説明

方位検出装置

【課題】簡易な構成で方位検出範囲の広角化を実現できる方位検出装置を提供する。
【解決手段】送信アレイアンテナを構成するM個の送信側アンテナ素子、受信アレイアンテナを構成するN個の受信側アンテナ素子の組合せであるM×N個のチャンネルCH11〜CHMNのそれぞれについて、デジタルデータD11〜DMNを取得する(S110〜S180)。受信側アンテナ素子ARn が共通するM個のチャンネルCH1n〜CHMn毎にビームフォーミング(FFT)を実行し、その算出結果から、同じ周波数ビンについてのN個の算出結果毎にビームフォーミング(FFT)を実行する。この算出結果から得られる受信強度分布に基づき、物標の方位を抽出する(S190〜S210)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の受信アンテナで受信したターゲットからの反射波に基づき、ターゲットの方位を検出する方位検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信アンテナから放射され、ターゲットに反射して戻ってくる反射波を複数の受信アンテナで受信し、各受信アンテナでの受信信号の位相のずれ(つまり、位相差)からターゲットの方位を検出するいわゆる位相モノパルス方式のレーダ装置が知られている。
【0003】
しかし、位相差を利用して方位を検出する場合、位相差ΔφとΔφ+360°とを識別できないことに基づく、いわゆる折り返し現象(アンビキュアティ)が発生するため、位相差が360°変化する範囲内(例えば、−180°<Δφ≦180°)でしか方位を一意に特定することができないという問題がある。
【0004】
これに対して、ビームの指向性が互いに異なる複数の送信アンテナを用い、これら送信アンテナを順次切り替えて使用することにより、使用した送信ビームの情報(向き,ビーム幅)を利用して、方位検出範囲を拡大するとともに、検出結果がターゲットからの反射によるものか、折り返し現象によるものかを判断する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4238375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ビームの指向性が互いに異なる複数の送信アンテナを用いる場合、送信アンテナの向きを精度良く決める必要があるため、製造が難しいという問題があった。
また、実機での応用を考えた場合、ビームの指向性が互いに異なる複数のアンテナの代わりに、アンテナ素子が同一平面に配置されるアレイアンテナを使用して、アレイアンテナを構成する各アンテナ素子に供給する送信信号の位相などを変化させることによって、送信ビームの向きを変化させる電子スキャン方式を用いることも考えられている。
【0007】
この場合、アレイアンテナに供給する送信信号の位相を変化させる位相制御器としては、移相器、ロトマンレンズ、バトラーマトリクス等が知られている。
しかし、これら位相制御器は、性能、コスト面で実現が困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するために、より簡易な構成で方位検出範囲の広角化を実現できる方位検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の方位検出装置では、予め設定された配列軸に沿って配置された複数の送信側アンテナ素子からなる送信アレイアンテナおよび前記配列軸に沿って配置された複数の受信側アンテナ素子からなる受信アレイアンテナを備え、信号取得手段が、送信側アンテナ素子と受信側アンテナ素子との任意の組合せをチャンネルとして、該チャンネルを使用して探査波を送受信することにより、チャンネル毎に受信信号を取得する。
【0010】
すると、分析手段が、信号取得手段にて取得した受信信号を用いて、送信側アンテナ素子および受信側アンテナ素子のうち一方の素子配列に沿った第1の空間周波数分析を実行すると共に、該第1の周波数分析の結果を用いて、送信側アンテナ素子および受信側アンテナ素子のうち他方の素子配列に沿った第2の空間周波数分析(つまり、二次元的な周波数分析)を実行し、その分析結果に従って、方位算出手段が、探査波を反射した物標の方位を求める。
