説明

新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】発光効率が高く、且つ低駆動電圧の燐光発光素子のホスト材料として有用な有機化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるピロロアザカルバゾール化合物。


式中、Q1およびQ2はいずれか一方が窒素原子で他方が炭素原子である。また、ArまたはArはそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基置換または無置換の1価のアリール基を表す。また式中、R1またはR2はそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基であり、互いが結合して6員環を形成しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であるピロロアザカルバゾール化合物に関する。また、該新規化合物を有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、透明基板上に、上下2層の電極と、これらの電極の間に発光層を含む有機化合物を積層した構造を有している。有機発光素子は、高速応答性、高い発光効率、フレキシブル性を有する次世代のフルカラーディスプレイ技術の一つとして注目されており、材料技術開発および素子技術開発が精力的に行われている。有機発光素子のうち特に電界発光を利用するものを、有機電界発光素子、有機EL素子、または有機エレクトロルミネッセンス素子と呼ぶ場合がある。
【0003】
近年、素子の発光効率を高めることを目的に、三重項励起子を経由した燐光燐光発光を利用する有機発光素子(以下、燐光発光素子と称する)の開発が盛んに行われている。発光材料としては、材料安定性と発光効率の観点から、Ir(ppy)(fac−Tris(2−(2−pyridinyl)phenyl)iridium、緑色の燐光発光材料)やIr(dfppy)(tris[3,5−difluoro−2−(2−pyridinylphenyl)]iridium、青色の燐光発光材料)のようなIr(イリジウム)を用いた金属錯体が使用されてきた。
【0004】
また最近では、発光効率の他に、環境保全の考え方から、特にディスプレイの低消費電力化のニーズが高まっており、素子の低電圧化を狙った開発が行われている。
【0005】
燐光発光素子の高発光効率化と低電圧化の両立は、発光層の性能、即ち、発光材料(ゲスト材料)とともにホスト(HOST)材料の性能に大きく依存する。このためホスト材料の高性能化を目的に開発が進められてはいるが、実用レベルの材料は未だに見出されていない。
【0006】
ところで、特許文献1にはインドロカルバゾール化合物を正孔輸送材料として使用した有機発光電界素子が開示されている。インドロカルバゾール化合物は、部分骨格のカルバゾール由来の正孔輸送能力を示す。しかしながら、電子輸送能力は大きくないために、正孔注入または輸送を担う層への使用に限定されていた。
【0007】
すなわち、インドロカルバゾール化合物のように、一方のキャリア輸送能に偏った材料は、ホスト材料としては不十分であり、高性能なバイポーラ性(両キャリア輸送性)のホスト材料の創出が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5942340号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な有機化合物を提供することを目的とする。また、発光効率が高く、且つ低電圧駆動を実現できる有機発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る新規有機化合物は、下記一般式(1)で表されるピロロアザカルバゾール化合物である。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、QおよびQはいずれか一方が窒素原子で他方が=CR−を表す。ArおよびArはそれぞれ独立して、炭素数30以下且つ1価の無置換アリール基、あるいは該無置換アリール基に炭素数1〜6のアルキル基を置換した1価の置換アリール基を表す。RおよびRはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基であるが、互いが結合して6員環を形成しても良い。Rは、水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基を表す。)
【0013】
また、本発明の有機発光素子は、互いに対向する一対の電極間に配置された少なくとも一層の有機層を有する有機発光素子において、有機層の少なくとも一層が、上記一般式(1)で示されるピロロアザカルバゾール化合物を含有する発光層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燐光発光素子のホスト材料として有用な新規化合物を提供できる。また、発光効率が高く、且つ低電圧で駆動する有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】有機発光素子とこれに接続するスイッチング素子とを示す断面構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る新規有機化合物は、下記一般式(1)で表されるピロロアザカルバゾール化合物である。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、QおよびQはいずれか一方が窒素原子で他方が=CR−を表す。ArおよびArはそれぞれ独立して、炭素数30以下且つ1価の無置換アリール基、あるいは該無置換アリール基に炭素数1〜6のアルキル基を置換した1価の置換アリール基を表す。RおよびRはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基であるが、互いが結合して6員環を形成しても良い。Rは、水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基を表す。)
【0019】
