新規安定化組換えMHCタンパク質
【課題】高安定化MHCクラスIIタンパク質の提供。
【解決手段】ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドであって、ペプチド結合溝外の位置に導入された少なくとも一つの置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用が増強されることにより、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性が向上する組換えポリペプチド。
【解決手段】ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドであって、ペプチド結合溝外の位置に導入された少なくとも一つの置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用が増強されることにより、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性が向上する組換えポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞検出に有効なMHC多量体試薬等に利用できる、安定化組換えMHCタンパク質等に関する。
【背景技術】
【0002】
MHC(Major Histocompatibility Complex主要組織適合性複合体)は形質膜上に発現される膜結合型糖タンパク質であり、抗原がタンパク質分解酵素により分解されてできたペプチドを結合して、これをT細胞に提示する機能を有する。尚、ヒトではHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)として知られている。
【0003】
MHC抗原には、構造、組織分布及びT細胞に提示できる抗原ペプチドの由来を異にする、クラスI及びクラスIIの2種類が存在する。この中のMHCクラスIIは外来性、内在性抗原ペプチドをCD4陽性T細胞受容体(TCR)に提示する。サブクラスとしてHLA-DR, DQ, DPがあり、いずれも6番染色体(6p21)上のHLA領域にコードされる。MHCクラスIIを構成するタンパク質はα、βサブユニットから構成されるヘテロ二量体を形成し細胞表面に発現される。両サブユニットのαへリックス、βシートからなるペプチド結合溝へ10-30残基程度のペプチドが提示される。この提示されるペプチドにおいて、数個のアミノ酸を介して飛び石状に存在する3〜5個のアミノ酸残基がMHCクラスII分子への結合に重要な役割を担っている。尚、MHCクラスII分子のα、βサブユニットは、それぞれ分子量が約34,000及び約29,000であり、夫々、2つの細胞外領域、膜貫通領域、及び細胞内領域からなる。
【0004】
各サブユニットとも多種類の対立遺伝子(アリル)が集団内に保たれており、その頻度・多型性は集団間で異なる。これらのアリル間の非同義多型は主にペプチド結合溝に位置するため、アリル間の機能的差異はペプチド結合特異性にあると考えられている。
【0005】
自己免疫疾患を初め特定の疾病の患者集団又は人種集団においては、特定のHLA対立遺伝子、又はそれら対立遺伝子の特定の組合せ(ハプロタイプ)の頻度が有意に異なることが知られている。
【0006】
MHCテトラマー試薬は、1996年にAltmanらによって開発された技術であり(非特許文献1)、特定のMHC-ペプチド複合体を認識するT細胞の検出、単離に用いられる。基本的な作製方法は、可溶型MHCタンパク質のC末端側へのビオチン結合配列の付加とアビジンを介した4量体化で蛍光標識されたものである。MHC-TCR間の親和性は低いことが知られているため(解離定数> μMオーダー)、多量体化によるアビディティーの増強がテトラマーでのT細胞検出に有効である。近年では、さらに多量体化して検出感度を向上させたMHC多量体試薬が開発されている。尚、このようなテトラマーのα2, β2ドメイン間へのS−S結合導入による安定化を試みた報告(非特許文献2)があるが、安定性に関するデータは記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Altmen, et al. Phenotype analysis of antigen -specific T lymphocytes. Science 1996, 274:94-96
【非特許文献2】Landais, E. et al. New design of MHC class II tetramers to accommodate fundamental principles of antigen presentation J. Immunol. 2009, 183, 7949-7957.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、MHC多量体製品群は主にMHCクラスIに限られている。これは、クラスI組換えタンパク質が大腸菌発現系による発現とリフォールディングにより比較的容易に大量に調製することが可能であるのに対して、MHCクラスIIタンパク質は大腸菌発現が困難であり、昆虫細胞・哺乳類細胞発現が必要であり、多大な労力を要するためである。このためMHCクラスII多量体(テトラマー等)を購入する場合、通常、アリルとペプチドを指定した個別のオーダーが必要であり、販売価格もクラスIと比較して高価である。
【0009】
そこで、MHCクラスIIタンパク質を高安定化することにより、タンパク質産生量・試薬保存期間の向上、T細胞同定の高感度化を図ることが望まれる。又、安定性多型の導入は、テトラマー試薬のみならず、T細胞受容体を標的としたタンパク質医薬の開発においても、高安定化による半減期の向上、あるいは低安定化による半減期短縮による副作用の軽減等の用途へ応用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、MHCクラスIIを構成するタンパク質はα、βサブユニットにおける多型がペプチド結合特異性のみならず、タンパク質安定性にも顕著な違いを産み出していることを明らかにした(相対的安定性のアリル間差異:最大約100倍)。安定性に影響を与える多型の多くはペプチド結合溝内に位置するため、ペプチドとの相互作用を介してMHC-ペプチド複合体を安定化させると考えられる。一方、ペプチド結合溝外に位置し、安定性のみに顕著な影響を与える(安定性を向上させる)多型(本明細書中、これらを「安定性多型」と総称する)も複数同定された。尚、既知のMHC-TCR結晶構造から、これらの多型はT細胞受容体認識部位ではないと予想される。
【0011】
本発明者はこれらの新たな知見に基づき、これらの安定性多型を低安定性アリルに人為的に導入することにより、ペプチド結合特異性を変化させずに、MHCクラスII多量体(ヘテロ二量体)を安定化させることに成功し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドであって、ペプチド結合溝外の位置に導入された少なくとも一つの置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用が増強されることにより、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、前記組換えポリペプチド。
[態様2]導入された置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸と間に水素結合が新たに形成されることにより、ヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、態様1記載の組換えポリペプチド。
[態様3]ヒトMHCクラスIIがHLA- DQである、態様1又は2記載の組換えポリペプチド。
[態様4]
以下のいずれかのアミノ酸変異が導入されて成る態様1ないし3のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド:
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン;又は
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
[態様5]野生型α又はβサブユニットが疾患感受性アリル由来である、態様1ないし4のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
[態様6]疾患が自己免疫疾患、感染症、脳神経疾患、又は、薬物有害反応である、態様5記載の組換えポリペプチド。
[態様7]自己免疫疾患が1型糖尿病、セリアック病、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、又は,インスリン自己免疫性症候群(IAS)である、態様6記載の組換えポリペプチド。
[態様8]態様1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドをコードするDNA分子。
[態様9]態様8記載のDNA分子を含む発現ベクター。
[態様10]α又はβサブユニットの少なくとも一方が態様1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドから構成される組換え型ヒトMHCクラスII分子。
