説明

新規PDE5阻害剤

【課題】微生物の培養物から、医薬品、健康食品などに利用可能な、ホスホジエステラーゼ5阻害活性を有する新規化合物を提供する。
【解決手段】ストレプトミセス属に属する放線菌の培養液から単離した下記式(2)で代表される化合物およびその誘導体又はその製薬学的に許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPDE5阻害活性を有し、医薬品、特にPDE5阻害剤として有用な新規化合物またはその製薬的に許容される塩、及びそれらを産生する新規菌株を用いた該化合物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホジエステラーゼ(PDE)は、種々の環状ヌクレオシド一リン酸(c-AMPおよびc-GMPを含む)の加水分解を触媒する酵素である。細胞内情報伝達物質であるc-AMPやc-GMPは、PDEによってそれぞれ不活性な5’-AMPや5’-AMPに分解される。ホスホジエステラーゼ阻害剤は細胞内でのc-AMP、c-GMPの分解を阻害し、様々な疾病の治療楽として期待されている。その中でPDE5阻害剤は細胞内でのc-GMPの分解速度を低減し、細胞内にc-GMPが蓄積することで、筋肉の弛緩、血管拡張を促す。PDE5阻害剤は男性勃起機能不全の治療薬として臨床で使用されている他に、近年肺性高血圧症に対しても有用性が認められており、薬物動態や薬力学的特性の異なる新規PDE5阻害剤の開発が切望されている。
【0003】
非引用文献1及び2には、本発明の化合物と類似の構造を有する化合物が開示されているが、非引用文献1には、微生物が生成した大きな分子量の化合部の部分構造が本発明の化合物と類似しているが、構造が記載されているだけで、そのものの活性などについては何も言及されていない。また、非引用文献2にも、微生物が生成した化合物の構造決定がされており、その化合物が本発明の構造と類似しているが、その化合物の活性などについては何も言及されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters 39 (1998) 8441-8444, StructureElucidation of SCH 49088, A Novel everninomicin AntibioticContaining An Unusual Hydroxylamino-Ether Sugar, everhydroxylaminose.
【非特許文献2】J. Nat. Prod. 63 (2000) 1682-1683, Lorneamides A and B: TwoNew Aromatic Amides from a Southern Australian Marine Actinomycete.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微生物の培養物から、医薬品、健康食品などに利用可能な生理活性を有する新規な化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはストレプトミセス属に属する放線菌の培養液より、下記式(1)の構造を有する新規化合物を単離し、その活性を探索したところ、PDE5阻害活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は下記式(1)又は(2)で表される新規化合物群またはその製薬的に許容される塩に関する。以下、下記式(1)で表される化合物を化合物1とし、下記式(2)で表される化合物を化合物2と略称する。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
本発明は、以下の発明を要旨とする。
(1)一般式(I)で示される化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【0011】
【化3】

(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のもの、又は、R1とR2、R3とR4がそれぞれ結合して形成された二重結合のいずれかを表す。)
(2)一般式(II)で示される(1)の化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【0012】
【化4】

(式中、R1とR2はそれぞれ独立にOH、Hのいずれか、又は、R1とR2が結合し形成された二重結合のいずれかを表す。)
(3)(1)又は(2)記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とする医薬組成物。
(4)(1)又は(2)記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とするホスホジエステラーゼ5阻害剤。
(5)ストレプトミセス属に属し、(1)又は(2)の化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、その培養物から(1)又は(2)の化合物を単離することを特徴とする、(1)又は(2)の化合物の製造法。
(6)ストレプトミセス属に属する微生物がストレプトミセスNPS554株(Streptomyces sp. NPS554)である(5)の製造法。
(7)ストレプトミセスNPS554株(Streptomyces sp. NPS554)、又は、(1)又は(2)の化合物を生産する能力を有するストレプトミセスNPS554株の変異株。
(8)(1)又は(2)の化合物より誘導されることを特徴とする一般式(III)で表される化合物又はその製薬学的に許容される塩。
【0013】
【化5】

