説明

新規栄養補助組成物

本発明は、MAPおよび/またはITPまたはそれらの塩の、栄養補助物、好ましくは医薬品としての使用について記載する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は新規栄養補助組成物に関する。
【0002】
本発明はトリペプチドのメチオニン−アラニン−プロリン(Met−Ala−Pro、以下「MAP」)および/またはイソロイシン−スレオニン−プロリン(Ile−Thr−Pro、以下「ITP」)を含んでなる組成物に関する。より具体的には、本発明は健康の改善または疾患の予防および/または処置のために使用されるMAPおよび/またはITPを含んでなる組成物に関する。組成物は高い血圧(以下「高血圧症」)および心不全、または狭心症、心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈閉塞性疾患、アテローム性動脈硬化症、および腎症などの関連病態の処置または予防に特に有用である。別の態様において、本発明は高血圧症および心不全の処置または予防における併用摂取用栄養補助組成物の製造におけるMAPおよび/またはITPの使用に関する。なお別の態様において、本発明は高血圧症および心不全、または狭心症、心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈閉塞性疾患、アテローム性動脈硬化症、および腎症などの関連の処置または予防の方法に関し、ここでMAPおよび/またはITPを含んでなる有効量の組成物がかかる処置を必要とする人に投与される。
【0003】
高血圧症は世界の早世の予防可能な最重要原因の1つであることが知られている。さらには、正常範囲上限の血圧でさえ早世のリスクを増加させると見られている。高血圧症は冠動脈心疾患の主要な危険因子および脳卒中の最重要危険因子である。全心血管疾患のおよそ半数は高血圧症が一因であり、これは2002年の全世界における死亡数1670万人に相当した。心血管疾患のリスクは拡張期血圧の10ポイント増加につき、または収縮期血圧の20ポイント増加につき、2倍になる。ほとんどの国で、成人の3分の1までが高血圧症に罹患している。高血圧症の有病率は年齢に伴い増加するとともにこの傾向は発展途上国において特に突出している。そのうえ、高血圧対象者の40%が診断を下されていないままであると推定される。
【0004】
現在、高血圧対象者に利用可能な治癒的療法はないとともに処置の主目標は血圧をより安全なレベルまで降下させることである。より多くの運動、塩分摂取の低減、および有効なストレス管理などの食事および生活習慣の改変もまた高血圧症の予防手段を代表し得る。これが次には、一般に乾性咳嗽から日常生活の活動エネルギーの喪失に及ぶ副作用を伴う投薬治療における必要量を減少させ得る。このように、安全であるとともに現在高血圧症の処置に使用されている薬物の副作用を伴わない食事補助剤による高血圧症の予防および処置に対する多大な需要がある。
【0005】
現在、ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、カルシウムチャネル遮断薬、利尿薬、およびβ遮断薬が高血圧症の処置に広く使用されている。ACE阻害剤は、血圧を上昇させることで知られるペプチドホルモンである、アンジオテンシンIIのレベルを低減する。アンジオテンシンII受容体拮抗薬はアンジオテンシンIIのその受容体への結合を遮断するとともに、それにより血圧降下作用を及ぼす。カルシウムチャネル遮断薬はカルシウムの血管壁細胞への流入を低減するとともに、ひいては血管の収縮を減少させ、次には血圧を降下させる。利尿薬はナトリウムおよび水分の尿中排泄増加につながり、これが血圧の低減につながる。β遮断薬はノルエピネフリンおよびエピネフリンの効用をβアドレナリン受容体上で遮断し、それにより血管の収縮を低減するとともに血圧を降下させる。
【0006】
本発明は、栄養補助物、好ましくは医薬品としての、MAPおよび/またはITPまたはそれらのMAPの塩および/またはITPの塩に関する。本発明はまた、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、栄養補助物、好ましくは医薬品としての使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、栄養補助物、好ましくは医薬品の製造のための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、健康の改善または疾患の予防および/または処置のための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、高血圧症および心不全などの心血管疾患の処置用の栄養補助物、好ましくは医薬品の製造のための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、前糖尿病または糖尿病の処置のための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、肥満の処置または予防のための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、血漿インスリンを増加させるための、または血漿インスリンに対する感受性を増加させるための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、2型糖尿病または前糖尿病の血漿インスリンを増加させるための、または血漿インスリンに対する感受性を増加させるための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、2型糖尿病または前糖尿病の食後血中グルコース濃度を降下させるための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、2型糖尿病または前糖尿病の食後血中インスリン分泌を増加させるための使用、MAPおよび/またはITPが食事補助剤の形態であるMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、ストレスの作用の治療処置用機能性食製品の製造のための使用、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の局所適用における、好ましくはパーソナルケア適用における使用、およびMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、飼料およびペットフードにおける使用にも関する。MAPが好ましいトリペプチドであるとともに本発明の使用において好ましい。
【0007】
さらに本発明は、1型および2型糖尿病の処置の、および前糖尿病者、または耐糖能障害(IGT)者における2型糖尿病の予防のための方法であって、かかる処置を必要とする対象者にMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を投与するステップを含んでなる方法、および高血圧症または心不全に罹患している人々の処置またはそれらの予防の方法であって、かかる処置を必要とする対象者にMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を投与するステップを含んでなる方法に関する。
【0008】
本発明のさらなる態様に従い、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の化学合成の方法が開示される。そのうえ本発明はMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を活性成分として含んでなる医薬品、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を活性成分として含んでなる食事補助剤、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を活性成分として含んでなる食品、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を医薬品として、または健康上の利益のため含んでなる組成物、健康上の利益がストレスの作用の処置である組成物であって、好ましくは該組成物が食品または飼料である組成物、MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を局所剤としての使用のため、好ましくはパーソナルケアにおける使用のため含んでなる組成物、およびローション、ゲルまたはエマルジョンである組成物に関する。
【0009】
本発明に従えば、驚くことに、MAPおよびITPの双方がアンジオテンシンI変換酵素(ACE)を阻害するとともに、ひいては血圧降下作用を呈することが所見されている。ACEの阻害は結果として、血管収縮の低減、血管拡張の亢進、ナトリウムおよび水分排泄の改善をもたらし、これが次には末梢血管抵抗性および血圧の低減および局部血流の改善につながる。このように、本組成物はACE阻害により影響され得る疾患の予防および処置に特に効果的であり、これらとしては、限定はされないが、高血圧症、心不全、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈閉塞性疾患、アテローム性動脈硬化症、腎症、腎不全、勃起機能不全、内皮機能不全、左室肥大、糖尿病性血管障害、体液貯留、および高アルドステロン症が挙げられる。本組成物はまた、胃腸障害(下痢、過敏性腸症候群)、炎症、真性糖尿病、肥満、認知症、癲癇、老人性錯乱、およびメニエール病の予防および処置においても有用であり得る。さらには、本組成物は、認知機能および記憶(アルツハイマー病を含む)、満腹感を亢進し、虚血性傷害を制限し、およびバイパス手術または血管形成術後の動脈の再閉塞を予防し得る。
【0010】
真性糖尿病は現在に至るまで治療法を有しない広範な慢性疾患である。真性糖尿病の発症率および有病率は指数関数的に増加しているとともに、先進国および発展途上国において最も多く見られる代謝障害である。真性糖尿病は複数の原因因子に由来する複合疾患であるとともにインスリン分泌欠乏および/またはインスリン抵抗性に関連する炭水化物、タンパク質および脂質代謝障害により特徴づけられる。これは結果として空腹時および食後血清グルコース濃度の上昇をもたらし、無処置のまま放置すれば合併症につながる。疾患には2つの主要な分類、インスリン依存性真性糖尿病(IDDM、T1DM)およびインスリン非依存性真性糖尿病(NIDDM、T2DM)がある。T1DM=1型真性糖尿病。T2DM=2型真性糖尿病。
【0011】
T1DMおよびT2DM糖尿病は、高血糖症、高コレステロール血症および高脂血症に関連する。T1DMおよびT2DMにおける、それぞれの絶対的インスリン欠乏およびインスリン非感受性は、肝、筋および脂肪組織によるグルコース利用性の低下および血糖値の上昇につながる。コントロール不良の高血糖症は、腎症、神経障害、網膜症、高血圧症、脳卒中、および心疾患を含む、微小血管および大血管疾患のリスク増加による死亡率増加および若年死亡率に関連する。最近、厳格な血糖コントロールがT1DMおよびT2DMの双方におけるこれらの合併症の予防における主要因子であるという証拠が示された。それゆえ、薬物または治療レジメンによる最適な血糖コントロールが糖尿病の処置においては重要な手法である。
【0012】
T2DMの治療は初期に食事および生活習慣の変更を含み、それらの対策で適切な血糖コントロールを維持できない時、患者は経口血糖降下薬および/または外因性インスリンで処置される。現行のT2DMの処置用薬理学的経口薬剤としては、インスリン分泌を増強するもの(スルホニル尿素剤)、肝中のインスリンの効用を改善するもの(ビグアナイド系薬剤)、インスリン増感剤(チアゾリジンジオン)およびグルコースの取り込みを阻害するべく効用する薬剤(α−グルコシダーゼ阻害剤)が挙げられる。しかしながら、現在利用可能な薬剤は概して、膵細胞機能の進行性喪失の結果として生じる高血糖の進行性悪化のため、適切な血糖コントロールを長期間維持できない。目標血糖値を維持できる患者の割合は時間が経つにつれ著しく減少し、追加的/代替的な薬理学的薬剤の投与が必要となる。さらには、薬物は望ましくない副作用を有し得るとともに高い原発性および続発性不全率に関連する。最終的には、血糖降下薬の使用は血糖値を調節するのに有効であり得るが、糖尿病の全ての合併症を予防するとは限らないといえる。このように、全ての型の真性糖尿病向け処置の現行の方法は正常血糖の理想値および糖尿病合併症の予防を実現できない。
【0013】
それゆえ、T1DMおよびT2DMの処置において選択され得る治療は基本的にインスリンおよび経口血糖降下薬の投与に基づくが、糖尿病の処置および予防のための副作用が最小の安全かつ有効な栄養補助剤の必要性はある。多くの患者が高用量の薬物に関連する副作用を最小化するとともに付加的な臨床的利益を産み出すことができるであろう代替療法に関心を有している。真性糖尿病患者は、補助処置として使用され得る、穏和な抗糖尿病作用を伴うとともに主要な副作用を伴わない「自然」と考えられる処置に特に関心を有している。T2DMは進行性かつ慢性的な疾患であり、インスリン産生を担う膵細胞(ランゲルハンス島のβ細胞)に重大な傷害が起こるまで通常認識されない。それゆえ、T2DMを発症するリスクがある人々、特にそのリスクが高い高齢者において、β細胞傷害、ひいては顕性T2DMへの進行を予防するべく使用され得る食事補助剤の開発に関心が高まっている。膵β細胞の保護は、グルコースおよび脂質がβ細胞に対し傷害作用を及ぼすとき血糖値および/または脂質値の低下により実現され得る。血糖値の低減は種々の機序を介して、例えばインスリン感受性を亢進することにより、および/または肝グルコース産生を低減することにより実現され得る。血中脂質値の低減もまた、種々の機序を介して、例えば脂質酸化および/または脂質貯蔵を亢進することにより実現され得る。膵β細胞を保護する別の考え得る方策は酸化的ストレスを低下させることであろう。酸化的ストレスもまた、続発するインスリン分泌の損失および顕性T2DMへの進行を伴うβ細胞傷害を引き起こす。
【0014】
それゆえ、T2DMは複数の臓器部位に同時に存在する欠陥、すなわち筋および脂肪組織でのインスリンの効用に対する抵抗性、欠陥のある膵インスリン分泌、無制限の肝グルコース産生の結果として生じる複雑な疾患である。これらの欠陥は脂質異常および内皮機能不全に関連することが多い。T2DMにおける複数の病態生理学的病変を所与とすれば、併用療法はその管理への魅力的な手法である。
【0015】
本発明はMAPおよび/またはITPを含んでなる新規栄養補助組成物に関する。MAPおよび/またはITPを含んでなる栄養補助組成物はまた、真性糖尿病、またはシンドロームXなどの耐糖能障害に関連する他の病態の処置または予防のための活性成分として加水分解物、非加水分解タンパク質および炭水化物も含んでなることができる。別の態様において本発明はかかる組成物の前記処置または予防向け栄養補助剤としての、例えば、正常代謝機能の維持に必須であるが体内では合成されないビタミンおよびミネラルを含んでなるマルチビタミン調製剤への添加剤としての使用に関する。なお別の態様において、本発明は1型および2型の双方の真性糖尿病の処置および前糖尿病者、または耐糖能障害(IGT)者もしくは肥満者におけるT2DMの予防のための方法であって、かかる処置を必要とする対象者にMAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物または非加水分解タンパク質および/または炭水化物を投与するステップを含んでなる方法に関する。
【0016】
本発明の組成物はT1DMおよびT2DMの双方の処置、および前糖尿病者、または耐糖能障害(IGT)者におけるT2DMの予防が特に意図される。
【0017】
本発明はMAPおよび/またはITP、および場合によりタンパク質加水分解物を含んでなる組成物に関する。さらに本組成物はアミノ酸を含んでなり、好ましくは該アミノ酸はロイシンである。MAPおよび/またはITP、および場合によりタンパク質加水分解物は血中の血漿インスリンを増加させるべく、好ましくは2型糖尿病または前糖尿病のため、有利に使用される。
