説明

新規FKI−4905物質およびその製造方法

【課題】
抗結核菌活性を有する新規化合物、その製造方法、およびそれに用いる微生物を提供すること。
【解決手段】
本発明により下記式[I]で表される化合物である新規FKI-4905物質が提供される。この物質は、土壌より新たに分離されたモルティエレラ・アルピナFKI-4905菌株の培養液より得られる物質であり、優れた抗結核菌活性を有するため、抗結核薬として有用である。【化5】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗結核活性を有する新規FKI-4905物質およびその製造法、並びにこの物質の製造に使用する新規微生物に関する。FKI-4905物質は抗結核薬として結核の予防、治療に有用な物質である。
【背景技術】
【0002】
結核菌には全人類のおよそ1/3が感染していると推定され、年間166万人が結核症により死亡していることが報告されている。発展途上国はもちろんのこと、近年、先進国においても学校、医療機関、老人関連施設での集団感染およびエイズ患者の日和見感染症の原因菌として同定されるなど、人類を脅かす重大な問題と再認識されている。現在、抗結核薬として、イソニアジド、リファンピシン、カナマイシンやエタンブトールなどが使用されているが、耐性菌や副作用の問題から、新しい作用メカニズムを有する抗結核薬の開発が強く望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる実情において、抗結核薬として耐性菌や副作用の問題を解決し得る作用機構を有する物質が見出せれば、新しい医薬品としての人類への福音をもたらすことが期待される。本発明の目的は、このような期待を満足し得る結核菌に対して有効な新規物質およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記のごとき課題を解決すべく微生物の産生する代謝産物について研究を続けた結果、土壌から新たに分離されたFKI-4905菌株の培養液中に抗結核菌活性を有する物質が産生されることを見出した。次いで、該培養液中から抗結核活性を示す活性物質を分離精製した結果、後記の式[I]で示される化学構造を有する物質を見出した。このような化学構造を有する物質は従来まったく知られていないことから、本物質をFKI-4905物質と称することにした。
【0005】
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、下記式[I]で表される化合物であるFKI-4905物質に関する。
【0006】
【化1】

【0007】
本発明はさらに、モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI-4905物質を蓄積せしめ、該培養液からFKI-4905物質を採取することを特徴とする、FKI-4905物質の製造法に関する。
【0008】
上記方法において、モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物としては、モルティエレラ・アルピナ FKI-4905 (Mortierella alpina FKI-4905) (受領番号:NITE AP-705)であるのが好ましい。
【0009】
本発明はさらに、モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物、特に、モルティエレラ・アルピナ FKI-4905 (Mortierella alpina FKI-4905) (受領番号:NITE AP-705)に関するものである。
【0010】
また、本発明は、上記FKI-4905物質を有効成分として含有する医薬、特に、FKI-4905物質を有効成分として含有する抗結核薬を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗結核菌活性を有する新規FKI-4905物質が提供される。また、FKI-4905物質を製造するための、FKI-4905物質を生産する能力を有するモルティエレラ属に属する微生物、特にモルティエレラ・アルピナFKI-4905株が提供される。得られたFKI-4905物質は、従来の抗結核薬とは構造上かなり異なることから、新しい作用点を持つことが期待でき、結核の予防および治療薬として有用であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるFKI-4905物質の紫外部吸収スペクトル(メタノール溶液中)を示したものである。
【図2】本発明によるFKI-4905物質の赤外部吸収スペクトル(臭化カリウム法)を示したものである。
【図3】本発明によるFKI-4905物質のプロトン核磁気共鳴スペクトル(DMSO中)を示したものである。
【図4】本発明によるFKI-4905物質のカーボン核磁気共鳴スペクトル(DMSO中)を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のFKI-4905物質は、式〔I〕で表されるペプチドであり、本発明者らにより土壌から新たに分離されたFKI-4905菌株の培養液中から分離された新規物質である。
