説明

新規転写因子、その製法および用途

アスコクロリン、その類縁物質およびその誘導体と一級アミノ基を有する化合物を塩基性触媒の存在/非存在下に混合して反応せしめ、新規イミノ化合物を合成する。合成された新規イミノ化合物はレチノイド・オーファン受容体(RXR)、パーオキシソーム増殖活性化因子受容体(PPAR)、ステロイド受容体(PXR)等の核内受容体スーパーファミリーを活性化するリガンドであり、薬物代謝酵素CYP7A1の転写を促進する作用を示す。生活習慣病、慢性炎症およびガンなどの疾病に対し治療効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、オルシルアルデヒドの3位にテルペン側鎖が結合し一般にプレニルフェノール系抗生物質と呼ばれる一群の微生物代謝産物、すなわち、アスコクロリン、シリンドロクロリン、クロロネクチン、LLZ−1272−・、LLZ−1272−・並びにそれらの4−O−アルキル誘導体、2−O−アルキル誘導体、4−O−アシル誘導体、2−O−アシル誘導体、2,4−diO−アルキル誘導体、2−O−アシル−4−O−アルキル誘導体、4−O−アシル−2−O−アルキル誘導体等の芳香族アルデヒド基をアミノ酸などのアミノ化合物と反応させ相当するイミノ化合物を合成することによって得られる新規化合物および当該合成方法に関する。本発明方法は高度に選択的であり、本方法によって合成された新規イミノ化合物は高コレステロール血症、低HDL−コレステロール血症、心臓の冠状動脈硬化症、脳血管障害、高血圧症、インスリン非依存性糖尿病、内臓脂肪症候群(シンドロームX)、甲状腺機能障害等の治療に有効である。また、インスリン依存性糖尿病の予防、バルーンカテーテル、ステントにより拡張した心臓冠状動脈の再狭索予防、再生医療における移植細胞、組織等の死滅予防にも有効である。
【背景技術】
田村、安藤、鈴木等は1968年、抗ウイルス抗生物質をスクリーニングする過程で不完全糸状菌Ascochyta viciae Libertから新規代謝産物を単離し、アスコクロリンと命名した(Tamura et al.J.Antibiotics 21:539−544,1968)。アスコクロリンの絶対構造は本発明者(安藤)が加わる研究グループにより3−[5−[1(R),2(S),6(S)−trimethyl−3−oxocyclohexyl]−3−methyl−2,4−pentadienyl−2,4−dihydroxy−5−chloro−6−methylbenzaldehydeと決定されている(Nawata Y.et al.J.Antibiotics 22:1969)。この物質は、米国レダリー・ラボラトリーズが特許(US Patent 3,546,073,Dec.8,1970)を取得した真菌Fusarium sp.の代謝産物LLZ−1272−Cと同一であった。さらに、アスコクロリンは1968年10月23日、インペリアル・ケミカル・インダストリー社(ICI)が英国の出願番号No.50354/68で出願し、1972年4月12日、未知化合物の構造が決定して追加出願した化合物と同一であった。しかし、本発明者等は、1968年3月に日本特許を出願し、1969年、分子内にヨード原子を導入したX線回折法により絶対構造を解明したので、今日ではアスコクロリンと言う名称が一般名として定着した。
一方、発ガン性タンパク質Rasが細胞質でファルネシル化されて細胞膜に移動し、細胞をガン化させる過程は1980年代後期における先端的なガン研究の一つであった。米国メルク社は、1995年、微生物の代謝産物の中にRasのファルネシル化阻害剤をスクリーニングする過程で、アスコクロリン及びその誘導体がRasのファルネシル化を阻害することを発見し、特許を取得した(Singh,S.B et al.US Patent 94−222773(Merck and Co.,Inc.,U.S.A))。また、大村等は男性ホルモンを生合成するさいの律速段階であるアロマターゼの阻害剤を微生物代謝産物のなかにスクリーニングしたところ、真菌の代謝産物のなかに強力な阻害物質を単離した。同定したところ、アロマターゼ阻害物質はシリンドロクロリンであったと報告している(大村、高松等、Chem.Pharm.Bull.42:953−956,1994年)。上記の化合物はいずれもオルシルアルデヒドの3位にセスキテルペン側鎖が結合した構造を持っている点で共通していて、本発明者等はこれらの化合物を総称しプレニルフェノールと呼んでいる。
プレニルフェノールの特徴は、多彩な生物活性を呈する点にある。例えば、本発明者等はアスコクロリンが核酸及びタンパク質の生合成に影響を与えないにもかかわらず、動物ウイルスの増殖を阻止することを発表した。一方、レダリーの研究者等は、プレニルフェノールが原生動物テトラヒメナの生育を阻害するとともに、マウス及びラットの血清コレステロールを低下させる作用があると述べている。とりわけ、アスコクロリンのシクロヘキサノン環を脱水素して生成するシリンドロクロリンは、さらに強力な血清コレステロール低下作用を示すとしている。
上記ICIの特許によれば、アスコクロリンは血清コレステロール低下作用とともに、齧歯類動物に対し強力な食欲抑制作用を示す。その食欲抑制作用は、48時間絶食させた飢餓マウスを被検動物として飼料摂取の2時間前にアスコクロリンを極微量経口投与すると、2時間の摂食時間内における飼料摂取量を半分に抑制するほど強力である。さらに、ICI特許はアスコクロリンがラットの足掌にアジュバントを注射して惹起させる関節炎に対し、炎症による腫脹を軽減する効果があると述べている。
本発明者等は、アスコクロリンの誘導体であるアスコフラノンを単離して構造決定を行い、この化合物に齧歯類動物に対する血清コレステロール低下作用及び抗ガン作用があることを見いだした(Jpn.J.Pharmacol.25:35−39,1975及びJ.Antibiotics 35:1547−52,1982)。さらに、プレニルフェノールの呈する薬理作用を検討したところ、アスコフラノン及び4−O−メチルアスコクロリンは、ラットの高血圧病態モデルが、腎不全状態に陥るのを予防することを明らかにした(Eur.J.Pharmacol.69:429−438,1981)。すなわち、プレニルフェノールは片側の腎臓を摘出したラットにミネラルコルチコイドであるデオキシコルチコステロン・酢酸エステルを投与し、飲料水として1%食塩水を与えて発症させる高血圧症を有意に抑制すること、血圧の上昇に伴って起こる高コレステロール血症の阻止、腎臓糸球体に起こる硬化性病変を軽減した。アスコクロリン誘導体の薬理作用のなかで興味深いのは、これらの物質が齧歯類動物レベルにおいて血清総コレステロールを低下させること、及びインスリン非依存性糖尿病モデルのインスリン抵抗性を解除する効果である(Agr.Biol.Chem.46:2865−69,1982;DIABETES 34:267−274,1985)。
そのため、従来から有機化学的な手法で新規なアスコクロリン誘導体の合成研究が行われており、主要な論文は次の通りである。米国レダリー研究所はFusarium属のカビからアスコクロリンを単離し、その構造を決定する過程で数種の誘導体を合成している(Tetrahedron,Elstad G.A.et al:Tetrahedron 25:1323−34,1969)。さらに、サファリン等(Safaryn J.E.et al.:Tetrahedron 42:2635−42,1986)並びに森等(Tetrahedron 41:3049−62,1985 & ibid 40:2711−20,1984)はアスコクロリンの全合成に成功している。一方、前記のメルク社は発ガンタンパク質Rasのファルネシル化酵素の阻害剤を目的として幾つかの誘導体を合成している。
【発明の開示】
本研究者等は、アスコクロリン及び天然から分離されるその関連化合物、並びにオルシルアルデヒドの2位あるいは4位、さらに双方の水酸基をアルキル基ないしアシル基で置換したアスコクロリン誘導体が細胞培養レベルにおいて核内リセプターRXR(レチノイドXリセプター)、RAR(オールトランス−レチノイン酸リセプター)、PPAR(パーオキシソーム増殖因子活性化リセプター)等を活性化し、動物個体レベルでは種々の疾病に関連する遺伝子の情報発現を制御することを発見した。
本発明者らは上記知見に基づき本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記1〜44の発明を提供する。
1.全置換芳香族アルデヒド化合物であり3位にセスキテルペン側鎖をもつ糸状菌の代謝産物またはその誘導体のアルデヒド基とアミノ化合物のアミノ基とを反応させることにより生成する新規イミノ化合物の合成法。
2.下記式

