説明

新規抗菌性ペプチド

【課題】乳酸菌を利用して、優れた抗菌活性と高い安全性を有する天然の抗菌物質を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有する新規な抗菌性ペプチドA−1である。この新規抗菌性ペプチドA−1は、例えば、特許生物寄託センターの寄託番号がFERMP−20294のラクトバチルス・プランタラムA−1を培養することによって得ることができる。この新規抗菌性ペプチドA−1は、食品の酸敗の原因となるラクトバチルス属細菌などに対し優れた抗菌活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵食品等の保蔵時に発生するラクトバチルス属細菌などに起因する酸敗防止などに有用な新規抗菌性ペプチド及びこれを含有する食品保存剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品として常に摂取しているもののなかには天然の抗菌物質を含むものがあり、このような天然の抗菌物質を含むものを用いて食品を保蔵することは食品の安心、安全を担保する上で重要視されている。天然の抗菌物質のなかで食品の保存・保蔵に利用されているものの例としては、わさび、唐辛子をはじめとする香辛料抽出物、ホップなどが挙げられるが、これらのものは添加量を増やすと食品本来の味を損ねるため、十分な抗菌力を発揮させることができない。一方、乳酸菌は、古来より醤油、味噌、漬け物、日本酒等の様々な発酵食品や発酵飲料の生産に利用されている有用な微生物の一つである。乳酸菌を発酵食品等の製造過程で用いることにより、乳酸発酵が行われて産生された乳酸によって系のpHが低下したり、これらの乳酸菌が抗菌性物質(抗菌性ペプチド)を産生したりすることで、その製造過程及び得られる製品中での雑菌等の生育を阻害することが可能となり、製品の腐敗や品質の低下を防ぐことができることが知られている。
【0003】
このような乳酸菌の性質を利用して、かつ食品に使用できる安全な抗菌性素材として、種々の乳酸菌とそれらの生産する抗菌性物質の利用が検討されている。例えば、ラクトコッカス ラクティスに属する乳酸菌やエンテロコッカス属に属する乳酸菌の生産物である抗菌性ペプチドがこれらの目的に提案されているが、これらはいずれも抗菌スペクトルが狭いこと、温度安定性やpH安定性が十分でないことなどのために未だ実用されるには至っていない。(例えば、特許文献1〜4参照)
【0004】
現在のところ唯一実用されている乳酸菌に由来する抗菌性ぺプチドとしてナイシン(Nisin)がある。これはある程度の抗菌活性を示す抗菌性ぺプチドとして食品用の防腐剤などの用途に広く利用されている。しかし、このナイシンもその抗菌スペクトルからある範囲の細菌類に対しては効果を有するが、食品中に多く見られる細菌類であっても満足な抗菌性を示さないものがあり、特にラクトバチルス属の細菌に対しては十分満足な抗菌活性を示すことができないという問題があった。(例えば、非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−105118号公報
【特許文献2】特開2003−235529号公報
【特許文献3】特開2003−164276号公報
【特許文献4】特許第3047573号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ray, B., Daeschel M.,“FoodBiopreservatives of Microbial Origin”, p214, CRC Press (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように乳酸菌が産生する抗菌性ペプチドは、一般的に消化酵素で分解されることから安全な抗菌物質として期待されているが、現在実用的に利用されているものは、ナイシンがその唯一の例であり、しかも、ナイシンはその抗菌スペクトル、中性域での熱安定性などにおいて必ずしも満足すべきものではない。
本発明は、古くから食品及び食品加工に利用されている乳酸菌を用いて、優れた抗菌活性と高い安全性を有するとともに、食品に添加した場合に添加した食品の本来の味、風味、色調などを損なうことがなく、かつ優れた抗菌活性を有する天然の抗菌物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく、種々の発酵食品から乳酸菌のスクリーニングを行い、これらの菌が生産する抗菌性ペプチドについて検討を行った。その結果、従来報告されているものとは異なったアミノ酸配列を持ち、食品の酸敗で常に問題となるラクトバチルス属およびエンテロコッカス属の乳酸菌の生育を特異的に抑える抗菌性ペプチドを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する新規抗菌性ペプチドA−1。