【0018】
驚くべきことに、本MAPおよび/またはITPは2型糖尿病または前糖尿病向けに、好ましくは食後グルコース濃度を降下させるため、または食後の血中インスリン分泌を増加させるため使用され得ることが所見される。
【0019】
MAPおよび/またはITPとタンパク質加水分解物または非加水分解タンパク質および/または炭水化物との組み合わせを含んでなる組成物は相乗的にインスリン分泌を刺激するとともに脂肪組織、骨格筋および肝臓などのインスリン感受性標的組織へのグルコース排出を増加させ、ひいては、真性糖尿病の処置における相乗作用を提供する。
【0020】
ストレス関連疾患、およびストレスの身体に対する負の作用が、多くの人々に重大な影響を有することが一般的に認知されている。近年ではストレスの作用、および様々な疾患および病態の発症へのその様々な関与は、医学界および科学界においてより広範な認知を得ている。消費者はいまやこれらの潜在的問題をますます意識するようになっているとともに自身の健康に対するストレスの考え得る負の影響の低減または予防にますます関心を有するようになっている。
【0021】
本発明のさらなる目的は、身体がストレスの作用に対処するのを補助する際の使用に好適である、食製品、またはそれに混入され得る成分を提供することである。
【0022】
さらなる目的は、身体がストレスの負の作用に対処するのを補助するなどの、健康上の利益を提供する高濃度の成分を有する食製品を提供することである。
【0023】
ある態様に従えば本発明はトリペプチドMAPおよび/またはトリペプチドITPおよび/またはそれらの塩の、ストレスの作用の治療処置用機能性食製品の製造のための使用を提供する。
【0024】
特定のペプチドは抗ストレス作用を呈することが知られている。それゆえトリペプチドMAPおよびITPおよび/またはそれらの塩はかかる健康上の利益の提供における使用に非常に好適であると考えられる。当業者は材料のかかる特性をいかに測定するかは十分に承知している。
【0025】
用語の栄養補助物は本明細書中で使用されるとき栄養および医薬の双方の応用分野における有用性を意味する。このように、新規栄養補助組成物は食品および飲料に対する補助剤としての、およびカプセルまたは錠剤などの固形製剤、または溶液または懸濁液などの液体製剤であり得る経腸または非経口適用向け医薬製剤または医薬品としての使用を見出すことができる。前述から明らかであろうとおり、用語の栄養補助組成物はまたMAPおよび/またはITPおよび場合によりタンパク質加水分解物または非加水分解タンパク質および/または炭水化物を含有する食品および飲料ならびに補助組成物、例えば前記活性成分を含有する食事補助剤も含んでなる。
【0026】
用語の食事補助剤は本明細書中で使用されるとき日常食を補助することが意図される「食事成分」を含有する口から摂取される製品を意味する。これらの製品中の「食事成分」としては、ビタミン、ミネラル、ハーブまたは他の植物、アミノ酸、および酵素、臓器組織、腺、および代謝産物などの物質が挙げられ得る。食事補助剤はまた、抽出物または濃縮物でもあり得るとともに、錠剤、カプセル、ソフトゲル、ジェルキャップ、液体、または粉末などの多々の形態にあってもよい。これらはまた、バーなどの、他の形態でもあり得るが、もしそうであるならば、該食事補助剤のラベル情報は一般に、製品を従来の食品または食事もしくは日常食の単一品目としては表示しないであろう。
【0027】
MAPおよび/またはITPは断片MAPおよび/またはITPを含有する任意の好適な基質の加水分解または発酵により製造されてもよい。有利にはタンパク質基質は断片MAPおよび/またはITPの双方を含有する。好ましくはタンパク質基質はカゼインまたは乳である。トリペプチドMAP(Met−Ala−Pro)およびITP(Ile−Thr−Pro)はまた、従来技術を使用する化学合成によっても製造され得る。
【0028】
本発明によれば驚くことにMAPおよび/またはITPを含んでなる組成物は膵インスリン分泌を刺激するとともにインスリン感受性標的組織へのグルコース排出を亢進することが所見されている。それゆえ、MAPおよび/またはITPを含んでなる組成物はT1DMおよびT2DMの双方を予防または処置するために、および前糖尿病者、耐糖能障害(IGT)者におけるT2DMの予防のために使用され得る。
【0029】
MAPおよび/またはITPとタンパク質加水分解物または非加水分解タンパク質および/または炭水化物との組み合わせの使用は、それらが個別に種々の効用機序を及ぼし、糖尿病患者において目標血糖値を実現および維持するのに有効である。
【0030】
上記に同定される活性成分の組み合わせは、それらの種々の効用により、相乗作用および多臓器作用の利点を活用すると思われる。個々の活性成分の異なる効用機序のため本組み合わせは血糖コントロールを改善するばかりでなく、結果としてある設定でより低用量の薬物投与をもたらすとともに有害作用を最小限にする。それらの効用の異なる機序および部位のため、上記で考察される食事補助剤の特異的組み合わせもまた相乗作用の利点を活用し、単剤で達成できるより大きなグルコース降下度を実現する。このように、T1DMおよびT2DMの治療処置は基本的にインスリンおよび経口血糖降下薬の投与に基づくが、然るべき栄養療法もまた糖尿病の処置の成功に主として重要である。
【0031】
マルチビタミンおよびミネラル補助剤が本発明の栄養補助組成物に添加され、一部の日常食において不足する必須栄養素の適切量を調達してもよい。マルチビタミンおよびミネラル補助剤はまた、疾患予防および糖尿病において時に観察される生活習慣パターンおよび一般の不適切な食事パターンによる栄養損失および欠乏からの保護にも有用であり得る。そのうえ、酸化ストレスはインスリン抵抗性の発症に関係するとされている。活性酸素種はインスリン受容体シグナル伝達カスケードを妨害することによりインスリン刺激性グルコース取り込みを障害し得る。α−トコフェロール(ビタミンE)アスコルビン酸(ビタミンC)などの抗酸化剤による酸化ストレスのコントロールは糖尿病の処置において価値があり得る。それゆえ、マルチビタミン補助剤の摂取が上述の活性物質に追加され、バランスの良い栄養を維持してもよい。
【0032】
さらに、MAPおよび/またはITPの、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)および/またはカリウム(K)などのミネラルとの組み合わせが、健康の改善および限定はされないながら心血管疾患および糖尿病を含む疾患の予防および/または処置に使用されてもよい。
【0033】
本発明の好ましい態様において、本発明の栄養補助組成物はMAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物を含有する。MAPおよび/またはITPは好適には、本発明に従う組成物中に、それが投与される対象者の体重1kg当たり約0.001gから体重1kg当たり約1gまでの1日服用量を提供する量で存在する。食品または飲料は好適には、1食当たり約0.05gから1食当たり約50gのMAPおよび/またはITPを含有する。栄養補助組成物が医薬製剤である場合、かかる製剤はMAPおよび/またはITPを1回服用当たり、例えば1カプセルまたは1錠剤当たり、約0.001gから約1gまで、または液体製剤1日量当たり約0.035gから1日量当たり約70gまでの量で含有してもよい。タンパク質加水分解物は好適には、本発明に従う組成物中に、それが投与される対象者の体重1kg当たり約0.01gから体重1kg当たり約3gまでの1日服用量を提供する量で存在する。食品または飲料は好適には、1食当たり約0.1gから1食当たり約100gのタンパク質加水分解物を含有する。栄養補助組成物が医薬製剤である場合、かかる製剤はタンパク質加水分解物を1回服用当たり、例えば1カプセルまたは1錠剤当たり、約0.01gから約5gまで、または液体製剤1日量当たり約0.7gから1日量当たり約210gまでの量で含有してもよい。
【0034】
本発明の別の好ましい態様において組成物は上記に定めるとおりのMAPおよび/またはITPおよび非加水分解タンパク質を含有する。非加水分解タンパク質は好適には、本発明に従う組成物中に、それが投与される対象者の体重1kg当たり約0.01gから体重1kg当たり約3gまでの1日服用量を提供する量で存在する。食品または飲料は好適には、1食当たり約0.1gから1食当たり約100gの非加水分解タンパク質を含有する。栄養補助組成物が医薬製剤である場合、かかる製剤は非加水分解タンパク質を1回服用当たり、例えば1カプセルまたは1錠剤当たり、約0.01gから約5gまで、または液体製剤1日量当たり約0.7gから1日量当たり約210gまでの量で含有してもよい。
【0035】
本発明のさらに別の好ましい態様において組成物は上記に定めるとおりのMAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物または非加水分解タンパク質、および炭水化物を含有する。炭水化物は好適には、本発明に従う組成物中に、それが投与される対象者の体重1kg当たり約0.01gから体重1kg当たり約7gまでの1日服用量を提供する量で存在する。食品または飲料は好適には、1食当たり約0.5gから1食当たり約200gの炭水化物を含有する。栄養補助組成物が医薬製剤である場合、かかる製剤は炭水化物を1回服用当たり、例えば1カプセルまたは1錠剤当たり、約0.05gから約10gまで、または液体製剤1日量当たり約0.7gから1日量当たり約490gまでの量で含有してもよい。
【0036】
本発明の好ましい栄養補助組成物はMAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物または非加水分解タンパク質および/または炭水化物、特に
MAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物、
MAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物および炭水化物、
MAPおよび/またはITPおよび非加水分解タンパク質、
MAPおよび/またはITPおよび非加水分解タンパク質および炭水化物、
の組み合わせを含んでなり、
最も好ましくはMAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物の組み合わせである。
【0037】
用量範囲(70kgの人1人用)
MAPおよび/またはITP:0.005〜70g/日
タンパク質加水分解物:0.07〜210g/日
非加水分解タンパク質:0.07〜210g/日
炭水化物:0.1〜490g/日
【0038】
トリペプチドMAP(Met−Ala−Pro)およびITP(Ile−Thr−Pro)は、化学合成、酵素加水分解およびタンパク質含有溶液の発酵を含む様々な方法により製造され得る。
【0039】
タンパク質加水分解物または発酵の結果生じる液体などの複合混合物中の生物学的に活性なペプチドの同定は難題である。適正なタンパク質基質を使用しているか、適正な酵素を使用しているか、適正な微生物培養物を使用しているかといった基本的な懸案は別として、数個の生物学的に活性なペプチドが数千ペプチドを含有する複合試料中に存在すると推定され得る。高速液体クロマトグラフ(HPLC)分画の反復サイクルおよび生化学的評価を用いる伝統的な同定手法は一般的に時間がかかるとともに存在する生物学的に活性なペプチドの損失が起こりやすく、関連する生物活性の検出を極めて困難にする。本研究においては非常に洗練された機器が使用され、多くの異なるタンパク質加水分解物および発酵ブロスがスクリーニングされたことで、最終的に我々はACE阻害特性を有する2個の新規ペプチドであるMAPおよびITPの同定に至った。我々の手法においては連続フロー生化学アッセイがオンラインでHPLC分画装置と連結された。HPLCカラム溶出液が連続フローACEバイオアッセイと化学分析技法(質量分析法)とに分割された。粗加水分解物および発酵ブロスがHPCLにより分離された後、生物学的に活性な化合物の存在がオンライン生化学アッセイによって検出された。生化学アッセイにおいてペプチドが陽性シグナルを示す時の構造情報が直ちに入手できるよう質量スペクトルが継続的に記録された。
【0040】
上述される手法により同定されるとおりのトリペプチドMAPおよびITPは経済的に実行可能な産生経路を含む様々な方法により産生され得る。化学合成を介する産生が、例えばN.セウォルド(N.Sewald)およびH.D.ジャクブケ(H.D.Jakubke)編による「Peptides:Chemistry and Biology」、Wiley−VCH Verlag GmbH、2002年、第4章に記載されるとおりの従来技術を使用して可能である。大規模産生に好適な化学的ペプチド合成の特に費用対効果の高い方法は、C末端保護のためのメチルエステルおよびN保護のためのベンジルオキシカルボニル(Z)基またはtert−ブチルオキシカルボニル基の使用と組み合わせたカルボン酸基の活性化のためのクロロギ酸アルキルまたは塩化ピバロイルの使用に基づく。例えば、MAPの場合に、L−プロリンメチルエステルはクロロギ酸イソブチル活性化Z−Alaと共役され得る;結果として生じるジペプチドは水素およびC上のPdを使用する水素化分解を通じてZが脱保護され得るとともにクロロギ酸イソブチル活性化Z−Metとさらに共役され得る;結果として生じるトリペプチドのメチルエステルはNaOHを使用して加水分解されるとともに、水素化分解によるZ脱保護の後、トリペプチドMet−Ala−Proが得られる。同様に、Ile−Thr−Proが合成され得るが、カップリング反応の間、Thrのヒドロキシ官能基はベンジル保護を必要とする;最後のステップにおいてこの基は次に、Z脱保護の間に同時に除去される。
【0041】
MAPおよび/またはITPはまた、酵素加水分解または発酵手法によりアミノ酸配列MAPおよび/またはITPを含有する任意のタンパク質基質を使用して製造され得る。有利には、タンパク質基質は双方の断片MAPおよびITPを含有する。かかる酵素または発酵手法に好ましいタンパク質基質はウシ乳またはウシ乳のカゼイン画分である。発酵または加水分解条件の最適化を通じ、生物学的に活性な分子MAPおよび/またはITPの産生が最大化されてもよい。産生を最大化しようとする当業者は、加水分解/発酵時間、加水分解/発酵温度、酵素/微生物のタイプおよび濃度等といった、処理パラメータをいかに調節するかは周知であろう。
【0042】
MAPおよび/またはITPまたはMAPおよび/またはITPを含んでなる組成物は有利には加水分解物であるとともに好ましくは次のステップ
(a)そのアミノ酸配列中にMAPまたはITPを含んでなり、結果としてトリペプチドMAPおよび/またはITPを含んでなる加水分解タンパク質産物をもたらす、好適なタンパク質基質の酵素加水分解、
(b)加水分解タンパク質産物からのトリペプチドMAPおよび/またはトリペプチドITPリッチな画分の分離、および場合により
(c)トリペプチドMAPおよび/またはトリペプチドITPリッチな濃縮液または固形物を得るための、ステップb)からの画分の濃縮および/または乾燥、を含む方法により製造される。
【0043】
酵素加水分解ステップ(a)はタンパク質の加水分解に至る結果としてMAPおよび/またはITPトリペプチドの遊離をもたらす好適なタンパク質基質の任意の酵素的処置であってもよい。酵素の数種の組み合わせがタンパク質基質から所望のトリペプチドを遊離するために使用され得るが、本方法において使用される好ましい酵素はプロリン特異的エンドプロテアーゼまたはプロリン特異的オリゴペプチダーゼである。好適なタンパク質基質はアミノ酸配列MAPおよび/またはITPを包含する任意の基質であってもよい。MAPを包含することで知られるタンパク質基質は、例えば、カゼイン、コムギグルテン、ヒマワリタンパク質分離物、米タンパク質、卵タンパク質である。好適なタンパク質基質は好ましくは、ウシβ−カゼイン、コムギグルテンのα−グリアジン画分中およびヒマワリタンパク質分離物の2S画分中に存在するとおりのアミノ酸配列AMAPまたはPMAPを包含する。
