説明

新規化合物MK844−mF10物質、その製造方法、及びその用途

【課題】新規抗菌剤の提供。
【解決手段】特定のアントラキノン骨格を有する化合物が、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有することを見い出した。それらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する新規化合物、その製造方法、及びその用途、並びに、前記新規化合物の生産菌である新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの抗菌剤が、細菌感染症の治療薬として用いられてきている。これまでに知られる抗菌剤の多くは、細菌の核酸合成、蛋白質合成、ペプチドグリカン合成等を阻害することにより作用する。これらの標的部位は単一で、主として代謝合成経路を阻害することを目的にしているため、これらの抗菌剤に対する耐性菌が出現しやすく、特に近年では複数の抗生物質に対して耐性を示す多剤耐性菌の出現が問題となっている。
【0003】
例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、化膿性疾患、肺炎、食中毒等の起因菌として知られるが、抗生物質メチシリン等の多くの薬剤に対する耐性を獲得したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus:MRSA)の出現が、臨床上大きな問題となっている。現在、MRSAに対する代表的な治療薬としては、バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリドなどが使用されているが、完全にMRSAを排除することは一般に困難であるとされており、また、これらのうち、バンコマイシンについては、既にバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(Vancomycin−Resistant Staphylococcus Aureus:VRSA)の出現が報告されており、その使用には十分な注意が必要であるとされている。
【0004】
このような薬剤耐性菌の問題を克服するために、従来の抗菌剤とは異なった新しい作用機構による微生物に対する新規抗微生物剤の開発が望まれている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
一方、細菌には、環境に応答してその変化を受容するレセプターとそれぞれの遺伝子発現を制御する情報伝達機構が知られており、その代表例が二成分制御系(two−component systems)である。二成分制御系とは、ヒスチジンキナーゼ活性を示すセンサータンパク質とDNA結合タンパク質であるレギュレーターとにより構成されている環境応答性の遺伝子発現制御系であり、細菌は様々な環境変化に対応すべく、種々のセンサーとレギュレーターとを有している(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
細菌の二成分制御系としては、グラム陽性菌のYycF(WalRともいう)及びYycG(WalKともいう)が関与する情報伝達系が存在し、これを阻害すると細菌が死滅することが知られており(例えば、非特許文献3〜6参照)、前記情報伝達系を阻害することによるグラム陽性細菌に抗菌力を示す抗菌剤が期待される。
【0007】
また、ハクサイ、ジャガイモといった農作物に感染し、農業生産に甚大な被害をもたらす軟腐病菌の病原性は、3種の二成分制御系、PehS/PehR(例えば、非特許文献7参照)、PmrB/PmrA(例えば、非特許文献8参照)、ExpS/ExpA(例えば、非特許文献9参照)によって病原性が調節されていることが知られており、これら病原性を抑制することによる軟腐病菌の防除が期待される。
【0008】
上記知見があるものの、満足のいく抗菌剤、酵素活性阻害剤は未だ得られておらず、優れた抗菌剤などの開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sievert DM,et al:Staphylococcus aureus Resistant to Vancomycin−United States,2002.MMWR July 5,2002;51:565−567.
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリー、第58巻、第4号
【非特許文献3】Fablet, C. and Hoch, A. A., J. Bacteriol., 180, 6375−6383, 1998
【非特許文献4】Marti, P. K.,Li, T., Sun, D., Biek, D. P. and Schmid, M. B., J. Bacteriol., 181, 3666−3673, 1999
【非特許文献5】Lange, R., Wagner, C., DeSaizieu, A., Flint, N., Monos, J., Stiger, M., Caspers, P., Kamber, M., Keck wolfgang, Amrein, K. E., Gene, 237, 223−234, 1999
【非特許文献6】Beier, D. and Frank, R., J. Bacteriol., 182, 2068−2076, 2000
【非特許文献7】Eriksson, A. R. B., Andersson, R. A., Pirhonen, M., and Palva, E. T., Mol. Plant−Microbe Interact., 11, 743−752, 1998
【非特許文献8】Hyytiainen, H., Sjoblom, S., Palomaki, T., Tuikkala, A., and Palva, E. T., Mol. Microbiol., 50, 795−807, 2003
【非特許文献9】Flego, D., Marits, R., Eriksson, A. R. B., Koiv, V., Karlsson, M.−B., Heikinheimo, R., and Palva, E. T., Mol. Plant−Microbe Interact., 13, 447−455, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは、細菌細胞の主要な情報伝達機構である二成分制御系に着目し、鋭意検討した結果、新規な微生物として、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する菌株を分離することに成功し、この菌株が、新規な構造骨格を有し、抗菌活性、若しくは、酵素阻害活性を有する化合物を産生していることを見出した。本発明者らは、前記化合物の化学構造を分析することで、これが新規化合物であることを確認し、本発明の完成に至った。なお、本発明者らは、この新規化合物をMK844−mF10物質と命名した。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物である。
【化1】