[態様11]野生型ヒトMHCクラスII分子と比較して安定性(SI測定値)が1.4倍〜9倍に向上した、態様10記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
[態様12]HLA- DQ分子である、態様10又は11記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
[態様13]態様10ないし12のいずれか一項に記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体から成る多量体。
[態様14]更に蛍光標識されて成る態様13記載の多量体を活性成分として含有する、抗原特異的CD4陽性T細胞の検出用試薬。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組換えポリペプチドは、ヒトMHCクラスII分子のα、βサブユニットにおけるペプチド結合溝外に見られ、安定性に寄与すると考えられるアミノ酸を他のアリルのヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットにおける相当する位置に導入し元のアミノ酸と置換することによって得られるもので、置換アミノ酸の導入によって、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子(MHCクラスII多量体)の安定性が顕著に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各cDNAコンストラクトの構造の概要を示す。
【図2】レトロウイルスベクターの構造と発現系の概要を示す。
【図3】フローサイトメトリーによる結果の一例を示す。
【図4】Stability Index(SI)の算出例を示す。
【図5】各DQA1-DQB1アリルの組み合わせについてのSI測定値(n>3の平均値)を示す。
【図6】MHCクラスII(HLA)領域と疾患感受性・抵抗性に有意な関連が認められる疾患例を示す。
【図7】SI測定値と人種における主要ハプロタイプとの相関を示す。ここで、東アジア人集団の主要ハプロタイプ(左、四角枠内)、及び、コーカソイド集団の主要ハプロタイプ(右、四角枠内)を示す。「感受性アリル」及び「抵抗性アリル」は、夫々、1型糖尿病、セリアック病疾患感受性アリル及び1型糖尿病疾患抵抗性関連アリルを示す。
【図8】DQA1及びDQB1における2種類のアリル間で比較したSI測定値を示す。ここで、各a〜cにおける右欄の数値はSI値(p<0.01(黒)、p<0.05(灰色):両側t検定)を示す。左欄において四角で囲まれたアミノ酸はペプチド結合溝外に位置し安定性のみに顕著な影響を与える多型を示す。
【図9】DQA1の各アリルの具体的なアミノ酸配列及びそこに見られる多型を示す。
【図10】DQB1の各アリルの具体的なアミノ酸配列及びそこに見られる多型を示す。
【図11】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【図12】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【図13】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【図14】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組換えポリペプチドはヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能するものである。該組換えポリペプチドは、安定性多型等のα又はβサブユニットのポリペプチドの(抗原)ペプチド結合溝外の位置に見られ、α、βサブユニットの立体構造の安定性に寄与すると考えられるアミノ酸の少なくとも一つを、他種類のアリルのα又はβサブユニット(野生型)の対応する位置に導入し、元のアミノ酸と置換することによって得られる。こうして作製された組換えポリペプチドにおいては、該置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用(例えば、水素結合、酸−塩基ペア間の静電気的作用)が増強されることにより、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性は、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して向上したものとなる。
【0016】
組換えポリペプチドに導入されるアミノ酸置換は一つ又はそれ以上、例えば、数個でも良い。このようなアミノ酸置換の代表例として、以下の置換を挙げることが出来る。尚、アミノ酸の残基番号は、mature proteinのN末端からの位置を示す(N末シグナルが20-30残基ついている)。
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン; 及び
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
【0017】
更に、本発明において、置換アミノ酸が導入される位置として、ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニット立体構造の位置からドメイン間相互作用に関与することが予測されるアミノ酸である以下のものを挙げることが出来る:
DQA1(6α、7α、17α、18α、19α、24α、28α、30α、32α、33α、50α、55α、80α、83α、85α、87α、88α、89α、96α、97α、114α、116α、117α、118α、139α、140α、142α、145α、146α、150α、153α、171α);及び
DQB1(3β、6β、7β、10β、18β、19β、28β、32β、33β、34β、35β、36β、51β、86β、93β、111β、121β、139β、149β、150β、152β、153β、156β)。
【0018】
ヒトMHCクラスIIにはサブクラスとしてHLA-DR, DQ, DPがあり、本発明のヒトMHCクラスII分子の対象としてはそのいずれも可能である。例えば、DQA1及びDQB1分子の2α、47α、14βにおける上記の置換アミノ酸の例は、いずれもDR又はDP遺伝子の各座にコードされるα鎖及びβ鎖の相当する位置においても適用可能である。更に、本発明の組換えポリペプチドは、その使用目的(例えば、後述するような、組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体を適当なリンカー物質を介して結合させ、該複合体から成る多量体を作製する場合)等に応じて、ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットの一部、例えば、膜貫通領域及び細胞内領域は含まないもの、2つの細胞外領域のみ又はその一部を含むもの等でも良い。
【0019】
ここで、野生型α又はβサブユニットのアリルの種類及び由来に特に制限はない。本発明に係る組換え型ヒトMHCクラスII分子の試薬又は医薬品等への応用の観点からは、疾患感受性アリルに由来するものが好ましい。このような疾患としては、例えば、自己免疫疾患(1型糖尿病:T1D、セリアック病:CD、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、インスリン自己免疫性症候群(IAS)等)、感染症(ハンセン病・B型肝炎等)、脳神経疾患(パーキンソン病、ナルコレプシー、統合失調症)、及び、薬物有害反応等を挙げることが出来る。
【0020】
アリルの種類としては、例えば、本明細書の図5に示したような各種アリル、DQA1*03 (例えば、DQA1*03:01), DQA1*04, DQA1*05 (例えば、DQA1*05:01), DQA1*06(例えば、DQA1*06:01)、並びに、DQB1*05 (例えば、DQB1*05:01)及び DQB1*06等を挙げることが出来る。
【0021】
特に、図6に示されているような様々な自己免疫疾患に対する感受性に相関する各アリルに由来する野生型α又はβサブユニットにおいて、(抗原)ペプチド結合溝外の位置に他の安定性多型アリルに見られるアミノ酸を導入しこれら野生型α又はβサブユニットにおける元のアミノ酸と置換することによって、本発明の組換えポリペプチドを作製することが上記の観点から好ましい。
【0022】
組換えポリペプチドをコードするDNA分子(ポリヌクレオチド)は、例えば、本明細書の図9及び図10に示したDQA1及びDQB1における具体的なアミノ酸配列(DQA1*01:01のアミノ酸配列:配列番号1、DQB1*02:01のアミノ酸配列:配列番号2)等の具体的な配列に基づき、当業者に公知の遺伝子工学的手法(例えば、部位特異的変異)を用いることによって容易に調製することが出来る。
尚、サブクラスDR及びDPの各種α又はβサブユニットのアミノ酸配列は当業者に公知であり、例えば、以下の書籍/論文、又はデータベースを挙げることが出来る。
(1)Marsh S.G.E., Parham,P. and Barber,L.D. (2000) The HLA FactsBook. Academic Press, London, UK.
