説明

新規模様を有する人工皮革およびその製造方法

【課題】高強力で形態安定性に優れるだけでなく、人工皮革表層がランダムな凹凸からなる、天然シボ状に酷似した新規な模様有する人工皮革を提供する。
【解決手段】人工皮革は、極細繊維からなる不織布と織物が絡合一体化されてなる不織布表面に立毛を有するシート基体に、高分子弾性体がバインダーとして付与されてなる人工皮革において、前記不織布の立毛側表層部に、高低差が70μm以上500μm以下で幅が200μm以上2000μm以下の大きさで、凹部で区切られた複数の凸状部が形成されており、凸状部の上面が緩やかな凸状曲面を有する人工皮革である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強力で形態安定性に優れるだけでなく、人工皮革表層部がランダムな凹凸からなり、天然シボ状に酷似した新規な模様を有する人工皮革とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工皮革の種類は、近年、消費者要求の多様化から、表面を起毛したスエード調や表層に高分子弾性体を付与した銀付き調など多種多様化している。スエード調人工皮革は、表面起毛部による、均一な手触り感やライティングエフェクトが高品位として評価され、乗物用座席の上張材、インテリア、靴、鞄および手袋など様々な用途に使用されている。
【0003】
一方で、銀付き調人工皮革は、表層の高分子弾性体の風合いから天然皮革の代替品として、スエード調人工皮革と同分野で使用されている。しかしながら、一般的な銀付き調人工皮革は天然皮革の有するシボ模様をエンボス加工などにより施すため、外観は規則的な模様となり、人工的な印象が強く高級感に欠けているという課題があった。
【0004】
上記の人工的な印象を改善すべく、人工皮革シート基材表層部に、高分子弾性体を付与した後に液浴染色をすることにより、表層部にランダムなシワが入り、より天然シボ状に近い外観を達成できる方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0005】
このように、銀付き調人工皮革においては、天然シボ模様に近い外観達成が可能になってきているが、消費者の多様な要求に応えるべく、スエード調の高品位と天然シボ模様を両立する、新規な外観は達成されていないのが現状である。
【0006】
上述の背景において、スエード調人工皮革に凹凸模様を付与する方法が幾つか提案されている。それらの凹凸模様付与方法は、次のとおりである。人工皮革を構成する不織布の絡合において、該不織布に高速流体をスジ状に噴射し、不織布の絡合の緊密さを調整して凹凸を付与する方法が提案されている(特許文献2参照。)。また別に、表面を起毛させた人工皮革にエンボス加工を施し、表面に凹凸模様を付与する方法も提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、これら何れの方法も、凹凸模様は規則性を有しており、スエード調の高品位は有するものの、人工的な外観であり、スエード調の高品位を有しかつ天然皮革のランダムな凹凸からなる天然シボ模様を両立する品位の達成手段は見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−46183
【特許文献2】特開昭61−207674
【特許文献3】特開昭58−151250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、極細繊維からなる不織布と織編物からなるシート基体に高分子弾性体がバインダーとして付与されている人工皮革において、従来の高強力で形態安定性に優れるだけでなく、スエード調の高品位を有すると共に、該人工皮革表層部がランダムで不規則な凹凸からなり、天然シボ状模様に酷似した外観で新規な模様を有する人工皮革シートを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、熱収縮処理の採用により、上記特性の人工皮革を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、人工皮革表層部がランダムで不規則な凹凸からなり、天然シボ状に酷似した外観を達成するためには、極細繊維で形成される不織布と織編物からなる不織布表面に立毛を有するシート基体に、高分子弾性体がバインダーとして付与されている人工皮革において、該人工皮革に挿入された織編物の上層部の不織布の層の方を織編物より厚くすることにより、染色等の仕上げ工程において、人工皮革のシート基体中の織編物層部と不織布の立毛側表層部に両層の収縮応力の差から生じる緩やかな凹凸を発生させることが重要であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の人工皮革は、極細繊維からなる不織布と織編物が絡合し一体化されてなる不織布表面に立毛を有するシート基体に、高分子弾性体がバインダーとして付与されてなる人工皮革において、前記不織布の立毛側表層部が、凹部で区切られた複数の凸状部で形成されており、前記凸状部の高低差が70μm以上500μm以下で、幅が200μm以上2000μm以下であることを特徴とする人工皮革である。
【0012】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の複数の凸状部は凹部で区切られて独立しており、それらの凸状部の形状はランダム不規則でいずれも異なる形状で模様を形成しており、前記凸状部の上面が緩やかな凸状曲面を有することである。
【0013】
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の人工皮革の断面において、織編物と絡合している不織布の厚みは、人工皮革の全体の厚みに対し70%以上95%以下と厚いことである。
【0014】
