説明

新規組成物およびその製造方法

【課題】マレイミド系高分子を含有する組成物において、溶剤の臭気に起因する取扱いの煩雑さ、すなわち作業性が改善されるとともに、該マレイミド系高分子が均一に溶解された、新規な組成物を提供する。
【解決手段】ビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られるマレイミド系高分子、並びに(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する組成物であって、二以上の溶剤を使用する際は、(A)の中、若しくは(B)の中から二以上選択してもよく、又は(A)及び(B)の両方からそれぞれ一以上選択してもよく、(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られるマレイミド系高分子と、特定の高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤の一方又は両方を含有する溶剤とを含有する新規組成物、及びこの組成物の製造方法に関し、さらに上記新規組成物からなる液晶配向剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、ノートパソコンやデスクトップパソコンのモニターをはじめ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型のディスプレイ等の様々な液晶表示装置に使われており、最近ではテレビとしても用いられるようになってきた。さらに液晶表示素子は、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブ等のオプトエレクトロニクス関連素子としても利用されている。
【0003】
液晶表示素子は、通常は、1)対向配置されている一対の基板、2)前記一対の基板それぞれの対向している面の一方又は両方に形成されている電極、3)前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜、及び4)前記一対の基板間に形成された液晶層、を有する。
【0004】
液晶表示素子の技術の発展は、駆動方式や素子構造の改良のみならず、液晶表示素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。液晶表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は、液晶表示素子の表示品位に係わる重要な要素の一つであり、液晶表示素子の高品質化に伴って液晶配向膜の役割が年々重要になってきている。
【0005】
液晶配向膜は、液晶配向剤より形成される。従来、用いられてきた液晶配向剤の代表的なものには、テトラカルボン酸無水物又はその誘導体と、ジアミン又はその誘導体とを反応させて得られる、ポリアミック酸又は可溶性のポリイミドを有機溶媒に溶解させた溶液が挙げられる。通常、ポリイミド系配向剤とは、上記方法で得られる高分子を用いたものを示す。
【0006】
一方、ポリイミド以外にも、ビスマレイミドとジアミンとを反応させて得られる高分子(以下、マレイミド系高分子ともいう)を含有する組成物も液晶配向剤として使用できることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。これらの文献に記載の高分子を使用した場合、液晶配向性及び電気光学特性は良好である。しかし、これらの文献に記載のビスマレイミドとジアミンとの重合反応は、毒性及び臭気の点で課題のあるクレゾール等のフェノール系溶剤中で行う必要があり、得られた高分子溶液をそのまま液晶配向剤として使用することは現実的ではなかった。即ち、重合の終了した高分子溶液にはフェノール系溶剤が存在し、この溶液からフェノール系溶剤を除くために、一旦メタノール等の貧溶剤中で得られた高分子を沈殿させ、該高分子をN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤やその他の組成物に再溶解して液晶配向剤を調製するような、煩雑な操作が必要であった。
【0007】
重合反応をクレゾール以外の溶剤中、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル中で実施する方法も知られている(例えば、特許文献3)。しかし、これらの溶剤は得られる高分子を溶解させる能力、又は反応を円滑に進行させる能力が必ずしも十分ではなく、高分子が重合中に析出して攪拌が困難になる、高分子量の重合体が得られない等の課題があった。また、重合反応をエチレングリコールモノメチルエーテル中で実施した場合、仮に高分子が溶液状で得られた場合でも、エチレングリコールモノメチルエーテルは常温での蒸発速度が大きいため、高分子溶液を得られたままの状態で塗料等の用途に適用すると、溶剤の蒸発による粘度の上昇が大きいために使用しづらい場合もあった。このような時には、この溶液からエチレングリコールモノメチルエーテルを除くために、一旦メタノール等の貧溶剤中で得られた高分子を沈殿させ、該高分子をN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に再溶解して塗料等の組成物を調製するような、煩雑な操作が必要であった。
【0008】
一方、ジアミンと過剰のビスマレイミドとをNMP(N−メチルピロリドン)等の溶剤中で反応させて末端にマレイミド基が存在するプレポリマーを合成する方法が知られており、この方法により得られるプレポリマーを熱硬化させて特定の用途に用いることが知られている(例えば、特許文献4)。
しかし、従来のプレポリマーの製法は、溶剤にNMP等を用いて行われ、その際に着色しやすいため、これを塗料等に応用する際には、色調が限定される場合がある等の課題があった。また、ジアミンに脂肪族ジアミンを用いた場合、プレポリマーを作製する際に架橋反応が起こって反応液が固化又はゲル化しやすいという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−043725号公報
【特許文献2】特開平7−110483号公報
【特許文献3】特開平5−148360号公報
【特許文献4】特公昭46−23250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、溶剤の臭気に起因する取扱いの煩雑さ、すなわち作業性が改善され、また、均一な溶液として安定に存在する組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するための検討を行った結果、ビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られる特定の高分子と、特定の高極性アルコールを含有する溶剤とを含有する組成物が上記課題を解決することを見出した。
本発明は以下の構成からなる。
【0012】
[1] ビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られるマレイミド系高分子、並びに(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する組成物であって、(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である組成物。
【0013】
[2] 前記高極性アルコール系溶剤が下記式(1)で示されるテトラヒドロフルフリルアルコール、下記式(2)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、下記式(3)で示される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、下記式(4)で示される乳酸アルキル、及び下記式(5)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド、下記式(6)で示される化合物、下記式(7)で示される化合物、及び下記式(8)で示される化合物からなる群から選択される一以上であり、前記プロトン性アミド系溶剤が下記式(9)〜(13)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、[1]に記載の組成物。
【0014】
【化1】

(式(4)中、Rは炭素数1〜4のアルキルを表す。)
【0015】
[3] 前記高極性アルコール系溶剤が、前記式(1)〜(4)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、[2]に記載の組成物。
【0016】
[4] 前記ジアミンが脂肪族ジアミン又は脂環式ジアミンである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の組成物。
【0017】
[5] 前記ビスマレイミドが下記式(M1)で示されるビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン、下記式(M2)で示されるN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン、ビス(4−マレイミド−3,5−ジ(2−プロピル)フェニル)メタン、及び下記式(M3)で示される2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンからなる群から選択される一以上であり、前記ジアミンが下記式(A1)で示される4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、下記式(A2)で示される4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、下記式(A3)で示されるピペラジン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン及び1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパンからなる群から選択される一以上である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の組成物。
【0018】
【化2】

