説明

方位測定システムおよび方位測定方法

【課題】到来波を受信する装置の大規模化や製造工程の複雑化を回避しつつ、到来波に複数の電波が混信している場合でも、その複数の電波のそれぞれの到来方位を測定する。
【解決手段】到来波を受信する複数の受信局と基地局とを有し、到来波に混信した複数の電波のそれぞれの到来方位を算出する方位測定システムであって、複数の受信局のそれぞれは、到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて複数の分離信号に分離して位置情報と時刻情報とを付加して基地局へ送信し、基地局は、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定し、決定した組み合わせの相互相関関数のピーク値における時間差と、決定した組み合わせのそれぞれに付加された位置情報とに基づいて算出される方位を複数の電波のそれぞれの到来方位とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来波の到来方位を測定する方位測定システムおよび方位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
到来波の到来方位を測定するための方法としては例えば、アレイアンテナを用いる方法がある。以降、この方法のことを第1の方法という。
【0003】
また別の方法としては、アレイアンテナを用いずに、単体のアンテナを備えた複数の受信局間で時刻同期をとっておき、その複数の受信局のそれぞれにて到来波が受信された時刻の差から、その到来波の到来方位を測定する方法がある。以降、この方法のことを第2の方法という。
【0004】
なお、電波の到来する方位を推定するための技術が例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、アンテナ群を構成する複数のアンテナ部にて受信した電波に輻輳された複数の信号が独立成分分析の手法を用いて分離される。そして、分離された複数の信号のそれぞれについての複数のアンテナ部における位相差が算出される。そして、算出された位相差と複数のアンテナ部の位置関係とを用いて、受信した電波の到来方位および仰角が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−122247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した第1の方法において、アンテナ素子がN個のアレイアンテナを用いた場合、(N−1)個の電波だけしか到来方位を測定できず、数多くの電波のそれぞれの到来方位を測定しようとする場合、到来波を受信する装置の規模が大きくなってしまうという問題点がある。
【0008】
また、信号処理のためにアンテナパターンを測定し、その測定時と同じ位置に精密にアンテナ素子を固定して設置する必要があり、到来波を受信する装置の製造工程が複雑になってしまうという問題点がある。
【0009】
また、上述した第2の方法や特許文献1に開示されている技術では、1つの電波の到来方位だけしか測定ができず、到来波に複数の電波が混信している場合にその複数の電波のそれぞれの到来方位を測定することができないという問題点がある。
【0010】
本発明は、到来波を受信する装置の大規模化や製造工程の複雑化を回避しつつ、到来波に複数の電波が混信している場合でも、その複数の電波のそれぞれの到来方位を測定することができる方位測定システムおよび方位測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の方位測定システムは、到来波を受信する複数の受信局と、基地局とを有し、前記受信した到来波に混信した複数の電波のそれぞれの到来方位を算出する方位測定システムであって、
前記複数の受信局のそれぞれは、前記受信した到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて複数の分離信号に分離し、当該受信局の位置を示す位置情報と、時刻を示す時刻情報とを前記複数の分離信号のそれぞれに付加して前記基地局へ送信し、
前記基地局は、前記複数の受信局のそれぞれから送信された複数の分離信号のそれぞれを受信し、該受信した複数の分離信号のうち、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに、2つの信号のうちの一方を時間的にずらしながら当該2つの信号の積を算出する相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定し、該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれが適用された相互相関関数のピーク値における当該2つの分離信号間の前記ずれによる時間差と、当該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された位置情報とに基づいて算出される方位を前記複数の電波のそれぞれの到来方位とする。
【0012】
また、上記目的を達成するために本発明の方位測定方法は、到来波を受信する複数の受信局と、基地局とを有し、前記受信した到来波に混信した複数の電波のそれぞれの到来方位を算出する方位測定システムにおける方位測定方法であって、
