説明

新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】安定で新規なベンゾ[a]ナフト[2,1−c]テトラセン化合物とそれを有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】下記構造式を含む有機化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極と、それらの間に配置される有機化合物層とを有する素子である。前記各電極から電子および正孔を注入することにより、前記有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成させ、該励起子が基底状態にもどる際に光を放出する。
【0003】
有機発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子、あるいは有機EL素子とも呼ばれる。有機発光素子の最近の進歩は著しく、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。
【0004】
一方で、有機発光素子は有機物それ自体が発光するため、寿命が短く、更なる長寿命化が望まれている。
【0005】
非特許文献1には、下記構造式Aで示される化合物の理論計算が記載されている。また非特許文献2には、下記構造式Aで示される化合物の合成法が記載されている。
【0006】
しかし、非特許文献1および2には、構造式Aの発光特性については記載がない。
【0007】
【化1】


構造式A
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Izvestiya po khimiya 21(1).69−77(1988年)
【非特許文献2】Jornal of the Chemical Society C 16.1499−1503(1967年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1および2に記載の化合物は、反応性が高い部位を有するので、酸化に対する安定性が低い化合物である。また、分子の平面性が高いため、分子間相互作用が大きい。そのため、アモルファス性が低下し、結晶化しやすい化合物である。
【0010】
酸化に対する安定性が低く、アモルファス性が低い化合物は、有機発光素子に用いるには好ましくない。
【0011】
そこで、本発明は、酸化に対する安定性が高く、かつアモルファス性が高い有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって、本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
【0013】
【化2】


[1]
【0014】
一般式[1]において、
乃至R16は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、アリール基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記アリール基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子を置換基として有してもよい。
【0015】
Ar、Arはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化に対する安定性が高く、かつアモルファス性が高い有機化合物を提供できる。そして、それを有する発光効率が高く、かつ素子寿命が長い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る発光層積層型の有機発光素子の一例の断面模式図である。
【図2】本実施形態に係る有機発光素子とこの有機発光素子に接続されているスイッチング素子とを有する表示装置の一例の断面模式図である。
【図3】本実施形態に係る化合物(2)のサイクリックホルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機化合物である。
【0019】
【化3】


[1]
【0020】
一般式[1]において、
乃至R16は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、アリール基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記アリール基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【0021】
Ar、Arはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【0022】
本発明に係る有機化合物の基本骨格は、無置換のベンゾ[a]ナフト[2,1−c]テトラセンと同じ構造で表される。
【0023】
本発明に係る有機化合物は、ArおよびArの位置にアリール基を有するため、酸化に対して安定な化合物である。また、基本骨格それ自体が歪みを有するため平面性が低く、加えてArおよびArの位置にアリール基を有するため、効果的に分子間相互作用を抑制することができる。
【0024】
(本発明に係る有機化合物と他の有機化合物との比較)
本実施形態に係る例示化合物A1と(2)で示される有機化合物とを比較する。
(2)で示される有機化合物は、非特許文献1および2に記載の化合物である。
【0025】
【化4】


A1
【0026】
【化5】


(2)
【0027】
有機発光素子に用いる有機化合物は、酸化還元反応に対する安定性が求められる。
【0028】
なぜなら、有機発光素子は有機化合物の励起子によって発光し、この励起子は、陽極界面での酸化反応によって生じる正孔と陰極界面での還元反応によって生じる電子とが再結合することで生成されるからである。
【0029】
本発明に係る有機化合物は、酸化に対して安定である。なぜならば、特定の位置に置換基を設けることで、基本骨格における反応性が高い部位の反応性を抑制しているからである。
【0030】
本発明に係る有機化合物が、化合物(2)と比較して、化合物自体が酸化に対して安定である理由を化合物の構造を用いて説明する。
【0031】
縮合環化合物のうち、複数のベンゼン環が直線状に縮合した構造をもつ化合物をアセンと呼ぶ。アセンの化合物の特徴の一つとして、縮合するベンゼン環の数が増加するにつれて不安定な構造となることが知られている。
【0032】
例えば、アセンの代表的な化合物であるアントラセンは、両端のベンゼン環による電子供与を受けるため、中央のベンゼン環の電子密度が高い。
【0033】
このため、アントラセンは中央のベンゼン環において酸化反応を受けやすい。すなわち、アントラセンの酸化に対して不安定な活性部位は、中央の9位および10位の位置である。
【0034】
【化6】

