説明

新規環状デプシペプチド抗生物質

【課題】
強力な抗真菌活性を有し、動物・植物に対する細胞毒性が低く、しかも、工業的大量生産の容易な新規抗生物質、及びこれを有効成分とする農薬及び抗真菌薬を提供する。
【解決手段】
粘液細菌群に属する細菌を培養し、この培養物より抽出して得られる下記一般式(I)で表されることを特徴とする化合物又はその塩。
【化1】


(式Iにおいて、Rはハロゲン原子を示し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、及びアセチル基からなる群より選択される何れかを示し、Meはメチル基を示す。)
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規化合物、それらを生産する微生物とその培養物及びそれらを生産する微生物によるそれらの製法、並びにその用途に関する。更に詳しくは、本発明は新規抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B、SMH27−4C及びこれを有効成分とする抗真菌薬に係わり、特に海岸性粘液細菌に属する微生物を培養した培養物より抽出した新規抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B、SMH27−4C及びこの化合物を有効成分とする農薬及び抗真菌薬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カンジダ属、アスペルギルス属、トリコフィトン属等の真菌類を病原体とする真菌症に対しては様々な抗真菌薬が用いられている。このような抗真菌薬としては現在アンホテリシン、ミコナゾ−ル、グリセオフルビン等が知られている。
【0003】
しかし、既存の抗真菌薬は薬剤耐性の問題もあり、各種糸状菌に対して効果を示す抗真菌薬の開発が求められている。農薬の分野においても真菌症は経済的にも重要な病害であり上記の耐性の問題に加えて、毒性が低く環境中での残存性の低い新しい農薬が求められている。また、従来の抗真菌薬は抗真菌活性を有するものの、動物細胞等の真核細胞一般に対する細胞毒性が強い。従って、使用に際して十分な量を投与することが出来ず、必ずしも十分な治療効果を上げることが出来ない。このため強力な抗真菌活性を有するとともに、他の動物細胞等に対する細胞毒性の低い物質が要望されている。
【0004】
なお、粘液細菌が産生する抗生物質については以下のような報告があるが(例えば、非特許文献1ないし3参照)、これらの抗生物質は本発明の化合物とは基本骨格が異なるものである。またこれら文献に記載の化合物の生産菌は陸生環境(土壌や腐朽植物など)に生息する粘液細菌か海洋環境に生息する粘液細菌(すなわちその生育と化合物生産に海水相当の食塩を要求する;非特許文献4参照)である。
【0005】
【非特許文献1】H.Reichenbach & G.Hoefle, In: Dworkin, M. & Kaiser, D. (Eds.),Myxobacteria II. American Society for Microbiology, Washington, DC, pp.347-397 (1993).
【非特許文献2】H.Reichenbach & G.Hoefle, In: Grabley, S. & Thiericke, R. (Eds.). Drug Discovery from Nature. Springer-Verlag, Berlin-Heidelberg. pp.149-179 (1999).
【非特許文献3】K.Gerth et. al., Journal of Biotechnology, Vol.106(2-3),233-253 (2003)
【非特許文献4】R.Fudou et. al., Journal of the Antibiotics., vol.54(2), 149-152 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した点に鑑みてなされたものであり、強力な抗真菌活性を有し、動物・植物に対する細胞毒性が低く、しかも、工業的大量生産の容易な新規抗生物質、及びこれを有効成分とする農薬及び抗真菌薬を提供することを目的とする。しかしながら本発明によって見いだされた化合物は新規化合物であるため、上記非特許文献は本発明の技術的背景となる一般的技術水準を示すものに過ぎず、本発明が解決しようとする課題と直接関連するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を続けた結果、海岸土壌環境から新たにエニグロミキサ属に属する細菌を分離培養し、この培養物より抽出される新規物質が強い抗真菌作用を有することを発見し本発明を完成した。即ち本発明は、粘液細菌群に属する細菌を培養し、この培養物より抽出して得られる下記一般式(I)で表されることを特徴とする化合物又はその塩である。
【0008】
【化1】


(式Iにおいて、Rはハロゲン原子を示し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、及びアセチル基からなる群より選択される何れかを示し、Meはメチル基を示す。)
