説明

新規製剤の製造方法

【課題】本発明は、クロルフェニラミンの含有量低下が抑制されるクロルフェニラミン含有製剤の製造方法および製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、クロルフェニラミン及び酸を基剤溶液に加熱溶解する工程を含む、クロルフェニラミン含有製剤の製造方法を提供する。この構成とすることによって、配合したクロルフェニラミンの含有量の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ヒスタミン剤と酸を配合した製剤の新規な製造方法に関する。さらに詳しくは、製剤における主薬の含量低下を防止する新規製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗ヒスタミン剤は、ヒスタミン受容体を遮断することによって、蕁麻疹や皮膚炎、鼻炎等のアレルギー症状を抑制する薬剤である。一部の抗ヒスタミン剤には、さらに中枢抑制作用を持つものがあり、鎮暈剤や睡眠剤として使用されている。
マレイン酸クロルフェニラミンは、代表的な抗ヒスタミン剤であり、鼻炎薬や感冒薬に配合されることが多い薬物である。マレイン酸クロルフェニラミンを含む製剤については、以下のような報告がされている。
特開2001−64159号公報(特許文献1)には、塩酸フェニルプロパノールアミンを含む第1の顆粒と、マレイン酸クロルフェニラミン及びクエン酸を含む第2の顆粒を混合した複合顆粒剤が開示されている。別個の顆粒を形成することにより、塩酸フェニルプロパノールアミンとマレイン酸クロルフェニラミンを混合すると着色変化が生じやすい(段落番号0002)という問題を解決するものである。第2の顆粒には、塩酸フェニルプロパノールアミンの苦味を低減するためにクエン酸を添加することができるとされている。
また、マレイン酸クロルフェニラミンにも苦味があることが知られている。特開平4−327526号公報(特許文献2)には、主薬の苦味等を軽減するために、炭酸塩と有機酸を組み合わせて発泡剤とする発明が開示されており、マレイン酸クロルフェニラミン、炭酸水素ナトリウム、クエン酸を配合した錠剤について記載されている。
マレイン酸クロルフェニラミンの苦味を軽減するためには、製剤の製造工程の後半で風味付けのために香料、矯味矯臭剤等が添加される場合もある。
特開昭62−138432号公報(特許文献3)には、ステロイド剤を安定化させるために、還元性糖及び/又は低級有機酸を添加する発明が開示されており、主薬であるステロイドに、マレイン酸クロルフェニラミンとクエン酸を配合した錠剤が開示されている。ここで、マレイン酸クロルフェニラミンについては、長期間安定であることが周知と記載されている(第5頁左上欄)。
【特許文献1】特開2001−64159
【特許文献2】特開平4−327526
【特許文献3】特開昭62−138432
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のように薬物と賦形剤を加熱溶解し、ドロップ剤や顆粒剤を製造した場合に、上述のように安定であるはずの抗ヒスタミン剤の含有量が、製造直後から低下してしまう場合があった。
そこで、本発明は、抗ヒスタミン剤の含有量低下が抑制される抗ヒスタミン剤含有製剤の製造方法および製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、主薬である抗ヒスタミン剤の加熱溶解の際、酸を加えることによって、抗ヒスタミン剤の含有量低下が抑制された製剤を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)抗ヒスタミン剤及び酸を基剤溶液に加熱溶解する工程を含む、抗ヒスタミン剤含有製剤の製造方法;
(2)前記抗ヒスタミン剤が、ジフェンヒドラミン、ジフェニルピラリン、クレマスチン、トリプロリジン、シプロヘプタジン、クロルフェニラミン、プロメタジン、アリメマジン及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上である上記(1)に記載の製造方法;(3)前記酸が、酒石酸、リン酸、アジピン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸及びマレイン酸からなる群より選択される1種以上である上記(1)又は(2)に記載の製造方法;
(4)前記基剤が、白糖、水アメ、ソルビトール、キシリトール、還元麦芽糖、還元麦芽糖水アメ、還元水アメ、マンニトール、トレハロース、パラチノース及び還元パラチノースからなる群より選択される1種以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法;(5)加熱溶解工程後に、前記基剤溶液を濃縮する工程を含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法;
(6)前記濃縮工程後に、濃縮された材料を成型する工程を含む上記(5)に記載の製造方法;
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの製造方法で製造したドロップ剤、チュアブル剤またはトローチ剤;
(8)抗ヒスタミン剤を、酸の存在下で基剤溶液に加熱溶解することを特徴とする抗ヒスタミン剤の安定化方法、に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、抗ヒスタミン剤の含有量低下が抑制された、安定な抗ヒスタミン剤含有製剤を得ることができる。含有量が低下しないため、目的とする薬効を確実に発揮する製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る製剤の製造方法は、抗ヒスタミン剤を基剤溶液に溶解する際、基剤溶液に酸を加えて加熱することを特徴とする。