また、本発明の人工皮革の製造方法は、極細繊維からなる不織布と織編物が絡合し一体化されてなる不織布表面に立毛を有するシート基体に、高分子弾性体がバインダーとして付与されてなる人工皮革の製造方法において、前記織編物として、120℃の温度における面積収縮率が10%以上20%以下である織編物を用い、かつ、前記織編物と絡合している不織布の厚みを人工皮革の全体の厚みに対し70%以上95%以下に調整し、これを熱処理することにより前記織編物を収縮せしめ、前記不織布の立毛側表層部に、高低差が70μm以上500μm以下で幅が200μm以上2000μm以下の大きさで、凹部で区切られた複数の凸状部を形成することを特徴とするものである。
【0015】
すなわち、上記人工皮革の製造方法においては、前記織編物として、120℃の温度における面積収縮率が10%以上20%以下の織編物を用い、かつ人工皮革に挿入された織編物の上層部の不織布の層厚みが、人工皮革の全体の厚みに対し70%以上95%以下になるように不織布の層厚みを調整することが重要である。これにより、染色工程等の仕上げ工程における熱処理において、人工皮革中の織編物の層部と不織布の立毛側表層部の両層の収縮応力の差から生じる、高低差が70μm以上500μm以下で、幅が200μm以上2000μm以下の緩やかな凸状曲面を有する複数の凸状部を人工皮革の表層部に生じさせることができるのである。
【0016】
本発明において、表層部とは、上記のとおり、不織布の立毛側に位置する表面部位を意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高強力で形態安定性に優れるだけでなく、スエード調の高品位を有すると共に、人工皮革表層部がランダムで規則性のない凹凸からなり、天然シボ状に酷似した外観で新規な模様を有する人工皮革シートが得られる。
【0018】
本発明の人工皮革は、織編物が絡合一体化されたスエード調人工皮革基材からなり、挿入された織編物により、高強力で形態安定性に優れている。さらに、表層部は天然革の持つ、自然観ある凹部で区切られた複数の凸状部で形成されており、外観はスエード調人工皮革のもつ立毛部が生み出すライティングエフェクト効果を持つだけでなく、天然革感のある模様を有する新規な表層を持つ人工皮革である。さらに、本発明では、スエード調人工皮革基材の熱収縮処理を採用することにより、天然革感のある表層を安価に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施例1で得られた人工皮革の断面を示し、かつ表層部の凸部の形状および織物上部の不織布の割合を説明するための図面代用写真である。
【図2】図2は、比較例1で得られた人工皮革の断面を示し、かつ表層部の凸部の形状および織物上部の不織布の割合を説明するための図面代用写真である。
【図3】図3は、本発明の人工皮革の構造を説明するための模式断面図である。
【図4】図4は、本発明の人工皮革の表層部模様をイメージした模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<人工皮革>
本発明の人工皮革は、極細繊維を主体とする不織布と織編物が絡合一体化した不織布表面に立毛を有するシート基体と高分子弾性体で構成され、人工皮革表層部が緩やかな凹凸からなる人工皮革である。
【0021】
図3は、本発明の人工皮革の基本構造を説明するための模式断面図である。図3において、本発明の人工皮革は、織編物1と不織布2が絡合積層されており、その不織布2の上面に不織布2を構成する繊維からなる立毛部3が形成されている。
【0022】
本発明の人工皮革は、極細繊維で形成された不織布と織編物からなるシート基体に高分子弾性体がバインダーとして付与されている人工皮革において、後述するように、バインダー付与後の染色工程での人工皮革シート基材の人工皮革表層部と内層部に収縮応力の差から表層に緩やかな凹凸を生じさせることにより、高低差70μm以上500μm以下、幅200μm以上2000μm以下の緩やかな凹凸からなる、凹部で区切られた複数の凸状部が形成された表層部を有する人工皮革である。表層部は、既述のとおり、不織布2の立毛部3側の表面部位である(図3参照。)。
【0023】
凸状部の高低差が70μm未満では、人工皮革の表層部の凹凸が少なく、従来のスエード調人工皮革の品位程度となり、逆に高低差が500μmより大きくなると表層部の凹凸が大きく過ぎて、表面部の立毛繊維の方向がバラバラになり、スエード調人工皮革のライティングエフェクトが失われてしまう。高低差は、70μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以上350μm以下である。
【0024】
一方、凸状部の幅については、幅が200μm未満では、凹凸が細かくなり、シボ模様が十分に発現せずに、従来のスエード調人工皮革の品位となり、また幅が2000μmより大きくなると、シボ状の模様は発現するが、模様の緻密感にかけ高級感に欠ける。幅は、200μm以上2000μm以下が好ましく、より好ましくは400μm以上1500μm以下である。
【0025】
図4は、本発明の人工皮革の表層部模様をイメージした模式平面図である。図4において、複数の凸状部4が凹部5で区切られ独立したランダム不規則な模様を呈している。このような不規則な模様は、後述する本発明の製造方法によって、初めて達成されるものである。
【0026】
本発明の人工皮革で用いられる織編物の面積収縮率は、高分子弾性体付与後における表層部と織編物の内層部にかかる収縮応力差を広げ、人工皮革内で歪みを生じさせるために重要であり、一般的に極細繊維からなる不織布の表層部よりも収縮応力が高い織編物の、120℃の温度での乾熱面積収縮率を10%以上20%以下になるように織物の収縮率を調整することが好ましい。織編物の乾熱面積収縮率が10%未満では人工皮革内部の収縮応力が小さく、表層部に十分な緩やかな凹凸を発現できない。また、織編物の乾熱面積収縮率が20%より大きいと、人工皮革自体が歪んだものとなってしまう。乾熱面積収縮率は、より好ましくは11%以上15%以下である。
【0027】
本発明の人工皮革で用いられる織編物を構成する単糸としては、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などの合成繊維からなる単糸が挙げられるが、染色堅牢度等の観点から不織布を構成する極細繊維と同素材であることが好ましい。このような単糸の形態としては、フィラメントヤーンや紡績糸などが挙げられるが、高物性を維持するためにこれらの強撚糸が好ましく用いられる。