【0035】
この酸化に対して不安定な活性部位は、置換基を設けることによって安定化することができる。
【0036】
9位および10位に置換基を設けることで、分子内の電子密度の状態が変化するためである。また、置換基を設けることで、その置換基が立体障害となるため、活性部位に他の分子が近づきにくくなるからである。
【0037】
すなわち、アセンのような複数のベンゼン環が直線状に縮合した構造を有す縮合環化合物は、活性部位を有するため不安定な化合物となるが、活性部位に置換基を設けることにより、酸化に対しての安定性を向上させることが可能である。
【0038】
化合物(2)は無置換のベンゼン環が直線状に縮合した構造を一部に有しており、酸化に対して不安定な化合物である。
【0039】
ここで、本実施形態に係る例示化合物A1と化合物(2)について、CV(サイクリックボルタンメトリー)測定を行った。酸化還元を20回繰り返し掃引し、サイクリックボルタモグラムの変化から両化合物の酸化還元に対する安定性を比較した。
【0040】
化合物(2)のCV測定の結果を図3に示す。
【0041】
尚、CV測定は、0.1Mテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩のアセトニトリル溶液中で行い、参照電極はAg/Ag、対極はPt、作用電極はグラッシーカーボンを用いて測定した。
【0042】
また、電圧の挿引速度は、1.0V/sで行った。測定装置はALS社製のモデル660C、電気化学アナライザーを用いた。
【0043】
化合物(2)は、サイクル数が増えると、ピーク電流の値が変化していることがわかる。それに対して例示化合物A1はピーク電流値に変化は確認できなかった。
【0044】
特に化合物(2)は、点線で示した範囲において大きくサイクリックボルタモグラムが変化している。
【0045】
これは、化合物(2)は、酸化還元反応を繰り返した結果、別の化合物に変化していることを意味する。すなわち、化合物(2)は酸化還元反応に対しての安定性が低いことがわかる。
【0046】
以上より、本発明に係る有機化合物である例示化合物A1は、化合物(2)と比較して、化合物自体が酸化に対して安定であり、有機発光素子に適した有機化合物である。
【0047】
一方、有機発光素子には、膜質に優れたアモルファス性が高い薄膜を形成できる有機化合物が好ましい。アモルファス性が高いとは、結晶性が低いということもできる。
【0048】
アモルファス性が高い分子は、分子構造の平面性が低いので、分子構造の平面性を比較すれば、アモルファス性の比較ができる。
【0049】
一方、結晶性は、ガラス転移温度を比較することで、分子の結晶性を比較することができる。
【0050】
本発明に係る有機化合物は、ArおよびArの位置にアリール基を有するため、分子間相互作用が抑制されている。その結果、本発明に係る有機化合物は化合物(2)と比較して、アモルファス性が高い薄膜を形成することができる。
【0051】
本実施形態に係る例示化合物A1と化合物(2)とを密度汎関数法(Density Functional Theory)を用いて、B3LYP/6−31Gレベルでの分子軌道計算を行い、分子骨格の平面性を比較した。
【0052】
本発明に係る有機化合物の基本骨格内の一部を、下図に示すようにベンゾ[c]フェナントレン骨格部分やアントラセン骨格部分と呼ぶ。
【0053】
ベンゾ[c]フェナントレン部位は、基本骨格に歪みを生じさせるため、一般的な縮合環化合物よりも分子骨格の平面性が低い。そのため、分子間相互作用を抑制することができる。一方で、アントラセン部位は平面性が高い。
【0054】
【化7】

【0055】
本発明に係る有機化合物は、一般式(1)で示されるように、このアントラセン部位にArおよびArを有するため、分子間相互作用を抑制することができる。ArおよびArは片方に置換基を有するだけでも効果があるが、両方に置換基を有することが好ましい。
【0056】
ArおよびArを有する位置について説明する。
【0057】
【化8】