(2)抗菌性ペプチドが、ラクトバチルス・プランタラム A−1株(Lactobacillus plantarum A-1)由来のものである、前記(1)記載の新規抗菌性ペプチドA−1
(3)ラクトバチルス・プランタラム A−1株(Lactobacillus plantarum A-1)が、寄託番号FERM P−20294である、前記(2)記載の新規抗菌性ペプチドA−1
(4)配列表の配列番号2にて表わされる塩基配列を有する、前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の新規抗菌性ペプチドA−1のアミノ酸配列をコードする領域を含むDNA。
(5)前記(1)のアミノ酸配列により規定される新規抗菌性ペプチドA−1を含有する食品保存剤。
(6)前記(4)の塩基配列により決定されるアミノ酸配列を有する新規抗菌性ペプチドA−1を含有する食品保存剤。
(7)ラクトバチルス・プランタラム A−1株(Lactobacillus plantarum A-1)を培養して得られた、新規抗菌性ペプチドA−1を含有する培養液、その濃縮物又はその乾燥物からなる食品保存剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗菌性ペプチドA−1は、例えばラクトバチルス・プランタラムA−1株(Lactobacillus plantarum A-1)から産生される新規な抗菌性ペプチドである。この本発明の抗菌性ペプチドA−1は熱安定性が高いと同時に、従来食品保存剤として一般的に使用されている有機酸やナイシンに対して耐性を示すことから食品の保存の際に問題となっていたラクトバチルス属乳酸菌などに対しても、その増殖を抑制することができるという特徴を有する。従って、食品に本発明の抗菌性ペプチドA−1を加えることによって、食品の日持ちをより向上させることができる。特に、漬け物や加熱加工食品でしばしば発生するラクトバチルス属乳酸菌に起因する酸敗を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、種々の発酵食品を分離源として多数の乳酸菌を分離し、これから抗菌性ペプチドを産生する菌株のスクリーニングを行った。即ち、分離したこれらの乳酸菌から、漬物の酸敗の主因となる細菌であるラクトバチルス・プランタラム(JCM1057)に対する抗菌活性を指標として、抗菌性物質の生産能を有する乳酸菌を選択した。その結果、このラクトバチルス・プランタラム(JCM1057)に対して優れた抗菌活性を有する物質を生産する乳酸菌として、ラクトバチルス・プランタラムA−1株(Lactobacillus plantarum A-1)を見出し、更にこのラクトバチルス・プランタラムA−1株の培養液から本発明の新規抗菌性ペプチドA−1を得たものである。
【0012】
まず、スクリーニングのための乳酸菌は、以下のようにして分離し、取得した。即ち、各種の発酵食品から採取した試料を、0.5%の炭酸カルシウムを含むMRS培地(メルク社製)を用いて培養し、必要に応じて数回の継代培養を行った。次いで、この培養液をMRS寒天培地に塗抹培養し、ここに生じたコロニーから乳酸菌を採取した。尚、MRS培地の組成は表1に示すとおりである。
【0013】
【表1】

【0014】
このようにして分離した乳酸菌から、ラクトバチルス・プランタラム(JCM1057)に対す抗菌活性を指標として抗菌性物質の生産能が特に強い乳酸菌1株を選択した。この選択した乳酸菌の16SリボソームDNAの塩基配列と、現在報告されている乳酸菌のDNAライブラリーについて、相同性解析を行った。その結果、ラクトバチルス・プランタラム WCFS1と99%の相同性を示した。また、この選択した乳酸菌の糖質の発酵性がラクトバチルス・プランタラムの発酵性とほぼ一致したことから、本菌株をラクトバチルス・プランタラムA−1株(Lactobacillus plantarum A-1)と命名した。本菌株は、2004年11月9日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)へ寄託し、その寄託番号はFERM P−20294である。
【0015】
次に、本発明の新規な抗菌性ペプチドである抗菌性ペプチドA−1について説明する。
本発明の抗菌性ペプチドA−1は、例えば、ラクトバチルス・プランタラムA−1株をMRS培地を用いて所定の条件で培養し、その培養液から分離・精製することによって得ることができる。即ち、ラクトバチルス・プランタラムA−1株をMRS培地で30〜40℃の培養温度で培養することにより、24時間程度の培養で十分な生育が認められる。抗菌性ペプチドの取得を目的として本菌を大量に培養する場合は、培地としてコーン培地(組成:1リットルあたりコーンスティープリカー(庄野澱粉社製)10g、酵母エキス(オリエンタル酵母社製)2g、グルコース(和光純薬杜製)10g)を用いることが好ましく、この培地を用いて30〜40℃の培養温度で嫌気的に24〜48時間培養すればよい。
