説明

新規X連鎖性筋疾患に関連するFHL1変異

X連鎖性筋疾患に関連する128位又は224位のFour and a Half LIM領域タンパク質1(FHL−1)変異、筋ジストロフィー及び心筋症を含む筋疾患を発症しやすい個人を特定するための対象の検査方法、及びキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子変異に関する。特に新規X連鎖性筋疾患に関連するFHL1変異に関する。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィー(MD)は、随意的な骨格筋の進行性変性及び進行性衰弱を特徴とする、遺伝的な筋疾患群として定義される(Davies and Nowak、2006)。MDは、発症年齢、罹患率、遺伝形式、進行率、及び筋衰弱の分布及び重症度から様々な病型に分類される。ある種の筋ジストロフィーは、心筋組織及び平滑筋組織に影響を与える。MDは、X染色体劣性遺伝形式を最もよくとり、通常、Xp21.2上のDMD遺伝子における変異に起因する。DMD変異により、ジストロフィンタンパク質の欠損が生じ、下半身の近位筋に急速進行性の衰弱や萎縮が起こる。最も一般的な神経筋疾患であるDuchenne型MD(DMD)は、機能的なジストロフィンの完全欠損をもたらすフレームシフト変異によって引き起こされるが、一方で、表現型的に軽度なBecker型MDは、機能的なジストロフィンレベルの低下又は機能性タンパク質の一部に発現の低下をもたらすミスセンス及びインフレーム欠失に関連している(Davies and Nowak、2006)。この構造タンパク質は、その筋鞘を介して、アクチン細胞骨格を筋線維膜と結合させる働きをしており、筋細胞の支持体となっている(Ervasti、2007)。ジストロフィンの欠損は、前記の筋肉における複合体へ影響を与え、筋組織の変性につながる。DMDは、出生男児4000人に1人の割合で発生し、発症年齢は6歳未満、標準的な寿命は20〜25歳であるが、一方で、Becker型MDの発症年齢には、青年期又は成人期も含まれ、その症状はDMDと同様ではあるが、一般的にDMDより軽度である。これらには、筋の仮性肥大、近位筋萎縮、そしてまれに心筋症及び/又は知能の欠損がみられる。
【0003】
Emery−Dreifuss型MD(EDMD)は、Xq28上のEMD遺伝子によってコードされるエメリンタンパク質の欠損によって引き起こされる、別の遅発性のX染色体劣性型MDである(Ellis、2006)。EDMDは、筋萎縮が上腕・腓骨に分布している点、筋の仮性肥大が認められない点、及び、かなりの高頻度で心筋症を生じる点において、他のX連鎖性MDとは表現型的に異なっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当技術分野では、筋ジストロフィー及び心筋症を含む筋疾患に関連するFHL−1変異、及び、そこからコードされるタンパク質の同定が必要とされている。さらに、当技術分野では、筋ジストロフィー及び心筋症を含む筋疾患に罹患している患者、又は罹患するリスクがある個人を特定するため、前記変異の検査を可能にすることが必要とされている。
【0005】
本発明は、遺伝子変異に関する。特に、本発明は、筋疾患に関連する遺伝子変異に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸1〜230、その断片、又は該アミノ酸と少なくとも70%の同一性をもつ配列を含み、且つ、アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含むタンパク質を提供する。
【0007】
はA又はSであり、Xは、K、N、又はQであることが好適である。
【0008】
また、本発明は、Xがトリプトファンである前記タンパク質を提供する。
【0009】
また、本発明は、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義される前記タンパク質を提供する。
【0010】
また、本発明は、核酸であり、
a)前記タンパク質又はその断片をコードする配列、
b)前記タンパク質又はその断片をコードする配列に相補的な配列、
c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、前記タンパク質又はその断片をコードする核酸とハイブリッド形成することができる配列、又は
d)a)又はb)に定義される核酸と約70%を超える同一性をもつ配列を含む核酸を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記核酸において、前記断片が、アミノ酸配列GWKを含む核酸を提供する。
【0012】
また、本発明は、Xがトリプトファンである前記核酸を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記核酸において、前記タンパク質が、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されるものも意図している。
【0014】
また、本発明は、X連鎖性筋疾患について対象を検査する方法であり、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階、及び、
b)アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含む前記タンパク質又はその断片をコードする核酸について、前記サンプルを分析する段階、又は、
c)アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含む前記タンパク質又はその断片について、前記サンプルを分析する段階を含む方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記方法において、前記筋疾患が、例えば、骨格筋症又は心筋症などであって、筋ジストロフィーに限定されない方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、Xがトリプトファンである前記方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記方法において、前記タンパク質が、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されることを特徴とする方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、前記方法において、前記対象がヒトであることを特徴とする方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記方法において、前記生体サンプルが血液サンプルであることを特徴とする方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記方法において、分析段階が、PCR、プローブハイブリダイゼーション、又は、シーケンシングを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、下記i)〜vii)、又はそれらの組み合わせを含むキットを提供するものである。
i)本願記載の筋疾患に関連するタンパク質又はその断片、
ii)本願記載の筋疾患に関連しない野生型タンパク質よりも、前記筋疾患に関連するタンパク質又はその断片と選択的に結合する抗体、
iii)本願提供のX連鎖性筋疾患に関連する変異を含むタンパク質又はその断片をコードするヌクレオチド配列を増幅するための1つ以上の核酸プライマー、
iv)本願提供のX連鎖性筋疾患に関連する変異を含むタンパク質又はその断片をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する、約9〜100ヌクレオチド間の1つ以上の核酸プローブ、
v)これらには限定されないが、バッファ、dATP、dTTP、dCTP、dGTP、又はDNAポリメラーゼを含む1つ以上の試薬、
vi)対象の筋疾患に対するリスクを分析、診断又は決定するための指示事項、
vii)本願記載の成分を使用する、又は本願記載の方法を行うための指示事項。
【0022】
