説明

新規非経口カルバマゼピン製剤

【課題】カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体の提供。
【解決手段】カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、修飾されたシクロデキストリンおよびカルバマゼピンを、生理的に許容できる液体中に混合することにより調製される。修飾されたシクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよびスルホアルキル-シクロデキストリンを含む。より特定すると、スルホアルキル-シクロデキストリンは、米国特許第5,134,127号および第5,376,645号に説明および開示されたものである。生理的に許容できる液体は、滅菌等張水、乳酸加リンゲル液、D5W(5%デキストロース水溶液)、生理食塩水、および非経口投与に適した同様の液体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2005年9月30日に出願された、米国特許仮出願第60/722,692号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
カルバマゼピンまたは5H-ジベンズ[b,f]アゼピン-5-カルボキシアミドは、広範に使用される抗てんかん薬である。これは、米国においては、てんかんの治療としてまたは三叉神経痛の特異的鎮痛薬としての経口投与が意図された、Tegretol(登録商標)の100mg咀嚼錠剤、200mg錠剤および100mg/5mL懸濁剤として入手可能である。その他の商標名は、Equetro、Carbatrol、Tegretol XR、およびEpitolを含む。これらの経口剤形のジェネリック薬品も、入手可能である。剤形は、100、200、および300mgの力価で入手可能なCarbatrol;ならびに、100、200、および400mg力価で入手可能なTegretol XRを含む。
【0003】
表1に示すように、成人および年齢12歳以上の小児の推奨維持投与量レベルは800〜1200mg/日であるが、成人においては最大2400mg/日が使用されている。年齢6〜12歳の小児において、維持投与量レベルは、通常20〜30mg/kg/日であり、および6歳未満の小児において、維持投与量レベルは、通常10〜20mg/kg/日である。
【0004】
【表1】

【0005】
カルバマゼピンは、複合部分発作(側頭葉、精神運動)に対して広範に使用される抗痙攣薬である。これは、強直-間代(大発作)発作の治療において有効であることも証明されている。カルバマゼピンは、単純部分(焦点性またはジャクソン)発作および前述の発作または他の部分もしくは全般発作を含む混合発作パターンの患者の治療においても使用される。アブサンス発作(小発作)の治療においては使用されない。
【0006】
カルバマゼピンは、多くの観点で、その証明された有効性に加えて副作用の発生率および重症度に関して他の抗痙攣薬よりもより好ましいプロファイルを有する。従ってカルバマゼピンは、フェノバルビタール、プリミドンおよびフェニトインなどの他の抗てんかん薬よりも、鎮静作用が少なく、知性機能の障害を引き起こすことが少ない。さらにカルバマゼピンは、歯肉肥大、多毛症、座瘡またはフェニトインに関連した他の望ましくない作用に関与しない。これらの特性は、カルバマゼピンを女性および小児における選択薬とすることを助ける。
【0007】
カルバマゼピンの使用は、不完全で遅くかつ変動可能な吸収、広範な(extensive)タンパク質結合、およびそれ自身の代謝の誘導のために複雑である。Antipileptic Drug、第5版、Lippincott, Williams & Wilkins, フィラデルフィア, 2002、236-246頁(非特許文献1)のSpina Eの第21章および本明細書に列記された参考文献参照。速放錠および徐放錠に関する絶対生物学的利用率(血流に到達する投与量の割合)は、75〜85%の範囲であると以前に推定されているが、経静脈製剤が存在しないので、吸収の程度および患者間変動の体系的試験は妨げられている。
【0008】
Bodorの米国特許第5,231,089号(特許文献1)は、カルバマゼピンの注射用製剤の欠如に言及しており、したがってこの薬物の絶対生物学的利用能に関する正確な情報が存在しないことを指摘している。さらに、カルバマゼピンの注射用製剤の欠如とは、患者が手術を受けている時、ある種の胃腸疾患を有する時、意識不明である時もしくは経口薬物投与を妨げるような発作を有する時などのそのような療法を必要とする患者へ、または定常状態の血漿レベルの迅速な再確立を必要とする患者へ、救急のカルバマゼピン療法を提供する方法が存在しないことを意味する。
【0009】
静脈内製剤が存在しないことは、カルバマゼピン(本明細書において時にはCBZと記される)で治療を受ける患者を、実質的医療リスクに直面させる。いかなる理由であれCBZ療法の突然の中断は、潜在的に生命の危機のある発作という緊急事態に患者を曝すことになる。唯一の代替法は、静脈内製剤として入手可能である異なる薬物をこの患者へ投与することである。新規薬物療法に供するということは、この患者を有害反応および未知の有効性に曝すことである。
【0010】
時にはシャルディンガーデキストリンとも称されるシクロデキストリンは、1891年に、ジャガイモデンプン上のバチルス・アミロバクター(Bacillus amylobacter)の消化物としてVilliersにより最初に単離された。シクロデキストリン化学の基礎は、1903〜1911年の期間でSchardingerにより規定された。しかし1970年までは実験室では少量のシクロデキストリンしか生成されず、その高い製造コストは産業におけるシクロデキストリンの利用を妨げた。近年、シクロデキストリンの生産および精製において劇的改善が実現され、シクロデキストリンははるかに安価になっており、これによりシクロデキストリンの産業適用が可能になっている。
【0011】
シクロデキストリンは、外側表面にヒドロキシル基および中心に空孔を持つ環状オリゴ糖である。その外側表面は親水性であり、したがってこれらは通常水に可溶性であるが、空孔は親油性の特徴を有する。最も一般的なシクロデキストリンは、各々、6、7および8個のα-1,4-連結グルコース単位からなる、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンである。これらの単位の数は、空孔の大きさを決定する。
【0012】
シクロデキストリンは、分子全体(「ゲスト分子」)またはその一部を空孔へ取り込むことにより、多種多様な疎水性分子との包接複合体を形成することが可能である。得られる複合体の安定性は、ゲスト分子がいかに良好にシクロデキストリン空孔に収まるかによって決まる。通常のシクロデキストリン誘導体は、α-、β-、およびγ-シクロデキストリンのヒドロキシエチル-誘導体のアルキル化(例えば、メチル-および-エチル-β-シクロデキストリン)もしくはヒドロキシアルキル化によるか、または第1級ヒドロキシル基のサッカリドによる置換(例えば、グルコシル-およびマルトシル-β-シクロデキストリン)により形成される。ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンへのプロピレンオキシド付加によるその調製、ならびにヒドロキシエチル-β-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンへのエチレンオキシド付加によるその調製は、35年以上も前にGrameraらの特許(1969年8月に公開された米国特許第3,459,731号(特許文献2))に開示された。
