説明

新規胆道癌バイオマーカー

【課題】胆道癌を特異的に検出するための方法等の胆道癌マーカーの使用方法を提供すること。
【解決手段】ステージI及びIVの胆道癌組織、及び対象となる非癌部胆道組織から、タンパク質を抽出して可溶化し、LC/MS/MSにより、それぞれの組織において発現するタンパク質を同定した。次に、スペクトラム・カウンティング解析により、胆道癌組織において発現が増加する160種類のタンパク質を同定し、さらに、遺伝子オントロジー解析により、上記160種類のタンパク質の中から、77種類のタンパク質を胆道癌マーカータンパク質候補として選択した。上記77種類のタンパク質と、これまでの報告から胆道癌マーカー候補と考えられる17種類のタンパク質とを、SRM法により定量し、最終的に、35種類の胆道癌マーカータンパク質を同定した。これらの胆道癌マーカータンパク質を用いることによって、胆道癌を特異的に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆道組織における胆道癌の有無を判定する方法や、該方法に用いるための胆道癌マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
胆道とは肝臓で作られた胆汁の通り道であり、胆道にできる悪性腫瘍を総称して胆道癌という。日本国内における癌の部位別死亡者数では、胆道癌は第6位となっており、さらに、その死亡/罹患比は、この数十年間でほとんど改善されていないことから、消化器系悪性腫瘍の中で最も予後不良な癌のひとつであると考えられている(図1)。また、胆道癌は、早期には自覚症状がないため発見が困難な癌として知られている。
【0003】
現在のところ、胆道癌の診断用マーカーとして、癌胎児性抗原CEAや糖鎖抗原CA19−9が知られているが、これらはいずれも胆道癌に特異的なマーカーではなく、また、胆道癌の早期診断には有効でないと考えられている。実際、CEAは胆道癌だけでなく、結腸直腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、肺癌、頭部癌、頸部癌を有する患者の血清中でも増加することが報告されており(非特許文献1)、さらに、CEAは、初期の癌患者の血清中では増加しないことから(非特許文献2〜4)、癌の早期診断には有効ではないと考えられている(非特許文献5)。CEAと同様に、CA19−9は、消化系の癌、特に膵臓がんに特異性の高い腫瘍マーカーであり、胆道癌を特異的に検出するために適当なマーカーとは言えない。また、初期の癌の場合、CA19−9の顕著な発現の変動は認められないことから、癌の早期発見には利用できない。以上のように、胆道癌を特異的に検出するためのマーカーや、胆道癌の早期診断のためのマーカーは未だ存在しておらず、その開発が急がれている。
【0004】
他方、ホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin embedded)は、手術等で摘出された組織を保存するための最も一般的な方法であり、多くの病院や研究機関では、病理診断等を行った後のホルマリン固定パラフィン包埋組織(以下、「FFPE組織」という場合がある)が大量に保存されている。これらのFFPE組織は、患者の治療成績・予後等臨床情報が明らかであることから、バイオマーカー検索や創薬ターゲット探索のために非常に有効であると考えられている。しかし、FFPE組織では、ホルマリン固定よって組織内のタンパク質が架橋されているため、タンパク質を抽出することは困難であり、さらに、ホルマリン固定によって高分子が断片化されていることから、FFPE組織を、プロテオーム解析に用いることは不可能であると考えられていた。しかし、ごく最近になり、FFPE組織からのタンパク抽出法が開発され(特許文献1及び2)、FFPE組織を用いたプロテオーム解析が可能になりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4579234号公報
【特許文献2】特表2010−530980号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Natl. Cancer Inst. (Bethesda) 57: 11-22 (1976)
【非特許文献2】Dis. Colon. Rectum. 42: 921-929 (1999)
【非特許文献3】Ann. Surg. 183: 5-9 (1976)
【非特許文献4】N. Engl. J. Med. 299: 448-451 (1978)
【非特許文献5】Clin. Chem. 48: 1151-1159 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、胆道癌を特異的に検出するための方法等の胆道癌マーカーの使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ステージI及びステージIVのFFPE胆道癌組織、及び対象となるFFPE非癌部胆道組織から、タンパク質を抽出して可溶化し、それぞれの組織において発現するタンパク質を、LC/MS/MSにより解析した。次に、スペクトラルカウント解析により、胆道癌組織において発現が増加している160種類のタンパク質を同定し、さらに、遺伝子オントロジー解析により、前記160種類のタンパク質の中から、胆道癌マーカータンパク質候補となる77種類のタンパク質を抽出した。前記77種類のタンパク質に、これまでの報告から胆道癌マーカー候補と考えられる17種類のタンパク質と1種類の内部標準タンパク質を加えて、合計95種類のタンパク質を選択反応モニタリング(SRM)法により定量した。SRM法の結果から、胆道癌組織において、非癌部胆道組織と比較して、発現量が2倍以上増加、又は、半分以下に減少しているタンパク質を選び出し、最終的に、胆道癌マーカータンパク質として35種類のタンパク質を選択した。さらに、発明者らは、ステージIの胆道癌組織、ステージIVの胆道癌組織、及び非癌部胆道組織における、前記35種類の胆道癌マーカータンパク質の発現を、SRM法及び免疫組織化学染色(IHC)法により詳細に検討することによって、前記胆道癌マーカータンパク質の発現量と胆道癌の進行度との関連を調べた。その結果、前記胆道癌マーカータンパク質のうち、(1)6種類のタンパク質(AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、OAT_HUMAN、CEAM6_HUMAN、FINC_HUMAN、及びAPOA1_HUMAN)は、ステージIの胆道癌組織においてのみ、非癌部胆道組織と比較して、発現量が変化することから、早期の胆道癌を検出するためのマーカーとなり得ること、(2)14種類のタンパク質(S100P_HUMAN、CEAM5_HUMAN、MUC5A_HUMAN、HS90A_HUMAN、SET_HUMAN、TPIS_HUMAN、1433T_HUMAN、ARK72_HUMAN、CLIC1_HUMAN、PSME1_HUMAN、VILI_HUMAN、ACTN1_HUMAN、QCR1_HUMAN、及びAMPL_HUMAN)は、ステージIVの胆道癌組織においてのみ、非癌部胆道組織と比較して、発現量が変化することから、進行期の胆道癌を検出するためのマーカーとなり得ること、(3)15種類のタンパク質(CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、HMCS2_HUMAN、OLFM4_HUMAN、TYPH_HUMAN、ANXA1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、TLN1_HUMAN、DMBT1_HUMAN、K1C19_HUMAN、CO1A1_HUMAN、COCA1_HUMAN、ACSL5_HUMAN、K1C20_HUMAN、及びPEPC_HUMAN)は、ステージI及びIVの両方の胆道癌組織において、非癌部胆道組織と比較して、発現量が変化することから、早期及び進行期の胆道癌を検出するためのマーカーとなり得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)胆道組織における、胆道癌の有無を判定する方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を備えたことを特徴とする方法に関する。
(a)被験者より採取された判定用試料における、胆道癌マーカーの発現量を定量する定量工程であって、前記胆道癌マーカーが以下の各群のマーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAである定量工程;
[A群マーカータンパク質]
CPSM_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31327)、FABPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07148)、HMCS2_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P54868)、OLFM4_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q6UX06)
[B群マーカータンパク質]
TYPH_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P19971)、TLN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9Y490)、及びCOCA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q99715)
[C群マーカータンパク質]
CO1A1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02452)
[D群マーカータンパク質]
ACSL5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9ULC5)、PEPC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P20142)
[F群マーカータンパク質]
