説明

新規有機化合物および有機発光素子

【課題】安定で分子対称性が低く、結晶性が低い、酸化に対して安定な有機化合物とそれを有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】例えば下記式A1で示されるベンゾ[h]ヘキサフェン有機化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極と、それらの間に配置される有機化合物層とを有する素子である。前記各電極から電子および正孔を注入することにより、前記有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成させ、該励起子が基底状態にもどる際に光を放出する。
【0003】
有機発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子、あるいは有機EL素子とも呼ばれる。有機発光素子の最近の進歩は著しく、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。一方で、有機発光素子は有機物それ自体が発光するため、寿命が短く、更なる長寿命化が望まれている。
【0004】
特許文献1には有機発光素子に使用される蛍光発光材料として、下記のH1で示されるジベンゾ[a,c]テトラセンを基本骨格とした化合物が提案されている。また、非特許文献1では下記のH2で示されるベンゾ[h]ヘキサフェンの分子軌道計算が報告されている。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−01674号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Theoretica Chimica Acta,2(1),75−83,1964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている化合物は、基本骨格自体の対称性が高いため、結晶性の高い化合物である。そのため、この化合物によって形成された薄膜は、結晶化に伴う膜構造の変化が起こりやすい。
【0009】
非特許文献2に開示されている化合物は、無置換の縮合環化合物であるため、結晶性が高く、さらに化合物自体が酸化されやすく不安定である。
【0010】
さらに非特許文献2において、H2で示される有機化合物は、分子軌道計算のモデルとされているのみで、そもそも有機発光素子用の材料として扱われていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
よって本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするベンゾ[h]ヘキサフェンを提供する。
【0012】
【化2】


(1)
【0013】
式(1)において、
乃至R16は水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記フェニル基、前記ビフェニル基、前記ターフェニル基、前記ナフチル基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素基を置換基として有してもよい。
Ar、Arはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基を置換基として有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分子の対称性が低いので、結晶性が低く、かつ酸化に対して安定な有機化合物を提供できる。そして、それを有する発光寿命の長い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る発光層積層型の有機発光素子の一例を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る有機発光素子とこの有機発光素子に接続されているスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る有機化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするベンゾ[h]ヘキサフェンである。
【0017】
【化3】


(1)
【0018】
式(1)において、
乃至R16は水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記フェニル基、前記ビフェニル基、前記ターフェニル基、前記ナフチル基は、さらにメチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素基を置換基として有してもよい。
ArおよびArはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、さらにメチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基またはフッ素基を置換基として有してもよい。
【0019】
本発明に係る有機化合物は、基本骨格は平面性が高いが、Ar1およびAr2に置換基を有するため、分子パッキングを抑制することができる。
【0020】
さらに、Ar1およびAr2は、本発明に係る有機化合物が有する基本骨格の反応性が高い部位に設けられているため、その反応性を抑制している。そのため、本発明に係る有機化合物は酸化に対して安定である。
【0021】
ここで、本実施形態において、基本骨格とは共役を有する縮環構造を指す。すなわち本発明に係る有機化合物の基本骨格は、下記(3)で示される化合物の基本骨格と同じである。
【0022】
(本発明の化合物と他の有機化合物との比較)
本発明に係る有機化合物と(2)および(3)に示す化合物とを比較する。
(2)に示す化合物は、特許文献1に記載の基本骨格に、本実施形態に係る例示化合物A1と同様に置換基を設けた化合物である。
(3)に示す化合物は、非特許文献2に記載の化合物である。
【0023】
【化4】


A1
【0024】
【化5】


(2)
【0025】
【化6】


(3)
【0026】
有機発光素子に用いる有機化合物は、膜質と熱安定性に優れたアモルファス性が高い薄膜を形成できる有機化合物が求められる。アモルファス性が高いとは、結晶性が低いということもできる。
【0027】
本発明に係る有機化合物は、化合物(2)と比較して、基本骨格の対称性が低いため、分子パッキングが抑制されている。その結果、アモルファス性が高い薄膜を形成することができる。
【0028】
本実施形態においては、本実施形態に係る例示化合物A1と化合物(2)とを群論を用いて分子構造の対称性を比較した。
【0029】
【化7】