【0044】
カゼイン基質は相当量のβ−カゼインおよびα−s2−カゼインを含有する任意の材料であってもよい。好適な基質の例は乳ならびにカゼイン、カゼイン粉末、カゼイン粉末濃縮物、カゼイン粉末分離物またはβ−カゼイン、またはα−s2−カゼインである。好ましくは、カゼインタンパク質分離物(CPI)などの、高含量のカゼインを有する基質である。
【0045】
酵素は、結果として1個または複数のトリペプチドMAPおよび/またはITPの遊離をもたらす、β−カゼインおよび/またはα−s2−カゼインなどのタンパク質を加水分解できる任意の酵素または酵素の組み合わせであってもよい。
【0046】
分離ステップ(b)は当業者に周知の任意の方法で、例えば、沈殿、ろ過、遠心分離、抽出またはクロマトグラフィーおよびこれらの組み合わせにより実行されてもよい。好ましくは分離ステップ(b)は精密ろ過または限外ろ過の技法を使用して実行される。ろ過ステップにおいて使用される膜の孔径、ならびに膜の電荷がトリペプチドMAPおよび/またはトリペプチドITPの分離を制御するべく使用されてもよい。UF/NF荷電膜を使用するカゼインタンパク質加水分解物の分画がY.ポワロ(Y.Poilot)ら、Journal of Membrane Science 158(1999年)105−114頁に記載される。
【0047】
濃縮ステップ(c)はステップ(b)により生成される画分のナノろ過または蒸発を含み、高濃縮液を産出してもよい。例えば低水分活性(Aw)、低pHおよび好ましくは安息香酸またはソルビン酸などの防腐剤を伴い、好適に調合される場合、かかる濃縮液組成物は本発明に従うトリペプチドの魅力的な貯蔵方法となる。場合により蒸発ステップの後に乾燥ステップ、例えば噴霧乾燥または凍結乾燥が続き、高濃度のMAPおよび/またはITPを含有する固形物を産出する。
【0048】
酵素処理は好ましくは単一の酵素インキュベーションステップを含んでなる。本発明に従う酵素処理はさらに、好ましくは夾雑酵素活性のないプロリン特異的プロテアーゼの使用に関する。プロリン特異的プロテアーゼはプロリンのカルボキシ末端側でペプチド結合を加水分解するプロテアーゼとして定義される。好ましいプロリン特異的プロテアーゼはプロリンおよびアラニン残基のカルボキシ末端側でペプチド結合を加水分解するプロテアーゼである。プロリン特異的プロテアーゼは好ましくはポリペプチドまたはタンパク質それ自体のような巨大タンパク質分子の加水分解能を有する。本発明に従う方法は一般に、24時間未満のインキュベーション時間、好ましくは10時間未満のインキュベーション時間およびより好ましくは4時間未満のインキュベーション時間を有する。インキュベーション温度は一般に、30℃より高く、好ましくは40℃より高く、およびより好ましくは50℃より高い。
【0049】
本発明の別の態様はトリペプチドMAPおよびITPの加水分解タンパク質からの精製および/または分離である。本発明に従う加水分解タンパク質の大部分は好ましくは選択されたpH条件下で沈殿能を有する。この精製処理はpHを加水分解および非加水分解タンパク質の大部分を沈殿させるpHに変性するステップおよび沈殿したタンパク質を溶液中に残留する(生物活性)トリペプチドから分離するステップを含んでなる。
【0050】
カルボキシ末端側終端にプロリン残基を伴う本トリペプチドを得るためには、プロリン残基のカルボキシ末端側で切断できるプロテアーゼの使用が好ましい選択肢を提示する。いわゆるプロリルオリゴペプチダーゼ(EC3.4.21.26)はペプチドをプロリン残基のカルボキシ側で選好的に切断する固有の可能性を有する。プロリルオリゴペプチダーゼはまた、ペプチドをアラニン残基のカルボキシ側で切断する可能性も有するが、この反応はプロリン残基を含むペプチド結合の切断より効率が悪い。哺乳動物ならびに微生物源から単離される適切にキャラクタライズされた全てのプロリン特異的プロテアーゼにおいては、酵素の活性部位から高分子ペプチドを排除する固有のペプチダーゼドメインが同定されている。事実、これらの酵素は約30アミノ酸残基超を含有するペプチドを分解できないため、これらの酵素は今日「プロリルオリゴペプチダーゼ」と称される(フロップ(Fulop)ら:Cell、第94巻、161−170頁、1998年7月24日)。結果としてこれらのプロリルオリゴペプチダーゼは加水分解の効用を及ぼし得る前に他のエンドプロテアーゼを伴う前加水分解を必要とする。しかしながら、国際公開第02/45523号パンフレットに記載されるとおり、プロリルオリゴペプチダーゼのかかる別のエンドプロテアーゼとの組み合わせでさえ結果としてカルボキシ末端プロリン残基を伴うペプチドの割合の有意な亢進により特徴づけられる加水分解物をもたらす。このため、かかる加水分解物はインビトロでのACE阻害作用ならびに胃腸管内タンパク質分解に対する改善された抵抗性を伴うトリペプチドの単離のための優れた出発点となる。
【0051】
「ペプチド」または「オリゴペプチド」は本明細書においてペプチド結合を通じ連結される少なくとも2個のアミノ酸の鎖として定義される。用語「ペプチド」および「オリゴペプチド」は(一般に認識されるとおり)同義と考えられるとともに各用語は文脈上の必要に応じ可換的に使用され得る。「ポリペプチド」は本明細書において30個を超えるアミノ酸残基を含有する鎖として定義される。本明細書中の全ての(オリゴ)ペプチドおよびポリペプチドの式または配列は、慣行に従い、左から右にアミノ末端からカルボキシ末端の方向として表記される。本明細書中で使用されるアミノ酸の1文字コードは当該技術分野において一般に周知であるとともにサムブルック(Sambrook)ら(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Habor、ニューヨーク州、1989年)に見出され得る。
【0052】
エンドプロテアーゼは本明細書においてポリペプチド中のペプチド結合をエンド様式で加水分解するとともにEC3.4群に属する酵素として定義される。エンドプロテアーゼは触媒機序に基づきサブ−サブクラスに分けられる。セリンエンドプロテアーゼ(EC3.4.21)、システインエンドプロテアーゼ(EC3.4.22)、アスパラギン酸エンドプロテアーゼ(EC3.4.23)、メタロエンドプロテアーゼ(EC3.4.24)およびスレオニンエンドプロテアーゼ(EC3.4.25)のサブ−サブクラスがある。エキソプロテアーゼは本明細書において末端α−アミノ基に隣接するペプチド結合を加水分解する酵素(「アミノペプチダーゼ」)、または末端カルボキシル基と末端から2番目のアミノ酸との間のペプチド結合を加水分解する酵素(「カルボキシペプチダーゼ」)として定義される。
【0053】
国際公開第02/45524号パンフレットはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から得られる特異的プロテアーゼを記載する。A.ニガー(A.niger)由来酵素はプロリンのカルボキシ末端で選好的に切断するが、ヒドロキシプロリンのカルボキシ末端でも、およびより効率は低いが、アラニンのカルボキシ末端でも選好的に切断できる。国際公開第02/45524号パンフレットはまた、このA.ニガー(A.niger)由来酵素と他の微生物または哺乳動物源由来の既知のプロリルオリゴペプチダーゼとの間に明確な相同性が存在しないことも教示する。既知のプロリルオリゴペプチダーゼとは対照的に、A.ニガー(A.niger)酵素は酸性の最適pH値を有する。既知のプロリルオリゴペプチダーゼもA.ニガー(A.niger)由来酵素もいわゆるセリンプロテアーゼであるが、A.ニガー(A.niger)酵素は全く異なるサブファミリーに属する。A.ニガー(A.niger)分泌酵素は、大部分の細胞質プロリルオリゴペプチダーゼが群化されているS9ファミリーよりむしろ、セリンペプチダーゼのファミリーS28のメンバーであると見られる(ローリング,N.D.(Rawling,N.D.)およびバレット,A.J.(Barrett,A.J.);Biochim.Biophys.Acta 1298(1996年)1−3頁)。本発明の方法において使用されるとおりのA.ニガー(A.niger)由来酵素調製物は好ましくは本質的に純粋である、つまり純プロリン特異的エンドプロテアーゼに固有の内部タンパク質分解活性以外の有意な内部タンパク質分解活性が存在しない。我々はまた、好ましくは本発明に従い使用される我々のA.ニガー(A.niger)由来酵素調製物が外部タンパク質分解性の、より具体的にはアミノペプチド分解性の副次的な活性を一切含有しないことも実証する。好ましくは外部タンパク質分解活性は本発明の方法において使用されるA.ニガー(A.niger)由来酵素調製物中に不在である。プロリン特異的内部タンパク質分解活性が非組換えアスペルギルス(Aspergillus)株中に本質的に不在であるという概念についての実験的証明は国際公開第02/45524号パンフレットに見出され得る。本発明の方法はカゼイン基質をプロリン特異的エンドプロテアーゼのみを伴いインキュベートすることにより可能であることから、温度、pH等といった最適なインキュベーション条件は容易に選択され得るとともに、2個以上の酵素が利用される場合に想定されるような準最適条件で固定化される必要はない。さらに不要な副産物、例えば付加的な非生物活性ペプチドまたは肉汁臭い味につながる遊離アミノ酸などの形成を防止する。反応条件を選択する際により高い自由度を有すれば、より容易に他の基準を選択することが可能となる。例えば、微生物感染に対しより感受性が低い条件を今日選択すること、および続くタンパク質沈殿ステップに関するpH条件を最適化することはさらに容易である。アスペルギルス(Aspergillus)酵素はオリゴペプチダーゼではないが、未処理タンパク質、高分子ペプチドならびにより低分子量のペプチド分子をアクセサリーエンドプロテアーゼの必要なしに加水分解できる真のエンドペプチダーゼである。この新しい、かつ驚くべき発見は、アクセサリーエンドプロテアーゼが必要とされないため、かつてない高含量のカルボキシ末端プロリン残基を備えるペプチドを伴う加水分解物の調製に向けたA.ニガー(A.niger)酵素の使用の可能性を切り開く。かかる新加水分解物は植物由来または動物由来であるにしろ種々のタンパク質性出発材料から調製され得る。かかる出発材料の例は、カゼイン、ゼラチン、魚または卵タンパク質、コムギグルテン、大豆およびエンドウ豆タンパク質ならびに米タンパク質およびヒマワリタンパク質がある。ナトリウムは高血圧症において重要な役割を果たすことが知られているため、ACE阻害ペプチドの産生に好ましい基質は、これらのタンパク質のナトリウム塩よりむしろ、カルシウムおよびカリウムである。
【0054】
A.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドプロテアーゼの最適pH値は4.3前後である。この低い最適pH値のためウシ乳カゼイン塩をA.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドプロテアーゼを伴いインキュベートするステップは自明ではない。ウシ乳カゼイン塩はpHが6.0未満に降下すれば沈殿するであろうが、pH6.0ではA.ニガー(A.niger)酵素は限定的な活性のみを有する。このむしろ好ましからざる条件下でさえ、A.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドプロテアーゼを伴うインキュベーションはIPPおよびLPPなどの数個の既知のACE阻害ペプチドを産出する。非常に驚くべきことにVPPはこれらの条件下では一切産生されない。ウシ乳カゼインはβ−カゼインおよびκ−カゼインを含む多くの異なるタンパク質を混入する。既知のアミノ配列に従えば、β−カゼインはACE阻害トリペプチドIPP、VPPおよびLPPを包含する。κ−カゼインはIPPのみを包含する。A.ニガー(A.niger)由来酵素が計測可能なアミノペプチダーゼ活性を一切含有しないという事実は、形成されるIPPがκ−カゼイン中に存在する−A107−I108−P109−P110−配列から放出されることを強く示唆する。おそらくIPPのペプチド結合カルボキシ末端はA.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドプロテアーゼの主活性により切断されるが、一方先行するAla−Ile結合の切断はそのAla特異的副次活性により達成される。同様にVPPの不在はアミノペプチダーゼ副次活性の不在に基づき説明され得る。VPPは配列−P81−V82−V83−V84−P85−P86−内のβ−カゼイン中に含有される。したがって、プロリン特異的エンドプロテアーゼは、VVVPP配列を切除するが、VPPを放出することはできない。
【0055】
これらの結果は単純な1ステップ酵素処理においてカゼイン塩をA.ニガー(A.niger)由来エンドプロテアーゼとともにインキュベートすると得られる。タンパク質を含有する水溶液は、特に5.0を上回るpH値および摂氏50度以下の温度で何時間も保たれる場合に、高度に微生物感染しやすい。特にかかる長時間インキュベーションステップの間に産生され得る微生物毒素は、続く加熱ステップにも生残するとともに食品級の処理に対する潜在的な脅威となる恐れがある。本発明は好ましくは摂氏50度を上回るインキュベーション温度を使用する。酵素インキュベーションの実行時間が24時間未満、好ましくは8時間未満、より好ましくは4時間未満である1ステップ酵素処理との組み合わせにおいて、本発明に従う方法は改善された微生物的安定性の利点を提供する。高温条件と組み合わせて本酵素基質比を使用すると、IPPおよびLPPの切除は3時間のインキュベーション時間内に完了される。
【0056】
ACE阻害ペプチドIPPおよびLPPはカゼインから単一の、本質的に純粋なエンドプロテアーゼを使用して切除され得るため、本発明は結果として先行技術の方法より少数の水溶性ペプチドをもたらす。これらの水溶性ペプチドのなかでもIPPおよびLPPは多量に存在する。これは、他の多くの、しばしば低活性である化合物を伴わない高濃度のACE阻害トリペプチドが必要とされる場合に特に重要である。
【0057】
本方法に従えば、タンパク質中に存在する−I−P−P−または−L−P−P−配列の好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%が、それぞれトリペプチドIPPまたはLPPに変換される。
【0058】
実施例において我々は新しい、かつ驚くべき精製ステップによる5倍の生物活性ペプチド精製作用を説明する。この精製処理の基本はA.ニガー(A.niger)由来プロリン特異的エンドプロテアーゼの固有の特性からなる。この酵素を伴うインキュベーションは基質分子のほとんどの生物活性部分を水溶性トリペプチドの形態で放出する。基質分子の非または低生物活性部分は大部分が基質分子の非切断かつそれゆえはるかに高分子量のペプチドまたはポリペプチド部分中に残留する。選択されたpH条件下でのこれらの高分子ペプチドまたはポリペプチド部分の限定的な水溶性により、基質分子のこれらの非または低生物活性部分はさらにより高い可溶性の生物活性トリペプチドから容易に分離される。この方法において最初の加水分解物は摂氏55度、pH6.0での短い酵素インキュベーション時間の間に形成されるとともに、次に場合により摂氏80度を上回る温度まで加熱され、全ての汚染微生物を死滅させるとともにA.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドペプチダーゼを不活化させる。続いて加水分解物が酸性化され、4.5または少なくとも5.0未満までのpH降下を実現する。このpH値では、酵素にとっての最適条件に相当するためA.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドペプチダーゼを不活化するためには使用され得ないが、カゼイン塩由来の全ての高分子ペプチドは沈殿するため溶液中にはより低分子量のペプチドのみが残留する。沈殿させたカゼイン塩はデカンテーションもしくはろ過ステップまたは低速(すなわち、5000rpm未満)遠心分離により容易に除去され得るため、水相はタンパク質の存在量に比べ高い割合の生物活性ペプチドを含有する。ケルダールデータによればカゼインタンパク質の80〜70%が低速遠心分離ステップにより除去され、これは4〜5倍のACE阻害ペプチド精製を意味する。我々はこの精製原理がカゼイン以外のタンパク質性材料から得られる生物学的に活性なペプチドを得るためにも同様に有利に適用され得ることを発見している。また、酵素的に産生される加水分解物だけでなく、好適な微生物により発酵されるタンパク質も本方法に従い分離されるとともに精製され得る。基質が沈殿するであろうとともに酵素がなお活性である場合に近いpH値で酵素および基質をインキュベートすることによりこの精製ステップは可能となるであろう。A.ニガー(A.niger)由来プロリルエンドプロテアーゼの低い最適pH値から、pH1.5〜6.5の間の範囲での基質沈殿が考えられ得る。その特異的な沈殿挙動の点から見て、グルテン沈殿pH3.5超、ヒマワリタンパク質沈殿pH4.0超およびpH6.0未満、卵白沈殿pH3.5超およびpH5.0未満が、加水分解されたタンパク質が沈殿するとともに沈殿したタンパク質が加水分解されたタンパク質またはペプチドから分離され得る条件の例となる。
