説明

新規化合物

【課題】合成容易なシクロ[n]ピロール類の提供。
【解決手段】下記式で表される単量体6〜10個がそれぞれ環状構造になった、環拡張ポルフィリン類化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロ[n]ピロール環を有する色素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
環拡張ポルフィリン類としては、サフィリンやヘキサフィリンが知られているが、環拡張ポルフィリン類およびその誘導体として、合成法や構造、物性について未だ知られていない化合物が多く存在すると考えられるため、これらの化合物群は魅力的な化合物群である。
【0003】
2002年、Sesslerらは2,2'−ビピロールから塩化鉄(III)を用いた酸化的カップリング反応によってmeso−架橋炭素を含まない[30]オクタフィリン(0.0.0.0.0.0.0.0)(シクロ[8]ピロール)を合成できることを報告した。それ以降、非特許文献1〜4に報告されているように、シクロ[n]ピロール類(n=6−8)のアニオンバインディング、液晶性、半導体特性、および電子状態解析などが精力的に研究されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Seidel, D.; Lynch, V.; Sessler, J. L. Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 1422
【非特許文献2】Sessler, J. L.; Karnas, E.; Kim, S. K.; Ou, Z.; Zhanf, M.; Kadish, K. M.; Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. J. Am. Chem. Soc. 2008, 13, 15256
【非特許文献3】Eller, L. R.; Stepien, M.; Fowler, C. J.; Lee, J. T.; Sessler, J. L.; Moyer, B. A. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 11020
【非特許文献4】Stepien, M.; Donnio, B.; Sessler, J. L. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 1431.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでに知られているシクロ[n]ピロール類はβ−アルキル誘導体のみであり、合成的な困難さから報告例が限定されていた。
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、合成容易なシクロ[n]ピロール類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(1)で表される化合物であり、これにより本発明の上記目的が達成される。
【0007】
【化1】

(式(1)中、X2-は2価の陰イオンであり、Rx1、Ry1、Rx2およびRy2は炭素原子であり、nは1〜3の整数であり、mは1〜3の整数であり、複数あるR1およびR2はそれぞれ独立して
水素原子、
ハロゲン原子、
水酸基、
シアノ基、
ニトロ基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良いアミノ基、もしくはカルボニル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアルコキシル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数3〜14の芳香族炭化水素基、もしくは芳香族複素環基、または、
1およびR2が結合し、R2−Ry1=Rx1−R1が、下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の基、もしくはR2−Ry2−Rx2−R1が、下記式(5)〜(7)から選ばれる少なくとも1種の基である。)
【0008】
【化2】

(式(2)〜(7)中、Rx1、Ry1、Rx2およびRy2は炭素原子であり、複数あるR1およびR2はそれぞれ独立してCR(但し、Rは水素原子または炭素数1〜9の炭化水素基である。)または窒素原子であり、複数あるR3およびR4はそれぞれ独立して
水素原子、
ハロゲン原子、
水酸基、
シアノ基、
ニトロ基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良いアミノ基、もしくはカルボニル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアルコキシル基、または
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数3〜14の芳香族炭化水素基、もしくは芳香族複素環基である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明により、これまで限定的に報告されるに過ぎなかったシクロ[n]ピロール環を有する色素化合物を提供することができる。また、本発明によれば、合成容易なシクロ[n]ピロール類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、ビシクロ[2.2.2]オクタジエン(BCOD)縮環2,2'−ビピロールからBCOD縮環オクタフィリンを合成し、加熱による逆Diels-Alder反応でオクタベンゾ[30]オクタフィリン(0.0.0.0.0.0.0.0)へ定量的に変換できることを見いだした。
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0012】
本発明のシクロ[n]ピロール化合物は、下記式(1)で表される構造を有することを特徴とする化合物である。
【0013】
【化3】

(式(1)中、X2-は2価の陰イオンであり、Rx1、Ry1、Rx2およびRy2は炭素原子であり、nは1〜3の整数であり、mは1〜3の整数であり、複数あるR1およびR2はそれぞれ独立して
水素原子、
ハロゲン原子、
水酸基、
シアノ基、
ニトロ基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良いアミノ基、もしくはカルボニル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアルコキシル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数3〜14の芳香族炭化水素基、もしくは芳香族複素環基、または、
1およびR2が結合し、R2−Ry1=Rx1−R1が、下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の基、もしくはR2−Ry2−Rx2−R1が、下記式(5)〜(7)から選ばれる少なくとも1種の基である。)
【0014】
【化4】