【0030】
例えば、トリフェニレン骨格は分子平面に対して垂直方向に3回回転軸(C3)を有し、この3回回転軸に直交する2回回転軸(C2)および対称面(σ)を有するので、点群はD3hに分類される。
【0031】
また、ベンゾ[f]テトラフェン骨格は分子平面の長軸方向に2回回転軸(C2)を有し、この2回回転軸を含む対称面(σ)を有するので、点群はC2vに分類される。
【0032】
一方、ベンゾ[h]ヘキサフェン骨格は回転軸を持たず、分子平面を含む対称面(σ)を有するので、点群はCsに分類される。
【0033】
よって、分子の対称性は、トリフェニレン骨格、ベンゾ[f]テトラフェン骨格、ベンゾ[h]ヘキサフェン骨格の順に低い。
【0034】
対称性の低い分子は、対称性の高い分子と比較して、膜にした際に分子配列が乱れやすいため、分子同士が規則的に重なり合う分子パッキングが抑制される。
【0035】
分子パッキングが抑制された化合物を用いて薄膜を形成した場合、薄膜は結晶化を抑制されるので、アモルファス性が高い薄膜となる。すなわち、対称性の低い分子によって形成された薄膜は、アモルファス性が高い薄膜となる。
【0036】
下記の表1にそれぞれの化合物の群論における分類を示す。化合物(2)の対称性はC2vに分類されるのに対して、例示化合物A1の対称性はCに分類される。
【0037】
よって、例示化合物A1は、対称性の低い分子であるため、より膜質に優れるアモルファス性が高い薄膜を形成することができる。
【0038】
本発明に係る有機化合物である例示化合物A1は、化合物(2)と比較して、ガラス転移温度(Tg)が高い。つまり、本発明に係る有機化合物は熱安定性が高い化合物である。
【0039】
Tgとは、分子が重心の位置を変えずにミクロブラウン運動を開始する温度である。Tgが低い分子は、ミクロブラウン運動が誘起されやすい。
【0040】
そのため、Tgが低い分子を用いて薄膜を形成した場合、薄膜中における分子の再配列が起こりやすい。この再配列は結晶化を促進するため、薄膜のアモルファス性を低下させる。すなわち、Tgが高いことは、アモルファス薄膜の熱安定性が高いことを意味する。
【0041】
有機発光素子に用いる有化合物はTgが高いことが好ましい。
【0042】
Tgが高い有機化合物の設計方法としては、その有機化合物の分子量を増加させる方法や、分子間の相互作用を高める方法が知られている。
【0043】
有機発光素子用の有機化合物の場合は、大幅に分子量を増加させずに、分子間の相互作用を適度に高めることが好ましい。昇華性が高い方が有機発光素子の製造する際に好ましいからである。
【0044】
表1に示すように、例示化合物A1は化合物(2)と比較して、分子量は50の差を有し、Tgは19℃の差を有する。
【0045】
よって例示化合物A1は、高いTgを有するため、より熱安定性に優れるアモルファス薄膜を形成できる。そのため、本発明に係る有機化合物は、有機発光素子に好ましく用いることができる。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明に係る有機化合物が有する基本骨格は、平面性が高いが、一般式(1)で示されるようにAr1およびAr2を有するため、分子パッキングを抑制できる。Ar1およびAr2は片方に置換基を有するだけでも効果があるが、両方に置換基を有することが好ましい。
Ar1およびAr2を有する位置について説明する。
【0048】
【化8】

【0049】
例えば、ジフェニルアントラセンでは、2つのフェニル基の置換位置によって、分子平面に対するフェニル基の二面角が変化する。
【0050】
2つのフェニル基をアントラセンの9,10位に設けた構造が、フェニル基の二面角が最大となる。最大の二面角を有するこの置換位置が最も効果的に分子パッキングを抑制することができる。
【0051】
表2に示すように、例示化合物A1は、分子パッキングを効果的に抑制する置換位置に嵩高い置換基が設けられているため、アモルファス性が高い。
【0052】
一方で化合物(3)は無置換であるためアモルファス性が低い。したがって、例示化合物A1は、結晶性が低いため、化合物(3)より膜質にアモルファス性が高い膜を形成することができる。
【0053】
そのため、本発明に係る有機化合物は、有機発光素子に好ましく用いることができる。
【0054】
【表2】