HS90A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07900)、TPIS_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P60174)、1433T_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P27348)、ARK72_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O43488)、CLIC1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O00299)、PSME1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q06323)、QCR1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31930)、AMPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P28838)
[G群マーカータンパク質]
AOFA_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P21397)、CAD17_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q12864)、OAT_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04181)
[H群マーカータンパク質]
FINC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02751)、APOA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02647)
(b)前記判定用試料における前記胆道癌マーカーの発現量と、対照となる健常試料における前記胆道癌マーカーの発現量とを比較する比較工程;
(c)発現量の比較結果に基づいて、以下の[i]〜[vii]のいずれかの評価をする評価工程;
[i]判定用試料におけるA群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に、早期又は進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[ii]判定用試料におけるB群マーカータンパク質から選択される1以上のタンパク質、又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に、早期又は進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[iii]判定用試料におけるC群マーカータンパク質又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して、減少している場合に被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価し、増加している場合に被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[iv]判定用試料におけるD群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して、増加している場合に被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価し、減少している場合に被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[v]判定用試料におけるF群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[vi]判定用試料におけるG群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[vii]判定用試料におけるH群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価する;
また、(2)判定用試料が、組織、血液又は胆汁であることを特徴とする上記(1)記載の方法や、(3)定量工程が、液体クロマトグラフィー質量分析法又は免疫学的測定法により、胆道癌マーカータンパク質の発現量を定量する工程であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の方法に関する。
【0010】
また本発明は、(4)以下の各群のマーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAを胆道癌マーカーとして使用する方法に関する。
[A群マーカータンパク質]
CPSM_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31327)、FABPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07148)、HMCS2_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P54868)、OLFM4_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q6UX06)
[B群マーカータンパク質]
TYPH_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P19971)、TLN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9Y490)、及びCOCA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q99715)
[C群マーカータンパク質]
CO1A1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02452)
[D群マーカータンパク質]
ACSL5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9ULC5)、PEPC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P20142)
[F群マーカータンパク質]
HS90A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07900)、TPIS_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P60174)、1433T_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P27348)、ARK72_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O43488)、CLIC1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O00299)、PSME1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q06323)、QCR1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31930)、AMPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P28838)
[G群マーカータンパク質]
AOFA_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P21397)、CAD17_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q12864)、OAT_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04181)
[H群マーカータンパク質]
FINC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02751)、APOA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02647)
【0011】
さらに本発明は、(5)胆道癌マーカーとして使用するための、以下の各群のマーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAに関する。
[A群マーカータンパク質]
CPSM_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31327)、FABPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07148)、HMCS2_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P54868)、OLFM4_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q6UX06)
[B群マーカータンパク質]
TYPH_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P19971)、TLN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9Y490)、及びCOCA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q99715)
[C群マーカータンパク質]
CO1A1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02452)
[D群マーカータンパク質]
ACSL5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9ULC5)、PEPC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P20142)
