説明

新規15O標識モノサッカリドおよびその製造方法

本発明は、陽電子放出断層撮像法(PET)に有用な新規15O標識モノサッカリドおよびその製造方法に関する。1つの局面において、本発明は、そのモノサッカリド分子のヒドロキシメチル基にて15Oで標識されている、15O標識モノサッカリドを提供する。別の局面において、本発明は、15Oモノサッカリドを製造するための方法を提供し、この方法は、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基のヒドロキシル基がハロゲンで置換されているモノサッカリドを、有機スズ化合物および還元剤の存在下で15O酸素と反応させる工程を包含し、ここで、該反応は、ラジカル開始剤の非存在下または該ハロゲン化モノサッカリドベースで0.3当量以下のラジカル開始剤の存在下で行い、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている15O標識モノサッカリドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出断層撮像法(PET)に有用な新規15O標識モノサッカリドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出断層撮像法(PET)は、非侵襲性の生体画像化技術であり、これは、脳および心臓等の種々の器官の機能または疾患を診断するために使用され得る。PETでは、放射活性トレーサーを被験体に投与し、その被験体体内におけるトレーサーの分布を測定する。今日まで、[18F]2−フルオロ−2−デオキシグルコース(FDG)が最も有用なPETトレーサーとして使用されてきた。FDGは、糖代謝を定量的に測定するために使用され得、脳の研究や癌の診断のために発展的な改良がなされている。しかし、1日当たりのPET測定の回数は、18Fの長い半減期(110分)に起因して制限される。さらに、18F標識化合物は非天然のものであるため、体内の18F標識化合物の挙動は、その対応する天然の化合物の挙動と異なる。さらに、C1位において15Oで標識したグルコースの合成が試みられてきたが、このような15O標識グルコースは合成することができなかった。さらに、グルコース分子のC1位のOH基は、不安定であり、血中で容易にH2Oと交換反応に供される。従って、このような標識グルコースは、PET測定に適切なものでなかった。
【特許文献1】国際公開WO98/34983号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、このようなPET用の従来の標識化合物の欠点を克服するために、新規15O標識モノサッカリドおよびその製造方法を確立した。本発明の15O標識モノサッカリドを製造する方法は、WO98/34983に記載のアルコール製造法に一部基づく。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの局面において、本発明は、そのモノサッカリド分子のヒドロキシメチル基にて15Oで標識されている、15O標識モノサッカリドを提供する。
【0005】
別の局面において、本発明は、15Oモノサッカリドを製造するための方法を提供し、この方法は、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基のヒドロキシルがハロゲンで置換されているモノサッカリドを、有機スズ化合物および還元剤の存在下で15O酸素と反応させる工程を包含し、ここで、該反応は、ラジカル開始剤の非存在下または該ハロゲン化モノサッカリドベースで0.3当量以下のラジカル開始剤の存在下で行い、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている15O標識モノサッカリドを提供する。
【0006】
別の局面において、本発明は、被験体の全身、器官または組織を診断する方法を提供し、該方法は、上記15O標識モノサッカリドを被験体に投与して、該被験体中の15O標識モノサッカリドの代謝を測定する工程を包含する。
【0007】
別の局面において、本発明は、15O標識モノサッカリドを製造するためのキットを提供し、該キットは、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基のヒドロキシルがハロゲンで置換されているモノサッカリド、有機スズ化合物および還元剤を備え、該キットは、該有機スズおよび還元剤の存在下で該ハロゲン化モノサッカリドを15O酸素と反応させて、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている15O標識モノサッカリドを製造するために使用される。
【0008】
