説明

新規微生物及びこれを用いた着色廃水処理方法

【課題】好気性条件であるか嫌気性条件であるかを問わず、アゾ系染料などの難分解性物質を効率よく分解することのできる新規微生物、及び、当該微生物を用いてアゾ系染料などの難分解性物質を含有する着色廃水を効率よく脱色でき、従来の廃水処理工程に応用が可能な着色廃水処理方法を提供する。
【解決手段】好気性条件下でアゾ系染料分解能を有するバチルス属(Bacillus属)に属するバチルス アシディセラー KM(Bacillus acidicelerKM;FERM P−22161)と命名された微生物、及び、この微生物を用いて好気性条件と嫌気性条件とを組み合わせる着色廃水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス属(Bacillus属)に属する新規微生物に関するものである。また、この微生物を用いて着色廃水に含まれる着色物質を脱色処理する着色廃水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生産工場の廃水には着色したものが多く存在する。中でも、繊維染色工場の廃水には、染料などの着色物質が多く含まれている。一般に、繊維染色工場の廃水は、精練工程、染色工程及び仕上げ工程からの廃水の混合物であり、多くの化学物質を含んでいる。このことから、繊維染色工場の廃水は、環境負荷を表す化学的酸素要求量(COD)や生物学的酸素要求量(BOD)が高い廃水である。従って、繊維染色工場の廃水は、従来から凝集沈殿処理、加圧浮上処理及び活性汚泥処理などを組み合わせた廃水処理工程によって処理された後、繊維染色工場から放流水として排出される。
【0003】
しかし、繊維染色工場の廃水に含まれる染料は、低濃度においても着色度が高く、可溶性物質でもあり、最も脱色処理が困難な物質とされている。従って、従来の廃水処理工程では、これら染料の脱色は非常に難しく、繊維染色工場から排出される着色した排出水による環境汚染が問題となっている。これらの染料には、モノアゾ系、ポリアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、ホルマザン系又はジオキサジン系などの各種化学構造を有する物質が存在するが、中でもその使用量が多く、且つ、難分解性の染料としてモノアゾ系、ポリアゾ系などのアゾ系染料が挙げられる。
【0004】
上記問題に対して、下記特許文献1には、アゾ系染料による着色を消去若しくは低減する能力を有する微生物を用いた着色排水の脱色処理方法及びその処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2998055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般にアゾ系染料などの難分解性物質を分解できる微生物は非常に少なく、また、現在までに発見されている微生物においては、嫌気性条件においてのみアゾ系染料分解能を有するものがほとんどであった。上記特許文献1に記載の微生物においても嫌気性条件での処理が必要であり、更に、上記特許文献1に記載の方法及び装置においては、この微生物を担持した固定化担体を用いなければならない。
【0007】
このように、嫌気性条件及び固定化担体の使用を必須とすると、曝気処理を中心とする従来の廃水処理工程をそのまま使用することができない。従って、嫌気処理層や固定化担体を充填したカラムを増設するための設備費用や、これを維持するためのメンテナンス費用が大きくなるという問題があった。
【0008】
また、現在までに発見されている微生物では、アゾ系染料などの難分解性物質を分解するのに長時間を要し実用的に使用されるものは非常に少ない。また、上記特許文献1に記載の方法及び装置においては、微生物を担持した固定化担体を充填したカラムを使用するので、着色排水の脱色に更に長時間を要し、着色物質を効率よく脱色することができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、好気性条件であるか嫌気性条件であるかを問わず、アゾ系染料などの難分解性物質を効率よく分解することのできる新規微生物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該微生物を用いてアゾ系染料などの難分解性物質を含有する着色廃水を効率よく脱色でき、従来の廃水処理工程での応用が可能な着色廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、各地で採取した土壌の中から分離した微生物が好気性条件及び嫌気性条件のいずれにおいてもアゾ系染料を効率よく分解することを発見し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明に係る新規微生物は、請求項1の記載によると、16S−rDNAの遺伝子塩基配列が、配列番号1に記載された塩基配列を含む微生物である。
