説明

新規配糖体、その製造方法及び組成物

【課題】 本発明の課題は、抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有する新規化合物、その製造方法、及び該化合物を有効成分とする化粧組成物、食品組成物又は医薬組成物を提供することである。
【解決手段】 下記式3:
【化6】


で表される新規な化合物である
4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraolによる。該化合物は、苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化活性を有する新規配糖体、その製造方法、並びに該配糖体を有効成分とする化粧組成物、食品組成物又は医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
WEREQUE(別称:コヨーテメロン、バッファローウリ)は、ウリ科(Curcurbitaceae)に属する、メキシコ産の苦芋(正式名称:Ibervillea Greene)であり、糖尿病、リウマチ、膵臓洗浄に効能があることが知られている(参照:http://www.torsades.org/medical-pros/herbs/plantDetail.cfm?plantID=46)。
【0003】
特開平7-118138号公開公報(特許文献1)は、バッファローウリ由来の抽出物による美白化粧料を開示している。しかし、該文献では、該抽出物はチロシナーゼ阻害活性を有し、さらには有効成分となる具体的化合物が開示されていない。
【0004】
また、特開平8-127511号公開公報(特許文献2)、特開2004-359732号公開公報(特許文献3)、特開2005-82561号公開公報(特許文献4)は、抗酸化活性を有する植物由来の抽出物を開示している。しかし、これらの抽出物は、脂溶性であったり、チロシナーゼ阻害活性を有するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平7-118138号公開公報
【特許文献2】特開平8-127511号公開公報
【特許文献3】特開2004-359732号公開公報
【特許文献4】特開2005-82561号公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、強い抗酸化活性を持つ物質は、共通して親水性に劣るために、油脂やエタノールと混合することによって扱われる。上記抽出物のように脂溶性が高い物質は、生体膜透過性に優れ、膜間の出入りに関与すると考えられるが、細胞内部の水溶性の原形質における生理作用には影響が乏しいことになり、結果として生体内への吸収効率が低い問題があった。さらに、従来、抗酸化活性とチロシナーゼ阻害活性は同一作用と考えられていた。すなわち、美白作用と酵素活性阻害作用が同一目的となっているが、これらの作用は細胞に対する紫外線障害に多くの問題をもたらすと警鐘されている。
すなわち、従来の抗酸化活性及びチロシナーゼ阻害活性を有する化合物ではなく、抗酸化活性は有するが、紫外線によるメラニン色素生成の作用を阻害しないすなわち非チロシナーゼ阻害活性を有する化合物の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、天然物由来の安全性の高い苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出により新規な配糖体の単離精製に成功し、更に該配糖体が抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有することを見出し、これらの知見をもとに本発明を完成に至った。
【0008】
本発明は、即ち以下よりなる。
「1.下記式1:
【化3】