[F群マーカータンパク質]
HS90A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07900)、TPIS_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P60174)、1433T_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P27348)、ARK72_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O43488)、CLIC1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O00299)、PSME1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q06323)、QCR1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31930)、AMPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P28838)
[G群マーカータンパク質]
AOFA_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P21397)、CAD17_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q12864)、OAT_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04181)
[H群マーカータンパク質]
FINC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02751)、APOA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02647)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、胆道癌の早期診断を行うことや、胆道癌の進行度を判定することが可能となり、胆道癌の治療を行う上で極めて有用な情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】1975〜2001年までの、日本国内の癌部位別の死亡/罹患比を示す図である。
【図2】本発明における、実験の概要(ディスカバリーステージ)を示す図である。
【図3】本発明における、実験の概要(バリデーションステージ)を示す図である。
【図4】本発明の胆道癌マーカーを検索するために用いたFFPE組織の染色像を示す図である。前記FFPE組織としては、7例の非癌部胆管組織、7例のステージIの胆道癌組織、7例のステージIVの胆道癌組織を使用した。
【図5】非癌部胆管組織、ステージIの胆道癌組織、及びステージIVの胆道癌組織より同定されたタンパク質の数を示す図である。非癌部胆管組織からは1095種のタンパク質が、ステージIの胆道癌組織からは1266種のタンパク質が、ステージIVの胆道癌組織からは1143種のタンパク質がそれぞれ同定された。
【図6】本発明のスペクトラルカウントの結果を示す図である。スペクトラルカウントの結果から、非癌部胆道組織と比較して、癌部胆道組織において160種類のタンパク質が有意に高発現していることが明らかとなった。
【図7】本発明の胆道癌マーカー候補の選択方法について示す図である。スペクトラルカウントにより胆道癌組織において有意に高発現していることが明らかとなった160種のタンパク質の中から、遺伝子オントロジー文献検索によって77種のタンパク質を選択した。さらに、この77種のタンパク質について、選択反応モニタリング(SRM)法による解析を行った。
【図8】CPSM_HUMANの発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法により解析した結果を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbe(pankreas krebs bile duct epithelium)は非癌部組織をそれぞれ示す。
【図9】FABPL_HUMANの発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法により解析した結果を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織をそれぞれ示す。
【図10】CEAM5_HUMANの発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法により解析した結果を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織をそれぞれ示す。
【図11】OLFM4_HUMANの発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法により解析した結果を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織をそれぞれ示す。
【図12】ステージIV及びステージIの胆道癌組織における、胆道癌マーカー(CEAM5_HUMAN、S100P_HUMAN、MUC5AC_HUMAN、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、OLFM4_HUMAN、HMCS2_HUMAN、AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、K1C20_HUMAN、OAT_HUMAN)の発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法により解析した結果を示す図である。
【図13】本発明の胆道癌マーカーの発現量を、免疫組織化学染色(IHC)法によって評価する際の、評価方法について示した図である
【図14】本発明の胆道癌マーカーであるFABPL_HUMANの発現量を、免疫組織化学染色(IHC)法によって評価した結果を示す図である。図中、st1はステージIの胆道癌組織を、st4はステージIVの胆道癌組織を、Bile ductは非癌部胆道組織を示す。また、図中、Strongは強陽性を、Moderateは陽性を、Mildは弱陽性を、Negativeは陰性を示す。
【図15】選択反応モニタリング(SRM)法及び免疫組織化学染色(IHC)法により、胆道癌組織及び非癌部胆道組織における、本発明のFABPL_HUMANの発現量を解析した結果(図面上部)と、それぞれの方法により得られたデータに基づいて有意差検定を行った結果(図面下部)を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織を、それぞれ示す。
【図16】選択反応モニタリング(SRM)法及び免疫組織化学染色(IHC)法により、胆道癌組織及び非癌部胆道組織における、本発明のCPSM_HUMANの発現量を解析した結果(図面上部)と、それぞれの方法により得られたデータに基づいて有意差検定を行った結果(図面下部)を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織を、それぞれ示す。
【図17】選択反応モニタリング(SRM)法及び免疫組織化学染色(IHC)法により、胆道癌組織及び非癌部胆道組織における、CEAM5_HUMANの発現量を解析した結果(図面上部)と、それぞれの方法により得られたデータに基づいて有意差検定を行った結果(図面下部)を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織をそれぞれ示す。
【図18】ステージIV及びステージIの胆道癌組織における、胆道癌マーカー(CEAM5_HUMAN、S100P_HUMAN、MUC5AC_HUMAN、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、OLFM4_HUMAN、AOFA_HUMAN、K1C20_HUMAN)の発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法及び免疫組織化学染色(IHC)法により解析し、得られたデータに基づいて有意差検定を行った結果を示す図である。
【図19】胆道癌マーカー(CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、HMCS2_HUMAN、OLFM4_HUMAN、S100P_HUMAN、CEAM5_HUMAN、MUC5A_HUMAN、COCA1_HUMAN、AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、OAT_HUMAN、CEAM6_HUMAN、FINC_HUMAN、APOA1_HUMAN、ACSL5_HUMAN、K1C20_HUMAN、PEPC_HUMAN、HS90A_HUMAN、SET_HUMAN、TPIS_HUMAN、1433T_HUMAN、ARK72_HUMAN、CLIC1_HUMAN、PSME1_HUMAN、VILI_HUMAN、ACTN1_HUMAN、QCR1_HUMAN、AMPL_HUMAN、TYPH_HUMAN、ANXA1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、TLN1_HUMAN、DMBT1_HUMAN、K1C19_HUMAN、及びCO1A1_HUMAN)の、発現パターンの違いについて示す図である。
【図20】選択反応モニタリング(SRM)法及び免疫組織化学染色(IHC)法により、胆道癌組織及び非癌部胆道組織における、FAM3C_HUMANの発現量を解析した結果(図面上部)と、それぞれの方法により得られたデータに基づいて有意差検定を行った結果(図面下部)を示す図である。図中、stageIはステージIの胆道癌組織を、stageIVはステージIVの胆道癌組織を、pkbeは非癌部胆道組織をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、前記のA群〜D群及びF群〜H群マーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNA(以下、これらを総称して「本件マーカー物質」ということがある)を胆道癌マーカーとして使用する方法に関し、かかる方法には、後述する胆道癌の有無を判定する方法の他、胆道癌の有無を判定するためのデータを収集する方法や、胆道癌治療の予後を予測するためのデータを収集する方法や、胆道癌治療薬の有効性を判定する方法や、胆道癌治療薬をスクリーニングする方法が含まれる。また本発明は、胆道癌マーカーとして使用するための本件マーカー物質に関する。
