説明

新規抗原結合分子、標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法、および任意の標的抗原に対する抗原結合分子の製造方法

【課題】 既知のVLRAやVLRBによって認識されない抗原を認識する新規抗原結合分子(VLR)、およびこれを用いて標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】 ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のロイシンリッチリピート配列(LRR)とを有するVLRであって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有している。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間にロイシンリッチリピート配列(LRR)とを有する新規な抗原結合分子(variable lymphocyte receptor;VLR)、これを用いて標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法、および任意の標的抗原に対するVLRの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高等動物の免疫系においては、多様な病原体を認識して排除するため、リンパ球の一種であるB細胞ゲノムのV(D)J領域が再構成することにより、多様な抗原結合領域が形成される。一方、最も下等な脊椎動物である円口類においては、V(D)J領域の再構成は見られないものの、遺伝子再構成による獲得免疫を持つことが知られている。近年、円口類において、抗原結合分子(variable lymphocyte receptor;VLR)が発見され(非特許文献1)、これまで、VLRAとVLRBとの2つのアイソタイプが同定されている(非特許文献2)。
【0003】
VLRは、そのアミノ酸配列の多様性により、特定のタンパク質その他の分子である標的抗原と特異的に結合ないし認識することが知られている(非特許文献3または4)。例えば、VLRBについては、炭疽菌胞子殻BclAタンパク質に特異的なモノクロナール抗体VLRBが作製されている(非特許文献5)。また、これらVLRは反復エピトープの認識に優れていることが知られており、哺乳動物の抗体である免疫グロブリンによっては認識されにくい脂質や糖鎖抗原等をよく認識することが示唆されている(非特許文献6)。
【0004】
一方、任意のアミノ酸配列を有する様々なタンパク質を提供する方法の一つとして、ファージディスプレイ法が提案されている。ファージディスプレイ法は、ファージのコートタンパク質をコードする遺伝子中に任意の配列からなる外来DNAを挿入し、その外来DNAにコードされているタンパク質をコートタンパク質との融合タンパク質としてファージ粒子表面に提示(ディスプレイ)させる方法である。ランダムな合成DNAを外来遺伝子として用いることにより、ファージ粒子表面に様々なポリペプチドが提示されたファージ群からなるポリペプチドライブラリを得ることができる。この技術を応用し、標的抗原を用いてポリペプチドライブラリをスクリーニングすることにより、標的抗原と結合するポリペプチドを提示するファージ粒子を回収することができる(非特許文献7)。
【0005】
【非特許文献1】Pancer, Z. et al. Nature 430, 174-180(2004)
【非特許文献2】Pancer, Z. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102(26), 9224-9229(2005)
【非特許文献3】Kobe, B et al., Biochem, Sci. 19, 415-421(1994)
【非特許文献4】Kajava, A. V., J. Mol. Biol., Vol.277, 519-527,(1998)
【非特許文献5】Herrin, B. R. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105(6), 2040-2045(2008)
【非特許文献6】Matthew N. A. et al. Nature Immunol. 9, 319-327(2008)
【非特許文献7】Smith G.P. et al. Methods Enzymol. 217, 228-257(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、VLRの抗原結合特異性を規定するLRRの組み換え単位の配列は、VLRアイソタイプによって異なると考えられ、既知のVLRAやVLRBによって認識されないエピトープが存在する可能性があり、新たなVLRアイソタイプが求められている。また、新たなVLRアイソタイプのLRR領域を発現するファージディスプレイライブラリを作製し、標的抗原と特異的に結合するLRRを提示するファージ粒子を選別することによって、既知のVLRAやVLRBによって認識されないエピトープを認識する新規VLRの作製が期待されている。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、既知のVLRAやVLRBによって認識されない抗原を認識する新規VLR、標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法、および任意の標的抗原に対するVLRの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る抗原結合分子(VLR)は、ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のLRRとを有するVLRであって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有している。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys(配列番号1)
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys(配列番号2)
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
【0009】
また、本発明において、前記LRRNTが
Cys−X1−Cys−(X12)−Cys(配列番号3)
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
のアミノ酸配列からなるモチーフを有してもよい。
【0010】
