説明

新規病態マーカー及びそれを用いた病態診断

【課題】生体崩壊症候群の診断マーカーの提供。
【解決手段】生体崩壊症候群患者体液と健常人体液とで統計学的に有意な差をもって検出される、生体内に存在する蛋白質の分解産物である1以上のペプチドからなる、生体崩壊症候群のマーカーペプチドセット。該マーカーペプチドセットのいずれかのペプチドを認識する抗体。該マーカーペプチドの親蛋白質を補給するか、あるいは該マーカーであると同時に、該疾患に対して治療もしくは増悪方向に作用し得る生理活性ペプチドの、量もしくは活性を調節する物質を含有してなる、該症候群の治療剤。生体崩壊症候群に帰着し得る基礎疾患に罹患した患者由来の生体試料中の、上記マーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチドを検出することを特徴とする、生体崩壊症候群におけるステージの判定方法、治療効果の評価方法並びに該患者における臓器・器官の機能廃絶および/または生命存続の危機の予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体崩壊症候群の新規バイオマーカー、および該バイオマーカーを個別的もしくは網羅的に解析することによる生体崩壊症候群の診断方法に関する。本発明はまた、生体崩壊症候群のバイオマーカーであるペプチドの親蛋白質を補給するか、あるいは該バイオマーカーであると同時に、該疾患に対して治療もしくは増悪方向に作用し得る生理活性ペプチドの、生成もしくは活性を調節することによる、該疾患の治療手段を提供する。さらに、本発明は、該バイオマーカーを個別的もしくは網羅的に解析することによる、生体崩壊症候群の治療効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体崩壊症候群は、その病態がバイオマーカー群によって的確に把握できれば、その後の栄養サポート戦略・薬物治療戦略の方向性の決定に大きく寄与することが期待される。
【0003】
しかしながら、遺伝子や蛋白質を網羅的に解析するという手法は、近年、基礎医学研究を含めた生化学研究におけるスタンダードとして定着しつつあるものの、医療現場への応用にはまだかなりの距離があるというのが実状である。実際、生体崩壊症候群の病態が顕著に認められる播種性血管内凝固症候群(DIC)や多臓器不全(MOF)の診断には、現在でも末梢血血球分析、血液生化学検査、血液ガス分析、血圧、脈拍数、体温等といった、病状を的確に把握するには無理のある指標が依然として使われている(例えば、非特許文献1を参照)。
【非特許文献1】青木信雄,長谷川 淳:DIC診断基準の『診断のための補充的検査成績,所見』の項の改訂について,厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班,昭和62年度研究報告書,1988. p37〜41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、様々な疾患に由来する生体崩壊症候群の病態を迅速かつ的確に判断できる新規バイオマーカーを提供することであり、それによって、患者に対するより的確な栄養サポート戦略や薬物治療戦略の提供を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、予後不良の難病として知られるクロウ・フカセ症候群患者の診断から死の転帰に至る一連の過程(1年6ヶ月)において、病態の進行とともに血中に出現する、比較的低分子量の種々のペプチドを同定することに成功した。さらに、本発明者らは、これらのペプチド群が、生体の正常な維持活動に必須の蛋白質の分解産物であることを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、
[1]生体崩壊症候群患者体液と健常人体液とで統計学的に有意な差をもって検出される、生体内に存在する蛋白質の分解産物である1以上のペプチドからなる、生体崩壊症候群のマーカーペプチドセット;
[2]前記統計学的に有意な差が生体崩壊症候群のI期〜IV期の少なくとも1つのステージで認められる、上記[1]記載のマーカーペプチドセット;
[3]前記蛋白質が、生理活性物質のキャリア蛋白質、蛋白分解酵素インヒビターおよび栄養アセスメント蛋白質からなる群より選択される、上記[1]または[2]記載のマーカーペプチドセット;
[4]前記ペプチドの少なくとも1つが、健常人体液から実質的に検出されないものである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のマーカーペプチドセット;
[5]前記ペプチドの少なくとも1つが、分子量約50,000以下である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のマーカーペプチドセット;
[6]蛋白質がα1-アンチトリプシン、トランスサイレチン、アポリポ蛋白A-Iおよびアポリポ蛋白B-100からなる群より選択される、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のマーカーペプチドセット;
[7]以下の(1)〜(6)からなる群より選択されるペプチドの少なくとも1つを含有する、上記[6]記載のマーカーペプチドセット;
(1) 配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(4) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(5) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(6) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
[8]上記[7]記載のマーカーペプチドセットのいずれかのペプチドを認識する抗体;
[9]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成するいずれかのペプチドであって、生体崩壊症候群に対して治療的に作用する生理活性を有するペプチド;
[10]上記[9]記載のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質を含有してなる、生体崩壊症候群の治療剤;
[11]前記物質が、上記[9]記載のペプチド、該ペプチドのアゴニスト、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素、該ペプチドのN末側及びC末側に該分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含む、該分解酵素の基質もしくは基質アナログ分子、該分解酵素の産生を促進する分子、該分解酵素の活性を促進する分子、並びに該分解酵素のインヒビターの産生を抑制する分子からなる群より選択される、上記[10]記載の治療剤;
[12]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成するいずれかのペプチドであって、生体崩壊症候群を増悪させる生理活性を有するペプチド;
[13]上記[12]記載のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質を含有してなる、生体崩壊症候群の治療剤;
[14]前記物質が、上記[12]記載のペプチドのアンタゴニスト、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素の産生を抑制する分子、該分解酵素のインヒビター、並びに該インヒビターの産生を促進する分子からなる群より選択される、上記[113]記載の治療剤;
[15]患者の体内における上記[9]記載のペプチドの量もしくは活性を増大させる、および/または上記[12]記載のペプチドの量もしくは活性を低減させることを含む、生体崩壊症候群の治療方法;
[16]生体崩壊症候群におけるステージの判定方法であって、該症候群に帰着し得る基礎疾患に罹患した患者由来の生体試料中の、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは上記[9]および/または[12]記載のペプチドを検出することを含む方法;
[17]α1-アンチトリプシンおよび/またはトランスサイレチンの分解産物であるペプチドが検出された場合にIV期、およびアポリポ蛋白A-Iおよび/またはアポリポ蛋白B-100の分解産物であるペプチドが検出された場合にI期であると判定することを含む、上記[16]記載の方法;
[18]α1-アンチトリプシンの分解産物が下記(1)のペプチド、トランスサイレチンの分解産物が下記(2)のペプチド、アポリポ蛋白A-Iの分解産物が下記(3)〜(5)から選ばれる1以上のペプチド、およびアポリポ蛋白B-100の分解産物が下記(6)のペプチドである、上記[17]記載の方法;
(1) 配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(4) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(5) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(6) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
[19]生体試料が体液である、上記[16]〜[18]のいずれかに記載の方法;
[20]体液が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、眼房水、硝子体液およびリンパ液からなる群より選択される、上記[19]記載の方法;