【0055】
さらに、本発明に係る有機化合物は、酸化に対して安定である。なぜならば、特定の位置に置換基を設けることで、基本骨格における反応性が高い部位の反応性を抑制しているからである。
【0056】
本発明に係る有機化合物である例示化合物A1は、化合物(3)と比較して、化合物自体が酸化に対して安定となる。この理由として、化合物の構造と安定性について説明する。
【0057】
縮合環化合物のうち、複数のベンゼン環が直線状に縮合した構造をもつ化合物をアセンと呼ぶ。アセンの化合物の特徴の一つとして、縮合するベンゼン環の数が増加するにつれて不安定な構造となることが知られている。
【0058】
例えば、アセンの代表的な化合物であるアントラセンは、両端のベンゼン環による電子供与を受けるため、中央のベンゼン環の電子密度が高い。
【0059】
このため、アントラセンは中央のベンゼン環において酸化反応を受けやすい。すなわち、アントラセンの酸化に対して不安定な活性部位は、中央の9,10位の位置である。
【0060】
【化9】

【0061】
この酸化に対して不安定な活性部位は、置換基を導入することによって安定化することができる。なぜならば、置換基の立体障害により反応性を低下することができるからである。
【0062】
すなわち、アセンのような複数のベンゼン環が直線状に縮合した構造を有す縮合環化合物は、活性部位を有するため不安定な化合物となるが、活性部位に置換基を設けることにより、酸化に対しての安定性を向上させることが可能である。
【0063】
表3に示すように、化合物(3)は無置換のベンゼン環が直線状に縮合した構造を一部に有しており、*で表した置換位置が活性部位であり、酸化に対して不安定な化合物である。
【0064】
一方で、本発明に係る例示化合物A1は、活性部位である置換位置に嵩高いフェニル基を有しているため、酸化に対して安定な化合物である。
【0065】
【表3】

【0066】
以上より、本発明に係る有機化合物である例示化合物A1は活性部位に置換基を有しているため、化合物(3)よりも酸化還元反応に対する安定性が高い。
【0067】
よって、本発明に係る有機化合物である例示化合物A1は、対称性が低く平面性の高い基本骨格を有し、かつ置換基が効果的に導入されているため、化合物(2)および化合物(3)よりも有機発光素子に好適なアモルファスな薄膜を形成することができる。
【0068】
さらに、活性部位に置換基を有しているため、化合物(3)よりも化合物自体の安定性が高い。
【0069】
つまり、本発明に係る有機化合物は、一般式(1)で示すようにAr1およびAr2を有するため、分子パッキングを抑制し、酸化に対して安定性の高い化合物である。
【0070】
その結果、本発明に係る有機化合物は、化合物(2)および化合物(3)よりも長寿命な有機発光素子を提供することができる。
【0071】
本発明に係る有機化合物は、有機発光素子の発光層のゲストまたはホストとして好ましく用いられる。
【0072】
ここでホストとは、発光層を構成する化合物の中で最も重量比が大きい化合物である。ゲストとは発光層を構成する化合物の中で重量比がホストよりも小さく、主たる発光をする材料である。アシストとは、発光層を構成する化合物の中で重量比がホストよりも小さく、ゲストの発光を助ける化合物である。
【0073】
またゲストはドーパントと呼ぶことができ、アシストは第二ホストとも呼ぶことができる。
【0074】
さらに本発明に係る有機化合物は、発光層以外の各層、すなわちホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層あるいはその他の層のいずれの層に用いてもよい。
【0075】
本発明に係る有機化合物は、ホストとして好ましく用いることができる。特に緑または赤色発光層、または白色発光素子のホストとして用いられることが好ましい。
【0076】
本実施形態において、緑色の領域とは、最大発光ピークの波長が490nm以上530nm以下の領域である。赤色の領域とは、最大発光ピークの波長が580nm以上630nm以下の領域である。
【0077】
また、本発明に係る有機化合物は、正孔注入層に用いることもできる。HOMOが高いので、電極から正孔の注入が容易であるためである。
【0078】
本発明に係る有機化合物のHOMOが高いことは、六員環のみで分子構造が構成されていることに起因する。
【0079】
(本発明に係る有機化合物の例示)
本発明に係る有機化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0080】
【化10】

