説明

新規MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)

【課題】 本発明は、ヒトおよびマウスにおいて新規MAPKKKを提供することを課題とする。本発明はまた、ヒトやマウスにおける新規MAPKKKを阻害することで、アポトーシスに関連する疾患の安全でより効果のある予防・治療剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の発明者らは、ヒトまたはマウスに由来する、MAPKKKとして機能する新規タンパク質を提供し、併せて、この新規タンパク質のキナーゼ活性を阻害または促進することで、JNK/p38シグナル伝達経路を阻害または促進し、アポトーシスの促進または抑制が関連する疾患においてアポトーシスを抑制または促進することができ、その結果そのような疾患を治療・予防することができることを示し、その結果新規タンパク質のキナーゼ活性を阻害または促進させる剤を含む医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシス(細胞死)を誘導する新規のMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)を提供することに関する。本発明はまた、本酵素を阻害することによるアポトーシスの促進と関連する疾患の予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マイトジェン活性化タンパク質(Mitogen-activated protein;MAP)キナーゼによるシグナル伝達カスケードは、酵母から脊椎動物に至るまでよく保存された細胞内シグナル伝達経路であり、MAPキナーゼ(MAPK)、MAPKキナーゼ(MAPKK)およびMAPKKキナーゼ(MAPKKK)を含むタンパク質キナーゼの3つの異なるメンバーより構成される。これらの分子は順番に、MAPKKKはMAPKKをリン酸化し、これによりMAPKKがリン酸化されて活性化され、活性化型MAPKKはMAPKをリン酸化し、これによりMAPKが活性化される。活性化されたMAPKは、細胞核へ移動し、転写因子の活性を調節し、それによって種々の遺伝子発現が制御されることが知られている。
【0003】
哺乳動物の細胞中におけるMAPKシグナル伝達経路には、p38が関与するシグナル伝達経路と、JNKが関与するシグナル伝達経路、ERKが関与するシグナル伝達経路などの、複数のMAPKKK-MAPKK-MAPKシグナル伝達経路が機能していることが明らかになった。これらの一群のキナーゼは、増殖、分化、細胞死などで重要な役割を担っていることが培養細胞を用いた研究から示唆されている。これらのMAPKのうち、p38とJNKは、高浸透圧、加熱、紫外線照射、炎症性サイトカインなどの刺激によって活性化されることからストレス応答型と位置づけられている分子である。
【0004】
ストレス応答型MAPKであるp38とJNKを活性化させる上流のシグナル伝達機構としては、MAPKKとしてp38シグナル伝達経路で機能するMAPKKであるMKK3/MKK6やJNKシグナル伝達経路で機能するMAPKKであるMKK4/MKK7が知られている。それに加えて、本発明の発明者らは、ストレス応答型MAPキナーゼであるp38とJNKを活性化させる上流MAPKKKとして、ASK1(Apoptosis Signal-regulating Kinase 1)をクローニングし、その作用機序を明らかにした(特許文献1;特許文献2;非特許文献1;非特許文献2)。すなわち、これらの文献によれば、ASK1は、MKK3/MKK6またはMKK4/MKK7をリン酸化する能力を有しており、ASK1が、JNKシグナル伝達経路またはp38シグナル伝達経路の活性化の結果、アポトーシスを促進している可能性があることが示唆された。
【0005】
さらに、ASK1に相同性を有するASK2の存在も明らかにされた(非特許文献3;DDBJ登録番号AB167411(ヒトASK2)およびAB021861(マウスASK2))。そして、このASK2もまた、ASK1と同様にMAPKKK活性を有し、JNKシグナル伝達経路またはp38シグナル伝達経路を活性化することができることが明らかにされた(非特許文献3)。
【特許文献1】特開平10-93号公報
【特許文献2】WO02/38179
【非特許文献1】Ichijo et al., Science, 275, 90-94, 1997
【非特許文献2】Nishitoh et al., Genes & Development, 16, 1345-1355, 2002
【非特許文献3】Wang et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 253, 33-37, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒトまたはマウスにおける新規MAPKKK分子を提供することを課題とする。本発明はまた、本発明の新規MAPKKK分子の活性を阻害または促進することで、アポトーシス
の促進または抑制と関連する疾患の安全でより効果のある予防・治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、ヒトHEK-293細胞およびマウス胎児線維芽細胞のcDNAから、セリン/スレオニンキナーゼ領域を含む、新規アミノ酸配列を有するタンパク質を見いだし、この分子の細胞内における詳細な機能を解析した結果に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明者らは、一態様において、
(a)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列;または(b)SEQ ID NO:
2またはSEQ ID NO: 4に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有するアミノ酸配列;からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質、あるいは
(c)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAによりコードされるアミノ酸配列;または(d)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNA、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAによりコードされるアミノ酸配列;からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質
を提供する。
【0009】
本発明はさらに、SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4で示されるアミノ酸配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質もまた、提供する。
【0010】
本発明者らは、別の一態様において、上述した新規MAPKKKに関して
(a)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;または(b)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有し、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA、あるいは
(c)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNA;または(d)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA
もまた、提供する。
【0011】
本発明においてさらに、SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3で示される塩基配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の塩基配列相同性を有する塩基配列からなるDNAであって、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAもまた、提供する。
【0012】
本発明においては、さらに別の一態様において、上述したMAPKKK活性を有するタンパク質の機能を阻害することにより、JNKまたはp38経路が関与するストレス誘導性アポトーシスを阻害し、結果としてアポトーシスの促進が関連する疾患を治療・予防することができる。すなわち、本発明は、MAPKKK阻害剤を含む、アポトーシスの促進が関連する疾患を治療または予防するための医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明においては、さらに別の一態様において、上述したMAPKKK活性を有するタンパク質の機能を促進することにより、JNKまたはp38経路が関与するストレス誘導性アポトーシスを促進し、結果としてアポトーシスの抑制が関連する疾患を治療・予防することができる。すなわち、本発明は、MAPKKK促進剤を含む、アポトーシスの抑制が関連する疾患を治
療または予防するための医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに、SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に示されるタンパク質に対して結合する抗体を提供する。この抗体は、既知のMAPKKK、ASK1およびASK2に対しては結合しないという特徴を有していてもよい。
【0015】
本発明はさらに、別の一態様において、本発明のMAPKKK活性を有するタンパク質に関して明らかになった新規の用途に基づいて、ASK3の活性を調節することができる物質を含む、家族性高カリウム性高血圧症PHAIIを治療するための医薬組成物もまた提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ヒトまたはマウスに由来する、新規MAPKKKを提供することができる。本発明はまた、この新規タンパク質のキナーゼ活性を阻害または促進することで、JNK/p38シグナル伝達経路を阻害または促進し、アポトーシスの促進または抑制が関連する疾患においてアポトーシスを抑制または促進することができ、その結果そのような疾患を治療・予防することができることを示し、その結果新規タンパク質のキナーゼ活性を阻害または促進させる剤を含む医薬組成物を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0017】
新規分子のクローニング
マウスASK1 cDNAの塩基配列を用いたホモロジー検索の結果、いずれもマウスX染色体上にマップされる、2つのマウス由来EST(Expressed Sequence Tag)が得られ、さらにそれらのESTをコードする領域の近傍のゲノム配列を詳細に検討したところ、アミノ酸に変換した際にASK1のC末端領域と相同性をもつ塩基配列を見いだした。
【0018】
これらの配列情報をもとに、本発明においてはまず、複数のPCR用プライマーを設計・調製し、マウス細胞(例えば、マウス胎児線維芽細胞;MEF細胞)から作製したcDNAを鋳型としてPCRをおこない、目的とする未知の遺伝子の一部を得ることができる。これらの遺伝子の一部を、互いに重複する配列部分に基づいて、断片をつなぎ合わせてより長い配列を得ることもできる。また、得られた配列断片の内部にプライマーを設計・調製し、それを用いて5'RACEや3'RACE等の末端伸長を目的として増幅反応を行うこともまた可能である。
【0019】
このようにして、PCR、およびRACE等の当該技術分野において通常使用されている技術を使用して、本発明においては、SEQ ID NO: 3のヌクレオチド配列からなるオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、マウス由来の新規のヌクレオチド配列を得ることができる(図1)。
【0020】
上述したマウス由来の新規核酸配列(図1)の情報に基づいて、さらにヒトの相同な新規分子をコードする核酸を取得することができる。すなわち、得られたマウスcDNAの塩基配列(図1、SEQ ID NO: 3)を用いて、ヒトゲノム配列を検索して、相同な遺伝子が存在することを確認することができる。さらにその様な検索の結果に基づいて、PCR用のプライマーを設計・調製し、ヒト細胞(例えば、HEK-293細胞)から作製したcDNAを鋳型としたPCRを行い、相同なcDNAを得ることができる。
【0021】
このようにして、PCR、およびそれに関連するRACE等の当該技術分野において通常使用されている技術を使用して、上述したマウス由来新規分子のヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 3)に基づいて、本発明においては、SEQ ID NO: 1のヌクレオチド配列からなるオープンリーディングフレーム(ORF)を含む、ヒト由来新規のヌクレオチド配列を得ることができる(図2)。
【0022】
配列解析
次に、SEQ ID NO: 1で示されるヌクレオチド配列を有するDNAおよびSEQ ID NO: 2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を、ヌクレオチドレベルおよびアミノ酸レベルで解析し、ヒトおよびマウスのMAPKKK、ASK1およびASK2のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列と比較した。
【0023】
本発明においてアミノ酸あるいは塩基配列の配列相同性解析には、当業者に用いられる、配列比較のプログラムを用いることができる。例えばAltschulら(Nucl. Acids. Res. 25., p. 3389-3402, 1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。具体的には、ヌクレオチド配列解析の場合、Nucleotide BLAST(BLASTN)プログラムで、Query塩基配列を入力して、GenBank、EMBL、DDBJなどの塩基配列データベースと照合することができる。また、アミノ酸配列解析の場合、Protein BLAST(BLASTP)プログラムで、Queryアミノ酸配列を入力して、GenBank CDS、PDB、SwissProt、PIRなどのアミノ酸配列データベースと照合することができる。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる相同性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、用いることができる。
【0024】
本発明においてアミノ酸あるいは塩基配列の配列相同性は、視覚的検査及び数学的計算により決定してもよい。あるいは、2つのタンパク質配列の配列相同性は、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol Biol., 48: 443−453, 1970)のアルゴリズムに基づき、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラムを用い配列情報を比較することにより、決定してもよい。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)HenikoffおよびHenikoff(Proc. Natl. Acad.