<2> 下記構造式(A)で表される化合物の製造方法であって、
ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物を生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から下記構造式(A)で表される化合物を採取する採取工程と、
を含むことを特徴とする化合物の製造方法である。
【化2】

<3> ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物を生産する能力を有する微生物が、受託番号NITE P−903のストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株である前記<2>に記載の化合物の製造方法である。
【化3】

<4> ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物を生産する能力を有することを特徴とする微生物である。
【化4】

<5> 受託番号NITE P−903のストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株である前記<4>に記載の微生物である。
<6> 下記構造式(A)で表される化合物を含むことを特徴とする化合物含有組成物である。
【化5】

<7> 前記<6>に記載の化合物含有組成物を含むことを特徴とする抗菌剤である。
<8> 前記<6>に記載の化合物含有組成物を含むことを特徴とする酵素活性阻害剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、細菌の二成分制御系を阻害することにより、薬剤耐性菌、植物病原細菌等の幅広い病原性細菌に対し、優れた抗菌活性、若しくは、前記細菌の有する酵素に対し、酵素阻害活性を有する化合物、及びそれらの製造方法、並びに、前記化合物の生産菌である微生物、及び前記化合物を利用した化合物含有組成物、抗菌剤、及び酵素活性阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、前記構造式(A)で表される化合物(MK844−mF10物質)のKBr錠剤法で測定した、赤外線スペクトルのチャートである。縦軸:透過率(%)、横軸:波数(cm−1)。
【図2】図2は、前記構造式で表される化合物(MK844−mF10物質)のメタノール中、0.005M 塩酸含有メタノール中、及び0.005M 水酸化ナトリウム含有メタノール中での紫外線吸収スペクトルのチャートである。縦軸:吸光度(Abs)、横軸:波長(nm)。
【図3】図3は、前記構造式で表される化合物(MK844−mF10物質)の重メタノール中で測定した、600MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【図4】図4は、前記構造式(A)で表される化合物(MK844−mF10物質)の重メタノール中で測定した、150MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルのチャートである。横軸:ppm単位。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(新規化合物)
本発明の化合物は、本発明者らが分離した新規化合物である(以下、「MK844−mF10物質」と称することがある)。
【化6】

