説明

新規抗生物質GFPPT−01

【課題】新規の抗生物質の提供。
【解決手段】下記式
【化1】


で表される化合物であるGFPPT-01物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質として医薬、農薬に有用な広い抗菌活性を有する新規抗生物質GFPPT-01及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで数々の抗生物質が微生物から発見され利用されてきたが、近年の多剤耐性菌の発生などにより、常に新規の抗生物質の開発が望まれている。これら抗生物質のうち細菌由来の物はそのほとんどがストレプトマイセス属由来の物質であり、同じ放線菌であるロドコッカス属からはほとんど報告がなかった。しかしロドコッカス属はポリ塩化ビフェニル(PCB)分解を初めとする様々な能力を有しており、実際には抗生物質生産能を有する株も少なくないと予測される。長年にわたるスクリーニングによりストレプトマイセス属からの新規の抗生物質の発見が難しくなっているが、これまであまり注目されていなかったロドコッカス属からのスクリーニングにより新規の抗生物質を発見することが大きく期待される。
【0003】
従来より、種々のキノリン誘導体が抗生物質として用いられており、例えばオーロシンA、B、C、D等が知られていた(特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公報第DE3520229-A号明細書
【非特許文献1】Kunze B, et al., J Antibiot 40: 258-265 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる実情において、新規の抗生物質を見いだせれば、新しい医薬品あるいは農薬として用いることができると期待される。
【0006】
本発明はこのような期待に応えるロドコッカス属細菌から発見した新規の抗生物質とその製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記のごとき課題を解決すべくロドコッカス属細菌をスクリーニングし、多数の抗菌活性を有する株を見いだした(特願2007-72535)。さらにこれらの菌株の抗菌活性、抗菌成分について検討した結果、Rhodococcus erythropolis JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824及びJCM 6827から新規の抗生物質を見いだし、GFPPT-01と称することとした。本発明はかかる知見に基づいてGFPPT-01物質とその製造法について完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]である。
[1] 下記式
【0009】
【化1】

で表される化合物であるGFPPT-01物質。
[2] ロドコッカス属に属し、GFPPT-01物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、該培養液中にGFPPT-01物質を蓄積せしめ、該培養物からGFPPT-01物質を採取することを特徴とするGFPPT-01物質の製造法。
[3] ロドコッカス属に属し、GFPPT-01物質を生産する能力を有する微生物が、Rhodococcus erythropolis JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824又はJCM 6827である[2]の製造法。(JCM = Japan Collection of Microorganisms (理化学研究所))
[4] [1]の化合物を有効成分として含む抗菌剤。
[5] [1]の化合物を有効成分として含む細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物。
[6] [1]の化合物を有効成分として含む細菌による植物病害防除のための農薬組成物。
[7] [1]の化合物を有効成分として含む、化粧品、医薬品又は食品の防腐剤。
[8] [1]の化合物を有効成分として含む、化粧品、医薬品又は食品の品質保存剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によりロドコッカス属細菌由来の新規の抗生物質とその製造法が提供される。本発明で提供する抗生物質GFPPT-01は、広い細菌に対して抗菌活性を有し、特にグラム陽性細菌に良好な生育阻害効果を示す。これらを用いることで感受性微生物を防除することができるため、農業、医療の現場で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗生物質GFPPT-01の製造法ついて説明する。