本発明者等は、従来課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明のピロロアザカルバゾール化合物を見出した。更に本発明のピロロアザカルバゾール化合物を燐光発光素子のホスト材料として使用することで、発光効率が高く、且つ低電圧で駆動する有機発光素子を提供するものである。
【0020】
本発明のピロロアザカルバゾール化合物を用いた有機電界発光素子が、発光効率が高く、且つ低電圧で駆動できる理由は、ピロロアザカルバゾール化合物が有する以下の特徴に起因する。
[1]470nm以下の高いT1(三重項エネルギー準位)を有する。
このため、緑色発光(発光ピーク;480nm〜530nm)の燐光発光性のIr金属錯体または青色発光(発光ピーク;450nm〜470nm)の燐光発光性のIr金属錯体のホスト材料として使用できる。但し、三重項エネルギー準位(T1)は、トルエン溶液中、温度77Kにおける燐光発光の0−0バンドと定義する。
[2]HOMO(最高被占軌道)エネルギー準位(以下、HOMO準位と略す)が大きい。
本発明のピロロアザカルバゾール化合物のHOMO準位は−5.7eVより大きな値を示す。発光層に隣接する隣接層(例えば、正孔輸送材料)のHOMOエネルギー準位は−5.7eVよりも大きい値の材料が用いられる。したがって、隣接層から発光層への正孔注入が効率的に行われるためには、HOMO準位が−5.7eVよりも大きいことが好ましい。
[3]化合物の母骨格が、ドナー性のカルバゾール環とアクセプター性のピリジン環から成る。
これにより、電子輸送性および正孔輸送性に優れる、高いバイポーラ性(両キャリア輸送性)を示す。
【0021】
そして、上記[1]〜[3]の特徴の発現には、本発明化合物の構造上の以下の条件が重要であることが見出された。
【0022】
一般式(1)で示されるQ1とQ2が共に窒素原子である場合化合物において、Q1およびQ2のいずれか一方が窒素原子であり、他方が窒素原子ではなく、=CR−でことが重要であった。ここでRは、水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基を表し、特に水素原子であることが好ましい。
【0023】
Q1とQ2が共に窒素原子である場合(以下、ジアザタイプと称す)、または窒素原子が両者に無い場合(以下、非アザタイプと称す)と比較して、本発明のピロロアザカルバゾール化合物のHOMO準位は、顕著に大きい。
【0024】
本発明のピロロアザカルバゾール化合物の場合、HOMOの電子軌道は母骨格のピロロアザカルバゾール骨格全体に広がり、このことが大きなHOMO準位を与える要因となっている。しかし、ジアザタイプの場合は以下の理由により、HOMOの電子軌道が母骨格全体に広がらない。よって、HOMO準位が大きくならない。
【0025】
ジアザタイプ(Q1とQ2が共に窒素原子)の場合できるジアザベンゼンは、ピリジンよりも強いアクセプター性を持つ。よって、ジアザベンゼン上にはHOMOの電子軌道でなくLUMOの電子軌道が局在化するのである。これにより、母骨格全体にHOMOの電子軌道が広がらない。
【0026】
また、非アザタイプの場合、HOMOの電子軌道は母骨格全体に広がるが、電子密度の高いヘテロ原子が少ないために、本発明の化合物に比べてHOMO準位が小さい。
【0027】
本発明の化合物は、母骨格のピロロアザカルバゾール骨格の電子密度が高く、且つ、母骨格全体にHOMOの電子軌道が広がるという2つの特徴を合わせ持つことから、HOMO準位が顕著に大きな化合物となるのである。
【0028】
本発明のピロロアザカルバゾール化合物をホスト材料として使用することで、発光層と隣接層(例えば、正孔輸送層)間のエネルギー障壁が非常に小さくなる。また、HOMO準位が大きいことにより、化合物のHOMO/LUMO(最低空軌道)のエネルギー差(ΔBG)が小さくなり、素子の低電圧化を実現できる。
【0029】
式中のArまたはArはそれぞれ独立して、炭素数30以下且つ1価の無置換アリール基、あるいは該無置換アリール基に炭素数1〜6のアルキル基を置換した1価の置換アリール基を表す。
【0030】
炭素数30以下且つ1価の無置換アリール基は、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、好ましい基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ターフェニル基の群の中から選択される基である。ビフェニル基としてはo−ビフェニル基、m−ビフェニル基などが挙げられ、フルオレニル基としては1−フルオレニル基、3−フルオレニル基、4−フルオレニル基などが挙げられ、ターフェニル基としてはo−ターフェニル、m−ターフェニルが挙げられる。
【0031】
また、上記の無置換アリール基に炭素数1〜6のアルキル基を置換した1価の置換アリール基としてもよく、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0032】
一般式(1)の式中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基を表す。
【0033】
該アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、ヘキシル基などが挙げられる。また、上記アルキル基同士がお互いに結合して、6員環を形成しても良い。この場合、本発明のピロロアザカルバゾール化合物は、部分的にテラヒドロインドール(別名、テトラメチレンピロール)骨格を有することになる。
【0034】
更に、本発明のピロロアザカルバゾール化合物の熱安定性向上(例えば、ガラス転移温度の向上)や、該化合物を含む有機膜の安定性(例えば、結晶化抑制など)の観点から、ピロロアザカルバゾール母骨格の水素原子を、炭素数1〜6程度のアルキル基で置換しても良い。該置換基の有無は本発明のピロロアザカルバゾール化合物の特徴(高い三重項エネルギー準位を有し、且つ、HOMO準位が大きい)を阻害することはない。
【0035】
本発明のピロロアザカルバゾール化合物の具体的な例を列挙するが、本発明はこれに限らない。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
(有機化合物の合成)
本発明に係る有機化合物は、後述の実施例2で詳細に記載されるように、例えば以下のような3段階の合成経路で合成できる。
【0039】
(第1段階)
【0040】
【化5】