また、本発明に係る標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法は、ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のLRRとを有する抗原結合分子(VLR)であって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有するVLRを、ファージディスプレイ法によりファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する第一の行程と、前記抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する第二の行程と、前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる第三の行程とを有している。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys(配列番号1)
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys(配列番号2)
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
【0011】
また、本発明において、前記LRRNTが
Cys−X1−Cys−(X12)−Cys(配列番号3)
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
のアミノ酸配列からなるモチーフを有してもよい。
【0012】
さらに、本発明に係る任意の標的抗原に対する抗原結合分子(VLR)のインビトロ製造方法は、ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のロイシンリッチリピート配列(LRR)とを有するVLRであって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有するVLRをファージディスプレイ法によりファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する第一の行程と、
前記抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する第二の行程と、
前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる第三の行程と、
前記標的抗原と結合した抗原結合ファージに含まれるVLRをコードする遺伝子を組み換えてVLRを組み換え生産する第四の工程と
を有している。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
【0013】
また、本発明において、前記LRRNTが
Cys−X1−Cys−(X12)−Cys(配列番号3)
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
のアミノ酸配列からなるモチーフを有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、既知のVLRAやVLRBによって認識されない抗原を認識する新規VLRを提供することができ、これにより新たな臨床検査試薬、実験試薬、生体反応を特異的に阻害する阻害剤、および任意の標的抗原に対するVLR等、或いはこの新規VLRを用いた標的抗原結合ファージをスクリーニングするためのキットおよび装置等を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るVLRをpCANTAB5Eベクターへ組み込んで用いた場合の実施形態を示す図である。
【図2】実施例1において得られたESTのアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
【図3】実施例2(3)におけるRACE法を用いて決定された完全長配列のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。なお、下記記載のLRRVについては、C末端側に存在するもののみを示している。
【図4】実施例2(4)で得られた推定アミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
【図5】実施例2(4)で得られた推定アミノ酸配列の近隣結合系統樹を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る抗原結合分子、標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法、および任意の標的抗原に対する抗原結合分子の製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る抗原結合分子(variable lymphocyte receptor;VLR)は、アミノ酸配列の多様性を表現するロイシンリッチリピート配列(LRR)を有しており、LRRはN末端側キャップユニットであるロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)、およびC末端側キャップユニットであるロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)とフランキングする。ここで、「抗原」とは、本発明においては、本発明に係るVLRと結合するタンパク質、脂質、糖鎖抗原等の分子をいい、「結合」には、「認識」や「特異的な相互作用」という概念が含まれる。すなわち、抗原に対し免疫原性の存否は問われず、抗原にはハプテンが含まれる。
【0018】
また、本発明において「抗原結合分子」は、「抗原認識分子」、「抗体」、「抗原受容体」、或いは「リンパ球受容体」と交換可能に用いられる。ここで、「抗体」とは、一般には、リンパ球B細胞の産生する糖タンパク分子であって、抗原を認識して結合するものをいうが、本発明においては、リンパ球B細胞により産生される糖タンパク分子を意味するのではなく、単に抗原と結合する分子をいう。
【0019】
また、LRRとは、一般にはロイシンリッチリピートを意味するが、本発明においてはロイシンリッチリピートを含むアミノ酸配列、またはそのアミノ酸配列からなるドメインないしタンパク質の部分構造をいう。一般に、LRRはロイシン残基を骨格とし、βストランド構造を含む。それらが多数繰り返され、全体として「馬蹄構造」と呼ばれるタンパク質立体構造が形成される。VLRでは、馬蹄構造の凹面に存在するアミノ酸配列の多様性により、様々な標的抗原と特異的に結合ないし認識すると考えられている。
【0020】
