説明

新規有機導電性膜を使用した有機電極

【課題】複雑な工程を経ることなく、テトラチアフルバレン誘導体と電子受容性化合物とを積層させるだけで、簡便かつ高電気伝導度を有する積層膜を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体と電子受容性化合物の積層膜


(式(I)中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネセンス素子等への応用が期待されている有機電極、及びこれを用いた電子素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスデバイスは、フレキシビリティー性、可搬性に優れ、今後、その利用価値はますます高くなることが期待されている。そのため、有機半導体、有機LED、有機太陽電池といった有機エレクトロニクスの中心となるデバイスの研究開発が盛んに行われているが、有機物は本来絶縁物であり、これらのデバイスにおいても多くの電極部分は金属が用いられており、フレキシビリティー性、可搬性といった有機化合物の特徴を活かすにはこれら有機エレクトロニクスに利用可能な有機電極の登場が待たれている。
【0003】
有機電極の可能性を示す例として、電子供与分子と電子受容分子からなる電荷移動錯体が知られている。この電荷移動錯体が金属的伝導を示すことは1973年にテトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)を用いて知られるようになり、その後BDTTF、TSFや、つぎに示されるF1TCNQ、F2TCNQ、F4TCNQ(非特許文献1 のAppl. Phys. Lette., 88, 073504, (2006)、及び非特許文献2のAdv. Matterials, 2007, 19, 3248参照)など新たな材料開発も進んでいる。また、この電荷移動錯体は他にも多くの応用が期待されており、有機超電導体、有機磁性体、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機熱電素子等が挙げられる。
【0004】
【化1】

【0005】
成膜方法としてはたとえばTTF単結晶とTCNQ単結晶を張り合わせる方法(特許文献1の特開2005-268715号公報)、TTF-TCNQの混晶を用いる方法(非特許文献3 のChem. Matter, 19, 6382, (2007))、真空共蒸着法を用いる方法(特許文献2の特開平5-339379号公報)、インクジェット法を用いて混合膜を形成する方法(特許文献3の特開2007-305807号公報)が知られている。
【0006】
しかしながら、単結晶や混晶を用いた方法ではその特殊性から未だ実用化には至って折らず、さらに共蒸着やインクジェット法による混合膜では2種類の成分の均一な分散性に課題が残るなど工程の煩雑さから実用的なデバイスに至っていない。
さらには、従来のテトラチアフルバレン誘導体は強いドナー性を有しているが同時にイオン化ポテンシャルが低く過ぎ、酸素に対する耐久性に乏しい欠点を有していた。
すなわち有機エレクトロニクスに適応可能なプロセスアビリティーに優れた有機電極の実用化が待たれているが、未だ実用化には至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、電子供与性化合物と電子受容性化合物とを積層させるだけで、簡便かつ高い電気伝導度を有する有機電極を提供することにある。これらは例えば有機配線等に特に有効であり、さらに、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネセンス素子等への応用が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の構造を有するテトラチアフルバレン誘導体と電子受容性膜を積層することにより上記目的に対して有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の(1)〜(2)の有機電極を包含する。
(1)「用いられる電極のうち少なくとも1つ以上の電極について、一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体と電子受容性化合物の積層膜を使用した有機電極。
【0009】
【化2】