また、本発明は、128位におけるイソロイシンの挿入を含むFHL−1タンパク質を提供する。好適な実施形態において、前記タンパク質は、ヒトアイソフォームa、b、又はcのアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列と少なくとも70%の同一性をもつアミノ酸配列を含む。
【0023】
また、本発明は、前記FHL−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0024】
また、本発明によって、好適には野生型FHL−1タンパク質でない前記FHL−1タンパク質と選択的に結合する抗体が提供される。
【0025】
また、本発明は、X連鎖性筋疾患について対象を検査する方法であり、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階、及び、
b)128位におけるイソロイシンの挿入を含むFHL−1タンパク質をコードする核酸について前記サンプルを分析する段階、又は、
c)128位におけるイソロイシンの挿入を含むFHL−1タンパク質について前記サンプルを分析する段階を含み、
前記核酸又はタンパク質の存在によって、前記対象が筋疾患に罹患していること、又は罹患するリスクがあることを示す方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、128位におけるイソロイシン挿入を含むFHL−1タンパク質、128位におけるイソロイシン挿入を含むFHL−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列、128位のイソロイシンをコードするヌクレオチド配列を同定するために使用され得るプローブ、前記配列を増幅できるプライマー、好適には野生型FHL−1タンパク質でない前記タンパク質を認識する抗体、対象を検査するための指示事項、1つ以上の成分を使用するために用いることができる1つ以上の試薬、又はそれらの組み合わせを含むキットを提供する。本願記載の、又は当業分野で周知であるその他構成要素も含めることができ、上記の羅列は、いかなる場合においても限定することを意図したものではない。
【0027】
本発明の概要は、必ずしも、本発明の全ての特徴を説明したものではない。
【0028】
本発明の上記及びその他の特徴は、添付図面を参照する下記説明によって一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1Aは、X連鎖性姿勢筋疾患家系の家系図である。DNAサンプルが得られた家系員を矢印で示す(↓)。図1Bは、筋疾患を発現する英国家系2の家系図である。図1Cは、筋疾患を発現する英国家系3の家系図である。
【0030】
【図2】図2は、疾患初期段階の患者において、臨床的に評価された姿勢背筋(postural back muscles)の萎縮を示す。三角筋に萎縮が見られる。大臀筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、及び前腕は正常に見える。大腿二頭筋(ハムストリング筋)、大内転筋(大腿部)、短母指外転筋、及び母指内転筋(手)は萎縮の兆候を示している。
【0031】
【図3】図3は、外側広筋(A)及び前脛骨筋(B)の筋生検を示す。筋肉組織構造から、中等度の筋周膜線維症及び限局性筋内膜線維症を伴う中等度の疾患が明らかとなった。全ての筋生検において、主にII型筋線維に丸い自己貪食空胞がいくつか検出された。これらの空胞変化は、患者Bにおいて最も著しかった。また、中心に位置する筋核は増加し、単筋線維壊死及び顆粒状の筋原線維変性はほとんど見られなかった。
【0032】
【図4】図4は、外側広筋(A)及び前脛骨筋(B)の筋生検を示す。酸性pH4.3/4.6でのミオシンATPase染色により、疾患初期段階の患者におけるI型筋線維(暗色箇所)及びII型筋線維(明色箇所)の分布が明らかとなった。全ての標本において、筋線維サイズのばらつきが直径20〜100μmの範囲で大きく、特に、II型筋線維で顕著であった。NADH及びCOXの組織化学的検査では、両患者において、陰性のコア様病変(negative core−like lesion)が中心的に検出され、さらなるミトコンドリアの変化はなかった。
【0033】
【図5】図5は、多型STR遺伝子内マーカーSTR−44、STR−45、STR−48、STR−49、及びSTR−50を用いたDMD遺伝子座の連鎖分析を表したものである。罹患者の様々なハプロタイプが明らかとなり、これによって、DMD遺伝子座は除外された。ハプロタイプで表されているように、マーカーSTR−44、STR−48、STR−49、及びSTR−50の組み換えが明らかである。
【0034】
【図6】図6は、X染色体の長腕上にある、姿勢筋萎縮を伴うX連鎖性疾患(XMPMA)遺伝子座のイデオグラム的な表現である。電気泳動図は、オーストリアのXMPMA家系における野生型及び変異配列を示しており、FHL1の二次構造は、結果として生じるアミノ酸置換C224Wの位置を、タンパク質の構造的特徴に応じて表したものである。
【0035】
【図7】図7は、本願全体を通して記載されるアミノ酸及びヌクレオチド配列、並びに、当該分野で周知の野生型タンパク質配列のいくつかを表したものである。
【0036】
【図8】図8は、複数の種における、FHL1の第4LIM結合ドメインの比較分析を表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
下記に、好適な実施形態を説明する。
【0038】
本出願人は、X染色体劣性遺伝形式の新型筋疾患を呈する、多世代に渡るオーストリアの一家系を特定した。罹患者は、I型筋線維の緩徐な萎縮を示す組織構造を伴う、特異な姿勢筋の萎縮を発症している。従来のX染色体劣性MDは、免疫細胞化学的染色、マーカー分析、及び遺伝子シーケンシングによって除外された。マーカー分析により、Xq26−q27に意味のある結合を認めた。5人の罹患者及び3人の非罹患家系員の250KアレイSNPチップデータに基づくハプロタイプ分析により、この結合領域がX染色体長腕(Xq26−q27)上にあることを確認し、さらにその候補区間を、約850の連続したSNPsを含む26Mbに絞り込むことができた。機能的な候補遺伝子のシーケンシングにより、第4LIMドメインを分断すると推定されるfour−and−a−half LIMドメイン1遺伝子(FHL1)内の変異が同定された。Xq27.2上のFHL1は、I型筋線維に特異的に高発現する。そのため、本出願人は、新型疾患、すなわち、姿勢筋萎縮を伴うX連鎖性疾患(XMPMA)の特性を明らかにし、FHL1をその原因遺伝子として同定した。その他の家系における調査でも、FHL1が、本願記載のX連鎖性疾患及び心筋症の原因遺伝子と確認された。
【0039】
タンパク質及びアミノ酸
【0040】
本発明の一実施形態は、SEQ ID NO:1のアミノ酸1〜230、その断片、又は、該アミノ酸と少なくとも70%の同一性をもつアミノ酸配列を含み、且つ、アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含むタンパク質を提供する。Xは、A又はSであり、Xは、K、N、又はQであることが好適である。好適な実施形態において、Xは、トリプトファンであり、例えば、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されるものであるがこれに限定されない。
【0041】
前記アミノ酸と少なくとも70%の同一性をもつアミノ酸配列とは、SEQ ID NO:1又はその断片との同一性が70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、又は100%、又はその間の任意の値である配列を含むものと理解される。さらに、前記タンパク質は、上記に挙げられた値又はその間の値のうち、任意の2つの値で定義される配列同一性の範囲を含むものであると定義してもよい。
【0042】
