説明

新規重合体およびその製造方法

【課題】本発明は、良好な操作性と高い安全性を有する、優れた生体材料を提供することを課題とする。
【解決手段】下記式(1)で表されるペプチドユニットと多糖類由来の糖残基とを有する重合体。
−(Pro−Y−Gly)n− (1)
(式中、YはPro又はHypを表し、nは1以上の整数である。)
本発明によれば、コラーゲン様ポリペプチドの生体材料に適した種々の特徴と多糖類の高い親水性や酵素により分解されるという特徴とを併せ持つうえ、機械的強度が高く、吸水性を有する、安全な新規重合体が提供される。さらには、縮合反応において前記ペプチドオリゴマーと多糖類の仕込み量を変化させることにより、得られる重合体の吸水性や酵素分解性を制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体材料、特に医療用生体材料には、生体親和性を有すること、血液などの体液や組織に対する適合性を有すること、毒性や抗原性がないことなどが要求される。このような点から、生体に由来し、生体親和性及び生体適合性に優れ、生体内で分解吸収されるコラーゲンやヒアルロン酸が広く利用されている。
【0003】
コラーゲンは、あらゆる多細胞動物にみられる繊維状タンパク質であり、皮膚や骨の主成分として哺乳類では全タンパク質の25%を占める。コラーゲンは細胞の接着や増殖を促す、3重螺旋構造を持ち血小板凝集惹起活性を有する、抗原性が低い、生体親和性が高い、生分解性である等の多くの優れた性質を持つ。そのため、コラーゲンは細胞実験用材料や医療用材料など様々な用途に、水溶液、綿状物、フィルム、スポンジ、ゲルなど種々の形態で有効に使用され、近年では再生医療における重要なマテリアルとして盛んに研究されている。
【0004】
しかし、生体材料として用いられる上記コラーゲンは、従来、その殆どが牛皮など家畜の組織から採取されているが、近年、牛海綿状脳症(BSE)問題が顕在化し、牛皮由来を含む家畜由来の原料を用いたコラーゲンが人間に用いられると、上記病原体の感染が懸念される。
【0005】
そこで、安全性と資源量等の観点から、魚由来コラーゲンが脚光を浴び、細胞担体や医療用材料・美容整形材料として用いられつつある。しかし、魚由来コラーゲンは熱安定性や生体内安定性が不十分で、医療用材料用途や美容整形材料用途に供するには操作性が悪く、また生体内吸収性が高すぎるという問題点がある。
【0006】
また、病原体の感染や病原性因子の伝達を生じる危険性がなく、安全性の高いコラーゲン様ポリペプチドも報告されている(特許文献1、2)。しかし、これらのコラーゲン様ポリペプチドは、水への溶解性が高いという性質ゆえに、生体内滞留時間が短かったり、さらに用途によっては要求され得る機械的安定性を満たせなかったりする問題点がある。したがって、多種多様なコラーゲン様ポリペプチドの化学修飾物の開発が望まれている。
【0007】
一方、多糖類であるヒアルロン酸は、動物組織の細胞間質に多く、具体的には、眼硝子体、臍帯、関節液、皮膚、軟骨、その他の結合組織に存在するムコ多糖の一つであり、眼外科薬、関節症治療薬、術後癒着防止剤、創傷被覆剤などに利用されている。
【0008】
ヒアルロン酸も水への溶解性が高いという性質ゆえに、生体内滞留時間が短かったり、さらに用途によっては要求され得る機械的安定性を満たせなかったりする問題点がある。そこで、多種多様なヒアルロン酸の化学修飾物が提案されている。
代表的な例としては、架橋剤としてジビニルスルホン、ビスエポキシド類、ホルムアルデヒド、ジヒドラジン、ジヒドラジド、ポリイソシアネート等を使用して、架橋ヒアルロン酸ゲルが得られている(特許文献3〜5)。
【0009】
しかしながら、特許文献4や5に開示される架橋ヒアルロン酸ゲルは、生分解性を有さず、また、ジラウリン酸ジブチルスズのように毒性の高い金属触媒の添加を必要とする架橋方法を用いた場合、得られるハイドロゲルに金属触媒が残存する可能性があり、生医学
材料としては適さない。また、機械的強度に関してもある程度まで改善されたものの、充分と言えるものではなかった。
また、機械的強度の問題を改善するために、架橋ヒアルロン酸スポンジを圧縮する方法も開発されているが(特許文献6)、スポンジ構造が破壊されてしまい、保水性を発現できない点で好ましいとは言えなかった。
【0010】
その他、コラーゲン等のポリペプチドとヒアルロン酸等の糖鎖とを使用した材料の開発もされている。例えば、フェノール性水酸基が導入されたヒアルロン酸と繊維化されたコラーゲンとが絡まりあって含まれるハイドロゲル(特許文献7)、アテロコラーゲンゲルとヒアルロン酸とが絡まりあって成るマトリックス(特許文献8)、ポリグリカンとポリペプチドを共有結合により架橋したマトリックス(特許文献9)等が報告されている。
しかしながら、コラーゲン様ポリペプチドとヒアルロン酸等の多糖類から成る重合体の報告例はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−321500号公報
【特許文献2】特開2005−53878号公報
【特許文献3】特開平7−97401号公報
【特許文献4】特開平09−59303号公報
【特許文献5】特開2001−348401号公報
【特許文献6】特公平7−30124号公報
【特許文献7】特開2007−297360号公報
【特許文献8】特開2005−152298号公報