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
で表される全置換芳香族アルデヒド化合物であり3位にセスキテルペン側鎖をもつ糸状菌の代謝産物またはその誘導体のアルデヒド基と下記式
NH
(式中、Rは、−(CH−CHR(式中、Rは水素原子、アミノ基、1個または2個の炭素数1〜6のアルキル基により置換されたアミノ基、またはフェニルで置換された炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、カルボキシル基、−CONH、または−COOR(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基を表す)を表し、nは0または1〜6の整数を表す。)または任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表す。)
で表されるアミノ化合物のアミノ基とを反応させることにより生成する下記式

(式中、R、R、R、Rは前記と同じ意味を有する。)
で表される新規イミノ化合物の合成法を提供する。
3.全置換芳香族アルデヒド化合物が、その4位水酸基の水素をアルキル基で置換した誘導体である、上記1項または2項記載の合成法。
4.全置換芳香族アルデヒド化合物が、その4位水酸基の水素をアシル基で置換した誘導体である、上記1項または2項記載の合成法。
5.全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位水酸基の水素をアルキル基で置換した誘導体である、上記1項または2項記載の合成法。
6.全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位並びに4位水酸基の双方の水素をアルキル基で置換した誘導体である、上記1項または2項記載の合成法。
7.全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位水酸基の水素をアルキル基で置換し、4位水酸基の水素をアシル基で置換した誘導体である、上記1項または2項記載の合成法。
8.全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位水酸基の水素をアシル基で置換し、4位水酸基の水素をアルキル基で置換した誘導体である、上記1項または2項記載の合成法。
9.全置換芳香族アルデヒド化合物が、アスコクロリン、シリンドロクロリン、アスコフラノン、クロロネクチン、LLZ−1272−・、LLZ−1272−C・から選択される化合物である、上記1項〜8項のいずれか1項に記載の合成法。
10.下記式

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、−(CH−CHR(式中、Rは水素原子、アミノ基、1個または2個の炭素数1〜6のアルキル基により置換されたアミノ基、またはフェニルで置換された炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、カルボキシル基、−CONH、または−COOR(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基を表す)を表し、nは0または1〜6の整数を表す。)または任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
で表される化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
11.Rが置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、上記10項記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
12.Rがアシル基である、上記10項記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
13.Rが置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、上記10項記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
14.RおよびRが同一または異なった置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、上記10項記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
15.Rが置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、Rがアシル基である、上記10項記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
16.Rがアシル基、Rが置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、上記10項記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
17.下記式

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、−(CH−CHR(式中、Rは水素原子、アミノ基、1個または2個の炭素数1〜6のアルキル基により置換されたアミノ基、またはフェニルで置換された炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、カルボキシル基、−CONH、または−COOR(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基を表す)を表し、nは0または1〜6の整数を表す。)または任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
で表される化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上、および医薬上許容される担体、希釈剤等の添加剤を含む医薬組成物。
18.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする糖尿病治療・予防薬。
19.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする動脈硬化症治療薬。
20.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする血清コレステロール低下剤。
21.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする多重危険因子症候群の治療薬。
22.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする高血圧症の治療薬。
23.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする粘液水腫の治療薬。
24.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする慢性炎症を治療する消炎剤。
25.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とするバルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄に対する予防・治療薬。
26.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする、再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させるための生着促進剤。
27.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療若しくは予防有効量を患者に投与することを含む糖尿病の治療若しくは予防方法。
28.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む動脈硬化症を治療する方法。
29.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療若しくは予防有効量を患者に投与することを含む血清コレステロールを低下する方法。
30.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む多重危険因子症候群を治療する方法。
31.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む高血圧症の治療方法。
32.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む粘液水腫の治療方法。
33.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む慢性炎症の治療方法。
34.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療若しくは予防有効量を患者に投与することを含むバルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄を予防もしくは治療する方法。
35.上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の有効量をレシピエントに投与することを含む、再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させる方法。
36.糖尿病治療・予防薬を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
37.動脈硬化症治療薬を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
38.血清コレステロール低下剤を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
39.多重危険因子症候群の治療薬を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
40.高血圧症の治療薬を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
41.粘液水腫の治療薬を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
42.慢性炎症を治療する消炎剤を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
43.バルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄に対する予防・治療薬を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
44.再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させるための生着促進剤を製造するための、上記10項〜16項のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【図面の簡単な説明】
図1は、飼料蛋白質に結合したアスコクロリン誘導体とリジンとから小腸管腔内で形成されるアスコクロリンリジンシッフ塩基が標的細胞に作用するメカニズムを模式的に示す図である。
図2は、第1世代、第2世代、第3世代の薬品の各々について、持続時間と有効物質の血中濃度との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本願明細書において、「全置換芳香族アルデヒド化合物であり3位にセスキテルペン側鎖をもつ糸状菌の代謝産物またはその誘導体」とは、次の式で表される化合物を意味する。