[21]生体試料を質量分析にかけることを含む、上記[16]〜[20]のいずれかに記載の方法;
[22]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは上記[9]および/または[12]記載のペプチドをそれぞれ認識する抗体を用いることを特徴とする、上記[16]〜[20]のいずれかに記載の方法;
[23]患者から時系列で生体試料を採取し、該試料における上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは上記[9]および/または[12]記載のペプチドの種類および量の経時変化を調べることを特徴とする、上記[16]〜[22]のいずれかに記載の方法;
[24]生体崩壊症候群の治療方法であって、上記[16]〜[23]のいずれかに記載の方法により、ある蛋白質の分解産物の有意な増加が認められた患者に、該蛋白質の有効量を投与することを含む方法;
[25]生体崩壊症候群患者における治療効果の評価方法であって、治療が施される前後に該患者から生体試料を採取し、該試料における上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは上記[9]および/または[12]記載のペプチドの種類および量の変化を調べることを特徴とする方法;
[26]生体崩壊症候群患者における臓器・器官の機能廃絶および/または生命存続の危機の予測方法であって、上記[25]記載の方法により、IV期の患者においてとり得るいかなる治療も効果がなかったと判定された場合に、該患者が臓器・器官の機能廃絶および/または生命存続の危機にあると予測することを特徴とする方法;
[27]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチドにおいて、各ペプチドのN末側および/またはC末側に、該ペプチドを生体内に存在する蛋白質から遊離する分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含む、該分解酵素同定用ペプチドセット;
等を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体崩壊症候群における各ステージの判定がエビデンスに基づいて迅速・的確に判断できるので、該症状の早期発見、早期治療が可能となる。特に、過去に例のない、生体内に存在する蛋白質の分解産物からヒントを得た治療薬が開発されるので、生体崩壊症候群の有効な早期治療法の開発、ひいては臓器・器官の予後の改善効果とともに従来の診断技術では死に至るはずの多くの患者を救命し得ることが期待される。さらに、生体崩壊症候群における終末ステージの判定がエビデンスに基づいて迅速・的確に判断できるので、無駄な延命治療を避けることができ、患者本人の尊厳を守るとともに国家の医療経済学上の問題を解決することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、生体崩壊症候群の1以上の特異的マーカーペプチド(のセット)を提供する。該マーカーペプチドセットを構成するペプチドは、生体崩壊症候群患者体液と健常人体液とで統計学的に有意な差をもって検出される、生体内に存在する蛋白質の分解産物であることを特徴とする。統計学的に有意な差がある限り、生体崩壊症候群患者体液で増加していても減少していてもよい。
ここで「生体崩壊症候群」とは、生体内に存在する蛋白質が分解された結果、機能的、器質的障害が発現した病態と定義しうる。該病態は、症状に応じてI期〜IV期のステージに細分される。即ち、I期は、自覚症状を伴わない、あるいは軽度の自覚症状を伴う病態をいい、II期は、食欲低下、体重減少、全身倦怠感などにより日常生活に支障ときたす病態をいい、III期は、一臓器・器官の著しい機能障害あるいは一般的にDICとして定義される病態をいい、IV期は、一臓器・器官の機能廃絶に近似した病態あるいは一般的にMOFとして定義される病態をいう。
生体崩壊症候群に至る基礎疾患としては、癌、炎症性免疫疾患(慢性関節リウマチ等)、拒食症、神経変性疾患(アルツハイマーなど)、網膜色素変性症などが代表例として挙げられるが、これらに限定されず、例えば、表1に示される多種多様な疾患が全て包含される。
【0009】
【表1−1】

【0010】
【表1−2】

【0011】
【表1−3】

【0012】
【表1−4】

【0013】
【表1−5】

【0014】
【表1−6】

【0015】
【表1−7】

【0016】
【表1−8】

【0017】
【表1−9】

【0018】
本発明のマーカーペプチドは、生体内に存在する蛋白質の分解産物である。具体的には、例えば、ホルモン、ビタミン、酵素などの生理活性物質のキャリア蛋白質、蛋白分解酵素の制御因子である分解酵素インヒビター、栄養状態の評価指標とされる栄養アセスメント蛋白質等であるが、それらに限定されない。従来の臨床化学では、生体を構成するタンパク質の崩壊の結果生じたペプチド断片を解析することによって病態情報を獲得するという概念は存在しなかった。ある病的状態に対する生体反応の結果生じるペプチド断片の解析により「どの分子が崩壊しているのか?」、それにより「何が起ころうとしているのか?」を予測する診断手法は独創的なものである。マーカーとなるペプチドはその由来となる親蛋白質の崩壊を意味しており、これらのペプチドの発明を集積していくことにより、生体崩壊症候群の病態を網羅的かつ迅速に診断することが可能となる。
また、本発明に至る過程で、生体内においては所謂「健康」状態においても、崩壊ペプチド断片は無数に存在することが分かった。蛋白質の合成と崩壊の巧妙なバランス調節により、生体は恒常性を維持しており、そのバランス崩壊の延長線上に「生体崩壊症候群」が存在することになる。
【0019】
本発明のマーカーペプチドのうち、生体崩壊症候群患者体液で検出される典型的なペプチド群のさらなる特徴は、通常そのような分解された形態が捉えられたことのない蛋白質の分解産物であることである。即ち、このようなペプチドは、健常者の生体試料からは実質的に検出されない。ここで「実質的に検出されない」とは、従来公知の検出手段(例えば、質量分析、HPLC、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、イムノアッセイなど)の検出限界以下であることを意味する。
【0020】
本発明のマーカーペプチドは約10000種存在すると推定される。また分子領域でのマーカーペプチドの存在比は、分子量5000以下に約54%が、分子量10000以下に約78%が、分子量20000以下に約84%が、分子量50000以下に100%が存在し、それらの大部分は分子量約5,000以下に集中するが、それに限定されるものではない。
本発明のマーカーペプチドセットは、これらのマーカーペプチドの1種以上からなるペプチドの集合である。本発明のマーカーペプチドセットは、例えば、質量分析により、好ましくは、後述するように、本発明者らの一部が開発した質量分析用プレートを用いた質量分析により、網羅的に検出・定量することができる。
【0021】
本発明のマーカーペプチドセットを構成する好ましいペプチドとしては、α1-アンチトリプシン、トランスサイレチン、アポリポ蛋白A-Iまたはアポリポ蛋白B-100の分解産物であるペプチドが挙げられる。これらのペプチドは、上記した本発明のマーカーペプチドの条件を満たす限りいずれの分解産物であってもよく、例えば、配列番号1〜4に示される各アミノ酸配列の、鎖長約5〜約30アミノ酸残基の任意のフラグメントが挙げられる。より好ましくは、下記の(1)〜(6)に示されるペプチドが例示される。
(1) 配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(4) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(5) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(6) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
【0022】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、種々のセリンプロテアーゼを阻害する、血中の最も主要なプロテアーゼインヒビターであるα1−アンチトリプシン(α1-AT)の前駆体である。アミノ酸番号-24〜-1で示される24アミノ酸からなる配列はシグナルペプチドであり、成熟α1-ATは分子量51,000、394個のアミノ酸からなる糖蛋白質である。α1-ATは主に肝細胞で生成され,種々の炎症時に血中に増加する急性相反応物質の1つであり、炎症性疾患、悪性腫瘍の指標となる。しかしながら、生体崩壊症候群との関連については知られていない。また、アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列からなるα1-AT分解産物(以下、「A1AT(1-24)」と略記する場合がある)の存在はこれまで全く知られておらず、新規なペプチドである。
【0023】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、レチノール結合タンパク質と甲状腺ホルモン(T4)のキャリアータンパク質として血中で機能しているトランスサイレチン(TTR)の前駆体である。アミノ酸番号-20〜-1で示される20アミノ酸からなる配列はシグナルペプチドであり、成熟TTRは分子量55,000の4量体蛋白質である。レチノール結合タンパク質とともに栄養状態の評価に用いられている。また、TTRはアミロイドーシスの原因タンパク質として詳細に研究されており、アルツハイマー病の原因とされるAβの蓄積を防ぐとの報告もある。しかしながら、生体崩壊症候群との関連については知られていない。また、アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列からなるTTR分解産物(以下、「TTR(81-103)」と略記する場合がある)の存在はこれまで全く知られておらず、新規なペプチドである。