ポリペプチド配列の間の同一性の程度の決定には、当該分野で周知のあらゆる方法を用いることができる。密接に関連した配列を検索するために、例えば、Tatiana et al.(FEMS Microbial Lett.174:247 250(1999))や、全米バイオテクノロジー情報センターウェブページ(ncbi.nlm.gov/BLAST/)に記載されているようなデフォルトパラメータに従い、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul S F、Gish W、Miller W、Myers E W、Lipman D J(1990)、J Mol Biol 215、403 410)などの配列検索方法を用いることができるが、これらに限られることを望むものではない。BLASTは、所定の配列アラインメントにおいて幅広く使用されており、アラインメントにおけるずれ(gaps)(挿入又は欠失)の導入を可能にするギャップドBLAST(Gapped BLAST)や、配列相同性について高精度な検索を行えるPSI−BLAST(Altschul et al.、Nucleic Acids Res.25:3389 3402(1997))のような改良されたBLASTアルゴリズム;又は、ExPASy(EMBL−欧州バイオインフォマティクス研究所)のウェブサイトで入手可能なFASTAなどが挙げられる。DNA又はRNA配列を比較して配列同一性の程度を決定するために、当該分野で周知の同様の方法を用いてもよい。
【0043】
本発明の一実施形態では、アミノ酸の挿入を含むFHL1タンパク質を提供するが、これに限定することを意図するものではない。さらなる実施形態では、イソロイシンアミノ酸の挿入を含むFHL1タンパク質を提供する。また、さらなる実施形態では、128InsIを含むFHL1タンパク質を提供する。例えば、アイソフォームa、b又はcに限定されない、任意のアイソフォームは、このアミノ酸挿入を含み得る。このようなタンパク質をコードするヌクレオチド配列もまた、下記の通り本発明に包含される。
【0044】
核酸
【0045】
また本発明は、核酸であり、
a)前記タンパク質又はその断片をコードする配列、
b)前記タンパク質又はその断片をコードする配列に相補的な配列、
c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、前記タンパク質又はその断片をコードする核酸とハイブリッド形成することができる配列、又は、
d)a)又はb)に記載の核酸と約70%を超える同一性をもつ配列を含む核酸を提供する。
【0046】
前記タンパク質をコードする核酸の代表的な例は、SEQ ID NO:5及び6(式中、Xは、シトシン(c)でも、翻訳の際にシステインを産生するその他のヌクレオチドでもない。)によるものが挙げられるが、これに限定することを望むものでない。
【0047】
上記核酸としては、X連鎖性筋疾患に関連するタンパク質を産生するために用いられ得る核酸、筋疾患を発症する又は発症しやすくなる変異を保有する対象を特定又は診断するために使用され得るプローブ、筋疾患に関連する遺伝子からのタンパク質産生を調節するために使用され得るアンチセンス又は短鎖抑制性RNA(short inhibitory RNA)、又はその組み合わせ等が挙げられる。上記タンパク質、その断片、又は核酸は、好適には、当該分野で周知の野生型タンパク質より上記タンパク質を選択的に認識する抗体を産生するために用いてもよい。
【0048】
上記核酸の好適な一実施形態において、Xはトリプトファンである。本方法のさらなる実施形態において、前記タンパク質は、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義される。またさらなる実施形態において、前記タンパク質は、128位におけるイソロイシンアミノ酸挿入(128InsI)を含むヒトFHL1タンパク質である。
【0049】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として、例えば、65℃にて4×SSCで一晩(約16〜20時間)ハイブリダイゼーションした後、65℃にて0.1×SSCで1時間洗浄、又は、65℃にて0.1×SSCで20又は30分間の洗浄を2回行うものが挙げられるが、これに限るものではない。又は、典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として、42℃にて4×SSC、50%のホルムアミド中で一晩(16〜20時間)ハイブリダイゼーションした後、65℃にて0.1×SSCで1時間洗浄、又は、65℃にて0.1×SSCで20又は30分間の洗浄を2回、又は一晩(16〜20時間);又は、65℃でチャーチリン酸緩衝溶液(7%SDS;0.5M NaPOバッファ pH7.2;10mM EDTA)にてハイブリッド形成し、50℃にて0.1×SSC、0.1%SDSで20又は30分間の洗浄を2回、又は、ユニーク配列領域に対し、65℃にて2×SSC、0.1%SDSで20又は30分間の洗浄を2回行うことが挙げられる。
【0050】
本発明はさらに、1以上の調節エレメント又は調節領域へ有効に(operatively)結合する上記核酸を含むヌクレオチド構造物に関する。「調節エレメント」又は「調節領域」という用語は、必ずではないが、遺伝子の上流にある核酸の一部を通常は意味し、DNA又はRNAのいずれか、又はDNA及びRNAの両方を含み得る。調節エレメントとしては、器官特異性を媒介できるもの、又は発生遺伝子又は時間的な遺伝子活性化を調整できるものが挙げられる。さらに、「調節エレメント」には、プロモーターエレメント、コアプロモーターエレメント、外的刺激に反応して誘導されるエレメント、構成的に活性化されたエレメント、又は、陰性調節エレメント又は転写エンハンサーのようなプロモーター活性を増減させるエレメントを、各々含んでもよい。調節エレメント活性を示すヌクレオチド配列とは、プロモーター、コアプロモーター、構成的調節エレメント、陰性エレメント又はサイレンサー(すなわち、プロモーター活性を減少させるエレメント)、又は、転写又は翻訳エンハンサーなどの対象となる機能のコード配列と有効に結合する際のヌクレオチド配列を意味している。
【0051】
「有効に結合」とは、特定の配列同士、例えば、調節エレメントと対象となるコード領域とが、直接的又は間接的に相互作用し、遺伝子発現の媒介又は調節などの目的とする機能を果たすことを意味する。有効に結合する配列の相互作用は、例えば、有効に結合する配列と相互作用するタンパク質によって媒介され得る。
【0052】
本願で用いられる調節エレメントには、転写開始又は転写の後に活性化されるエレメント、例えば、翻訳及び転写エンハンサー、翻訳及び転写リプレッサー、及び、mRNA安定性又は不安定性デターミナントなどの、遺伝子発現を調節する調節エレメントも含まれる。本開示において、「調節エレメント」という用語は、必ずではないが、通常は、構造遺伝子のコード配列の上流(5’)側の配列も意味し、その配列には、ある特定の部位で転写を開始するのに必要なRNAポリメラーゼ及び/又はその他因子に対する認識を備えることによってコード領域の発現を調整する配列が含まれる。ある特定の部位で確実に転写を開始させるRNAポリメラーゼ又はその他転写因子に対する認識を備えた調節エレメントの例として、プロモーターエレメントが挙げられる。プロモーターエレメントは、転写開始に関与するコアプロモーターエレメント、及び、遺伝子発現を修正するその他調節エレメントを含む。当然のことながら、イントロン内に位置するヌクレオチド配列、又は、コード領域配列の3’もまた、対象となるコード領域の発現調節に寄与し得る。また、調節エレメントには、転写開始部位の下流(3’)、又は転写領域内、又はその両方に位置するエレメントも含まれる。本発明においては、転写後調節エレメントとして、例えば、翻訳及び転写エンハンサー、翻訳及び転写リプレッサー、及びmRNA安定性デターミナントなどの、転写開始後に活性化されるエレメントが挙げられる。
【0053】
上記調節エレメント又はその断片は、異種の調節エレメントの活性を調節するために、その異種の調節エレメント又はプロモーターと効果的に付随(有効に結合)していてもよい。そのような調節としては、異種の調節エレメントの転写活性の増強又は抑制、転写後事象の調節、又は異種の調節エレメントの転写活性の増強/抑制及び転写後事象の調節の両方が挙げられる。例えば、1つ以上の調節エレメント又はその断片は、構成的誘導性の組織特異性プロモーター又はその断片、又は調節エレメントの断片と効果的に付随し得る。例えば、植物、昆虫、菌類、細菌、酵母、又は動物細胞内にある前記プロモーターの活性を調節するために、TATA又はGC配列を本発明の調節エレメントと効果的に付随させてもよいが、これに限るものではない。
