説明

新規遺伝子

本発明は、Aovps5遺伝子、該遺伝子がコードするポリペプチド、該遺伝子の機能を抑制させた糸状菌、および該糸状菌を用いてタンパク加水分解率が顕著に上昇したタンパク加水分解物の作製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、サッカロミセス・セレビシエのVPS5ポリペプチドと相同性を有する液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA、該ポリペプチドの機能を抑制することにより液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌を作製する方法、および該方法により作製される液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌に関する。さらには、該糸状菌を用いた液胞酵素の製造方法、および該酵素を用いたタンパク加水分解物の製造方法に関する。
【背景技術】
液胞は酵母、植物細胞、糸状菌などに共通して観察される細胞内器官の一つであり、細胞内成分のリサイクル、浸透圧調節、解毒、栄養素の貯蔵などの生理的機能を担っている。酵母の液胞はプロテアーゼ、ホスファターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、リボヌクレアーゼ、グリコシダーゼなど多くの加水分解酵素を含むことが知られている[Microbiological reviews,54,266(1990)]。
醤油醸造などにおいては、熟成中に麹菌〔アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)〕が溶菌し、溶出した細胞内タンパク質により窒素可溶化率が上昇し(醤油の科学と技術、1988年、p.122)、味質の向上に寄与しているが、その分解活性の大部分は液胞酵素に因っていると予想される。このように液胞酵素は産業上有用であり、特にGRASグレードである麹菌の液胞酵素は食品製造上、利用価値が高い。しかし、液胞酵素を取得するためには、自己消化または物理的もしくは酵素的に麹菌を破砕、溶菌することが必要であり時間と手間がかかる。そのため効率的な液胞酵素の取得方法が望まれる。
北本はソーティング工学の見地から、液胞酵素を効率的に細胞外に分泌できる可能性に言及している(生物工学会誌、1999年、第77巻、p.1−33)が、これまで麹菌において液胞酵素を細胞外に分泌した例はない。
液胞酵素を分泌酵素から選別し、液胞まで輸送する機構についての解析は、酵母(サッカロミセス・セレビシエ)で研究が進んでいる。サッカロミセス・セレビシエの液胞酵素の選別と輸送には40以上の遺伝子が関与しており、該遺伝子の破壊、変異によりその機能が欠失、低下した場合、液胞酵素の輸送は正常に行なわれず細胞外にミスソートされる。これらは液胞酵素選別(Vacuolar protein sorting:VPS)遺伝子として知られている[Annual Review of Cell and Developmental Biology,11,1(1995)]。サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子は、ソーティング・ネキシンIと相同性を有するポリペプチドをコードする液胞酵素選別遺伝子であり、VPS5遺伝子を破壊したサッカロミセス・セレビシエは、液胞酵素の細胞外へのミスソートが見られた[Journal of Cell Science,110,1063(1997)]。
糸状菌にも形態的に酵母の液胞と類似の細胞内器官が存在しており、酵母の液胞と同様、様々な加水分解酵素を有していると考えられる。また糸状菌においても酵母と類似の機構で液胞酵素が分泌酵素から選別され、液胞まで輸送されていると予想される。
糸状菌の液胞の機能解明を目的として、樽谷らは、サッカロミセス・セレビシエにおいて、トランスゴルジからプレ液胞コンパートメントへの小胞輸送に関与する、液胞酵素選別遺伝子VPS1の相同遺伝子vpsAをアスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)から単離し、該遺伝子破壊株を作製し、液胞の形態形成に関与していることを示した[Gene,268,23(2001)]。また、同じくトランスゴルジからプレ液胞コンパートメントへの小胞輸送に関わる液胞酵素選別に関わることが知られている、VPS45の相同遺伝子vpsBをアスペルギルス・ニドランスから単離した(日本農芸化学会誌,第73巻,臨時増刊号,1999年度日本農芸化学会大会講演要旨集,1999年,p.212)。
松田らは、トランスゴルジからプレ液胞コンパートメントへの小胞輸送に関与するスモールGTPase、VPS21の相同遺伝子vpsCをアスペルギルス・ニドランスから単離した(例えば、日本農芸化学会誌,第73巻,臨時増刊号,1999年度日本農芸化学会大会講演要旨集,1999年,p213)。
正路らはアスペルギルス・オリゼからサッカロミセス・セレビシエVAM3相同遺伝子を単離・同定し、該遺伝子がサッカロミセス・セレビシエのvam3遺伝子破壊株およびpep12vps6遺伝子破壊株の表現型を相補したことを示した(第2回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集,2002年,p.24)。
また、大根田はアスペルギルス・ニドランスから単離・同定されたカルボキシペプチダーゼY遺伝子cpyAに蛍光タンパク質を結合させた融合タンパク質を、アスペルギルス・オリゼの細胞内で発現させ、該遺伝子産物がアスペルギルス・オリゼの液胞に局在することを示し[Fungal Genetics and Biology,37,29(2002)]、さらに培地中の蛍光強度が上がる変異株を単離しその表現型を解析した(日本生物工学会大会要旨集,2001年,p.231)。しかしこの原因遺伝子の同定には至っていない(第2回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集,2002年,p.49)。
【発明の開示】
アスペルギルス・オリゼの、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする新規な遺伝子、および該遺伝子を利用し、効率的に糸状菌の液胞酵素を培地中に生産する方法が求められている。
本発明は、以下の(1)〜(34)を提供する。
(1)配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(2)配列番号1のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチド。
(3)配列番号1のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチド。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするDNA。
(5)配列番号2または3の塩基配列を含むDNA。
(6)配列番号2または3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(7)(4)〜(6)のいずれか1項に記載のDNAをベクターに組み込んで得られる組換えベクター。
(8)(7)に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体。
(9)(8)に記載の形質転換体を培地に培養し、培養物中に(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドを生成蓄積させ、該培養物から、該ポリペプチドを採取することを特徴とする該ポリペプチドの製造方法。
(10)配列番号2または3の塩基配列の連続する20塩基以上の配列と相補的な配列を有するポリヌクレオチドを用いて、(4)〜(6)のいずれか1項に記載のDNAまたは(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするmRNAを検出する方法。
(11)配列番号2または3の塩基配列の連続する15塩基以上の配列を有するDNAおよび配列番号2または3の塩基配列の連続する15塩基以上の配列と相補的な配列を有するDNAを用いて、(4)〜(6)のいずれか1項に記載のDNAまたは(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするmRNAを検出する方法。
(12)液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドの機能を抑制させることを特徴とする、液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌の作製方法。
(13)糸状菌のゲノム中の、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を遺伝子破壊することにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる(12)に記載の方法。
(14)液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のアンチセンスmRNAを転写させることにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる(12)に記載の方法。
(15)糸状菌のゲノム中の、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のプロモーター領域に変異を導入することにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる(12)に記載の方法。
(16)液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を発現させることにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる(12)に記載の方法。
(17)液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドが(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドである、(12)〜(16)のいずれか1項に記載の方法。
(18)糸状菌を、ゲノムに突然変異を誘発させた後に培養し、培地に赤褐色の色素を分泌する菌株を選択することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能が抑制された糸状菌の取得方法。
(19)糸状菌を、ゲノムに突然変異を誘発させた後に重金属を含む培地に培養し、重金属に対する耐性を有する菌株を選択することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能が抑制された糸状菌の取得方法。
(20)糸状菌がアスペルギルス属に属する糸状菌である(12)〜(19)のいずれか1項に記載の方法。
(21)アスペルギルス属に属する糸状菌がアスペルギルス・オリゼである(20)に記載の方法。
(22)(4)〜(6)のいずれか1項に記載のDNAのコード領域内に1つ以上のDNAを挿入または欠失することにより、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードしなくなったDNA。
(23)(22)に記載のDNAを含む組換えベクター。
(24)(17)〜(21)のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌。
(25)糸状菌がアスペルギルス属に属する糸状菌である(24)に記載の糸状菌。
(26)アスペルギルス属に属する糸状菌がアスペルギルス・オリゼである(25)に記載の糸状菌。
(27)(12)〜(21)のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌を培地に培養し、培地中に液胞酵素を生成蓄積させ、該培地から液胞酵素を採取することを特徴とする液胞酵素の製造方法。
(28)培地が固体培地である(27)に記載の製造方法。
(29)培地が液体培地である請求項(27)に記載の製造方法。
(30)液胞酵素がトリペプチジルペプチダーゼである(27)〜(29)のいずれか1項に記載の製造方法。
(31)(27)〜(30)のいずれか1項に記載の方法により製造された液胞酵素、または(12)〜(21)のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌を培養して得られる液胞酵素を含む培養物または培養処理物を、基質となるタンパク質に作用させることを特徴とするタンパク加水分解物の製造方法。
(32)(12)〜(21)のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌を、基質となるタンパク質を含む培地に培養することを特徴とするタンパク加水分解物の製造方法。
(33)(31)または(32)に記載の方法で製造されたタンパク加水分解物。