【0010】
(式(I)中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)。」;
(2)「前記電子受容性化合物がフラーレンであることを特徴とする前記(1)に記載の有機電極。」。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明によれば、有機電子デバイスに有用な有機電極が得られる。すなわち、電子供与性化合物と電子受容性化合物とを積層させるだけで、簡便かつ高い電気伝導度を有する有機電極が提供され、これらは例えば有機配線等に特に有効であり、さらに、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネセンス素子等への応用が可能であるという極めて優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるテトラチアフルバレン誘導体/フラーレン積層による有機電極を用いた有機薄膜トランジスタの概略図である。
【図2】本発明で使用した有機半導体特性評価時におけるソース電極、ドレイン電極のプロービング位置の概略の上面図である。ソース電極、ドレイン電極上の矢印がそれぞれソース電極、ドレイン電極に対するプロービング位置を表す。
【図3】ソース電極、ドレイン電極にテトラチアフルバレン誘導体/フラーレン積層による有機電極を用い、有機半導体活性層にペンタセンを用いた有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性図である。
【図4】ソース電極、ドレイン電極にテトラチアフルバレン誘導体/フラーレン積層による有機電極を用い、有機半導体活性層にビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレンを用いた有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I−V)特性図である。
【図5】ソース電極、ドレイン電極にテトラチアフルバレン誘導体/フラーレン積層による有機電極を用い、有機半導体活性層にフラーレンを用いた有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性図である。
【図6】ソース電極、ドレイン電極にテトラチアフルバレン誘導体/フラーレン積層による有機電極を用い、有機半導体活性層にフラーレンを用いた有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特徴の一つは、つぎの一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン(TTF)誘導体を電子供与性材料として用いることにある。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(I)中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)。
これらのテトラチアフルバレン(TTF)誘導体は、一種類、または複数種の混合物として使用することができる。
TTF・TCNQ電荷移動錯体で知られるように、テトラチアフルバレン構造は、ヘテロ環部位のπ電子が7πであり、1個の電子を放出してヒュッケル則満たす6πになり易く、テトラチアフルバレン構造は強い電子ドナー性を示す。この電子ドナー性により、ラジカルカチオンになり易く、さらにそのラジカルカチオンの状態で安定であるため、電子受容性材料を積層することにより容易に電荷移動錯体を形成する。
【0016】
さらに、一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体は真空蒸着法で平滑な成膜性を有しており共蒸着法等を用いずとも、テトラチアフルバレン誘導体層と電子受容性化合物層を積層させるだけで電荷移動錯体を効率よく生成することができる。
【0017】
本発明で用いるテトラチアフルバレン誘導体の具体例を以下に示す。
前記一般式(I)中の、R〜R16としては、以下のものを挙げることができる。
水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基またはアルコシキ基もしくはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。
置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素数が1以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、これらのアルキル基は更にハロゲン原子(たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、シアノ基、フェニル基又は直鎖乃至分岐のアルキル基で置換されたフェニル基を含有してもよい。
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0018】
また、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはチオアルコキシ基である場合は、上記アルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
さらに、詳細な本発明の誘導体を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
このようなテトラチアフルバレン誘導体としては、従来公知のものを用いることができ、また、公知の合成法により合成することができ、かつまた、我々が既に提案(特許文献4の特願2009−073990号明細書、特許文献5の特願2010−000319号明細書、特許文献6の特願2010−026729号明細書参照)した合成法により合成したものを用いることができる(重複を避けるため、特許文献4〜6記載の技術の詳細は、ここでは記載を省略している)。
すなわち、一例を挙げれば、原料の1,3−ジチオール−2−オン化合物のカップリング反応(非特許文献4 のJ.Org,Chem.,2000,65, 5794-5805参照)により製造することができる。そしてこの場合の原料の1,3−ジチオール−2−オン化合物は、例えば非特許文献5のJ. Org. Chem. 1994, 59, 6519-6527, 非特許文献6のChem. Commun. 1998, 361-362, 非特許文献7 のChem. Commun. 1998, 2197-2198, 非特許文献8 のTetrahedron Letters 2000, 41, 2091-2095.記載の反応、ジェノフイルと所望構造に対応するジエンとの間で公知のDiels-Alder反応(触媒としてルイス酸使用)により得たキノン化合物を、これのカルボニル基を金属水素化合物でヒドロキシ化合物に還元し、このヒドロキシ化合物の分子内脱水により1,3−ジチオール−2−チオン化合物となし、この化合物から化1,3−ジチオール−2−オン化合物に変換(この変換反応は、上記J.Org,Chem.,2000,65, 5794-5805参照)すること等の方法により入手することができる。
【0021】
[デバイス構成の概略]
以下、図面を参照して、本発明に係わるデバイス構成の概要を説明する。
図1の(A)〜(D)は本発明に係わる有機電極を用いた有機薄膜トランジスタの概略構造である。有機半導体素子には一般にソース電極、ドレイン電極、ゲート電極と3種類の電極を有しているが、本発明ではいずれか少なくとも1つ以上の電極が、前記一般式(I)で示されたテトラチアフルバレン誘導体層と電子受容性化合物層の積層膜を主成分とする。但し、本発明の電子受容性化合物層に用いられる化合物は電子受容性を有しておれば特に限定されるものではないが電子受容性の高いフラーレンが特に好ましい。
【0022】
本発明では、前記電極を支持体上に設けることができ、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用できる。本発明の有機電極が応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
【0023】
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルム等が挙げられる。
【0024】
本発明に係わる有機電極を用いた有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0025】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。
【0026】
「有機電極」
本発明に係わる有機電極は、前記一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体層および電子受容性化合物層を積層させることにより得られる。成膜方法としては特に限定されるものではないが、真空蒸着法によって薄膜を形成することができる。有機半導体材料を真空中にて加熱することにより蒸気とし、それを所望の領域に堆積させ、薄膜を形成する。
【0027】
有機電極を構成するためテトラチアフルバレン誘導体層と電子受容性化合物層を積層させる上で有機電極としての利用は積層界面における電荷移動錯体を利用しているため、積層順はどちらが先であってもよいが、一般にはテトラチアフルバレン誘導体は平滑な界面を形成しやすいため、テトラチアフルバレン誘導体層を先に成膜する方が望ましい。
【0028】
本発明の有機電極において、テトラチアフルバレン誘導体層および電子受容性化合物層は、共に、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、テトラチアフルバレン誘導体層および電子受容性化合物層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。
電荷移動錯体膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
【0029】
「HMDS等 有機半導体/絶縁膜界面修飾」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、基材とテトラチアフルバレン誘導体層の接着性を向上、リーク電流低減等の目的で、これら層間に有機薄膜を設けても良い。有機薄膜はテトラチアフルバレン誘導体層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
【0030】
有機分子膜としては、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザン(HMDS)等を具体的な例としたカップリング剤が挙げられる。また、高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していても良い。また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していても良い。
【0031】
「引き出し電極、保護層」
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて引出し電極を設けることができる。
本発明の有機トランジスタは、水分、大気及びガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0032】
「応用デバイス」
本発明の電荷移動錯体膜は、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための電極として利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的かつ詳細に説明するが、これら実施例は、本発明を説明するためのものであって、制限するためのものではない。以下の記載中、「部」は別段の断りないかぎり、「重量部」を表わす。
【実施例1】
【0034】
ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(1)を用いて、以下の手順で、ボトムコンタクト型構造と呼ばれる図1−(C)構造の有機半導体素子を作製した。
膜厚300 nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板を濃硫酸に24時間浸漬させ洗浄した。洗浄済みのシリコン基板をシランカップリング剤(オクチルトリクロロシラン)のトルエン溶液 (1 mM)に浸漬させ、5分間超音波処理を行い、シリコン酸化膜表面に単分子膜を形成させた。
【0035】
上記で作製した基板に対して、シャドーマスクを用いて、ビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレン:(1)を真空蒸着(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:25 nm)により成膜し、続けて、フラーレンを真空蒸着(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:40 nm)により成膜しボトムコンタクト型有機半導体素子の有機電極を形成し(チャネル長50 μm, チャネル幅 2 mm)、ソース電極およびドレイン電極とした。
【0036】
さらに電極パターンを配したシャドーマスクを外し、図2に示される有機半導体活性層パターンを配したシャドーマスクに酸素および水蒸気に触れない環境下で交換し有機半導体活性層を真空蒸着法(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:50 nm)により成膜した。有機半導体活性層として、ペンタセンを用いた。
【0037】
こうして得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザーB1500を用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。この時、ソース電極、ドレイン電極へのプロービングは図2に示されたプロービング位置(1)でおこなった。有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性を図3に示す。この飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
【0038】
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
【0039】
【数1】