Sci. USA, 89: 10915-10919, 1992)に記載されるような、スコアリング・マトリックス、blosum62;(2)12のギャップ加重;(3)4のギャップ長加重;および(4)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。本発明においてはまた、その他の当該技術分野において使用可能な配列比較ソフトウェア、例えばClustalV、ClustalW、Jotun Hein Methodなどを利用することもまた可能である。
【0025】
本発明においては、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列からなるタンパク質およびそのタンパク質をコードするSEQ ID NO: 1のヌクレオチド配列からなるDNAに関して、ClustalVによりアミノ酸レベルおよびヌクレオチドレベルでそれぞれ配列相同性を検索したところ、本発明のSEQ ID NO: 2のタンパク質およびSEQ ID NO: 1のDNAとの間で最も配列相同性が高いものは、従来から知られていたMAPKKKであるヒトおよびマウスのASK1およびASK2であったが本発明で得られた新規ヒトMAPKKK、ASK3のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、ヒトASK1のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列とは、それぞれ56.5%および49.5%の相同性を有するのみであり、またASK1のファミリー分子として得られたMAPKKK、ASK2のタンパク質およびDNAとは、それぞれ41.7%および41.1%の相同性を有するのみであることがわかった。これらの事実から、SEQ ID NO: 2のタンパク質およびSEQ ID NO: 1のDNAは、それぞれ既知のMAPKKK、ASK1およびASK2とは、全体として有意な配列相同性を有しないことがわかった。
【0026】
このようなヌクレオチド配列並びにアミノ酸配列の解析から、本発明において、ヒトから得られたSEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質およびマウスから得られたSEQ ID NO: 4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ASK1およびASK2のセリン/スレオニンキナーゼ活性と同様のキナーゼ活性を有する、新規のタンパク質である
ことが予想された。そのため、次にSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列からなるタンパク質を「ASK3」と名付け、その機能を特定することを試みた。
【0027】
発現ベクターに組み込んだSEQ ID NO: 1のASK3のDNAを哺乳動物細胞にトランスフェクションすることにより、細胞を形質転換し、ASK3のターゲットと考えられた内在性JNKおよびp38のリン酸化状態を抗リン酸化認識抗体を用いて調べることにより、その哺乳動物細胞が産生したSEQ ID NO: 2のASK3タンパク質が、内在性JNKおよびp38をリン酸化させる活性を有することが明らかになった。さらに内在性JNKおよびp38活性化のどの段階でキナーゼ活性を発揮しているかを調べ、本発明のSEQ ID NO: 2のASK3タンパク質はJNKシグナル伝達経路で機能するMAPKKであるMKK3/MKK6またはp38シグナル伝達経路で機能するMAPKKであるMKK4/MKK7をリン酸化することが明らかになった。このことから、本発明のSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列からなるタンパク質が、MAPKKKとしての活性を有していることが明らかになった。
【0028】
したがって、これらの知見に基づいて、本発明の一態様において、MAPKKK活性を有する新規なタンパク質として、ヒトに由来するSEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、ASK3、またはこれの改変体であってMAPKKK活性を有するタンパク質を提供することができる。
【0029】
本発明においてSEQ ID NO: 2のタンパク質の「改変体」という場合には、目的とするタンパク質のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;目的とするタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列との間で、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズ可能な塩基配列によりコードされるアミノ酸配列;または目的とするタンパク質のアミノ酸配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列;からなるタンパク質であって、MAPKKK活性を有するものも含むことを意味する。
【0030】
すなわち、本発明は、より具体的には、
(a)SEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列;または(b)SEQ ID NO: 2に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有するアミノ酸配列;からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質;
(c)SEQ ID NO: 1に記載のヌクレオチド配列からなるDNAによりコードされるアミノ酸配列;または(d)SEQ ID NO: 1に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNA、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAによりコードされるアミノ酸配列;からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質;あるいは
SEQ ID NO: 2で示されるアミノ酸配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質;
を提供することができる。
【0031】
本発明はまた、上述したタンパク質の誘導体もまた、提供する。本明細書において、「タンパク質の誘導体」という場合、タンパク質のアミノ末端(N末端)のアミノ基、各アミノ酸の側鎖の官能基(例えば、アミノ基、カルボキシル基、水素基、チオール基、アミド基等)の一部もしくは全部、およびタンパク質のカルボキシル末端(C末端)のカルボキシル基または各アミノ酸の側鎖のカルボキシル基からなる群から選択される1または複数の官能基が、適当な他の置換基によって修飾を受けたものをいう。適当な他の置換基による修飾は、例えば、タンパク質中に存在する官能基の保護、安全性ならびに組織移行性の向上、分解に対する抵抗性の向上、あるいは活性の増強等を目的として行われる。この
ような置換基としては、当該技術分野のいて既知の置換基のいずれを用いてもよい。
【0032】
タンパク質の誘導体としては、具体的には、(1)タンパク質のアミノ末端(N末端)のアミノ基または各アミノ酸の側鎖のアミノ基の一部もしくは全部の水素原子が、置換または非置換のアルキル基(直鎖、分岐鎖または環状であってもよい)(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ブチル基、t-ブチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ベンジル基)、置換または非置換のアシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、カプロイル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、フタロイル基、トシル基、ニコチノイル基、ピペリジンカルボニル基)、ウレタン型保護基(例えば、p-ニトロベンジルオキシカルボニル基、p-メトキシベンジルオキシカルボニル基、p-ビフェニルイソプロピルオキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基)またはウレア型置換基(例えば、メチルアミノカルボニル基、フェニルカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基)等によって置換されたもの、並びに(2)タンパク質のカルボキシル末端(C末端)のカルボキシル基または各アミノ酸の側鎖のカルボキシル基の一部もしくは全部が、エステル型の修飾を受けているもの(例えば、その水素原子がメチル、エチル、イソプロピル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、t-ブチル、4-ピコリルにより置換されたもの)、アミド型の修飾を受けているもの(例えば、非置換アミド、C1-C6アルキルアミド(例えば、メチルアミド、エチルアミド、イソプロピルアミド)を形成しているもの、並びに(3)タンパク質の各アミノ酸の側鎖のアミノ基およびカルボキシル基以外の官能基(例えば、水素基、チオール基、アミノ基等)の一部もしくは全部が、上述のアミノ基と同様の置換基あるいはトリチル基などで修飾されたもの等が挙げられる。
【0033】
本発明は別の一態様において、MAPKKK活性を有するヒトに由来する新規なタンパク質(SEQ ID NO: 2)をコードするDNA(例えばSEQ ID NO: 1)またはその改変体をコードする変異体DNAを提供することができる。すなわち、本発明は別の一態様において、上述したヒトの新規MAPKKKに関して
(a)SEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;または(b)SEQ ID NO: 2に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有し、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA;
(c)SEQ ID NO: 1に記載のヌクレオチド配列からなるDNA;または(d)SEQ ID NO: 1に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA;あるいは
SEQ ID NO: 1で示される塩基配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の塩基配列相同性を有する塩基配列からなるDNAであって、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;
もまた、提供することができる。
【0034】
ここで、例えば「(a)SEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA」という場合、SEQ ID NO: 1のヌクレオチド配列からなるDNAとの間で縮重の関係にあるヌクレオチド配列を有するDNAが含まれることは、当業者が容易に理解することができる。
【0035】
ここにおいて、「1もしくは複数個」とは、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個のことをいう。また、本発明のSEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の場合、「欠失」、「置換」、「付加」されたとは、SEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列において生じる「欠失」、「置換」、「付加」であって、「
欠失」、「置換」、「付加」されたタンパク質が、SEQ ID NO: 2に記載するアミノ酸配列からなるタンパク質と同様に、MAPKKK活性を有するようなものをいう。またSEQ ID NO: 1に示されるヌクレオチド配列からなるDNAの場合、「欠失」、「置換」、「付加」されたとは、SEQ ID NO: 1に示されるヌクレオチド配列において生じる「欠失」、「置換」、「付加」であって、かつ「欠失」、「置換」、「付加」されたヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質がSEQ ID NO: 2に記載するアミノ酸配列からなるタンパク質と同様に、MAPKKK活性を有するようなものをいう。
【0036】
例えば、アミノ酸の「置換」の場合には、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換、例えばある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換、などの、タンパク質全体の機能を大きくは変化させないような置換が含まれる。
【0037】
このような「欠失」、「置換」、「付加」を有するタンパク質、または上述のような「欠失」、「置換」、「付加」を有する塩基配列を作成するためには、部位特異的変異生成(Site Directed Mutagenesis)、変異原処理やPCR増幅ミスを用いたランダム変異生成(Random Mutagenesis)、カセット導入変異生成(Cassette Mutagenesis)など、本発明の技術分野において既知の様々な方法を用いることができる。
【0038】