【0015】
本発明の胆道組織における、胆道癌の有無を判定する方法としては、(a)被験者より採取された判定用試料における本件マーカー物質の発現量を定量する定量工程;(b)前記判定用試料における本件マーカー物質の発現量と、対照となる健常試料における本件マーカー物質の発現量とを比較する比較工程;(c)発現量の比較結果に基づいて、以下の[i]〜[vii]のいずれかの評価基準により評価する工程;を順次含む方法であれば特に制限されないが、判断基準[i]〜[vii]から選択される2以上の評価を組み合わせて総合評価することが好ましい。また、定量工程(a)において、[B群マーカータンパク質]と同傾向を示す“ANXA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04083)、CTNB1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P35222)、DMBT1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9UGM3)、K1C19_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P08727)”、[D群マーカータンパク質]と同傾向を示す“K1C20_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P35900)”、[E群マーカータンパク質]としての“S100P_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P25815)、CEAM5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P06731)、MUC5A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P98088)”、[F群マーカータンパク質]と同傾向を示す“SET_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q01105)、ACTN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P12814)”、[H群マーカータンパク質]と同傾向を示す“CEAM6_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P40199)”からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAを定量し、比較工程(b)で健常試料と比較し、評価工程(c)において評価し([E群マーカータンパク質]については以下の評価基準[viii]を適用)、この結果をも加味して総合評価することも好ましい。さらに、判断基準[i]〜[viii]から選択される3以上の評価を組み合わせて総合評価することが好ましい。なお、前記胆道癌の有無を判定するためのデータを収集する方法や胆道癌治療の予後を予測するためのデータを収集する方法は、上記定量工程(a)と比較工程(b)を実施した後、発現量の比較結果をデータとして収集する工程が含まれる。
【0016】
[i]判定用試料におけるA群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に、早期又は進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[ii]判定用試料におけるB群マーカータンパク質から選択される1以上のタンパク質、又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に、早期又は進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[iii]判定用試料におけるC群マーカータンパク質又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して、減少している場合に被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価し、増加している場合に被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[iv]判定用試料におけるD群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して、増加している場合に被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価し、減少している場合に被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[v]判定用試料におけるF群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[vi]判定用試料におけるG群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[vii]判定用試料におけるH群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[viii]判定用試料におけるE群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に、進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
【0017】
本発明の胆道組織における、胆道癌治療薬の有効性を判定する方法や胆道癌治療薬をスクリーニングする方法としては、(a)胆道癌に罹患したモデル動物に被検薬剤又は被検物質を投与する投与工程:(b)前記モデル動物より採取された判定用試料における、本件マーカー物質のオーソログ(タンパク質やmRNA)の発現量を定量する定量工程:(c)前記判定用試料における本件マーカー物質のオーソログの発現量と、対照となる被検薬剤又は被検物質を未投与の場合における本件マーカー物質のオーソログの発現量とを比較する比較工程;(d)発現量の比較結果に基づいて、以下の1)〜8)のいずれかの評価基準により評価する工程;を順次含む方法であれば特に制限されないが、かかる工程1)〜8)から選択される2以上の評価を組み合わせて総合評価することがより好ましく、工程1)〜8)から選択される3以上の評価を組み合わせて総合評価することがさらに好ましい。
【0018】
1)判定用試料におけるA群マーカータンパク質のオーソログから選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検物質を未投与のときの発現量と比較して減少している場合、被検薬剤又は被検物質が早期又は進行期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
2)判定用試料におけるB群マーカータンパク質のオーソログから選択される1以上のタンパク質、又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検物質を未投与のときの発現量と比較して増加している場合、被検薬剤又は被検物質が早期又は進行期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
3)判定用試料におけるC群マーカータンパク質のオーソログ又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検薬剤又は被検物質を未投与のときの発現量と比較して、増加している場合に、被検薬剤又は被検物質が早期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価し、減少している場合に被検薬剤又は被検物質が進行期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
4)判定用試料におけるD群マーカータンパク質のオーソログから選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検薬剤又は被検物質を未投与のときの発現量と比較して、減少している場合に早期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価し、増加している場合に進行期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
5)判定用試料におけるE群マーカータンパク質のオーソログから選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検薬剤又は被検物質を未投与のときの発現量と比較して減少している場合、被検薬剤又は被検物質が進行期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
6)判定用試料におけるF群マーカータンパク質のオーソログから選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検薬剤又は被検物質を未投与のときの発現量と比較して増加している場合、被検薬剤又は被検物質が進行期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
7)判定用試料におけるG群マーカータンパク質のオーソログから選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検薬剤又は被検物質を未投与のときの発現量と比較して減少している場合、被検薬剤又は被検物質が早期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