次に、LRRCTとは、LRRにC末端側でフランキングする、LRRのシャッフリングの際の不変部分であるシステイン残基に富んだC末端側キャップユニットをいう。これらシステイン残基においてジスルフィド結合が形成されて、VLRのC末端側の構造が安定となる。本発明に係るVLRのLRRCTとしては、アミノ酸配列VKXVNXXXXXXXXC(Vはバリン、Kはリシン、Nはアスパラギン、Cはシステイン、Xは同じまたは異なる任意のアミノ酸を示す)、およびVKXVXTXXXXXXXC(Vはバリン、Kはリシン、Tはトレオニン、Cはシステイン、Xは同じまたは異なるアミノ酸を示す)の少なくともいずれかをモチーフとして有している。
【0021】
また、LRRNTとは、LRRにN末端側でフランキングする、LRRのシャッフリングの際の不変部分であるシステイン残基に富んだN末端側キャップユニットをいい、LRRCTと同様、これらシステイン残基においてジスルフィド結合が形成されて、VLRのN末端側の構造が安定となる。本発明に係るVLRのLRRNTとしては、例えば、VLRAのLRRNTのひとつであるアミノ酸配列CXCXXXXXXXXC(Cはシステイン、Xは同じまたは異なる任意のアミノ酸を示す)をモチーフとして有しているものや、VLRBのLRRNTのひとつであるアミノ酸配列CXXXCXC(Cはシステイン、Xは同じまたは異なる任意のアミノ酸を示す)をモチーフとして有しているもの、アミノ酸配列CXCXXXXXXXXXXXXC(Cはシステイン、Xは同じまたは異なる任意のアミノ酸を示す)をモチーフとして有しているものを挙げることができるが、アミノ酸配列CXCXXXXXXXXXXXXCをモチーフとして有しているものが好ましい。
【0022】
以下、特に前記LRRCTの少なくともいずれかのモチーフと前記LRRNTのモチーフとを有する新規VLRを、VLRCと称する。
【0023】
なお、LRRCTとLRRNTとは、LRRに含まれる場合があるが、本発明においては、LRRと区別する。すなわち、LRRCTとLRRとを分ける部位は、LRRCTが少なくとも前記いずれかのモチーフを含みさえすれば、任意に定めることができ、LRRNTとLRRとを分ける部位は、例えば、LRRNTが前記モチーフを含むようにして任意に定めることができる。また、LRRには、第1ユニットであるLRR1、複数のメインユニットであるLRRV、およびLRRのシャッフリング後に現れるコネクティングペプチド(CP)やLRRV−end(LRRVe)が含まれ、これらは単にLRRと表現される場合がある。
【0024】
以下、本発明に係るVLRの作製方法について、さらに詳細に説明する。本発明に係るVLRの作製方法は、主に、
(1)本発明に係るVLR遺伝子を同定するための相同性検索をする行程
(2)本発明に係るVLR遺伝子をクローニングする行程
(3)本発明に係るVLR遺伝子のアミノ酸解析をする行程
の以上3つの行程を有している。
【0025】
(1)本発明に係るVLR遺伝子を同定するための相同性検索をする行程
主に、公的データベースから既知のEST(expressed sequence tag)塩基配列を複数抽出し、既知のVLRの任意に選択した塩基配列との相同性検索を行い、新規VLRのEST塩基配列を決定する行程である。EST塩基配列とは、遺伝子転写産物の一部に相当する短い配列であり、転写産物の目印とされている。VLRはアミノ酸配列に多様性を有していることから、EST塩基配列を得ることにより新規VLR遺伝子を同定することが好ましい。
【0026】
公知のデータベースとしては、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)、DNA Data Bank of Japan(DDBJ)、Ensembl、FANTOM3等のウェブサイトを挙げることができる。また、ESTデータベースの構築には、公知のデータベース構築ソフトを用いることができ、例えば、Variant Reporter(ABI社)、DNASIS Pro(日立ソフト社)、Lasergene(DNASTAR社)、GENETYX−PDB(ゼネティックス社)等を挙げることができる。さらに、相同性検索は、それらソフト内に内蔵されている周知のアルゴリズムまたはプログラム、例えば、BLAST、BLAST−2、ALIGN、或いはJALVIEWソフトウェア等により可能である。なお、当業者であれば、必要な任意のアルゴリズムを含む配列を測定するために、適切なパラメータを決定することができる。
【0027】
(2)本発明に係るVLR遺伝子をクローニングする行程
主に、常法によりターゲットcDNAを合成した後、(1)の行程で得られたEST塩基配列を基に、常法により遺伝子特異的プライマーを設計して目的遺伝子断片を増幅し、クローニングを行う行程である。以下、本発明において、ゲノムDNAおよびmRNAの抽出 および精製、RT−PCRによるcDNAの作製、PCR、ベクター中へのライゲーション、DNAの塩基配列決定、プライマーの設計および合成等の分子生物学的実験法や生化学的実験法は、基本的には、通常の実験書の記載に従って行うことができる。そのような実験書として、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory manual, 2001, Eds., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
【0028】
前記ターゲットは、新規VLR遺伝子を有する可能性があれば、特に限定されないが、獲得免疫を持つ下等動物である円口類の白血球から抽出されたRNAが好ましい。また、RNAの抽出には、例えば、QIAamp RNA kit(Qiagen社)、Concert Plant RNA Regent(Invitrogen社)、QuickPrep Total RNA Extraction Kit(GEヘルスケア社)、RNeasy Mini Kit(Qiagen社)等を用いることができる。また、RT−PCR法(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)には、例えば、Expand High FidelityPLUS PCR System (Roche社)、Pyrobest (タカラバイオ社)、ThermoScript RT-PCR System 、PLATIUM taq DNA Polymerase High fidelity (いずれもGibco社)、ABI Prism 7000、同7900(いずれもABI社)、Superscript III First Strand Synthesis System(Invitrogen社)等を用いることができる。
【0029】