前記複数の受信局のそれぞれが、前記受信した到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて複数の分離信号に分離する処理と、
前記複数の受信局のそれぞれが、当該受信局の位置を示す位置情報と、時刻を示す時刻情報とを前記複数の分離信号のそれぞれに付加して前記基地局へ送信する処理と、
前記基地局が、前記複数の受信局のそれぞれから送信された複数の分離信号のそれぞれを受信する処理と、
前記基地局が、前記受信した複数の分離信号のうち、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに、2つの信号のうちの一方を時間的にずらしながら当該2つの信号の積を算出する相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定する処理と、
前記基地局が、前記決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれが適用された相互相関関数のピーク値における当該2つの分離信号間の前記ずれによる時間差と、当該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された位置情報とに基づいて算出される方位を前記複数の電波のそれぞれの到来方位とする処理と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上説明したように構成されているので、到来波に混信した複数の電波のそれぞれを簡易な信号処理によって分離することが可能となる。また、到来波に混信した複数の電波のそれぞれを分離するために独立成分分析法を用いているため、任意の形状のアレイアンテナを使用することができるとともに、アンテナパターンが不要となる。
【0014】
従って、到来波を受信する装置の大規模化や製造工程の複雑化を回避しつつ、到来波に複数の電波が混信している場合でも、その複数の電波のそれぞれの到来方位を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の方位測定システムの実施の一形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した受信局の一構成例を示すブロック図である。
【図3】図2に示したアレイアンテナが電波を受信するときの状態を説明するための図である。
【図4】図2に示した信号分離部が受信信号を2つの分離信号に分離するときのイメージを示す図であり、(a)は受信信号の信号空間ダイヤグラム、(b)はウェイトベクトルの一例を示す図、(c)は分離信号の信号空間ダイヤグラムである。
【図5】図1に示した基地局の一構成例を示すブロック図である。
【図6】図1〜図4に示した受信局の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】図1および図5に示した基地局の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、説明を簡単にするために、2つの電波が混信した到来波を受信し、その2つの電波のそれぞれの到来方位を測定する場合について説明する。
【0017】
図1は、本発明の方位測定システムの実施の一形態の構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施形態の方位測定システムは図1に示すように、基地局10と、移動可能であり、波源51,52のそれぞれから発信された2つの電波が混信した到来波を受信する受信局20−1,20−2とを備えている。
【0019】
なお、波源51,52は、受信局20−1と受信局20−2との間の距離に比べ、十分に遠方に存在している。
【0020】
図2は、図1に示した受信局20−1の一構成例を示すブロック図である。なお、受信局20−2も同様の構成である。
【0021】
図1に示した受信局20−1は図2に示すように、アレイアンテナ部21と、電波受信部22と、信号分離部23と、データ管理・通信部24と、GPS(Global Positioning System)アンテナ部25と、GPS受信部26とを備えている。
【0022】
アレイアンテナ部21は、例えば2つのアンテナ素子(不図示)を備えており、到来波をその2つのアンテナ素子で受信する。
【0023】
図3は、図2に示したアレイアンテナ部21が到来波を受信するときの状態を説明するための図である。なお、図3においては、アレイアンテナ部21が備える2つのアンテナ素子のそれぞれをアンテナ素子21a,21bとしている。
【0024】
図3に示すように、アンテナ素子21aとアンテナ素子21bとの間では、到来波101(平面波)の到来方位θに応じて到達経路差lが生じる。到達経路差lは、以下に示す式(1)にて表される。なお、式(1)においてdは、空中線(アンテナ)配列開口の長さ、すなわち、アンテナ素子21aとアンテナ素子21bとの間の距離である。
【0025】
l=d×sinθ・・・式(1)
また、到達経路差lを用いると、アンテナ素子21aとアンテナ素子21bとの間の位相差φは、以下に示す式(2)にて表される。なお、式(2)においてλは到来波101の波長である。