8)判定用試料におけるH群マーカータンパク質のオーソログから選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、被検薬剤又は被検物質を未投与のときの発現量と比較して増加している場合、被検薬剤又は被検物質が早期の胆道癌の治療に有効な治療薬と評価する工程;
【0019】
本件マーカー物質のオーソログ遺伝子の遺伝情報は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索し、適宜入手することができる。例えば、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、HMCS2_HUMAN、OLFM4_HUMAN、COCA1_HUMAN、AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、OAT_HUMAN、FINC_HUMAN、APOA1_HUMAN、ACSL5_HUMAN、K1C20_HUMAN、PEPC_HUMAN、HS90A_HUMAN、SET_HUMAN、TPIS_HUMAN、1433T_HUMAN、ARK72_HUMAN、CLIC1_HUMAN、PSME1_HUMAN、VILI_HUMAN、ACTN1_HUMAN、QCR1_HUMAN、AMPL_HUMAN、TYPH_HUMAN、ANXA1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、TLN1_HUMAN、DMBT1_HUMAN、CO1A1_HUMANのオーソログがマウス、ラット等において知られている。
【0020】
上記胆道癌に罹患したモデル動物としては、胆道癌を自然に罹患したモデル動物であってもよいし、癌遺伝子の過剰発現や発癌物質で胆道癌を誘導したモデル動物であってもよく、癌遺伝子の過剰発現で胆道癌を誘導したモデル動物としては、例えば受容体チロシンキナーゼの1つであるErbB2/HER2(Human epidermal growth factor receptor 2)が過剰発現するトランスジェニックマウスが報告されていることから(Kiguchi K., et al. Cancer Res. 61: 6971-6976, 2001)、かかるトランスジェニックマウスを作製し用いることができる。上記モデル動物としてマウスの他、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等の非ヒト哺乳動物モデルを例示することができる。
【0021】
本発明の胆道癌の有無を判定する方法により、進行期又は早期の胆道癌の有無や、進行期の胆道癌の有無や、早期の胆道癌の有無を判定することができる。ここで、「進行期の胆道癌」とは、日本胆道外科研究会の「胆道癌取扱い規約」において、ステージIII又はIVに分類される胆道癌を意味し、「早期の胆道癌」とは、日本胆道外科研究会の「胆道癌取扱い規約」において、ステージI又はIIに分類される胆道癌を意味する。
【0022】
また、胆道癌としては、肝臓で作られた胆汁の通り道である胆道にできる癌であればどのような癌であってもよく、具体的には、肝外胆管癌、乳頭部癌、胆嚢癌等を例示することができる。
【0023】
本発明の胆道癌の有無を判定する方法(治療薬のスクリーニング方法)等に用いる判定用試料としては、被験者(モデル動物)より採取された胆道由来の細胞、組織、器官等の非液性試料や、血液、胆汁等の液性試料を例示することができる。例えば上記胆道組織は、胆管の組織であっても、胆嚢の組織であってもよく、また、胆管や胆嚢を形成する上皮、固有筋層、漿膜下層のいずれの組織を含むものであってもよく、さらに胆道組織は、被験者より採取された後に、凍結処理が施された凍結組織であっても、病理組織学的処理が施された病理組織であってもよく、前記病理組織としては、ホルマリン固定組織や、ホルマリン固定パラフィン包埋組織等を例示することができる。
【0024】
また、前記判定用試料における、本件マーカー物質の発現量を定量する定量方法としては、胆道癌マーカータンパク質の一部又は全部、あるいは、胆道癌マーカータンパク質をコードするmRNAの一部又は全部を、特異的且つ定量的に検出することができる定量方法であればどのような方法であってもよく、具体的には、胆道癌マーカータンパク質の定量方法として、液体クロマトグラフィー質量分析法や免疫学的測定法を挙げることができ、免疫学的測定法としては、免疫組織化学染色法、ELISA法、EIA法、RIA法、ウエスタンブロット法等を好適に例示することができ、胆道癌マーカータンパク質をコードするmRNAの定量方法としては、RT−PCR法や、リアルタイムPCR法や、ノーザンブロット法等を好適に例示することができるが、液体クロマトグラフィー質量分析法又は免疫学的測定法であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の胆道癌の有無を判定する方法に用いる健常試料としては、健常者や非胆道癌患者由来の上記非液性試料や液性試料、又は、医師等当業者が通常用いる基準に照らして明らかにがん化していないと判断される上記非液性試料や液性試料を例示することができる。また、これら健常試料は、採取された後に、前記判定用試料と同様の処理が施された健常試料であることが好ましい。また、比較工程においては、前記判定用試料及び前記健常試料における同一の本件マーカー物質の発現量を、同一の定量方法により定量し、得られた発現量のデータを比較することが好ましい。
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
[サンプルの採取]
胆道癌の摘出手術によって採取された14例(胆道癌取扱い規約におけるステージIの胆道癌患者7例、ステージIVの胆道癌患者7例)の胆道癌組織を、ホルマリン固定パラフィン包埋処理し、胆道癌マーカー検索用のFFPE胆道癌組織として用いた。前記FFPE胆道癌組織は、いずれも臨床情報や予後情報が明らかであり、術前放射線照射・化学療法症例、在院死亡例を除いたものである。また、対照となるFFPE非癌部胆道組織としては、膵頭部癌患者(7例)より採取された、癌組織を含まない胆管組織を用いた。前記の摘出手術は、1998年〜2008年の間に東北大学病院肝胆膵外科において行われた。
前記のFFPE組織を用いて、胆道癌組織において特異的に増加又は減少するマーカータンパク質の検索を行った。実験の概要は、図2〜4に示す通りである。
【実施例2】
【0028】
[LC/MS/MS解析用サンプルの調製]
1.FFPE組織切片の作製
前記FFPE組織を、ミクロトームを用いて薄切し、10μmの切片を作製した。この切片を、エネルギートランスファーコーティングスライドグラス(DIRECTORTMレーザーマイクロセクションスライド;Expression Pathology社製)のコーティング側に直接のせて伸展させた。キシレン及びエタノール浸潰により組織切片の脱パラフィン処理を行った後に、ヘマトキシリン染色を行い、タンパク質抽出用プレパラートを作製した。
【0029】
2.レーザーマイクロダイセクション
Leica LMD 6000レーザーマイクロダイセクションシステムを用いて、目的とする細胞特異的なダイセクションを行った。Leica LMD 6000レーザーマイクロダイセクションシステムは、重力落下方式により高精度且つ完全なコンタミフリーの条件下で、UVレーザーによるダイセクションが可能なシステムである。かかるレーザーマイクロダイセクションシステムを用いて、前記FFPE組織から胆道癌組織のみを採取した。
【0030】
3.タンパク質の可溶化及び断片化
レーザーマイクロダイセクションにより採取された胆道癌組織を、Liquid Tissue(登録商標)MS Protein Prep Kit(Expression Pathology社製)を用いて処理し、タンパク質を可溶化した。続いて、トリプシンを用いて可溶化タンパク質を断片化した。これらの処理により、30,000個の細胞(厚さ10μmのFFPE切片においては、約2×4mmの範囲に相当する)から、約2〜4μgのタンパク質が得られた。これは、後述のLC/MS/MS解析を、10回行うことができるタンパク質量に相当する。
【実施例3】
【0031】
[胆道癌マーカータンパク質の検索]
1.LC/MS/MS解析
実施例2により調製したサンプルを、0.1%TFA/2%Acetonitrile/D.W.(pH2〜3)で再溶解し、nano flow ESI−イオントラップ型LC/MS(ZAPLOUS Discovery LC/MSシステム)により分析を行った。分析は同一サンプルを3回測定した。LC/MS/MSの条件の詳細は以下の通りである。
Autosampler:HTC−PAL(CTC Analytics社製)
HPLC:Paradigm MS4(Michrom BioResources社製)
Column:MAGIC C18AQ、3μ、100オングストローム、0.1mmID x 150mm (Michrom BioResources社製)
Ion source: ADVANCE Nano Spray Source(Michrom BioResources社製)
MS:FinniganLXQ(Thermo Fisher Scientific社製)
A液:2%アセトニトリル/0.1%ギ酸
B液:90%アセトニトリル/0.1%ギ酸
Flow rate:500nL/min
Gradient:5〜45%B in 100min
EMS voltage:1.4〜1.6kV
Mass range:450〜2000
【0032】
2.タンパク質の同定
タンパク質の同定のためのソフトウエアとしてMASCOT(Matrix Science社製)を、データベースとしてSwissProt55.6を用い、LC/MS/MS解析データよりタンパク質を同定した。3回のLC/MS/MS解析により得られたデータから、それぞれタンパク質をリストアップし、最終的に統合した。その結果、図5に示すように、ステージIの胆道癌組織サンプルからは1266種類の、ステージIVの胆道癌組織サンプルからは1143種類の、対照となる非癌部胆道組織からは1095種類のタンパク質を同定することができた(癌部:1664種類、全体:1992種類)。
【0033】
3.LC/MS/MSデータの解析
