説明

新規次亜塩素酸組成物、及びその製造法

【課題】取り扱いが容易な弱酸性〜弱アルカリ性領域で、塩素ガスの発生や殺菌力の低下がなく、長期保存が可能な次亜塩素酸組成物及びその製造方法の提供。
【解決手段】次亜塩素酸塩水溶液に塩素酸塩及び塩化物を添加することにより、弱酸性〜弱アルカリ性領域で有効塩素濃度を維持したまま保存が可能な次亜塩素酸組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸水溶液は酸化水、殺菌水等と呼ばれ、殺菌効果を有する水溶液であり、医療分野や食品分野において使用されている。また、次亜塩素酸水溶液の製造方法としては、次亜塩素酸ナトリウム等の水溶液に無機酸等を添加する方法(特許文献1)や、塩化ナトリウム水溶液等を電気分解する方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
また、強アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈し、さらにpH調整用の希塩酸や塩化ナトリウムを添加することにより、次亜塩素酸ナトリウム濃度(w/v%)を保つこと(特許文献3)が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-168774
【特許文献2】特表2006-041001
【特許文献3】特表2004-537571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の次亜塩素酸水溶液は、弱酸性〜弱アルカリ性領域で保存している間に塩素ガスの発生や殺菌力の低下がみられるため、用時調製、あるいは製造後すぐに使用することが必要であるという問題点があった。さらに、次亜塩素酸を含む水溶液として市場に流通している次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、強アルカリ性のため腐食性があり、取り扱いに非常に注意を要するという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、取り扱いが容易な弱酸性〜弱アルカリ性領域で、塩素ガスの発生や殺菌力の低下がなく、長期保存が可能な次亜塩素酸組成物、その製造方法及び前記製造方法により得られる次亜塩素酸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、次亜塩素酸組成物の次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を調整することにより、塩素ガスの発生や殺菌力の低下を抑制できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が2:(1〜8):(2〜12)である次亜塩素酸組成物を提供する。また、当該モル比は、2:(4〜8):(4〜8)であることがより好ましい。なお、当該次亜塩素酸組成物においては、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとの当該モル比は、製品組成を意味する。
これらの組成物によれば、取り扱いが容易な弱酸性〜弱アルカリ性領域で、有効塩素濃度を維持することができ、次亜塩素酸組成物の塩素ガス発生や殺菌力低下を抑制することができる。
【0009】
次に、本発明は、次亜塩素酸組成物の製造方法であって、(a)次亜塩素酸塩水溶液をpH5〜9に調整する工程と、(b)塩素酸塩及び塩化物を添加し、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を2:(1〜8):(2〜12)とする工程と、を含む方法を提供する。また、当該モル比は、2:(4〜8):(4〜8)であることがより好ましい。なお、当該製造方法においては、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとの当該モル比は、原料組成を意味する。
【0010】
そして、前記工程(a)における次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウムであることが好ましい。また、前記工程(a)において、次亜塩素酸塩水溶液をpH5〜9に調整する酸は、塩酸であることが好ましい。
また、前記工程(b)における塩素酸塩は、塩素酸ナトリウムであることが好ましい。また、前記工程(b)における塩化物は、塩化ナトリウムであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、前記製造方法により得られる次亜塩素酸組成物を提供する。なお、前記製造方法により得られる次亜塩素酸組成物においては、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比は、原料組成を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の次亜塩素酸組成物は、保存している間も有効塩素濃度を維持するため、殺菌力の低下が抑制されるだけでなく、塩素ガスの発生も抑制される。さらに、当該次亜塩素酸組成物は弱酸性〜弱アルカリ性であり、皮膚や粘膜における刺激が少なく取り扱いが容易であるため、殺菌・消毒等の目的に有利に使用することができる。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、安価で入手しやすい塩素酸塩及び塩化物を次亜塩素酸水溶液に添加することにより、用時調製することなく殺菌効果を有し、皮膚に対する刺激が少なく取り扱いが容易で、長期保存が可能な次亜塩素酸組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】次亜塩素酸組成物の保存安定性(蛍光灯照射下、40℃、pH7)