【0054】
調節エレメントには複数の種類があり、発生的に調節され、誘導性で且つ構成的なものが挙げられる。発生的に調節された調節エレメント、又はその制御下で遺伝子の発現差異を調整する調節エレメントは、特定の器官又は器官の組織内において、その器官又は組織が発達する間の特定の時期に活性化される。しかし、発生的に調節された調節エレメントには、ある器官又は組織内において、特定の発達段階で優先的に活性化されるものもあり、それらはまた、発生的に調節された方法で活性化されるか、又は植物内のその他の器官又は組織においても基礎レベルで活性化され得る。
【0055】
「プロモーター」とは、コード領域の5’末端におけるヌクレオチド配列、又は転写開始及び転写速度調節に不可欠なシグナル全てを含む前記ヌクレオチド配列の断片を意味する。通常、誘導性プロモーターと構成的プロモーターの2種類のプロモーターがある。
【0056】
誘導性プロモーターは、誘導因子に反応して、1つ以上のDNA配列又は遺伝子の転写を、直接的又は間接的に活性化できるプロモーターである。誘導因子が存在しなければ、DNA配列又は遺伝子は転写されない。通常、転写を活性化する誘導性プロモーターへ特異的に結合するタンパク質因子は不活性化状態で存在し、該タンパク質因子はその後、誘導因子によって、直接的又は間接的に活性化状態へ変換される。上記誘導因子は、例えば、タンパク質、代謝体、成長調節物質、又は、熱、低温、又は有毒物質によって直接的に課せられるか、又は、ウィルスなどの病原体や病因物質の作用によって間接的に課せられる生理的ストレスなどの化学的因子であり得る。
【0057】
構成的プロモーターは、生物の様々な部分を通じるか、及び/又は、生物の発生を通じて連続的に、遺伝子の発現を指示する。本願記載のタンパク質又はその断片の発現を促進するために、任意の適当な構成的プロモーターを使用することができる。周知の構成的プロモーターの例としては、CaMV 35S転写物(Odell et al.、1985、Nature、313:810−812)に関連するものが挙げられるがこれに限られない。
【0058】
本願で用いられる「構成的」という用語は、遺伝子が全ての細胞型において同じレベルで発現されることを必ずしも意味するとは限らず、多数の変異が頻繁に認められながらも、遺伝子が幅広い細胞型において発現されることを意味する。
【0059】
本発明の遺伝子構造物は、さらに、3’非翻訳領域を含むものである。3’非翻訳領域とは、ポリアデニル化シグナル及びmRNAプロセッシングや遺伝子発現をもたらし得るその他の調節シグナルを含むDNAセグメントを含む遺伝子部分を意味している。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へポリアデニル酸トラック(tracks)を付加するという特徴を有する。
【0060】
また、本発明の遺伝子構造物は、必要とあらば、追加的なエンハンサー(翻訳又は転写エンハンサーのいずれか)を含み得る。これらのエンハンサー領域は、当業者に周知であり、ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得る。前記開始コドンは、配列全体を確実に翻訳するために、コード配列のリーディングフレームと一致しなければならない。翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方を含む、様々な起源に由来するものであり得る。翻訳開始領域は、転写開始領域源、又は構造遺伝子から提供され得る。この配列はまた、遺伝子を発現させるために選択される調節エレメントを由来としてもよく、mRNAの翻訳を強化させるために特異的に修飾させてもよい。
【0061】
本発明は、さらに、上記核酸を含むベクターを含む。本発明の核酸配列での使用に適した発現ベクターとしては、プラスミド、ファージミド、ウイルス粒子及びベクター、ファージ等が挙げられるがこれらに限られない。昆虫細胞においては、バキュロウイルス発現ベクターが適している。植物細胞においては、カリフラワーモザイクウイルスやタバコモザイクウイルスなどのウィルス発現ベクター、及び、Tiプラスミドのようなプラスミド発現ベクターが適している。発現ベクター全体又はその一部は、宿主細胞ゲノムに組み込むことができる。
【0062】
本願定義のタンパク質又はその断片を産生するために、様々な発現系が使用できることは当業者に理解されるであろう。体外産生に関し、使用される明確な使用宿主細胞は、本発明において重要ではない。タンパク質又はその断片は、原核宿主(例えば、大腸菌又は枯草菌)又は、真核宿主(例えば、サッカロミセス又はピキア(Pichiat);COS、NIH 3T3、CHO、BHK、293、又はHeLa細胞のような哺乳類細胞;昆虫細胞;又は植物細胞)において産生することができる。形質転換又は形質移入の方法、及び、発現ベクターの選択は、選択される宿主系に依存し、当業者が容易に決定することができる。形質転換及び形質移入の方法は、例えば、Ausubel et al.(1994)Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、New
Yorkに記載されており、また、様々な発現ベクターは、例えば、Cloning Vectors:A Laboratory Manual(Pouwels et al.、1985、Supp.1987)にて提供されているもの、及び様々な商業供給業者によって提供されているものから選択できる。さらに、宿主細胞は、挿入配列の発現を調節するもの、又は特定の望ましい方法で遺伝子産物を修飾/処理するものを選べばよい。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)、及びプロセッシング(例えば、切断)は、タンパク質活性において重要である。種々の宿主細胞が、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセッシング及び修飾に対し、特徴的で且つ特異的なメカニズムをもつ。発現した心筋幹細胞増殖タンパク質の正確な修飾及びプロセッシングを確実に行うための適切な細胞株又は宿主系は、当業者が選択することができる。
【0063】
検査方法
【0064】
また、本発明は、X連鎖性筋疾患について対象を検査する方法であり、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階であって、該生体サンプルが、核酸について分析する場合にはDNA又はRNA、また、タンパク質について分析する場合にはFHL−1タンパク質を含むことを特徴とする段階、及び、
b)アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含む前記タンパク質又はその断片をコードする核酸について、前記サンプルを分析する段階、又は、
c)アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含む前記タンパク質又はその断片について、前記サンプルを分析する段階を含む方法を提供する。
【0065】
また、本発明は、X連鎖性筋疾患について対象を検査する方法であり、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階であって、該生体サンプルが、核酸について分析する場合にはDNA又はRNA、また、タンパク質について分析する場合にはFHL−1タンパク質を含むことを特徴とする段階、及び、
b)128位におけるイソロイシン挿入(128InsI)を含むFHL−1タンパク質をコードする核酸について前記サンプルを分析する段階、又は、
c)128位におけるイソロイシン挿入(128InsI)を含むFHL−1タンパク質について前記サンプルを分析する段階を含む方法を提供する。
前記FHLタンパク質は、本願記載のヒトFHL−1タンパク質アイソフォームa、b、又はcと同一又は実質的に同一であってよく、実質的に同一とは、それらと少なくとも70%の同一性をもつことを含み、より好適には、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、又は99.9%の同一性をもつことを意味している。
【0066】