【0081】
【化11】

【0082】
(例示した化合物群のそれぞれの性質)
例示した化合物のうちA群に示す化合物は、分子全体が炭化水素のみで構成されている。炭化水素のみで構成される化合物は、HOMOエネルギーレベルが低い。これは、酸化電位が低く、酸化に対して安定であることを意味する。
【0083】
ここで、HOMOエネルギーレベルが低いとは、HOMOエネルギーレベルが真空準位からより遠いことを示し、HOMOが深いとも表現される。
【0084】
したがって、本発明に係る有機化合物のうち、炭化水素のみで構成されているA群に示す化合物は、化合物の安定性が高いので好ましい。
【0085】
例示した化合物のうちB群に示す化合物は、置換基にヘテロ原子を有する化合物である。ヘテロ原子により、分子の酸化電位、分子間相互作用、さらに電荷輸送能が変化する。
【0086】
このため、キャリアバランスの調整に優れ、効率良く励起子を生成するホストとして用いることができる。また、ホスト材料以外の電子輸送層や電子注入層等の用途にも用いることができる。
【0087】
本発明に係る有機化合物は、下記一般式(2)で示される化合物が特に好ましい。
【0088】
【化12】


(2)
【0089】
式(2)において、
17乃至R24は水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記フェニル基、前記ビフェニル基、前記ターフェニル基、前記ナフチル基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
ArおよびArはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
それぞれの置換基は、一般式(1)と対応しており、その役割や効果は一般式(1)の置換基と同じである。
【0090】
以上のように例示化合物をA乃至B群として挙げた。しかし、本発明に係る有機化合物は例示化合物に限らない。
【0091】
本発明に係る有機化合物は、有機発光素子の発光層のホストに用いることが好ましい。そのとき有機発光素子の発光色は緑色や赤色に限らず、具体的には白色でも良いし、中間色でもよい。また、緑色を発光する有機発光素子の発光層のゲストに用いることもできる。
【0092】
(合成ルートの説明)
本発明に係る有機化合物の合成ルートの一例を説明する。以下に反応式を記す。
【0093】
このうち下記式において置換基を導入する場合には、導入する位置の水素原子を他の置換基に置き換えて合成することができる。置き換える置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、フェニル基などが挙げられる。
【0094】
合成ルート1
【0095】
【化13】

【0096】
(その他有機化合物と原料)
上記反応式のうちC1乃至C4をそれぞれ変えることで種々の有機化合物を合成することができる。その具体例を表4に合成化合物として示す。下記表は、合成化合物を得るための原料であるC1乃至C4も示す。
【0097】
【表4】