【特許文献9】特表2005−528933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、良好な操作性と高い安全性を有する、優れた生体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、アミノ酸配列−Pro−Y−Gly−(式中、YはPro又はHypを表す)を含むペプチドオリゴマーと多糖類とを縮合させることにより得られた新規重合体が、コラーゲン様ポリペプチドと多糖類の特徴を併せ持つうえ、機械的強度が高いことを見出した。さらには、縮合反応において前記ペプチドオリゴマーと多糖類の仕込み量を変化させることにより、得られる重合体の吸水性や酵素分解性を調整できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]下記式(1)で表されるペプチドユニットと多糖類由来の糖残基とを有する重合体(以降、本発明の重合体と記す)。
−(Pro−Y−Gly)n− (1)
(式中、YはPro又はHypを表し、nは1以上の整数である。)
[2]3重螺旋構造を含む、[1]に記載の重合体。
[3]前記ペプチドユニットと前記糖残基との重量比が95/5〜50/50である、[1]又は[2]に記載の重合体。
[4]前記多糖類が、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ヘパリン及びデルマタン硫酸から選ばれる[1]〜[3]の何れかに記載の重合体。
[5]さらに前記ペプチドユニットの他にさらにアミノ酸残基又はペプチドユニットを有する、[1]〜[4]の何れかに記載の重合体。
[6]前記さらなるアミノ酸残基がグリシン残基又はリジン残基である、[5]に記載の重合体。
[7]前記ペプチドユニットと前記多糖類由来の糖残基とが、これらのカルボキシル基及びアミノ基とで縮合してなる、[1]〜[6]の何れかに記載の重合体。
[8]前記式(1)で表されるペプチドユニットを含むペプチドオリゴマーと前記多糖類とを縮合反応させる工程を含む、[1]〜[7]の何れかに記載の重合体の製造方法(以降、本発明の製造方法と記す)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コラーゲン様ポリペプチドの生体材料に適した種々の特徴と多糖類の高い親水性や酵素により分解されるという特徴とを併せ持つうえ、機械的強度が高く、吸水性を有する新規重合体が提供される。また、本発明に係るペプチドは人工物なので病原体感染等の危険についての懸念もない。さらには、縮合反応において前記ペプチドオリゴマーと多糖類の仕込み量を変化させることにより、得られる重合体の吸水性や酵素分解性を制御できる。
したがって、本発明により、良好な操作性と高い安全性を有する、優れた生体材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】製造例1、2、3、6で得られた本発明の重合体を水で膨潤させた後ヒアルロニダーゼで処理した時の重量変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては各種アミノ酸残基を次の略語で記述する。
Ala:L−アラニン残基
Arg:L−アルギニン残基
Asn:L−アスパラギン残基
Asp:L−アスパラギン酸残基
Cys:L−システイン残基
Gln:L−グルタミン残基
Glu:L−グルタミン酸残基
Gly:グリシン残基
His:L−ヒスチジン残基
Hyp:L−ヒドロキシプロリン残基
Ile:L−イソロイシン残基
Leu:L−ロイシン残基
Lys:L−リジン残基
Met:L−メチオニン残基
Phe:L−フェニルアラニン残基
Pro:L−プロリン残基
Sar:サルコシン残基
Ser:L−セリン残基
Thr:L−トレオニン残基
Trp:L−トリプトファン残基
Tyr:L−チロシン残基
Val:L−バリン残基
また、本明細書においては、常法に従って、N末端のアミノ酸残基を左側に位置させ、
C末端のアミノ酸残基を右側に位置させて、ペプチド鎖のアミノ酸配列を記述する。
【0018】
本発明の重合体は、下記式(1)で表されるペプチドユニット(以降、PYGペプチドユニットと記すことがある)と多糖類由来の糖残基とを必須の構成単位として有する。
−(Pro−Y−Gly)n− (1)
ここで、式(1)中、YはPro又はHypを表し、いずれであってもよい。ただし、後述する3重螺旋構造の安定性をより高めたい場合にはHypであることがより好ましい。なお、Hypは、特に限定はされないが、通常4Hyp(例えば、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン)残基である。
またnは1以上の整数であり、特に限定されるものではない。ただし、本発明の重合体が取りうる二次構造によっては、n数が異なるため、それに関しては後述する。
本発明の重合体は、通常には、PYGペプチドユニットと多糖類由来の糖残基とが、これらのカルボキシル基及びアミノ基とで縮合したことにより結合している一次構造をとっている。
【0019】
本発明の重合体の必須の構成単位である糖残基の由来する多糖類は、特に限定されないが、カルボキシル基及び/又はアミノ基を有する多糖類であることが好ましい。また、糖分解酵素により分解されるものであることが好ましい。また、多糖類は、本発明の重合体中、一種又は二種以上が含まれる。