上述したように、SEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列からなるMAPKKK活性を有するタンパク質の改変体には、SEQ ID NO: 1に示されるヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なDNAとの間で、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズ可能なDNAによりコードされるアミノ酸配列からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質が含まれる。
【0039】
本発明において、ストリンジェントな条件とは、目的のDNAが、SEQ ID NO: 2に示されるタンパク質をコードするヌクレオチド配列からなるDNA(例えば、SEQ ID NO: 1)もしくはこれと縮重の関係にある塩基配列との間で、特異的にハイブリダイズ可能である条件をいう。ハイブリダイズ条件は、温度、イオン濃度などの条件を考慮して決定されるが、一般的には温度が高いほど、またイオン濃度が低いほどストリンジェントな程度が高くなることが知られている。このようなストリンジェントな条件の設定は、当業者であれば、例えば、SambrookおよびRussel(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition (2001))の記載に基づいて行うことができる。これらのストリンジェントな条件の具体的な例としては、例えば、6×SSC、5×Denhardt's、0.1%SDS、25℃ないし68℃などのハイブリダイゼーション条件を使用することが考えられる。この場合、ハイブリダイゼーションの温度としては、より好ましくは45℃ないし68℃(ホルムアミド無し)または25℃ないし50℃(50%ホルムアミド)を挙げることができる。
【0040】
上述したように、本発明のMAPKKK活性を有するタンパク質の改変体には、SEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質が含まれる。本発明のMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAの変異体にはまた、SEQ ID NO: 1に示されるヌクレオチド配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列を含むDNAを有し、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0041】
さらに、本発明においては、SEQ ID NO: 2に記載のタンパク質またはそれをコードするSEQ ID NO: 1に記載のDNAの配列に基づいて、マウス由来のcDNAを調べたところ、SEQ ID
NO: 3に記載のヌクレオチド配列を有するDNAが得られ、そのDNAによりSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質がコードされ、そしてこのタンパク質もまた、MAPKKK活性を有することが明らかになった。
【0042】
この知見に基づいて、本発明の別の一態様において、
(a)SEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列;または(b)SEQ ID NO: 4に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有するアミノ酸配列;からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質;
(c)SEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAによりコードされるアミノ酸配列;または(d)SEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNA、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAによりコードされるアミノ酸配列;からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質;あるいは
SEQ ID NO: 4で示されるアミノ酸配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列からなる、MAPKKK活性を有するタンパク質;
を提供することができる。
【0043】
本発明はさらに、このマウスの新規MAPKKKに関して
(a)SEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;または(b)SEQ ID NO: 4に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有し、かつMAPKKK活性を有するタンパク質、をコードするDNA;のいずれかからなるDNA;
(c)SEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNA;または(d)SEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA;あるいは
SEQ ID NO: 3で示される塩基配列との間で少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の塩基配列相同性を有する塩基配列からなるDNAであって、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;
もまた、提供することができる。
【0044】
キナーゼ領域モチーフの解析
一方、これまでに報告されたヒトおよびマウスのASK1およびASK2においては、セリン/スレオニンキナーゼ領域の構造が保存されていたが、本発明の新規のMAPKKK、ASK3においても同様にセリン/スレオニンキナーゼ領域が存在しており、そしてヒトASK3のセリン/スレオニンキナーゼ領域は、ヒトASK1のセリン/スレオニンキナーゼ領域と比較して、アミノ酸配列レベルで86.9%、ヌクレオチド配列レベルで70.9%の配列相同性を、そしてヒトASK2のセリン/スレオニンキナーゼ領域と比較して、アミノ酸配列レベルで74.9%、ヌクレオチド配列レベルで64.7%の配列相同性を、それぞれ有していることが明らかになった。
【0045】
さらに、マウスASK1のリン酸化部位である845番目のスレオニン残基を認識し、かつマウスASK1のリン酸化状態を認識する既知の抗体を用いて、ASK3のリン酸化部位がどの部位に存在するかをさらに詳細に解析したところ、ヒトASK3の808番目スレオニン残基または812番目スレオニン残基を、他のアミノ酸、例えばアラニンなど、に変更することにより、ヒトASK3のキナーゼ活性が阻害されることがわかり、ヒトASK3のリン酸化部位は808番目のスレオニン残基に存在することがわかり、また812番目のスレオニン残基が、808番目のスレオニン残基のリン酸化に重要な働きをしていることが明らかになった。
【0046】
ベクターおよび形質転換体
本発明においては、本発明による塩基配列(例えばSEQ ID NO: 1)を有する遺伝子を、その配列によりコードするタンパク質を発現可能な状態で含む、宿主細胞内で複製可能なベクターを提供することができる。本発明においてはまた、このようなベクターによって形質転換された宿主細胞が提供される。この宿主-ベクター系は、当該技術分野において使用可能な宿主-ベクター系であればいずれのものであってもよく、特に限定されない。
【0047】
ベクターとしては、当該技術分野において慣用的に使用されているいずれのベクターを使用してもよく、例えば、プラスミドベクター(例えば、原核細胞、酵母、昆虫細胞動物細胞等での発現ベクター)、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター、HIVベクター、ワクシニアウイルスベクター)、リポソームベクター(例えば、カチオニックリポソームベクター)等を例として挙げることができる。
【0048】
本発明によるベクター構築の手順および方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができ、そのような手順および方法は、例えば、SambrookおよびRussel(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition (2001))に記載される方法などを使用することができる。
【0049】
形質転換される宿主細胞としては、上述したベクターに適合する宿主細胞を使用する。例えば宿主細胞としては、例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、並びにCOS細胞、ミンク肺上皮細胞、リンパ球、繊維芽細胞、CHO細胞、血液系細胞、および腫瘍細胞(HEK-293細胞、HeLa細胞)等のような動物細胞を使用することができる。
【0050】
作製したベクターを用いて形質転換された宿主細胞を適当な培地で培養することにより、その培養物からの本発明によるタンパク質の取得、シグナル伝達の研究が可能になる。
抗体
本発明においては、これらの配列解析の結果に基づいて、MAPKKK活性を有するヒトのタンパク質(SEQ ID NO: 2)またはマウスのタンパク質(SEQ ID NO: 4)に特徴的なペプチド領域に対して抗体を作製した。すなわち、本発明の一態様において、SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に示されるタンパク質に対して結合する抗体を提供することができる。この態様において、得られる抗体は、ヒト由来のMAPKKK、ASK1およびASK2に対しては結合しないことを特徴とすることが好ましく、より好ましくは、ヒト由来またはマウス由来のMAPKKK活性を有するタンパク質を除く、すべて種(ヒトを含む)に由来するMAPKKK、ASK1およびASK2に対して結合しないことを特徴とする。
【0051】
本発明による抗体は、上記のように調製したSEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4のタンパク質またはその断片を用いて、Delves(Antibody Production: Essential Techniques (1997))、HawardおよびBethell(Basic Methods in Antibody Production and Characterization (2000))、KontermannおよびDubel(Antibody Engineering: Springer Lab Manual (2001))などに詳細に記載されている公知の方法にしたがって取得することができる。
【0052】
SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4のタンパク質には反応するが、その他の種の既知のMAPKKK、ASK1およびASK2とは反応しない抗体を調製するため、配列解析の結果、SEQ ID NO:
2またはSEQ ID NO: 4に特徴的に存在するが、その他の種のASK1およびASK2のアミノ酸配列中には存在しないアミノ酸配列からなるポリペプチドを免疫源として使用することが好ましい。
【0053】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体として得ても、モノクローナル抗体として得ても
、その他のタイプの抗体として得てもよい。
ポリクローナル抗体は、適当な免疫動物にSEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4のタンパク質、あるいはその断片を免疫し、回収された血清から得ることができる。免疫動物としては、一般的にウサギ、ヒツジ、ヤギ、モルモット、あるいはマウス等が用いられるが、これらのものには限定されない。
【0054】
モノクローナル抗体は、上述したSEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4のタンパク質、あるいはその断片により免疫した動物の抗体産生細胞を回収し、これをミエローマ細胞等の適当な融合パートナーと細胞融合させてハイブリドーマ細胞を得、必要な活性を持った抗体を産生するクローンを生育に適した培地中で培養・クローニングし、そのクローニングされたハイブリドーマ細胞を適した条件下で培養することにより、その培養上清から取得することができる。さらに、このようにして得られたハイブリドーマ細胞を哺乳動物の腹腔内で増殖させることにより抗体を産生させることもできる。免疫動物としては、例えば、マウス、ヌードマウス、ラット、または、ニワトリなどが好ましい。このようにして得られた抗体は、遠心分離、透析、硫酸アンモニウム等による塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの一般的な単離、精製方法を用いて精製することができる。
【0055】
本発明において使用することができるその他のタイプの抗体としては、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなるキメラ抗体、または非ヒト抗体由来のCDR(相補性決定領域)とヒト抗体由来のFR(フレームワーク領域)および定常領域からなるヒト型化抗体、などを使用することもできる。
【0056】