【0098】
(本実施形態に係る有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0099】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有し、この有機化合物層が一般式(1)で示される有機化合物を有する素子である。
【0100】
本実施形態に係る有機発光素子が有する有機化合物層は、単層であっても複数層であっても構わない。
【0101】
ここで、複数層とは、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、エキシトンブロック層等から適宜選択される層である。もちろん、前記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。
【0102】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくは正孔輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0103】
その場合の素子形態は、基板側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0104】
本実施形態に係る有機発光素子は、本発明に係る有機化合物を発光層に有することが好ましい。
【0105】
本実施形態に係る有機発光素子の発光層のホストの濃度は、発光層の全体量に対して、50wt%以上99.9wt%以下であり、好ましくは80wt%以上99.5wt%以下である。
【0106】
本実施形態に係る有機発光素子の発光層のホストに対するゲストの濃度は、0.01wt%以上30wt%以下であることが好ましく、0.1wt%以上20wt%以下であることがより好ましい。
【0107】
さらに、発光層は単層であっても積層であっても良い。例えば、白色発光素子の場合、以下に示すような発光層構成を挙げるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
(1)単層:青、緑および赤色の発光材料を含む素子
(2)単層:水色および黄色の発光材料を含む素子
(3)2層:青色発光層と緑および赤色の発光材料を含む発光層、または
赤色発光層と青および緑色の発光材料を含む発光層との積層素子
(4)2層:水色発光層と黄色発光層との積層素子
(5)3層:青色発光層と緑色発光層と赤色発光層の積層素子
【0108】
本実施形態に係る有機発光素子が白色を発する素子の場合、別の発光層が緑色以外の色、すなわち青色や赤色を発光し、それぞれの発光色が混色することで白色を発することができる。この緑色を発する発光材料が本実施形態に係る有機化合物であることが好ましい。
【0109】
本実施形態に係る白色有機発光素子は、発光層を複数有する形態でも、発光部が複数の発光材料を有する形態でもよい。
【0110】
図1は、本実施形態に係る白色有機発光素子の一例として、積層型の発光層を有する素子構成の一例を示した断面模式図である。本図では3色の発光層を有する有機発光素子が図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0111】
この有機発光素子は、ガラス等の基板上に、陽極1、正孔注入層2、正孔輸送層3、青色発光層4、緑色発光層5、赤色発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9を積層させた素子構成である。ただし、青、緑、赤色発光層の積層は順番を問わない。
【0112】
また、発光層は積層される形態に限られず、横並びに配置されてもよい。横並びとは、配置された発光層はいずれも正孔輸送層および電子輸送層等の隣接層に接するように配置されることである。
【0113】
また、発光層は、ひとつの発光層の中に複数の色を発する発光材料を有する形態でもよい。その場合、発光材料はそれぞれドメインを形成する形態でもよい。
【0114】
本実施形態に係る白色発光素子において、青色発光層の発光材料および緑色発光層の発光材料および赤色発光層の発光材料は、特に限定されないが、クリセン骨格、フルオランテン骨格、またはアントラセン骨格を有する化合物、もしくはホウ素錯体またはイリジウム錯体を用いることが好ましい。
【0115】
本実施形態に係る白色は、純白色、昼白色などが含まれる。また、本実施形態に係る白色の色温度としては、3000K〜9500Kが挙げられる。また、本実施形態に係る白色有機発光素子の発光は、C.I.E.色度座標において、xが0.25〜0.50、yが0.30〜0.42の範囲にある。
【0116】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に係る化合物以外にも、必要に応じて従来公知の正孔注入性材料あるいは輸送性材料あるいはホスト材料あるいはゲスト材料あるいは電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。これら材料は低分子であっても高分子であってもよい。
【0117】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0118】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0119】
ホスト材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、など)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)およびポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0120】
ゲスト化合物としては、具体的な構造式を表5に示す。ゲスト化合物は表5に示す構造式を有する誘導体である化合物であってもよい。またそれ以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ベンゾフルオランテン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0121】
列挙したゲスト化合物の中でもアントラセン誘導体、フルオランテン誘導体が特に好ましい。
【0122】
アントラセン誘導体とは、6員芳香環が3つ直線に縮環した構造を有する化合物であり、表5におけるD3を含む。また、アントラセン誘導体は、アントラセンを基本骨格とする化合物を含み、中でも9位と10位に置換アミノ基を有する化合物が好ましい。
【0123】
ベンゾフルオランテン誘導体とは、基本骨格内にベンゾフルオランテンを有する化合物である。D1乃至D3のように、ベンゾフルオランテンに縮環を有していてもよい。ベンゾフルオランテンの中でもベンゾ[k]フルオランテンが好ましい。
【0124】
【表5】