(34)(33)に記載のタンパク加水分解物を含有することを特徴とする調味料。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリペプチドとしては、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをあげることができる。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子に対するアスペルギルス・オリゼの相同遺伝子(以下、Aovps5遺伝子ともいう)がコードするポリペプチドである。
1以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドは、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)(以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−2001)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,488(1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAに部位特異的変異を導入し、2.に後述する方法で変異を導入したDNAがコードするポリペプチドを発現させることにより、取得することができる。
欠失、置換もしくは付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異法等の周知の方法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数であり、1〜数十個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。また、アミノ酸の欠失、置換または付加は、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1ヶ所に限らず、2ヶ所以上の位置で同時に生じてもよい。
また、アミノ酸の欠失または付加が可能なアミノ酸の位置としては、例えば配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端およびC末端をあげることができる。
上記の配列番号1で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたとは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加があることを意味し、欠失、置換もしくは付加が同時に生じてもよく、置換もしくは付加されるアミノ酸は天然型と非天然型とを問わない。天然型アミノ酸としては、L−アラニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−アルギニン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、L−システインなどがあげられる。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、O−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
また、上記の1以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが、液胞酵素を細胞内に局在化させるためには、配列番号1記載のアミノ酸配列と、少なくとも60%以上、通常は80%以上、特に95%以上の相同性を有していることが好ましい。
上記のポリペプチドが、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有することは、糸状菌において、3.に後述する方法で該ポリペプチドの機能を抑制したときに、糸状菌の液胞酵素が細胞外に分泌されることにより、確認することができる。
細胞外に液胞酵素が分泌されることは、糸状菌を培地で培養し、培養後の培地中の液胞酵素を検出することにより確認できる。液胞酵素としては、例えばトリペプチジルペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼYがあげられる。液胞酵素を検出する方法としては、(a)液胞酵素の酵素活性を測定する方法、(b)液胞酵素を認識する抗体を用いてウェスタンブロッティング等により免疫学的に検出する方法、(c)グリーン蛍光タンパク質(GFP)等のマーカータンパク質またはFLAGタグ等のエピトープペプチドと液胞酵素の融合タンパク質を糸状菌で発現させ、マーカータンパク質やエピトープペプチドを特異的に認識する抗体を利用して融合タンパク質を検出する方法〔Fungal Genet.Biol.,37,29(2002)〕等があげられる。例えば、トリペプチジルペプチダーゼは、文献〔Biochem.Mol.Biol.Int.,47,1079(1999)〕に記載されたトリペプチジルペプチダーゼIの活性測定方法に準じて、基質となるアラニン−アラニン−フェニルアラニン−パラニトロアニリドを含む基質溶液に、糸状菌の培養液等の試料溶液を加えて、30℃で10分間反応させた後、分光光度計により384nmの吸光度を測定することにより、活性を測定できる。
あるいは、3.および実施例3に後述するアスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子破壊株を宿主として、2.に記載の方法あるいは3.に記載の相同組換え法で該ポリペプチドを発現させたときに、Aovps5遺伝子破壊株が有する、(1)液胞酵素の細胞外への分泌、(2)赤褐色の色素の分泌、(3)重金属に対する耐性、(4)分生子の形成の阻害、等の表現型がもとの表現型に回復することによっても、該ポリペプチドが液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有することを確認することができる。
本発明のDNAとしては、上記の本発明のポリペプチドをコードするDNAがあげられる。配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNAとしては、配列番号2または3の塩基配列を含むDNAがあげられる。配列番号2の塩基配列は、アスペルギルス・オリゼのゲノム上のAovps5遺伝子の配列であり、配列番号3の塩基配列は、該遺伝子のcDNAのコード領域の配列である。
また、本発明のDNAとしては、配列番号2または3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードするDNAをあげることができる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば配列番号2または3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAまたはその一部のDNA断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラークのDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/Lの塩化ナトリウム存在下、65℃でプローブとハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University(1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、配列番号1または3で表される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
1.本発明のDNAの調製
(1)プローブの調製
以下のようにして得られるアスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子の部分断片をプローブとして用いることができる。
まず、サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子の塩基配列(GenBank登録番号:U73512)のコード領域の配列(配列番号4)を問い合わせ配列として、アスペルギルス・ニドランス、ノイロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)等の各種糸状菌のゲノム配列データベースを相同性検索プログラムBLAST〔Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993)〕を用いて検索することにより、サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子と高い相同性を有するノイロスポラ・クラッサ等のVPS5相同遺伝子のゲノム配列を見出すことができる。例えば、ノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子の塩基配列としては配列番号5をあげることができる。
このノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子がコードするアミノ酸配列から、縮重プライマーを設計する。プライマーを設計するアミノ酸配列は、ノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子がコードするアミノ酸配列から任意の2カ所の配列を選ぶことができるが、ノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子とサッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子がそれぞれコードするアミノ酸配列間で保存性の高い領域を選択することが望ましい。例えばノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子がコードするアミノ酸配列の181〜189番目の配列(Val Gly Asp Pro His Lys Val Gly Asp)、267〜274番目の配列(Pro Pro Glu Lys Gln Ala Val Gly)をあげることができる。縮重プライマーは、選択した2箇所のアミノ酸配列について、よりN末側のアミノ酸配列に対応する全てのコドンの塩基配列、よりC末のアミノ酸配列に対応する全てのコドンと相補的な塩基配列を、それぞれ含むDNAとして設計する。縮重の数をへらすため、コドンの3番目の塩基としてイノシンを利用したり、アスペルギルス・ニドランスのコドン使用頻度〔Mol.Gen.Genet.,230,288(1991)〕を利用したりすることもできる。プライマーの長さは、14〜30塩基が好ましい。縮重プライマーの例としては、配列番号6および7の塩基配列をそれぞれ有するDNAをあげることができる。設計した縮重プライマーは、例えば、アプライド・バイオシステムズ社製のDNA合成装置等を使用して調製することができる。
上記の縮重プライマーとアスペルギルス・オリゼの染色体DNAあるいはcDNAをテンプレートとして用いたPCRを行うことにより、アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子の部分断片を増幅し単離することができる。アスペルギルス・オリゼの染色体DNAあるいはcDNAは、(2)に後述する方法で調製できる。PCRは当業者に周知の条件及び手段を用いて、行うことができる。例えば、PCRの反応条件としては、94℃で5分間の反応の後、94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で30秒からなる反応サイクルを30サイクル行う条件があげられる。ただし、反応サイクル中のアニーリングの温度は、プライマーの長さ、塩基組成により推定されるTに基づいて、適当なものにする。なお、サーマルサイクラーとしては、パーキン・エルマー(Perkin Elmer)社製9600、アステック社製プログラム・テンプ・コントロール・システムPC−700など市販のサーマルサイクラーを用いることができる。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)、ExTaq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)などの市販品を用いることができる。反応液の組成はポリメラーゼに添付の説明書に従う。
PCRにより増幅したDNA断片を単離し、ジゴキシゲニン(以下、DIGと略す)、放射性同位元素等で標識したものをプローブとする。また、上記のPCRの反応液中にDIG、放射性同位元素等で標識したヌクレオチドを添加してPCRを行うことにより、プローブの標識を増幅と同時に行うこともできる。以上のようにして得られる、プローブとして用いることのできるアスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子の部分断片としては、配列番号8の塩基配列を有するDNAをあげることができる。
増幅されたDNA断片は、適当なプラスミドベクターにクローニングし、DSQ2000L DNAシークエンサー(島津製作所社製)、ABI 310ジェネエティック・アナライザー(パーキンエルマー社製)等のDNAシークエンサーを用いて、塩基配列を決定し、ノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子と相同性を有しているか確認することが好ましい。
(2)染色体DNAライブラリーまたはcDNAライブラリーの調製