前記多糖類としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、デルマタン硫酸等のグリコサミノグリカン、カルボキシメチルセルロース、セロウロン酸、カルボキシルメチルキチン、デキストランを特に好ましく例示できる。これらは、天然植物からの抽出物、微生物発酵の生産物、酵素による合成物、又は化学合成物のいずれであってもよい。これらの中でも生体内に幅広く存在し、生体適合性が高いヒアルロン酸が特に好ましい。
前記多糖類がヒアルロン酸である場合、後述する本発明の製造方法における原料としてのヒアルロン酸の取扱い性と生成する重合体の強度の観点から、その平均分子量は少なくとも10kDaであることが好ましく、より好ましくは50〜1500kDaの範囲である。
ここで、ヒアルロン酸の平均分子量は、本発明の製造原料の段階において極限粘度を薬局方粘度測定法又は粧原基粘度測定法第1法によって測定し、その数値を用いて下記の式より算出した値である。
[η]=0.000403 x M 0.775
[η]: 極限粘度(dl/g)
M:分子量(ダルトン)
また、多糖類がカルボキシメチルセルロースである場合、後述する本発明の製造方法における原料としてのカルボキシメチルセルロースの取扱い性と生成する重合体の強度の観点から、その平均分子量は少なくとも10kDaであることが好ましく、より好ましくは50〜1000kDaの範囲である。
【0020】
本発明の重合体において、PYGペプチドユニットと多糖類由来の糖残基との重量比は、特に限定されないが、95/5〜50/50の範囲であることが好ましく、より好ましくは90/10〜60/40の範囲である。上記重量比がこの範囲であれば、本発明の重合体はゲル化し、十分な機械的強度を有する生体材料として適する。また後述する吸水性や酵素分解速度を容易に制御することができる。
上記重量比は、後述する本発明の製造方法における縮合反応において、原料であるPYGペプチドユニットを含むペプチドオリゴマーと多糖類との仕込み割合を変えることによって調整することができる。
【0021】
本発明の重合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、PYGペプチドユニット及び多糖類由来の糖残基の他に、さらなる構成単位を有してもよい。さらなる構成単位と
しては特に限定されないが、アミノ酸残基もしくはペプチドユニット、又はアルキレンなどを挙げることができる。
【0022】
前記さらなる構成単位としてのアミノ酸残基は、特に限定されないが、Ala、Arg、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Hyp、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Sar、Ser、Thr、Trp、Tyr、Valから選択される少なくとも一種のアミノ酸残基が挙げられる。このうち、さらなるアミノ酸残基がGlyである場合、本発明の重合体に透明性を付与することができる。また、さらなるアミノ酸残基がLysである場合、本発明の重合体に柔軟性を付与することができる。
前記さらなる構成単位としてのペプチドユニットは、特に限定されないが、上記アミノ酸残基が2個以上ペプチド結合したものが挙げられる。例えば、さらなるペプチドユニットが下記式(2)で表されるペプチドユニットである場合、本発明の重合体を細胞足場材料等の用途に供した場合にその細胞接着性を向上させることができる。また、さらなるペプチドユニットが下記式(3)で表されるペプチドユニットである場合、本発明の重合体に温度に応答して溶液−ゲル化挙動を示す性質を付与することができる。
−(Arg−Gly−Asp)− (2)
−(Val−Pro−Gly−Val−Gly)− (3)
【0023】
前記さらなる構成単位としてのアルキレンは、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、特に限定されないが、例えば炭素数1〜18のアルキレンが挙げられ、実用的には炭素数2〜12のアルキレンが好ましい。
【0024】
本発明の重合体において、前記さらなる構成単位が含まれる割合は、重合体全体に対して0.1〜20重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%であることがより好ましく、0.1〜5重量%であることがさらに好ましい。この範囲であれば、該さらなる構成単位が本発明の効果を損なうことなく、生成する重合体の強度が良好なものとなる。
【0025】
本発明の重合体は、好ましくは3重螺旋構造を含む。
式(1)で表されるアミノ酸配列は、3重螺旋の形成に寄与することから、重合体中において式(1)における繰り返し数nが5以上である場合、本発明の重合体中のPYGペプチドユニットは3重螺旋の二次構造を形成し得る。このような繰り返しnとしては5〜100000が好ましく、10〜50000がより好ましい。
本発明の重合体は、3重螺旋構造を含む場合、水に不溶なハイドロゲルとなり、3重螺旋構造を含まないものと比べると強固である。さらに、血小板凝集惹起活性を有する。
【0026】
なお、式(1)における繰り返し数nが1〜4の範囲である場合、本発明の重合体中のPYGペプチドユニットは3重螺旋構造を形成せず、本発明の重合体は水に溶解しやすい性質となり、ゼラチン様になる。
【0027】
