新規微生物およびその利用
【課題】炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解活性を有する微生物および該微生物を用いた環境浄化技術を提供する。
【解決手段】炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属する微生物。該微生物を用いた炭化水素類などを含有する土壌、海水環境などの汚染物質の処理方法。
【解決手段】炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属する微生物。該微生物を用いた炭化水素類などを含有する土壌、海水環境などの汚染物質の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有する新規微生物ならびにその利用に関するものであり、さらに詳しくは、重油などの炭化水素、食用油などの高級脂肪酸エステルおよびエタノールアミンなどのアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属する微生物、この微生物を使用した炭化水素、高級脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤および処理方法に関するものである。本発明は、石油、食用油や工業油などによる汚染をバイオレメディエーションにより浄化する新規な技術を提供するものであり、例えば、食品工場、大型厨房、家庭などからの排水処理、工業油による土壌汚染、石油による海洋汚染に至るまで広範囲な応用を可能とする有用な環境浄化技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、各種油類による海洋や土壌等の汚染が非常に深刻な環境問題となっているが、このような汚染は大型タンカーの海難事故や油田事故、各種工業プラントの事故等により引き起こされることが多く、いずれの場合も莫大な量の油が流出することになり、大規模な環境被害をもたらしている。このような流出油の除去処理は困難を要し、その有効な処理技術の確立は緊急の課題として研究開発が行われてきた。
【0003】
石油汚染を微生物により分解除去しようとする試みがなされてきたが、実用化のためには、解決しなければならない問題が多く残されている。例えば、石油類でも軽質油分は微生物が比較的容易に分解するが、石油汚染において特に問題となる重油等の重質油は難分解性であり、これらによる海洋汚染や、油田、ガソリンスタンド等の石油供給設備や石油精製所等からの石油漏出による土壌汚染などもまた自然環境を歪め、海上及び陸上の生態系に著しい悪影響を及ぼすことが知られている。これらの汚染油類は自然環境下に存在する微生物によって分解除去され、無害化されると考えられているが、それには長い年月を要するため、効率的に分解できる新しい微生物を見出す努力がなされてきた。
また、一般家庭、商店、事業所ならびに工場などから排出された油脂類や油以外の廃棄物がもたらす環境破壊もまた問題視され、近年では、焼却や化学的処理に代わる方法として、環境に優しい処理法として自然環境に生育している微生物を利用するバイオレメディエーションによる環境浄化法が検討されている。
【0004】
従来の微生物を利用した炭化水素の分解処理方法としては、例えば、効率よく芳香族炭化水素を含む環状炭化水素を分解することができるロドコッカス属(Rhodococcus sp.)に属するグラム陽性桿菌により廃油などの芳香族炭化水素を分解する技術が提案されている(特許文献1)。また、海水の塩濃度までの幅広い塩濃度において石油類の分解活性に優れた微生物であるハヘラ属(Hahella sp.)に属する微生物により海洋を汚染した石油類を処理する方法が提案されている(特許文献2)。こうした炭化水素類を含有する処理対象である、水(海水を含む)、土壌、または生ゴミなどの各種の汚泥や動植物性残渣中には炭化水素と油脂類が混在していることがしばしばあるが、油脂を含む廃棄物をそのまま微生物によって生物学的処理することは難しく、食品工場、外食産業並びにホテルなどに設けられている微生物による排水または廃棄物処理設備にみられるように、例えば、油脂を含む排水処理に際しては事前に排水中に含まれる油脂分の除去が必要とされることがあった。
【0005】
こうした油脂による汚染問題点を解決する技術として、油脂類の分解活性を示す微生物であるシュードモナス属(Pseudomonas sp.)に属する微生物により油脂含有排水を処理する方法(特許文献3)が提案され、また、アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属し、油脂分解能を有する微生物により、飲食品店や食品工場から排出される廃棄物や排水を処理する技術(特許文献4)が提案されている。
さらに、鉱物油や動植物油などの各種油類を分解できる新規なハロモナス属(Halomonas sp.)に属する微生物が提案され(特許文献5)、また、エンジンオイルなどの油や油脂類を炭素源が存在しなくても分解することが可能なアシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanni)により、好気性条件下で油と接触させる油の分解方法(特許文献6)が提案されている。このように、炭化水素と油脂類を共に分解することができる微生物が提案されてきた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−113197号公報
【特許文献2】特開2005−261310号公報
【特許文献3】特開2001−178451号公報
【特許文献4】特開2004−166533号公報
【特許文献5】特開2001-544304号公報
【特許文献6】特開2006−296382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海洋の石油汚染では、タンカーの衝突や座礁事故等の大きな事故による流出が挙げられるが、その他にもバラスト水の調整・洗浄過程、石油の積み下ろし過程で石油が海洋へ流出する量も多く、深刻な問題となっている。また、石油汚染の身近な例としては、ガソリンスタンドの地下貯留タンクが老朽化したり、配管が亀裂・破損したりすることによって、そこから油が土壌に浸透することが挙げられる。工業用油汚染に関しては、工場などで使用する切削油、潤滑油の管理が不適切な場合には油汚染の原因となる可能性があり、例えば、使用済みの切削油等の漏洩、油で汚染された切削屑廃棄物の野外での保管や不適切な廃棄により、水環境や土壌が汚染される可能性がある。難揮発性で高粘性の油類は地下水中・土壌からの分離・分解が難しいため、適用できる浄化・修復方法が限られることがある。そのため、水や土壌を効率的に浄化・修復する技術の開発が求められている。
【0008】
一方、食用油に関しては、平成17年度には日本で年間約300万トンの油脂類が消費され、それにより発生する廃食用油は年間40万トンに達するものと言われている。その発生する廃食用油のうち、回収され、バイオディーゼル等の燃料や、石鹸・洗剤、飼育用の肥料として再利用されているのは約50%の20万トン、残りの20万トンの廃食用油は、回収されずに水環境汚染の原因となっている。例えば、大型厨房や食品加工工場、飲食店等から出た廃油が下水管で固まってできるオイルボールや、油膜、油臭等を引き起こすことが挙げられる。これらの問題の対策として、油の回収装置や、グリーストラップを設置しているが、設備や維持にコストがかかり、また、廃油を処理した後にも産業廃棄物が出るためその処理を必要とするなど多くの問題が残されている。
【0009】
そこで、浄化コストが低く、環境にやさしいといった利点を持つ、微生物の浄化作用を用いたバイオレメディエーションに関心が集まっている。しかしながら、これまでの国内における土壌や地下水汚染の浄化処理としては、物理化学的処理、熱的処理などが主な処理方法として利用され、バイオレメディエーションは全体のわずか約9%で利用されているに過ぎない。浄化処理に使用される微生物製剤は、現在も多く市販されているが、温度や栄養等の条件を整える必要があり、また複合汚染の浄化が難しいなど、依然として解決すべき問題が残されている。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鉱物油や動植物油を分解する能力を有する微生物を広く自然界にもとめて鋭意探索を重ねていたところ、富山県魚津市の魚津漁港で採取した海水から単離された微生物が、塩化ナトリウム(NaCl)の存在の有無に関わらず生育し、しかも水や土壌の混在状況下でも優れた重油分解能を有していることを見出した。さらに、この重油分解菌(Ud-4)という菌が、重油の他に食用油や、工業用油などの分解能を有することを見出し、幅広い油汚染環境の修復に対して利用できる微生物として研究を重ねることにより、Ud-4のキャラクタリゼーションを進め、環境修復に対して有用な微生物であることを確認し本発明を完成し、本新規微生物を特許微生物寄託センターに、NITE−AP 604として寄託した。
【0011】
本発明は、生態及び生体に安全な微生物であって、鉱物油や動植物油、アルカノールアミン類を分解できる新規な微生物を提供することを目的とするものである。また、本発明は、食塩の有無に関わらず生育でき、陸上及び海洋の別を問わず、炭化水素、油脂類を生物学的処理に利用できる微生物を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は炭化水素類、高級脂肪酸エステル類、またはアルカノールアミンを含む水、土壌または各種の廃棄物が混在状態であってもそれらの物質を効率的に分解除去できる微生物を提供することを目的とするものである。さらに、本発明はかかる微生物を用いて、海洋及び陸上における油や廃油含有物、油脂およびアルカノールアミン類を分解処理して環境浄化を行う方法ならびに当該浄化方法に利用できる処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は:
(1)炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有するアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)微生物に係るものである。
(2)本発明の上記(1)に記載のアシネトバクター属微生物は、下記の菌学的性質を有する。
(a)形態的、培地上の特徴
細胞の形態:短桿状(短径0.5−0.8μm、長径1.0−2.0μm)
運動性:陰性
菌体系状:短桿菌
コロニーの色調:白色
コロニーの形態:円形
コロニーの透明度:不透明
コロニーの表面:滑らか
(b)生理学的性質
グラム染色:陰性
硝酸塩還元:陰性
インドール産生:陰性
グルコース(酸):陰性
アルギニンジヒドロラーゼ:陰性
ウレアーゼ:陰性
エスクリン:陰性
ゼラチン液化:陽性
p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド:陰性