【0059】
デカンテーション、ろ過または低速遠心分離の後、生物学的に活性なペプチドを含有する上清が精製された状態で回収され得る。続く蒸発および噴霧乾燥ステップは高生物活性の食品級ペーストまたは粉末を得るための経済的経路を産み出すであろう。記載されるとおりの方法に従いカゼイン塩を消化すると、高濃度のACE阻害ペプチドを伴う白色かつ無臭の粉末が得られる。あるいは蒸発またはナノろ過が使用され、生物活性ペプチドをさらに濃縮し得る。水分活性(Aw)をpH調整および安息香酸またはソルビン酸のような食品級防腐剤の添加と組み合わせて増加させることによるかかる濃縮物の適当な製剤は、血圧降下ペプチドの、微生物学的に安定な食品級の濃縮液を産出するであろう。正しいトリペプチド濃度まで然るべく希釈されたならば、ACE阻害特性を備えるあらゆる種類の食品および飲料を供与するのに好適な多用途の出発材料が得られる。必要であれば、デカンテーション、ろ過または低速遠心分離の後に得られる上清がさらに処理され、最終産物の食味を改善し得る。例えば、上清は粉末状活性炭と接触させた後、続くろ過ステップで炭を除去し得る。最終産物の苦味を最小化するため、デカンテーション、ろ過または低速遠心分離の後に得られる上清はまた、サブチリシン、トリプシン、中性プロテアーゼまたはグルタミン酸特異的エンドプロテアーゼなどの別のプロテアーゼを伴うインキュベーションにも供され得る。必要であれば、生物活性成分MAPおよび/またはITPの濃度は、トリペプチドMAPおよびITPの特異的親水性/疎水性の特質の使用がなされる続く精製ステップによってさらにより高く上昇させ得る。好ましい精製方法としては、ナノろ過(サイズによる分離)、例えばヘキサンまたはブタノールを伴う抽出に続く蒸発/沈殿または得られるとおりの酸性化された加水分解物の、アンバーライト(Amberlite)XADレンジ(range)(ローム(Roehm))からのクロマトグラフィー樹脂との接触が挙げられる。ファーマシア(Pharmacia)により供給されるとおりのブチル−セファロース樹脂もまた使用され得る。
【0060】
別の実施例において我々は、A.ニガー(A.niger)由来プロリン特異的エンドプロテアーゼを新ペプチド精製方法と組み合わせて使用して調製されるカゼイン加水分解物中の新ACE阻害ペプチドMAPおよびITPの同定について記載する。この単一かつ(本質的に純粋な)エンドプロテアーゼを、非生物活性ペプチドの大部分の除去および高度に洗練された分離および同定機器と組み合わせて使用するだけで、我々はこれらの新ACE阻害トリペプチドを探知するとともに同定することが可能となった。実施例に従い(沈殿後に)調製されるカゼイン由来生物活性ペプチド(CDBAP)において、トリペプチドMAPおよびITPは2.9mgMAP/CDBAP1グラム(4.8mgMAP/CDBAP中のタンパク質1グラム)および0.9mgITP/CDBAP1グラム(1.4mgITP/CDBAP中のタンパク質1グラム)に相当する分量で同定された。CDBAPについてのさらなる特質はモルベースで24%のその異常に高いプロリン含量である。本実施例7に記載される試験は、修正マツイ(Modified Matsui)試験における2個の新トリペプチドについて非常に低いIC50値、すなわちMAPについて0.5マイクロモル/lおよびITPについて10マイクロモル/lを示す。この知見は、既知の最も有効な天然ACE阻害ペプチドの1つであるIPPがこの修正マツイ試験において2.0マイクロモル/lのIC50値を有することを我々が理解するならば、さらにより驚くべきものである。
【0061】
本方法に従えば、タンパク質中に存在する−M−A−P−または−I−T−P−配列の好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%がそれぞれ、トリペプチドMAPまたはITPに変換される。
【0062】
新規に同定されたACE阻害ペプチドMAPおよびITPの有用性が実施例のなかでさらに説明される。当該実施例において我々は双方のペプチドが、胃腸管中に典型的に所見される消化条件をシミュレートするインキュベーション条件で生残することを示す。これらのデータに基づき我々は、新規トリペプチドが哺乳動物(例えばヒト)胃腸管中で生残する可能性があると結論づけ、これは高血圧症を処置するため使用されるならば相当な経済的可能性を意味する。
【0063】
実施例において我々は優れたACE阻害ペプチドMAPが酵素加水分解実験において産生され得るのみならず、然るべき食品級微生物を伴い発酵される乳調製物においても検出されることを実証する。しかしながら、我々はかかる発酵産物中のペプチドITPの存在については実証できていない。
【0064】
追加的なステップ(例えばクロマトグラフィー精製)の前または後のいずれかに得られるとおりのペプチドMAPおよび/またはITPが日常的に広く消費される食製品中に混入するべく使用されてもよい。かかる製品の例は、マーガリン、スプレッド、バターまたはヨーグルトまたはミルクまたは乳清含有飲料などの様々な乳製品である。かかる組成物は典型的には人間に投与されるが、それらはまた、動物、好ましくは哺乳動物に投与され高血圧症を軽減してもよい。さらには得られるとおりの製品中の高濃度のACE阻害剤によりこれらの製品は丸薬、錠剤または高濃縮溶液またはペーストまたは粉末の形態で食事補助剤中に混入するのに非常に有用となる。ACE阻害ペプチドの継続的放出を確実にするであろう徐放性食事補助剤は特に興味深い。本発明に従うMAPおよび/またはITPペプチドは乾燥粉末として、例えば、丸薬、錠剤、顆粒、小袋またはカプセル中に調合されてもよい。あるいは本発明に従う酵素は液体として、例えば、シロップまたはカプセル中に調合されてもよい。様々な製剤において使用されるとともに本発明に従う酵素を含有する組成物はまた、生理学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、安定剤、緩衝剤および希釈剤からなる群より選択される少なくとも1個の化合物を混入してもよく、ここで用語はそれらの通常の意味において使用されることで、包装、送達、吸収、安定化、またはアジュバントの場合には、酵素の生理学的作用の亢進を補助する物質を指示する。本発明に従う酵素と組み合わせて粉末形状で使用され得る様々な化合物に関連する背景は「Pharmaceutical Dosage Forms」、第2版、第1、2および3巻、ISBN0−8247−8044−2 マルセル・デッカー社(Marcel Dekker,Inc.)に見出され得る。乾燥粉末として調合される本発明に従うACE阻害ペプチドはかなり長期間保存され得るが、湿潤または湿気は、例えばアルミニウムブリスターなどの好適な包装を選定することにより避けなければならない。比較的新しい経口適用形態は、様々なタイプのゼラチンカプセルまたはゼラチンベース錠剤の使用である。
【0065】
高血圧症に対抗するための天然ACE阻害ペプチドの関連性の点から見て、この新しく、かつ費用対効果の高い経路は穏和な降圧性栄養補給用またはさらには動物用の製品に向けた魅力的な出発点を提供する。本経路もまた、驚くべきことに単純な精製ステップを含むため、血圧降下性濃縮食事補給剤の可能性もまた広がる。
【0066】
本発明に従う、または本発明に従い使用されるプロリン特異的エンドプロテアーゼとは、国際公開第02/45524号パンフレットの請求項1〜5、11および13に記載されるとおりのポリペプチドを意味する。それゆえこのプロリン特異的エンドプロテアーゼはプロリン特異的内部タンパク質分解活性を有するポリペプチドであり、
(a)配列番号2のアミノ酸1〜526と少なくとも40%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその断片、
(b)低ストリンジェンシー条件下で、(i)60ヌクレオチド超、好ましくは100ヌクレオチド超が少なくとも80%または90%同一である配列番号1の核酸配列またはその断片、または(ii)配列番号1の核酸配列と相補的な核酸配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、からなる群より選択される。配列番号1および配列番号2は国際公開第02/45524号パンフレットに示されるとおり。好ましくはポリペプチドは単離形態である。
【0067】
本発明に従い使用される好ましいポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸1〜526と少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%、およびさらに最も好ましくは少なくとも約97%の同一性を有するか、または配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるアミノ酸配列を有する。
【0068】
好ましくはポリペプチドは、低ストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中ストリンジェンシー条件下で、および最も好ましくは高ストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号1の核酸配列またはその断片、または(ii)配列番号1の核酸配列と相補的な核酸配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0069】
用語「ハイブリダイズ能を有する」は、本発明の標的ポリヌクレオチドがバックグラウンドを有意に上回るレベルでプローブとして使用される核酸(例えば、配列番号1に記載のヌクレオチド配列、またはその断片、または配列番号1の相補体)とハイブリダイズできることを意味する。本発明はまた、本発明のプロリン特異的エンドプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド、ならびにそれに相補的であるヌクレオチド配列も含む。ヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、合成DNAまたはcDNAを含む、RNAまたはDNAであってもよい。好ましくは、ヌクレオチド配列はDNA、および最も好ましくは、ゲノムDNA配列である。典型的には、本発明のポリヌクレオチドは、選択条件下で配列番号1のコード配列またはコード配列の相補体とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチドの連続配列を含んでなる。かかるヌクレオチドは当該技術分野において周知の方法に従い合成され得る。
【0070】
本発明のポリヌクレオチドは配列番号1のコード配列またはコード配列の相補体とバックグラウンドを有意に上回るレベルでハイブリダイズできる。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、例えば、cDNAライブラリ中に存在する他のcDNAのため、起こり得る。本発明のポリヌクレオチドと配列番号1のコード配列またはコード配列の相補体との間の相互作用により生成されるシグナルレベルは典型的には、他のポリヌクレオチドと配列番号1のコード配列との間の相互作用の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍、およびさらにより好ましくは少なくとも100倍強い。相互作用の強度は、例えば、プローブを、例えば32Pで放射標識することにより計測されてもよい。選択的ハイブリダイゼーションは典型的には、低ストリンジェンシー(約40℃で0.3Mの塩化ナトリウムおよび0.03Mのクエン酸ナトリウム)、中ストリンジェンシー(例えば、約50℃で0.3Mの塩化ナトリウムおよび0.03Mのクエン酸ナトリウム)または高ストリンジェンシー(例えば、約60℃で0.3Mの塩化ナトリウムおよび0.03Mのクエン酸ナトリウム)の条件を使用して実現されてもよい。
【0071】
UWGCGパッケージはBESTFITプログラムを提供するが、これを使用して同一性を計算してもよい(例えばそのデフォルト設定で使用される)。
【0072】
PILEUPおよびBLAST Nアルゴリズムもまた、配列同一性を計算するため、または配列を整列させる(例えば、これらのデフォルト設定で、同等な、または一致する配列を同定するなどの)ため使用され得る。
【0073】
BLAST解析を実施するためのソフトウェアは全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じ公的に利用可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントされる時、ある正値の閾値スコアTと一致するか、またはそれを満たすかのいずれかである問い合わせ配列中の長さWの短いワードを同定することにより最初に高スコア配列対(HSP)を同定するステップを含む。Tは近縁ワードスコア閾値と称される。これらの初期近縁ワードヒットはそれらを含むHSPを求めるための検索を開始するにあたっての元種として働く。ワードヒットは累積アラインメントスコアが増加し得る限り各配列に沿って両方向に伸長される。各方向におけるワードヒットの伸長は次の場合に停止される:累積アラインメントスコアがその最大到達値から分量Xだけ下落する場合;1つまたは複数の負値スコアの残基アラインメントの蓄積によって、累積スコアがゼロ以下になる場合;またはいずれかの配列の終端に達する場合。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムはデフォルトとして、ワード長(W)は11、BLOSUM62スコアリングマトリクスアラインメント(B)は50、期待値(E)は10、M=5、N=4、および両鎖の比較を使用する。
【0074】
BLASTアルゴリズムは2本の配列間の類似性の統計的解析を実施する。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の一尺度は最小合計確率(P(N))であり、これは2個のヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然起こるであろう確率の指標を提供する。例えば、第1の配列の第2の配列との比較における最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、および最も好ましくは約0.001未満であるならば、配列は他方の配列と類似していると考えられる。
【0075】
アスペルギルス(Aspergillus)属の株は食品級の等級を有するとともにこれらの微生物に由来する酵素は疑いのない食品級源由来として知られる。別の好ましい実施形態に従えば、酵素は、非分泌性の、いわゆる細胞質ゾル細胞よりむしろ、その産生細胞によって分泌される。このように酵素は高価な精製ステップを伴わず本質的に純粋な状態で細胞ブロスから回収され得る。好ましくは酵素は一般的なpHおよび温度条件下でその基質に対し高親和性を有する。