【図2】次亜塩素酸組成物の保存安定性(蛍光灯照射下、40℃、pH5)
【図3】次亜塩素酸組成物の保存安定性(蛍光灯照射下、40℃、pH9)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の次亜塩素酸組成物は、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が2:(1〜8):(2〜12)、好ましくは2:(4〜8):(4〜8)であるが、その形態は特に限定するものではなく、必要により、その他の着色剤、安定剤、界面活性剤、有機溶剤等を添加してもよい。
【0017】
なお、本発明の次亜塩素酸組成物における次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、塩化物イオンのモル濃度は、溶液中でイオンに解離しているか否かを問わず、それぞれ次亜塩素酸組成物に含まれる総次亜塩素酸塩のモル濃度、総塩素酸塩のモル濃度、総塩化物のモル濃度を意味する。
【0018】
<工程(a)について>
本発明の次亜塩素酸組成物の製造方法において、工程(a)に用いられる次亜塩素酸塩水溶液は、次亜塩素酸を含む水溶液であれば特に限定されない。例えば、一般的に用いられている次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩の水溶液が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、水に混合する場合の次亜塩素酸塩は、固体で使用しても、水溶液で使用してもよい。さらに、塩化ナトリウム水溶液や海水を電気分解することによって得られる次亜塩素酸水溶液等を用いることもでき、次亜塩素酸塩の水溶液と組み合わせてもよい。本発明においては、好ましくは次亜塩素酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液や海水を電気分解した次亜塩素酸水溶液が挙げられる。
【0019】
本発明の次亜塩素酸組成物の製造方法において、工程(a)に用いられる酸は、前記次亜塩素酸塩水溶液をpH5〜9に調整できるものであれば特に限定されず、固体で使用しても、水溶液で使用しても、気体で使用してもよい。例えば、一般的に用いられている塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸の他、酢酸、ギ酸、等の有機酸、炭酸ガス等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。本発明においては、好ましくは塩酸が挙げられる。
【0020】
<次亜塩素酸イオンの定量について>
次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの等吸収点(254 nm)における吸光光度分析にて、工程(a)でpH5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液に含まれる次亜塩素酸イオンのモル濃度を定量する。かかる定量は、溶液中でイオンに解離しているか否かを問わず、当該次亜塩素酸塩水溶液に含まれる総次亜塩素酸塩のモル濃度が定量できれば、分析方法は特に限定されない。
【0021】
<塩素酸イオンの定量について>
イオンクロマトグラフィーにて、工程(a)でpH5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液に含まれる塩素酸イオンのモル濃度を定量する。かかる定量は、溶液中でイオンに解離しているか否かを問わず、当該次亜塩素酸塩水溶液に含まれる総塩素酸塩のモル濃度が定量できれば、分析方法は特に限定されない。
例えば、一般的に用いられている炭酸ナトリウム水溶液や炭酸水素ナトリウム水溶液等を溶離液として、市販の陰イオンカラムを用いることにより、当該次亜塩素酸塩水溶液に含まれる塩素酸イオンのモル濃度を算出することができる。
【0022】
<塩化物イオンの定量について>
イオンクロマトグラフィーにて、工程(a)でpH5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液に含まれる塩化物イオンのモル濃度を定量する。かかる定量は、溶液中でイオンに解離しているか否かを問わず、当該次亜塩素酸塩水溶液に含まれる総塩化物のモル濃度が定量できれば、分析方法は特に限定されない。
例えば、一般的に用いられている炭酸ナトリウム水溶液や炭酸水素ナトリウム水溶液等を溶離液として、市販の陰イオンカラムを用いることにより、当該次亜塩素酸塩水溶液に含まれる塩化物イオンのモル濃度を算出することができる。
【0023】
<工程(b)について>
本発明の次亜塩素酸組成物の製造方法において、工程(b)に用いられる塩素酸塩は、塩素酸イオンのモル比を調整できるものであれば特に限定されず、固体で使用しても、水溶液で使用してもよい。例えば、一般的に用いられている塩素酸カリウム、塩素酸バリウム、塩素酸ナトリウム等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。本発明においては、好ましくは塩素酸ナトリウムが挙げられる。
本発明の次亜塩素酸組成物の製造方法において、工程(b)に用いられる塩化物は、塩化物イオンのモル比を調整できるものであれば特に限定されず、固体で使用しても、水溶液で使用してもよい。例えば、一般的に用いられている塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。本発明においては、好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