オキシダーゼ:陰性
(c)同化・吸収特性
グルコース:陰性
L−アラビノース:陰性
D−マンノース:陰性
D−マンニトール:陰性
N−アセチル−D−グルコサミン:陰性
マルトース:陰性
グルコン酸カリウム:陰性
n−カプリン酸:陽性
アジピン酸:陰性
dL−マレイン酸:陽性
クエン酸ナトリウム:陰性
酢酸フェニル:陰性
(3)本発明の微生物は、16SrDNAが、配列表に記載の部分塩基配列を有する上記(1)または(2)に記載のアシネトバクター属微生物である。
(4)本発明の微生物は、アシネトバクター Ud-4(受領番号 NITE AP−604)である上記(1)、(2)または(3)に記載のアシネトバクター属微生物である。
本発明の上記微生物は、平成20年7月1日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されたUd-4菌株(受領番号 NITE AP−604)が挙げられる。
(5)本発明の微生物は、アシネトバクター サイクロトレーランス(Acinetobacter psychrotolerans)に属する微生物である上記(1)から(4)のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物である。
【0013】
(6)本発明の微生物は、上記のように、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンを分解する能力を有するため、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤として提供され簡便で効率のよい環境浄化処理を可能とする。
すなわち、本発明は、上記の(1)から(5)のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物を含有することを特徴とする炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤に係るものである。
(7)また、本発明は、上記(6)に記載の処理剤を、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質と接触させることにより該物質中に存在する炭化水素、脂肪酸またはアルカノールアミンを分解処理することができる処理方法に係るものである。
(8)上記(7)に記載の処理方法を、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンを含有する土壌、廃棄物、海洋流出重油、排水、または動植物残渣に適用することができる。
(9)さらに、上記(7)または(8)に記載の処理方法により、本願発明の微生物は食塩の存在下に増殖可能であるため、海洋などの塩分を含有する環境での炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質の分解処理ができる。
【0014】
本発明は、炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属する新規微生物およびこの微生物を利用した炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンを含有する物質の処理に関するものである。従来、炭化水素類または油脂類をそれぞれ単独で分解することができる微生物は提供され油類による環境汚染の除去に供されていたが、複数の汚染源を除去することができる微生物は実用化が遅れていた。本発明の新規微生物は複数の汚染源を分解する能力を有するものであり、特に、炭化水素、油脂、アルカノールアミンの優れた分解能を有することは、環境汚染源の分解除去にあたり有用な新規な手段を提供することができる。
【0015】
炭化水素類としては、石油の高沸点溜分である重油が代表的な例であり、例えば、タンカーの事故で流出した石油成分のうち高沸点溜分は揮発または分解されないで環境中にいつまでも残留することが知られているが、本発明の微生物は、海水中においても重油成分を分解除去することができるため、タンカー事故での重油成分の分解除去に好適である。また、潤滑油や切削油の成分である炭化水素類を、各種の塩類が共存する環境下で分解することができるため、炭化水素類で汚染された土壌の浄化に有用である。また、防錆剤などとして使用された後の排水などに含有されたアルカノールアミンの分解除去に本発明の微生物は有用である。本発明の微生物を有害物質の分解除去に利用するに際しては、従来の製剤化技術により種々の担体に担持させて用いることが好ましい。
【0016】
本研究で使用した菌株は、魚津漁港の油膜を含む海水から重油分解菌として単離されたUd-4を使用した。Ud-4は0.5% (w/v) のC重油を含む液体培地で数日間振盪培養させると、重油の乳化が見られる菌株であった。位相差顕微鏡と電子顕微鏡で観察した結果、Ud-4は短径約0.5〜0.8μm、長径約1.0〜2.0μmの短桿菌で、鞭毛を持たず、運動性のない菌であることがわかった。本発明の微生物Ud-4(受領番号 NITE AP−604)の顕微鏡写真を図1に示す。
【0017】
API 20NE(BIOMERIEUX)による生化学性状の同定と、グラム識別キット(フェイバーG;Nissui)を使用してグラム染色を行った結果、図1と2に示す形態学的性質と同化吸収特性を有し、アシネトバクター属に属する他の微生物とは生化学性状が異なることが分かった。
【0018】
次に、16S rDNAの塩基配列による菌種の同定を行った。
Ud-4を培養してそのコロニーを寒天プレートからかきとり、滅菌DDWで懸濁後、熱水処理(100℃、5分)によりDNAを抽出した。そのDNAを鋳型とし、ほとんどの真正細菌の16S rDNA中に見られる塩基配列の遺伝子増幅用のPCRプライマーである、 27f(5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’)と1525r(5’-AAAGGAGGTGATCCAGCC-3’)を使用し、MJ Mini Thermal Cycler(BIO-RAD)を用いてPCRを行い、16S-rDNAのほぼ全領域(約1、500bp)を増幅させた。得られたPCR産物をQIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製し、Dye Terminator法によってシークエンスを行った。得られた塩基配列を塩基配列1として、または図12に、示す。この塩基配列に基づいてBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いて検索し、既知のバクテリアの塩基配列との相同性を調べて種の同定を行った。また、解析結果をもとにMEGA Ver.4.0(Molecular Evolutionary Genetics
Analysis and Sequence Alignment)を用いて系統樹の作成を行った。16SrDNAの塩基配列に基づく系統樹を図3に示す。塩基配列から見ると、本発明のUd-4はAcinetobacter psychrotoleransに99%の高い相同性を示したが、本菌種は正式に登録された菌種ではなく、同種に最も近縁の種で有ると考えられる。二番目に高い相同性を示した菌種はAcinetobacter calcoaceticusで90.8%であった。
【0019】
上記の菌学的性質(形態学性質、培地生育状態、生理学的性質)および16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列について検討したところ、本菌はアシネトバクター(Acinetobacter sp.)属に属する新規な微生物であることが確認された。
【0020】
なお、本発明の微生物には、炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミン分解能を有するアシネトバクター属に属する微生物が全て包含され、上記物質の分解能を有し、且つアシネトバクター属に属する限り、上記に掲げる特定の微生物のほか、その自然もしくは人工的手段によって変異されてなる変異株もすべて本発明に包含されるものである。また、該アシネトバクター属に属する微生物の種名について、少なくともUd-4(受領番号 NITE AP−604)が属する種名である、アシネトバクター Ud-4(受領番号 NITE AP−604)で特定することができる。
Ud-4菌株は、平成20年7月1日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受領番号 NITE AP−604として寄託されている。
さらにまた本発明の微生物にはアシネトバクター サイクロトレーランス(Acinetobacter psychrotolerans)に類縁する菌であって炭化水素、高級脂肪酸エステルおよびアルカノールアミン分解能を有するものを含むものである。
【0021】
本発明における炭化水素とは、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、環式飽和炭化水素、環式不飽和炭化水素を含むものでありそれらの分子式、化学的構造には特に限定されないが、具体的には、石油から製造される低沸点留分や、高沸点留分の重油、タール、アスファルト成分、潤滑油、切削油などが例示される。本発明における、脂肪酸エステルとは、脂肪酸とアルコールが脱水結合した化合物であり、グリセリンと高級脂肪酸のエステル、一価アルコールと高級脂肪酸のエステルを含むものであり、具体的には、動植物性の油脂、ロウ、さらに具体的には、キャノーラ油、オリーブ油、ごま油、大豆油 綿実油、ヤシ油などの植物油や、ラード、ヘッド、バターなどの動物油が挙げられる。本発明のアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等各種のものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により次の効果が奏される。
(1)生態及び生体に安全であるとともに、鉱物油や動植物油などの各種油およびアルカノールアミンを分解できる新規な微生物を提供することができる。
この微生物は食塩の有無に関わらず生育できるため、陸上及び海洋の別を問わず、油類の生物学的処理に利用できる微生物を提供することができる。
(2)炭化水素類、高級脂肪酸エステル類、およびアルカノールアミンと水、土壌または各種の廃棄物との混在状態でも効率的に分解できる微生物を提供することができる。
(3)本発明の微生物は、塩類、例えば、NaClの共存下においてもその炭化水素類などの分解能を発揮することができ、タンカーの事故による海の重油汚染に対して対応が可能である。
(3)本発明の微生物を用いて、海洋及び陸上における油や廃油含有物およびアルカノールアミン類を分解処理することにより環境浄化を行う方法ならびに当該方法に利用できる処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明における、各種油類の分解試験結果の概要を説明する。