【0024】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、HDL-コレステロールの主要構成(キャリア)蛋白質であるアポリポ蛋白質A-I(ApoA-I)の前駆体である。アミノ酸番号-24〜-7で示される18アミノ酸からなる配列はシグナルペプチドであり、さらにアミノ酸番号-6〜-1で示されるプロ配列が切断されて、成熟ApoA-Iとなる。ApoA-Iは動脈硬化症、LPL欠損症で高値を示すことが知られている。しかしながら、生体崩壊症候群との関連については知られていない。また、アミノ酸番号62〜83、189〜214および196-214で示される各アミノ酸配列からなるApoA-I分解産物(以下、それぞれ「AI(62-83)」、「AI(189-214)」および「AI(196-214)」と略記する場合がある)の存在はこれまで全く知られておらず、新規なペプチドである。
【0025】
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質は、LDL-コレステロールの主要構成(キャリア)蛋白質であるアポリポ蛋白B-100(ApoB-100)の前駆体である。アミノ酸番号-27〜-1で示される27アミノ酸からなる配列はシグナルペプチドであり、成熟ApoB-100は分子量約500kDa、4536個のアミノ酸からなる蛋白質である。ApoB-100は動脈硬化症、LPL欠損症で高値を示すことが知られている。しかしながら、生体崩壊症候群との関連については知られていない。また、アミノ酸番号3218〜3249で示される各アミノ酸配列からなるApoB-100分解産物(以下、「B100(3218-3249)」と略記する場合がある)の存在はこれまで全く知られておらず、新規なペプチドである。
【0026】
各配列番号の上記各アミノ酸番号で示されるアミノ酸配列と「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、
(1) 各配列番号で示される蛋白質の、アミノ酸の置換および/もしくは欠失および/もしくは挿入を伴う変異体または多型であって、該置換および/もしくは欠失および/もしくは挿入が各配列番号に示されるアミノ酸配列の各アミノ酸番号で示されるアミノ酸配列内に存在する該変異体または多型における、対応する領域のアミノ酸配列、あるいは、
(2) 各配列番号で示される蛋白質の、上記各アミノ酸番号で示される領域より、N末端側および/またはC末端側に1〜10アミノ酸残基(好ましくは1〜5アミノ酸残基)延長または短縮されたアミノ酸配列
を意味する。
例えば、A1AT(1-24)の2番目(即ち、配列番号1のアミノ酸番号2)のアミノ酸残基がAspからAlaに置換された変異体;TTR(81-103)の4番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号84)のアミノ酸残基がIleからAsnまたはSerに置換された変異体、9番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号89)のアミノ酸残基がGluからLysまたはGlnに置換された変異体、10番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号90)のアミノ酸残基がHisからAsnに置換された変異体、11番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号91)のアミノ酸残基がAlaからSerに置換された変異体、17番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号97)のアミノ酸残基がAlaからGlyに置換された変異体、21番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号101)のアミノ酸残基がGlyからSerに置換された変異体、22番目(即ち、配列番号2のアミノ酸番号102)のアミノ酸残基がProからArgに置換された変異体;AI(62-83)の7番目(即ち、配列番号3のアミノ酸番号68)のアミノ酸残基がThyからIleに置換された変異体;AI(189-214)の10番目(AI(196-214)の3番目;即ち、配列番号3のアミノ酸番号198)のアミノ酸残基がGluからLysに置換された変異体の存在などが知られている。
また、例えば、AI(196-214)は、AI(189-214)がN末端側に7アミノ酸残基延長されたペプチドに相当する。
【0027】
さらに上記マーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチドは、診断以外に積極的な生体崩壊症候群の創薬ターゲットを提供することもできる。即ち、該マーカーペプチドそれ自体が該症候群の治療(寛解)方向に生理機能を持つ場合、該ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質を患者に投与することにより、また、該マーカーペプチドそれ自体が該症候群の増悪方向に生理機能を持つ場合、該ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質を投与することにより、それぞれ該症候群を治療することができる。従って、本発明はまた、上記マーカーペプチドセットを構成するいずれかのペプチドであって、それ自体が(1)生体崩壊症候群の治療(寛解)方向に生理機能を有するもの(以下、「治療ペプチド」ともいう)、および(2)該症候群の増悪方向に生理機能を有するもの(以下、「増悪ペプチド」ともいう)を提供する。
【0028】
本発明はまた、治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる、および/または増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させることによる、生体崩壊症候群の治療方法を提供する。該治療方法は、具体的には、治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および/または増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質の有効量を、生体崩壊症候群患者に投与することを含む。従って、本発明はまた、治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および/または増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質を含有してなる、生体崩壊症候群の治療剤を提供する。
具体的には、治療ペプチドの活性を増大させる物質としては、該ペプチド自体あるいはそれと同様のアゴニスト作用を有する分子が挙げられる。あるいは、治療ペプチドの活性を増大させる物質として、該ペプチドの非中和抗体、好ましくはアゴニスト抗体なども挙げることができる。一方、増悪ペプチドの活性を低減させる物質としては、該ペプチドのアンタゴニスト作用を有する分子、あるいは該ペプチドに対する中和抗体などが挙げられる。
また、治療ペプチドの産生を増大させる物質としては、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素、該ペプチドのN末側及びC末側に該分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含む、該分解酵素の基質もしくは基質アナログ分子、該分解酵素の産生を促進する分子(類似化合物を含む)、該分解酵素の活性を促進する分子、該分解酵素のインヒビターの産生を抑制する分子などが挙げられる。該ペプチドのN末側及びC末側のアミノ酸配列から、該ペプチドを遊離させる分解酵素の存在が示唆され、該ペプチドのN末側および/またはC末側のアミノ酸配列をプローブにした分解酵素探索と同定が可能となる。こうして同定された分解酵素の基質もしくは基質アナログ分子、即ち、該ペプチドのN末側及びC末側に該分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含むペプチド分子は、生体崩壊症候群患者の体内で該分解酵素により切断されて治療ペプチドもしくはそのアナログ分子を遊離するので、同様の治療効果を奏することができる。一方、同定された分解酵素の産生および/または活性を促進する物質も、間接的に治療ペプチドの産生を増大させることができる。これらの物質は、標的の分解酵素が同定されれば、自体公知の手法によりスクリーニングし、あるいは分子設計することができる。
一方、増悪ペプチドの産生を低減させる物質としては、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素の産生を抑制する分子、該分解酵素のインヒビター、該インヒビターの産生を促進する分子などが挙げられる。増悪ペプチドを遊離する分解酵素は、上記治療ペプチドと同様の手法により探索・同定することができる。こうして同定された分解酵素を用いて、自体公知の手法により、該分解酵素の産生もしくは活性を直接または間接的に抑制(阻害)する物質をスクリーニングし、あるいは分子設計することができる。