本発明の重合体中に3重螺旋構造が形成されたか否かについては、重合体の分散液や酵素分解溶液について円二色性スペクトルを測定することにより確認することができる。ここで、円二色性スペクトルにおいては、3重螺旋構造を形成する天然のコラーゲン及びペプチド鎖が、波長220〜230nmに正のコットン効果、及び波長195〜205nmに負のコットン効果を特徴的に示すことが知られている。(J.Mol.Biol.,Vol.63 pp。85−99,1972)。
【0028】
本発明の重合体は、好ましくは吸水性を有する。本発明の重合体中の糖残基部分は水との親和性に富むため、重合体全体として水を抱えることができる。
また、その吸水倍率は、PYGペプチドユニットと多糖類由来の糖残基との割合を調整することにより制御することができる。具体的には、吸水倍率を高くしたい場合、該糖残
基の割合を大きくすればよい。
本発明の重合体の吸水倍率の測定方法は、特に限定されないが、例えばティーバッグ法で測定することができる。まず、予め重量を測定したティーバッグ(Cg)に乾燥重合体の一定量(Ag)を秤取り、過剰量のイオン交換水に浸漬し、25℃で24時間放置して前記重合体を膨潤させる。次に、余剰の水を除去した後、吸水膨潤した重合体の重量(Bg)を測定し、吸水倍率=(B−A)/(A−C)より吸水倍率を求める。
【0029】
本発明の重合体は、好ましくは酵素によって分解される性質(酵素分解性)を有する。これは、本発明の重合体中の糖残基部分は、糖残基の由来する多糖類に対応する糖分解酵素により切断され得るからである。
また、その酵素分解性は、PYGペプチドユニットと多糖類由来の糖残基との割合を調整することにより制御することができる。具体的には、酵素分解性を高くしたい場合、該糖残基の割合を大きくすればよい。
本発明の重合体の必須の構成単位である糖残基の由来する多糖類は前述のように種々のものであってよいが、例えば前記多糖類がヒアルロン酸である場合には、ヒアルロニダーゼにより本発明の重合体を分解することができる。また、前記多糖類がカルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ヘパリン、デルマタン硫酸である場合には、それぞれセルラーゼ、コンドロイチナーゼ、デキストラナーゼ、ヘパリナーゼ、コンドロイチナーゼにより本発明の重合体を分解することができる。
本発明の重合体の酵素分解性の測定方法は、特に限定されないが、例えば、一定量の乾燥重合体を量り取り、イオン交換水で充分に膨潤させた後の重量と、200U/mLのヒアルロニダーゼPBS溶液中(pH6.0)に37℃にて一定時間浸漬した後の重量とから測定することができる。
【0030】
本発明の重合体は、良好な操作性と機械的強度、そして安全性を有し、上記のような機能を付与することもできるため、一般用・医療用を問わず生体材料、及びコラーゲンや多糖類が用いられている分野であれば特に制限なく使用することができる。例えば、薬剤等の機能性物質の徐放、創傷治療剤、癒着防止剤、止血剤や、再生医療における細胞足場材料などに有効に使用できる。これらの用途に供する場合、本発明の重合体が3重螺旋構造を含むことが望ましい。
【0031】
本発明の重合体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、PYGペプチドユニットを含むペプチドオリゴマーと多糖類由来の糖残基とを縮合反応させる工程を含む合成により製造することができる。
本発明の重合体の原料としてPYGペプチドユニットを含むペプチドオリゴマーは、液相法などの定法により化学的に合成することができる。該ペプチドオリゴマーは、例えば下記式(4)のものを使用することができ、合成の簡便さからn=1のものが特に使用しやすい。
H−(Pro−Y−Gly)n−OH (4)
(式中、YはPro又はHypを表し、nは1以上の整数である)
【0032】
本発明の重合体中のPYGペプチドユニットと多糖類由来の糖残基との重量比は、本発明の製造方法における縮合反応において、原料である前記ペプチドオリゴマーと多糖類との仕込み割合を変えることにより、任意に調整することができる。すなわち、前述のように該重量比を好ましい95/5〜50/50、又はさらに好ましい90/10〜60/40の範囲とする場合、原料をその通りの重量比で仕込めばよい。
また、本発明の重合体が前記さらなる構成単位を有する場合は、さらなる構成単位となるアミノ酸残基もしくはペプチドユニットを含むペプチドオリゴマー又はアルキレンを、任意の重量比で縮合反応系に添加し、共に反応させればよい。
【0033】
本発明の製造方法における縮合反応は、通常、溶媒中で行われる。前記溶媒は、原料である本ペプチドオリゴマーと多糖類とを溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば水又は有機溶剤が使用できる。具体的には、水、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホロアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、窒素含有環状化合物(N−メチルピロリドン、ピリジンなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなど)、及びこれらの混合溶媒などである。これらの溶媒のうち、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが好ましく使用される。