このFKI-4905物質は、微生物の培養により、あるいは化学合成により製造することができる。微生物を用いて製造するには、モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI-4905物質を蓄積せしめ、該培養液からFKI-4905物質を採取する。使用される菌株としては、一例として、本発明者等によって土壌より分離されたMortierella alpina FKI-4905 株が挙げられる。本菌株の培養性状を示すと以下の通りである。
1.形態的特徴
本菌株は、オートミール寒天培地、麦芽汁寒天培地、改変三浦寒天培地などで良好に生育し、各種寒天培地での胞子の着生は改変三浦寒天培地でのみ良好であった。
【0014】
改変三浦寒天培地に生育したコロニーを顕微鏡で観察すると、菌糸は透明で隔壁を有していない。胞子嚢柄(長さ100-300 μm)はしばしば気中菌糸上で直立、基部から先端にかけて次第に細くなり、先端に胞子嚢(直径15-30 μm)を形成。胞子は楕円形〜円筒形で無色となり、大きさ 5-7.5×2.5-3.5 μmであった。柱軸を欠く。
2 .培養性状
各種寒天培地上で、25℃、7 日間培養した場合の肉眼的観察結果を次表に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
3.生理的性状
1)最適生育条件
本菌株の最適生育条件は、pH 6〜7 、温度12.0〜26.0℃である。
【0017】
2)生育の範囲
本菌株の生育範囲は、pH 5〜8 、温度5.0 〜31.0℃である。
3)好気性、嫌気性の区別
好気性
上記FKI-4095株の形態的特徴、培養性状および生理的性状に基づき、既知菌種との比較を試みた結果、本菌株はモルティエレラ・アルピナ (Mortierella alpina) に属する一菌株と同定し、モルティエレラ・アルピナFKI-4905と命名した。なお本菌株はモルティエレラ・アルピナ FKI-4905 (Mortierella alpina FKI-4905) として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている(受領番号 NITE AP-705) 。
【0018】
本発明のFKI-4905物質を製造するには、上記モルティエレラ・アルピナFKI-4905株を用いるのが好ましいが、これに限定されることなく、該株の人工変異株や自然変異株も含めた、モルティエレラ属に属しFKI-4905物質を生産する能力を有する微生物であればすべて使用することができる。
【0019】
上記微生物の培養には、栄養源として微生物が同化し得る炭素源、消化し得る窒素源、さらに必要に応じて無機塩、ビタミン等を含有させた栄養培地が使用される。上記の同化し得る炭素源としては、グルコース、フラクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デキストリン、澱粉等の糖類、大豆油等の植物性油脂類が単独または組み合わせて用いられる。消化し得る窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粉、綿実粉、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、カゼイン、アミノ酸、尿素、アンモニウム塩類、硝酸塩類が単独または組み合わせて用いられる。その他必要に応じてリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩類、鉄塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩、亜鉛塩等の重金属塩類やビタミン類、その他FKI-4905物質の生産に好適なものが適宜添加される。
【0020】
培養するに当たり、発砲が激しいときには、必要に応じて液体パラフィン、動物油、植物油、シリコン等、界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。上記の培養は、上記栄養源を含有すれば、培地は液体でも個体でもよいが、通常は液体培地を用い、培養するのがよい。少量生産の場合にはフラスコを用いる培養が好適である。目的物質を大量に工業生産するには、他の発酵生産物と同様に、通気攪拌培養するのが好ましい。
【0021】
培養を大きなタンクで行う場合には、生産工程において菌の生育遅延を防止するため、はじめに比較的少量の培地に生産菌を接種培養した後、次に培養物を大きなタンクに移して、そこで生産培養するのが好ましい。この場合、前培養に使用する培地および生産培養に使用する培地の組成は、同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
培養を通気攪拌条件で行う場合は、例えばプロペラやその他機械による攪拌、ファーメンターの回転または振とう、ポンプ処理、空気の吹き込み等、既知の方法が適宜使用される。通気用の空気は滅菌したものを使用する。
【0023】
また、培養温度はFKI-4905物質の生産菌がこれら物質を生産する範囲内で適宜変更し得るが、通常は20〜30℃、好ましくは27℃前後で、適宜振とう培養と静置培養を単独または組み合わせて培養するのがよい。培養時間は培養条件によっても異なるが、FKI-4905物質の生産には、振とう培養するのが好ましく通常は4〜7日程度である。