【0058】
例えば、ジフェニルアントラセンでは、2つのフェニル基の置換位置によって、分子平面に対するフェニル基の二面角が変化する。
【0059】
2つのフェニル基をアントラセンの9,10位に設けた構造が、フェニル基の二面角が最大となる。二面角が最大の場合、排除体積効果が最大となるため、最も効果的に分子間相互作用を抑制することができる。
【0060】
表1に示すように、例示化合物A1は、分子間相互作用を効果的に抑制する置換位置に嵩高い置換基が設けられているため、アモルファス性が高い。
【0061】
一方で化合物(2)は無置換であるためアモルファス性が低い。したがって、例示化合物A1は、化合物(2)よりもアモルファス性が高い膜を形成することができる。
【0062】
そのため、本発明に係る有機化合物は、有機発光素子に好ましく用いることができる。
【0063】
【表1】

【0064】
本発明に係る有機化合物は、酸化に対する安定性が高く、かつアモルファス性が高い化合物である。そのため、有機発光素子用材料として好ましく用いることができる。その中でも、発光層のホスト材料として用いられることが好ましい。
【0065】
ここで、ホスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で最も重量比が大きい化合物である。ゲスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で重量比がホスト材料よりも小さく主たる発光をする化合物である。ゲスト材料はドーパントとも呼ばれる。
【0066】
さらに発光層は、アシスト材料を有してよく、アシスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で重量比がホスト材料よりも小さく、かつゲスト材料の発光を助ける化合物である。アシスト材料は第二ホストとも呼ばれる。
【0067】
本発明に係る有機化合物を発光層のホスト材料として用いた有機発光素子は、発光効率が高く、かつ素子寿命が長いので、優れた有機発光素子である。
【0068】
本発明に係る有機化合物の一例を例示する。しかし、本発明に係る有機化合物はこれらに限定されるものではない。
【0069】
【化9】

【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
例示した化合物のうちA群に示す化合物は、分子全体が炭化水素のみで構成されている。炭化水素のみで構成される化合物は、HOMOエネルギーレベルが低い。これは、酸化電位が低く、酸化に対して安定であることを意味する。
【0073】
ここで、HOMOエネルギーレベルが低いとは、HOMOエネルギーレベルが真空準位からより遠いことを示し、HOMOが深いとも表現される。
【0074】
したがって、本発明に係る有機化合物のうち、炭化水素のみで構成されているA群に示す化合物は、化合物の安定性が高いので好ましい。
【0075】
例示した化合物のうちB群に示す化合物は、置換基にヘテロ原子を有する化合物である。ヘテロ原子により、分子の酸化電位、分子間相互作用、さらに電荷輸送能が変化する。
【0076】
このため、キャリアバランスの調整に優れ、効率良く励起子を生成するホストとして用いることができる。また、ホスト材料以外の電子輸送層や電子注入層等の用途にも用いることができる。
【0077】
本発明に係る有機化合物の中でも下記一般式[2]で示される有機化合物が特に好ましい。なぜなら、置換基同士の接触が少なく、化合物として安定だからである。
【0078】
【化12】


[2]
【0079】
一般式[2]において、
17乃至R24は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、アリール基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記アリール基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【0080】
ArおよびArはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【0081】
それぞれの置換基は、一般式[1]と対応しており、その役割や効果は一般式[1]の置換基と同じである。
【0082】
合成ルート
本発明に係る有機化合物の合成方法の一例を下記に示す。
【0083】
【化13】

【0084】
(その他有機化合物と原料)
上記反応式のうちC1乃至C4をそれぞれ変えることで種々の有機化合物を合成することができる。その具体例を表2に合成化合物として示す。下記表は、合成化合物を得るための原料であるC1乃至C4も示す。
【0085】
【表2】