【0019】
[6] 前記溶剤が、該溶剤全量に対して前記高極性アルコール及びプロトン性アミド系溶剤を合計で20重量%以上含有する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の組成物。
【0020】
[7] 前記組成物が含有する溶剤の23℃、相対湿度50%における蒸発速度が、23℃、相対湿度50%における酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときに40未満である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の組成物。
【0021】
[8] 前記組成物が含有する溶剤の常圧における沸点が130℃よりも高い、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の組成物。
【0022】
[9] ビスマレイミドとジアミンとを含有する原料を、(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する溶剤中で重合させて高分子を得る工程を含む、前記高分子と(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する組成物の製造方法であって、(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である組成物の製造方法。
【0023】
[10] 前記高極性アルコール系溶剤が前記式(1)で示されるテトラヒドロフルフリルアルコール、前記式(2)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、前記式(3)で示される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、前記式(4)で示される乳酸アルキル、及び前記式(5)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド、前記式(6)で示される化合物、前記式(7)で示される化合物、及び前記式(8)で示される化合物からなる群から選択される一以上であり、前記プロトン性アミド系溶剤が前記式(9)〜(13)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、[9]に記載の方法。
【0024】
[11] 前記高極性アルコール系溶剤が、前記式(1)〜(4)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、[10]に記載の方法。
【0025】
[12] 前記ジアミンが脂肪族ジアミン又は脂環式ジアミンである、[9]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
[13] 前記ビスマレイミドが前記式(M1)で示されるビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン、前記式(M2)で示されるN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン、ビス(4−マレイミド−3,5−ジ(2−プロピル)フェニル)メタン、及び前記式(M3)で示される2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンからなる群から選択される一以上であり、前記ジアミンが前記式(A1)で示される4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、前記式(A2)で示される4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、前記式(A3)で示されるピペラジン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン及び1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパンからなる群から選択される一以上である、[9]〜[12]のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
[14] 前記溶剤が、該溶剤全量に対して前記高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤を20重量%以上含有する、[9]〜[13]のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
[15] 前記組成物が含有する溶剤の23℃、相対湿度50%における蒸発速度が、23℃、相対湿度50%における酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときに40未満である、[9]〜[14]のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
[16] 前記組成物が含有する溶剤の常圧における沸点が130℃よりも高い、[9]〜[14]のいずれか一項に記載の方法。
【0030】
[17] 前記高分子の重合後に溶剤置換する工程を含まない、[9]〜[16]のいずれか一項に記載の方法。
【0031】
[18] 前記原料中のビスマレイミドとジアミンを等モル比で原料として用いることで、前記高分子としてマレイミド系高分子が得られる、[9]〜[17]のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
[19] 前記原料中のビスマレイミドのモル数がジアミンのモル数に対して過剰になるようにビスマレイミドとジアミンを原料として用いることで、前記高分子として末端にマレイミド基が存在するプレポリマーを得る、[9]〜[17]のいずれか一項に記載の方法。
【0033】
[20] [18]に記載の方法により得られる、前記マレイミド系高分子と前記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤とを含有する組成物。
【0034】
[21] [19]に記載の方法により得られる、前記プレポリマーと前記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤とを含有する組成物。
【0035】
[22] [1]〜[8]及び[20]のいずれか一項に記載の組成物を含有する被覆材料。
【0036】
[23] [1]〜[8]及び[20]のいずれか一項に記載の組成物を含有する絶縁材料。
【0037】
[24] [1]〜[8]及び[20]のいずれか一項に記載の組成物を含有するプリント配線基板用材料。
【0038】
[25] [1]〜[8]及び[20]のいずれか一項に記載の組成物を含有する液晶配向剤。
【0039】
[26] [21]に記載の組成物を含有する被覆材料。
【0040】
[27] [21]に記載の組成物を含有する絶縁材料。
【0041】
[28] [21]に記載の組成物を含有する接着剤。
【0042】
[29] [21]に記載の組成物を含有する封止材。
【0043】
[30] [21]に記載の組成物を含有するプリント配線基板用材料。
【0044】
[31] [21]に記載の組成物を含有する成形材料。
【0045】
[32] [21]に記載の組成物を含有する液晶配向剤。
【0046】
[33] [25]又は[32]に記載の液晶配向剤の塗膜が焼成されて形成される液晶配向膜。
【0047】
[34] 一対の基板と、液晶分子を含有し、前記一対の基板の間に形成される液晶層と、液晶層に電圧を印加する電極と、前記液晶分子を所定の方向に配向させる液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、
前記液晶配向膜が[33]に記載の液晶配向膜である液晶表示素子。
【発明の効果】
【0048】
特定の高分子と特定の高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤を含有する溶剤とを含有する組成物とすることで、溶剤の臭気に関する問題が改善され、高い作業性が得られる。また、該溶剤は前記高分子に対して高い溶解力を有するので、組成物として安定して均一な溶液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明でいうマレイミド系高分子とは、原料としてビスマレイミドとジアミンが用いられ、ビスマレイミドのマレイミド基とジアミンとが付加反応を起こして得られる重合体をいう。
上記マレイミド系高分子の分子量は、5千〜50万であることが好ましく、8千〜25万であることがより好ましく、1万〜10万であることが特に好ましい。
なお、本発明において高分子の分子量を測定する際には、測定機器にAlliance2695、WATERS社製を、展開溶剤に1%リン酸含有N,N−ジメチルホルムアミドを用い、標準試料として(ポリスチレン)を用いて液体クロマトグラフィー分析を行う。ここで使用するカラムは、HSPgel(登録商標) RTMB−M、WATERS社製のものが挙げられる。また本発明でいう分子量とは重量平均分子量をいう。
【0050】
前記組成物に含有させることができるマレイミド系高分子は、溶液にする際の取扱い容易性の観点から、構造的特徴として線状又は分岐状であるものが好ましい。
線状又は分岐状である高分子は、溶媒中で重合させる際や、高分子を溶媒中に溶解させる際に、ゲル化しにくい特徴がある。組成物にする際には、溶媒に溶解させることができ、ゲル化や粘度変化が起こりにくいので保存安定性が良好である、適度な粘度を有する、等の特徴がある。
【0051】
本発明の組成物は、ビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られるマレイミド系高分子、並びに(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する組成物である。(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である。二以上の溶剤を使用する際は、(A)の中、若しくは(B)の中から二以上選択してもよく、又は(A)及び(B)の両方からそれぞれ一以上選択してもよい。
【0052】
本発明の組成物にはビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られるマレイミド系高分子が含まれる。
上記マレイミド系高分子を作製する際に用いられるビスマレイミドとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン又はシロキサン骨格等を有するジアミンの2つのアミノ基をマレイミド化させた構造のもの等が挙げられる。例えば下記式(M)で示される化合物が挙げられる。
【0053】
【化3】