【0028】
紡績糸は、表面毛羽の脱落が多く欠点となるため、フィラメントヤーンを用いることが好ましい。
【0029】
単繊維繊度は、0.01dtex以上3.5dtex以下が好ましく、より好ましくは0.1dtex以上1.0dtex以下である。単繊維繊度が0.01dtexより小さいと、ニードルパンチによる単糸切れが多く、製品の物性低下の点で好ましくない。また、単繊維繊度が3.5dtexより大きいと、不織布層を構成する極細繊維との染色性の違いにより、織編物を構成する繊維の製品表層への露出が目立ち、製品品位が低下する傾向を示す。
【0030】
織編物を構成する単糸の直径は、好ましくは50μm以上300μm以下であり、より好ましくは100μm以上200μm以下である。撚糸単糸の直径が50μmより小さいと、染色工程での収縮時の織編物層部の収縮応力が少なくなる。また、撚糸単糸の直径が300μmより大きいと、染色工程での織編物層部の収縮応力は高いが、ニードルパンチによる不織布ウェブと織編物の絡合が不十分となり、製品の形態安定性が低下する傾向を示す。
【0031】
さらに、織編物については、人工皮革の形態安定性を高めるために織物が好ましく用いられる。特に、形態安定に優れる平織りが好ましく用いられる。平織りの織密度は、好ましくは40本/インチ以上120本/インチ以下であり、より好ましくは、60本/インチ以上90本/インチである。織密度が40本/インチより小形態安定性に欠ける傾向がある。また、織密度が120本/インチより大きいと織物の歪みが大きく、風合いが硬くなる傾向を示す。
【0032】
一方、織物の単糸を構成する単繊維の構造は、高粘度ポリマーと低粘度ポリマーをサイドバイサイド構造にして、収縮率を高くすることも可能である。高粘度ポリマーと低粘度ポリマーをサイドバイサイド構造にすることにより、延伸時に高粘度側へ応力が集中することで、2成分間で異なった内部歪が生じる。この内部歪により、熱収縮工程時での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じ、収縮率を高めることができる。その他、単糸の撚数、織密度等を調整し、織物の120℃の温度での面積収縮率を10%以上20%以下に調整すれば良い。
【0033】
強撚糸を用いる場合、撚数は、1000T/m以上4000T/m以下が好ましく、より好ましくは1500T/m以上3500T/m以下である。撚数が1000T/mより小さいと、ニードルパンチによる極細繊維の単繊維切れが多くなり、製品の物理特性の低下や単繊維の製品表面への露出が多くなる傾向を示す。また、撚数が4000T/mより大きいと、単繊維切れは抑えられるが、織物を構成する単糸(強撚糸)が硬くなりすぎるため、風合の硬化を惹起する傾向を示す。また、撚数を小さくすることにより、単糸の収縮による織物を構成する単糸全体の長さ方向の収縮率を高めることができるだけでなく、単糸の偏平率が大きくなり、織物の経緯糸交点の摩擦が増加することにより織物の収縮率を高めることができる。
【0034】
本発明の人工皮革で用いられる不織布を構成する極細繊維は、人工皮革としての性能、すなわち柔軟性、触感、外観品位および強力特性などを高めるために、単繊維繊度が1.0dtex以下0.001dtex以上の極細繊維を発現し得る構成であることが好ましい。
【0035】
本発明で用いられる極細繊維を構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマー等のポリエステル系のポリマー、ナイロン6、ナイロン66およびポリアミドエラストマ等のポリアミド系のポリマー、ポリウレタン系のポリマー、ポレオレフィン系のポリマーおよびアクリルニトリル系のポリマーなど、繊維形態を有するポリマーならば使用可能であるが、実用性能の点からポリエステル系とポリアミド系のポリマーが好ましく使用される。
【0036】
本発明の人工皮革で用いられる不織布としては、短繊維をカードやクロスラッパーを用いて積層ウェブを形成させた後に、ニードルパンチやウォータージェットパンチを施して得られる短繊維不織布、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維不織布、および抄紙法で得られる不織布などを採用することができる。中でも短繊維不織布は、立毛繊維長が均一等良好なものが得られるため好ましく用いられる。
【0037】
不織布の厚みは、人工皮革の表層部にランダムな凹凸を発現させるために重要であり、不織布の層を織編物の層より厚くすることにより、人工皮革内の織編物上部の不織布の層を厚くする。また、人工皮革内の織編物上部の不織布の層の厚み調整は、後述する製造方法のバフ工程での人工皮革の不織布の表層部の研削量により調整することができる。製造コストを考慮すると、後者の方が廃棄される不織布が少ないため好ましい。
【0038】
本発明で用いられる不織布と織編物が絡合し一体化されてなるシート基体の厚みは、0.6mm以上3.9mm以下であることが好ましく、1.0mm以上3.0mm以下であることがより好ましい。厚みが0.6mmより小さいと人工皮革の柔軟な風合いが損なわれ、3.9mmより大きいと挿入された織物による人工皮革の形態安定性が乏しくなる傾向がある。
【0039】
本発明の人工皮革で用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマーおよびスチレン・ブタジエンエラストマー等を用いることができるが、柔軟性とクッション性の観点からポリウレタンが好ましく用いられる。
【0040】
また、高分子弾性体には、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系等のエラストマー樹脂、アクリル樹脂およびエチレン−酢酸ビニル樹脂等が含まれていても良い。また、弾性重合体は、有機溶剤中に溶解していても水中に分散していてもどちらでもよい。
【0041】
