説明

新設ボイラの缶内処理方法

【課題】短時間に、かつ洗浄廃液処理のCODMn濃度が低い新缶ボイラの缶内処理方法を提供する。
【解決手段】エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種と、金属水酸化物と、リン酸塩と、を添加した純水を新設ボイラ缶内に供給し、温度120〜230℃(圧力0.2〜2MPa)の条件下に4〜24時間加熱処理する新設ボイラの缶内処理方法である。エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種や金属水酸化物、リン酸塩の配合量を特定の量とすることにより、より洗浄、安定化効果が向上した結果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新設ボイラの缶内表面を実運転開始前に安定化するための初期処理に関し、使用する薬剤の安全性を向上させ、かつ処理後の廃液処理の負荷を低減する処理方法に関する。なお、本発明では、減肉や破孔、経時劣化などによる部分的な更新も新設ボイラに含める。また、安定化とは、缶内金属の表面を防食処理することを言う。
【背景技術】
【0002】
新設されたボイラは、製造・建設時にボイラ系内に付着した油脂類などの汚れを除去するために、ソーダ煮やアルカリ洗浄といった処理が施されてきた。
【0003】
例えばアルカリ洗浄としては、アスコルビン酸、エルソルビン酸またはそれらの塩と、アスパラギン酸もしくはその塩と、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムを含む処理液による洗浄方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特許第2939222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の方法では、アスコルビン酸、エルソルビン酸またはそれらの塩と、アスパラギン酸もしくはその塩とを併用するため、洗浄廃液のCODが高くなり、廃水処理における有機物負荷が高く、処理が煩雑になるという課題があった。
【0005】
また上記従来方法では、処理時間も1〜2昼夜と、長時間を要しており、新設工事では近年工期が短くなる中で、工程の確保が困難になりつつあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、処理時間が短縮され、かつ洗浄排水の有機物負荷も低い処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明(請求項1)は、エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種と、金属水酸化物と、リン酸塩と、を添加した純水を新設ボイラ缶内に供給し、温度120〜230℃(圧力0.2〜2MPa)の条件下に4〜24時間加熱処理する新設ボイラの缶内処理方法である。
【0008】
又、本発明(請求項2)は、エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の濃度がエルソルビン酸もしくはアスコルビン酸として50〜200mg/lである新設ボイラの缶内処理方法である。
【0009】
又、本発明(請求項3)は、金属水酸化物が缶内処理後のボイラ水のpHが9.0以上となるように添加される新設ボイラの缶内処理方法である。
【0010】
さらに、本発明(請求項4)は、新設ボイラの缶内処理中のボイラ水中のリン酸イオン濃度が5〜30mg/lとなるように添加される新設ボイラの缶内処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の新設ボイラの缶内処理方法によれば、特定成分を配合した純水からなる洗浄水を新設ボイラに供給して特定温度(圧力)条件下に特定洗浄時間加熱処理することにより、従来例に比較して短時間で缶内処理ができ、しかも洗浄排水の有機物負荷が低くなる。
【0012】
請求項2の新設ボイラの缶内処理方法によれば、エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の濃度を特定と規定したことにより、従来例に比較して短時間で缶内処理ができ、しかも洗浄排水の有機物負荷が低くなる。
【0013】
請求項3の新設ボイラの缶内処理方法によれば、金属水酸化物が缶内処理後のボイラ水のpHが9.0以上となるように添加されることにより、従来例に比較して短時間で缶内処理ができ、しかも洗浄排水の有機物負荷が低くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明の対象となるのは新設ボイラである。ここで、本発明では、減肉や破孔、経時劣化などによる部分的な更新も新設ボイラに含める。
【0016】
できたばかりのボイラや修理を終えたボイラの内部には、先に説明の通り、油脂類などの汚れが付着しているうえ、ボイラ内面も防食的には不安定な状態のため、洗浄と金属表面の安定化を行なう必要がある。
【0017】
本発明の缶内処理に使用される液は、エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種と、金属水酸化物と、リン酸塩と、を添加した純水からなる。
【0018】
ここで、金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどがあげられる。
【0019】
それぞれの塩としては、水溶性を保つ塩であれば何でも良く、例えばナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩などが例示される。
【0020】
本発明方法で使用されるリン酸塩は、任意のリン酸塩を使用することが出来るが、例えば、オルトリン酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素1ナトリウム、ヘキサメタリン酸塩、およびピロリン酸塩やトリポリリン酸塩などのポリリン酸塩が例示される。
本発明では、新設ボイラ缶内にこれらの成分を含む純水を満杯に供給し、温度120〜230℃(圧力0.2〜2MPa)の条件下に4〜24時間加熱処理する。
【0021】
通常、昇温速度は20〜70℃程度とする。目標温度(圧力)に達したところで、所定時間その状態を維持する。
【0022】
上記方法において、エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の濃度は、好ましくはエルソルビン酸もしくはアスコルビン酸として50〜200mg/lとする。添加量がこの範囲よりも少ないと、洗浄効果や安定化効果が不足する原因となる可能性がある。逆に多いと、経済性が悪くなってしまう。
【0023】
また、本発明方法では、金属水酸化物は、好ましくは缶内処理後のボイラ水のpHが9.0以上となるように添加する。
【0024】
さらに、本発明方法においては、缶内処理中のボイラ水中のリン酸イオン濃度は好ましくは5〜30mg/lとなるように添加する。この範囲を逸脱すると、所期の安定化効果を得られなくなる可能性がある。
【0025】
さらに本発明方法においては、上記必須成分以外に、他の防食剤やスケール防止剤を併用してもよい。そのような防食剤やスケール防止剤としては、アクリル酸系、メタクリル酸系、マレイン酸系のホモポリマや共重合体、各種ホスホン酸、タンニン、リグニン、リグニンスルホン酸などが挙げられる、
【実施例】
【0026】