【0016】
−物理化学的性状−
前記構造式(A)で表される化合物の物理化学的性状としては、次の通りである。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C383813で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:負イオンモード)による、実験値は、m/z 701.2243(M−H)であり、計算値は、m/z 701.2229(C383713として)である。
(4) 比旋光度は、[α]23=+102.1°(c 0.15, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図1に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3,700〜3,200、2,929、1,710、1,675、1,631、1,592、1,274、1,124、1,078
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図2に示す通りである。
λmax nm(ε) :
メタノール中: 275(43,000)、292(42,000)、305(3,500)、406(5,700)
0.005M 塩酸含有メタノール中: 275(42,700)、292(41,800)、305(3,500)、406(5,700)
0.005M 水酸化ナトリウム含有メタノール中: 277(36,000)、295(38,700)、308(3,400)、509(4,800)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重メタノール中で測定したプロトンNMRスペクトルは、図3に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で測定した炭素13NMRスペクトルは、図4に示す通りである。
【0017】
化合物が、前記構造式(A)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができ、例えば、前記質量分析、前記赤外線吸収スペクトル、前記紫外線吸収スペクトル、前記プロトン核磁気共鳴スペクトル、前記炭素13核磁気共鳴スペクトル等の分析を行うことにより確認することができる。
【0018】
前記MK844−mF10物質は、MK844−mF10物質を生産する微生物から得られたものであってもよいし、化学合成により得られたものであってもよいが、後述する本発明の、化合物の製造方法により得られることが好ましい。
【0019】
<用途>
前記MK844−mF10物質は、後述する試験例1及び2に示されるように、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有する。そのため、前記MK844−mF10物質は、例えば、後述する本発明の、化合物含有組成物、抗菌剤、酵素活性阻害剤等の有効成分として好適に利用可能である。
【0020】
(化合物の製造方法)
本発明の化合物、即ちMK844−mF10物質の製造方法は、培養工程と、採取工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0021】
<培養工程>
前記培養工程は、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、MK844−mF10物質を生産する能力を有する微生物を培養する工程である。
【0022】
前記微生物としては、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、MK844−mF10物質を生産する能力を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明者らの分離したストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株(NITE P−903、詳細は後述する本発明の微生物の項目に記す)などが挙げられる。また、MK844−mF10物質を生産できるその他の菌株についても、常法によって、自然界より分離することが可能である。なお、前記ストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株を含め、MK844−mF10物質を生産する生産菌を、放射線照射やその他の変異処理に供することにより、MK844−mF10物質の生産能を高めることも可能である。更に、遺伝子工学的手法によるMK844−mF10物質の生産も可能である。
【0023】
前記培養は、MK844−mF10物質を生産する生産菌(以下、単に「MK844−mF10物質類生産菌」と称することがある)を栄養培地(以下、単に「培地」と称することがある)中に接種し、MK844−mF10物質の生産に良好な温度で培養することによって行われる。
前記栄養培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができる。
前記栄養培地に添加する栄養源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源として、市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウムなどが使用でき、炭素源として、トマトペースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリン、バクトソイトン等の炭水化物、脂肪などが使用できる。更に、食塩、炭酸カルシウム等の無機塩を培地に添加して使用することもでき、その他、必要に応じて微量の金属塩を培地に添加して使用することもできる。
これらの材料は、MK844−mF10物質類生産菌が利用し、MK844−mF10物質の生産に役立つものであればよく、公知の培養材料は全て用いることができる。