本発明の抗菌性ペプチドA−1のラクトバチルス・プランタラム(JCM1057)に対する抗菌活性は、30℃付近で24〜48時間培養するときに最大となる。
【0016】
次に、培養液から目的とする抗菌性ペプチドA−1を採取し、精製する方法について説明する。ラクトバチルス・プランタラムA−1株の生産する抗菌性ペプチドの分離、精製は常法によって行うことができる。一例を挙げると、培養液を遠心分離した上清を逆相カラムクロマトグラフィーにかけて抗菌活性を示す画分を分画し、分画した画分を濃縮した後、再度逆相カラムクロマトグラフィーにかけて抗菌活性画分を分画する(この操作を2回繰り返す)。次いでSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で上記画分を泳動させた後、抗菌活性を示すバンドを切り出し、切り出したゲルから抗菌性ペプチドを回収する。こうして得られた精製ペプチドは、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動において単一バンドを示した。
【0017】
このようにして得られた抗菌性ペプチドA−1のアミノ酸配列は以下のようにして決定した。まず、エドマン分解法によりこの抗菌性ペプチドのN−末端側から全アミノ酸配列の約7割を決定した。次に、上記アミノ酸配列を基に設計したDNAプローブを用いて、ラクトバチルス・プランタラムA−1株のDNAのHindIII消化物から抗菌性ペプチドをコードする約2kbのDNA断片をサザンブロット法により選び出し、このDNA断片を大腸菌ベクター系で増幅した後、その塩基配列を常法により決定した。このようにして得られたDNA塩基配列のなかから前述のエドマン分解法によって決定した抗菌性ペプチドA−1のN末端側から32残基のアミノ酸をコードする配列表の配列番号3に示すDNA配列を見出し、これより下流の(3´側の)DNA配列より未決定だったC末端側残り部分のアミノ酸配列を決定した。かくして得られた抗菌性ペプチドA−1の全アミノ酸配列を配列表の配列番号1に、それをコードするDNA塩基配列を配列表の配列番号2に示す。
即ち、本発明の抗菌性ペプチドA−1は、この配列表の配列番号1に示す43個のアミノ酸配列を有するペプチド、又はこのアミノ酸配列の中のアミノ酸の一つ又は複数個を欠失、置換、付加して得られるペプチドである。
【0018】
このようにして得られる本発明の抗菌性ペプチドA−1は、既に実用化されている抗菌性ペプチドであるナイシンにはみられない次のような特徴を有する。即ち、本発明の抗菌性ペプチドA−1は、ラクトバチルス属乳酸菌に対し、ナイシンより広い抗菌スペクトルを示し、エンテロコッカス属乳酸菌の一部に対しても抗菌活性を示す。また、本発明の抗菌性ペプチドA−1は、ナイシンよりも中性域における熱安定性が高く、pH7.0において、ナイシンが80℃の加熱で活性が50%以下に低下するのに対し、本発明の抗菌性ペプチドA−1は、pH7.0において80℃の加熱後でも80%以上の活性を維持する。
【0019】
さらに、本発明の新規抗菌性ペプチドA−1は、消化酵素であるトリプシンまたはプロテナーゼを添加すると容易に分解され、その活性を失う。従って、本発明の新規抗菌性ペプチドA−1は、消化管内で容易に分解されアミノ酸となると考えられ、極めて安全性に優れた抗菌素材であるということができる。
【0020】
また、実際には必ずしも上述したような新規抗菌性ペプチドA−1の精製を行う必要はなく、食品素材を原料とするラクトバチルス・プランタラムA−1株の培養液そのものを用いても良く、またはこの培養液を濃縮、乾燥したものをそのまま食品類に添加することで食品類の防腐のために使用してもよい。
更には、このような本発明の新規抗菌性ペプチドA−1とともに、一般に使用されている様々な食品用添加剤や種々の増量剤、賦形剤などと配合して食品防腐剤としてもよい。
【0021】
本発明の抗菌性ペプチドA−1は、乳酸菌に由来することから安全性が高く、畜肉製品中にしばしばみられ、pHを低下させる主因となるラクトバチルス属やエンテロコッカス属に対して抗菌作用があり、熱安定性に優れることから、加熱加工食品でしばしば起こるラクトバチルス属による酸敗を効果的に抑制することができる抗菌性の素材として食品産業への広い応用が期待できる。
【0022】
次に、以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。尚、各実施例中「%」は特に注記しない限り質量基準である。
【実施例1】
【0023】
(1) ラクトバチルス・プランタラムA−1株の取得