本発明の方法を使用して、迅速かつ高収率で15O標識モノサッカリドを製造することが可能である。15Oは短い半減期(2分)を有しているので、本発明の15O標識モノサッカリドを使用して、被験体に対して1日当たり1回より多くの、かつ、その被験体に曝露される放射用量が極めて少量で、PET測定を行うことが可能である。さらに、体内での本発明の15O標識モノサッカリドの挙動は、18F標識化合物の挙動よりも、天然の化合物の挙動に類似する。さらに、本発明の15O標識モノサッカリドは、モノサッカリド分子のヒドロキシメチル基(すなわち、ヘキソースのC6位またはペントースのC5位
)が15Oで標識されているので、C1位が15Oで標識されているモノサッカリドよりも、体内でより安定である。従って、本発明の15O標識モノサッカリドをPET測定において使用して、より首尾よい画像化を達成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を、以下に詳細に記載する。
本発明に有用な「モノサッカリド」としては、当該分野で公知の任意のモノサッカリドおよびその誘導体が挙げられる。好ましくは、本発明に有用な「モノサッカリド」は、ヘキソースまたはペントースである。本発明に有用なヘキソースとしては、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−フルクトースおよびそれらの誘導体が挙げられる。本発明に有用なペントースとしては、D−キシロース、D−リボース、D−デオキシリボース、D−アラビノースおよびそれらの誘導体が挙げられる。好ましくは、本発明に有用な「モノサッカリド」は、D−グルコースまたはその誘導体、そして最も好ましくは、D−グルコースまたは2−デオキシ−D−グルコースである。
【0010】
用語「そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている」とは、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル(−CH2OH)基が15Oで標識され、−CH215[O]H基を形成していることを意味する。より詳細には、この用語は、例えば、そのモノサッカリドがヘキソースである場合、該ヘキソースのC6炭素上の遊離ヒドロキシルが15Oで標識されていることを意味し、そのモノサッカリドがペントースである場合、該ペントースのC5炭素上の遊離ヒドロキシルが15Oで標識されていることを意味する。
【0011】
本発明における「ハロゲンで置換されているモノサッカリド」または「ハロゲン化モノサッカリド」は、本発明の15O標識モノサッカリドを製造する方法において前駆体として使用される。これら各々の用語は、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基のヒドロキシルをハロゲンで置換することによって形成されるハロゲン化メチル基(−CH2X、Xはハロゲン原子)を有する、モノサッカリドをいう。
【0012】
本発明に使用されるハロゲン化モノサッカリド中の「ハロゲン」としては、クロロ、ヨード、ブロモなどが挙げられ、ヨードが本発明の目的のための最も好ましいハロゲンである。
【0013】
本発明に有用な「有機スズ化合物」としては、有機スズヒドリド(例えば、トリアルキルスズヒドリドおよびトリアリールスズヒドリド)ならびに有機スズハライド(例えば、トリブチルスズクロリド、ジブチル(t−ブチル)スズクロリドおよびトリアリールスズハライド(例えば、トリフェニルスズクロリド))が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、有機スズ化合物としては、トリアルキルスズヒドリドが挙げられる。最も好ましい有機スズ化合物は、トリブチルスズヒドリドである。
【0014】
本発明に使用される有機スズ化合物の量は、触媒量でよく、好ましくは、基質ハロゲン化モノサッカリドベースで、1.0〜6.0当量、より好ましくは、2.0〜5.0当量である。
【0015】
本発明に有用な「還元剤」としては、当該分野で公知の還元剤、例えば、ホスフィン、スルフィド、セレニド、テルニド、アルシン、スチバン、ビスムタンまたはそれらの誘導体、水素化ホウ素化合物が挙げられるが、これらに限定されない。本発明における使用に好ましい還元剤は、トリフェニルホスフィンである。
【0016】
本発明に使用される還元剤の量は、反応中に生成される過酸化物を還元するのに十分な量であり、好ましくは、基質ハロゲン化モノサッカリドベースで少なくとも1当量である。
【0017】
本発明に従う反応は、その反応を干渉しない種々の溶媒を使用して行われ得る。このような溶媒としては、フッ素溶媒(例えば、ベンゾフルオリド、ベンゾトリフルオリド、ペルフルオロデカリンなど)、アルコール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t−ブタノールなど)、BTX、およびエーテル(例えば、テトラヒドロフランなど)、並びにそれらの混合物などが挙げられる。当業者は、例えば、その反応系中のハロゲン化モノサッカリドや15O酸素の溶解度に基づいて、反応に適切な溶媒を選択し得る。好ましい溶媒は、フッ素溶媒とアルコールとの混合物である。
【0018】