【0076】
本発明に従う栄養補助製品は任意の食品タイプであってもよい。それらは、然るべき量で、香味料、砂糖、果実、ミネラル、ビタミン、安定剤、増粘剤等の、一般的な食品成分を食製品に加え含んでなってもよい。
【0077】
好ましくは、栄養補助製品は50〜200mmol/kgのKおよび/または15〜60mmol/kgのCa2+および/または6〜25mmol/kgのMg2+、より好ましくは、100〜150mmol/kgのKおよび/または30〜50mmol/kgのCa2+および/または10〜25mmol/kgのMg2+および最も好ましくは110〜135mmol/kgのKおよび/または35〜45mmol/kgのCa2+および/または13〜20mmol/kgのMg2+を含んでなる。これらの陽イオンは本発明に従う栄養補助製品中に混入されると血圧をさらに降下させる有益な作用を有する。
【0078】
有利には、本栄養補助製品は1種または複数のビタミンB群を含んでなる。
【0079】
ビタミンB群の葉酸は、ヒトの食事中のアミノ酸であるホモシステインの代謝に関与することが知られている。長年にわたり、高レベルなホモシステインは心血管疾患の高い発症率と相関してきた。ホモシステインの降下は心血管疾患のリスクを低減し得ると思われる。
【0080】
ビタミンB6およびB12はプリンおよびチアミンの生合成に干渉し、メチオニン産生のためのホモシステインメチル化の過程およびいくつかの成長過程におけるメチル基の合成に関与することで知られる。ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)は既知のビタミン補助剤である。ビタミンB12(シアノバラミン)は神経系の健康に寄与するとともに赤血球の産生に関わる。これはまた、食品補助剤中のビタミンとしても知られる。
【0081】
心血管疾患リスクの低減に対するこれらの組み合わされた正の作用から、本発明に従う製品はビタミンB6およびビタミンB12および葉酸を含んでなることが好ましい。
【0082】
本栄養補助製品中のビタミンB群の量は以下に与えられるこれらのビタミンB群の1日量を基本として当業者により計算されてもよい:葉酸:200〜800μg/日、好ましくは200〜400μg/日;ビタミンB6:0.2〜2mg/日、好ましくは05〜1mg/日およびビタミンB12:0.5〜4μg/日、好ましくは1〜2μg/日。
【0083】
好ましくは、本栄養補助製品は3〜25wt%のステロール、より好ましくは7〜15wt%のステロールを含んでなる。ステロールの混入の利点は、それがヒト血中のLDLコレステロールレベルの低減を引き起こすであろう点であり、これは結果として心血管上のリスクの低減をもたらすであろう。
【0084】
参照がステロールに対しなされる場合、これは飽和スタノールおよびステロール/スタノールのエステル化誘導体またはこれらのうち任意のものの混合物を含む。
【0085】
本出願において参照がステロールエステルになされる場合、これもまた、それらの飽和誘導体、スタノールエステル、およびステロールエステルおよびスタノールエステルの組み合わせを含む。
【0086】
ステロールまたはフィトステロールは、植物ステロール(plant sterolまたはvegetable sterol)としても知られ、4−デスメチルステロール、4−モノメチルステロールおよび4,4’−ジメチルステロールの3群に分類され得る。油中でこれらは主に、遊離ステロールおよび脂肪酸のステロールエステルとして存在するが、ステロールグルコシドおよびアシル化ステロールグルコシドもまた存在する。3つの主要なフィトステロール、すなわちβ−シトステロール、スチグマステロールおよびカンペステロールがある。意図される構成成分の概略図は「Influence of Processing on Sterols of Edible Vegetable Oils」、S.P.コチャール(S.P.Kochhar);Prog.Lipid Res.22:161−188頁に与えられるとおりである。
【0087】
シトスタノール、カンペスタノールおよびエルゴスタノールおよびそれらの誘導体などのそれぞれの5α−飽和誘導体は本明細書中ではスタノールと称される。好ましくは(場合によりエステル化された)ステロールまたはスタノールはβ−シトステロールの脂肪酸エステル、β−シトスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、スチグマステロール、ブラシカステロール、ブラシカスタノールまたはそれらの混合物を含んでなる群より選択される。
【0088】
ステロールまたはスタノールは場合により少なくとも部分的に脂肪酸でエステル化される。好ましくはステロールまたはスタノールは1個または複数のC2−22脂肪酸でエステル化される。本発明の目的上、用語C2−22脂肪酸はC2−22主鎖および少なくとも1個の酸性基を含んでなる任意の分子を参照する。本文意内では好ましくないが、C2−22主鎖は部分的に置換されてもよく、または側鎖が存在してもよい。しかしながら、好ましくはC2−22脂肪酸は末端基として1または2個の酸性基を含んでなる直鎖分子である。最も好ましくあるのは天然油中に存在するものと同様の直鎖C8−22脂肪酸である。
【0089】
任意のかかる脂肪酸の好適な例は酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸である。他の好適な酸は、例えばクエン酸、乳酸、シュウ酸およびマレイン酸である。最も好ましくあるのは、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、オレイン酸、セトレイン酸、エルカ酸、エライジン酸、リノール酸およびリノレン酸である。
【0090】
所望であれば脂肪酸の混合物がステロールまたはスタノールのエステル化のために使用されてもよい。例えば、天然起源の脂肪または油を脂肪酸の原料として使用すること、およびエステル交換反応を介してエステル化を実行することが可能である。
【0091】
上述された栄養補助成分は、心血管の健康を増加させることに寄与し、K、Ca2+およびMg2+、ビタミンB群(葉酸、B6、B12)およびステロールは本明細書中ではまとめて心臓の健康成分と称される。
【0092】
以下の実施例が本発明をさらに説明する。
【0093】
A.医薬組成物は従来の製剤手順により以下に指定される成分を使用して調製されてもよい:
実施例1
ソフトゼラチンカプセル
ソフトゼラチンカプセルは従来の手順により以下に指定される成分を使用して調製される:
活性成分:MAPおよび/またはITP0.1g、タンパク質加水分解物0.3g
他の成分:グリセロール、水、ゼラチン、植物油
実施例2
ハードゼラチンカプセル
ハードゼラチンカプセルは従来の手順により以下に指定される成分を使用して調製される:
活性成分:MAPおよび/またはITP0.3g、タンパク質加水分解物0.7g
他の成分:
賦形剤:ラクトースまたはセルロース誘導体適量
潤滑剤:必要に応じてステアリン酸マグネシウム(0.5%)
実施例3
錠剤
錠剤は従来の手順により以下に指定される成分を使用して調製される:
活性成分:MAPおよび/またはITP0.4g、タンパク質非加水分解物0.4g
他の成分:微結晶性セルロース、二酸化シリコン(SiO2)、ステアリン酸マグネシウム、クロスカルメロースナトリウム。
【0094】
B.食品項目は従来の手順により以下に指定される成分を使用して調製されてもよい:
実施例4
果汁30%の清涼飲料
標準的な1食量:240ml
活性成分:
MAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物および炭水化物源としてのマルトデキストリンが本食品項目に混入される:
MAPおよび/またはITP:0.5〜5g/1食
タンパク質加水分解物:1.5〜15g/1食
マルトデキストリン:3〜30g/1食
【0095】
I.「清涼飲料化合物」は以下の成分から調製される:
果汁濃縮物および水溶性香味料
[g]
1.1 オレンジ濃縮物
60.3°ブリックス、5.15%酸性度 657.99
レモン濃縮物
43.5°ブリックス、32.7%酸性度 95.96
オレンジ香味料、水溶性 13.43
アプリコット香味料、水溶性 6.71
水 26.46
1.2 着色料
β−カロチン10%CWS 0.89
水 67.65
1.3 酸および抗酸化剤
アスコルビン酸 4.11
無水クエン酸 0.69
水 43.18
1.4 安定剤
ペクチン 0.20
安息香酸ナトリウム 2.74
水 65.60
1.5 油溶性香味料
オレンジ香味料、油溶性 0.34
蒸留オレンジ油 0.34
1.6 活性成分
活性成分(これは上述される活性成分、すなわち上述される濃度におけるMAPおよび/またはITPおよびタンパク質加水分解物およびマルトデキストリンを意味する)。
【0096】
果汁濃縮物および水溶性香味料は空気の混入なしに混合される。着色料は脱イオン水中に溶解される。アスコルビン酸およびクエン酸は水中に溶解される。安息香酸ナトリウムは水中に溶解される。ペクチンは撹拌下で添加されるとともに煮沸しながら溶解される。溶液は冷却される。オレンジ油および油溶性香味料は予混合される。1.6に記述されるとおりの活性成分は乾燥混合されるとともに、次に好ましくは果汁濃縮混合物(1.1)中に撹拌される。
【0097】
清涼飲料化合物を調製するため、3.1.1から3.1.6の全ての部分が共に混合された後トゥラックス(Turrax)および次に高圧ホモジナイザー(p=200バール、p=50バール)を使用してホモジナイズされる。
【0098】
II.「瓶詰めシロップ」は以下の成分から調製される:
[g]
清涼飲料化合物 74.50
水 50.00
液糖 60°ブリックス 150.00
【0099】
瓶詰めシロップの成分は共に混合される。瓶詰めシロップは1lのすぐに飲める飲料となるまで水で希釈される。
【0100】
変形例:
安息香酸ナトリウムを使用する代わりに、飲料は低温殺菌されてもよい。飲料はまた、炭化されてもよい。
【0101】
実施例5
カゼインカリウムをA.ニガー(A.niger)由来のプロリン特異的エンドプロテアーゼを伴いインキュベートすることによりIPPおよびLPPは急速に産出されるがVPPは産出されない。
本実験においては、過剰産生され、かつ本質的に純粋なA.ニガー(A.niger)由来のプロリン特異的エンドプロテアーゼがカゼインカリウムを伴いインキュベートされ、ACE阻害ペプチドIPP、VPPならびにLPPの遊離について試験された。使用されたエンドプロテアーゼは本質的に純粋であった、つまりプロリン特異的エンドプロテアーゼに固有の内部タンパク質分解活性(すなわち、プロリンおよびアラニン残基のカルボキシ末端切断)以外の有意な内部タンパク質分解活性は存在しなかった。
【0102】
ACE阻害ペプチドの摂取の結果としてのナトリウム取り込みを可能な限り制限するため、カゼインカリウムがこのインキュベーションにおける基質として使用された。
【0103】
カゼイン塩が10%(w/w)タンパク質濃度で摂氏65度の水中に懸濁された後、pHがリン酸を使用して6.0に調整された。次に懸濁液が摂氏55度まで冷却され、A.ニガー(A.niger)由来プロリン特異的エンドプロテアーゼが4ユニット/タンパク質1グラムの濃度で添加された(ユニットの定義については「材料および方法」の節を参照)。連続撹拌下でこの混合物は24時間インキュベートされた。この間にさらなるpH調整は実行されなかった。試料がインキュベーションの1、2、3、4、8、および24時間後に採取された。各試料の酵素活性は、摂氏90度まで5分間、該試料を即時加熱することにより終了させた。冷却後、各試料のpHをリン酸を使用して4.5まで速やかに降下させた後、懸濁液がヘレウス(Hereaus)卓上遠心分離機において3000rpmで5分間、遠心分離された。完全に清澄な上清がLC/MS/MS分析用に使用され、上清中のペプチドVPP、IPP、LPP、VVVPPおよびVVVPPFが定量化された(「材料および方法」の節を参照)。
【0104】
ウシ乳カゼインはβ−カゼインおよびκ−カゼインを含む多数の異なるタンパク質を混入する。既知のアミノ配列に従えば、β−カゼインはACE阻害トリペプチドIPP、VPPおよびLPPを包含する。β−カゼインにおいてIPPは配列−P71−Q72−N73−I74−P75−P76−内に含有され、VPPは配列−P81−V82−V83−V84−P85−P86−内に含有され、およびLPPは配列−P150−L151−P152−P153−内に含有される。κ−カゼインは、β−カゼイン濃度のほぼ50%のモル濃度における酸沈殿カゼイン塩調製物中に存在し、IPPのみを包含する。κ−カゼインにおいてIPPは配列−A107−I108−P109−P110−内に含有される。カゼインの他のタンパク質構成物はIPP、VPPまたはLPPのいずれも含有しない。
【0105】
表2および3は、酸性化され、かつ遠心分離された上清中に存在するペプチドの、インキュベーション混合物に添加されるカゼインカリウム1グラム当たりで計算されるときの、濃度を示す。表2に示されるとおり、IPPはインキュベーションの1時間後にその最高濃度に到達する。そのうえIPP濃度はそれ以上は上昇しない。ペンタペプチドVVVPPの形成はIPPの生成と同じ動態を示す。理論的に予想されるとおり、VVVPPのモル収量はLPPペプチドのモル収量と同様である。LPPおよびVVVPPの双方の収量は理論的に可能であろう収量のほぼ60%に達する。LPPの最高濃度がインキュベーションのわずか3時間後に到達されるという事実は、β−カゼイン分子の特定部分の切断がことによると若干さらに困難であることを示唆する。VVVPPとは対照的に、ヘキサペプチドVVVPPFは全く形成されない。この観測はプロリン特異的エンドプロテアーゼが効率的に−P−F−結合を切断し、それによりVVVPPを生成することを示唆する。トリペプチドIPPは即時形成されるが、そのモル収量はVVVPPまたはLPPのいずれかの最大モル収量の約3分の1を上回ることはない。IPPトリペプチドはβ−カゼインおよびκ−カゼインの双方の中に含有されるため、この結果は予想外である。この観測について可能な説明は、プロリン特異的プロテアーゼはIPPを生成できるがカゼイン塩のκ−カゼイン部分からのみできるというものである。関連するκ−カゼインのアミノ酸配列の点から見て、これは−A107−I108−ペプチド結合が酵素のアラニン特異的活性により切断されることを示唆する。これが真実ならば、遊離されるIPPの量はκ−カゼイン中に存在する分量のおよそ40%に達するが、理論的にβ+κ−カゼイン中に存在するIPPの約10%は上回らない。IPPの放出についてのこの切断機序はまた、なぜVPPがその前躯体分子VVVPPから形成され得ないのかについても説明する:所要の内部タンパク質分解活性が使用されるA.ニガー(A.niger)由来酵素調製物中に単に存在しないのである。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
実施例6
酸カゼイン沈殿ステップの組込みは結果としてACE阻害ペプチドの5倍の濃度をもたらす
実施例5に記載されるとおり、10%(w/w)タンパク質濃度のカゼインカリウムがpH6.0でのA.ニガー(A.niger)由来プロリン特異的エンドプロテアーゼを伴うインキュベーションに供された。様々なインキュベーション時間の後、試料は加熱されさらなる酵素活性が中断された後、pHが4.5まで降下されカゼイン溶解度は最小化された。不溶カゼイン分子が低速遠心分離により除去された。表2および3において我々は10%タンパク質の出発濃度に基づき計算されるACE阻害ペプチドの濃度を提供している。しかしながら、酸性化および続く遠心分離ステップの結果として、添加されたタンパク質の大部分が除去された。酸性化された上清のこれらの低減したタンパク質含量を考慮に入れるため、窒素(ケルダール)分析が実行された。このデータによれば様々な上清が表4に示されるタンパク質レベルを含有することが所見された。
【0109】
【表3】