乳酸菌の分離源として、種々の発酵食品 10gを採取し、0.5%の炭酸カルシウムを含む前記表1に示す組成からなるMRS培地(メルク社製)を用いて、37℃で4日間培養した。得られた培養液を更に新しいMRS培地に添加して同様の条件での培養を行い、この操作を2回繰り返した。それぞれの試料について、このようにして得られた培養液をMRS寒天培地(組成:表1に示す培地組成に寒天1.5%を添加したもの)に塗抹培養し、ここに生じたコロニーから乳酸菌を採取した。このようにして分離した種々の発酵食品から得た乳酸菌について、ラクトバチルス・プランタラム(JCM1057)に対す抗菌活性を指標として抗菌活性を調べ、抗菌性物質の生産能が最も強いラクトバチルス・プランタラムA−1を選択した。
【0024】
(2) 選択した乳酸菌の相同性解析
(1)で選択したラクトバチルス・プランタラムA−1について、16SリボソームDNA(rDNA)の塩基配列の相同性解析を行った。現在DNAデータベースに登録されている100株以上の乳酸菌の塩基配列と比較した結果、相同性の高かった上位20株のうち16株がラクトバチルス・プランタラムであった。最も相同性の高かったラクトバチルス・プランタラム WCFS1とは99%の相同性を示した。
【0025】
(3) ラクトバチルス・プランタラムA−1株の菌学的性質
このラクトバチルス・プランタラムA−1の菌学的性質は、以下に示すように、一般的なラクトバチルス・プランタラムの性質とほぼ一致した。
(a)形態的性質
細胞の形及び大きさ:桿菌 短径 約0.5μm
細胞の多形性の有無: 無、
運動性の有無: 無、
胞子の有無: 無
(b)培養的性質
肉汁寒天平板培養:生育良、淡黄色の光沢のある小コロニーを形成
肉汁液体培養:生育良、表面発育なし
肉汁ゼラチン:生育良、ゼラチンの液化なし
リトマスミルク:産生可
(c)生理学的性質
グラム染色: 陽性、
好気条件での生育: +、
嫌気条件での生育: +、
オキシダーゼ: −、
カタラーゼ: −、
OFテスト: F
【0026】
【表2】

【実施例2】
【0027】
(1) 新規抗菌性ペプチドA−1粗粉末の調製
実施例1で得たラクトバチルス・プランタラムA−1株のスラントからTYG培地{トリプトン 1%、酵母エキス 0.5%、ブドウ糖 1%、食塩 0.5%}100mLに菌を接種し、30℃で1日間培養して前培養液を得た。次いで、コーン培地{コーンスティープリカー(庄野澱粉社製)1%、酵母エキス(オリエンタル酵母社製)0.2%、ブドウ糖(和光純薬杜製)1%、食塩 0.2%、硫酸マンガン 0.02%(pH6.5に調整)}10リットルにこの前培養液を加え、30℃で下限pH4.5にて2日間培養し、抗菌性ペプチドA−1を含む培養液を得た。この培養液を80℃で30分間加熱殺菌した後冷却し、濾過助剤を用いて不溶物を濾別した後、濾液を噴霧乾燥して本発明の抗菌性ペプチドA−1の粗粉末約500gを得た。
【0028】
(2) 新規抗菌性ペプチドA−1の精製
(1)で得た抗菌性ペプチドA−1粗粉末の2%水溶液を調製し、不溶物を濾過した後、次の条件で逆相カラムクロマトグラフィーによって抗菌活性を示す画分を分画した。
カラム: 資生堂 Capcell Pak C18MG 4.6mm×150mm
溶離液A:0.1%リン酸
溶離液B:90%アセトニトリル
溶離液Bは20%→40%の40分リニアグラディエント
検 出: 220nm
1回の注入量:0.08mL
得られた抗菌活性をもつ画分を集めて濃縮した後、再度逆相カラムクロマトグラフィーで抗菌活性画分を分画した(この操作を2回繰り返した)。次に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で泳動し、抗菌活性を示すバンド(分子量約7000Da)のバンドを切り出し、ゲルから抗菌性ペプチドA−1を回収した。こうして精製した抗菌性ペプチドA−1は前記したSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動において単一バンドを示した。
【0029】
(3) 新規抗菌性ペプチドA−1の抗菌スペクトル
表1に示す組成のMRS寒天培地に次の表3に示す各種の被検菌を混釈し、ここに上記(1)で得られた抗菌性ペプチドA−1粉末の0.5%水溶液、及び、ナイシン(シグマアルドリッチ製試薬)の100ppm水溶液を0.02mLスポットし、30℃で2日間培養し、生育阻止円の有無を確認した。なお、ナイシン100ppm水溶液というは、一般的に食品類の保存に使用する濃度であり、抗菌性ペプチドA−1粉末の0.5%水溶液はほぼこれに対応する濃度である。
種々の乳酸菌の場合の結果を表3に、乳酸菌以外の食品腐敗菌として一般的に見られるいくつかの細菌での結果を表4に示す。「+」が生育阻止円ありを、「−」が生育阻止円なしを意味する。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