【0029】
治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質は、常套手段に従って製剤化することができる。
例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記化合物またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、上記化合物またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。
【0030】
上記の経口用または非経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが例示され、それぞれの投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mgの上記化合物が含有されていることが好ましい。
なお前記した各組成物は、上記治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質または増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質との配合により、好ましくない相互作用を生じない限り、他の活性成分を含有してもよい。
【0031】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトに対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質の投与量は、その作用、投与ルート、患者の重篤度、年齢、体重、薬物受容性などにより差異はあるが、例えば、成人1日あたり活性成分量として約0.0008〜約25mg/kg、好ましくは約0.008〜約2mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0032】
本発明はまた、生体崩壊症候群に罹患していると疑われる患者由来の生体試料中の、1以上の本発明のマーカーペプチドを検出することによる、該患者における生体崩壊症候群のステージ(I期〜IV期)の判定方法を提供する。「生体崩壊症候群に罹患していると疑われる患者」としては、上記した、該症候群に帰着し得る基礎疾患に罹患した患者などが挙げられる。生体崩壊症候群では、その各ステージにおいて、それぞれ特徴的な蛋白質の分解産物の出現変動が認められる。従って、各ステージに特異的な1以上のマーカーペプチドを測定することにより、該患者における生体崩壊症候群のステージを判定することができる。例えば、上記α1−アンチトリプシンの分解産物、好ましくはA1AT(1-24)等、あるいはトランスサイレチンの分解産物、好ましくはTTR(81-103)等は、第IV期に特異的に検出されるのに対し、例えば、上記アポリポ蛋白A-Iの分解産物、好ましくはAI(62-83)、AI(189-214)、AI(196-214)等、あるいはアポリポ蛋白B-100、好ましくはB100(3218-3249)等は第I期に特異的に検出される。生体崩壊症候群の治療においては、早期発見、早期治療が大原則とされることから、第I期に特異的なマーカーペプチドが見出されたことは極めて有意義である。
【0033】
被験試料となる患者由来の生体試料は特に限定されないが、患者への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液など生体から容易に採取できるものや、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液など比較的容易に採取されるものが挙げられる。
血清や血漿を用いる場合、常法に従って患者から採血し、液性成分を分離することにより調製することができる。検出対象である本発明のマーカーペプチド(セット)は必要に応じて、スピンカラムなどを用いて、予め高分子量の蛋白質画分などを分離除去しておくこともできる。
【0034】
生体試料中の、本発明のマーカーペプチド(セット)の検出は、該試料を必要に応じて前処理した後、特定のマーカーペプチドを個別に、あるいはペプチド群を網羅的に測定することにより行われる。ここで「個別に」とは、1つ1つのマーカーをそれぞれ別個にという意味ではなく、検出対象とするマーカーが特定されていれば、それらの一部もしくは全部を一括に測定してもよい。
特定のマーカーペプチドを個別に検出する場合、例えば、生体試料を各種の分子量測定法、例えば、ゲル電気泳動や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計など)を組み合わせる方法等に供し、所定のマーカーペプチドの分子量と一致するバンドもしくはスポット、あるいはピークを検出することにより行うことができるが、これらに限定されない。マーカーペプチドのアミノ酸配列が既知である場合、該アミノ酸配列を認識する抗体を作製して、ウェスタンブロッティングや各種イムノアッセイにより該マーカーペプチドを検出する方法が、より好ましく用いられ得る。
一方、不特定多数の本発明のマーカーペプチド群を網羅的に検出する場合は、生体試料を質量分析用プレート上にスポットし、あるいは、WO 2004/031759に記載されるように該試料をゲル電気泳動した後、質量分析用プレート上に転写し、上記のイオン化法と質量分析法とを組み合わせて得られる質量分析のチャートから、分子量50000以下に現れるピークを同定する。本発明のマーカーペプチドは約10000種存在すると推定され、またその分子領域での存在比は、分子量5000以下に約54%が、分子量10000以下に約78%が、分子量20000以下に約84%が、分子量50000以下に100%が存在し、それらの大部分は分子量約5,000以下に集中するので分子量約5,000以下に現れるピークを同定することが望ましい。
【0035】
本発明の特に好ましいマーカーペプチドであるA1AT(1-24)、TTR(81-103)、AI(62-83)、AI(189-214)、AI(196-214)、B100(3218-3249)は、それぞれ約2690.12、約2450.20、約2617.27、約2052.07、約2864.49および約3678.80の分子量を有する。ここで「分子量約・・・」とは、各測定方法の誤差の範囲を考慮したものであり、例えば、質量分析計を用いる方法による場合は、示された数値±0.5%(好ましくは±0.3%、より好ましくは±0.1%)の位置に出現するピーク強度を測定することが好ましい。
【0036】
本発明の判定方法における特に好ましい測定法の1つは、飛行時間型質量分析に使用するプレートの表面に被験試料を接触させ、該プレート表面に捕捉された成分の質量を飛行時間型質量分析計で測定する方法が挙げられる。
飛行時間型質量分析計に適合可能なプレートは、検出対象である本発明のマーカーペプチドを効率よく吸着し得る表面構造を有している限り、いかなるものであってもよい。そのような表面構造としては、例えば、官能基付加ガラス、Si、Ge、GaAs、GaP、SiO2、SiN4、改質シリコン、広範囲のゲル又はポリマー(例えば、(ポリ)テトラフルオロエチレン、(ポリ)ビニリデンジフロリド、ポリスチレン、ポリカーボネート、又はこれらの組合せなど)によるコーティングが挙げられる。複数のモノマー又はポリマー配列を有する表面構造としては、例えば、核酸の直鎖状及び環状ポリマー、ポリサッカライド、脂質、α−、β−又はω−アミノ酸を有するペプチド、クロマトグラフィーで使用されるゲル表面の担体(陰イオン性/陽イオン性化合物、炭素鎖1〜18からなる疎水性化合物、親水性化合物(例えば、シリカ、ニトロセルロース、セルロースアセテート、アガロース等)と架橋した担体など)、人工ホモポリマー(例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート等)、上記化合物のいずれかに既知の薬物又は天然化合物が結合(共有及び非共有結合)したヘテロポリマー等によるコーティングが挙げられる。
【0037】
好ましい実施態様においては、質量分析用プレートとして用いられる支持体は、ポリビニリデンジフロリド(PVDF)、ニトロセルロースまたはシリカゲル、特に好ましくはPVDFで薄層コーティングされた基材[通常、質量分析用プレートにおいて使用されているものであれば、特に限定されず、例えば、絶縁体(ガラス、セラミクス、プラスチック・樹脂等)、金属(アルミニウム、ステンレス・スチール等)、導電性ポリマー、それらの複合体などが挙げられるが、好ましくはアルミニウムプレートが用いられる]である(WO 2004/031759を参照)。支持体の形状は、使用する質量分析装置の、特に試料導入口に適合するような形状に適宜考案され得るが、それらに限定されない。かかるPVDFで薄層コーティングされた質量分析用プレートとして、好ましくはプロトセラ社のブロットチップ(登録商標)などが挙げられる。
【0038】
好ましくは、コーティングは、メンブレンのように予め成型された構造体を支持体上に重層するのではなく、コーティング分子が分散した状態で支持体上に堆積されて形成される薄層をいう。コーティング分子が堆積される態様は特に制限されないが、後述の質量分析用プレートの調製方法において例示される手段が好ましく用いられる。
薄層の厚さは、組織もしくは細胞に含まれる分子の転写効率および質量分析の測定感度等に好ましくない影響を与えない範囲で適宜選択することができるが、例えば、約0.001〜約100μm、好ましくは約0.01〜約30μmである。
【0039】