アスペルギルス・オリゼから抽出したゲノムDNAを、適当な制限酵素を用いて切断し、同じ切断末端をもつ制限酵素で切断したベクターに挿入する。ベクターとして例えばλDASHII(ストラタジーン社製)、λFIXII(ストラタジーン社製)等のラムダファージベクター、pUC118(宝酒造社製)、pBR322(宝酒造社製)等のプラスミドベクターがあげられる。アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAは、五味らの方法〔J.Gen.Appl.Microbiol.,35,225,(1989)〕に従って抽出できる。
例えば、ファージベクターλDASHIIへの挿入は、BamHIで開裂したベクターとBamHIで分解した染色体DNAとをT4DNAリガーゼを用いて連結することにより行うことができる。このようにして得られたゲノムDNA断片を挿入したベクターを適切なエシェリヒア・コリ宿主に導入することにより染色体DNAライブラリーが得られる。
cDNAライブラリーは以下のようにして調製できる。まず、液体窒素で凍結したアスペルギルス・オリゼの菌体を細かく粉砕した後、グアニジンイソチオシアネートを含んだフェノール又はフェノール−クロロホルム溶液でホモジナイズし、高速遠心により水層と有機層に分離する。その後、水層とイソプロパノールを混合し、水層に含まれる全RNAを沈殿させて回収するか、あるいはショ糖もしくはセシウムクロライド密度勾配遠心法により回収する。もしくは市販の全RNA抽出キット(例えばRNeasy kit、キアゲン社製)を用いることもできる。この全RNAをオリゴ(dT)セルロースクロマトグラフィーにかけてmRNA(即ち、poly(A)RNA)を精製する。
次に、mRNAから逆転写酵素の存在下にcDNAを合成し、ファージもしくはプラスミドベクターに連結可能なように適当な制限酵素部位を作り、これを同様の制限酵素部位をもつファージもしくはプラスミドベクターに連結し、このようにして得られたベクターで大腸菌を形質転換してcDNAライブラリーを調製する。mRNAからcDNAを合成する方法として、ゲートウェイ技術を用いたcDNA合成およびクローニング用スーパースクリプト・プラスミド・システム(SUPERSCRIPT Plasmid System with GATEWAYTM Technology for cDNA Synthesis and Cloning、インビトロジェン社製)などの市販キットを用いることもできる。
(3)Aovps5遺伝子クローンの選別
Aovps5遺伝子を含むクローンの選別は、具体的には、プラークハイブリダイゼーションあるいはコロニーハイブリダイゼーション〔モレキュラー・クローニング第3版、Nucleic Acids Res.,,879(1981)〕により行うことができる。例えば、プラークをニトロセルロースあるいはナイロンメンブレン上に転写し、真空中で80℃、2時間あるいは紫外線照射によって、DNAをメンブレン上に固定化する。この時、必要に応じて0.5mol/l水酸化ナトリウム、1.5mol/l塩化ナトリウムを含むアルカリ性溶液を用いた変性および0.5mol/lトリス−塩酸(pH7.5)、3mol/l塩化ナトリウムの溶液を用いた中和を行う。このメンブレンを、5×SSC、50%ホルムアミド、0.1%N−ラウロイルサルコシン、0.2%SDS、1%ブロッキング・リージェント(ロシュ社製)からなる溶液中でプローブとメンブレンを42℃、6時間インキュベートした後、42℃で0.1%SDSを含む2×SSCで5分間、0.1%SDSを含む0.1×SSCで15分間、順次洗浄する条件、あるいは4×SSC、50%ホルムアミド、50mmol/l HEPES−水酸化ナトリウム(pH7.0)、10×Denhardt’s溶液(0.2%フィコール400、0.2%ポリビニルピロリドン、0.2%ウシ血清アルブミン)、100μg/mlサケ精子DNAからなる溶液中でプローブとメンブレンを、42℃、一昼夜インキュベートした後、0.1%SDSを含む2×SSC溶液で室温、2分間で3回洗浄した後、0.1%SDSを含む0.1×SSC溶液中で50℃、2時間で3回洗浄する条件でプローブとハイブリダイゼーションさせる。洗浄後のメンブレンは放射性同位体で標識したプローブの場合は、風乾した後、−70℃で2時間から一昼夜X線フィルムに露光させ、現像して、ポジティブクローンを可視化する。ジゴキシゲニンで標識したプローブの場合は、DIGハイプライムDNAラベリング/検出キットI(DIG High Prime DNA Labeling&Detection Starter KitI、ロシュ社製)を用いて発色反応を行い、ポジティブクローンを検出する。
(4)本発明のDNAの単離
上記のようにして選別されたポジティブクローンのプラークまたはコロニーからファージDNAまたはプラスミドDNAを抽出・単離し、挿入断片を適当な制限酵素でベクターから切り出すことで本発明のDNAを取得することができる。取得したDNAは、適当なプラスミドベクターにサブクローニングし、DSQ2000L DNAシークエンサー(島津製作所社製)、ABI 310ジェネエティック・アナライザー(パーキンエルマー社製)等のDNAシークエンサーを用いて、該DNAの塩基配列を決定することができる。Aovps5遺伝子のゲノムDNAの配列とcDNAの配列を決定し、両者の塩基配列を比較することにより、ゲノムDNAのイントロンの領域を決定することができる。
Aovps5遺伝子の塩基配列が決定された後は、ポリペプチドのコード領域を含む領域を適当に選択し、選択した領域の塩基配列の5’端20〜40塩基の配列を3’端に含むDNA、選択した領域の塩基配列の3’端20〜40塩基と相補的な配列を3’端に含むDNAをそれぞれDNA合成機で合成する。アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAまたはcDNAをテンプレートとし、2種類の合成DNAをプライマーとして用いたPCRにより本発明のDNAを増幅し単離することができる。PCRは(1)に記載した条件と同様にして行うことができる。
以上のようにして得られる本発明のDNAとして、配列番号2の塩基配列からなるアスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のゲノムDNA、配列番号3の塩基配列からなるアスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のcDNAをあげることができる。
また、このようにして得られた本発明のDNAをプローブとして、(2)および(3)に記載した方法に準じて、他の糸状菌のゲノムDNAライブライリーまたはcDNAライブラリーを、上記(3)の条件下でのハイブリダイゼーションでスクリーニングすることにより、他の糸状菌のAovps5相同遺伝子のゲノムDNAまたはcDNAを取得することができる。これらのDNAも本発明のDNAに含まれる。
(5)本発明のDNAの検出
本発明のDNAの塩基配列と相補的な配列の連続する20塩基以上の配列を含むDNA断片またはオリゴDNAを放射性同位体、ジゴキシゲニン、ビオチン等で標識したものをプローブとし、ハイブリダイゼーションを行うことにより、本発明のDNA、本発明のポリペプチドをコードするmRNAを検出することができる。本発明のDNAの塩基配列と相補的な連続する20塩基以上の配列を含むDNA断片は、上記(4)に記載した方法に準じて、本発明のDNAの任意の領域を含む領域を適当に選択し、選択した領域の塩基配列の5’端20〜40塩基の配列を3’端に含むDNA、選択した領域の塩基配列の3’端20〜40塩基と相補的な配列を3’端に含むDNAをそれぞれプライマーとしたPCRにより調製することができる。オリゴDNAはDNA合成装置により調製できる。プローブの長さは、検出対象などに応じて当業者が適宜選択することができるが、通常、15〜3000塩基、好ましくは20〜1000塩基の長さである。
ハイブリダイゼーションは、電気泳動ゲルあるいはコロニーなどからゲノムDNAあるいはmRNAを転写したニトロセルロースメンブレンあるいはナイロンメンブレンに対して、(3)に記載したハイブリダイゼーションの方法に準じて行うことができる。また、基板上にオリゴDNAまたはDNA断片を固定化し、標識したmRNAあるいはDNAとハイブリダイズさせた後、ドットとして検出するDNAチップ〔Genome Res.,,639(1996)〕によっても本発明のDNAまたは本発明のポリペプチドをコードするmRNAを検出することができる。
また、本発明のDNAの塩基配列の連続する15塩基以上の配列を有するDNAおよび本発明のDNAの塩基配列の連続する15塩基以上の配列と相補的な配列を有するDNAをプライマーとして、コロニー等から調製したゲノムDNAまたはcDNAをテンプレートとしたPCRにより、本発明のDNAまたは本発明のポリペプチドをコードするmRNAを検出することができる。PCRは(1)に記載した条件と同様にして行うことができる。
2.本発明のポリペプチドの調製
本発明のポリペプチドは、例えば以下の方法により、本発明のポリペプチドをコードするDNAを含む組換え体DNAを宿主細胞に導入した形質転換体を作製し、該形質転換体を培養することにより、調製することができる。具体的な遺伝子操作的手法は、モレキュラー・クローニング第3版やカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された方法等を用いることができる。
(1)で得られた本発明のDNAから、本発明のポリペプチドをコードする部分を含む適当な長さのDNAを調製する。また、必要に応じて、本発明のポリペプチドをコードする部分の塩基配列を、宿主細胞の発現に最適なコドンとなるように塩基を置換したDNAを調製する。
該DNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。
該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入する。
宿主細胞としては、細菌、酵母、糸状菌、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込が可能で、宿主細胞中で機能するプロモーターを含有しているものが用いられる。また、形質転換体を選択するための形質転換マーカーとなる遺伝子を含むことが好ましい。
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合は、本発明のポリペプチドをコードするDNAを含有する組換えベクターは原核生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のポリペプチドをコードするDNAおよび転写終結配列が連結された構造を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
原核生物用の発現ベクターとしては、例えば、pGEMEX−1(プロメガ社製)、pQE−30(キアゲン社製)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,82,4306(1985)〕、pTrS30〔Escherichia coli JM109/pTrS30(FERM BP−5407)より調製〕、pGEX−5X−3(アマシャム・バイオサイエンス社製)、pET14(ノバジェン社製)、pPROTet.E(クロンテック社製)、pRSET C(インビトロジェン社製)等をあげることができる。
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、Pプロモーター、Pプロモーター、T7プロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーターをあげることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、letIプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
本発明の組換えベクターにおいては、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、本発明のポリペプチドをコードするDNAの直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