(式中、Xは、以下のいずれか1から選択され、
【化4】

Yは、ラムノース又はフコースの糖残基である。)
で表される配糖体、その塩、又はそれらの溶媒和物。
2.4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraolである前項1の配糖体、その塩、又はそれらの溶媒和物。
3.苦芋(Ibervillea Greene)の実の乾燥物を有機溶媒に浸漬して得られる抽出物。
4.前項2に記載の化合物又は前項3に記載の抽出物を有効成分として含む化粧用組成物。
5.前項2に記載の化合物又は前項3に記載の抽出物を有効成分として含む食品組成物。
6.前項2に記載の化合物又は前項3に記載の抽出物を有効成分として含む医薬組成物。
7.抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有することを特徴とする前項4−6のいずれか1に記載の組成物。
8.苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出することを特徴とする4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraolの製造方法。」
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規な配糖体は、抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有し、化粧組成物、食品組成物又は医薬組成物に有用である。また、前記配糖体を苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出して得ることにより、前記配糖体を効率的・安定的に大量に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳述する。
本発明で特に断らない限り、本発明でいう化合物は、配糖体、その塩、又はそれらの溶媒和物を意味する。また、塩としてはヒドロキシル基等の酸性基における塩が例示され、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、含窒素有機塩基との塩を挙げることができる。好ましい塩としては、薬理学的に許容される塩が挙げられる。溶媒和物には、配糖体が水その他有機溶媒と形成しうる全ての溶媒和物が含まれる。
【0011】
本発明の新規な配糖体は、苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体部位である実、葉、根等から溶媒抽出することができ、好ましくは実から抽出することができる。
【0012】
下記式3に記載した本発明の新規な配糖体を、苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出する方法について説明する。
苦芋(Ibervillea Greene)の実を乾燥し、粉末状にする。粉末状実乾燥物を、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなど)、アセトン、酢酸エチル、エーテル、クロロホルム、又はクロロホルム−メタノール等に、例えば、室温で半日から3日浸漬する。得られた抽出液を濾過して、固体部分を取り除き、濾液を濃縮・乾固し、抽出物試料を得る。
該抽出物試料を通常の分離に用いられるシリカゲルクロマトグラフィーや分取薄層クロマトグラフィー、更には液体クロマトグラフィー等を組合せて精製することにより、式3に示した本発明の新規な配糖体を単離精製することができる。
【0013】
上記液体クロマトグラフィーにて回収したフラクションに含まれる未知化合物の分子量測定のMS/MSデーターを図1に示す。さらに、構造解析のために、該化合物のアセチル化を行い、OH基をAc基に変えた。アセチル化後の分子量測定のMSスペクトルを図2に示す。
図1のアセチル化前のスペクトルm/z 365([M+Na])+)と、図2のアセチル化前のスペクトルm/z 637([M+H])+)とを比較すると、差は294である。一つのOH基がアセチル化され、Ac基に変わると分子量が42増加するので、該化合物のOH基は7個存在している。
【0014】
アセチル化後の該化合物の1H NMRを測定した。測定した結果を図3に示す。
【0015】
これらの結果より、本発明の新規な配糖体を以下式3の構造であると決定した。
なお、IUPAC命名法によれば、4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraolとなる。
【0016】
【化5】

【0017】
このようにして得られた本発明の新規な配糖体は、抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有することを特徴とする。さらに、式3の構造を有する配糖体であることにより、脂溶性かつ水溶性の両性を持つと考えられ、生体内への吸収に優れている。また、天然物由来の苦芋を原料とするので、安全性が高い。
【0018】
なお、本発明の化合物は、一般式で記載すると以下の式1のように定義できる。
【化6】

で表される配糖体、その塩、又はそれらの溶媒和物。
ここで、本発明でいうXは、インデン、インダン又はそれらのヒドロキシ誘導体を意味し、下記で示されるいずれか1から選択されるものである。
【化7】

また、本発明でいう糖残基であるYは、例えばグルコース、フコース、ガラクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、リボース、アラビノース、キシロース、ラムノース等の単糖類の残基であるものが挙げられる。この中でも特にラムノース又はフコースが好ましい。なお、配糖体 にはα、β型の2種類の異性体(アノマー)が存在するが、本発明においてはそのどちらでも、あるいは両者の混合体でも良い。
加えて、本発明では、上記化合物をケト誘導体、エーテル誘導体、エステル誘導体又はこれらの組み合わせとすることができる。当業者はこれらの誘導体を通常の知識を持って誘導することができる。
【0019】
なお、本発明での好ましい化合物は、下記式3で表される4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraol、その塩、又はそれらの溶媒和物である。しかしながら、下記式3の構造に限定されることなく、当業者が下記式3の構造を適宜置換して得られる化合物も本発明の範囲に含まれる。
【0020】
【化8】