【0024】
MK844−mF10物質の生産のための種母培地(以下、「生産培地」と称することがある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地上、MK844−mF10物質類生産菌の斜面培養から得た生育物を使用することができる。
【0025】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気的条件の培養方法が好ましい。
前記培養の温度としては、MK844−mF10物質類生産菌の発育が実質的に阻害されずに、MK844−mF10物質を生産しうる範囲であれば、特に制限はなく、使用する生産菌に応じて適宜選択することができるが、25℃〜35℃が好ましい。
前記培養の期間としては、特に制限はなく、MK844−mF10物質の蓄積に合わせて適宜選択することができる。通常、培養3日間〜10日間でMK844−mF10物質の蓄積が最高となる。
【0026】
<採取工程>
前記採取工程は、前記培養工程で得られた培養物からMK844−mF10物質を採取する工程である。
前記MK844−mF10物質は、上述した物理化学的性状を有するので、その性状に従って培養物から採取することができる。
【0027】
前記採取の方法としては、特に制限はなく、微生物の生産する代謝物を採取するのに用いられる方法を適宜選択することができる。例えば、水と混ざらない溶媒により抽出する方法、各種吸着剤に対する吸着親和性の差を利用する方法、ゲルろ過、向流分配を利用したクロマトグラフィーなどを単独、又は組み合わせる方法などが挙げられる。
また、分離した菌体からは、適当な有機溶媒を用いた抽出方法や、菌体破砕による溶出方法などにより、前記MK844−mF10物質を菌体から抽出し、上記と同様に単離精製して採取することができる。
【0028】
以上のようにして前記製造方法を行うことができ、これにより、MK844−mF10物質を好適に得ることができる。
【0029】
(微生物)
本発明の微生物は、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、上述した本発明の化合物、即ちMK844−mF10物質を生産する能力を有することを特徴とする。前記微生物は、MK844−mF10物質を生産する能力を有し、そのために、上述した本発明の化合物の製造方法において、MK844−mF10物質の生産菌として使用され得る微生物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
このような微生物の中でも、特に、財団法人 微生物化学研究会 微生物化学研究センターにおいて、山梨県北杜市の土壌より分離された放線菌で、MK844−mF10株の菌株番号が付された微生物を使用することが好ましい。前記MK844−mF10株の菌学的性状は、以下の通りである。
【0031】
1.形態
MK844−mF10株は、分枝した基生菌糸より、直状の気菌糸を伸長する。成熟した胞子鎖は、10個以上の円筒形の胞子を連鎖する。胞子の大きさは、約0.5μm〜0.7μm×0.6μm〜1.1μmで、胞子の表面は、平滑あるいはとげ状である。輪生枝、菌糸束、胞子のう、及び運動性胞子は認められない。
【0032】
2.各種培地における生育状態
色の記載について[ ]内に示す標準は、コンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of Americaのcolor harmony manual)を用いた。
(1)イースト・麦芽寒天培地(ISP−培地2、27℃培養)
灰味赤茶[5 lg, Cocoa Brown〜6 1/2 ni, Rose Brown]の発育上に、茶白[3 dc, Natural]の気菌糸を着生し、茶[5 pi, Copper Brown]の可溶性色素を産生する。
(2)オートミール寒天培地(ISP−培地3、27℃培養)
茶[5 pi, Copper Brown]〜 暗い茶[5 nl, Chocolate]の発育上に、灰白[13 cb, Pearl Gray]の気菌糸を着生する。明るい茶の可溶性色素を産生する。
(3)スターチ・無機塩寒天培地(ISP−培地4、27℃培養)
茶[5 pi, Copper Brown]〜 暗い茶[6 pl, Deep Brown Mahogany]の発育上に、灰白[13 ba, Alabaster Tint]の気菌糸を着生する。明るい茶の可溶性色素を産生する。
(4)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP−培地5、27℃培養)
発育は灰味赤茶[5 ni, Cocoa Brown]、気菌糸は着生せず、可溶性色素は茶を帯びる。
(5)チロシン寒天培地(ISP−培地7、27℃培養)
発育は明るい茶[4 ng, Lt Brown 〜 4 ne, Luggage tan]、気菌糸は着生せず、可溶性色素は茶を帯びる。
(6)シュクロース・硝酸塩寒天培地(27℃培養)
うす黄[2 db, Ivory]の発育上に、茶白[3 cb, Sand]の気菌糸をうっすらと着生し、可溶性色素はうすピンクを帯びる。
【0033】
3.生理的性質
(1)生育温度範囲
イースト・スターチ寒天培地(溶性デンプン 1.0質量%、イーストエキス 0.2質量%、ひも寒天 2.6質量%、pH7.0)を用い、l0℃、20℃、24℃、27℃、30℃、37℃、及び50℃の各温度で試験した結果、10℃、37℃、及び50℃での生育は認められず、20℃〜30℃の範囲で生育した。生育至適温度は24℃〜27℃である。
(2)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地、ISP−培地4、27℃培養)
スターチの水解性は認められない。
(3)メラニン様色素の生成(トリプトン・イースト・プロス、ISP−培地1;ペプトン・イースト・鉄寒天培地、ISP−培地6;チロシン寒天培地、ISP−培地7; いずれも27℃培養)