目的遺伝子断片の増幅は、主に、PCR法(Polymerase Chain Reaction)が用いられるが、これに代わりLAMP法(Loop-mediated Isothermal Amplification)を用いてもよい。また、クローニングベクターとしては、大腸菌中で自律複製できるものが好適であり、例えば、ZAP Express(Stratagene社)、pBluescript II SK(+)(Nucleic Acids Research)、Lambda ZAP II(Stratagene社)、λgt10、λgt11(いずれもDNA Cloning, A Practical Approach)、λTriplEx(Clontech社)、λExCell、pT7T318U、pTrc99A、pKK223−3(いずれもPharmacia社)、pcD2(H.Okayama and P.Berg)、pMW218(和光純薬)、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pSTV28、pSTV29(いずれもタカラバイオ社)、pEG400(J. Bac.)、pQE−30、pQE−80(いずれもQIAGEN社)、pTA2(TOYOBO社)、pCR2.1−TOPO(Invitrogen社)、pGEM−T、pGEM−T Easy(いずれもPromega社)等を挙げることができる。さらに、大腸菌やシュードモナス属菌等の2種以上の宿主微生物で自律的増殖が可能なベクターのほか、各種シャトルベクターを用いることも可能である。この場合、上記制限酵素で切断し、その断片を得ることができる。
【0030】
また、遺伝子クローニングには、例えば、Current Protocols in Molecular Biologyユニット2・4やDNA Cloning 1(Core Techniques, A PracticalApproach, Second Edition, Oxford University Press(1995))等に記載の方法に従って、或いは市販のキット、例えば、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社)、The illustra bacteria genomicPrep Mini Spin Kit(GEヘルスケア社)、PrepMan Ultra Reagent(ABI社)等を用いることができる。さらに、Rapid Amplification of cDNA ends(RACE)法を用いて、欠失部分のcDNAをクローニングすることにより完全長cDNAを得ることもできる。ここで、RACE法とは、近年米国シータス社によって技術化されたPCR法を利用して欠失部分のcDNAを修復及び増幅させる方法をいい、例えば、5’-Full RACE Core Set(タカラバイオ社)、3’-Full RACE Core Set(タカラバイオ社)、Cells-to-cDNA Kit FirstChoice RLM-RACE Kit(Ambion社)、GeneRacer RACE-Ready cDNA kit(Invitrogen社)等を用いて行うことができる。
【0031】
(3)本発明に係るVLR遺伝子のアミノ酸解析をする行程
得られた完全長cDNAの推定アミノ酸配列と既知のVLRアミノ酸配列とのアラインメントと、系統解析法を用いた系統樹の作製とを行う行程である。アラインメントには、例えば、Clustal W、Clustal X ver.2.0(いずれもLarkin et al.)、T−COFFEE(EMBnet)、DIALIGN(Brudno et al., Nuc. Acids. Res. 32: 41-44 (2004))、Match−Box(Depiereux, E. et al., Prot. Engng. 4(6):603-613(1991))、MAP(Huang, X. On Global Sequence Alignment. Computer Applications in the Biosciences(10), 227-235 (1994))等を用いることができる。また、系統樹の作製に用いる系統解析法は特に限定されないが、例えば、最大節約法、最尤法、ベイズ法、近隣結合法(NJ法;Saito, N. et al., Molecular Biology and Evolution (4)406-425(1987))を挙げることができる。近隣結合法による系統樹(近隣結合系統樹)の作製には、例えば、MEGA package(Kumar, S. et al., molecular evolutionary genetics analysis version 4.1. The Pennsylvania State University, University Park. (1993))、microSeq Microbial Identification System(ABI)等を用いることができる。
【0032】
次に、本発明に係る標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法について、さらに詳細に説明する。本発明に係る標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法は、主に、
(1)本発明に係るVLRをファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する行程
(2)抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、抗原結合ファージライブラリのうち標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する行程
(3)抗原結合ファージライブラリのうち標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる行程
の以上3つの行程を有している。
【0033】
(1)本発明に係るVLRをファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する行程
本行程は、本発明に係るVLRをコードするDNAを用いて、本発明に係るVLRまたはこれを有するポリペプチドを、ファージディスプレイ法(Smith G.P., Science, 228, 1315-1317(1985)等)、によってファージ粒子表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する行程である。すなわち、本発明に係るVLRをコードするDNA、またはこれに相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ抗原に結合する能力を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、ファージのコートタンパク質遺伝子のいずれかに挿入し、これをファージに組み込む。そして、本発明に係るVLRまたはこれを有するポリペプチドとファージのコートタンパク質との融合タンパク質を発現させ、ファージ粒子表面に提示させることにより、抗原結合ファージライブラリを作製することができる。また、このファージを大腸菌等の宿主に感染させることにより、ファージのゲノムDNAを効率よく複製することができる。