宿主細胞としては、エシェリヒア属、セラチア属、バチルス属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する微生物、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli BL21、Escherichia coli DH1、Escherichia coli MC1000、Escherichia coli KY3276、Escherichia coli W1485、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101、Escherichia coli No.49、Escherichia coli W3110、Escherichia coli NY49、Escherichia coli GI698、Escherichia coli TB1、Serratia ficariaSerratia fonticolaSerratia liquefaciensSerratia marcescensBacillus subtilisBacillus amyloliquefacinesBrevibacterium ammoniagenesBrevibacterium immariophilum ATCC14068、Brevibacterium saccharolyticum ATCC14066、Brevibacterium flavum ATCC14067、Brevibacterium lactofermentum ATCC13869、Corynebacterium glutamicum ATCC13032、Corynebacterium glutamicum ATCC13869、Corynebacterium acetoacidophilum ATCC13870、Microbacterium ammoniaphilum ATCC15354、Pseudomonas putidaPseudomonas sp.D−0110等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69,2110(1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63−2483942)、またはGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等をあげることができる。
酵母を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp56(ATCC37419)、pHS19、pHS15等をあげることができる。
プロモーターとしては、酵母細胞中で機能するものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1プロモーター、CUP 1プロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としては、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Kluyveromyces属、Trichosporon属、Schwanniomyces属、Pichia属、Candida属等に属する微生物、例えば、Saccharomyces cerevisiaeSchizosaccharomyces pombeKluyveromyces lactisTrichosporon pullulansSchwanniomyces alluviusCandida utilis等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Methods Enzymol.,194,182(1990)〕、スフェロプラスト法〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)〕、酢酸リチウム法〔J.Bacteriology,153,163(1983)〕、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)に記載の方法等をあげることができる。
糸状菌を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えばpPTRI(白鶴酒造社製)、pPTRII(白鶴酒造社製)、pAUR316(宝酒造社製)等をあげることができる。
プロモーターとしては、糸状菌株中で機能するものであればいずれのものを用いてもよく、例えばamyBプロモーター、enoAプロモーター、gpdプロモーター、melOプロモーター、alcAプロモーター、prAプロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としてはアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Tricoderma)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコラ(Humicola)属、ムコール(Mucor)属、リゾープス(Rhizopus)属、モナスカス(Monascus)属等に属する糸状菌、例えばアスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニドランス、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・フィカム(Aspergillus ficcum)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、リゾープス・ニベウス(Rhizopus nibeus)をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては糸状菌にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、プロトプラスト法〔GENETICS of ASPERGILLUS NIDULANS:EMBO Practical Course Manual,8(1988)〕等をあげることができる。
動物細胞を宿主として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pEGFP−C2(クロンテック社製)、pAGE107(特開平3−22979;Cytotechnol.,,133 1990)、pAS3−3(特開平2−227075)、pCDM8〔Nature,329,840(1987)〕、pCMV−Tag1(ストラタジーン社製)、pcDNA3.1(+)(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pMSG(アマシャム・バイオサイエンス社製)、pAMo〔J.Biol.Chem.,268,22782(1993)〕等をあげることができる。
プロモーターとしては、動物細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等をあげることができる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
宿主細胞としては、ヒトの細胞であるナマルバ(Namalwa)細胞、サルの細胞であるCOS細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、HBT5637(特開昭63−299)等をあげることができる。
動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Cytotechnology,,133(1990)〕、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、リポフェクション法〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987)〕、Virology,52,456(1973)等をあげることができる。
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)、Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company(1992)、Bio/Technology,,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。
即ち、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに該組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。
該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBac4.5(ともにインビトロジェン社製)、pBacPAK9(クロンテック社製)等をあげることができる。
バキュロウイルスとしては、例えば、ヤガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHigh5(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への上記組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、リポフェクション法〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987)〕等をあげることができる。
植物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、Tiプラスミド、タバコモザイクウイルスベクター等をあげることができる。
プロモーターとしては、植物細胞中で機能するものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、イネアクチン1プロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としては、タバコ、ジャガイモ、トマト、ニンジン、ダイズ、アブラナ、アルファルファ、イネ、コムギ、オオムギ等の植物細胞等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)(特開昭59−140885、特開昭60−70080、WO94/00977)、エレクトロポレーション法(特開昭60−251887)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許公報2606856号、特許公報2517813号)等をあげることができる。
以上のようにして得られる本発明の形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明のポリペプチドを生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、本発明のポリペプチドを製造することができる。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
本発明の形質転換体が大腸菌等の原核生物あるいは酵母、糸状菌等の真核微生物を宿主として得られた形質転換体である場合、該形質転換体を培養する培地として、該形質転換体が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該形質転換体が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、小麦タンパク質および小麦タンパク加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
糸状菌の培養においては、小麦ふすま、米糠、大豆ふすま、脱脂大豆タンパク質、蒸米等を、炭素源、窒素源および無機物源とし、適当な塩類を補強したものを培地として用いることもできる。
培養は、振とう培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。pHの調整は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
糸状菌を培養する場合、通常の液体培地だけではなく固体培地を使用して培養することもできる。糸状菌の培養に用いられる固体培地としては、通常の寒天培地より水分活性が低い培地を用いることができる。該固体培地としては、小麦ふすまに水性媒体を浸潤させた小麦ふすま培地、蒸米等があげられる。
糸状菌を、固体培地で培養する場合は、糸状菌を植菌後、固体培地と糸状菌を充分に混合し、アルミまたはステンレス製のトレーに薄く広げて培養室内に静置する。その後、温度を通常15〜50℃、好ましくは25〜37℃に、湿度を通常80〜100%、好ましくは90〜100%に制御して、3〜10日間静置培養する。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI 1640培地〔J.Am.Med.Assoc.,199,519(1967)〕、EagleのMEM(Mimimum Essential Medium)〔Science,122,501(1952)〕、Dalbecco改変Eagle培地〔Virology,,396(1959)〕、199培地〔Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,73,1(1950)〕またはこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等を用いることができる。
培養は、通常pH6〜8、30〜40℃、5%CO存在下等の条件下で1〜7日間行う。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(ファーミンジェン社製)、Sf−900 II SFM培地(インビトロジェン社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRHバイオサイエンス社製)、Graceの昆虫培地〔Nature,195,788(1962)〕等を用いることができる。
培養は、通常pH6〜7、25〜30℃等の条件下で、1〜5日間行う。
また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
植物細胞を宿主として得られた形質転換体は、細胞として、または植物の細胞や器官に分化させて培養することができる。該形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