高分子弾性体の好適な使用割合については、シート基体重量に対する高分子弾性体質量が10質量%以上200質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以上180質量%以上である。高分子弾性体重量が10質量%より少ないと人工皮革からの繊維の脱落が大きく、200質量%より多いと人工皮革の風合いが硬くなり好ましくない。
【0042】
また、本発明で用いられる高分子弾性体には、必要に応じてカーボンブラック等の顔料、染料酸化防止剤、酸化防止剤、耐光剤、帯電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤および防臭剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0043】
<人工皮革の製造方法>
次に、本発明の人工皮革を製造する方法について説明する。
【0044】
本発明において、極細繊維からなる不織布を得る手段としては、海島型複合繊維等の極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維から直接不織布を製造することは実質的に困難であることから、まず極細繊維発生型繊維から不織布を製造し、この不織布における極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させることにより、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0045】
極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分に用い、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。
【0046】
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがあるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート基体(繊維絡合体)の強度にも資する点から、海島型複合繊維が特に好ましく用いられる。
【0047】
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができる。
【0048】
海成分の溶解除去は、高分子弾性体を付与する前、付与した後、あるいは起毛処理後のいずれの段階で行ってもよい。
【0049】
また、海島型繊維の島成分としては、上述した極細繊維を構成するポリマーが用いられる。
【0050】
本発明で用いられる不織布を得る方法としては、前述のとおり、繊維ウェブをニードルパンチやウォータージェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法および抄紙法などを採用することができ、中でも前述のような極細繊維束の様態とする上で、ニードルパンチやウォータージェットパンチ等の処理を経る方法が好ましく用いられる。本発明では、前述のとおり、これらを施して得られる短繊維不織布、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維不織布、および抄紙法で得られる不織布などを採用することができる。中でも短繊維不織布は、立毛繊維長が均一等良好なものが得られるため好ましく用いられる。
【0051】
また、不織布と織編物の積層絡合一体化には、ニードルパンチやウォータージェットパンチ等が繊維の絡合性の面から好ましく用いられる。
【0052】
また、不織布と織編物を絡合一体化させる前に、予備的な絡合が与えられていることが、不織布と織編物をニードルパンチで不離一体化させる際のシワ発生をより防止するために望ましい。このように、ニードルパンチにより、あらかじめ予備的絡合を与える方法を採用する場合には、そのニードルパンチ密度は20本/cm以上で行なうことが効果的であり、好適には100本/cm以上のニードルパンチ密度で予備絡合を与えるのがよく、より好適には300本/cm〜1300本/cmのニードルパンチ密度で予備絡合を与えることである。
【0053】
予備絡合が、20本/cm未満のニードルパンチ密度では、不織布の幅が、織編物との絡合時およびそれ以降のニードルパンチにより、狭少化する余地を残しているため、幅の変化に伴い、織編物にシワが生じ平滑なシート基体を得ることができなくなることがあるからである。また、予備絡合のニードルパンチ密度が1300本/cm以上になると、一般的に不織布自身の絡合が進みすぎて、織編物を構成する繊維との絡合を十分に形成するだけの移動余地が少なくなるので、不織布と織編物が強固に絡合した不離一体構造を実現するには不利となるからである。
【0054】
本発明において、織編物と不織布とを絡合一体化させるに際しては、ニードルパンチ密度の範囲を300本/cm〜6000本/cmとすることが好ましく、1000本/cm〜3000本/cmとすることがより好ましい態様である。
【0055】
不織布と織編物の絡み合わせには、不織布の片面もしくは両面に織編物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織編物を挟んで、ニードルパンチすることによって繊維同士を絡ませ、シート基体とすることができる。
【0056】
また、ウォータージェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、好ましくは直径0.05〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させると良い。
【0057】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発生型繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15〜0.30g/cmであることが好ましい。見掛け密度を0.15g/cm以上とすることにより、十分な形態安定性と寸法安定性を有する人工皮革が得られる。一方、見掛け密度を0.30g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0058】