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
なお、ベンゼン環上の炭素原子の番号は、アルデヒド基と結合している炭素原子を1位とし、時計回りに2位、3位、・・・ 6位とする。
本願明細書において、「炭素数1〜6のアルキル基」とは、直鎖状もしくは分枝状のC1−6アルキル基を意味する。C1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチルまたはn−ヘキシルなどが挙げられる。該「炭素数1〜6のアルキル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、アリール基、置換アリール基、モノ−または低級アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノ−またはジ−C1−6アルキルアミノなど)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシなどのC1−6アルコキシなど)、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシなどのC1−6アルキル−カルボニルオキシなど)またはハロゲン原子などから選ばれた1個もしくは2個以上が用いられる。
本願明細書において、「炭素数2〜6のアルケニル基」とは、直鎖状もしくは分枝状のC2−6アルケニル基を意味する。C2−6アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、2−メチルアリル、i−プロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニルなどが用いられる。該「炭素数2〜6のアルケニル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、モノ−またはジ−アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノ−またはジ−C1−6アルキルアミノなど)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシなどのC1−6アルコキシなど)、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシなどのC1−6アルキル−カルボニルオキシなど)またはハロゲン原子などから選ばれた1個もしくは2個以上が用いられる。
本願明細書において、「炭素数2〜6アルキニル基」とは、例えば、直鎖状もしくは分枝状のC2−6アルキニル基を意味する。C2−6アルキニル基としては、例えば、エチニル、2−プロピニル、2−ブチニル、3−ブチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニルなどが用いられる。該「炭素数2〜6のアルキニル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、モノ−またはジ−アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノ−またはジ−C1−6アルキルアミノなど)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシなどのC1−6アルコキシなど)、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシなどのC1−6アルキル−カルボニルオキシなど)、またはハロゲン原子などから選ばれた1個もしくは2個以上が用いられる。
本願明細書において、「炭素数3〜8のシクロアルキル基」としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが用いられる。該「シクロアルキル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、モノ−またはジ−アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノ−またはジ−C1−6アルキルアミノなど)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシなどのC1−6アルコキシなど)、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシなどのC1−6アルキル−カルボニルオキシなど)またはハロゲン原子などから選ばれた1個もしくは2個以上が用いられる。
本願明細書において、Rが任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表す場合の任意のアミノ酸の例としては、リシン(リジン)、ヒドロキシリシン(リジン)、アルギニン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸,ホモシステイン、オルニチン、5−ヒドロキシトリプトファン、3、4−ジヒドロキシフェニルアラニン、トリヨードチロニン、チロキシンなどが挙げられる。
本願明細書において、「アシル基」とは−COR(Rは、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、単環もしくは多環の芳香環または複素環のいずれかを意味する)で表される基を意味する。該「アシル基」および「アシルアミノ基」が有していてもよい置換基とはR上における置換基を意味し、例えば、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、モノ−またはジ−アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノ−またはジ−C1−6アルキルアミノなど)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシなどのC1−6アルコキシなど)、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシなどのC1−6アルキル−カルボニルオキシなど)またはハロゲン原子などから選ばれた1個もしくは2個以上が用いられる。
本願明細書において、「アリール基」とは芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた残りの原子団を意味する。特に、C6−14のアリール基が好ましい。C6−14アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、トリル、キシリル、ビフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリル、9−フェナントリル、1−アズレニル、2−アズレニル、4−アズレニル、5−アズレニル、6−アズレニルなどが用いられる。該「芳香環」が有していてもよい置換基としては、例えば、低級アルキル、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、ニトロ、モノ−またはジ−低級アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどのモノ−またはジ−C1−6アルキルアミノなど)、低級アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシなどのC1−6アルコキシなど)、低級アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ、エチルカルボニルオキシなどのC1−6アルキル−カルボニルオキシなど)、トリハロメタン、トリハロメトキシ、ハロゲン原子またはフェニルなどのアリールなどから選ばれた1個もしくは2個以上が用いられる。
本願明細書において、塩としては、とりわけ医薬上許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩、あるいはアルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、ピリジン、トリエチルアミン)との塩などが用いられる。
本願明細書において、エステルとしては、とりわけカルボキシル基を有する場合のアルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、i−プロピルエステル)が好ましい。
本願発明のシッフ塩基(イミノ化合物)には、立体異性体や光学異性体もすべて包含される。
アスコクロリン及びその4位の水酸基をメチル化した4−O−メチルアスコクロリン(誘導体−1)は、脂溶性でほとんど水に溶けない。それらは結晶格子から単分子が水に溶け込む速度がきわめて遅いため、ラット、マウス等の小動物に経口投与すると、空腹時では大部分が吸収されずに消化管を通過する。バイオアベイラビリティが低いことに加え、食事摂取の有無(Agr.Biol.Chem.46:775−781,1982年)よっも有効性が変動する。動物実験における再現性の乏しさが、実用化を阻む大きな障害になっていたのである。
単分子が結晶格子から離れ水に溶解する速度は、分子内に極性基を導入することにより速めることができる。事実、アスコクロリン4位水酸基の水素を−CHCOOHに置換した4−O−カルボキシメチルアスコクロリン(誘導体−2)は小腸のpH7.2〜7.4では6%以上が水に溶けるので、経口投与すると急速に吸収されるため毒性が発現しやすい。