培養は、通常pH5〜9、20〜40℃の条件下で3〜60日間行う。
また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
上記のとおり、本発明のポリペプチドをコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞、あるいは植物細胞由来の形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、該ポリペプチドを生成蓄積させ、該培養物より該ポリペプチドを採取することにより、該ポリペプチドを製造することができる。
酵母、糸状菌、動物細胞、昆虫細胞または植物細胞により発現させた場合には、糖あるいは糖鎖が付加されたポリペプチドを得ることができる。
本発明のポリペプチドの生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、あるいは宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞や、生産させるポリペプチドの構造を変えることにより、該方法を選択することができる。
本発明のポリペプチドが宿主細胞内あるいは宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法〔J.Biol.Chem.,264,17619(1989)〕、ロウらの方法〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,,1288(1990)〕、または特開平5−336963、WO94/23021等に記載の方法を準用することにより、該ポリペプチドを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、本発明のポリペプチドの手前にシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、本発明のポリペプチドを宿主細胞外に分泌させることができる。
また、特開平2−227075に記載されている方法に準じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用して生産量を上昇させることもできる。
また、公知の方法〔J.Biomol.NMR,,129(1998)、Science,242,1162(1988)、J.Biochem.,110,166(1991)〕に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いて本発明のポリペプチドを生産することができる。すなわち、本発明のポリペプチドをコードするDNAをSP6、T7、T3等のプロモーターの下流につなげ、それぞれのプロモーター特異的なRNAポリメラーゼを反応させることにより大量の本発明のポリペプチドをコードするRNAをインビトロで合成した後、無細胞系の翻訳系例えばウサギ網状赤血球ライセートやコムギ胚芽抽出液を用いた翻訳系を利用して、本発明のポリペプチドを生産することができる。
本発明の形質転換体により製造されたポリペプチドを単離精製するためには、通常の酵素の単離精製法を用いることができる。例えば本発明のポリペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。pRSET系ベクター(インビトロジェン社製)、pGEX系ベクター(アマシャム・バイオサイエンス社製)等、該ポリペプチドにタグをつけて発現させた場合、ニッケルレジン、グルタチオンセファロースなどの適当な担体を用いてアフィニティ精製することもできる。
また、該ポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてポリペプチドの不溶体を回収する。回収したポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析し、該可溶化液中のポリペプチド変性剤の濃度を下げることにより、該ポリペプチドを正常な立体構造に戻す。該操作の後、上記と同様の単離精製法により該ポリペプチドの精製標品を得ることができる。
本発明のポリペプチドが細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ポリペプチドを回収することができる。即ち、該培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
このようにして取得される本発明のポリペプチドとして、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをあげることができる。
3.液胞酵素の培地中への生産
(1)液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌の作製
糸状菌において、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドの機能を抑制させることにより、液胞酵素、例えばトリペプチジルペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、セリンプロテアーゼ、アスパルチルプロテアーゼが、好ましくはトリペプチジルペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼが効率的に細胞外に分泌されるため、液胞酵素を培地中に生産させることができる。
液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドとは、該ポリペプチドの機能を抑制させたときに、液胞酵素のすべてまたはその一部が液胞内に正常に局在せず、細胞外に分泌されるようになるポリペプチドを意味する。細胞外に分泌される液胞酵素は前駆体または成熟体のどちらであってもよい。、このようなポリペプチドとしては、液胞酵素の選別や輸送、液胞の酸性化や形態形成・維持に関わる遺伝子がコードするポリペプチドがあげられ、例えばサッカロミセス・セレビシエのVPS遺伝子群、PEP遺伝子群、VAC遺伝子群、TLG遺伝子群、VAM遺伝子群、APG遺伝子群、CVT遺伝子群およびGRD遺伝子群または動植物細胞におけるシンタキシンファミリーおよびソーティング・ネキシンファミリーなどの遺伝子群のいずれかと相同性を有する、糸状菌の遺伝子がコードするポリペプチドがあげられる。該ポリペプチドとしては、アスペルギルス・ニドランスのvpsA遺伝子、vpsB遺伝子およびvpsC遺伝子、アスペルギルス・オリゼのVAM3相同遺伝子、Aovps5遺伝子等がそれぞれコードするポリペプチド(Aovps5遺伝子がコードするポリペプチドを以下、Aovps5ポリペプチドともいう)があげられ、Aovps5ポリペプチドが好ましく用いられる。このようなポリペプチドをコードする糸状菌の遺伝子は、1.に記載した本発明のDNAを取得する方法と同様にして、取得することができる。
糸状菌としては、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ属、フザリウム属、フミコラ属、ムコール属、モナスカス属等に属する糸状菌をあげることができるが、アスペルギルス属に属する糸状菌が好ましく、特に、醸造工業で用いられるアスペルギルス属に属する糸状菌が好ましい。醸造工業で用いられるアスペルギルス属に属する糸状菌としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergilus awamori)等をあげることができる。
液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドの機能を抑制させる方法として、(a)遺伝子破壊をする方法、(b)アンチセンスmRNAを転写させる方法、(c)プロモーター領域に変異を導入する方法、(d)優性不活性(ドミナントネガティブ)変異体を発現させる方法等があげられる。
(a)遺伝子破壊をする方法では、まず、機能を抑制させたいポリペプチドAをコードするDNAを単離し、該DNAのポリペプチドAをコードする領域中の制限酵素サイトを利用して1つ以上、通常は数100bp〜数kbのDNAの挿入あるいは欠失を行うことにより構造を破壊し、ポリペプチドAの機能(本発明の場合は、液胞酵素を細胞内に局在させる活性)を有するポリペプチドをコードしなくなったDNA(以下、遺伝子破壊用DNAとよぶ)を作製する。次いで、遺伝子破壊用DNAを含む組換えベクターで糸状菌を形質転換した後、ゲノム中のポリペプチドAをコードする遺伝子が、遺伝子破壊用DNAにより相同組換えをおこした形質転換体を、PCRやサザンブロッティングにより選択する。
ポリペプチドAをコードする領域に挿入するDNAとして、形質転換マーカーとなる遺伝子を用いれば、選択培地を用いて形質転換体を容易に選択することができる。形質転換マーカーとなる遺伝子は、宿主とする糸状菌の栄養要求性や薬剤耐性と関係する遺伝子で、例えば、sC遺伝子、argB遺伝子、niaD遺伝子、pyrG遺伝子、amdS遺伝子、ptrA遺伝子、pabaA遺伝子、niiA遺伝子、BenA遺伝子などがあげられる。
組換えベクターの作製に用いるベクターは、大腸菌で自律複製でき、適当なクローニング用制限酵素サイトを持つ通常のプラスミドベクターであればよく、例えば、pBluescript SK II(+)(ストラタジーン社製)等があげられる。遺伝子破壊用DNAの作製に形質転換マーカー遺伝子を用いない場合は、上記のベクターに形質転換マーカー遺伝子を挿入したベクターを組換えベクターの作製に用いることにより、形質転換体を選択することができる。宿主とする糸状菌は形質転換マーカー遺伝子が欠損している株を用いる。
(b)アンチセンスmRNAを転写させる方法では、まず機能を抑制させたいポリペプチドAをコードするDNAを単離する。次いで、該DNAを2.に記載の方法に準じて糸状菌用発現ベクターのプロモーターの下流に逆方向に連結し、通常の遺伝子AのmRNAとは相補的な配列を有するアンチセンスmRNAを転写する組換えベクターを作製する。該組換えベクターで糸状菌を形質転換することにより、形質転換体において、遺伝子AのmRNAとアンチセンスmRNAのハイブリッドを形成させて遺伝子AのmRNAからの翻訳を阻害させる。
(c)プロモーター領域に変異を導入する方法では、まず機能を抑制させたいポリペプチドAをコードするゲノム遺伝子のコード領域の上流にあるプロモーター領域を含むDNAを単離する。該DNAのプロモーター領域中の制限酵素サイトを利用して数100bp〜数kbのDNAの挿入あるいは欠失を行うことにより、プロモーター機能を破壊したDNAを作製する。次いで該DNAを含む組換えベクターで糸状菌を形質転換した後、ゲノム中のポリペプチドAをコードする遺伝子のプロモーター領域が、プロモーター機能を破壊したDNAにより相同組換えをおこした形質転換体を、PCRやサザンブロッティングにより選択する。組換えベクターの作製に用いるベクターは、(a)の遺伝子破壊に用いるベクターと同様のベクターを用いる。
(d)ドミナントネガティブ変異体は、あるポリペプチドの機能ドメインに欠失、置換、付加等の改変を加えることにより作製した、もとの該ポリペプチドが有する機能を失い、しかも細胞内の正常な該ポリペプチドの機能を阻害するような性質の変異体である。ドミナントネガティブ変異体を発現させる方法では、まず機能を抑制したいポリペプチドAのドミナントネガティブ変異体をコードするDNAを作製する。該DNAを用いて、2.に記載の方法にしたがって糸状菌用の発現ベクターを作製する。該発現ベクターで糸状菌を形質転換して得られる該形質転換体において、ドミナントネガティブ変異体を発現させ、細胞内の正常なポリペプチドAの機能を阻害させる。
ポリペプチドAの機能ドメインは、例えばタンパク質ファミリーのデータベースPfam〔Nucleic Acids Res.,30,276(2002)、Proteins,28,405−420(1997)〕の検索を行うことにより推察できる。Pfamの検索は、サンガー研究所のPfamに関するウェブサイト(http://www.sanger.ac.uk/ Software/Pfam/)上で行うことができる。
例えば、アスペルギルス・オリゼのAovps5ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)に対し、Pfamの検索を行うと、44番目のリジンから158番目のグルタミン酸までが、ホスファチジルイノシトール3−リン酸等の脂質と結合する機能を有するPXドメイン、および159番目のスレオニンからC末端のアラニンまでが、ポリペプチド同士の重合体の形成に関与するとされているコイルドコイル領域として予測される。これらのドメインの改変を行うことによりドミナントネガティブ変異体を作製できる。
例えば、サッカロミセス・セレビシエのVAM7ポリペプチドのPXドメインの解析〔Nat.Cell Biol.,,613(2001)〕から、Aovps5ポリペプチドのPXドメイン中で、脂質との結合に関与するアミノ酸として、87番目のアルギニン、95番目のリジン、128番目のアルギニン、129番目のアルギニンがあげられ、特に87番目から89番目のアミノ酸配列(Arg Arg Tyr)が重要と考えられるので、これらのアミノ酸のいずれか、もしくはこれらから選ばれる複数のアミノ酸に欠失や置換等の変異を導入することによりドミナントネガティブ変異体を作製できる。