(2)Marsh SG, et al. Nomenclature for factors of the HLA system, 2010.
Tissue Antigens. 2010 75:291-455.
(3)配列データベース(IMGT-HLA database)(文献としては;Robinson J, Waller MJ, Parham P, de Groot N, Bontrop R, Kennedy LJ, Stoehr P, Marsh SGE IMGT/HLA and IMGT/MHC: sequence databases for the study of the major histocompatibility complex. Nucleic Acids Research (2003), 31:311-314)
【0023】
従って、本発明はこのような組換えポリペプチドをコードするDNA分子及び、該DNA分子を含むベクターにも係るものである。この発現ベクターにおいては、適当なプロモータの発現制御下に組換えポリペプチドをコードするDNAが結合されている。
【0024】
本発明の発現ベクターの形態・構造に特に制限はなく、例えば、ウイルスベクター及びプラスミドベクターであり得る。図1に示されるように、発現ベクターは、例えば、細胞を標識する場合には、適当な標識マーカーとして、GFP等の各種の蛍光タンパク質等をコードする遺伝子、並びに、抗体結合部位・ビオチン化部位となる各種のペプチドタグ(FLAG及びAviTag等)等をコードするDNAを含むことが出来る。
【0025】
本発明の発現ベクターは、プロモータに加えて、適宜、発現に必要な他の調節配列、例えば、エンハンサー及びその他の発現調節因子(例えば、ポリアデニル化シグナル)、リボソーム結合部位、合成オリゴヌクレオチドアダプター並びにリンカー等を含むことができる。
【0026】
本発明の発現ベクターは、以上の外来性遺伝子、他の構成要素(単位)、及び導入する細胞の種類等に応じて、当業者が適宜設計・構築することが出来る。一実施例として、本発明の発現ベクターは、マウス等の哺乳動物細胞で機能する発現ベクターである。
【0027】
このような発現ベクターを当業者に公知の発現系に用いることによって、ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドを発現させることができる。その結果、図2に示すように、α又はβサブユニットの少なくとも一方が本発明の組換えポリペプチドから構成される組換え型ヒトMHCクラスII分子(例えば、HLA- DQ分子)を調製することが出来る。
【0028】
このようにして調製された組換え型ヒトMHCクラスII分子は、以下の実施例に示されているように、野生型ヒトMHCクラスII分子(野生型α及びβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子)と比較して安定性(SI測定値)が1.4倍〜9倍に向上している。
【0029】
こうして得られる組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体を適当なリンカー物質を介して結合させ、該複合体から成る多量体(例えば、4量体)を作製することが可能である。リンカー物質としては、当業者に公知の任意の化合物、例えば、ビオチン−アビジン結合系を使用することが出来る。
【0030】
更に、FITC, PE 及びAPC等の適当な蛍光物質でこのような多量体を蛍光標識することによって、主にフローサイトメトリーでの抗原特異的CD4陽性T細胞受容体の特異的検出等の試薬の活性成分、及びT細胞受容体に対する特異的抗体として機能しT細胞受容体を標的とする医薬品の活性成分として用いることが出来る。
【0031】
尚、上記の試薬及び医薬品には、活性成分の他に、当業者に公知の任意の他の物質、例えば、薬学上許容可能な各種の助剤、緩衝剤、及び補助剤等を含むことが出来、目的・用途に応じて、液体又は粉末状等の固体などの任意の状態を取り得る。
【0032】
以下に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のために提供されているものである。従って、これらの実施例は、本願で開示する発明の範囲を限定し、又は制限するものではない。本発明では、特許請求の範囲の請求項に記載された技術的思想に基づく様々な実施形態が可能であることは当業者には容易に理解される。
【0033】
尚、実施例において用いた方法・手段などに関して特に記載のない場合には、当該技術分野における標準的な方法で実施した。
【実施例1】
【0034】
MHCクラスII細胞表面発現量(相対的な安定性)測定
まず、レトロウイルスベクターpMXs-puro(Kitamura, T., et al., Retrovirus-mediated gene transfer and expression cloning: powerful tools in functional genomics. Exp Hematol, 2003. 31: 1007-14.))にDQB1 cDNA全長を導入し、PLAT-E(Morita, S., T. Kojima, and T. Kitamura, Plat-E: an efficient and stable system for transient packaging of retroviruses. Gene Ther, 2000. 7: 1063-6.)をパッケージング細胞として生成したウイルスをマウス繊維芽細胞NIH3T3に感染させ、puromycin(6μg/ml)存在下でDQB1安定発現株を作製した。
【0035】
次に、DQA1 cDNA 全長が挿入されたpMXs-Igベクター(同上)を同様な方法で作製し、各DQB1安定発現株に感染させ、DQA1及びGFPを一過性に発現させた。
【0036】
各cDNAコンストラクトの構造及びレトロウイルスベクターの構造と発現系の概要を図1及び図2に示す。
【0037】
感染48時間後にフローサイトメトリー(Beckman Coulter, EPICS-XL)で、細胞質内でのGFP発現量、及び、GFP発現細胞群にゲートをかけ細胞表面のHLA-DQ発現量を定量した(図3)。DQA1 cDNA 全長を挿入したpMXs-Igベクターの感染を複数のウイルス濃度で行うことにより、GFPおよびHLA-DQを異なる量発現させた試料を各DQA1-DQB1アリルの組み合わせについて作成し、各試料間の発現量差から、GFP増分に対するHLA-DQ増分の比(ΔHLA/ΔGFP)を各アリルの組み合わせについて算出した。測定日毎にDQA1*01:02-DQB1*06:02アリルのΔHLA/ΔGFPを測定し、各DQA1-DQB1アリルのΔHLA/ΔGFP値を、同一測定日に測定したDQA1*01:02-DQB1*06:02アリルのΔHLA/ΔGFP値で標準化し、この値をStability Index(SI)とした。SI=0.005以上を表面発現の下限値とした(図4)。フローサイトメトリーは、抗-HLA-DP, DQ, DRβ mAb (WR18) (AbD Serotec)を一次抗体、phycoerythrin conjugated anti-mouse IgG (Rockland Inc.)を二次抗体として用いた。上記の方法によって算出された各DQA1-DQB1アリルの組み合わせについてのSI測定値を図5に示した。
【0038】
既に記載したように、MHCクラスII(HLA)と図6に挙げたような各種疾患、特に、自己免疫疾患に対する感受性には相関があることが知られている。そこで、こうして得られたSI測定値と人種における主要ハプロタイプとの比較から、1型糖尿病、セリアック病に対する疾患感受性アリルはいずれも低安定性であることが分かった(図7)。更に、得られたSI測定値をDQA1及びDQB1における2種類のアリル間で比較した(図8)。尚、DQA1及びDQB1における具体的なアミノ酸配列及びそこに見られる多型を、夫々、図9及び図10に示す。