【0012】
また、本発明に係る新規微生物は、請求項2の記載によると、バチルス属(Bacillus属)に属するバチルス アシディセラー KM(Bacillus acidicelerKM;FERM P−22161)と命名された微生物である。
【0013】
また、本発明に係る新規微生物は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の微生物であって、好気性条件下でアゾ系染料分解能を有することを特徴とする。
【0014】
一方、本発明に係る着色廃水処理方法は、請求項4の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の微生物を用いるものである。
【0015】
また、本発明に係る着色廃水処理方法は、請求項5の記載によると、着色廃水処理が好気性条件で行われることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る着色廃水処理方法は、請求項6の記載によると、着色廃水処理が好気性条件と嫌気性条件とを組み合わせて行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記構成の微生物によれば、好気性条件であるか嫌気性条件であるかを問わず、アゾ系染料などの難分解性物質を効率よく分解することができる。また、上記構成の着色廃水処理方法によれば、当該微生物を用いてアゾ系染料などの難分解性物質を含有する着色廃水を効率よく脱色でき、従来の廃水処理工程に応用が可能な着色廃水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る微生物の形態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る微生物の16S−rDNA遺伝子の一部の塩基配列データである。
【図3】本発明に係る微生物とバチルス アシディセラー(Bacillus acidiceler)とを対比した16S−rDNA遺伝子の一部の塩基配列比較データである。
【図4】本発明に係る微生物の16S−rDNA遺伝子の一部の塩基配列についての検索結果による系統樹である。
【図5】実施例1において培養液の培養時間と濁度との関係を示す図である。
【図6】実施例1において培養液の培養時間と吸光度との関係を示す図である。
【図7】実施例2においてアゾ系反応染料RY2の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【図8】実施例2においてアゾ系反応染料RY76の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【図9】実施例2においてアゾ系反応染料RR24の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【図10】実施例2においてアゾ系反応染料RR111の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【図11】実施例2においてアゾ系反応染料RR218の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【図12】実施例2においてアゾ系反応染料RBK5の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【図13】実施例2においてアントラキノン系反応染料RB19の処理前後の吸光度曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る微生物は、バチルス属(Bacillus属)に属するものであり、好気性条件であるか嫌気性条件であるかを問わずアゾ系染料を効率よく分解する能力を有するものである。
【0020】
本発明に係る微生物は、以下のようにして分離された。和歌山県内で採取した土壌を生理食塩水に懸濁し、静置後の上澄み液を0.01重量%の赤色反応染料、C.I.Reactive Red 22(以下、「RR22」という)を含むSoy broth寒天培地に加え、30℃にて数日間振盪培養した。
【0021】
培養後、退色した実験区について、その培養液をSoy broth寒天培地に播種した。生じたコロニーを別々にRR22含有液体培地にて振盪培養し、退色させた菌株を本発明に係るアゾ系染料分解菌とした。
【0022】
このようにして分離した本発明に係るアゾ系染料分解菌の菌学的性質の一部を以下に示す。
(1)形態的性質
細胞形態 桿菌
大きさ(μm) 0.5×2〜3
色調 White