本発明に使用される反応温度は、そのラジカル反応が進行可能な限り、特に限定されないが、その反応は、好ましくは、50℃以上、より好ましくは、75〜85℃で行われる。
【0019】
本発明に使用される15O酸素は、例えば、162および152を含むターゲットガスに対するサイクロトロンからのプロトン照射による核反応15N(p、n)15Oを発生させることによって、または、162および152を含むターゲットガスに対するサイクロトロンからの重水素照射による核反応15N(p、n)15Oを発生させることによって、生成され得る。次いで、生成された15O酸素を含むターゲットガスを、コールドキャリアガスと混合し、反応系に導入する(図3)。
【0020】
好ましくは、反応系中の15O酸素の導入の前に、酸素(162)を含むキャリアガスを反応系に導入し、ラジカル反応を開始させる。好ましくは、ラジカル反応の開始をモニターし、反応系への15O酸素の導入を、ラジカル反応の開始と同時に開始させる。ラジカル反応の開始は、当該分野で公知の分析技術(例えば、TLC)を使用して、当業者に容易にモニターされ得る。
【0021】
反応系中に導入してラジカル反応を開始させるコールドキャリアガス中の162の濃度は、好ましくは、少なくとも1.5%、より好ましくは、1.5%〜5.0%であるが、この濃度は、例えば、ラジカル反応の誘導時間のような反応条件に基づいて、当業者によって適切に調整される。ターゲットガス中の162の濃度は、好ましくは、コールドキャリアガス中の162の濃度と等量であるが、例えば、製造される15O標識モノサッカリドの収率に基づいて、当業者に適切に調整される。
【0022】
本発明の15O標識モノサッカリドを製造する方法において、ラジカル反応は、「ラジカル開始剤」を実質的に使用することなく誘導され得る。しかし、「ラジカル開始剤」を、反応を促進させるために、または、副生成物として還元体の生成を抑制するために、反応系に導入してもよい。「ラジカル開始剤」を本発明の方法において使用する場合、「ラジカル開始剤」の量は、ハロゲン化モノサッカリドベースで、好ましくは、0.3当量以下、より好ましくは、0.03当量以下である。
【0023】
本発明において使用するための「ラジカル開始剤」としては、AIBNおよびジベンゾイルペルオキシドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の15O標識モノサッカリドを製造する方法は、当該分野で公知の任意の反応容器を使用してか、または、当該分野で公知の任意の実験器具(例えば、ガラスフィルター)を使用して当業者に容易に作製され得る反応容器を使用して、実行され得る。例えば、本発明の方法に有用な好ましい反応容器は、以下の実施例に示されるような、底部にガラスフィルターを備える反応容器であり、そこでは、混合ガス中の15O酸素が、反応容器中に非常に均等にバブリングされ得る。このような反応容器は、本明細書中の教示を参照して、当業者に作製され得る。好ましくは、反応容器は、反応系中で15O酸素を十分に溶解させるために、長手方向に長い形態を有する。
【0025】
本発明の15O標識モノサッカリドを製造するためのキットは、ハロゲン化モノサッカリド、有機スズ化合物および還元剤を備え、該キットは、該有機スズ化合物および還元剤の存在下で該ハロゲン化モノサッカリドを15O酸素と反応させて、本発明の15O標識モノサッカリドを製造するために使用される。15O酸素は、例えば、被験体の診断が実施される施設(例えば、病院)に備えられたサイクロトロンから供給され得る。好ましくは、本発明のキットは、ハロゲン化モノサッカリドベースで、0.3当量以下のラジカル開始剤をさらに備える。1つの実施形態において、本発明のキットは、その中で反応を行い15O標識モノサッカリドを製造し得る、反応容器をさらに備える。好ましくは、この反応容器は、当該分野で公知の使い捨て可能なカセット形式の容器であり得、15O標識モノサッカリドを簡易かつ迅速に製造し得る。
【0026】
本発明の15O標識モノサッカリドを使用して、被験体の全身、器官または組織を診断し得る。該診断方法は、本発明の15O標識モノサッカリドを被験体に投与し、被験体中の15O標識モノサッカリドの代謝を測定する工程を包含する。このような測定は、陽電子放出断層撮像法のような、当該分野で公知の任意の医用画像化方法を使用して実施され得る。本発明の15O標識モノサッカリドを使用して診断される器官または組織としては、グルコースを活発に代謝する、脳、心臓または腫瘍組織が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、18Fの半減期より15Oの半減期がはるかに短いことに起因して、本発明の15O標識モノサッカリドを使用して、1人の被験体において経時的に糖代謝の日内変動を測定し得る。
【0027】