【0040】
(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
作製した有機薄膜トランジスタの電界効果移動度は、0.0012cm/Vsであった。
【実施例2】
【0041】
実施例1において有機半導体活性層にビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレン:(1)を用いた以外実施例1同様に作製した有機電極を用いた有機半導体素子を作製した。実施例1同様に電気特性を評価したところp型のトランジスタ素子としての特性を示した。また、実施例1同様に電界効果移動度を求めたところ0.0062cm/Vsであった。
この有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性を図4に示す。
【実施例3】
【0042】
実施例1において有機半導体活性層にフラーレンを用いた以外実施例1同様に作製した有機電極を用いた有機半導体素子を作製した。実施例1同様に電気特性を評価したところn型のトランジスタ素子としての特性を示した。また、実施例1同様に電界効果移動度を求めたところ0.0030cm/Vsであった。
この有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性を図5に示す。
【実施例4】
【0043】
実施例2で作製した有機半導体素子の電気特性評価おこなう時、ソース電極、ドレインへのプロービングを図2に示されたプロービング位置(2)でおこなった以外実施例2同様の電気特性評価をおこなったところp型トランジスタ素子としての特性を示した。また、実施例1同様に電界効果移動度を求めたところ0.005cm/Vsであった。
この有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性を図6に示す。
【0044】
[比較例1]
実施例1において電子供与性化合物としてビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレン:(1)の代わりに、下記の5,5’−ビス(4−ヘキシルオキシフェニル)−2,2’−ビチオフェン:(23)を用いた以外実施例1と同様に有機半導体素子を作製し、特性評価をおこなった所、トランジスタ素子としての特性を示さなかった。
【0045】
【化4】