【0054】
式(M)中、Rは単結合、炭素数1〜40のアルキレンを有する基、又は脂環もしくは芳香環を有する2価の基を表す。該アルキレン中の−CH2−は−O−、−NH−、−CO−、−CHY2−、−C(Y22−、又は−NY2−で置き換えられてよく、Y2は独立して−H、炭素数1〜20のアルキル、又は炭素数2〜20のアルケニルを表し、該アルキレンが炭素数2以上である場合には、該アルキレン中の−CH2CH2−は−CH=CH−、−C≡C−、又は−N=N−で置き換えられてよく、該アルキレン上の−Hは−F、−Cl、−Br、−C≡N、−OH、−COOH、−SO3H、又は−PO32で置き換えられてよく、脂環もしくは芳香環上の−Hは−F、−Cl、−Br、−C≡N、−OH、−COOH、−SO3H、又は−PO32で置き換えられてよい。
【0055】
上記式(M)で示される化合物として、具体的には、下記式(M2)で示されるN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン、下記式(M1)で示されるビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン、ビス(4−マレイミド−3,5−ジ(2−プロピル)フェニル)メタン、及び下記式(M3)で示される2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン等が挙げられる。
【0056】
【化4】

【0057】
上記ビスマレイミドは単独で用いられても、2種以上を混合して用いられてもよい。上記ビスマレイミドのうち、特に好ましく用いられるのは上記式(M1)で示されるビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン及び上記式(M2)で示されるN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタンである。
【0058】
上記マレイミド系高分子を作製する際に用いられるジアミンとしては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン又はシロキサン骨格等を有するジアミン等が挙げられる。好ましくは、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン又はシロキサン骨格等を有するジアミンである。このなかでも、脂肪族ジアミン又は脂環式ジアミンが特に好ましく用いられる。具体的には、下記式(A2)で示される4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、下記式(A1)で示される4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン、1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパン及び下記式(A3)で示されるピペラジン等が挙げられる。
【0059】
【化5】

【0060】
上記ジアミンは単独で用いられても、2種以上を混合して用いられてもよい。上記ジアミンのうち、特に好ましく用いられるのは上記式(A1)で示される4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)及び上記式(A2)で示される4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)である。
【0061】
本発明の組成物は、(A)及び(B)からなる群から選択される溶剤を一以上含有する。(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である。前記溶剤は、単独でも、二以上を含有してもよく、二以上の溶剤を使用する際は、(A)の中、若しくは(B)の中から二以上選択してもよく、又は(A)及び(B)の両方からそれぞれ一以上選択してもよい。
【0062】
上記高極性アルコール系溶剤として、具体的には、下記式(1)で示されるテトラヒドロフルフリルアルコール、下記式(2)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、下記式(3)で示される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、下記式(4)で示される乳酸アルキル、下記式(5)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド、下記式(6)で示される化合物、下記式(7)で示される化合物、及び下記式(8)で示される化合物等が挙げられる。
【0063】
【化6】

(式(4)中、Rは炭素数1〜4のアルキルを表す。)
【0064】
上記式(4)中、Rの炭素数は1〜3であることが好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
【0065】
上記高極性アルコールは1種のみを用いてもよいし、上記式(1)〜(7)で表される化合物の複数種を混合して用いてもよい。上記高極性アルコールの中でも、特に、上記(1)〜(4)で示される化合物が好ましく用いられる。高極性アルコールは、反応時(重合時)における副反応(架橋反応)を抑制する観点から好ましい。
【0066】
前記プロトン性アミド系溶剤は、分子構造中にアミド結合を含み、かつプロトン供与性を有する溶剤である。プロトン性アミド系溶剤として、具体的には下記式(9)〜(13)で示される化合物等が挙げられる。
【0067】
【化7】

【0068】
上記プロトン性アミド系溶剤は1種のみを用いてもよいし、上記式(9)〜(13)で表される化合物の複数種を混合して用いてもよい。プロトン性アミド系溶剤は、反応時(重合時)における副反応(架橋反応)を抑制する観点及び溶解性の向上の観点から好ましい。
【0069】
上記マレイミド系高分子は、上記ビスマレイミドと上記ジアミンとを反応させて得られるものである。
上記マレイミド系高分子を得る方法は、例えば下記で詳述する本発明の組成物の製造方法により、ビスマレイミドとジアミンとを含有する原料を、上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤を含有する溶剤中で重合させて高分子を得る工程を経て得ることもできる。
【0070】
上記方法等により得られたマレイミド系高分子に、あるいは、例えば市販されている上記マレイミド系高分子をそのまま用いるものに、上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤を含有する溶剤を加えることで、本発明の組成物が得られる。また、下記で詳述する本発明の組成物の製造方法により得られる組成物を溶剤置換等の操作を行わずにそのまま用いるものも本発明の組成物に含まれる。
【0071】
本発明の組成物には、上記溶剤として、上記高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤以外の溶剤を含有してもよい。上記溶剤に上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤以外の溶剤を含む場合、組成物に含有される溶剤全量に対する上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤の含有量は、1〜100重量%であることが好ましく、2〜100重量%であることがより好ましい。溶剤全量に対する上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤の含有量は、4〜100重量%であることがさらに好ましく、20〜100重量%であることが特に好ましい。
【0072】
本発明の組成物は、該組成物全量に対してマレイミド系高分子を0.5〜70重量%含有することが作業性の観点から好ましく、1〜50重量%であることが特に好ましい。
また、本発明の組成物は、該組成物全量に対して上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤を1〜99.5重量%含有することが作業性の観点から好ましく、4〜99重量%含有することが特に好ましい。
【0073】
なお、本発明の組成物に含有されるマレイミド系高分子は、従来のポリイミドのように、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを原料として反応させて得ることは困難である。例えば、テトラカルボン酸二無水物として、分子中に二級アミノ基と酸無水物基とを具備する化合物を用いると、該化合物の分子中に存在するそれぞれの基が反応しうるため、該化合物は不安定となるからである。また、分子中にアミノ基を有するテトラカルボン酸は製造すること自体が困難である。よって、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを含有する原料を重合させてマレイミド系高分子を得る方法を実施することは困難である。
これらのことから、従来のポリイミドを作製する手順により作製された高分子ではなく、ビスマレイミドとジアミンとを反応させて得られるマレイミド系高分子を本発明で用いることを規定することにより、所望の構造を有するマレイミド系高分子を本発明で利用することが容易になる。
【0074】
本発明の組成物には、上記マレイミド系高分子と上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤以外にさらなる成分を含有してもよい。このようなさらなる成分としては、例えば溶媒、及び各種添加剤が挙げられる。
【0075】
前記溶媒は、種々の観点から適宜選択され得る。例えば前記溶媒は、組成物の粘度等の物性の調整、取り扱いの容易さ、工程の簡略化等の観点から用いることができる。溶媒は一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。前記溶媒としては、例えば上記マレイミド系高分子を溶解させる能力の高い極性有機溶媒、及び表面張力を変えて組成物の塗布性を改善する能力の高い塗布性改善溶媒が挙げられ、前記溶媒はこれらを含む混合溶媒であることが好ましい。本発明の組成物を塗布用組成物として用いる場合には、本発明の組成物に上記塗布性改善溶媒を含有する態様が好ましく例示できる。
【0076】
前記極性有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、及びN,N,N’,N’−テトラメチル尿素等が挙げられる。前記極性有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N’−ジメチルイミダゾリジノンからなる群から選ばれる一以上であることが好ましい。
【0077】
前記塗布性改善溶媒としては、例えば、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキル又はフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、及びこれらアセテート類等のエステル化合物、が挙げられる。前記塗布性改善溶媒は、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる一以上であることが好ましい。
【0078】
本発明に用いられる溶剤は、個々に又は全体で、23℃、相対湿度50%における蒸発速度が、23℃、相対湿度50%における酢酸−n−ブチルの蒸発速度を100としたときに40未満であることが、作業性の改善の観点から好ましく、35未満であることがより好ましく、30未満であることがさらに好ましい。
【0079】
本発明における溶剤の蒸発速度とは、単位時間に単位面積から気化する溶剤の蒸発速度をいい、温度23℃、相対湿度50%における酢酸−n−ブチルの蒸発速度に対する試料の蒸発速度の割合で表示される。本発明における蒸発速度は、米国材料試験協会のASTM D3539に規定された試験法に準じて以下の方法によって求めることができる。
【0080】
溶剤の蒸発速度は、窒素ガスを供給可能にしたフード付き化学天秤2台を用い、両者の天秤皿に濾紙No.5C(9cmφ)を入れた10cmφのシャーレをのせ、一方に酢酸−n−ブチル、他方に試料をそれぞれ0.7mLずつとり、窒素ガスを30NL/mLの流速で各シャーレへ同時に供給して、酢酸−n−ブチル及び試料のそれぞれの重量を30秒経過毎に同時に測定し、60秒、90秒、120秒において、酢酸−n−ブチルの減少重量に対する試料の減少重量の百分率をそれぞれ求め、これらの平均値として求めることができる。
【0081】
なお、各有機溶剤の蒸発速度は、「最新コーティング技術」(1983年(株)総合技術センター発行)17〜19ページ記載の表5等に記載されており、本発明ではこのような公知の値を採用してもよい。
【0082】
また、本発明に用いられる溶剤は、個々に又は全体で、常圧(すなわち1気圧)における沸点が130℃よりも高いことが、作業性の改善の観点から好ましく、140℃よりも高いことがより好ましく、150℃よりも高いことがさらに好ましい。沸点は、公知の値を採用することができる。常圧では分解する溶剤の沸点には、減圧下での沸点から、東京化成工業(株)が提供する換算図(原出典はScience of Petrochemical, Vol. II, P1281(1938))に基づいて常圧の沸点に換算した値を採用することができる。
【0083】
本発明に用いられる溶剤の蒸発速度及び沸点の一例を以下の表1に示す。なお、表1において、圧力が併記されている場合はその圧力での沸点が、圧力が併記されていない場合には1気圧の沸点が示されている。
【0084】
【表1】