一方、化合物−1の水に対する溶解度は約0.7g/mlときわめて低く、水に対する溶解性は化合物−2の対極にある。興味深いことに、両アスコクロリン誘導体のアセトン溶液を飼料に添加量が0.1%になるように散布し、均一に染み込ませてからマウスに与えると、両者はほぼ同等の血清総コレステロール低下作用(健常マウス)並びに尿糖排泄抑制作用(遺伝性肥満糖尿病マウス、C57BL/ksj db/db)を示す(表1)。しかし、単に0.1%の両化合物を機械的に飼料に混合、ないし飼料の摂取量から換算した同一薬物量を強制経口投与しても、アセトン溶液を飼料に散布した場合のような薬効の再現性は認められない。とくに、水に不溶の化合物−1は、アセトンに溶かして飼料に散布しないとほとんど薬効が認められない。
水に対する溶解差が大きいにもかかわらず、薬物をアセトンに溶かして飼料に散布・風乾して動物に与えると、両化合物はほぼ等しい薬理作用を示す事実は、薬物と飼料とのあいだに何らかの相互作用があることを示唆している。そこで薬物をアセトンに溶かして散布風乾した飼料と原末を機械的に混合した飼料を室温に一夜放置してから、20倍量のアセトンを加えて抽出し、両化合物の回収を試みた(表2)。

表2に示すように、両化合物をアセトンに溶解して飼料に散布風乾した場合、アセトンに浸して16時間抽出した後でも両化合物はまったく抽出されない。しかし、飼料粉末に両化合物を機械的に混合した場合、両者は抽出時間とは無関係にアセトンを加えると溶媒中に抽出される。この事実は両者のアセトン溶液を飼料粉末に散布すると、試料中の何らかの成分と化学反応を起こし共有結合が形成されることを示唆する。
次ぎに両化合物のアセトン溶液を散布・風乾した飼料粉末を酢酸、塩酸などの酸を添加した有機溶媒に添加し、経時的にサンプリングして溶出されてくる両化合物を定量した。表3に示すとおり、飼料を酸性の有機溶媒に浸積すると、時間の経過とともに飼料から遊離する両化合物の量が増加した。この事実は化合物−1並びに化合物−2をアセトンに溶かして飼料に散布すると、アセトンの飛散にともなって飼料成分と共有結合を形成し、酸を添加すると共有結合が加水分解されることを意味する。この反応はきわめて珍しい固相と液層との反応である。類似した反応としてはタンパク質と還元性炭水化物とが混合した食品に見られる“アミノカルボニル反応”がある。しかし、タンパク質と還元性炭水化物との反応は、不可逆的に進行し最終的に褐色物質を生ずるのに対し、プレニルフェノールと飼料タンパク質との反応は、可逆的であることが特徴である。

アスコクロリン系化合物は、芳香族アルデヒド基と側鎖に6員環ケトンを持つことが特徴である。いずれも蛋白質のリジン残基ω−アミノ基とイミノ化合物を形成する可能性がある。そこでモデル化合物としてグリシン・エチルエステル及びグリシンアミドを選び、有機溶媒中でトリエタノールアミンの存在下にアスコクロリン、アスコフラノン、化合物−1並びに化合物−2と混合した。混合すると、溶液は直ちに黄変して新しい化合物の形成を示唆した。反応液をシリカゲル薄層クロマトグラフィーに展開すると、アスコクロリン、アスコフラノン、化合物−1並びに化合物−2のスポットは消失し、それに代わって新に黄色のスポットが出現する。また、反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うと黄色物質は純粋に単離することが可能であった。アスコクロリン及び化合物−1は脂溶性でクロロフォルム、酢酸エチル等には易溶だが、メタノールに難溶である。ところが、グリシン・エチルエステル及びグリシンアミドを混合して生成する黄色物質はクロロフォルム、ベンゼンなど極性の低い溶媒に不溶となり、メタノールに可溶となり、まったく溶けなかった水にもある程度溶けるようになる。本発明の化合物の製造に用いるプレニルフェノールとしてアスコクロリン系化合物またはアスコフラノン系化合物を用いる場合、例えば、次の化合物が挙げられる。

プレニルフェノールと一級アミノ化合物を反応させることにより生ずる黄色物質の構造は、赤外線吸収スペクトル、NMRスペクトルから解明した。NMRスペクトルを解析すると、アルデヒドのプロトンが消失し、それに代わってイミノプロトンが出現した。赤外線吸収スペクトルからは、アルデヒド基のカルボニル吸収帯が消失し、それに伴って−C=H−の伸縮振動帯が出現するので、一級アミノ化合物が結合するのはアルデヒド基であり、シクロヘキサノン環のケトンではないことが確定した。すなわち、プレニルフェノールとグリシンアミドは下記[反応式1]に示すように反応し、しかも本反応は可逆的である。
[反応式1]グリシンアミドとアスコクロリン誘導体との反応

上記の反応は一級アミノ基を持つ化合物であれば、例外なく反応する。とりわけ、蛋白を構成するアミノ酸はイミノ化合物を合成する素材として好適である。プレニルフェノールをアセトンに溶かし飼料に散布した場合に起こるのは、イミノ化合物形成反応であることが確実になった。プレニルフェノールを共有結合した飼料の蛋白質は、小腸で蛋白分解酵素によって加水分解される。最終的にはω位にプレニルフェノールが結合したリジンあるいはリジンを含むオリゴペプタイドは、アスコクロリンあるいは化合物−1と比べ水への溶解速度の速さ故に容易に消化管から吸収されるようになる。
逆に化合物−2のように吸収が速やかなプレニルフェノールは、蛋白質リジン残基のω−アミノ基と共有結合し、飼料タンパク質の加水分解と共にω位にプレニルフェノールが結合したリジンあるいはリジンを含むオリゴペプタイドが生成するため小腸からの吸収が遅延する。したがって、化合物−2を投与した場合と比べいっきに多量の化合物−2が吸収されないので、毒性が発現し難くなる。化合物−2の効果は時間依存性のため、化合物−2の有効血中濃度が持続するので薬効が高まるものと思われる。アスコクロリンおよびその誘導体と飼料蛋白質との相互作用を図示すると図1のとおりである。
以下に、本発明のシッフ塩基(イミノ化合物)の合成法の一例について述べる。
1.原料のアスコクロリン類
アスコクリン誘導体の合成原料として、上に示したアスコクロリン(AC)、4−O−メチルアスコクロリン(MAC)、4−カルボキシメチルアスコクロリン(AS−6)およびアスコフラノン(AF)を使用した。
2.アセチルアスコクロリン類の合成
<合成>
アスコクロリン類(AC、MAC、AS−6、AF)を無水酢酸/ピリジンでアシル化後、酢酸エチル抽出、希塩酸と飽和重曹水洗浄、及び濃縮により、粗アセチルアスコクロリン類を得た。
2−O−、4−O−ジアセチル体については、トリエチルアミン/含水THF中で部分加水分解し、4−O−モノアセチル体も得た。得られたアセチルアスコクロリン類を下記に示す。
<アセチルアスコクロリン類>