【0013】
シクロデキストリンは、非常に多くの化合物の溶解度、溶出速度および/または安定性を増大するために使用されるが、それらとのシクロデキストリン複合体化が可能でないかまたは利点を生じない多くの薬物が存在することもわかっている。J. Szejtli、Cyclodextrins in Drug Formulations: Part II、Pharmaceutical Technology, 24-38, 1991年8月(非特許文献2)を参照のこと。この薬学的利用の可能性にもかかわらず、ある種のシクロデキストリンには限界がある。
【0014】
シクロデキストリンおよびそれらの誘導体は、大半は結晶性の固形物である。腎組織における一部のシクロデキストリンの濃縮は結晶形成を招き、このことは細胞に壊死的損傷を引き起こす。結晶シクロデキストリン薬物複合体は水溶性包接複合体を形成するにもかかわらず、その利用は一般に、舌下または局所投与に限定されている。
【0015】
米国特許第5,134,127号(特許文献3)および第5,376,645号(特許文献4)は、他のシクロデキストリンの制限を克服している新規シクロデキストリン誘導体、特にスルホアルキル-シクロデキストリン誘導体を開示しており、これらの特許は本明細書に参照として組入れられている。特にこれらの特許に開示されたスルホアルキル-シクロデキストリン誘導体は、比較的低い腎毒性を示す一方で、高い水溶性を示す。
【0016】
本発明は中でも、シクロデキストリンとカルバマゼピンとの安定した包接複合体が、複合されない薬物と比べ高度に水溶性であるという決定を基にしている。予想外の驚くべきことであるが、本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、他のカルバマゼピン製剤に勝る重要な恩典および利点を提供する注射用製剤を生じる。例えば本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は完全に生体適合性であり、固形経口剤形の場合と異なり、一貫しかつ予測可能な様式で投与量の100%を血流に送達する。同じく固形経口剤形とは異なり、本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、全身の強直-間代または他の急性発作を罹患した患者へ、経口経路よりも末梢経路を介し投与することができる。本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、溶解が不十分かつ可変的に吸収される経口製剤の限界を克服する、カルバマゼピンの安定した注射用製剤に関する未だ対処されていない重要な医学的必要性を満足する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,231,089号
【特許文献2】米国特許第3,459,731号
【特許文献3】米国特許第5,134,127号
【特許文献4】米国特許第5,376,645号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Antipileptic Drug、第5版、Lippincott, Williams & Wilkins, フィラデルフィア, 2002、236-246頁
【非特許文献2】J. Szejtli、Cyclodextrins in Drug Formulations: Part II、Pharmaceutical Technology, 24-38, 1991年8月
【発明の開示】
【0019】
発明の概要
ひとつの局面において、本発明は、修飾されたシクロデキストリンに複合されたカルバマゼピンを含有するカルバマゼピンの非経口投与に有用であるカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を企図している。好ましくは、修飾されたシクロデキストリンは、スルホアルキル-シクロデキストリンである。好ましい修飾されたシクロデキストリンは、スルホブチルエーテル7-β-シクロデキストリンである。包接複合体は好ましくは、濃度約5〜約50mg/mlのカルバマゼピンを、より好ましくは濃度約10mg/mlのカルバマゼピンを有する。
【0020】
別の局面において、本発明は、投薬が、経口維持投与量の約30%〜約100%、または好ましくは経口維持投与量の約65%〜75%である、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を提供する。
【0021】
さらなる局面において、本発明は、半減期約8〜約65時間を有する、より好ましくは半減期約24時間を有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を提供する。別の態様において、本発明は、経口カルバマゼピン剤形の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)の約70%〜約130%のAUCを有する、より好ましくは経口カルバマゼピン剤形のAUCの約80%〜約125%のAUCを有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を企図している。さらなる態様において、本発明は、経口カルバマゼピン剤形の最小血漿中濃度(Cmin)の約70%〜約130%のCminを有する、より好ましくは経口カルバマゼピン剤形のCminの約80%〜約125%のCminを有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を企図している。
【0022】
またさらなる局面において、本発明は、4〜12時間毎の静脈内投与間隔を有する、より好ましくは6時間毎の静脈内投与間隔を有する、さらにより好ましくは8時間毎の静脈内投与間隔を有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、以下の工程を含む、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を投与する方法を提供する:
1)カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を提供する工程;および
2)この複合体を、それを必要とする患者へ4〜12時間毎に静脈内注入する工程。
【0024】
好ましくは、注入期間は、約5〜約60分間にわたり、より好ましくは30分間にわたり、さらにより好ましくは5分間にわたり行われる。好ましくは、注入は6時間毎に、または別の局面において、8時間毎に行われる。
【0025】