【0085】
上記極性有機溶媒と塗布性改善溶媒を併用する場合、上記極性溶媒と上記塗布性改善溶媒の種類及び割合は、例えば、その印刷性、塗布性、溶解性及び保存安定性等を考慮して、適宜に設定することができる。極性溶媒は、塗布性改善溶媒よりも相対的に溶解性及び保存安定性に優れる。これに対し、塗布性改善溶媒は極性溶媒よりも印刷性及び塗布性に優れる傾向がある。
【0086】
前記添加剤は、液晶配向剤の特定の性質を向上させる目的で用いられる成分であればよく、一種を用いても、二種以上を混合して用いてもよい。上記添加剤としては、それぞれの目的に応じて用いられるマレイミド系高分子以外の高分子化合物及び低分子化合物が挙げられる。
上記高分子化合物としては、例えばポリアミド及びポリイミドが挙げられる。
また、上記低分子化合物としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。
【0087】
本発明の組成物の製造方法は、ビスマレイミドとジアミンとを含有する原料を、(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する溶剤中で重合させて高分子を得る工程を含む、前記組成物の製造方法である。(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である組成物の製造方法である。二以上の溶剤を使用する際は、(A)の中、若しくは(B)の中から二以上選択してもよく、又は(A)及び(B)の両方からそれぞれ一以上選択してもよい。
【0088】
前記製造方法で得られる高分子としては、上記のマレイミド系高分子、及び下記で詳述するプレポリマー等が挙げられる。上記ビスマレイミド、上記ジアミン、上記高極性アルコール系溶剤、及びプロトン性アミド系溶剤には、前記組成物の説明で記載した化合物をそれぞれ用いることができる。また、これらの化合物については、前記組成物の説明で好ましく用いられると記載したものと同じものが本発明の製造方法においても好ましく用いられる。
上記ビスマレイミドと上記ジアミンとを含有する原料を重合させる際の、上記ビスマレイミドと上記ジアミンとを含有する原料と、上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤を含有する溶剤との重量和に対する原料の濃度は、作業性の観点から、0.5〜70重量%であることが好ましく、1〜50重量%であることがさらに好ましい。
【0089】
前記製造方法において、重合時の溶剤として、上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤以外の溶剤を同時に使用してもよい。そのような溶剤として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキル又はフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、及びこれらアセテート類等のエステル化合物が挙げられる。
【0090】
重合時に使用する溶剤中に含まれる上記高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤の合計の含有量は、該高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤を含有する溶剤全量に対して20重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。溶剤全量に対する上記高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤の合計の含有量は、100重量%であることが特に好ましい。
【0091】
本発明において、溶剤は、用途に応じて適宜に組み合わせて用いることができる。例えば、高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤は共に、重合時における溶解力の向上と反応時(重合時)における副反応(架橋反応)を抑制する役割を具備する。重合時においては、高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤に加えて、その他の溶剤として、溶解力の向上の観点から極性有機溶媒を好適に用いることができる。また、塗布性改善溶剤も重合時に添加しておいてもよい。
【0092】
組成物に含有される溶剤としては、塗布性及び溶解性の観点から高極性アルコール系溶剤が好ましく、溶解性の観点からプロトン性アミド系溶剤が好ましいが、これらの溶剤に加えて、用途に合わせてその他の溶剤を適宜に用いることができる。溶剤の組合せとしては、例えば、溶解性に優れる極性有機溶媒と高極性アルコール系溶剤との併用や、塗布性に優れる塗布性改善溶媒とプロトン性アミド系溶剤との併用等が挙げられるが、それらを含め表2に示した組合せも挙げられる。なお、これらの組合せにおいて、同時に複数の高極性アルコール系溶剤、複数のプロトン性アミド系溶剤、複数の極性有機溶剤、及び複数の塗布性改善溶剤を用いてもよい。
【0093】
【表2】