【0026】
φ=(2πl)/λ・・・式(2)
ここで、到来方位に対する2つのアンテナ素子21a,21b間の相対的な応答差(位相、振幅)は、時間tに依存せずに一定であり、「ステアリングベクトル」と呼ばれる。これをAとすると、アンテナ素子21a,21bのそれぞれにおいて受信される到来波101に基づく信号である受信信号xは、以下に示す式(3)にて表すことができる。なお、式(3)において、F(t)は到来波101を示す信号を表し、N(t)はアンテナ素子21a,21bのノイズを表している。
【0027】
x(t)=AF(t)+N(t)・・・式(3)
再度、図2を参照すると、電波受信部22は、上記の式(3)にて表される受信信号xを出力する。
【0028】
信号分離部23は、電波受信部22から出力された受信信号xを受け付ける。そして、信号分離部23は、独立成分分析法(ICA:Independent Component Analysis)法を用い、2つのアンテナ素子のそれぞれへの重みづけである2つのウェイトベクトルw1,w2のそれぞれを算出する。そして、信号分離部23は、算出した2つのウェイトベクトルw1,w2を用い、受け付けた受信信号xを2つの分離信号y1,y2に分離する。そして、信号分離部23は、分離信号y1,y2を出力する。
【0029】
このように、信号分離部23は、独立成分分析法を用いて受信信号xを2つの分離信号y1,y2に分離する。以下にこの動作の詳細について説明する。なお、独立成分分析法を用いた信号の分離は論文等で公開されている公知の技術である。また、独立成分分析法には様々な方法があるが、ここでは一例として、fastICA法を用いた場合について説明する。
【0030】
まず、信号分離部23は、受け付けた受信信号xを用いて、アンテナ素子21a,21b間の相対的な位相・振幅情報を意味する相関行列(共分散行列)Sを計算する。これを以下の式(4)に示す。なお、以降に説明する式において上線が付された部分は時間平均値を表す。
【0031】
【数1】

【0032】
上記の式(4)において二重下線が引かれている項は、到来波を示す信号とノイズとの相関の時間平均値であるが、到来波を示す信号とノイズとは無相関である。そのため、上記の式(4)において二重下線が引かれている項は0となる。従って、上記の式(4)は、以下に示す式(5)で表される。
【0033】
【数2】

【0034】
ここで、
【0035】
【数3】

【0036】
とする。この対角成分は、信号電力を意味し、パワーマトリックスと呼ばれる。
【0037】
また、上記の式(5)の右辺の2項目は、ノイズの電力であり、アンテナ素子21a,21bとは無相関である。そのため、Iを単位行列とし、σ2をアンテナ素子21a,21bのノイズとすると、相関行列Sは以下に示す式(6)にて表すことができる。
【0038】
S=APAH+σ2I・・・式(6)
次に、信号分離部23は、以下に示す式(7)のように、相関行列Sの固有値解析を行う。これにより、以下の式(8)および式(9)に示すように、固有値行列Dおよび固有ベクトル行列Eが求められる。
【0039】
(S−λiI)li=0・・・式(7)
D=diag(λ1,λ2)・・・式(8)
【0040】
【数4】

【0041】
なお、上記の式(8)においてλ1,λ2は固有値である。また、上記の式(9)においてl1,l2は固有ベクトルである。
【0042】
ここで独立成分分析法においては、前処理として、観測される混合ベクトルを最初に白色化すると、非常に簡単化される。
【0043】
白色化行列は以下に示す式(10)で求めることができる。また、以下の式(11)に白色化処理を示す。
【0044】
V=D-1/2E・・・式(10)
z=Vx・・・式(11)
そして、信号分離部23は、ウェイトベクトルwを、以下に示す式(12)によって算出する。なお、式(12)においてEは平均値を意味する。また、式(12)において、g(x)=tanh(x)であり、g´(x)=1+tanh(x)である。
【0045】
【数5】

【0046】
そして、信号分離部23は、上記の式(12)にて算出されたウェイトベクトルwを用いて以下に示す式(13)によって分離信号yを得る。
【0047】
y=wz・・・式(13)
図4は、図2に示した信号分離部23が受信信号を2つの分離信号に分離するときのイメージを示す図であり、(a)は受信信号の信号空間ダイヤグラム、(b)はウェイトベクトルの一例を示す図、(c)は分離信号の信号空間ダイヤグラムである。
【0048】
ここでは、到来波に混信した2つの電波が、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)によって変調された電波と、BPSK(Binary Phase Shift Keying)によって変調された電波とである場合について説明する。
【0049】
この場合、上記の式(12)に示したウェイトベクトルwは、30度を抽出し、0度を抑圧するウェイトベクトルw1、および、0度を抽出し、30度を抑圧するウェイトベクトルw2となる。図4(b)においては、ウェイトベクトルw1を実線で表し、ウェイトベクトルw2を破線で表している。
【0050】