【0041】
(第2段階)
【0042】
【化6】

【0043】
(第3段階)
【0044】
【化7】

【0045】
第1段階における出発物質A−1および中間物質C−2を変更することで、上記に示すような本発明のピロロアザカルバゾール化合物をそれぞれ合成できる。
【0046】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0047】
本実施形態に係る有機発光素子は、対向する一対の電極間に配置された少なくとも一層の有機層を有する有機発光素子であって、前記有機層のうち少なくとも一層が上記の一般式(1)に示されるピロロアザカルバゾール化合物を有する発光層であることを特徴とする。
【0048】
本発明の有機発光素子の形態は、基板上に、順次、陽極/発光層/陰極を設けた構成のものが挙げられる。他にも順次、陽極/正孔輸送層/電子輸送層/陰極を設けた構成のものが挙げられる。また順次、陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極を設けたものや順次、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極を設けたものを挙げることができる。あるいは順次、陽極/正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極を設けたものを挙げることができる。この場合/は、前後に記述される層が、互いに隣接する関係であることを示す。ただしこれら五種の多層型有機発光素子の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0049】
本発明の有機層で使用する発光材料(ゲスト材料)は、常温で蛍光発光する材料(遅延蛍光材料)または常温で燐光発光する材料でよく、特に限定されないが、発光効率(有機発光素子の外部量子効率)と熱または環境(水や酸素)に対する安定性の点で、燐光発光性のIr金属錯体が好ましい。
【0050】
燐光発光性のIr金属錯体の具体例としては、FIrpic、FIr6、後述する構造式[化16]で示されるIr金属錯体が挙げられる。
【0051】
また発光材料以外に使用する材料には、正孔輸送性材料と電子輸送性材料がある。正孔輸送性材料としては、例えば、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)等が挙げられる。
【0052】
また、電子輸送性材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノリノールアルミニウム錯体等の有機金属錯体等の有機化合物が挙げられる。
【0053】
電子注入性材料または電子輸送性材料は、必要に応じてこれまで知られている金属、金属塩あるいは金属酸化物等、またはこれらを共存させて使用することができる。
【0054】
金属、金属塩あるいは金属酸化物の具体例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム等の金属フッ化物、炭酸セシウム等の金属炭酸化物等が挙げられる。
【0055】
本発明の有機発光素子において、陽極を構成する材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、銀、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム等の金属単体あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物を使用することができる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよく、複数種類を併用して使用してもよい。また、陽極は単一の層で構成されてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0056】
一方、陰極を構成する材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体あるいはこれら金属単体を複数組み合わせて構成される合金又はこれらの塩等を使用することができる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。また、陰極は単一の層で構成されてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0057】
本発明の有機発光素子で使用する基板は、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0058】
本発明の有機発光素子は、最終的に保護層で覆われていることが好ましい。保護層の素材としては水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであればよい。保護層を構成する材料としては無機材料としてSiNやSi等の窒化物、SiO、Al等が挙げられる。また、有機材料としてはエポキシ樹脂を始め、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルファイドまたは環状非晶ポリオレフィン(COP)などが挙げられる。
【0059】