【0039】
以上の結果、既に知られているHLA-DQ分子の結晶構造(Lee, K.H., K.W. Wucherpfennig, and D.C. Wiley, Structure of a human insulin peptide-HLA-DQ8 complex and susceptibility to type 1 diabetes. Nat Immunol, 2001. 2, 501-7; Siebold, C., et al., Crystal structure of HLA-DQ0602 that protects against type 1 diabetes and confers strong susceptibility to narcolepsy. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101: 1999-2004; Kim, C.Y., et al., Structural basis for HLA-DQ2-mediated presentation of gluten epitopes in celiac disease. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101:4175-9.)等に基づき、ペプチド結合溝外に位置し、HLA-DQ分子の安定性を有意に向上させることが可能な多型を同定した。これらの例を以下に示す。
【0040】
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン;及び
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
【0041】
例えば、DQA1*01:02-DQB*06:02から成るHLA-DQ分子において、Asp2αはSer141αとの間で、Met14βはTyr16β及びArg29βとの間で水素結合を形成していることが分かっている。また、DQA1*01:02-DQB*06:02から成るHLA-DQ分子におけるArg47αは水分子を介してα2ドメインとの間で水素結合を形成していることが分かっている。
【実施例2】
【0042】
安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製
上記の結果に基づき、以下のように各アリル遺伝子の部位特異的変異を行い、本発明のHLA-DQ分子の安定型多型を有する組換え型ヒトMHCクラスII分子を作製した。
(1)DQA1*01:04の2αにおいてグリシン(G)をアスパラギン酸(D)に置換する(G2D)ことによって、安定性(SI測定値)が約1.4〜3倍に増加した(図11)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQB1としてはDQB1*05:02, *05:03, *06:01, *06:02, *06:03, *06:04を使用した。
(2)DQA1*06:01の47αにおいてシステイン(C)をグルタミン(Q)アルギニン(R),リシン(K)に置換する((C47Q)(C47R)(C47K))ことによって、安定性(SI測定値)が約2〜9倍に増加した(図12)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQB1としては、DQB1*02:01, DQB1*03:01 及びDQB1*04:01を使用した。尚、構造的にDQA1*06と類似しているDQA1*03, *04, 及び*05アリルでも同様の効果が予測される。
(3)1型糖尿病:T1D、セリアック病:CD感受性アリルであるDQA1*05:01の47αにおけるシステイン(C)をグルタミン(Q)、アルギニン(R)及びリシン(K)に置換する((C47Q)(C47R)(C47K))こと、並びに、DQA1*03:01の47αにおけるグルタミン(Q)をアルギニン(R)及びリシン(K)に置換する((Q47R)及び(Q47K))ことによって、安定性(SI測定値)が約2〜3倍に増加した(図13)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQB1としては、DQB1*02:01, DQB1*03:02をそれぞれ使用した。(4)DQB1*05:01の14βにおいてロイシン(L)をメチオニン(M)に置換する(L14M)ことによって、安定性(SI測定値)が約2倍に増加した(図14)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQA1としては、DQA1*01:02を使用した。
尚、図11〜14における棒グラフすべて, *; p<0.05, ** p<0.01, ***p<0.001である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の組換えポリペプチドを含む組換え型ヒトMHCクラスII分子は抗原ペプチドと複合体を形成させて多量体化する(例えば、MHCテトラマー)ことによって、様々な検出用試薬および医薬品等への応用が可能である。その結果、このような試薬・医薬品は、例えば、以下のような利点・可能性を有する。
【0044】
(1)MHCテトラマー作製への応用
i) 安定性を高めることにより試薬の特性が向上する。
ii) 同様の知見を、より汎用されているclass Iテトラマー、class II テトラマー(DR, DP)及び研究試薬として広く用いられているマウスMHC class IIテトラマーの作成に応用できる。
【0045】
(2)MHCを基本骨格としたT細胞受容体を標的とする医薬品への応用
i) T細胞受容体は自己のMHC-抗原ペプチド複合体を特異的に認識する。
ii) T細胞受容体を介したシグナル伝達は、MHC-ペプチド-TCR複合体の安定性(半減期)により制御され、活性化(T細胞増殖)又は非活性化(アネジー)を誘導する。
iii) 特定のT細胞活性化は腫瘍免疫の誘導、ウイルス・病原微生物感染防御を増強する。
iv) 特定のT細胞非活性化により、自己免疫反応(自己免疫疾患・臓器移植時拒絶反応)を回避出来る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞検出に有効なMHC多量体試薬等に利用できる、安定化組換えMHCタンパク質等に関する。
【背景技術】
【0002】
MHC(Major Histocompatibility Complex主要組織適合性複合体)は形質膜上に発現される膜結合型糖タンパク質であり、抗原がタンパク質分解酵素により分解されてできたペプチドを結合して、これをT細胞に提示する機能を有する。尚、ヒトではHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)として知られている。
【0003】
MHC抗原には、構造、組織分布及びT細胞に提示できる抗原ペプチドの由来を異にする、クラスI及びクラスIIの2種類が存在する。この中のMHCクラスIIは外来性、内在性抗原ペプチドをCD4陽性T細胞受容体(TCR)に提示する。サブクラスとしてHLA-DR, DQ, DPがあり、いずれも6番染色体(6p21)上のHLA領域にコードされる。MHCクラスIIを構成するタンパク質はα、βサブユニットから構成されるヘテロ二量体を形成し細胞表面に発現される。両サブユニットのαへリックス、βシートからなるペプチド結合溝へ10-30残基程度のペプチドが提示される。この提示されるペプチドにおいて、数個のアミノ酸を介して飛び石状に存在する3〜5個のアミノ酸残基がMHCクラスII分子への結合に重要な役割を担っている。尚、MHCクラスII分子のα、βサブユニットは、それぞれ分子量が約34,000及び約29,000であり、夫々、2つの細胞外領域、膜貫通領域、及び細胞内領域からなる。
【0004】
各サブユニットとも多種類の対立遺伝子(アリル)が集団内に保たれており、その頻度・多型性は集団間で異なる。これらのアリル間の非同義多型は主にペプチド結合溝に位置するため、アリル間の機能的差異はペプチド結合特異性にあると考えられている。