いずれの培地でも認められない。
(4)炭素源の利用性(無機塩寒天培地、ISP−培地4からスターチを抜いた培地;27℃培養)
D−グルコース、L−アラビノース、D−キシロース、及びラムノースを利用して発育し、D−フルクトース、スクロース、イノシトール、ラフィノース、及びD−マンニトールは利用しない。
【0034】
4.菌体成分
細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸は、LL−型である。
【0035】
5.16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子の部分塩基配列(1,481bp)を決定し、DNAデータベースに登録された公知菌株のデータと比較した。その結果、MK844−mF10株の塩基配列は以下に示すように、ストレプトミセス(Streptomyces)属放線菌の16S rRNA遺伝子塩基配列と高い相同性を示した。即ち、ストレプトミセス ヨーチョネンシス(Streptomyces yeochonensis:NBRC 100782と98%相同)、ストレプトミセス パウシスポレウス(S.paucisporeus(NBRC 1413と98%相同)、ストレプトミセス ホーペイエンシス(S.hebeiensis:YIM 001と97%相同)などである。なお、括弧内は塩基配列の相同値を表記した。
【0036】
以上の性状を要約すると、MK844−mF10株は、その形態上、よく分枝した基生菌糸より、直状の気菌糸を伸長し、円筒形の胞子を連鎖する。種々の培地で、灰味赤茶〜暗い茶の発育上に茶白の気菌糸を着生する。うすピンク〜茶の可溶性色素を産生する。生育至適温度は24℃〜27℃である。スターチの水解性度及びメラニン様色素の生成は陰性である。
MK844−mF10株の細胞壁中の2,6−ジアミノピメリン酸はLL−型である。
MK844−mF10株の16SrRNA遺伝子の部分塩基配列を解析し、公知菌株のデータと比較したところ、ストレプトミセス属放線菌と高い相同性を示した。
【0037】
以上の結果より、前記MK844−mF10株は、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属するものと考えられる。そこで、前記MK844−mF10株をストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株とした。
なお、前記MK844−mF10株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、平成22年2月23日、NITE P−903として受託された。
【0038】
なお、他の菌にも見られるように、前記MK844−mF10株は、性状が変化し易いが、例えば、前記MK844−mF10株に由来する突然変異株(自然発生又は誘発性)、形質接合体、遺伝子組換体などであっても、MK844−mF10物質を生産する能力を有するものは、本発明の微生物に含まれる。
【0039】
(化合物含有組成物)
本発明の化合物含有組成物は、本発明の化合物、即ちMK844−mF10物質を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0040】
前記化合物含有組成物中のMK844−mF10物質の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記化合物含有組成物は、MK844−mF10物質そのものであってもよい。
【0041】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記化合物含有組成物中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、MK844−mF10物質の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記化合物含有組成物は、一種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記化合物含有組成物は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用してもよい。
【0042】
<剤型、投与>
−剤型−
前記化合物含有組成物の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状、カプセル状、錠剤状、液状などが挙げられる。これらの剤型の前記化合物含有組成物は、常法に従い製造することができる。
【0043】
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤の補助剤との混合として慣用の処方により乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの適宜の形態として調製できる。
また、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの目的で各種の界面活性剤(又は乳化剤)が使用される。このような界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非イオン型(ポリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等)、陰イオン型(アルキルオコシエチレンアルキルサルフェート、アリールスルホネート等)、陽イオン型(アルキルアミン類、ポリオキシアルキルアミン類等)、両性型(硫酸エステル塩等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの他にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアセテート、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、トラガカントガム等の各種補助剤を使用することができる。