またさらなる態様において、本発明は、修飾されたシクロデキストリンおよびカルバマゼピンを生理的に許容できる液体中に混合し、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を形成することにより、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を調製する方法を提供する。別の局面において、本方法は、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を滅菌する工程をさらに含む。好ましくは、この生理的に許容できる液体は等張性である。好ましくは、修飾されたシクロデキストリンは、スルホアルキル-シクロデキストリンである。修飾されたシクロデキストリンは、より好ましくはスルホブチルエーテル-7-β-シクロデキストリンである。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体に関する。
【0027】
本明細書において使用される場合、「非経口」という用語は、医薬投与経路の分野におけるその通常かつ慣習的意味で記される。米食品医薬品局の医薬品評価研究センターマニュアル(CDERデータ要素番号C-DRG-00301;データ要素名:投与経路(Route of Administration))に従い、「非経口」は、注射、注入または移植による投与を意味する。注射および注入は、静脈へ(静脈内)、動脈へ(動脈内)、筋肉へ(筋肉内)、皮膚下側へ(皮下)、および腹膜へ(腹腔内)の投与を含む。経肺(肺またはその気管支内の投与)および経鼻(鼻へまたは鼻経由の投与)も企図される。先に引用した米食品医薬品局の文書に記された任意の好適な投与経路は特に本発明の範囲内に含まれ、ここでいずれも、いかなる意味においても本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体と関連して有用であるそれらの投与経路の限定を解釈するものではない。
【0028】
ひとつの態様において、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、修飾されたシクロデキストリンおよびカルバマゼピンの生理的に許容できる液体内での混合により調製される。修飾されたシクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよびスルホアルキル-シクロデキストリンを含む。より特定すると、スルホアルキル-シクロデキストリンは、米国特許第5,134,127号および第5,376,645号に開示されたものである。生理的に許容できる液体は、滅菌等張水、乳酸加リンゲル液、D5W(5%デキストロース水溶液)、生理食塩水、および非経口投与に適した同様の液体を含む。
【0029】
修飾されたシクロデキストリンおよびカルバマゼピンの混合物を調製した後、この混合物を滅菌することができる。滅菌は、オートクレーブによるかまたは0.22μmのフィルターの通過のような濾過滅菌など、当業者に周知の方法によって行うことができる。滅菌後、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、静脈内投与に好適な液体について無菌のアンプル、容器に直接充填することができるか、またはこの複合体を、当技術分野において周知の技術に従い長期間貯蔵するために凍結乾燥することができる。
【0030】
カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、カルバマゼピン濃度範囲が1mg/ml〜50mg/ml、より好ましくは1mg/ml〜10mg/ml、最も好ましくは約10mg/mlであるように調製することができる。本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体におけるカルバマゼピン濃度の変動は、本明細書の別所に記載されたように、この包接複合体の調製において使用されるカルバマゼピンの量を変動することにより通常実現される。
【0031】
カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、最大1600mg、または好ましくは最大500mgの単回投与量で、より好ましくは20〜500mgの分割投与量、最も好ましくは75〜400mgの分割投与量で非経口投与することができる。投薬は、治療される患者の適応症に加え、患者が摂取している他の薬物との相互作用、および十分に担当医の技術内であるその他の臨床的検討に応じて決まる。
【0032】
本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、100%の生物学的利用率および約24時間の半減期を有する。静脈内投与後に得られる血漿中濃度は合理的に推定可能であり、1mg/kg投与量毎に、0.75±0.2mg/LのCBZ濃度の増加を生じる。平均経口生物学的利用率を65〜75%と仮定すると、代替(replacement)のIV初回投与量は、患者の維持投与量の65〜75%であるが、その後のIV投与量の若干の調節が、患者の実際の経口CBZ生物学的利用率に応じ必要であろう。この薬物投与レジメンは、CBZ濃度が治療的範囲内に留まることを確実にすると同時に、上昇した注入終了時のCBZ濃度に関連した有害事象のリスクを最小化するために選択される。
【0033】
本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、経口CBZ剤形のものに統計学的に類似したある種の薬物動態パラメータを有する。例えば、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は好ましくは、経口CBZ剤形の最小血漿中濃度(Cmin)の約70%〜約130%、より好ましくは経口CBZ剤形のCminの約80%〜約125%のCminを有する。同様に、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、経口CBZ剤形の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)の約70%〜約130%、より好ましくは経口CBZ剤形のAUCの約80%〜約125%のAUCを有する。製薬分野の業者は、これらの概念に十分精通しており、これは2001年1月の米食品医薬品局の業界ガイダンス「生物学的同等性の確立の統計学的方法」にさらに説明されている(www.fda.gov/cder/guidance/3616fnl.htmを参照のこと)。
【0034】
静脈内(IV)1日総投与量を、最大60分間にわたり、または好ましくは30分間にわたり、より好ましくは15分間にわたり注入される6時間毎に4回の等しい投与量として、投与することができる。当技術分野において周知であるように、注入期間および投与間隔は、担当医の技術の範囲内である臨床的検討に応じ調節することができる。例えば、CBZの定常状態レベルへの迅速な回復が望ましいような状況において、それを必要とする患者への静注(IV push)またはIVボーラス投与によって注入期間を2〜5分間程度の短時間にすることができる。別の態様において、IV 1日総投与量は、最大60分間にわたり、または好ましくは30分間にわたり、より好ましくは15分間にわたり注入される、8時間毎に3回の等しい投与量として投与することができる。さらなる態様において、投与は継続され得るか、または必要に応じて、制御された投薬が可能であり患者に制御される装置を用いて投与され得る。他の投薬スケジュールは当技術分野において周知であり、例えば、患者の年齢、適応症、分割投与量および1日総投与量の検討を基に、当業者である薬剤師および医師により容易に決定することができる。