【0005】
自己免疫疾患を初め特定の疾病の患者集団又は人種集団においては、特定のHLA対立遺伝子、又はそれら対立遺伝子の特定の組合せ(ハプロタイプ)の頻度が有意に異なることが知られている。
【0006】
MHCテトラマー試薬は、1996年にAltmanらによって開発された技術であり(非特許文献1)、特定のMHC-ペプチド複合体を認識するT細胞の検出、単離に用いられる。基本的な作製方法は、可溶型MHCタンパク質のC末端側へのビオチン結合配列の付加とアビジンを介した4量体化で蛍光標識されたものである。MHC-TCR間の親和性は低いことが知られているため(解離定数> μMオーダー)、多量体化によるアビディティーの増強がテトラマーでのT細胞検出に有効である。近年では、さらに多量体化して検出感度を向上させたMHC多量体試薬が開発されている。尚、このようなテトラマーのα2, β2ドメイン間へのS−S結合導入による安定化を試みた報告(非特許文献2)があるが、安定性に関するデータは記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Altmen, et al. Phenotype analysis of antigen -specific T lymphocytes. Science 1996, 274:94-96
【非特許文献2】Landais, E. et al. New design of MHC class II tetramers to accommodate fundamental principles of antigen presentation J. Immunol. 2009, 183, 7949-7957.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、MHC多量体製品群は主にMHCクラスIに限られている。これは、クラスI組換えタンパク質が大腸菌発現系による発現とリフォールディングにより比較的容易に大量に調製することが可能であるのに対して、MHCクラスIIタンパク質は大腸菌発現が困難であり、昆虫細胞・哺乳類細胞発現が必要であり、多大な労力を要するためである。このためMHCクラスII多量体(テトラマー等)を購入する場合、通常、アリルとペプチドを指定した個別のオーダーが必要であり、販売価格もクラスIと比較して高価である。
【0009】
そこで、MHCクラスIIタンパク質を高安定化することにより、タンパク質産生量・試薬保存期間の向上、T細胞同定の高感度化を図ることが望まれる。又、安定性多型の導入は、テトラマー試薬のみならず、T細胞受容体を標的としたタンパク質医薬の開発においても、高安定化による半減期の向上、あるいは低安定化による半減期短縮による副作用の軽減等の用途へ応用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、MHCクラスIIを構成するタンパク質はα、βサブユニットにおける多型がペプチド結合特異性のみならず、タンパク質安定性にも顕著な違いを産み出していることを明らかにした(相対的安定性のアリル間差異:最大約100倍)。安定性に影響を与える多型の多くはペプチド結合溝内に位置するため、ペプチドとの相互作用を介してMHC-ペプチド複合体を安定化させると考えられる。一方、ペプチド結合溝外に位置し、安定性のみに顕著な影響を与える(安定性を向上させる)多型(本明細書中、これらを「安定性多型」と総称する)も複数同定された。尚、既知のMHC-TCR結晶構造から、これらの多型はT細胞受容体認識部位ではないと予想される。
【0011】
本発明者はこれらの新たな知見に基づき、これらの安定性多型を低安定性アリルに人為的に導入することにより、ペプチド結合特異性を変化させずに、MHCクラスII多量体(ヘテロ二量体)を安定化させることに成功し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドであって、ペプチド結合溝外の位置に導入された少なくとも一つの置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用が増強されることにより、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、前記組換えポリペプチド。
[態様2]導入された置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸と間に水素結合が新たに形成されることにより、ヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、態様1記載の組換えポリペプチド。
[態様3]ヒトMHCクラスIIがHLA- DQである、態様1又は2記載の組換えポリペプチド。
[態様4]
以下のいずれかのアミノ酸変異が導入されて成る態様1ないし3のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド:
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン;又は
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
[態様5]野生型α又はβサブユニットが疾患感受性アリル由来である、態様1ないし4のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
[態様6]疾患が自己免疫疾患、感染症、脳神経疾患、又は、薬物有害反応である、態様5記載の組換えポリペプチド。
[態様7]自己免疫疾患が1型糖尿病、セリアック病、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、又は,インスリン自己免疫性症候群(IAS)である、態様6記載の組換えポリペプチド。
[態様8]態様1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドをコードするDNA分子。
[態様9]態様8記載のDNA分子を含む発現ベクター。
[態様10]α又はβサブユニットの少なくとも一方が態様1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドから構成される組換え型ヒトMHCクラスII分子。
[態様11]野生型ヒトMHCクラスII分子と比較して安定性(SI測定値)が1.4倍〜9倍に向上した、態様10記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
[態様12]HLA- DQ分子である、態様10又は11記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
[態様13]態様10ないし12のいずれか一項に記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体から成る多量体。
[態様14]更に蛍光標識されて成る態様13記載の多量体を活性成分として含有する、抗原特異的CD4陽性T細胞の検出用試薬。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組換えポリペプチドは、ヒトMHCクラスII分子のα、βサブユニットにおけるペプチド結合溝外に見られ、安定性に寄与すると考えられるアミノ酸を他のアリルのヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットにおける相当する位置に導入し元のアミノ酸と置換することによって得られるもので、置換アミノ酸の導入によって、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子(MHCクラスII多量体)の安定性が顕著に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各cDNAコンストラクトの構造の概要を示す。