また、コイルドコイル領域以外の部分を欠失させたコイルドコイル領域のみからなる変異体も、正常なポリペプチドの重合体形成を阻害するドミナントネガティブ変異体の例としてあげられる。また、PXドメインのみからなる変異体、コイルドコイル領域の一部または全てを欠失させた変異体であってもよい。
糸状菌において、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドの機能が抑制されると、分生子の形成が阻害される傾向にあるため、上記の、アンチセンスmRNAの転写やドミナントネガティブ変異体の発現を、薬物の投与等で誘導できる発現ベクターを用いて行えば、増殖および分生子の形成過程では遺伝子の機能を抑制せず、分生子が形成した後に該遺伝子の機能を抑制することで、分生子形成能を損なわず液胞酵素を細胞外に生産できる利点がある。
糸状菌の形質転換は、糸状菌にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、プロトプラスト法〔GENETICS of ASPERGILLUS NIDULANS:EMBO Practical Course Manual,8(1988)〕等をあげる事ができる。
また、Aovps5糸状菌の分生子への紫外線照射等でゲノムDNAにランダムに突然変異を誘発させた後、Aovps5遺伝子破壊株に特徴的な表現型を利用して、Aovps5ポリペプチドの機能が欠損した変異株(以下、Aovps5機能欠損変異株ともいう)を選択することにより、上記のような遺伝子操作を用いずに、Aovps5ポリペプチドの機能が抑制された糸状菌を取得することができる。
アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子破壊株は、寒天培地上で培養を行うと赤褐色の色素を培地中に分泌する。したがって、本性質を利用することによりAovps5ポリペプチドの機能が欠損した変異株のスクリーニングが可能である。
スクリーニングは以下に記載の方法により行う。五味らの方法〔日本醸造協会誌,84,465(1989)〕に基づいて、アスペルギルス・オリゼの分生子に紫外線を照射することにより、分生子のゲノム中に変異を誘発する。この分生子を寒天培地(0.2%塩化アンモニウム、0.1%硫酸アンモニウム、0.05%塩化カリウム、0.05%塩化ナトリウム、0.1%リン酸二水素一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、0.002%硫酸鉄7水和物、2%グルコース、1.5%寒天、pH5.5)上にまき、シャーレ本体と蓋を、密閉状態にならないようにパラフィルムで巻いて固定し、30℃で、5日以上、好ましくは7日以上培養する。周辺部の培地が赤褐色になるコロニーをAovps5機能欠損変異株の候補株として選択することができる。選択した候補株の2次スクリーニングとして、上記の候補株を培養した培地中のトリペプチジルペプチダーゼ活性を測定し、親株に比べて活性が上がっているものをAovps5機能欠損変異株として選択する。
また、サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子破壊株が親株に比べてコバルトやニッケルなどの重金属に対する耐性が向上していることが報告されている〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98,9660(2001)〕。したがってアスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子破壊株も、重金属に対する耐性を獲得していると予想されるため、重金属に対する耐性を指標にAovps5機能欠損変異株のスクリーニングが可能である。重金属の例として、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、銀、カドミウム、スズ、バリウム、水銀、鉛等があげられる。
これらの重金属を含まないか、通常の培地に含まれる濃度でしか含まない合成培地にこれらの重金属のいずれかを何段階かの適当な濃度で添加した培地に、親株とAovps5遺伝子破壊株を培養し、親株は生育できないがAovps5遺伝子破壊株が生育できるような選択培地の重金属の濃度を決定する。紫外線を照射してゲノム中に変異を誘発した分生子を、決定した濃度の重金属を含む選択培地上で培養し、生育してきたコロニーをAovps5機能欠損変異株の候補株として選択する。選択した候補株の2次スクリーニングとして、候補株を培養した培地中のトリペプチジルペプチダーゼ活性を測定し、親株に比べて活性が上がっているものをAovps5機能欠損変異株として選択する。
このようにして得られるAovps5機能欠損変異株は遺伝子操作を施していないため、食品、飲料などの製造に好適である。
(2)液胞酵素の製造方法
以下に、(1)に記載した方法で得られる液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌を用いた液胞酵素の製造方法について述べる。
該糸状菌を培地に培養し、液胞酵素を培地中に生産・蓄積させ、該培地から液胞酵素を採取することができる。
該糸状菌を培養する方法は、固体培養、液体培養、多孔性膜培養、ゲル包括固定化培養等があげられる。菌体の接種の方法は胞子を接種することもできるが、Aovps5遺伝子破壊株では胞子を形成しないため、例えば菌糸を滅菌した生理食塩水などに分散させた後に接種することができる。
液体培地の場合、炭素源としてグルコース、澱粉、デキストリン、フラクトース、スクロース等、窒素源として、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ポリペプトン、酵母エキス、脱脂大豆タンパク質等、ミネラル成分としてリン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄等を添加することができる。
培養は、振とう培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下で、通常15〜50℃、好ましくは25〜37℃で通常1〜7日間行う。
固体培地の場合、培地原料として水性媒体を湿潤させた小麦ふすま、蒸米、脱脂大豆タンパク質等があげられ、水性媒体として水、無機塩類を含有する水溶液があげられる。培養は温度を通常15〜50℃、好ましくは25〜37℃に、湿度は80〜100%、好ましくは90〜100%、通常3〜10日間で行う。
多孔性膜培養またはゲル包括固定化培養の場合は、例えば特開平11−225746に記載の方法に従い培養することができる。
液胞酵素を細胞外に分泌する能力を有する糸状菌を液体培地で培養する場合、以下に記載の方法に従い、液胞酵素を単離・精製することができる。
培養終了後、培養液から不溶性固形分を、遠心分離、膜ろ過等の方法により分離除去し、上清を取得する。該上清から、通常の酵素の単離・精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。pRSET系ベクター(インビトロジェン社製)、pGEX系ベクター(アマシャム・バイオサイエンス社製)等のタグを、液胞酵素につけて発現させた場合、ニッケルレジン、グルタチオンセファロースなどの適当な担体を用いてアフィニティ精製することもできる。
固体培地で培養する場合、例えば糸状菌が増殖した固体培地を水系緩衝液に分散した後、固液分離して酵素抽出液を取得し、液体培養において上清から液胞酵素を単離・精製した方法と同様の方法により、該酵素抽出液から液胞酵素を単離・精製することができる。
多孔性膜培養またはゲル包括固定化培養の場合、菌体が生育する膜または菌体を包埋したゲルと接触させた培地から、液体培地で培養した場合と同様にして、液胞酵素を単離・精製できる。
4.タンパク加水分解物の調製
3.(2)に記載した方法等に従って、液体培地で糸状菌を培養する場合、タンパク質を含む原料を該培養物中に添加することにより、タンパク加水分解物を製造することができる。または、タンパク質を含む原料に、3.(2)に記載した方法で得られる液胞酵素を添加して混合し、通常20℃〜60℃、好ましくは30℃〜50℃にて、24〜264時間、好ましくは48〜240時間反応させることにより、タンパク加水分解物を製造することができる。反応時のpHは、本発明の液胞酵素および分泌酵素が作用できるpHであればよいが、好ましくはpH3〜8、より好ましくはpH5〜8に調整する。
この製造方法で用いる液胞酵素としては、精製した液胞酵素を用いることもできるし、液胞酵素を精製せずに、上記3.に記載した液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌を培地に培養して得られる、液胞酵素を含む培養物または培養処理物を用いることもできる。培養処理物としては、培養物からろ過や遠心分離等により菌体を除去して得られる溶液、該溶液の濃縮物、乾燥物等があげられる。
糸状菌は、醸造工業で用いられるものであれば、いかなるものでもよいが、例えば、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリをあげることができる。
タンパク加水分解物の製造方法に用いる原料に含まれるタンパク質は、特に限定されないが、グルタミン酸含量の高いものが好ましい。例えば、小麦グルテン、コーンミールグルテン、脱脂大豆、分離大豆タンパク質等があげられ、小麦グルテン、コーンミールグルテン等が好ましく用いられる。
また、タンパク質を含む原料は特に限定されないが、タンパク質含量が高いものが好ましい。
反応終了後、固液分離により未反応の原料タンパク質、菌体などを除去後、必要に応じて濃縮、乾燥することによりタンパク加水分解物を得ることができる。
得られたタンパク加水分解物はそのままでも調味料として用いることもできるが、アミノ酸、核酸、エキス類、酸味料、甘味料等と混合し、味、風味を調整することにより、うまみが強く風味の良好な調味料をつくることができる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
第1図 サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子がコードするアミノ酸配列とノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子がコードするアミノ酸配列の比較である。上段、下段の配列はそれぞれサッカロミセス・セレビシエ、ノイロスポラ・クラッサのアミノ酸配列を示している。また、両配列で一致するアミノ酸を中段に示す。数字は各ポリペプチドN末端からのアミノ酸残基の位置を示す。下線は縮重プライマーに対応するアミノ酸配列を示す。
第2図 Aovps5遺伝子の破壊に用いる形質転換用DNAの構造を示す。
第3図 CT6118株、CT9103株およびCT96株のゲノム中の破壊Aovps5遺伝子のPCRによる検出を示す。レーン1〜3はそれぞれ、Aovps5変異株であるCT6118株、CT9103株およびCT96株のゲノムDNAを、レーン4はAovps5遺伝子破壊用プラスミドpDV51を、レーン5は野生株(RIB40株)のゲノムDNAをテンプレートとしたときのPCR産物を示す。
第4図 Aovps5遺伝子破壊株の培養液を用いて製造したタンパク加水分解物の窒素可溶化率(ろ液の総窒素÷原料に含まれる総窒素×100)を示す。左から親株(NS4株)、Aovps5遺伝子破壊株(それぞれ左からCT6118株、CT9103株、CT96株)の各培養液を用いて製造したタンパク加水分解物の、湿菌体重量(g)あたりの窒素可溶化率(%)を示す。
第5図 Aovps5遺伝子破壊株の培養液を用いて製造したタンパク加水分解物の遊離アミノ酸の濃度(mmol/l)を示す。左から親株(NS4株)、Aovps5遺伝子破壊株(それぞれ左からCT6118株、CT9103株、CT96株)の各培養液を用いて製造したタンパク加水分解物の、湿菌体重量(g)あたりの遊離アミノ酸の濃度(mmol/l)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
実施例1 アスペルギルス・オリゼのAovps5のゲノムDNAのクローニング
(1)ゲノムDNAの調製
アスペルギルス・オリゼRIB 40株(ATCC番号:42144)の菌体から、五味らの方法〔J.Gen.Appl.Microbiol.,35,225(1989)〕に従い、以下に示すようにゲノムDNAを調製した。
150mlのDPY培地(2%デキストリン、2%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%リン酸一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物)にアスペルギルス・オリゼRIB 40株を植菌し、30℃で20時間振とう培養後、ブフナー漏斗で集菌し、液体窒素存在下で乳鉢で粉砕した。これを10mlのプロテアーゼ溶液(50mmol/l EDTA(pH8.0),0.5%SDS,0.1mg/mlプロテイナーゼK)に懸濁し、50℃で4時間インキュベートした。この溶液を、フェノール処理2回、フェノール/クロロホルム処理2回、クロロホルム処理1回を順次行った。なお、これら有機溶媒による処理は、溶液と有機溶媒を穏やかに混合し、上清を分取することにより行った。次に溶液に1/10容量の3mol/l酢酸ナトリウム(pH5.2)溶液と2.5倍量の99.5%エタノールを加え、−20℃で20分間静置し、遠心分離により沈殿を回収した。沈殿は70%エタノールでリンスした後、5mlのTE緩衝液に溶解した。この溶液に10μlの10mg/mlリボヌクレアーゼAを添加し37℃、30分間インキュベート後、フェノール/クロロホルム処理を行った。回収した上清に1/10容量の3mol/l酢酸ナトリウム(pH5.2)溶液と2.5倍量の99.5%エタノールを加え、−20℃で20分間静置し、遠心分離により沈殿を回収した。沈殿は70%エタノールでリンスした後、1mlのTE緩衝液に溶解し、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNA溶液とした。