(式中、
R1は、-CH2OH、-CH2O-低級アルキル、-CH2NH2、-CH2NH-低級アルキル、-CH2N(低級アルキル) 2、-CH2-ハロゲン、-COOH、-CO2-アルキル及び-COHから選ばれる任意のものであり、
R2は、-低級アルキル、-CH(OH)-低級アルキルから選ばれる任意のものであり、
R3及びR4は、(以下ハロゲンをXと略称する)(X,X)、(H,X)、(OH,H)、(H,OH)、(X,OH)、(H,NH2)、(NH2,H) の組み合わせ、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
R5及びR6は、(X,X)、(H,X)、(OH,H)、(H,OH)、(X,OH)、(H,NH2)、(NH2,H) の組み合わせ、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明化合物はPDE5阻害活性有するので、PDE5阻害剤として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の化合物1及び2はストレプトミセス属に属する当該物質の生産菌を培養し、その培養液より定法によって得ることができる。ストレプトミセス属に属する当該物質生産菌としては、例えばストレプトミセスNPS554株(Streptomyces sp. NPS554)を挙げることができる。使用する培地は該微生物が成育し、化合物1が産生できるものであればよく、例えば培地成分としてグルコース、スターチ、ラクトース、グリセロール、大豆粉、酵母エキス、動物性タンパク、コーンスティープリカー、ミネラル等があげられる。また培養条件も該微生物が成育し、化合物1および2が産生できる条件であればよい。
【0016】
細胞壁のアミノ酸組成は内田(微生物の化学分類実験法p5-45、学会出版センター)及び鈴木(放線菌の分離と同定p50-55、日本学会事務センター)の手法に準じ分析を行った結果、LL-ジアミノピメリン酸とグリシンが検出された。菌体の主要メナキノンはNishijimaら(J. Microbiol. Methods、28、p113-122、1997年)の方法に従い抽出し、山田ら(微生物の化学分類実験法p143-155、学会出版センター)の方法にてキノン分子種の帰属を調べた結果、MK-10(H4)とキノン分子種が特定されていないMK-nであった。形態観察より分岐を示す気中菌糸の形成がみられたが、胞子及び胞子嚢形成は確認されなかった。NPS554株の16SrDNA配列1503bpのBLAST検索の結果、最も相同性が高かったのはStreptomyces sp. CNQ-233 SD01 MAR2の98.8%であった。
以上のことからNPS554株はStreptomyces属と判断され、Streptomyces sp. NPS554と命名した。
NPS554株は、他の放線菌に見られるようにその性状が変化し易い。例えば、NPS554株に由来する突然変異株(自然発生または誘発性)、形質接合体または遺伝子組換え体であっても、本発明の化合物を生産するものは全て本発明に使用することができる。
【0017】
放線菌培養液から本発明化合物を単離するには、放線菌代謝産物の抽出、精製の手段が利用できる。例えば、有機溶媒分画、シリカゲルやODSを用いたカラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて、あるいは反復して使用することで精製できる。
【0018】
上記微生物培養物から単離した本発明化合物を原料としてさらに、官能基に対して化学修飾することにより本発明化合物を中間体とする誘導体を合成することができる。本発明化合物にはカルボン酸、二重結合、ヒドロキシル基などの反応しやすい官能基が存在するのでそれらの化学修飾を容易に行うことができる。
誘導体化の手法としては、自体公知の方法、例えば、実験化学講座第4版25(日本化学会編)31-34頁の有機リチウム化合物を用いる合成反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第5版13(日本化学会編)355−356頁、420−422頁のジハロゲン化反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第5版13(日本化学会編)428−430頁のハロゲン化水素の付加反応あるいはそれに準ずる反応、実験化学講座第4版20(日本化学会編)75−76頁のBrownヒドロホウ素化反応あるいはそれに準ずる反応、Comprehensive Organic Synthesis,(1991年),4巻,300-305頁のヒドロキシ水銀化−脱水銀化反応あるいはそれに準ずる反応、Journal of Organic Chemistry,(2005年),70巻,6721−6734頁のハロゲン化ヒドリンを経由するヒドロキシル化反応あるいはそれに準ずる反応、Journal of American Chemical Society,(1964年),86巻,3565−3566頁のBrownヒドロホウ素化アミノ化反応、実験化学講座第4版20(日本化学会編)213−214頁のエポキシドの合成反応あるいはそれに準ずる反応などが挙げられる。
