説明

新規組成物

【課題】本発明は、炎症性状態/障害、とりわけ喘息、COPDおよび鼻炎のような呼吸疾患の処置における使用のためのホルモテロールまたはホルモテロールのエナンチオマー、グルココルチコステロイドおよび担体または希釈剤を含む安定な粉末製剤を課題とする。
【解決手段】本発明にしたがって、混合物中に、微粉化された(micronised)ホルモテロールまたはそのエナンチオマーである第1の活性成分、微粉化されたグルココルチコステロイドである第2の活性成分および担体または希釈剤を含む固体の状態の医薬組成物が提供され、該組成物は高い保存安定性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、炎症性状態/障害、とりわけ喘息、COPDおよび鼻炎のような呼吸疾患の処置における使用のためのホルモテロールまたはホルモテロールのエナンチオマー、グルココルチコステロイドおよび担体または希釈剤を含む安定な粉末製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
安定性は、化合物または化合物の混合物が治療上有用な医薬製品へと発展し得るかどうかを決定する最も重要な要因の1つである。医薬製剤において異なる成分を混合する場合に、構成成分の間で起こる相互作用の可能性が存在する。さらに、各構成成分は異なる分解特性を有し得る。
【0003】
ホルモテロールは、吸入した場合に作用が長時間持続する、極めて強力かつ選択的なβ2−アゴニストである。他のβ−アドレナリン作用性化合物と比較して、それはベンゼン環上に置換されたホルムアミド基を有するという特異な化学構造を有する。それは分子内に2つの不斉炭素原子を有し、4つの立体異性体があり得る。多くの研究、臨床、前臨床では、R;R+S;Sで示されるエナンチオマーの混合物のフマル酸塩(二水和物として)で実施されてきたようである。R;Rエナンチオマーが4つのエナンチオマーのうち最も強力である。
【0004】
薬物ホルモテロール(主にフマル酸塩二水和物として)の安定プロフィールは、ホルモテロールの含有量に対する保存時間、温度、相対湿度、光およびpHのような可変要素の影響を調べること、ならびにクロマトグラフィーでの不純物の量を決定することにより評価されてきた。ホルモテロール(フマル酸二水和物として)は、高温かつ高相対湿度での長期保存下でさえ安定であると説明されてきた。しかしながら、ホルモテロールの化学構造は、例えばアルデヒドのような反応種と接触するか、またはストレス条件下、例えば粉砕工程で分子が化学的に分解される傾向がある。
【0005】
吸入による投与のための強力な薬物は、一般に、吸入器からの急速な投薬を促進するためにラクトースのような担体/希釈剤と組み合わせて製剤化される。これらの製剤は、一般に、薬物(複数を含む)の微粒子(fine particle)と一体となった、所望により担体/希釈剤の小粒子と一体となった、担体の粗大な粒子から構成され、この組み合わせは一般にオーダードミクスチャ(ordered mixture)として知られる。このような製剤化の代替法は、薬物(複数を含む)および担体/希釈剤の小粒子を凝集体へと凝集させることである。
【0006】
ホルモテロール(フマル酸二水和物として)ならびにラクトースのような炭水化物(好ましくは一水和物)は、個々では非常に安定な化合物であるが、2つの化合物を混合した場合には分解生成物が形成される。フマル酸ホルモテロール二水和物およびラクトース一水和物の混合物は、フマル酸ホルモテロール、ラクトースおよび水からなる3成分系と考えられる。水の収着により、飽和水性ラクトース溶液が粉末混合物の表面に形成される。一定量のフマル酸ホルモテロールがこの水溶液に溶解し、それにより分解を受けやすくなる。したがって、相対湿度、ならびに保存温度は、粉末混合物の安定性に影響を与える。
【0007】
混合物に第3の成分を加えると、分解生成物の形成が、複雑さおよび多くの分解工程の可能性により高率になると考えられる。したがって、アミン(ホルモテロール)、ホルムアミド(ホルモテロール)、炭水化物(例えばラクトース)およびケト基(グルココルチコステロイド)のような反応性の高い化学官能基を有する化合物の複雑な混合物にもかかわらず、優れた安定性を有する製剤を開発することが望ましい。水和物(フマル酸ホルモテロール二水和物、ラクトース一水和物)の存在により、いっそうさらに複雑となる。
【発明の概要】
【0008】
発明の説明