(2)糸状菌のVPS5相同遺伝子の検索
まず、サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子の塩基配列を公共データベースGenBankから取得した(登録番号:U73512)。取得したサッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子のコード領域の配列(配列番号4)を問い合わせ配列(クエリー)として各種糸状菌データベースを検索した。その結果、ホワイトヘッド生物医学研究所ゲノム研究センターのウェブサイト内のノイロスポラ・クラッサのゲノムデータベース(http://www−genome.wi.mit.edu/annotation/fungi/neurospora/)から、サッカロミセス・セレビシエのVPS5遺伝子と高い相同性(E−value=3E−54)を有する遺伝子配列(配列番号:NCU04137.1)を見出した。該塩基配列を配列番号5に記載した。サッカロミセス・セレビシエVPS5遺伝子と該遺伝子と相同性の高いノイロスポラ・クラッサの遺伝子がコードするアミノ酸配列との比較を第1図に示した。
(3)プローブの作製
第1図から比較的保存性が高く、機能的に保存されている可能性が高いと予想される領域から、縮重プライマーV5P−FおよびV5P−Rを設計した。該プライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号6および配列番号7に示す。
配列番号6および7の塩基配列は、ノイロスポラ・クラッサのVPS5相同遺伝子がコードするアミノ酸配列の181〜189番目の配列(Val Gly Asp Pro His Lys Val Gly Asp)、267〜274番目の配列(Pro Pro Glu Lys Gln Ala Val Gly)にそれぞれ対応する。
PCRは上記オリゴヌクレオチドをプライマー、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAをテンプレートとして、GeneAmp PCR System 2400(パーキン・エルマー社製)により以下の条件で行った。まず94℃で5分間加熱しテンプレートのDNAを変性させた後、1サイクル94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で30秒の反応を30サイクル行った。反応液を2%アガロースゲルで電気泳動した結果、約250bpのDNA断片を検出した。
(4)プローブの塩基配列決定
ジゴキシゲニン(以下、DIGと略す)−dUTP(ロシュ・ダイアグノスティック社製)存在下でPCRを行う以外は、(3)に記載の条件で取得したPCR産物を切り出し、ジーンクリーン・キット(GENECLEAN Kit、Qバイオジーン社製)により精製した。精製したPCR産物はTAクローニングにより、pT7Blue(R)(ノバジェン社製)のTクローニング部位に導入し、プラスミドpV5PRを取得した。DSQ2000L DNAシークエンサー(島津製作所社製)により、得られたプラスミドの挿入断片の塩基配列を決定した。その結果を配列番号8に示す。
(5)アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAライブラリーのスクリーニング
(1)で取得したアスペルギルス・オリゼのゲノムDNAをBamHIで切断し、ラムダファージベクターλDASH II(ストラタジーン社製)のBamHI部位に挿入した。これをインビトロパッケージングし、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAライブラリーとした。このライブラリーを用い、大腸菌P2392を宿主とし常法に従いプラークを形成させた。プラークはHybond−N+(アマシャム・バイオサイエンシズ社製)にブロッティングし、変性溶液(1.5mol/l塩化ナトリウム、0.5mol/l水酸化ナトリウム)上で5分間静置後、中和液(1.5mol/l塩化ナトリウム、0.5mol/lトリス−塩酸(pH8.0))上で静置し、2×SSC(0.3mol/l塩化ナトリウム、70mmol/lクエン酸ナトリウム)に5分間浸し、風乾した。次にメンブレンを、緩衝液(5×SSC、50%ホルムアミド、0.1%N−ラウロイルサルコシン、0.2%SDS,1%ブロッキング・リージェント(ロシュ社製))中で42℃、1時間インキュベートした後、(4)で作製したDIG標識プローブを0.1%(v/v)添加した上記緩衝液中で、メンブレンを42℃、6時間インキュベートした。上記メンブレンを、2×SSC、0.1%SDSで5分間、0.1×SSC、0.1%SDSで15分間、順次洗浄した後、マレイン酸バッファー(0.1mol/lマレイン酸、0.15mol/l塩化ナトリウム)でリンスした。発色は、DIGハイプライムDNAラベリング/検出キットI(DIG High Prime DNA Labeling&Detection Starter KitI、ロシュ社製)を用いて、添付の説明書に従い行った。その結果、約5000個のプラークからポジティブクローンを1個取得した。
(6)アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のゲノムDNAの塩基配列決定
上記(5)で得られたポジティブクローンからλファージDNAを常法に従い精製し、SalIで切断後、約3.2kbpのSalI断片をpBluescript SK II(+)(ストラタジーン社製)のSalI部位に挿入し、プラスミドpVPS5Sを取得した。DSQ2000L DNAシークエンサー(島津製作所社製)により、アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子の塩基配列を決定した。結果を配列番号2に示す。
実施例2 アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のcDNAのクローニング
(1)アスペルギルス・オリゼRIB 40株のcDNAの調製
アスペルギルス・オリゼRIB 40株をDPY培地60mlに接種し300mlのバッフル付きの三角フラスコで、30℃、2日間、150rpmで振とう培養した。培養物をろ過し得られた湿菌体1gを、液体窒素存在下で、乳鉢で微細な粉末とした。
該菌体破砕物から、アールエヌイージー・ミディ・キット(RNeasy Midi Kit、キアゲン社製)を用いて全RNAを取得した。
取得した全RNAからオリゴテックス・dT30スーパー・mRNA精製キット(OligotexTM−dT30〈Super〉mRNA Purification Kit、宝酒造社製)を用い、添付の説明書に従い、0.6μg/mlのmRNA溶液を100μl取得した。この溶液に10μlの3mol/l酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)と250μlの99.5%エタノールを添加し、激しく攪拌後、−20℃で2時間静置した。12000rpmで20分間遠心分離後、沈殿を200μlの70%エタノールで洗った後、6μlのジエチルピロカーボネート処理水に溶解した。
回収したmRNAは、ゲートウェイ技術を用いたcDNA合成およびクローニング用スーパースクリプト・プラスミド・システム(SUPERSCRIPT Plasmid System with GATEWAYTM Technology for cDNA Synthesis and Cloning、インビトロジェン社製)を用いて第1鎖cDNAおよび第2鎖cDNAの合成を行ないPCRのテンプレートに供した。
(2)アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のcDNAのPCRによる取得
テンプレート配列番号2に示す塩基配列から設計したそれぞれ配列番号9および配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(プライマーVPS5FおよびVPS5R)を合成した。PCRは、上記のテンプレートcDNA、プライマーを用いて、Geneamp PCR system 2400(パーキンエルマー社製)により行った。反応は、94℃で5分間加熱しテンプレートのDNAを変性させた後、94℃で30秒、56℃で30秒、72℃で2分の反応を30サイクルの条件下で行った。
PCR産物を0.8%アガロースゲルで分離した結果、約1.5kbpのDNA断片を検出した。これを切り出し、ジーンクリーン・キット(GENECLEAN Kit、Qバイオジーン社製)により精製した。
(3)アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のcDNAの塩基配列決定
精製したDNA断片はTAクローニングにより、pT7Blue(R)(ノバジェン社製)のTクローニング部位に導入し、プラスミドpVPS5を取得した。DSQ2000L DNAsequencer(島津製作所社製)により、アスペルギルス・オリゼのAovps5遺伝子のcDNAの塩基配列を決定した。結果を配列番号3に示す。
実施例3 Aovps5遺伝子破壊株の作製
本発明のポリペプチドのコード領域中にマーカー遺伝子を挿入してAovps5遺伝子本来の機能を破壊したAovps5遺伝子(以下、破壊Aovps5遺伝子ともいう)を用い、相同組換えにより、アスペルギルス・オリゼのゲノム上のAovps5遺伝子が破壊された、Aovps5遺伝子破壊株を作製した。以下に方法を記す。
プラスミドpUNA〔Biosci.Biotechnol.Biochem,61,1367(1997)〕のアスペルギルス・ニドランスのsC遺伝子を含むKpnI/PstI断片を切り出し、pBluescript II SK(+)(ストラタジーン社製)のKpnI/PstIサイトに挿入し、プラスミドpIADを取得した。sC遺伝子を含む、pIADのBamHI/BamHI断片を、pVPS5SのAovps5ゲノム遺伝子のコード領域内に存在するBglIIサイトに挿入し、破壊Aovps5遺伝子を有するプラスミドpDV51を作製した。
形質転換用DNAは、pDV51をSalIで切断後、0.8%アガロースゲルで分離し、3.5kbpの断片をジーンクリーン・キットにより精製した。形質転換用DNAの構造を第2図に示す。
sC遺伝子欠損株であるアスペルギルス・オリゼNS4株(独立行政法人酒類総合研究所 RIB No.NS4)を150mlのDPY培地に植菌し、30℃で20時間振とう培養した後、ろ過により菌体を回収し滅菌水で洗浄した。回収した菌体を10mlの酵素反応液〔0.6mol/l硫酸アンモニウム、50mmol/lマレイン酸緩衝液(pH5.5)、1%ヤタラーゼ(宝酒造社製)〕に懸濁し30℃で3時間ゆるやかに振とうした。反応液はミラクロス〔カルビオケム(CALBIOCHEM)社製〕を用いてろ過し、プロトプラストを回収した。プロトプラスト溶液に等量の緩衝液A〔1.2mol/lソルビトール、50mmol/l塩化カルシウム、35mmol/l塩化ナトリウム、10mmol/lトリス−塩酸(pH7.5)〕を加え、沈殿を緩やかに分散した後、2000rpm、8分間遠心分離し沈殿を回収した。上記洗浄工程を2回行なった後、1×10〜1×10個/mlになるように上記緩衝液を加え懸濁し、プロトプラスト懸濁液とした。
200μlのプロトプラスト懸濁液と5μgの形質転換用DNAを混合し、氷上で30分間静置した。次に、緩衝液B〔60%ポリエチレングリコール4000、50mmol/l塩化カルシウム、10mmol/lトリス−塩酸(pH7.5)〕を250μl加え穏やかに混合した後、緩衝液Bを250μl加え穏かに混合し、さらに緩衝液Bを850μl加え穏やかに混合した。これを20分間、室温で静置してDNAを菌体内に導入した。
次に10mlの緩衝液Aを加え穏やかに混合後、2000rpmで8分間遠心分離し、プロトプラスト懸濁液を回収した。プロトプラストに500μlの緩衝液Bを加え穏やかに混合後、あらかじめ45℃に保温しておいた5mlのトップアガー(1.2mol/lソルビトール、0.8%アガロース、0.2%塩化アンモニウム、0.1%硫酸アンモニウム、0.05%塩化カリウム、0.05%塩化ナトリウム、0.1%リン酸二水素一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、0.002%硫酸鉄7水和物、2%グルコース、pH5.5)をプロトプラスト懸濁液に加えて、選択培地(1.2mol/lソルビトール、0.2%塩化アンモニウム、0.1%硫酸アンモニウム、0.05%塩化カリウム、0.05%塩化ナトリウム、0.1%リン酸二水素一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、0.002%硫酸鉄7水和物、2%グルコース、1.5%寒天、pH5.5)に重層した。