【0094】
前記製造方法において、上記ビスマレイミドと上記ジアミンとを含有する原料を重合させる際の重合温度は、各モノマーの反応性等に応じて適宜変更してよい。好ましくは、−50℃〜溶媒の沸点である。より好ましくは、−20℃〜溶媒の沸点である。
また、ビスマレイミドとジアミンとを含有する原料を重合させる際の重合時間は、各モノマーの反応性等に応じて適宜変更してよい。好ましくは、1〜200時間である。より好ましくは、2〜100時間である。
ビスマレイミドとジアミンとを含有する原料を重合させる際の重合時の圧力としては常圧下で行うことが好ましい。
【0095】
前記製造方法では、前記高分子の重合後に溶剤置換する工程を含まず、該方法により得られる組成物をそのまま用いることが好ましい。これにより、煩雑な操作を経ることなく組成物を得ることができる。
【0096】
前記製造方法において、上記原料中のビスマレイミドとジアミンを等モル比で原料として用いることで、マレイミド系高分子を上記高分子として含有する組成物を得ることができる。
本発明でいう等モル比とは、原料中のビスマレイミドとジアミンのモル比が0.8:1.2〜1.2:0.8であることをいい、原料中のビスマレイミドとジアミンのモル比をこのような範囲とすることで、上記高分子としてマレイミド系高分子が得られる。この原料中のモル比については、0.9:1.1〜1.1:0.9であることがより好ましい。
また、上記のモル比でビスマレイミドとジアミンを含有する原料を本発明の組成物の製造方法の原料として用いると、分子量が5千〜50万程度のマレイミド系高分子を含有する組成物が得られる。
前記製造方法により、得られる組成物に含有されるマレイミド系高分子は線状又は分岐状のものになり、該高分子の分子量が高分子量になるとともに、該高分子が組成物中の溶剤に均一に溶解し、得られる組成物について高い作業性が得られる。
【0097】
前記製造方法において、上記原料中のビスマレイミドのモル数がジアミンのモル数に対して過剰になるようにビスマレイミドとジアミンを原料として用いることで、プレポリマーを上記高分子として含有する組成物を得ることができる。本発明でいうプレポリマーとは、上記で説明したように高分子を得る際に用いる原料中のビスマレイミドとジアミンのモル比をマレイミド系高分子とは異なるように調整することで得られるものであり、該プレポリマー分子の末端にマレイミド基が存在するものをいう。
本発明でいう「ビスマレイミドのモル数がジアミンのモル数に対して過剰になるように」とは、原料中のビスマレイミドとジアミンのモル比が2.0:0.9〜2.0:1.3であることをいい、原料中のビスマレイミドとジアミンのモル比をこのような範囲とすることで、上記高分子として末端にマレイミド基が存在するプレポリマーが得られる。この原料中のモル比については、2.0:0.9〜2.0:1.2であることがより好ましく、2.0:0.9〜2.0:1.1であることが特に好ましい。
また、上記のモル比でビスマレイミドとジアミンを含有する原料を前記組成物の製造方法の原料として用いると、分子量が数百〜数千程度のプレポリマーを含有する組成物が得られる。
前記製造方法により、ジアミンとして脂肪族のものを用いても着色の問題が生じず、固化やゲル化が起こらず均一に安定してプレポリマーが存在する組成物が得られる。
【0098】
前記製造方法により得られるプレポリマーと上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤を含有する溶剤とを含有する組成物は、そのまま、あるいは他の成分を加えて下記で詳述する各種用途に用いることができる。
【0099】
一方、上記マレイミド系高分子と、上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤とを含有する前記組成物は、そのまま用いて、あるいは他の成分を加えて液晶配向剤とすることができる。
【0100】
前記液晶配向剤における上記マレイミド系高分子の含有率は、前記液晶配向剤の基板への塗布方法によって適宜調整される。例えば、通常の液晶表示素子の製造工程で用いられる印刷機(オフセット印刷機やインクジェット印刷機を含む。以下、「印刷機」と略すことがある。)で使用される液晶配向剤であれば、マレイミド系高分子の含有量は液晶配向剤全量に対して0.5〜30重量%であることが好ましく、1〜15重量%であることがより好ましい。この含有量は、液晶配向剤の粘度(後述)との関係で適宜調整される。
【0101】
前記液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、マレイミド系高分子の濃度、使用するマレイミド系高分子の種類、溶媒の種類と割合によって多種多様である。例えば、印刷機による塗布の場合は、液晶配向剤の粘度は5〜100mPa・sであることが好ましく、10〜80mPa・sであることがより好ましい。液晶配向剤の粘度が5mPa・s以上であることで、下記で詳述する液晶配向膜の十分な膜厚を得ることができ、100mPa・s以下であると印刷ムラが大きくなることを防げる。スピンコートによる塗布の場合は、液晶配向剤の粘度は5〜200mPa・sであることが好ましく、10〜100mPa・sであることがより好ましい。
【0102】
液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE−20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0103】
前記組成物のうち、含有される高分子が上記マレイミド系高分子である場合は、該組成物をそのまま用いて、あるいは他の公知の成分を加え、従来公知の方法を用いて被覆材料、絶縁材料あるいはプリント配線基板用材料とすることができる。被覆材料としては、塗料、印刷用インキ、表面保護材料等のコーティング剤等が挙げられる。
このような用途で前記組成物を用いる場合、各用途に応じても異なるが、前記組成物中のマレイミド系高分子の含有量は、各用途の材料全量に対して0.5〜50重量%であることが好ましい。
【0104】
被覆材料、絶縁材料、又はプリント配線基板用材料とする場合には、他の成分を加える場合、例えば、着色剤、鉱油、充填剤、エラストマー、酸化防止剤、安定剤、消泡剤、伸展剤、可塑剤、触媒、顔料、顔料ペースト、補強材、流動制御剤、レベリング剤、粘稠化剤、燃焼遅延剤、硬化剤、硬化可能な化合物、他の樹脂を加えることができる。
他の樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。
これらの材料は、前記組成物中のマレイミド系高分子を該材料全量に対して0.5〜50重量%含有することが作業性の観点から好ましい。
これらの材料は、前記組成物を原料として用い、例えば、各材料を添加した後、攪拌・混練の操作を経ることで得られる。
【0105】