【0024】
培養物に蓄積された本発明の新規物質を採取するには、微生物培養物から代謝産物を採取するのに通常使用される方法を用いることができる。例えば、有機溶媒による抽出、濃縮、乾燥、吸着、濾過、遠心分離、クロマトグラフィーなどの方法により目的物質を分離・精製する。
【0025】
こうして得られる、本発明のFKI-4905物質の理化学的性状は以下の通りである。
(1)性状:白色粉末
(2)分子式:C38H57O8N9
HRFAB-MS (m/z) [M+H]+ 計算値768.441,実測値768.438
(3)分子量:767
(4)紫外部吸収スペクトル:メタノール溶液中で測定した紫外部吸収スペクトルは図1に示すとおりであり、λmax (MeOH,ε): 201 (11698) nm の吸収を示す。
(5)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外吸収スペクトルは図2に示すとおりであり、νmax 3432, 3288, 1673, 1633, 1540, 1446cm-1等に特徴的な吸収極大を示す。
(6)比旋光度: [α] D 22 −3.12°(c=0.05、メタノール)
(7)溶剤に対する溶解性:DMSOに易溶。メタノール、水に可溶。
(8)プロトン及びカーボン核磁気共鳴スペクトル:重DMSO中で、バリアン社製400MHz核磁気共鳴スペクトロメータで測定した水素の化学シフト(ppm )及び炭素の化学シフト(ppm )は下記に示すとおりである。
δH : 0.72 (3H), 0.75 (3H), 0.77 (3H), 0.80 (3H), 1.05 (1H), 1.16 (1H), 1.17 (1H), 1.26 (1H), 1.27 (1H), 1.34 (1H), 1.66 (1H), 1.70 (2H), 1.71 (1H), 1.80 (1H), 1.84 (1H), 1.85 (1H), 2.07 (1H), 2.82 (1H), 2.96 (1H), 3.00 (1H), 3.01 (1H), 3.02 (1H), 3.14 (1H), 4.06 (1H), 4.26 (1H), 4.31 (1H), 4.36 (2H), 4.55 (1H), 7.24 (2H), 7.26 (1H), 7.30 (2H), 7.34 (1H), 7.79 (1H), 7.83 (1H), 7.92 (1H), 7.97 (1H), 8.42 (1H), 8.57 (1H), 8.79 (1H) ppm
δC : 11.6, 14.5, 21.4, 23.1, 23.8, 25.7, 27.6 (2C), 27.7, 28.8, 30.1, 31.2, 36.6, 37.3, 40.7, 40.8, 51.2, 51.4, 51.6, 52.2, 53.5, 56.2, 117.2, 127.2, 128.6 (2C), 129.5 (2C), 130.5, 134.2, 134.9, 167.9, 169.8, 170.0, 171.1, 171.5, 173.9, 174.1 ppm
(9)ニンヒドリン試薬:陽性
以上のように、FKI-4905物質の各種理化学性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果 FKI-4905 物質は下記の式[I]で表される化学構造であることが決定された。
【0026】
【化2】

【0027】
さらにFKI-4905物質を酸加水分解し、高野らの方法(分析化学、Vol.52、N0.1、pp.35-40、2003年)(分析化学、Vol.53、N0.12 、pp.1570-1514、2004年)を改変し構成アミノ酸の絶対立体配置を決定した。
【0028】
酸加水分解は、気相法により行った。サンプルチューブにFKI-4905物質 1 nmol を入れ、減圧乾固した。チューブを反応バイアルに移して、6 N 塩酸 100μL をチューブに入らないよう反応バイアルに加えた。バイアル内を窒素でパージした後、減圧して 130℃に設定したオーブンに入れ、3 時間加熱することにより酸加水分解した。これを 100 mM 塩酸 100μL に溶解させ、試料溶液とした。
【0029】
0.2 M ホウ酸緩衝液(pH 10 )、37μM OPA /0.2 M ホウ酸緩衝液(pH 10 )、43μM NAC /0.2 M ホウ酸緩衝液(pH 10 )、試料溶液を2:1:1:1 の比率になるように混ぜ合わせ、OPA アミノ酸へと誘導化し、HPLC( カラム : TSKgel Super-ODS 、4.6 φ× 100 mm 、東ソー) により蛍光検出(蛍光検出器:FS-8010 、東ソー)を行った。溶離液としては、40 mM 酢酸緩衝液(pH 6.6)とメタノール溶液を用いて、 0分(メタノール溶液:0%)- 60分(メタノール溶液:20% )- 110 分(メタノール溶液:60% )- 115 分(メタノール溶液:80% )- 125 分(メタノール溶液:80% )- 130 分(メタノール溶液:0%)のグラジエント条件下で分析を行った。標準アミノ酸(Phe 、Leu 、His 、Glu 、Ile 、Lys )の Dおよび L体が分離する条件下で試料を分析した結果、FKI-4905物質の構成アミノ酸の絶対立体が N末端から D-Phe、L-Leu 、L-His 、D-Glu 、D-allo-Ile、L-Lys であることが決定された (下記式〔II〕) 。