本発明において、ASK3に対して特異的な抗体を作製するために使用するポリペプチド領域は、配列のアラインメントの結果、他のタンパク質(例えばASK1およびASK2)には類似しない部分であればどこでもかまわないが、例えばSEQ ID NO: 2の197番アミノ酸〜214番アミノ酸からなる18アミノ酸のポリペプチド(CESペプチドとも呼ぶ;SEQ ID NO: 26)あるいはSEQ ID NO: 2の913番アミノ酸〜928番アミノ酸からなる16アミノ酸のポリペプチド(RQVペプチドとも呼ぶ;SEQ ID NO: 27)を免疫源として使用することができる。
【0057】
上述したように得ることができる本発明の抗体は、MAPKKK活性を有するタンパク質の精製、検出、活性阻害等に利用することができる。本発明の抗体は、公知の方法により、F(ab')2フラグメントあるいはFab'フラグメント化して用いることができる。また、本発明の抗体をDNA修復促進活性を有するタンパク質の検出に利用する場合には、放射性同位元素(例えば、35Sや3H)や酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)、あるいは適当な親和性リガンド(例えば、アビジン-ビオチン)によって標識しておくことができる。
【0058】
ASK3の機能解析
本発明においては、当該技術分野において公知の種々の方法を使用して、ASK3分子の機能を解析することができる。
【0059】
例えば、ASK3分子の結合パートナー分子を検索するためには、酵母のツーハイブリッドアッセイなどの公知の方法を用いることができる。当該技術分野において、ツーハイブリッドシステムとして、例えばMatchmaker System(Clontech)などを使用することができる。具体的には、本発明に関して、酵母のツーハイブリッドアッセイを用いる場合、ASK3をコードするcDNAを「bait」(餌)とし、cDNAライブラリに含まれる様々なcDNA分子を「prey」(獲物)とする。この際、ASK3分子と「prey」分子とが結合する場合、レポーター遺伝子が発現することから、ASK3分子の結合パートナー分子を検索することができる。
【0060】
さらに、ASK3分子が、その結合パートナー分子に対してリン酸化活性を有しているかどうかについては、結合パートナー分子のリン酸化を検出するための当該技術分野において一般的な種々の方法、例えばSDS-PAGEでの移動度アッセイ、in vitroキナーゼアッセイなどの方法を用いて確認することができる。
【0061】
医薬組成物
本発明のタンパク質ASK3は、MAPKKK活性を有し、p38シグナル伝達経路で機能するMAPKKであるMKK3/MKK6やJNKシグナル伝達経路で機能するMAPKKであるMKK4/MKK7をリン酸化して活性化することを通じて、JNK/p38を活性化する。細胞内でJNK/p38が活性化することにより、アポトーシスが促進されることがこれまでに知られていた(Tibbles and Woodgett, Cell. Mol. Life Sci., 55, 1230-1254, 1999)。
【0062】
このことから、本発明のタンパク質、ASK3のキナーゼ活性を調節することで、アポトーシスの異常が関連する疾患においてアポトーシスを調節することができ、そのような疾患の予防・治療を行うための、ASK3活性調節剤を含む医薬組成物を提供することができる。ここで、ASK3のキナーゼ活性の調節という場合、ASK3のキナーゼ活性の阻害、およびASK3のキナーゼ活性の促進の両方の場合が含まれ、アポトーシスの異常という場合、アポトーシスの促進およびアポトーシスの抑制の両方の場合が含まれる。
【0063】
すなわち、体内でASK3キナーゼ活性が促進されると、JNKシグナル伝達経路およびp38シグナル伝達経路のMAPKKが活性化され、JNK/p38のリン酸化が生じるため、アポトーシスが促進される。このことから、本発明のタンパク質、ASK3のキナーゼ活性を阻害することで、アポトーシスの促進が関連する疾患においてアポトーシスを抑制することができ、そのような疾患の予防・治療を行うための、ASK3活性阻害剤を含む医薬組成物を提供することができる。このようなアポトーシスの促進が関連する疾患としては、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性性疾患が知られている。
【0064】
本発明において使用することができるASK3活性阻害剤としては、例えば、ASK3のドミナントネガティブ変異体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、二本鎖RNA、低分子化合物を使用することができる。
【0065】
逆に、体内でASK3のキナーゼ活性が阻害されると、JNKシグナル伝達経路およびp38シグナル伝達経路のMAPKKが活性化されず、JNK/p38のリン酸化が生じないため、アポトーシスが抑制される。このことから、本発明のタンパク質、ASK3のキナーゼ活性を促進することで、アポトーシスの抑制が関連する疾患においてアポトーシスを促進することができ、そのような疾患の予防・治療を行うための、ASK3活性促進剤を含む医薬組成物を提供することができる。このようなアポトーシスの抑制が関連する疾患としては、腫瘍、癌、自己免疫疾患などが知られている。
【0066】
本発明において使用することができるASK3活性促進剤としては、例えば、遺伝子導入によるASK3の過剰発現、低分子化合物などを使用することができる。この場合に、遺伝子の導入は当該技術分野において通常使用される方法のいずれであっても使用することができ、たとえばリポソーム、アデノウィルスベクター、リポフェクチン、パーティクルガン、レトロウィルスベクターなどを例としてあげることができる。
【0067】
スクリーニング方法
本発明のASK3は、上述したように、本発明のタンパク質、ASK3のキナーゼ活性を修飾することで、アポトーシスの促進または抑制が関連する疾患においてアポトーシスを修飾することができることから、本発明のタンパク質、ASK3のキナーゼ活性を修飾させる剤をス
クリーニングする方法もまた、提供する。
【0068】
すなわち、具体的には、本発明は、ASK3のリン酸化状態を修飾する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)ASK3遺伝子を導入した細胞に被検試料を投与させる工程、
(b)ASK3のリン酸化状態を検出する工程、および
(c)ASK3のリン酸化状態を修飾する化合物を選択する工程、を含む前記スクリーニング方法を提供する。
【0069】
例えば、ASK3遺伝子を導入した細胞として本発明のヒトASK3遺伝子またはマウスASK3遺伝子を導入したHEK-293細胞またはマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を使用する場合、培養条件下にてこれらの細胞に対して候補化合物を投与することにより、ASK3のリン酸化が修飾されること、より具体的には阻害されることまたは促進されることを調べることにより、目的とするASK3のキナーゼ活性を阻害または促進させる剤をスクリーニングすることができる。
【0070】
ASK3のリン酸化が修飾されることは、ウェスタンブロット法、イムノブロッティング法、ELISA法などの、本発明で上述した抗体を用いて実際にASK3のリン酸化状態を検出する方法;質量分析法を用いたASK3の質量の変化の測定;[32P]H3PO4で細胞を代謝標識しオートラジオグラフィーで検出する方法;などの方法を用いて調べることができる。
【実施例】
【0071】
本明細書の以下において、発明をより詳細に説明する目的で、実施例を記載する。この実施例の記載は、本発明の範囲を限定することを目的としたものではなく、単に発明をより詳細に説明することを目的としたものである。
【0072】
実施例1 マウスASK3のクローニング
(1)マウスASK3部分配列のクローニング
マウスASK1 cDNAの塩基配列を用いたホモロジー検索の結果、2つのマウス由来EST(Expressed Sequence Tag)が得られ、いずれもマウスX染色体上にマップされていることが分かった。さらにそれらのESTをコードする領域の近傍のゲノム配列(NCBI contig NW_042641)を、詳細に検討したところ、アミノ酸に変換した際にASK1のC末端領域と相同性をもつ塩基配列を見いだした。
【0073】
これらの情報をもとに、まず、以下の通り、プライマーを作製した:
【0074】
【表1】

【0075】
本実施例においてはまず、マウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)のcDNAの合成を、SUPER SCRIPTTM Preamplification System(GIBCO BRL)を用いて、MEF細胞のtotal RNAから行った。続いて、MEF細胞のcDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRはTaq DNA polymerase(SIGMA)またはLA Taq(Takara)を用い、iCycler(BIO-RAD)で、以下のPCR反応条件:すなわち、94℃にて1分間を1サイクル行った後、〔94℃における解離反応を15秒間;60℃におけるアニーリングを30秒間;そして72℃における伸長反応を1分間〕これを1サイクルとして35サイクル行い、最後に72℃にて1分間反応を行うという条件;にて実行した。プライマーとしては、S8(SEQ ID NO: 7)/AS7(SEQ ID NO: 10)、S2(SEQ ID NO: 5)/AS2(SEQ
ID NO: 8)、S3(SEQ ID NO: 6)/AS5(SEQ ID NO: 9)の組み合わせをそれぞれ用いた。
【0076】
その結果、S8/AS7、S2/AS2、S3/AS5のプライマーの組み合わせでPCR産物が得られた。PCR産物の抽出をGENECLEAN II Kit(Q-Biogene)またはWizard SV Geland PCR Clean-Up System(Promega)で行い、抽出したDNAをpGEM-T Easy Vector System(Promega)を用いてpGEM-T Easy Vectorへサブクローン化し、DH5αコンピテント細胞をトランスフォームした。プラスミドの回収はWizard Plus Minipreps DNA Purification Systems(Promega)で行った。シークエンスはまずCEQ Quick Start Kit(Beckman)を用いてPCRを行い、その後CEQ 2000(BECKMAN COULTER)で決定した。
【0077】
その結果、S8/AS7、S2/AS2、S3/AS5のプライマーの組み合わせで得られたPCR産物が、それぞれ193 bp、1671 bp、2041 bpの塩基配列からなり、これらを組み合わせることにより、S8から始まりAS5までのcDNA配列(3745 bp;以下、「S8-AS5」断片と呼ぶ)が得られた(図1)。
【0078】
また後になって、マウスゲノム情報からautomated computational analysisによって作成された“similar to MAPKKK5(ASK1)”というクローンがデータベース上に公表された。これは、上記のcDNA(S8-AS5断片)と比較して、5'側に関しては新しい情報を含まなかったものの、3'側の非翻訳領域をより長く含む配列であった。
【0079】
そこで、既に得られていたS8-AS5断片の中にセンスプライマー、S19(SEQ ID NO: 11)を、予想配列中にアンチセンスプライマー、AS21(SEQ ID NO: 12)をそれぞれ設計・作製し、MEF細胞のcDNAを鋳型にしてPCRを行った。両プライマーのヌクレオチド配列は、以下の通りである:
【0080】
【表2】

【0081】
そのPCR産物の塩基配列をCEQ 2000(BECKMAN COULTER)を用いて決定した結果、データベース上の配列と一致するcDNAであることが分かった。以上により、マウスゲノムデータベース上に公表された塩基配列はMEF細胞において遺伝子として実際に発現していることが確認され、その遺伝子産物のほぼ全長と思われるcDNA配列情報が得られた(S8-AS21に相当)。以後この遺伝子産物をASK3と命名し、さらにクローニングを進めた。
【0082】
(2)マウスASK3の5'末端領域のクローニング
S8-AS21領域にはマウスASK3の開始コドンが含まれないと考えられたため、RACEにより5'末端領域のクローニングを試みることにした。そこで、Mouse Kidney Marathon-ReadyTM
cDNAまたはSMART RACE cDNA Amplification Kit (いずれもClonetech)を鋳型に、1次PCRにはAS10(SEQ ID NO: 13)、2次PCRにはAS14(SEQ ID NO: 14)をプライマーとして5'-RACEを行った。その際、酵素としてAdvantage-GC 2 Polymerase Mix (Clonetech)を用いた。その結果、既存のマウスASK3配列の5'配列を含むRACE産物が得られた。ここで使用したプライマーの配列は、以下のとおりである:
【0083】
【表3】

【0084】
RACEで判明した塩基配列に基づいて、その配列の最も5'側にプライマーS27を作製し、さらにPCR用のプライマーを以下の通り作製した:
【0085】
【表4】

【0086】