【0011】
なお、空間周波数分析としては、例えば、ビームフォーマを用いてもよいし、MUSIC等の高分解能処理を用いてもよい。
なお、受信側アンテナ素子の素子配列に沿った空間周波数分析では、受信側アンテナ素子の配置によって決まる特性で電波の到来方向の検出が行われ、送信側アンテナ素子の素子配列に沿った空間周波数分析では、送信側アンテナ素子の配置によって決まる特性で電波の到来方向の検出が行われる。
【0012】
このように構成された本発明の方位検出装置では、送信側アンテナ素子の素子配列に沿った空間周波数分析によって、位相制御器を用いることなく、送信ビームの切り替えに相当する処理が実現されるため、簡易な構成によって方位検知範囲の広角化を実現することができる。
【0013】
また、本発明の方位検出装置では、二次元的な周波数分析を実行することにより、送信側アンテナ素子の配置および受信側アンテナ素子の配置によって決まる二つの特性を重ね合わせた結果から方位を検出することになるため、例えばビームフォーマでは、ビーム幅を絞る効果が得られることになり、方位検出の分解能を向上させることができる。
【0014】
ところで、複数の送信側アンテナ素子および複数の受信側アンテナ素子は、それぞれ等間隔で配置されていてもよいし、不等間隔で配置されていてもよい。
これらアンテナ素子を不等間隔に配置した場合は、アンテナ素子の組合せ毎に、位相差が360°だけ変化させるのに要する方位幅が異なったものとなるため、グレーティングローブの発生、ひいては折り返し現象の発生を抑制することができる。
【0015】
また、アンテナ素子を等間隔に配置した場合は、当該装置にて方位の検出を可能とする方位幅を検出範囲とし、送信アレイアンテナのメインローブとグレーティングローブとの方位差が、検出範囲以上となるように、送信側アンテナ素子の配置間隔および受信側アンテナ素子の配置間隔を設定することが望ましい。
【0016】
この場合、送信アレイアンテナのグレーティングローブの影響(検出範囲外の物標の折り返し)が検出範囲内に表れることを抑制しつつ、検出範囲を最大限に広角化することができる。
【0017】
なお、検出範囲は、例えば、互いに隣接する受信側アンテナ素子から得られる受信信号の位相差が360°だけ変化するのに要する方位幅である単位方位幅の整数倍に設定されていてもよいし、逆に、単位方位幅より狭くてもよい。
【0018】
また、本発明の方位検出装置において、送信アレイアンテナと受信アレイアンテナとは単一のアレイアンテナによって構成されていてもよい。
この場合、アンテナに要するサイズが1/2になり、更なる構成の簡略化を実現することができる。
【0019】
また、信号取得手段は、複数の送信側アンテナ素子を、時分割で動作させるように構成してもよい。
但し、この場合、送信側アンテナ素子の切替後も、しばらくの間は、切替前の送信側アンテナ素子から送信された探査波に基づく、反射波が受信側アンテナ素子で受信される可能性がある。
【0020】
このため、信号取得手段は、送信側アンテナ素子の切替を伴う前記チャンネルの切替を行った場合、予め設定された最大検出距離を探査波が往復するのに要する時間より長く設定された待機時間だけ待機した後、切替後の前記チャンネルについての前記受信信号の取得を開始することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態のレーダ装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】アンテナ素子の配置間隔の設定に必要なパラメータ間の関係を示す説明図。
【図3】アンテナ素子の配置間隔の設定に必要なパラメータ間の関係を示す説明図。
【図4】信号処理部が実行する方位検出処理の内容を示すフローチャート。
【図5】レーダ波の送受信タイミング等を示す説明図。
【図6】チャンネルと空間周波数分析処理に用いるデータとの関係を示す説明図。
【図7】二次元の空間周波数分析により形成されるビームの概要を示す説明図。
【図8】第2実施形態のレーダ装置の全体構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