このウェイトベクトルw1,w2を用いることにより、図4(a)に示したQPSKによって変調された電波とBPSKによって変調された電波とが混信した到来波に基づく受信信号から、図4(c)に示すように2つの分離信号y1,y2が得られる。
【0051】
再度、図2を参照すると、GPSアンテナ部25は、GPS衛星(不図示)から送信されたGPS信号を受信する。
【0052】
GPS受信部26は、GPSアンテナ部25にて受信されたGPS信号から受信局20−1の位置を示す位置情報と、時刻を示す時刻情報とを生成している。
【0053】
データ管理・通信部24は、信号分離部23から出力された分離信号y1,y2を受け付ける。データ管理・通信部24は、分離信号y1,y2を受け付けると、GPS受信部26にて生成された位置情報と時刻情報とを取得する。そして、データ管理・通信部24は、受け付けた分離信号y1,y2のそれぞれに、取得した位置情報と時刻情報とを付加し、位置情報と時刻情報とが付加された分離信号y1,y2を基地局10へ送信する。
【0054】
図5は、図1に示した基地局10の一構成例を示すブロック図である。
【0055】
図1に示した基地局10は図5に示すように、通信部11と、時間差測定部12と、方位測定部13とを備えている。
【0056】
通信部11は、受信局20−1から送信された分離信号y1,y2を受信する。また、通信部11は、受信局20−2から送信された分離信号y´1,y´2を受信する。なお、分離信号y´1,y´2のそれぞれは、受信局20−2が受信した到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて分離した信号である。そして、通信部11は、受信した分離信号y1,y2,y´1,y´2を出力する。
【0057】
時間差測定部12は、通信部11から出力された分離信号y1,y2,y´1,y´2を受け付ける。そして、時間差測定部12は、受け付けた分離信号y1,y2,y´1,y´2のうち、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定する。つまり、受け付けた分離信号y1,y2,y´1,y´2のそれぞれに付加された時刻情報が一致したとすると、時間差測定部12は、以下の(1)〜(4)に示す4つの組み合わせのそれぞれについて相互相関関数を適用することになる。なお、分離信号y1と分離信号y2との組み合わせ、および、分離信号y´1と分離信号y´2との組み合わせは、1つの受信信号を分離した信号からなる組み合わせなので、相互相関関数を適用する組み合わせとして考慮する必要はない。また、相互相関関数は、2つの信号の類似度を確認するために用いられる。例えば2つの信号a(t)、b(t)に相互相関関数を適用した場合、信号a(t)に対して信号b(t)を時間的にずらしながら、信号a(t)と信号b(t)との積が算出される。信号a(t)と信号b(t)とが一致している場合、相互相関関数のピーク値における信号a(t)と信号b(t)との時間差は0となる。また、例えば信号a(t)と信号b(t)との間にτaの時間差がある場合、信号a(t)をτaずらせば信号b(t)と一致する。そのため、相互相関関数のピーク値における信号a(t)と信号b(t)との間の時間差はτaとなる。つまり、相互相関関数におけるピーク値の位置がわかれば、2つの信号の時間差がわかる。なお、相互相関関数においては、2つの信号間の類似度が高いほどピーク値が大きくなる。
(1)分離信号y1と分離信号y´1との組み合わせ
(2)分離信号y1と分離信号y´2との組み合わせ
(3)分離信号y´1と分離信号y2との組み合わせ
(4)分離信号y2と分離信号y´2との組み合わせ
ここでは、上記の(1)〜(4)の組み合わせのうち、(1)および(4)の組み合わせを適用した相互相関関数において大きなピーク値が得られたものとする。従って、時間差測定部12は、(1)分離信号y1と分離信号y´1との組み合わせと、(4)分離信号y2と分離信号y´2との組み合わせとを類似度が高い2つの分離信号の組み合わせとして決定する。そして、時間差測定部12は、決定された組み合わせの2つの分離信号が適用された相互相関関数のピーク値における2つの分離信号間の時間差τを算出する。ここでは、(1)分離信号y1と分離信号y´1との組み合わせから時間差τ1が算出され、(4)分離信号y2と分離信号y´2との組み合わせから時間差τ2が算出されたものとする。また、時間差測定部12は、決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された2つの位置情報のそれぞれから距離Lを算出する。つまり、ここでは、受信局20−1と受信局20−2との間の距離が距離Lとして算出される。そして、時間差測定部12は、算出した時間差τ1,τ2を示す時間差情報と、算出した距離Lを示す距離情報とを方位測定部13へ出力する。
【0058】
方位測定部13は、時間差測定部12から出力された時間差情報と距離情報とを受け付ける。そして、方位測定部13は、受け付けた時間差情報が示す時間差τ1,τ2と、受け付けた距離情報が示す距離Lとから、以下に示す式(14)および式(15)を用いて算出される方位θ1,θ2を、到来波に混信した2つの電波のそれぞれの到来方位とする。なお、式(14)および式(15)においてcは光速である。
【0059】
θ1=asin(τ1×c/L)・・・式(14)