本発明で使用されるGFPPT-01物質生産菌としては、前述のRhodococcus erythropolis JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824及びJCM 6827菌株が好ましい例として挙げられる。これらの菌株は、独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM; Japan Collection of Microorganisms)に保存されており、入手可能である。菌は一般的に極めて変異し易く、形態や機能は一定したものではなく、自然的にあるいは紫外線などにより変異株が発生することは周知の事実である。これらの変異株も含め、ロドコッカス属に属し、前記の式[1]で表されるGFPPT-01物質又はその物質を含む組成物を生産する能力を有する菌株はすべて本発明に使用することができる。
【0012】
本発明のGFPPT-01物質を製造するにあたっては、先ずロドコッカス属に属するGFPPT-01物質生産菌を培地中で培養することにより行われる。GFPPT-01物質生産菌が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。例えば、LB培地(トリプトン10 g、イーストエキストラクト5 g、塩化ナトリウム5 g / 1L)やW培地(KH2PO4 0.85 g、Na2HPO4・12H2O 4.90 g、(NH4)2SO4 0.50 g、MgSO4・7H2O 0.10 g、FeSO4・7H2O 0.0095 g、MgO 0.01075 g、CaCO30.002 g、ZnSO4・7H2O 0.00144 g、MnSO4・4H2O 0.00112 g、CuSO4・5H2O 0.00025 g、CoSO4・5H2O 0.00028 g、H3BO3 0.00006 g、Conc. HCl 0.0513 ml / 1L)に各種炭素源を添加した物などを用いることができるが、ロドコッカス属が生育し、GFPPT-01物質を生産することができる培地であれば、どんな組成の培地も用いることができる。
【0013】
生産菌株の培養には少量の場合バッフル付き三角フラスコを用いた回転振盪培養が用いられるが、通気した大型培養タンクなどを用いることもできる。培養温度は通常20〜30℃であるが好ましくは25〜28℃である。培養時間はこのような条件を用い通常1〜3日間であり、細胞の対数増殖期の後期まで培養するのが望ましい。
【0014】
このようにして得た培養物に蓄積されるGFPPT-01物質は通常培養液中に存在する。培養液に存在するGFPPT-01物質は通常用いられる水相中から疎水性の物質を回収する手法によって行うことができる。たとえば酢酸エチルなどの有機溶媒による抽出やシリカゲルなどの疎水カラムを用いた回収、あるいはこれらの組み合わせや反復によって行うことができる。また菌体細胞中に存在するGFPPT-01物質も有機溶媒抽出によって回収することができる。このようにして得た粗GFPPT-01物質から、ODSカラムなどを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって高度に精製したGFPPT-01を得ることができる。
【0015】
次に本発明の抗生物質GFPPT-01の理化学的性状について説明する。
抗生物質GFPPT-01の理化学的性状は、公知の方法で解析することができる。
(1) 性状 : 茶褐色油状
(2) 分子式 : C25H33NO3
(3) 分子量 : 395
計算値 : 395.53446
実測値(ESI(+)/MS) : アプライドバイオシステムズ社QSTAR XL型質量分析計(TOF型)で[M+H]+; m/z 396.2547及び[M-H2O+H]+; m/z 378.2438を観測
(4) 紫外部吸収スペクトル : テトラヒドロフラン中で測定した吸光スペクトルは図1に示す通りであり、248 nm、258 nm、298 nm、340 nmのそれぞれ近傍に極大吸収を示す。
(5) 溶剤に対する溶解性 : エタノール、メタノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシドに可溶、水に難溶であるが20%エタノール水には可溶。
(6) プロトン核磁気共鳴スペクトル (NMR): 日本電子(株)社JNM-ECA400核磁気共鳴スペクトロメータ(重水素化ジメチルスルホキシド中)での測定は図2に示す通りであり、その水素の化学シフト(ppm)は下記表1に示す通りである。
(7) カーボン核磁気共鳴スペクトル (NMR): 日本電子(株)社JNM-ECA400核磁気共鳴スペクトロメータ(重水素化ジメチルスルホキシド中)での測定は図3に示す通りであり、その炭素の化学シフト(ppm)は下記表1に示す通りである。またそれぞれの水素・炭素の帰属を図4に示す通りに決定した。
【0016】
【表1】

【0017】
以上のようにGFPPT-01物質の各種理化学性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、GFPPT-01物質は下記の式で表される化学構造であることが決定された。
【0018】
【化2】