【0086】
(本実施形態に係る有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0087】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有し、この有機化合物層が一般式[1]で示される有機化合物を有する素子である。
【0088】
本実施形態に係る有機発光素子が有する有機化合物層は、単層であっても複数層であっても構わない。
【0089】
ここで、複数層とは、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、エキシトンブロック層等から適宜選択される層である。もちろん、前記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。
【0090】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくは正孔輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0091】
その場合の素子形態は、基板側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0092】
本実施形態に係る有機発光素子は、本発明に係る有機化合物を発光層に有することが好ましい。
【0093】
本実施形態に係る有機発光素子の発光層のホストの濃度は、発光層の全体量に対して、50wt%以上99.9wt%以下であり、好ましくは80wt%以上99.5wt%以下である。
【0094】
本実施形態に係る有機発光素子の発光層のホストに対するゲストの濃度は、0.01wt%以上30wt%以下であることが好ましく、0.1wt%以上20wt%以下であることがより好ましい。
【0095】
さらに、発光層は単層であっても積層であっても良い。例えば、白色発光素子の場合、以下に示すような発光層構成を挙げるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
(1)単層:青、緑および赤色の発光材料を含む素子
(2)単層:水色および黄色の発光材料を含む素子
(3)2層:青色発光層と緑および赤色の発光材料を含む発光層、または
赤色発光層と青および緑色の発光材料を含む発光層との積層素子
(4)2層:水色発光層と黄色発光層との積層素子
(5)3層:青色発光層と緑色発光層と赤色発光層の積層素子
【0096】
本実施形態に係る有機発光素子が白色を発する素子の場合、別の発光層が赤色以外の色、すなわち青色や緑色を発光し、それぞれの発光色が混色することで白色を発することができる。この赤色を発する発光本実施形態に係る有機化合物であることが好ましい。
【0097】
本実施形態に係る白色有機発光素子は、発光層を複数有する形態でも、発光部が複数の発光材料を有する形態でもよい。その場合は、発光部が有する複数種類の化合物の内の1種類が本発明に係る有機化合物である。
【0098】
図1は、本実施形態に係る白色有機発光素子の一例として、積層型の発光層を有する素子構成の一例を示した断面模式図である。本図では3色の発光層を有する有機発光素子が図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0099】
この有機発光素子は、ガラス等の基板上に、陽極1、正孔注入層2、正孔輸送層3、青色発光層4、緑色発光層5、赤色発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9を積層させた素子構成である。ただし、青、緑、赤色発光層の積層は順番を問わない。
【0100】
また、発光層は積層される形態に限られず、横並びに配置されてもよい。横並びとは、配置された発光層はいずれも正孔輸送層および電子輸送層等の隣接層に接するように配置されることである。
【0101】
また、発光層は、ひとつの発光層の中に複数の色を発する発光材料を有する形態でもよい。その場合、発光材料はそれぞれドメインを形成する形態でもよい。
【0102】
本実施形態に係る白色発光素子において、青色発光層の発光材料および緑色発光層の発光材料および赤色発光層の発光材料は、特に限定されないが、クリセン骨格、フルオランテン骨格、またはアントラセン骨格を有する化合物、もしくはホウ素錯体またはイリジウム錯体を用いることが好ましい。
【0103】
本実施形態に係る白色は、純白色、昼白色などが含まれる。また、本実施形態に係る白色の色温度としては、3000K〜9500Kが挙げられる。また、本実施形態に係る白色有機発光素子の発光は、C.I.E.色度座標において、xが0.25〜0.50、yが0.30〜0.42の範囲にある。
【0104】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に係る化合物以外にも、必要に応じて従来公知の正孔注入性材料あるいは輸送性材料あるいはホスト材料あるいはゲスト材料あるいは電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。これら材料は低分子であっても高分子であってもよい。
【0105】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0106】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0107】
ホスト材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、など)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)およびポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0108】
ゲスト化合物としては、具体的な構造式を表3に示す。ゲスト化合物は表3に示す構造式を有する誘導体である化合物であってもよい。またそれ以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ベンゾフルオランテン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0109】
【表3】