S27/AS14、S27/AS19、S27/AS22のプライマーの組み合わせで、(1)で記載したPCR条件と同一の反応条件でPCRを行った。得られたPCR産物の抽出をGENECLEAN II Kit(Q-Biogene)またはWizard SV Geland PCR Clean-Up Systemで行った。抽出したDNAをpGEM-T Easy Vector System (Promega)を用いてpGEM-T Easy Vectorへサブクローン化し、DH5αコンピテント細胞をトランスフォームした。プラスミドの回収はWizard Plus Minipreps DNA Purification Systems(Promega)で行った。シークエンスはまずPCRをCEQ Quick Start Kit(Beckman)で行い、その後CEQ 2000(BECKMAN COULTER)で決定した。その結果、得られたPCR産物は、RACEの結果から予想された通りの配列を有していることが明らかになった(図1)。
【0087】
また、その塩基配列から予想されるアミノ酸配列をASK1と比較すると相同性があったことから、RACEの結果は妥当なものと判断した。次に、ここで得られた配列を元に、1次PCRにAS19を、2次PCRにAS22をそれぞれプライマーとして再び5'-RACEを行うと、新たに5'側約50 bpが判明した(図1)。
【0088】
ここまでのクローニングによって得られた塩基配列がマウスASK3の全長のものであると考えられた(図1)。
実施例2 ヒトASK3のクローニング
(1)ヒトASK3部分配列のクローニング
上述したマウスASK3配列(図1)中には、開始コドンの候補が複数あるものの、それを決定付ける根拠の一つである5'上流のin-frame終止コドンが存在していないため、開始コドンの決定には至らなかった。5'-RACEではこれ以上のマウスASK3塩基配列情報を得ることは難しいと考えられたため、次に、本実施例において、ヒトASK3の5'末端領域もクローニングし、ヒトとマウスのASK3塩基配列の類似性から開始コドンを決定することを試みた。
【0089】
得られたマウスASK3 cDNAの塩基配列(図1)を用いて、ヒトゲノム配列を検索したところ、ヒトにおいてもX染色体上にASK3遺伝子が存在することが明らかとなった。そこで、この配列に基づいて、以下のPCR用のプライマー、S1およびAS1を作製した:
【0090】
【表5】

【0091】
まず、ヒト胎児腎臓由来HEK-293細胞のcDNAを、SUPER SCRIPTTM Preamplification System(GIBCO BRL)を用いて、HEK-293細胞のtotal RNAより作製した。このS1/AS1のプライマーの組み合わせでHEK-293細胞から作製したcDNAを鋳型としたPCRを行い、そのPCR産物の塩基配列をCEQ 2000(BECKMAN COULTER)を用いて決定した結果、データベース上の配列と一致するcDNAであることが分かった。よってヒトASK3がHEK-293細胞に発現していることが確認された。
【0092】
続いて、このような配列に基づいて、S4、AS3、S6、およびAS6の各プライマーを設計・調製した。これらのプライマーのヌクレオチド配列は、以下の通りである:
【0093】
【表6】

【0094】
これらのプライマーを、S4/AS3およびS6/AS6のプライマーの組み合わせで使用して、上述と同一の条件下でPCRを行い、S4から始まりAS6までのヒトASK3 cDNA配列が得られた(図2)。
【0095】
(2)ヒトASK3の5'末端領域のクローニング
マウスASK3の5'末端と類似したX染色体上の配列がNCBI Human Genomic BLASTを用いた検索により、ヒトゲノム上に見い出された。その配列を元にして以下の配列を有するプライマー、HS1(SEQ ID NO: 24;センス)およびG1AS2(SEQ ID NO: 25;アンチセンス)を作製した:
【0096】
【表7】

【0097】
これらのプライマーを使用して、HEK-293 cDNAを鋳型にPCRを行った。PCR産物(515 bp)はヒトゲノムX染色体上の配列を含んでおり、アミノ酸予想配列からマウスASK3と相同な遺伝子産物をコードしていることが分かった(図2)。さらに、5'側には開始コドンとその上流のin-frame終止コドンが確認され、このPCR産物がヒトASK3タンパク質のN末端をコードしていると考えられた(図2)。また、マウスASK3とヒトASK3の塩基配列や予想アミノ酸配列の比較から、マウスASK3についても既に全長がクローニングされており、cDNA上の最も5'側のATGコドンが開始コドンとして機能していることが示唆された。
【0098】
実施例3:全長配列の解析
実施例1において得られたマウス由来のSEQ ID NO: 3のヌクレオチド配列およびSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列並びに実施例2で得られたヒト由来の類似する分子のSEQ ID NO: 1のヌクレオチド配列およびSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列を、従来から知られているMAPKKK、ヒトおよびマウスのASK1およびASK2のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列と比較した。DNAのヌクレオチド配列の比較並びにタンパク質のアミノ酸配列の比較は、ともにClustalVプログラム(Higgins and Sharp, CABIOS, Vol.5, No.2: pp.151-153, 1989)を使用して行った。
【0099】
その結果、タンパク質レベルでは、本発明のSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列は、ヒトASK1、マウスASK1、ヒトASK2、およびマウスASK2のそれぞれのアミノ酸配列との間で、56.5%、52.9%、41.7%、および41.3%の配列相同性を有していることが明らかになった。また、DNAレベルでは、本発明のSEQ ID NO:1のヌクレオチド配列は、ヒトASK1、マウスASK1、ヒトASK2、およびマウスASK2のそれぞれをコードするヌクレオチド配列との間で、49.5%、50.6%、41.1%、および41.7%の配列相同性を有していることが明らかになった。
【0100】
これらの解析の結果から、本発明において得られた新規タンパク質は、ASK2と比較してASK1に対してより近縁の分子種であることが明らかになった。
さらに、ヒト由来の新規タンパク質のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を、マウス由来の新規タンパク質のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列とそれぞれ比較したところ、86.3%および69.7%の配列相同性を有していることが明らかになった。
【0101】
次いで、SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列からなるヒトおよびマウスの新規タンパク質を、ヒトおよびマウス由来のASK1およびASK2のアミノ酸配列とアラインさせた。その結果を図3に示す。この図3においても明らかなように、本発明のヒト由来の新規タンパク質(SEQ ID NO: 2)の中央部領域に相当する650番アミノ酸〜908番アミノ酸において、他の領域と比較して優位に配列相同性が高い部分が存在することが明らかになった。具体的には、SEQ ID NO: 2のこの領域は、ヒトASK1およびヒトASK2の相当する領域と比較して、それぞれ86.9%および74.9%の配列相同性を有していた。この配列領域は、ASK1およびASK2の配列解析においてセリン/スレオニンキナーゼ領域であることがすでに明らかになっていた領域であり(非特許文献1;非特許文献3)、この配列解析の結果から
、本発明において得られたSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列からなるタンパク質を、「ASK3」と命名した。
【0102】
実施例4:ASK3に対する抗体の調製
実施例1において得られたSEQ ID NO: 2のうち、197番アミノ酸〜214番アミノ酸からなる18アミノ酸のポリペプチド(CESペプチド;SEQ ID NO: 26)(この配列は、SEQ ID NO:
4の201番アミノ酸〜218番アミノ酸に相当)あるいはSEQ ID NO: 2の909番アミノ酸〜924番アミノ酸からなる16アミノ酸のポリペプチド(RQVペプチド;SEQ ID NO: 27)(この配列は、SEQ ID NO: 4の913番アミノ酸〜928番アミノ酸に相当)を免疫源として150μg/mlの濃度にて、ウサギに投与し、14日間隔で300μg /mlの濃度の同一の免疫源を用いて3回ブーストし、最終ブーストの14日後に血液を採取し、その血液から抗血清を得た。
【0103】
次いで、この抗血清の中から、IgGのクラスをアフィニティカラム(ペプチドセファローズビーズカラム)を用いて精製した。このようにして得られた抗体は、それぞれSEQ ID
NO: 26のポリペプチドを用いて作製したポリクローナル抗体は「抗ASK3(CES)抗体」、SEQ ID NO: 27のポリペプチドを用いて作製したポリクローナル抗体は「抗ASK3(RQV)抗体」と命名された。これらの抗体は、ウェスタンブロットを行う際にメンブレン上でASK3を認識するがその他のASK1およびASK2は認識することができず、また細胞抽出物中からASK3を免疫沈降することができるという特徴を有していた(図4などを参照)。
【0104】
実施例5:マウスASK3の発現解析
本実施例においては、実施例2において得られたSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列を有するタンパク質がどのような発現分布を有するかを、mRNAレベルおよびタンパク質レベルで調べた。
【0105】
まず、mRNAレベルの発現を解析するため、マウスASK3のN末端領域の一部をコードする約100 bpのcDNAを[α-32P]-dCTPにて標識した。このプローブを用いて、Mouse Multiple Tissue Blot(Clontech)との間でハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションには、ExpressHyb溶液(Clontech)を用い、ハイブリダイゼーションや洗浄の条件は添付のプロトコルにしたがった。洗浄後、STORM画像化システム840(Amersham)にて解析した。
【0106】
結果を図4Aに示す。この図においても明らかなように、マウスASK3のmRNAは、マウスにおいて様々な組織に発現しているものの、心臓と腎臓において特に多くmRNAが発現されていることがわかった。
【0107】
続いて、タンパク質レベルでのASK3の産生を調べるため、マウスから摘出した腎臓及び肝臓から、1%Triton X-100/10 mM Tris-HCl(pH 7.5)溶液中でホモジナイズすることにより、破砕抽出液試料を調製した。この破砕抽出液試料中における内在性ASK3タンパク質および内在性p38 MAPキナーゼタンパク質の発現を、それぞれ実施例4においてRQVペプチド(SEQ ID NO: 27)を免疫源として作製した抗ASK3(RQV)抗体、および市販の抗p38抗体(C-20;Santa Cruz)を用いたウェスタンブロット法を用いて解析した(図4B)。さらに、腎臓から調製した破砕抽出液試料から、抗ASK3(CES)抗体を用いて内在性ASK3分子を免疫沈降し、濃縮してから実験に供した。その際、CESペプチド(SEQ ID NO: 26)とあらかじめインキュベートした抗ASK3(CES)抗体を免疫沈降のネガティブコントロールとして用いた。その後、免疫沈降試料を抗ASK3(RQV)抗体を用いたウェスタンブロット法にて解析した(図4C)。なお、これら図4Bおよび図4Cにおいて、“WB:ASK3(RQV)”あるいは“WB:p38(C-20G)”は、それぞれ抗ASK3(RQV)抗体および抗p38(C-20G)抗体を用いてウェスタンブロット法により検出した結果であることを示し、“IP:ASK3(CES)”は、抗ASK3(CES)抗体を用いて免疫沈降を行ったことを示す表記である。本明細書
の以下の図においても、同様に記載する。
【0108】
これらのウェスタンブロットの結果、SEQ ID NO: 4のアミノ酸配列から予想される分子量(約150 kDa)を有する内在性ASK3タンパク質が少なくとも腎臓に発現していることを確認することができた。また、腎臓におけるASK3タンパク質の発現は肝臓よりも多く、図4Aで示した各組織におけるmRNAの発現レベルとの間で相関関係が認められた。
【0109】
実施例6:ASK3のキナーゼ活性の解析
本実施例においては、ASK3が、in vitroにおいて、ヒトおよびマウスASK3のキナーゼ活性を有するかどうかについて、そしてJNKシグナル伝達経路およびp38シグナル伝達経路を特異的に活性化するかどうかについて、調べた。
【0110】
pcDNA3発現ベクター(Invitrogen)を用いてFlagタグを付与した野生型ASK3(Flag-ASK3-WT)およびキナーゼ不活性変異型ASK3(Flag-ASK3-KM)を、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、ヒト胎児腎臓由来HEK-293細胞に遺伝子導入した。10%FBS含有DMEM培地を用いて培養した導入24時間後の細胞から得た細胞抽出液を用い、抗Flag抗体(M2抗体;SIGMA)にてASK3の発現を、活性化型キナーゼ分子を認識する抗リン酸化-JNK抗体(リン酸化-SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)ウサギポリクローナル抗体)、抗リン酸化-p38抗体(リン酸化-p38 MAPK(Thr180/Tyr182)ウサギポリクローナル抗体)、および抗リン酸化ERK抗体(リン酸化-p44/42 MAPK(T202/Y204)(E10)マウスmAb)の3種類の抗リン酸化認識抗体(いずれも、Cell Signaling)を用いて、HEK-293細胞における内在性JNK、p38、ERKの活性化(リン酸化)を検出した。またERKの発現量を抗ERK抗体(p44/42 MAPキナーゼ抗体;Cell Signaling)を用いたウェスタンブロット法にて検出した。JNKおよびp38を活性化させるポジティブコントロールとしてASK1-WT(野生型ASK1)を、ERKを活性化させるポジティブコントロールとして上皮増殖因子EGF刺激を用いた。