【0034】
ここで、前記「ストリンジェントな条件」とは、特別な場合を除き、6M尿素,0.4%SDS,0.5×SSCの条件、またはこれと同等のハイブリダイゼーション条件を指し、さらに必要に応じて、よりストリンジェンシーの高い条件を適用してもよく、例えば、6M尿素,0.4% SDS,0.1×SSC、またはこれと同等のハイブリダイゼーション条件を挙げることができる。それぞれの条件において、温度は約40℃以上とすることができ、よりストリンジェンシーの高い条件が必要であれば、例えば、約50℃ないし65℃としてもよい。また、ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング第二版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0035】
また、本発明で用いられるファージは特に限定されないが、例えば、T4ファージ、T7ファージ、λファージ、繊維状ファージを挙げることができ、繊維状ファージが好ましい。さらに、繊維状ファージ(filamentous phage)としては、例えば、f1、fd、M13等を挙げることができるが、環状一本鎖ゲノムDNAを持ち、かつgene 3 protein(g3p,以下同様),g6p,g7p,g8p,g9pの5つのコートタンパクがアセンブリされた、桿状のM13ファージがより好ましい。
【0036】
なお、M13ファージを用いる場合、本発明に係るVLRまたはこれを有するポリペプチドのファージ粒子表面への提示は、これをコードするDNA、またはこれに相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ抗原に結合する能力を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、g3p,g6p,g7p,g8p,g9pのいずれかのコートタンパク質遺伝子に挿入することにより可能となるが、M13ファージ粒子の最終的パッケージングを破壊せずに融合タンパク質を提示させることができる観点から、g3pまたはg8pと融合させ、提示させることが好ましく、g3pと融合させ、融合タンパク質としてファージ粒子表面に提示させることがより好ましい。
【0037】
また、本発明で用いられるベクターは、ファージの一本鎖ゲノムを改良してベクターとして用いてもよく、外来プラスミドベクターを用いてもよい。外来プラスミドベクターとしては、例えば、ファージへのパッケージングシグナルを含むファージミドベクターを挙げることができる。ファージミドベクターを用いる場合は、一本鎖DNAとしてファージ粒子中にパッケージングさせるために、ヘルパーファージを感染させる必要があり、これにより培養上清から一本鎖DNAを得ることができる。なお、好ましいファージミドベクターとして、pCANTAB5Eを挙げることができ、pCANTAB5Eベクターを用いる場合は、図1に示すように、制限酵素サイトSfiIおよびNotIを利用することができる。
【0038】
また、形質転換させた宿主は、当業者によって適宜選択可能な培地を用いて培養することができ、これにより高濃度の抗原結合ファージ溶液を得ることができる。
【0039】
ここで、本発明に係るVLRまたはこれを有するポリペプチドのファージ粒子表面への提示には、LRRをコードするポリヌクレオチドを任意に選択して用いてもよく、或いは、Stumpp M.T.らの方法(Stumpp M. T. et al., J. Mol. Biol. 332(2)471-87(2003))に従い、前記得られた完全長cDNAから縮重ポリヌクレオチドを合成して用いてもよい。
【0040】
なお、前記選択或いは縮重合成されたLRRポリヌクレオチドは、LRRNT、LRRCT、および他のLRRポリヌクレオチドとライゲーションさせて、VLRとして用いることができる。この場合、例えば、免疫染色、フローサイトメトリー、免疫沈降法等を用いて、作製したVLRの有用性を検討することもできる。
【0041】
(2)抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、抗原結合ファージライブラリのうち標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する行程
本行程は、行程(1)において作製した抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させた後、標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去して標的抗原と結合した抗原結合ファージを得る行程である。
【0042】
例えば、標的抗原を固相基板、フィルム、テープ、ビーズ等の固相担体に固定して本行程を行う場合、この固相担体表面に抗原結合ファージライブラリを含む溶液を接触させてインキュベートした後、この固相担体表面を洗浄し、標的抗原に親和性を有しないポリペプチドを提示しているファージ粒子を除去することにより、標的抗原とポリペプチドとの相互作用によって固相担体表面に捕捉されたファージ粒子を回収する等の行程を挙げることができる。さらに、例えば、標的抗原をビオチン化し、固定化されたストレプトアビジンを介して固定化することで、標的抗原の性質に関係なく、またその構造に影響を与えずに固定することができ、標的抗原に特異的な抗原結合ファージを濃縮することができる。
【0043】
また、例えば、液相に含まれる標的抗原について本行程を行う場合、液相に抗原結合ファージライブラリを含む溶液を加えてインキュベートした後、遠心分離によって標的抗原に親和性を有しないポリペプチドを提示するファージ粒子を除去し、さらに標的抗原に親和性を有するポリペプチドを提示するファージ粒子を加えた後に、遠心分離により沈殿を回収する等の行程を挙げることができる。さらに、標的抗原に親和性を有するポリペプチドを提示するファージ粒子にセファロースビーズ等の担体を結合させることで、標的抗原に特異的な抗原結合ファージを濃縮することができる。
【0044】
(3)抗原結合ファージライブラリのうち標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる行程