(2)生理学的性質
グラム染色性 +
好気下でのアゾ系染料分解能 +
嫌気下でのアゾ系染料分解能 +
また、当該アゾ系染料分解菌の形態を図1の走査型電子顕微鏡写真に示す。
【0023】
次に、本発明に係るアゾ系染料分解菌に対して、16S−rDNA分析による同定を次のようにして行った。まず、菌体より抽出したゲノムDNAを鋳型に16S−rDNA断片の一部(約900bp)をPCR増幅した。得られたDNA断片の塩基配列をジデオキシ法により決定した。当該アゾ系染料分解菌の16S−rDNA遺伝子の一部の塩基配列データを図2に示す。
【0024】
次に上記方法で得られた16S−rDNA遺伝子の一部の塩基配列データに対して、日本DNAデータバンクの既知遺伝子との相同性検索を行って本発明に係るアゾ系染料分解菌の属を推定した。その結果、当該アゾ系染料分解菌は、バチルス属(Bacillus属)に属するものであった。その相同性検索結果を表1に示す。
【表1】

この相同性検索の際、本発明に係るアゾ系染料分解菌と最も近縁種とされたバチルス アシディセラー(Bacillus acidiceler)との塩基配列比較データを図3に示す。また、当該アゾ系染料分解菌の相同性検索結果による系統樹を図4に示す。なお、図3及び図4においては、本発明に係るアゾ系染料分解菌を資料番号;SIID10134で示している。
【0025】
以上の結果から、本発明者らは、本発明に係るアゾ系染料分解菌がバチルス アシディセラー(Bacillus acidiceler)種に属する新菌株であると判断し、この新菌株をバチルス アシディセラー KM(Bacillus acidicelerKM;以下、「バチルスKM」という)と命名した。なお、バチルスKM菌株は、平成23年(2011年)8月9日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにおいて日本国に寄託された(受託番号:FERM P−22161)。
【0026】
次に、着色した繊維染色廃水を例としてバチルスKM(FERM P−22161)による着色廃水処理方法について説明する。一般に、繊維染色廃水は、上述のように、精練工程、染色工程及び仕上げ工程からの廃水の混合物であり、多くの化学物質を含んでいる。例えば、精練工程からは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、澱粉などの糊剤や、苛性ソーダ、酸化剤、酵素、各種界面活性剤などの糊抜き剤或いは精練剤が排出される。染色工程からは、反応性染料、分散染料、酸性染料など繊維の染色に使用した染料のうち繊維に固着しなかった各種染料や、各種無機塩類、尿素などの窒素化合物、各種界面活性剤などの染色助剤或いは洗浄剤が排出される。また、仕上げ工程からは、各種油剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの各種仕上げ剤が排出される。
【0027】
なお、本発明に係る着色廃水処理方法は、繊維染色廃水などを脱色処理してその着色度を低減するものである。よって、本発明は、繊維染色廃水などに含まれる各種物質のうち、特に染料の脱色処理を図るものである。ここで、繊維染色廃水は、上述のように、各種系統の染料を含んでおり、これらの染料には、モノアゾ系、ポリアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、ホルマザン系又はジオキサジン系などの各種染料がある。このように、繊維染色廃水は、各種系統の染料を含み、また、同一系統の染料であっても、種々の色相及び化学構造を有する多くの染料を含んでいる。
【0028】
本発明に係るバチルスKM(FERM P−22161)は、アゾ系染料に対して強い分解活性を示す。しかし、上述のように、繊維染色廃水は各種系統且つ各種化学構造の染料を含んでおり、その脱色処理はアゾ系染料のみを対象とすることはできない。ここで、バチルスKM(FERM P−22161)は、バチルス属の1菌株であり、他の微生物と同様、アゾ系染料以外の他の染料や、染料以外の他の有機物質に対しても通常の分解活性を有するものである。
【0029】
そこで、本発明に係る着色廃水処理方法においては、バチルスKM(FERM P−22161)を採用するが、このことにより、特にアゾ系染料のみを対象とするものではない。例えば、バチルスKM(FERM P−22161)と従来から使用される他の微生物とを併用することにより、各種系統且つ各種化学構造の染料或いは他の有機物質を分解し、結果として、繊維染色廃水の脱色処理が実用的且つ効率的に可能となる。
【0030】