本発明の15O標識モノサッカリドを診断剤として使用する場合、好ましくは、反応生成物を精製し、反応混合物中の有機スズ化合物および還元剤が除去される。このような精製方法としては、シリカゲルカラム(例えば、Sep−Pak C18)やHPLCを使用する固相抽出法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の反応条件は上記に記載される。特定の反応を実施する場合、ハロゲン化モノサッカリドの構造や、有機スズ化合物の種類や量、その他の変数に従って反応条件を最適化する必要があるが、このような最適化は、当業者によって容易になされ得る事項である。さらに、本発明の15O標識モノサッカリドを製造する方法は、その分子中のヘキソース残基のC6炭素またはペントース残基のC5炭素上に遊離のヒドロキシル基を有する限り、ジサッカリド(例えば、マルトース、スクロース、ラクトース)およびオリゴサッカリドに対しても適用可能である。
以下の実施例で、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
(材料)
特に記載しない限り、化合物はそのままで使用した。
2−ブタノール(関東化学)は、使用前にCaH2から蒸留した。ベンゾトリフルオリド、ペルフルオロデカリンおよびAIBNを、Acros、Fluorochem Ltd.および和光純薬株式会社からそれぞれ購入した。n−Bu3SnHは、Aldrichより入手し、さらなる精製を行わずに使用した。N2/O2ガス(98.5/1.5)は、日本酸素株式会社から入手した。
【0030】
(装置)
2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコースおよび6−ヨード−6−デオキシ−D−グルコースのヒドロキシル化を、図1に示すガラスフィルター反応器で行った。Sep−PakカートリッジをWatersから購入した。サイクロトロンは、OSCAR−12(NKK/Oxford)である。ターゲットガスは、152中の1.5%O2から構成した。PETスキャンを、Planar Positoron Imaging System(平面陽電子放出断層撮像法システム)(浜松ホトニクス株式会社)で得た。
【0031】
(実施例1:2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコースの合成)
【化1】

2−デオキシ−D−グルコース(1)(Aldrich)(5.0g、30mmol)をフラスコに導入し、メタノール中のHCl溶液(10%、60ml)を添加した。得られた混合物を、50℃で一晩加熱した。室温に冷却後、炭酸銀を添加し、混合物を、CO2ガスの生成が終了するまで、激しく攪拌した。反応混合物をCelite(セライト)に通してろ過し、得られた溶液をエバポレートした。トルエン(20ml)をこの溶液に添加し、得られた混合物をエバポレートし、残留メタノールを除去した。トルエン(250ml)を、その濃縮残渣に添加し、溶解させ、イミダゾール(6.12g、90.0mmol)、トリフェニルホスフィン(11.8g、45.0mmol)およびヨウ素(11.5g、42.0mmol)を添加した。再度、トルエン(200ml)を添加し、得られた混合物を、70℃、N2フロー下で、2.5時間激しく攪拌した。反応が完了した後、反応容器中の上清を別の容器に移して、エバポレートした。他方、クロロホルムを、反応容器中のその粘着性固体成分に添加し、懸濁液を得て、その懸濁液をセライトに通してろ過した。ろ液をエバポレートし、そして先に得られた濃縮上清溶液と合わせた。合わせた溶液をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1、2回)に供し、5.9gの化合物3を得た。収率は、化合物1ベースで68%であった。
【0032】
化合物3(5.9g)をフラスコに入れ、硫酸(0.5M水溶液、200ml)を添加した。この溶液を、80℃で1.5時間攪拌した。室温に冷却後、炭酸水素ナトリウムをこの酸性溶液に一部ずつ注意深く添加し、この溶液を中和した。次いで、得られた混合物を、直接エバポレート(水浴温度40℃以下)した。溶液の量が約10〜20mlに減少した時点で、エバポレーションを停止した。メタノール(100ml)を得られた濃縮溶液に添加し、硫酸ナトリウムの白色固体を形成させた。この溶液をセライトに通してろ過し、ろ液を30℃以下でエバポレートした。濃縮された残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1)に繰り返し供し、4.2gの2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコース(化合物4)を得た。収率は、化合物1ベースで51%である。
【0033】
(実施例2:6−ヨード−6−ジデオキシ−D−グルコースの合成)
【化2】

