説明

新規微生物及びこれを用いたジオキサン類の分解方法

【課題】 ジオキサン類を分解する新規微生物、当該微生物を用いてジオキサン類を分解する方法、および当該微生物を含むジオキサン類分解剤、該分解剤を用いる廃水の処理方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、リノクラジエラ(Rhinocladiella)属に属し、ジオキサン類を分解する能力を有する微生物の提供。また、本発明は、前記微生物を用いてジオキサン類を分解する分解方法の提供と、さらに前記微生物を含むジオキサン類分解剤、該分解剤を用いる廃水の処理方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジオキサン類の分解能の高いリノクラジエラ(Rhinocladiella)属に属する新規な糸状菌、この糸状菌を用いるジオキサン類の分解方法、当該糸状菌を含有するジオキサン類分解剤、該分解剤を用いる廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオキサン環構造を有する化合物(本発明では「ジオキサン類」という)は、各種工業に利用されている。主として、1,4−ジオキサンは抽出・反応溶剤・塩素系溶剤の安定剤の製造に使用されている(例えば、特許文献1)。また類縁化合物の一つであるジヒドロキシアセトンダイマーは、繊維製品の防縮剤・造影剤等の製造に使用されている(例えば特許文献2、3)。
それらジオキサン類は、分解性の低いエーテル結合を、その分子内に有しており、いわゆる難分解成分として知られている。また、ジオキサンのうち、1,4−ジオキサンは国立がん研究所が「ヒトに対する発ガン性の可能性あり」(グループB)としている化合物であり、化審法においても指定化学物質とされる。
【0003】
このように難分解性であるジオキサン類を含んだ廃水は、一般的な廃水微生物処理法である活性汚泥法では処理が難しい。従って環境浄化という観点から、ジオキサン類を分解する方法の開発が望まれている。ジオキサン類の分解方法としては、オゾン処理・促進酸化処理等よる物理・化学的処理(例えば、特許文献4、5参照)や、微生物を用いた処理法(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0004】
一般に微生物による処理法は省エネルギーであるとされるが、廃水中には微生物生育にとって好ましくない成分を含む場合があり、それら廃水に対しても適用できる微生物が望まれている。例えば塩分を高濃度に含んだ条件下は微生物の生育には好適であるとは言えず、そのような過酷な状況下においてジオキサン類を分解できる微生物は有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−064077号公報
【特許文献2】特開平09−087968号公報
【特許文献3】特表2002−524547号公報
【特許文献4】特開2005−074409号公報
【特許文献5】特開2008−221151号公報
【特許文献6】特開2004−298116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はジオキサン類を分解する新規微生物、当該微生物を用いてジオキサン類を分解する方法、および当該微生物を含むジオキサン類分解剤、該分解剤を用いる廃水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前期課題を解決するために鋭意検討した結果、リノクラジエラ(Rhinocladiella)属に属する糸状菌が、ジオキサン類を分解できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち本発明は、リノクラジエラ(Rhinocladiella)属に属し、ジオキサン類を分解する能力を有することを特徴とする微生物を提供する。
また、本発明は、前記微生物を用いて塩分の存在下でジオキサン類を分解することを特徴とする分解方法を提供する。
さらに本発明は、前記微生物を含むジオキサン類分解剤、該分解剤を用いる廃水の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ジオキサン類を分解する新規微生物、当該微生物を用いてジオキサン類を分解する方法、および当該微生物を含むジオキサン類分解剤、該分解剤を用いる廃水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】リノクラジエラEP10株の栄養菌糸の顕微鏡写真である。