前記製造方法により高分子としてプレポリマーと、上記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤とを含有する組成物は、そのまま用いて、あるいは他の公知の成分を加えて用いることで、従来公知の方法を用いて被覆材料、絶縁材料、接着剤、封止材、プリント配線基板用材料、成形材料、又は液晶配向剤とすることができる。被覆材料としては、塗料、印刷用インキ、表面保護材料等のコーティング剤等が挙げられる。
成形材料としては、FRP(繊維強化プラスチック)用材料等が挙げられる。
このような用途で前記組成物を用いる場合、各用途に応じても異なるが、前記組成物中のプレポリマーの含有量は、各用途の材料全量に対して0.5〜70重量%であることが好ましい。
【0106】
被覆材料、絶縁材料、接着剤、封止材、プリント配線基板用材料、又は成形材料とする場合には、他の成分を加える場合、例えば、着色剤、鉱油、充填剤、エラストマー、酸化防止剤、安定剤、消泡剤、伸展剤、可塑剤、触媒、顔料、顔料ペースト、補強材、流動制御剤、レベリング剤、粘稠化剤、燃焼遅延剤、硬化剤、硬化可能な化合物、他の樹脂を加えることができる。
他の樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。
これらの材料は、前記組成物中のプレポリマーを該材料全量に対して0.5〜70重量%含有することが作業性の観点から好ましい。
これらの材料は、前記組成物を原料として用い、例えば、各材料を添加した後、攪拌・混練の操作を経ることで得られる。
【0107】
前記液晶配向膜は、前記液晶配向剤の膜を焼成して形成される。液晶配向剤の膜の形成及びその焼成は、フォトレジストにおける通常の方法によって行うことができる。
【0108】
前記液晶配向膜は、例えば液晶表示素子用の基板、又はフッ化カルシウムやシリコン等の測定用の基板に本発明の液晶配向剤を塗布し、この液晶配向剤の膜を例えば150〜400℃、好ましくは180〜280℃に加熱することによって形成することができる。ここで液晶配向膜の膜厚は、10〜300nmであることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましい。また、液晶配向膜は、IPS型液晶表示素子のような横電界方式の液晶表示素子の用途である場合は、ラビング処理されていることが好ましい。
【0109】
前記液晶配向膜の膜厚は、液晶配向剤の粘度や液晶配向剤の塗布方法によって調整することができる。また液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。さらに液晶配向膜中の成分は、必要に応じて加水分解等の処理を行い、IRやMS等の通常の分析手段を利用して分析することができる。
【0110】
前記液晶表示素子は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方又は両方に形成されている電極と、前記一対の基盤それぞれの対向している面に形成されている本発明の液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成されている液晶層を有する。
【0111】
前記対向配置された一対の電極付き基板は、透明基板(例えばガラス基板)であることが好ましい。
【0112】
前記一対の基板の少なくとも一方又は両方の基板の表面には、液晶表示素子の形態に応じて電極が設けられる。前記電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。電極は、基板の表面の全体に形成されていてもよいし、例えばパターン化されている所定の形状に形成されていてもよい。また電極は一対の基板の一方のみに設けられていてもよいし、両方に設けられていてもよい。例えば電極が設けられていない基板には基板の表面上に本発明の液晶配向膜が形成され、電極が設けられている基板には電極の上に本発明の液晶配向膜が形成される。本発明の液晶配向膜の形成については前述したとおりである。
【0113】
前記一対の基板間に挟持された液晶層は液晶組成物を含む。ここで液晶組成物は特に制限はされず、駆動モードに応じて、誘電率異方性が正の液晶組成物及び誘電率異方性が負の液晶組成物のいずれの組成物も用いることができる。
【0114】
前記誘電率異方性が正又は負の液晶組成物に、一つ以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0115】
本発明の液晶表示素子は、もちろんその他の部材を有していてもよい。
【0116】
本発明の液晶表示素子は任意の方法で製作され得るが、例えば、1)前記二枚の透明基板上に液晶配向剤を塗布する工程、2)塗布された液晶配向剤を乾燥する工程、3)乾燥された液晶配向剤を脱水・閉環反応させるために必要な加熱処理をする工程、4)得られた液晶配向膜を配向処理する工程、5)二枚の基板を張り合わせた後に、基板の間に液晶組成物を封入する工程、又は一方の基板に液晶組成物を滴下させた後に、もう一方の基板と張り合わせる工程を含む方法で製作される。
【0117】
前記液晶配向剤を塗布する工程における塗布方法としては、スピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法が本発明においても適用可能である。
【0118】
また、前記乾燥工程及び脱水反応に必要な加熱処理を施す工程の方法として、オーブン又は赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法が本発明においても適用可能である。乾燥工程は、溶媒の蒸発が可能な範囲内の比較的低温(50〜140℃)で実施することが好ましい。加熱処理の工程は一般に150〜300℃程度の温度で行うことが好ましい。
【0119】
液晶配向膜への配向処理は、IPS型液晶表示素子、OCB型液晶表示素子、TN型液晶表示素子、STN型液晶表示素子では通常ラビング処理を行う。VA型液晶表示素子ではラビング処理を行わないことが多いが行ってもよい。
【0120】
次いで、一方の基板上に接着剤を塗布し貼りあわせ真空中で液晶を注入する。滴下注入法の場合には、貼りあわせる前に液晶組成物を基板上に滴下し、その後もう一方の基板で貼りあわせる。貼りあわせに使用した接着剤を熱又は紫外線で硬化させて本発明の液晶表示素子が作製される。
【0121】
本発明の液晶表示素子には、偏光板(偏光フィルム)、波長板、光散乱フィルム、駆動回路等が実装されてもよい。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例において用いた化合物は次の通りである。
モノマー:ビスマレイミド
ビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン:M1
N,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン:M2
下記式(M3)で示される化合物:M3
【0123】
【化8】