このようにして得られた極細繊維発生型繊からなる不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化させることが好ましい。
【0059】
不織布を構成する極細繊維発生型繊維から、海成分である易溶解性ポリマーを溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィンであればトルエンやトリクロロエチレン等の有機溶媒が用いられ、海成分がポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いることができる。また、この極細繊維発生加工(脱海処理)は、溶剤中に極細化可能繊維からなる不織布を浸漬し、窄液することによって行うことができる。
【0060】
本発明において、高分子弾性体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が用いられ、また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液としてもよい。
【0061】
溶媒に溶解した高分子弾性体溶液に、不織布と織編物からなるシート基体(繊維絡合体)を浸漬するに際して、高分子弾性体を不織布を含むシート基体に付与し、その後、乾燥することによって高分子弾性体を実質的に凝固し固化させる。溶剤系のポリウレタン溶液の場合は、非溶解性の溶剤に浸漬することにより凝固させることができる。また、ゲル化性を有する水分散型ポリウレタン液の場合は、ゲル化させた後乾燥する乾式凝固方法等で凝固させることができる。乾燥にあたっては、シート基体(繊維絡合体)および弾性重合体の性能が損なわない程度の温度で加熱してもよい。
【0062】
高分子弾性体の好適な使用割合については、シート基体重量に対する高分子弾性体質量が10質量%以上200質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上180質量%以上である。高分子弾性体重量が10質量%より少ないと人工皮革からの繊維の脱落が大きくなり、200質量%より多いと人工皮革の風合いが硬くなる傾向を示す。
【0063】
本発明の人工皮革は、少なくとも片面に立毛を有するものである。立毛は、不織布面に形成される。立毛処理は、不織布表面をサンドペーパーやロールサンダーなどを用いてバフすることによって行うことができる。特に、サンドペーパーを用いることにより、均一かつ緻密な立毛を形成することができる。さらに、人工皮革用シート基体の表面に均一な立毛を形成させるためには、研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするためには、例えば、バフ段数を好ましくは3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手を、JIS規定の150番〜600番の範囲とすることがより好ましい態様である。番手を段々と小さくすることにより、表層ナップ長を均一に仕上げることができる。
バフ工程は、人工皮革の表層部にランダムな凹凸を発現させるために不織布層を厚くすることに重要な工程であり、そのために表層部の研削量を100μm以上500μm以下にすることが好ましい。研削量が100μm未満では、不織布の層の厚みは厚くできるものの、立毛繊維の長さにムラが生じてしまうことがある。また、研削量が500μmより大きいと、研削屑が多くなるため、サンドペーパーの目詰まりが多発し加工安定性にと乏しくなることがある。
【0064】
本発明の人工皮革は、好適に染色される。染色は、分散染料、カチオン染料やその他反応性染料を用い、染色される人工皮革基材シートの風合いを柔軟にするためにも高温高圧染色機により行うことが好ましい。染色温度は80℃〜150℃が好ましく、110℃以上がより好ましい態様である。
【0065】
さらに、必要に応じて、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤および耐光剤等の仕上げ処理を施してもよく、仕上げ処理は染色後でも染色と同浴でも良い。
【0066】
本発明においては、高分子弾性体のバインダー付与後の人工皮革を構成するシート基材において、そのシート基材中の織編物と不織布の立毛側表層部の収縮応力差を大きくすることがスエード調人工皮革の高品位を有し、ランダムで緩やかな凹凸からなる天然シボ状に酷似した新規な模様を発現するために重要である。具体的には、染色工程等の仕上げ工程、特に染色工程で人工皮革シート基材中の織編物上部の不織布の層の厚みを、人工皮革の厚みに対し70%以上95%以下にすることが特に好ましい態様である。不織布の層の厚みが70%未満であると、人工皮革内の収縮率が大きい織編物の収縮応力が、収縮率の少ない不織布層全体に広がり、不織布の立毛側表層部は織編物の層と同様に収縮するため、不織布の表層部には織編物の層と同様な微細な凹凸が現れるのみで、外観はスエード調人工皮革の均一な表層となる。一方、不織布の層の厚みが95%より高いと、過度に緩やかな凹凸を発現するため、シボ模様が薄く目視で判断しにくい。
【0067】
人工皮革シート基材中の織編物上部の不織布の層の厚みを、人工皮革の厚みに対し70%以上95%以下にすることが、不織布の表層部に目視で判断できるシボ状模様を発現する緩やかな凹凸を発現させるのである。これは不織布の層が厚いため、織編物の層で生じる強い収縮応力が内部で緩和され、不織布の層の厚みが70%未満時に発現していた微細な凹凸が合わさり、不織布の表層部に緩やかな凹凸表層部が複数発現するのである。
【0068】
また、天然シボ状の模様を発現する凹凸模様をより顕著にするためには、挿入絡合された織編物の収縮率を高め、特に染色工程での人工皮革シート基材の内部歪を大きくすることが有効である。すなわち、織編物の設計で乾熱120℃での面積収縮率を10%以上20%未満になるように織編物を設計することが特に好ましい態様である。織編物の乾熱収縮率が10%未満では、人工皮革シート基材内部の歪が少なく、表面凹凸が少ない品位となる。一方で、織編物の120℃での面積収縮率が20%より大きいと、人工皮革シート基材自体に歪みが生じてしまうことがある。