【0125】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0126】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。
【0127】
これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0128】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0129】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る縮合多環化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。
【0130】
例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させてスピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の塗布法により層を形成する。
【0131】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0132】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0133】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0134】
(本実施形態に係る有機発光素子の用途)
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、カラーフィルターを用いた白色光源等の用途がある。カラーフィルターは例えば赤、緑、青の3つの色が透過するフィルターが挙げられる。
【0135】
表示装置は、本実施形態の有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。そしてこの画素は本実施形態の有機発光素子と、発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例であるTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極又は陰極とTFT素子のドレイン電極又はソース電極とが接続されている。ここで表示装置は、PC等の画像表示装置として用いることができる。
【0136】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する入力部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像表示装置でもよい。
【0137】
また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部は、外部から入力された画像情報を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0138】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。照明装置は本実施形態に係る有機発光素子とそれに接続されるコンバーター回路を有している。白とは色温度が4200Kであり、昼白色とは色温度が5000Kである。照明装置はカラーフィルターを有してもよい。
【0139】
本実施形態に係るコンバーター回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。
【0140】
次に、本実施形態の有機発光素子を使用した表示装置について図2を用いて説明する。
【0141】
図2は、本実施形態に係る有機発光素子とそれに接続されたTFT素子とを有する表示装置の断面模式図である。
【0142】
この表示装置は、ガラス等の基板10とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜11が設けられている。また符号12は金属のゲート電極12である。符号13はゲート絶縁膜13であり、14は半導体層である。
【0143】
TFT素子17は半導体層14とドレイン電極15とソース電極16とを有している。TFT素子17の上部には絶縁膜18が設けられている。コンタクトホール19を介して有機発光素子の陽極20とソース電極16とが接続されている。
【0144】
本実施形態に係る表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0145】
有機化合物層21は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしているが複数層であってよい。陰極22の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層23や第二の保護層24が設けられている。
【0146】
本実施形態に係る表示装置が白色を発する表示装置の場合は、図2中の有機化合物層21の部分を図1で示される積層型の発光層等とすることで白色を発する表示装置となる。
【0147】
本実施形態に係る白色を発する表示装置が有する発光層は、図1に示される素子構成に限定されず、異なる発光色を発する発光層を横並びにしても、一の発光層の中にドメインを形成してもよい。
【0148】
本実施形態に係る有機発光素子はスイッチング素子の一例であるTFT素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0149】
本実施形態に係る有機発光素子が有するスイッチング素子は、TFT素子に限られず、トランジスタやMIM素子、Si基板等の基板上に形成されたアクティブマトリクスドライバーであってもよい。基板上とは、その基板内ということもできる。
【0150】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設けることが好ましい。
【0151】
本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【実施例】
【0152】
(実施例1)
[例示化合物A1の合成]
【0153】
【化14】

【0154】
E1を6.00g(21.2mmol)、E2を3.84g(22.3mmol)、Pd(PPh3)4を735mg、トルエンを100ml、エタノールを50ml、2Mの炭酸ナトリウム水溶液を100ml、それぞれ500mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、90℃で8時間攪拌を行った。
【0155】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0156】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:3)で精製することにより、無色透明の液体として化合物E3を5.22g(収率87%)得た。
【0157】
【化15】

【0158】
E3を2.60g(9.18mmol)、E4を3.53g(27.5mmol)、トリエチルアミンを2.79mg(27.5mmol)、Ni(dppp)Cl2を498mg、トルエンを30mlそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、95℃で5時間攪拌を行った。
【0159】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0160】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:1)で精製することにより、白色固体として化合物E5を1.70g(収率56%)得た。
【0161】
【化16】

【0162】
E7を6.47g(41.2mmol)、THF溶液をそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、−78℃で1時間攪拌を行った。さらに、−78℃において1.6MのnBuLi−ヘキサン溶液を25.8ml(41.2mmol)ゆっくり加え、窒素気流下、1時間攪拌を行った。
【0163】
その後、E6を4.56g(16.5mmol)を加え、窒素気流下、室温中において終夜攪拌を行った。反応終了後、この反応溶液中に水及びジクロロメタンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0164】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をクロロホルムとヘプタンの混合溶媒によって分散洗浄することにより、白色固体として化合物E8を5.85g(収率82%)得た。
【0165】
【化17】

【0166】
E8を4.58g(10.5mmol)、ヨウ化カリウムを2.10g(12.7mmmol)、NaHPO・HOを1.34g(12.7mmol)、酢酸を90mlそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、100℃で1時間攪拌を行った。
【0167】
反応終了後、この反応溶液中に水を加え、沈殿物を回収した。次に、メタノールにより分散洗浄を行い、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:1)で精製することにより、うす黄色固体として化合物E9を2.88g(収率68%)得た。
【0168】
【化18】