【0124】
モノマー:ジアミン
4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン):A1
4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン):A2
ピペラジン:A3
【0125】
【化9】

【0126】
溶剤:高極性アルコール系溶剤、又はプロトン性アミド系溶剤
下記式(1)で示されるテトラヒドロフルフリルアルコール:S1
下記式(4−1)で示される乳酸エチル:S2
下記式(3)で示される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン:S3
下記式(2)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン:S4
下記式(5)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド:S5
下記式(6)で示される化合物:S6
下記式(9)で示される化合物:S9
【0127】
【化10】

【0128】
なお、上記式(3)で示した化合物には、東亞合成(株)製の「アロンオキセタンOXT−101」(商品名)を用いた。
【0129】
溶剤:その他
N−メチルピロリドン:L1
エチレングリコールモノメチルエーテル:L2
CHCl3:L3
1,4−ジオキサン:L4
テトラヒドロフラン:L5
m−クレゾール:L6
【0130】
<1.マレイミド系高分子の合成と、マレイミド系高分子と高極性アルコールとを含有する組成物の調製>
[実施例1]
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口及び窒素ガス導入口を備えた100mLの四つ口フラスコにA1を3.501g(14.68mmol)、及びS1を45.0g入れ、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。次いでM1を6.499g(14.69mmol)、及びS1を45.0g加えて、室温環境下で24時間反応させた。反応中に反応温度が上昇する場合は、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。マレイミド系高分子の組成物全量に対する濃度が10重量%のマレイミド系高分子と高極性アルコール系溶剤とを含有する組成物を得た。この組成物(溶液)をPM1とする。マレイミド系高分子の濃度は、組成物中の溶剤を乾固させて得られたマレイミド系高分子の重量を溶質の重量として計算により求めた。
【0131】
[実施例2〜8、比較例1〜5]
表3に示したように重合時の溶剤と濃度をそれぞれ変更した以外は、実施例1に準拠して組成物PM2〜PM8及びRPM1〜5を調製した。実施例1を含めて、結果を表3にまとめた。温度におけるRTは室温25℃を意味する。
【0132】
【表3】

【0133】
重合時に高極性アルコール系溶剤及びプロトン性アミド系溶剤を使用した実施例1〜8では、高分子量のマレイミド系高分子が得られた。このとき、溶剤の溶解力が十分であるために、均一な溶液が得られた。また、溶剤の臭気が少ないので、溶液をそのまま塗布して塗膜を得ることができた。
比較例1では、溶剤の溶解力が不十分であるために高分子が凝集し、重合時の攪拌が困難であった。
比較例2〜4では、低分子量のマレイミド系高分子しか得られなかった。なお、高分子の分子量は前記記載の方法により測定を行った。
比較例5では溶剤の臭気が強いので、溶液をそのまま塗布して塗膜を得ることができなかった。
【0134】
[実施例9]
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口及び窒素ガス導入口を備えた100mLの四つ口フラスコにA1を2.101g(8.812mmol)、S1を94.0g入れ、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。次いでM1を3.899g(8.811mmol)加えて、室温環境下で24時間反応させた。反応中に反応温度が上昇する場合は、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。濃度が組成物全量に対して6重量%のマレイミド系高分子と高極性アルコール系溶剤とを含有する組成物を得た。この組成物(溶液)をPM9とする。
【0135】
[実施例10〜14、比較例6]
表4に示したように重合時の溶剤の混合比率をそれぞれ変更した以外は、実施例9に準拠して組成物(溶液)PM10〜PM14及びRPM6を調製した。実施例9を含めて、結果を表4にまとめた。
【0136】
【表4】

【0137】
重合時に高極性アルコールを使用した実施例9〜14では、溶剤に可溶であるマレイミド系高分子が得られた。
比較例6ではビスマレイミドの架橋反応(ゲル化)が起こり、溶液が得られなかった。
【0138】
<2.マレイミド系高分子の合成と塗布用組成物の調製>
[実施例15]
攪拌機、原料投入仕込み口及び窒素ガス導入口を備えた100mLの四つ口フラスコに実施例1で得られた組成物(PM1)を60gとL1を40g入れ、室温環境下で2時間攪拌して、均一な塗布用組成物(PM15)を得た。
【0139】
[実施例16]
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口及び窒素ガス導入口を備えた100mLの四つ口フラスコにA2を2.219g(10.55mmol)、S1を47.0g入れ、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。次いでM2を3.781g(10.55mmol)加えて、室温環境下で24時間反応させた。反応中に反応温度が上昇する場合は、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。24時間後、L1を47.0g入れて攪拌し、組成物全量に対する濃度が6重量%のマレイミド系高分子、高極性アルコール系溶剤及びその他の溶剤を含有する塗布用組成物を得た。この組成物(溶液)をPM15とする。
【0140】
[比較例7、8、実施例17〜20]
表5に示したように、モノマーの組成及び重合時の溶剤を変更した以外は、実施例16に準拠して組成物(溶液)RPM7、8、PM17〜20を調製した。実施例16を含めて、結果を表5にまとめた。
【0141】
【表5】

【0142】
表5から明らかなように、重合時に高極性アルコールを使用した実施例16〜20では、高分子量のマレイミド系高分子が得られた。溶剤の溶解力が十分なので、重合中も高分子は溶剤中に溶解しており、攪拌が容易であった。また、溶剤の臭気が少ないので、溶液をそのまま塗布して塗膜を得ることができた。
比較例7では、重合した高分子が重合中に析出して凝集し、重合時の攪拌が困難であった。
比較例8では、溶剤の臭気が強いので、溶液をそのまま塗布して塗膜を得ることができなかった。
【0143】
実施例(塗膜の形成〜液晶表示素子)
<3.液晶表示素子の作製>
[実施例21]
実施例15で得られた塗布用組成物(PM15)を液晶配向剤として用いて、下記の通り液晶表示素子を作製した。
【0144】
<液晶表示素子の作製方法(実施例22)>
塗布用組成物を、二枚のITO電極付きガラス基板にスピンナーにて塗布し、膜厚70nmの膜を形成した。塗膜後80℃にて約5分間加熱乾燥した後、210℃にて20分間加熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。次いで、液晶配向膜が形成された基板の表面をラビング装置にてラビング処理して配向処理を行った。その後、液晶配向膜を超純水中で5分間超音波洗浄してからオーブン中120℃で30分間乾燥した。
【0145】
一方のガラス基板に7μmのギャップ材を散布し、液晶配向膜を形成した面を内側にしてラビング方向が逆平行になるように対向配置させた後、エポキシ硬化剤でシールし、ギャップ7μmのアンチパラレルセルを作製した。該セルに、下記に示す液晶組成物を注入し、注入口を光硬化剤で封止した。次いで、110℃で30分間加熱処理を行い、液晶表示素子を作製した。
【0146】
【化11】

【0147】
<4.VHRの評価>
実施例20で作製した液晶表示素子について、VHRの評価を以下のようにして行った。
【0148】
(VHRの測定)
液晶表示素子を東陽テクニカ製液晶物性評価装置6254型を用いて電圧保持率の測定を行った。測定条件は、ゲ−ト幅60μs、周波数30Hz、波高±5Vであり、測定温度は60℃である。この値が大きいほど電気特性は良好であると言える。結果を表6に示す。
【0149】
【表6】

【0150】
表6に示すように、実施例15の塗布用組成物を液晶配向剤として使用した液晶表示素子では、大きな電圧保持率を有する。
【0151】
<5.プレポリマーと高極性アルコールとを含有する組成物の調製(実施例23)>
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口及び窒素ガス導入口を備えた100mLの四つ口フラスコにA2を6.807g(32.36mmol)、及びS1を35g入れ、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。次いでM2を23.193g(64.72mmol)、及びS1を35g加えて、室温環境下で24時間反応させた。反応中に反応温度が上昇する場合は、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。プレポリマーの濃度が30重量%のプレポリマーと高極性アルコール系溶剤とを含有する組成物を得た。この組成物(溶液)をPM21とする。
【0152】
[比較例9]
表7に示したように重合時の溶剤を変更した以外は、実施例23に準拠して組成物溶液RPM9を調製した。実施例23を含めて、結果を表7にまとめた。
【0153】
【表7】