【0019】
本GFPPT-01物質は抗生物質aurachin C (DE3520229-A及びKunze B, Hofle G, Reichenbach H. The aurachins, new quinoline antibiotics from myxobacteria: production, physico-chemical and biological properties. J Antibiot 40: 258-265 (1987)と類似の構造であるが、炭化水素鎖に水酸基が置換(図4に示す炭素番号10に置換)している点で異なっており、以下に示すように抗菌の機能も異なっている。またaurachin Cの類似物質としてaurachin A, B, Dも報告されているが、いずれも炭化水素鎖に水酸基が置換しておらず(DE3520229-A及びKunze B, Hofle G, Reichenbach H. The aurachins, new quinoline antibiotics from myxobacteria: production, physico-chemical and biological properties. J Antibiot 40: 258-265 (1987))、GFPPT-01物質とは異なる構造の物質である。
【0020】
抗生物質GFPPT-01物質の抗菌活性は、例えば、GFPPT-01物質をしみ込ませた濾紙(ペーパーディスク)を作成し、これをソフトアガー試験に用いることで確認できる。寒天培地に感受性菌を含むソフトアガーを重層した後、あらかじめ準備したペーパーディスクをその上に置き、培養後の阻止円の形成を観察することにより行う。抗生物質GFPPT-01物質は、主にグラム陽性細菌に対して強い抗菌活性を有し、一部のグラム陰性細菌に対しても抗菌活性を有する。例えば、Bacillus subtilis IAM 12118T、Paenibacillus polymyxa IAM 13419T、Arthrobacter atrocyaneus IAM 12339T、Corynebacterium glutamicum IAM 12435T、Nocardia pseudosporangifera IAM 501T、Streptomyces griseus IAM 12311T、Rhodococcus erythropolis IAM 12122T等のグラム陽性細菌、Sinorhizobium meliloti IAM 12611TDeinococcus grandis IAM 13005T等のグラム陰性細菌に対して抗菌活性を有する。このうち、Arthrobacter atrocyaneus IAM 12339T、Corynebacterium glutamicum IAM 12435T、Nocardia pseudosporangifera IAM 501Tに対しては、MIC(μg/ml)が0.01より小さく非常に強い抗菌活性を有する。
【0021】
本発明は、抗生物質GFPPT-01物質を有効成分として含む抗菌剤組成物をも包含する。抗生物質GFPPT-01物質を含む抗菌剤は、植物に感染し得る細菌を防除し植物病害を防除するための農薬組成物として用いることができる。農薬組成物は、通常、農薬の製剤に用いられる、公知の固体及び液体担体、並びに分散剤、希釈剤、乳化剤、展着剤、増粘剤等の補助剤と混合して、水和剤、液剤、油剤、粉剤、粒剤、ゾル剤(フロアブル剤)、ゲル剤等の剤型に製剤して使用することができる。農薬組成物は、植物(茎葉散布)、植物の生育土壌(土壌施用)、田面水(水面施用)、種子(種子処理)等に施用することができる。施用量は、適用する植物、適用する植物の病害の種類等により異なるが、例えば、有効成分量で10アール当たり0.1〜1000gで用いることができる。
【0022】
また、抗生物質GFPPT-01物質は、細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物として用いることもできる。本発明の抗生物質GFPPT-01物質を有効成分として含む細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物は、好ましくは、抗生物質GFPPT-01物質に加えて、生理学的に許容され得る担体又は希釈剤を含んでいる。適切な担体には、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、及び緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物は、種々の形態で投与することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は、注射剤、点滴剤、坐薬等による非経口投与を挙げることができる。投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、通常、経口投与では、成人に対して、1日約0.01mg〜1000mgであり、これらを1回又は数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、1回約0.01mg〜1000mgを皮下注射、筋肉注射又は静脈注射によって投与することができる。