【0030】
【化3】

【0031】
本発明のFKI-4905物質の生物学的性状については、後出の試験例において実証されるように優れた抗結核菌活性を有する。従って、結核の予防、治療に有用であることが期待できる。
【0032】
本発明の新規物質を抗結核薬などの医薬品として用いる場合は、この物質を有効成分とし、慣用の担体や賦形剤、必要に応じ結合剤、崩壊剤、滑沢剤、緩衝剤、懸濁化剤、安定化剤、pH調節剤、着色剤、矯味剤、香料などを添加し、常法により製剤化して、溶液、懸濁液、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などにすればよい。
【0033】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
FKI-4905物質の製造
寒天斜面培地 (Glycerol 0.1 % (関東化学) 、KH2PO4 0.08 % ( 関東化学) 、K2HPO4 0.02 % (関東化学) 、MgSO4 ・ 7H2O 0.02 % ( 和光純薬) 、KCl 0.02 % (関東化学) 、NaNO3 0.2 % (和光純薬) 、Yeast extract 0.02% (オリエンタル酵母)、agar 1.5 %(清水食品)、pH 6.0に調製) で培養したFKI-4905株を、種培地 (グルコース 2 % (関東化学) 、ポリペプトン 0.5 % (和光純薬) 、MgSO4 ・7H2O 0.05 % ( 和光純薬) 、Yeast extract 0.2 % ( 日水製薬) 、KH2PO4 0.1 % (関東化学) 、Agar 0.1% (清水食品)pH 6.0に調整) 10 mL を分注した大試験管に一白金耳ずつ接種し、27°C で 3日間ロータリーシェイカー (210 rpm)で培養した後、生産培地 (Soluble starch 3.0 % (関東化学) 、Glycerol 1.0 % (関東化学) 、Soy Bean Meal 2.0 % (清水食品) 、Dry yeast 0.3 % ( 極東製薬) 、KCl 0.3 % (関東化学) 、CaCO3 0.2 % (関東化学) 、MgSO4 ・7H2O 0.05 % (和光純薬) 、KH2PO4 0.05 % (関東化学) pH 6.0に調整) 1 L を分注した 500 mL 容三角フラスコに 1% 植菌し、27°C で 4日間振とう培養を行った。
【0035】
培養終了後、この培養液 (1 L)にエタノール(1 L )を加え、1時間撹拌後抽出液を得た。さらに、水(2 L )を加え希釈することにより、培養抽出液(4 L )とした。この培養抽出液をODS カラムクロマトグラフィー(センシュー科学社製、40 g)にて粗精製を行った。30 %、60 %、100 % アセトニトリル水溶液を展開溶媒とするクロマトグラフィーを行い、溶出液を各条件で500 mLに分画した。FKI-4905物質を含む画分(60 %アセトニトリル水溶液)を濃縮することで、褐色物質(140 mg)を得た。これを少量の DMSO に溶解し、分取 HPLC ( カラム : PEGASIL ODS、20φ× 250 mm 、センシュー科学) により最終精製を行った。移動相に20〜40 %アセトニトリル水溶液(0.05% トリフルオロ酢酸(TFA ))を用いて 40 min のグラジエント条件下、6 mL/minの流速において、UV 210 nm の吸収をモニターした。保持時間 31 min に活性を示すピークを観察し、このピークを分取して分取液を減圧下濃縮し白色粉末のFKI-4905成分を収量 13 mgで単離した。
【0036】
(参考例)
FKI-4905物質からのペンタペプチド誘導体の調製
FKI-4905物質 63 μg を反応容器に入れ、乾固させた後、50 %ピリジン 100μL を加え、FKI-4905物質を溶解した。次に、フェニルイソチオシアネート 5μL を加え、反応容器内を十分に窒素置換した後、ミキサーで20〜30秒間振盪し、55℃のヒーターで20分間反応させた。この反応液より過剰の試薬を200 μL のベンゼンで 3回抽出して取り除き、さらに水層をドライヤーで加熱しながら窒素ガスにより乾燥させサンプルを回収した。これを TFA 50 μL に溶解させ、反応容器内を窒素置換した後、55℃のヒーターで 5分間反応させた。窒素ガスで TFAを除去した後、蒸留水 20 μL とベンゼン 200μL に溶解させ、遠心分離し、ベンゼン層を別容器に移した。このベンゼン抽出を 2回繰り返しサンプルを回収した。これを少量のメタノールに溶解し、分取 HPLC (カラム:TSKGEL SUPER-ODS、4.6 φ× 100 mm 、東ソー)により精製を行った。移動相に10〜30 %アセトニトリル水溶液(0.05% TFA )を用いて 40 min のグラジエント条件下、0.7 mL/minの流速において、UV 210 nm の吸収をモニターした。保持時間 22 min に溶出されるピークを分取して分取液を減圧下濃縮し、ペンタペプチド誘導体を収量 13.0 μg で単離した。この際の収量は、得られたペンタペプチド誘導体の一部を加水分解し、上記で述べた絶対立体の解析と同じ方法を用いて OPA誘導体化した後 HPLC 分析することにより、含有されるアミノ酸量を標品との比較から定量することにより算出した。また、得られたペンタペプチド誘導体は、アミノ酸の組成解析により、FKI-4905物質のアミノ末端のフェニルアラニンが欠失した構造であることが判明した。