本発明のアシネトバクター属に属する微生物を、本明細書中の記載においては、具体的に、「Ud-4」または「NITE AP−604」と称することがある。本発明のUd-4のハローアッセイを行ったところ、5種類の食用油(キャノーラ油、オリーブオイル、ごま油、大豆油、ラード)と切削油、アルカノールアミンで透明なハローが確認された。ハローが確認されるまでの期間は、切削油よりも食用油の方が早く、食用油では約5日後からハローが見え始め、切削油では約7日目以降からハローが見え始めた。また、切削油では、LB培地よりも、M9培地での方が大きいハローが観察された。このことから、Ud-4は工業用油よりも、食用油の方が分解しやすいのではないかと考えられた。Ud-4の増殖について調べた結果、LB培地とNSW培地ではキャノーラ油の存在の有無による増殖には差は見られなかった。しかし、M9培地では、培地のみでは増殖が低かったが、キャノーラ油の入った培地では、菌はよく増殖していた。このことから、Ud-4は油脂類を唯一の炭素源として資化できることが示唆された。
【0024】
Ud-4がどのくらいの期間でどの程度の油を分解できるのかを調べるため、油分解率を測定した。まず、キャノーラ油分解率について調べ、併せてUd-4の増殖曲線も作成した。増殖曲線を図5に示す。その結果、増殖は培養から約1日でプラトーに達するのに対し、分解率は培養から約6〜7日目でプラトーに達した。このことから、Ud-4は定常期中もエネルギー代謝や生合成を続けていると考えられた。また、分解率が約7日目にプラトーに達したため、以下の各種油類の分解率の測定には培養から7日目の試料を使用して行った。
本発明の微生物を、LB寒天培地(1%NaCl、0.5%yeast extract、1% tryptone)中で25℃、2日間生育して観察した結果、その(1)形態学的性質、(2)生理学的性質、および(3)同化・吸収特性は上述したとおりのものが得られた。
【0025】
各種油脂(高級脂肪酸エステル)の分解率は、食用油ではLB培地、M9培地、NSW培地、それぞれの培地で各種油が分解されているのがわかった。中でも、LB培地での分解率は高い値を示し、特にキャノーラ油は約100%分解されていた。キャノーラ油は、他の食用油に比べて飽和脂肪酸の割合が低く、3価の不飽和脂肪酸であるリノレン酸の割合が高いことから、LB培地のような栄養価の高い培地では、キャノーラ油のように不飽和脂肪酸の割合が高い油が分解しやすいことが考えられた。また、M9培地での分解率はラードで高い値を示した。ラードは、他の食用油に比べて飽和脂肪酸が多く含まれており、全体の脂肪酸の約50%を占める。このことから、M9培地のように炭素源が油以外に含まれない培地では、飽和脂肪酸をよく分解することが考えられた。また、NSW培地でも各種油脂類を分解できたことから、Ud-4は海洋汚染だけでなく、塩分濃度の高い排水処理にも利用できることが示唆された。
【0026】
一方、切削油ではLB培地で約70%の分解率を示した。他の培地の分解率は約40%以下で低い値となった。アルカノールアミンではM9培地での分解率が特に高く、他の培地の分解率は20%以下で低い値となった。LB培地やNSW培地では培地中の成分を利用して成長をしているが、炭素源が含まれていないM9培地ではUd-4が増殖するためにアルカノールアミンを資化したもとと考えられる。1% (w/v) のアルカノールアミンを加えた培地にUd-4を接種し、7日間振盪培養後、LB培地とM9培地の菌体密度を測定したところ、M9培地の菌体密度がLB培地よりも約2倍高かったことからも、M9培地ではUd-4がよく増殖できていることが確認された。
【0027】
Ud-4による重油の分解率をそれぞれの培地について測定を行ったところ、培地の種類によって大きく分解率に差は見られなかったが、培養日数が長くなるにつれて分解率が高くなる傾向が見られた。しかし、重油が細かく乳化されて培地が黒く見え始める早さはM9培地が約7日間と最も早くLB培地での乳化の早さは約10日と遅かった。重油の主成分は飽和炭化水素や芳香族化合物等であるため、Ud-4がリパーゼ以外にもアルカン等を分解できる酵素を持っており、その酵素を使って重油を資化し、成長していることが考えられた。
【0028】
一般的に食用油を分解する菌は、トリグリセリドを脂肪酸とグリセロールに分解するリパーゼという酵素を菌体外に分泌することが報告されている。そこで、Ud-4もリパーゼを分泌している可能性が考えられたため、リパーゼ活性を調べた。その結果、どの食用油類でも3日目と5日目でリパーゼ活性が高くなり、7日目以降は低くなっていく傾向がみられた。この結果から、Ud-4は酵素を培養開始から少しずつ分泌し始め、5日目以降には分泌が抑えられるのではないかと考えられた。
【0029】
Ud-4の脂質分解酵素の分子量を推定するために、SDS-PAGEとザイモグラムを行ったところ、Ud-4の菌体試料も上澄み試料でも活性を示すバンドは確認されなかった。次に、酵素が熱やSDS等で壊れていることが考えられたため、Native-PAGEを行った結果、Native-PAGEでも活性を示すバンドは確認されなかった。Ud-4と同じAcinetobacter sp.由来のリパーゼでは、分子量33kDa付近のものも報告されている。また、Native-PAGEにより活性を示すバンドが確認されたという報告もある。そのため、バッファーのpHを変えたり、放置時間を長くしたりすれば、活性は見られる可能性があると考えられる。
【0030】
本発明の微生物を炭化水素類の処理剤として提供するには、本発明の微生物を担体などに担持固定して製剤化するのが最も好ましい。例えば、液状製剤とするには、培地で本発明の微生物を24〜36時間程度培養し、培養物から菌体を遠心分離などで回収し、次に回収した菌体を液体に懸濁させる。また、粉末製剤とするには、培地で本発明の微生物を24〜36時間程度培養し、凍結乾燥などにより乾燥し、次いで、粘土、タルクなどの鉱物粉末、おがくず、繊維くずなどの植物粉末などの微粉体を適度に加えたものを製剤とすることができる。さらに、公知の技術により、本発明の微生物を種々の固定化用材料を用いて、固定化することができる。
【0031】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例においては、本発明のUd-4(NITE AP−604)を用いて次に記載の培地と分解率の測定方法により試験を行った。
(培地)
微生物の培養には次の三種類の培地を使用した。
(1)栄養分の多いLB ( Luria-Bertani ) 培地( NaCl 10.0g、Yeast Extract 5.0g、Tryptone 10.0g / L )、
(2)炭素源を含まないM9( M9 Minimal )培地( Na2HPO4 6.8g、KH2PO4 3.0g、NaCl 0.5g、NH4Cl 1.0g、1M MgSO4 2ml、1M CaCl2 0.1ml / L)、
(3)塩分濃度が海水に近いNSW( Natural Sea Water )培地( 人工海水800ml、NH4NO3 1.0g、K2HPO4 0.02g、Yeast Extract 0.5g / L (pH 7.8) )。
【0032】
(食用油の分解率の測定)
1%(w/v)各種油を加えた各種液体培地6mlに菌体を接種し、振盪培養開始から一定時間毎に、下水処理法に従いn-へキサン抽出法で食用油の抽出を行った。まず、25℃、120rpmの振盪で一定時間培養した試料6mlを分液ロートに移し、それにpH指示薬としてメチルオレンジを3滴加え、溶液のpHが3〜4となって赤色に変化するようにさらに6N-HClを5滴加えた。次に、n-へキサンを約20ml加え、レシプロシェカー(SR-2s;TAITEC)を用いて250rpmで5分間激しく振盪し、水層とヘキサン層が明らかに分離するまで静置した。静置後、水層は新たな分液ロートに移し、それにn-へキサンを約20ml加え、同様の操作をもう一度繰り返し、再抽出を行った。2つの分液ロートに残っているヘキサン層を、ナス型フラスコに移し、無水硫酸ナトリウム(Wako)を適量加えて脱水し、それをろ過して、別のナス型フラスコに移した。そして、ロータリーエバポレーター(Ren-ivn;IWAKI)で、試料がおよそ2mlになるまで30℃で揮発させた。次に、それをサンプル瓶に移し、ヒーターで加熱してn-へキサンを十分に揮発させた後、デシケーター内で放冷してから、重量を測定した。既知のサンプル瓶との重量の差から、抽出した油の重量を算出し、さらに、分解菌を接種した試料と接種していない試料から抽出された油の重量差から、分解率の算出を行った。
【0033】
(炭化水素(重油)の分解率の測定)
0.5%(w/v)重油を加えた各種液体培地6mlに菌体を接種し、振盪培養開始から一定時間毎に、クロロホルム抽出で重油の抽出を行った。まず、試料6mlを分液ロートに移し、それにクロロホルムを約20ml加え、レシプロシェカー(SR-2s;TAITEC)を用いて250rpmで5分間激しく振盪し、水層とクロロホルム層が明らかに分離するまで静置した。静置後、クロロホルム層はナス型フラスコに移し、分液ロートには新たにクロロホルム約20mlを加え、同様の操作をもう一度繰り返し、再抽出を行った。再抽出を行って得たクロロホルムをナス型フラスコに移し、クロロホルム層に重油の色が見られなくなるまで同様に抽出を行った。重油を抽出したクロロホルム層が透明になったら、クロロホルム層を1つのナス型フラスコに移し、無水硫酸ナトリウム(Wako)を適量加えて脱水し、それをろ過して、別のナス型フラスコに移した。そして、ロータリーエバポレーター(Ren-ivn;IWAKI)で、試料がおよそ2mlになるまで30℃で揮発させた。次に、それをサンプル瓶に移し、ヒーターで加熱してクロロホルムを十分に揮発させた後、デシケーター内で放冷してから、重量を測定した。既知のサンプル瓶との重量の差から、抽出した油の重量を算出し、さらに、分解菌を接種した試料と接種していない試料から抽出された油の重量差から、分解率の算出を行った。
【0034】
(切削油及びアルカノールアミンの分解率の測定)
上記食用油の分解率の測定方法と同様に行った。
【実施例1】
【0035】
本発明のUd-4による各種食用油の分解特性を上記培地で培養して菌のハローアッセイを検出することにより検討した。菌のハローアッセイは、各種食用油(キャノーラ油(AJINOMOTO)、オリーブ油(AJINOMOTO)、ごま油(かどや)、大豆油(AJINOMOTO)、ラード(雪印))や工業油(潤滑油)、アルカノールアミンを1.0% (w/v) 含む培地、または0.5% (w/v) の重油を含む培地を使用した。この培地をオートクレーブ(121℃、15分)で滅菌後、超音波洗浄機(USD-3;アズワン)で油類を乳化させ、放冷して固めた後菌を接種した。コロニーの回りに透明なハローを形成する油を、Ud-4が分解可能な油であると判断した。上記植物油は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)、多価不飽和脂肪酸(リノール酸、リノレン酸)などの高級脂肪酸のグリセリンエステルである。各種食用油のLB寒天培地におけるハローアッセイの一例を図4に示す。いずれの試料に置いてもハローが観察され本発明のUd-4が各物質の分解活性を示すことが確認された。