本発明の人工皮革は、高強力で形態安定性に優れるだけでなく、人工皮革の表層部がランダムな凹凸を有し、天然シボ状に酷似した外観であり、従来のスエード調人工皮革が用いられた用途である家具、椅子および車両内装材から衣料用途まで幅広く好適に用いることができる。
【実施例】
【0069】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
[測定方法および評価用加工方法]
(1)人工皮革の表層部の凸状部状高低差測定方法
人工皮革の厚み方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEMキーエンス社製VE−7800型)で100倍の倍率で観察し、観測される凸状部の高低差を、図1と2に示す最上点Aと最下点B間の距離A−Bとして測定し、ランダムで抽出した凸状部20点の平均値で評価した。最下点Bは凸状部において、両端部の傾斜の傾きが無くなる(0°)位置のうち、低い方を選択した。
【0071】
(2)人工皮革の表層部の凸状部状幅測定
人工皮革の厚み方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEMキーエンス社製VE−7800型)で100倍の倍率で観察し、観測される凸状部の幅Cを、図1と2の距離Cとして測定し、ランダムで抽出した凸状部20点の平均値で評価した。凸状部の幅Cは、前記の高低差評価で求めた凸状部の両端間の距離として評価した。
【0072】
(3)人工皮革内織物上部の不織布の層の割合測定方法
人工皮革の厚み方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEMキーエンス社製VE−7800型)で100倍の倍率で観察し、観測される人工皮革(立毛部を除く、織編物と不織布の合計の厚さ)の厚さDに対する距離Eの割合として評価し、ランダムで抽出した凸部20点の平均値で評価した。人工皮革の厚さDは、人工皮革の立毛部を除くシート基体の厚みを示し、Eは人工皮革内の織編物上部の不織布の層の厚みを示す。織物上層部の位置は観測される織物断面の最上部として評価した。
【0073】
(4)織編物の乾熱面積収縮率
織編物(10cm×10cm)を乾燥機で120℃の温度で20分間加熱した後の織編物の長さと幅の変化率から、織編物の乾熱面積収縮率を算出した。
【0074】
(5)人工皮革の表面品位評価
対象者10名の官能検査により評価する。8名以上が天然シボ状模様の凹凸(天然革表層の不規則な亀の甲羅のようなシワ状模様)を有すると判定したものを(二重丸)、5〜7名が判断したものを(一重丸)、3〜4名が判定したものを(三角)、2名以下が判断したものを(×)と各々区分した。二重丸と一重丸を合格とした。この判定では、従来のスエード調表面品位に近いものが低い判定となる。
【0075】
[実施例1]
<原綿>
島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、また海成分としてポリスチレンを用い、島数が36島の海島型複合用口金を用いて、島/海質量比率55/45で溶融紡糸した後、延伸し、捲縮し、その後、51mmの長さにカットして単繊維繊度3.1dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0076】
<不織布および織編物の絡合体(シート基体)>
上記の海島型複合繊維の原綿を用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成し、織物貼り合わせ後の急激な幅変化による織物しわを抑えるために100本/cmのパンチ本数でニードルパンチした。別に、固有粘度(IV)0.78のポリエチレンテレフタレートと固有粘度(IV)0.51のポリエチレンテレフタレートからなるサイドバイサイド型構造の単糸で、撚数1500T/mからなるマルチフィラメント(56dtex、12フィラメント)を緯糸に用い、固有粘度(IV)0.65の単成分からなる単糸で撚数2500T/mからなるマルチフィラメント(84dtex、72フィラメント)を経糸として用い、織密度が経69本/2.54cm、緯84本/2.54cmで、乾熱面積収縮率が11.7%である平織物を製織した。得られた平織物を、前記の積層ウェブの上下に積層した。
その後、2500本/cmのパンチ本数(密度)でニードルパンチを施し、目付740g/m、厚み3.1mmのシート基体を得た。
【0077】
<人工皮革>
上記で得られたシート基体を、96℃の温度の熱水で収縮させた後、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液を含浸し、温度110℃の熱風で10分間乾燥することにより、シート基体の重量に対するPVA重量が22重量%のシート基体を得た。このシート基体をトリクロロエチレン中に浸漬して海成分のポリスチレンを溶解除去し、極細繊維と平織物が絡合してなる脱海シートを得た。このようにして得られた極細繊維からなる不織布と平織物とからなる脱海シートを、固形分濃度12%に調整したポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液に浸漬し、次いでDMF濃度30%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥することにより、島成分からなる極細繊維と前記平織物の合計重量に対するポリウレタン重量が20重量%の人工皮革シート基材を得た。
【0078】