【0110】
これらのデータを考慮に入れ、我々は各上清中に存在するACE阻害ペプチドの濃度を再計算しているが、今回はそれらの実際のタンパク質含量を使用した。これらの再計算データは表5に示される。
【0111】
【表4】

【0112】
表3および5に提示されるデータの比較は、単純な酸性化ステップに続く工業的に実施可能なデカンテーション、ろ過または低速遠心分離ステップが結果として特異的ACE阻害ペプチドの濃度に5倍の増加をもたらすことを明確に示す。
【0113】
実施例7
濃縮カゼイン加水分解物中の新規かつ強力なACE阻害トリペプチドMAPおよびITPの同定
存在する生物活性ペプチドのより徹底した分析を円滑にするため、純粋なA.ニガー(A.niger)由来プロリン特異的エンドプロテアーゼでの消化により得られるとともに酸沈殿により精製されるカゼイン加水分解物が調製用規模で調製された。この目的のため3000グラムのカゼインカリウムが25リットルの摂氏75度の水中に懸濁された。徹底した均質化の後、pHが希釈リン酸を使用して徐々に6.0まで調整された。摂氏55度まで冷却後、A.ニガー(A.niger)由来プロリン特異的エンドプロテアーゼが4酵素ユニット/カゼイン塩1グラムの濃度で添加された(ユニットの定義については「材料および方法」の節を参照)。3時間、摂氏55度でのインキュベーション(撹拌を伴う)後、pHは濃縮リン酸を徐々に添加することにより4.5まで降下させた。この大規模な調製においては、方法のこの部分においてプロリン特異的エンドプロテアーゼを不活化する加熱処置ステップが省略された。次に懸濁液が速やかに摂氏4度まで冷却され、かつこの温度で一晩保管された(撹拌なし)。翌朝清澄な表層はデカントされ、40%乾燥物質のレベルに達するまで蒸発させた。この濃縮液は摂氏140度、4秒間のUHT処置に供され、次に摂氏50度で限外ろ過された。細菌ろ過後、液体は噴霧乾燥された。以下、この材料は「カゼイン由来生物活性ペプチド」(CDBAP)と称される。「材料および方法」の節に概説されるLC/MS手順を使用して、粉末産物中のIPP、LPPおよびVPP含量が測定された。その窒素含量に従えば、粉末産物は約60%のタンパク質含量(6.38の換算係数を使用して)を有する。粉末のIPP、LPPおよびVPP含量は表6に提供される。CDBAP産物のアミノ酸組成は表7に提供される。極めて顕著であるのは、酸沈殿後に得られる噴霧乾燥材料のプロリンモル含量の、当初の12%からおよそ24%までという増加である。
【0114】
【表5】