【図2】レトロウイルスベクターの構造と発現系の概要を示す。
【図3】フローサイトメトリーによる結果の一例を示す。
【図4】Stability Index(SI)の算出例を示す。
【図5】各DQA1-DQB1アリルの組み合わせについてのSI測定値(n>3の平均値)を示す。
【図6】MHCクラスII(HLA)領域と疾患感受性・抵抗性に有意な関連が認められる疾患例を示す。
【図7】SI測定値と人種における主要ハプロタイプとの相関を示す。ここで、東アジア人集団の主要ハプロタイプ(左、四角枠内)、及び、コーカソイド集団の主要ハプロタイプ(右、四角枠内)を示す。「感受性アリル」及び「抵抗性アリル」は、夫々、1型糖尿病、セリアック病疾患感受性アリル及び1型糖尿病疾患抵抗性関連アリルを示す。
【図8】DQA1及びDQB1における2種類のアリル間で比較したSI測定値を示す。ここで、各a〜cにおける右欄の数値はSI値(p<0.01(黒)、p<0.05(灰色):両側t検定)を示す。左欄において四角で囲まれたアミノ酸はペプチド結合溝外に位置し安定性のみに顕著な影響を与える多型を示す。
【図9】DQA1の各アリルの具体的なアミノ酸配列及びそこに見られる多型を示す。
【図10】DQB1の各アリルの具体的なアミノ酸配列及びそこに見られる多型を示す。
【図11】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【図12】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【図13】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【図14】安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組換えポリペプチドはヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能するものである。該組換えポリペプチドは、安定性多型等のα又はβサブユニットのポリペプチドの(抗原)ペプチド結合溝外の位置に見られ、α、βサブユニットの立体構造の安定性に寄与すると考えられるアミノ酸の少なくとも一つを、他種類のアリルのα又はβサブユニット(野生型)の対応する位置に導入し、元のアミノ酸と置換することによって得られる。こうして作製された組換えポリペプチドにおいては、該置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用(例えば、水素結合、酸−塩基ペア間の静電気的作用)が増強されることにより、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性は、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して向上したものとなる。
【0016】
組換えポリペプチドに導入されるアミノ酸置換は一つ又はそれ以上、例えば、数個でも良い。このようなアミノ酸置換の代表例として、以下の置換を挙げることが出来る。尚、アミノ酸の残基番号は、mature proteinのN末端からの位置を示す(N末シグナルが20-30残基ついている)。
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン; 及び
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
【0017】
更に、本発明において、置換アミノ酸が導入される位置として、ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニット立体構造の位置からドメイン間相互作用に関与することが予測されるアミノ酸である以下のものを挙げることが出来る:
DQA1(6α、7α、17α、18α、19α、24α、28α、30α、32α、33α、50α、55α、80α、83α、85α、87α、88α、89α、96α、97α、114α、116α、117α、118α、139α、140α、142α、145α、146α、150α、153α、171α);及び
DQB1(3β、6β、7β、10β、18β、19β、28β、32β、33β、34β、35β、36β、51β、86β、93β、111β、121β、139β、149β、150β、152β、153β、156β)。
【0018】
ヒトMHCクラスIIにはサブクラスとしてHLA-DR, DQ, DPがあり、本発明のヒトMHCクラスII分子の対象としてはそのいずれも可能である。例えば、DQA1及びDQB1分子の2α、47α、14βにおける上記の置換アミノ酸の例は、いずれもDR又はDP遺伝子の各座にコードされるα鎖及びβ鎖の相当する位置においても適用可能である。更に、本発明の組換えポリペプチドは、その使用目的(例えば、後述するような、組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体を適当なリンカー物質を介して結合させ、該複合体から成る多量体を作製する場合)等に応じて、ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットの一部、例えば、膜貫通領域及び細胞内領域は含まないもの、2つの細胞外領域のみ又はその一部を含むもの等でも良い。
【0019】
ここで、野生型α又はβサブユニットのアリルの種類及び由来に特に制限はない。本発明に係る組換え型ヒトMHCクラスII分子の試薬又は医薬品等への応用の観点からは、疾患感受性アリルに由来するものが好ましい。このような疾患としては、例えば、自己免疫疾患(1型糖尿病:T1D、セリアック病:CD、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、インスリン自己免疫性症候群(IAS)等)、感染症(ハンセン病・B型肝炎等)、脳神経疾患(パーキンソン病、ナルコレプシー、統合失調症)、及び、薬物有害反応等を挙げることが出来る。
【0020】
アリルの種類としては、例えば、本明細書の図5に示したような各種アリル、DQA1*03 (例えば、DQA1*03:01), DQA1*04, DQA1*05 (例えば、DQA1*05:01), DQA1*06(例えば、DQA1*06:01)、並びに、DQB1*05 (例えば、DQB1*05:01)及び DQB1*06等を挙げることが出来る。
【0021】
特に、図6に示されているような様々な自己免疫疾患に対する感受性に相関する各アリルに由来する野生型α又はβサブユニットにおいて、(抗原)ペプチド結合溝外の位置に他の安定性多型アリルに見られるアミノ酸を導入しこれら野生型α又はβサブユニットにおける元のアミノ酸と置換することによって、本発明の組換えポリペプチドを作製することが上記の観点から好ましい。
【0022】
組換えポリペプチドをコードするDNA分子(ポリヌクレオチド)は、例えば、本明細書の図9及び図10に示したDQA1及びDQB1における具体的なアミノ酸配列(DQA1*01:01のアミノ酸配列:配列番号1、DQB1*02:01のアミノ酸配列:配列番号2)等の具体的な配列に基づき、当業者に公知の遺伝子工学的手法(例えば、部位特異的変異)を用いることによって容易に調製することが出来る。
尚、サブクラスDR及びDPの各種α又はβサブユニットのアミノ酸配列は当業者に公知であり、例えば、以下の書籍/論文、又はデータベースを挙げることが出来る。
(1)Marsh S.G.E., Parham,P. and Barber,L.D. (2000) The HLA FactsBook. Academic Press, London, UK.
(2)Marsh SG, et al. Nomenclature for factors of the HLA system, 2010.
Tissue Antigens. 2010 75:291-455.