【0023】
本発明は、抗生物質GFPPT-01物質を被験体へ投与することを含む細菌感染症の予防又は治療法をも包含し、さらに本発明は抗生物質GFPPT-01物質の細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物の製造への使用をも包含する。
【0024】
抗生物質GFPPT-01物質は、さらに化粧品、医薬部外品を含む医薬品、食品の防腐剤又は品質保存剤として用いることができる。特に化粧品及び医薬品の防腐剤、並びに食品の品質保存剤として用いることができる。化粧品、医薬品、食品の種類は限定されず、固体のもの、液体のもの等あらゆる形態のものに用いることができる。含有量も限定されず、適宜決定することができるが、例えば0.001〜10%(v/v, w/w又はw/v)の濃度範囲で化粧品、医薬品又は食品に添加すればよい。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0026】
実施例1 Rhodococcus erythropolis を用いたGFPPT-01の生産
1: 生産菌株の培養
種菌ストックの作成: LB寒天培地に生育したRhodococcus erythropolis JCM 6824株をW培地にコハク酸、カザミノ酸(Difco社)、スクロースをそれぞれ0.2%とチアミン0.002%を加えた培地100 mlに少量植菌し、28℃で一晩振盪培養した。生育した菌体を遠心分離機を用いて集菌し、氷冷した20 mlの10%グリセロールで2回洗浄し、20 mlの10%グリセロールで再懸濁し、これを2 mlずつ分注し-80℃で保存、種菌ストックとした。
【0027】
本培養: 2リットル容のバッフル付き三角フラスコ6本を用い、それぞれに上記の炭素原等を加えたW培地600 mlを入れ、種菌ストック600μlを植菌し、培養温度28℃、回転振盪数120 rpm、で28時間培養した。
【0028】
2: 培養液からのGFPPT-01の回収
C18カラムを用いた回収
計3.6リットルの培養液を遠心分離機を用いて菌体と培養上清に分離した。この培養上清を更に孔経0.2μmのメンブレンフィルターに通し、完全に細胞を取り除いた。フィルターに通した培養上清全量をC18 カートリッジ(SepPak(登録商標)Vac 35 cc, Waters社)に通し、GFPPT-01をカラムに吸着させた。このカラムを100 mlの20%エタノールで洗浄し、更に30 mlの50%エタノールで洗浄後、25 mlの100%エタノールで溶出、溶出順に5 mlずつ5本に回収した。通常この2本目から4本目の計15 mlにGFPPT-01は溶出された。
【0029】
有機溶媒を用いた回収
上記と同様に3.6リットルの培養からフィルターに通した培養上清を調製し、900 ml (培養全量に対し1/4容)の酢酸エチルを加え、スターラーを用いて1時間激しく攪拌した。これを遠心分離機を用いて水相と酢酸エチル相に分離し、上層である酢酸エチル相を約600 ml回収した。次に無水硫酸ナトリウム24 gを加えて激しく攪拌し、酢酸エチル相に残る水分を脱水した。脱水した酢酸エチルを遠心エバポレーターを用いて完全に乾燥させ、残渣を15 mlの100%エタノールに溶解した。
【0030】
3: GFPPT-01の粗精製
上記の2通りのいずれかの方法で回収した抗生物質を20%エタノール液になるように滅菌水で希釈し、C18カートリッジ(SepPak(登録商標)plus environmental, Waters社)に通した。これを7 mlの50%エタノールで洗浄後、2.3 mlの100%エタノールで溶出し、GFPPT-01の粗精製物とした。
【0031】
4: HPLCを用いた高度な精製
エタノールに溶解の粗精製したGFPPT-01を下記条件のHPLCで分析し、当該画分(ピーク)を分取、精製した。
HPLC分離条件
カラム: 東ソー株式会社製 TSK-GEL ODS-80TS 4.6 mm (ID) × 150 mm (L)
溶離液: 68-78%メタノール(0-7 min)、78-90%メタノール(7-7.5 min)、90%メタノール(7.5-11.5 min)、90-68%メタノール(11.5-12 min)、68%メタノール(12-13 min)
流速: 1 ml/min
検出波長: 245 nm
エタノールに溶解したサンプルを50μlずつ注入し、上記条件で約10.6分に現れるGFPPT-01の単一ピークを繰り返し分取した。
【0032】
5: 精製抗生物質の濃縮