また、本発明は、前記方法において、前記筋疾患が、例えば、筋ジストロフィーに限定されない骨格筋症である方法を提供する。もしくは、前記筋疾患は心筋症であってもよいが、これに限定されることを望むものではない。心筋症は、本願で調査される罹患者がそのような症状を示す、及び/又は、心臓に関連した病気で死亡すると思われるときに、特に検討される。
【0067】
上記実施形態では、当然のことながら、対象から得た生体サンプルにおける標的核酸、タンパク質、又はその両方の同定は、例えば、これに限定されるものでないが、X連鎖性筋ジストロフィー又は心筋症のような筋疾患に罹患している、又は罹患するリスクがある対象の特定に利用することができる。
【0068】
「核酸について前記サンプルを分析」という用語は、前記タンパク質をコードする核酸について、対象から提供されたサンプルを検査すること、及び/又は特性を明らかにすることを意味しており、また、ハイブリダイゼーションアッセイ、ヌクレオチドシーケンシング、RT−PCR(ただし、必ずしもこれに限定されない)等を含むヌクレオチドPCR、又はその組み合わせを含むことを意味しているがこれらに限されない。
【0069】
前記検査方法の好適な実施形態において、Xは、トリプトファンである。別の実施形態において、前記タンパク質は、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されるが、これらに限定されない。また、前記検査方法は様々な対象について行うことができるが、好適には、前記対象はヒトである。
【0070】
対象から得られたサンプルは、DNA又はRNAが得られる任意の組織サンプル又は生体液サンプルを含む。例えば、DNAは、血液、毛包細胞、皮膚細胞、頬の細胞、組織生検等から得られるが、これらに限られない。好適な実施形態において、前記サンプルは、血液である。
【0071】
また、本発明は、複数の対象からの生体サンプル内において、前記タンパク質を同定する及び/又はその特性を明らかにする検査方法も意図している。そのようなサンプルは、DNA又はRNAを含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、前記検査方法では、サンプル中の上記タンパク質を同定するために、ELISAs等の抗体結合アッセイ、タンパク質シーケンシング、電気泳動分離といった、免疫学的方法を用いてもよいが、これらに限るものではない。当業者には自明であるが、前記検査方法によって、本願定義のタンパク質と、当該分野で周知の野生型タンパク質との区別が可能となる。
【0072】
キット
【0073】
また、本発明は、キットを提供するものであり、該キットは、例えば、これらに限定されないが、本願記載の筋ジストロフィーや心筋症などの筋疾患に関連する1以上のタンパク質又はその断片;筋疾患、筋ジストロフィー、又は心筋症に関連しない野生型よりも、本願記載の筋疾患、筋ジストロフィー、又は心筋症に関連するタンパク質又はその断片と選択的に結合する抗体;本願記載のX連鎖性筋疾患、筋ジストロフィー、又は心筋症に関連する変異を含むタンパク質又はその断片をコードするヌクレオチド配列を増幅するための1つ以上の核酸プライマー;本願記載のX連鎖性筋疾患、筋ジストロフィー、又は心筋症に関連する変異又は挿入を含むタンパク質又はその断片をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する約9から100ヌクレオチドの1つ以上の核酸プローブ;バッファ、dATP、dTTP、dCTP、dGTP、DNAポリメラーゼ(ただし、これらに限られない)を含む1つ以上の試薬;筋疾患、筋ジストロフィー、又は心筋症に対する対象のリスクを分析、診断、又は決定するための指示事項;本願記載の成分を使用するため、又は本願記載の方法を行うための指示事項、又はそれらの組み合わせを含むものである。
【0074】
さらなる実施形態では、いかなる場合においても限定することを意図するものではないが、本願全体を通して定義されるタンパク質を含む非ヒト動物を産生する方法であって、
前記タンパク質、好適には野生型FHL−1タンパク質が存在しないタンパク質、さらに好適にはFHL−1タンパク質の全てのアイソフォームが存在しないタンパク質をコードするヌクレオチド構造物で、非ヒト動物を形質転換する段階を含む方法を提供する。ヒト対象が特定の筋肉の肥大化を示すとき、様々な身体部分で筋肉量の増加を示す動物を生産するために、例えば、肉用牛、ウマ、家禽、ブタ、又はその他の非ヒト動物で前記方法を用いてもよい。
【0075】
本発明を、下記実施例においてさらに説明する。
【実施例1】
【0076】
実施例1:材料及び方法
【0077】
臨床的評価
【0078】
発端者は、前述の筋ジストロフィーとは臨床的差異を有するMDを示唆する臨床的特徴を現す、数世代のあるオーストリア家系に由来する(図1)。本出願人は、生存する6人の患者(全て男性)を特定した。神経筋疾患(S.Q.)に長けた神経内科医が神経学的検査を行った。可能であれば第一度近親も検査した。全ての罹患者及びその家系員において、血清中クレアチンキナーゼ(CK)レベルが測定された。
【0079】
ミオシンATPase染色
【0080】
標準的な組織学的プロトコルを用い、酸性pH4.3/4.6でミオシンATPaseを染色し、I型筋線維(遅筋線維)及びII型筋線維(速筋線維)の分布を評価した。この手順は、内転筋、二頭筋、三角筋、勃起筋、伸筋、屈筋、前頭筋、腓腹筋、臀筋、広背筋、胸筋、腓骨筋、直筋、縫工筋、ヒラメ筋、脛骨筋、三頭筋、広筋等について行った。
【0081】
筋肉免疫細胞化学
【0082】
患者50の筋生検後、標準的な免疫細胞化学プロトコルを利用して、ジストロフィン、アドハリン(adhalin)、メロシン、ジスフェルリン、カベオリン、α―ジストログリカン、エメリン、ラミンA/C、デスミン、β―遅筋型ミオシン重鎖、スペクトリン、及び、α―サルコグリカンの染色を行った。Novocastra laboratories Ltd.(Vision BioSystems、英国)より、スペクトリン(NCL−SPEC1)、ジスフェルリン(NCL−Hamlet)、エメリン(NCL−Emerin)、及びα―サルコグリカン(NCL−α−SARC)についてのモノクローナル抗体を入手した。ジストロフィンの棒状領域(NCL−DYS1)、C末端(NCL−DYS2)、及びN末端(NCL−DYS3)に特異的な、別のNovocastra製抗体をジストロフィン染色に用いた。メロシン(MAB 1922;Chemicon、ドイツ)、カベオリン(Caveolin3;Transduction laboratories、BD Biosciences、欧州)、α―ジストログリカン(KlonVIA4−l; Upstate Biotechnology、欧州)、ラミンA/C(マウスハイブリドーマ上清)、デスミン(M0760、Klon D33;Dako、欧州)、及びミオシン(805−502−L001、Lot L02279、Klon A4.951;Alexis Biochemicals、欧州)の染色処理には、モノクローナル抗体を用いた。
【0083】
DMD遺伝子座の排除
【0084】
標準的な手順を用い、血液サンプルからゲノムDNAを抽出した。ABI Prism(登録商標)Linkage Mapping Set v2.5で設定されたプロトコルによる熱サイクルに必要な条件を使用し、PCRでDNAを増幅させた。変性は、95℃で15分間の後、94℃で15分間、55℃で15秒間、72℃で30秒間を10サイクル繰り返して行った。その後、89℃で15秒間、55℃で15秒間、及び72℃で30秒間を20サイクル行い、72℃で10分間の最終伸長段階(final extension step)を設けた。反応混合物は、その10μL当たりが、50ngのゲノムDNA、0.1μmolの各プライマー、及びHotStart Taq Master Mix(Qiagen、欧州)で構成されていた。DMD遺伝子座に対する連鎖分析は、下記「連鎖分析」で説明されるように、標準的な方法を用いて行った。この目的のために、DMD遺伝子周囲の5つの多型STRマイクロサテライトマーカー、すなわち、STR−44(DXS1238;180−210bp)、STR−45(DXS1237;160−185bp)、STR−48(DXS997;105−120bp)、STR−49(DXS1236;230−260bp)、及びSTR−50(DXS1235;230−260bp)を選択した。5−カルボキシフルオセイン(FAM)又はNED蛍光色素を用い、フォワードプライマーをその5’末端で標識した。STR−44(フォワードプライマー:TCC AAC ATT GGA AAT CAC ATT TCA A;リバースプライマー:TCA TCA CAA ATA GAT GTT TCA CAG)、STR−45(フォワードプライマー:GAG GCT ATA ATT CTT TAA CTT TGG C;リバースプライマー:CTC TTT CCC TCT TTA TTC ATG TTA C)、STR−48(フォワードプライマー:GCT GGC TTT ATT TTA AGA GGA;リバースプライマー:GGT TTT CAG TTT CCT GGG TA)、STR−49(フォワードプライマー:CGT TTA CCA GCT CAA AAT CTC AAC;リバースプライマー:CAT ATG ATA CGA TTC GTG TTT TGC)、及びSTR−50(フォワードプライマー:AAG GTT CCT CCA GTA ACA GAT TTG G;リバースプライマー:TAT GCT ACA TAG TAT GTC CTC AGA C)。