【0111】
結果を図5Aに示す。野生型ASK3(ASK3-WT)を過剰発現させた細胞では、発現させていない細胞やキナーゼ活性をもたない変異型ASK3(ASK3-KM)を発現させた細胞と比較して、JNKおよびp38 MAPキナーゼの活性化が認められた。一方、ERKの活性化は認められなかった。この結果から、ASK3がキナーゼ活性依存的にJNKおよびp38 MAPキナーゼ経路を特異的に活性化することを確認した。
【0112】
続いて、Flag-MKK3、Flag-MKK6、Flag-MKK4、Flag-MKK7のいずれかとHAタグを付与したASK3(HA-ASK3)とをpcDNA3発現ベクター中に組み込んで、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、HEK-293細胞に遺伝子導入し、同時に発現させた。10%FBS含有DMEM培地を用いて培養した導入24時間後の細胞から得た細胞抽出液より、抗Flag抗体(M2抗体;SIGMA)を用いて各々のMKK分子をそれぞれ免疫沈降した。この免疫沈降試料を用いて、MKK3とMKK6に対してはGST-p38-KN(キナーゼ不活性変異型p38)融合タンパク質(大腸菌BL21株より精製)を基質とし(図5B)、MKK4とMKK7に対してはGST-JNK-KN(不活性変異型JNK)融合タンパク質(大腸菌BL21株より精製)を基質とし(図5C)、それぞれin vitroキナーゼ解析を行った。すべてのMKK分子を活性化するポジティブコントロールとしてASK1を用いた。
【0113】
ASK3は、細胞内においてMKK7をほとんど活性化させなかったものの(図4C)、MKK3、MKK4、MKK6をASK1と同程度に活性化した(図4Bおよび図4C)。よって、ASK3はJNKおよびp38
MAPキナーゼ経路のMAPKKKとして機能していると考えられる。
【0114】
キナーゼ領域のサブドメインVIIとVIIIの間に存在する活性ループ(activation loop)という領域が、キナーゼとしての活性制御に非常に重要であるという、ASK1およびASK2におけるリン酸化部位に関する情報、より具体的には、マウスASK1の845番目および849番目
のスレオニン残基(Thr845およびThr849)がASK1のキナーゼ活性の維持に必要であること、とくにThr845はASK1の刺激による活性化に必要なリン酸化部位であり、この部位のリン酸化を特異的に認識する抗体(抗リン酸化ASK抗体)がASK1の活性化を鋭敏にモニターできること、に基づいて、本実施例においては、さらに、ASK3のリン酸化活性をコントロールしている活性部位を特定することを試みた。
【0115】
まず、配列のアラインメント(図3)を確認すると、ヒトASK3においても、ASK1のThr845/Thr849に相当するアミノ酸残基、Thr808/Thr812とその周辺のアミノ酸配列が高度に保存されていることがわかった。そこで、この部分が実際にリン酸化される領域なのかどうかを確認した(図6A)。
【0116】
HEK-293細胞に、Flagタグを付与した野生型ASK3(Flag-ASK3 WT)ならびに、ヒトASK3の808番スレオニン残基および812番スレオニン残基をアラニン残基に置換した変異型ASK3(それぞれT808A、T812Aと呼ぶ)を一過性に発現させ、抗リン酸化ASK抗体(Toblume et al., J. Cell. Physiol., 191, 1091-1099, 2002)、抗Flag抗体(M2抗体;SIGMA)、抗リン酸化JNK抗体(リン酸化-SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)抗体、Cell Signaling)、抗JNK抗体(JNK1(FL)、Santa Cruz, CA, USA)を用いたウェスタンブロット法にて、ASK3と下流のJNKそれぞれの活性化状態と発現量を検出した。
【0117】
野生型ASK3がJNKを活性化するのに対し、二種類のThr808とThr812のアラニン置換変異体(T808A、T812A)では、JNKの活性化がほぼ完全に認められなくなっていることから、Thr808とThr812はASK3のキナーゼ活性の維持に必須であることが分かり、さらにASK1とのアミノ酸配列の比較(図6Aを参照)から、Thr808がヒトASK3の刺激による活性化に必要なリン酸化部位であることが示唆された。また、抗リン酸化ASK抗体は、WT-ASK3を認識し、T808Aを認識しないことが確認できたことから、この抗体がASK1と同様にASK3の活性化をモニターできるものと考えられた。
【0118】
実施例7:ASK3の他の分子との相互作用の解析
本実施例においては、ASK3がどのような作用機序でJNK/p38シグナル伝達経路を活性化するのか明らかにするため、ASK3と他の分子との相互作用を解析することを試みた。
【0119】
HEK-293細胞から調製した細胞抽出液に、抗ASK3(CES)抗体を加えて内在性ASK3を免疫沈降した。その際、抗原ペプチドであるCESペプチドとあらかじめインキュベートした抗ASK3(CES)抗体を免疫沈降のネガティブコントロールとして用いた。具体的には、免疫沈降試料をSDSポリアクリルアミド電気泳動により分離後、PVDFメンブレンに転写し、抗ASK3(RQV)抗体および抗ASK1抗体(F9;Santa Cruz)を用いたウェスタンブロット法にて内在性ASK3及び内在性ASK1を検出した。
【0120】
この結果、HEK-293細胞の細胞抽出液を抗ASK3(CES)抗体を用いて免疫沈降した試料中に、内在性ASK1が存在していることが明らかとなった(図7)。よって、細胞内の定常状態においてASK3はASK1と複合体を形成していることが示された。
【0121】
さらに、細胞内においてASK3がASK1とどのような相互作用を行っているかを確認した。まず、Mycタグを付与した野生型ASK3(6xMyc-ASK3-WT)およびHAタグを付与したキナーゼ不活性変異型ASK1(HA-ASK1-KM)とをpcDNA3発現ベクター中に組み込んで、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、HEK-293細胞に遺伝子導入し、同時に発現させた。一方、pcDNA3発現ベクターに組み込んだMycタグを付与したキナーゼ不活性変異型ASK3(6xMyc-ASK3-KM)およびHAタグを付与した野生型ASK1(HA-ASK1-WT)を、FuGENE6トランスフェクション試薬を用いて、同様に遺伝子導入し、同時に発現させた。10%FBS含有DMEM培地を用いて培養した導入24時間後の両細胞から得た細胞抽出液を用い、抗リン酸化A
SK抗体にてASK3およびASK1の活性化状態を、抗Myc抗体および抗HA抗体にてそれぞれASK3およびASK1の発現量をウェスタンブロット法により検出した。
【0122】
ASK1-KMを単独で発現させた細胞と比較して、ASK1-KMとASK3-WTを共発現させた細胞では、ASK3-WTの発現量依存的にASK1-KMのリン酸化程度の増加が認められた(図8A)。一方、ASK3-KMを単独で発現させた細胞と比較して、ASK3-KMとASK1-WTを共発現させた細胞では、ASK1-WTの発現量依存的にASK3-KMのリン酸化程度の増加が認められた(図8B)。このような結果から、細胞内で、ASK3はASK1のThr845をリン酸化し、ASK1はASK3のThr808をリン酸化することにより、両者は互いに活性化し合う関係にあることが示された。
【0123】
実施例8:ASK3の活性化機序の解析
本実施例においては、ASK3がどのような機序で活性化されるのかを調べるため、ASK1の活性化機序としてすでに知られている過酸化水素(H2O2)刺激およびカルシウム刺激により、ASK3が活性化されるかどうかを調べた。
【0124】
pcDNA3発現ベクターに組み込んだFlag-ASK3を、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)によりHEK-293細胞に遺伝子導入した。導入24時間後に、1 mM H2O2、1 mMマイトトキシン(MTX)を用いて、それぞれ図9Aおよび図9B中に示した時間刺激し、その後細胞抽出液試料を調製した。H2O2刺激を行う実験(図9A)では、対照としてFlag-ASK1も用いた。
【0125】
SDSポリアクリルアミド電気泳動によりタンパク質分離後、PVDFメンブレンに転写し、抗リン酸化ASK抗体にてASK1およびASK3の活性状態を、抗Flag抗体(M2抗体)にてASK1およびASK3の発現をそれぞれウェスタンブロット法を用いて検出した。目的とする刺激が細胞に加わっていることを確認するため、内在性p38 MAPキナーゼの活性化状態も、抗p38認識抗体(c-20;Santa Cruz)および抗リン酸化p38抗体(リン酸化-p38 MAPキナーゼ(Thr180/Tyr182)抗体;Cell Signaling)にて同様に検出した。
【0126】
H2O2刺激によるASK3の活性化程度の増加が刺激後10分から認められ、刺激後30分まで活性化の持続が認められたが、60分以降では急速な活性化程度の減少が認められた(図9A)。一方、H2O2刺激によるASK1の活性化程度の増加も同様に刺激後10分から認められたが、その活性化は減少することなく120分でも持続的に活性化程度が維持されていた(図9A)。よって、ASK3は過酸化水素(H2O2)刺激によって活性化され、その活性化はASK1よりも一過性であると考えられる。
【0127】
MTX(マイトトキシン)投与によって細胞外からカルシウムを細胞内へ流入させることにより、ASK3の活性化程度の増加が刺激後2分から認められ、10分まで活性化の持続が認められた。よって、ASK3はカルシウム刺激によっても活性化されることが分かる。
【0128】
実施例9:ASK3のアポトーシスに対する作用
本実施例においては、ASK1がアポトーシスの促進作用を有するという過去の知見に基づいて、ASK3がアポトーシスに対してどのような活性を有するかについて調べた。
【0129】
まず、HEK-293細胞(2×105 cells/ml)に、pcDNA3発現ベクターに組み込んだ野生型ASK3(Flag-ASK3)またはキナーゼ不活性変異型ASK3(Flag-ASK3-KM)を、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いてそれぞれ遺伝子導入し、発現させた。導入10時間後に、アッセイ用96ウェルプレートに細胞(7×104cells/ml)を播きかえ、その20時間後にcaspase3/7の活性(DEVDase活性)をCaspase-Glo 3/7アッセイキット(Promega)によって定量した。
【0130】
ASK3-WTを過剰発現した細胞では、発現していない細胞及び活性を持たない変異型のASK3-KMを発現した細胞と比較して、caspase3/7活性の有意な増加が認められた(図10)。この結果から、ASK3は、キナーゼ活性依存的にcaspaseの活性化を引き起こし、アポトーシスを誘導する活性をもつことが示される。
【0131】
実施例10:ASK3のサイトカイン産生に対する作用
本実施例においては、ASK3がサイトカインの産生に対してどのような活性を有するかについて調べた。
【0132】
HEK-293細胞(2×105 cells/ml)に、pcDNA3発現ベクターを用いて5'末端側Flag-tag付きのASK3-WT(野生型ASK3)及びASK3-KM(不活性変異型ASK3)を、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche Diagnostics)でそれぞれ遺伝子導入した。導入24時間後の形質転換細胞の培養上清中のTNF-αの濃度を、ヒトTNF-αELISAキット(TECHNE)によって定量した。またASK3の発現量及び活性化については、ウエスタンブロッティング法を用いて解析した。
【0133】
より具体的には、導入24時間後の上述した形質転換細胞の破砕抽出液試料を調製し、SDSポリアクリルアミド電気泳動によりタンパク質分離後、PVDFメンブレンに転写し、抗Flag抗体(M2抗体;SIGMA)にてASK3の発現を、また活性化型ASK分子を認識する抗リン酸化ASK認識抗体にてASK3の活性化をそれぞれ検出した。同様に、ASK3下流の内在性p38 MAPキナーゼの活性化も、活性化型p38分子を認識する抗リン酸化p38認識抗体(Cell Signaling)にて検出した。同様に、ASK3下流の内在性p38 MAPキナーゼの活性化も活性化型p38分子を認識する抗リン酸化p38認識抗体(Cell Signaling)にて検出し、抗p38抗体(Santa Cruz)にてp38の発現量も確認した。
【0134】