【実施例2】
【0036】
キャノーラ油を含有する培地でのUd-4の増殖速度を検討した。LB培地、 M9培地、NSW培地に、それぞれ1.0%(w/v)のキャノーラ油を加えたものと加えないものを各100ml用意し、そこへUd-4を初期菌体密度が約107cells/mlになるように接種し、25℃、120rpmで振盪培養を行った。培養開始時間から、一定時間毎に試料の一部を採り、0.2%のグルタルアルデヒド(Wako)で固定後、バクテリア計算盤(Elma)を用いて位相差顕微鏡(IX70;Olympus)で測定し、菌体密度を求めた。食用油として最も多く使用されていると考えられたキャノーラ油について分解率と増殖速度を測定した。増殖曲線を図5に示す。Ud-4は、培養開始から約24時間後に増殖はほぼ定常期に達したが、油の分解率は約20%と低い値を示した。その後、培養を続けても増殖はほとんど見られなかった。しかしながら、分解試験からは、培養の6日目以降においては、ほぼ100%の油を分解していることがわかった。
【実施例3】
【0037】
Ud-4の培養を始めてから6日目以降には、油をほぼ100%分解していることがわかったので、培養から7日目には、Ud-4の分解率はプラトーに達していると考え、培養から7日目における各種食用油の分解率を測定した。LB、M9およびNSWを培地として各種食用油の分解率を測定した。その結果を表1から3に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
測定した結果をまとめて図示したのが図6である。これら3種類の培地の中で最も高い分解率を示したのはLB培地であり、食用油では、オリーブオイルでは約50%、ごま油、大豆油、ラードでは約60%の油を分解できた。M9培地では、オリーブオイルは約35%、ラードは約60%、キャノーラ油、ごま油、大豆油は約10〜20%の油を分解できた。NSW培地では、キャノーラ油、オリーブオイル、ごま油、ラードは約10〜20%の油を分解することができた。この結果、本発明のUd-4が食用油の優れた分解率を示すことが実証された。
【実施例4】
【0042】
本発明のUd-4を使用してC重油の分解試験を行った。重油の分解率は、培養開始から7日間、14日間、28日間の3回の分解率を測定した。測定した結果を表4に示し、図7に図示した。
【0043】
【表4】
【0044】
3種類の培地間であまり分解率に差はなく、7日間培養後に分解率を測定すると、それぞれの培地で約5%の分解率を示し、28日間培養後に分解率を測定すると、約15%の分解率を示した。それぞれの培地間による分解率にはあまり差が見られなかった。試料として用いたC重油は、炭素数10から24の直鎖状炭化水素を主成分とするものであり、原料とNSW培地で25℃4週間培養後の試料のガスクロマトグラフ分析を図8に示す。これによりC重油を構成する炭化水素のほぼ全量が分解されていることが明らかとなった。また、本発明のUd-4は海水と同様の塩濃度のもとで炭化水素の分解活性に優れていることが確認された。
【実施例5】
【0045】
ジエタノールアミンとトリエタノールアミンを1対1で含有するアルカノールアミンおよび切削油として使用されている鉱物油のUd-4による分解を試験した。試験結果を図9に図示す。切削油ではLB培地で約70%の分解率を示し、アルカノールアミンではM9培地で同様の約70%の分解率を示した。アルカノールアミンではM9培地が、切削油ではLB培地が分解率で優れていた。
【実施例6】
【0046】
本発明の微生物が土壌中に存在する廃油の分解を検討した。
以下に記載の組成を有する廃油2.5mL(0.25%)を土壌1kgに、LB培地を20mL添加した後、定常状態にまで菌を増殖させた50mLの培養液を均一に添加して試験土壌とした。廃油の分析には、テキサス州試験法1005に準じてメタノール・ペンタンで抽出することにより、揮発成分の分析誤差を抑えた。廃油を分析した結果、C6-C12の区画が12.2%、C12-C28の区画が75.50%、C12-C44の区画が12.3%、TPHs100%が得られた。
【0047】
廃油(炭化水素)分解菌としては、本発明のUd-4、土着菌(シュードモナス)とLB培養液の混合物、およびLB培養液で培養した土着菌(シュードモナス)を使用し、これらを廃油と混合した土壌に添加して25℃で6週間培養し、培養前、3週間培養後、6週間培養後の油含有量の変化を測定した。その結果を表5に示し、また、TPHs量の変化を図10に図示した。本発明のUd-4で処理することにより、6週間後には、土壌中に存在していた6400mg/kgの炭化水水素は1900mg/kgへと当初の約30%へと減少した。一方、土着菌の作用により炭化水素が当初の約46%に減少する結果が得られたが、逆に増加している結果も得られた。
【0048】
【表5】
【実施例7】
【0049】
リパーゼ活性の測定を行った。LB培地に1.0%の各種油(キャノーラ油、オリーブオイル、ごま油、大豆油、ラード)を加えて、25℃、120rpmで振盪培養させ、培養から1日目、3日目、5日目、7日目にリパーゼ活性を測定した。その結果、どの油においても3日目と5日目でリパーゼ活性が高くなり、7日目以降は低くなっていく傾向がみられた(図11参照)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、炭化水素、高級脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属することを特徴とする微生物およびその利用に係るものであり、本発明者らが新しく見出した上記微生物の炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンを分解する特性を利用することにより、油汚染を中心とする環境汚染問題をバイオレメディエーションにより解決することができる環境浄化、修復技術を提供するものである。
【0051】
炭化水素や油脂類による環境汚染は、大型厨房からの排水、食品工場からの排水、タンカーや油田の事故による石油類の漏出、工場などでの切削油、潤滑油などの使用過程での油漏れ、使用済み油の漏れなどにより引き起こされるが、本発明の微生物を用いたバイオレメディエーションにより効率よく、新たな環境汚染を生ずることなく環境汚染の問題を解決することが可能となる。本発明の微生物は、塩含有環境下においても炭化水素の分解能力を発揮するため、タンカー事故による海洋の油汚染において有用な解決手段を提供することができる。また、本発明の微生物は、さまざまな挟雑物の共存下においてもその分解能力を発揮できるため、土壌の油汚染や油含有廃棄物の処理にも適用するものであり、環境汚染の無害化処理において大きな力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の微生物の形態を示す。
【図2】本発明の微生物の生化学性状を示す。
【図3】本発明の微生物の16S rDNA塩基配列に基づく系統樹を示す。
【図4】本発明の微生物による食用油のハローアッセイを示す。
【図5】キャノーラ油の有無による各種培地での本発明の微生物の増殖曲線を示す。
【図6】本発明の微生物による各種食用油の分解率を示す。
【図7】本発明の微生物による重油の分解率を示す。
【図8】重油と重油を本発明の微生物により分解した試料のガスクロマトグラフ分析を示す。
【図9】本発明の微生物によるアルカノールアミンおよび切削油の分解率を示す。
【図10】本発明の微生物により処理された土壌中に含有された炭化水素の含有量の変化を示す。
【図11】本発明の微生物のリパーゼ活性を示す。
【図12】本発明の微生物の16S rDNAの塩基配列を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有する新規微生物ならびにその利用に関するものであり、さらに詳しくは、重油などの炭化水素、食用油などの高級脂肪酸エステルおよびエタノールアミンなどのアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属する微生物、この微生物を使用した炭化水素、高級脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤および処理方法に関するものである。本発明は、石油、食用油や工業油などによる汚染をバイオレメディエーションにより浄化する新規な技術を提供するものであり、例えば、食品工場、大型厨房、家庭などからの排水処理、工業油による土壌汚染、石油による海洋汚染に至るまで広範囲な応用を可能とする有用な環境浄化技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、各種油類による海洋や土壌等の汚染が非常に深刻な環境問題となっているが、このような汚染は大型タンカーの海難事故や油田事故、各種工業プラントの事故等により引き起こされることが多く、いずれの場合も莫大な量の油が流出することになり、大規模な環境被害をもたらしている。このような流出油の除去処理は困難を要し、その有効な処理技術の確立は緊急の課題として研究開発が行われてきた。
【0003】
石油汚染を微生物により分解除去しようとする試みがなされてきたが、実用化のためには、解決しなければならない問題が多く残されている。例えば、石油類でも軽質油分は微生物が比較的容易に分解するが、石油汚染において特に問題となる重油等の重質油は難分解性であり、これらによる海洋汚染や、油田、ガソリンスタンド等の石油供給設備や石油精製所等からの石油漏出による土壌汚染などもまた自然環境を歪め、海上及び陸上の生態系に著しい悪影響を及ぼすことが知られている。これらの汚染油類は自然環境下に存在する微生物によって分解除去され、無害化されると考えられているが、それには長い年月を要するため、効率的に分解できる新しい微生物を見出す努力がなされてきた。
また、一般家庭、商店、事業所ならびに工場などから排出された油脂類や油以外の廃棄物がもたらす環境破壊もまた問題視され、近年では、焼却や化学的処理に代わる方法として、環境に優しい処理法として自然環境に生育している微生物を利用するバイオレメディエーションによる環境浄化法が検討されている。
【0004】
従来の微生物を利用した炭化水素の分解処理方法としては、例えば、効率よく芳香族炭化水素を含む環状炭化水素を分解することができるロドコッカス属(Rhodococcus sp.)に属するグラム陽性桿菌により廃油などの芳香族炭化水素を分解する技術が提案されている(特許文献1)。また、海水の塩濃度までの幅広い塩濃度において石油類の分解活性に優れた微生物であるハヘラ属(Hahella sp.)に属する微生物により海洋を汚染した石油類を処理する方法が提案されている(特許文献2)。こうした炭化水素類を含有する処理対象である、水(海水を含む)、土壌、または生ゴミなどの各種の汚泥や動植物性残渣中には炭化水素と油脂類が混在していることがしばしばあるが、油脂を含む廃棄物をそのまま微生物によって生物学的処理することは難しく、食品工場、外食産業並びにホテルなどに設けられている微生物による排水または廃棄物処理設備にみられるように、例えば、油脂を含む排水処理に際しては事前に排水中に含まれる油脂分の除去が必要とされることがあった。