<TLC、IR、NMR>
上記アセチルアスコクロリン類のTLC(薄層クロマトグラフィー)、IR、NMRは後記の表にまとめて掲載した。
3.アセチルアスコクロリン類のシッフ塩基の合成
<合成>
原料のアスコクロリン類、またはアセチルアスコクロリン類と一級アミンを有するアミノ酸誘導体とを、トリエチルアミン、炭酸カリウム等の塩基の存在下または非存在下、メタノール、THF等の溶媒中で縮合した。
TLCで反応の縮合の進行(シッフ塩基の生成による帯黄色スポットの出現)を確認したのち、反応液からシッフ塩基を抽出後に溶媒を溜去し、または直接反応溶媒を減圧溜去し、シッフ塩基を含有する濃縮物を得た。
濃縮後のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、シッフ塩基を単離した。
なお、以下の一覧表に示すように、各シッフ塩基はサリシルアルデヒド部位と一級アミンと縮合構造であった。
<ACのシッフ塩基>

<MACのシッフ塩基>

<AS−6のシッフ塩基>

<AFのシッフ塩基>

<AcACのシッフ塩基>

<AcAFのシッフ塩基>

<TLC、IR、NMR>
上記アセチルアスコクロリン類のTLC、IR、NMRは後記の表にまとめて掲載した。
4.アスコクロリン類のアセタールの合成
<合成>
2−O−アセチルアスコクロリン類とアルコールを、反応溶媒の存在下または非存在下、塩基触媒で縮合した。
TLCで反応の進行を確認後、反応溶媒を溜去後結晶化して、または反応液濃縮物のシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、アセタールを得た。

5.アスコクロリン誘導体のシリカゲルTLCデータ
各種アスコクロリン誘導体のRf値の確認、および純度確認のため、TLC分析を実施した。結果を以下に示す。

6.アスコクロリン誘導体のIRデータ
各種アスコクロリン誘導体の構造確認のため、IR測定を実施した。結果を以下に示す。

7.アスコクロリン誘導体のNMRデータ
各種アスコクロリン誘導体の構造確認のため、IR測定を実施した。結果を以下に示す。
1)アセチルアスコクロリン類については、アセチル化によるフェノール性水酸基の水素の消失およびアセトキシ基水素の出現により、構造を確認した。
2)シッフ塩基類については、アルデヒド水素の消失、アゾメチン水素の出現、および結合したアミノ酸誘導体に帰属する水素の出現により、構造を確認した。
3)AC類のアセタールについては、アルデヒド水素の消失、ジオキシメチン水素の検出、および結合したアルコールに帰属する水素の検出により、構造を確認した。


8.アスコクロリン誘導体の構造式一覧
以下に、上記1〜4の製造および5〜7のデータに基づいて得られたアスコクロリン誘導体の構造式を示す。



本発明方法は核内リセプターを活性化する新規リガンドを合成する際にはきわめて有用である。これらは生活習慣病、慢性炎症および悪性腫瘍等の発症と増悪に関与する遺伝子情報の発現を制御する機能を持っているからである。とりわけ、アスコクロリン及びシリンドロクロリンは、2位及び4位の水酸基をアルキル基あるいはアシル基で修飾することにより、新しい核内リセプターリガンドを合成する母化合物になりうるので、新しい医薬品の資源としてすこぶる有用である。
本発明の化合物を投与する場合、類似の用途に供される薬剤が許容されている任意の投与経路で純品の形または適当な医薬組成物の形で製剤化して投与することができる。従って投与は、例えば錠剤、座剤、丸剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、ローション剤、エアゾール剤、軟膏剤、ゲル化剤などのような固体、半固体、凍結乾燥粉末または液体投与形態で、例えば経口、鼻腔内、非経口または局所的に、好ましくは正確な容量を1回に投与しうる適当な単位用量形態で実施することができる。この組成物は通常の製薬用担体または賦形剤および本発明の化合物からなり、さらにその他の医療用医薬品、担体および吸収補助剤などの製薬上許容される種々の添加剤を含有してもよい。一般に製剤上許容しうる組成物は、投与しようとする剤型に応じて、本発明の化合物を約1〜99(重量)%含有し、適当な医薬添加物を約99〜1%含有している。この組成物は、医療用医薬品として本発明の化合物を約5〜75%含有し、残りは適当な医薬品用賦形剤を含有している。本発明の化合物が病態を改善するために有効な一日あたりの投与量は、成人の体重kgあたりで0.1〜20mg/kgであり、望ましくは0.2〜5mg/kgである。
先に詳細に説明した疾患に対する好ましい投与形態は、疾患の程度に応じて調節可能に設定した投薬量を選定できるように製剤化することである。製剤化にあたって最も重要なことは、本発明の化合物が脂溶性であることに由来する制約である。核内リセプター・スーパーファミリーのリガンドは、脂溶性ホルモンないしビタミンであり、従って、本発明の化合物も脂溶性であることは当然である。経口投与用として製剤上許容できる添加物は、例えばマンニット、乳糖、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ゼラチン、シュクロース、炭酸マグネシウムなどのような通常使用可能な任意の賦形剤を加えて調整する。そのような組成物は、液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤および徐放製剤などの形態をとる。
組成物は錠剤または丸剤の形態が好ましいが、そのような組成物は本発明の化合物と一緒に乳糖、シュクロース、リン酸−2−カルシウムなどの希釈剤、でんぷんおよびその誘導体のような崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどのような滑沢剤、およびでんぷん、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、セルロースおよびそれらの誘導体のような結合剤、さらに高度に脂溶性で溌水性である本発明の化合物粒子表面を水で濡らす作用を示す界面活性剤、脂溶性の添加物、胆汁酸、リン脂質などを含有する。脂肪族系の合成界面活性剤または有機溶媒可溶の高分子助剤を含有することはとくに好ましい。これらの例としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ベントナイト、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80,ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40等がある。
【実施例】
以下、本発明の実施例をあげるが、本発明がこれらの実施例に拘束されないことは言うまでもない。
実施例1:アスコクロリン誘導体を出発物質とするイミノ化合物の合成法
アスコクロリン及び誘導体(化合物−1&−2,アスコフラノン)と一級アミンを有するアミノ酸誘導体とを、トリエチルアミン、炭酸カリウム等の塩基の存在下または非存在下、メタノール、テトラハイドロフラン(THF)等の溶媒中で縮合した。
薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行(帯黄色スポットのイミノ化合物の生成)を確認したのち、反応液からシッフ塩基を抽出後に溶媒を減圧留去、または直接反応溶媒を減圧溜去し、イミノ化合物を含有する濃縮物を得た。
濃縮物をシリカゲルカラムクロマトにより精製し、イミノ化合物を単離した。
その他の留意事項は下記のとおりである。
(1)収率は、反応性により10%から定量的に至るまで大きく変動した。
(2)生成物は、いずれもアルデヒド基と反応して生成したイミノ化合物であった。
(3)4−位の水酸基が保護された化合物−1及び化合物−2は、反応性が良い。
(4)グリシンアミドは、すべてのアスコクロリン及び誘導体とイミノ化合物を形成した。
結果を下記表4〜表8に示す。