本発明にしたがって、混合物中に、微粉化された(micronised)ホルモテロールまたはそのエナンチオマーである第1の活性成分、微粉化されたグルココルチコステロイドである第2の活性成分および担体または希釈剤を含む固体の状態の医薬組成物が提供され、該組成物は高い保存安定性を有する。
【0009】
「高い保存安定性」なる語は、ホルモテロールの含有量が製剤の約1.0%(w/w)未満、好ましくは0.8%(w/w)未満および最も好ましくは約0.6%(w/w)未満である場合に開放容器で40℃および75%の相対湿度にて6ヶ月保存したときの製剤中のホルモテロールの分解が10%未満であるか、または粉末吸入器(dry powder device)内で貯蔵した場合に同じ条件下での分解が約2.5%未満であることを意味する。
【0010】
所望の安定性を有する製剤は新規方法を用いて製造され、該方法には:
1. 微粉化された第1の活性成分および微粉化された担体/希釈剤の混合物を調製すること
2. 所望により、さらに混合物に微粉化された担体/希釈剤を加えること
3. 前もって微粉化された疎水性の第2の活性成分を添加および混合すること(第2の活性成分は、所望により、微粉化された担体/希釈剤と前もって混合されていてもよい。)および
4. 混合物を凝集化および球状化するか、または粗大な担体/希釈剤を加えること、が含まれる。
【0011】
第1の活性成分および担体/希釈剤はステップ1にしたがって2つの構成成分を一緒に微粉化することにより製造されるか、またはそれぞれが個々に微粉化され、次いで合わせられ、微粉化された混合物が得られ得る。好ましくは2つの構成成分は一緒に混合され、次いで微粉化される。
【0012】
好ましくはステップ3で、前もって微粉化された疎水性の第2の活性成分は単独、すなわちさらなる微粉化された担体/希釈剤の不存在下で加えられる。
【0013】
好ましくは、ステップ4には混合物を凝集化および球状化することが含まれる。
【0014】
「微粉化された」なる語は、粉砕して所望の粒子径を得ること、または直接沈澱のような他の任意の手段により所望の粒子径を得ることを意味する。
【0015】
所望により、混合物/成分は製造の適当な段階で、例えばステップ1とステップ2の間でコンディショニングされてもよく、そして/または前もって微粉化されたさらなる担体/希釈剤はステップ2での添加の前にコンディショニングされてもよく、そして/または前もって微粉化されたさらなる担体/希釈剤はステップ3での添加の前にコンディショニングされてもよく、そして/または混合物はステップ4において凝集化および球状化の間にコンディショニングされてもよい。
【0016】
コンディショニングは、WO 95/05805に記載された手順にしたがって、または水蒸気に曝された最終生成物が、米国特許第5.874,063において記載されそして測定されたように10μm未満の平均粒子径を有する粒子に関し、1グラムあたり1.2ジュール未満の熱を放出する相対湿度のような製造パラメーターを選択することにより実施され得る。
【0017】
したがって本発明は、混合物中に、微粉化されたホルモテロールまたはそのエナンチオマーである第1の活性成分、微粉化されたグルココルチコステロイドである第2の活性成分および担体/希釈剤を含み、そして製剤が第1の活性成分および担体/希釈剤の微粉化により製造され、所望により続いて前もって微粉化された粗大な担体/希釈剤を混合し、微粉化された疎水性の第2の活性成分と混合し、そして最後に混合物を凝集化または球状化させるかまたは粗大な担体/希釈剤を加えることのどちらかを特徴とする高い保存安定性を有する固体の状態の医薬製剤を提供する。
【0018】
ホルモテロールはエナンチオマーの混合物の形態であり得る。好ましくは、ホルモテロールは単一のエナンチオマー、好ましくはR;Rエナンチオマーの形態である。ホルモテロールは遊離塩基、塩もしくは溶媒和物、または塩の溶媒和物の形態であり得、好ましくはホルモテロールはそのフマル酸塩二水和物の形態である。他の適当な生理学的な塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、4−メトキシ安息香酸塩、2−または4−ヒドロキシ安息香酸塩、4−クロロ安息香酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、グルタル酸塩、グルコン酸塩、トリカルバリル酸塩、ヒドロキシナフタレンカルボン酸塩またはオレイン酸塩が含まれる。
【0019】