D−グルコース(20.0g、0.111mol)を、1000mL丸底フラスコに入れ、ピリジン(300ml)を添加した。いくらかのグルコースは、溶解されずに残っていた。p−トルエンスルホニルクロリド(22.0g、0.115mol)を、周囲温度で添加した。11時間の攪拌後、無水酢酸(80ml、0.83mol)を一度に添加した。穏やかな発熱反応が生じた。1.5時間の攪拌後、混合物をエバポレートした。エタノール(200ml)を、残留油状物に添加した。この油状物は溶解し、すぐに白色結晶が現れた。この混合物を、27時間、−10℃で静置し、結晶をガラスフィルター上に収集し、冷エタノール(25ml、2回)で洗浄し、減圧下で乾燥させた。6−O−(p−トルエンスルホニル)−1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコース(化合物5)を、33%の収率(18.5g、36.8mmol)で得た。
【0034】
6−O−(p−トルエンスルホニル)−1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコース(5、18.5g、36.8mmol)を、500mL丸底フラスコに入れた。アセトン(200ml)およびヨウ化ナトリウム(18.5g、123mmol)を添加した。得られた混合物を、20時間、還流加熱した。反応は、徐々に進行した。混合物を、1000mlの水に注ぎ、得られた固体をガラスフィルターでろ過した。エタノールからの再結晶化により、6−デオキシ−6−ヨード−1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコース(化合物6)を、65%の収率(11.0g、24.0mmol)で得た。
【0035】
6−デオキシ−6−ヨード−1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコース(6、6.87g、15.0mmol)を、500mL丸底フラスコに入れた。硫酸(0.5M水溶液、150ml)およびアセトニトリル(30ml)を6に添加し、混合物を6.5時間、80℃で加熱した。室温に冷却後、炭酸水素ナトリウムを、この酸性溶液に注意深く一部ずつ添加した。中和を試験紙でチェックし、次いで、混合物を直接エバポレート(水浴40℃)した。溶媒の完全な除去前に(約10〜20ml)、メタノール(100ml)をフラスコに添加し、白色沈殿物が生成された。セライトでろ過し、ろ液を濃縮(水浴30℃)し、そしてシリカゲルカラム精製(クロロホルム:メタノール=3:1)して、6−デオキシ−6−ヨード−D−グルコース(化合物7)(2.16g、7.44mmol、50%)を得た。
【0036】
(実施例3:ガラスフィルター反応器中での2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコースのラジカルヒドロキシル化(1))
【化3】

実施例1で得られた2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコース(4)(162mg、0.600mmol)およびAIBN(2.4mg、0.015mmol)を、20mLバイアルに入れた。2−ブタノール(1.8ml)を添加し、そして4を溶解させた。次いで、ベンゾトリフルオリド(12.0ml)およびペルフルオロデカリン(2.7ml)を添加した。トリブチルスズヒドリド(485μl、1.80mmol)を、マイクロシリンジで導入した。通常のシリンジで添加すると、バブリング前に反応が開始し、化合物8のみが生じる可能性があるので留意する。この均質な溶液をパスツールピペットでガラスフィルター反応器に移した。次いで、この反応器を、混合ガス(N2/O2=98.5/1.5、200ml/分)をバブリングしながら、油浴(80℃)中に浸した。ガラスフィルターは、非常に微細な気泡を生じた。TLC分析を30秒毎に行い、反応が、実際には、加熱開始後1.5分の時点で開始し、4.0分の時点で完了したことが示された。7.0分後、この反応混合物を、トルエン(1.5ml)中のトリフェニルホスフィン(157mg、0.600mmol)の溶液に移した。反応器を10mlのエタノールで1回リンスした。減圧下で濃縮して、油状の粘性残渣の混合物が得られた。トルエン(10ml)を添加し、得られた上清を、Sep−Pak Cartridgeシリカ(長型、使用前に10mlトルエンで馴化)に通した。ここで、グリコシドからなる、このゴム状残渣は、トルエン中に溶解しなかった。スズとホスフィン化合物を含む溶出液が流れ出された。再度、トルエンをこのゴム状残渣に加え、トルエン層を同じカートリッジに通した。次いで、このカートリッジを、このトルエン溶液を吸い取るために使用した同じシリンジを使用して、メタノール(5ml+5ml)で洗浄した。メタノール性の溶出液を、このゴム状のグリコシドに添加した。エバポレーションおよび1H NMR測定(内部標準として1,1,2,2−テトラクロロメタン)によって、微量のスズおよびホスフィン不純物と共に、0.182mmolの2−デオキシ−D−グルコース(2−DG)(4ベースで31%、ラジカル反応中に溶液に通されたO2ベースで54%)および0.402mmol(67%)の8からなる混合物が得られた。
【0037】