(3)配列データベース(IMGT-HLA database)(文献としては;Robinson J, Waller MJ, Parham P, de Groot N, Bontrop R, Kennedy LJ, Stoehr P, Marsh SGE IMGT/HLA and IMGT/MHC: sequence databases for the study of the major histocompatibility complex. Nucleic Acids Research (2003), 31:311-314)
【0023】
従って、本発明はこのような組換えポリペプチドをコードするDNA分子及び、該DNA分子を含むベクターにも係るものである。この発現ベクターにおいては、適当なプロモータの発現制御下に組換えポリペプチドをコードするDNAが結合されている。
【0024】
本発明の発現ベクターの形態・構造に特に制限はなく、例えば、ウイルスベクター及びプラスミドベクターであり得る。図1に示されるように、発現ベクターは、例えば、細胞を標識する場合には、適当な標識マーカーとして、GFP等の各種の蛍光タンパク質等をコードする遺伝子、並びに、抗体結合部位・ビオチン化部位となる各種のペプチドタグ(FLAG及びAviTag等)等をコードするDNAを含むことが出来る。
【0025】
本発明の発現ベクターは、プロモータに加えて、適宜、発現に必要な他の調節配列、例えば、エンハンサー及びその他の発現調節因子(例えば、ポリアデニル化シグナル)、リボソーム結合部位、合成オリゴヌクレオチドアダプター並びにリンカー等を含むことができる。
【0026】
本発明の発現ベクターは、以上の外来性遺伝子、他の構成要素(単位)、及び導入する細胞の種類等に応じて、当業者が適宜設計・構築することが出来る。一実施例として、本発明の発現ベクターは、マウス等の哺乳動物細胞で機能する発現ベクターである。
【0027】
このような発現ベクターを当業者に公知の発現系に用いることによって、ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドを発現させることができる。その結果、図2に示すように、α又はβサブユニットの少なくとも一方が本発明の組換えポリペプチドから構成される組換え型ヒトMHCクラスII分子(例えば、HLA- DQ分子)を調製することが出来る。
【0028】
このようにして調製された組換え型ヒトMHCクラスII分子は、以下の実施例に示されているように、野生型ヒトMHCクラスII分子(野生型α及びβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子)と比較して安定性(SI測定値)が1.4倍〜9倍に向上している。
【0029】
こうして得られる組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体を適当なリンカー物質を介して結合させ、該複合体から成る多量体(例えば、4量体)を作製することが可能である。リンカー物質としては、当業者に公知の任意の化合物、例えば、ビオチン−アビジン結合系を使用することが出来る。
【0030】
更に、FITC, PE 及びAPC等の適当な蛍光物質でこのような多量体を蛍光標識することによって、主にフローサイトメトリーでの抗原特異的CD4陽性T細胞受容体の特異的検出等の試薬の活性成分、及びT細胞受容体に対する特異的抗体として機能しT細胞受容体を標的とする医薬品の活性成分として用いることが出来る。
【0031】
尚、上記の試薬及び医薬品には、活性成分の他に、当業者に公知の任意の他の物質、例えば、薬学上許容可能な各種の助剤、緩衝剤、及び補助剤等を含むことが出来、目的・用途に応じて、液体又は粉末状等の固体などの任意の状態を取り得る。
【0032】
以下に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のために提供されているものである。従って、これらの実施例は、本願で開示する発明の範囲を限定し、又は制限するものではない。本発明では、特許請求の範囲の請求項に記載された技術的思想に基づく様々な実施形態が可能であることは当業者には容易に理解される。
【0033】
尚、実施例において用いた方法・手段などに関して特に記載のない場合には、当該技術分野における標準的な方法で実施した。
【実施例1】
【0034】
MHCクラスII細胞表面発現量(相対的な安定性)測定
まず、レトロウイルスベクターpMXs-puro(Kitamura, T., et al., Retrovirus-mediated gene transfer and expression cloning: powerful tools in functional genomics. Exp Hematol, 2003. 31: 1007-14.))にDQB1 cDNA全長を導入し、PLAT-E(Morita, S., T. Kojima, and T. Kitamura, Plat-E: an efficient and stable system for transient packaging of retroviruses. Gene Ther, 2000. 7: 1063-6.)をパッケージング細胞として生成したウイルスをマウス繊維芽細胞NIH3T3に感染させ、puromycin(6μg/ml)存在下でDQB1安定発現株を作製した。
【0035】
次に、DQA1 cDNA 全長が挿入されたpMXs-Igベクター(同上)を同様な方法で作製し、各DQB1安定発現株に感染させ、DQA1及びGFPを一過性に発現させた。
【0036】
各cDNAコンストラクトの構造及びレトロウイルスベクターの構造と発現系の概要を図1及び図2に示す。
【0037】
感染48時間後にフローサイトメトリー(Beckman Coulter, EPICS-XL)で、細胞質内でのGFP発現量、及び、GFP発現細胞群にゲートをかけ細胞表面のHLA-DQ発現量を定量した(図3)。DQA1 cDNA 全長を挿入したpMXs-Igベクターの感染を複数のウイルス濃度で行うことにより、GFPおよびHLA-DQを異なる量発現させた試料を各DQA1-DQB1アリルの組み合わせについて作成し、各試料間の発現量差から、GFP増分に対するHLA-DQ増分の比(ΔHLA/ΔGFP)を各アリルの組み合わせについて算出した。測定日毎にDQA1*01:02-DQB1*06:02アリルのΔHLA/ΔGFPを測定し、各DQA1-DQB1アリルのΔHLA/ΔGFP値を、同一測定日に測定したDQA1*01:02-DQB1*06:02アリルのΔHLA/ΔGFP値で標準化し、この値をStability Index(SI)とした。SI=0.005以上を表面発現の下限値とした(図4)。フローサイトメトリーは、抗-HLA-DP, DQ, DRβ mAb (WR18) (AbD Serotec)を一次抗体、phycoerythrin conjugated anti-mouse IgG (Rockland Inc.)を二次抗体として用いた。上記の方法によって算出された各DQA1-DQB1アリルの組み合わせについてのSI測定値を図5に示した。
【0038】
既に記載したように、MHCクラスII(HLA)と図6に挙げたような各種疾患、特に、自己免疫疾患に対する感受性には相関があることが知られている。そこで、こうして得られたSI測定値と人種における主要ハプロタイプとの比較から、1型糖尿病、セリアック病に対する疾患感受性アリルはいずれも低安定性であることが分かった(図7)。更に、得られたSI測定値をDQA1及びDQB1における2種類のアリル間で比較した(図8)。尚、DQA1及びDQB1における具体的なアミノ酸配列及びそこに見られる多型を、夫々、図9及び図10に示す。
【0039】
以上の結果、既に知られているHLA-DQ分子の結晶構造(Lee, K.H., K.W. Wucherpfennig, and D.C. Wiley, Structure of a human insulin peptide-HLA-DQ8 complex and susceptibility to type 1 diabetes. Nat Immunol, 2001. 2, 501-7; Siebold, C., et al., Crystal structure of HLA-DQ0602 that protects against type 1 diabetes and confers strong susceptibility to narcolepsy. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101: 1999-2004; Kim, C.Y., et al., Structural basis for HLA-DQ2-mediated presentation of gluten epitopes in celiac disease. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101:4175-9.)等に基づき、ペプチド結合溝外に位置し、HLA-DQ分子の安定性を有意に向上させることが可能な多型を同定した。これらの例を以下に示す。
【0040】
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン;及び
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
【0041】
例えば、DQA1*01:02-DQB*06:02から成るHLA-DQ分子において、Asp2αはSer141αとの間で、Met14βはTyr16β及びArg29βとの間で水素結合を形成していることが分かっている。また、DQA1*01:02-DQB*06:02から成るHLA-DQ分子におけるArg47αは水分子を介してα2ドメインとの間で水素結合を形成していることが分かっている。
【実施例2】
【0042】
安定型組換え型ヒトMHCクラスII分子の作製
上記の結果に基づき、以下のように各アリル遺伝子の部位特異的変異を行い、本発明のHLA-DQ分子の安定型多型を有する組換え型ヒトMHCクラスII分子を作製した。