【0115】
【表6】

【0116】
CDBAP中の新規ACE阻害ペプチドの存在が二次元クロマトグラフィー分離法をアットラインACE阻害アッセイおよび同定用質量分析と組み合わせて使用することにより調査された。第1の分析においてペプチド混合物はODS3液体クロマトグラフィー(LC)カラム上で分離され、および得られた様々な画分からACE阻害プロファイルが生成された。第2の分析において高いACE阻害を示す第1のカラムからの画分がバイオスイート(Biosuite)LCカラム上で異なる勾配プロファイルを使用してさらに分離された。この第2のカラムから収集された画分が2つの部分に分割された:一方の部分はアットラインACE阻害計測に使用され、他方の部分はMSおよびMS−MS分析に供され存在するペプチドが同定された。
【0117】
全ての分析はデュアルトレースUV検出器を装備するアライアンス(Alliance)2795HPLC装置(ウォーターズ(Waters)、Etten−Leur、オランダ)を使用して実施された。ペプチドの同定のため、HPLC装置は同じ供給者製のQ−TOF質量分光計に連結された。試験において20μlのミリQ水中の10%(w/v)CDBAP溶液が粒径5μmを備える150×2.1イナートシル(Inertsil)5のODS3カラム(バリアン(Varian)、Middelburg、オランダ)上に注入された。移動相AはミリQ水中の0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)溶液からなった。移動相Bはアセトニトリル中の0.1%TFA溶液からなった。当初の溶離液組成は100%Aであった。溶離液は100%Aで5分間保たれた。次に直線勾配が5%Bまで10分内に開始された後、10分内に30%Bまで直線勾配が続いた。カラムはBの濃度を70%まで5分内に上昇させることにより洗い流され、70%Bでさらに5分間保たれた。この後、溶離液が1分内に100%Aに交換され、9分間平衡化された。総実行時間は50分間であった。溶離液流速は0.2ml・分−1であり、カラム温度は60℃に設定された。UVクロマトグラムが215nmで記録された。溶離液画分が1分の時間間隔を使用して96ウェルプレートに収集された結果、200μlの画分量がもたらされた。ウェル中の溶離液が80μlの含水水酸化アンモニウム(25%)の0.05%溶液の添加により中和された。溶媒は窒素下50℃で乾燥するまで蒸発させた。この後、残留物は40μlのミリQ水中で再構成され、1分間混合された。
【0118】
アットラインACE阻害アッセイのため、pH7.4、塩素濃度260mMのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の33.4mU・ml−1ACE(シグマ(Sigma)から入手した酵素)27μlが添加され、混合物は700RPMの96ウェルプレート撹拌機上での5分間のインキュベートが可能となった。インキュベーション時間の後、PBS緩衝液中の0.35mM馬尿酸−ヒスチジン−ロイシン(HHL)溶液13μlが添加され、1分間、700RPMで混合された。混合物はGCオーブン中での60分間、50℃での反応が可能となった。反応後、プレートは融氷中で冷却された。
【0119】
96ウェルプレートは次に、フラッシュHPLCカラム上で分析された。各ウェル30μlの反応混合物が、同じ供給者製の10×4.6mmRP18eガードカラムを装備するクロムリス・フラッシュ(Chromlith Flash)RP18eの25×4.6mmHPLCカラム(メルク(Merck)、Darmstadt、ドイツ)上に注入された。アイソクラティックな移動相は水/アセトニトリル79/21の0.1%TFA溶液からなった。溶離液流速は2ml・分−1であったとともに、カラム温度は25℃であった。注入は1分の時間間隔で実施された。馬尿酸(H)およびHHLが280nmでモニタされた。HおよびHHLのピーク高さが計測され、および各画分のACE阻害(ACEI)が次式に従い計算された:
【数1】


ACEIα 分析物の阻害率
DC 水中でのHおよびHLに対するHHLのACEによる「切断度」
DC 分析物についてのHおよびHLに対するHHLの「切断度」
「切断度」は、HおよびHHLのピーク高さの合計の比としてのHのピーク高さを求めることにより計算された。
【0120】
最高ACE阻害は18〜26分間に溶離した画分中で計測された。この領域が収集され、粒径3μmの150×2.1mmバイオスイート(Biosuite)カラム(ウォーターズ(Waters)、Etten−Leur、オランダ)上に再注入された。移動相AはここではミリQ水中の0.1%ギ酸(FA)溶液からなった。移動相Bはメタノール中の0.1%FA溶液からなった。当初の溶離液組成は100%Aであった。溶離液は100%Aで5分間保たれた。この後、直線勾配が5%Bまで15分内に開始された後、30分内に60%Bまで直線勾配が続いた。溶離液が60%Bでさらに5分間保たれた。最終的に溶離液は1分内に100%の移動相Aまで低減され、10分間平衡化された。総実行時間は65分間であった。溶離液流速は0.2ml・分−1であり、カラム温度は60℃に設定された。UVトレースが215nmで記録された。画分がバイオスイート(Biosuite)カラムから10秒の時間間隔で収集された。画分は再び2つの部分に分割され、一方の部分は上記に記載されるアットラインACE阻害方法を使用して活性を計測するために使用され、他方の部分はMSおよびMS−MSを使用して活性ペプチドを同定するために使用された。
【0121】
326.2080Daの分子イオンでの2つのクロマトグラフピークおよび330.2029Daおよび318.1488Daの分子イオンでの2つの他のピークが18〜26分間の領域内で計測されたACE阻害増加に相当した。MS−MSを使用してこれらのペプチドが構造異性体IPPおよびLPP(−0.6ppm)、ITP(−4.8ppm)およびMAP(+2.8ppm)としてそれぞれ同定された。ペプチドのタンパク質源はκ−カゼインf108−110(IPP)、β−カゼインf151−153(LPP)、α−s2−カゼインf119−121(ITP)およびβ−カゼインf102−104(MAP)である。IPPおよびLPPはIC50値がそれぞれ5および9.6μMであるACE阻害ペプチドとして以前に報告された(Y.ナカムラ(Y.Nakamura)、M.ヤマモト(M.Yamamoto)、K.サカイ(K.Sakai)、A.オオクボ(A.Okubo)、S.ヤマザキ(S.Yamazaki)、T.タカノ(T.Takano)、J.Dairy Sci.78(1995年)777−783頁;Y.アリョシ(Y.Aryoshi)、Trends in Food Science and Technol.4(1993年)139−144頁)。しかしながら、トリペプチドITPおよびMAPは、我々の知る限りでは、これまで強力なACE阻害ペプチドとして報告されたことは一度もない。
【0122】
MAP、ITPおよびIPPは化学的に合成されたうえ、各ペプチドの活性が以下に記載される修正マツイ(Matsui)アッセイを使用して計測された。
【0123】
様々な試料中のMAPおよびITPの定量化がポジティブ・エレクトロスプレーの多重反応モニタリングモードにおいて操作されるマイクロマス・クアトロ(Micromass Quattro)II MS計器において実施された。使用されるHPLC法は上記に記載されるものと同様であった。MS設定(ESI+)は次のとおりであった:コーン電圧37V、キャピラリー電圧4kV、乾燥ガスは窒素で300l/h。原料および噴霧器の温度:それぞれ、100℃および250℃。合成ペプチドが、前駆イオン318.1および積算生成イオン227.2および347.2をMAP用に使用して、前駆イオン320.2および積算生成イオン282.2および501.2をITP用に使用して検量線を準備するため使用された。これらの分析に従えば、新規ACE阻害トリペプチドMAPおよびITPはCDBAP産物中に2.9mgMAP/CDBAP1グラムまたは4.8mgMAP/CDBAP中のタンパク質1グラムおよび0.9mgITP/CDBAP1グラムまたは(en)1.4mgITP/CDBAP中のタンパク質1グラムに相当する分量で存在する。
【0124】
MAPおよびITPのACE阻害活性を測定するため、化学的に合成されたトリペプチドが、いくらかの細かな修正を伴うマツイ(Matsui)ら(マツイ,T(Matsui,T)ら(1992年)Biosci.Biotech.Biochem.56:517−518頁)の方法に従いアッセイされた。様々なインキュベーションが表8に示される。
【0125】
【表7】

【0126】
4つの試料の各々は、200mMのNaClを含有するpH8.3の250mMのホウ酸塩溶液中に溶解される75μlの3mMヒプリルヒスチジンロイシン(Hip−His−Leu、シグマ(Sigma))を含有した。ACEはシグマ(Sigma)から入手された。混合物は37℃でインキュベートされ、30分後に125μlの0.5MのHClを添加することにより中断された。続いて、225μlのビシン/NaOH溶液(1MのNaOH:0.25Mのビシン(4:6))が添加された後、25μlの0.1MのTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸、フルカ(Fluka)、スイス;0.1MのNaHPO中)が続いた。37℃、20分間のインキュベーション後、0.2MのNaHPO中の4mlの4mMのNaSOが添加され、416nmでの光吸収度がUV/Vis分光光度計(CPSコントローラを備えるシマヅ(Shimadzu)UV−1601、オランダ)で計測された。
【0127】
ACE阻害(ACEI)の量が阻害剤の不在下でのACEの換算率と比較した阻害割合として次式に従い計算された:
ACEI(%)=((対照1−対照2)−(試料1−試料2))/(対照1−対照2))100、式中、
対照1=ACE阻害構成成分を伴わない吸光度(=最大ACE活性)[AU]。
対照2=ACE阻害構成成分を伴わない、かつACE(バックグラウンド)を伴わない吸光度[AU]。
試料1=ACEおよびACE阻害構成成分の存在下での吸光度[AU]。
試料2=ACE阻害構成成分の存在下だが、ACEを伴わない吸光度[AU]。
【0128】
得られたとおりの化学的に合成されたMAPおよびITPトリペプチドのIC50が実験のスクリーニング相で使用されるアットライン計測において得られたIC50値とともに表9に示される。化学的に合成されたIPPの計測値が様々な計測値の内部基準として含められた。
【0129】
【表8】