本発明の有機発光素子の保護層は、上記の無機材料と有機材料とを併用することが好ましい。併用する場合、無機材料で無機保護層を形成した後に有機材料で有機保護層を形成しても良いし、有機材料と無機材料を混ぜて保護層を形成しても良い。基本的には、無機材料は水分の浸入を遮断し、有機材料は無機材料の保護と、水や酸素の遮断を担うことになり、これにより、素子内部の水分量は1ppm以下に保たれるのである。
【0060】
有機発光素子を覆う保護層の形成方法についても特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法を適用できる。
【0061】
本発明の有機発光素子において、本発明の縮合多環芳香族化合物が含まれている層は、一般的に真空蒸着法、又は適当な溶媒に溶解させて塗布する塗布法により薄膜を形成する。塗布法による薄膜形成方法としては、例えば、スピンコート法、スリットコーター法、印刷法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
【0062】
塗布法よって薄膜を形成する場合、ピロロアザカルバゾール化合物またはIr金属錯体などの有機物と溶媒とを含むインク組成物を調製する必要がある。このインク組成物に使用される溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、ジオキサン、テトラリン、メチルナフタレン、テトラヒドロフラン、ダイグライム等が挙げられる。
【0063】
上記のインク組成物において、本発明の縮合多環芳香族化合物を含む固形成分の量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは、0.05重量%以上20重量%以下であり、より好ましくは、0.1重量%以上10重量%以下である。0.05重量%より小さいと、インク中の固形成分の濃度が極端に小さいので、製膜した際に膜質の安定性が損なわれる恐れがある。また、10重量%より大きいと、インク中の固形成分が溶解しきれずに析出したり、製膜した際に厚膜化が起こったりするといった懸念がある。
【0064】
本発明の有機発光素子は、種々の公知の工夫により、光取り出し効率や色純度等を向上させることができる。例えば、基板表面形状を加工する(例えば微細な凹凸パターンを形成する)、基板・ITO層・有機層の屈折率を制御する、基板・ITO層・有機層の膜厚を制御すること等により、光の取り出し効率及び外部量子効率を向上させることが可能である。また、マイクロキャビティ構造(微小共振器構造)を使用して余分な波長成分を低減したり、カラーフィルターを具備したりすることで所望の色を得る等により色純度を向上させることが可能である。
【0065】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0066】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT(薄膜トランジスタ)素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0067】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0068】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図1を用いて説明する。
【0069】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0070】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極である。符号4はゲート絶縁膜であり、5は半導体層である。
【0071】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0072】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0073】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型の素子等を用いてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
[Gaussian03/6−31G*による計算およびイオン化ポテンシャルの測定]
<計算方法>
以下の化合物のついて、非経験分子軌道計算プログラムを用いて、それぞれのHOMO準位を計算した。すなわち、化合物をGaussian03 for Windows(登録商標)(分子軌道計算ソフト、Gaussian社製)を用いて、基底関数6−31G*レベルで化合物の構造最適化を行い、HOMO準位の値を算出した。
・例示化合物(1)
・例示化合物(5)
・例示化合物(8)
・例示化合物(9)
・比較化合物(1);非アザタイプの化合物である。構造式を以下に示す。
・比較化合物(2);ジアザタイプの化合物である。構造式を以下に示す。
・比較化合物(3);既知のカルバゾール化合物の代表例(商品名;4,4’−N,N’−Dicarbazolylbipheny(俗名;CBP))である。構造式を以下に示す。
・比較化合物(4);既知のカルバゾール化合物の代表例(商品名;4,4’−N,N’−Dicarbazolyl−m−bipheny(俗名;mCBP))である。構造式を以下に示す。
【0076】
【化8】