【0019】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
Streptomyces sp. NPS554は宮崎県海底より採取された泥から、キチン培地(コロイダルキチン(Sigma)2g,KH2PO4 150mg, K2HPO4 210mg, MgSO4・7H2O)に1.8%の人工海水(ダイゴ人工海水SP)を加えた培地にて分離した。本株1白金耳を3%soytone(BD)と1.8%人工海水(ダイゴ)含む液体培地に接種し、28℃、5日間、200rpmで振とう培養する。そのうち1mlを500ml容量三角フラスコに100mlの液体培地(2.5%グルコース(和光純薬)、1.5%soytone(BD)、0.2%酵母エキス(BD)、0.4%炭酸カルシウム(和光純薬)、1.8%人工海水(ダイゴ人工海水SP)、pH7.2)に植菌して200rpm、6日間培養を行った。
【実施例2】
【0021】
実施例1により得られた培養液5Lを遠心分離により上清と菌体に分離した。上清は酢酸エチル500 mL、ブタノール500 mLにより抽出した。菌体はメタノール、エタノール混合溶液により抽出した後、濾過した。減圧濃縮により溶媒を留去し、濃縮物を得た後、濃縮物は水200 mLに溶解させ、酢酸エチル200 mL、ブタノール200 mLで抽出した。有機層は上清の有機層と合わせた後濃縮し、3.46 gの残渣を得た。この残渣をODS(富士シリシア化学株式会社 DM1020T)を直径7 cmのクロマトグラム管に9 cm充填したカラムに付し、水/メタノール=3/1, 1/1, 1/3, 0/1の混合溶媒を用いて各400 mL溶出した。そのうち水/メタノール=0/1画分を濃縮して119.6 mgの残渣を得た。さらに水/メタノール=1/3画分を濃縮して161.0 mgの残渣を得た。水/メタノール=0/1画分の残渣はシリカゲル(関東化学 シリカゲル 60N 球状、中性 40-50 mm)を直径5 cmのクロマトグラム管に14 cm充填したカラムに付し、ヘキサン/酢酸エチル=1/0, 3/1, 2/1, 1/1, 1/2, 1/3, 0/1、酢酸エチル/メタノール=1/1, 0/1の混合溶媒を用いて展開した。そのうちヘキサン/酢酸エチル=1/1-1/2画分を濃縮して10.1 mgの残渣を得た。この残渣をTLC(Merck silica gel 60F254 20×10 cm)1枚に付し、クロロホルム/メタノール=3/1の混合溶媒を用いて展開した。UV吸収を指標に分離を行い、PDE5阻害活性を有する新規化合物16.4 mgを単離した。続いて水/メタノール=1/3画分の残渣はシリカゲル(関東化学 シリカゲル 60N 球状、中性 40-50 mm)を直径5 cmのクロマトグラム管に20 cm充填したカラムに付し、クロロホルム/メタノール=1/0, 3/1, 1/1, 1/3, 0/1の混合溶媒を用いて展開した。そのうちクロロホルム/メタノール=1/3画分を濃縮して22.5 mgの残渣を得た。この残渣をTLC(Merck silica gel 60F254 20×10 cm)2枚に付し、クロロホルム/メタノール=3/1の混合溶媒を用いて展開した。UV吸収を指標に分離を行い新規化合物26.1 mgを単離した。
【実施例3】
【0022】
単離した化合物1および2の物理的性状は下記の通りであった。またNMRスペクトルの結果を表1(1H NMRスペクトル(400 MHz, CD3OD)、13C NMRスペクトル(100 MHz, CD3OD))に示す。これらの情報から化合物1および2の構造を以下のとおり決定した。
【0023】
化合物1
(1) 色及び性状:無色オイル状
(2) 分子式:C17H22O2
(3) 高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 257.1505(C17H21O2-
理論値 m/z 257.1540
(4) 赤外吸収スペクトルλmax(KBr)cm-1:2954, 2927, 2856, 1636, 1577, 1457, 1428, 1396, 1372, 1247, 1192,1099, 965, 934, 826
(5) Rf値(Merck silica gel 60F254):0.76(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=3/1)
(6) 構造式
【0024】
【化3】