<全体構成>
図1は、本発明が適用された車載用のレーダ装置1の概略的な構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、レーダ装置1は、一列に配置されたM個(本実施形態ではM=4)のアンテナ素子(以下「送信側アンテナ素子」ともいう)AT1 〜ATM からなる送信アレイアンテナ2と、変調指令CMに従って変調信号MDを生成するDA変換器4と、変調信号MDによって変調されたミリ波帯のレーダ波(探査波)を、送信アレイアンテナ2を介して送信する送信器3とを備えている。
【0024】
また、レーダ装置1は、一列に配置されたN個(本実施形態ではN=4)のアンテナ素子(以下「受信側アンテナ素子」ともいう)AR1 〜ARN からなり、送信器3から送出され先行車両や路側物等といった物標に反射したレーダ波(以下、反射波という)を受信する受信アレイアンテナ5と、受信アレイアンテナ5からの受信信号SR1 〜SRN からビート信号B1 〜BN を生成するNチャンネル受信器6と、受信器6が生成するビート信号B1 〜BN を、それぞれサンプリングしてデジタルデータD1 〜DN に変換するN個のAD変換器AD1 〜ADN からなるAD変換部7と、AD変換部7を介して取り込んだデジタルデータD1 〜DN に基づいて各種信号処理を行う信号処理部8とを備えている。
【0025】
<アンテナ>
送信アレイアンテナ2および受信アレイアンテナ5は、いずれも、車幅方向(水平方向)を配列軸として、この配列軸に沿ってアンテナ素子が配置される。
【0026】
また、送信側アンテナ素子AT1 〜ATM の配置間隔は一定の間隔d1に、受信側のアンテナ素子AR1 〜ARN の配置間隔は間隔d1とは異なる一定の間隔d2に設定されている。
【0027】
なお、間隔d1,d2は、図2に示すように、送信アレイアンテナ2のメインローブとグレーティングローブとの方位差をα、当該装置1において物標の方位検出を可能とする範囲(以下「検出範囲」という)をβとして、方位差αが検出範囲β以上となるように設定される。つまり、検出範囲β内では、送信アレイアンテナ2のグレーティングローブの影響を受けずに、物標の方位を検出できるように設定されている。
【0028】
また、検出範囲βは、各受信側アンテナ素子AR1 〜ARN の受信信号SR1 〜SRN 間の位相差が360°変化するのに要する方位幅である単位方位幅(つまり、受信信号の位相差からターゲットの方位を一意に求めることができる方位幅)をγとして、その整数a(a>1)倍に設定されている。つまり、a周期分の位相折り返しを利用するように検出範囲β(=a×γ)は設定されている。図2は、方位差α、検出範囲β、単位方位幅γの関係を示した模式図であり、a=3,α=βの場合を示す。
【0029】
そして、具体的には、送信アレイアンテナ2のメインローブの向き(正面方向に対する傾き)をθ、レーダ波の波長をλとして、間隔d1と方位差αとの関係を表す(1)式(図3参照)、および、間隔d2と方位幅γとの関係を表す(2)式を用い、これら(1)(2)式を間隔d1,d2について解いた式から、間隔d1,d2を求めることができる。
【0030】
【数1】

なお、(1)式において、図3(a)の場合は左辺の括弧内がプラス、図3(b)の場合は左辺の括弧内がマイナスになる。
【0031】
<送信器>
送信器3は、ミリ波帯の高周波信号を発生させ、変調信号MDの信号レベルに応じて発振周波数が変化する高周波発振器31と、高周波発振器31の出力を送信信号STとローカル信号Lとに電力分配する分配器32と、信号処理部8からの選択信号SEに従って、送信側アンテナ素子AT1 〜ATM のいずれかに送信信号STを供給する選択器33とを備えている。
【0032】
なお、本実施形態では、変調信号MDとして、信号レベルが一定のものと、信号レベルが三角波状に変化するものとが用いられる。前者の場合、レーダ波は、一定周波数の連続波(CW)となり、後者の場合、レーダ波は、周波数変調された連続波(FM−CW)となる。
【0033】
<受信器>