HPLCで精製した抗生物質は低濃度の90%メタノール溶液として回収されるためC18カートリッジ(SepPak(登録商標)plus environmental, Waters社)を用いて濃縮した。分取サンプルを20%メタノール液となるように蒸留水で希釈し、C18カートリッジに通した。これを2 mlの20%エタノール、7 mlの50%エタノールで洗浄し、2.3 mlの100%エタノールで溶出した。回収したサンプルは遠心エバポレーターを用いて完全に乾燥し、精製GFPPT-01を得た。
【0033】
実施例2 GFPPT-01の生物学的性状(抗菌活性)の解析
次に本発明の抗生物質GFPPT-01の生物学的性状について説明する。
【0034】
抗生物質GFPPT-01の抗菌活性は以下の2種類の方法で測定した。
(1)ペーパーディスク法による抗菌活性の測定
テスト菌株として以下の菌株リスト1に示す菌を用い、GFPPT-01物質の抗菌スペクトルを測定した。下記菌株リスト1の(1)〜(9)はグラム陰性菌、(10)〜(16)はグラム陽性菌であり、(17)は真菌である。
【0035】
菌株リスト1
(1) Sphingomonas paucimobilis IAM 12576T
(2) Sinorhizobium meliloti IAM 12611T
(3) Paracoccus aminovorans IAM 14244T
(4) Comamonas testosteroni IAM 12419T
(5) Ralstonia eutropha IAM 12368
(6) Pseudomonas putida IAM 1236T
(7) Escherichia coli K-12
(8) Acinetobacter calcoaceticus IAM 12087T
(9) Deinococcus grandis IAM 13005T
(10) Bacillus subtilis IAM 12118T
(11) Paenibacillus polymyxa IAM 13419T
(12) Arthrobacter atrocyaneus IAM 12339T
(13) Corynebacterium glutamicum IAM 12435T
(14) Nocardia pseudosporangifera IAM 501T
(15) Streptomyces griseus IAM 12311T
(16) Rhodococcus erythropolis IAM 12122T
(17) Saccharomyces cerevisiae W303
(IAM = Institute of Applied Microbiology (東京大学))
【0036】
テスト菌株をそれぞれ1×105〜 1×106 CFU / mlとなるように35℃程度に冷やしたLBソフトアガー培地(トリプトン(Difco社)10 g、イーストエキストラクト(Difco社)5 g、塩化ナトリウム5 g、寒天末 0.5 g / 1L)に懸濁し、この5 mlをLB寒天培地シャーレ(直径9 cm)に重層した。次にエタノールに溶解した精製GFPPT-01物質10μgを直径6 mmのペーパーディスクに滴下して十分に乾燥させ、テスト菌株を重層したシャーレの中央に置いた。これを28〜30℃で24時間保温し、形成した阻止円(直径mm)を計測した。その結果は表2に示したとおり、グラム陽性細菌(菌株リスト1の10-16)に強い抗菌活性を示すことが明らかになり、またグラム陰性菌の中にも感受性を示す株(Sinorhizobium meliloti又はDeinococcus grandis)があることが明らかになった。GFPPT-01物質と構造が類似している抗生物質aurachin C (DE3520229-A特許文献2及びKunze B, Hofle G, Reichenbach H. The aurachins, new quinoline antibiotics from myxobacteria: production, physico-chemical and biological properties. J Antibiot 40: 258-265 (1987)))ではグラム陽性菌に対し抗菌活性があるがNocardia又はStreptomyces属の細菌には微弱な抗菌活性のみ示し、またグラム陰性細菌には抗菌活性を示さないことが報告されている。これらのことからGFPPT-01物質はaurachin Cとは機能や活性も異なる抗生物質である。
【0037】
【表2】

【0038】
(2)液体培養法による抗菌活性
最少生育阻止濃度(MIC)測定は、LB培地を用いた微量液体希釈法により行ない、テスト菌株として菌株リスト2に示した菌株を用いた。
【0039】
菌株リスト2
(1) Sinorhizobium meliloti IAM 12611
(2) Escherichia coli IAM 1264
(3) Deinococcus grandis IAM 13005
(4) Bacillus subtilis IAM 12118
(5) Arthrobacter atrocyaneus IAM 12339
(6) Corynebacterium glutamicum IAM 12435