【0034】
本発明の製造方法における縮合反応は、脱水縮合剤(脱水剤)の存在下で行うことが好ましく、さらには脱水縮合剤と縮合助剤との存在下で行うことがより好ましい。これにより、二量化や環化を抑制しながら縮合反応が円滑に進む。
【0035】
本発明の製造方法に使用できる脱水縮合剤は、溶媒中で脱水縮合を効率よく行える限り特に限定されず、例えば、カルボジイミド系縮合剤(ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC=WSCI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)、フルオロホスフェート系縮合剤(O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N′,N′−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(BOP)など)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)が例示できる。
これらの脱水縮合剤は、単独で又は二種以上組み合わせて混合物として使用できる。好ましい脱水縮合剤は、カルボジイミド系縮合剤(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩)である。
本発明の製造方法における脱水縮合剤の使用量は、本ペプチドオリゴマーの総量1モルに対して、通常、水を含まない非水系溶媒を用いる場合0.7〜5モル、好ましくは0.8〜2.5モル、さらに好ましくは0.9〜2.3モル(例えば1〜2モル)の範囲である。水を含む溶媒(水系溶媒)においては、水による脱水縮合剤の失活があるので、脱水縮合剤の使用量は、ペプチドフラグメントの総量1モルに対して、通常、2〜500モル、好ましくは5〜250モル、さらに好ましくは10〜125モルの範囲である。
【0036】
本発明の製造方法に使用できる縮合助剤は、縮合反応を促進する限り特に制限されず、例えば、N−ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド(HONSu)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HONB)などのN−ヒドロキシジカルボン酸イミド類)、N−ヒドロキシトリアゾール類(例えば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)などのN−ヒドロキシベンゾトリアゾール類)、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOObt)などのトリアジン類、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステルが例示できる。
これらの縮合助剤も、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい縮合助剤は、N−ヒドロキシジカルボン酸イミド類[HONSuなど]、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はN−ヒドロキシベンゾトリアジン類[HOBtなど]である。
本発明の製造方法における縮合助剤の使用量は、溶媒の種類に関係なく、本ペプチドオリゴマーの総量1モルに対して、通常、0.5〜5モル、好ましくは0.7〜2モル、さ
らに好ましくは0.8〜1.5モルの範囲である。
【0037】
本発明の製造方法において、脱水縮合剤と縮合助剤は適当に組み合わせて使用することが好ましい。脱水縮合剤と縮合助剤との好ましい組合せとしては、例えば、DCC−HONSu(HOBt又はHOOBt)、WSCI−HONSu(HOBt又はHOOBt)が例示できる。
【0038】
本発明の製造方法における縮合反応においては、反応溶液のpHを調節してもよく、通常、反応溶液のpHは中性付近(pH=6〜8程度)に調整される。pHの調節は、通常、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、有機塩基、無機酸(塩酸など)や有機酸を用いて行うことができる。
また、縮合反応に関与しない塩基を反応溶液に添加してもよい。縮合反応に関与しない塩基としては、第三級アミン類、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミン類、N−メチルモルホリン、ピリジンなどの複素環式第三級アミン類などが例示できる。このような塩基の使用量は、通常、本ペプチドオリゴマーの総モル数の1〜2倍程度の範囲から選択できる。
【0039】
本発明の製造方法における縮合反応を行う温度は、特に限定されないが、脱水縮合剤を添加するときは発熱を抑えるため、4℃以下に冷却することが好ましい。また縮合剤を添加し、攪拌した後は静置することが好ましい。
縮合反応に脱水縮合剤や縮合助剤を用いた場合、得られた重合体にはそれらが残存しているため、縮合反応工程後に前記溶媒で重合体を洗浄することが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
≪実施例1:本発明の重合体の製造≫