【図2】リノクラジエラEP10株の栄養菌糸の顕微鏡写真である。
【図3】リノクラジエラEP10株の栄養菌糸の顕微鏡写真である。
【図4】リノクラジエラEP10株の分生子の顕微鏡写真である。
【図5】リノクラジエラEP10株のITS−5.8s rDNA 塩基配列を用いた分子系統樹を示す図である。
【図6】リノクラジエラEP10株のITS−5.8s rDNA 塩基配列を用いた分子系統樹を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に利用される微生物は、リノクラジエラ(Rhinocladiella)属に属し、ジオキサン類を分解する能力を有することを特徴とする。
【0012】
本微生物は千葉県佐倉市DIC総合研究所廃水より、塩分の存在下1,4−ジオキサンを炭素源とする培地よりスクリーニングされた新規微生物である。
本発明の新規微生物は下記の菌学的性質を有する。
【0013】
(科学的性質)
塩分の存在下でジオキサン類の分解能を有する。
【0014】
(形態学的性質)
栄養菌糸:菌糸は寒天表面上もしくは寒天内に形成され、明褐色〜茶褐色、有隔壁菌糸を形成する。
分生子柄及び分生子形成細胞:分生糸は短く、栄養菌糸より直生し、分岐せず、明褐色〜茶褐色に着色する(図1、図3)。分生柄の先端部には刺状突起がややジグザグ状に形成され、その先端から分生子が形成される。(図1、図2、図3)
分生子:分生子はシンポジオ型分生子で、卵形〜長楕円形、1細胞、無色、平滑、基端がやや切断上である(図4)。
有性生殖器官:有性生殖器官の形成は認められない。
【0015】
(分類学的性質)
ITS−5.8SrDNA領域塩基配列を解析した結果、配列番号1示す配列を有している。当該配列をアポロンDB−FU2.0データベースBLAST(株式会社テクノスルガ・ラボ、静岡県静岡市)により相同性を検索した結果、表1に示す相同性を得た。
【0016】
【表1】

【0017】
この結果、子嚢菌類の一種であるRhinocladiella atrobirensの塩基配列を100%の相同性を示した。
【0018】
以上のことから、本微生物はRhinocladiellaに近縁であり、Rhinocladiella族の一種であると推定される。このため本微生物を新菌株と認定し、Rhinocladiella sp. EP10株と命名した。本発明の新規な微生物は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託申請し、平成21年2月13日付けで受領番号FERM AP−21771として受領された。
以下、該微生物「EP10株」と称することがある。
【0019】
本発明の微生物の特徴はジオキサン類の分解が可能なことにある。また該微生物は10%以下の塩分存在下、好ましくは5%以下の塩分存在下で増殖が可能であり、ジオキサン類の分解が可能である。
【0020】
本発明の微生物は常法により培養される。培地成分に用いる炭素源、窒素源、無機塩類は、該菌株が資化できる物質であれば特に限定されない。炭素源としてはグルコース、サッカーロース、デンプン等の糖類が例示される。窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩等の無機態窒素、尿素、アミノ酸等の有機態窒素が例示される。無機塩類としては、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩が例示される。必要に応じて、鉄、マンガン、ニッケル等の微量成分、ビタミン類を用いても良い。またそれらを含有している、酵母エキス、ペプトン等を用いることができる。
【0021】
ブドウ糖、ショ類、マルトース、サッカロース、上白糖、黒糖、糖蜜、廃糖蜜、マルツエキス等が挙げられる。窒素源としては、肉エキス、ペプトン、グルテンミール、大豆粉、乾燥酵母、酵母エキス、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム塩、尿素等が挙げられる。その他、必要に応じて、ナトリウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、鉄塩、カルシウム塩、リン酸塩、亜鉛塩等の無機塩類や、イノシトール、ビタミンB 塩酸塩、L−アスパラギン、ビオチン等のビタミン類を添加してもよい。