各群でのタンパク質発現を、SCAFFOLDソフトウエア(Matrix Science社製)を用いて解析し、さらに、タンパク質アイソフォーム、サブセットを識別・グループ化し、遺伝子オントロジー解析を行った。具体的には以下のような解析を行った。
スペクトラルカウント法(図6):半定量法として下記の計算式を用いた比較定量及び統計検定(G検定)を実施して、群特異的な発現タンパク質の同定を同時に行った。
(1)相対変化量:Abundance ratio for each protein(Rsc)
Rsc=log[(n+f)/(n+f)]+log[(t−n+f)/(t−n+f)]
、n:あるタンパクを同定するのに使用したペプチドの数
、t:タンパク同定に使用したペプチドの総数
f:correction factor= 1.25
(2)相対発現量:Normalized Spectral Abundance Factor for each protein(NSAF)
NSAF=[SpC/L]/SUM[SpC/L
SpC:あるタンパクを同定するのに使用したペプチド数
:同定したタンパクのアミノ酸数
(3)スペクトラル・インデックス:Spectral Index for Group Comparison(SI)
SI=[S/(S+SND/NT]−[S/(S+SND/NT
、S:タンパク同定に使用したペプチドの総数
ND、ND:ある群の中で該当タンパクが同定されたサンプル数
NT、NT:ある群の中のサンプル数
【0034】
4.胆道癌マーカータンパク質の検索
前記の解析により、スペクトラルインデックス(SI)、相対発現量(NSAFk)、相対変化量(Rsc)を算出し、さらに、統計検定(G検定)により、癌部で有意に高発現している160種類のタンパク質を胆道癌のバイオマーカー候補として同定した。この160種類の胆道癌マーカー候補タンパク質について、遺伝子オントロジー解析を行い、構造タンパク質やハウスキーピングタンパク質などを除外し、さらに、胆道癌に特異的でないと考えられるタンパク質を除外することによって、77種類の胆道癌に特異的なマーカー候補タンパク質を選定した(図7)。この77種類のタンパク質のUniProtIDは以下の通りである。
A1AT_HUMAN、ACTN4_HUMAN、ADT3_HUMAN、AL1A1_HUMAN、AOFA_HUMAN、CH60_HUMAN、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、FAS_HUMAN、FLNB_HUMAN、GELS_HUMAN、HMCS2_HUMAN、HS90A_HUMAN、LG3BP_HUMAN、MYH14_HUMAN、OAT_HUMAN、PHB_HUMAN、PHB2_HUMAN、QCR1_HUMAN、S100P_HUMAN、SET_HUMAN、STAT1_HUMAN、TIF1B_HUMAN、TPIS_HUMAN、TRAP1_HUMAN、TRFE_HUMAN、TYPH_HUMAN、VDAC1_HUMAN、1433T_HUMAN、1433Z_HUMAN、ACSL5_HUMAN、AMPL_HUMAN、ANXA1_HUMAN、ARK72_HUMAN、CAD17_HUMAN、CAP1_HUMAN、CEAM5_HUMAN、CEAM6_HUMAN、CLIC1_HUMAN、CO1A1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、CYC_HUMAN、EFHD2_HUMAN、FLNA_HUMAN、K1C20_HUMAN、LPPRC_HUMAN、MUC5A_HUMAN、NUCL_HUMAN、OLFM4_HUMAN、PEBP1_HUMAN、PEPC_HUMAN、PML_HUMAN、PRDX6_HUMAN、PSME1_HUMAN、SERPH_HUMAN、TLN1_HUMAN、TPD52_HUMAN、TPD54_HUMAN、VILI_HUMAN、VIME_HUMAN、ADT2_HUMAN、SAP_HUMAN、AK1C2_HUMAN、AMPN_HUMAN、AN32A_HUMAN、CBX3_HUMAN、FERM2_HUMAN、LA_HUMAN、MYOF_HUMAN、NDRG1_HUMAN、NEDD4_HUMAN、PARK7_HUMAN、POSTN_HUMAN、PTMS_HUMAN、RAP1A_HUMAN、REG1A_HUMAN、TAGL_HUMAN。
【0035】
前記の77種類のタンパク質と、これまでの報告から胆道癌マーカー候補と考えられるタンパク質を17種類及び内部標準であるβ−actinの合計95種類のタンパク質を、選択反応モニタリング(SRM)法により定量した。前記の胆道癌マーカー候補と考えられる17種類タンパク質のUniProtIDは以下の通りである。
DMBT1_HUMAN、ACTN1_HUMAN、K1C19_HUMAN、GTR1_HUMAN、FINC_HUMAN、APOA1_HUMAN、COCA1_HUMAN、FAM3C_HUMAN、FETA_HUMAN、MUC6_HUMAN、CATB_HUMAN、CEAM1_HUMAN、NGAL_HUMAN、TRY1_HUMAN、SDC1_HUMAN、EMIL1_HUMAN、CMGA_HUMAN。
【0036】
選択反応モニタリング(SRM)法においては、ACTBのSRM transition(488.7/630.3)のピークエリアを適用し、以下の計算式により標準化した。
Normalized peak area = Each of peak area x (500,000 / peak area of 488.7/630.3)
SRM法による解析の結果から、前記のマーカー候補タンパク質の中から、胆道癌組織における発現量が、非癌部胆道組織と比較して2倍以上増加、又は半分以下に減少している35種類のタンパク質を、胆道癌マーカータンパク質として選択した。この35種類のタンパク質のUniProtIDは以下の通りである。
CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、HMCS2_HUMAN、OLFM4_HUMAN、S100P_HUMAN、CEAM5_HUMAN、MUC5A_HUMAN、COCA1_HUMAN、AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、OAT_HUMAN、CEAM6_HUMAN、FINC_HUMAN、APOA1_HUMAN、ACSL5_HUMAN、K1C20_HUMAN、PEPC_HUMAN、HS90A_HUMAN、SET_HUMAN、TPIS_HUMAN、1433T_HUMAN、ARK72_HUMAN、CLIC1_HUMAN、PSME1_HUMAN、VILI_HUMAN、ACTN1_HUMAN、QCR1_HUMAN、AMPL_HUMAN、TYPH_HUMAN、ANXA1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、TLN1_HUMAN、DMBT1_HUMAN、K1C19_HUMAN、CO1A1_HUMAN。
【0037】
図8〜11に、ステージIの胆道癌組織(7例)、ステージIVの胆道癌組織(7例)、及び非癌部胆道組織(7例)のそれぞれの組織中の、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、CEAM5_HUMAN、OLFM4_HUMANの発現量を、選択反応モニタリング(SRM)法により解析した結果を示す。また、図12に、ステージIV及びステージIの胆道癌組織における、CEAM5_HUMAN、S100P_HUMAN、MUC5AC_HUMAN、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、OLFM4_HUMAN、HMCS2_HUMAN、AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、K1C20_HUMAN、OAT_HUMANの発現量の変化を示す。
【0038】
図8〜12に示されるように、前記の35種類のタンパク質は、胆道癌の進行度に伴って、それぞれ異なる発現パターンを示すことが明らかとなった。前記の35種類のタンパク質は、発現パターンの違いから、以下の8群分類することができる(図19)。
A群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、2倍以上に増加しているタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、2倍以上に増加しているタンパク質(CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、HMCS2_HUMAN、OLFM4_HUMAN)。
E群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、変化しないタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、2倍以上に増加しているタンパク質(S100P_HUMAN、CEAM5_HUMAN、MUC5A_HUMAN)。
C群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、0.5倍以下に減少しているタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、2倍以上に増加しているタンパク質(CO1A1_HUMAN)。
G群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、2倍以上に増加しているタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、変化しないタンパク質(AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、OAT_HUMAN)。
H群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、0.5倍以下に減少しているタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、変化しないタンパク質(CEAM6_HUMAN、FINC_HUMAN、APOA1_HUMAN)。