【0169】
E5を695mg(2.11mmol)、E9を700mg(1.75mmol)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニルを291mg(0.71mmol)、Pd(dba)2を121mg(0.21mmol)、KPOを928mg(4.38mmol)、トルエンを30mlそれぞれ200mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、100℃で3時間攪拌を行った。
【0170】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0171】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:3)で精製することにより、うす黄色固体として化合物E10を810mg(収率82%)得た。
【0172】
【化19】

【0173】
E10を820mg(1.44mmol)、酢酸パラジウムを40mg(0.17mmol)、PCy3−HBF4を128mg(0.35mmol)、炭酸カリウムを497mg(3.60mmol)、N,N−ジメチルアセトアミドを10mlそれぞれ50mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、140℃で4時間攪拌を行った。
【0174】
反応終了後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、硫酸ナトリウムを用いて回収した有機層の乾燥を行った。
【0175】
次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:3)で精製することにより、黄色固体として例示化合物A1を427mg(収率56%)得た。
【0176】
また、得られたA1のうち、400mgをアルバック機構社製の昇華精製装置にて真空度7.0x10−1Pa、アルゴンガス10ml/min、昇華温度320℃にて昇華精製を行い、高純度の例示化合物A1を370mg得た。
【0177】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=530.52 計算値:C4226O=530.66
【0178】
次に例示化合物A1について、以下の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A1をガラス基板上に加熱蒸着し、膜厚20nmの蒸着薄膜を得た。この蒸着薄膜について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端から、例示化合物A1のエネルギーギャップは2.5eVであった。
【0179】
(実施例2)
[例示化合物A4の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E7をE11に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A4を得た。
【0180】
【化20】

【0181】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=755.58 計算値:C5858=755.08
【0182】
次に例示化合物A4について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A4のエネルギーギャップは2.3eVであった。
【0183】
(実施例3)
[例示化合物A6の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E7をE12に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A6を得た。
【0184】
【化21】

【0185】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=630.22 計算値:C5030=630.77
【0186】
次に例示化合物A6について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A6のエネルギーギャップは2.6eVであった。
【0187】
(実施例4)
[例示化合物A10の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E1をE13に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A10を得た。
【0188】
【化22】

【0189】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=586.20 計算値:C4634=586.76
【0190】
次に例示化合物A10について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A10のエネルギーギャップは2.5eVであった。
【0191】
(実施例5)
[例示化合物A15の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E2をE14に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A15を得た。
【0192】
【化23】

【0193】
得られた化合物の同定は、質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=682.52 計算値:C5434=682.85
【0194】
次に例示化合物A4について、実施例1と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
例示化合物A15のエネルギーギャップは2.5eVであった。
【0195】
(比較例1)
[比較化合物(2)の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E2をE15に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で比較化合物(2)を得た。
【0196】
【化24】

【0197】
(比較例2)
[比較化合物(3)の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E9をE16に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で比較化合物(3)を得た。
【0198】
【化25】

【0199】
(実施例6)
本実施例では、多層型有機発光素子の第五の例で示した素子(陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極)とした。ガラス基板上に100nmのITOをパターニングした。
そのITO基板上に、以下の有機化合物と電極を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜し、対向する電極面積が3mmになるようにした。化合物D1は表5内に構造を示した。
正孔注入層(30nm) F1
正孔輸送層(10nm) F2
発光層(30nm)ホスト:A1(重量比99.5%)、ゲスト:D1(重量比0.5%)
電子輸送層(30nm) F4
電子注入層(1nm) LiF
金属電極層(100nm) Al
【0200】
【化26】

【0201】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして印加電圧5.2Vをかけたところ、発光効率が4.8cd/Aで、輝度2000cd/mの赤色発光が観測された。
【0202】
また、得られた素子の安定性を評価するために、4500cd/mの初期輝度で駆動させた時の輝度が10%減少する寿命を測定したところ、70000時間を越えた。
【0203】
(実施例7乃至10、比較例3および4)
実施例6において、発光層のホスト材料およびゲスト材料を代えた他は、実施例と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例6と同様に評価を行った。結果を表6に示す。
【0204】
【表6】