【0022】
微生物の培養は振とう培養または通気撹拌培養で行えば良い。培養温度は通常10−35℃度、培養液のpHは4−9で行えば良い。また培地は、公知の糸状菌培地を用いて行うことができる。例えば、YM培地(0.3%イーストエクストラクト、0.3%モルトエクストラクト、0.5%ペプトン、1%ブドウ糖)あるいはポテトデキストロース培地(0.4%ポテトエキス、2%ブドウ糖)を用い、好機条件で培養することにより、培養可能である。
【0023】
本発明のジオキサン類の分解方法は、前記のような微生物を用いてジオキサン類を分解するものであり、該方法によれば、塩類の存在下でも効率的に分解することが可能である。
【0024】
本発明の微生物の利用方法は公知の方法であれば良い。例えば、該微生物の培養液をそのまま、あるいは水溶液に希釈して利用することができる。また培養液から、ろ過、遠心分離等の固液分離手段により回収し利用することも可能である。さらに凍結乾燥法等による乾燥状態での使用も可能である。
【0025】
該微生物は適宜製剤化して分解剤として利用することも可能である。例えば珪藻土、タルク、活性炭、ゼオライト、カオリナイト等の多孔質物質と混合し、表面へ付着あるいは多孔質に吸着させて分解剤として利用することができる。該微生物は、担体に固定化して分解剤とすることもできる。担体への固定化方法は担体結合法、包括法、吸着法を用いることができる。担体の材質は、有機・無機いずれのものでも構わないが、本発明者等は各種固定化用担体の材質を比較検討した結果、セルロース系の多孔質担体を用いた場合に、微生物付着量が多く、かつ高い活性を発揮できることを見出した。従って固定化分解剤として効率的な利用を行うためには、セルロース系の担体が好ましい。固定化方法としては、公知の糸状菌培地にオートクレーブ処理等の殺菌処理を施した担体を添加し、通常の培養方法で行えば良い。固定化した微生物はそのまま使用したり、また遠心分離により回収して使用することが可能である。また凍結乾燥、真空乾燥等の処理により乾燥状態にしての利用も可能である。
【0026】
(ジオキサン類について)
該微生物が分解することが可能なジオキサン類とは、ジオキサン環構造を有する化合物である。また環状骨格を形成する炭素原子に少なくとも一つの置換基が結合した構造を有する物質であっても差し支えない。該置換基とは、アルキル基、水酸基、脂肪属水素基等をあげることができる。具体的には、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、4−ジオキサン−2,3−ジオール、1,3−ジヒドロキシアセトン、1,4−ジオキサンジメタノール等を例示することができる。
【0027】
本発明の分解方法では、前述した微生物とジオキサン類を共存させることにより実施することができる。共存とは微生物と化合物が接触することで、例えば分解対象物を含む水溶液中で該微生物を好適な条件で該微生物を増殖させることにより実施される。
【0028】
以上の本発明によれば、塩分の存在下、ジオキサン類を分解する能力のあるRhinocladiella属に属する微生物、該微生物を用いてジオキサン類を分解するジオキサン類方法を提供することができる。難分解性とされるジオキサン類、特に1,4−ジオキサン及びその類縁化合物を、温和な条件下で効率的に分解することが可能であり、それら化合物を含有する工場排水等や浄水処理に利用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1) ジオキサン類分解菌の単離
(1)スクリーニング
DIC株式会社総合研究所内より採取した排水土壌をサンプルとした。YM寒天培地(0.3%イーストエクストラクト、0.3%モルトエクストラクト、0.5%ペプトン、1%ブドウ糖、寒天1.5%)にNAClを2%となるように添加し121℃、15分の条件でオートクレーブ殺菌した。温度が60℃となったところで、クリーンベンチ内で無菌的に1,4−ジオキサン(和光純薬社)を500mg/Lの濃度となるように添加し、混合した後シャーレに20mLづつ取り、寒天平板培地(以下「A寒天培地」と称する)を作成した。