本発明を実施するに際しては、バチルスKM(FERM P−22161)を繊維染色廃水に直接接種してもよく、或いは、バチルスKM(FERM P−22161)を予め培養した培養液を繊維染色廃水に添加するようにしてもよい。バチルスKM(FERM P−22161)の培養の条件に関しては、特に限定はないが、グルコースなどの各種炭素源、タンパク質、アミノ酸類などの炭窒素源、硫酸アンモニウムなどの各種無機塩類などを添加した一般の培地を採用することができる。培養におけるその他の条件も特に限定するものではないが、通常、pHを中性領域とした好気培養が好ましい。また、培養には特に光照射を要求するものではない。
【0031】
バチルスKM(FERM P−22161)を用いて繊維染色廃水を脱色する際の条件についても、特に限定するものではなく、通常行われている活性汚泥処理に準じて行えばよく、或いは、通常の活性汚泥処理槽中で行われる従来の微生物処理にバチルスKM(FERM P−22161)を併用するようにしてもよい。従って、好気条件を発現する通常の曝気処理槽にバチルスKM(FERM P−22161)を添加するようにしてもよい。
【0032】
更に、バチルスKM(FERM P−22161)は、好気条件において染料を分解するという特徴を有するものであるが、他のバチルス属の微生物と同様に嫌気条件での染料の分解にも大いに有効である。従って、バチルスKM(FERM P−22161)は、好気条件においてのみ使用するものではなく、嫌気条件での使用、或いは、好気条件と嫌気条件との併用などに使用することができる。
【0033】
例えば、従来から行われているように、好気槽と嫌気槽とを組み合わせた処理施設を利用し好気槽でバチルスKM(FERM P−22161)を培養し、その後、嫌気槽に移してバチルスKM(FERM P−22161)にストレスを与えアゾ系染料などを分解させるようにして、脱色効率を向上させることもできる。
【0034】
以上のことから、本発明に係る着色廃水処理方法においては、これまで使用している廃水処理施設をそのまま利用して効率よく繊維染色廃水の脱色を行うことができる。また、バチルスKM(FERM P−22161)は、好気性条件であるか嫌気性条件であるかを問わず、アゾ系染料などの難分解性物質を効率よく分解することができるので、各処理槽中の好気性雰囲気或いは嫌気性雰囲気の変動が生じた場合にも安定した脱色効果を発揮することができる。
【実施例1】
【0035】
ここで、繊維染色廃水の脱色モデルとして最も難分解性のアゾ系染料を含有する水溶液に対する本発明に係るバチルスKM(FERM P−22161)の分解活性を確認した。本実施例1においては、好気性条件下におけるバチルスKM(FERM P−22161)の増殖性とその際のアゾ系染料分解能を確認した。
【0036】
まず、バチルスKM(FERM P−22161)をSoy broth液体培地で30℃にて24時間振盪培養した。次に、アゾ系反応染料RR22を0.01重量%含有するSoy broth液体培地5mlが入った試験管に上記培養液50μlを加え、30℃にて、静地培養或いは各振盪条件の盪条培養を行った。ここで、静地培養を嫌気条件とし、各盪条培養を好気条件とした。なお、各振盪条件としては、振盪回数を60、90、180往復/分とすることにより好気条件を変化させ、最も撹拌が活発な振盪回数180往復/分において最も曝気が行われている。
【0037】
バチルスKM(FERM P−22161)の増殖性は、培養液の濁度(OD660)を波長λ=660nmで測定して培養液中の菌体濃度を評価した。一方、アゾ系染料分解能は、培養液中の染料濃度で評価した。すなわち、培養液に等量のメチルアルコールを混合してから遠心分離後、上澄液の吸光度(A505)をアゾ系反応染料RR22の最大吸収波長λmax=505nmで測定して培養液中の染料濃度を評価した。
【0038】
図5に静地培養及び各振盪培養における培養時間と濁度(OD660)との関係を示す。図5から分かるように、嫌気条件である静地培養においては培養時間が経過しても濁度の増加がそれ程大きくならず、バチルスKM(FERM P−22161)がそれほど増殖していないことが確認できた。一方、好気条件である各盪条培養においては培養時間が経過するに従って濁度が増加してバチルスKM(FERM P−22161)の菌体濃度が高くなりその増殖性が確認できる。
【0039】
また、各盪条培養においては、振盪回数が多くなるに従って濁度の増加が大きくなり、特に振盪回数180往復/分においては短時間で培養液中の菌体濃度が高くなった。このことにより、バチルスKM(FERM P−22161)の増殖には好気条件が適していることが分かる。
【0040】
図6に静地培養及び各振盪培養における培養時間と吸光度(A505)との関係を示す。図6から分かるように、嫌気条件である静地培養においては培養時間が経過しても吸光度の低下が緩やかであった。これは、バチルスKM(FERM P−22161)がそれほど増殖していないことによるものと考えられる。一方、好気条件である各盪条培養においては培養時間が経過するに従って吸光度が低下してバチルスKM(FERM P−22161)によるアゾ系反応染料RR22の分解活性が確認できる。