質量分析用プレート(支持体)は自体公知の方法により調製することができるが、例えば、上記の好ましい質量分析用プレートは、PVDF等のコーティング分子で支持体表面を薄層コーティングすることにより調製される。コーティングの手段としては、塗布、噴霧、蒸着、浸漬、印刷(プリント)、スパッタリングなどが好ましく例示される。
「塗布」する場合、コーティング分子を、適当な溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(dimethyl formamide;DMF)などの有機溶媒に適当な濃度(例えば、約1〜約100mg/mL程度)で溶解したもの(コーティング分子含有溶液)を、刷毛などの適当な道具を用いて基材に塗布することができる。
「噴霧」する場合、上記と同様にして調製したコーティング分子含有溶液を噴霧器に入れ、基材上に均一にPVDFが堆積されるように噴霧すればよい。
「蒸着」する場合、通常の有機薄膜作製用真空蒸着装置を用い、基材を入れた真空槽中でコーティング分子(固体でも溶液でもよい)を加熱・気化させることにより、基材表面上に該分子の薄層を形成させることができる。
「浸漬」させる場合、上記と同様にして調製したコーティング分子含有溶液中に基材を浸漬させればよい。
「印刷(プリント)」する場合は、基材の材質に応じて通常使用され得る各種印刷技術を適宜選択して利用することができ、例えば、スクリーン印刷などが好ましく用いられる。
「スパッタリング」する場合は、例えば、真空中に不活性ガス(例、Arガス等)を導入しながら基材とコーティング分子間に直流高電圧を印加し、イオン化したガスを該分子に衝突させて、はじき飛ばされたコーティング分子を基材上に堆積させて薄層を形成させることができる。
コーティングは基材全面に施してもよいし、質量分析に供される一面のみに施してもよい。
【0040】
コーティング分子は、コーティング手段に応じて適宜好ましい形態で使用することができ、例えば、コーティング分子含有溶液、コーティング分子含有蒸気、固体コーティング分子などの形態で基材にアプライされ得るが、コーティング分子含有溶液の形態でアプライすることが好ましい。「アプライする」とは、接触後にコーティング分子が支持体上に残留・堆積されるように支持体に接触させることをいう。アプライ量は特に制限はないが、コーティング分子量として、例えば、約10〜約100,000μg/cm2、好ましくは約50〜約5,000μg/cm2挙げられる。アプライ後に溶媒は自然乾燥、真空乾燥などにより除去する。
【0041】
質量分析用プレートにおける基材は、コーティング分子でコーティングする前に予め適当な物理的、化学的手法により、その表面を修飾(加工)しておいてもよい。具体的には、プレート表面を磨く、傷を付ける、酸処理、アルカリ処理、ガラス処理(テトラメトキシシランなど)等の手法が例示される。
【0042】
被験試料の質量分析用プレート(支持体)への移行は、被験試料となる患者由来の生体試料を未処理のままで、あるいは抗体カラムその他の方法で高分子タンパク質を除去、濃縮した後に、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動もしくは等電点電気泳動に付し、泳動後ゲルをプレートと接触させて転写(ブロッティング)することにより行われる。転写装置としては公知のものを用いることができる。転写の方法自体は公知である。好ましくは電気転写が用いられる。泳動後ゲルに展開された試料は、種々の方法(拡散、電気力その他)によって質量分析用プレートに移行される。電気転写時に使用する緩衝液としては、pH7〜9、低塩濃度のものを用いることが好ましい。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液などが例示される。トリス緩衝液としては、トリス/グリシン/メタノール緩衝液、SDS−トリス−トリシン緩衝液など、リン酸緩衝液としては、ACN/NaCl/等張リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム/ACNなど、ホウ酸緩衝液としては、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、トリス−ホウ酸塩/EDTA、ホウ酸塩/ACNなど、酢酸緩衝液としては、トリス−酢酸塩/EDTAなどが挙げられる。好ましくは、トリス/グリシン/メタノール緩衝液、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液である。トリス/グリシン/メタノール緩衝液の組成としては、トリス10〜15mM、グリシン70〜120mM、メタノール7〜13%程度が例示される。ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液の組成としては、ホウ酸ナトリウム5〜20mM程度が例示される。
【0043】
これにより、標的分子を含めて、被験試料中に存在する分子は支持体表面上に効率よく捕捉される。プレートを乾燥させた後、後の質量分析(MALDI法による場合)に有利なように、レーザー光を吸収し、エネルギー移動を通じて分析対象物分子のイオン化を促進するためにマトリックスと呼ばれる試薬を添加することもできる。当該マトリックスとしては、質量分析において公知のものを用いることができる。例えば、シナピン酸(sinapinic acid;SPA (=3,5-dimethoxy-4-hydoroxycinammic acid))、インドールアクリル酸(Indoleacrylic acid;IAA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(2,5-dihydroxybenzoic acid;DHB)、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinammic acid;CHCA)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、DHBまたはCHCAである。
【0044】
上記の方法により支持体表面上に捕捉された被験試料中の分子を質量分析することにより、分子量に関する情報から、標的分子である本発明のマーカーペプチド(セット)の存在および量を同定することができる。
質量分析装置は、ガス状の試料をイオン化した後、その分子や分子断片を電磁場に投入し、その移動状況から質量数/電荷数によって分離、物質のスペクトルを求めることにより、物質の分子量を測定・検出する装置である。試料とレーザー光を吸収するマトリックスを混合、乾燥させて結晶化し、マトリックスからのエネルギー移動によるイオン化とレーザー照射による瞬間加熱により、イオン化した分析対象物を真空中に導くマトリックス支援レーザー脱イオン化(MALDI)と、初期加速による試料分子イオンの飛行時間差で質量数を分析する飛行時間型質量分析(TOFMS)とをあわせて用いるMALDI-TOFMS法、1分析対象物を1液滴にのせて液体から直接電気的にイオン化する方法、試料溶液を電気的に大気中にスプレーして、個々の分析対象物多価イオンをunfoldの状態で気相に導くナノエレクトロスプレー質量分析(nano-ESMS)法等の原理に基づく質量分析装置を使用することができる。
質量分析用プレート上の分子を質量分析する方法自体は公知である。例えば、WO 2004/031759に記載の方法を、必要に応じて適宜改変して使用することができる。
【0045】
質量分析の結果から、標的分子の分子量情報に基づいて、被験試料中の標的分子の有無およびその量が同定され得る。この工程において、質量分析装置からの情報を、任意のプログラムを用いて、健常人由来の生体試料における質量分析データと比較して、示差的な(differential)情報として出力させることも可能である。そのようなプログラムは周知であり、また、当業者は、公知の情報処理技術を用いて、容易にそのようなプログラムを構築もしくは改変することができることが理解されよう。
【0046】
特に好ましい態様においては、質量分析用プレートとしてプロトセラ社のブロットチップを用いて、上記の各工程を実施し、MALDI型質量分析装置で本発明のマーカーペプチドを定量比較(ディファレンシャル解析)する。さらに、必要に応じて、同一チップに残存する該マーカーペプチドを同定することもできる。あるいは、被験試料の定量比較(ディファレンシャル解析)までをプロトセラ社のブロットチップシステムを用いて実施し、該マーカーペプチドの同定を、高速液体クロマトグラフィーとイオンスプレイ型質量分析装置の組み合わせ装置(LC−MS/MS)で実施することも可能である。
【0047】
本発明の判定方法における本発明のマーカーペプチドの検出は、それに対する抗体を用いて行うこともできる。かかる方法は、最適化されたイムノアッセイ系を構築してこれをキット化すれば、上記質量分析装置のような特殊な装置を使用することなく、高感度かつ高精度にマーカーペプチドを検出することができる点で、特に有用である。
【0048】
本発明のマーカーペプチドに対する抗体は、例えば、本発明のマーカーペプチドを、これを発現する患者由来の生体試料から単離・精製し、該ペプチドを抗原として動物を免疫することにより調製することができる。あるいは、得られるペプチド量が少量である場合等は、該ペプチドをペプチダーゼ等によって部分消化し、得られる断片のアミノ酸配列をエドマン法などにより決定し、その配列を基に該ペプチドをコードする核酸とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドを合成、これをプローブとして該患者由来のcDNAラリブラリーを鋳型にハイブリダイゼーション法により該ペプチドを含む蛋白質をコードするcDNAを得るか、あるいは該オリゴヌクレオチドをプライマーとして該患者由来のRNAを鋳型にしてRT-PCRを行うことにより、該ペプチドをコードするcDNA断片を得て、該cDNA断片を適当な発現ベクターに組み込んで適当な宿主細胞に導入し、得られる形質転換体を培養して組換えペプチドを採取することによって、本発明のペプチドを大量に調製することができる。あるいは上記のようにして得られるcDNAを鋳型として、無細胞転写・翻訳系を用いて本発明のペプチドを取得することもできる。