ASK3-WTを過剰発現した細胞では、発現していない細胞及び活性を持たない変異型のASK3-KMを発現した細胞と比較して、TNF-αの産生量の増加が認められた(図11上)。この時、ASK3の発現量はASK3-WT、ASK3-KM共に同程度であり、実際にASK3-WT発現のみでASK3自身及びその下流の内在性p38の活性化が起こっていることを確認した(図11下)。この結果から、ASK3はサイトカイン産生を誘導する活性を有することが示された。
【0135】
実施例11:ASK3の浸透圧刺激に対する反応
本実施例においては、ASK1において高浸透圧刺激を受けることによりリン酸化されそして活性化されることが知られていることから、本発明のASK3が高浸透圧刺激に対してどのような反応をするかについて確認した。
【0136】
pcDNA3発現ベクターに組み込んだFlagタグを付与した野生型ASK3(Flag-ASK3-WT)および野生型ASK1(Flag-ASK1-WT)を、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いてHEK-293細胞に遺伝子導入し、発現させた。導入24時間後の細胞に対して、図12に示した時間、0.5 Mソルビトールによる高浸透圧刺激を行った後、細胞抽出液を調製した。この細胞抽出液について、抗リン酸化ASK抗体を用いてASK3およびASK1の活性化状態を、そして抗Flag抗体を用いてそれぞれASK3およびASK1の発現量を、それぞれウェスタンブロット法により検出した。また、活性化型キナーゼ分子を認識する抗リン酸化認識抗体(Cell Signaling)にて内在性JNK、p38の活性化を検出した。
【0137】
ASK1-WTを発現させた細胞では、0.5 Mソルビトールによる高浸透圧刺激によりASK1の活性化が見られるのに対し、ASK3-WTを発現させた細胞では、高浸透圧刺激によりASK3の不活性化がみられ、ASK1とASK3は高浸透圧刺激に対して全く対照的な反応を示すことが明らかになった(図12)。
【0138】
実施例12:ASK3結合パートナー分子の探索
本実施例においてはまず、酵母ツーハイブリッドスクリーニング法を用いて、ASK3に結合する結合パートナー分子を探索した。
【0139】
具体的には、キナーゼ不活性変異型ASK3(ASK3-KM)をbaitとし、ASK3の発現が多いことが示唆されたヒト腎臓のcDNAライブラリをpreyとして、酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行った。
【0140】
本実施例においては、酵母株、MATa株AH109(レポーター遺伝子:HIS3、ADE2、lacZ、MEL1/トランスフォーメーションマーカー:trp1、ura3、leu2)(Clontech)およびMATα株Y187(レポーター遺伝子:lacZ、MEL1/トランスフォーメーションマーカー:trp1、leu2)(Clontech)を、酵母ツーハイブリッドスクリーニングのために用いた。
【0141】
ヒトASK3-KM遺伝子が挿入されたpcDNA3ベクターから、制限酵素EcoRIおよびXhoIを用いて目的とする遺伝子断片を得て、その断片を、GAL4 DNA結合ドメイン(DNA-BD)をコードする核酸断片を含むpGBKT7ベクター(Clontech)にサブクローニングすることにより、GAL4 DNA結合ドメイン(DNA-BD)とヒトASK3-KMの融合タンパク質を発現するための発現ベクターを作製した。このベクターを用いてAH109株に形質導入することにより、ASK3-KMを発現する酵母AH109株を作製した(以下、この酵母を「AH109〔ASK3-KM〕」と呼ぶ)。そして、この酵母AH109〔ASK3-KM〕により作製される、DNA-BDとヒトASK3-KMの融合タンパク質をbaitとして使用した。
【0142】
このようにして作製した酵母AH109〔ASK3-KM〕を、GAL4 DNA活性化ドメイン(DNA-AD)とヒト腎臓由来各種cDNAとの融合タンパク質を発現するY187株(Matchmaker Pretransformed Human Kidney Library, Clontech)と交配させた。Y187株により発現されるGAL4 DNA活性化ドメイン(DNA-AD)とヒト腎臓由来各種cDNAとの融合タンパク質を、本実施例においてはpreyとして使用した。
【0143】
レポーター遺伝子を発現した酵母株のみを選択することができる培地であるQDO培地(Clontech)上でこれらの交配させた酵母を培養・選択した。その結果、〔ASK3-KM〕/〔X〕の表現型を有する酵母が交配の結果得られたこと、すなわち、ヒト腎臓cDNAの発現産物中に、baitであるASK3-KMと結合することができるprey分子Xをコードする核酸分子が存在すること、が明らかになった。
【0144】
このようにして選択された、〔ASK3-KM〕/〔X〕の表現型を有する酵母を解析したところ、分子Xは、WNK4のN末端からアミノ酸850番目から1007番目の領域に該当するポリペプチド(WNK4850-1007AA)であることが明らかになった。WNK4は、家族性高カリウム性高血圧症PHAII(pseudohypoaldosteronism type II)の原因遺伝子の一つであり、腎臓に高発現し、種々のイオントランスポーターを制御すると考えられているキナーゼである(Wilson et al., Science, 293, 1107-1112, 2001;およびGamba, Am. J. Physiol. Renal Physiol., 288, F245-F252, 2005)。
【0145】
本実施例においてはさらに、酵母内でのASK3とWNK4850-1007AAとの結合を確認した。
baitとして使用することができる上述した酵母AH109〔ASK3-KM〕の他に、DNA-BDのみを発現する(すなわち、ASK3をコードする核酸配列を含まない)pGBKT7ベクターを導入したAH109株を、陰性対照として作製した(以下、この陰性対照酵母株を「AH109〔-〕」と呼ぶ)。
【0146】
次いで、WNK4850-1007AAをコードするcDNAをpACT2ベクター(Clontech)中に挿入することにより、GAL4 DNA活性化ドメイン(DNA-AD)とWNK4850-1007AAの融合タンパク質を発
現するための発現ベクターを作製した。このベクターを用いてY187株に形質導入することにより、WNK4850-1007AAを発現する酵母Y187株を作製した(以下、この酵母を「Y187〔WNK4〕」と呼ぶ)。そして、この酵母Y187〔WNK4〕により作製されるDNA-ADとWNK4850-1007AAの融合タンパク質を、preyとして使用した。DNA-ADのみを発現する(すなわち、WNK4850-1007AAをコードする核酸配列を含まない)pACT2ベクターを導入したY187株を、陰性対照として使用した(以下、この陰性対照酵母株を「Y187〔-〕」と呼ぶ)。
【0147】
このようにして作製した酵母株、AH109〔ASK3-KM〕またはAH109〔-〕と、Y187〔WNK4〕またはY187〔-〕とを、以下の表に示す組み合わせで交配させた。表中には、結果として生じる表現型を併記した。
【0148】
【表8】

【0149】
両タンパク質を発現した酵母株を、最小栄養培地(SD)(Clontech)にTrpとLeu以外のアミノ酸を加えた培地(DDO培地)(Clontech)により選択した。この結果、上述の様に交配した酵母のすべてがDDO培地上で成育することができたことから、交配により両タンパク質共に発現されていることが明らかになった。
【0150】
さらに、両タンパク質を発現しているだけでなく、両タンパク質が結合することによりレポーター遺伝子を発現した酵母株のみを選択することができる培地、QDO培地上でこれらの酵母を培養したところ、〔ASK3-KM〕/〔WNK4〕の表現型を有する酵母、すなわち酵母AH109〔ASK3-KM〕と酵母Y187〔WNK4〕との交配の結果得られた酵母のみが、生育することができ、この結果、WNK4850-1007AAとASK3-KMとが酵母内で結合することができることが明らかになった。
【0151】
本実施例においてはさらに、ほ乳類細胞内でのASK3とWNK4との間の結合の強度を検討した。
pcDNA3発現ベクター(Invitrogen)を用いてFlagタグを付与した野生型ASK3(Flag-ASK3-WT)またはFlagタグを付与したキナーゼ不活性変異型ASK3(Flag-ASK3-KM)を、HAタグを付与したWNK4(HA-WNK4)とをpcDNA3発現ベクター中に組み込んで、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、ヒト胎児腎臓由来HEK-293細胞に遺伝子導入し、同時に発現させた。結合特異性を検討するための対照として、Flagタグを付与したASK3の代わりに、Flagタグを付与した野生型ASK1(Flag-ASK1-WT)を組み込んだ。
【0152】
10%FBS含有DMEM培地を用いて培養した、遺伝子導入24時間後の各細胞から得た細胞抽出液を用い、抗Flag抗体(M2抗体;SIGMA)にて発現したASK3を免疫沈降させた。この際、WNK4がASK3(ASK3-WTまたはASK3-KM)または野生型ASK1に結合するならば、WNK4が同時
に共沈されることとなる。このWNK4を、抗HA抗体(Roche)を用いて検出した。
【0153】
得られた結果を図13に示す。この結果、WNK4は、野生型ASK1にはほとんど結合しなかった(図13、レーン6)のに対して、ASK3-WTまたはASK3-KMに対して強く、すなわちASK3に特異的に結合することが明らかになった(図13、レーン7およびレーン8)。
【0154】
また、キナーゼ不活性変異型ASK3(ASK3-KM)(レーン8)よりも、野生型ASK3(ASK3-WT)(レーン7)の方が強くWNK4と結合することから、ASK3のキナーゼ活性依存的にWNK4との結合が増強することも示唆される(図13、レーン7およびレーン8)。
【0155】
さらに、ASK3-WTの免疫沈降によって共沈されたWNK4は、ASK3-KMと共沈されたWNK4と比較して、SDS-PAGEでのバンドが明らかにシフトアップしていた(図13、レーン8と比較したレーン7)。この結果から、WNK4は、野生型ASK3によりリン酸化されているが、ASK3-KMでは、ASK3-WTの場合と比較して、リン酸化のレベルが低いことが示唆された。
【0156】
実施例13:ASK3によるWNK4のリン酸化
実施例12において、ASK3がWNK4をリン酸化することが示唆されたことから、本実施例においては、実際にASK3がWNK4をリン酸化することができるかどうかをさらに詳細に検討した。
【0157】
まず、ASK3との共発現によるWNK4のバンドシフト(図13、レーン7およびレーン8)が、リン酸化によるものかを検討するため、HEK293細胞に、Flagタグを付与したWNK4(Flag-WNK4)を単独で、若しくはHAタグを付与した野生型ASK3(HA-ASK3-WT)またはHAタグを付与したキナーゼ不活性変異型ASK3(HA-ASK3-KM)と組み合わせて、pcDNA3発現ベクター中に組み込んで、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、ヒト胎児腎臓由来HEK-293細胞に遺伝子導入し、同時に発現させた。
【0158】
この結果、ASK3を共発現しなかった場合のWNK4と比較して、ASK3-WTと共発現した場合のWNK4はシフトアップしており(図14、1レーンと3レーンを対比)、一方でASK3-KMと共発現した場合のWNK4はASK3を共発現しなかった場合のWNK4とほぼ同様のバンド位置を示した(図14、1レーンと5レーンを対比)。このことから、ASK3-WTと共発現させた場合に、WNK4が、ASK3を共発現しなかった場合やASK3-KMと共発現した場合と比較して、リン酸化されていることが示唆された。
【0159】
さらに、ASK3-WTと共発現した場合のWNK4のシフトアップが、リン酸化によるものであることを確認するため、上述したように得られた、遺伝子導入後24時間後に細胞由来の細胞抽出液に対して、ホスファターゼ(λPPase;New England Biolabsより入手)処理を30℃にて30分間行った。
【0160】
この結果、ASK3-WTと共発現させたWNK4だけでなく、単独発現させたWNK4およびASK3-KMと共発現させたWNK4もすべて、λPPase処理によりSDS-PAGE上でのシフトダウンが確認され、いずれの場合にも同一のバンド位置を示すに至った(図14、2レーン、4レーン、および6レーン)。従って、WNK4は、単独発現させた場合においてすでにリン酸化されており、ASK3-WTと共発現させることによってさらにWNK4のリン酸化が増強されることが明らかになった。
【0161】
次いで、ASK3の活性を低下させることにより、WNK4のリン酸化活性がどのように変化するかを調べるため、実施例11において得られた知見に基づいて、ASK3を浸透圧刺激によって不活性化させ、その際のWNK4のリン酸化に対する影響について検討した。具体的には、本実施例においては、HEK293細胞にASK3およびWNK4を一過性に発現させ、遺伝子導入24時
間後に、0.5 Mソルビトールによる刺激の開始後0分後、5分後、30分後における、ASK3のWNK4のシフト変化に対する影響を調べた。
【0162】
その結果、WNK4をASK3と共発現した条件下で、0.5 Mソルビトール刺激をすることにより、時間の経過と共にASK3が不活性化されるにつれて、WNK4のシフトダウンが認められた(図15、レーン5〜レーン7)。従って、0.5 Mソルビトールによる高浸透圧刺激により、ASK3が不活性化され、その不活性化の程度が進行するにつれて、WNK4が脱リン酸化されることが示された。