【0041】
また、各盪条培養においては、振盪回数が多くなるに従って吸光度の低下が大きくなり、振盪回数180往復/分において最も培養液中の染料濃度が低くなった。この振盪回数180往復/分のおいては上述のようにバチルスKM(FERM P−22161)の増殖が活発で菌体濃度が高いこともあるが、バチルスKM(FERM P−22161)が好気条件においてアゾ系染料を効率よく分解することが確認できる。
【実施例2】
【0042】
次に、本実施例2においては、化学構造の異なる各アゾ系反応染料に対する本発明に係るバチルスKM(FERM P−22161)の分解活性を確認した。まず、バチルスKM(FERM P−22161)菌株10ml、蒸留水90ml、ブイヨン3gを混合した液体培地で37℃にて24時間振盪培養を行った。次に、各染料を0.005重量%〜0.01重量%含有する染料溶液100mlに上記培養液10mlと5重量%ブイヨン水溶液10mlとを混合し、振盪回数180往復/分の好気条件にて7時間、染料分解処理を行った。
【0043】
使用した染料は、C.I.Reactive Yellow 2(以下、「RY2」という)、C.I.Reactive Yellow 76(以下、「RY76」という)、C.I.Reactive Red 24(以下、「RR24」という)、C.I.Reactive Red 111(以下、「RR111」という)、C.I.Reactive Red 218(以下、「RR218」という)、C.I.Reactive Black 5(以下、「RBK5」という)の各アゾ系反応染料であった。また、比較のためアントラキノン系反応染料のC.I.Reactive Blue 19(以下、「RB19」という)を使用した。
【0044】
バチルスKM(FERM P−22161)による染料分解能は、染料分解処理の前後における処理液中の染料濃度で評価した。すなわち、上記実施例1と同様にして処理前及び処理後の処理液に等量のメチルアルコールを混合してから遠心分離後、上澄液の吸光度(Abs)を各波長に対する吸光度曲線として測定した。各染料に対する処理前及び処理後の吸光度曲線を図7〜図13に示す。また、これらの吸光度曲線から各染料の最大吸収波長(λmax)における吸光度(Abs)を特定し、処理前と処理後の吸光度差から脱色率を算出した。表2に各染料の最大吸収波長、処理前吸光度、処理後吸光度及び脱色率を示す。
【表2】

表2から分かるように、各染料は、好気条件においてもバチルスKM(FERM P−22161)によって分解され処理液が脱色されていることが分かる。特に、RY2、RY76、RR24、RR111、RR218、RBK5の各アゾ系反応染料は良好な脱色率を示している。
【0045】
ここで、吸光度曲線を図7〜図13を確認すると、いずれの染料においても処理後の吸光度曲線が波長400nm〜500nmで吸光度が大きくなっている。これは、バチルスKM(FERM P−22161)による各染料の分解残渣が黄色味を呈することによる。従って、最大吸収波長が黄色に近いRY2(λmax=410nm)、RY76(λmax=460nm)及びRR111(λmax=510nm)の各染料においては、処理後の染料の吸収と分解残渣の吸収が重なって吸光度の測定値に反映されているものと考えられる。
【0046】
このことから、表2におけるRY2、RY76及びRR111の脱色率は、見かけ上大きくなっており本来の脱色率は更に良好なものと思われる。なお、各染料の分解残渣は、他の微生物による通常の活性汚泥処理で容易に分解除去できる。
【0047】
一方、アントラキノン系反応染料であるRB19の分解率は、やはり他のアゾ系反応染料よりも小さな値を示している。しかし、このアントラキノン系反応染料においても好気条件である程度の分解が可能であり、このことからも、バチルスKM(FERM P−22161)は、各種化学構造の染料が複合された繊維染色廃水などの工業廃水の分解に良好な微生物であるといえる。
【0048】
以上説明したように、本発明に係るバチルスKM(FERM P−22161)は、難分解性物質とされるアゾ系染料を効率よく分解することができる。また、嫌気性条件においてのみアゾ系染料分解能を有する従来の微生物に対して、バチルスKM(FERM P−22161)は、嫌気性条件に限らず、好気条件においてもアゾ系染料などの難分解性物質を効率よく分解することができる。更に、本発明に係るバチルスKM(FERM P−22161)は、特別な固定化担体などを用いることを必須としない。
【0049】