このようにして得られた人工皮革シート基材を厚さ方向に、該基材内部の不織布層を垂直に半裁し、半裁した不織布面をサンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーで100μm研削して、表層部に立毛面を形成させ、厚み0.75mmの人工皮革シート基材を得た。このようにして得られた人工皮革シート基材を、液流染色機を用いて、120℃の温度の条件下で、収縮処理と染色を同時に行った後に、乾燥機で乾燥を行い、人工皮革を得た。このようにして得られた人工皮革は、表層部のランダムで規則性のない凹凸を明確に判断することができ、かつスエード調人工皮革のライティングエフェクトを有し、天然シボ状に酷似した新規なランダム模様の表層を有するものであった。また、図1に示すとおり表層部の凸状部は幅581μm、高さ114μmと、幅が200μm以上2000μm以下で、高さが70μm以上500μm以下であり、上記凸状部は凹部で区切られ凸状部の上面は緩やかな凸状曲線を呈しており、そして人工皮革の断面において、織物上部の不織布の層の、人工皮革断面における割合は73%と70%以上であった。また製品強力も高く、形態安定性に優れていた。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例2]
<原綿>
島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、また海成分としてポリスチレンを用い、島数が16島の海島型複合用口金を用いて、島/海質量比率80/20で溶融紡糸した後、延伸し、捲縮し、その後、51mmの長さにカットして単繊維繊度4.2dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0080】
<不織布および織編物の絡合体(シート基体)>
上記の島型複合繊維の原綿を用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成し、織物貼り合わせ後の急激な幅変化による織物しわを抑えるために、100本/cmのパンチ本数でニードルパンチして積層ウェブを得た。別に、固有粘度(IV)0.65であるポリエチレンテレフタレートの単成分からなる単糸で撚数2500T/mからなるマルチフィラメント(84dtex、72フィラメント)を経、緯糸として、織密度が経96本/2.54cm、緯76本/2.54cmで、乾熱面積収縮率が10.2%である平織物を製織した。得られた平織物を、前記の積層ウェブの上下に積層した。その後、3000本/cmのパンチ本数でニードルパンチして目付710g/m、厚み3.0mmのシート基体を得た。
【0081】
<人工皮革>
上記で得られたシート基体に付与するPVA付量を7.5%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、半裁した不織布の表層部を100μm研削し、厚み1.10mmの人工皮革シート基材を染色し、人工皮革を得た。このようにして得られた人工皮革は、表層部のランダムで規則性のない凹凸を明確に判断することができ、かつスエード調人工皮革のライティングエフェクトを有し、天然シボ状に酷似した新規なランダム模様の表層を有するものであった。また表層凸部は幅258μm、高さ82μmと、幅が200μm以上2000μm以下で、高さが70μm以上500μm以下であり、上記凸状部は凹部で区切られ凸状部の上面は緩やかな凸状曲線を呈しており、そして人工皮革の断面において、織物上部の不織布の層の、人工皮革断面における割合は74%と70%以上であった。また製品強力も高く、形態安定性に優れていた。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例3]
<原綿>
島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、また海成分として5−ナトリウムイソフタル酸8モル%を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、島数が16島の海島型複合用口金を用いて、島/海質量比率60/40で溶融紡糸した後、延伸し、捲縮し、その後、51mmの長さにカットして単繊維繊度5.0dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0083】
<不織布および織編物の絡合体(シート基体)>
上記の原綿を用いたこと以外は、実施例2と同様に加工を実施し、目付834g/m、厚み3.5mmのシート基体を得た。
【0084】
<人工皮革>
水分散型ポリウレタン液である非イオン系強制乳化型ポリウレタンエマルジョン(ポリカーボネート系)に、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムをポリウレタン固形分対比4質量%添加し、ポリウレタン液濃度が10質量%となるように水分散型ポリウレタン液を調整した。上記のようにして得られたシート基体に、その水分散型ポリウレタン液を付与し、乾燥温度120℃の温度で5分間熱風乾燥して、島成分からなる前記極細繊維と前記織物の合計重量に対するポリウレタン重量が30重量%の人工皮革シート基材を得た。
【0085】
上記のようにして得られたポリウレタン付シート基材を、90℃の温度に加熱した濃度40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理し、海島型複合繊維から海成分を溶解除去した。その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁機を用いて厚み方向に垂直に半裁し、半裁した不織布の半裁面をJIS#320番のサンドペーパーを用いて3段研削し、表層部を150μm研削して、立毛を形成させて人工皮革用シート基材を作製した。このようにして得られた厚み1.05mmの人工皮革シート基材を、液流染色機を用いて、120℃の温度の条件下で、収縮処理と染色を同時に行った後に、乾燥機で乾燥し人工皮革を得た。
【0086】
このようにして得られた人工皮革は、表層部のランダムで規則性のない凹凸を明確に判断することができ、かつスエード調人工皮革のライティングエフェクトを有し、天然シボ状に酷似した新規なランダム模様の表層を有するものであった。また、表層部の凸状部は、幅1730μm、高さ359μmと、幅が200μm以上2000μm以下で、高さが70μm以上500μm以下であり、上記凸状部は凹部で区切られ凸状部の上面は緩やかな凸状曲線を呈しており、そして人工皮革の断面において、織物上層部の不織布層の、人工皮革断面における割合は91%と70%以上であった。また製品強力も高く、形態安定性に優れていた。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例1]