受信器6は、受信側アンテナ素子AR1 〜ARN からの受信信号SR1 〜SRN のそれぞれにローカル信号Lを混合し、これらの信号の差の周波数成分であるビート信号B1 〜BN を生成する高周波用ミキサMX1 〜MXN 、および生成されたビート信号B1 〜BN のそれぞれを増幅する増幅器AMP1 〜AMPN からなる。
【0034】
以下では、送信側のアンテナ素子ATm (m=1,2,…M)と受信側のアンテナ素子ARn (n=1,2,…N)との組合せをチャンネルCHmnと呼ぶ。また、送信側のアンテナ素子ATm を含むN個のチャンネルCHm1〜CHmNからなるチャンネル群を送信側固定チャンネル群、受信側のアンテナ素子ARn を含むM個のチャンネルCH1n〜CHMnからなるチャンネル群を受信側固定チャンネル群と呼ぶ。
【0035】
更に、送信側のアンテナ素子としてATm が選択されている時に、受信側のアンテナ素子ARn での受信信号に基づいて生成されるデジタルデータをDmnで示すものとする。
<信号処理部以外の動作>
このように構成されたレーダ装置1では、選択信号SEによって選択されたいずれか一つの送信側アンテナ素子ATm からレーダ波が送信され、その反射波が各受信側アンテナ素子AR1 〜ARN によって受信される。また、レーダ装置1では、各アンテナ素子AR1 〜ARN から出力されるN個の受信信号SR1 〜SRN に基づいて、送信側のアンテナ素子をATm に固定した送信側固定チャンネル群CHm1〜CHmNについてのデジタルデータDm1〜DmNが得られる。
【0036】
この動作を、レーダ波の送信に用いる送信側のアンテナ素子ATm を選択信号SEによって順次切り替えながら繰り返せば、M×N個ある全てのチャンネルCH11〜CHMNについてのデジタルデータD11〜DMNが得られることになる。
【0037】
<信号処理部>
次に、信号処理部8は、CPU,ROM,RAM等からなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、AD変換部7からデータを入力する入力ポートや高速フーリエ変換(FFT)処理を実行するためのデジタルシグナルプロセッサ(DSP)等を備えている。
【0038】
そして、信号処理部8では、選択信号SEによって、一つの送信側アンテナ素子ATm に固定(即ち、一つの送信側固定チャンネル群CHm1〜CHmNを選択)すると共に、レーダ波がFM−CWとなるような変調信号MDを出力し、周波数が漸増する上り変調、および周波数が漸減する下り変調からなる測定期間が終了する毎に、その測定期間の間にAD変換部7にて繰り返しサンプリングされた単一の送信側固定チャンネル群についてのデジタルデータDm1〜DmNに基づいて、レーダ波を反射した物標との距離や相対速度を算出する物標検出処理、およびレーダ波がCWとなるような変調信号MDを出力し、選択信号SEによって、送信側のアンテナ素子AT1 〜ATM を順次切り替えて、全チャンネルCH11〜CHMNのデジタルデータD11〜DMNを取得し、そのデジタルデータD11〜DMNに従って、物標が存在する方位を検出する方位検出処理等を実行する。
【0039】
このうち、物標検出処理では、選択された送信側固定チャンネル群を構成するN個のチャンネルCHm1〜CHmNのそれぞれにて繰り返し取得されるデジタルデータDm1〜DmNを、そのチャンネル毎にFFT処理する等して物標からの反射波に基づく周波数成分を特定することで物標の検出を行い、その検出した物標のそれぞれについて、FMCWレーダにおける周知の手法を用いて距離や相対速度を算出する。
【0040】
<方位検出処理>
次に、本発明の主要部に関わる方位検出処理を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0041】
本処理は、物標検出処理と交互に又は物標検出処理を複数回実行する毎に起動される。
本処理が起動すると、まず、S110では、送信側アンテナ素子ATを指定するパラメータmを1に初期化し、S120では、一定レベルの変調信号MDが出力されるような変調指令CMをDA変換器4に出力することで、連続波(CW)となる送信信号の生成を開始する。
【0042】