H−Pro−Hyp−Gly−OHで表されるペプチドオリゴマー(以降、PHGペプチドオリゴマー、又は単にPHGと記す)、とヒアルロン酸(以降、HAと記すこともある)又はカルボキシメチルセルロース(以降、CMCと記すこともある)とを用いて、縮合反応を行うことにより本発明の重合体を製造した(製造例1〜11)。なお、製造例9及び10においては、さらなる構成単位のアミノ酸残基としてグリシン又はリジンも原料に加えた。また、比較としてPHGペプチドオリゴマーのみで縮合反応を行った重合体も製造した(比較製造例1)。
【0042】
<製造例1:PHG/HA=95/5>
液相法で合成したPHGペプチドオリゴマー0.95gとヒアルロン酸(JNC株式会社製:Lot No.065910、平均分子量115万)0.05gとを、20mLの10mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)に溶解し、4℃まで冷却した。これに4℃の1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)88mg、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)3.16gを加え、4℃でよく攪拌した後、静置に切り替え、20℃で24時間静置し、本発明の重合体を得た。反応終了後、重合体を200mLの50重量%エタノール水溶液に24時間浸し、不純物を除去した。その際、2時間後と6時間後に50重量%エタノール水溶液を交換した。さらに、重合体を200mLの純水に24時間浸し、重合体を洗浄した。その際、浸漬開始から2時間後と6時間後に純水を交換した。洗浄終了後、凍結乾燥することにより、スポンジ状の乾燥重合体を得た。
【0043】
<製造例2:PHG/HA=90/10>
PHGペプチドオリゴマーを0.9gに、ヒアルロン酸(JNC株式会社製:Lot No.065910、平均分子量115万)を0.1gに変える以外は製造例1に準じた操作を行い、本発明の重合体を得た。
【0044】
<製造例3:PHG/HA=60/40>
PHGペプチドオリゴマーを0.6gに、ヒアルロン酸(JNC株式会社製:Lot No.065910、平均分子量115万)を0.4gに変える以外は製造例1に準じた操作を行い、本発明の重合体を得た。
【0045】
<製造例4:PHG/CMC=95/5>
液相法で合成したPHGペプチドオリゴマー0.95gとカルボキシメチルセルロース(和光純薬工業株式会社製:販売元コード039−01335)0.05gとを、20mLの10mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)に溶解し、4℃まで冷却した。これに4℃の1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)88mg、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)3.16gを加え、4℃でよく攪拌した後、静置に切り替え、20℃で24時間静置し、本発明の重合体を得た。反応終了後、重合体を200mLの50重量%エタノール水溶液に24時間浸し、不純物を除去した。その際、2時間後と6時間後に50重量%エタノール水溶液を交換した。さらに、重合体を200mLの純水に24時間浸し、重合体を洗浄した。その際、浸漬開始から2時間後と6時間後に純水を交換した。洗浄終了後、凍結乾燥することにより、スポンジ状の乾燥重合体を得た。
【0046】
<製造例5:PHG/CMC=90/10>
PHGペプチドオリゴマーを0.9gに、カルボキシメチルセルロースを0.1gに変える以外は製造例4に準じた操作を行い、本発明の重合体を得た。
【0047】
<製造例6:PHG/CMC=60/40>
PHGペプチドオリゴマーを0.6gに、カルボキシメチルセルロースを0.4gに変える以外は製造例4に準じた操作を行い、本発明の重合体を得た。
【0048】
<製造例7:PHG/HA=71.4/28.6>
水分を6.45重量%含むPHGペプチドオリゴマーを0.321g(正味ペプチドオリゴマー重量0.301g)と1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)28.8mg及びイオン交換水16.612gをガラス容器に量り取り、攪拌し、均一溶液とした。これに別に調製したヒアルロン酸ナトリウム塩(JNC株式会社製:Lot No.HB9002、極限粘度20.6dl/g)の1.0重量%水溶液 12.1g(正味ヒアルロン酸ナトリウム塩重量0.121g)を加え、攪拌し、均一溶液とした。ついで氷冷下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)1.009gを加え、攪拌し、均一溶液とした後、直ちに反応液20.557gをテフロン(登録商標)容器(75×135mm)に移し、20℃で24時間静置し、本発明の重合体を得た。反応終了後、重合体をテフロン(登録商標)容器ごと6Lのイオン交換水に3時間以上浸漬し、不純物を除去する操作を3回繰り返した。洗浄終了後、110.833gのハイドロゲルが得られた。さらに凍結乾燥することにより、スポンジ状の乾燥重合体0.231gを得た。
【0049】
<製造例8:PHG/HA=83.3/16.7>