【0005】
こうした油脂による汚染問題点を解決する技術として、油脂類の分解活性を示す微生物であるシュードモナス属(Pseudomonas sp.)に属する微生物により油脂含有排水を処理する方法(特許文献3)が提案され、また、アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属し、油脂分解能を有する微生物により、飲食品店や食品工場から排出される廃棄物や排水を処理する技術(特許文献4)が提案されている。
さらに、鉱物油や動植物油などの各種油類を分解できる新規なハロモナス属(Halomonas sp.)に属する微生物が提案され(特許文献5)、また、エンジンオイルなどの油や油脂類を炭素源が存在しなくても分解することが可能なアシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanni)により、好気性条件下で油と接触させる油の分解方法(特許文献6)が提案されている。このように、炭化水素と油脂類を共に分解することができる微生物が提案されてきた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−113197号公報
【特許文献2】特開2005−261310号公報
【特許文献3】特開2001−178451号公報
【特許文献4】特開2004−166533号公報
【特許文献5】特開2001-544304号公報
【特許文献6】特開2006−296382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海洋の石油汚染では、タンカーの衝突や座礁事故等の大きな事故による流出が挙げられるが、その他にもバラスト水の調整・洗浄過程、石油の積み下ろし過程で石油が海洋へ流出する量も多く、深刻な問題となっている。また、石油汚染の身近な例としては、ガソリンスタンドの地下貯留タンクが老朽化したり、配管が亀裂・破損したりすることによって、そこから油が土壌に浸透することが挙げられる。工業用油汚染に関しては、工場などで使用する切削油、潤滑油の管理が不適切な場合には油汚染の原因となる可能性があり、例えば、使用済みの切削油等の漏洩、油で汚染された切削屑廃棄物の野外での保管や不適切な廃棄により、水環境や土壌が汚染される可能性がある。難揮発性で高粘性の油類は地下水中・土壌からの分離・分解が難しいため、適用できる浄化・修復方法が限られることがある。そのため、水や土壌を効率的に浄化・修復する技術の開発が求められている。
【0008】
一方、食用油に関しては、平成17年度には日本で年間約300万トンの油脂類が消費され、それにより発生する廃食用油は年間40万トンに達するものと言われている。その発生する廃食用油のうち、回収され、バイオディーゼル等の燃料や、石鹸・洗剤、飼育用の肥料として再利用されているのは約50%の20万トン、残りの20万トンの廃食用油は、回収されずに水環境汚染の原因となっている。例えば、大型厨房や食品加工工場、飲食店等から出た廃油が下水管で固まってできるオイルボールや、油膜、油臭等を引き起こすことが挙げられる。これらの問題の対策として、油の回収装置や、グリーストラップを設置しているが、設備や維持にコストがかかり、また、廃油を処理した後にも産業廃棄物が出るためその処理を必要とするなど多くの問題が残されている。
【0009】
そこで、浄化コストが低く、環境にやさしいといった利点を持つ、微生物の浄化作用を用いたバイオレメディエーションに関心が集まっている。しかしながら、これまでの国内における土壌や地下水汚染の浄化処理としては、物理化学的処理、熱的処理などが主な処理方法として利用され、バイオレメディエーションは全体のわずか約9%で利用されているに過ぎない。浄化処理に使用される微生物製剤は、現在も多く市販されているが、温度や栄養等の条件を整える必要があり、また複合汚染の浄化が難しいなど、依然として解決すべき問題が残されている。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鉱物油や動植物油を分解する能力を有する微生物を広く自然界にもとめて鋭意探索を重ねていたところ、富山県魚津市の魚津漁港で採取した海水から単離された微生物が、塩化ナトリウム(NaCl)の存在の有無に関わらず生育し、しかも水や土壌の混在状況下でも優れた重油分解能を有していることを見出した。さらに、この重油分解菌(Ud-4)という菌が、重油の他に食用油や、工業用油などの分解能を有することを見出し、幅広い油汚染環境の修復に対して利用できる微生物として研究を重ねることにより、Ud-4のキャラクタリゼーションを進め、環境修復に対して有用な微生物であることを確認し本発明を完成し、本新規微生物を特許微生物寄託センターに、NITE−AP 604として寄託した。
【0011】
本発明は、生態及び生体に安全な微生物であって、鉱物油や動植物油、アルカノールアミン類を分解できる新規な微生物を提供することを目的とするものである。また、本発明は、食塩の有無に関わらず生育でき、陸上及び海洋の別を問わず、炭化水素、油脂類を生物学的処理に利用できる微生物を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は炭化水素類、高級脂肪酸エステル類、またはアルカノールアミンを含む水、土壌または各種の廃棄物が混在状態であってもそれらの物質を効率的に分解除去できる微生物を提供することを目的とするものである。さらに、本発明はかかる微生物を用いて、海洋及び陸上における油や廃油含有物、油脂およびアルカノールアミン類を分解処理して環境浄化を行う方法ならびに当該浄化方法に利用できる処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は:
(1)炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有するアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)微生物に係るものである。
(2)本発明の上記(1)に記載のアシネトバクター属微生物は、下記の菌学的性質を有する。
(a)形態的、培地上の特徴
細胞の形態:短桿状(短径0.5−0.8μm、長径1.0−2.0μm)
運動性:陰性
菌体系状:短桿菌
コロニーの色調:白色
コロニーの形態:円形
コロニーの透明度:不透明
コロニーの表面:滑らか
(b)生理学的性質
グラム染色:陰性
硝酸塩還元:陰性
インドール産生:陰性
グルコース(酸):陰性
アルギニンジヒドロラーゼ:陰性
ウレアーゼ:陰性
エスクリン:陰性
ゼラチン液化:陽性
p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド:陰性
オキシダーゼ:陰性
(c)同化・吸収特性
グルコース:陰性
L−アラビノース:陰性
D−マンノース:陰性
D−マンニトール:陰性
N−アセチル−D−グルコサミン:陰性
マルトース:陰性
グルコン酸カリウム:陰性
n−カプリン酸:陽性
アジピン酸:陰性
dL−マレイン酸:陽性
クエン酸ナトリウム:陰性
酢酸フェニル:陰性
(3)本発明の微生物は、16SrDNAが、配列表に記載の部分塩基配列を有する上記(1)または(2)に記載のアシネトバクター属微生物である。
(4)本発明の微生物は、アシネトバクター Ud-4(受領番号 NITE AP−604)である上記(1)、(2)または(3)に記載のアシネトバクター属微生物である。
本発明の上記微生物は、平成20年7月1日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されたUd-4菌株(受領番号 NITE AP−604)が挙げられる。
(5)本発明の微生物は、アシネトバクター サイクロトレーランス(Acinetobacter psychrotolerans)に属する微生物である上記(1)から(4)のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物である。
【0013】
(6)本発明の微生物は、上記のように、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンを分解する能力を有するため、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤として提供され簡便で効率のよい環境浄化処理を可能とする。
すなわち、本発明は、上記の(1)から(5)のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物を含有することを特徴とする炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤に係るものである。
(7)また、本発明は、上記(6)に記載の処理剤を、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質と接触させることにより該物質中に存在する炭化水素、脂肪酸またはアルカノールアミンを分解処理することができる処理方法に係るものである。
(8)上記(7)に記載の処理方法を、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンを含有する土壌、廃棄物、海洋流出重油、排水、または動植物残渣に適用することができる。
(9)さらに、上記(7)または(8)に記載の処理方法により、本願発明の微生物は食塩の存在下に増殖可能であるため、海洋などの塩分を含有する環境での炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質の分解処理ができる。
【0014】
本発明は、炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属する新規微生物およびこの微生物を利用した炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンを含有する物質の処理に関するものである。従来、炭化水素類または油脂類をそれぞれ単独で分解することができる微生物は提供され油類による環境汚染の除去に供されていたが、複数の汚染源を除去することができる微生物は実用化が遅れていた。本発明の新規微生物は複数の汚染源を分解する能力を有するものであり、特に、炭化水素、油脂、アルカノールアミンの優れた分解能を有することは、環境汚染源の分解除去にあたり有用な新規な手段を提供することができる。
【0015】