【0035】
別の態様において、非経口投与に耐えられない患者または非経口投与が実践されるには若すぎる患者について、本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を経直腸、経口または経鼻経路によって投与することができる。加えて、腸内経路により本発明の製剤を投与できる患者は、現在販売されている経口剤形に勝る実質的に完全な生物学的利用率の恩典を得るであろう。カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は直接経腸的に送達されるので、腸内投与は本発明の製剤の変更を必要としない。当技術分野において周知の味遮蔽製剤を、あらゆる好ましくない味を排除するために経口投与されるように設計された製剤を修飾するために使用することができる。しかし味遮蔽は、腸内投与のための本発明の有効性よりも、患者の服薬遵守に関連する。
【0036】
本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、CBZ治療が必要な哺乳類へ投与することができる。「哺乳類」という用語は、当技術分野におけるその通常の慣習的意味で記され、かつヒトを含む。従って本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、ヒトの状態の治療に加え、獣医学的適用において使用することができる。ヒト治療に関して、本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は特に小児投与について十分適しており、その理由は、当該製剤が経口投与経路を必要としないからである。
【0037】
本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、CBZが使用される任意の適応症に使用することができる。例えば、CBZは、複合症状(精神運動、側頭葉てんかん)を伴う部分発作、全身性強直-間代(大発作)発作、混合発作パターンまたは他の部分もしくは全般発作のような、発作性疾患に適応される。CBZは、真性三叉神経痛および双極性障害に関連した疼痛の治療のような、三叉神経痛(疼痛性チック)にも適応される。CBZは、舌咽神経痛においても利点がある。他の使用は、神経性尿崩症;分裂情動疾患、うつ病、動揺、認知症に関連した行動障害、難治性精神分裂病、および辺縁系機能障害に関連した抑制困難症候群を含む、ある種の精神医学的障害;アルコール離脱;線維筋痛;ニューロパシー;てんかん重積状態;および、治療不応性発作性疾患の治療を含む。
【0038】
本発明のカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体は、PEG-400製剤のようなその他の非経口カルバマゼピン製剤と比べて低い毒性および100%の生物学的利用率を提供する。さらに本発明の複合体は、カルバマゼピン-シクロデキストリン複合体と類似した溶解度および溶出速度を提供するが、腎毒性は低い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】周囲実験室温度でのシクロデキストリン濃度の関数としての、カルバマゼピン相溶解度を示す。図1Aは、コンパイルされた溶解度データを表す。図1Bは、平均された溶解度データを表す。
【図2】カルバマゼピンOrgamolバッチ#899954のDSC/TGA重ね合わせを示す。
【図3】カルバマゼピンSpectrumバッチ#SA0491のDSC/TGAオーバーレイを示す。
【図4】3-コンパートメントPKモデルを使用する、カルバマゼピン100mgの静脈内投与後の、観察および推定された血漿中濃度-時間プロファイルを示す。
【図5】様々な注入期間以後の、カルバマゼピンのシミュレーションされた血漿中濃度-時間プロファイルを示す。平均IV投与量=150mg、平均調節されたIV推定投与量F=0.7。モデルパラメータは、3-コンパートメントモデルからの典型的値のパラメータである。
【図6】カルバマゼピンのIV投与後の、注入期間のCmax,ssに対する作用を示す。
【0040】
本発明の好ましい態様のさらなる詳細は、限定するものではないことは理解される、以下の実施例において例示される。
【0041】
実施例
実施例1−カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体の調製
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)450gを、脱イオン水2.0L中に溶解し、22.5%w/v溶液を作製した。13C,15N-標識したカルバマゼピン(CBZ)[Cambridge Isotope Laboratories(CIL)から購入、50 Frontage Road, Andover, Massachusetts 01810]20gを、この溶液へ添加した。得られた混合液を、室温(20〜25℃)で24時間攪拌した。24時間後、この溶液を、無菌の0.22μmのDuraporeフィルターを通り、無菌の容器へと濾過滅菌した。その後予め滅菌されたアンプルを充填し、窒素フラッシュしながら密封した。充填されたアンプルは、2〜8℃で貯蔵した。得られた包接複合体は、CBZ濃度約10mg/mlを有した。
【0042】
実施例2−安定性試験
カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体10.1mg/mlを含有するアンプルを、室温での安定性試験に配置し、6ヶ月毎に試料採取した。CBZは、215nmでのUV検出を用い、HPLCにより検出した。結果は、表2に示した。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例3−維持療法時の患者における静脈内および経口カルバマゼピンの薬物動態
留置カテーテルを、被験対象の腕に配置した。その後安定して標識された(非放射性)CBZ(SL-CBZ)の単回100mg投与量を、10分間かけて注入した。注入終了時に、対象の通常の朝投与量である100mg未満の経口CBZを投与した。血圧、心拍数および心周期、ならびに注入部位の不快症状を、注入時および注入後1時間モニタリングした。注入前に1回血液試料を採取し、その後96時間にわたり12試料を採取した。血漿を血液から分離し、LC-MSアッセイを用い、CBZおよびCBZ-エポキシド、活性代謝産物、および不活性であるグルクロン酸抱合された代謝産物について分析した。未結合のCBZは、限外濾過後に測定した。CBZ濃度-時間データは、薬物動態ソフトウェアWinNONLINによるノン-コンパートメント法を用いて解析した。
【0045】