【0025】
化合物2
(1) 色及び性状:無色オイル状
(2) 分子式:C17H24O3
(3) 高分解能質量分析(Waters LTC-Premier XE)
実測値 m/z 275.1655(C17H23O3-
理論値 m/z 275.1645
(4) 赤外吸収スペクトルλmax(KBr)cm-1:3393, 2956, 2930, 2859, 1718, 1671, 1577, 1457, 1389, 1255, 1163,1057, 969
(5) Rf値(Merck silica gel 60F254):0.71(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=3/1)
(6)
構造式
【0026】
【化4】

【0027】
【表1】

【実施例4】
【0028】
ヒト血小板PDE5を用いて化合物1の活性を評価した。PDE5をTris-HCl緩衝液(pH 7.5)に35 mg/mlの濃度で溶解し、化合物1(10 mM)とともに25度で15分間インキュベートした。この溶液に1 mM cGMPと0.01 mM [3H]cGMPを加え20分間酵素反応した後、100度で反応を停止した。反応後、蛇毒ヌクレオチダーゼを添加することで[3H]cGMPを[3H]Guanosineへと変換し、AG1-X2樹脂で精製した。変換された [3H]Guanosine量を測定することで阻害率(%)を算出したところ、化合物1は10 mMにおいて50%の阻害活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の化合物はPDE5阻害作用を有するので、c-AMP、c-GMPの分解を阻害することにより好ましい影響がある病態に対する医薬品として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立にOH、H、CH3から選択されるいずれか任意のもの、又は、R1とR2、R3とR4がそれぞれ結合して形成された二重結合のいずれかを表す。)
【請求項2】
一般式(II)で示される請求項1の化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【化2】

(式中、R1とR2はそれぞれ独立にOH、Hのいずれか、又は、R1とR2が結合し形成された二重結合のいずれかを表す。)
【請求項3】
請求項1又は2記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の化合物又はその製薬学的に許容される塩を有効成分とするホスホジエステラーゼ5阻害剤。
【請求項5】
ストレプトミセス属に属し、請求項1又は2の化合物を生産する能力を有する微生物を培養し、その培養物から請求項1又は2の化合物を単離することを特徴とする、請求項1又は2の化合物の製造法。
【請求項6】
ストレプトミセス属に属する微生物がストレプトミセスNPS554株(Streptomyces sp. NPS554)である請求項5の製造法。
【請求項7】
ストレプトミセスNPS554株(Streptomyces sp. NPS554)、又は、請求項1又は2の化合物を生産する能力を有するストレプトミセスNPS554株の変異株。
【請求項8】
請求項1又は2の化合物より誘導されることを特徴とする一般式(III)で表される化合物又はその製薬学的に許容される塩。
【化3】

(式中、
R1は、-CH2OH、-CH2O-低級アルキル、-CH2NH2、-CH2NH-低級アルキル、-CH2N(低級アルキル) 2、-CH2-ハロゲン、-COOH、-CO2-アルキル及び-COHから選ばれる任意のものであり、
R2は、-低級アルキル、-CH(OH)-低級アルキルから選ばれる任意のものであり、
R3及びR4は、(以下ハロゲンをXと略称する)(X,X)、(H,X)、(OH,H)、(H,OH)、(X,OH)、(H,NH2)、(NH2,H) の組み合わせ、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものであり、
R5及びR6は、(X,X)、(H,X)、(OH,H)、(H,OH)、(X,OH)、(H,NH2)、(NH2,H) の組み合わせ、又は両者が-O-と結合したエポキシから選ばれる任意のものである。

【公開番号】特開2010−208963(P2010−208963A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54599(P2009−54599)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】