炭化水素類としては、石油の高沸点溜分である重油が代表的な例であり、例えば、タンカーの事故で流出した石油成分のうち高沸点溜分は揮発または分解されないで環境中にいつまでも残留することが知られているが、本発明の微生物は、海水中においても重油成分を分解除去することができるため、タンカー事故での重油成分の分解除去に好適である。また、潤滑油や切削油の成分である炭化水素類を、各種の塩類が共存する環境下で分解することができるため、炭化水素類で汚染された土壌の浄化に有用である。また、防錆剤などとして使用された後の排水などに含有されたアルカノールアミンの分解除去に本発明の微生物は有用である。本発明の微生物を有害物質の分解除去に利用するに際しては、従来の製剤化技術により種々の担体に担持させて用いることが好ましい。
【0016】
本研究で使用した菌株は、魚津漁港の油膜を含む海水から重油分解菌として単離されたUd-4を使用した。Ud-4は0.5% (w/v) のC重油を含む液体培地で数日間振盪培養させると、重油の乳化が見られる菌株であった。位相差顕微鏡と電子顕微鏡で観察した結果、Ud-4は短径約0.5〜0.8μm、長径約1.0〜2.0μmの短桿菌で、鞭毛を持たず、運動性のない菌であることがわかった。本発明の微生物Ud-4(受領番号 NITE AP−604)の顕微鏡写真を図1に示す。
【0017】
API 20NE(BIOMERIEUX)による生化学性状の同定と、グラム識別キット(フェイバーG;Nissui)を使用してグラム染色を行った結果、図1と2に示す形態学的性質と同化吸収特性を有し、アシネトバクター属に属する他の微生物とは生化学性状が異なることが分かった。
【0018】
次に、16S rDNAの塩基配列による菌種の同定を行った。
Ud-4を培養してそのコロニーを寒天プレートからかきとり、滅菌DDWで懸濁後、熱水処理(100℃、5分)によりDNAを抽出した。そのDNAを鋳型とし、ほとんどの真正細菌の16S rDNA中に見られる塩基配列の遺伝子増幅用のPCRプライマーである、 27f(5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’)と1525r(5’-AAAGGAGGTGATCCAGCC-3’)を使用し、MJ Mini Thermal Cycler(BIO-RAD)を用いてPCRを行い、16S-rDNAのほぼ全領域(約1、500bp)を増幅させた。得られたPCR産物をQIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製し、Dye Terminator法によってシークエンスを行った。得られた塩基配列を塩基配列1として、または図12に、示す。この塩基配列に基づいてBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いて検索し、既知のバクテリアの塩基配列との相同性を調べて種の同定を行った。また、解析結果をもとにMEGA Ver.4.0(Molecular Evolutionary Genetics
Analysis and Sequence Alignment)を用いて系統樹の作成を行った。16SrDNAの塩基配列に基づく系統樹を図3に示す。塩基配列から見ると、本発明のUd-4はAcinetobacter psychrotoleransに99%の高い相同性を示したが、本菌種は正式に登録された菌種ではなく、同種に最も近縁の種で有ると考えられる。二番目に高い相同性を示した菌種はAcinetobacter calcoaceticusで90.8%であった。
【0019】
上記の菌学的性質(形態学性質、培地生育状態、生理学的性質)および16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列について検討したところ、本菌はアシネトバクター(Acinetobacter sp.)属に属する新規な微生物であることが確認された。
【0020】
なお、本発明の微生物には、炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミン分解能を有するアシネトバクター属に属する微生物が全て包含され、上記物質の分解能を有し、且つアシネトバクター属に属する限り、上記に掲げる特定の微生物のほか、その自然もしくは人工的手段によって変異されてなる変異株もすべて本発明に包含されるものである。また、該アシネトバクター属に属する微生物の種名について、少なくともUd-4(受領番号 NITE AP−604)が属する種名である、アシネトバクター Ud-4(受領番号 NITE AP−604)で特定することができる。
Ud-4菌株は、平成20年7月1日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受領番号 NITE AP−604として寄託されている。
さらにまた本発明の微生物にはアシネトバクター サイクロトレーランス(Acinetobacter psychrotolerans)に類縁する菌であって炭化水素、高級脂肪酸エステルおよびアルカノールアミン分解能を有するものを含むものである。
【0021】
本発明における炭化水素とは、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、環式飽和炭化水素、環式不飽和炭化水素を含むものでありそれらの分子式、化学的構造には特に限定されないが、具体的には、石油から製造される低沸点留分や、高沸点留分の重油、タール、アスファルト成分、潤滑油、切削油などが例示される。本発明における、脂肪酸エステルとは、脂肪酸とアルコールが脱水結合した化合物であり、グリセリンと高級脂肪酸のエステル、一価アルコールと高級脂肪酸のエステルを含むものであり、具体的には、動植物性の油脂、ロウ、さらに具体的には、キャノーラ油、オリーブ油、ごま油、大豆油 綿実油、ヤシ油などの植物油や、ラード、ヘッド、バターなどの動物油が挙げられる。本発明のアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等各種のものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により次の効果が奏される。
(1)生態及び生体に安全であるとともに、鉱物油や動植物油などの各種油およびアルカノールアミンを分解できる新規な微生物を提供することができる。
この微生物は食塩の有無に関わらず生育できるため、陸上及び海洋の別を問わず、油類の生物学的処理に利用できる微生物を提供することができる。
(2)炭化水素類、高級脂肪酸エステル類、およびアルカノールアミンと水、土壌または各種の廃棄物との混在状態でも効率的に分解できる微生物を提供することができる。
(3)本発明の微生物は、塩類、例えば、NaClの共存下においてもその炭化水素類などの分解能を発揮することができ、タンカーの事故による海の重油汚染に対して対応が可能である。
(3)本発明の微生物を用いて、海洋及び陸上における油や廃油含有物およびアルカノールアミン類を分解処理することにより環境浄化を行う方法ならびに当該方法に利用できる処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明における、各種油類の分解試験結果の概要を説明する。
本発明のアシネトバクター属に属する微生物を、本明細書中の記載においては、具体的に、「Ud-4」または「NITE AP−604」と称することがある。本発明のUd-4のハローアッセイを行ったところ、5種類の食用油(キャノーラ油、オリーブオイル、ごま油、大豆油、ラード)と切削油、アルカノールアミンで透明なハローが確認された。ハローが確認されるまでの期間は、切削油よりも食用油の方が早く、食用油では約5日後からハローが見え始め、切削油では約7日目以降からハローが見え始めた。また、切削油では、LB培地よりも、M9培地での方が大きいハローが観察された。このことから、Ud-4は工業用油よりも、食用油の方が分解しやすいのではないかと考えられた。Ud-4の増殖について調べた結果、LB培地とNSW培地ではキャノーラ油の存在の有無による増殖には差は見られなかった。しかし、M9培地では、培地のみでは増殖が低かったが、キャノーラ油の入った培地では、菌はよく増殖していた。このことから、Ud-4は油脂類を唯一の炭素源として資化できることが示唆された。
【0024】
Ud-4がどのくらいの期間でどの程度の油を分解できるのかを調べるため、油分解率を測定した。まず、キャノーラ油分解率について調べ、併せてUd-4の増殖曲線も作成した。増殖曲線を図5に示す。その結果、増殖は培養から約1日でプラトーに達するのに対し、分解率は培養から約6〜7日目でプラトーに達した。このことから、Ud-4は定常期中もエネルギー代謝や生合成を続けていると考えられた。また、分解率が約7日目にプラトーに達したため、以下の各種油類の分解率の測定には培養から7日目の試料を使用して行った。
本発明の微生物を、LB寒天培地(1%NaCl、0.5%yeast extract、1% tryptone)中で25℃、2日間生育して観察した結果、その(1)形態学的性質、(2)生理学的性質、および(3)同化・吸収特性は上述したとおりのものが得られた。
【0025】
各種油脂(高級脂肪酸エステル)の分解率は、食用油ではLB培地、M9培地、NSW培地、それぞれの培地で各種油が分解されているのがわかった。中でも、LB培地での分解率は高い値を示し、特にキャノーラ油は約100%分解されていた。キャノーラ油は、他の食用油に比べて飽和脂肪酸の割合が低く、3価の不飽和脂肪酸であるリノレン酸の割合が高いことから、LB培地のような栄養価の高い培地では、キャノーラ油のように不飽和脂肪酸の割合が高い油が分解しやすいことが考えられた。また、M9培地での分解率はラードで高い値を示した。ラードは、他の食用油に比べて飽和脂肪酸が多く含まれており、全体の脂肪酸の約50%を占める。このことから、M9培地のように炭素源が油以外に含まれない培地では、飽和脂肪酸をよく分解することが考えられた。また、NSW培地でも各種油脂類を分解できたことから、Ud-4は海洋汚染だけでなく、塩分濃度の高い排水処理にも利用できることが示唆された。
【0026】
一方、切削油ではLB培地で約70%の分解率を示した。他の培地の分解率は約40%以下で低い値となった。アルカノールアミンではM9培地での分解率が特に高く、他の培地の分解率は20%以下で低い値となった。LB培地やNSW培地では培地中の成分を利用して成長をしているが、炭素源が含まれていないM9培地ではUd-4が増殖するためにアルカノールアミンを資化したもとと考えられる。1% (w/v) のアルカノールアミンを加えた培地にUd-4を接種し、7日間振盪培養後、LB培地とM9培地の菌体密度を測定したところ、M9培地の菌体密度がLB培地よりも約2倍高かったことからも、M9培地ではUd-4がよく増殖できていることが確認された。
【0027】