反応によって合成された化合物の構造を以下に示す。図中の略号;MAC=化合物−1、AS−6=化合物−2

【実施例2】
アスコクロリン(405mg,1mM)を10mlのテトラハイドロフランに溶かし、液を室温で攪拌しながら5%のトリエチルアミンを含むメタノール5mlにグリシンアミド(85mg,1.15mM)を溶解した液を少しずつ加えた。加え終わったら室温で攪拌を続行し、反応の状況をシリカゲル薄層クロマトグラフィーによりモニターした。展開溶媒は、メタノール:クロロフォルム=5:95である。16時間後にアスコクロリンのスポットが消失し、黄色を呈するアスコクロリンとグリシンアミドとのシッフ塩基(Rf:0.57)のスポットのみとなったので反応液を減圧濃縮して乾固した。乾固した黄色無定形の粉末を少量のメタノールに溶解し、シリカゲル・カラムクロマトグラフィー(溶媒:10%メタノール含有ジクロルメタン)によりシッフ塩基と不純物を分別した。黄色のシッフ塩基のみを含む溶出液を集め、減圧乾固して367mgのアスコクロリンのアルデヒド基にグリシンアミドのアミノ基が反応して形成されたシッフ塩基を得た(収率80%)。

赤外線吸収帯(cm−1):3420,2974,1698,1666,1606,1419,1252,1112,969
核磁気共鳴スペクトラム:アスコクロリンのアルデヒドプロトンの消失、アゾメチンプロトンの出現及びグリシンアミドのメチレン基に帰属するプロトンの出現で構造を確定した。これらの基に結合したプロトンのケミカルシフトは次のとおり。Ar−C=N−;8.63.−CCONH;4.38(単位:ppm)、Ar−CH=N−のArはアルデヒドを除くアスコクロリン分子、−C=N−の−C=はグリシンアミドのアミノ基と結合したアスコクロリンのアルデヒド炭素を示す。
元素分析(C2533Clとしての計算値):C 65.15、H 7.17,N 6.08,Cl 7.71
(実測値):C 65.08,H 7.20,N 6.05,Cl 7.82
【実施例3】
ジアセチルアスコクロリン(490mg,約1mM)とβ−アラニンアミド(176mg,2mM)を50mlのテトラハイドロフランに溶解し、溶液を1時間煮沸環流した。1時間後にシリカゲル薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:10%メタノール含有クロロフォルム)で調べると、アセチルアスコクロリンのスポットが消失し、黄色を呈するアセチルアスコクロリンとβアラニンアミドが結合したシッフ塩基のスポットのみになったので、反応液の温度を急速に室温まで下げ、生成物が乾固するまで減圧濃縮した。生成物は黄色無定形粉末である。この黄色粉末を少量のメタノールに溶かし、実施例1のようにシリカゲル・カラムクロマトグラフィーを行って、アセチルアスコクロリンのアルデヒド基がβアラニンアミドのアミノ基と結合したシッフ塩基507mg(分子式C2837Cl、分子量516.5)が黄色無定形粉末として得られた。収率:98%
赤外線吸収帯(cm−1):3425,2972,1776,1674,1628,1423,1371,1200,1095
核磁気共鳴スペクトラム:アスコクロリンのアルデヒドプロトンの消失、アゾメチンプロトンの出現及びグリシンアミドのメチレン基に帰属するプロトンの出現で構造を確定した。これらの基に結合したプロトンのケミカルシフトは次のとおり。Ar−C=N−;8.71.=N−C−CHCONH;3.91、=N−CH−CCONH;2.61、−O−COC;2.33(単位:ppm)、Ar−CH=N−のArはアルデヒドを除くアスコクロリン分子、−C=N−の−C=はβ−アラニンアミドのアミノ基と結合したアスコクロリンのアルデヒド炭素を示す。
元素分析(C2837Clとしての計算値):C 65.05、H 7.16,N 6.08,Cl 5.42
(実測値):C 64.98,H 7.22,N 6.05,Cl 5.72