【0021】
また、本発明の化粧組成物、食品組成物又は医薬組成物は、上記精製された式1又は式3の化合物だけでなく、苦芋(Ibervillea Greene)からの部分精製品である抽出物を有効成分として含んでいてもよい。但し、該抽出物は、抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有している。
本明細書中において部分精製品とは、苦芋(Ibervillea Greene)の乾燥物等から、例えば有機溶媒や熱水等で抽出した抽出エキス、及び抽出エキスを完全精製に至るまでの任意の純度まで精製したものをいう。部分精製品は、任意の純度の前記配糖体を含有する。部分精製品の形態としては、水性液や、減圧濃縮し乾固させた固体、凍結乾燥品などの液状物や固形物の形態を挙げることができる。
【0022】
本発明の対象には、上記式1若しくは式3の化合物又は上記抽出物を有効成分として含む化粧用組成物が含まれる。
本発明の化粧用組成物は、クリーム、乳液、ローション、洗顔料、口紅、ファンデーション、ボディソープ、石鹸等に適用することができる。化粧用組成物の配合量は、美白効果、保湿効果、抗酸化作用等により、当業者が適宜決定することができる。例えば、上記化合物又は上記抽出物を有効成分として、0.01〜5.00%配合することにより美白効果等を有する化粧用組成物とすることができる。
また、以下に化粧用組成物の配合例を示すが、本発明の化粧用組成物の配合割合を限定するものではない。
【0023】
(重量%)
本発明の新規な化合物又は抽出物 0.1〜5.0
グリセリン 5.0
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート 1.5
エタノール 10.0
香料 適量
防腐剤、酸化防止剤 適量
色素 適量
水 残部
【0024】
また、本発明の対象には、上記式1若しくは式3の化合物又は上記抽出物を有効成分として含む食品組成物が含まれる。
本発明の食品組成物は、上記式1若しくは式3の化合物又は上記抽出物を、例えば、ジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、豆腐、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、フリカケ、育児用粉乳、ケーキ、パン、クッキー、スナック菓子等に含有させることもできる(このようにして得られた組成物も、本発明における「食品組成物」に含まれるものとする)。あるいは、上記化合物又は上記抽出物を、デキストリン、乳糖、デンプン等の賦形剤などや、香料、色素等とともに、ペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、ゼラチン等で被覆してカプセルに加工して、健康食品や栄養補助食品等として利用してもよい。
【0025】
食品組成物における上記式1若しくは式3の化合物又は上記抽出物は、食品や組成物の種類や状態により一律に規定しがたいが、通常、0.001〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。配合量が0.001重量%未満では経口摂取による効果が期待できないおそれがあり、10重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり、当該食品を調製できなくなるおそれがある。
【0026】
また、本発明の対象には、上記式1若しくは式3の化合物又は上記抽出物を有効成分として含む医薬組成物が含まれる。
本発明の医薬組成物は、通常「医薬として許容できる担体」を含む。「医薬として許容できる担体」としては、例えば、添加剤、賦形剤(例えば、デンプン、ブドウ糖、果糖、ソルビトール、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、乳糖、ショ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、デキストリン)、結合剤(例えば、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、カルボシキメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、デンプン、ショ糖)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、滑沢剤(例えば、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ケイ酸マグネシウム、タルク)、希釈剤(例えば、水、食塩水、大豆油、ゴマ油、オリーブ油のような植物油)、軟膏基材(例えば、パラフィン、ラノリン、白色ワセリン)、矯味剤(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルのようなパラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸ナトリウム)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ブドウ糖、マンニトール)などの、当業者公知の種々のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
さらに、本発明における医薬組成物は、上述した「医薬上許容される担体」に加えて適宜の香料、色素等をともに用いて、ペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、ゼラチン等で被覆してカプセルに加工して利用することもできる。医薬組成物の形態として、当業者公知の種々の形態の医薬製剤、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤及びトローチ剤等の経口剤、並びに注射剤、点眼剤、エアゾール剤、経皮吸収剤及び坐剤等の非経口剤が挙げられる。注射剤の場合は、安定性の点から、バイアル等に充填後、冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、経口の場合、通常、成人1日当たり、本発明の新規な化合物として1〜1,000mgを1回から数回に分けて服用するのが適当である。非経口の場合、通常、成人1日当たり、前記化合物0.5〜500mgを1回から数回に分けて静注、皮下注射、筋肉注射するのが好ましい。
【0029】
本発明の新規な化合物は、また、天然物由来の苦芋を原料とするので、安全性が高い。したがってこのような化合物を用いた本発明の医薬組成物は、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ等の哺乳類に対し安全に投与することができる。
【0030】
以下、本発明を更に詳細に説明するために実施例を記載するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
本発明の新規な配糖体の抽出・精製及び構造解析
(1)本発明の新規な配糖体の抽出・精製
苦芋(Ibervillea Greene)の実を乾燥し、得られた乾燥実を粉末状に粉砕した。粉末状実乾燥物とメタノール100mlを100ml三角フラスコ中に入れ、一昼夜攪拌した。その後、得た抽出液を濾過して、固体部分を取り除き、濾液を濃縮・乾固し、抽出試料を得た。
該抽出試料300mgを展開溶媒(メタノール70%+水30%)10mlに溶解させ、シリンジを用いてカラム(Merck社製:ローバーカラムRP-18、内径:25mm、長さ:310mm)の下から注入(2ml/回)し、ポンプ(日本分光880-PU)から展開溶媒を流し(流速:5ml/min)、液体クロマトグラフィーにて粗く分離を行った。
次に、回収したフラクションは、HPLCに通して精製を行った。なお、HPLCの条件は、以下の通りである。
移動相:水80%+アセトニトリル20%
固定相:野村化学 Develosil ODS-HG-5、内径:8mm、長さ:250mm
Detector:波長 254nm
流量:10ml/分
【0032】
液体クロマトグラフィーにより回収したフラクションは12〜18分間で分離したものであった。その際に、回収するフラクションの目安としては、下記で説明するDPPH法を用い、DPPHのラジカルが捕捉されるフラクション(紫色が消失するフラクションを、目視で確認した)を回収した。回収したフラクションのHPLCのチャートを図4に示す。また、液体クロマトグラフィーにて回収したフラクションに含まれる化合物の分子量測定したMS/MSデーターを図1に示す。
【0033】
(2)本発明の新規な配糖体の構造解析
上記(1)で精製した試料5.0mgを試験管に入れ、ピリジン0.5ml及び無水酢酸0.5mlを加えて溶解させた。次に、60℃、20分間インキュベートした。インキュベート後に、5%メタノール溶液5mlを混和した。そして、n-ヘキサン3.0mlで3回抽出して、アセチル化した。そして、アセチル化した試料を1H NMR測定及び分子量測定をした。
【0034】
アセチル化後のMSスペクトルを図2に示す。また、アセチル化後の1H NMRを測定した結果を図3に示す。
【実施例2】
【0035】
本発明の新規な配糖体の抗酸化活性試験
(1)DPPH法を用いたラジカル捕捉能の測定
紫色の安定なフリーラジカルであるDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)ラジカルは、525nmに紫外部吸収を有し、抗酸化物質の作用によりラジカルでなくなると紫色が消失する。その性質を利用して抗酸化物質の抗酸化活性の評価を行った。
【0036】
試験管にサンプル溶液(本発明の新規な配糖体、没食子酸(Gallic acid)、麹酸(Kojic acid)、Vitamin C:1.0mg/ml)0.5mlを入れた。次に、リン酸緩衝溶液(0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5))2.0ml、エタノール1.5ml、DPPH溶液(DPPHをエタノールで溶解した(5.0×10-4))1.0mlを試験管に加えて、vortex mixerで攪拌した。室温で一時間放置した後に、525nmの吸光度を測定した。
controlの吸光度をAblankとして、サンプルを加えた際の吸光度をAsampleとして、フリーラジカル捕捉活性をそれらの相対値で示した(数式1)。なお、相対値が大きいほど、抗酸化活性が強いことを示す。
【0037】
【数1】