D群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、2倍以上に増加しているタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、0.5倍以下に減少しているタンパク質(ACSL5_HUMAN、K1C20_HUMAN、PEPC_HUMAN)。
F群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、変化しないタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、0.5倍以下に減少しているタンパク質(HS90A_HUMAN、SET_HUMAN、TPIS_HUMAN、1433T_HUMAN、ARK72_HUMAN、CLIC1_HUMAN、PSME1_HUMAN、VILI_HUMAN、ACTN1_HUMAN、QCR1_HUMAN、AMPL_HUMAN)。
B群:ステージIの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、0.5倍以下に減少しているタンパク質であって、且つ、ステージIVの癌部組織における発現量が、非癌部における発現量と比較して、0.5倍以下に減少しているタンパク質(TYPH_HUMAN、ANXA1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、TLN1_HUMAN、DMBT1_HUMAN、K1C19_HUMAN、COCA1_HUMAN)。
【実施例4】
【0039】
5.免疫組織化学染色
実施例3において同定された、35種類の胆道癌マーカータンパク質について、免疫組織化学染色(IHC)法により発現量の変化を確認した。免疫組織化学染色(IHC)による発現量の評価方法を図13に示す。図14に示すように、ステージIの胆道癌組織(7例)、ステージIVの胆道癌組織(7例)、及び非癌部胆道組織(7例)における、FABPL_HUMAN発現を、IHC法により確認した結果、FABPL_HUMANは、胆道癌組織において強く発現しており、非癌部胆道組織ではほとんど発現していないことが明らかとなった。また、免疫染色の結果から、ステージI又はIVの胆道癌組織におけるFABPL_HUMAN、CPSM_HUMAN、及びCEAM5_HUMANの発現が、非癌部胆道組織と比較して、有意に増加しているかどうかを解析した。結果を、図15〜図17に示す。
【0040】
さらに、免疫組織化学染色(IHC)の結果から、CEAM5_HUMAN、S100P_HUMAN、MUC5AC_HUMAN、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、OLFM4_HUMAN、AOFA_HUMAN、及びK1C20_HUMANは、選択反応モニタリング(SRM)法による解析結果と同様に、胆道癌組織において、非癌部胆道組織と比較して、有意に発現が変化することが明らかとなった(図18)。
【0041】
以上の解析の結果、図19に示すように、CPSM_HUMAN、FABPL_HUMAN、HMCS2_HUMAN、OLFM4_HUMAN、S100P_HUMAN、CEAM5_HUMAN、MUC5A_HUMAN、COCA1_HUMAN、AOFA_HUMAN、CAD17_HUMAN、OAT_HUMAN、CEAM6_HUMAN、FINC_HUMAN、APOA1_HUMAN、ACSL5_HUMAN、K1C20_HUMAN、PEPC_HUMAN、HS90A_HUMAN、SET_HUMAN、TPIS_HUMAN、1433T_HUMAN、ARK72_HUMAN、CLIC1_HUMAN、PSME1_HUMAN、VILI_HUMAN、ACTN1_HUMAN、QCR1_HUMAN、AMPL_HUMAN、TYPH_HUMAN、ANXA1_HUMAN、CTNB1_HUMAN、TLN1_HUMAN、DMBT1_HUMAN、K1C19_HUMAN、及びCO1A1_HUMANのタンパク質発現量は、胆道癌の進行に伴って変動することが明らかとなった。
【実施例5】
【0042】
FAM3C_HUMANは、LC/MS/MS解析により胆道癌組織における発現が確認され、遺伝子オントロジー解析によって選択された77種類のタンパク質のひとつであったが、その後の選択反応モニタリング(SRM)法による解析の結果から、胆道癌組織と非癌部胆道組織とで発現量の顕著な変化が認められなかったことから、最終的には胆道癌マーカータンパク質として選択されなかった。このような、本発明の胆道癌マーカータンパク質の選択の過程で、胆道癌マーカータンパク質として適切でないと判断され、選択から漏れたタンパク質について、より詳細な検討を行い、胆道癌組織及び非癌部胆道組織における発現量を確認した。SRM法及び免疫組織化学染色(IHC)法により、胆道癌組織及び非癌部胆道組織におけるFAM3C_HUMANの発現量の変化を確認した結果を図20に示す。実験の結果、FAM3C_HUMANは、SRM法及びIHC法のいずれにおいても、胆道癌組織と非癌部胆道組織における発現量の変化は認められないことが明らかとなった。以上の結果は、本実施例における、胆道癌マーカータンパク質の選択方法が適正であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆道組織における、胆道癌の有無を判定する方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を備えたことを特徴とする方法。
(a)被験者より採取された判定用試料における、胆道癌マーカーの発現量を定量する定量工程であって、前記胆道癌マーカーが以下の各群のマーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAである定量工程;
[A群マーカータンパク質]
CPSM_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31327)、FABPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07148)、HMCS2_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P54868)、OLFM4_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q6UX06)
[B群マーカータンパク質]
TYPH_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P19971)、TLN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9Y490)、及びCOCA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q99715)
[C群マーカータンパク質]
CO1A1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02452)
[D群マーカータンパク質]
ACSL5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9ULC5)、PEPC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P20142)
[F群マーカータンパク質]
HS90A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07900)、TPIS_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P60174)、1433T_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P27348)、ARK72_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O43488)、CLIC1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O00299)、PSME1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q06323)、QCR1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31930)、AMPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P28838)
[G群マーカータンパク質]
AOFA_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P21397)、CAD17_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q12864)、OAT_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04181)
[H群マーカータンパク質]
FINC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02751)、APOA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02647)
(b)前記判定用試料における前記胆道癌マーカーの発現量と、対照となる健常試料における前記胆道癌マーカーの発現量とを比較する比較工程;
(c)発現量の比較結果に基づいて、以下の[i]〜[vii]のいずれかの評価をする評価工程;