【0044】
−投与−
前記化合物含有組成物の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記化合物含有組成物の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記化合物含有組成物の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記化合物含有組成物の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記化合物含有組成物の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0045】
<用途>
前記化合物含有組成物は、MK844−mF10物質を含むことから、抗菌作用、及び、酵素活性阻害作用の少なくともいずれかを有するものである。
【0046】
(抗菌剤、酵素活性阻害剤)
<抗菌剤>
本発明の抗菌剤は、少なくとも本発明の前記化合物含有組成物を含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
【0047】
前記抗菌剤中の前記化合物含有組成物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗菌剤は、前記化合物含有組成物そのものであってもよい。
【0048】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記抗菌剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、MK844−mF10物質の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記抗菌剤は、一種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記抗菌剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用してもよい。
【0049】
前記抗菌剤は、MK844−mF10物質を含むことから、後述する試験例1に示されるように薬剤耐性菌などに対して優れた抗菌活性を有するものである。
したがって、前記抗菌剤は、薬剤耐性菌などに起因する感染症の予防、又は治療に好適に利用可能である。また、前記抗菌剤は、農園芸用殺菌剤としても好適に利用可能である。
【0050】
<酵素活性阻害剤>
本発明の酵素活性阻害剤は、少なくとも本発明の前記化合物含有組成物を含み、必要に応じて適宜その他の成分を含む。
前記酵素活性阻害剤は、ヒスチジンキナーゼ活性を好適に阻害することができる。
【0051】
前記酵素活性阻害剤中の前記化合物含有組成物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記酵素活性阻害剤は、前記化合物含有組成物そのものであってもよい。
【0052】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプンなどが挙げられる。前記酵素活性阻害剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、MK844−mF10物質の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、前記酵素活性阻害剤は、一種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併せて使用してもよい。また、前記酵素活性阻害剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に配合された状態で使用してもよい。
【0053】
前記酵素活性阻害剤は、MK844−mF10物質を含むことから、後述する試験例2に示されるように薬剤耐性菌、植物病原性細菌などを含む幅広いグラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌が有する酵素に対して優れた酵素阻害活性を有するものである。
したがって、前記酵素活性阻害剤は、薬剤耐性菌などを含む幅広いグラム陽性細菌、及びグラム陰性細菌の病原性を抑制することができ、前記細菌に起因する感染症の予防、又は治療に好適に利用可能である。また、農園芸用殺菌剤の有効成分としても好適に利用可能である。
【0054】
<剤型、投与>
−剤型−
前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状、カプセル状、錠剤状、液状などが挙げられる。これらの剤型の前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤は、常法に従い製造することができる。
【0055】
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤の補助剤との混合として慣用の処方により乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの適宜の形態として調製できる。
また、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル(ゾル)剤、粉剤、粒剤、微粒剤、錠剤などの目的で各種の界面活性剤(又は乳化剤)が使用される。このような界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非イオン型(ポリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等)、陰イオン型(アルキルオコシエチレンアルキルサルフェート、アリールスルホネート等)、陽イオン型(アルキルアミン類、ポリオキシアルキルアミン類等)、両性型(硫酸エステル塩等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの他にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアセテート、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、トラガカントガムなどの各種補助剤を使用することができる。