本行程は、行程(2)によって濃縮された、標的抗原と結合した抗原結合ファージを宿主大腸菌に感染させて増幅させる行程である。例えば、酸処理等によって回収した抗原結合ファージを宿主大腸菌に感染させて増幅させれば、行程(2)〜(3)の一連の操作により、標的抗原に親和性を有するリガンドを提示する、標的抗原と結合した抗原結合ファージがさらに濃縮され、標的抗原に対して高い親和性を有する抗原結合ファージ粒子群を得ることができる。なお、行程(2)〜(3)を複数回行う方法(バイオパニング法;Affinity selection)により、より濃縮された、標的抗原と結合した抗原結合ファージ粒子群を得ることができる。
【0045】
次に、本発明に係る任意の標的抗原に対するVLRのインビトロ製造方法について、さらに詳細に説明する。本発明に係る標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法は、主に、
(1)本発明に係るVLRをファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する行程
(2)抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、抗原結合ファージライブラリのうち標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する行程
(3)抗原結合ファージライブラリのうち標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる行程
(4)標的抗原と結合した抗原結合ファージに含まれるVLRをコードする遺伝子を組み換えてVLRを組み換え生産する工程
の以上4つの行程を有している。なお、本発明の構成のうち、前述した標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法と同一または相当する構成については再度の説明を省略する。
【0046】
(4)標的抗原と結合した抗原結合ファージに含まれるVLRをコードする遺伝子を組み換えてVLRを組み換え生産する工程
本行程は、行程(3)により濃縮された、標的抗原と結合した抗原結合ファージ粒子が提示するVLRをコードする遺伝子から、VLRを組み換え生産する行程である。このVLRの組み換え生産は、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory manual, 2001, Eds., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Press等、当業者に広く知られている各種実験マニュアルに記載されている方法を利用することができる。
【0047】
より具体的には、例えば、VLRをコードする遺伝子またはこの遺伝子を含むベクターで形質転換された宿主細胞を、適当な条件下で培養して培養混合物を回収し、VLRを回収して、必要に応じて精製することができる。この精製方法は、当業者により適宜選択することができるが、例えば、塩析法、限外濾過法、等電点沈澱法、ゲル濾過法、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーや抗体クロマトグラフィー等の各種アフィニティークロマトグラフィー、クロマトフォーカシング法、吸着クロマトグラフィー、および逆相クロマトグラフィー等を挙げることができる。また、必要に応じてHPLC等を使用することもできる。
【0048】
以下、本発明に係るVLRの作製方法を、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例1】
【0049】
<新規VLR遺伝子を同定するための相同性検索>
新規VLR遺伝子を同定するため、ウミヤツメ(Petromyzon marinus)由来のexpressed sequence tag(EST)データベースを構築し、既知のVLR遺伝子をクエリーとして相同性検索を行った。
【0050】
公的データベースであるNCBI(National Center for Biotechnology Information)の trace archives homepage(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Traces/trace.cgi)から、ウミヤツメ由来のEST塩基配列を抽出し、データベース構築ソフトウェアであるGENETYX−PDB Ver.5(ゼネティックス社)を用いてウミヤツメESTデータベースを構築した。NCBIに登録されているヤツメウナギ類(Lamprey)とメクラウナギ類(Hagfish)のVLRA遺伝子およびVLRB遺伝子のアミノ酸配列から任意に選択した配列をクエリーとして相同性検索を行った。この相同性検索は、GENETYX−PDB Ver.5に内蔵されているTBLASTNプログラムを用いて行った。
【0051】
その結果、図2に示すように、既知のVLRAおよびVLRBとは異なる配列を有するEST塩基配列が得られた。その塩基配列を配列番号4に示す。これにより新規VLR遺伝子の存在の可能性が確認され、これをVLRCと命名した。
【実施例2】
【0052】
<VLRC遺伝子のクローニング>
実施例1で得られたEST塩基配列を基に、以下の方法にてVLRC遺伝子のクローニングを試みた。
【0053】
(1)cDNAの合成
カワヤツメ(Lethenteron japonicum)を100mg/Lのトリカイン・メタンスルフォネート(TMS,MS222;Sigma社)で麻酔した後、尾部切断によってその血液を採取した。この血液をHistopack 1077(Sigma社)上に重層し、4℃、1500rpmの条件下、30分間遠心することにより白血球を採取した後、RNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いて白血球由来RNAを抽出した。続いて、Superscript III First Strand Synthesis System(Invitrogen社)を用いてRT−PCRを行い、1μgのTotal RNAからcDNAを合成した。
【0054】
(2)VLRC遺伝子を含む完全長cDNAの取得
実施例1で得られたEST配列を基に、2種類のオリゴヌクレオチドを合成した。その配列は、
5’−caactgcaga gtgttcctga cgg−3’(配列番号5)
5’−catccgtgtg ctcatgggtt gc−3’(配列番号6)
で表される。
【0055】
前記配列番号5および配列番号6の各オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PCRを以下の条件で行った。
−反応試薬−