【0085】
ゲノム全体でのSNP分析:Xq26−q27に対する新遺伝子座のマッピング
【0086】
The Centre for Applied GenomicsのMicroarray Facility(トロント、カナダ)にて、5人の罹患者(患者20、29、50、11及び45)及び3人の非罹患親族について、全ゲノムの250K NspI Affymertix SNPマイクロアレイを行った。平均250,000のSNPについて遺伝子型決定ができる装置において、SNP間の物理的距離の中央値2.5Kb、及び、平均距離5.8Kbで、単一ヌクレオチド多型を分離する(Affymetrix、カリフォルニア州、米国)。10Kb内に1つのSNPが存在するヒトゲノムの約85%において、これらSNPの平均ヘテロ接合性は0.30である。続いて、dCHIPソフトウェアを使用し、SNPマイクロアレイ遺伝子チップデータを分析した。
【0087】
連鎖分析
【0088】
easyLINKAGE plus v5.02を用い、多点X染色体劣性ノンパラメトリック連鎖を計算した。対立遺伝子頻度は同等と判断された。1cMは、1Mbに等しいと推測された。
【0089】
候補遺伝子のシーケンシング及び変異分析(MBNL3、VGLL1、FGF13)
【0090】
周知の遺伝子、発現配列タグ、及びXq26−q27に位置する推定上の新規遺伝子を位置付けるため、全米バイオテクノロジー情報センターのEntrez Genome Map Viewer、Ensembl Human Genome Server、及びGenBankデータベースが用られた。全米バイオテクノロジー情報センターのヒトゲノム配列データベースに対するBLAST検索によって、候補配列のエクソン-イントロン境界を決定した。PCRで機能的候補遺伝子の全てのエクソンを増幅させるため、イントロンプライマー(必要に応じて利用可能なプライマー配列)が使用された。BigDye(登録商標) Terminator 3.1 Cycle Sequencing Kit(Perkin−Elmer、Applied Biosystems)を用い、PCR産物の配列を決定した。ABI Prism(登録商標)3100 DNA Analyzer(Perkin−Elmer、Applied Biosystems)にシーケンシング反応を読み込ませ、ABI(登録商標) DATA COLLECTION バージョン1.1を用いて生じたデータを収集し、続いて、DNA SEQUENCING ANALYSIS バージョン3.6ソフトウェアを用いて分析した。シーケンシング及び変異分析は、Centre for Addiction and Mental Health(トロント、カナダ)で行った。
【実施例2】
【0091】
実施例2:新規X連鎖性筋疾患の同定及び特性解析
【0092】
本研究は、主に姿勢筋のI型筋線維に限定される萎縮を明確な特徴とする、軽度のX連鎖性MDを発症した家系について説明する最初の研究である。この多世代に亘るオーストリア家系はチェコ共和国を起源とし、今までに6人の生存する罹患者が確認され、検査されている。家系分析(図1)には、遺伝のX連鎖パターンが示されている。この家系の6人の患者全員並びに2人の死亡罹患者における臨床的評価から、極めて均一で特徴的な表現型が明らかとなった(表1参照)。全ての対象は、逞しい体格であるように見えたが(図2)、さらなる精密検査によって、他の筋肉が肥大する一方で、姿勢筋の一種の選択的萎縮及びやせが明らかとなった。主に衰弱及び萎縮のある筋肉は、ヒラメ筋、長腓骨筋、前脛骨筋、内側広筋、脊柱起立筋、広背筋下部、及び母指外転筋であった。さらに、全患者に、アキレス腱及びハムストリング筋、短頸、及び頸部の屈曲と伸展が機構上制限される範囲の著しい拘縮が認められた。腱反射、感覚検査、及び精神状態は正常であった。全罹患者において、脊柱側弯症、背痛、歩行障害、及びクレアチンキナーゼ値の上昇が認められた。見せかけの逞しい(pseudo−athletic)筋肉組織は、姿勢筋の萎縮に対する代償性反応とみられる。症状としては、30歳まで無症状であり、その病気にかかった6人の死亡家系員における死亡年齢は(45〜72歳と)様々であったが、ほとんどが原因不明の心疾患で死亡している。家系員の生活スタイルが活動的であるほど、表現型は軽度であり、病気の進行もより遅いようである。
【0093】
罹患者の筋生検より、姿勢筋における筋線維サイズの変動を伴ったジストロフィー変化、筋持久力型I型筋線維の変性、脂肪組織及び結合組織の増加、及び多核化した筋節が明らかとなった(図3)。生検筋組織の免疫細胞化学的染色によって、ジストロフィン及びエメリンなどの、常染色体性又はX連鎖性MDに関連するタンパク質は欠損していないことが判明した。このことは、本新型MDを識別し象徴する、臨床的且つ明らかな疫学的差異に合致している。ミオシンATPasa染色により、姿勢筋において、酸化性が高く、解糖能が低い持久力型のI型筋線維の緩徐な萎縮が明らかとなった。この病気の初期疾患患者では、I型及びII型筋線維は比較的正常に分布しているものの、病気が進むにつれI型筋線維が減少し、結果として萎縮したように見える(図4)。特に、中臀筋、大臀筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、前腕、広背筋、及び伸筋などの姿勢筋以外の筋肉は、筋線維分布及び機能の点で正常のようである(表2)。
【0094】
ジストロフィンタンパク質の特徴的な領域を検出するため、3つの異なる抗体を用いた。染色はかすかであったが罹患者と有意差はなく、ゆえに、この家系は、DMDの変異型又はBecker型MDの変異型を現さないことが示唆された。アドハリン染色を行い、それによって、常染色体劣性肢帯MD2C(LGMD2C)、LDMD2D、LGMD2E、及びLGMD2Fが除外された。正常なメロシン染色により、先天性MDが除外された。ジスフェルリン及びカベオリン染色によって、LGMD2B及びLGMD1Cがそれぞれ除外された。α−ジストログリカン染色によってLGMD1Iが除外された。正常なエメリン染色によって、本姿勢MDが異型X染色体劣性EDMDである可能性が取り除かれた。α−サルコグリカン(LGMD2D)及びスペクトリン(SCA5)染色によって、LGMD2D(Duchenne型に類似した常染色体劣性MD)及び脊髄小脳失調症5型(SCA5)が除外された。ラミンA/C、デスミン、及び、β−遅筋型ミオシン重鎖の正常な染色により、常染色体優性EDMD2及びLGMD1B(ラミンA/C)、デスミノパチー(desminopathy)(デスミン)、及び、遠位型ミオパチーMPD1(ミオシン)がそれぞれ除外された。筋緊張性ジストロフィー2(DM2)及び近位型筋緊張性ミオパチー(PROMM)も原因因子候補として考えられたが、分子遺伝学的分析により、変異は確認されなかった。
【0095】