【0056】
−投与−
前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、経口又は非経口で投与することができる。
前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記抗菌剤及び前記酵素活性阻害剤の投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられる。
また、前記農園芸用殺菌剤として用いる場合の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。また、以下の実施例、比較例、及び試験例中、「%」は、特に明記のない限り「質量%」を表す。
【0058】
(実施例1:化合物の製造)
−培養工程−
寒天斜面培地に培養したストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株(NITE P−903として寄託)を、ガラクトース 2%、デキストリン 2%、グリセリン 1%、バクトソイトン(ディフコ社製) 1%、コーン・スティープ・リカー 0.5%、硫酸アンモニウム 0.2%、炭酸カルシウム 0.2%を含む液体培地(pH7.0に調整)を三角フラスコ(500mL容)に110mLずつ分注して、常法により120℃で20分間滅菌した培地に接種した。その後に30℃で2日間回転振とう培養し、種母培養液を得た。
【0059】
押し麦(ムソー社製) 15g、水 25gを含む液体培地(pH7.0に調整)を三角フラスコ(500mL容)に分注して、常法により120℃で20分間滅菌し、生産培地とした。この生産培地に、上記の種母培養液の7mL/フラスコを接種し、30℃で14日間、暗所で静置培養を行った。
【0060】
−採取工程−
このようにして得られた培養物1,160g(フラスコ29本分)にエタノールを2.2リットル加え、室温で24時間抽出し、遠心分離して、エタノール抽出液得た。続いて、このエタノール抽出液に、10リットルの水を加えてよく撹拌し、これをダイアイオンCHP−20P(300mL、三菱化学株式会社製)カラムに通過させMK844−mF10物質を吸着した。このカラムを50%メタノール水1.6リットルで洗浄した後、アセトン1.5リットルで溶出した。このMK844−mF10物質含むアセトン溶出液を濃縮乾固し、ヘキサン70mLとメタノール50mLとを加え溶解し十分撹拌した。このヘキサン−メタノール混合液は、静置すると2層に分離しMK844−mF10物質は下層に含有された。これを集め減圧下で濃縮乾固を行いMK844−mF10物質を含む粗抽出物2.6gを得た。
【0061】
前記粗抽出物をメタノールで溶解し、セファデックスLH−20(内径36mm×480mm、ファルマシア バイオテク社製)カラムにのせ、クロマトグラフィーを行った。550mL溶媒を展開した後、1フラクションを3gずつ分画すると、活性画分はフラクション3から21に溶出され、これを集めて減圧下で濃縮乾固し、1.4gのMK844−mF10物質を得た。
前記MK844−mF10物質を少量のクロロホルム−メタノール混合溶媒で溶解し、シリカゲル60(内径36mm×190mm、メルク社製)カラムにのせクロマトグラフィーを行った。クロロホルム:メタノール=50:1(体積比)の混合溶媒300mLを用いカラムを洗浄した後、クロロホルム:メタノール=9:1(体積比)の混合溶媒を980mL、次いでクロロホルム:メタノール:水=4:1:0.2(体積比)の混合溶媒を360mL用い溶出した。1フラクションを18gずつ分画すると、活性画分はフラクション30から70にかけ溶出され、これを集めて減圧下で濃縮乾固し、146mgの純粋なMK844−mF10物質を得ることができた。
【0062】
得られたMK844−mF10物質の物理化学的性状を測定したところ、以下の通りであり、これらのことから、MK844−mF10物質が、下記構造式(A)で表される構造を有する新規化合物であることが確認された。
(1) 外観は、黄色パウダー状である。
(2) 分子式は、C383813で表される。
(3) 高分解能質量分析(HRESIMS:負イオンモード)による、実験値は、m/z 701.2243(M−H)であり、計算値は、m/z 701.2229(C383713として)である。
(4) 比旋光度は、[α]23=+102.1°(c 0.15, MeOH)である。
(5) 赤外線吸収スペクトルは、図1に示す通りである。
νmax(KBr)cm−1 : 3,700〜3,200、2,929、1,710、1,675、1,631、1,592、1,274、1,124、1,078
(6) 紫外線吸収スペクトルは、図2に示す通りである。
λmax nm(ε) :
メタノール中: 275(43,000)、292(42,000)、305(3,500)、406(5,700)
0.005M 塩酸含有メタノール中: 275(42,700)、292(41,800)、305(3,500)、406(5,700)
0.005M 水酸化ナトリウム含有メタノール中: 277(36,000)、295(38,700)、308(3,400)、509(4,800)
(7) プロトン核磁気共鳴スペクトルとして、600MHzにおいて重メタノール中で測定したプロトンNMRスペクトルは、図3に示す通りである。
(8) 炭素13核磁気共鳴スペクトルとして、150MHzにおいて重メタノール中で測定した炭素13NMRスペクトルは、図4に示す通りである。
【化7】