【0049】
あるいはまた、上記した質量分析法において、タンデム質量分析(MS/MS)法を用いることにより、直接本発明のペプチドのアミノ酸配列を同定し、該配列情報に基づいて該ペプチドの全部もしくは一部を合成し、これを抗原(ハプテン)として利用することもできる。MS/MS法を用いたペプチド同定法としては、MS/MSスペクトルを解析してアミノ酸配列を決定するde novo sequencing法と、MS/MSスペクトル中に含まれる部分的な配列情報(質量タグ)を用いてデータベース検索を行い、ペプチドを同定する方法等が挙げられる。
【0050】
上述のように、本発明の好ましいペプチドは、α1-AT、TTR、ApoA-I、ApoB-100のフラグメントであり、より好ましくは、(1) 配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列(A1AT(1-24))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド;(2) 配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列(TTR(81-103))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド;(3) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列(AI(62-83))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド;(4) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列(AI(189-214))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド;(5) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列(AI(196-214))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド;および(6) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列(B100(3218-3249))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。
従って、本発明のマーカーペプチドに対する抗体は、例えば、A1AT(1-24)、TTR(81-103)、AI(62-83)、AI(189-214)、AI(196-214)またはB100(3218-3249)の配列の全部もしくは一部を、上記アミノ酸配列情報に基づき、公知のペプチド合成法を用いて合成するか、あるいは単離したα1-AT、TTR、ApoA-IまたはApoB-100を適当なペプチダーゼ等で切断して、A1AT(1-24)、TTR(81-103)、AI(62-83)、AI(189-214)、AI(196-214)またはB100(3218-3249)の配列の全部もしくは一部を含むペプチド断片を取得し、これを免疫原として調製することが望ましい。
【0051】
本発明のマーカーペプチドに対する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する場合がある)は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子だけでなくそのフラグメントをも包含し、例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、minibody等が挙げられる。
【0052】
例えば、ポリクローナル抗体は、上記のいずれかの方法または他の方法によって調製された本発明のマーカーペプチドもしくはその部分ペプチド(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアータンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0053】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、本発明のマーカーペプチドもしくはその部分ペプチドを市販のアジュバントと共にマウスに2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該ペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、このましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
【0054】
本発明の抗体を用いる本発明の判定方法は、特に制限されるべきものではなく、被験試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法等が好適に用いられる。
【0055】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0056】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0057】
サンドイッチ法においては、不溶化した本発明の抗体に被験試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被験試料中の本発明のペプチド量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。
【0058】
本発明のポリペプチドに対するモノクローナル抗体を、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることもできる。
競合法では、被験試料中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被験試料中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被験試料の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被験試料中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被験試料中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被験試料中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0059】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のペプチドの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies)) (以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0060】
あるいは、本発明の抗体を用いる別の本発明の判定方法として、該抗体を上記したような質量分析計に適合し得るプローブの表面上に固定化し、該プローブ上の該抗体に被検試料を接触させ、該抗体に捕捉された生体試料成分を質量分析にかけ、該抗体が認識するマーカーペプチドの分子量に相当するピークを検出する方法が挙げられる。
【0061】
上記のいずれかの方法により、被験者である患者体液において、生体崩壊症候群のいずれかのステージにおける特異的なマーカーペプチドが、健常人体液におけるレベルと統計学的に有意な差をもって検出された場合には、該患者は生体崩壊症候群の当該ステージの病態を示している可能性が高いと判定することができる。
【0062】
本発明の判定方法は、患者から時系列で生体試料を採取し、各試料における本発明のマーカーペプチドの発現の経時変化を調べることにより行うことが好ましい。生体試料の採取間隔は特に限定されないが、患者のQOLを損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましく、例えば、血漿もしくは血清を試料として用いる場合、約1分〜約12時間の間隔で採血を行うことが好ましい。各試料について上記のようにして本発明のマーカーペプチドの発現を調べ、経時的に、生体崩壊症候群のより進行したステージに特異的なマーカーペプチドが健常人体液におけるレベルと統計学的に有意な差をもって検出された場合、あるいは健常人体液におけるレベルとの差が増大した場合には、該患者において生体崩壊症候群の病態が進行している可能性が高いと判定することができる。一方、患者における該マーカーペプチドのレベルと、健常人体液におけるレベルとの差が減少した場合には、該患者において生体崩壊症候群の病態が改善されている可能性が高いと判定することができる。
【0063】