【0110】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0111】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。
【0112】
これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0113】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0114】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る縮合多環化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。
【0115】
例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させてスピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の塗布法により層を形成する。
【0116】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0117】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0119】
(本実施形態に係る有機発光素子の用途)
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、カラーフィルターを用いた白色光源等の用途がある。カラーフィルターは例えば赤、緑、青の3つの色が透過するフィルターが挙げられる。
【0120】
本実施形態に係る表示装置は、本実施形態の有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。
【0121】
そしてこの画素は本実施形態の有機発光素子と、発光輝度を制御するためのスイッチング素子あるいは増幅素子の一例であるトランジスタとを有し、この有機発光素子の陽極又は陰極とトランジスタのドレイン電極又はソース電極とが接続されている。ここで表示装置は、PC等の画像表示装置として用いることができる。
【0122】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する入力部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像表示装置でもよい。
【0123】
また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。このタッチパネル機能の駆動方式は特に限定されない。
【0124】
また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0125】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。
【0126】
本実施形態に係る照明装置は本実施形態に係る有機発光素子とそれに接続されるコンバーター回路を有している。照明装置はカラーフィルターを有してもよい。
【0127】
本実施形態に係るコンバーター回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。
【0128】
本実施形態において白色とは色温度が4200Kであり、昼白色とは色温度が5000Kである。
【0129】
次に、本実施形態の有機発光素子を使用した表示装置について図2を用いて説明する。
【0130】
図2は、本実施形態に係る有機発光素子とそれに接続されたトランジスタの一例であるTFT素子とを有する表示装置の断面模式図である。
【0131】
この表示装置は、ガラス等の基板10とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜11が設けられている。また符号12は金属のゲート電極12である。符号13はゲート絶縁膜13であり、14は半導体層である。
【0132】
TFT素子17は半導体層14とドレイン電極15とソース電極16とを有している。TFT素子17の上部には絶縁膜18が設けられている。コンタクトホール19を介して有機発光素子の陽極20とソース電極16とが接続されている。
【0133】
本実施形態に係る表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0134】
有機化合物層21は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしているが複数層であってよい。陰極22の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層23や第二の保護層24が設けられている。
【0135】
本実施形態に係る表示装置が白色を発する表示装置の場合は、図2中の有機化合物層21の部分を図1で示される積層型の発光層等とすることで白色を発する表示装置となる。
【0136】
本実施形態に係る白色を発する表示装置が有する発光層は、図1に示される素子構成に限定されず、異なる発光色を発する発光層を横並びにしても、一の発光層の中にドメインを形成してもよい。
【0137】
本実施形態に係る表示装置はトランジスタに代えてスイッチング素子としてMIM素子を用いることもできる。
【0138】
トランジスタは、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタに限らず、基板の絶縁性表面上に活性層を有する薄膜トランジスタでもよい。活性層として単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、活性層としてアモルファスシリコンや微結晶シリコンなどの非単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、活性層としてIZO(インジウム亜鉛酸化物)やIGZO(インジウムガリウム亜鉛酸化物)などの非単結晶酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタであってもよい。薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0139】
本実施形態に係る有機発光素子が有するトランジスタは、Si基板等の基板内に形成されていてもよい。基板内とは、Si基板等の基板自体を加工して作製されたトランジスタを有することである。つまり、基板内にトランジスタを有することは、基板とトランジスタが一体に形成されているということもできる。
【0140】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板内に有機発光素子を設けることが好ましい。
【0141】
本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0142】
また、本発明に係る化合物は、有機発光素子だけでなく、生体内部標識やフィルターフィルムに使用することができる。
【実施例】
【0143】
(実施例1)
[例示化合物A1の合成]
【0144】
【化14】

【0145】
E1を6.00g(38.2mmol)、マグネシウムを1.37g(57.3mmol)、ジエチルエーテルを30ml、それぞれ300ml二口ナスフラスコに仕込み、窒素気流下、1時間攪拌を行った。
【0146】
その後、E2を9.04g(25.5mmol)、Pd(dppf)を832mg(1.02mmol)、ジエチルエーテルを50ml、塩化リチウムを1.07g(25.5mmol)、それぞれ上記300ml二口ナスフラスコに仕込み、窒素気流下、50℃で8時間攪拌を行った。
【0147】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0148】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:5)で精製することにより、無色透明の液体として化合物E3を6.28g(収率87%)得た。
【0149】
【化15】

【0150】
E3を2.60g(9.18mmol)、E4を3.53g(27.5mmol)、トリエチルアミンを2.79mg(27.5mmol)、Ni(dppp)Cl2を498mg、トルエンを30mlそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、95℃で5時間攪拌を行った。
【0151】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0152】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:1)で精製することにより、白色固体として化合物E5を1.70g(収率56%)得た。
【0153】
【化16】