【0154】
重合時に高極性アルコール系溶剤を使用した実施例23では、着色の無いプレポリマー溶液が得られた。
比較例9では、著しい着色(赤色)が見られ、さらに反応開始0.5時間後にゲル化して、プレポリマー溶液が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0155】
液晶配向剤等のワニスは、一般に、溶剤の存在下での重合によって製造され、その使用時には、塗布や膜形成において溶剤の蒸発を伴う。本発明によれば、使用時に良好な特性を示す溶剤を製造時から使用することができ、かつ臭気等への対応の煩雑さが改善され、前記のワニスの生産性のさらなる向上が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマレイミドとジアミンとを重合させて得られるマレイミド系高分子、並びに(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する組成物であって、(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である組成物。
【請求項2】
前記高極性アルコール系溶剤が下記式(1)で示されるテトラヒドロフルフリルアルコール、下記式(2)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、下記式(3)で示される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、下記式(4)で示される乳酸アルキル、及び下記式(5)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド、下記式(6)で示される化合物、下記式(7)で示される化合物、及び下記式(8)で示される化合物からなる群から選択される一以上であり、前記プロトン性アミド系溶剤が下記式(9)〜(13)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、請求項1に記載の組成物。
【化1】

(式(4)中、Rは炭素数1〜4のアルキルを表す。)
【請求項3】
前記高極性アルコール系溶剤が、前記式(1)〜(4)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ジアミンが脂肪族ジアミン又は脂環式ジアミンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ビスマレイミドが下記式(M1)で示されるビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン、下記式(M2)で示されるN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン、ビス(4−マレイミド−3,5−ジ(2−プロピル)フェニル)メタン、及び下記式(M3)で示される2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンからなる群から選択される一以上であり、前記ジアミンが下記式(A1)で示される4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、下記式(A2)で示される4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、下記式(A3)で示されるピペラジン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン及び1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパンからなる群から選択される一以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【化2】

【請求項6】
前記溶剤が、該溶剤全量に対して前記高極性アルコール及びプロトン性アミド系溶剤を合計で20重量%以上含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が含有する溶剤の23℃、相対湿度50%における蒸発速度が、23℃、相対湿度50%における酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときに40未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が含有する溶剤の常圧における沸点が130℃よりも高い、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ビスマレイミドとジアミンとを含有する原料を、(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する溶剤中で重合させて高分子を得る工程を含む、前記高分子と(A)及び(B)からなる群から選択された一以上の溶剤を含有する組成物の製造方法であって、(A)は1)アルコール性水酸基、並びに、2)環状アミド、鎖状エステル、鎖状アミド及び環状エーテルからなる群から選択される一以上の基を有する高極性アルコール系溶剤であり、(B)はプロトン性アミド系溶剤である組成物の製造方法。
【請求項10】
前記高極性アルコール系溶剤が下記式(1)で示されるテトラヒドロフルフリルアルコール、下記式(2)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、下記式(3)で示される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、下記式(4)で示される乳酸アルキル、及び下記式(5)で示されるN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミド、下記式(6)で示される化合物、下記式(7)で示される化合物、及び下記式(8)で示される化合物からなる群から選択される一以上であり、前記プロトン性アミド系溶剤が下記式(9)〜(13)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、請求項9に記載の方法。
【化3】

(式(4)中、Rは炭素数1〜4のアルキルを表す。)
【請求項11】
前記高極性アルコール系溶剤が、前記式(1)〜(4)で示される化合物からなる群から選択される一以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ジアミンが脂肪族ジアミン又は脂環式ジアミンである、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ビスマレイミドが下記式(M1)で示されるビス(4−マレイミド−3−メチル−5−エチルフェニル)メタン、下記式(M2)で示されるN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン、ビス(4−マレイミド−3,5−ジ(2−プロピル)フェニル)メタン、及び下記式(M3)で示される2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンからなる群から選択される一以上であり、前記ジアミンが下記式(A1)で示される4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、下記式(A2)で示される4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、下記式(A3)で示されるピペラジン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン及び1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパンからなる群から選択される一以上である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【化4】

【請求項14】
前記溶剤が、該溶剤全量に対して前記高極性アルコール及びプロトン性アミド系溶剤を合計で20重量%以上含有する、請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が含有する溶剤の23℃、相対湿度50%における蒸発速度が、23℃、相対湿度50%における酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときに40未満である、請求項9〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が含有する溶剤の常圧における沸点が130℃よりも高い、請求項9〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記高分子の重合後に溶剤置換する工程を含まない、請求項9〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記原料中のビスマレイミドとジアミンを等モル比で原料として用いることで、前記高分子としてマレイミド系高分子が得られる、請求項9〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記原料中のビスマレイミドのモル数がジアミンのモル数に対して過剰になるようにビスマレイミドとジアミンを原料として用いることで、前記高分子として末端にマレイミド基が存在するプレポリマーを得る、請求項9〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法により得られる、前記マレイミド系高分子と前記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤とを含有する組成物。
【請求項21】
請求項19に記載の方法により得られる、前記プレポリマーと前記高極性アルコール系溶剤又はプロトン性アミド系溶剤とを含有する組成物。
【請求項22】
請求項1〜8及び20のいずれか一項に記載の組成物を含有する被覆材料。
【請求項23】
請求項1〜8及び20のいずれか一項に記載の組成物を含有する絶縁材料。
【請求項24】
請求項1〜8及び20のいずれか一項に記載の組成物を含有するプリント配線基板用材料。
【請求項25】
請求項1〜8及び20のいずれか一項に記載の組成物を含有する液晶配向剤。
【請求項26】
請求項21に記載の組成物を含有する被覆材料。
【請求項27】
請求項21に記載の組成物を含有する絶縁材料。
【請求項28】
請求項21に記載の組成物を含有する接着剤。
【請求項29】
請求項21に記載の組成物を含有する封止材。
【請求項30】
請求項21に記載の組成物を含有するプリント配線基板用材料。
【請求項31】
請求項21に記載の組成物を含有する成形材料。
【請求項32】
請求項21に記載の組成物を含有する液晶配向剤。
【請求項33】
請求項25又は32に記載の液晶配向剤の塗膜が焼成されて形成される液晶配向膜。
【請求項34】
一対の基板と、液晶分子を含有し、前記一対の基板の間に形成される液晶層と、液晶層に電圧を印加する電極と、前記液晶分子を所定の方向に配向させる液晶配向膜とを有する液晶表示素子において、
前記液晶配向膜が請求項33に記載の液晶配向膜である液晶表示素子。

【公開番号】特開2011−43805(P2011−43805A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164608(P2010−164608)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】