<原綿>
実施例1と同様にして、単繊維繊度が3.1dtexで、繊維長が51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0088】
<不織布および織編物の絡合体(シート基体)>
実施例1と同じ織物を用いて、同様にしてシート基体を得た。
【0089】
<人工皮革用基体>
上記のシート基体を用いて、バフ工程における人工皮革シート基材の表層研削量を330μmにし、厚み0.55mmの人工皮革シート基材に変更したこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革用を得た。このようにして得られた人工皮革は、従来のスエード調人工皮革の均一な表面であった。また図2に示すとおり、表層部の凸状部は、幅282μmで高さ59μmと、高低差70μm未満であり、人工皮革の断面において、織物上部の不織布の層の人工皮革断面における割合は60%と70%未満であった。結果を表1に示す。
【0090】
[比較例2]
<原綿>
実施例2と同様にして、単繊維繊度が4.2dtexで、繊維長が51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0091】
<不織布および織物の絡合体(シート基体)>
実施例2と同じ織物を用いて、実施例2と同様にしてシート基体を得た。
【0092】
<人工皮革用基体>
上記のシート基体を用いて、バフ工程における、人工皮革シート基材の表層研削量を300μmにし、厚み0.91mmの人工皮革シート基材に変更したこと以外は、実施例2と同様にして人工皮革用を得た。このようにして得られた人工皮革は、従来のスエード調人工皮革の凹凸感の無い均一な表面であった。
また、表層部凸状部は、幅が182μmで高さが60μmと、幅200μm未満で高低差70μm未満であり、人工皮革の断面において、織物上部の不織布の層の人工皮革断面における割合は64%と70%未満であった。結果を表1に示す。
【0093】
[比較例3]
<原綿>
実施例1と同様にして、単繊維繊度が3.1dtexで繊維長が51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
【0094】
<不織布および織物の絡合体(シート基体)>
織物を、固有粘度(IV)0.65であるポリエチレンテレフタレートの単成分からなる単糸で撚数2000T/mからなるマルチフィラメント(110dtex、288フィラメント)を経糸として用い、織密度が経80本/2.54cm、緯66本/2.54cmで、乾熱面積収縮率が8.8%の平織物を用いること以外は、実施例1と同様にして、目付730g/m、厚み3.0mmシート基体を得た。
【0095】
<人工皮革用基体>
上記のシート基体を用いて、バフ工程における、人工皮革シート基材の表層研削量を250μmにし、厚み0.89mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。このようにして得られた人工皮革は、従来のスエード調人工皮革の凹凸感の無い均一な表面であった。
また、表層部の凸状部は、幅が329μmで高さが43μmと、高低差70μm未満であり、人工皮革の断面において、織物上部の不織布の層の人工皮革断面における割合は55%で70%未満であった。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【符号の説明】
【0097】
A:最上点
B:最下点
C:凸状部の幅
D:人工皮革の立毛部を除く厚さ
E:不織布の層の厚み
1:織編物
2:不織布
3:立毛部
4:凸状部
5:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維からなる不織布と織編物が絡合し一体化されてなる不織布表面に立毛を有するシート基体に、高分子弾性体がバインダーとして付与されてなる人工皮革において、前記不織布の立毛側表層部が、凹部で区切られた複数の凸状部で形成されており、前記凸状部の高低差が70μm以上500μm以下で、幅が200μm以上2000μm以下であることを特徴とする人工皮革。
【請求項2】
複数の凸状部が凹部で区切られて独立しており、それらの凸状部の形状がランダム不規則でいずれも異なる形状で模様を形成しており、前記凸状部の上面が緩やかな凸状曲面を有することを特徴とする請求項1記載の人工皮革。
【請求項3】
人工皮革断面において、織編物と絡合している不織布の厚みが、人工皮革の全体の厚みに対し70%以上95%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の人工皮革。
【請求項4】
極細繊維からなる不織布と織編物が絡合し一体化されてなる不織布表面に立毛を有するシート基体に、高分子弾性体がバインダーとして付与されてなる人工皮革の製造方法において、前記織編物として、120℃の温度における面積収縮率が10%以上20%以下である織編物を用い、かつ、前記織編物と絡合している不織布の厚みを人工皮革の全体の厚みに対し70%以上95%以下に調整し、これを熱処理することにより前記織編物を収縮せしめ、前記不織布の立毛側表層部に、高低差が70μm以上500μm以下で幅が200μm以上2000μm以下の大きさで、凹部で区切られた複数の凸状部を形成することを特徴とする人工皮革の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136801(P2012−136801A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289959(P2010−289959)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】