【0205】
(実施例11)
本実施例では、共振構造を有する有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0206】
支持体としてのガラス基板上に反射性陽極としてのアルミニウム合金(AlNd)を100nmの膜厚でスパッタリング法にて成膜する。
【0207】
さらに、透明性陽極としてITOをスパッタリング法にて80nmの膜厚で形成する。次に、この陽極周辺部にポリイミド製の素子分離膜を厚さ1.5μmで形成し、半径3mmの開口部を設けた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した後、IPAで煮沸洗浄して乾燥する。さらに、この基板表面に対してUV洗浄を施す。
【0208】
更に、以下の有機層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜した後に、陰極としてIZOをスパッタリング法にて成膜して膜厚30nmの透明性電極を形成する。形成した後に、窒素雰囲気中において、封止する。以上により、有機発光素子を形成する。
ホール注入層(185nm) F1
ホール輸送層(10nm) F2
発光層(35nm)ホスト:A1(重量比99.5%)、ゲスト:D1(重量比0.5%)
電子輸送層(10nm) F3
電子注入層(70nm) F4(重量比 80%)、Li(重量比 20%)
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、IZO電極を負極にして印加電圧4.6Vをかけたところ、発光効率が10.6cd/Aで、輝度2000cd/mの赤色発光が観測された。
【0209】
(実施例12)
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔注入層/正孔輸送層/赤色発光層/緑色発光層/青色発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極が設けられた構成の白色有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0210】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。
【0211】
このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔注入層(30nm)F1
正孔輸送層(10nm)F2
赤色発光層(15nm)ホスト1: A1(重量比98.5%)、ホスト2: F6(重量比1.0%)、ゲスト: D1(重量比0.5%)
緑色発光層(5nm)ホスト: F4(重量比95.0%)、ゲスト: D10(重量比5.0%)
青色発光層(20nm)ホスト: F4(重量比95.0%)、ゲスト:F5(重量比5.0%)
電子輸送層(30nm) F3
電子注入層(1nm) LiF
金属電極層(100nm) Al
【0212】
【化27】

【0213】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして印加電圧をかけたところ、C.I.E.色度座標が(0.32,0.35)の白色発光が観測された。
【0214】
(結果と考察)
以上のように、本発明に係わる新規縮合環化合物をホスト材料として発光層に用いることで、長寿命の赤色有機発光素子を提供できる。また、他の発光色の発光材料と組み合わせることで白色発光素子を提供できる。
【符号の説明】
【0215】
4 青色発光層
5 緑色発光層
6 赤色発光層
17 TFT素子
20 陽極
21 有機化合物層
22 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示されることを特徴とするベンゾ[h]ヘキサフェン。
【化1】


(1)
式(1)において、
乃至R16は水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記フェニル基、前記ビフェニル基、前記ターフェニル基、前記ナフチル基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
ArおよびArはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【請求項2】
下記一般式(2)で示されることを特徴とする請求項1に記載のベンゾ[h]ヘキサフェン。
【化2】


(2)
式(2)において、
17乃至R24は水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基、シアノ基、ジフェニルアミノ基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記ジフェニルアミノ基、前記ピリジル基、前記フェニル基、前記ビフェニル基、前記ターフェニル基、前記ナフチル基は、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
ArおよびArはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基のいずれかである。
前記Arおよび前記Arは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、t−ブチル基及びフッ素基の少なくともいずれかひとつを置換基として有してもよい。
【請求項3】
陰極と陽極と、前記陽極および陰極の間に配置されている有機化合物層とを有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層の少なくとも1層は請求項1または2に記載の有機化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記発光層は、ホストとゲストとを有し、前記ホストが前記ベンゾ[h]ヘキサフェンであることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物層は、複数の有機化合物を有する発光部を有し、
前記複数の有機化合物のうちの少なくとも1種類は、前記ベンゾ[h]ヘキサフェンであり、
前記発光部は、白色を発光することを特徴とする有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、前記画素は、請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されているスイッチング素子と、を有することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
前記有機発光素子は、基板上に設けられており、
前記基板内に前記スイッチング素子を有することを特徴とする請求項7に記載の表示装置。
【請求項9】
画像情報を入力するための入力部と画像を表示するための表示部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されているスイッチング素子とを有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項10】
請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されているコンバーター回路とを有することを特徴とする照明装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−87072(P2013−87072A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227974(P2011−227974)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】