Ud-4による重油の分解率をそれぞれの培地について測定を行ったところ、培地の種類によって大きく分解率に差は見られなかったが、培養日数が長くなるにつれて分解率が高くなる傾向が見られた。しかし、重油が細かく乳化されて培地が黒く見え始める早さはM9培地が約7日間と最も早くLB培地での乳化の早さは約10日と遅かった。重油の主成分は飽和炭化水素や芳香族化合物等であるため、Ud-4がリパーゼ以外にもアルカン等を分解できる酵素を持っており、その酵素を使って重油を資化し、成長していることが考えられた。
【0028】
一般的に食用油を分解する菌は、トリグリセリドを脂肪酸とグリセロールに分解するリパーゼという酵素を菌体外に分泌することが報告されている。そこで、Ud-4もリパーゼを分泌している可能性が考えられたため、リパーゼ活性を調べた。その結果、どの食用油類でも3日目と5日目でリパーゼ活性が高くなり、7日目以降は低くなっていく傾向がみられた。この結果から、Ud-4は酵素を培養開始から少しずつ分泌し始め、5日目以降には分泌が抑えられるのではないかと考えられた。
【0029】
Ud-4の脂質分解酵素の分子量を推定するために、SDS-PAGEとザイモグラムを行ったところ、Ud-4の菌体試料も上澄み試料でも活性を示すバンドは確認されなかった。次に、酵素が熱やSDS等で壊れていることが考えられたため、Native-PAGEを行った結果、Native-PAGEでも活性を示すバンドは確認されなかった。Ud-4と同じAcinetobacter sp.由来のリパーゼでは、分子量33kDa付近のものも報告されている。また、Native-PAGEにより活性を示すバンドが確認されたという報告もある。そのため、バッファーのpHを変えたり、放置時間を長くしたりすれば、活性は見られる可能性があると考えられる。
【0030】
本発明の微生物を炭化水素類の処理剤として提供するには、本発明の微生物を担体などに担持固定して製剤化するのが最も好ましい。例えば、液状製剤とするには、培地で本発明の微生物を24〜36時間程度培養し、培養物から菌体を遠心分離などで回収し、次に回収した菌体を液体に懸濁させる。また、粉末製剤とするには、培地で本発明の微生物を24〜36時間程度培養し、凍結乾燥などにより乾燥し、次いで、粘土、タルクなどの鉱物粉末、おがくず、繊維くずなどの植物粉末などの微粉体を適度に加えたものを製剤とすることができる。さらに、公知の技術により、本発明の微生物を種々の固定化用材料を用いて、固定化することができる。
【0031】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例においては、本発明のUd-4(NITE AP−604)を用いて次に記載の培地と分解率の測定方法により試験を行った。
(培地)
微生物の培養には次の三種類の培地を使用した。
(1)栄養分の多いLB ( Luria-Bertani ) 培地( NaCl 10.0g、Yeast Extract 5.0g、Tryptone 10.0g / L )、
(2)炭素源を含まないM9( M9 Minimal )培地( Na2HPO4 6.8g、KH2PO4 3.0g、NaCl 0.5g、NH4Cl 1.0g、1M MgSO4 2ml、1M CaCl2 0.1ml / L)、
(3)塩分濃度が海水に近いNSW( Natural Sea Water )培地( 人工海水800ml、NH4NO3 1.0g、K2HPO4 0.02g、Yeast Extract 0.5g / L (pH 7.8) )。
【0032】
(食用油の分解率の測定)
1%(w/v)各種油を加えた各種液体培地6mlに菌体を接種し、振盪培養開始から一定時間毎に、下水処理法に従いn-へキサン抽出法で食用油の抽出を行った。まず、25℃、120rpmの振盪で一定時間培養した試料6mlを分液ロートに移し、それにpH指示薬としてメチルオレンジを3滴加え、溶液のpHが3〜4となって赤色に変化するようにさらに6N-HClを5滴加えた。次に、n-へキサンを約20ml加え、レシプロシェカー(SR-2s;TAITEC)を用いて250rpmで5分間激しく振盪し、水層とヘキサン層が明らかに分離するまで静置した。静置後、水層は新たな分液ロートに移し、それにn-へキサンを約20ml加え、同様の操作をもう一度繰り返し、再抽出を行った。2つの分液ロートに残っているヘキサン層を、ナス型フラスコに移し、無水硫酸ナトリウム(Wako)を適量加えて脱水し、それをろ過して、別のナス型フラスコに移した。そして、ロータリーエバポレーター(Ren-ivn;IWAKI)で、試料がおよそ2mlになるまで30℃で揮発させた。次に、それをサンプル瓶に移し、ヒーターで加熱してn-へキサンを十分に揮発させた後、デシケーター内で放冷してから、重量を測定した。既知のサンプル瓶との重量の差から、抽出した油の重量を算出し、さらに、分解菌を接種した試料と接種していない試料から抽出された油の重量差から、分解率の算出を行った。
【0033】
(炭化水素(重油)の分解率の測定)
0.5%(w/v)重油を加えた各種液体培地6mlに菌体を接種し、振盪培養開始から一定時間毎に、クロロホルム抽出で重油の抽出を行った。まず、試料6mlを分液ロートに移し、それにクロロホルムを約20ml加え、レシプロシェカー(SR-2s;TAITEC)を用いて250rpmで5分間激しく振盪し、水層とクロロホルム層が明らかに分離するまで静置した。静置後、クロロホルム層はナス型フラスコに移し、分液ロートには新たにクロロホルム約20mlを加え、同様の操作をもう一度繰り返し、再抽出を行った。再抽出を行って得たクロロホルムをナス型フラスコに移し、クロロホルム層に重油の色が見られなくなるまで同様に抽出を行った。重油を抽出したクロロホルム層が透明になったら、クロロホルム層を1つのナス型フラスコに移し、無水硫酸ナトリウム(Wako)を適量加えて脱水し、それをろ過して、別のナス型フラスコに移した。そして、ロータリーエバポレーター(Ren-ivn;IWAKI)で、試料がおよそ2mlになるまで30℃で揮発させた。次に、それをサンプル瓶に移し、ヒーターで加熱してクロロホルムを十分に揮発させた後、デシケーター内で放冷してから、重量を測定した。既知のサンプル瓶との重量の差から、抽出した油の重量を算出し、さらに、分解菌を接種した試料と接種していない試料から抽出された油の重量差から、分解率の算出を行った。
【0034】
(切削油及びアルカノールアミンの分解率の測定)
上記食用油の分解率の測定方法と同様に行った。
【実施例1】
【0035】
本発明のUd-4による各種食用油の分解特性を上記培地で培養して菌のハローアッセイを検出することにより検討した。菌のハローアッセイは、各種食用油(キャノーラ油(AJINOMOTO)、オリーブ油(AJINOMOTO)、ごま油(かどや)、大豆油(AJINOMOTO)、ラード(雪印))や工業油(潤滑油)、アルカノールアミンを1.0% (w/v) 含む培地、または0.5% (w/v) の重油を含む培地を使用した。この培地をオートクレーブ(121℃、15分)で滅菌後、超音波洗浄機(USD-3;アズワン)で油類を乳化させ、放冷して固めた後菌を接種した。コロニーの回りに透明なハローを形成する油を、Ud-4が分解可能な油であると判断した。上記植物油は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)、多価不飽和脂肪酸(リノール酸、リノレン酸)などの高級脂肪酸のグリセリンエステルである。各種食用油のLB寒天培地におけるハローアッセイの一例を図4に示す。いずれの試料に置いてもハローが観察され本発明のUd-4が各物質の分解活性を示すことが確認された。
【実施例2】
【0036】
キャノーラ油を含有する培地でのUd-4の増殖速度を検討した。LB培地、 M9培地、NSW培地に、それぞれ1.0%(w/v)のキャノーラ油を加えたものと加えないものを各100ml用意し、そこへUd-4を初期菌体密度が約107cells/mlになるように接種し、25℃、120rpmで振盪培養を行った。培養開始時間から、一定時間毎に試料の一部を採り、0.2%のグルタルアルデヒド(Wako)で固定後、バクテリア計算盤(Elma)を用いて位相差顕微鏡(IX70;Olympus)で測定し、菌体密度を求めた。食用油として最も多く使用されていると考えられたキャノーラ油について分解率と増殖速度を測定した。増殖曲線を図5に示す。Ud-4は、培養開始から約24時間後に増殖はほぼ定常期に達したが、油の分解率は約20%と低い値を示した。その後、培養を続けても増殖はほとんど見られなかった。しかしながら、分解試験からは、培養の6日目以降においては、ほぼ100%の油を分解していることがわかった。
【実施例3】
【0037】
Ud-4の培養を始めてから6日目以降には、油をほぼ100%分解していることがわかったので、培養から7日目には、Ud-4の分解率はプラトーに達していると考え、培養から7日目における各種食用油の分解率を測定した。LB、M9およびNSWを培地として各種食用油の分解率を測定した。その結果を表1から3に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
測定した結果をまとめて図示したのが図6である。これら3種類の培地の中で最も高い分解率を示したのはLB培地であり、食用油では、オリーブオイルでは約50%、ごま油、大豆油、ラードでは約60%の油を分解できた。M9培地では、オリーブオイルは約35%、ラードは約60%、キャノーラ油、ごま油、大豆油は約10〜20%の油を分解できた。NSW培地では、キャノーラ油、オリーブオイル、ごま油、ラードは約10〜20%の油を分解することができた。この結果、本発明のUd-4が食用油の優れた分解率を示すことが実証された。
【実施例4】
【0042】
本発明のUd-4を使用してC重油の分解試験を行った。重油の分解率は、培養開始から7日間、14日間、28日間の3回の分解率を測定した。測定した結果を表4に示し、図7に図示した。
【0043】
【表4】
【0044】
3種類の培地間であまり分解率に差はなく、7日間培養後に分解率を測定すると、それぞれの培地で約5%の分解率を示し、28日間培養後に分解率を測定すると、約15%の分解率を示した。それぞれの培地間による分解率にはあまり差が見られなかった。試料として用いたC重油は、炭素数10から24の直鎖状炭化水素を主成分とするものであり、原料とNSW培地で25℃4週間培養後の試料のガスクロマトグラフ分析を図8に示す。これによりC重油を構成する炭化水素のほぼ全量が分解されていることが明らかとなった。また、本発明のUd-4は海水と同様の塩濃度のもとで炭化水素の分解活性に優れていることが確認された。
【実施例5】
【0045】
ジエタノールアミンとトリエタノールアミンを1対1で含有するアルカノールアミンおよび切削油として使用されている鉱物油のUd-4による分解を試験した。試験結果を図9に図示す。切削油ではLB培地で約70%の分解率を示し、アルカノールアミンではM9培地で同様の約70%の分解率を示した。アルカノールアミンではM9培地が、切削油ではLB培地が分解率で優れていた。
【実施例6】
【0046】
本発明の微生物が土壌中に存在する廃油の分解を検討した。