【0031】
採取したサンプル1gを滅菌水10mLに添加して撹拌後、その液100μLをA寒天培地に塗布し、28℃の7日間の培養を行った。発生したコロニーを1白金耳取り、5mLの滅菌水中に添加し撹拌後、100mLを同様の培地、同様の条件で培養した。この操作を均一なコロニーが得られるまで繰り返し、得られた微生物をEP10株と命名した。
【0032】
(実施例2) EP10株の塩分存在下での1,4−ジオキサンの分解試験
EP10株を用いて、塩分存在下での1,4−ジオキサンの分解試験を行った。YM寒天培地に増殖したEP10株の液体培地による前培養を行った。300mL容量の三角フラスコにDifco社製YM Broth 2.1g、蒸留水100mL、を入れ、撹拌の後121℃、15分のオートクレーブ殺菌を行った。そこへ、YM寒天培地上に生育したEP10株を1白金耳採取し、無菌的に添加の後、インキュベータ内で28℃、140rpmの撹拌条件で3日間培養した。この液を1,4−ジオキサン分解試験の種菌とした。以下「種菌A」と称する。
【0033】
300mLの三角フラスコを6本用意し、そこにDifco社製イーストエクトラクト0.2%、和光純薬社製リン酸水素2カリウム0.5%、和光純薬社製硫酸マグネシウム・7水和物0.025%に調整した液を100mL添加した。また各フラスコには、和光純薬社製NaClを、0%、1%、2%、3%、4%、5%となるように添加した後、121℃、15分のオートクレーブ殺菌を行った。
殺菌後、各三角フラスコに和光純薬社製1,4−ジオキサンを無菌的に500mg/Lとなるように添加し、さらに種菌Aを3mL添加した。
【0034】
各三角フラスコをインキュベータ内で28℃、140rpmの撹拌条件で培養した。培養は10日間実施した。0日目、10日目にフラスコから無菌的にサンプリングし、12000rpm×5min遠心分離した上清を0.45μmのメンブレンフィルターによりろ過したろ液中の1,4−ジオキサン濃度をガスクロマトグラフにより測定した。開始時の1,4−ジオキサン濃度を100%としたときの、各食塩濃度のおける1,4−ジオキサンの分解率を表2に示す。また0日目、10日目の各フラスコの微生物量の指標としてOD660nmにより濁度を測定した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
試験の結果、塩分5%以下の高塩濃度の存在下で増殖し、1,4−ジオキサンは食塩5%以下の存在下で18−22%が分解された。
【0038】
(実施例3) EP10株の塩分存在下での1,3−ジヒドロキシアセトンの分解試験
EP10株を用いて、塩分存在下での1,3−ジヒドロキシアセトンの分解試験を行った。試験方法は実施例2において、1,4−ジオキサンを1,3−ジヒドロキシアセトンとしたこと、サンプリング日数を0日、3日、5日とした以外は同一にして実施した。開始時の1,3−ジヒドロキシアセトン濃度を100%としたときの、各食塩濃度のおける1,3−ジヒドロキシアセトンの分解率は表4に示すとおりであった。また5日目のOD660nmの測定結果を表5に示した。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
試験の結果、塩分5%以下の高塩濃度の存在下で増殖し、1,3−ジヒドロキシアセトンは食塩5%以下の存在下で100%分解された。
【0042】
(実施例4)EP10株の各種材質の担体への固定化試験
EP10株を用いて各種材質への固定化試験を行った。使用した担体はポリウレタン性角形スポンジ(サイズ約0.5mm角、以下A担体と称す)、ポリエチレングリコール系ポリウレタンスポンジ(サイズ約10mm角、日清紡社製APG−CC−10B、以下B担体と称す)、ポリビニルアルコール性球状ゲル(サイズ直径約約4mm、クラレアクア株式会社製クラゲール、以下担体Cと称す)、多孔性セルロース粒子(サイズ直径約4mm、レンゴー株式会社製ビスコパールAタイプ、以下D担体と称す)、セルローススポンジ(サイズ10mm角、東レ・ファインケミカル株式会社製セルローススポンジ、以下E担体と称す)。これら各担体をメスシリンダーにて30mL容量計り取り、EP10株固定化用の担体とした。