θ2=asin(τ2×c/L)・・・式(15)
以下に、上記のように構成された方位測定システムの動作について説明する。まず、図1〜図4に示した受信局20−1の動作について説明する。なお、受信局20−2の動作もづ同様である。
【0060】
図6は、図1〜図4に示した受信局20−1の動作を説明するためのフローチャートである。
【0061】
アレイアンテナ部21は、到来波を受信する(ステップS1)。
【0062】
次に、電波受信部22は、アレイアンテナ部21にて受信された到来波に基づく受信信号xを出力する。
【0063】
電波受信部22から出力された受信信号xを受け付けた信号分離部23は、上述した独立成分分析法を用いて2つのウェイトベクトルw1,w2を算出する(ステップS2)。
【0064】
そして、信号分離部23は、算出した2つのウェイトベクトルw1,w2を用い、受け付けた受信信号xを分離信号y1,y2に分離し(ステップS3)、分離信号y1,y2を出力する。
【0065】
信号分離部23から出力された分離信号y1,y2を受け付けたデータ管理・通信部24は、GPS受信部26にて生成された位置情報と時刻情報とを取得する。
【0066】
次に、データ管理・通信部24は、受け付けた分離信号y1,y2のそれぞれに、取得した位置情報と時刻情報と付加する(ステップS4)。
【0067】
そして、データ管理・通信部24は、位置情報と時刻情報とが付加された分離信号y1,y2を基地局10へ送信する(ステップS5)。
【0068】
次に、図1および図5に示した基地局10の動作について説明する。ここでは、受信局20−1から分離信号y1,y2が基地局10へ送信され、受信局20−2から分離信号y´1,y´2が基地局10へ送信された場合について説明する。また、分離信号y1,y2,y´1,y´2に付加された時刻情報は一致しているものとする。
【0069】
図7は、図1および図5に示した基地局10の動作を説明するためのフローチャートである。
【0070】
通信部11は、受信局20−1から送信された分離信号y1,y2と、受信局20−2から送信された分離信号y´1,y´2とを受信する(ステップS21)。そして、通信部11は、受信した分離信号y1,y2,y´1,y´2を出力する。
【0071】
通信部11から出力された分離信号y1,y2,y´1,y´2を受け付けた時間差測定部12は、受け付けた分離信号y1,y2,y´1,y´2のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに相互相関関数を適用することにより、類似度が高い2つの分離信号の組み合わせを決定する(ステップS22)。
【0072】
次に、時間差測定部12は、決定された組み合わせの2つの分離信号が適用された相互相関関数のピーク値における時間差τを算出する(ステップS23)。ここでは、2つの時間差τ1,τ2が算出される。
【0073】
また、時間差測定部12は、決定された組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された位置情報のそれぞれから、受信局20−1と受信局20−2との間の距離Lを算出する(ステップS24)。
【0074】
そして、時間差測定部12は、時間差τ1,τ2を示す時間差情報と、算出した距離Lを示す距離情報とを出力する。
【0075】
時間差測定部12から出力された時間差情報と距離情報とを受け付けた方位測定部13は、受け付けた時間差情報と距離情報とから、上記の式(14)および式(15)を用いて方位θ1,θ2を算出する(ステップS25)。この算出された方位θ1,θ2が到来波に混信した2つの電波のそれぞれの到来方位となる。
【0076】
このように本実施形態において受信局20−1,20−2のそれぞれは、受信した到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて複数の分離信号に分離し、当該受信局の位置を示す位置情報と、時刻を示す時刻情報とを複数の分離信号のそれぞれに付加して基地局10へ送信する。
【0077】
基地局10は、受信局20−1,20−2のそれぞれから送信された複数の分離信号のそれぞれを受信し、受信した複数の分離信号のうち、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに、2つの信号のうちの一方を時間的にずらしながら当該2つの信号の積を算出する相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定する。
【0078】
そして、基地局10は、決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれが適用された相互相関関数のピーク値における当該2つの分離信号間の時間差と、当該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された位置情報とに基づいて算出される方位を複数の電波のそれぞれの到来方位とする。
【0079】
これにより、到来波に混信した複数の電波のそれぞれを簡易な信号処理によって分離することが可能となる。また、到来波に混信した複数の電波のそれぞれを分離するために独立成分分析法を用いているため、任意の形状のアレイアンテナを使用することができるとともに、アンテナパターンが不要となる。