(式(2)〜(7)中、Rx1、Ry1、Rx2およびRy2は炭素原子であり、複数あるR1およびR2はそれぞれ独立してCR(但し、Rは水素原子または炭素数1〜9の炭化水素基である。)または窒素原子であり、複数あるR3およびR4はそれぞれ独立して
水素原子、
ハロゲン原子、
水酸基、
シアノ基、
ニトロ基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良いアミノ基、もしくはカルボニル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアルコキシル基、または
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数3〜14の芳香族炭化水素基、もしくは芳香族複素環基である。)
【0015】
前記R1〜R4において、炭素数1〜9の炭化水素基(以下単に「置換基」ともいう。)を有しても良いアミノ基としては、具体的にはエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0016】
置換基を有しても良いカルボニル基としては、具体的にはカルボキシル基、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0017】
置換基を有しても良い炭素数1〜9のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
【0018】
置換基を有しても良いアルケニル基としては、具体的にはビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられる。
【0019】
置換基を有しても良いアルキニル基としては、具体的にはエチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基等が挙げられる。
【0020】
置換基を有しても良いアルコキシル基としては、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0021】
置換基を有しても良い炭素数3〜14の芳香族炭化水素基としては、具体的にはフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、アセナフチル基、フェナレニル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基、ビフェニリル基等に加え、これらの芳香族炭化水素基に置換基として、アリール基、アルキル基等を有するものが挙げられる。
【0022】
置換基を有しても良い芳香族複素環基としては、具体的にはピリジル基、チエニル基、オキサゾール基、チアゾール基、オキサジアゾール基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、イミダゾイル基等に加え、これらの芳香族複素環基に置換基として、アリール基、アルキル基等を有するものが挙げられる。
【0023】
Xとしては特に制限はないが、具体的には、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、ハロゲンイオン、燐酸イオン等の無機イオン;アルキル硝酸イオン、アリール硝酸イオン、パーフルオロアルキル硝酸イオン、アルキル硫酸イオン、アリール硫酸イオン、パーフルオロアルキル硫酸イオン、アルキル燐酸イオン、アリール燐酸イオン、パーフルオロアルキル燐酸イオン等の有機イオンが挙げられる。
【0024】
前記シクロ[n]ピロール化合物としては、具体的には下記式(A)、(B)で表される化合物を挙げることができる。
【0025】
【化5】

【0026】
さらに、前記式(1)で表されるシクロ[n]ピロール化合物としては、下記式(D)、(E)、(F)表される単量体8個がそれぞれ環状構造になった化合物を挙げることができる。
【0027】
【化6】

【実施例】
【0028】
以下、本発明を具体的に実施例によって説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
下記式(g)で表されるビピロール(57mg,0.20mmol、なお、phはフェニル基である。)、無水硫酸ナトリウム(312mg)、および硫酸水素テトラブチルアンモニウム(4mg)をクロロホルム(50ml)に溶かし、氷浴で冷却し、撹拌しながら6M硫酸(0.1ml)を加えた。これに0.2M硫酸セリウム水溶液(水2mlに硫酸セリウム135mgを溶解させた溶液)をゆっくりと加えた後、室温で1日撹拌した。攪拌後の反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。無水硫酸ナトリウムをろ別し、ろ液を減圧下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製した。クロロホルム/メタノールで再結晶させ、収量13mg(21%)で、黄色結晶を得た。これを化合物(G)とする。MALDI−TOF(Applied Biosystems社製Voyager−DE PRO)にて質量分析を行い、以下の結果を得た。
化合物(G):m/z 1225M+
【0030】
【化7】

【0031】
[実施例2]
下記式(h)で表されるビピロール(59mg、0.21mmol)をクロロホルム(50ml)に溶かし、氷浴で冷却し、撹拌しながらフェニルホスホン酸(H2PO3Ph、34mg,0.21mmol)を加えた。これに0.15M亜硝酸ナトリウム水溶液(水2mlに亜硝酸ナトリウム20mgを溶解させた溶液)をゆっくりと加えたあと、室温で10時間撹拌した。攪拌後の反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。無水硫酸ナトリウムをろ別し、ろ液を減圧下で濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、収量30mg(45%)で、黄色粉末を得た。これを化合物(H−1)とする。さらに化合物(H−1)(9.4mg)をミクロチューブに入れ、減圧下、240℃で2時間加熱し、収量2.1mg(91%)で、紫色粉末を得た。これを化合物(H−2)とする。MALDI−TOF(Applied Biosystems社製Voyager−DE PRO)にて質量分析を行い、以下の結果を得た。
化合物(H−1): m/z 1301M+、1273、1245、1221
化合物(H−2): m/z 1077M+、918
【0032】
【化8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有することを特徴とする化合物。
【化1】

(式(1)中、X2-は2価の陰イオンであり、Rx1、Ry1、Rx2およびRy2は炭素原子であり、nは1〜3の整数であり、mは1〜3の整数であり、複数あるR1およびR2はそれぞれ独立して
水素原子、
ハロゲン原子、
水酸基、
シアノ基、
ニトロ基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良いアミノ基、もしくはカルボニル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアルコキシル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数3〜14の芳香族炭化水素基、もしくは芳香族複素環基、または、
1およびR2が結合し、R2−Ry1=Rx1−R1が、下記式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の基、もしくはR2−Ry2−Rx2−R1が、下記式(5)〜(7)から選ばれる少なくとも1種の基である。)
【化2】

(式(2)〜(7)中、Rx1、Ry1、Rx2およびRy2は炭素原子であり、複数あるR1およびR2はそれぞれ独立してCR(但し、Rは水素原子または炭素数1〜9の炭化水素基である。)または窒素原子であり、複数あるR3およびR4はそれぞれ独立して
水素原子、
ハロゲン原子、
水酸基、
シアノ基、
ニトロ基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良いアミノ基、もしくはカルボニル基、
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアルコキシル基、または
炭素数1〜9の炭化水素基を有しても良い、炭素数3〜14の芳香族炭化水素基、もしくは芳香族複素環基である。)

【公開番号】特開2013−53120(P2013−53120A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194015(P2011−194015)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】