【0038】
DPPH法を用いたラジカル捕捉能の測定の結果を図5に示す。本発明の新規な配糖体の抗酸化活性は、既知の抗酸化物質の抗酸化活性と比較しても、十分な抗酸化活性を有している。よって、本発明の新規な配糖体は高いラジカル捕捉活性がある。
【0039】
(2)β-カロチン退色法による抗酸化活性の測定
本測定では、リノール酸の自動酸化に伴い生じるリノール酸過酸化物がβ-カロチンの二重結合と反応することによって、β-カロチンの色が消失することを利用して抗酸化活性の評価を行った。
【0040】
初めに、リノール酸-β-カロチン溶液を作製した。作製方法は、以下の通りである。100ml三角フラスコにリノール酸溶液(1.0gのリノール酸をクロロホルムに溶解して10mlとした)0.1ml、β-カロチン溶液(10mgのリノール酸をクロロホルムに溶解して10mlとした)0.25ml、ツイーン40溶液(2.0gのツイーン40をクロロホルムに溶解して10mlとした)0.5mlを入れた。このフラスコに窒素ガスを吹き込み、クロロホルムを完全に飛ばした後、蒸留水45mlを加えて溶解した。続いて、0.2Mリン酸緩衝液(0.2Mリン酸カリウム緩衝液(pH 6.8))を加えて、リノール酸-β-カロチン溶液を作製した。
試験管にサンプル溶液(本発明の新規な配糖体、Vitamin C:1.0mg/ml)0.1mlを入れた。次に、リノール酸-β-カロチン溶液4.9mlを試験管に加えた。50℃で一時間放置した後に、470nmの吸光度を測定した。
controlの初めの吸光度をAblankとして、サンプルを加え、反応をさせた後の吸光度をAsampleとして、抗酸化活性をそれらの相対値で示した(数式2)。なお、相対値が大きいほど、抗酸化活性が強いことを示す。
【0041】
【数2】