上記の表3において、菌株の番号が1〜16のものについては、正確に菌株の特定を行ったものではないため未同定と記載しているが、菌の形状、生育が抑制されるpH条件などからほぼ間違いなくラクトバチルス属の乳酸菌であると考えられる。
【0033】
表3の結果からわかるように、本発明の新規抗菌性ペプチドA−1は、ラクトバチルス属乳酸菌に対し広い抗菌スペクトルを有し、例えば、IAM1041やTISTR390などのようなナイシンには耐性を示すいくつかのラクトバチルス属菌株に対しても抗菌活性を示す。エンテロコッカス属、ロイコノストック属の一部の菌株に対しても抗菌作用を示す。
また、表4に示すように、本発明の新規抗菌性ペプチドA−1は乳酸菌以外の細菌に対しては抗菌作用を示さない。
【0034】
(4) 新規抗菌性ペプチドA−1の熱安定性
上記の(1)で得た新規抗菌性ペプチドA−1粉末の1%水溶液、及びナイシン(シグマアルドリッチ製試薬)300ppmの水溶液を調製し、それぞれの水溶液を、pH5.0、7.0、8.5に調整した後、70℃、80℃、90℃、100℃で15分間加熱した。これらの被検液をあらかじめラクトバチルス・プランタラム(JCM1057)を混釈したMRS寒天培地上に0.02mLスポットし、30℃で2日間培養し、生育阻止円の面積を測定した。加熱前の被検液のpH5.0における抗菌活性を100として、各被検液についてその相対的な抗菌活性を生育阻止円の面積の値から求めた。その結果を表5及び表6に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
表5、表6の結果から分かるように、本発明の新規抗菌性ペプチドA−1は、ナイシンに比較して高い耐熱性を有しており、pH7.0やpH8.5においてナイシンに比較して非常に優れた耐熱性を示している。また、pH5.0では80℃でも90%以上という優れた耐熱性を示す。一方、ナイシンは表6の結果に示すように、特にpH7.0、pH8.5のような中性からアルカリ領域においては非常に熱安定性が悪く、大きく活性が低下している。また、未加熱のものであっても、表6の未加熱の欄に示すように、試験用の試料を調製してそのまま室温に放置したものでも活性の低下が見られた。
【0038】
(5) 新規抗菌性ペプチドA−1の消化酵素による分解
上記の(1)で得た新規抗菌性ペプチドA−1粉末の1%水溶液を調製し、トリプシンまたはプロナーゼ0.01%を加え、37℃で1時間インキュベートした。これらのサンプルについて、上記(3)と同様の方法によって抗菌活性を測定した。
その結果、トリプシンまたはプロナーゼのいずれを添加した場合にも生育阻止円はまったく観察されず、抗菌性ペプチドA−1はトリプシンまたはプロナーゼ処理により抗菌活性を失ったことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の新規抗菌性ペプチドA−1により、ラクトバチルス属やエンテロコッカス属の細菌の増殖を制御することが可能となり、特に、加熱加工食品でしばしば起こるラクトバチルス属細菌による酸敗などを防止する素材を食品産業へ提供することが可能となり、食品または食品素材を取り扱う食品産業、流通産業などにおいて特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する新規抗菌性ペプチドA−1。
【請求項2】
抗菌性ペプチドが、ラクトバチルス・プランタラム A−1株(Lactobacillus plantarum A-1)由来のものである、請求項1記載の新規抗菌性ペプチドA−1
【請求項3】
ラクトバチルス・プランタラム A−1株(Lactobacillus plantarum A-1)が、寄託番号FERM P−20294である、請求項2記載の新規抗菌性ペプチドA−1
【請求項4】
配列表の配列番号2にて表わされる塩基配列を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の新規抗菌性ペプチドA−1のアミノ酸配列をコードする領域を含むDNA。
【請求項5】
請求項1に記載のアミノ酸配列により規定される新規抗菌性ペプチドA−1を含有する食品保存剤。
【請求項6】
請求項4に記載の塩基配列により決定されるアミノ酸配列を有する新規抗菌性ペプチドA−1を含有する食品保存剤。
【請求項7】
ラクトバチルス・プランタラム A−1株(Lactobacillus plantarum A-1)を培養して得られた、新規抗菌性ペプチドA−1を含有する培養液、その濃縮物又はその乾燥物からなる食品保存剤。

【公開番号】特開2010−246398(P2010−246398A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95860(P2009−95860)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000101215)アサマ化成株式会社 (37)
【Fターム(参考)】