SL-CBZ、CBZおよびそれらの各エポキシド代謝産物に関するバリデーションされたLC-MSアッセイを使用した。カルバマゼピン-d10(CBZ-d10, C/D/N Isotopes, ケベック、カナダ)を、内部標準として使用した。CBZは、OsterlohおよびBertilssonにより説明されたものと同様にアッセイした(Osterloh J, Bertilsson L.、The absence of isotopic effect during the elimination of deuterium labeled carbamazepine in the rat.、Life Sci. 1978;23:83-7)。CBZ-グルクロニドの標準を得るために、これは、先に公開されたものと同様の手順を用い、CBZ単剤療法を受けている患者の尿から単離した。Sinz MW, Remmel RP.、Analysis of lamotrigine and lamotrigine 2-N-glucuronide in guinea pig blood and urine by reserved-phase ion-pairing liquid chromatography.、J Chromatogr. 1991:571:217-30。患者血漿の0.5mlアリコートおよび10μl内部標準を、ブランク血漿に添加し、3容量の酢酸エチルで抽出した。振盪および遠心分離後、有機層を除去して気体窒素下で蒸発させ、乾燥させた。その後各試料を、25μl酢酸エチルを添加して再度溶解した。血漿試料を、未結合CBZおよび総CBZ、CBZグルクロニドおよびCBZ-Eについて、LCMSにより測定した。未結合の薬物は、限外濾過によって結合画分から分離した。移動相は、逆相C-18カラム上で、流量0.4ml/分の、50%0.05M酢酸アンモニウム緩衝液、pH4.7、50%MeOHからなった。選択されたイオンモニタリング(SIM)に関して、m/z 237(CBZ)、239(13C15N2-CBZ)、253(CBZ-エポキシド)、255(13C15N2-CBZ-エポキシド)および247(CBZ-d10)のシグナルを、PC支援したHewlett-Packard Chem-Station(登録商標)ソフトウェア上で測定した。検出下限は、CBZについて0.05μg/mlであった。LC-MS法は、ヒト血漿中の[13C,15N]-カルバマゼピン、カルバマゼピン、およびそれらの10,11-エポキシド代謝産物の測定についてバリデーションされた。濃度範囲1.5〜12μg/mlにわたり、変動係数率は、≦5%であった。
【0046】
表3は、76名の対象に関する薬物動態パラメータを提供している。経口CBZの1日投与量の範囲は、本試験の対象について100mg〜2400mgの範囲であった。認められるように、維持療法時の経口CBZの絶対生物学的利用率はおよそ70〜75%に集中し、対象56名中30名が70%未満の生物学的利用率を有した。生物学的利用率の変動は同じく実質的に0.35〜1.65の範囲である。高度に変動可能な生物学的利用率は、CBZの様々な速放性および徐放性経口製剤から、または連続する投与間隔への徐放型剤形からの継続吸収からの薬物の遅延放出の指標であることができる。定常状態での分布容積(VSS)は1.24±0.439L/kgであった。これは今まで不明な値(IV製剤の欠如のため)であったが、現在IV製剤の正確な投薬が可能になったので、経口療法が12時間以上中断される患者において療法を開始する場合に必要とされるような目標の血漿CBZ濃度が達成される。
【0047】
別の臨床的に重要な知見は、定常状態下でのCBZ消失半減期の延長である。この平均値は25.8時間(8.79〜64.6時間の範囲)であると決定されたのに対し、Tegretol(登録商標)およびCarbatrol(登録商標)の添付文書では12〜17時間の範囲が報告されている。この差異についての最も可能性の高い説明とは、対象が処方されたそれらの経口CBZ投与量を摂取することを継続しながら、2〜3半減期の消失の厳密な特徴決定を可能にする本試験においてSL-IV CBZ溶液を使用したことである。成人対象において認められる延長された半減期は、6時間毎のIV投与後のCBZ濃度の変動を制限し、さらに治療的CBZ濃度を下回るリスクを減少するであろう。
【0048】
【表3】

注記:6名の対象はCBZのIV朝投与量しか投与されなかったので、F、AUCss(po)、およびCLss/Fの値は、対象70名しか含んでいない。経口CBZ 1日投与量の範囲は、100mg〜2400mgであった。
【0049】
本試験は、SL-CBZの薬物可溶化剤について2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン製剤を使用した。本試験から得られた薬物動態データは、完全な代替IV薬物投与レジメンを決定するために特に設計されたものではないが、本試験のための標的投与量の確立を補助することができる。本試験由来の結果によって、対象間の広範なCBZ生物学的利用率値が示され、そのいくつかは100%よりも大きい生物学的利用率値を計算した。結果として、本逐次試験における投薬対象の場合には、70%の生物学的利用率値を使用することが選択された。この値は、本試験(n=76)においてIV CBZが投与された対象から決定されたF中央値(67%)に類似している。現在の試験におけるCBZのIV投与用の投与量を補正するための生物学的利用率値の中央値を使用するための正当化により、対象における真の生物学的利用率は特に定常状態投薬レベルで100%を超えてはならないと仮定している。70%の値は、75%の計算された平均F値と67%の真の順位中央値(rank order median)の間であり、好適な計算可能なIV投与量調節を可能にする。その後典型的対象は、その個人の経口1日投与量の70%であるIV 1日投与量を投与される。これは、大半の対象において経口投与から生じるそのような濃度と同等であるIV投与量からのCBZ血漿中濃度を生じる。従って本試験の結果は、対象におけるカルバマゼピン-シクロデキストリン組合せの初回投与の安全性および忍容性を提供すると共に、代替IV療法のための好適な投与量および投与間隔を計算するために使用することができるデータを提供する。
【0050】
実施例4−CBZ標準溶液の調製
装置
自動試料採取器、ポンプ、脱ガス装置、UV検出器、カラムオーブン、システム制御装置、およびShimadzu Class VPシステムソフトウェアを備えた、Shimadzu HPLCシステム
Cahn微量天秤
Shimadzu AY-120化学天秤
pHメーター、Orion pH/ISEモデル#420A
Labnet VX100ボルテックス
エッペンドルフ遠心管5415D
Fisher Scientific FS30音波装置
LabQuake振盪機
【0051】
材料
【表4】

【0052】
CBZ標準溶液(0.05mg/mL)の調製
CBZを5mg秤量し、100mlのメスフラスコに入れた。容量まで60%アセトニトリル水溶液を入れた。
【0053】
シクロデキストリン媒体の調製
下記表4に示したように、適量のシクロデキストリンを、フラスコに添加し、所望の総量(10mL)まで水を充填し、%重量/容量シクロデキストリン溶液を調製した。
【0054】
【表5】

【0055】
初回アッセイにおいて、フラスコは、目盛り付きシリンダーであった。引き続きのアッセイにおいて、シクロデキストリンを最初に少量の水に溶解し、定量的にメスフラスコに移し、これを次に水で容量を合わせた。
【0056】
相溶解度のための試料の調製