sC遺伝子が欠損した株は、硫酸化合物を唯一の硫黄源とする培地上では生育できないので、該選択培地を用いて、sC遺伝子が挿入された破壊Aovps5遺伝子を含むDNAが導入された形質転換体を選択することができる。30℃で7日間培養し、約100株の形質転換体を取得した。取得された形質転換体は上記選択培地上で3回継代培養を行った。
得られた形質転換体から、Aovps5遺伝子の遺伝子座で破壊Aovps5遺伝子の相同組換えが生じた株は、実施例1の(1)記載の方法によりそれぞれの形質転換体から取得されたゲノムDNAをテンプレートとし、cDNAのクローニングに使用した配列番号9および配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行うことにより検出することができる。PCRは、プログラム・テンプ・コントロール・システム(Program Temp Control System)PC−700(アステック社製)により行った。反応は94℃で3分間加熱しテンプレートのDNAを変性させた後、94℃で1分30秒、56℃で1分15秒、72℃で4分の反応を30サイクルの条件下で行った。PCR産物を0.8%アガロースゲルで電気泳動し、野生型のAovps5遺伝子(約1.6kbp)は、検出されず、破壊Aovps5遺伝子(約5kbp)が検出された形質転換体を、Aovps5遺伝子破壊株として選択した。図3に、このようにして選択された形質転換体CT6118株、CT9103株、CT96株のゲノムDNAをテンプレートとして上記の条件下でPCRを行ったときの、PCR産物の電気泳動の結果を示す。
なお、これらのAovps5遺伝子破壊株では、分生子の形成がみられなかった。また、寒天培地(0.2%塩化アンモニウム、0.1%硫酸アンモニウム、0.05%塩化カリウム、0.05%塩化ナトリウム、0.1%リン酸二水素一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、0.002%硫酸鉄7水和物、2%グルコース、1.5%寒天、pH5.5)にこれらのAovps5遺伝子破壊株の菌糸を植え、シャーレ本体と蓋を、密閉状態にならないようにパラフィルムで巻いて固定し、30℃で5日以上培養した結果、コロニー周辺の寒天培地が乳白色から赤褐色に変化した。したがって、Aovps5遺伝子破壊株は、上記培養条件下で赤褐色の色素を分泌すると予想される。
実施例4 培地中に分泌された液胞酵素の活性測定
アスペルギルス・オリゼの親株(NS4株)、およびAovps5遺伝子破壊株3株(CT6118株、CT9103株およびCT96株)をそれぞれDPY培地60mlに接種し300mlのバッフル付きの三角フラスコで、30℃、2日間、180rpmで振とう培養した。
培養液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し菌体を除去した後、該ろ液の435μlに2415μlの50mmol/l酢酸バッファーを加え、2.85mlの酵素溶液とした。これを30℃で5分間インキュベートした後、基質溶液〔8mmol/lアラニン−アラニン−フェニルアラニン−パラニトロアニリドを含む50mmol/l酢酸バッファー(pH4.5)〕を150μl混合し基質の分解を開始した。30℃で10分間反応させ、経時的にサンプリングを行い、分光光度計により384nmの吸光度を測定した。パラニトロアニリンのモル吸光係数(10300)より、反応時間1分あたりのパラニトロアニリンの遊離量を計算し、30℃で1分間に1μモルのパラニトロアニリンを遊離する活性を1単位とした。該培養液のトリペプチジルペプチダーゼ活性を測定し、活性値を算出した結果を第1表に示す。

この結果から示されるとおり、Aovps5遺伝子破壊株では培地中に液胞酵素であるトリペプチジルペプチダーゼが効率よく分泌される。
実施例5 Aovps5遺伝子破壊株が生産する酵素によるタンパク加水分解物の調製
親株(NS4株)及びAovps5遺伝子破壊株3株(CT6118株、CT9103株およびCT96株)を、それぞれDPY培地60mに植菌し300mlのバッフル付き三角フラスコで、30℃、、2日間、180rpmで振とう培養した。培養後、吸引ろ過により菌体と上清に分離した。菌体は湿菌体の状態でその重量を測定した。
121℃、15分間加圧滅菌した15%の小麦グルテン(プロミックGT、協和醗酵工業社製)分散液30mlに、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した上清30mlを加え、40℃、100rpmで48時間インキュベートし、タンパク加水分解物を調製した。タンパク質を分解した後、反応物を孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、100℃、10分間加熱処理を行ない、窒素可溶化率と遊離アミノ酸量を測定した。窒素可溶化率は、原料に含まれる総窒素に対するろ液の総窒素の割合とする。総窒素の測定は、NA2100(サーモフィニガン社製)により測定した。測定値(%)は湿菌体重量(g)で標準化し、3回の実験結果の平均値を算出した。結果を第4図に示す。遊離アミノ酸量の測定法はオルトフタルジアルデヒド(OPA)法〔Food Chem.,62,363(1998)〕に従った。測定した遊離アミノ酸量(mmol/l)は湿菌体重量(g)で標準化し、3回の実験結果の平均値を算出した(図5)。その結果、親株と比較しAovps5遺伝子破壊株の培養液を用いて製造したタンパク加水分解物では、湿菌体重量(g)あたりの窒素可溶化率および遊離アミノ酸量が有意に増加していることを見出した。したがって、Aovps5遺伝子の破壊株の培養液を用いることにより、従来より加水分解率の高いタンパク加水分解物を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、Aovps5遺伝子、該遺伝子がコードするポリペプチド、該遺伝子の機能を抑制させた糸状菌、および該糸状菌を用いてタンパク加水分解率が顕著に上昇したタンパク加水分解物の作製方法が提供される。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1−発明者:徳永税、斎藤知明
発明者:北本勝ひこ
配列番号6−縮重プライマーV5P−F
配列番号7−縮重プライマーV5P−R
配列番号9−PCRプライマーVPS5F
配列番号10−PCRプライマーVPS5R
【配列表】




















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項5】
配列番号2または3の塩基配列を含むDNA。
【請求項6】
配列番号2または3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のDNAをベクターに組み込んで得られる組換えベクター。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体を培地に培養し、培養物中に請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドを生成蓄積させ、該培養物から、該ポリペプチドを採取することを特徴とする該ポリペプチドの製造方法。
【請求項10】
配列番号2または3の塩基配列の連続する20塩基以上の配列と相補的な配列を有するポリヌクレオチドを用いて、請求項4〜6のいずれか1項に記載のDNAまたは請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするmRNAを検出する方法。
【請求項11】
配列番号2または3の塩基配列の連続する15塩基以上の配列を有するDNAおよび配列番号2または3の塩基配列の連続する15塩基以上の配列と相補的な配列を有するDNAを用いて、請求項4〜6のいずれか1項に記載のDNAまたは請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするmRNAを検出する方法。
【請求項12】
液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドの機能を抑制させることを特徴とする、液胞酵素を細胞外に分泌する糸状菌の作製方法。
【請求項13】
糸状菌のゲノム中の、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を遺伝子破壊することにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のアンチセンスmRNAを転写させることにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる請求項12に記載の方法。
【請求項15】
糸状菌のゲノム中の、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のプロモーター領域に変異を導入することにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる請求項12に記載の方法。
【請求項16】
液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドのドミナントネガティブ変異体を発現させることにより、該ポリペプチドの機能を抑制させる請求項12に記載の方法。
【請求項17】
液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドが請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドである、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
糸状菌を、ゲノムに突然変異を誘発させた後に培養し、培地に赤褐色の色素を分泌する菌株を選択することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能が抑制された糸状菌の取得方法。
【請求項19】
糸状菌を、ゲノムに突然変異を誘発させた後に重金属を含む培地に培養し、重金属に対する耐性を有する菌株を選択することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの機能が抑制された糸状菌の取得方法。
【請求項20】
糸状菌がアスペルギルス属に属する糸状菌である請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
アスペルギルス属に属する糸状菌がアスペルギルス・オリゼである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のDNAのコード領域内に1つ以上のDNAを挿入または欠失することにより、液胞酵素を細胞内に局在させる活性を有するポリペプチドをコードしなくなったDNA。
【請求項23】
請求項22に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項24】
請求項17〜21のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌。
【請求項25】
糸状菌がアスペルギルス属に属する糸状菌である請求項24に記載の糸状菌。
【請求項26】
アスペルギルス属に属する糸状菌がアスペルギルス・オリゼである請求項25に記載の糸状菌。
【請求項27】
請求項12〜21のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌を培地に培養し、培地中に液胞酵素を生成蓄積させ、該培地から液胞酵素を採取することを特徴とする液胞酵素の製造方法。
【請求項28】
培地が固体培地である請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
培地が液体培地である請求項27に記載の製造方法。
【請求項30】
液胞酵素がトリペプチジルペプチダーゼである請求項27〜29のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項31】
請求項27〜30のいずれか1項に記載の方法により製造された液胞酵素、または請求項12〜21のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌を培養して得られる液胞酵素を含む培養物または培養処理物を、基質となるタンパク質に作用させることを特徴とするタンパク加水分解物の製造方法。
【請求項32】
請求項12〜21のいずれか1項に記載の方法で得られる糸状菌を、基質となるタンパク質を含む培地に培養することを特徴とするタンパク加水分解物の製造方法。
【請求項33】
請求項31または32に記載の方法で製造されたタンパク加水分解物。
【請求項34】
請求項33に記載のタンパク加水分解物を含有することを特徴とする調味料。

【国際公開番号】WO2004/090137
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505251(P2005−505251)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004789
【国際出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】