PHGペプチドオリゴマーを0.647g(正味ペプチドオリゴマー重量0.605g)に、ヒアルロン酸ナトリウム塩の1.0重量%水溶液 12.0g(正味ヒアルロン酸ナトリウム塩重量0.120g)に変える以外は製造例7に準じた操作を行い、本発明の重合体を得た。洗浄終了後、28.338gの半透明のハイドロゲルが得られた。さらに凍結乾燥することにより、スポンジ状の乾燥重合体0.392gを得た。
【0050】
<製造例9:PHG/HA/Gly=82.0/16.4/1.6>
水分を6.45重量%含むPHGペプチドオリゴマーを1.287g(正味ペプチドオリゴマー重量1.200g)と1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)0.113gと別に調製したL−グリシン(和光純薬株式会社製)の1.0重量%水溶液 2.410g(正味L−グリシン重量0.024g)及びイオン交換水28.209gをガラス容器に量り取り、攪拌し、均一溶液とした。これに別に調製したヒアルロン酸ナトリウム塩(JNC株式会社製:Lot No.HA9002、極限粘度18.6dl/g)の1.0重量%水溶液 23.942g(正味ヒアルロン酸ナトリウム塩重量0.240g)を加え、攪拌し、均一溶液とした。ついで氷冷下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)4.062g加えを攪拌し、均一溶液とした後、直ちに反応液28.7gをプラスチックシャーレ(直径86mm)に移し、室温で24時間静置し、本発明の重合体を得た。反応終了後、重合体をシャーレから取り出し3Lのイオン交換水に3時間以上浸漬し、不純物を除去する操作を3回繰り返した。洗浄終了後、57.35gの透明なハイドロゲルが得られた。このハイドロゲル21.91gを凍結乾燥することにより、スポンジ状の乾燥重合体0.197gを得た。
【0051】
<製造例10:PHG/HA/Lys=82.6/16.5/0.9>
水分を6.45重量%含むPHGペプチドオリゴマーを1.069g(正味ペプチドオリゴマー重量1.000g)と1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)0.95gと別に調製したL−リジン塩酸塩(和光純薬工業株式会社製)の1.0重量%水溶液 1.0g(正味L−リジン塩酸塩重量0.010g)及びイオン交換水24.38gをガラス容器に量り取り、攪拌し、均一溶液とした。これに別に調製したヒアルロン酸ナトリウム塩(JNC株式会社製:Lot No.HA9002、極限粘度18.6dl/g)の1.0重量%水溶液 20.0g(正味ヒアルロン酸ナトリウム塩重量0.20g)を加え、攪拌し、均一溶液とした。ついで氷冷下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)3.36gを加え、攪拌し、均一溶液とした後、直ちに反応液17.22gをプラスチックシャーレ(直径86mm)に移し、室温で24時間静置し、本発明の重合体を得た。反応終了後、9.424gの重合体をシャーレから取り出し5Lのイオン交換水に3時間以上浸漬し、不純物を除去する操作を3回繰り返した。洗浄終了後、21.804gのハイドロゲルが得られた。このハイドロゲルは他の製造例のものよりも触った感触が柔らかかった。このハイドロゲルを凍結乾燥することにより、スポンジ状の乾燥重合体0.2014gを得た。
【0052】
<製造例11:PHG/HA=40/60>
PHGペプチドオリゴマーを0.40g、ヒアルロン酸(JNC株式会社製:Lot No.065910、平均分子量115万)0.60g、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)0.043gおよびイオン交換水18mlをガラス容器に計り取り、均一溶液とした。この混合溶液17.13gをプラスチックシャーレ(直径86mm)に移した後、イオン交換水2mLに溶解した1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)1.33g加え、攪拌した。溶液の粘度が高く前記攪拌操作は困難ではあったが、均一溶液とした後、室温で24時間静置し、本発明の重合体を得た。
【0053】
<比較製造例1:PHG/HA=100/0>
PHGペプチドオリゴマー2.0gおよび1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(アイバイツ株式会社製)0.2gをガラス容器に量り取り、40mLのイオン交換水を加え、攪拌し、均一溶液とした。次いで氷冷下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル
)−カルボジイミド塩酸塩(アイバイツ株式会社製)6.7gを加え、4℃でよく攪拌した後、直ちに反応液をプラスチックシャーレ(直径86mm)に移し、室温で24時間静置しポリPHGのみからなる重合体を得た。この反応生成物をシャーレから取り出しイオン交換水に浸漬させたところ、ゲル状ではなかった。
【0054】
≪実施例2:円二色性スペクトル測定≫
製造例1〜10で得られた各重合体を0.025重量%になるようイオン交換水で十分に分散させた分散液の円二色性スペクトル(日本分光製 円二色性分散計 J−820、光路長1mm)を測定したところ、いずれも227nmに正のコットン効果、200nmに負のコットン効果が観測され、3重螺旋構造を形成していることが確認された。