過剰なカルバマゼピンを、各エッペンドルフチューブに加えた。各チューブに適当な媒体を加え、最終容量を1mLとした。
【0057】
実施例5−相溶解度
CBZの溶解度を様々な濃度のCaptisol水溶液およびCavitron水溶液(本発明において使用した修飾されたシクロデキストリンの商標名)について、周囲実験室温度で決定した。この薬物を微小遠心管に添加し、適当な媒体を添加した。定期的に試料を遠心分離し、その後アリコートを上清から採取し、必要ならば希釈し、HPLCによりアッセイして濃度を決定した。相溶解度を各実験の間に少なくとも3回評価し、この混合物が平衡に到達したことを確認した。一般にCBZは、平衡前に最初に超飽和溶液を形成することが明らかであるので、初期濃度測定データ(CBZと媒体の混合後約2時間で得た)は省いた。表5に報告された溶解度は、各時間経過の過程で得られた2または3回の濃度測定の平均である。
【0058】
【表6】

【0059】
図1Aは、コンパイルされた溶解度データのグラフ表示を示す。これらのデータから、ほとんどのシクロデキストリン濃度において、Captisolと比べCavitronにおいてCBZ溶解度がわずかに改善されたように見える。図1Bは、平均された溶解度データを、関連した標準偏差と共に示す。後者の図は、平均されたデータの傾向線も示す。
【0060】
結合定数
1:1複合体型を仮定し、結合定数K1:1は、下記の関係に従い計算することができる:
K1:1=勾配/[S0(1−勾配)]
式中、S0は、固有溶解度である。相溶解度データは、モル濃度に関して表示され、および直線の式は以下である:
Captisol:y=0.4379x+0.0008 r2=0.9989
Cavitron:y=0.3515x+0.0008 r2=0.9954
【0061】
これらの式から、Captisol:CBZおよびCavitron:CBZの結合定数は、各々974および677M-1であることがわかった。これらの比較的弱い会合は、薬物:シクロデキストリン複合体で通常認められるものの範囲内(100〜20,000M-1)である(Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Systems, 14(1): 1-104, 1997)。Stellaらは、希釈時のシクロデキストリンからの薬物放出をシミュレーションし(Advanced Drug Del. Rev. 36, 3-16, 1999)、複合体が任意の内在性競合物質の非存在下で100倍希釈される場合には、薬物の約30%が複合され続け、かつこれらが1000倍希釈される場合には、薬物の約5%が複合され続けることを示唆した。
【0062】
静脈内投与される薬物の最小分布容積は、体重のおよそ5%である血漿容積を基にした。従って70kgの対象において、血漿容積はおよそ3.5Lである。あるいは、分布容積は全体重の約30%を占める細胞外液(extracellular water)であると仮定することができ、この場合分布容積は約21Lである。
【0063】
表6は、様々な投与容積で投与される25mg/mL製剤から生じる理論的希釈を示す。これらの計算は、任意の内在性化合物がCBZと置き換わるとは仮定せず、そのためこれらは非常に控えめな見積もりであると考えられる。20mL投与量が投与される場合、希釈は175〜1,050倍の範囲である。希釈作用のシミュレーションを基に、内在性物質と相互作用しないと仮定する場合、CBZの70〜95%は血液中の包接複合体から即時解離するであろう。
【0064】
【表7】

【0065】
媒体調製法
2種のシクロデキストリンを使用して行ったアッセイの第一のセットからの相溶解度データは、後続の相溶解度実験(データは示さず)の全てよりも高いようである。この第一のアッセイにおいて、適量のシクロデキストリンを秤量し、これを目盛り付きシリンダーに加え、固形物が溶解するまで混合することにより、シクロデキストリン溶液を調製する。その後の全てのアッセイにおいて、適量のシクロデキストリンをバイアルに加え、溶解し、メスフラスコへ定量的に移し、容積まで水を満たし、混合した。この第二の媒体調製法はより正確であり、得られた相溶解度データに明らかに著しく影響した。しかし、シクロデキストリン溶液を容量測定的に調製することは非常に困難である。
【0066】
2〜8℃に冷却した飽和溶液の作用
飽和CBZ/シクロデキストリン溶液を2〜8℃の冷蔵庫に入れ、様々な時点で外観を記録した。24時間の時点で、これらの溶液は全て沈殿を示した。
【0067】
実施例6−熱分析
CBZは、少なくとも4種の異なる多形状態で存在することがわかっている(J. Pharm. Sci. 90, 1106-1114, 1990)。本試験の一時点で、溶解度データにおける変動性は多形の差に起因することが疑われた。示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)を用いる熱分析をSpectrum CBZおよびOrgamol CBZについて行い、各製品に存在する多形に差があるかどうかを決定した。表7は、実験条件および熱データをまとめている。
【0068】
【表8】

【0069】
実施例7−適当な投与間隔の決定
静脈内投与されたCBZの投与量調節の検討において最も関係のある要因は、治療中心に関して、CBZ血漿中濃度を治療域値を上回るように維持することである。100mgのIV CBZ投与後に観察された3次指数関数的(tri-exponential)崩壊を辿る血漿中濃度は、非常に迅速な組織への分布、それに続く薬物の体外への比較的遅い消失を示す。IV CBZの定常状態血漿中濃度は重ね合わせ法を用い予測した。IV CBZの単回投与量後の血漿中濃度は、直線の薬物動態を仮定し、蓄積率、0.7の平均Fを用い、投与量について補正し(式1および2を参照のこと)、定常状態条件にスケールアップした。結果的にこの計算は、CBZ経口(C0)およびIV(C6hr)投与後の定常状態トラフ血漿中濃度の比較を可能にし、各々IV製剤について6時間毎に1回の投与間隔を仮定した。
【数1】

【数2】

式中、Cp,ss(IV)がIV投与についての定常状態での血漿中濃度(C)である場合;Cp,SDは単回投与量後の血漿中濃度であり;Intは消失相の線形回帰から得られるy切片であり;λzは終末相の消失速度定数であり;Dpoは経口1日総投与量であり;DIVはIV単回投与量であり;Fは絶対生物学的利用率であり;Tは投与間隔であり;tは各観測濃度の時点である。
【0070】
1日2回投薬後に観測されたCBZの平均、経口定常状態トラフ(C0)血漿中濃度は、8.98μg/mLであった(n=62名の評価可能な対象)(表8、「平均F=0.70を基にした経口BID投与またはQ6 IV投与後の定常状態カルバマゼピン濃度のトラフの統計学的比較」を参照のこと)。CBZのIV投与後6時間の時点での定常状態血漿中濃度の平均値は、8.04μg/mLと予測された。CBZの経口およびIV投与後のこれらのふたつのトラフ値を統計学的に比較したところ、統計学的に差がないことが認められた(α=0.10;p=0.1931)。従って概説されたCBZのIV投与後の6時間毎という投与回数は、この閾値を上回る血漿中濃度を維持するのに適しており、および経口投与後のトラフレベルと同等である。投与後12時間の時点での同じパラメータの解析は、これらのトラフ値が有意に異なることを示し、このことは、12時間毎のIV薬物投与レジメンが、CBZの血漿中濃度が治療的範囲未満まで下落しないことは保証できないことを示唆している。