(実施例4:ガラスフィルター反応器中での2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコースのラジカルヒドロキシル化(2))
本実施例で使用した方法は、実質的には、上記実施例3に示される方法と同じであった。α,α,α,−トリフルオロトルエン(20.0ml)/ペルフルオロデカリン(4.5ml)/2−ブタノール(3.0ml)中の4(270mg、1.0mmol)、トリブチルスズヒドリド(3.0mmol)およびAIBN(0.025mmol)の混合物を、N2/O2を同時にバブリングしながら(98.5/1.5、0分〜2分40秒の間は180ml/分、2分40秒〜6分20秒の間は200ml/分)、80℃で加熱した。TLC分析を30秒毎に行い、反応が、実際には、加熱開始後3分20秒の時点で開始し、6.5分の時点で完了したことが示された。7.0分後、トリフェニルホスフィン(1.0mmol)でのワークアップにより、ヒドロペルオキシドを2−DGに還元した。1H NMR測定によって、この混合物が、微量のスズおよびホスフィン不純物と共に、0.280mmolの2−DG(4ベースで28%、ラジカル反応中に溶液に通されたO2ベースで70%)および0.72mmol(72%)の8を含んでいることが確認された。
【0038】
(実施例5:ガラスフィルター反応器中での6−ヨード−6−ジデオキシ−D−グルコースのラジカルヒドロキシル化)
【化4】

実施例2で得られた6−ヨード−6−ジデオキシ−D−グルコース(7)(261mg、0.900mmol)およびAIBN(3.6mg、0.015mmol)を、20mLバイアルに入れた。2−ブタノール(3.5ml)を添加し、そして7を溶解させた。次いで、ベンゾトリフルオリド(15.0ml)およびペルフルオロデカリン(2.0ml)を添加した。トリブチルスズヒドリド(484μl、1.80mmol)を、マイクロシリンジで導入した。この均質な溶液をパスツールピペットでガラスフィルター反応器に移した。次いで、この反応器を、混合ガス(N2/O2=98.5/1.5、200ml/分)をバブリングしながら、油浴(80℃)中に浸した。TLC分析を30秒毎に行い、反応が、実際には、加熱開始後2.0分の時点で開始し、5.0分の時点で完了したことが示された。7.0分後、この反応混合物を、トルエン(2.0ml)中のトリフェニルホスフィン(236mg、0.900mmol)の溶液に移した。反応器を10mlのエタノールで2回リンスした。実施例3に示されるようなワークアップ、精製、およびNMR分析により、この混合物が、微量のスズおよびホスフィン不純物と共に、0.198mmolのグルコース(7ベースで22%、ラジカル反応中に溶液に通されたO2ベースで50%)、0.569mmol(63%)の9および0.137mmol(15%)の7を含んでいることが確認された。
【0039】
(実施例6:ガラスフィルター反応器中での2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコースのヒドロキシル化およびその後の迅速な精製)
動物への投与のためには、生成された2−DGを、スズ化合物およびホスフィン化合物から分離する必要がある。従って、本発明者らは、図2に示されるような精製系を構築し、この系を使用して、生成された2−DGを精製した。
反応を実施例3で示されるように4分間行った後、トリフェニルホスフィン(157mg、2mlのPhCF3中0.600mmol)をこの反応混合物に添加し、10秒間バブリングを継続した。水(3ml)を添加し、バブリングを20秒間継続した。全混合物をリザーバに移し、20秒間静置して、フッ素有機層上に水層(約2.3ml)を浮遊させた。下層を、減圧下でSep−Pak C18カートリッジ(10mlのPhCF3で馴化)に通して流し出した。溶出はこの2層の境界で停止させた。次いで、カートリッジの上側にある水層を、別のSep−Pak C18カートリッジ(10mlのメタノール、次いで、10mlの水で馴化)に通した。溶出液は、スズおよびホスフィンを含まない、2−DG(17%、0.103mmol)、4(微量)および8(47%、0.280mmol)の水溶液であった。
【0040】
(実施例7:15[O]2−デオキシ−D−グルコースを使用したPET画像化)
【化5】

PhCF3(20.0ml)/C1018(4.5ml)/2−BuOH(3.0ml)中の2,6−ジデオキシ−6−ヨード−D−グルコース(274mg、1.0mmol)、トリブチルスズヒドリド(807μl、3.0mmol)およびAIBN(4.0mg、0.025mmol)の溶液を、自動合成装置(図3)上の反応器に入れた。ターゲットガスへのプロトン照射(ビーム流50μA)を開始した(N2/O2=98.5/1.5、ターゲットガス圧=6kg/cm2)。照射の開始を、便宜上、0秒と規定した。2分40秒で、コールドガス(N2/O2=1773/3、180ml/分)を供給し、温度制御空気(80℃)での加熱を、同時に開始した。4分の時点で、ターゲットガスを、サイクロトロン系中のターゲットエリアから排出させた(20ml/分)。