上記した生体崩壊症候群のステージの判定方法を実施した結果、ある特定のマーカーペプチドの増加が検出された場合、該マーカーペプチドの親蛋白質(即ち、該マーカーペプチドを生成せしめる分解酵素により切断される基質蛋白質)が分解されて患者体内で減少していることが示唆される。従って、当該親蛋白質を患者体内に補給することにより、効果的な栄養アセスメントを達成することができる。従って、本発明はまた、上記した生体崩壊症候群のステージの判定方法により、ある蛋白質の分解産物の有意な増加が認められた患者に、該蛋白質の有効量を投与することを含む方法を提供する。そのような蛋白質としては、アルブミン、レチノール結合蛋白、トランスサイレチン、トランスフェリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。このような栄養アセスメント蛋白の投与については、例えば、点滴静注などの、自体公知の手法を適宜用いることができる。
【0064】
また、上記した生体崩壊症候群のステージの判定方法を実施した結果、上記治療ペプチドのレベルの減少および/または上記増悪ペプチドのレベルの上昇が検出された場合、当該患者に、上記治療ペプチドの量もしくは活性を増大させる物質および/または上記増悪ペプチドの量もしくは活性を低減させる物質の有効量を投与することができる。当該物質の剤形、投与ルート、投与量については、上記と同様である。
【0065】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる生体崩壊症候群の判定方法は、前回サンプリングと当回サンプリングとの間に、被験者である患者に対して該症候群の治療措置が講じられた場合に、当該措置による治療効果を評価するのに用いることができる。即ち、治療の前後にサンプリングした試料について、治療後の状態が治療前の状態と比較して病態の改善が認められると判定された場合に、当該治療の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較して病態の改善が認められない、あるいはさらに悪化していると判定された場合には、当該治療の効果がなかったと評価することができる。
【0066】
そして、もしも最善の治療方法を持ってしても該生体崩壊症候群患者体液と健常人体液との間で統計学的に有意な差を解消できない事態に陥った場合には、該患者は臓器・器官の機能廃絶あるいは生命存続の危機にあると予測することができる。従って、本発明の判定方法はまた、上記のように治療効果を評価した結果、第IV期にある生体崩壊症候群患者において、とり得るいかなる治療も効果がなかったと判定された場合に、該患者が臓器・器官の機能廃絶および/または生命存続の危機にあると予測する方法としても利用することができる。当該予測方法の被験者となり得る患者は、生体崩壊症候群に帰着し得る基礎疾患に罹患した患者であれば特に制限はないが、好ましくは、上述の各種基礎疾患患者の中でも、重篤な症状を呈している患者、例えば、癌、播種性血管内凝固症候群、多臓器不全症、拒食症、さらには原因不明の予後不良とされる難病などである。また、一臓器の機能廃絶をきたす疾患、例えば網膜色素変性症を有する患者なども被験者となり得る。なお、患者の年齢、性別、人種などは何ら限定されない。
【0067】
特に、本発明の好ましいマーカーペプチドであるAI(62-83)、AI(189-214)、AI(196-214)またはB100(3218-3249)が検出された場合には、当該患者は極めて予後不良であることがほぼ確定的に診断できる。現在、DICやMOFの治療としては、抗凝固因子(ヘパリン、アンチトロンビン等)や分解酵素インヒビターの投与、血液浄化療法などが施されているが、回復の可能性を判定する有効な手段が存在しないがために、既に回復する見込みのない患者に対しても同様に治療がなされており、患者の尊厳を損なうばかりか、医療経済を圧迫している。従って、本発明のマーカーペプチドをターゲットとした生体崩壊症候群の新規診断法は、このような課題に対する有効な解決策を提供するものである。
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。尚、測定は、特にことわらない限り、ブルカー・ダルトニクス社のウルトラフレックスIIとプロトセラ社のブロットチップを用いて行った。
【実施例】
【0069】
実施例1 BlotChipを用いたディファレンシャルプロファイリング解析
予後不良の難病として知られるクロウ・フカセ症候群患者血清および健常人血清を電気泳動サンプルバッファーで処理した後、4-12%グラジェントポリアクリルアミドゲル(Invitorigen)にアプライし電気泳動を行った。電気泳動終了後ゲルを切り出しホウ酸バッファー中でBlotChipに90mA,120分間転写した。BlotChipへの電気転写終了後、BlotChipを超純粋でリンスした後、チップ全体にマトリックス(α-Cyano-4-hydroxy cinamic acid)を塗布後、matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight (MALDI-TOF) mass spectrometer (Bruker Daltnics社製Ultra-FlexII)でMS測定を行った。測定パラメータは、Detector voltage 1685V, Supression1000, Laser Intensity は28〜35のFuzzyモードで、サンプルの存在するチップ表面を全部で205箇所測定し、得られた41スペクトルのIntensityの積算をおこない、1スペクトル(以下積算スペクトルと呼ぶ)に変換した。得られた積算スペクトルを用いてClinProTools(Bruker Daltonik GmbH)によるディファレンシャルプロファイリング解析を行った。また、独自にヒト患者血清および健常人血清の積算スペクトルデータを重ね合わせ、ClinProToolsの結果を精査した。結果の一部を図1に示した。I期〜IV期を通じて、健常人に対して2倍以上のレベルで検出されるペプチド(No. 6)、I期〜IV期を通じて、健常人に対して1/2倍以下のレベルで検出されるペプチド(No. 7)、I、II、IIIおよびIV期のいずれかで、それぞれ特異的に健常人に対して2倍以上のレベルで検出されるペプチド(それぞれNo. 2, No. 3, No. 4およびNo. 5)が得られた。
【0070】
実施例2 BlotChip上でのde novo MS/MS解析によるペプチドの同定
同定にはmatrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight (MALDI-TOF) mass spectrometer (Bruker Daltnics社製Ultra-FlexII)を使用し、Bradykinin, AngiotensinII, AngiotensinI, SubstanceP, Bombesin,Renin Substrate, ACTH Clip{1-17}, ACTH Clip{18-39}, Somatostatinを用いて質量校正を行った。その後、リフレクトロン測定モードでプロファイリングをとり、選択したペプチドピークとそのフラグメントイオンからBiotools(Bruker Daltonik GmbH)に組み込まれているMASCOT検索エンジンを通して、NCBInr及び、SwissProtデータベースと合わせ、MS/MS解析による同定を行った。
その結果、第I期に特異的な
ペプチドとして、配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列(AI(62-83))、配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列(AI(189-214))、配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列(AI(196-214))、および配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列(B100(3218-3249))からそれぞれなるペプチドが、第IV期に特異的なペプチドとして、配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列(A1AT(1-24))および配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列(TTR(81-103))からそれぞれなるペプチドが同定された。ホモロジー検索の結果、AI(62-83)、AI(189-214)およびAI(196-214)は、いずれもアポリポ蛋白A-Iの分解産物であり、B100(3218-3249)はアポリポ蛋白B-100の分解産物であり、A1AT(1-24)はα1−アンチトリプシンの分解産物であり、TTR(81−103)はトランスサイレチンの分解産物であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の新規な生体崩壊症候群診断システムは、該症候群の病態を迅速且つ的確に判断できるので、該症状の早期発見、早期治療が可能となる点で有用である。また、生体内に存在する蛋白質の分解産物からヒントを得た治療薬の開発が可能となり、生体崩壊症候群の有効な治療法の開発、ひいては臓器・器官の予後の改善効果とともに従来の診断技術では死に至るはずの多くの患者を救命し得ることが期待される。さらに、生体崩壊症候群における終末ステージの判定がエビデンスに基づいて迅速・的確に判断できるので、回復の見込みのない患者に対する無意味な治療の継続を中止することができ、ひいては、先進国間で問題化している国民医療費の削減につながり、日本だけでなく世界各国の医療経済の改善にも大きく寄与するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】生体崩壊症候群の各臨床ステージに特異的なマーカーの検出を示す図である。図1Aは生体崩壊症候群の各臨床ステージ(I〜IV期)患者および健常人由来の血清試料の質量分析チャートの一部を示し、図1Bは得られたバイオマーカーの定量比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体崩壊症候群患者体液と健常人体液とで統計学的に有意な差をもって検出される、生体内に存在する蛋白質の分解産物である1以上のペプチドからなる、生体崩壊症候群のマーカーペプチドセット。