【0154】
E7を6.47g(41.2mmol)、THF溶液をそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、−78℃で1時間攪拌を行った。さらに、−78℃において1.6MのnBuLi−ヘキサン溶液を25.8ml(41.2mmol)ゆっくり加え、窒素気流下、1時間攪拌を行った。
【0155】
その後、E6を4.56g(16.5mmol)を加え、窒素気流下、室温中において終夜攪拌を行った。反応終了後、この反応溶液中に水及びジクロロメタンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0156】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をクロロホルムとヘプタンの混合溶媒によって分散洗浄することにより、白色固体として化合物E8を5.85g(収率82%)得た。
【0157】
【化17】

【0158】
E8を4.58g(10.5mmol)、ヨウ化カリウムを2.10g(12.7mmmol)、NaHPO・HOを1.34g(12.7mmol)、酢酸を90mlそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、100℃で1時間攪拌を行った。
【0159】
反応終了後、この反応溶液中に水を加え、沈殿物を回収した。次に、メタノールにより分散洗浄を行い、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:1)で精製することにより、うす黄色固体として化合物E9を2.88g(収率68%)得た。
【0160】
【化18】

【0161】
E5を695mg(2.11mmol)、E9を700mg(1.75mmol)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニルを291mg(0.71mmol)、Pd(dba)2を121mg(0.21mmol)、KPOを928mg(4.38mmol)、トルエンを30mlそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、100℃で3時間攪拌を行った。
【0162】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0163】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:3)で精製することにより、うす黄色固体として化合物E10を810mg(収率82%)得た。
【0164】
【化19】

【0165】
E10を820mg(1.44mmol)、酢酸パラジウムを40mg(0.17mmol)、PCy3−HBF4を128mg(0.35mmol)、炭酸カリウムを497mg(3.60mmol)、N,N−ジメチルアセトアミドを10mlそれぞれ50mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、140℃で4時間攪拌を行った。
【0166】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0167】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:3)で精製することにより、黄色固体として例示化合物A1を427mg(収率56%)得た。
【0168】
また、得られたA1のうち、400mgをアルバック機構社製の昇華精製装置にて真空度7.0×10−1Pa、アルゴンガス10ml/min、昇華温度320℃にて昇華精製を行い、高純度の例示化合物A1を370mg得た。
【0169】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=530.52 計算値:C4226O=530.66
【0170】
次に例示化合物A1について、以下の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A1をガラス基板上に加熱蒸着し、膜厚20nmの蒸着薄膜を得た。この蒸着薄膜について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端から、例示化合物A1のエネルギーギャップは2.5eVであった。
【0171】
(実施例2)
[例示化合物A4の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E7をE11に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A4を得た。
【0172】
【化20】

【0173】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=755.58 計算値:C5858=755.08
【0174】
次に例示化合物A4について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A4のエネルギーギャップは2.3eVであった。
【0175】
(実施例3)
[例示化合物A6の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E7をE12に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A6を得た。
【0176】
【化21】

【0177】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=630.22 計算値:C5030=630.77
【0178】
次に例示化合物A6について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A6のエネルギーギャップは2.6eVであった。
【0179】
(実施例4)
[例示化合物A10の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E1をE13に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A10を得た。
【0180】
【化22】

【0181】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=586.20 計算値:C4634=586.76
【0182】
次に例示化合物A10について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A10のエネルギーギャップは2.5eVであった。
【0183】
(実施例5)
[例示化合物A14の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E2をE14に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A14を得た。
【0184】
【化23】

【0185】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=682.52 計算値:C5434=682.85
【0186】
次に例示化合物A4について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A15のエネルギーギャップは2.5eVであった。
【0187】
(比較例1)
[比較化合物(2)の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E9をE15に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で比較化合物(2)を得た。
【0188】
【化24】

【0189】
(実施例6)
本実施例では、多層型有機発光素子の第五の例で示した素子(陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極)とした。ガラス基板上に100nmのITOをパターニングした。
【0190】
そのITO基板上に、以下の有機化合物と電極を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜し、対向する電極面積が3mmになるようにした。化合物D1は表5内に構造を示した。
正孔注入層(30nm) F1
正孔輸送層(10nm) F2
発光層(30nm)ホスト:A1(重量比99.5%)、ゲスト:D1(重量比0.5%)
電子輸送層(30nm) F4
電子注入層(1nm) LiF
金属電極層(100nm) Al
【0191】
【化25】