免疫細胞化学的データ及び家系分析により、この家系は、多核性の筋節を示し、X染色体劣性遺伝型をもつ軽度の筋疾患を現すことが示唆された。この家系の表現型がDMDの変異型やBecker型MDの変異型である可能性を排除するため、DMD遺伝子周辺の5つの多型STRマイクロサテライトマーカー、すなわち、STR−44(DXS1238)、STR−45(DXS1237)、STR−48(DXS997)、STR−49(DXS1236)、及びSTR−50(DXS1235)を選択及び使用して、DMD遺伝子座に対する連鎖分析を行った。罹患者のDMD遺伝子座の至るところで異なるハプロタイプが明らかとなり、前記遺伝子座は、この家系における原因遺伝子から除外された。遺伝子内マーカーSTR−44、STR−48、STR−49、及びSTR−50の組み換えは明らかであった(図5)。続いて、前記遺伝子内マーカーの及ぶ領域の近位にあるcDNAをシーケンシングすることにより、DMD遺伝子における変異を検査した結果、遺伝子内組み換えが除外された。X染色体全域のマーカーについて遺伝子型を分析した。Xq26−q27領域において多点ロッドスコアが高い(ロッド>3)ことが判明し、DMD遺伝子座の除外がさらに確実なものとなった。多点ロッドスコアにより、後でSNP分析で特定される候補区間を囲む領域にとって肯定的で非重要な結果が得られた(図5)。The Centre for Applied Genomics(トロント、カナダ)において、5人の罹患者及び3人の非罹患家系員に対する、全ゲノムのSNP遺伝子型分析を行った。250KまでのNspI Affymetrix SNPマイクロアレイを使用し、続いて行ったdCHIPを用いた分析は、Xq26−q27上のある候補領域を関連付けた。その候補領域は、約850の連続したSNPを含んでいる。
【0096】
筋肉中に発現された構造タンパク質をコードするXq26−q27の重要な領域に由来する3つの候補遺伝子を検査した。マッスルブラインド(muscleblind)様タンパク質3(MBNL3)、ベスティジアル(vestigial)様1(VGLLl)、遺伝子線維芽細胞増殖因子13(FGF13)は、ゲノムDNAから全て配列決定されたが、コード変異は同定されなかった。
【0097】
FHL1のコード及び5’非翻訳領域(NM_001449)のシーケンシングにより、アミノ酸置換C224Wをもたらす、672位におけるCからGへの塩基転換が明らかとなった。この変異は、家系内の疾病状態と共分離され、6人の罹患者全てが半接合であり、全ての絶対保因者(obligate carriers)は変異対立遺伝子に対してヘテロ接合であった。この変異は、コーカサス人種とオーストリア人の混血型である対照染色体では検出されなかった。
【0098】
FHL1は、LIM−onlyタンパク質の一員であり、共通コンセンサス配列C−X2−C−X16−21−H−X2−C−X2−C−X2−C−X17−C−X2−Cとともに、four and a half LIM領域を含んでいる。LIM−onlyタンパク質は、細胞シグナリング及び転写調節の役割を果たすことで知られる亜鉛結合タンパク質である。これまでのところ、5つのFHLタンパク質が同定され、FHL1〜5は、転写調節として機能することが知られている。
【0099】
C224W変異は、亜鉛イオンの中心結合に必要な4つのシステインの1つである、FHL1の第4LIM領域の高度に保存されたシステインを置換する。亜鉛結合に部分的に関与する保存システインの変異は、タンパク質の三次構造に大きな悪影響を及ぼすとされてきた(Taira et al、1994)。さらに、C224W変異は、また、選択的に発現されたアイソフォームFHL1b(SLIMMER)の第一核局在化シグナル(NLS1)に位置しており、それによって、細胞質と核間におけるシャトルからのFHL1bタンパク質の障害がもたらされる可能性がある(Brown S et al;J Biol Chem.1999 Sep 17;274(38):27083−91)。
【0100】
FHL1は、少なくとも3つの異なるアイソフォーム(a、b、及びc)を有しており、各アイソフォームの組織特異性は異なっている。C224W変異は、FHL1アイソフォームa(最も多くみられるアイソフォーム)及びbに影響するが、アイソフォームcには影響しない。したがって、当該遺伝子の異なる領域内での変異は、特定のアイソフォームに影響を与えるが、それ以外のアイソフォームには影響せず、ゆえに、異なる表現型の結果を示す。さらに、FHL1は、タンパク質内の様々なLIM領域に結合する多くのタンパク質結合パートナーを有しており、ゆえに、あるLIM領域の配座に影響する変異は、別のLIM領域に影響する変異に対して異なる表現型の結果を示し得る。
【0101】
概して、本出願人は、新型筋疾患のXMPMAに関与する遺伝子であるFHL1、及びそのコードタンパク質を同定した。このオーストリア家系において述べられている表現型特性、特に、姿勢筋の特異的萎縮及び見せかけの強健性は、FHL1のSRF、MyBPC1(I型筋線維特異アイソフォーム)、及びERK2結合領域内の変異に対して特異的であるとみられる。遺伝子のその他の場所における変異は、はるかに異種の筋障害性表現型をもたらす。このことは、特に、家族性タイプがX連鎖性遺伝を示しており、Becker型/Duchenne型MD及びEmery−Dreifuss型MDの遺伝子座が除外された場合、また散発性症例の場合においても、未知の遺伝子的要因による筋ジストロフィー又は筋緊張性ジストロフィー患者(及び保因者)に対する診断的評価、検査、及び遺伝カウンセリングに対してかなりの影響を有している。本実施例に関する追加情報は、Windpassinger et al.、The American Journal of Human Genetics 82、88−99、2008年1月号より入手でき、参照することにより本願に組み込まれる。
【実施例3】
【0102】
実施例3:筋疾患を発現する英国家系(家系2及び3)
【0103】
連続した3世代における4人の男性家系員が、緩徐進行性の臀部及び上肢筋衰弱を示し、発症年齢は30〜40代であった。指標となる患者(index patient)は、顕著な肩帯及び上肢肥大を示し、そのCKレベルは1300U/lまで上昇した。50代で死亡した2人の患者においては、呼吸不全が報告されている。この英国家系2の家系図を図1Bに示す。
【0104】
三つ目の家系は、Becker型筋ジストロフィーの推定診断を下された家系であって、5世代に渡って6人の女性及び6人の男性が発症している。この英国家系3の家系図を図1Cに示す。男性患者の発病年齢は10代後半〜30代であり、主な臨床症状は、顕著な翼状肩甲(scapular winging)を伴う進行性肢帯衰弱であった。3人の患者において、項部/頸部硬直又は衰弱、及びアキレス腱拘縮が報告されたが、筋肉肥大は顕著な特徴ではなかった。CKレベルは1500〜2200U/l程度であった。2人の患者が30代から車椅子での生活を余儀なくされた。2人の患者の死因は、40代後半〜50代での呼吸不全及び心不全であった。女性の変異保因者は、同様ではあるがより軽度の臨床像を呈し、発症は50代以降であり、CKレベルは上昇してもわずか300U/lであった。1人の女性患者は、鬱血性心不全により88歳で死亡した。指標となる患者は、股関節屈筋衰弱(MRC4)の初期症状、及び、1300U/l程度の血清CKレベルの上昇を35歳で示した。当時、前記患者は競技野球をしており、非常に逞しい体格であった。その筋肉肥大は、肩甲帯及び上腕筋で顕著であった。また、脊椎硬直によって頸部屈曲の危険性を有していた。前記患者の肺機能は、座位で4.61のFVC(90%)であったが、横位では4.01(78%)まで低下した。潜在する骨格筋疾患又は心臓病のさらなる臨床的兆候又は症状はなかった。神経伝導検査及びEMGは正常であった。その外側広筋の筋生検では、I型筋線維萎縮、最大直径125μmのものも測定されるような筋線維サイズのばらつき、及び、少数の壊死した筋線維がみられた。ジストロフィン糖タンパク質複合体、エメリン、ジスフェルリン、カベオリン、及びカルパインのタンパク質における免疫組織化学的分析、及び、ウエスタンブロット分析は正常であった。ジストロフィン及びエメリンについての遺伝子変異分析では、何の異常も見られなかった。指標となる患者の母方の祖父は、42歳で歩行に困難を生じ始め、晩年は車椅子を使用していた。彼は、Becker型筋ジストロフィーと診断され、呼吸不全のため52歳で死亡した。彼の2人の甥もまた、Becker型筋ジストロフィーと診断され、40代前半から上下肢に緩徐進行性の筋衰弱を示した。そのうちの1人は、呼吸不全のため50代で死亡した。
【0105】
家系2における指標となる患者のデータ
発病年齢:35歳
CK:1342U/L
EMG:正常
筋MRI:N.D.