【0046】
実施例1〜3の結果からテトラチアフルバレン誘導体層/電子受容性層の積層膜は有機電極として機能しており、また、ホールも電子も輸送することが明らかとなった。さらに実施例4ではプロービング位置を1cmずらし電極による抵抗の影響を確認したところ、ほとんど電流量に対する影響は見られず一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体と電子受容性化合物の積層膜は有機電極として十分に機能している事が明らかに示された。
【0047】
比較例1では電子供与性の低い5,5’−ビス(4−ヘキシルオキシフェニル)−2,2’−ビチオフェン上に電子受容性の強いフラーレンを積層させたが有機電極としての機能は全くしていない。すなわち一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体の強い電子供与性がこの発明には必要であることが示された。
【符号の説明】
【0048】
1 有機半導体活性層
2 ソース電極(有機電極)
3 ドレイン電極(有機電極)
4 ゲート電極(有機電極、あるいは、金属)
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特開2005−268715号公報
【特許文献2】特開平5−339379号公報
【特許文献3】特開2007−305807号公報
【特許文献4】特願2009−073990号明細書、
【特許文献5】特願2010−000319号明細書、
【特許文献6】特願2010−026729号明細書
【非特許文献】
【0050】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lette., 88, 073504, (2006)
【非特許文献2】Adv. Matterials, 2007, 19, 3248
【非特許文献3】Chem. Matter, 19, 6382, (2007)
【非特許文献4】J.Org,Chem.,2000,65, 5794-5805
【非特許文献5】J. Org. Chem. 1994, 59, 6519-6527
【非特許文献6】Chem. Commun. 1998, 361-362,
【非特許文献7】Chem. Commun. 1998, 2197-2198,
【非特許文献8】Tetrahedron Letters 2000, 41, 2091-2095

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用いられる電極のうち少なくとも1つ以上の電極について、一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体と電子受容性化合物の積層膜を使用した有機電極。
【化1】

(式(I)中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)。
【請求項2】
前記電子受容性化合物がフラーレンであることを特徴とする請求項1に記載の有機電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−181717(P2011−181717A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44939(P2010−44939)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】