【請求項2】
前記統計学的に有意な差が生体崩壊症候群のI期〜IV期の少なくとも1つのステージで認められる、請求項1記載のマーカーペプチドセット。
【請求項3】
前記蛋白質が、生理活性物質のキャリア蛋白質、蛋白分解酵素インヒビターおよび栄養アセスメント蛋白質からなる群より選択される、請求項1または2記載のマーカーペプチドセット。
【請求項4】
前記ペプチドの少なくとも1つが、健常人体液から実質的に検出されないものである、請求項1〜3のいずれかに記載のマーカーペプチドセット。
【請求項5】
前記ペプチドの少なくとも1つが、分子量約50,000以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のマーカーペプチドセット。
【請求項6】
蛋白質がα1-アンチトリプシン、トランスサイレチン、アポリポ蛋白A-Iおよびアポリポ蛋白B-100からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれかに記載のマーカーペプチドセット。
【請求項7】
以下の(1)〜(6)からなる群より選択されるペプチドの少なくとも1つを含有する、請求項6記載のマーカーペプチドセット。
(1) 配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(4) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(5) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(6) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
【請求項8】
請求項7記載のマーカーペプチドセットのいずれかのペプチドを認識する抗体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成するいずれかのペプチドであって、生体崩壊症候群に対して治療的に作用する生理活性を有するペプチド。
【請求項10】
請求項9記載のペプチドの量もしくは活性を増大させる物質を含有してなる、生体崩壊症候群の治療剤。
【請求項11】
前記物質が、請求項9記載のペプチド、該ペプチドのアゴニスト、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素、該ペプチドのN末側及びC末側に該分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含む、該分解酵素の基質もしくは基質アナログ分子、該分解酵素の産生を促進する分子、該分解酵素の活性を促進する分子、並びに該分解酵素のインヒビターの産生を抑制する分子からなる群より選択される、請求項10記載の治療剤。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成するいずれかのペプチドであって、生体崩壊症候群を増悪させる生理活性を有するペプチド。
【請求項13】
請求項12記載のペプチドの量もしくは活性を低減させる物質を含有してなる、生体崩壊症候群の治療剤。
【請求項14】
前記物質が、請求項12記載のペプチドのアンタゴニスト、生体内に存在する蛋白質から該ペプチドを遊離する分解酵素の産生を抑制する分子、該分解酵素のインヒビター、並びに該インヒビターの産生を促進する分子からなる群より選択される、請求項13記載の治療剤。
【請求項15】
患者の体内における請求項9記載のペプチドの量もしくは活性を増大させる、および/または請求項12記載のペプチドの量もしくは活性を低減させることを含む、生体崩壊症候群の治療方法。
【請求項16】
生体崩壊症候群におけるステージの判定方法であって、該症候群に帰着し得る基礎疾患に罹患した患者由来の生体試料中の、請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは請求項9および/または12記載のペプチドを検出することを含む方法。
【請求項17】
α1-アンチトリプシンおよび/またはトランスサイレチンの分解産物であるペプチドが検出された場合にIV期、およびアポリポ蛋白A-Iおよび/またはアポリポ蛋白B-100の分解産物であるペプチドが検出された場合にI期であると判定することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
α1-アンチトリプシンの分解産物が下記(1)のペプチド、トランスサイレチンの分解産物が下記(2)のペプチド、アポリポ蛋白A-Iの分解産物が下記(3)〜(5)から選ばれる1以上のペプチド、およびアポリポ蛋白B-100の分解産物が下記(6)のペプチドである、請求項17記載の方法。
(1) 配列番号1に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜24で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号81〜103で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号62〜83で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(4) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号189〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(5) 配列番号3に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号196〜214で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
(6) 配列番号4に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号3218〜3249で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド
【請求項19】
生体試料が体液である、請求項16〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
体液が血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、眼房水、硝子体液およびリンパ液からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
生体試料を質量分析にかけることを含む、請求項16〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは請求項9および/または12記載のペプチドをそれぞれ認識する抗体を用いることを特徴とする、請求項16〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
患者から時系列で生体試料を採取し、該試料における請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは請求項9および/または12記載のペプチドの種類および量の経時変化を調べることを特徴とする、請求項16〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
生体崩壊症候群の治療方法であって、請求項16〜23のいずれかに記載の方法により、ある蛋白質の分解産物の有意な増加が認められた患者に、該蛋白質の有効量を投与することを含む方法。
【請求項25】
生体崩壊症候群患者における治療効果の評価方法であって、治療が施される前後に該患者から生体試料を採取し、該試料における請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチド並びに/あるいは請求項9および/または12記載のペプチドの種類および量の変化を調べることを特徴とする方法。
【請求項26】
生体崩壊症候群患者における臓器・器官の機能廃絶および/または生命存続の危機の予測方法であって、請求項25記載の方法により、IV期の患者においてとり得るいかなる治療も効果がなかったと判定された場合に、該患者が臓器・器官の機能廃絶および/または生命存続の危機にあると予測することを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項1〜7のいずれかに記載のマーカーペプチドセットを構成する1以上のペプチドにおいて、各ペプチドのN末側および/またはC末側に、該ペプチドを生体内に存在する蛋白質から遊離する分解酵素により認識・切断されるアミノ酸配列をさらに含む、該分解酵素同定用ペプチドセット。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332120(P2007−332120A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169359(P2006−169359)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(504150782)株式会社プロトセラ (8)
【Fターム(参考)】