【0009】
好ましい実施形態において、上記一般式(I)におけるRとRがそれぞれ、臭素原子(Br)と水素原子(H)、塩素原子(Cl)と水素原子(H)、又はヨウ素原子(I)と水素原子(H)を示すそれぞれの新規抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B、又はSMH27−4Cが提供される。これらの新規化合物は塩の形態であってもよい。
【0010】
異なる視点において、本発明は上記化合物又はその薬理的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする農薬又は抗真菌薬である。
【0011】
また別の視点において、本発明の化合物の製造方法は、海岸付近の土壌から分離されうるエニグロミキサ属(Enhygromyxa属)に属する粘液細菌をハロゲン化合物を添加した培養液中で培養し、前記培養物より抽出することを特徴とする。ハロゲン化合物は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム及びヨウ化カルシウム等が含まれるがこれらに限定されない。
【発明の効果】
【0012】
新規抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B及びSMH27−4Cを含む本発明の化合物は、各種真菌類、例えば、フィトフトーラ、アブシダ、リゾプス及びトリコフィトン等の糸状菌類やカンジダなどの酵母類のいずれに対しても抗菌活性を有する。従って、本発明の化合物は農薬及び抗真菌薬として利用することが可能である。即ち本発明の化合物を有効成分として含有する農薬並びに真菌症治療薬として有用である。
【0013】
新規抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B及びSMH27−4Cを含む本発明の化合物は、農薬として使用することができる。また経口、非経口で投与する真菌症治療薬として使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
このような本発明に係わる新規抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B及びSMH27−4Cを含む本発明の化合物を生産する生産菌としては、例えばエニグロミキサ属に属し抗生物質SMH27−4A、SMH27−4B及びSMH27−4Cを生産する能力を有する微生物が使用され、例えば、エニグロミキサ・エスピー(Enhygromyxa sp.)AJ-110262(FERM AP−20376)が挙げられる。本菌は子実体を形成する滑走細菌である粘液細菌群に属しており、従来から知られている土壌由来の粘液細菌と異なり海岸環境から分離したもので生育に1%程度の濃度の塩類を要求する新規な微生物である。なお、上記AJ-110262株は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に受領番号がFERM AP−20376(寄託日は平成17年1月26日)として寄託されている。
【0015】
本菌の分類学的性質について以下に記す。
(形態的特徴)
酵母−1/5人工海水培地(Vy2−1/5ASW培地)上で拡散性の淡黄色もしくは灰白色のコロニーを形成する。また平板培地の寒天質を一部浸食しながら滑走運動により周囲に広がる性質のため、寒天表面が浅く陥没して円形のクレーター状をなす。栄養細胞は、かん状で長さ1.5−8.0μm、幅は0.5−0.8μmである。粘液細菌の主な特徴の一つである子実体形成について、本菌に関してはVy2−1/5ASW寒天培地で2〜4週間の培養を行った限りにおいて、明瞭な子実体は認められなかった。
【0016】
(系統分類学的性質)
AJ-110262株の系統分類学上の位置を調べるために、これらの16SrRNA遺伝子の塩基配列を調べ、それらの塩基配列と最も近い菌群の16SrRNA遺伝子の塩基配列とともに分子系統樹(molecular phylogenetic tree)を作成した(図1参照)。その結果、AJ-110262株は、粘液細菌目(Myxobacterales)、ソランジニア亜目(suborder Soranginiae)に属する微生物である可能性が示唆された。最も近縁な属は海洋性粘液細菌エニグロミキサ・サリナ(Enhygromyxa salina)であるが、本種とは塩基の相同性が93%と低くいずれの既知種には帰属されなかった。そこで当該菌株をエニグロミキサ・スピー(Enhygromyxa sp.)と同定した。
【0017】
