ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.54ppm(カルバゾール環上水素、1H)、8.05ppm(カルバゾール環上水素及びN−フェニル基上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、4H)、7.88ppm(カルバゾール環上水素及びCO−Phベンゼン環上水素、3H)、7.65ppm(N−フェニル基上水素、2H)、7.48ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.43ppm(カルバゾール環上水素、1H)、7.49〜7.87ppm(−PO−Phの水素、10H)、2.98ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−、2H)、2.51ppm(ベンゼン環上メチル基、3H)、2.30ppm(3つのアセトキシ基、9H)、1.64ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−、2H)、1.41ppm(N−フェニル−(CN)−CH2−CH2−CH2−、2H)、1.35〜1.25ppm(脂肪族長鎖メチレン基、8H)、0.87ppm(メチル基、3H)。
LC−MS:m/z=866.3388(M+Na:866.3335(計算値))
【0125】
<[C]成分のアルカリ可溶性樹脂(共重合体)の合成例>
[合成例C−1](共重合体(C−1)の合成)
冷却管及び撹拌機を備えたフラスコに、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル5質量部及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート250質量部を仕込み、続いてメタクリル酸18質量部、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル25質量部、スチレン5質量部、メタクリル酸2―ヒドロキシエチルエステル30質量部、及びメタクリル酸ベンジル22質量部を仕込んで、窒素置換した。次いで、緩やかに攪拌しつつ、溶液の温度を70℃に上昇させ、この温度を5時間保持して重合することにより、固形分濃度28.8質量%の共重合体(C−1)溶液を得た。得られた共重合体(C−1)について、以下の装置及び条件を用いてMwを測定したところ、13,000であった。
装置:GPC−101(昭和電工(株)製)
カラム:GPC−KF−801、GPC−KF−802、GPC−KF−803及びGPC−KF−804を結合
移動相:テトラヒドロフラン
【0126】
<感放射線性組成物の調製>
[実施例1]
[A]成分として合成例A−1の化合物(A−1)を含有する溶液を、1質量部(固形分)に相当する量、[B]成分としてジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(日本化薬(株)製の「KAYARAD DPHA」)100質量部、[F]成分としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5質量部、及び[G]成分としてフッ素系界面活性剤((株)ネオス製の「FTX−218」)0.3質量部を混合し、固形分濃度が30質量%となるようにジエチレングリコールエチルメチルエーテルに溶解させた後、口径0.2μmのメンブランフィルタでろ過して、感放射線性組成物の溶液を調製した。
【0127】
[実施例2〜10及び比較例1〜5]
[A]〜[G]成分として、表1に記載のとおりの種類及び量を使用した他は、実施例1と同様に感放射線性樹脂組成物の溶液を調製した。
【0128】
表1中、[B]、[D]、[E]、[F]及び[G]成分についての略号は、それぞれ次の化合物を意味する。
B−1:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物((日本化薬(株)製の「KAYARAD DPHA」)
B−2:コハク酸変性ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成(株)製の「アロニックスTO−756」)
D−1:エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製の「イルガキュアOXE02」)
D−2:2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製の「イルガキュア379」)
D−3:2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(商品名「イルガキュア907」、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)
E−1:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製の「エピコート152」)
E−2:ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製の「エピコート157S65」)
F−1:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
G−1:フッ素系界面活性剤((株)ネオス製の「FTX−218」)
【0129】
<感放射線性組成物及び硬化膜の特性評価>
上記のようにして調製した感放射線性組成物及びそれから形成された硬化膜の評価を以下のように実施した。評価結果を表1に示した。
【0130】
(1)感放射線性組成物の放射線感度の評価
無アルカリガラス基板上に、感放射線性組成物の溶液をそれぞれスピンナーにより塗布した後、80℃のホットプレート上で3分間プレベークすることにより、感放射線性組成物の被膜(膜厚4.0μm)を形成した。得られた被膜上に、直径15μmの丸状残しパターンを複数有するフォトマスクを使用して露光した。このとき、被膜表面とフォトマスクとの間に所定の間隙(露光ギャップ)を設けた。次いで、高圧水銀ランプを用い、上記フォトマスクを介して、露光量を変量しつつ被膜に露光を行った。続いて、濃度を0.05質量%とした水酸化カリウム水溶液を用いて、25℃にて20秒の現像時間でシャワー法により現像した後、純水洗浄を1分間行い、さらにオーブン中230℃にて20分間ポストベークすることにより、丸状パターンを形成した。ポストベーク後のこの丸状パターンの高さを、レーザー顕微鏡((株)キーエンス製VK−8500)を用いて測定した。この値を下記式へ適用することで残膜率(%)を求めた。
残膜率(%)=(ポストベーク後のパターン高さ/初期膜厚4.0μm)×100
この残膜率が90%以上になる露光量を、感放射線性組成物の放射線感度として表1に示した。露光量が600J/m以下の場合、放射線感度が良好であると言える。
【0131】
(2)硬化膜の透明性の評価
フォトマスクを使用せず、露光量を600J/mとした以外は、上記「(1)感放射線性組成物の放射線感度の評価」と同様にして、ガラス基板(「NA35(NHテクノグラス(株)製)」)上に硬化膜を形成した。分光光度計「150−20型ダブルビーム((株)日立製作所製)」を用い、この硬化膜を有するガラス基板の光線透過率を、保護膜を有さないガラス基板を参照側として400〜800nmの範囲の波長で測定した。そのときの最低光線透過率の値を、硬化膜の透明性の評価として表1に示した。この値が95%以上のとき、硬化膜の透明性は良好であると言える。
【0132】
(3)硬化膜の鉛筆硬度(表面硬度)の測定
上記「(2)硬化膜の透明性の評価」と同様に形成した硬化膜を有する基板について、JIS K−5400−1990の8.4.1鉛筆引っかき試験により、硬化膜の鉛筆硬度(表面硬度)を測定し、結果を表1に示した。この値が3H又はそれより大きいとき、硬化膜の表面硬度は良好であると言える
【0133】
(4)昇華物揮発量の評価
シリコン基板上に感放射線性組成物の溶液をそれぞれスピンナーにより塗布し、塗布膜厚が6.0μmの被膜を形成した。この被膜について、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー/質量分析(ヘッドスペースサンプラ:日本分析工業(株)製、型式名「JHS−100A」;ガスクロマトグラフィー/質量分析装置:日本電子(株)製、「JEOL JMS−AX505W型質量分析計」)により分析を行った。パージ条件を100℃/10minとし、光重合開始剤由来の揮発成分の発生に関するピーク面積Aを求めた。標準物質としてn−オクタン(比重:0.701;注入量:0.02μL)を使用し、そのピーク面積を基準として、下記式からn−オクタン換算による光重合開始剤由来の昇華物揮発量を算出し、結果を表1に示した。
昇華物揮発量(μg)=A×(n−オクタンの量(μg))/(n−オクタンのピーク面積)
この昇華物揮発量が1.5μg以下のとき、硬化膜形成プロセスにおける昇華物が少なく、光重合開始剤の昇華性は充分低いと言える。
【0134】
【表1】