好ましくは第2の活性成分は、ブデソニド、プロピオン酸フルチカゾン、フランカルボン酸モメタゾン、シクレソニドならびにこれらの化合物のエピマー、エステル、塩および溶媒和物のような微粉化されたグルココルチコステロイドである。さらに好ましくは、第2の活性成分はブデソニドまたはそのエピマーであり、最も好ましくはブデソニドの22R−エピマーである。
【0020】
好ましくは担体は高い保存安定性を有する炭水化物であり、好ましくはラクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、マルトース、セロビオース、メリビオース、マルトトリオース(例えば一水和物として)のような還元型炭水化物である。より好ましくは、担体はラクトースである。
【0021】
本明細書で使用されるように、微粉化された担体/希釈剤なる語は、約25μm未満、好ましくは約10μm未満、さらに好ましくは約5μm未満の平均粒子径を有する担体/希釈剤を意味する。微粉化された担体は、微粉化または直接沈澱(direct precipitation)のような当分野において既知の方法を用いて製造され得る。粗大な担体/希釈剤なる語は、約25μmより大きい平均粒子径を有する担体/希釈剤を意味する。
【0022】
本明細書で使用されるように、微粉化された第1の活性成分または微粉化された第2の活性成分なる語は、約10μm未満、好ましくは約5μm未満の平均粒子径を有する活性成分を意味する。
【0023】
本発明にしたがう医薬組成物は、呼吸障害の処置または予防、特に喘息、鼻炎またはCOPDの処置または予防に使用され得る。
【0024】
さらなる観点において、本発明は哺乳動物における呼吸障害、特に喘息、鼻炎またはCOPDの処置方法を提供し、該方法は本明細書で定義した医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0025】
本発明の組成物はネブライザー、加圧定量噴霧式吸入器から吸入されるか、または乾燥粉末として乾燥粉末吸入器、例えばAstraZenecaまたはSchering-Ploughからの複数回投与用リザーバーシステム(Turbuhaler(登録商標))から吸入されるか、またはゼラチン、プラスチックまたは他のカプセル、カートリッジまたはブリスターパックを使用する乾燥粉末吸入器から吸入され得る。投与量は疾患の重度および患者の種類に依存する。
【0026】
本発明の方法は、図3に概要が示される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ホルモテロール/ラクトース対ホルモテロール/ブデソニド/ラクトースの安定性データを示すグラフである(開放皿)。
【図2】ホルモテロール/ラクトース対ホルモテロール/ブデソニド/ラクトースの安定性データを示すグラフである(Turbuhaler)。
【図3】本発明の方法の概要を示すチャートである。
【0028】
実験の部
本発明は下記の実施例により例示されるが、これらは本願の範囲を限定することを意図するものではない。実施例において、微粉化は各活性成分の粒子径の範囲が吸入による投与に適するように実施される。ホルモテロールの分解生成物の測定は、LiChrospher 60 RP-select Bを用いる2カラムシステムの逆相液体クロマトグラフィーにより実施された。固定相としてオクチルシランを有する5μmの粒子。UV検出器は214nm。分解生成物がよく分からないので、評価は面積比(area-%)で行った。
【実施例】
【0029】
実施例1
下記の実施例は、製剤を通常の方法で製造する参考実施例である。
フマル酸ホルモテロール二水和物(26g)およびラクトース一水和物(4.974kg)を回転型混合機(tumbling mixer)中で1または2時間混合する。この混合物を、吸入に適した粒子径を得るためにスパイラルジェットミル中で微粉化した。低ミクロン範囲(1〜5μm)への物質の微粉化により、該物質の結晶化が阻害され得る。アモルファスの領域が、特に微粉化された物質の表面に導入され得る。物質のこの形態的変化は湿度に対する感受性を増大させ、それは安定性の問題に対する手段となり得る。物質の混合物の結晶構造は制御された方法で米国特許第5.874.063号または米国特許第5.709.884号にしたがって再現された。
凝集性の粉末の流動性を改善するために、それを室温にて50%未満の制御された相対湿度で球状化して凝集体とした。
【0030】
混合物を微粉化し、開放容器で40℃にて75%の相対湿度で6ヶ月間保存されたフマル酸ホルモテロール二水和物(5mg/g)/ラクトース一水和物(995mg/g)の安定性データ。結果は図1(A)を参照。
【0031】