なお、分子系統樹にもとづいて生物や遺伝子の進化を研究する手法は、分子系統学(molecular taxonomy)として確立されている(例えば、木村資生編分子進化学入門(培風館)第164〜184頁、「7分子系統樹の作り方とその評価」参照)。16SrRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹は、対象の微生物の16SrRNA遺伝子の塩基配列を、菌学的性質から同微生物と同種又は類縁と推定される公知の微生物の16SrRNA遺伝子の塩基配列とともに、多重アラインメント及び進化距離の計算を行い、得られた値に基づいて系統樹を作成することにより、得ることができる。分子系統樹の作成に用いる公知の微生物の16SrRNA遺伝子の塩基配列は、既存のデータベースの相同性検索によっても、取得することができる。ここで、進化距離とは、ある遺伝子間の座位(配列の長さ)あたりの変異の総数をいう。多重アラインメント及び進化距離は、例えば、市販のソフトウエア(CLUSTALW;プログラム集「Phylogeny Programs」(http://evolution.genetics.washington.edu/phylip/software.htmlから入手可能)に含まれている。Thompson, D. J., et al., Nucleic Acids Res., 22, 4673-4680 (1994)参照)を用いて計算することができる。また、系統樹も、一般に入手可能なソフトウエア(TreeView(Tree drawing software for Apple Machintosh: by Roderic D., Page 1995, Institute of Biomedical and Life sciences, University of Glasgow, UK)、上記Phylogeny Programsに含まれている)で作成することができる。具体的には、CLUSTALWで計算された結果をPHLYPフォーマットデータで出力し、これをTreeViewで読み込ませればよい。PHLYP(Felsenstein J. (1995) Phylogenetic inference package, version 3.5.7., Department of Genetics, University of Washington, Seatle WA, USA)も、上記Phylogeny Programsに含まれている。
【0018】
(生育特性)
本菌は生育に食塩が必要であり、その至適濃度は0.5−1.0%であった。このように低濃度の食塩を要求する性質は従来知られている陸棲あるいは海洋性の粘液細菌には見られない独特の性質である。また本菌は、食塩(ナトリウム)以外にもカルシウムやマグネシウムといった無機イオン類を必須生育因子とする点がその主たる生理的特徴として特筆される。
【0019】
このような新規抗生物質SMH27−4類の生産菌は一般的な微生物の培養方法を用いて培養することが可能である。培養に用いられる培地としては、新規抗生物質SMH27−4類生産菌が利用できる栄養源を含有するものが利用できる。例えば炭素源及び窒素源としてカゼイン、グルテン、大豆粉、酵母エキスなどの各種タンパク質やアミノ酸混合物などが適している。また発酵生産に用いた酵母や細菌の菌体あるいはグルコ−ス、デンプン、デキストリンなどの糖質類や尿素、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機窒素源も利用可能である。また培地は必要に応じて、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を含有することが可能である。ただしいずれの培地にも0.5ないし1%(重量基準)程度の食塩等が必須である。通常は人工海水(例えばロート製、東京)を所定量の1/5倍量程度に添加して用いると良い。培地のpHは6〜9で培養することができるが、特に7.0〜8.5で培養することが好ましい。また生産物の収量を上げる目的で培地中に各種の吸着樹脂を添加して培養することも可能である。
【0020】
生産菌は10℃〜38℃で培養することができるが、特に25℃〜30℃で培養することが最も望ましい。培養時間は通常5日〜14日であるが、培養条件により適宜変更することが可能である。
【0021】
培養により生成される新規抗生物質SMH27−4類は、主として培養物中に蓄積される。この生産菌の培養液から新規抗生物質SMH27−4類を得るためには微生物の代謝産物を採集するのに通常用いられる方法を用いることが可能である。例えば新規抗生物質SMH27−4類と培養物中に含まれる他の物質との溶解度を利用する方法、イオン結合力との差を利用する方法、吸着親和力の差を利用する方法、分子量の差を利用する方法等を単独であるいは適宜組み合わせて、または反復して使用することができる。具体的には例えば新規抗生物質SMH27−4類生産菌の培養物及び菌体の抽出液をゲルろ過クロマトグラフィ−、吸着クロマトグラフィ−、液体クロマトグラフィ−等を組み合わせて用いて精製することにより新規抗生物質SMH27−4類及びその他の活性成分を含む画分が得られる。この画分を減圧濃縮して得られる固形物をさらに高速液体クロマトグラフィ−を用いて展開して精製することにより、新規抗生物質SMH27−4類を得ることができる。
【0022】
このようにして得られた新規抗生物質SMH27−4類は以下のような理化学的性質を有する。
(SMH27−4A)
White powder.
IR (KBr): 3448, 2936, 1697, 1684, 1636, 1508, 1256, 1223, 1119 cm-1
UV (MeOH): λmax 203 (ε 49000), 276 (ε 11000) nm.