【0071】
【表9】

【0072】
実施例8−静脈内投与時の推定CBZ最大および最小濃度値:カルバマゼピン生物学的利用率の極値の対象
CBZ徐放(ER)型製剤を1日2回摂取(製品ラベルにより指示された)した対象のみを含む対象データのサブセット解析(n=47)を行い、IV注入により投与された定常状態でのCBZの予測された最大および最小曝露を、経口投与後に観察されたものと比較した。IV投与後のCBZ濃度-時間プロファイルは、ER製品に対する対象について最大程度まで経口投与とは異なるが、、その理由は、これらの製品が濃度-時間プロファイルの製剤依存型制御を提供するからである。徐放型製剤に対する対象は最低の濃度変動を経験し、かつ任意の非徐放型製品と比較して高い相対トラフ濃度を維持するであろう。従ってこのサブセット解析は、IV投与後のピーク曝露およびトラフ曝露において可能性のある差異の控えめな評価をもたらす。
【0073】
この解析は、IV療法において定常状態であると予測された対象に関する、CBZの予測Cmax、Cmin、およびAUCSS値の計算を含んだ。IV CBZの定常状態血漿中濃度を予測するために、先に説明したCBZ血漿中濃度のスケーリングに関する同じ手順を、式1および2を用いて実行した。線形薬物動態を仮定したが、IV CBZの100mg単回投与量後の血漿中濃度は、蓄積率(各個人の終末相の消失速度定数を用い決定された)を用いかつ投与されたIV投与量のコンピュータ処理のために0.7の平均Fを仮定して、定常状態条件にスケールアップした。
【0074】
CBZ血漿中濃度の定常状態へのスケールアップ後、薬物動態パラメータの要約統計を報告し、生物学的利用率(F)0.7を仮定し、CBZ経口製剤(観測された)およびIV製剤の間でCBZのCmax、Cmin、およびAUC値の範囲を比較した(表9、「IVまたは経口カルバマゼピン投与後の予測された定常状態パラメータの要約統計」を参照のこと)。経口製剤およびIV製剤に関する定常状態のPKパラメータは、各々、ER製品(Carbatrol(登録商標)およびTegretol XR(登録商標))の投与後の投与間隔12時間以内またはIV製品投薬後の6時間間隔のデータから得た。
【0075】
【表10】

*経口Cmax,ss推定値は、観測された最高濃度を基にしたが、これはまばらなサンプリングのために、対象の真のCmax,ss値の指標ではない可能性がある;本試験は、経口CBZのCmax,ssを評価するために設計されたものではない。
【0076】
スケールアップされた定常状態CBZ濃度は、10分間にわたり注入された100mg単回IV投与量を基に予測した。平均定常状態IV Cmax値は11.75μg/mLであり、定常状態の平均経口Cmaxと比べより高い血漿レベルであった(表9参照のこと)。個々の対象の生物学的利用率値(F値)の範囲が広いことから(表3参照のこと)、経口CBZの高投与量を摂取する対象、および生物学的利用率の極端な下端の対象は、本化合物の報告された治療的範囲を超えるCBZの最大血漿中濃度を経験した(表9参照のこと)。生来の低い生物学的利用率を伴う配合された経口CBZの高投与量を摂取する対象は、上昇したCBZ血漿レベルのために有害作用のリスクが最大と考えられた。代替IV CBZ療法が投与された全ての対象にわたり、70%投与量調節が、大多数の対象が最小(トラフ)治療域値を上回って提示されかつその結果発作の予防を確実にするための標準となる。対象の真の生物学的利用率が投薬に使用されたF値よりも低いならば、この包接複合体が静脈内投与された場合には薬物蓄積が生じるであろう。
【0077】
実施例9−静脈内カルバマゼピン投与後の注入期間のCmax,ssに対する作用を評価するためのモデル化およびシミュレーション
CBZ生物学的利用率は対象間で極めて変動しうり、異なる放出速度、投与量、および投与間隔を伴う製剤などの複雑な要因が、既に複雑な薬物動態プロファイルに加わる。製剤の特徴および生物学的利用率はIV投与後の変動性の源として排除されるので、CBZ IV投与後の全身曝露は、対象間で、経口投与後の全身曝露が変動するような程度には変動しないであろう。IV CBZ代替療法のための対象における投与量調節は、発作出現のリスク増大につながる可能性のある低レベルの血漿中濃度を防がなければならない。並行して、経口生物学的利用率または分布容積が極端な下端である対象の一部では、増加した一過性CBZ曝露の作用が生じる。
【0078】
10分間にわたり投薬された対象の薬物動態データから倍率変更した(scaled)IV CBZ濃度-時間曲線は、Cmax値の度数分布がCmax値の極端な上端で湾曲した尾部を伴い同等ではないことを明らかにしている。70%に割当てられた母集団(本明細書の投薬について適切)に関する平均生物学的利用率で、平均母集団Cmax値は11.75μg/mLであり、中央値は9.93μg/mLであった。95パーセンタイルCmax値は24.14μg/mLであり、Cmax値の範囲は3.17μg/mL〜47.00μg/mLであった(表9、「IVまたは経口カルバマゼピン投与後の予測された定常状態パラメータの要約統計」を参照のこと)。
【0079】
Cmax,ssに対する注入期間の作用を評価するために、単回100mg投与量のIV投与後に観測されたCBZ血漿中濃度を用い、モデル化およびシミュレーションを行った。PKモデルの適合度を評価する様々な診断プロットを基に、CBZ血漿中濃度は、肝臓、肺および脳のような高度に灌流された組織の指標である非常に迅速な組織分布相、脂肪組織のようなより深い組織浸透の指標である第二の分布相、およびより長期の消失相を示す3-コンパートメントモデルにより最も良く説明された(図4)。このモデル化の結果により、平均t1/2(α)およびt1/2(β)は迅速(各々およそ2分およびおよそ65分)であることが明らかになり、それによって、一旦注入が停止されるとCBZの血漿レベル上昇が短寿命(short-lived)であることが示される。母集団の平均終末相t1/2(γ)はおよそ28時間であり、これはノン-コンパートメント解析を基にした値と同等である(表3)。この薬物動態が線形かつ定常である(stationary)と仮定し、各対象のPKモデルから予測されたパラメータを使用して、注入期間のCBZ Cmax,ssに対する作用を決定するために定常状態でシミュレーションを行った(図5)。これらの結果は、注入期間が増大するにつれて、平均Cmax,ssの減少を示した(定常状態条件下で投与された平均IV投与量150mgを基にした)。60分間注入後の平均のモデル化されたCmax,ss値は10.68μg/mLであり、これに比べ、30分間注入後は10.04μg/mL、15分間注入後は11.69μg/mLであった。注入期間を15分から1時間に増加した場合、平均Cmax,ss値の約13%のみしか減少しなかった。
【0080】