本発明に用いられる抗ヒスタミン剤は限定されないが、例えば、ジフェンヒドラミン、ジフェニルピラリン、クレマスチン、トリプロリジン、シプロヘプタジン、クロルフェニラミン、プロメタジン、アリメマジンおよびこれらの塩を挙げることできる。
好ましくはジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、ラウリル硫酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェニルピラリン、テオクル酸ジフェニルピラリン、フマル酸クレマスチン、塩酸トリプロリジン、塩酸シプロヘプタジン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、酒石酸アリメマジンであり、さらに好ましくは、マレイン酸クロルフェニラミンである。
【0008】
本発明に用いられる酸は限定されないが、例えば、酒石酸、リン酸、アジピン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸及びマレイン酸等を挙げることができる。好ましくは、アスコルビン酸およびクエン酸である。
製剤中の酸の添加量は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜2%程度である。
【0009】
本発明に用いられる基剤溶液は、目的に応じて当業者が適宜調製することができ、例えば白糖、水アメ、ソルビトール、キシリトール、還元麦芽糖、還元麦芽糖水アメ、還元水アメ、マンニトール、トレハロース、パラチノース、還元パラチノース等の基剤を水に溶解したものが用いられる。
【0010】
抗ヒスタミン剤及び酸は、80℃〜120℃、好ましくは100℃〜115℃に加熱された基剤溶液に投入し、攪拌等行って溶解させる。
【0011】
上記方法で抗ヒスタミン剤を溶解させた基剤溶液は、その後、公知の製造方法に供することができる。本発明に係る製造方法によって製造される製剤の種類は特に限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ、チュアブル剤、ドロップ剤、ドロップ状あるいはゼリー状のチュアブル剤、ドロップ状あるいはゼリー状のトローチ剤等を挙げることができる。好ましくはドロップ剤、ドロップ状あるいはゼリー状のチュアブル剤、ドロップ状あるいはゼリー状のトローチ剤である。
【0012】
本発明に係る製剤の製造方法では、公知の添加剤を適宜添加することができる。添加剤としては、一般的に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、消泡剤、着色剤、矯味矯臭剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等を挙げられる。
【0013】
上記賦形剤としては、例えばトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、デキストリン、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、トレハロース、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等を挙げることができる。
【0014】
上記結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、アラビアガム、トラガント、ゼラチン、セラック等を挙げることができる。
【0015】
上記滑沢剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク等を挙げることができる。
【0016】
上記崩壊剤としては、例えば結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等を挙げることができる。
【0017】
上記消泡剤としては、シリコーン樹脂エマルジョン、ジメチルポリシロキサン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0018】
上記着色剤としては、例えば三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カルミン、カラメル、β−カロチン、酸化チタン、タルク、銅クロロフィリンナトリウム、リボフラビン、酪酸リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、黄色アルミニウムレーキ、タール色素等を挙げることができる。
【0019】
上記矯味矯臭剤としては、例えばカカオ末、コーヒー末、緑茶末、ハッカ油、メントール、レモン油、竜脳、桂皮末、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、香料等を挙げることができる。
【0020】
上記防腐剤としては、例えばメチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等を挙げることができる。
【0021】
上記抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸、トコフェロール等を挙げることができる。
【0022】
上記安定化剤としては、例えばアスコルビン酸、エデト酸塩、エリソルビン酸、トコフェロール等を挙げることができる。
【0023】
上記吸収促進剤としては、ミリスチン酸イソプロピル、トコフェロール、カルシフェロール等を挙げることができる。
【0024】
製造例
以下に本発明に係る製剤の一例として、ドロップ剤、ゼリー剤および顆粒剤の製造方法を示す。