【0037】
(試験例1)
本発明のFKI-4905物質の抗結核菌活性を以下の2種類の方法で測定した。
(1)ペーパーディスク法による抗結核菌活性の測定
Middlebrook 7H9 broth (Middlebrook 7H9 broth (DIFCO) 、Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monooleate 0.5% (和光純薬) )5 mLを入れた細胞培養用フラスコT25 (Corning)にMycobacterium smegmatis (北里大学北里生命研究所の保管株)を一白金耳植菌し、37℃、30時間静置培養した。この培養液をMiddlebrook 7H9 broth で10倍希釈(1.5 ×108 CFU/ml相当)した接種用の菌液を滅菌綿棒(川本産業社)を用いてMiddlebrook 7H9 寒天培地(Middlebrook 7H9 broth (DIFCO) 、agar 1.5% ( 清水食品) 、Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monooleate 0.5% (和光純薬) 、ADC Enrichment 10 % (DIFCO ))に塗抹した。活性はペーパーディスク法(薄手6 mm、ADVAVTECH 社製)により評価し、37℃、30時間培養後に阻止円を測定した。
【0038】
その結果、本発明のFKI-4905物質は5 μg /6 mmディスクの条件下で20 mm の阻止円を示した。これに対し、実施例2で調製したペンタペプチド誘導体は同条件下において、阻止円を全く示さなかった。このことより、本物質中のフェニルアラニン残基は活性に大きな影響を及ぼすことが明らかとなり、ペプチド鎖長の重要性が予想された。
(2)液体培養法による抗結核菌活性
MIC 測定は、微量液体希釈法により行った。96穴マイクロプレートに Middlebrook 7H9 broth 90 μL /wellを分注し、あらかじめ調整しておいたサンプルの 2段階希釈系列(終濃度 0.001〜50μg /mL)を各 5μL /wellずつ分注し、さらに(1)と同じ方法により調整した接種用の菌液を5 μL /wellずつ加えて混合し、37℃、30時間培養後、菌の生育の見られない濃度を測定し MIC値を判定した。
【0039】
その結果、本発明FKI-4905物質はMIC 0.78μg /mL(1.02μM )を示した。なお、イソニアジド (INH)の MIC値を同様の方法にて判定したところ MIC 1.56 μg /mL(11.39 μM )を示した。従って、本発明のFKI-4905物質は、イソニアジドと比べても優れた抗結核菌活性を示すことが明らかである。
【受託番号】
【0040】
受領番号:NITE AP-705


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]で表される化合物であるFKI-4905物質。
【化4】

【請求項2】
モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中にFKI-4905物質を蓄積せしめ、該培養物からFKI-4905物質を採取することを特徴とする、FKI-4905物質の製造法。
【請求項3】
モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物が、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina) FKI-4905 (NITE AP-705) である請求項2記載の製造法。
【請求項4】
モルティエレラ属に属し、FKI-4905物質を生産する能力を有する微生物。
【請求項5】
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina) FKI-4905 (NITE AP-705) である、請求項4記載の微生物。
【請求項6】
請求項1記載のFKI-4905物質を有効成分として含有する医薬。
【請求項7】
請求項1記載のFKI-4905物質を有効成分として含有する抗結核薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−202571(P2010−202571A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49154(P2009−49154)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】