【0135】
表1に示した結果から、本発明による新規な化合物である光重合開始剤を含む感放射線性組成物を用いた実施例1〜10では、比較例1〜5と比較して高い放射線感度を示し、得られる硬化膜の透明性及び表面硬度が優れていると共に、比較例1〜5と比較して昇華物揮発量が概ね低減されており、実施例に係る感放射線性組成物及び硬化膜では各種特性がバランスよく発揮されていることが分かった。なお、実施例1〜10の感放射線性組成物の調製に際しては、[A]成分の光重合開始剤の溶解には特段の手順を踏むことなく、スムーズに溶解することができた。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の新規な化合物は、光重合開始剤として使用する場合に高い放射線感度を示すと共に低い昇華性を有し、かつ高い透明性と充分な表面硬度を有する硬化膜を形成することが可能であるため、感放射線性組成物の成分として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

(式(1)において、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数4〜20のシクロアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、2−フリル基、2−フルフリル基、2−チエニル基、2−テニル基、フェニル基又はナフチル基であり、このフェニル基又はナフチル基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数3〜10のシクロアルキル基である。
は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、ハロゲン原子、2−フリル基、2−フルフリル基、2−チエニル基、又は2−テニル基である。
は、スルホ基、又はSO、P(R、PO(R若しくはSi(Rで表される基である。
は、水素原子、メチル基、炭素数2〜12のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基であり、上記炭素数2〜12のアルキル基の水素原子の一部又は全部は、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、炭素数1〜6のアシロキシ基、ベンゾイルオキシ基及び炭素数1〜20のアシル基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよく、上記フェニル基又はナフチル基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基又はナフチル基であり、このフェニル基又はナフチル基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項2】
上記R、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基であり、
上記Rは、SO、PO(R又はSi(Rで表される基であり、
上記Rは、水素原子の一部又は全部がアセトキシ基で置換された炭素数2〜6のアルキル基であり、
上記Rはフェニル基であり、
上記Rは炭素数1〜6のアルキル基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
[A]光重合開始剤としての請求項1又は請求項2に記載の化合物、及び
[B]エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物
を含有する感放射線性組成物。
【請求項4】
[C]アルカリ可溶性樹脂をさらに含有する請求項3に記載の感放射線性組成物。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の感放射線性組成物から形成された硬化膜。


【公開番号】特開2011−178776(P2011−178776A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280998(P2010−280998)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】