【実施例4】
4−O−メチルアスコクロリン(420mg,約1mM)とL−フェニルアラニンアミド(200mg,1.22mM)を20mlのテトラハイドロフランに加温溶解し、溶解したのち30mgのトリエチルアミンを加え、室温で攪拌して反応させた。反応の状況はメタノール:クロロフォルム混合液(1:9)を展開溶媒とするシリカゲル薄層クロマトグラフィーによりモニターした。16時間後に4−O−メチルアスコクロリンのスポットが消失し、黄色を呈するシッフ塩基(Rf:0.36)のスポットのみとなったので反応液を減圧濃縮して乾固した。生成した黄色無定形の粉末を少量のメタノールに溶解し、シリカゲル・カラムクロマトグラフィー(溶媒:10%メタノール含有ジクロルメタン)によりシッフ塩基を精製した。黄色のシッフ塩基のみを含む溶出液を集め、減圧乾固してmgの4−O−メチルアスコクロリンのアルデヒド基にL−フェニルアラニンアミドのアミノ基が反応して形成されたシッフ塩基423mgが得られた(収率75%)。
赤外線吸収帯(cm−1):3446,2936,1711,1621,1454,1414,1358,1250,1167,1108,1008,970,751,698
核磁気共鳴スペクトラム:アスコクロリンのアルデヒドプロトンの消失、アゾメチンプロトンの出現及びフェニルアラニンアミドのメチン基及びフェニルアラニン芳香環に帰属するプロトンの出現で構造を確定した。これらの基に結合したプロトンのケミカルシフトは次のとおり。Ar−C=N−;8.63.PhH;7.31,−CCONH;4.10(単位:ppm)、Ar−CH=N−のArはアルデヒドを除くアスコクロリン分子、−C=N−の−C=はグリシンアミドのアミノ基と結合したアスコクロリンのアルデヒド炭素を示す。
元素分析(C3341Clとしての計算値):C 70.15、H 7.26,N 4.96,Cl 6.29
(実測値):C 70.28,H 7.19,N 5.05,Cl 6.33

【実施例5】
4−O−カルボキシメチルアスコクロリン(463mg,約1mM)とα−N−アセチル−L−リジン(300mg,約1.6mM)を50mlのメタノールに加温溶解し、さらに触媒として微粉末化した炭酸カリウム50mgの存在下に室温で攪拌して反応させた。シリカゲル薄層クロマトグラフィーで反応状況をモニターしたところ、16時間後に原料である4−O−カルボキシメチルアスコクロリンのスポットが消失し、黄色を呈する反応生成物のスポットのみになった。直ちに反応液を減圧濃縮して溶媒を除去し、残留物を真空デシケーター中で乾固した。次ぎに生成した黄色無定形の粉末を少量のメタノールに溶解し、シリカゲル・カラムクロマトグラフィー(溶媒:20%メタノール含有ジクロルメタン)によりシッフ塩基を精製した。黄色のシッフ塩基のみを含む溶出液を集め減圧乾固し、4−O−カルボキシメチルアスコクロリンのアルデヒド基にα−N−アセチル−L−リジンの遊離アミノ基が反応して形成されたシッフ塩基278mgが得られた(収率44%)。
核磁気共鳴スペクトラム:アスコクロリンのアルデヒドプロトンの消失、アゾメチンプロトンの出現及びα−N−アセチル−L−リジンのメチン、窒素に隣接するメチレン及びα−N−アセチル基のメチルに由来するプロトンの出現で構造を確定した。これらの基に結合したプロトンのケミカルシフトは次のとおり。Ar−C=N−;8.48.−CH(NHCOCH)COOH;4.30,=N−CH−;3.47,−NHCOCH;2.35(単位:ppm)。
元素分析(C3345Clとしての計算値):C 62.61、H 7.11,N 4.43,Cl 5.61
(実測値):C 62.88,H 7.14,N 4.37,Cl 5.80

実施例6:遺伝性肥満糖尿病マウス、C57BL/ksj db/db(db/dbマウス)に対する作用
1gを約50mlのアセトンに溶解した液を齧歯類動物の標準飼料(日本クレア(株)製、CE−2)1kgに振りかけて充分混合した後、室内で風乾した。この飼料中における化合物−16の含量は約0.1%である。同様にして含量が0.05〜0.025%のペレット型固形飼料を調製し実験に使用した。対照飼料は同じ粉末飼料にアセトンを振りかけて成型ペレット化した。20頭の生後8週令雄性db/dbマウスをランダムに4群に分け、群ごとに採尿ケージに収容して、化合物−16含有ないし対照飼料を与え21日間飼育した。この間、飼料と飲料水は自由に摂取させ、表1に示す間隔で尿を採取し排泄された尿糖を酵素法で測定した。尿糖排泄量は1頭あたりの平均値で示した。

実施例7:健常マウスにおける血清コレステロール低下作用
ICR系の5週令雄性マウス50頭を無作為に5群に分け、1群10頭のマウスをポリカーボネイト樹脂製のケージに5頭ずつ分散収容した。1群は対照群としてマウス用標準飼料粉末のみをあたえ、他の4群には4種類のアスコクロリン・カルボン酸誘導体の粉末を0.05%混合した上記飼料の粉末を1週間あたえた。実験期間中における各群の体重増加は、対照群と比べて有意差はなく、投薬による影響は認められなかった。1週間後に心臓から採血して血清総コレステロールを酵素法で測定した。

図1および図2に示されているように、プレニルフェノールはアミノカルボニル反応で飼料タンパク質リジン残基のω−アミノ基と結合してシッフ塩基を形成する。動物が摂取すると、小腸内で蛋白分解酵素によりシッフ塩基は加水分解され、リジンのω−アミノ基にプレニルフェノールが結合したイミノ化合物を生ずる。このイミノ化合物は水に溶けやすいので小腸から容易に吸収され、血中で血清アルブミンと交換反応を起こし、プレニルフェノールは血清アルブミンのリジン残基ω−アミノ基に転移する。ω−アミノ機にプレニルフェノールを結合した血清アルブミンは、標的臓器の細胞に取り込まれ、アルブミンが分解されてプレニルフェノールを再生する。つまり、飼料タンパク質に共有結合したプレニルフェノールは、毒性をマスクされた形で吸収され、血中を運搬され、標的細胞に到達するため、強い毒性を呈することなく薬効を発現するものと思われる。
【産業上の利用の可能性】
本発明のイミノ化合物(シッフ塩基)は、糖尿病の治療・予防、動脈硬化症の治療、血清コレステロールの低下、多重危険因子症候群の治療、高血圧症の治療、粘液水腫の治療、慢性炎症の治療、バルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄に対する予防・治療等に有用である。しかも、再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させるための生着促進剤としても有用である。しかも、本発明のイミノ化合物は図3における第3世代に属する化合物であり、薬効の持続性の点においても顕著な効果を奏する。
このように、本発明化合物は、種々の疾患に有効であり、持続性を有することから、医薬として極めて有望である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全置換芳香族アルデヒド化合物であり3位にセスキテルペン側鎖をもつ糸状菌の代謝産物またはその誘導体のアルデヒド基とアミノ化合物のアミノ基とを反応させることにより生成する新規イミノ化合物の合成法。
【請求項2】
下記式