[α]24D: + 70 (c 0.17, MeOH)
MS (ESI-TOF) (rel. int.): m/z 684.2 and 686.2 (49:60) [M+H]+, 706.2 and 708.2 (96:100) [M+Na]+
HRMS (ESI, positive): found m/z 684.2278 [M+H]+,
calcd for C34H43N3O779Br 684.2279.
1H-NMR (CDCl3,600 MHz): δ 7.31 (m, 1H), 7.28 (d, J=1.2 Hz, 1H), 7.19 (m, 5H), 7.06 (s, 1H), 6.96 (dd, J=1.8,8.4 Hz, 1H), 6.88 (d, J=8.4 Hz, 1H), 5.72 (s,1H), 5.11 (m, 1H), 5.07 (m, 2H), 4.79 (m, 1H), 3.49 (s, 3H), 3.24 (dd, J=10.8, 13.2 Hz, 1H), 2.86 (s, 3H), 2.61 (dd, J=4.8, 13.2 Hz, 1H), 2.32 (ddd, J=8.4, 8.4, 13.2 Hz, 1H), 2.18 (m,1H), 2.14 (m, 1H), 2.08 (m, 2H), 1.97 (m, 1H), 1.87 (m, 1H), 1.82 (m, 1H), 1.70 (m,1H), 1.64 (m, 1H), 1.60 (s, 3H), 1.33 (d, J=6.6 Hz, 3H), 1.29 (d, J=6.0 Hz, 3H).
13C-NMR (CDCl3, 150 MHz): δ 173.4 (s), 172.8 (s), 168.8 (s), 165.8 (s), 165.0 (s), 151.1 (s), 134.7 (s), 132.5 (d), 131.7 (s), 130.4 (s), 130.1 (d), 130.0 (d), 128.6 (d,2C), 128.2 (d, 2C), 125.4 (d), 116.1 (d), 111.1 (s), 110.0 (s), 70.2 (d), 58.5 (q), 56.7 (d), 46.1 (d), 35.0 (t), 34.9 (t), 33.3 (t), 31.8 (t), 30.2 (q), 26.5 (t), 25.9 (t), 19.7 (q), 17.2 (q), 16.3 (q).
(SMH27−4B)
MS (ESI-TOF)(rel. int.): m/z 640 and 642 (3:1) [M+H]+, 662 and 664 (3:1) [M+Na]+
(SMH27−4C)
MS (ESI-TOF)(rel. int.): m/z 732 [M+H]+, 754 [M+Na]+
【0023】
また新規抗生物質SMH27−4類、又はその薬理学的に許容される塩は、医薬品、例えば、真菌感染症治療用の抗真菌薬とすることができ、薬剤上必要な、賦形剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、酸化防止剤、香料等を用いて調製することが可能である。さらに、本発明の化合物は農薬として使用することができ、通常、製剤分野で慣用される補助剤と一緒に使用される。本発明の化合物は公知の方法で、例えば乳剤原液、噴霧可能なペースト、噴霧または希釈可能な溶液、希釈乳剤、水和剤、水溶剤、粉剤、粒剤、フロアブル剤、ドライフロアブル剤、燻煙剤、燻蒸剤、そして例えばポリマー物質によるカプセル剤に製剤される。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.新規抗生物質SMH27−4類の製造;
下記の組成を有するシ−ド用の酵母寒天培地を調製し、120℃、20分加熱蒸気滅菌後、20mlずつシャーレに分注した。これにAJ-110262株(FERM AP−20376)の−80℃超低温保存の寒天片(5mm×10mm、10%グリセリン中)を接種し、28℃で14ないし18日間培養した。
【0025】

【0026】
次に下記の組成を有する生産培地を調製し、その100mlを500ml容三角フラスコに注入し、加熱蒸気滅菌(120℃、20分)した。上述のシ−ド用の寒天培地において直径が6〜7cm程度にまでコロニーが生育した時点で、円形コロニーの1/5ないし1/4の面積に相当する扇型部分の菌体を滅菌したスパテル等を用いて寒天ごと切り出し、約5mm四方の大きさに切り分けた後に無菌的に生産培地へ接種した。培養温度は28℃に設定し、7ないし10日間にわたり旋回振とう培養(180rpm)した。
【0027】

【0028】