また、実施例1で得られたMK844−mF10物質について、抗菌活性を以下の試験例1で、また酵素阻害活性を以下の試験例2で確認した。
【0063】
(試験例1:抗菌活性)
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(Methicillin−Sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)、多剤耐性黄色ブドウ球菌(Multiple Drug Resistant Staphylococcus Aureus:MDRSA)、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)、及びバンコマイシン低感受性黄色ぶどう球菌(Vancomycin Intermediate Staphylococcus Aureus:VISA)に対するに対するMK844−mF10物質の抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地(Difco社製)上で倍数希釈法により測定した。最小発育阻止濃度(MIC)の測定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から、MK844−mF10物質は、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MDRSA)、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)、及びバンコマイシン低感受性黄色ぶどう球菌(VISA)に対して、抗菌活性を有していることがわかった。
【0066】
(試験例2:酵素阻害活性)
−(1)YycGヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
枯草菌168株(B.subtilis 168、東京農業大学より分譲)のYycGに対するMK844−mF10物質の酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法に従って行った。
YycGのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から207番目のアミノ酸から611番目のアミノ酸を含む)(以下、「yycGtru」と称することがある。)をPCR法により枯草菌168株の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET−21a(+)(Novagen社製)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−yycGtruを大腸菌に形質転換した株の培養液から、YycGのヒスチジンキナーゼ活性ドメインを発現させたタンパク質(以下、「YycG−207−611」と称することがある。)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液は、0.5μM YycG−207−611、50mM トリス塩酸(pH8.5)、100mM 塩化カリウム、100mM 塩化アンモニウム、及び5mM 塩化マグネシウムの組成とした。
この反応溶液に所定の濃度のMK844−mF10物質を加え、30℃で5分間インキュベートした。その後、2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、反応を開始し、30℃で10分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行うことによって、枯草菌のYycGに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。
なお、コントロールとしては、前記反応溶液にMK844−mF10物質を添加せず、2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、30℃で10分間インキュベートしたものを用いた。結果を表2に示す。
【0067】
−(2)VicKヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
う蝕菌(Streptococcus mutans)(ATCC(ameriacn type culture collection)より入手)のVicKに対する、MK844−mF10物質の酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法を改変して行った。
VicKのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から31番目のアミノ酸から450番目のアミノ酸を含む)(以下、「SMvicK31−450」と称することがある。)をPCR法により、う蝕菌の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET22b(+)(Novagen社製)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−SMvicK31−450を大腸菌に形質転換した株の培養液から、VicKのヒスチジンキナーゼ活性ドメインのみを発現させたタンパク質(以下、「VicK−31−450」と称することがある。)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液は、0.5μM VicK−31−450、50mM トリス塩酸(pH7.5)、50mM 塩化カリウム、10mM 塩化マグネシウムの組成とした。
この反応溶液7μLに、MK844−mF10物質を1μL加え、25℃で5分間インキュベートした。その後、[32P]ATPを含む12.5μM ATPを2μL加え(終濃度2.5μM)反応を開始し、25℃で20分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うことによって、う蝕菌のVicKに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。
なお、コントロールとしては、前記反応溶液にMK844−mF10物質を添加せず、[32P]ATPを含む12.5μM ATPを2μL加え、25℃で20分間インキュベートしたものを用いた。結果を表2に示す。
【0068】
−(3)PehSヒスチジンキナーゼ活性阻害試験−
軟腐病菌MAFF301393株(Erwinia carotovora subsp. carotovora MAFF301393、農林水産省微生物遺伝資源(MAFF)より入手)のPehSに対する、MK844−mF10物質の酵素阻害活性を調べた。
ヒスチジンキナーゼ活性の測定は、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 919−923, 2000に報告された方法に従って行った。
PehSのキナーゼ活性ドメインのみを含む領域(N−末端から209番目のアミノ酸から484番目のアミノ酸を含む)(以下、「pehScM2−2」と称することがある。)をPCR法により軟腐病菌MAFF301393株の染色体DNAから調製し、発現ベクターpET−21a(+)(Novagen社製)にクローニングした。このようにして得られたプラスミドpET−pehScM2−2を大腸菌に形質転換した株の培養液から、PehSヒスチジンキナーゼ活性ドメインのみを発現させたタンパク質(以下、「PehS−209−484」と称することがある。)を精製した。
ヒスチジンキナーゼ活性測定のための反応溶液は、4μM PehS−209−484、50mM トリス塩酸(pH8.5)、100mM 塩化カリウム、100mM 塩化アンモニウム、5mM 塩化マグネシウムの組成とした。
この反応溶液に所定の濃度のMK844−mF10物質を加え、30℃で5分間インキュベートした。その後、2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、反応を開始し、30℃で20分間インキュベート後、反応を終了させ、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行うことによって、軟腐病菌のPehSに対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。
なお、コントロールとしては、前記反応溶液にMK844−mF10物質を添加せず、2.5μM ATP−10μCi[γ−32P]ATP混合溶液を加えて10μLとし、30℃で20分間インキュベートしたものを用いた。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2の結果から、MK844−mF10物質は、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌が有するヒスチジンキナーゼに対して、阻害活性を有していることがわかった。MK844−mF10物質は、特にYycGに対して強い阻害活性を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の新規化合物(MK844−mF10物質)は、優れた抗菌活性、及び優れた酵素阻害活性を有することから、新たな抗菌剤、及び酵素活性阻害剤として好適に利用できる。
【受託番号】
【0072】
NITE P−903

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(A)で表されることを特徴とする化合物。
【化8】

【請求項2】
下記構造式(A)で表される化合物の製造方法であって、
ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物を生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から下記構造式(A)で表される化合物を採取する採取工程と、
を含むことを特徴とする化合物の製造方法。
【化9】

【請求項3】
ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物を生産する能力を有する微生物が、受託番号NITE P−903のストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株である請求項2に記載の化合物の製造方法。
【化10】

【請求項4】
ストレプトミセス(Streptomyces)属に属し、下記構造式(A)で表される化合物を生産する能力を有することを特徴とする微生物。
【化11】

【請求項5】
受託番号NITE P−903のストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)MK844−mF10株である請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
下記構造式(A)で表される化合物を含むことを特徴とする化合物含有組成物。
【化12】

【請求項7】
請求項6に記載の化合物含有組成物を含むことを特徴とする抗菌剤。
【請求項8】
請求項6に記載の化合物含有組成物を含むことを特徴とする酵素活性阻害剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−201843(P2011−201843A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73513(P2010−73513)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000173913)公益財団法人微生物化学研究会 (29)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】