S130では、パラメータmの設定に従って、選択器33にて送信側アンテナ素子ATm が選択されるように選択信号SEを設定し、S140では、レーダ波が最大検知距離を往復するのに要する時間以上に設定された上限往復時間(待機時間)だけ待機し、S150では、AD変換部7を介してデジタルデータ(即ち、送信側固定チャンネル群CHm1〜CHmNのデータ)Dm1〜DmNを取得する。
【0043】
S160では、パラメータmをインクリメントし(m←m+1)、S170では、パラメータmが送信側アンテナ素子の数Mより大きいか否かを判断し、mがM以下であれば、未選択の送信側アンテナ素子(ひいては送信側固定チャンネル群)があるものとして、S130〜S160の処理を繰り返す。
【0044】
S170にて、mがMより大きいと判断した場合は、全ての送信側アンテナ素子(ひいては送信側固定チャンネル群)についてデータを取得したものとして、S180に進み、変調指令CMの出力を停止することで、送信信号の生成を停止する。
【0045】
つまり、図5に示すように、送信アンテナAT1 〜ATM が順次選択されて、選択された送信アンテナからレーダ波が送信される。ある送信アンテナATm が選択されると、上限往復時間だけ待機した後に、チャンネルCHm1 〜CHmN についてのデジタルデータが取得され、これを、全ての送信チャンネルについて繰り返すことにより、全チャンネルのデジタルデータが得られることになる。
【0046】
S190では、受信側アンテナ素子ARn が同じであるM個のチャンネルCH1n〜CHMn(即ち、受信側固定チャンネル群TG1 〜TGN 、図6(a)参照)毎にビームフォーミング(FFT)を実行する。これにより、N個の受信側固定チャンネル群TG1 〜TGN のそれぞれについて、M個の周波数ビン毎に算出結果(周波数,強度)が得られる。この算出結果では、周波数が、送信アレイアンテナによって形成される各ビームの向き(図7中の実線で示す部分を参照)を表し、強度が、そのビームでの受信強度を表す。
【0047】
S200では、S190にて各受信側固定チャンネル群TG1 〜TGN に得られた算出結果から、同じ周波数ビン(以下「受信固定周波数ビン」という)についてのN個の算出結果(図6(b)参照)毎にビームフォーミング(FFT)を実行する。これにより、M個の受信固定周波数ビンのそれぞれについて、N個の周波数ビン毎に算出結果(周波数,強度)が得られる。この算出結果では、周波数が、受信固定周波数ビンによって特定される送信ビーム内において、受信アレイアンテナによって形成される各ビーム(但し、受信固定周波数ビンによって特定される送信ビーム内,図7中の実線以外で示す部分を参照)の向きを表し、強度が、そのビームでの受信強度を表す。
【0048】
つまり、本ステップでの算出結果から、検出範囲β内での受信強度分布が得られることになる。
S210では、S200にて得られた受信強度分布から、物標が存在する方位(受信強度が予め設定された閾値以上の方位)を抽出して、本処理を終了する。
【0049】
このようにして得られた、物標の方位情報は、物標検出処理で得られる物標との距離や相対速度と共に、オートクルーズや、車両走行時の危険状態を回避したりドライバに報知したりする制御等に用いられる。
【0050】
<効果>
以上説明したように、レーダ装置1では、M個の送信側アンテナ素子AT1 〜ATM からなる送信アレイアンテナ2、およびN個の受信側アンテナ素子AR1 〜ARN からなる受信アレイアンテナ5を用い、送信側アンテナ素子ATm と受信側アンテナ素子ARn とを組合せた全てのチャンネルCH11〜CHMNについてデジタルデータD11〜DMNを取得している。更に、そのデジタルデータD11〜DMNに対して、送信側アンテナ素子の配列方向、及び受信側アンテナ素子の配列方向について二次元的に空間周波数分析(ビームフォーミング)を行うことで、受信強度分布を生成し、その受信強度分布からレーダ波を反射した物標が存在する方位を求めるようにされている。
【0051】
従って、レーダ装置1によれば、受信側チャンネル素子を固定したビームフォーミングによって、位相制御器を用いることなく、送信ビームの切り替えに相当する処理が実現されるため、簡易な構成によって方位検知範囲の広角化を実現することができる。
【0052】