以下に記載の組成を有する廃油2.5mL(0.25%)を土壌1kgに、LB培地を20mL添加した後、定常状態にまで菌を増殖させた50mLの培養液を均一に添加して試験土壌とした。廃油の分析には、テキサス州試験法1005に準じてメタノール・ペンタンで抽出することにより、揮発成分の分析誤差を抑えた。廃油を分析した結果、C6-C12の区画が12.2%、C12-C28の区画が75.50%、C12-C44の区画が12.3%、TPHs100%が得られた。
【0047】
廃油(炭化水素)分解菌としては、本発明のUd-4、土着菌(シュードモナス)とLB培養液の混合物、およびLB培養液で培養した土着菌(シュードモナス)を使用し、これらを廃油と混合した土壌に添加して25℃で6週間培養し、培養前、3週間培養後、6週間培養後の油含有量の変化を測定した。その結果を表5に示し、また、TPHs量の変化を図10に図示した。本発明のUd-4で処理することにより、6週間後には、土壌中に存在していた6400mg/kgの炭化水水素は1900mg/kgへと当初の約30%へと減少した。一方、土着菌の作用により炭化水素が当初の約46%に減少する結果が得られたが、逆に増加している結果も得られた。
【0048】
【表5】
【実施例7】
【0049】
リパーゼ活性の測定を行った。LB培地に1.0%の各種油(キャノーラ油、オリーブオイル、ごま油、大豆油、ラード)を加えて、25℃、120rpmで振盪培養させ、培養から1日目、3日目、5日目、7日目にリパーゼ活性を測定した。その結果、どの油においても3日目と5日目でリパーゼ活性が高くなり、7日目以降は低くなっていく傾向がみられた(図11参照)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、炭化水素、高級脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有しアシネトバクター属(Acinetobacter sp.)に属することを特徴とする微生物およびその利用に係るものであり、本発明者らが新しく見出した上記微生物の炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンを分解する特性を利用することにより、油汚染を中心とする環境汚染問題をバイオレメディエーションにより解決することができる環境浄化、修復技術を提供するものである。
【0051】
炭化水素や油脂類による環境汚染は、大型厨房からの排水、食品工場からの排水、タンカーや油田の事故による石油類の漏出、工場などでの切削油、潤滑油などの使用過程での油漏れ、使用済み油の漏れなどにより引き起こされるが、本発明の微生物を用いたバイオレメディエーションにより効率よく、新たな環境汚染を生ずることなく環境汚染の問題を解決することが可能となる。本発明の微生物は、塩含有環境下においても炭化水素の分解能力を発揮するため、タンカー事故による海洋の油汚染において有用な解決手段を提供することができる。また、本発明の微生物は、さまざまな挟雑物の共存下においてもその分解能力を発揮できるため、土壌の油汚染や油含有廃棄物の処理にも適用するものであり、環境汚染の無害化処理において大きな力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の微生物の形態を示す。
【図2】本発明の微生物の生化学性状を示す。
【図3】本発明の微生物の16S rDNA塩基配列に基づく系統樹を示す。
【図4】本発明の微生物による食用油のハローアッセイを示す。
【図5】キャノーラ油の有無による各種培地での本発明の微生物の増殖曲線を示す。
【図6】本発明の微生物による各種食用油の分解率を示す。
【図7】本発明の微生物による重油の分解率を示す。
【図8】重油と重油を本発明の微生物により分解した試料のガスクロマトグラフ分析を示す。
【図9】本発明の微生物によるアルカノールアミンおよび切削油の分解率を示す。
【図10】本発明の微生物により処理された土壌中に含有された炭化水素の含有量の変化を示す。
【図11】本発明の微生物のリパーゼ活性を示す。
【図12】本発明の微生物の16S rDNAの塩基配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有するアシネトバクター属微生物。
【請求項2】
下記の菌学的性質を有する請求項1に記載のアシネトバクター属微生物。
(1)形態的、培地上の特徴
細胞の形態:短桿状(短径0.5−0.8μm、長径1.0−2.0μm)
運動性:陰性
菌体系状:短桿菌
コロニーの色調:白色
コロニーの形態:円形
コロニーの透明度:不透明
コロニーの表面:滑らか
(2)生理学的性質
グラム染色:陰性
硝酸塩還元:陰性
インドール産生:陰性
グルコース(酸):陰性
アルギニンジヒドロラーゼ:陰性
ウレアーゼ:陰性
エスクリン:陰性
ゼラチン液化:陽性
p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド:陰性
オキシダーゼ:陰性
(3)同化・吸収特性
グルコース:陰性
L−アラビノース:陰性
D−マンノース:陰性
D−マンニトール:陰性
N−アセチル−D−グルコサミン:陰性
マルトース:陰性
グルコン酸カリウム:陰性
n−カプリン酸:陽性
アジピン酸:陰性
dL−マレイン酸:陽性
クエン酸ナトリウム:陰性
酢酸フェニル:陰性
【請求項3】
16SrDNAが、配列表に記載の部分塩基配列を有する請求項1または2に記載のアシネトバクター属微生物。
【請求項4】
アシネトバクター Ud-4(受領番号 NITE AP−604)である請求項1、2または3に記載のアシネトバクター属微生物。
【請求項5】
アシネトバクター サイクロトレーランス(Acinetobacter psychrotolerans)に属する微生物である請求項1から4のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物を含有することを特徴とする炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤。
【請求項7】
請求項6に記載の処理剤を、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質と接触させることを特徴とする該物質中に存在する炭化水素、脂肪酸またはアルカノールアミンの処理方法。
【請求項8】
炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質が土壌、廃棄物、海洋流出重油、排水、または動植物残渣である請求項7に記載の処理方法。
【請求項9】
食塩の存在下に炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質の処理が行われる請求項7または8に記載の処理方法。
【請求項1】
炭化水素、脂肪酸エステルおよびアルカノールアミンの分解能を有するアシネトバクター属微生物。
【請求項2】
下記の菌学的性質を有する請求項1に記載のアシネトバクター属微生物。
(1)形態的、培地上の特徴
細胞の形態:短桿状(短径0.5−0.8μm、長径1.0−2.0μm)
運動性:陰性
菌体系状:短桿菌
コロニーの色調:白色
コロニーの形態:円形
コロニーの透明度:不透明
コロニーの表面:滑らか
(2)生理学的性質
グラム染色:陰性
硝酸塩還元:陰性
インドール産生:陰性
グルコース(酸):陰性
アルギニンジヒドロラーゼ:陰性
ウレアーゼ:陰性
エスクリン:陰性
ゼラチン液化:陽性
p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド:陰性
オキシダーゼ:陰性
(3)同化・吸収特性
グルコース:陰性
L−アラビノース:陰性
D−マンノース:陰性
D−マンニトール:陰性
N−アセチル−D−グルコサミン:陰性
マルトース:陰性
グルコン酸カリウム:陰性
n−カプリン酸:陽性
アジピン酸:陰性
dL−マレイン酸:陽性
クエン酸ナトリウム:陰性
酢酸フェニル:陰性
【請求項3】
16SrDNAが、配列表に記載の部分塩基配列を有する請求項1または2に記載のアシネトバクター属微生物。
【請求項4】
アシネトバクター Ud-4(受領番号 NITE AP−604)である請求項1、2または3に記載のアシネトバクター属微生物。
【請求項5】
アシネトバクター サイクロトレーランス(Acinetobacter psychrotolerans)に属する微生物である請求項1から4のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のアシネトバクター属微生物を含有することを特徴とする炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミンの処理剤。
【請求項7】
請求項6に記載の処理剤を、炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質と接触させることを特徴とする該物質中に存在する炭化水素、脂肪酸またはアルカノールアミンの処理方法。
【請求項8】
炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質が土壌、廃棄物、海洋流出重油、排水、または動植物残渣である請求項7に記載の処理方法。
【請求項9】
食塩の存在下に炭化水素、脂肪酸エステルまたはアルカノールアミン含有物質の処理が行われる請求項7または8に記載の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−22214(P2010−22214A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183702(P2008−183702)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月21日 国立大学法人富山大学主催の「平成19年度卒業論文発表会 生物圏環境科学科」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月19日 社団法人水環境学会発行の「第42回日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(391007828)ミヤマ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月21日 国立大学法人富山大学主催の「平成19年度卒業論文発表会 生物圏環境科学科」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月19日 社団法人水環境学会発行の「第42回日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(391007828)ミヤマ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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