300mL容量の三角フラスコに、Difco社製YM Broth 2.1g、蒸留水100mL、を入れ、撹拌の後121℃、15分のオートクレーブ殺菌を行った。そこへ、YM寒天培地上に生育したEP10株を1白金耳採取し、無菌的に添加の後、インキュベータ内で28℃、140rpmの撹拌条件で3日間培養し固定化試験用の種菌とした。
300mL容量の三角フラスコを5本用意し、そこへDifco社製YM Broth 2.1g、固定化用担体、蒸留水100mLを入れ、撹拌の後121℃、15分のオートクレーブ殺菌を行った。そこへ、上記種菌を1mL無菌的に添加の後、インキュベータ内で28℃、140rpmの撹拌条件で3日間、固定化のための培養を行った。培養終了後、各担体を無菌的に取り出し無菌水で洗浄した。以下それら担体を、EP10株固定化A担体、B担体、C担体、D担体、E担体と称す。
次いで300mL容量の三角フラスコを5本用意し、そこへDifco社製YM Broth 2.1g、蒸留水100mL、を入れ、撹拌の後121℃、15分のオートクレーブ殺菌を行った。そこへ無菌水にて洗浄した各EP10株固定化担体を10mL容量計り取り添加の後、インキュベータ内で28℃、140rpmの撹拌条件で3日間培養した。3日後に各三角フラスコの液中のEP10株の菌数を血球計測板にて計測した。
各EP10株固定化担体を添加した三角フラスコ中のEP10株の個数は以下のとおりであった。
【0043】
【表6】

【0044】
3日後の培養液中のEP10株の菌数は、材質がセルロースであるEP10株固定化D担体及びEP10株固定化E担体を用いた場合が高く、担体に多量の菌が固定化されていた結果である。
【0045】
(実施例5)EP10株固定化担体による1.3−ジヒドロキシアセトンの分解
実施例4で作成したEP10株固定化担体を用いて、塩分の存在下で、1,3−ジヒドロキシアセトンの分解試験を行った。試験方法は実施例3において、塩分濃度を0%、3%としたこと、サンプリング日数を0日、5日としたこと、EP10株として実施例4で得たEP10株固定化D担体を用いたこと以外は同一にして実施した。開始時の1,3−ジヒドロキシアセトン濃度を100%としたときの、各食塩濃度における1,3−ジヒドロキシアセトンの分解率は表7に示すとおりであった。また5日目のOD660nmの測定結果を表8に示した。
【0046】
【表7】

【0047】
【表8】

【0048】
試験の結果、塩分3%存在下で増殖し、セルロースが材質であるD担体に固定化したEP10株は、1,3−ジヒドロキシアセトンは食塩3%の存在下で100%分解された。
【0049】
(実施例6)微生物の同定
EP10株の同定を株式会社テクノスルガ社に依頼して実施した。同定は28SrDNA−D1/D2及びITS−5.8SrDNA解析、巨視的及び微視的形態観察により行った。
【0050】
(DNA解析)
EP10株の28SrDNA−D1/D2塩基配列を配列番号2に示す。また当該塩基配列の相同性検索及び簡易系統解析を国際塩基配列データベース(BenBank/DDBJ/EMBL)及びアポロンDB−FU2.0(株式会社テクノスルガ・ラボ,静岡県静岡市)により行った。
【0051】
28SrDNA−D1/D2の国際塩基配列データベースBLAST検索結果の上位30塩基配列との相同率を表9に示す。
【0052】
【表9】

【0053】
EP10株はExophilaia spinifera及びLeptodonitidium elatiusと99.5%の相同率を示した。
またアポロンDB−FU BLAST検索結果の上位30塩基配列との相同率を表10に示す。
【0054】
【表10】

【0055】
EP10株はExophilaia jeanselmeiと99%の相同率を示した。また得られた上位の塩基配列を基に作成した系統樹を図5に示す。EP10株はLeptodonitidium elatiusと同一の系統枝を形成した。
【0056】
EP10株のITS−5.8SrDNA塩基配列を配列番号2に示す。ITS−5.8SrDNAの国際塩基配列データベースBLAST検索結果の上位30塩基配列との相同率を表11に示す。
【0057】
【表11】

【0058】