また、レーダ装置1によれば、二次元的に空間周波数分析を行っているため、送信ビームと受信ビームとを掛け合わせたること、ひいては細く絞られたビームでスキャンすることと同等の効果が得られることになり、方位検出の精度を向上させることができる。
【0053】
また、レーダ装置1では、送信アレイアンテナ2のメインローブとグレーティングローブとの方位差αが、検出範囲β以上となるように、送信側アンテナ素子AT1 〜ATM の配置間隔d1を設定すると共に、検出範囲βが、単位方位幅γのa倍となるように受信側アンテナ素子AR1 〜ARN の配置間隔d2を設定している。
【0054】
従って、レーダ装置1によれば、送信アレイアンテナ2のグレーティングローブの影響(検出範囲β外の物標の折り返し)が検出範囲β内に表れることを抑制しつつ、検出範囲βを最大限に利用して方位検出を行うことができる。
【0055】
また、本発明の方位検出装置において、送信アレイアンテナと受信アレイアンテナとは単一のアレイアンテナによって構成されていてもよい。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
【0056】
本実施形態のレーダ装置10は、第1実施形態のレーダ装置1とは、構成の一部が異なるだけであるため、この相違点を中心に説明する。
<構成>
図8に示すように、レーダ装置10は、送信アレイアンテナ2および受信アレイアンテナ5の代わりに、一列に配置されたM個(本実施形態ではM=4)のアンテナ素子A1 〜AM からなる送受信共用のアレイアンテナ12を備えている。
【0057】
また、レーダ装置10は、選択器33の代わりに、アンテナ素子A1 〜AM のそれぞれ設けられた方向性結合器DJ1 〜DJN と、信号処理部8からの選択信号SEに従って、方向性結合器DJ1 〜DJN (ひいてはアンテナ素子A1 〜AM )のいずれかに送信信号STを供給する選択器13とを備えている。
【0058】
そして、アンテナ素子A1 〜AM の配置間隔は、第1実施形態における送信側アンテナ素子AT1 〜ATM と同様に、アレイアンテナ12のメインローブとグレーティングローブとの方位差αが検出範囲β以上となるように設定される。
【0059】
<効果>
このように構成されたレーダ装置10では、レーダ装置1と比較して、アンテナに要するサイズが1/2になり、更なる構成の簡略化を実現することができる。
【0060】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施することが可能である。
【0061】
例えば、上位実施形態では、送信側アンテナ素子AT1 〜ATM 、受信側アンテナ素子AR1 〜ARN 、アンテナ素子A1 〜AM は、それぞれ等間隔で配置されているが、これらは、不等間隔で配置されていてもよい。なお、不等間隔の設定は、例えば、特開2008−241702号公報に記載された技術を用いることができる。
【0062】
これらアンテナ素子を、不等間隔に配置した場合は、アンテナ素子の組合せ毎に、位相差が360°だけ変化させるのに要する方位幅が異なったものとなるため、グレーティングローブの発生、ひいては折り返し現象の発生を抑制することができる。
【0063】
但し、アンテナ素子を不等間隔に配置した場合、ビームフォーミング(FFT)を実行する際には、アンテナ間隔に反比例した回転をする回転子を付加して計算する必要がある。
【0064】
上記実施形態では、検出範囲βを単位方位幅γの整数a倍に設定したが、1>a>0として、検出範囲βが単位方位幅γより狭くなるように設定してもよい。
上記実施形態では、空間周波数分析にビームフォーマを用いているが、MUSIC(Multiple Signal Classification)法等の高分解能処理を用いてもよい。
【0065】
上記実施形態では、方位検出処理は、物標検出処理とは別にデータを取得して処理を行っているが、物標検出処理で取得したデータを用いて方位検出処理を行ってもよい。