1.次亜塩素酸イオンの分析
次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの等吸収点(254 nm)における吸光光度分析(日立分光光度計U-3000)にて、pH5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液に含まれる次亜塩素酸イオンのモル濃度を定量した。
吸光光度分析においては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて標準液を調製し、次亜塩素酸イオン濃度の検量線を作成した。
【0026】
当該標準液の次亜塩素酸イオン濃度は以下の方法によって算出した。
まず、蛍光X線元素分析(XRF、リガク社製EDXL300)にて、次亜塩素酸ナトリウム標準液に含まれる総塩素濃度を定量した。XRFにおいては、塩化ナトリウムを用いて標準液を調製し、総塩素濃度の検量線を作成した。
次いで、当該標準液の原料である、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩化ナトリウム、塩素酸イオン及び亜塩素酸イオンの分析値を用いて、それぞれを塩素濃度に換算した上で、XRFによって得られた総塩素濃度から差し引いた。
そして、得られた塩素濃度を次亜塩素酸イオン濃度に換算することにより、次亜塩素酸ナトリウム標準液に含まれる次亜塩素酸イオンのモル濃度を算出した。
【0027】
2.塩素酸イオンの分析
イオンクロマトグラフィーにて、pH 5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液に含まれる塩素酸イオンのモル濃度を定量した。
イオンクロマトグラフィーにおいては、塩素酸ナトリウムを用いて標準液を調製し、塩素酸イオン濃度の検量線を作成した。
<イオンクロマトグラフィー測定条件>
・システム:日本ダイオネクス社製DX-100(検出:電気伝導度)
・カラム:日本ダイオネクス社製IonPac AS4A-SC(4×250 mm)
・溶離液:0.18 mol/L炭酸ナトリウム水溶液
【0028】
3.塩化物イオンの分析
前記塩素酸イオンの分析と同様に、イオンクロマトグラフィーにて、pH5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液に含まれる塩化物イオンのモル濃度を定量した。
イオンクロマトグラフィーにおいては、塩化ナトリウムを用いて標準液を調製し、塩化物イオン濃度の検量線を作成した。
【0029】
なお、イオンクロマトグラフィーにおける塩化物イオンのピークと次亜塩素酸イオンのピークが重なる場合には、以下の方法によって塩化物イオンのモル濃度を算出した。
まず、塩化物イオン濃度が既知の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(「1.次亜塩素酸イオンの分析」で用いた次亜塩素酸ナトリウム標準液)を用いて、イオンクロマトグラフィーにて「次亜塩素酸イオン及び塩化物イオンの和」のエリア面積(A)を測定する。
次いで、当該標準液に含まれる塩化物イオン濃度が既知であることから、イオンクロマトグラフィーにおける塩化物イオン濃度の検量線を用いて、塩化物イオンのエリア面積(B)を算出する。これらにより、当該標準液のイオンクロマトグラフィーにおける「次亜塩素酸イオンと塩化物イオンのエリア面積比(C=(A−B)/B)」を算出する。そして、イオンクロマトグラフィーにおける塩化物イオン濃度の検量線に、当該面積比(C)を掛けることで、イオンクロマトグラフィーにおける次亜塩素酸イオン濃度の検量線が得られる。
ここで、塩化物イオン濃度が未知である、pH5〜9に調整した次亜塩素酸塩水溶液について、イオンクロマトグラフィーにて「次亜塩素酸イオン及び塩化物イオンの和」のエリア面積(D)を測定する。当該水溶液については、「1.次亜塩素酸イオンの分析」の吸光光度分析(254 nm)により次亜塩素酸イオンのモル濃度が定量できるため、イオンクロマトグラフィーにおける次亜塩素酸イオン濃度の検量線を用いて、次亜塩素酸イオンのエリア面積(E)を算出する。これにより、当該水溶液のイオンクロマトグラフィーにおける塩化物イオンのみのエリア面積(F=D−E)が算出されるため、イオンクロマトグラフィーにおける塩化物イオン濃度の検量線を用いて、当該水溶液に含まれる塩化物イオンのモル濃度を求めることができる。
【0030】
4.有効塩素濃度の分析
水質計(柴田化学社製ハンディ水質計アクアブAQ-102)を用いて、有効塩素濃度を測定した。
【実施例1】
【0031】
有効塩素濃度が12.7%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用い、その有効塩素濃度が200 ppmになるよう水で希釈した後、1M塩酸を用いてpH7に調整した。
吸光光度分析(254 nm)にて、pH7に調整した前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液の次亜塩素酸イオンのモル濃度を定量した。また、イオンクロマトグラフィーにて、pH7に調整した前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩素酸イオンのモル濃度、塩化物イオンのモル濃度をそれぞれ定量した。
次いで、塩化ナトリウム水溶液(1000 ppm)、塩素酸ナトリウム水溶液(1000 ppm)を用いて、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が表1となるよう、それぞれの溶液(溶液1〜7)を調整した。
【0032】
【表1】