ターゲットガスはコールドN2/O2ガス(ターゲットガス/N2/O2=20/177/3、200ml/分)と混合され、次いで、この得られたガスを反応容器に供給した。4分40秒の時点で、検出器のRIカウンターがホットガスの到達を示した。5分20秒で、照射を停止させた。しかし、ターゲットガスの排出は継続させた。トリフェニルホスフィン(262mg、1.5mlのPhCF3中1.0mmol)を、6.0分の時点で添加した。6分10秒の時点で、全ての混合物を、反応器からSep−Pak Vac Silicaカートリッジ(10mlのPhCF3で馴化)(図3中のA)に移し、溶出物を除去した。続いて、生理食塩水(3.0ml)をこのSep−Pak Vac Silicaカートリッジに通した。溶出した水溶液を、Sep−Pak C18カートリッジ(10mlのアセトニトリルで、次いで、10mlの生理食塩水で馴化)(図3中のB)に通し、スズおよびホスフィンを含有しない、15[O]2−デオキシ−D−グルコース(15[O]2−DG)の水溶液(約3ml、15〜20mCi)を得た。
【0041】
ラットの画像化のために、1mlの15[O]2−DG溶液を、ラットの尾静脈から注射した。15[O]2−DGのPETスキャンは、投与後30分にわたって実行可能であった。15分から30分までの統合PET画像は、心臓、腎臓および膀胱中の15[O]2−DGの蓄積を示した(図4A)。15[O]2−DGとの比較のために、18[F]FDG−PETスキャンも行い、同じ期間での統合PET画像は、15[O]2−DGでの蓄積と同様の18[F]FDG−PETの蓄積を示した(図4B)。これらの画像は、15[O]H2Oの0秒から90秒までの初期血流の画像(図4C)および15分から30分までの画像(図4D)と明らかに異なった。同様の結果が、マウスの画像化によっても得られた(図5)。これらの結果は、15[O]2−DGが、18[F]FDGと同様に、PETトレーサーとして使用可能であることを実証する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、実施例のハロゲン化グルコースのラジカルヒドロキシル化に使用した、ガラスフィルター反応器を示す。この図中の数は長さ(mm)である。
【図2】図2は、15[O]2−デオキシ−D−グルコースの精製に使用した精製系を示す。
【図3】図3は、15O酸素の生成および反応系へのその導入に使用した、サイクロトロン系を示す。
【図4】図4は、いくつかの標識化合物を使用することによって実施したラットのPETスキャンの結果を示す。図4Aおよび4Bは、それぞれ、15[O]2−デオキシ−D−グルコースおよび18[F]FDGの投与後15分から30分の、統合PET画像を示す。図4Cおよび4Dは、それぞれ、[15O]H2O投与後0秒から90秒の初期血流および15分から30分のPET画像を示す。
【図5】図5は、いくつかの標識化合物を使用することによって実施したマウスのPETスキャンの結果を示す。図5Aおよび5Bは、それぞれ、15[O]2−デオキシ−D−グルコースおよび18[F]FDGの投与後15分から30分の、統合PET画像を示す。図5Cおよび5Dは、それぞれ、[15O]H2O投与後0秒から90秒の初期血流および15分から30分のPET画像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15O標識モノサッカリドであって、該モノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている、15O標識モノサッカリド。
【請求項2】
前記モノサッカリドがヘキソースまたはペントースである、請求項1に記載の15O標識モノサッカリド。
【請求項3】
前記モノサッカリドがD−グルコースまたは2−デオキシ−D−グルコースである、請求項1に記載の15O標識モノサッカリド。
【請求項4】
15O標識モノサッカリドを製造するための方法であって、該方法は、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基のヒドロキシルがハロゲンで置換されているモノサッカリドを、有機スズ化合物および還元剤の存在下で15O酸素と反応させる工程を包含し、ここで、該反応は、ラジカル開始剤の非存在下または該ハロゲン化モノサッカリドベースで0.3当量以下のラジカル開始剤の存在下で行い、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている15O標識モノサッカリドが提供される、方法。
【請求項5】