従って、本発明に係るバチルスKM(FERM P−22161)を繊維染色廃水の脱色に利用すると、曝気処理を中心とする従来の廃水処理工程をそのまま使用することができる。従って、嫌気処理層や固定化担体を充填したカラムを増設するための設備費用や、これを維持するためのメンテナンス費用など余分な費用を必要としない。
【0050】
また、現在までに発見されている微生物がアゾ系染料などの難分解性物質を分解するのに長時間を要したのに比べ、比較的短時間で染料を脱色することができる。また、上述のように、固定化担体を充填したカラムを使用する必要がないので、着色物質を短時間に効率よく脱色することができる。
【0051】
このように、本実施形態においては、好気性条件であるか嫌気性条件であるかを問わず、アゾ系染料などの難分解性物質を効率よく分解することのできる新規微生物を提供することができる。また、本実施形態においては、当該微生物を用いてアゾ系染料などの難分解性物質を含有する着色廃水を効率よく脱色でき、従来の廃水処理工程にそのまま応用が可能な着色廃水処理方法を提供することができる。
【0052】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態においては、着色廃水として繊維染色工場から排出される各種染料を含有する繊維染色廃水の脱色について説明したが、本発明の対象は繊維染色廃水に限るものではなく、皮革工場、製紙工場、食品工場など各種染料或いは各種色素を含有する廃水、又は、下水処理などあらゆる着色廃水の脱色処理に利用することができる。
(2)上記実施形態における各実施例では、繊維染色廃水の脱色モデルとして最も難分解性のアゾ系染料のみを含有する水溶液をバチルスKM(FERM P−22161)で脱色するものであるが、各種染料及び各種薬剤が複合的に含有される実際の着色廃水に対しても有効に作用するものである。
(3)上記実施形態においては、アゾ系反応染料を主体にその脱色について説明するものであるが、これら反応染料に限るものではなく、染料以外の色素、色材についても有効である。また、反応染料以外の染料、例えば、酸性染料、直接染料或いは分散染料などにも同様に有効である。更に、上述のように、アゾ系染料には特に有効であるが、アゾ系以外の染料、色素に対しても分解能を発揮するものである。
(4)上記実施形態においては、特にアゾ系染料に対して活性の大きなバチルスKM(FERM P−22161)のみを使用するものであるが、このバチルスKM(FERM P−22161)に加え、アゾ系染料以外の染料に対して分解活性の大きな微生物或いは染料以外の他の有機物質に対して分解活性の大きな微生物を併用するようにしてもよい。このことにより、バチルスKM(FERM P−22161)によるアゾ系染料の分解残渣及びバチルスKM(FERM P−22161)が分解を得意としない他の物質の分解を同時に行うことが可能となり、より、脱色効果を向上することができる。
(5)上記実施形態においては、バチルスKM(FERM P−22161)を使用する排水処理設備についてのみ説明したが、このバチルスKM(FERM P−22161)を使用する排水処理設備の前或いは後に、従来の活性汚泥槽、凝集沈殿処理槽、加圧浮上処理槽などを組み合わせて、脱色効果に加えてBOD、CODの低減を図るようにしてもよい。
【受託番号】
【0053】
FERM P−22161

【特許請求の範囲】
【請求項1】
16S−rDNAの遺伝子塩基配列が、配列番号1に記載された塩基配列を含む微生物。
【請求項2】
バチルス属(Bacillus属)に属するバチルス アシディセラー KM(Bacillus acidicelerKM;FERM P−22161)と命名された微生物。
【請求項3】
好気性条件下でアゾ系染料分解能を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の微生物を用いた着色廃水処理方法。
【請求項5】
着色廃水処理が好気性条件で行われることを特徴とする請求項4に記載の着色廃水処理方法。
【請求項6】
着色廃水処理が好気性条件と嫌気性条件とを組み合わせて行われることを特徴とする請求項4に記載の着色廃水処理方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−51901(P2013−51901A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191204(P2011−191204)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第13回化学工学会学生発表会(神戸大会) 〔主催者名〕 (公益社団法人)化学工学会 〔開催日〕 平成23年3月5日(2011年3月5日)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】