【0042】
β-カロチン退色法による抗酸化活性の測定の結果を図6に示す。本発明の新規な配糖体の抗酸化活性は、既知の抗酸化物質の抗酸化活性と比較しても、十分なリノール酸の酸化を阻害効果を有している。リノール酸の酸化によっては、様々な障害が発生する。よって、本発明の新規配糖体がリノール酸酸化の阻害活性を示したことにより、医薬品、健康食品等に利用することができる。
【0043】
(3)リポソーム系における共役ジエン形成の評価
生体内における活性酸素は生体脂質を酸化することによって動脈硬化などの疾病を引き起こすと考えられている。本測定では、大豆レシチンを酸化し過酸化脂質を形成させ、その時の抗酸化性物質の効果を評価した。脂質過酸化の指標である過酸化物価により定量されるhydro peroxide量は共役ジエン量に対応するとの報告により、共役ジエン生成量を234nmの吸光度で測定した。
【0044】
試験管にサンプル溶液(本発明の新規な配糖体、Vitamin C:1.0mg/ml)1.0mlを入れた。次に、2.0mM AAPH(2,2'-azobis(2-aminopropane)dihydrochloride)1.0ml、レシチン溶液(レシチンをリン酸緩衝液に溶解させ、氷水中で30分間超音波処理をした(1.0mg/ml))1.0mlを試験管に加えた。37℃で100分間放置した後に、230nmの吸光度を測定した。
共役ジエン濃度[M]はLambert-Beerの法則(数式3)を用いて算出した。なお、本測定では、共役ジエンの234nmにおける吸光係数としてε=29500、M-1cm-1、光路長l=1.0cmを用いた。
【0045】
【数3】

【0046】
リポソーム系における共役ジエン形成の評価の結果を図7に示す。本発明の新規な配糖体の抗酸化活性は、高い阻害活性を示している。図5で示したように、本発明の新規な配糖体には高いラジカル捕捉活性がある。つまり、AAPHラジカルを捕捉することができ、その結果としてレチシンの酸化を阻害したと考えられる。
【0047】
(4)スーパーオキシドアニオンラジカル捕捉活性の測定
本測定では、キサンチンとキサンチンオキシダーゼを混合させ、その時に発生するスーパーオキシドアニオンラジカル(O2-)の捕捉活性を、NBT(nitro blue tetrazolium)を指示薬として用いて、UVで測定した。
【0048】
試験管にサンプル溶液(本発明の新規な配糖体、没食子酸(Gallic acid)、ルチン(Rutin)、麹酸(Kojic acid):1.0mg/ml)0.5mlを入れた。次に、キサンチン溶液(キサンチンをEDTA-リン酸緩衝液に溶解させた(0.1mM))1.0ml、NBT溶液(NBTをEDTA-リン酸緩衝液に溶解させた(0.2mM))1.0mlを試験管に加えた。さらに、キサンチンオキシダーゼ溶液(キサンチンオキシダーゼをEDTA-リン酸緩衝液に溶解させた(0.5 unit/ml))0.1mlを加えた。次に、37℃で20分間放置した後に、2.5M塩酸2.0mlを加えて、反応を終了させた。そして、540nmの吸光度を測定した。
controlの吸光度をAblankとして、サンプルを加え、反応後の吸光度をAsampleとして、フリーラジカル捕捉活性をそれらの相対値で示した(数式4)。なお、相対値が小さいほど、抗酸化活性が強いことを示す。
【0049】
【数4】