【0163】
実施例14:WNK4上のASK3結合部位の探索
本実施例は、WNK4のリン酸化に際して、ASK3がWNK4のどの部分を認識しているのか、またASK3によりWNK4のどの部分が実際にリン酸化されているのかを明らかにすることを目的として行った。
【0164】
まず、ASK3がWNK4のどの領域と結合するかを検討した。WNK4を断片化して、欠損変異体WNK4-NT1(WNK4のアミノ酸1〜166に対応)、WNK4-NT2(WNK4のアミノ酸167〜433に対応)、WNK4-NT3(WNK4のアミノ酸434〜645に対応)、WNK4-CT1(WNK4のアミノ酸646〜952に対応)、WNK4-CT2(WNK4のアミノ酸953〜1243に対応)の各ポリペプチド断片をコードするcDNAを作製し、それぞれにFlagタグを付与した(それぞれ、Flag-WNK4-NT1、Flag-WNK4-NT2、Flag-WNK4-NT3、Flag-WNK4-CT1、およびFlag-WNK4-CT2)。これらのいずれかを、HEK293細胞にHAタグを付与した野生型ASK3(HA-ASK3-WT)とともに一過性に発現させ、遺伝子導入24時間後に細胞を回収した。その後、抗Flag抗体を用いてWNK4の各欠損変異体を免疫沈降し、共沈されるASK3を抗HA抗体にて検出した。
【0165】
その結果、WNK4-NT1、WNK4-NT2、WNK4-NT3、WNK4-CT1においてASK3との結合が確認された(図16、IP:抗-FlagのWB:抗-HA(上段パネル)、レーン4、レーン6、レーン8、およびレーン10を参照)。その中でもWNK4-NT2およびWNK4-NT3が特に強くASK3と結合した(レーン6およびレーン8)。また、WNK4-NT3およびWNK4-CT1は、ASK3との共発現によるSDS-PAGE上でのシフトアップが見られたことから、WNK4-NT3およびWNK4-CT1がASK3によるリン酸化部位であることが示唆された(図16、IP:抗-FlagのWB:抗-Flag(中段パネル)、レーン8およびレーン10を参照)。
【0166】
本実施例においてはさらに、ASK3との共発現によるWNK4-NT3およびWNK4-CT1のバンドシフトがリン酸化によるものか検討した。HEK293細胞にHAタグを付与した野生型ASK3(HA-ASK3-WT)およびFlagタグを付与したWNK4の各欠損変異体(それぞれFlag-WNK4-NT1、Flag-WNK4-NT2、Flag-WNK4-NT3、Flag-WNK4-CT1、およびFlag-WNK4-CT2)を、一過性に発現させ、遺伝子導入24時間後に細胞を回収した。その後、細胞抽出液に対してホスファターゼ(λPPase処理)を30℃にて30分間行うことにより、リン酸化によるシフトアップが脱リン酸化によりシフトダウンされるかどうかを調べた。
【0167】
WNK4-NT3およびWNK4-CT1は、ASK3との共発現によるSDS-PAGE上でのシフトアップが確認され(図17、レーン3およびレーン7)、そのシフトアップはλPPase処理により抑制された(図17、レーン4およびレーン8)。この結果、WNK4-NT3およびWNK4-CT1は、ASK3との共発現によってリン酸化されることが示された。これに対して、WNK4-NT1および-CT2の場合は、単独発現の場合でも、ASK3との共発現下の場合と同様の複数のバンドが見られ、λPPase処理によりSDS-PAGE上でのシフトダウンが確認された(データは示さない)。従って、WNK4-NT1およびWNK4-CT2の場合は、単独発現においてASK3以外のキナーゼによりリン酸化されていることが明らかになった。
【0168】
このことから、NT3にはWNK4自身のキナーゼ活性制御に重要と考えられている自己抑制
ドメインやPHA-IIで変異が認められるアミノ酸が集まった部位が含まれることから、ASK3がNT3領域をリン酸化することにより、WNK4の活性制御に働いていることが示された。これらの結果に基づいて、ASK3の活性を調節することを通じてWNK4のリン酸化を修飾することにより、家族性高カリウム性高血圧症PHAIIを治療することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明は、ヒトまたはマウスに由来する、新規MAPKKKを提供することができる。本発明はまた、この新規タンパク質のキナーゼ活性を阻害または促進することで、JNK/p38シグナル伝達経路を阻害または促進し、アポトーシスの促進または抑制が関連する疾患においてアポトーシスを抑制または促進することができ、その結果そのような疾患を治療・予防することができることを示し、その結果新規タンパク質のキナーゼ活性を阻害または促進させる剤を含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1−1】図1は、マウスASK3のヌクレオチド配列およびコードするアミノ酸配列を示す図である。配列の中に記載された下線およびその上部に記載した名前およびSEQ ID NOは使用したプライマーを示す。
【図1−2】図1は、マウスASK3のヌクレオチド配列およびコードするアミノ酸配列を示す図である。配列の中に記載された下線およびその上部に記載した名前およびSEQ ID NOは使用したプライマーを示す。
【図1−3】図1は、マウスASK3のヌクレオチド配列およびコードするアミノ酸配列を示す図である。配列の中に記載された下線およびその上部に記載した名前およびSEQ ID NOは使用したプライマーを示す。
【図2−1】図2は、ヒトASK3のヌクレオチド配列およびコードするアミノ酸配列を示す図である。配列の中に記載された下線部分およびその上部に記載した名前およびSEQ ID NOは使用したプライマーを示す。
【図2−2】図2は、ヒトASK3のヌクレオチド配列およびコードするアミノ酸配列を示す図である。配列の中に記載された下線部分およびその上部に記載した名前およびSEQ ID NOは使用したプライマーを示す。
【図2−3】図2は、ヒトASK3のヌクレオチド配列およびコードするアミノ酸配列を示す図である。配列の中に記載された下線部分およびその上部に記載した名前およびSEQ ID NOは使用したプライマーを示す。
【図3】図3は、ヒト由来のSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列およびマウス由来のSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列を、ヒトおよびマウス由来の既知のMAPKKK、ASK1およびASK2のアミノ酸配列と対比した図である。
【図4】図4は、マウスにおける本発明のASK3 mRNAおよびASK3タンパク質の発現を、ノザンブロット法(図4A)およびウェスタンブロット法(図4Bおよび図4C)を用いて確認し、ASK1とは対照的に腎臓において顕著に発現することを示す図である。
【図5】図5は、ASK3が、in vitroにおいて、JNKシグナル伝達経路およびp38シグナル伝達経路を特異的に活性化するMAPKKKであることを示す図である。
【図6】図6は、ASK3のリン酸化活性をコントロールしている活性部位を特定した結果を示す図である。
【図7】図7は、細胞内においてASK3がASK1と複合体を形成していることを示す図である。
【図8】図8は、細胞内で、ASK3はASK1をリン酸化し、ASK1はASK3をリン酸化し、両者は互いに活性化し合う関係にあることを示す図である。
【図9】図9は、ASK3がH2O2刺激およびマイトトキシン(MTX)刺激によりリン酸化され、活性化されることを示す図である。
【図10】図10は、ASK3が、キナーゼ活性依存的にcaspaseの活性化を引き起こし、アポトーシスを誘導する活性をもつことを示す図である。
【図11】図11は、ASK3がサイトカイン(TNF-α)の産生を誘導する活性を有することを示す図である。
【図12】図12は、0.5 Mソルビトールによる高浸透圧刺激に対してASK1は活性化されるのに対し、ASK1とは全く対照的に、ASK3は、高浸透圧刺激により不活性化されることを示す図である。
【図13】図13は、WNK4が、野生型ASK1にはほとんど結合しないのに対して、ASK3-WTまたはASK3-KMに対して強く、すなわちASK3に特異的に結合すること、並びにWNK4は、ASK3-WTによりリン酸化されているが、ASK3-KMでは、野生型ASK3の場合と比較して、リン酸化のレベルが低いことを示唆する図である。
【図14】図14は、図13で示されたASK3との共発現によるWNK4のバンドシフトが、リン酸化によるものであることを示す図である。
【図15】図15は、ASK3を浸透圧刺激によって不活性化させることにより、その際のWNK4のリン酸化に対する影響を示す図である。
【図16】図16は、WNK4上のASK3による認識領域、並びにASK3によるWNK4上のリン酸化部位を示す図である。
【図17】図17は、図16において示されたASK3との共発現によるWNK4-NT3およびWNK4-CT1のバンドシフトが、リン酸化によるものであることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列;または(b)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有するアミノ酸配列;からなる、新規MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)。
【請求項2】
(c)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAによりコードされるアミノ酸配列;または(d)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNA、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNAによりコードされるアミノ酸配列;からなる、新規MAPKKK。
【請求項3】
(a)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;または(b)SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に記載の配列において、1または複数個のアミノ酸の欠失、置換、または付加を有し、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA。
【請求項4】
(c)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNA;または(d)SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 3に記載のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMAPKKK活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれかからなるDNA。
【請求項5】
SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に示されるタンパク質に対して結合する抗体。
【請求項6】
ヒト由来のMAPKKK、ASK1およびASK2に対しては結合しない、請求項7に記載の抗体。
【請求項7】
SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 4に示されるアミノ酸配列を有するASK3のキナーゼ活性を調節することで、アポトーシスの異常が関連する疾患の予防・治療を行うための、ASK3活性調節物を含む医薬組成物。
【請求項8】
ASK3活性調節物がASK3のキナーゼ活性を阻害し、その結果アポトーシスの促進が関連する疾患の予防・治療を行うための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ASK3活性調節物が、ASK3のドミナントネガティブ変異体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、二本鎖RNA、低分子化合物からなる群から選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ASK3活性調節物がASK3のキナーゼ活性を促進し、その結果アポトーシスの抑制が関連する疾患の予防・治療を行うための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ASK3活性促進剤が、遺伝子導入によるASK3の過剰発現、低分子化合物からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ASK3のリン酸化状態を修飾する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)ASK3遺伝子を導入した細胞に被検試料を投与させる工程、
(b)ASK3のリン酸化状態を検出する工程、および
(c)ASK3のリン酸化状態を修飾する化合物を選択する工程、を含む前記方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−217902(P2006−217902A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36957(P2005−36957)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】