EP10株はRhinocladiella atorovirens、ascomycete sp.6/97−36、ascomycete sp.6/97−10と100%の相同率を示した。またアポロンDB−FU BLAST検索結果の上位30塩基配列との相同率を表1に示す。EP10株はRhinocladiella atorovirensと100%の相同率を示した。また得られた上位の塩基配列を基に作成した系統樹を図6に示す。EP10株はRhinocladiella atorovirens、Rhinocladiella similis、ascomycete sp.、Leptodonitidium elatiusと同一の系統枝を形成した。
【0059】
両塩基配列の結果、Rhinocladiella atorovirens、Rhinocladiella similis、Leptodonitidium elatiusと同一系統枝を形成することから近縁のRhinocladiella属またはLeptodonitidium属の一種であると推定される。
【0060】
(巨視的及び微視的観察)
EP10株を以下の条件で培養した菌体を供試菌体とした。
培地 ポテトデキストロース寒天培地「ダイゴ」(日本製薬社)・・・PDA
2%モルトアガー・・・(MA)
バクト オートミールアガー(ベクトンデッキンソン社)・・・OA
LcA(三浦培地)・・・LcA
培養温度 25℃
培養期間 1〜2週間
各培養平板において1週間培養後から巨視的観察を行い、コロニーの直径・色調(コロニー表面及び裏側)・表面性状・可溶性色素生産の有無について調べた。培養10日後のEP10株の各平板の巨視的観察結果を表12に示す。なおコロニー色調に冠する記述はKornerup and Wanscherに準拠した。
【0061】
【表12】

【0062】
光学微分干渉顕微鏡により微視的観察を行った。
栄養菌糸:菌糸は寒天表面上もしくは寒天内に形成され、明褐色〜茶褐色、有隔壁菌糸を形成する。
分生子柄及び分生子形成細胞:分生糸は短く、栄養菌糸より直生し、分岐せず、明褐色〜茶褐色に着色する(図1、図3)。分生柄の先端部には刺状突起がややジグザグ状に形成され、その先端から分生子が形成される(図1、図2、図3)。
分生子:分生子はシンポジオ型分生子で、卵形〜長楕円形、1細胞、無色、平滑、基端がやや切断上である(図4)。
有性生殖器官:有性生殖器官の形成は認められない。
【0063】
コロニーの性状及び形態観察の結果、EP10株は灰緑褐色のコロニーを形成し、茶褐色に着色した分生子柄の先端に無色で1細胞性のシンポジオ型分生子を形成するなどRhinocladiella属の形態的特長が観察された。一方塩基配列の観察結果から、近縁と推定されたLeptodonitidium属の特徴とは異なり区別することができる。
【0064】
以上の結果から、EP10株はRhinocladiella属の一種であるとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リノクラジエラ(Rhinocladiella)EP10株(FERM−AP−21771)。
【請求項2】
請求項1に記載のリノクラジエラEP10株を担体に固定化してなる固定化リノクラジエラEP10株。
【請求項3】
前記担体が、セルロースである請求項2に記載の固定化リノクラジエラEP10株。
【請求項4】
請求項1に記載のリノクラジエラEP10株、又は請求項2若しくは3に記載の固定化リノクラジエラEP10株を含むジオキサン類分解剤。
【請求項5】
請求項4又は5に記載のジオキサン類分解剤を用いたジオキサン類の分解方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のジオキサン類分解剤を塩分の存在下で使用することを特徴としたジオキサン類の分解方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載のジオキサン類分解剤を用いた廃水の処理方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載のジオキサン類分解剤を用いた塩分を含む廃水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−252779(P2010−252779A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258846(P2009−258846)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】