初期段階の逞しい体格:はい
筋生検:筋障害性
心臓障害:心臓の評価は正常
頸部及びアキレス腱:短い(AT)
【0106】
(p.Phe127_Thr128insIleに至る)c.381_382insATC変異が、両家系の指標となる患者において同定され、それは、表現型で分離する。F127_T128InsI変異は第2LIM領域内で生じており、ゆえに、FHL1の全3アイソフォーム、a、b、及びcに存在している。結論として、本願で示されたデータより、この同じFHL1変異が、X連鎖劣性又は優勢遺伝の異種表現型を生じさせる可能性がある。
【実施例4】
【0107】
実施例4:オーストリアXMPMA家系における心筋症についての研究
【0108】
XMPMAの臨床的診断を受けた患者及びそのごく近い親類が、XMPMAの心臓血管調査の研究に参加した。標準12誘導心電図を臥位で記録した。心エコー検査は、GE
Vivid7スキャナーを用い、全て1人の技師によって行われた。測定は米国心エコー図学会の規格に従って行い、分析は前記スキャナーのソフトウェアプログラムを用いて行った。測定されたドップラー変数は、ピーク大動脈及びLVOT速度、及び、拡張を評価するための僧帽弁通過血流(transmitral flow)であった。歪み及び歪み速度測定は、非ドップラー2D歪イメージング技術、及び、TDI技術を用いて得た。ゲノムDNA及び血清プロファイル(酵素)は、標準的な手順を用いて血液サンプルから抽出した。その他としては、磁気共鳴像(Magnet Resonance Imaging);左室生検をともなう心臓カテーテル;トレッドミル検査;ECGホルターモニタリングも用いた。
【0109】
最も共通した異常は、V4〜V6におけるT波逆転及びその他ST−T変化であり、その一部は左心室肥大の兆候である。病理的トレッドミル検査により、全罹患家系員において、ST波変化及び期外収縮をともなった不整脈がみられた(ホルターECGはまだ行っていない)。全罹患家系員において、心尖(apex)に限局し且つ右心室の病変をともなう左心室肥大がみられた。左心室は正常な大きさであり正常収縮であったが、拡張機能に障害を有していた。僧帽弁及びその支持組織では異常は見られず、LVOTの勾配もなかった。全ての罹患者が、左心房の拡張及び左心房容積の増加を呈していた。組織速度、歪み速度、及び歪みも減少している。全ての男性罹患者において、血清クレアチニンキナーゼ、CK−MB、LDH、NT−pro BNP、Trop T及び肝臓酵素のレベルが上昇していた。いかなる場合においても限定することを望むものではないが、重要な臨床所見は、Dyspnoe New York Heart association class IIの症状を含んでいた。
【0110】
全ての引用文献は、参照することにより、本願に組み込まれる。
【0111】
本発明は、1つ以上の実施形態について述べられている。しかしながら、請求項に記載された発明の範囲を逸脱することなく多くの変形及び改良が可能であることは、当業者なら言うまでもない。
【0112】
参考文献
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【0113】
URL
全米バイオテクノロジー情報センターEntrez Genome Map Viewerは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/mapyiew/にて入手可能である。Ensembl Human Genome Serverは、http://www.ensembl.org/index.htmlにて入手可能である。GenBankデータベースは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.htmlにて入手可能である。
【0114】
【表1】



【0115】
【表2】


【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:1のアミノ酸1〜230、その断片、又は該アミノ酸と少なくとも70%の同一性をもつ配列を含み、且つ、アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含むことを特徴とするタンパク質。
【請求項2】
がトリプトファンであることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
a)請求項1のタンパク質又はその断片をコードする配列、
b)請求項1のタンパク質又はその断片をコードする配列に相補的な配列、
c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、請求項1のタンパク質又はその断片をコードする核酸とハイブリッド形成することができる配列、又は
d)a)又はb)に定義される核酸と約70%を超える同一性をもつ配列
を含む核酸。
【請求項5】
前記断片が、アミノ酸配列GWKを含むことを特徴とする請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
がトリプトファンであることを特徴とする請求項4に記載の核酸。
【請求項7】
前記タンパク質が、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されることを特徴とする請求項4に記載の核酸。
【請求項8】
X連鎖性筋疾患について対象を検査する方法であり、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階、及び、
b)アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含む請求項1のタンパク質又はその断片をコードする核酸について、前記サンプルを分析する段階、又は、
c)アミノ酸配列VAKKCXGXNPIT(SEQ ID NO:4)(式中、XはC以外の任意のアミノ酸であり、X及びXは、それぞれ任意のアミノ酸である。)を含む請求項1のタンパク質又はその断片について、前記サンプルを分析する段階
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
がトリプトファンであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:3によって定義されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記対象がヒトであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記生体サンプルが血液サンプルであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
分析段階が、PCR、プローブハイブリダイゼーション、又は、シーケンシングを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項14】
i)本願記載の筋疾患に関連するタンパク質又はその断片、
ii)本願記載の筋疾患に関連しない野生型タンパク質よりも、該筋疾患に関連するタンパク質又はその断片と選択的に結合する抗体、
iii)本願提供のX連鎖性筋疾患に関連する変異を含むタンパク質又はその断片をコードするヌクレオチド配列を増幅するための1つ以上の核酸プライマー、
iv)本願提供のX連鎖性筋疾患に関連する変異を含むタンパク質又はその断片をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する、約9〜100ヌクレオチド間の1つ以上の核酸プローブ、
v)これらには限定されないが、バッファ、dATP、dTTP、dCTP、dGTP、又はDNAポリメラーゼを含む1つ以上の試薬、
vi)対象の筋疾患に対するリスクを分析、診断又は決定するための指示事項、
vii)本願記載の成分を使用するため、又は本願記載の方法を行うための指示事項、
又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とするキット。
【請求項15】
前記筋疾患が、骨格筋症又は心筋症であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記筋疾患が、筋ジストロフィーであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
128位におけるイソロイシンの挿入を含むことを特徴とするFHL−1タンパク質。
【請求項18】
ヒトアイソフォームa、b、又はcのアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と少なくとも70%の同一性をもつアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項17に記載のタンパク質。
【請求項19】
請求項17に記載のFHL−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列。
【請求項20】
野生型FHL−1タンパク質でない、請求項17に記載のFHL−1タンパク質と選択的に結合する抗体。
【請求項21】
X連鎖性筋疾患について対象を検査する方法であり、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階、及び、
b)128位におけるイソロイシンの挿入を含むFHL−1タンパク質をコードする核酸について前記サンプルを分析する段階、又は、
c)128位におけるイソロイシンの挿入を含むFHL−1タンパク質について前記サンプルを分析する段階
を含み、前記核酸又はタンパク質の存在によって、前記対象が筋疾患に罹患していること、又は罹患するリスクがあることを示すことを特徴とする方法。

【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図7−6】
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【図7−7】
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【図7−8】
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【図7−9】
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【図7−10】
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【図7−11】
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【図7−12】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−528630(P2010−528630A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510620(P2010−510620)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001062
【国際公開番号】WO2008/148193
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(506280535)
【Fターム(参考)】