バイオ実験イラストレイテッド第三巻(秀潤社)掲載のプロトコルに従って反応液を調製した。反応にはDNAポリメラーゼとしてAmpliTaq Gold(ABI社)を用い、この酵素に付属の溶液を使用した。本実施例(1)で得られたcDNA 5ng相当を鋳型として用いた。
−反応条件−
95℃で10分の反応の後、95℃で15秒、37℃で1分、72℃で30秒の各反応を1サイクルとして3サイクル行い、その後、95℃で15秒、57℃で1分、72℃で30秒の各反応を1サイクルとして40サイクル行い、さらに72℃で7分の反応を行った。その結果、約300bpのDNA断片の増幅が確認された。
【0056】
続いて、pGEM T-Easy Vector Systems I(Promega社)を用いて、この増幅されたDNA断片をプラスミドベクターpGEM−T EasyにTAクローニングした。操作は付属のマニュアルに従って行った。形質転換液を、アンピシリン(最終濃度100μg/mL)を含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩静置培養した。生じたコロニーをLB培地2mLに植菌し、37℃で一晩培養した後にpGEM-T Easy- LjVLRC_c2プラスミドを調製した。その塩基配列を配列番号7に示す。
【0057】
次に、完全長VLRC cDNAの配列情報を得るため、Rapid Amplification of cDNA ends(RACE)法を行った。具体的には、GeneRacer RACE-Ready cDNA kit(Invitrogen社)を用い、付属のマニュアルに従って操作し、欠失部分のcDNAをクローニングした。
【0058】
まず、遺伝子の5’末端を増幅するため、最初の反応と二回目の反応とに用いる2種類のオリゴヌクレオチドを合成した。その配列は、
5’−gagacaaaag gcatgttaca caca−3’(配列番号8)
5’−atgtagcagg ggtgggagac gatgc−3’(配列番号9)
で表される。
【0059】
次に、遺伝子の3’末端を増幅するため、最初の反応と二回目の反応とに用いる2種類のオリゴヌクレオチドを合成した。その配列は、
5’−gcatcgtctc ccacccctgc tacat−3’(配列番号10)
5’−tgtgtgtaac atgccttttg tctc−3’(配列番号11)
で表される。
【0060】
上記配列番号8、配列番号9、配列番号10、および配列番号11の各オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PCRを前述と同様の条件で行い、5’末端については約700bpのDNA断片の増幅が、3’末端については約500bpのDNA断片の増幅が、各々確認された。増幅された5’末端と3’末端とのDNA断片は、前述と同様の手法によりTAクローニングした。形質転換液を、アンピシリン(最終濃度100μg/mL)を含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩静置培養した。生じたコロニーをLB培地2mLに植菌し、37℃で一晩培養することによりpGEM-T Easy- LjVLRC_5RACE_A5T9002プラスミドおよびpGEM-T Easy- LjVLRC_3RACE_A3c4プラスミドを調製した。それらの塩基配列を配列番号12および配列番号13に示す。
【0061】
続いて、前記pGEM-T Easy- LjVLRC_c2プラスミド、pGEM-T Easy- LjVLRC_5RACE_A5T9002プラスミド、およびpGEM-T Easy- LjVLRC_3RACE_A3c4プラスミドをテンプレートとして、各々のDNA断片の塩基配列を決定した。この塩基配列の決定は種々の合成DNAをプライマーとして、CEQ2000XL DNA Analysis System(Beckman Coulter社)を用いて、常法に従ってジデオキシ法により行った。
【0062】
(3)完全長VLRC cDNA配列の決定
前記pGEM-T Easy- LjVLRC_c2プラスミド、pGEM-T Easy- LjVLRC_5RACE_A5T9002プラスミド、およびpGEM-T Easy- LjVLRC_3RACE_A3c4プラスミドの配列解析の結果から、完全長VLRC cDNAは1399塩基で構成されることが確認された。その塩基配列を配列番号14に示す。また、図3に示すように、VLRAおよびVLRBのアミノ酸配列とのアラインメントを、無償提供されているClustal X ver.2.0(http://www.clustal.org/download/current/, Larkin et al., Bioinformatics 23: 2947-2948(2007))を用いて行った。なお,配列番号14の塩基配列は3つのLRRVを含んでいるが,図3ではC末端側に存在するLRRVのみを示している。
【0063】
(4)VLRCの多様性領域の単離
本実施例(2)で得られた決定した完全長cDNA配列を基に、2種類のオリゴヌクレオチドを合成した。その配列は、
5’−agtgttggtc ccgtgcgagc−3’(配列番号15)
5’−ggtgggagac gatgctgtaa−3’(配列番号16)
で表される。
【0064】
上記配列番号15および配列番号16の各オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PCRを以下の条件で行った。
−反応試薬−
Expanded High Fidelity PCR System(Roche Applied Science 社)の付属のマニュアルに従って反応液を調製した。反応には本実施例(1)で作成したcDNA 15ngを鋳型として用いた。
−反応条件−
94℃で2分の反応を1サイクル行い、その後、94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で1分の各反応を1サイクルとして35サイクル行い、さらに72℃で7分の反応を行った。
【0065】
この増幅されたDNA断片を、TOPO TA Cloning kit(Invitrogen社)または前記pGEM T-Easy Vector Systems I(Promega社)を用いて、プラスミドベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen社)またはプラスミドベクターpGEM−T Easy(Promega社)にTAクローニングした。操作は付属のマニュアルに従って行った。形質転換液を、アンピシリン(最終濃度100μg/mL)を含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。生じたコロニーをLB培地2mLに植菌し、37℃で一晩培養した後に複数のプラスミドDNAを調製した。