得られた生産培地の培養液から以下の手順で新規抗生物質SMH27−4類の単離を行った。 即ちこの培養液17.9Lを遠心分離にかけ上清を除去し、湿菌体と吸着樹脂を得た。これにアセトン約10Lを加えて、2時間室温で攪拌して活性物質を抽出した。これを再度繰り返した。次いでろ過によって菌体及び吸着樹脂を除去したアセトン溶液をエバポレーターにて少量の水が残るまで減圧濃縮した。このものに水100mlを加えた後、酢酸エチル100mlで2回抽出し濃縮して酢酸エチル可溶部(812mg)を得た。これをシリカゲルカラム(ワコーゲルC-300、40g;和光製)に供した。溶離液としてヘキサン-酢酸エチル混合溶液(5:5、4:6、3:7、2:8(v/v)、各240ml)を用いて段階的に溶出した。このうち活性画分(ヘキサン-酢酸エチル(3:7)での溶出画分全部とその前後80ml)を集め(37.3mg)、これを次に、逆相HPLCカラム(Develosil ODS UG-5(野村化学製)、内径10mm×250mm)に供試した。溶離液として70%メタノール溶液(4ml/分)を用い、保持時間19.6分に溶出する画分を分取することにより純粋なSMH27−4A(2.6mg)を得た。また同様に保持時間18.0分に溶出する画分を分取することにより純粋なSMH27−4B(<0.5mg)を、保持時間22.4分に溶出する画分を分取することにより純粋なSMH27−4C(<0.5mg)を得た。このときのHPLCチャートを図2に示す。
【0029】
2.抗菌活性試験
新規抗生物質SMH27−4Aの抗真菌活性を希釈平板法を用いて求めた。
新規抗生物質SMH27−4Aは少量のアセトンで溶解した後、イースト・ナイトロジェン・ベース培地(ディフコ社)で等倍希釈系列を作製した。これを24ウエルプレ−トまたは96ウェルプレート(コ−ニング社)へ分注した。被検菌であるカンジダ属、ロドトルラ属はイースト・ナイトロジェン・ベース培地で一晩培養した後、約104/mlになるよう培地で希釈した。アスペルギルス属、アブシジア属及びリゾプス属糸状菌はイースト・ナイトロジェン・ベース寒天培地上で十分生育させた後胞子を集め、それぞれ約104個/ml、103個、103個/mlになるよう培地で希釈した。その他の糸状菌は同寒天培地上で生育したコロニーの先端部の寒天小片(約1mm×1mm)を切り取り接種源とした。このように調製した被検菌を上記の抗生物質含有培地に接種し、25℃で40時間培養し生育の認められない最小濃度(MIC)を求めた。その結果を下記の表1に示す。
【0030】
【表1】

表1から明らかなように新規抗生物質SMH27−4Aは優れた抗真菌活性を有することが分かった。なお、SMH27−4B及びSMH27−4Cについては、被検菌として少なくとも、フィトフトラ・カプシッシ(Phytophthora capsici)に対して生育阻害を示すことが分かっている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るAJ−110262株の分子系統樹を示す。
【図2】本発明の新規抗生物質SMH27−4A(Br)、SMH27−4B(Cl)及びSMH27−4C(I)の分取クロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表されることを特徴とする化合物又はその塩。
【化1】

(式Iにおいて、Rはハロゲン原子を示し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、及びアセチル基からなる群より選択される何れかを示し、Meはメチル基を示す。)
【請求項2】
前記式Iにおいて、Rが臭素原子(Br)を示し、Rが水素原子を示す請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
前記式Iにおいて、Rが塩素原子(Cl)を示し、Rが水素原子を示す請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
前記式Iにおいて、Rがヨウ素原子(I)を示し、Rが水素原子を示す請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分とする農薬又は抗真菌薬。
【請求項6】
海岸付近の土壌から分離されうるエニグロミキサ属(Enhygromyxa属)に属する粘液細菌をハロゲン化合物を添加した培養液中で培養し、前記培養物より抽出することを特徴とする請求項1〜4の何れか記載の化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−213662(P2006−213662A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29082(P2005−29082)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】