前記モノサッカリドがヘキソースまたはペントースである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記モノサッカリドがD−グルコースまたは2−デオキシ−D−グルコースである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲンがヨードである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記有機スズ化合物の量が前記ハロゲン化モノサッカリドベースで2.0〜5.0当量である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記有機スズ化合物が有機スズヒドリドである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記有機スズ化合物がトリアルキルスズヒドリドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記還元剤がホスフィンである、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記還元剤がトリフェニルホスフィンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反応工程において、15O酸素の導入前に、162を含むガスを該反応中に導入して、ラジカル反応を開始させる、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記ガス中の162の量が少なくとも1.5%である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
被験体の全身、器官または組織を診断する方法であって、請求項1〜3のいずれか1項に記載の15O標識モノサッカリドを被験体に投与し、該被験体中の15O標識モノサッカリドの代謝を測定する工程を包含する、方法。
【請求項16】
前記測定が陽電子放出断層撮像法によって行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記器官が脳または心臓である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記組織が腫瘍組織である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記15O標識モノサッカリドの代謝の日内変動が経時的に前記被験体において測定される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
15O標識モノサッカリドを製造するためのキットであって、該キットは、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基のヒドロキシルがハロゲンで置換されているモノサッカリド、有機スズ化合物および還元剤を備え、該キットは、該有機スズおよび還元剤の存在下で該ハロゲン化モノサッカリドを15O酸素と反応させて、そのモノサッカリド分子中のヒドロキシメチル基が15Oで標識されている15O標識モノサッカリドを製造するために使用される、キット。
【請求項21】
前記モノサッカリドがヘキソースまたはペントースである、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記モノサッカリドがD−グルコースまたは2−デオキシ−D−グルコースである、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記ハロゲンがヨードである、請求項20に記載のキット。
【請求項24】
前記有機スズ化合物の量が前記ハロゲン化モノサッカリドベースで2.0〜5.0当量である、請求項20に記載のキット。
【請求項25】
前記有機スズ化合物が有機スズヒドリドである、請求項20に記載のキット。
【請求項26】
前記有機スズ化合物がトリアルキルスズヒドリドである、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記還元剤がホスフィンである、請求項20に記載のキット。
【請求項28】
前記還元剤がトリフェニルホスフィンである、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記ハロゲン化モノサッカリドベースで0.3当量以下のラジカル開始剤をさらに備える、請求項20に記載のキット。
【請求項30】
請求項20に記載のキットであって、該キットは反応容器をさらに備え、該容器中で前記反応を行って15O標識モノサッカリドを製造し得る、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−536207(P2007−536207A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536905(P2006−536905)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【国際出願番号】PCT/JP2005/006547
【国際公開番号】WO2005/105708
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(597017258)
【Fターム(参考)】