【0066】
続いて、プラスミドDNAをテンプレートとして、DNA断片の塩基配列を決定した。塩基配列の決定は種々の合成DNAをプライマーとして、CEQ2000XL DNA Analysis System(Beckman Coulter社)を用いて、常法に従って行った。TAクローニングされた挿入DNAを、種々の合成DNAをプライマーとして用いて、ジデオキシ法により複数のプラスミドDNAの塩基配列を決定した。それらの塩基配列を配列番号17〜35に示す。これにより、19のVLRC遺伝子をクローニングすることに成功した。
【実施例3】
【0067】
<VLRCのアミノ酸配列解析>
実施例2(4)で得られた配列番号17〜35から推定アミノ酸配列を決定した。それらのアミノ酸配列を配列番号36〜54に示す。それらアミノ酸配列について、前記Clustal Xを用いてアラインメントを行った。その結果を図4に示す。また、そのアミノ酸配列を用いて近隣結合系統樹の構築を行った。系統樹構築はMEGA ver 4.1 Beta program(http://www.megasoftware.net/)を用いて行った。これを図5に示す。既に報告のあるVLRB抗体は、図1で示すような多様性に富んだ可変領域を有し、かつこの可変領域が抗原と結合することが知られている。したがって、VLRCもVLRBと同様に、その可変領域を介して抗原に結合する能力を有することが強く示唆された。
【0068】
以上のような本実施例によれば、既知のVLRAやVLRBによって認識されない抗原を認識する新規VLRを提供することができ、これにより、新たな臨床検査試薬、実験試薬、および生体反応を特異的に阻害する阻害剤等、或いはこの新規VLRを用いた標的抗原結合ファージをスクリーニングするためのキットおよび装置等を製造することができる。
【0069】
なお、本発明に係るVLR、標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法、および任意の標的抗原に対するVLRの製造方法は、前述した実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、本発明に係るVLRが抗体として機能するのではなく、エピトープペプチド、阻害ペプチド、或いはアンタゴニスト(アゴニスト)ペプチドとして機能してもよい。また、ファージディスプレイ法に代えて、例えば、bacteria two−hybrid法、yeast two−hybrid法、in vitroウイルス法等を用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のロイシンリッチリピート配列(LRR)とを有する抗原結合分子(VLR)であって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有するVLR。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
【請求項2】
前記LRRNTが
Cys−X1−Cys−(X12)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
のアミノ酸配列からなるモチーフを有する請求項1に記載のVLR。
【請求項3】
ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のロイシンリッチリピート配列(LRR)とを有する抗原結合分子(VLR)であって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有するVLRをファージディスプレイ法によりファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する第一の行程と、
前記抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する第二の行程と、
前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる第三の行程と
を有する標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
【請求項4】
前記LRRNTが
Cys−X1−Cys−(X12)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
のアミノ酸配列からなるモチーフを有する請求項3に記載の標的抗原結合ファージをスクリーニングする方法。
【請求項5】
ロイシンリッチリピートN−ターミナル隣接領域(LRRNT)と、ロイシンリッチリピートC−ターミナル隣接領域(LRRCT)と、前記LRRNTと前記LRRCTとの間に一または複数のロイシンリッチリピート配列(LRR)とを有する抗原結合分子(VLR)であって、前記LRRCTが以下の(a)および(b)の少なくともいずれかのアミノ酸配列からなるモチーフを有するVLRをファージディスプレイ法によりファージ表面に提示させて抗原結合ファージライブラリを作製する第一の行程と、
前記抗原結合ファージライブラリと標的抗原とを反応させて、前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合しない抗原結合ファージを除去する第二の行程と、
前記抗原結合ファージライブラリのうち前記標的抗原と結合した抗原結合ファージを大腸菌に感染させて増殖させる第三の行程と、
前記標的抗原と結合した抗原結合ファージに含まれるVLRをコードする遺伝子を組み換えてVLRを組み換え生産する第四の工程と
を有する任意の標的抗原に対するVLRのインビトロ製造方法。
(a)Val−Lys−X1−Val−Asn−(X8)−Cys
(b)Val−Lys−X1−Val−X1−Thr−(X7)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
【請求項6】
前記LRRNTが
Cys−X1−Cys−(X12)−Cys
{式中、Xは任意のアミノ酸を表し、Xn(nは自然数)はn残基の同じまたは異なる任意のアミノ酸Xからなるアミノ酸配列を示す。}
のアミノ酸配列からなるモチーフを有する請求項5に記載の任意の標的抗原に対するVLRのインビトロ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31066(P2012−31066A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305003(P2008−305003)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】