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
で表される全置換芳香族アルデヒド化合物であり3位にセスキテルペン側鎖をもつ糸状菌の代謝産物またはその誘導体のアルデヒド基と下記式
NH
(式中、Rは、−(CH−CHR(式中、Rは水素原子、アミノ基1個または2個の炭素数1〜6のアルキル基により置換されたアミノ基、またはフェニルで置換された炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、カルボキシル基、−CONH、または−COOR(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基を表す)を表し、nは0または1〜6の整数を表す。)または任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表す。)
で表されるアミノ化合物のアミノ基とを反応させることにより生成する下記式

(式中、R、R、R、Rは前記と同じ意味を有する。)
で表される新規イミノ化合物の合成法。
【請求項3】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、その4位水酸基の水素をアルキル基で置換した誘導体である、請求項1または2記載の合成法。
【請求項4】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、その4位水酸基の水素をアシル基で置換した誘導体である、請求項1または2記載の合成法。
【請求項5】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位水酸基の水素をアルキル基で置換した誘導体である、請求項1または2記載の合成法。
【請求項6】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位並びに4位水酸基の双方の水素をアルキル基で置換した誘導体である、請求項1または2記載の合成法。
【請求項7】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位水酸基の水素をアルキル基で置換し、4位水酸基の水素をアシル基で置換した誘導体である、請求項1または2記載の合成法。
【請求項8】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、その2位水酸基の水素をアシル基で置換し、4位水酸基の水素をアルキル基で置換した誘導体である、請求項1または2記載の合成法。
【請求項9】
全置換芳香族アルデヒド化合物が、アスコクロリン、シリンドロクロリン、アスコフラノン、クロロネクチン、LLZ−1272−・、LLZ−1272−C・から選択される化合物である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の合成法。
【請求項10】
下記式

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、−(CH−CHR(式中、Rは水素原子、アミノ基、1個または2個の炭素数1〜6のアルキル基により置換されたアミノ基、またはフェニルで置換された炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、カルボキシル基、−CONH、または−COOR(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基を表す)を表し、nは0または1〜6の整数を表す。)または任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
で表される化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項11】
が置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、請求項10記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項12】
がアシル基である、請求項10記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項13】
が置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、請求項10記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項14】
およびRが同一または異なった置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、請求項10記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項15】
が置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、Rがアシル基である、請求項10記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項16】
がアシル基、Rが置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基である、請求項10記載の化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体。
【請求項17】
下記式

(式中、
は、下記の2つの基、すなわち、

または

のいずれかを表し、
は、−(CH−CHR(式中、Rは水素原子、アミノ基、1個または2個の炭素数1〜6のアルキル基により置換されたアミノ基、またはフェニルで置換された炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、カルボキシル基、−CONH、または−COOR(式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基を表す)を表し、nは0または1〜6の整数を表す。)または任意のアミノ酸からNHを除いた残基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表し、
は、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルケニル基、置換若しくは非置換の炭素数2〜6のアルキニル基、置換若しくは非置換の炭素数3〜8のシクロアルキル基、アシル基、アリール基、またはカルボキシル基を表す。)
で表される化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上、および医薬上許容される担体、希釈剤等の添加剤を含む医薬組成物。
【請求項18】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする糖尿病治療・予防薬。
【請求項19】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする動脈硬化症治療薬。
【請求項20】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする血清コレステロール低下剤。
【請求項21】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする多重危険因子症候群の治療薬。
【請求項22】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする高血圧症の治療薬。
【請求項23】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする粘液水腫の治療薬。
【請求項24】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする慢性炎症を治療する消炎剤。
【請求項25】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とするバルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄に対する予防・治療薬。
【請求項26】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上を有効成分とする、再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させるための生着促進剤。
【請求項27】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療若しくは予防有効量を患者に投与することを含む糖尿病の治療若しくは予防方法。
【請求項28】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む動脈硬化症を治療する方法。
【請求項29】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療若しくは予防有効量を患者に投与することを含む血清コレステロールを低下する方法。
【請求項30】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む多重危険因子症候群を治療する方法。
【請求項31】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む高血圧症の治療方法。
【請求項32】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む粘液水腫の治療方法。
【請求項33】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療有効量を患者に投与することを含む慢性炎症の治療方法。
【請求項34】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の、治療若しくは予防有効量を患者に投与することを含むバルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄を予防もしくは治療する方法。
【請求項35】
請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の1種若しくは2種以上の有効量をレシピエントに投与することを含む、再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させる方法。
【請求項36】
糖尿病治療・予防薬を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項37】
動脈硬化症治療薬を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項38】
血清コレステロール低下剤を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項39】
多重危険因子症候群の治療薬を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項40】
高血圧症の治療薬を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項41】
粘液水腫の治療薬を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項42】
慢性炎症を治療する消炎剤を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項43】
バルーンカテーテルあるいはステントにより拡張した動脈腔の再狭窄に対する予防・治療薬を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。
【請求項44】
再生医療の実施に際し、レシピエントに移植する幹細胞から分化誘導した細胞ないし組織を生着させるための生着促進剤を製造するための、請求項10〜請求項16のいずれか1項に記載された化合物またはその医薬上許容される塩若しくはエステルまたはそれらの光学異性体の使用。

【国際公開番号】WO2004/074236
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502807(P2005−502807)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002110
【国際出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【出願人】(599012167)株式会社NRLファーマ (18)
【Fターム(参考)】