(7) Nocardia pseudosporangifera IAM 501
(8) Streptomyces griseus IAM 12311
(9) Rhodococcus erythropolis IAM 12122
(10) Saccharomyces cerevisiae W303
【0040】
GFPPT-01物質を最終濃度50μg/ml, 25μg/ml, 12.5μg/ml, 6.25μg/ml, 3.13μg/ml, 1.56μg/ml, 0.78μg/ml, 0.39μg/ml, 0.20μg/ml, 0.10μg/ml, 0.05μg/ml, 0.02μg/ml, 0.01μg/mlとなるように段階希釈した培地にテスト菌株をそれぞれ約1×105CFU / mlとなるように植菌し、28℃で24時間培養後生育を確認し、MICを測定した。この結果を表3に示す。この結果グラム陽性菌に非常に強い抗菌活性(Arthrobacter, Corynebacterium, Nocardiaに対し0.01μg/ml、Streptomyces, Rhodococcusに対し0.1μg/mlなど)を持つことが示された。構造が類似している抗生物質aurachin C (DE3520229-A及びKunze B, Hofle G, Reichenbach H. The aurachins, new quinoline antibiotics from myxobacteria: production, physico-chemical and biological properties. J Antibiot 40: 258-265 (1987))のMICはArthrobacterに対し0.19μg/ml、またCorynebacteriumに対し0.78μg/mlと報告されており、これを比較しても明らかにGFPPT-01物質は強い抗菌活性を有している。
【0041】
【表3】

【0042】
上記の手法によって3.6リットルの培養から約0.5 mgの抗生物質を単離した。以上に説明したように抗生物質GFPPT-01を生産する能力を有するロドコッカス属細菌を培地で培養し、培養物中にGFPPT-01を蓄積せしめ、該培養物からGFPPT-01を採取する。得られた抗生物質は、広い細菌に対して抗菌活性を有し、特にグラム陽性細菌に良好な生育阻害効果を示す。これを用いることで感受性微生物を防除することができるため、農業、医療の現場で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】抗菌物質GFPPT-01の紫外光吸収スペクトル(テトラヒドロフラン中)を示す図である。
【図2】抗菌物質GFPPT-01の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図3】抗菌物質GFPPT-01の13C-NMRスペクトルを示す図である。
【図4】NMRで解析した抗菌物質GFPPT-01の水素・炭素の帰属を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
【化1】

で表される化合物であるGFPPT-01物質。
【請求項2】
ロドコッカス属に属し、GFPPT-01物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、該培養液中にGFPPT-01物質を蓄積せしめ、該培養物からGFPPT-01物質を採取することを特徴とするGFPPT-01物質の製造法。
【請求項3】
ロドコッカス属に属し、GFPPT-01物質を生産する能力を有する微生物が、Rhodococcus erythropolis JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824又はJCM 6827である請求項2に記載の製造法。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含む抗菌剤。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含む細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含む細菌による植物病害防除のための農薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含む、化粧品、医薬品又は食品の防腐剤。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含む、化粧品、医薬品又は食品の品質保存剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37294(P2010−37294A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203907(P2008−203907)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】