【0080】
従って、到来波を受信する装置の大規模化や製造工程の複雑化を回避しつつ、到来波に複数の電波が混信している場合でも、その複数の電波のそれぞれの到来方位を測定することができる。
【0081】
なお、本実施形態では受信局の数が2つの場合について説明したが、受信局の数は2つに限定されない。また、算出できる方位の数も2つに限定されない。例えば受信局を3つにすることにより、相互に異なる3つの電波が混信している到来波を受信し、その3つの電波のそれぞれの到来方位を算出することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 基地局
11 通信部
12 時間差測定部
13 方位測定部
20−1,20−2 受信局
21 アレイアンテナ部
21a,21b アンテナ素子
22 電波受信部
23 信号分離部
24 データ管理・通信部
25 GPSアンテナ部
26 GPS受信部
51,52 波源
101 到来波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来波を受信する複数の受信局と、基地局とを有し、前記受信した到来波に混信した複数の電波のそれぞれの到来方位を算出する方位測定システムであって、
前記複数の受信局のそれぞれは、前記受信した到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて複数の分離信号に分離し、当該受信局の位置を示す位置情報と、時刻を示す時刻情報とを前記複数の分離信号のそれぞれに付加して前記基地局へ送信し、
前記基地局は、前記複数の受信局のそれぞれから送信された複数の分離信号のそれぞれを受信し、該受信した複数の分離信号のうち、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに、2つの信号のうちの一方を時間的にずらしながら当該2つの信号の積を算出する相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定し、該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれが適用された相互相関関数のピーク値における当該2つの分離信号間の前記ずれによる時間差と、当該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された位置情報とに基づいて算出される方位を前記複数の電波のそれぞれの到来方位とする方位測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の方位測定システムにおいて、
前記複数の受信局のそれぞれは、移動可能である方位測定システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方位測定システムにおいて、
前記複数の受信局のそれぞれは、GPS信号を受信し、該受信したGPS信号に基づいて前記位置情報と前記時刻情報とを生成する方位測定システム。
【請求項4】
到来波を受信する複数の受信局と、基地局とを有し、前記受信した到来波に混信した複数の電波のそれぞれの到来方位を算出する方位測定システムにおける方位測定方法であって、
前記複数の受信局のそれぞれが、前記受信した到来波に基づく受信信号を独立成分分析法を用いて複数の分離信号に分離する処理と、
前記複数の受信局のそれぞれが、当該受信局の位置を示す位置情報と、時刻を示す時刻情報とを前記複数の分離信号のそれぞれに付加して前記基地局へ送信する処理と、
前記基地局が、前記複数の受信局のそれぞれから送信された複数の分離信号のそれぞれを受信する処理と、
前記基地局が、前記受信した複数の分離信号のうち、付加された時刻情報が一致する複数の分離信号のうちの2つの分離信号の組み合わせのそれぞれに、2つの信号のうちの一方を時間的にずらしながら当該2つの信号の積を算出する相互相関関数を適用することにより、類似度の高い2つの分離信号の組み合わせを決定する処理と、
前記基地局が、前記決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれが適用された相互相関関数のピーク値における当該2つの分離信号間の前記ずれによる時間差と、当該決定した組み合わせの2つの分離信号のそれぞれに付加された位置情報とに基づいて算出される方位を前記複数の電波のそれぞれの到来方位とする処理と、を有する方位測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方位測定方法において、
前記複数の受信局のそれぞれが、GPS信号を受信し、該受信したGPS信号に基づいて前記位置情報と前記時刻情報とを生成する処理をさらに有する方位測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−137302(P2012−137302A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287850(P2010−287850)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】