【0192】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして印加電圧5.2Vをかけたところ、発光効率が4.8cd/Aで、輝度2000cd/mの赤色発光が観測された。
【0193】
また、得られた素子の安定性を評価するために、4500cd/mの初期輝度で駆動させた時の輝度が10%減少する寿命を測定したところ、70000時間を越えた。
【0194】
(実施例7乃至11、比較例2)
実施例6において、発光層のホスト材料およびゲスト材料を代えた他は、実施例と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例6と同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0195】
【表4】

【0196】
(実施例12)
本実施例では、共振構造を有する有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0197】
支持体としてのガラス基板上に反射性陽極としてのアルミニウム合金(AlNd)を100nmの膜厚でスパッタリング法にて成膜する。
【0198】
さらに、透明性陽極としてITOをスパッタリング法にて80nmの膜厚で形成する。次に、この陽極周辺部にポリイミド製の素子分離膜を厚さ1.5μmで形成し、半径3mmの開口部を設けた。
【0199】
これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した後、IPAで煮沸洗浄して乾燥する。さらに、この基板表面に対してUV洗浄を施す。
【0200】
更に、以下の有機層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜した後に、陰極としてIZOをスパッタリング法にて成膜して膜厚30nmの透明性電極を形成する。形成した後に、窒素雰囲気中において、封止する。以上により、有機発光素子を形成する。
ホール注入層(185nm) F1
ホール輸送層(10nm) F2
発光層(35nm)ホスト:A1(重量比99.5%)、ゲスト:D1(重量比0.5%)
電子輸送層(10nm) F3
電子注入層(70nm) F4(重量比 80%)、Li(重量比 20%)
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、IZO電極を負極にして印加電圧4.6Vをかけたところ、発光効率が10.6cd/Aで、輝度2000cd/mの赤色発光が観測された。
【0201】
(実施例13)
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔注入層/正孔輸送層/赤色発光層/緑色発光層/青色発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極が設けられた構成の白色有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0202】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。
【0203】
このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔注入層(30nm)F1
正孔輸送層(10nm)F2
赤色発光層(15nm)ホスト1: A1(重量比98.5%)、ホスト2: F6(重量比1.0%)、ゲスト: D1(重量比0.5%)
緑色発光層(5nm)ホスト: F4(重量比95.0%)、ゲスト: D10(重量比5.0%)
青色発光層(20nm)ホスト: F4(重量比95.0%)、ゲスト:F5(重量比5.0%)
電子輸送層(30nm) F3
電子注入層(1nm) LiF
金属電極層(100nm) Al
【0204】
【化26】

【0205】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして印加電圧をかけたところ、C.I.E.色度座標が(0.32,0.35)の白色発光が観測された。
【0206】
(結果と考察)
以上のように、本発明に係わる新規縮合環化合物をホスト材料として発光層に用いることで、長寿命の赤色有機発光素子を提供できる。また、他の発光色の発光材料と組み合わせることで白色発光素子を提供できる。
【符号の説明】
【0207】
4 青色発光層
5 緑色発光層
6 赤色発光層
17 TFT素子
20 陽極
21 有機化合物層
22 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】


[1]
式[1]において、
乃至R16は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、アリール基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記アリール基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
Ar、Arはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【請求項2】
下記一般式[2]で示されることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【化2】


[2]
式[2]において、
17乃至R24は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、アリール基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記アリール基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
ArおよびArはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素原子の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【請求項3】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置されている有機化合物層とを有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層は請求項1または2に記載の有機化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記発光層は、ホストとゲストとを有し、前記ホストが前記式[1]に記載の有機化合物であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物層は、複数の有機化合物を有する発光部を有し、
前記複数の有機化合物のうちの少なくとも1種類は、前記式[1]に記載の有機化合物であり、
前記発光部は、白色を発光することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、前記画素は、請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されているトランジスタと、を有することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
前記有機発光素子は、基板上に設けられており、
前記基板内に前記トランジスタを有することを特徴とする請求項7に記載の表示装置。
【請求項9】
画像情報を入力するための入力部と画像を表示するための表示部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されているトランジスタとを有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項10】
請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されているコンバーター回路とを有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112609(P2013−112609A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256747(P2011−256747)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】