まず、基剤となる白糖、水アメ、ソルビトール、キシリトール、還元麦芽糖、還元麦芽糖水アメ、還元水アメ、マンニトール、トレハロース、パラチノース、還元パラチノース等を水に投入し、90℃〜120℃程度に加熱して溶解し、基剤溶液を調製する。
続いて、80℃〜120℃程度、好ましくは100℃〜115℃の基剤溶液に、抗ヒスタミン剤及び酸を投入撹拌し、加熱溶解液を得る。必要に応じてその他の薬物、着色剤、矯味矯臭剤等を投入攪拌してもよい。
この加熱溶解液を濃縮装置に移して、120℃〜160℃程度に加熱し、減圧(2〜60kPa)して濃縮し、飴生地を得る。この飴生地に必要に応じて、香料や矯味矯臭剤、着色剤等を加えて攪拌混合する。飴生地を冷却し、練合した後、ロープ状にしたものを打錠成型または切断成型して、ドロップ剤を得る。また、飴生地を成型トレイに充填してドロップ剤を製造することもできる。
また、加熱溶解液にゼラチン、ペクチン、アラビアゴム、寒天、カラギーナン等の粘稠化剤を配合し、これを充填冷却固化し、ゼリー剤を製造することもできる。
また、加熱溶解液を造粒機の中でノズルから噴射し、冷却固化することにより、顆粒剤を製造することもできる。
【0025】
尚、製剤中のクロルフェニラミン含有量は、製剤を水等の適当な溶媒に溶解させた後、滴定法、高速液体クロマトグラフ法等の公知の方法またはそれに準ずる方法で測定することができる。
【0026】
以下、本発明を実施例によって、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0027】
実施例1
表1に示した処方により、マレイン酸クロルフェニラミンを含有したドロップ剤を製造した。
還元パラチノースの0.35倍量の水および還元パラチノースを溶解混合釜に入れ、攪拌しながら110℃に加熱して溶解した。これにd−マレイン酸クロルフェニラミン、臭化水素酸スコポラミン、クエン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、アセスルファムカリウムを加えて攪拌混合した。この加熱溶解液を濃縮装置に移して144℃に加熱しながら、減圧(10kPa)して濃縮し、飴生地を製造した。飴生地を計量混合機に入れ、残りの成分を加えて攪拌混合した。この飴生地を冷却しながら練合したのち、ロープ状にしたものを打錠成型して、ドロップ剤を製造した。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例2
実施例1と同様にして、クエン酸のかわりにアスコルビン酸を加熱溶解時に添加し、また、クエン酸は飴生地を製造した後に添加し、表1に示した処方で、ドロップ剤を製造した。
【0030】
比較例1
実施例1と同様にして、表1に示した処方で、ドロップ剤を製造した。ただし、クエン酸は飴生地を製造した後に添加した。
【0031】
試験例
製造直後の実施例1、実施例2および比較例1のドロップ剤中のマレイン酸クロルフェニラミン含有量を高速液体クロマトグラフ法で定量した。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示されるように、マレイン酸クロルフェニラミンの加熱溶解時に、クエン酸またはアスコルビン酸を添加した製剤では、マレイン酸クロルフェニラミンの含有量の低下を抑制することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒスタミン剤及び酸を基剤溶液に加熱溶解する工程を含む、抗ヒスタミン剤含有製剤の製造方法。
【請求項2】
前記抗ヒスタミン剤が、ジフェンヒドラミン、ジフェニルピラリン、クレマスチン、トリプロリジン、シプロヘプタジン、クロルフェニラミン、プロメタジン、アリメマジン及びこれらの塩からなる群より選択される1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸が、酒石酸、リン酸、アジピン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸及びマレイン酸からなる群より選択される1種以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基剤が、白糖、水アメ、ソルビトール、キシリトール、還元麦芽糖、還元麦芽糖水アメ、還元水アメ、マンニトール、トレハロース、パラチノース及び還元パラチノースからなる群より選択される1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
加熱溶解工程後に、前記基剤溶液を濃縮する工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記濃縮工程後に、濃縮された材料を成型する工程を含む請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの製造方法で製造したドロップ剤、チュアブル剤またはトローチ剤。
【請求項8】
抗ヒスタミン剤を、酸の存在下で基剤溶液に加熱溶解することを特徴とする抗ヒスタミン剤の安定化方法。

【公開番号】特開2009−51802(P2009−51802A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250415(P2007−250415)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【特許番号】特許第4226638号(P4226638)
【特許公報発行日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(592186858)高市製薬株式会社 (1)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】