【0130】
実施例8
新規ACE阻害ペプチドMAPおよびITPはヒト胃腸管内で生残する可能性がある
摂取後、食事性タンパク質およびペプチドは胃腸管内の様々な消化酵素処理にさらされる。新規に同定された生物活性ペプチドのヒト胃腸管内における安定性を評価するため、CDBAP調製物(実施例7に記載されるとおり調製される)がヒト体内で典型的に所見される消化状態をシミュレートする胃腸処置(GIT)に供された。GITモデル系における様々なインキュベーション時間後に得られた試料がオンラインHPLC−バイオアッセイ(Bioassay)−MSまたはHRS−MS装置を使用して分析され、任意の残留MAPおよびITPペプチドが定量化された。GIT手順は、100mlフラスコ(米国バンケル(Vankel)により供給されるとおり)を組み込む規格混合機において実施された。水浴の温度は37.5℃に設定され、撹拌速度は試料が懸濁液中に保たれるように選定された(100rpm)。
【0131】
約3.4グラムのCDBAP(タンパク質レベルはおよそ60%)が100mlのミリQ水中に溶解/懸濁された。胃のシミュレーション中、5MのHClが使用されpHを低下させた。胃のシミュレーションの最後および十二指腸の相中、5MのNaOHが使用されpHを上昇させた。
【0132】
CDBAP懸濁液が37.5℃まで予熱されたうえ、5mlの懸濁液が取り出され0.31gのペプシン(フルカ(Fluka)注文番号77161)を溶解させた。t=0分で既に溶解済みのペプシンを伴う5mlが懸濁液に入れ戻された。次にCDBAP懸濁液のpHが次の計画案に従い別個のpH計を使用して手動で徐々に調整された:
t=20分 pHを3.5に低下させる
t=40分 pHを3.0に
t=50分 pHを2.3に
t=60分 pHを1.8に
t=65分 pHを2.7に上昇させる
t=75分 pHを3.7に
t=80分 pHを5.3に
t=90分、0.139gの8倍USPパンクレアチン(シグマ(Sigma)注文番号P7545)が別の5mlのCDBAP懸濁液中に慎重に混合されたうえ、直ちに入れ戻された。インキュベーションが次の計画案に従い続行された:
t=93分 pHを5.5に
t=95分 pHを6.3に
t=100分 pHを7.1に
【0133】
実験はt=125分で中断され、pHが確認された(まだpH7であった)。
【0134】
次に試料がビーカーに移され、煮沸するまでマイクロ波オーブン中に置かれた。続いて、試料はガラス管に移されたうえ、95℃で60分間インキュベートされ全てのプロテアーゼ活性が不活化された。冷却後、試料はファルコン管に入れられ、10分間3000×gで遠心分離された。上清が凍結乾燥された。得られたとおりの粉末のN総濃度が測定され、カゼインのケルダール係数(6.38)を使用してタンパク質レベルに換算された。これらのデータに従えば、GIT手順後のCDBAP調製物のタンパク質レベルは48.4%であった。GIT手順に従うタンパク質分解処置を生残するMAPおよびITPのレベルが実施例7に記載されるとおり測定され、得られたデータは表10に示される。
【0135】
実験の結果に従えば、MAPおよびITPの双方がGIT消化に対し高い抵抗性を呈する。これらのトリペプチドにおける低いIC50値(同様に実施例7において測定されるとおり)と組み合わせれば、データからは2個の新規ACE阻害ペプチドの血圧降下ペプチドとしての相当な可能性が示唆される。
【0136】
【表9】

【0137】
実施例9
合成MAPおよびITPのインビトロ模擬胃腸消化
胃腸管(GI)内でのペプチドの安定性を計測するため、ミクロ溶解が使用された。この以下の試験が使用されMAPおよびITPのGI安定性が試験された。
【0138】
成分:
溶解のため次の溶液が使用された:
0.1mol/lのHCl
1mol/lのNaHCO3
人工胃液;
500mlの水中1.0gの塩化ナトリウムおよび3.5mlの0.1mol/lのHCl
(超音波浴中で10分間、脱気される)
胃条件における酵素(総量1ml中に必要とされる量):
50μlの人工胃液中に2.9mgのペプシンおよび0.45mgのアマノリパーゼ(Amano Lipase)−FAP15
腸条件における酵素(総量1ml中に必要とされる量):
50μlの1.0mol/lのNaHCO3中に9mgのパンクレアチン(シグマ(Sigma)P8096)および0.125mgの胆汁抽出物
【0139】
手順:
胃条件:
−各バイアルに次が充填された:
−0.82mlの模擬胃液+70μlのミリQ+10μgの(10倍希釈)混合物1、
−T=37.5℃(t=0)の時に試料を採取し、50μlのペプシン/リパーゼ混合物を添加(振盪)する。
−pHが計測されるとともに3.5まで0.1mol/lのHClで調整される。
−60分間のインキュベーション、60分後試料が採取される。
腸条件:
−50μlのパンクレアチン混合物が添加され、かつpHが計測されるとともに6.8までHClで調整される。
−試料はパンクレアチンの添加(振盪)後5分、30分および60分で採取される。
−全ての試料は95℃で60分間保たれ、酵素の活性が中断される。
−冷却後、試料は分析まで−20℃で貯蔵される。
−試料は遠心分離されるとともにHPLC−MRM−MSで分析される。
【0140】
表11および12について、計測されたペプチド濃度がng/mlで与えられ、MAPの相対濃度として計算される。
【0141】
【表10】

【0142】
【表11】

【0143】
【表12】

【0144】
【表13】

【0145】
上記の結果は、トリペプチドMAPが胃腸条件下で、特に胃条件下1時間後に、良好な安定性を適度に呈することを実証する。MAPは腸の終端に達する前にさらなる分解を受けるにもかかわらず、ほとんどのペプチドは胃のすぐ後、すなわち十二指腸および空腸の近位で吸収される。しかしながら、MAPはカゼイン加水分解物内の他のペプチドの存在下でこの分解に対し保護されると考えられる。
【0146】
結果はまた、ITPの胃腸条件下での優れた安定性も実証する。この優れた安定性はITPのACE阻害剤としてのいくらか低い効力を補い得る。
【0147】
これらの結果はトリペプチドMAPが胃腸条件下で、特に胃条件下1時間後に、良好な安定性を適度に呈することを実証する。しかしながら、これは腸の終端に達する前に実にさらなる分解を受ける。しかしながら、MAPはカゼイン加水分解物内の他のペプチドの存在下でこの分解に対し保護されると考えられる。これは実施例8および9に示されるMAPについての安定性における明らかな差異を説明する。
【0148】
実施例10
MAP含有発酵乳の調製
実施例7に記載されるとおり高度に強力なACE阻害トリペプチドMAPが実施例7に記載される酵素的手順に従い調製されるカゼイン加水分解物中に同定された。しかしながら、我々はMAPトリペプチドが一般的な手法である脱脂乳の発酵を使用しても得られ得るのではないかとの疑問を抱いた。これを試験するため、API50CHL条片(ビオメリュー社(bioMerieux SA)、69280 Marcy−l‘Etoile、フランスから入手可能)により特徴づけられるラクトバチルス株の使用がなされた。使用された株はD−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、N−アセチルグルコサミン、マルトース、ラクトース、スクロースおよびトレハロースを発酵することができた。APILABプラス(Plus)データバンク(バージョン5.0;同様にビオメリュー(bioMerieux)から入手可能)に従い、株はラクトバチルス・デルブリッキ(Lactobacillus delbrueckii)亜種ラクティス(Lactis)05−14として特徴づけられた。株はCentraal Bureau voor Schimmelculturen、Baarn、オランダに寄託された(CBS109270)。
【0149】
実際の発酵実験用の前培養物を調製するため、無菌脱脂乳(ヨッパー・エクス・カンピナ(Yopper ex Campina)、オランダ)がラクトバチルス・デルブリッキ(Lactobacillus delbruecki)株の培養物の2〜4%を接種され、24時間摂氏37度で成長させた。
【0150】
実際の発酵実験において、4.2%MPC−80の還元乳(カンピナ(Campina)、オランダ)、0.5%ラクトースおよび0.3%ラクプロダン(Lacprodan)80(カンピナ(Campina)、オランダ)が2分間80度で低温殺菌された。冷却後、乳は2wt%の前培養物を接種され、発酵が静止条件下で150mlのジャー中で実施され、および40℃でpHコントロールを伴わず実施された。
【0151】
24時間後、試料が採取され、10分間14.000gで遠心分離された。得られた試料のpHは5.3、およびMAP濃度は18.3mg/Lであった。しかしながら、ITPは発酵乳中に検出できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養補助物、好ましくは医薬品としてのMAPおよび/またはITPまたはそれらのMAPの塩および/またはITPの塩。
【請求項2】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、栄養補助物、好ましくは医薬品としての使用。
【請求項3】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、栄養補助物、好ましくは医薬品の製造のための使用。
【請求項4】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、健康の改善または疾患の予防および/または処置のための使用。
【請求項5】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、高血圧症および心不全などの心血管疾患の処置用の栄養補助物、好ましくは医薬品の製造のための使用。
【請求項6】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、前糖尿病または糖尿病の処置のための、または肥満の処置のための使用。
【請求項7】
1型および2型糖尿病の処置の、および前糖尿病者、または耐糖能障害(IGT)者における2型糖尿病の予防のための方法であって、かかる処置を必要とする対象者にMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を投与するステップを含んでなる方法。
【請求項8】
高血圧症または心不全に罹患している人々の処置またはそれらの予防の方法であって、かかる処置を必要とする対象者にMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を投与するステップを含んでなる方法。
【請求項9】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、血漿インスリンまたは血漿インスリンに対する感受性を増加させるための使用。
【請求項10】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、2型糖尿病または前糖尿病の血漿インスリンに対する感受性の血漿インスリンを増加させるための使用。
【請求項11】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、2型糖尿病または前糖尿病の食後血中グルコース濃度を降下させるための使用。
【請求項12】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、2型糖尿病または前糖尿病の食後血中インスリン分泌を増加させるための使用。
【請求項13】
MAPおよび/またはITPが食事補助剤の形態である請求項2〜12のいずれか一項に記載のMAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の使用。
【請求項14】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、ストレスの作用の治療処置用機能性食製品の製造のための使用。
【請求項15】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の局所適用における、好ましくはパーソナルケア適用における使用。
【請求項16】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩の、飼料およびペットフードにおける使用。
【請求項17】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を活性成分として含んでなる医薬品。
【請求項18】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を活性成分として含んでなる食事補助剤。
【請求項19】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を活性成分として含んでなる食品。
【請求項20】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を医薬品または健康上の利益として含んでなる組成物。
【請求項21】
前記健康上の利益がストレスの作用の処置である組成物であって、好ましくは前記組成物が食品または飼料である請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
MAPおよび/またはITPまたはMAPの塩および/またはITPの塩を局所剤としての使用のため、好ましくはパーソナルケアにおける使用のため含んでなる組成物。
【請求項23】
ローション、ゲルまたはエマルジョンである請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
イソロイシン、スレオニンおよびプロリンを共役してITPを形成すること、および場合によりTTPをその塩に変換することによる化学合成を含んでなるITPまたはITPの塩の生産。
【請求項25】
メチオニン、アラニンおよびプロリンを共役してMAPを形成すること、および場合によりMAPをその塩に変換することによる化学合成を含んでなるMAPまたはMAPの塩の生産。
【請求項26】
タンパク質からのMAPおよび/またはITPの産生能を有する好適な微生物による好適な前記タンパク質の発酵を含んでなるMAPおよび/またはITPの製造。
【請求項27】
前記タンパク質がカゼインであるとともに好ましくは前記微生物が乳酸を産生しているMAPおよび/またはITPの生産。

【公表番号】特表2008−539203(P2008−539203A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508224(P2008−508224)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061874
【国際公開番号】WO2006/114439
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】