(1)DQA1*01:04の2αにおいてグリシン(G)をアスパラギン酸(D)に置換する(G2D)ことによって、安定性(SI測定値)が約1.4〜3倍に増加した(図11)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQB1としてはDQB1*05:02, *05:03, *06:01, *06:02, *06:03, *06:04を使用した。
(2)DQA1*06:01の47αにおいてシステイン(C)をグルタミン(Q)アルギニン(R),リシン(K)に置換する((C47Q)(C47R)(C47K))ことによって、安定性(SI測定値)が約2〜9倍に増加した(図12)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQB1としては、DQB1*02:01, DQB1*03:01 及びDQB1*04:01を使用した。尚、構造的にDQA1*06と類似しているDQA1*03, *04, 及び*05アリルでも同様の効果が予測される。
(3)1型糖尿病:T1D、セリアック病:CD感受性アリルであるDQA1*05:01の47αにおけるシステイン(C)をグルタミン(Q)、アルギニン(R)及びリシン(K)に置換する((C47Q)(C47R)(C47K))こと、並びに、DQA1*03:01の47αにおけるグルタミン(Q)をアルギニン(R)及びリシン(K)に置換する((Q47R)及び(Q47K))ことによって、安定性(SI測定値)が約2〜3倍に増加した(図13)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQB1としては、DQB1*02:01, DQB1*03:02をそれぞれ使用した。(4)DQB1*05:01の14βにおいてロイシン(L)をメチオニン(M)に置換する(L14M)ことによって、安定性(SI測定値)が約2倍に増加した(図14)。尚、HLA-DQ分子の作製に際してDQA1としては、DQA1*01:02を使用した。
尚、図11〜14における棒グラフすべて, *; p<0.05, ** p<0.01, ***p<0.001である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の組換えポリペプチドを含む組換え型ヒトMHCクラスII分子は抗原ペプチドと複合体を形成させて多量体化する(例えば、MHCテトラマー)ことによって、様々な検出用試薬および医薬品等への応用が可能である。その結果、このような試薬・医薬品は、例えば、以下のような利点・可能性を有する。
【0044】
(1)MHCテトラマー作製への応用
i) 安定性を高めることにより試薬の特性が向上する。
ii) 同様の知見を、より汎用されているclass Iテトラマー、class II テトラマー(DR, DP)及び研究試薬として広く用いられているマウスMHC class IIテトラマーの作成に応用できる。
【0045】
(2)MHCを基本骨格としたT細胞受容体を標的とする医薬品への応用
i) T細胞受容体は自己のMHC-抗原ペプチド複合体を特異的に認識する。
ii) T細胞受容体を介したシグナル伝達は、MHC-ペプチド-TCR複合体の安定性(半減期)により制御され、活性化(T細胞増殖)又は非活性化(アネジー)を誘導する。
iii) 特定のT細胞活性化は腫瘍免疫の誘導、ウイルス・病原微生物感染防御を増強する。
iv) 特定のT細胞非活性化により、自己免疫反応(自己免疫疾患・臓器移植時拒絶反応)を回避出来る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドであって、ペプチド結合溝外の位置に導入された少なくとも一つの置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用が増強されることにより、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、前記組換えポリペプチド。
【請求項2】
導入された置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸と間に水素結合が新たに形成されることにより、ヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、請求項1記載の組換えポリペプチド。
【請求項3】
ヒトMHCクラスIIがHLA- DQである、請求項1又は2記載の組換えポリペプチド。
【請求項4】
以下のいずれかのアミノ酸変異が導入されて成る、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド:
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン;又は
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
【請求項5】
野生型α又はβサブユニットが疾患感受性アリル由来である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項6】
疾患が自己免疫疾患、感染症、脳神経疾患、又は、薬物有害反応である、請求項5記載の組換えポリペプチド。
【請求項7】
自己免疫疾患が1型糖尿病、セリアック病、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、又は,インスリン自己免疫性症候群(IAS)である、請求項6記載の組換えポリペプチド。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドをコードするDNA分子。
【請求項9】
請求項8記載のDNA分子を含む発現ベクター。
【請求項10】
α又はβサブユニットの少なくとも一方が請求項1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドから構成される組換え型ヒトMHCクラスII分子。
【請求項11】
野生型ヒトMHCクラスII分子と比較して安定性(SI測定値)が1.4倍〜9倍に向上した、請求項10記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
【請求項12】
HLA- DQ分子である、請求項10又は11記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれか一項に記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体から成る多量体。
【請求項14】
更に蛍光標識されて成る請求項13記載の多量体を活性成分として含有する、抗原特異的CD4陽性T細胞の検出用試薬。
【請求項1】
ヒトMHCクラスII分子のα又はβサブユニットとして機能する組換えポリペプチドであって、ペプチド結合溝外の位置に導入された少なくとも一つの置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸との間の分子間相互作用が増強されることにより、野生型α又はβサブユニットから構成されるヒトMHCクラスII分子と比較して、該組換えポリペプチドを含むヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、前記組換えポリペプチド。
【請求項2】
導入された置換アミノ酸とその周囲のアミノ酸と間に水素結合が新たに形成されることにより、ヒトMHCクラスII分子の安定性が向上することを特徴とする、請求項1記載の組換えポリペプチド。
【請求項3】
ヒトMHCクラスIIがHLA- DQである、請求項1又は2記載の組換えポリペプチド。
【請求項4】
以下のいずれかのアミノ酸変異が導入されて成る、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド:
(1)DQA1のN末端から2番目のアミノ酸(2α)におけるアスパラギン酸;
(2)DQA1のN末端から47番目のアミノ酸(47α)におけるリシン、アルギニン、又はグルタミン;又は
(3)DQB1のN末端から14番目のアミノ酸(14β)におけるメチオニン。
【請求項5】
野生型α又はβサブユニットが疾患感受性アリル由来である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項6】
疾患が自己免疫疾患、感染症、脳神経疾患、又は、薬物有害反応である、請求項5記載の組換えポリペプチド。
【請求項7】
自己免疫疾患が1型糖尿病、セリアック病、慢性関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、又は,インスリン自己免疫性症候群(IAS)である、請求項6記載の組換えポリペプチド。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドをコードするDNA分子。
【請求項9】
請求項8記載のDNA分子を含む発現ベクター。
【請求項10】
α又はβサブユニットの少なくとも一方が請求項1ないし7のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドから構成される組換え型ヒトMHCクラスII分子。
【請求項11】
野生型ヒトMHCクラスII分子と比較して安定性(SI測定値)が1.4倍〜9倍に向上した、請求項10記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
【請求項12】
HLA- DQ分子である、請求項10又は11記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれか一項に記載の組換え型ヒトMHCクラスII分子と抗原ペプチドとの複合体から成る多量体。
【請求項14】
更に蛍光標識されて成る請求項13記載の多量体を活性成分として含有する、抗原特異的CD4陽性T細胞の検出用試薬。
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−120488(P2012−120488A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274207(P2010−274207)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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