【0077】
【化9】

【0078】
【化10】

【0079】
【化11】

【0080】
<イオン化ポテンシャル(Ip(eV))の測定>
大気中光電分光装置(商品名AC−2、理研計器社製)を使用し、例示化合物(8)、比較化合物(3)、比較化合物(4)のイオン化ポテンシャルをそれぞれ測定した。
【0081】
<計算結果と実測値の比較>
表1に、Gaussian03 for Windows(登録商標)(分子軌道計算ソフト,Gaussian社製)Gaussian03/6−31G*による計算結果と実測値としてイオン化ポテンシャル(Ip)を示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1の結果から、本発明のピロロアザカルバゾール化合物は、以下のような特徴を有することが理解できる。すなわち、本発明のピロロアザカルバゾールのHOMO準位は、非アザタイプの化合物(比較化合物(1))またはジアザタイプの化合物(比較化合物(2))と比較してHOMO準位が大きい。表1で明らかなように、本発明のピロロアザカルバゾール化合物のHOMO準位は、計算値で−4.99eV以上であるのに対して、比較化合物(1)、(2)はいずれも0.5eV以上HOMO準位が小さい。実測値については以下のように考えることができる。まず、例示化合物(8)、比較化合物(3)および比較化合物(4)の3つ化合物の実測値の結果から、実測値は計算値よりも少なくとも0.4eV程度小さくなると推定される。よって、比較化合物(1)または比較化合物(2)の実測値はそれぞれ−5.95eVまたは−6.21eV程度であると推定される。
燐光発光素子で使用頻度の多い市販材料である比較化合物(3)または比較化合物(4)と比較しても、本発明のピロロアザカルバゾール化合物はHOMO準位が大きく、計算値で0.5eV以上HOMO準位が小さい。
【0084】
有機電界発光素子において、駆動電圧を低減するためには、ホスト材料のHOMO準位が大きい値であること、すなわち発光層へのホール輸送を円滑にすることが重要である。これらのことから、本発明のピロロアザカルバゾール化合物がホスト材料として有用であることがわかる。
【0085】
(実施例2)
[本発明の例示化合物(8)の製造]
次に、本発明のピロロアザカルバゾール化合物である例示化合物(8)を合成した。
【0086】
[中間体(A−4)の合成]
【0087】
【化12】