【実施例2】
【0033】
実施例1と同様に、1M塩酸を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH5に調整した後、次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル濃度をそれぞれ定量した。
次いで、実施例1と同様に、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が表2となるよう、それぞれの溶液(溶液9〜14)を調整した。
【0034】
【表2】

【実施例3】
【0035】
実施例1と同様に、1M塩酸を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH9に調整した後、次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル濃度をそれぞれ定量した。
次いで、実施例1と同様に、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が表3となるよう、溶液16及び溶液17を調整した。
【0036】
【表3】

【比較例1】
【0037】
実施例1と同様に、1M塩酸を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH7に調整した後、次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル濃度をそれぞれ定量した。
次いで、実施例1と同様に、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が表4となるよう、溶液19及び溶液20を調整した。
【0038】
【表4】

【比較例2】
【0039】
実施例2と同様に、1M塩酸を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH5に調整した後、次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル濃度をそれぞれ定量した。
次いで、実施例2と同様に、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が表5となるよう、溶液21及び溶液22を調整した。
【0040】
【表5】

【比較例3】
【0041】
実施例3と同様に、1M塩酸を用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液をpH9に調整した後、次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル濃度をそれぞれ定量した。
次いで、実施例3と同様に、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が表6となるよう、溶液23及び溶液24を調整した。
【0042】
【表6】

【試験例1】
【0043】
実施例1で得られた溶液1〜8、及び比較例1で得られた溶液19〜20について、蛍光灯照射(約1200 lux)下、40℃で安定性試験に供した。有効塩素濃度は水質計で測定し、初日(経過0日)の有効塩素濃度の値を100とした有効塩素濃度残存率(%)を算出した。
結果を図1に示す。塩素酸ナトリウム及び塩化ナトリウムを添加して次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル比を、本発明に記載の特定の範囲に調整した実施例(溶液1〜7)は、未添加例(溶液8:コントロール)に比べ、殺菌力の指標となる有効塩素濃度残存率が高かった。
一方、比較例(溶液19〜20)は、未添加例(溶液8:コントロール)に比べて同程度、または低い有効塩素濃度残存率であった。
この結果から、pH7で次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を本発明に記載の特定の範囲とすることにより、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの分解が抑制された。
【試験例2】
【0044】
実施例2で得られた溶液9〜15、及び比較例2で得られた溶液21〜22について、蛍光灯照射(約1200 lux)下、40℃で安定性試験に供した。有効塩素濃度は水質計で測定し、初日(経過0日)の有効塩素濃度の値を100とした有効塩素濃度残存率(%)を算出した。
結果を図2に示す。塩素酸ナトリウム及び塩化ナトリウムを添加して次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル比を、本発明に記載の特定の範囲に調整した実施例(溶液9〜14)は、未添加例(溶液15:コントロール)に比べ、殺菌力の指標となる有効塩素濃度残存率が高かった。
一方、比較例(溶液21〜22)は、未添加例(溶液15:コントロール)に比べても低い有効塩素濃度残存率であった。
この結果から、pH5でも次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を本発明に記載の特定の範囲とすることにより、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの分解が抑制された。
【試験例3】
【0045】
実施例3で得られた溶液16〜18、及び比較例3で得られた溶液23〜24について、蛍光灯照射(約1200 lux)下、40℃で安定性試験に供した。有効塩素濃度は水質計で測定し、初日(経過0日)の有効塩素濃度の値を100とした有効塩素濃度残存率(%)を算出した。
結果を図3に示す。塩素酸ナトリウム及び塩化ナトリウムを添加して次亜塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオンのモル比を、本発明に記載の特定の範囲に調整した実施例(溶液16〜17)は、未添加例(溶液18:コントロール)に比べ、殺菌力の指標となる有効塩素濃度残存率が高かった。
一方、比較例(溶液23〜24)は、未添加例(溶液18:コントロール)と同程度の有効塩素濃度残存率であった。
この結果から、pH9でも次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を本発明に記載の特定の範囲とすることにより、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの分解が抑制された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が2:(1〜8):(2〜12)である次亜塩素酸組成物。
【請求項2】
次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比が2:(4〜8):(4〜8)である請求項1記載の次亜塩素酸組成物。
【請求項3】
次亜塩素酸組成物の製造方法であって、
(a)次亜塩素酸塩水溶液をpH5〜9に調整する工程と、
(b)塩素酸塩及び塩化物を添加し、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を2:(1〜8):(2〜12)とする工程と、を含む方法。
【請求項4】
次亜塩素酸組成物の製造方法であって、
(a)次亜塩素酸塩水溶液をpH5〜9に調整する工程と、
(b)塩素酸塩及び塩化物を添加し、次亜塩素酸イオンと塩素酸イオンと塩化物イオンとのモル比を2:(4〜8):(4〜8)とする工程と、を含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記次亜塩素酸塩が次亜塩素酸ナトリウムである、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
塩酸によりpH5〜9に調整する、請求項3〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記塩素酸塩が塩素酸ナトリウムである、請求項3〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記塩化物が塩化ナトリウムである、請求項3〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか一項に記載の方法により得られる次亜塩素酸組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140375(P2012−140375A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294375(P2010−294375)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】