特に、図5に示された典型的値シミュレーション(150mg IV投与量)からのピーク濃度は、表9に報告された倍率変更された観測IV Cmax,ssのそれとは同等であるが、わずかに異なった(各々、およそ9.50μg/mLおよび11.75μg/mL)。モデル依存型予測(図6)は、真の最大濃度の時点をより正確に捕らえるのに対し、倍率変更された観測値(表9)は、採取時点によって左右される。注入終了時と次の採取時の間の経過時間の中央(最大)値は、5.3(38.0)分間であった。t1/2(α)が2.2分間であると、濃度のかなりの崩壊がこの時点で生じるであろう。完全な母集団に関して、注入終了後に観測されたCmax,ssに対する実際の中央(最大)時間は、5.8(240)分間であった。加えて全てのモデル化された注入は、正確に15分の持続期間であった。実際の注入期間が15分よりも大きい場合、Cmax,ssは、このモデルで予想されるよりもより小さいであろう。最後に、図5でモデル化した典型予測値は、モデルパラメータおよび典型的投与量(150mg、F=0.70を仮定する平均の調節されたIV投与量)の各個人のセットを使用し、ここで倍率変更された観測値は、各観測された濃度での重ね合わせ法の適用と共に、個人の投与量の範囲を基にしている。図6に示されたように、平均Cmax,ss値は、30分および60分の注入で類似している。
【0081】
本発明は、それらの精神または本質的特徴から逸脱しない限りは、他の特定の形式を具体化することができる。従って全ての点において、本発明の態様は例証でありかつ限定ではないと考えられ、本発明の範囲は、前述の説明よりもむしろ、添付の特許請求の範囲により示され、従って添付の特許請求の範囲の意味および同等物の範囲内である変更は、本発明に包含されることが意図されている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾されたシクロデキストリンと複合されたカルバマゼピンを含有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体。
【請求項2】
前記修飾されたシクロデキストリンが、スルホアルキル-シクロデキストリンである、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記修飾されたシクロデキストリンが、スルホブチルエーテル-7-β-シクロデキストリンである、請求項1または2記載の複合体。
【請求項4】
濃度約5〜約50mg/mlのカルバマゼピンを有する、請求項1記載の複合体。
【請求項5】
濃度約10mg/mlのカルバマゼピンを有する、請求項1記載の複合体。
【請求項6】
投薬が、経口維持投与量の約30%〜約100%である、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体。
【請求項7】
前記投薬が、経口維持投与量の約65%〜75%である、請求項6記載の複合体。
【請求項8】
約8〜約65時間の半減期を有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体。
【請求項9】
約24時間の半減期を有する、請求項8記載の複合体。
【請求項10】
経口カルバマゼピン剤形の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)の約70%〜約130%であるAUCを有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体。
【請求項11】
経口カルバマゼピン剤形のAUCの約80%〜約125%であるAUCを有する、請求項10記載の複合体。
【請求項12】
経口カルバマゼピン剤形の最小血漿中濃度(Cmin)の約70%〜約130%のCminを有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体。
【請求項13】
経口カルバマゼピン剤形のCminの約80%〜約125%のCminを有する、請求項12記載の複合体。
【請求項14】
4〜12時間毎の静脈内投与間隔を有する、カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体。
【請求項15】
6時間毎の静脈内投与間隔を有する、請求項14記載の複合体。
【請求項16】
8時間毎の静脈内投与間隔を有する、請求項14記載の複合体。
【請求項17】
カルバマゼピンの非経口投与に有用なカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を投与する方法であり、以下の工程を含む方法:
1)カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を提供する工程;および
2)該複合体を、それを必要とする患者へ4〜12時間毎に静脈内注入する工程。
【請求項18】
前記注入の期間が約5〜約60分間にわたる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記注入の期間が30分間にわたる、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記注入の期間が5分間にわたる、請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記注入が6時間毎に行われる、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記注入が8時間毎に行われる、請求項17記載の方法。
【請求項23】
修飾されたシクロデキストリンおよびカルバマゼピンを生理的に許容できる液体中に混合してカルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を形成することによる、カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を調製する方法。
【請求項24】
前記カルバマゼピン-シクロデキストリン包接複合体を滅菌する工程をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記生理的に許容できる液体が等張性である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記修飾されたシクロデキストリンがスルホアルキル-シクロデキストリンである、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記修飾されたシクロデキストリンがスルホブチルエーテル-7-βシクロデキストリンである、請求項23記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40195(P2013−40195A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−230330(P2012−230330)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【分割の表示】特願2008−533754(P2008−533754)の分割
【原出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(508095119)ルンドベック エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】