【0055】
≪実施例3:吸水倍率の測定≫
まず、製造例1〜6で製造した乾燥重合体を予め重量を測定したティーバッグ(Cg)に0.2gずつ量り取り、重量(Ag)を測定した後、100mLの純水に24時間浸漬した。次に、余剰の水を除去した後、吸水膨潤した重合体の重量(Bg)を測定し、吸水倍率=(B−A)/(A−C)より吸水倍率を求めた。
重合体の吸水倍率を表1に示す。PHGペプチドオリゴマーとヒアルロン酸又はカルボキシメチルセルロースとの仕込み量を変えることで、重合体の吸水倍率を調整できることが示された。
一般に、膨潤した重合体において、重合体中の含水量が少なければ強度が増し、逆に含水量が多ければ強度は減少する。表1において、吸水倍率が小さい重合体、すなわち含水量が少ない重合体は強度が増し、吸水倍率が大きい重合体、すなわち含水量が多い重合体は強度が減少する。したがってPHGペプチドオリゴマーとヒアルロン酸又はカルボキシメチルセルロースとの仕込み量を変えることで、膨潤した重合体の強度の調整もできる。
なお、比較製造例1の重合体はゲル化せず、吸水倍率の測定及び強度の評価が不可能であった。また、参考例としてヒアルロン酸ナトリウムのみで構成されるゲルについても評価を試みたが、吸水は十分にするものの膨潤してゲルが崩れて形状が保たれなかったため、機械的強度が劣ると判断した。
【0056】
【表1】

【0057】
≪実施例4:本発明の重合体の酵素分解≫
製造例1〜3で製造した重合体を20mgずつ正確に量り取り、20mLのイオン交換水に24時間浸漬し、膨潤させた。膨潤後の重量を測定した後、200U/mLのウシ睾丸由来のヒアルロニダーゼ(シグマ社製)PBS溶液中(pH6.0)に37℃にて浸漬し、重量減少を経時的に測定した。比較のため、製造例6で製造したPHG−カルボキシメチルセルロース重合体も20mg同様に浸漬し、膨潤後の重量を測定した後、重量減少を測定した。
測定結果を図1に示す。PHGペプチドオリゴマーとヒアルロン酸の仕込み量を変えることで、重合体のヒアルロニダーゼ分解速度を調整できることが示された。
【0058】
多糖類としてカルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストランを用いた重合体について、セルラーゼ、コンドロイチナーゼ、デキストラナーゼを用いて同様の酵素分解を行った場合にも類似の結果が得られた。
【0059】
各製造例で得られた重合体をヒアルロニダーゼで分解した溶液の円二色性スペクトル(日本分光製 円二色性分散計 J−820、光路長1mm)を測定したところ、227nmに正のコットン効果、200nmに負のコットン効果が観測され、3重螺旋構造を形成していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の新規重合体は、コラーゲン様ポリペプチドの生体材料に適した種々の特徴と多糖類の高い親水性や酵素により分解されるという特徴とを併せ持つうえ、機械的強度が高く、吸水性を有する。また、本発明に係るペプチドは人工物なので病原体感染等の危険についての懸念もない。さらには、縮合反応において前記ペプチドオリゴマーと多糖類の仕込み量を変化させることにより、得られる重合体の吸水性や酵素分解性を制御できる。
したがって、本発明により、良好な操作性と高い安全性を有する、優れた生体材料が提供され、薬剤等の機能性物質の徐放、創傷治療剤、癒着防止剤、止血剤や、再生医療における細胞足場材料などに極めて有効に使用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるペプチドユニットと多糖類由来の糖残基とを有する重合体。
−(Pro−Y−Gly)n− (1)
(式中、YはPro又はHypを表し、nは1以上の整数である。)
【請求項2】
3重螺旋構造を含む、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記ペプチドユニットと前記糖残基との重量比が95/5〜50/50である、請求項1又は請求項2に記載の重合体。
【請求項4】
前記多糖類が、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ヘパリン及びデルマタン硫酸から選ばれる請求項1〜3の何れか一項に記載の重合体。
【請求項5】
さらに前記ペプチドユニットの他にさらにアミノ酸残基又はペプチドユニットを有する、請求項1〜4の何れか一項に記載の重合体。
【請求項6】
前記さらなるアミノ酸残基がグリシン残基又はリジン残基である、請求項5に記載の重合体。
【請求項7】
前記ペプチドユニットと前記多糖類由来の糖残基とが、これらのカルボキシル基及びアミノ基とで縮合してなる、請求項1〜6の何れか一項に記載の重合体。
【請求項8】
前記式(1)で表されるペプチドユニットを含むペプチドオリゴマーと前記多糖類とを縮合反応させる工程を含む、請求項1〜7の何れか一項に記載の重合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−112653(P2013−112653A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261127(P2011−261127)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】