【0088】
Canadian Journal of Chemistry,40,864−869(1962)に記載の方法に準拠して合成したA−1(5,6,7,8−テトラヒドロ−β−カルボリン)の8.6g(50.0mmol)をアセトニトリル300mlに溶解させ、窒素雰囲気下、0℃に保ちながらN−ブロモスクシンイミド(俗名;NBS)11.3g(62.5mol)を加えた。その後、60℃で4時間攪拌した。溶剤除去後、ショートカラム精製(展開溶媒;トルエン/酢酸エチル=4/1)を行い、メタノールで再結晶して、A−2(5,6,7,8−テトラヒドロ−(3−ブロモ)−β−カルボリン)の粗精製物の5.5gを得た。
【0089】
上記のA−2の粗精製物5.5g(21.9mmol)とA−3(2−ニトロベンゼンボロニックアシッド)(東京化成工業社製,商品番号;N0811)3.66g(21.9mol)を300mlのフラスコに入れ、窒素置換した。トルエン80ml、NaCO飽和水溶液20ml、エタノール20ml、テトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム(0)(東京化成工業社製,商品番号;T1350)を2.5g投入し、90℃で16時間攪拌した。反応終了後、溶剤除去、およびカラム精製(展開溶媒;ヘプタン/酢酸エチル=4/1)を順次行い、メタノールで再結晶して、目的のA−4(5,6,7,8−テトラヒドロ−[3−(o−ニトロベンジル)]−β−カルボリン)4.55gを得た。収率は86.8%であった。
NMR(DMSO−d6);δ8.6(1H)、δ8.3(2H)、δ7.0−7.4(2H)、δ7.5(2H)、δ3.0(2H)、δ2.7(2H)、δ1.9(4H)。
MS;239(M+1)
【0090】
[中間体(B−2)の合成]
【0091】
【化13】

【0092】
上記で得たB−1(前記A−4と同じ)4.0g(16.7mmol)、トリエトキシホスフィン30g(0.18mol)を200mlのフラスコに投入し、室温で1時間、次いで60℃で2時間攪拌した。反応終了後、氷水に反応溶液を投入し、浮遊固形物をろ過した。カラム精製(展開溶媒;ヘプタン/酢酸エチル=1/1)を行い、メタノールで再結晶して、目的のB−2,3.1gを得た。収率は71.1%であった。
NMR(DMSO−d6);δ9.1(1H)、δ8.5(1H)、δ7.5−7.7(2H)、δ7.1−7.4(3H)、δ3.0(2H)、δ2.7(2H)、δ1.9(4H)。
MS;261(M+1)
【0093】
[本発明の例示化合物(8)の合成]
【0094】
【化14】

【0095】
上記で得たC−1(前記B−2と同じ)3.0g(11.5mmol)、C−2(3−ブロモ−9,9−ジメチルフルオレン)9.4g(34.4mmol)、酢酸パラジウム(II)0.12g(Pd(OAc)2、0.54mmol)、トリ(t−ブチル)ホスフィン0.44ml((tBu)3P、2.2mmol))、t−ブトキシナトリウム2.6g(tBuONa、27.2mmol)およびトルエン80mlを、容量200mlのフラスコに投入し、135℃で15時間攪拌した。反応終了後、溶剤除去後、カラム精製(展開溶媒;ヘプタン/酢酸エチル=4/1)を行い、メタノールで再結晶して、目的の例示化合物(8)(C−3)の1.5gを得た。収率は20.3%であった。更に、これを昇華精製(10−4Pa、330℃)した。
NMR(DMSO−d6);δ8.0(1H)、δ7.8(2H)、7.6−7.7(2H)、δ7.6(1H)、δ7.5(1H)、δ7.3−7.4(5H)、δ7.1−7.2(7H)、δ3.0(2H)、δ2.7(2H)、δ1.9(4H)、δ1.5(12H)。
MS;646(M+1)
【0096】
(実施例3)
実施例2により得られた例示化合物(8)のトルエン溶液(濃度10−3mol/l)の温度77Kにおける燐光の0−0バンド(T1エネルギー準位)を、分光蛍光光度計(日立製作所製、品名F−4500)で測定した。この結果T1エネルギー準位は、436nmだった。
【0097】
(実施例4)
[有機発光素子の作成]
ガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜した。成膜されたITO膜をパターニングして、電極面積が4mmになるようにした。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄を行い、透明且つ導電性を有する支持基板として使用した。
【0098】
次に、電極上に下記構造式[化15]で示される正孔輸送材料(商品名;4,4’,4”−Tris(carbazol−9−yl)triphenylamine(俗名;TCTA)、Luminesence Technoligy社製)を蒸着し、正孔注入輸送層を20nmの厚さで形成した。
【0099】
【化15】