以下に、本発明方法を実施例を持って更に説明する。
実施例1〜7、比較例1、2
容量1.5LのSUS製オートクレーブを用い、これに部分的に油脂を塗ったSB42製のテストピース(50×30×2mm、#400研磨)を装着し、表1に示す成分を添加した純水からなる試験液を1L投入し、更にオキシ水酸化鉄の粉末を0.05g添加して、加熱、昇温した。昇温速度は実機ボイラを想定して約50℃/hとし、表1記載の温度に達したところで一定温度に、一定時間保持した。その後、一晩掛けて自然冷却し、常温となったところで開放して、テストピースと試験液全量とを回収した。
【0027】
テストピースは直ちに乾燥した後、外観観察を行なったが、いずれの場合にも油脂類は払拭されていた。試験液は、酸化鉄を濾別し、X線回折装置で形態を確認した。また、濾液のpHを測定すると共に、CODMn濃度の測定を行なった。
【0028】
結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

表1より、本発明方法では、鋼材表面は油脂が洗浄され、腐食の発生も認められないことが分かる。
【0030】
実施例1によれば、金属水酸化物の添加量が少なくて、処理後のpHが若干低い場合でも、孔食は発生していないことがわかる。しかし、他の実施例を参照すれば、処理後のpHを9.0以上とすることにより、オキシ水酸化鉄などの腐食生成物もマグネタイト化されて黒色化が進み、防食的により安定化されたことが分かる。
【0031】
また、エルソルビン酸塩の添加量が若干低い実施例2においても、部分的な黒色化が進み、孔食は起きていないことが分かるが、他の実施例を参照すれば、エルソルビン酸またはアスコルビン酸の添加量を50〜200mg/lにすれば、より効果が向上することがわかる。
【0032】
また、処理後の試験液のCODMn濃度は従来のエリソルビン酸とアルギン酸を併用する方法(比較例1)に比べて、大幅に低くなり、廃液処理の負荷が低下したことがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種と、金属水酸化物と、リン酸塩と、を添加した純水を新設ボイラ缶内に供給し、温度120〜230℃(圧力0.2〜2MPa)の条件下に4〜24時間加熱処理することを特徴とする新設ボイラの缶内処理方法。
【請求項2】
請求項1において、エルソルビン酸、アスコルビン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の濃度がエルソルビン酸もしくはアスコルビン酸として50〜200mg/lであることを特徴とする新設ボイラの缶内処理方法。
【請求項3】
請求項1または2において、金属水酸化物は、缶内処理後のボイラ水のpHが9.0以上となるように添加されることを特徴とする新設ボイラの缶内処理方法。
【請求項4】
請求項1において、新設ボイラの缶内処理中のボイラ水中のリン酸イオン濃度が5〜30mg/lとなるように添加されることを特徴とする新設ボイラの缶内処理方法。


【公開番号】特開2008−240089(P2008−240089A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83783(P2007−83783)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】