【0050】
スーパーオキシドアニオンラジカル捕捉活性の測定結果を図8に示す。本発明の新規な配糖体は、高い捕捉活性を示している。また、スーパーオキシドアニオンラジカルは活性酸素の一種であり、このラジカルを捕捉できることは、生体酸化防止において、重要である。
【0051】
(5)チロシナーゼ阻害活性の測定
チロシナーゼはチロシンを酸化し、メラニン生成を律速する酵素である。通常の抗酸化活性を有する化合物は、合わせてチロシナーゼ阻害活性を有している。そこで、本発明の新規な配糖体がチロシナーゼ阻害活性を有しているかの測定を行った。
【0052】
試験管に2.5mMチロシン水溶液1.0ml、リン酸緩衝液(0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.8))1.8mlを入れ、25℃で20分間放置した。次に、サンプル溶液(本発明の新規な配糖体、Vitamin C:1.0mg/ml)0.1ml、キサンチンオキシダーゼ水溶液0.1mlを試験管に加えて、540nmの吸光度の経時変化を測定した。
【0053】
チロシナーゼ阻害活性の測定結果を図9に示す。ビタミンC(Vitamin C)は、初めドーパ形成を抑えている(阻害活性を示している)のに対し、本発明の新規な配糖体は、ドーパの形成を抑えていない。すなわち、本発明の新規な配糖体はチロシナーゼ阻害活性を有していない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明の新規な化合物は、抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有し、化粧組成物、食品組成物又は医薬組成物に有用である。また、前記化合物を苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出して得ることにより、前記化合物を効率的・安定的に大量に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の新規な配糖体のMS/MSデーター。
【図2】本発明の新規な配糖体のアセチル化後のMSデーター。
【図3】本発明の新規な配糖体の1H NMRのスペクトル。
【図4】回収したフラクションのHPLCのチャート。
【図5】DPPH法を用いたラジカル捕捉能の測定の結果
【図6】β-カロチン退色法による抗酸化活性の測定の結果
【図7】リポソーム系における共役ジエン形成の評価の結果
【図8】スーパーオキシドアニオンラジカル捕捉活性の測定の結果
【図9】チロシナーゼ阻害活性の測定の結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1:
【化1】

(式中、Xは、以下のいずれか1から選択され、
【化2】

Yは、ラムノース又はフコースの糖残基である。)
で表される配糖体、その塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraolである請求項1の配糖体、その塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
苦芋(Ibervillea Greene)の実の乾燥物を有機溶媒に浸漬して得られる抽出物。
【請求項4】
請求項2に記載の化合物又は請求項3に記載の抽出物を有効成分として含む化粧用組成物。
【請求項5】
請求項2に記載の化合物又は請求項3に記載の抽出物を有効成分として含む食品組成物。
【請求項6】
請求項2に記載の化合物又は請求項3に記載の抽出物を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項7】
抗酸化活性及びチロシナーゼ非阻害活性を有することを特徴とする請求項4−6のいずれか1に記載の組成物。
【請求項8】
苦芋(Ibervillea Greene)由来の植物体から溶媒抽出することを特徴とする4-((3R,4S,5S,6R)-tetrahydro-4,5,6-trihydroxy-2-methyl-2H-pyran-3-yloxy)-2H-indene-1,2,2,3-tetraolの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−297345(P2007−297345A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127958(P2006−127958)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月12日 日本化学会近畿支部主催の「平成17年度 北陸地区講演会と研究発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月8日 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科主催の「平成17年度 修士論文研究発表」において文書をもって発表
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】