【0100】
次に、上記正孔注入輸送層の上に、実施例2で合成した例示化合物(8)に対して、下記構造式[化16]で示される燐光発光性のIr金属錯体(商品名;fac−Tris(2−(2−pyridinyl)phenyl)iridium、ALDRICH社製)の濃度が5重量%になるように、蒸着レートを調整しながら共蒸着し、膜厚40nmの発光層を設けた。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は0.1〜0.2nm/secの条件で成膜した。
【0101】
【化16】

【0102】
更に発光層の上に、下記構造式[化16]で示されるバソフェナントロリン化合物(商品名;4,7−Diphenyl−2,9−dimethyl−1,10−phenanthroline(俗名;BCP),ALDRICH社製)を蒸着して、膜厚30nmの電子輸送層を設けた。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は0.1〜0.2nm/secの条件であった。
【0103】
【化17】

【0104】
次に、フッ化リチウムを用いて、上記層の上に、真空蒸着法により厚さ0.5nmの膜を形成し、更に真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム膜を設け、フッ化リチウム/Al電極(陰極)とする有機発光素子を作成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は0.015〜1.2nm/secの条件で成膜した。
【0105】
得られた有機発光素子は、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ樹脂系接着材で封止した。
【0106】
[素子評価]
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極2)を正極、フッ化リチウム/Al電極(陰極5)を負極にして、発光輝度1000cd/m時の印加電圧を測定したところ、4.3Vであった。最高発光効率が46lm/Wの緑色の発光が観測された。
【0107】
(比較例1)
本発明の例示化合物(8)に変えて、比較化合物(4)を使用する以外は、実施例4と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。発光輝度1000cd/m時の印加電圧は5.6Vであり、発光効率34lm/Wの緑色の発光が観測された。
【0108】
上記のように、例示化合物(8)は、高T1(T1=436nm)と大きなHOMO値(−5.55eV)を有するために、緑色発光を示すIr金属錯体との組み合わせにおいて高い発光効率と低駆動電圧を兼備する素子、即ち、高い発光効率の素子であって、低電圧で駆動しても、必要な光量で発光する素子が得られることがわかった。
【0109】
(実施例5)
構造式[化15]の緑色発光を示すIr金属錯体に変えて、下記構造式[化17]の青色発光を示す燐光発光性のIr金属錯体(国際公開WO2008/156879号に記載の合成方法に準拠して合成した)を使用する以外は、実施例4と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。発光輝度1000cd/m時の印加電圧は4.5Vであり、発光効率17lm/Wの青色の発光が観測された。
【0110】
【化18】

【0111】
上記のように、本発明のピロロアザインドールは、高T1と大きなHOMO値を同時に満たすので、青色または緑色の発光を示す燐光発光性のIr金属錯体と組合せて使用することで、高い発光効率と低駆動電圧を兼備する素子が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の技術は、フルカラーディスプレイなどの表示装置だけでなく、照明機器、光電変換素子を使用した機器または電子写真機器などにも応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0113】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるピロロアザカルバゾール化合物。
【化1】


(式中、QおよびQはいずれか一方が窒素原子で他方が=CR−を表す。ArおよびArはそれぞれ独立して、炭素数30以下且つ1価の無置換アリール基、あるいは該無置換アリール基に炭素数1〜6のアルキル基を置換した1価の置換アリール基を表す。RおよびRはそれぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基であるが、互いが結合して6員環を形成しても良い。Rは、水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記無置換アリール基が、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、およびターフェニル基の群の中から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
対向する一対の電極間に配置された少なくとも一層の有機層を有する有機発光素子であって、前記有機層のうち少なくとも一層が、請求項1に記載の化合物を有する発光層であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記発光層が、ゲスト材料として燐光発光性のIr金属錯体を有する発光層である請求項3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の有機電界発光素子と、当該有機発光素子に電流を流すための薄膜トランジスタと、を有する画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1513(P2012−1513A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139953(P2010−139953)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】