[i]判定用試料におけるA群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に、早期又は進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[ii]判定用試料におけるB群マーカータンパク質から選択される1以上のタンパク質、又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に、早期又は進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[iii]判定用試料におけるC群マーカータンパク質又は該タンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して、減少している場合に被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価し、増加している場合に被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[iv]判定用試料におけるD群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して、増加している場合に被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価し、減少している場合に被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[v]判定用試料におけるF群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に進行期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[vi]判定用試料におけるG群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して増加している場合、被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価する;
[vii]判定用試料におけるH群マーカータンパク質から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAの発現量が、健常試料における発現量と比較して減少している場合、被験者の胆道組織中に早期の胆道癌組織が存在すると評価する;
【請求項2】
判定用試料が、組織、血液又は胆汁であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
定量工程が、液体クロマトグラフィー質量分析法又は免疫学的測定法により、胆道癌マーカータンパク質の発現量を定量する工程であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
以下の各群のマーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNAを胆道癌マーカーとして使用する方法。
[A群マーカータンパク質]
CPSM_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31327)、FABPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07148)、HMCS2_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P54868)、OLFM4_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q6UX06)
[B群マーカータンパク質]
TYPH_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P19971)、TLN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9Y490)、及びCOCA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q99715)
[C群マーカータンパク質]
CO1A1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02452)
[D群マーカータンパク質]
ACSL5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9ULC5)、PEPC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P20142)
[F群マーカータンパク質]
HS90A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07900)、TPIS_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P60174)、1433T_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P27348)、ARK72_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O43488)、CLIC1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O00299)、PSME1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q06323)、QCR1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31930)、AMPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P28838)
[G群マーカータンパク質]
AOFA_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P21397)、CAD17_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q12864)、OAT_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04181)
[H群マーカータンパク質]
FINC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02751)、APOA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02647)
【請求項5】
胆道癌マーカーとして使用するための、以下の各群のマーカータンパク質からなる群から選択される1若しくは2以上のタンパク質、又はそれらタンパク質をコードするmRNA。
[A群マーカータンパク質]
CPSM_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31327)、FABPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07148)、HMCS2_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P54868)、OLFM4_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q6UX06)
[B群マーカータンパク質]
TYPH_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P19971)、TLN1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9Y490)、及びCOCA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q99715)
[C群マーカータンパク質]
CO1A1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02452)
[D群マーカータンパク質]
ACSL5_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q9ULC5)、PEPC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P20142)
[F群マーカータンパク質]
HS90A_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P07900)、TPIS_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P60174)、1433T_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P27348)、ARK72_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O43488)、CLIC1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号O00299)、PSME1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q06323)、QCR1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P31930)、AMPL_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P28838)
[G群マーカータンパク質]
AOFA_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P21397)、CAD17_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号Q12864)、OAT_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P04181)
[H群マーカータンパク質]
FINC_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02751)、APOA1_HUMAN(UniProtKBアクセッション番号P02647)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−237685(P2012−237685A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107624(P2011−107624)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】