実施例2
下記の実施例は、製剤を通常の方法で製造する参考実施例である。
微粉化され、球状化された実施例1のフマル酸ホルモテロール二水和物/ラクトース一水和物製剤を粉末吸入器Turbuhaler(登録商標)(AstraZeneca)中に充填し、6ヶ月間40℃にて75%の相対湿度で保存した。結果は図2(A)を参照。
【0032】
実施例3
フマル酸ホルモテロール二水和物(0.2kg)およびラクトース一水和物(34kg)を回転型混合機中で1または2時間混合する。この混合物を、吸入に適した粒子径を得るためにスパイラルジェットミル中で微粉化した。結晶構造は制御された方法で米国特許第5.874.063号または米国特許第5.709.884号にしたがって再現された。このコンディショニングした生成物を微粉化したブデソニド(3kg)と回転型混合機中で30〜60分間混合する。第2の混合ステップとして粉末を改良型スパイラルジェットミルに送り、非常に低い混合圧にて高い窒素気流中で操作した。これにより粒子径のさらなる減少を引き起こすことなく凝集体を粉砕し(それによりアモルファス領域が形成され、続いて安定性の減少が起こる。)、粉末中のブデソニドの均一な分散が改善される。
凝集性の粉末の流動性を改善するために、それを室温にて50%未満の制御された相対湿度で球状化して凝集体とした。
【0033】
混合物を微粉化し、開放容器中で40℃にて75%の相対湿度で6ヶ月間保存したフマル酸ホルモテロール二水和物(5mg/g)/ブデソニド(90mg/g)/ラクトース一水和物(905mg/g)の安定性データ。図1(B)を参照。
【0034】
実施例4
実施例3の微粉化され球状化されたフマル酸ホルモテロール二水和物(5mg/g)/ブデソニド(90mg/g)/ラクトース一水和物(905mg/g)を粉末吸入器Turbuhaler(登録商標)(AstraZeneca)中に充填し、6ヶ月間40℃にて75%の相対湿度で保存した。結果は図2(B)を参照。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合物中に、所望により塩または溶媒和物または塩の溶媒和物の形態であってもよい微粉化されたホルモテロールである第1の活性成分、微粉化されたグルココルチコステロイドである第2の活性成分および薬学的に許容される担体/希釈剤を含む医薬組成物であって、高い保存安定性を有する組成物。
【請求項2】
ホルモテロールがフマル酸塩二水和物の形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ホルモテロールが単一のR,R−エナンチオマーの形態である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
第2の活性成分がブデソニドである、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
第2の活性成分がブデソニドの22R−エピマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
担体/希釈剤がラクトースである、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
活性成分の粒子径が約10μm未満である、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
呼吸障害の処置または予防に使用するための請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
喘息、鼻炎またはCOPDの処置または予防に使用するための請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物を患者に投与することを含む、哺乳動物における呼吸障害の処置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−184271(P2012−184271A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152721(P2012−152721)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2001−585737(P2001−585737)の分割
【原出願日】平成13年5月17日(2001.5.17)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】