上記実施形態では、受信側アンテナ素子を固定した受信側固定チャンネル群毎に、1回目の空間周波数分析を行った後、その結果を用いて、周波数ビン毎の2回目の空間周波数分析を行っているが、送信側アンテナ素子を固定した送信側固定チャンネル群毎に1回目の空間周波数分析を行った後、その結果を用いて、周波数ビン毎の2回目の空間周波数分析を行ってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,10…レーダ装置 2…送信アレイアンテナ 3…送信器 4…DA変換器 5…受信アレイアンテナ 6…受信器 7…AD変換部 8…信号処理部 12…アレイアンテナ 13,33…選択器 31…高周波発振器 32…分配器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された配列軸に沿って配置された複数の送信側アンテナ素子からなる送信アレイアンテナおよび前記配列軸に沿って配置された複数の受信側アンテナ素子からなる受信アレイアンテナを備え、前記送信側アンテナ素子と前記受信側アンテナ素子との任意の組合せをチャンネルとして、該チャンネルを使用して探査波を送受信することにより、前記チャンネル毎に受信信号を取得する信号取得手段と、
前記信号取得手段にて取得した受信信号を用いて、前記送信側アンテナ素子および前記受信側アンテナ素子のうち一方の素子配列に沿った第1の空間周波数分析を実行すると共に、該第1の周波数分析の結果を用いて、記送信側アンテナ素子および前記受信側アンテナ素子のうち他方の素子配列に沿った第2の空間周波数分析を実行する分析手段と、
前記分析手段との分析結果に従って、前記探査波を反射した物標の方位を求める方位算出手段と、
を備えることを特徴とする方位検出装置。
【請求項2】
前記複数の送信側アンテナ素子および前記複数の受信側アンテナ素子は、それぞれ等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方位検出装置。
【請求項3】
当該装置にて方位の検出を可能とする方位幅を検出範囲とし、
前記送信アレイアンテナのメインローブとグレーティングローブとの方位差が、前記検出範囲以上となるように、前記送信アレイアンテナを構成するアンテナ素子の配置間隔および前記受信アレイアンテナを構成するアンテナ素子の配置間隔が設定されていることを特徴とする請求項2に記載の方位検出装置。
【請求項4】
前記検出範囲は、前記受信アレイアンテナを構成する隣接したアンテナ素子から得られる受信信号の位相差が360°だけ変化する方位幅である単位方位幅の整数倍に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の方位検出装置。
【請求項5】
前記検出範囲は、前記受信アレイアンテナを構成する隣接したアンテナ素子から得られる受信信号の位相差が360°だけ変化する方位幅より狭く設定されていることを特徴とする請求項3に記載の方位検出装置。
【請求項6】
前記複数の送信側アンテナ素子および前記複数の受信側アンテナ素子は、不等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方位検出装置。
【請求項7】
前記送信アレイアンテナと前記受信アレイアンテナとは単一のアレイアンテナによって構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方位検出装置。
【請求項8】
前記信号取得手段は、前記複数の送信側アンテナ素子を、時分割で動作させることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方位検出装置。
【請求項9】
前記信号取得手段は、前記送信側アンテナ素子の切替を伴う前記チャンネルの切替を行った場合、予め設定された最大検出距離を前記探査波が往復するのに要する時間より長く設定された待機時間だけ待機した後、切替後の前記チャンネルについての前記受信信号の取得を開始することを特徴とする請求項8に記載の方位検出装置。
【請求項10】
前記分析手段が実行する空間周波数分析は、ビームフォーマ又は高分解能処理であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の方位検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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